これまでの「ガンガンヴァーサスD」は!
「私じゃありません!! 通りすがりの方が……」
「それぐらいできなきゃ救世主なんて名乗れないだろうけどな」
「ディケイド……。全ての世界を葬る悪魔……!」
「ディケイド……。貴方はこの世界に存在してはならぬ存在なのです……」


ガンガンヴァーサスD
第三話「ニンゲンの戦い」


 本当に人間なのだろうか?
 太助がその男に抱いた第一印象はそれだった。
 筋骨隆々の肉体と、禍々しいデザインの戦斧。
 確かに見た目は人間としか思えない。だが、全身から発せられる何か。
 執念。あるいは怨念。
 そのあまりにも強すぎる何かが、太助に男を人間と呼ぶことを戸惑わせていた。
 実を言うと、太助の直感は決して間違ってはいない。
 この男ーーバルバトス=ゲーティアは亡霊として存在している世界もあるのだから。

「さぁ……ディケイドよ。俺の渇きを癒せぇぇぇぇい!!」

 怒号と共に太助に襲いかかるバルバトス。

「くっ!」

 繰り出してきた振り下ろしを後方に飛ぶことで回避する太助。
 だが、次にバルバトスがとった行動に目を疑った。
 なんとバルバトスは、斧を『地面ごと』持ち上げたのだ。

「ぶるあぁぁぁぁッ!!!」

 そして持ち上げた地面を斧でうち砕き、その破片で太助を攻撃する!

「非常識の上に迷惑なッ!」
『ATTACK RIDE SLASH』

 ブッカーソードの攻撃力を上昇させて斬りかかる太助。
 だがバルバトスは自らの斧ーディアボリックファングでそれを容易く受け止める。

「お前は何故、俺と戦う!?」
「俺の本能が叫ぶからさ。ディケイド……、貴様を殺せとなぁ!!」

 狂気。バルバトスから発せられるそれに太助は一瞬飲まれた。
 力が弱まり、太助はブッカーソードごと吹っ飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちる。

「ぐっ!」

 立ち上がろうとする太助。
 バルバトスはとどめをさすべく斧を振り下ろし……。
 だがその斧は受け止められていた。
 先程まで太助と戦っていた、真弥によって。

「貴様……。邪魔をするというのなら、貴様も殺すだけよ!」

 邪魔をされたのがよほど頭に来たのか、バルバトスは太助そっちのけで真弥と戦いはじめた。


「やはり、人選を誤りましたか……」

 レザードはバルバトスの暴走を見ながら肩をすくめていた。


 真弥とバルバトスの戦いは互角……、いやわずかに真弥が優勢だった。

「おのれぇ……。ならば、これはどうだぁあ!!」

 斧を正面に構え、エネルギーを集中させていくバルバトス。
 真弥も剣を消して、雷の力を集中させていく。
 そして、お互いの必殺技が放たれようとしたその瞬間、次元壁がバルバトスを呑み込んだ。

「むぅ!?」

 バルバトスにとっても予想外だったのか戸惑っている様子だったが、彼は急に顔を歓喜に歪めた。

「フッハッハッハッハァ……。そうか、まだまだ英雄は存在しているという訳か。
 良かろう。俺を連れて行くがいい。まだ見ぬ英雄の元へとなぁ」

 そして、次元壁もバルバトスも消えてしまった。

「フ……。これが始まりなのだ、ディケイド」

 レザードもまたこの場、いやこの世界から去っていった。


「大丈夫? 太助君」
「はい、どうにか……」

 変身を解除した太助に、真弥が手を差し伸べる。
 次元壁が消えたことで、シャオ達も駆け寄ってきた。
 
「太助君……。大丈夫ですか?」
「ああ……。ッ!」

 大丈夫、と続けようとしたところで痛みが走り、顔をしかめてしまう。
 それを見た春儚は、手をかざし癒しの法術を使おうとするが、

「春儚ッ!」

 真弥は、春儚の腕を掴んでそれを止めさせた。

「真弥さん……」
「おい……。あんた、何がしたいんだよ! いきなり七梨に仕掛けといておきながら
 治療もさせるなってのか? ふざけんな!」

 あまりにもあんまりな態度に翔子は激しく突っかかる。

「翔子さん、違うんです! 真弥さんは……」
「あたしはコイツに聞いてんだ! アンタは黙ってろッ!」

 春儚が何かを言おうとするも、翔子は聞く耳を持たない。

「山野辺……。もういいよ」
「七梨……! お前お人好しもいい加減に……!」
「だって真弥さん、手加減してたから」
「何……?」

 太助の意外な言葉に、翔子は思わず聞き返してしまう。

「気付いてたの?」
「なんとなくですけどね。真弥さん、雷を一発も『俺に当たらないように』撃ってたでしょう?」

 真弥は驚いた、確かに手加減はしていたが、まさか気付かれているとは思わなかったのだ。

「とりあえず、その事も含めてお互いに改めて情報交換といきましょう」

 そう言って、太助は家に帰ろうとする。

「待ってください太助君。『古の支配者』のことはいいんですか?」
「ああ。どうもあいつら、昨日真弥さんを足止めするために仲間のほとんどを割いたみたいなんだ。
 だから今すぐはどうこうできないと思う」
「ですが……」

 納得できないシャオ。
 だが、言葉を重ねようとしたその時春儚が急に咳き込みはじめた。
 太助達も大丈夫かと思っていたが、すぐにその顔色が変わる。
 口に当てていた手の間から、血がこぼれ落ちたからだ。

「春儚ッ!」
「春儚さんッ!」


 七梨家のリビング。
 太助、翔子、真弥の三人は、沈痛な面持ちで集まっていた。

 真弥は話した。
 地球とセレスティアを繋ぐ門『時穴』
 それを最初に開いた者は己の寿命を引き替えにしなければならないこと。
 そして春儚の癒しの法術もまた、術者の命を分け与えることで奇跡を起こす代物だと。

「つまり……春儚さんは『救世主』……つまり真弥さんと会うために、自分の命を犠牲に……」
「そうしなきゃ、春儚さんは弓樹さんと出会えなかった。でも……」

 でも、の後になんと続けようとしたのか太助にも察することはできた。
 あまりにも残酷すぎる。
 そうまでして求めた相手と出会えても、その時には自分に残された時間は僅かしか残っていないなど……。

「けど、あの時弓樹さんが春儚さんを止めた理由は解ったよ。ごめんな」
「いいよ、気にしてないから」
「じゃあ今度は俺の質問です。どうして真弥さんはディケイドのことを知っていたんですか?」
「それは……」

 ーー数日前、僕の前に一人の男の人が現れて言ったんだ。
「近い将来、貴方はディケイドという存在と出逢います。奴は全ての世界を葬る悪魔です。
 放置すれば、セレスティアも地球も滅びてしまうでしょう。必ず倒すのです『救世主』よ。」

「そう言ったんだ。でも太助君がそうだったから……。太助君はそんなことをする人じゃないって思ったから……」

 真弥は、本気で太助と戦うことはできなかった。ということだろう。
 それを聞いて、太助は考え込む。

「(俺達の旅を快く思わない人間がいる……。まさかあの男をこの世界に誘ったのも……?)」

 それが事実だとするならば、その男は次元を渡る術を持っているということになる。
 顔も知らないその男とは長い付き合いになる。太助はそう予感していた。

「太助君……」
「シャオ? どうしたの?」

 春儚を部屋で看病しているはずのシャオが立っていた。

「春儚さんが話があるそうです……」


 シャオの部屋。と言っても、元は太助の家族の部屋である。
 太助はベッドで身を起こしている春儚の枕元に座っていた。

「大丈夫ですか……?」
「はい、少し、楽になりました……」

 会話が続かない。
 目の前の少女が、明日をも知れぬ身であるなどこうしていても信じられない。
 だが、紛れもない事実なのだ。
 そう思うと、自然と口数が少なくなる。

「あの……」
「私の身体のこと……。真弥さんに聞きましたか?」
「え……。あ、はい」
「……私も、シャオさんに話しました」
「そう……ですか」

 そういえば、自分を呼びに来たシャオはどこか悲しそうだった。
 あんな重たい話を聞かされたら無理もないだろう。
 そして、また会話が途切れる。

「あの……、俺に話って言うのは……?」
「………太助さん達は、真弥さんの世界の人じゃないですよね……?」
「ッ!?」

 太助は来たかと思った。
 今回の騒動の中でうやむやになって忘れてくれているかもと思っていたが、甘かったようだ。

「それは……」


「……というわけです」

 悩んだが、太助は全てをうち明けた。
 この世界を含めた九つの世界が融合し消滅しようとしていること。
 その影響で、自分達の世界も滅びかけていること。
 それを阻止するために、旅に出るよう告げられたこと……。
 そして、その時、自分は葬世を行う者だと言われたことを……。

「でも、訪れた世界で何をすればいいのかとかは、全然解らないんです」

 「葬世を行う者」と呼ばれたとはいえ、その通りに世界を滅ぼすつもりなど太助には無い。
 だが、じゃあどうすればいいのかと聞かれると、何も解らないとしか答えられない。

「もちろん、真弥さんを倒すとかそんなことはしませんよ。だって真弥さんすごく強いし
 なにより春儚さんが悲しみますから! ……春儚……さん?」

 春儚が話したかったことと言うのは、真弥を倒さないでくれ。ということだったのでは?
 そう思った太助は、そんなことをするつもりはないことを春儚に伝えるが、春儚は反応しない。
 違ったのかと思い、聞き返そうとした時、春儚は話し始めた。

「太助さん……。もし、私か真弥さんが死ぬことが太助さん達とこの世界を救うことに必要なことだとしたら……。
 真弥さんは……許してくださるのでしょうか」
「え……?」

 自分はそんなつもりは無いと言ったつもりだったのだが……。
 戸惑う太助に構わず、春儚は続ける。

「私は突然あの人の前に現れ……、自分の世界を救って欲しいが為に、平和に暮らしていたあの人を
 戦いに巻き込みました。
 でも……、私はあの人を守ってあげると言いながら……、いつも……、守ってもらってばかりで。
 おかげであの人はいつも怪我してて……、いつも……、血まみれになって……。
 いつも……、辛い思いだけさせてて……」

 それは懺悔だった。
 一人の人間の運命を変えてしまったこと、その人だけに苦難を背負わせてしまっていることへの。

「でもあの人はいつも笑ってくれるんです!! いつも……、何があっても……。
 『大丈夫だよ』『平気だよ』って……。『辛くなんかない』って。だから!!」

 いつしか、春儚は太助にすがりつき涙ながらに訴えていた。

「真弥さんは!! 許してくれますか!?
 もし許してくれるのなら私はここで死にます!! だから真弥さんを許してくれますか!?」

 それは弓樹真弥という少年を愛する、一人の少女の心の叫びだった。
 大切な人の命と笑顔を守るために、自分の血も涙も、全てを笑顔の底に隠して戦う。
 そんな……。

「あの人の笑顔が大好き……。でも……もう『笑わせ』たくない……!!」

 太助は何も言えなかった。
 だが、その心には怒りが渦巻いていた。
 何故だ。何故この二人は世界なんかを背負わなくてはならない?
 ただ大好きな人に笑顔でいて欲しいだけなのに。
 そんなに重いものを背負う必要がどこにあるというのだ?
 ただの。ちっぽけなただのニンゲンに……。


 そこまで考えたとき、七梨家を大きな揺れが襲った。

「ッ!」
「この揺れはッ!?」

 慌てて家を飛び出した太助は、煙が上がっているのを見た。
 その方向に何があるのかを理解したとき、太助はディケイドライバーを手に駆けだしていた。

「(俺達の世界を襲った異変。余波でさえあれなら、その渦中にある九つの世界では何が起こったって不思議じゃないじゃないか!)」

 例えば『目覚めぬはずの存在が目覚める』といったような……。

「クソッ! なんでその事に気付かなかったんだ俺!!」


 サリエル。
 それが『古の支配者』の名前だった。
 千年の眠りは、彼から自分の名前以外の全てを奪っていた。
 いや、たった一つだけ残っていたものがあった。
 その感情は、人が「怒り」と呼ぶものであった。

「お前が『古の支配者』なのか?」

 正直言って、もっとおぞましい化け物じみた外見をイメージしていた太助は戸惑っていた。
 背中に黒い翼が生えている以外は人間と全く変わらなかったからだ。
 だが、次の瞬間に太助はその戸惑いを捨てることになった。
 サリエルが、自分を見たからだ。
 目を閉じているにもかかわらず、太助はサリエルが自分を見ているとハッキリ解った。

「君は……私が何故目覚めたのか知っているのかな?」
「教えたら、また眠ってくれますか?」

 答えを予想しながらも太助はそう問い掛けた。

「いや……。どちらにしても私のやる事は変わらない。この世界を滅ぼすことはね……」
「だったら、俺が眠らせてやる!!」

 予想通りの答えに、太助は迷うことなくカードをドライバーに差し込む。

「変身!」
『KAMEN RIDE DECADE』

「やめたまえ。君では私は止められないよ」
「やってみなくちゃ解らないだろッ!」

 サリエルの言葉に反論した太助は、躊躇無く殴りかかるがその一撃はサリエルには届かなかった。
 サリエルの放った魔力弾が、太助を吹っ飛ばしたからだ。

「うわあッ!!」

 受け身も取れずに吹っ飛ばされた太助は地面を転がる。
 どうにか立ち上がったとき、太助の顔から血の気が引いた。
 周りの地面から、魔物が後から後から湧いて出てきたからである。

「……この世界が、俺の死に場所かよ……?」

 声が引きつっているのが、自分でも解った。


 太助が飛び出していった少し後の七梨家。
 真弥は春儚に付き添っていた。

「真弥さん……。私の顔が……見えますか……?」
「うん……。ちゃんと見えてるよ」

 笑顔で話す真弥。だが次の言葉でその顔は凍り付いた。

「私にはもう……、ほとんど見えないんです……」

 春儚の時間はもうほとんど残っていない。それは解っていた。
 けど、そこまで……!?

「行ってください。太助さんだけでは……、きっと勝てません……」
「嫌だ!!」
「わかってください……。太助さん達にはまだやらなくてはならないことがあるんです」
「嫌だ春儚!!」

 ー未来のない私に構わないで……。それよりも未来のある人の為に戦って……。

「好きなんだ!!」

 その思考は、その一言で簡単に崩れてしまった。

「好きなんだ……。初めて会ったときから君のことが……、ずっと……。
 本当は世界なんてどうでもいいんだ……。救世主のことだって今でもよく分からない……。
 でも世界を救えばきっと君が喜んでくれると思ったから……。大好きな君が……、
 だから僕は……!! 僕は……!!」

 戦ってきたんだ。

「救わないぞ……。救わないからな……、春儚のいない世界なんか……。
 たとえセレスティアが崩壊しようと、誰かを見捨てようと、僕は何もしない!!
 春儚のいない世界なんていらない!! 僕は救わない!! 絶対に、救わないからな!!」

 真弥は泣いた。
 心の全てをさらけ出して泣いていた。

「真弥さん……」

 何故……、彼はいつもそうやって泣くのだろう……。
 本当に泣き虫で……、気が弱くて……、でも世界で一番優しくて。

「私は、幸せでした」

 世界で一番大好きな……。

「私は、大好きな貴方に出会えて、とても、幸せでした」

 本当は自分だって彼のいない世界なんていらない。

「幸せでした……」

 そう、自分は幸せだった。それでいい。それだけでいい。

「…………ッ!!」

 真弥は春儚が何を自分に望んでいるか解った。
 解りたくないのに、解ってしまった。
 彼女の笑顔の為に戦ってきた自分は、その望みをかなえることを選んでしまうことも。
 だから、真弥はもう一つの自分にできることを実行に移した。

 目の前の少女に、言葉ではなく、行動で自分の想いを伝えること。
 
 最初で最後のキスは、甘さとは、程遠い味だった。


 ー「他者が不可能だと諦めたことを可能とするのが英雄ならそれは生贄と何が違う」か……。
 ーなんですか? それは。
 ーさあ、どこかで読んだ言葉だったかな?
 ー………。あの二人見てたらさ。ホント、その通りだなって思った。
 ーそうですね……。

 祈るように手を組んだ春儚の顔には、微笑みと涙が浮かんでいた……。



 太助は多数の魔物に蹂躙されていた。
 最初のうちはブッカーソード、ブッカーガンを駆使して奮闘していたが、数の暴力には勝てず
 組み付かれて攻撃を受け始め、変身も解除されてしまっていた。
 死を覚悟した、その時!
 雷撃が降り注いで、全ての魔物をうち倒した。
 太助もサリエルも、何が起こったのか解らず戸惑っている。
 そこに、足音が響いた。
 振り返った太助は見た。
 この世界の英雄。
 『救世主』弓樹真弥の姿を。

「真弥さん……」

 うつむいた真弥の姿を見て、太助は真弥が何故ここにいるのかを理解した。

「君が……、今代の救世主かい?」

 サリエルの問いに真弥は答えた。

「違う……。僕は救世主なんかじゃない。僕にそんな力なんて無い」
「そうだ、この人は救世主じゃない」

 気付けば、太助はサリエルに言葉を放っていた。

「この人はニンゲンだ。傷つけば血を流し、涙だって流す。弱い自分の事が大嫌いだ。
 でも、そんな自分を変えたいと思って好きな人の為に戦える。強さも弱さも抱えた、ただのニンゲンだ!!
 救世主って名前の生贄なんかじゃない!!」

 サリエルは、目の前の少年に問い掛けた。

「では君は、何者かね……?」

 その言葉に、太助はカードを構えて答えた。

「通りすがりの、超戦士だ。覚えておけ!!」
「変身!!」
『KAMEN RIDE DECADE』

 変身すると同時にライドブッカーから三枚のカードが飛び出し、太助の手の中で絵柄を取り戻す。

「真弥さん、みんなで一緒に戦いましょう!」
「え? でも……」
「大丈夫です。俺ならそれができます!」

『FINAL FORM RIDE SISISISINYA』

「ちょっとくすぐったいですよ」

 そう言うと太助は真弥の背後に回り込み、背中に手を置いて扉を開くように手を動かす。
 すると、真弥の身体がなんと変形を開始した。
 そして変形が終わったとき、真弥は一振りの青い剣となって太助の手の中にあった。

 それは、ある物語の中で未来の守護獣の失われた左腕を鍛え直した剣。
 人の生きようとする意志を束ね、未来への扉を開く鍵。
 それを模した力、シンヤアガートラーム。

『ちょっと! 僕どうなっちゃったの!?』
「言ったでしょう? 一緒に戦おうって」

 真弥の質問に、見当違いの答えを返す太助。
 そして、必殺の一撃を放つべくカードを装填する。

『FINAL ATTACK RIDE SISISISINYA』

 太助と真弥から光が放たれる。

「俺達の想いを束ねてアイツにぶつけるんだッ!!」
『わかったッ!』

 二人の心の昂ぶりに呼応して、光は輝きを増していく。
 そして……。

「これが俺達の、想いの力だッ!!」
「く……ッ! うおおおぉぉッ!!」

 サリエルが光弾を放って防ごうとするが、そんなもの無意味とばかりに、光はサリエルを呑み込んだ。

「もしかしたら、あんたも昔は誰かの笑顔の為に戦っていたのかもな」

 光に包まれたサリエルに向かって太助は言う。

「では、君は何故戦ったのだ……?」
「悪いけど、俺にもよく分からない」

 太助の返事にサリエルは、小さく笑った。

「フフフ……。さあ、世界を救いたまえ………!」

 意識が薄れていく中で、サリエルは自分に笑いかける少女の姿を思い出していた……。


「春儚………ッ!」

 戦いを終えて、七梨家に戻ってきた真弥は春儚の元へ真っ先に駆け込んだ。
 春儚は、彼がこの部屋を飛び出す直前と同じ姿で、ベッドに横たわっていた。
 ただ一つ違うのは、その瞳はもう、開くことがないということ。

「弓樹さん……。あんたは春儚さんにとって……間違いなく救世主だったよ。
 そうじゃなきゃ……、こんな顔で……眠れねーよ……ッ」

 真弥に語る翔子の声は震えていた。
 そして、真弥は、人目をはばかることなく、声を上げて、泣いた。


「この世界で俺の成すべき事は、もう終わったみたいだな」

 あれから太助達は、真弥とともに春儚を埋葬し、地球へ帰る真弥を見送った。

「太助君の成すべき事……。真弥さんと一緒にこの世界を救うことだったんですか?」
「それは、俺にも解らないよ。でも、一つだけ解ったことがある」
「ん? 何だよそれ?」

 一泊置いて、太助は言った。

「俺も、変わらなくちゃいけないって事」
「そうだな。じゃあ、まず何から始めるんだ?」
「取り敢えずは、いい笑顔ができるようになる。かな」

 そう言って、太助は本を手にとって開く。
 すると、本は光を放ち、新たな絵を浮かび上がらせた。
 新しい絵。それは羽が舞い散る中、一人の少女を中心に翼を持った三人の女戦士が描かれていた。

「戦乙女……。ヴァルキリーの物語か……」



 学校の屋上。
 セレスティアから帰ってきた真弥は頻繁にここを訪れていた。
 世界よりも大切な少女と初めて出逢ったこの場所に。

「春儚……。僕、医者になるよ。君の分までたくさんの人を救うよ……」

 だが、彼は知らなかった。
 己の物語が再び、通りすがりの旅人達の物語と交わることを。
 それを導くのが、己の背後に立つ、一人の少女だということを……。


データファイル

サリエル
『死天使』『古の支配者』と呼ばれる存在。
神すらも超える強大な力を当時の仲間に危険視され封印されてしまう。
『滅びの現象』として目覚め、ただ一つ残った「怒り」に従い世界を滅ぼそうとした。
封印される前、一人の少女に恋をしていたらしい。

シンヤアガートラーム
真弥のファイナルフォームライド。
異世界の剣、アガートラームの姿に真弥を変形させてディケイドの武器にする。
必殺技はディケイドと真弥の想いを、増幅させて敵にぶつける『ディケイドインパルス』


後書き
断っておきますが、私は原作「救世主さま」の結末に納得がいかないというわけではありません。
例え別世界とはいえ、二人を引き裂いてしまうのは抵抗がありました。
ですが、真弥の歩いてきた道は五代雄介、小野寺ユウスケら「クウガ」の生き様となんら変わらない。
そう思ったからこそ、この世界では二人は永遠の別れをすることになりました。

ファイナルフォームライドについては救世主つながりでトレイターを考えていましたが
真弥が最後の戦いまでただの人間として戦い抜いたことを踏まえて、こちらを使用しました。
なお、作中のアガートラームの説明は「ワイルドアームズセカンドイグニッション」の
ものを使用しています。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 世界のためではなく春儚のために戦ってきた真弥。
 “救世主”であることよりも“人間”であることを選んだ彼の未来に幸あれ。
 ……とりあえず、今後の出番でユウスケみたいなコメディリリーフにならないように気をつけましょう(いろいろ台無し

 次回の世界はヴァルキリーの世界……ということはヴァルキリープロファイルかな?
 ここで某18禁戦乙女調教ゲーを3作も思い浮かべるモリビトはきっと重度のダメ人間(台無しパート2