これまでのガンガンヴァーサスDは!
「貴方がディケイド……」
「俺だって、終わるわけにはいかないんだッ!」
「僕がこの世界に来たのは、アリーシャさんを助ける為なんだって」
「結局神は人から全てを奪い、人は神を憎む。それが全てだ」
「あんた、自分が存在する理由、知りたくない?」
太助が璃瑠によって異世界へと送られたのと時を同じくして、アリーシャ達も戦いを始めていた。
「何者だ!?」
その侵入者は全身を漆黒の鎧に包み、肩の部分に巨大な盾のようなパーツを浮かせていた。
レナス達はそいつの放つ雰囲気に覚えがあった。
この世界を作る四つの世界。神界、人間界、妖精界、そして、冥界。
「貴様……! 冥界の者か!」
「答える必要は無い。貴様が王にならないというのなら、俺がなってやろう。だが……」
侵入者は、闇のオーラを纏った剣をレナス達に向ける。
「ッ!? その剣は……」
「俺の世界に神はいらない。貴様らは眠ってもらうぞ!」
レナスはその剣に驚愕していたが、気を取り直し、迎え撃つべく剣を抜いた。
そして、四人の戦乙女と漆黒の戦士の戦いが始まった……。
ガンガンヴァーサスD
第五話「己にできること」
『HERO RIDE DECADE』
ディケイドに変身した太助と、紅の戦乙女との戦いが始まった。
だが、機動力と武器のリーチもあり太助は苦戦を強いられていた。
「あんたはなんで、俺と戦うんだ!?」
「それが、私に許された償いだからだ」
紅の戦乙女は僅かに悲しみをにじませた声で呟いた。
だが、それも一瞬のことですぐに襲いかかってくる。
慌てることなく太助は新しいカードをとりだす。
「速さで負けてるなら数で押すだけだ!!」
『ATTACK RIDE ILLUSION』
紅の戦乙女の鎌を「一人目」が受け止め、「二人目」と「三人目」が
すれ違いざまにブッカーソードで斬りつける。
「くッ!?」
まさかの分身攻撃に怯む紅の戦乙女。
太助はそれを見逃さず、格闘、ソード、ガン。全てを使って紅の戦乙女を追いつめていく。
紅の戦乙女は、不利を悟ったのか大きく距離をとると次元壁の中に姿を消した。
それと同時に、太助も次元壁に包まれ、元の場所に戻ってきた。
「何だったんだ? あいつ……」
『ディケイド……。英雄達を葬る悪魔よ……』
そこに、預言者レザードの声が響いた。
「誰だ!?」
太助に姿を見せることなくレザードは言葉を続ける。
『貴方の存在は、世界を滅びへと向かわせるのです……。
この世界も、貴方が来るまでは秩序と混沌の調和が取れていました。だが、貴方の
存在によって混沌を望む咎人の王が生まれようとしています。これは、貴方の罪なのです……』
璃瑠をそばに置いたレザードの瞳は、ディケイドへの憎しみに満ちていた。
アリーシャは物陰にうずくまっていた。
あの剣士は恐ろしく強く、四人を相手にしてもなお上回っていた。
そして劣勢を悟ったシルメリアは自分を逃がし、三人で立ち向かった。
最後に見たのは、彼女たちが封印される瞬間だった。
「アリーシャさん……。無事だったんだ」
かけられた声の主は真弥だった。
「真弥さん……! その傷は……!?」
真弥はあちこちから血を流していた。
原因は察しがつく。あの剣士と戦ったのだろう。
「僕は、大丈夫だよ。アリーシャさんこそ……」
大丈夫? と言おうとしてやめた。
あの場にアリーシャがいなかった理由に見当がついたからだ。
だから、真弥はこう言った。
「行こう? あいつは、アリーシャさん達が作ろうとしてた世界を壊そうとしてる。
そんなこと、させちゃいけないんだ」
「無理です……。シルメリア達も勝てなかったのに私なんかが勝てるわけありません……」
そう言ってアリーシャはまた蹲る。
「…………」
真弥は、何故自分がアリーシャの力になりたいと思ったのか、やっと解った。
彼女は自分と……。
「僕は信じてる。アリーシャさんを信じてるよ……」
「え……」
そう言って、真弥は宮殿へ向かった。
だがアリーシャは……。
「で、七梨に助けてもらおうと思った、と」
アリーシャの選択。それは、ディケイドである太助に助力を求める事だった。
「……虫がよすぎるんじゃねえか?」
「そうです! 太助君を悪魔とか言って戦いまで挑んだのに……!」
翔子とシャオは文句を口にする。
「何で、アリーシャさんは王になりたくないんですか?」
太助の質問に、アリーシャは話し始めた。
「怖いんです。シルメリアは私より強いし、いつだって正しかった。でも、私は違います!
そんな私が王になったら、たくさんの人に迷惑をかけてしまいます!
私はそれが怖いんです……!」
人の生き死にに責任を持つと言うこと。
中学生に過ぎない太助には理解できなかった。
シャオが来るまで一人暮らしをしていたといっても一人で生きてきた訳ではない。
だが、一つだけ言えることがあった。
「真弥さんも、アリーシャさんと同じだったんだ」
「え……?」
「弱くて、誰かに守られてるだけで、そんな自分が大嫌いだった。
でも、自分を変えたい。そう思わせてくれた人に出会えた。
だから今度は、自分がその人になる為に戦いに行ったんだ」
そう言うと太助は立ち上がり、玄関に向かう。
「俺も先に行ってる。アリーシャさんは後からでいい。でも慌てる必要はないから」
そして、リビングから出ようとしたときもう一つつけ加えた。
「もし、アリーシャさんが間違えたらその時は、俺がその世界を終わらせる。
俺は世界を葬る者、らしいから」
ヴァルハラ宮殿、玉座の間。
玉座に腰掛けていた冥界の咎人はゆっくりと目を開けた。
そこには、世界を葬る者が立っていた。
「なんだ、お前は……」
「咎人の王ってのはあんたか……。あんたは王になって、どんな世界を作るつもりなんだ?」
冥界の咎人は、太助の質問に笑いながら答えた。
「もちろん……、神のいない世界。いや! 人間が神を支配する世界だ!
今まで自分達が支配し、食い物にしてきた奴等に逆に食い物にされる。
世界の運命を弄んだ奴等にはお似合いの運命だ!!」
「そうか……」
冥界の咎人は気付いた。こいつの自分を見る目に含まれているものは……。
「お前のその目……、気にくわんな。
新たな王である俺を崇めるわけでも、恐れているわけでもない。
お前の目は、俺と戦うつもりの目だ……」
「ああ。俺は、あんたよりよっぽどその椅子が似合う人を知っているからな」
それ以上の言葉はいらなかった。
剣と剣がぶつかり合い、咎人同士の戦いが始まった。
真弥は地下にいた。
再び奴と戦ったが、結果は自分の敗北だった。
だが彼は傷ついた身体を押して、レナス達を探していたのだ。
「いた……!」
玉座の間には三人はいなかった。
だから、奴の手によってどこかに移動させられたのではないかと思ったのだが、それは正しかったようだ。
「真弥さん……!」
「アリーシャさん……」
真弥がどうにか振り向くと、そこにはアリーシャの姿があった。
「信じてたよ……。必ず来るって」
微笑む真弥の姿は、以前よりさらにボロボロだった。
彼は確かに力こそあるが、肉体は人間なのだ。もう立っているのも辛いはずだ。
「貴方は、何故私にここまでしてくれるんですか? 私が昔の真弥さんと似ているからですか?」
「…………太助君から聞いたんだね」
真弥は話した。自分の世界で自分が体験したことを。
「でも、それだけじゃない。僕は春儚と約束したんだ。君の分まで、人の命を救うって。
だから、僕がアリーシャさんを支えようとしたのは同情なんかじゃない。約束を守ろうとしただけなんだ」
その時、天井を破壊して何者かが落ちてきた。
「太助さん!!」
その正体は太助だったが、その身体はかなり傷ついていた。
続いて降りてきた冥界の咎人は、あちこち傷ついてはいるが、こたえている様子はない。
「これはこれは、負け犬と臆病者がそろって何をしているかと思えば……。
そうか、戦乙女達を解放しようとしていたのか」
冥界の咎人はしばらく二人を見ていたが、何を思ったのか自分の剣を一本アリーシャに向けて放った。
「その剣でその負け犬を殺せ! そうすればこいつらは解放してやるぞ! それが嫌なら
自害してもいいぞ。貴様が誰かの命を奪えばそいつ以外は生かしてやる」
アリーシャはその悪魔の提案に言葉を失った。
そして一度だけ真弥を見て、剣を手にした。
自分の剣を。
「なんのつもりだ?」
「私は死にません! 真弥さんも死なせません!」
「何かを得るのなら何かを失う。この世界はそれで成り立っているのだ!」
あざ笑う、冥界の咎人。
だが、アリーシャの答えは違った。
「貴方のいいなりにはなりません」
「何?」
「私は真弥さんと一緒に、貴方を倒します!」
その言葉を聞いた瞬間、冥界の咎人はアリーシャを殴り飛ばした。
だが、アリーシャは倒れながらも真弥に向かって言葉をかける。
「真弥さん……。約束してくれましたよね……。私の本当に行きたいところに連れて行ってくれるって……」
「アリーシャさん……」
「やっと私にも解りました……。私の行きたいところ……」
剣を杖にして立ち上がりながら、アリーシャは言う。
「遅くなったけど、約束、守ってくれますか……?」
「もちろんだよ……!」
その光景を見て、冥界の咎人は叫んだ。
「何故だ!? 何故手を取り合う!?」
「信じているからさ」
その疑問に答えたのは、立ち上がった世界を葬る者だった。
「未来を。人も神も共に歩いていけることを!」
「そんなものは、ただの綺麗事だ!」
「だから現実にしようとする! お前は逃げたんだ! 憎しみにすがることで『今』から目を背けた!」
自分には責任の重さなんて解らない。
解るのは、彼女には彼女を信じて共に歩む人が確かに存在すること。
そして何よりも、人の心を動かす、たった一つの物を彼女はもっていること。
「でも、あの人は違う! 仲間と一緒に未来を作るために戦える! それが王だ! 王の資格だ!」
その言葉にアリーシャは無言で頷き、剣を握りしめ、自分の足で、立った。
「私は、王になります!」
その言葉に満足そうに頷き、太助はブッカーガンを構える。
「王の仲間……、返してもらう!!」
放たれた光弾は、三つの水晶を粉々に砕いた。
「真弥さん! 三人をお願いします!」
レナス達が解放されたのを確認した太助は、彼女たちを真弥に任せて冥界の咎人に斬りかかる。
そして、彼だけに聞こえるように、小さな声で呟いた。
「あんたは、望んでなかったんだろう? アリーシャさんが自分と同じ結末を辿るのを」
「! お前、本当に何者だ……?」
「通りすがりの超戦士だ、覚えておけ!」
冥界の咎人は、不利を悟ったのか外へ向かう。
太助とアリーシャは追いかけるが、太助は確認の為にアリーシャに尋ねた。
「あいつに勝つには骨が折れそうだけど、大丈夫?」
アリーシャがどれだけ強いかは解らないが、少なくとも自分や真弥ほどではないだろう。
だが、アリーシャはハッキリと答えた。
「勝ちます! 私は王になるんですから!」
できるできないではなく、やる。
その強い意志に応えるように、太助の手の中でカードが力を取り戻した。
現れた絵柄は、この世界の英雄のもの。
「じゃあ、いきますか」
『FINAL FORM RIDE AAAALICIA』
太助は手早くアリーシャの背後に回り込み一言。
「ちょっとくすぐったいですよ」
「え? それって……」
戸惑うアリーシャに構わず、肩を叩く。
するとたちまち、アリーシャの身体が組み代わり、巨大な連結銃、アリーシャバスターライフルへと変化する。
「な、何だそれは!?」
この世界には余りにもそぐわない武器に、冥界の咎人も思わず叫ぶ。
「あんたを倒す為の力さ。俺達の、な」
『FINAL ATTACK RIDE AAAALICIA』
両手で構えた銃身を、相手にしっかりとむける。
「ターゲット、ロックオン……」
『そんな機能あるんですか!?』
「いや、言ってみただけ」
そして、銃口に光が集まり太助はトリガーを引く!
冥界の咎人は剣を盾にして防ごうとするが、そのまま押し流されてしまう。
そして、はるか上空で起こった爆発が戦いの終わりを告げた。
「アリーシャ……、よくやったわね」
真弥に支えられてやってきたシルメリアが、アリーシャを労う。
太助はそれを見届けると、そっとその場を後にしてある場所に向かった。
廃屋の一室。
そこで青年と葬世者は向き合っていた。
「あいつは……、大丈夫だろうか?」
「大丈夫ですよ。貴方という壁を壊すことが出来たんだから」
それは、青年があの場にいたことを意味する言葉だった。
「やはり気付いていたのか……」
「貴方は真弥さんもシルメリアさん達も殺していなかった。……昨日、貴方が言っていた家族の話。
貴方自身のことですよね?」
青年は、力無く笑った。
「このオルゴール。鳴らしてくれないか?」
そう言って懐からオルゴールを取り出す。
太助は受け取るとゼンマイを回して、ふたを開いた。
「約束していたんだ……。父さんが帰れなかったら俺が直すって……。
父さん……、遅くなってごめん……」
音楽が終わったとき、青年の姿はなかった。
オルゴールを青年が座っていた位置に置く太助。
扉が開く音に振り向くと、そこにはレナスがいた。
「太助……。貴方どうして……。まさか、彼のことを?」
「昨日、ここで会ったんです」
その時太助は彼から聞いた話から、レナスがこの家に来た理由に思い当たった。
「ひょっとして、あの人の父親を選定した戦乙女というのは……」
「ええ、私よ」
そして、レナスは顔を俯かせて続ける。
「私は人間の魂を、花を摘むような気持ちで選んでいたのかもしれない……。
その傲慢が一つの家族を壊し、一人の人間の運命を歪めてしまった……」
全てがレナスの責任というわけではないのだろう。
確かに彼の家族は父の死をきっかけに壊れていった。だが、もし彼が憎しみにすがらなかったら……。
そこまでで、太助は考えるのを止めた。「IF」を考えても、もう当人を救うことはできないのだから。
「レナスさん。アリーシャさんにも話したんですか?」
「ええ。昔一度だけね。もしかして、彼女もここに?」
「はい。あのレナスさん……」
自分が知っていいのかどうかわからない。
でも、彼は最後に一人の少女を救ったのだ。だから……。
「あの人の名前……、教えてくれませんか?」
「お帰りなさい、太助君」
七梨家に帰ってきた太助を、シャオが出迎える。
「ただいま……」
「? どうかしたんですか?」
太助は、どこか元気がなかった。
「なあシャオ。俺はこの世界を救えたのかな……?」
「勿論ですよ! 太助君が頑張ったから、アリーシャさんは前を向けたんです!
この世界は、絶対良くなりますよ! それにほら!」
そう言ってシャオが差し出した写真には、アリーシャとレナスの笑顔が写っていた。
「でも、この人誰でしょう?」
そしてもう一人。本当に小さくだが、確かに笑っている青年も。
「もう一人の英雄さ。この世界のね」
「七梨。お客さんだぞ」
「客?」
通りすがりの自分達に客などいるのか?
そう思ってリビングに入る太助だが……。
「やあ、太助君」
「遅いじゃない、何やってたのよ」
そこにいたのは、真弥と璃瑠だった。
「なんでここにいるんだよ、二人とも!」
真弥はまだ良い。元々異世界の存在だし、悪人ではないことは解っている。
だが、璃瑠は間違いなく自分の敵だ。
普通に考えてここにいて良い人間ではない。
「決めたんだ。春儚の分までみんなを救える人間になろうって。だから、僕も太助君につきあうよ」
「あたしは、真弥のこと気に入っちゃったから。だから真弥についてく」
そう言って真弥にじゃれつく璃瑠は、嘘を言っているようには見えない。
第一、リビングにいる時点で翔子もシャオも二人を信じているということだろう。
今更自分がどうこう言っても、璃瑠を追い出すことは出来ないということだ。
思いっきり疲れた様子で、ソファーに座り込む太助。その横で、本が光を放ち新たな絵柄を浮かび上がらせる。
何匹ものイルカが泳ぐ宙に浮かんだ巨大な水槽とその下で祈る少女を守るように交差された剣と拳。
それは、自分を救ってくれた少女を救う為に戦い抜いた、少年と少女の物語。
データファイル
ウィルフレド
父がエインフェリアに選定されたことを皮切りに家族に降りかかった不幸を戦乙女のせいにして憎んでいた。
その思いを冥界の神に弄ばれたあげく冥界に落とされてしまう。
冥界の眷属として地上に戻ってきたが、彼の真意はアリーシャの壁となることでレナスに
償いをすることだったのかもしれない……。
アリーシャバスターライフル
アリーシャのファイナルフォームライド。
正確にはツインバスターライフルだが、分割することが出来るのかどうかは不明。
必殺技は最大出力での砲撃「ディケイドスマッシャー」
後書き
執筆中に、ウィルフレドじゃなくバルバロッサ王を使えばいいことに気がついてしまった。
だが、俺は謝らない!(誰に?
そんな訳で、気付けば主人公オールスターになっていた「戦乙女の世界」
冥界の咎人としてのウィルフレドの格好は、彼のパパさんの色違いをイメージしています。
ついでに言えば、太助が玉座の間に乗り込んできたシーンは、「ヴァルキリープロファイル〜レナス」
より「Turn over a new leaf」をBGMに流してください。(希望)
管理人感想
ダークレザードさんからいただきました!
指導者となることへの重圧から逃げていたアリーシャ。
しかし、より嫌だったのはそんな弱い自分……それが自覚できたからこそ、それを乗り越えることができたのでしょう。
果たしてそこまで考えの至る人がどれだけいるのやら。たいていの人は重圧から逃げた時点で思考が止まると思います。
アリーシャのファイナルフォームライドはバスターライフル。
「ヴァルプロでバスターライフルかいっ!」というツッコミはみんなすると思うので(笑)別の切り口から。
太助よ、それを撃つなら決めゼリフは「お前を殺す」じゃないと(殺すなバカ者)。