これまでのガンガンヴァーサスDは!
「九つの世界に物語を紡ぐ英雄達が生まれたんだ。だけど今、物語は引き合い、世界を一つにしようとしているんだ」
「つまり、お前が旅をしてこの世界を救うってことか?」
「ディケイド……。貴方はこの世界に存在してはならぬ存在なのです……」
「たくさんの人に迷惑をかけてしまいます! 私はそれが怖いんです……!」
「その時は、俺がその世界を終わらせる。俺は世界を葬る者、らしいから」
「どうもお待たせいたしました。公司(カンパニー)化学部門所属の翠と申します」
「私、月小燐と申します。本日はお忙しいところを申し訳ございません」
そう言って丁寧にお辞儀をするシャオ。
「えー、お話の内容はこの世界の歴史と特異な点について、でしたね」
新たな世界に到着した太助達であったが、この世界も普通ではなかった。
この世界にはなんと空がなかったのだ。
太助はこの世界について「アンダーグラウンド。文字通りの地下世界って訳か」としか
情報を持っていないらしく、あちこちうろうろしてこの世界の治安機関「公司(カンパニー)」
のことを聞きつけてそこでこの世界の情報を集めようということになったのだ。
ちなみに聞き手がシャオになったのは、じゃんけんの結果である。
「元々、このアンダーグラウンドは戦時中に自然の力を引き出しそれを利用しようとした地上の
研究者によって作られました。しかし、その研究は失敗し研究者達は一部を除いて死亡。
その後、アンダーグラウンドは弱肉強食の無法地帯になりました。そんな中
実験の失敗によってアンダーグラウンドに降り注いだ自然エネルギーを浴びた人々の中から
自然の力をコントロールすることのできる「能力者」が現れました。
彼らによって公司が設立され、アンダーグラウンドには秩序がもたらされたのです」
「(能力者……。その中にこの世界の英雄がいるのかしら……)」
「ですが、それは力によって支えられた非常に危うい物です。もし何かの拍子で能力が失われてしまったら
アンダーグラウンドは再び無法地帯に逆戻りでしょう」
能力者によって、と説明されたことから、この世界では能力者至上主義が広まっているだろう。
「最近では、裁判すらも能力者による代理闘争で判決を下そうなどという法律まで定まってしまいました……。
私のような公司に属する一般人にとっては嘆かわしい限りです……」
翠はそう言ってため息をついた。
が、それも僅かのことですぐに顔を上げる。
「すみません、お客様に愚痴を言ってしまって。そうだ。弟子が買ってきたケーキがあるんです。今持ってきますね」
シャオが断る暇もなく、翠は奥の部屋に引っ込んでしまった。
しかたなくシャオは椅子に座って翠が戻ってくるのを待つことにしたのだが、この判断は大きな間違いだった。
数分もしないうちに、奥の部屋から翠の絶叫が聞こえた。
慌てて部屋の扉を開けたシャオの目に飛び込んできたのは、壁により掛かるように倒れ込んだ翠の姿。
だが、翠を助け起こしたのはシャオではなく、シャオを押しのけるようにして部屋に踏み込んできた金髪の女性だった。
「あんた達! すぐに医療班と警備員を呼んで!」
女性は、続けて入ってきた太助達に指示を出す。
翔子と真弥はそれぞれ部屋を飛び出していったが、太助は部屋に残り、シャオに寄り添うと
翠に呼びかけ続ける金髪の女性に視線を向けていた。
ガンガンヴァーサスD
第六話「守り人の物語」
公司本部、収監施設、面会室にて。
「しかし、とんでもないことになっちまったなぁ」
あの後、駆け付けた警備員によってシャオは重要参考人として拘束されてしまった。
「被害者は、一命は取り留めたものの意識不明の重体。室内には被害者と参考人しか居らず、侵入者がいないことは……」
「部屋の前で待っていた僕達が証人だからね……」
「現場、及び被害者の身体が不自然に濡れていたことから犯人は『水使い』と考えられるが……」
「じゃあ、能力者だっけ? そうじゃないシャオには無理だろ!」
「しかし、被害者は自作の錬氣銃と呼ばれる対能力者用武器を所持していた為これを使用したと思われる」
「おい七梨! お前シャオを助ける気があんのか!?」
さっきから、淡々と調書を読んでいた太助に翔子がかみつく。
「助ける為にも、こうして事件を詳しく理解しようとしているんだ。それと山野辺」
太助はビシッ! と翔子を指差して続ける。
「この世界で、俺を呼ぶなら七梨「捜査官」と呼べ」
「はぁ?」
「この事件は俺の担当になった。この公司保安部所属A級捜査官七梨太助の、な」
そう言って太助が取り出したネームプレートには先程太助が言ったとおりのことが書かれていた。
しかし、ノリノリというか無駄に自信があふれている太助を見てシャオと翔子は思った。
なんか悪い物でも食ったか? と。
これが別の人間だったら、「七梨太助のキャラクターも破壊されてしまった! おのれ!」と
世界の破壊者のせいにしてしまうところだ。
「それで、貴方はどう思ってるんですか? えっと……」
真弥が問い掛けたのは、先程から壁により掛かって自分達のやりとりを眺めていた少年だった。
「浅葱留美奈。翠さんにはダチが世話になった。それにこんなカワイコちゃんが
無実の罪で疑われてんのは我慢ならねぇ」
シャオちゃんが可愛くなかったらどうしてたんだろう? と真弥は思ったがそれ以上に
留美奈の言葉の中に気になることがあった。
「無実の罪って言ったけど、ひょっとして留美奈君は真犯人に心当たりがあるの?」
「ああ、まあな……」
だが、留美奈はもう少し考えさせてくれと言ってその場を去った。
「真実を明らかにしてシャオちゃんを助けるのがこの世界での太助君の役目なのかな?」
真弥がそう切り出すが、太助は首を横に振る。
「どうでしょう。少なくとも、留美奈さんに関わっていればいいみたいですけどね」
太助が取り出したカードには留美奈の名前とシルエットが描かれていた。
その時、三人の耳に戦いの音が聞こえてきた。
「噂の能力者裁判ってやつか?」
「たぶんね。……太助君、何してるの?」
翔子と真弥をよそに太助はディケイドライバーを装着していた。
「ちょっと見てこようと思って」
「っておい、確か検事と弁護士と、あとは関係者しか参加できないんじゃなかったか?」
「俺はA級捜査官でシャオの家族だ。十分関係者だろ」
「いや、そういう関係者じゃ……っておい!」
翔子の言葉を最後まで聞くことなく、太助はディケイドに変身すると戦場に向かっていった。
「どひゃああっ!!」
水色のロールパンヘアーをした少女が必死に逃げ惑っていた。
どうやら、ヨーヨーを武器にした少年に追いつめられているらしい。
「わかった、わかったで! うちの負けや! 無罪で構わへん!」
ロールパン少女がギブアップを宣言する。
代理闘争という前提である為、高いレベルの能力者にはリミッターがかけられるし、戦意を喪失した
相手を必要以上に痛め付けてはならないというルールがある。
少年が背を向けたその時、少女の鞭から放たれた氷の渦が少年を吹っ飛ばした。
「こ、この卑怯者!」
「ハン! 戦いは騙しあいでもあるんや、油断した方が悪い!」
悔しがる少年と勝ち誇る少女。
その二人の背後に、また一人の参加者が現れたことに二人は気付かなかった。
太助が戦場に到着したまさにその時、ロールパン少女が倒されようとしていた。
「ジオ・インパクトッ!」
相手の一撃で、ロールパン少女の身体が地面にめり込んだ。
「む、無罪でええ……言うとん……のに……」
「あいにく、私は判決なんてどうでもいいのよ」
そう言って立ち上がった少女。
それは現場からいつの間にか消えていた、あの金髪の少女だった。
「あんたは、あの時の……」
その瞬間、二人の周りに雷が降り注いだ。
あたりを見回すと、数メートル先の街灯の上に、電気を放つ少女がいた。
おそらく彼女の仕業だろう。
「あの子は誰なんだ!?」
「確か検事だったはずだけどッ!」
「あんな子供がッ!? この世界の労基法はどうなってんだよッ!」
必死に逃げながら金髪少女と会話する太助。
戦うという選択肢もあったのだが、見せなくても良い場面で手の内をさらす必要もないと
考えて、ここは逃げることを選んだ。
「お前なぁ。何をしにいったんだよ」
息を切らして戻ってきた太助を翔子は呆れた目で見つめる。
「偵察だ。そのおかげで、俺達の取るべき行動もだいたい決まった」
だいたいでいいのか? と翔子と真弥は思ったが口には出さない。
「とにかく無罪派の能力者を勝ち上がらせれば良いんだ。そうすればシャオは無罪になる。
真犯人も、シャオを有罪にする為に裁判に参加しているはず。俺達が事件解決の為に
動いていれば必ず真犯人と関わることになる」
「お待たせいたしました。私が白龍(パイロン)です。公司ナンバー2の人間と言った方が解るかな?」
そう言って三人を出迎えた白龍。
「(ナンバー2ってことは公司で二番目の権力の持ち主だよな……。悪そうな顔だけど)」
翔子がそう思ったのも無理はない。
何しろ顔の大きな傷痕といい、その爬虫類のような目つきといい治安機関に属する人間とは思えない。
「今回の事件についてとのことですが、犯人は月小燐で決まりでしょう。話を聞くフリをして
犯行に及ぶとは卑劣なことだ……」
シャオを犯人と決めてかかっている白龍の言葉にムッとする太助と翔子だが、顔には出さず質問を続ける。
「ですが、彼女は犯行を否認しています。そして俺は彼女が犯人だという事実に納得していません。
俺は何事も納得できるまで調べなければ気が済まない性格なんです」
「なるほど……」
「それで、貴方は犯行時刻にどこで何をしていたんですか?」
「アリバイですか……。
その時間なら部屋で仕事をしていましたよ。まさかあんな事が起こっているとは思いませんでしたから」
太助の質問にも白龍は丁寧に答えるが、その答え方はどこか太助達を見下した物だった。
「翠さんを訪ねてきた人は僕達以外にいましたか?」
真弥の質問に白龍は少し考え込むと。
「そういえば、ローレックを見かけましたね」
「ローレック?」
「ええ。チェルシー=ローレック。公司創立メンバーの一人で、一年ほど前まで浅葱留美奈と共に
要人のガードを努めていたんですが、ある日突然前線での治安維持任務に志願しましてね。
それ以来、本部に顔を出すことも無かったのですが……」
「事件の当日、何故か本部に顔を出していたと」
確かに、疑問を感じる行動ではある。
「そうそう、確か彼女も能力者裁判に参加していたはずですよ」
「なんですって……?」
太助の脳裏に、あの時の金髪の少女の姿が浮かんだ。
その横で真弥も腑に落ちない表情を浮かべていた。
その後、用事が出来たという太助と別行動をとり、翔子と真弥は、チェルシーの元を訪れていた。
「チェルシー=ローレックさんですよね?」
「そうよ。何の用かしら? 捜査官助手の人達が」
「今日、どうして公司本部に居たんですか?」
「元々あたしは本部勤めだもの。古巣に顔を出してもおかしくないでしょう?」
「でも、本部の人達とは疎遠になっていたって聞いてますけど?」
翔子の問いに口を閉ざすチェルシー。
仕方なく真弥が辺りを見回すと、一枚の写真が目に入った。
そこには、笑顔で肩を組んだ黒髪に鉢巻の少年と瓶底メガネの少年。少し離れて腕組みをして
微笑んでいる金髪の少女が写っていた。
「留美奈君のこと覚えていますか? コンビを組んでいたって聞きましたけど」
「ただの腐れ縁よ。でも、あいつと組んだときは失敗する気がしなかったし、失敗しなかった」
愛しむように語るチェルシー。腐れ縁と言いつつも留美奈のことを信頼していたのだろう。
「でも、私が壊した」
「? どういう……」
真弥が詳しく尋ねようとしたその時、物陰から一人の少年が現れた。
「久しぶりだな……金髪」
「……そうね」
感動の再会……とはいかないらしい。
留美奈の顔は怒りに満ちている。
「本当に裁判に参加してるなんてな……。一年前、お前は何も言わずによそに行っちまった。
俺や……、お前のことを信じてた奴等全員をお前は裏切った!!」
「私は……」
「うるせぇッ!!」
留美奈は刀を抜くと風を纏わせてチェルシーに斬りかかる。
巻き起こった突風によって部屋は滅茶苦茶になり、写真立ても、床に落ちて砕けていた。
創るは難く、壊すは易し。その事実を示すように……。
「やめなさい鉢巻! あんたとは戦う理由がないわ!」
懸命に訴えるチェルシーだが、留美奈は聞く耳を持たない。
「ふざけんなッ! シャオちゃんを有罪にしようとしてる卑怯者の言うことなんざ聴けるかッ!」
「何言ってんのよ!?」
「重力使いのお前なら、四階のベランダまで飛び上がることも、外から窓の鍵を開け閉めすることも
出来るからな! そして錬氣銃を奪って翠さんを撃った! 違うかよ!?」
チェルシーは何も答えない。
それがますます留美奈を苛立たせた。
なんでこんなにも苛立つのか、留美奈自身にも解らなかった。
いや、解っているからこそ理由に名前をつけたくなかったのかもしれない。
チェルシーと留美奈が距離を取って対峙したその時、彼が現れた。
「葬世を成す者」ディケイドが。
「チェルシー=ローレック。見せてもらうぜ、君の戦いぶりを」
『HERO RIDE ALICIA』
兜の部分に金色の髪を模したパーツが生え、甲冑も白と黒に染まる。
「女戦士には女戦士。ってね」
そして太助はブッカーソードで斬りかかる。
「服装が変わるなんて、そんな能力者聞いたこと無いわ!」
「そうだろうね。ま、名付けるなら「英雄使い」ってとこか」
『FORM RIDE LENNETH』
髪のパーツが銀色に、甲冑が蒼穹に変わり、剣でチェルシーを吹き飛ばす。
『FORM RIDE AHLY』
髪と甲冑が黒くなり、今度はハルバードでチェルシーを打ちのめす。
『FORM RIDE SILMERIA』
髪は金に、甲冑は浅黄色になり、駄目押しとばかりに矢を放つ。
だが、矢は全てチェルシーに当たる前に地面に叩きつけられた。
「ッ!?」
驚く太助。
チェルシーはその隙をついて懐に入り込むと、必殺の拳を放つ。
「ジオ・インパクトッ!!」
吹っ飛ばされ、フォームライドも解除されて地面を転がる太助。
どうにか立ち上がると、新しくカードを取り出す。
「重力使いに飛び道具は無意味か。じゃあ、コイツはどうかな!?」
『ATTACK RIDE ILLUSION』
「本当にあんた何者よッ!!」
分身などという非常識極まりない技を見せつけられ困惑するチェルシー。
太助に一方的にやられるチェルシーを影から見ている留美奈。
「ざまあみやがれ……」
だが、その表情は言葉とは裏腹に何かを堪えるようなものだった。
「さて、そろそろ決めようか」
そう言って太助が取り出したのは。
『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』
「動いたら、余計に痛いぞ!」
跳躍し、必殺キックの態勢に入る太助。
ダメージが大きく動けないチェルシー。
そして、留美奈は……。
データファイル
浅葱留美奈
「守り人の物語」の主人公。
ツンツン頭に鉢巻を巻いた活動的な少年。
アンダーグラウンドという閉鎖空間で、ただ一人の「風使い」である。
愛刀「小烏丸」と自らの能力を組み合わせて戦う。
金髪、ロールパン頭、というように、第一印象で渾名を決めて、ほとんど名前で呼ばない。
チェルシーについて複雑な感情を持っているようだ。
チェルシー=ローレック
公司創立メンバーの一人で、稀少能力である「重力使い」
留美奈と共にガードを努めていたが、ある日一方的に前線に志願した。
自分を金髪呼ばわりする留美奈を「鉢巻」呼ばわりして事あるごとに衝突していたが
その一方で強く信頼し、それ以上の感情も持っていたようだ。
なぜ、能力者裁判に参加しているかは不明。
白龍
公司の人間。「ぱいろん」と読む。
公司のナンバー2であるが、見た目は危険人物そのもの。
高麗
「こうりん」と読む。
裁判参加者の一人で、ヨーヨーを武器にする「磁力使い」
実戦経験はまだまだ不足しているようで、シャルマに逆転勝ちを許してしまう。
シャルマ=ルフィス
裁判参加者の一人で、鞭を武器にする「氷使い」
高麗に逆転勝ちするも、直後にチェルシーに叩きのめされた。
実はそのチェルシーに憧れている。
シエル=メサイア
裁判参加者の一人で「雷使い」
幼い年齢の為か、リボン無しでは能力を完全にコントロールできない。
翠
「すい」と読む。
公司に所属する科学者で、この世界についてシャオに説明するが、直後に何者かに襲われる。
科学の力で公司を改造……ではなく改革するという野望……もとい理想の持ち主。
後書き
第三の世界は「東京アンダーグラウンド」です。
翠、高麗、シャルマ、シエルファンの皆さんごめんなさい。
白龍についてですが、原作では誰かに命令しかしてなかったから敬語については、私の想像です。
ちなみにアンダーグラウンドの成り立ちについては、うろ覚えなので違っているところもあるかもしれません。
管理人感想
ダークレザードさんからいただきました!
次なる世界は「東京アンダーグラウンド」の世界。
殺人事件の容疑者にされてしまったシャオ。果たして真犯人は……な展開なんですが、原作を知ってる人にとっては「どう考えてもコイツが……」なキャラが若干1名(笑)。
まぁ、モリビト的には「留美奈×チェルシー」さえ見られればそれでよし(マテ)。