これまでのガンガンヴァーサスDは!
「この世界で、俺を呼ぶなら七梨「捜査官」と呼べ」
「とにかく無罪派の能力者を勝ち上がらせれば良いんだ」
「あいつと組んだときは失敗する気がしなかったし、失敗しなかった」
「本当に裁判に参加してるなんてな……」
「でも、私が壊した」
「シャオちゃんを有罪にしようとしてる卑怯者! そして錬氣銃を奪って翠さんを撃った! 違うかよ!?」
「重力使いに飛び道具は無意味か。じゃあ、コイツはどうかな!?」
分身を使いチェルシーを追いつめる太助。
『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』
必殺のディメンションキックで止めを刺そうとするが。
「浅葱流剣術“烈風”!」
横からの風撃に吹き飛ばされる。
その一撃を放ったのは……。
「留美奈……さん?」
チェルシー=ローレックの敗北を望んでいたはずの、浅葱留美奈だった。
「行けよ!」
太助からチェルシーをかばうような位置に立ち、チェルシーを促す留美奈。
「どうして……?」
「いいから行けって!!」
迷ったチェルシーだが、傷ついた身体を起こすとよろめきながらその場を去った。
「どういうつもりだよ、留美奈さん」
「…………」
ガンガンヴァーサスD
第七話「地下世界の風」
収監施設、面会室。
あれから太助達はシャオも交えて留美奈を問いつめる為にここへ戻ってきた。
「教えてくれますか? どうしてチェルシーさんをかばうような真似をしたのかを」
太助の質問に留美奈は答えた。
「……俺にもわかんねえ」
「え?」
「俺自身が戦ってるときはぶっ飛ばしたくてたまらなかった。だけどよ……、太助にぶっ飛ばされてる
あいつを見てたら、なんかモヤモヤしてきたんだよ」
「あれか? こいつを倒すのは俺の役目だ。みたいなやつ?」
茶化すなよ、と翔子に注意する太助。
その横で留美奈は、そういうのとはちょっと違うんだよな……、と呟く。
「あいつと組んで失敗した任務なんて一つもなかった……。でもあいつは、俺達を切り捨てた……。
そう思ってた……はずなのに……!」
「留美奈さんは、チェルシーさんを信じたいんですね」
シャオがやんわりと言った言葉に、留美奈は激しく慌てる。
「な、何言ってんだよ! そんなわけが……!」
否定しつつも、留美奈は心のどこかでその事実を受け入れていた。
何も答えなかったチェルシーにあれだけ腹が立ったのも、太助にチェルシーが倒されることが
我慢ならなかったことも、ただチェルシーの口から「違う」と言って欲しかったから……。
「僕も、チェルシーさんは犯人じゃないと思う」
真弥も自分の意見を述べる。
「チェルシーさんは昔のことを話すとき、とても嬉しそうだった。自分がそれを壊したって言ったときの顔。
とても悲しそうだったから」
「でも、留美奈さんと真弥さんの感想はともかく、あの人が怪しいのは事実だ」
太助はチェルシーへの疑惑を捨ててはいない。
「あたしはシャオが無罪放免になればそれでいいんだけど……、どっちにせよ決定的な証拠が足りないだろ?」
翔子の言葉に一同揃って考え込む。
「僕はチェルシーさんを信じてみたい」
「あたしはさっきも言ったけど、シャオの無実が証明できればいい」
「じゃあ、お互いに納得いくまで調べてみるってことで」
「みんな、頑張ってください!」
そして、意見を確認しあってその場は解散した。
「最後の一人になるまで戦う、能力者裁判……」
シャオは不安だった。
能力者裁判で太助が勝ち上がる先が、どうしてもあの悪夢に……。
屍の荒野に独り立つディケイドの姿に通じているようで……。
そのようなことを考えているときであった。
シャオは次元壁に呑み込まれ、気がつくと、見知らぬ場所にいた。
『この世界、この時間で会うのは初めてですね。守護月天小燐……彼女と魂を同じくする者よ』
眼鏡をかけた謎の男。それがシャオの目の前にいた。
「貴方は……?」
『私は預言者……ディケイドが世界を葬る者であることに警鐘を鳴らす者』
預言者レザード=ヴァレスは、続けてシャオに語りかける。
「貴方の目的はなんですか?」
『無論、ディケイドを止めること。そしてその為に、貴方を死なせないことです』
そして、レザードはシャオにむかって手を差し出した。
『私なら貴方をすぐに自由に出来ます。貴方もディケイドを止めたいのでしょう?』
「……わかりました。そこまで言うなら……、絶対行きません」
シャオの返事にレザードは信じられないといった顔で問い掛ける。
『何故……?』
「太助君が、必ず助けてくれるからです。他の誰もが、太助君も太助君を信じなくなっても
私は太助君を信じることを諦めません!」
『ディケイドは英雄達との戦いの中で目覚め、自らの宿命に殉ずるでしょう』
「そんなこと私がさせません! 私一人で駄目なら、翔子さんと真弥さんの力も一つにします!
みんな、太助君と一緒にいたいんです!!」
レザードは苦笑を浮かべる。
シャオは、レザードが自分の想いを「不可解だ」と嘲笑っているように思えてならなかった。
『まあいいでしょう。まもなくこの世界もディケイドによって葬られるのですから』
次元壁は消えて、シャオは元の場所に戻ってきた。
だが、その顔には不安が浮かんでいた。
翌日。
通りを、フードとマントに身を包んだ人物が歩いていた。
もっとも、その格好に好奇の目を向ける人間はいない。
アンダーグラウンドでは脛に傷のある人間は珍しくないからだ。
そして、マントの人物の背後に、別の人間が迫っていた。
その人物は、人通りが少なくなったのを確認すると、マントの人物に向かって手を伸ばし……。
「そこまでだ、白龍さんよ」
手の主……。公司ナンバー2、白龍を止めたのは太助だった。
「これはこれは……いきなり何をするのですか? 七梨捜査官」
「それはこっちの台詞だ……。あんた、あの人を殺そうとしてただろ。
いくら怪しいからって問答無用で殺すのはあんまりじゃないか?」
厳しく詰問する太助に対して白龍は冷静な態度を崩さない。
「怪しいもなにも、チェルシー=ローレックは今回の事件の真犯人でしょう?」
「チェルシー=ローレック? どこにそんな人がいるんだ?」
「そこにいるでは……!」
マントの人物のほうに視線を向けて、白龍は動揺した。
そこにいたのは、チェルシーではなく山野辺翔子だったのだから。
「あたしのどこがチェルシーさんに見えたのかな? はっきり言って似てないと思うんだけど?」
マントを脱ぎ捨てながら、翔子は白龍にむかって言う。
「真弥さんと山野辺が言ってたんだよ。チェルシーさんが真犯人ということになれば、真犯人は
チェルシーさんに自分の罪を被ってもらう為に、チェルシーさんを殺そうとする。ってね」
「それだけのことでローレックを信じたというのですか? 貴方の知り合いに罪を着せたのかもしれない人物を?」
白龍の言葉に、太助は答える。
「確かにそうだ。でもな、山野辺も真弥さんもあの人を信じたんだ」
少し離れたところから、真弥とチェルシーが近づいてくる。
「友達の信じることを信じてやれないなんて、友達のする事じゃない」
そして、別の所から留美奈も。
「それに、チェルシーさんは倒れた翠さんに必死に呼びかけていたんだ。あの姿に嘘はなかった」
「白龍……、お前が翠さんを……!」
「待って」
刀に手をかけた留美奈をチェルシーが止める。
「あんた……誰?」
その言葉に一同の動きが止まった。
「何を言っている。私は……」
「違うわ。こうして向かい合って確信が持てた。あんたは白龍じゃない。別の何かよ。どうなの? 答えなさい!」
チェルシーの詰問に白龍……を装っていた「何か」は笑い始めた。
「ククク……。この個体の外面の模倣は完全だったが、内面からの影響までは模倣できなかったか。
次の教訓にさせてもらうとしよう」
笑いの後に呟いた言葉は小さすぎて、近くにいた太助にしか聞こえなかった。
どういうことだ。と太助が問いつめるより早く、「白龍」は逆に太助の首根っこを捕まえると
人間とは思えない跳躍で、その場から消えた。
「あいつ……ッ!」
「金髪ッ!」
チェルシーは追いかけようとしてその場に崩れ落ちた。
太助との戦いで受けた傷がまだ癒えていなかったのだろう。
「大丈夫か?」
「ぶっ飛ばしたくてたまらないんじゃなかったっけ? ん?」
チェルシーを気遣う留美奈を翔子が茶化す。
だが、他ならぬチェルシー自身がそれを肯定した。
「そうしてくれても良かったのよ。私はそれだけの事をしたんだから」
「金髪……。お前何を……」
「ごめんね、留美奈。一年前……、私は、あんたが怖かった」
その言葉を聞いた留美奈は驚いた。
彼がずっと聞きたかった、一年前の理由……それが自分が怖い?
「どういうことだよ!」
「あんたはいつだってガードの任務に全力で取り組んでいた。どんなに嫌味な奴でも心から案じて守っていた。
でも、私は違っていた。私はただ仕事をこなすことで……、誰かに必要とされている人を守ることで……、
そうすることで、私自身を「必要な人間」だとみんなに思って欲しかっただけ……!
そんなちっぽけで汚い自分をあんたに知られるのがすごく怖かった。そんな時、翠が前線の任務につくことを提案してくれたの」
「じゃあ、翠さんは知っていたのか……」
「ええ。あの日は、翠から「そろそろ戻ってきてはどうですか」って言われてその返事のために本部にいたのよ」
人は誰もが「自分の闇」を人に知られたくないと思っている。
近しい人の「正しさ」がはっきりとわかればその思いは強くなる。
そして、気付かれることを恐れる。
「自分が、間違えることを知ったときこの人はどうするのだろう」と。
「でも、外にいって解った。ちっぽけで汚いからこそ、強く美しくありたいって思えるんだって」
「そうだ…。そうだよ。っていうか、俺だってそんな大層な人間じゃねえぜ?
護衛する奴が、美人の姉ちゃんだった時は「いいところ見せてお付き合い」なんて考えてたんだからよ」
「馬鹿ね、鼻の下伸ばしてたからすぐ解ったわよ」
「うっせえ」
そう言ってお互いどちらからともなく笑いあう。
「別にいいじゃねえか。俺はお前が誰よりも頑張ってきたことを知ってる。動機が不純だからって軽蔑したりしねえよ。
まあ、なんだ。……俺達はチームだからな。………チェルシー」
最後の部分だけは、照れた顔を見られたくなくてそっぽを向いて言う留美奈。
「あんたが私の名前を呼ぶの、初めてなんじゃない?」
「そりゃ、お互い様だろ?」
笑いあう二人。
「さっそくだけど、あの人を助けなくちゃね。でも……」
「ああ、お前はゆっくり休んでな」
そう言って、留美奈は太助と「白龍」を追っていった。
「なんか……留美奈さんって格好いいよな」
「普段は馬鹿だけどね」
翔子の言葉に返すチェルシー。
「でも……、たまには格好いい時もあったよ……。護衛対象に……嫉妬するくらいにはね……」
続けられた言葉は、チェルシーの中でしか形にならなかった。
一方、太助の方はピンチだった。
「白龍」は身体能力も高く、翠から奪ったと思われる錬氣銃も驚異だ。
「お前一体何者……いや、なんなんだ!」
「……俺は人間ではない。この世界に入り込み、来るべき時に備えていた。
だが、あの翠という男は俺の正体に感づいてしまった。だから処分したまでだ」
「じゃあ、もう一つ質問だ。本物の白龍はどうした!?」
「奴は、生きている限り他者を食い物にし続ける「邪悪」な人間だ。
そのような人間は、将来の犠牲者を作り出す前に、誰かが殺しておかなければいけないのではないか?」
何の感情も込めることなく淡々と話す「白龍」
その様に、太助は背筋が冷えるのを感じた。
「質問は終わったか? では死ね」
そう言って、「水」の弾丸を放つ「白龍」
だが、強風が水を一瞬にして吹き散らした。
「遅かったじゃないですか、留美奈さん」
この世界の英雄。浅葱留美奈が駆け付けたのだ。
「悪いな。ちょっと金髪と話してたんだよ」
「それで? 仲直りは出来ました?」
「ああ」
そして、二人は「白龍」に向き直る。
「浅葱留美奈……。俺はお前を殺すことに一片の躊躇もない。死を恐れる貴様らでは俺に勝てん」
自分達の敗北が決定事項であるかのように告げる白龍。
だが、それに屈する弱者はこの場にはいない。
「あいにくだけどよ、俺は自分だけの為に戦っているんじゃねえぜ!」
「馬鹿な……。人は常に己のためにしか戦わない存在だ……」
「確かに人間は自分の為だけに戦うことだってあるさ」
「白龍」の言葉を肯定する太助。だが……、彼は知っている。人間はそれだけではないことを。
「でも、俺達はこの手を繋ぎあうことだってできるッ! 手を繋いだとき俺達は、一人じゃないッ!
一人じゃない奴は、愚かでも無力でもないんだよッ!!」
「今この時は、俺達がチームだッ!!」
「変身!」
『HERO RIDE DECADE』
太助がディケイドに変身すると同時に、この世界の英雄のカードが力を取り戻す。
「お前は何だ……?」
「通りすがりの超戦士だ、覚えておけ!!」
『FINAL FORM RIDE RURURURUMINA』
さっそくカードを使い、留美奈の背後に回ろうとする太助だが。
「げッ!?」
「白龍」が錬氣銃を撃ってきた為、背中を叩くだけにして回避する。
一方留美奈の方は回避しながら身体が変形していく。
回避と変形は同時に完了し、そこにいたのは白銀の鳥。その名もルミナサイバード。
『お前、俺に何をしたーッ!?』
「あ、ごめんなさい。ちょっとくすぐったかったですか?」
『いや、そういう問題じゃねえよ……』
気の抜けた会話を繰り広げる二人。
そこに「白龍」が殴りかかってくるも、太助は咄嗟に留美奈に飛び乗り、留美奈は飛び上がることで回避する。
『FINAL ATTACK RIDE RURURURUMINA』
カードを使うと同時に、留美奈は「白龍」に向かって急降下。
やがて、全身が青い炎に包まれる。
「おおりゃぁッ!!」
体当たりと同時に太助もブッカーソードを振り抜き「白龍」は爆発に包まれた。
地面に降り立つ太助と留美奈。
だが、その表情はすぐに凍り付いた。
爆炎の中から「白龍」が平然と立ち上がったからだ。
しかも、あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、一滴の血も流れてはいない。
「お前……一体……?」
おののく太助の疑問に答えたのは、突然現れたレザードだった。
「紹介しましょう。アトランダムナンバーズ人間形態(ヒューマンフォーム)ロボット
A−Q QUANTUM−QUALIFY。それが彼の本当の名前です」
「ロボット……?」
確かにそれならば出血しない理由も解る。
だが、目の前で説明されても疑念が消えない。
余りにも人間に似すぎている為にロボットだと思えない。
太助が考えているうちに、レザードとクオリフィは次元壁の中に姿を消した。
『この世界での実験は終わった。ディケイド、貴様によってこの世界も葬られたことを忘れるな』
高笑いと共にレザードの気配は消えた。
「これで、チーム復活ですね」
あれからしばらくたって、別れの挨拶に来た太助がいう。
「ま、腐れ縁は切れないってこった」
「それはこっちの言う台詞よ」
「あんだと、金髪!」
「何よ、ツンツン頭!」
お互いに憎まれ口をたたき合う二人。
だが、この二人はそれで良いのだろう。
ぶつかりあっていても、心の奥で相手の事を認めあい信頼しあっている。
それが浅葱留美奈とチェルシー=ローレックなのだ。
「でも、お前達のチームには負けるかもしれないけどな」
「それはどうでしょうか……」
言いながらシャッターを切る太助。
「出来ましたよ、太助君」
シャオは早速、この世界で太助が撮った写真を現像していた。
「出所そうそう無理言ってごめんな、シャオ」
「いいんですよ。太助君の写真の現像は私の役目ですから」
写真はほとんどが失敗作だったが、その中の一枚を真弥が拾い上げる。
「この写真、結構いい感じじゃない?」
「ほんとだ。最高のチームの写真だな」
翔子がそう表した写真には、留美奈とチェルシー。
そして、何故かその両脇に真弥と翔子が写っていた。
もちろん、二人は自分達とこの写真を撮った人物のことも含めてコメントしているのだろう。
この世界に来てから姿が見えなかった璃瑠も真弥の後ろから写真を覗き込んで微笑む。
そんな五人の後ろで、本に新しい世界の絵が浮かび上がった。
美しい、プリズムパープルの髪を持った人物の後ろ姿。二つの「星」をその身に宿した者の絵が。
データファイル
ルミナサイバード
留美奈のファイナルフォームライド形態。
異世界のロボットの変形した姿を模しているが、大きさは車と同じくらい。
必殺技は、炎を纏って突進しディケイドの斬撃を同時に喰らわせる『ディケイドブレイカー』
クオリフィ
正式名称はA−Q QUANTUM−QUALIFY(クオンタムクオリフィ)
レザードによってこの世界につれてこられ、彼の指示で白龍を殺して彼に成り代わっていた。
レザード曰く「実験」だそうだが、具体的に何をしていたのかは不明。
アトランダムナンバーズと呼ばれる超高性能ロボットで、周囲の誰もがロボットであることを見抜けなかった。
後書き
かなり無茶苦茶な展開……。
これも、自分の力量不足のせいですね。ごめんなさい。
チェルシーの告白の部分はどうしても「たまにはかっこよかった」をつかいたかったから……。
毎回悩むのが、各世界のイメージアートとファイナルフォームライドです。
管理人感想
ダークレザードさんからいただきました!
期待通りの留美奈×チェルシー! モリビトはこれだけでお腹いっぱいです。
留美奈のファイナルフォームライドはサイバード。ファイナルアタックライドはアカシックバスターかな? スパロボではお世話になりました(ペコリ)。
次なる世界は……ツインシグナルかな? また懐かしい世界が。
頭の悪いモリビトは記憶を掘り返すだけでも一苦労です。
…………ん? 白龍? いたっけ、そんな人?(爆笑)