これまでのガンガンヴァーサスDは!
「俺は世界を葬る者、らしいから」
「ディケイドは英雄達との戦いの中で目覚め、自らの宿命に殉ずるでしょう」
「そんなこと私がさせません! みんな、太助君と一緒にいたいんです!!」
「友達の信じることを信じてやれないなんて、友達のする事じゃない」
「ディケイド、貴様によってこの世界も葬られたことを忘れるな」


 「平和」とはどういう状態を言うのだろうか?
 戦争のない状態のことだろうか。では戦争がなければ、貧富の差や人種差別によって苦しみ死んでいく
 人間があふれていてもその国は「平和」だと言えるのだろうか?
 「平和」とはただそこにあるのではない。
 求めるみんなが創り、求めたみんなで護るものだ。
 そして、この世界にも戦う者がいる。

「目標を補足した。行くぞ! シグナル!」
「僕に命令するな! パルス!」

 漆黒の髪に、腕にブレードを装備した青年、パルス。
 水色の髪に、赤いジャケットを着た青年、シグナル。
 巨大な蜘蛛を象った機械と戦う彼らもまた、機械であることは外見からでは解らない。
 人に造られながら、限りなく人に近いロボット。
 それが彼ら、アトランダムナンバーズの称号を冠するロボットなのだ。


ガンガンヴァーサスD
第八話「標の物語」


 シグナルとパルスの戦いを遠くから眺めている者がいた。

「あれがこの世界の英雄か……」

 自称「通りすがりの超戦士」他称「世界を葬る悪魔」ディケイドこと、七梨太助。
 そして、旅の同行者(一人除く)である。
 太助はいつも通り彼らを写真に撮ろうとするのだが……。

「? シャッターが切れない?」

 壊れたか? と思ってよく見てみると……。

「あ、間違えて古いの持って来ちゃったよ」
「お前って時々ドジだよな」

 そう言って太助をからかう翔子。

「で、この世界でのお前の役割ってなんだろうな?」
「えーと……」

 変化した服を調べてみる太助。
 すると、一枚のカードがでてきた。

「なになに……。シンクタンク「アトランダム」本部食堂チーフ?」
「アトランダムってなんでしょう?」
「取り敢えず行って見ようよ。他に手がかりはないんだし」


 頭脳集団(シンクタンク)アトランダム。
 ロボットに造詣の深いある夫婦が「より人間に近い高性能ロボットの開発」を目的として設立された民間の研究機関。
 設立当初は失敗の連続であったが、現在では優秀な人材を幅広く備えた世界最高峰のロボット開発機関である。

「併設された大学と共に、世界的に有名です、か。なかなかすごいところじゃん」
「翔子さん。パンフレットに書いてあることをそのまま読んでも調べたことにはなりませんよ?」
「そして、そのアトランダムに所属する科学者が自分の専門分野の実験や、外部からの要請によって作り上げたロボット。
 そのなかでも特に優秀なロボットを「アトランダムナンバーズ」と呼ぶらしいね」

 シャオ、翔子、真弥の三人はアトランダム本部のロビーで調べたことを話し合っていた。

「それで、彼らの中でも戦闘型として作られたロボットによって、人を襲う機械から人を守っているそうですよ」
「その内の一体がさっき見かけて、今向こうから歩いてくる……」

 三人の視線は一仕事終えて帰ってきた一体のロボットに向けられる。

「楽勝、楽勝! やっぱり僕は強いッ!」

 今にもスキップしそうなくらい上機嫌なシグナルを見た三人の感想は……。

「馬鹿っぽい」
「面白そうな人ですね」
「悪い人じゃないね、取りあえず」

 なかなか辛辣だった。
 と、シャオが気がついたように言う。

「そういえば、太助君はどうしたんでしょう?」
「……食堂で働いているんじゃないかな?」

 真弥の言葉に三人が思い出したのは、「留美奈の世界」で役割をノリノリでこなしていた太助の姿。
 嫌な予感が、三人を襲った。


「いいか、食事の時間というのはだ。朝起きて一日をがんばるためにあり、昼に仕事を頑張るためにあり、
 家に帰って明日への活力を培うためにあるんだ。おれたちの役目は働いてる皆さんの心を癒すことだ! 
 そのためのアイテムこそ、おいしいご飯! ああ、この後も頑張ろうと思ってもらうんだ。
 笑顔は笑顔を呼び、誰かを元気にするッ! さあ、頑張るぞッ!」
「「「はい、チーフ!!」」」

 食堂のスタッフを集めて演説をかましていた太助。

「お前何やってんだーッ!!」

 怒号と共に翔子のジャンプキックが決まった。
 そのフォームは見る人が見れば「強化マイティキック」と呼ばれるキックにそっくりだった。
 だが、太助は特に堪えた様子も見せずに立ち上がる。

「何って……、仕事に決まっているじゃないか」
「情報収集はどうしたんですか!?」
「その情報収集の為さ」

 太助曰く。
 アトランダムナンバーズ統轄である、クオータに自分達の目的について話したのだが。

「我々アトランダムナンバーズはシンクタンクアトランダムの貴重な「財産」です。
 それをあなた方の目的の為に使うのであればそれなりの予算が必要です。
 失礼ですが、食堂のチーフに払えるような額ではありませんよ?」

 と言われて門前払いを喰らわされてしまったらしい。

「うっわー、嫌な奴だなその統轄」
「それで、その為のお金を稼ぐ為に食堂を繁盛させようとしてるんですか?」
「そっちはついでだよ。待ってるんだ」
「待ってるって……何を?」

 真弥が質問したその瞬間、暴走機械発生のブザーが鳴り響いた。

「売り込みのチャンスを、さ」


 暴走機械は、シグナル達にとっては特に驚異というわけではない。
 しかし、誰かを守りながらとなると話は別だ。
 偶然、戦闘区域に入り込んでしまった民間人の子供を守りながら戦うシグナルは少年を
 かばうあまり、本来の力を発揮できない状態であった。

「何をしているシグナル! 標的の撃破が最優先だろう!」
「だからってほっとけるわけないだろう!?」

 シグナルは迷っていた。
 自分達の戦いは周辺にかなりの被害が出る。
 安全地帯まで子供をつれていけば、戻ってくる間パルスは一人で戦うことになる。
 パルスの強さを疑っているわけではないが、暴走機械も決して弱くはない。
 一対一ではどうなることか……。

『ATTACK RIDE BLAST』

 迷っているシグナルの目の前で幾つもの光弾が暴走機械に撃ち込まれた。

「え!?」

 振り向いたシグナルの視線の先には、ブッカーガンを構えた葬世者が悠然と立っていた。

「さっさと子供を連れて行けよ。ここは俺にまかせてさ」
「なんだと!? 偉そうに……! だいたいお前誰だよ!」
「俺は……」

 ここで太助は考えた。
 アリーシャの世界の時と同じように「超戦士ディケイド」と答えても良いのだが、シグナルが
 レザードに自分のことを悪魔だと吹き込まれていると面倒なことになる。
 かといって、これからお近づきになる相手に「通りすがり」を名乗るのも印象が悪い。
 考えた末に太助は……。

「食堂の戦うコックさんだ」

 そう言って、新しいカードをドライバーにセット。

『HERO RIDE RUMINA』
「さぁ、調理の時間だ」

 ブッカーソードの刃先を手で研ぐと、暴走機械に向かって突撃する。
 その圧倒的な戦闘力は、シグナルとパルスから見ても凄まじかった。
 例えるならまさに「嘘が付けない」強さといったところか。

『ATTACK RIDE REEPUU』
「千切り、賽の目切り、ぶつ切り。どれが好みかな?
 どれも嫌なら……、微塵切りだ!!」

 その言葉と共に、留美奈のそれと寸分違わぬ一撃が、暴走機械をスクラップにした。

「貴様、何者だ!? アトランダムのロボットではないようだが……?」
「違うね。僕はロボットじゃない」

 パルスの問い掛けに、こう答えた。

「人よりちょっと強いだけの、ただの人間さ」


「シンクタンクの益となるならば、素性は問いません。
 七梨太助さん。あなたは食堂のチーフとハンターを兼任してもらいます。
 無論、報酬も相応しい額をお約束いたします」
「ありがとうございます」

 本部に戻ってきてすぐに太助はクオータに呼び出されていた。
 話の内容は予想通り、太助の待遇改善について。
 以前の面会の時のクオータの態度から太助は、彼が組織に利益をもたらす者を
 評価するタイプだということを見抜いていた。
 そのため、こうして役立つところを見せれば、必ずクオータは自分を引き上げると睨んでいたがその通りだった。

「シグナル。貴方は標的の撃破に時間をかけ、無用な被害を出しました。
 よってハンター任務から外れてもらいます。
 代わりのメンバーが決まるまでパルスに頑張ってもらいます」
「! 待ってくれよクオータ! それは人命救助を優」
「私に二度同じ事を言わせないでください」

 シグナルに最後まで言わせず、クオータは言い切った。
 利益になる要因を評価する=損害をもたらす要因は切り捨てるということだろう。
 過程は問わず「損害を出した」という結果が全て。そのクオータの思考に、太助は嫌な顔をした。


 「しばらくは食堂の下働きでもしていなさい」というクオータの命令によってシグナルは太助の部下になった。

「今日から食堂勤務になったシグナルです。皆さんよろしくお願いします」

 横から聞いていて嫌々だということが丸わかりのシグナルの挨拶。

「お前には、雑用係をやってもらう。頑張って働けよ」
「雑用!? そんなこと何で僕がやらなくちゃいけないんだ!?」

 文句を言うシグナルだが、太助の返事はシンプルだった。

「お前が、新人、だからだ」
「…………ッ! ふざけるな!」

 そう言って着ていたエプロンを地面に叩きつけるシグナル。
 辞めるつもりのシグナルを止めたのは真弥とシャオだった。

「それでいいの? ここで辞めたって、君の失敗は消えないよ」
「シグナルさん。逃げてしまったら、本当の負け犬になっちゃいますよ」
「……ッ」

 二人の言葉に踏みとどまるシグナル。
 自分の現状を拒む気持ちだけではなく、返り咲きたいという気持ちもあったと言うことだろう。


「なあ、新人の働き具合はどうだ?」

 フロアを見回っていた太助に翔子が聞く。

「まだまだだな。嫌々やっているのが見え見えだ」

 二人の視線の先には、注文された料理を運ぶシグナルの姿。
 だが、その表情は太助の言うとおり、不満が見え隠れしていた。

「ところで、何で璃瑠がここに来てるんだ?」

 そう、シグナルが運んでいる料理は璃瑠と真弥がオーダーしたものなのだ。

「どうも、前の世界であたし達が弓樹さんをつれ回していたのが不満だったみたいでさー。
 ようするにご機嫌取りだよ」
「…………まあ、キバーラってあまり目立たないからなぁ……」

 禁句を口にしながら苦笑する太助。
 そして、シグナルが二人の前まで来たとき、足を滑らせたのか前のめりに転んでしまう。
 もちろん、運んでいた料理は、料理を待っていた二人に降りかかることになった。

「あんた……死にたいのね?」

 その後、真弥だけではなくその場にいた全員で璃瑠を押さえたのは言うまでもない。
 そして、シグナルの失敗はたちどころにクオータの知るところとなり……。

「封印処分です。身辺整理をしておきなさい」

 それがクオータの決定だった。
 要するに完全に電源を落とし、しまいこむということである。

「なんでだよ! 僕はあれだけ人を守って戦ってきたんだぞ!」
「組織とは、そこに属する者達の熾烈な生存競争で成長していくのです。
 貴方はその競争に負けた。それ以上でも以下でもありません」

 一切の感情を見せず淡々と語るクオータ。
 歯を食いしばり言葉を探すシグナル。
 だが、言葉が見つからなかったシグナルは飛び出していってしまう。

「面白いな、アイツは」
「いたのですかクオリフィ」

 部屋に現れたのは、留美奈の世界に潜入していたクオリフィだった。

「俺達と同じロボットでありながら感情で動く。まるで人間じゃないか。お前と同じだクオータ」
「私が? 理解できませんね。それよりも……」
「わかっている。俺が連れ戻そう」

 そう言って、部屋を出ていこうとするクオリフィにクオータは声をかけた。

「壊してもかまいませんよ」
「ああ、どうせ役立たずなのだからな」

 クオリフィが去り、一人になった部屋でクオータは呟いた。

「そう、A-S SIGNALは不要なのです。私の計算通りに動かないのだから……」


 飛び出してきたシグナルだったが、思わぬ足止めを喰らっていた。
 太助が追いかけてきていたからである。

「上司に刃向かったままだと俺の監督不行届になるからね。さ、戻ろうシグナル。俺も一緒に謝るからさ」
「嫌だ! 僕は何も悪いことしてないのに、何で謝らなくちゃいけないんだよ!!」

 完全に頭に血が上っている。どうやら口で理解してもらうのは難しいようだ。
 だが、そこに思わぬ乱入者が現れた。

「貴様もいたのか……、ディケイド」
「クオリフィ!? 探す手間がはぶけたな。変身!」
『HERO RIDE DECADE』

 変身した太助。そしてシグナルがクオリフィに問い掛ける。

「お前は誰だ!?」

 同じアトランダムナンバーズであるクオリフィのことをシグナルが知らないことに少し驚くが
 太助はその質問に答えてやる。

「人を殺してそいつに成り代わっていた狂ったロボットだ!」
「じゃあ、遠慮無くぶっ飛ばして良いんだな!」

 クオリフィに飛びかかろうとするシグナルだったが、その目の前に黒い影が割って入った。

「パルス!?」
「シグナル! もうやめろ! これ以上自分の立場を悪くするな!」

 自分達ロボットは人に「世に在れ」と望まれて生み出された存在。
 故に、人に望まれなくなれば滅びるしかない存在。だが……。

「……僕は……、納得できない命令なんか聞かない!」

 目の前の「弟」は「心」や「感情」に従って動いている。
 パルスは。いやパルスだけではなく、シグナルと長く付き合った者はこう思う。
 「A-S SIGNALは本当にロボットなのか?」と。


 一方、太助とクオリフィの戦いも続いていた。
 自分の属する世界に戻り、人間を装う必要の無くなったクオリフィは強い。
 だが、太助も負けてはいなかった。

『ATTACK RIDE SLASH』

 切断力を上昇させたソードの一撃でクオリフィにダメージを与える。
 膝をつくクオリフィに止めを刺そうとファイナルアタックライドカードを取り出す太助。
 だが、バックルに挿入しようとした瞬間、カードが弾かれた。

「ッ!?」

 太助は見た。
 カードを打ち落とした犯人。
 それは青い髪をした、身の丈ほどもある巨大な銃剣(バイアネット)を持った青年だった。
 彼が異なる世界の「英雄(ニンゲン)」であることを太助は知らない。
 彼がここにいる理由も……。


データファイル

シグナル
正式名称〈A-S SIGNAL〉
アトランダムナンバーズのヒューマンフォームロボット。
最先端の技術が導入された最新型のナンバーズで潜在能力は未知数。
本人は自分の強さにかなりの自信を持っているが、稼働年数の少なさから来る経験不足と
裏表の無い正直でお馬鹿な性格から、周囲には未熟者扱いされている。
人間、ロボットを問わず女性を攻撃することを好まない。人間の命令であっても納得できないときは反抗する。
正しくないと思った命令は聞かない。など、ロボットらしからぬ行動を取ることがある。

パルス
正式名称〈A-P PULSE〉
アトランダムナンバーズ初の戦闘型ヒューマンフォームロボット。
両眼には小型レーザー、両腕には高周波ブレードという重装備を施されている。
シグナルとは制作者が同じである為、兄弟の間柄。
実はレーザー発射の影響で常に目の機能が悪く、ロボットなのに重度の近眼である。

クオータ
正式名称〈A-Q QUANTUM-QUARTER〉
アトランダムナンバーズ統轄の任についている。
情報処理専門のヒューマンフォームロボットで、その演算能力は情報管理電脳の中枢コンピューターに匹敵するほど。
その莫大な情報量を生かした対応により、戦闘型を軽く凌駕する戦闘力を誇る。


後書き
ブレイドにあたるのは「ツインシグナル」の世界になりました。
この世界でのアトランダムナンバーズはいわゆるイレギュラーハンターのような役割をしています。

なお、劇中の表現からわかるかもしれませんが、この世界のシグナルは最初期の
「かっこつけお馬鹿」だったころの彼をイメージしています。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 また懐かしい作品が来たなー……というか、どんどん採用作品の年代が古くなっていってる気が(苦笑)。
 シグナルの原作でのやんちゃぶりを思い出すまでしばらくかかりました。次の世界では大丈夫か自分(汗)。

 ところで……ちびシグナルは出ないんですか?