これまでのガンガンヴァーサスDは!
「それで、彼らの中でも戦闘型として作られたロボットによって、人を襲う機械から人を守っているそうですよ」
「貴様、何者だ!? アトランダムのロボットではないようだが……?」
「お前が、新人、だからだ」
「封印処分です。身辺整理をしておきなさい」
「……僕は……、納得できない命令なんか聞かない!」


 突然の乱入者を戦いながらも警戒をする太助達。
 だが、太助はクオリフィも乱入者に警戒していることを以外に思っていた。
 レザードを知るクオリフィが警戒していると言うことは、この乱入者はレザードが送り込んだのでは無いのか?
 そう考えていると、乱入者が得物である銃剣を太助達の頭上に向けて構える。

「マルチブラストッ!!」

 その叫びと共に放たれた弾丸は、太助達の頭上で炸裂し嵐となって太助達に降り注いだッ!
 銃弾の嵐がやんだ後、その場に残っていたのは太助とシグナルのみ。
 辺りをうかがう太助は気付かなかった。
 そんな太助自身の様子をうかがう第三者がいたことに。


ガンガンヴァーサスD
第九話「彼の名はA-S」


「不測の事態が起こり、追跡を断念した……。ですか」

 パルスはクオータに報告を行っていた。

「はい。太助さんが未確認のロボットと交戦中。そして……」

 パルスも内心では、今回のシグナルへの処分に納得できなかった。
 だがシグナルは短絡的すぎる。あの場で連れ戻しても、「自分は悪くない」と主張するだけだろう。
 そう思ったパルスは、シグナルを太助に任せることにしたのだ。
 報告には一切嘘は含まれていない。不測の事態が起こったことは事実なのだから。
 だが……。

「ところでパルス。その未確認のロボットとは……、君の後ろにいる彼のことですか?」
「!?」

 パルスは振り向けなかった。
 スタンガンを押し当てられ、視界が暗転していく……。


「破壊しないのか?」
「ええ、今はまだ」


 一方、太助はシグナルをつれて本部の食堂に戻ってきていた。

「遅い!」

 戻ってきて早々翔子に怒鳴られた。

「お、山野辺ご苦労さん」
「ご苦労さんじゃねーよ。何であたしや弓樹さんまで働かないといかないわけ?」

 太助は売上げ拡大の為という名目で、翔子と真弥もスタッフとして、働かせていたのだ。
 真弥はともかく、何故翔子がこんなことをしているかというと……。

「別に無理を言ったわけじゃないぞ、ツケが今すぐ払えるなら別に良いって言ったじゃないか」
「うっ……」

 最後まで渋る翔子に対し太助はこう言った。
「今日までの飲食費、きっちりカウントしてるんだぞ?」と。
 さすがの翔子もそれを言われると弱く、こうして食堂を手伝っていたというわけだ。

「で、シグナルさんはどうだ?」
「……落ち込んでるよ」

 帰ってきてからシグナルは椅子に座りこんでうなだれたままだ。

「まったく、ちょっと怒られたぐらいでそこまで落ち込むなんて、実に未熟者のお子さまだな。
 間違えないように、俺が名札を付けといてあげよう」

 そう言って、太助は紙に何かを書くとシグナルの胸にテープで張り付ける。
 名札のようにも見えるそれには「よわいおこさましぐなるくん」と殴り書きされていた。
 断じて励ます人間のする態度ではない。

「僕を馬鹿にしてるのか!?」

 当然シグナルも怒る。

「違います! 太助君が言いたかったのはそういうことじゃありません!
 シグナルさん。自分が弱いと理解している人は強くなろうと努力し続けて本当に強くなっていきます。
 太助君はシグナルさんに自分の弱さを忘れずにいて欲しいからあんな言い方をしたんですよ!」
「そ……そうなのか!?」

 シャオとシグナルの言葉に太助は。

「………………ああ、あんたは優しく言っても聞かないと思って、俺もあえてきつく言ったのさ」

 少し焦った様子で答えた。
 後ろの方で翔子と真弥は「絶対そんなこと考えてなかったな」と思っていたが口には出さなかった。


「ところで太助君はあのヒューマンフォームロボットを知ってたみたいだけど……?」
「ああ、詳しい説明はちょっと省くけど、クオンタムクオリフィって名前で……」
「クオンタム!? あいつクオンタムだったのか!?」
「ど、どうしたんですかシグナルさん、いきなり大声を出して!?」
「どうもこうも、あいつクオータと同じ〈A-Q QUANTUM〉だったなんて……。
 まさか、僕が封印される前に壊そうとして……? くそッ、そうはいくかーッ!」

 何やら自己完結したシグナルは猛烈な勢いで食堂を飛び出していった。
 真弥も少し遅れてシグナルを追いかけていった。

「太助君はいかないんですか?」
「クオータは用心深そうだから、たぶん罠を仕掛けてると思う。だから一緒に行くのは危険だと思って」
「ま、それが妥当だな。あの二人には悪いけど……」

 翔子が話し終わるのと同時に、近くの席で食事をしていた客が食器をおいた。

「ごちそうさまでした。いやー、おいしかったです」

 前髪だけが青、残りは黒髪の少年は太助のそばを横切るとき、彼にしか聞こえない鋭い声で言った。

「まだその子に護られてるのか? 太助」
「!?」

 その言葉に太助の魂がざわめいた。
 どういう事かと少年を問いただそうと振り返るが、既に少年は消えていた。
 太助は知らない。
 その少年が、自分の戦いを見ていたことを。


「ここは……」

 気がつくと、パルスはどこかの工場のような場所に拘束されていた。

「気がつきましたか、パルス」
「クオータ!? 貴様、一体何を考えている!?」

 パルスの言葉を聞いているのかいないのか。
 クオータはパルスの方に歩み寄ると、そっと手を差し出す。
 手のひらには一枚のコンピューターチップが置かれていた。

「このチップ、何がプログラムされているのかわかります?」
「見ただけで分かる物か!」
「それはごもっとも。これにプログラムされているのは……一言で言えば「悪意」です。
 怒り、憎しみ、怨み……。それも人間に対する……ね。
 ですが、まだまだ未完成でしてね。ヒューマンフォームロボットの人格プログラムを支配するほどではないんです。
 せいぜい、車や作業機械などの簡単な物を、時限式で狂わせるぐらいが精一杯でして……」
「何……?」

 今クオータはなんと言った?
 人間への悪意? 時限式で狂わせる?

「まさか……、まさか貴様!!」

 クオータはどこか嬉しそうに答えた。

「はい。あなた達が破壊してきた暴走機械。それを用意していたのは、私です」


 パルスが気がついたのと同時刻。
 クオータを探していた真弥とシグナル。

「なあ、真弥」
「何?」
「何で真弥は戦うんだ?」

 シグナルが真弥にそんな質問をした。

「えーと、理由を聞いても良いかな?」
「だって真弥は人間だろ? 怪我したり、下手したら死ぬかもしれないのに……」
「太助君も人間だよ?」
「太助は、ディケイドっていう凄い力を持ってるし」

 真弥は少し考えて言った。

「シグナルは自分のことが好きかい?」
「え? えっと……」
「僕は、僕のことが大嫌いだったよ。
 強い人を羨んで、自分の殻に引きこもっていた。そんな僕を信じてくれる人に出会って、
 その人の力になりたい、変わりたいって本当に少しだけどそう思った。始まりはそれだけだったよ」
「結構、簡単な理由だったんだ……、ってごめん! 簡単とか言っちゃって」

 シグナルの謝罪に真弥は「いいよ」と小さく笑った。

「大事なのは理由の内容じゃない。いつでも最初の想いを忘れないことだって僕は思ってる。
 シグナル。君は君のまま、君だけの理由を持って強くなればいい」
「僕は僕のまま……。ありがとう、真弥」

 再び進み出したシグナルの顔は、晴れやかだった。
 単純かもしれないが、それがシグナルなんだろうな。
 真弥はそう思った。



 再び、パルスはクオータに問い掛ける。

「何故だ!? 何故貴様はこんなことをする!! 何の得がある!!」
「我々、アトランダムナンバーズがこの世界に存在し続ける為です」

 自分が、自分達が存在し続ける為?
 パルスにはクオータの考えは理解できなかったが、ただ一つだけハッキリしていることがある。
 それは……。

「クオータ! 貴様は……」

 パルスの言葉を遮るように、ドアが破壊された。
 続けてドアを壊した犯人が現れた。シグナルである。

「クオリフィ! どこにいやがる! って、クオータにパルス?」
「シグナル!?」

 何故シグナルがここに来たのかは分からないが、今は伝えるべき事がある。

「聴け! シグナル。今までの暴走事件は全てクオータが意図的に引き起こした物だ!
 こいつは……、クオータは……、狂っている!!」

 パルスの言葉に、シグナルは一瞬自分を失った。

「何……だって……?」
「うわぁっ!」

 真弥の叫び声に後ろを振り向くと、真弥がクオリフィに襲われていた。

「真弥!」
「……! シグナル前!」

 真弥の言葉は一瞬遅かった。
 振り向くと同時にシグナルの首はクオータによって締め上げられていた。
 ロボットであるシグナルが窒息死することはないが、首のフレームが軋む音がシグナルの恐怖をあおる。

「クオー……タ……。何で……こんな事を……するんだ……よ」
「貴方達が人間を「恐怖」させるからですよ」

 そういうクオータの目にはロボットにあるはずのない物……「狂気」が宿っている。
 シグナルにはわからなかった。クオータが何を言っているのか。自分が破壊されそうだということが。
 シグナルには理解できなかった。
 シグナルは今、クオータに「恐怖」していた。

「シグナルーーッ!!」

 風が、吹いた。

「浅葱流剣術ー」

 その風は、シグナルと真弥の横を通り抜け。

「烈、風!!」

 二体のクオンタムを吹き飛ばした。

「太助!」
「チーフだ」

 その時、煙の中から何かが飛び出し太助に巻き付く。
 巻き付いたそれは高圧電流を発し太助を苦しめる。

「うわぁぁッ!!」

 変身していたので死ぬことはなかったが、それでもダメージは大きく変身が解けて倒れてしまう。

「まさか貴方までここに来るとはね、七梨太助君。やはり貴方は計算外だ」

 煙の中から無傷のクオータとクオリフィが立ち上がる。
 クオータの手には鞭が握られている。

「クオータ……、僕達が人間を怖がらせるってどういう意味だ!」
「わかりませんか? 貴方達アトランダムナンバーズはあまりにも人の思い描くロボットからかけ離れた存在だ。
 まるで人のように泣き、笑い、怒ってみせる。人ではない物なのに、人に従っていればいいロボットなのに。
 そして私もそうなのです。アトランダムナンバーズは人に恐怖を「悪夢」のように見せつけ続ける。
 人に造られし我々……。なのにアトランダムナンバーズは人を超えた力を持っています。
 造物主である「人間」にも制御の効かぬ我々はこの世に存在を許されて良いのでしょうか?」
「だから、別の「恐怖」を作り出してそれを自分達で排除していたのか? 人に望まれる為に……!」

 震えながらも、太助は立ち上がる。

「くだらない……。お前は人間を信用できずに怖がっている、ただの臆病者だよ」
「人間は他人を恐れる。自分を超えろと願い、それをかなえたロボットを滅ぼすのがその証明です」

 その言葉に、太助はシグナルの隣に立ち、言い返す。

「違うね。少なくともこの人が戦うのは人を怖がらせる為でも、自分を性能をアピールする為でも、
 ましてや自作自演で人に愛されようとする為でもないッ! 『生きる』為だッ!!
 人間でもロボットでも、共に生きる仲間を励まし、助け合い、支え合って生きていく。
 その為に戦っているんだッ!!」

 クオータは僅かに退いた。
 彼は「恐怖」を作り出しはしたが、自分が「恐怖」を感じたことはない。
 ロボットだから、そう造られたからだ。
 だが、目の前の「人間」にクオータは初めて「恐怖」した。

「お前は……、お前は何だ!!」
「通りすがりの超戦士だ、覚えておけ!! 変身!」
『HERO RIDE DECADE』


 戦いの場を屋外へと移し、太助とシグナル対クオータ、クオリフィの戦いは続いていた。
 だが、不利を悟ったのかクオータ達は逃走に移る。

「逃げられると思っているのかッ!?」

 太助は既に力を取り戻していた、カードを使う。

『FINAL FORM RIDE SSSSIGNAL』

「ちょっとくすぐったいぞ」
「え?」

 ロボットがそんな感覚を知っているかどうかはともかく、変形したその姿は巨大な片刃の剣。
 その名もシグナルレヴァンティン。

「一気に決めてやるッ!」
『FINAL ATTACK RIDE SSSSIGNAL』

 剣を目の前で構えると、シグナルレヴァンティンが燃え上がる。

「紫電……一閃ッ!!」

 巨大な炎の剣が、叫ぶ暇も与えずにクオータとクオリフィを焼き尽くした。



「もう行くのか?」
「ああ、この世界での役目は終わったみたいだし、俺は世界を葬る悪魔……らしいから」

 そんな太助の自嘲の言葉を、シグナルは否定する。

「僕はそうは思わない、僕の世界は君達のおかげで生まれ変わったんだから」
「そうか……」
「なあ、また会えるかな?」
「俺が旅を続けていれば、いつかは……ね」

 シグナルが人間と創っていく未来……。それはどんなところなんだろう……。
 まだ見ぬこの世界の未来に太助はしばし、思いを寄せた……。


 七梨家に帰ってきて、リビングでそれぞれ好みの飲み物を飲みながら語らう太助達。

「あ、この写真。この世界の宝物ですよ」

 そう言ってシャオがテーブルの上に置いた写真。
 そこに写っていたのは、見ているだけで元気を分けてくれるような笑顔のシグナルだった。

「まぶしいねぇ」
「俺達の世界でもシグナルみたいなロボットが生まれるといいな」

 その太助の言葉に、シャオも翔子も、真弥も頷いた。


 そんな四人をソファーに寝転んで本を読みながら見ていた璃瑠。
 彼女の読んでいた本が光を放つと、新しい絵が浮かび上がった。
 寄り添いあう十字の杖と大きなバイオリン。
 そして、その手前に置かれた小さな箱……。


データファイル

シグナルレヴァンティン
シグナルのファイナルフォームライド。
シグナルを変形させるためオリジナルに比べてかなり大きい。
必殺技は、業火を纏った斬撃『ディケイドストラッシュ』


アシュレー=ウィンチェスター
太助とクオリフィ、シグナルとパルスの戦いに乱入してきた戦士。
レザードや璃瑠が送り込んできたのではないようだが……?


後書き
今回は無理にディケイド側を再現しようとしすぎた結果どうにも短くなってしまいました。

ファイナルフォームライドは悩みに悩んだあげく決定。
ストラッシュなのは、アイデアの名残です。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 進化した機械を人間が恐れる。多くのSFで使われた定番ネタですが……それを恐れて自作自演に走るとはなんと弱気な反応か。
 普通そこは権利を勝ち取るために武装蜂起するところでしょうに。ヘタレすぎるぞクオータ(笑)。

 『剣』の世界に対応した『ツインシグナルの世界』。ファイナルフォームライドもブレイドブレードに準じた大剣形態ですか。
 レヴァンティンということでどうしてもシグナム嬢を連想する自分。 シグナ“ル”がシグナ“ム”の武器になるとは。えぇい、ややこしい(苦笑)。