これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「ディエンド……だって?」
「……貴方の恐ろしさは理解していますからね。やめておきますよ」
「ただの噂よ。魔曲っていう音楽を奏でて魔族を倒す勇者がいるっていう噂」
「全く……。こういうのは苦手なんだよ……!」


「さあ? 答えて欲しければ、俺に追いついてみるんだな」
「そうさせてもらうッ!!」

 二人は同時に同じカードを使い、相手を攻撃する。

『ATTACK RIDE BLAST』
『ATTACK RIDE BLAST』

 が、銃の性能差なのか、シアンの光弾が何発か太助に当たり始める。
 不利を悟った太助は、撃ち合いを止める。
 そんな二人をよそに、様子を窺っていたギータが、再び剣に襲いかかった。

「お前も奏音の勇者を狙っていたのではなかったのか……ッ!!」
「勿論狙っていたさ。勇者自身ではなく、勇者の力を、ね」

 剣は視線をハーメルが置いていったバイオリンに向ける。

「こんな物を手に入れてどうしようっていうんだ?」

 それが太助には解らなかった。
 まさか剣が魔曲を奏でられるとは思えない。

「魔曲という奇跡を可能とする名器。十分なお宝だ」
「宝?」
「そう。世界には人の想像を超える数々の宝がある!
 俺はその宝を見つける為に、世界を巡っているのさ」

 高らかに言い切る剣。
 だが、太助にとってはどうでもいい。

「つまり、泥棒ってことだろ?」

 泥棒呼ばわりされてムッときたのか、銃撃を激しくする剣。
 太助は攻撃を凌ぎながら、剣に近づこうとしていく。


 一方、ハーメルの方も苦戦していた。
 元々ベースは三人のリーダーに相応しく、全ての面でドラムとギータを上回っているのだ。
 ハーメルが魔族だと知って少し動揺したようだが、それだけだった。

「まさか、貴様も魔族だったとはな! この裏切り者が!!」
「俺は、人間だッ!」

 吼えるハーメルだったが、ベースは強い。
 不利を悟ったハーメルは、自ら地面を殴りつけ、その土煙に紛れて、気絶したフルートと共に逃げた。
 正体を知ったことでいつでも殺せると思ったのか、ベースもギータも姿を消した。

「太助、そのお宝ちゃんと返しといてくれよ。盗みに行くからな」
『ATTACK RIDE INVISIBLE』

 剣もカードを使って姿を消した。
 仕方なく太助はバイオリンを拾うと、ハーメル達が逃げていった方に歩き出した。


「ハーメル……さん?」

 太助を捜していたシャオは目の前の光景に驚いていた。
 何故、ハーメルの頭から角が生えているのだ?
 戸惑うシャオに、ハーメルは背負っていたフルートを地面に降ろすと。

「…………後は頼む」

 そう言い残すと、帽子を被りなおして去っていった。
 そこに太助がバイオリンを持ってやってきた。

「忘れ物ですよ」
「……やるよ」

 ただ一言。
 それだけを言って横を通り抜けるハーメルに、太助も一言。

「どうしてですか?」

 聞きたいことは色々あった。
 どうして、人間を護っていたのか?
 どうして、黙っていたのか?
 だが、今はそれだけしか聞いてはいけない気がした。

「どうしても……ここにいたかった……。それだけだ」

 そう言って今度こそ去っていくハーメル。

「人を護ることを選んだ魔族……か」



ガンガンヴァーサスD
第十一話「魔人の顔、一つの愛」



 七梨家。
 あれから、太助とシャオはフルートをつれてここに戻ってきた。
 フルートはしばらくすると目を覚ましたのだが、やはり自分が見た光景には
 ショックを受けていたようで、元気がなかった。

「なんでハーメルさんはこの町を護っていたんでしょう……?」
「わからない……。ハーメルさんはどうしてもここにいたかったって言っていたけど」

 ハーメルについて話し合う太助とシャオ。
 そんな中、フルートが呟くように言った。

「私……、何も知らなかった。ハーメルのこと……」

 いつもいつも、無駄に偉そうで、人のことを小馬鹿にして………。

「でも、それも嘘だった! あたしの知ってるハーメルは本当のハーメルじゃなかった!!」
「……本当の顔なんて、きっと誰にもわかりませんよ」

 フルートに太助は優しく言い聞かせるように答える。

「何百枚写真を撮っても違う顔が写る。そして同じ顔は二度と写せない。
 だから、形に残して「思い出」にしていくんですよ。いつでも、いつまでも思い出せるように」


 翌日。
 ハーメルは町はずれの橋の上にいた。
 自分が魔族の血を引いていることをフルートに知られた以上、ここにはいられないだろう。
 ハーメルはよく解っていた。
 人間は「自分と違う者」に対して容赦はしない。
 拒絶するのは当たり前。裏切ることも生贄に差し出すことにも、何の痛痒も感じない……!
 よく解っているのに、何で自分はまだここにいる……?

「やっと見つけたぜ、コウモリさん」

 そんなハーメルに声をかける者がいた。

「……ハーメルだ」
「人間ごっこは楽しいか? ん?」

 剣は冷たい笑みを浮かべ、ハーメルは一歩退く。

「ご自慢のバイオリンはどうした?」
「持ってねえよ」

 素っ気なく答えるハーメルに、剣は容赦なくディエンドライバーの銃撃を浴びせる。
 ハーメルも魔族化して戦うが、剣は弾幕をはってハーメルを近づかせない。
 だが、ハーメルが魔族化して立ち向かってきた事から、剣はあることに気がついた。

「まさか太助の奴、バイオリンを返してないのか?」
「人聞きの悪いことは言わないでくれよな」

 そこに太助が特大バイオリンを抱えて現れる。

「ハーメルさんがくれたんだよ。ハーメルさんにはこのバイオリンよりも大切な物があるからな」
「馬鹿なこと言うな。そのバイオリン以上に価値のある物なんてあるわけないだろう!」
「解らないのか。だったら、力ずくで諦めさせてやるよ」

 バイオリンを地面に置いてディケイドライバーを構える太助。
 だが、変身するより一瞬早く、剣がライドブッカーを打ち落とす。
 慌ててライドブッカーを拾おうとする太助……、だがその前に次元壁が太助を呑み込んだ。

『感謝しますよディエンド。貴方のおかげでようやく邪魔者を始末できる……』

 レザードが声だけで礼を言う。
 だが、剣の顔には不満の色が浮かんでいた。


 ドサクサに紛れてその場から逃げ出したハーメルは、町の方から煙が上がっているのを見た。
 駆け付けてみると、町の中では骸骨や蜥蜴の戦士、獣人があちこちで暴れ回っていた。
 そして、ハーメルは見た。
 中央広場に追いつめられている町の人々の中にフルートがいたのを。

「…………ッ! チクショオォォォォッ!!」

 人間は「自分と違う者」に対して容赦はしない。
 拒絶するのは当たり前。裏切ることも生贄に差し出すことにも、何の痛痒も感じない……!
 よく解っているはずなのに、何で自分は…………。

 そんな人間の為に、勝ち目のない戦いをせずにはいられないんだ……?


 そして、剣は少し離れたところからそれを見ていた。
 魔族化して、ベースとギータに立ち向かうハーメル。
 だが、地力の差がありすぎて一方的にやられるだけだった。

「あんなものが、「バイオリン以上の価値がある宝」か? くだらねえ」


「ディケイドよ……。今回は私の知る中で、最も強き者を連れてきたぞ!」
「そこまでしてくれるのかよ……。ありがたくて涙が出るぜ」

 そう言ってレザードが次元壁から呼び出したのは
 豪華なドレスに身を包み色黒の肌と額にレンズのような何かをつけた女性だった。
 哀しき闇の女王、その名はシゼル。
 シゼルは、背後に甲虫のような何かを浮かび上がらせながら、光弾を放って攻撃してくる。

「くそッ!」

 ライドブッカーを元の世界に置いてきてしまったため、変身することが出来ないまま
 太助は攻撃を必死で避け続ける。


 一方、七梨家。
 珍しくこの時間まで寝ていた真弥が璃瑠と話していた。

「おはよう、真弥」
「おはよう、璃瑠。ところで太助君達は………」

 だが、真弥はすぐに二度寝をすることになった。
 背後に忍び寄っていた剣に気絶させられたからである。

「悪い、急いでるんだ」
「あんた、真弥に何を……!」

 好きな人に乱暴を働いた剣に、魔法をぶちかまそうとする璃瑠。
 だが、それより早く顔にディエンドライバーが突き付けられた。

「お前の素性は知ってる。太助はどこに連れて行かれた?」


 太助は必死に逃げ回っていたが、だんだん追いつめられてボロボロになっていた。

「フフフ……。ようやくだ、ようやくこの時が……!」

 顔をにやつかせるレザード。
 その時、太助の背後に次元壁が出現し、招かれざる者が現れる。

「変身!」
『HERO RIDE DI-END!』

 剣は、プレートでシゼルを牽制するとそのままディエンドに変身して接近戦に持ち込む。

「シゼルゥゥゥゥゥッ!!」

 邪魔をされた怒りで叫ぶレザード。それに答えてシゼルも剣を迎え撃つ。
 シゼル自身は接近戦は得意ではないらしいが、変わりに背後の甲虫が殴りかかってくる。
 剣は距離を取り戦い方を変える。

「女王様には王女様、かな」
『HERO RIDE ALICIA』

 アリーシャを召喚してシゼルと戦わせる剣。
 だが、やはり手数の差でアリーシャは苦戦する。
 それを見ていた剣は、一枚のカードをディエンドライバーに差し込んだ。

「痛みは一瞬だ」
『FINAL FORM RIDE AAAALICIA』

 そう言ってアリーシャを撃つ剣。
 すると、アリーシャの身体がアリーシャバスターライフルへと変形する。

『FINAL ATTACK RIDE AAAALICIA』

 剣が切り札を使おうとしていると分かったのか、シゼルも天から漆黒の剣を呼び出す。
 だが、ディエンドスマッシャーはその剣ごとシゼルを消し飛ばした。
 シゼルの消滅と共に太助と剣は次元壁に包まれる。

「ハッハッハ!! 面白い、面白いぞディエンド!
 貴様とディケイドは決して相容れぬ存在……! いずれ滅ぼしあう!」

 「最も強き者」が倒されながら、怒りも失望も見せずに二人を嘲笑いながらレザードも姿を消した。


「こいつは、バイオリンの礼だ」

 そう言って太助にライドブッカーを渡す剣。
 だが太助は、全く興味のない様子でその場を後にしようとする。

「おいおい、こいつに興味がないのか?」
「言っただろ。たかがバイオリンより、もっと大切な物があるってな」

 そう言って去っていく太助。
 狙いの宝を「たかが」扱いされた剣は、面白くない顔をしていた。


 再び、ハーメル。
 奮闘虚しく、完全に打ちのめされていた。
 血まみれになって、倒れ込もうとしたその時……。

キラッ……!

 地面に何かが落ちていることに気がついた。
 それは、小さな十字架だった。
 ハーメルはそれのことをよく知っていた。

「…………ッ!」

 その十字架がベースに踏まれそうになったとき、ハーメルは十字架をかばっていた。

「これは、あいつの宝物だ……ッ!」
「こんな物がか? くだらん」
「お前らにはわからねえだろ……ッ!」

 この町に来てしばらく立った頃、バイオリンを弾いていたハーメルにフルートが話し掛けてきたことがあった。
 よく弾いているけど、好きなの? と聞かれて、そうだと答えるとフルートは。

「私も好きだよ」

 そう言って笑った。
 ただそれだけ。何でもないはずの言葉が、何でもないはずの笑顔が。

「俺には、泣きたくなるぐらい嬉しかったんだ!! その時に俺は決めたんだ!
 アイツの笑顔を守れるなら……、俺は魔族になってもいいってな!!」

 ハーメルの覚悟を聞いて、フルートは思わず涙を流した。
 何故、今までのハーメルを「嘘」だと疑ってしまったのか。
 彼はただ、「人間」であろうとしただけだったのに。

「……くだらん」

 その一言で切り捨て、ハーメルを蹴り飛ばすベース。
 その時、戦場に新たな戦士が現れた。

「知っているか? 宝物っていうのは頑張る力をくれる物……らしい。
 その人もそうさ。人間とか魔族とか関係ない。自分の宝物を守るために頑張っていただけだ」
「こんなちっぽけな物の為にか? 無意味だな」
「ちっぽけだからッ!! 命を賭けて守らなくちゃいけないんだよッ!!」

 太助の一喝に、ベースは聞き返してしまう。

「貴様は何者だ?」
「通りすがりの超戦士だ、覚えておけ!!」

「変身!!」
『HERO RIDE DECADE』

 ディケイドに変身する太助。
 そこに剣も現れて、ハーメルにバイオリンを渡してやった。

「どういう風の吹き回しだ?」
「興味が湧いたんだよ。お前の言うもっと価値のあるお宝にな」

 そして、剣もカードを差し込んだドライバーを天に向ける。

「変身!」
『HERO RIDE DI-END!』

 剣もディエンドに変身し、ハーメルもバイオリンを構える。
 並び立つ三人の戦士。そして、太助の手の中でカードが力を取り戻す。

「覚悟しやがれ! お前らに地獄のレクイエムを聴かせてやるぜ!!」
「そのレクイエム。俺にも弾かせてくださいよ」
『FINAL FORM RIDE HAHAHAHAMEL』

 格好良く決めたハーメルの後ろに回り込み、いつも通りの断りの言葉をいれる。

「ちょっとくすぐったいですよ」
「なぬ?」

 背中をさわるとハーメルの身体が変形していく。
 そして、太助の手に納まったその姿は。

『なんじゃこりゃ〜!? 俺バイオリン弾きだぞ!?』
「これ、一応ギター……だよな?」

 本人は不満のようだが、ある世界では由緒正しい退魔の道具である。
 その名もハーメルオンゲキゲン。

「そんなもので我々が倒せるかーッ!!」

 斬りかかってきたギータを逆に切り倒すと、カードを使う。

『FINAL ATTACK RIDE HAHAHAHAMEL』

 剣の援護を受けてベースに突撃する太助。
 攻撃をかいくぐり、ベースにハーメルオンゲキゲンを突き立てる。

「音撃斬! 雷電激震!!」

 ハーメルオンゲキゲンを掻き鳴らし、ベースに清めの音を叩き込む。

「はぁぁぁぁッ……、ハァッ!!!」

 最後の一音を奏で終わると同時に、ベースは大爆発を起こし砕け散った。


 ハーメルは、町の人々の前で佇んでいた。
 町の人々は、戸惑った様子でハーメルを見つめている。

「…………みなさん」

 やがて、ハーメルは覚悟を決めて話し始めた。

「俺は……魔族です……。黙ってて……ごめんなさい……」

 謝罪し、ハーメルは頭を下げた。
 しばらくして、その頭に、何かが乗せられる感覚があった。

「ありがとう」

 フルートの言葉に、顔を上げるハーメル。
 そこには、フルートをはじめとする人々の笑顔があった……。


 その風景を写真に納めていた太助は、剣の姿が見あたらないことに気付いた。

「剣?」

 剣は、瓦礫の影で蹲って何かをしているようだ。

「見ろよ太助! ギータの奴がコレクションしていた魔剣だ! これに比べりゃあのバイオリン
 なんて霞んじまうぜ! お前の言っていたお宝ってこれのことだったんだな!?」
「いや……その……」

 自分の言う「お宝」は今まさにそこにある……、ことに全く気付いていない剣に、太助は何も言えなかった。


 七梨家にて。
 頭を押さえている真弥を膝枕で介護している璃瑠。
 太助がこの世界で撮った写真を整理しているシャオとそれを手伝っている翔子。

「ハーメルさん、これからどうなるんだろう……」

 フルート達は理解してくれたが、他の人々がどうかは分からない。

「大丈夫よ」
「璃瑠……?」
「たった一人でも、自分のことを『ここにいてもいい』って言ってくれるなら、それだけでも
 人は……、大丈夫だから」
「ああ。それに、道は選ぶものじゃなく、作るものだから」
「確かに。この笑顔がある限り、あの人は自分の道を歩ききるだろうな」

 そう言って翔子が手に取った写真には、笑顔のフルートと小さく笑ったハーメルが写っていた。


 そして、テーブルの傍らに置かれた本は新たな絵を浮かばせる。
 描かれているのは、帯で拘束された上で棺に納められた少女と、少女を覆う紅の布。



データファイル

シゼル
ディケイド抹殺の為にレザードが連れてきた。
レザード曰く「自分が知る中で最も強き者」
何か大きな力を持った存在を肉体に宿しているようだ。
「哀しき闇の女王」とも称されている。

ハーメルオンゲキゲン
ハーメルのファイナルフォームライド。
ギターを模した形の武器で胴の部分で敵を切り裂くことも出来る。
必殺技は、敵に突き立てた状態で掻き鳴らし清めの音を叩き込む「ディケイドウェイブ」


後書き
剣のキャラはこんな感じで良いのかしら?
と、ちょっと不安になっています。

ファイナルフォームライドも音繋がりで割と早くに決まりました。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 人は自分と違う存在を嫌悪する。悲しいことですが現実であり真実なんですよね。
 自分と同じ存在など決して存在しない。クローンですらオリジナルと同じには成り得ないというのに。
 しかし、それでも人は他人とのつながりを求め、受け入れる。“自分と違う存在”である他人を、最終的にハーメルを受け入れたフルートのように。

 ……ハッ! そうか!
 人はみんな、他人を嫌っていても受け入れる……つまり、人類すべてがツンデレだったのか!(←最後の最後で台無し)