これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「君は、葬世を行う者だから」
「なんで、俺がやらなくちゃいけないんだ?」
「『救世主』……。あれがこの世界の英雄か………」
「でも世界を救えばきっと君が喜んでくれると思ったから……」
「私は、大好きな貴方に出会えて、とても、幸せでした。幸せでした……」



 第六の世界はなかなか奇妙なところだった。
 特にどこかおかしな所があるわけではないのだが……。

「なんか……、ちぐはぐだよな……?」

 行き交う人々の服装をみながら翔子が言い。

「なんか……、ちぐはぐですよね……?」

 空を駆ける飛行機械を見上げながらシャオが言った。
 この世界は人々の服装などは中世ヨーロッパに似た、ファンタジー風味なのだが、飛行機械が存在
 しているなど、科学もそれなりに発達している為か、どことなくちぐはぐな印象があるのだ。

「世界の雰囲気がどうであれ、俺は俺の役割を果たすだけだけどな」

 そういう太助の格好は…………、普通だった。

「今回は普通なんだ〜。なんかつまんない」

 珍しく一行(真弥)についてきていた璃瑠がそうコメントする。
 別に誰かに受けてもらう為に格好が変わっているわけじゃない!
 そう怒鳴るのを太助は我慢していた。

「ほんとほんと。つまんねえよな〜」

 翔子までそう言いだしたので、いささかの努力を必要としたが。

「毎回、特徴的な服装をする役目ばかりじゃないだろ…………ん?」

 ポケットに手をつっこんで歩き出そうとしたとき、手が何かに触れた。
 取り出してみると、それは封筒だった。

「これは手紙……かな?」
「随分ボロボロですね」

 シャオの言うとおり、封筒の表面はボロボロだった。
 この世界の日付は分からないが、随分前に出された手紙であることは間違いないだろう。

「住所不定で送り返されてる。宛先は……」

 Coud Van Giruet

「クード=ヴァン=ジルエット……か」
「ちょっと真弥!?」

 名前を呼んだ瞬間、いきなり璃瑠が大声を上げた。
 三人が振り向くと、真弥がどこかに駆けだしていた。

「璃瑠さん。真弥さんはどうしたんですか?」
「それがね、この新聞読んでたら急に血相変えて……」

 そういって璃瑠は新聞を差し出してきた。
 太助が広げてみると、シャオと翔子も覗き込んでくる。
 そこには、「お騒がせアークエイルまたやった!!」と見出し記事があった。
 写真にはその不祥事を侵したであろう人々が写っている写真も載っていた。

「あ! この人!」

 そう言ってシャオが指差したのは、その内の一人。
 深窓の令嬢のような雰囲気の少女だった。

「春儚さんに似ていませんか?」
「そうか〜?」
「まあ……、儚げってところは……」

 あれこれ会話していると、璃瑠が尋ねてきた。

「ねえ、春儚って誰? 真弥の何なの?」

 シャオはその質問になんと答えるか少し迷った。
 あの二人の間柄は、一言では説明できなかったからだ。

「真弥さんの恩人で……、世界の全てだった人です」
「そう…………」

 璃瑠はそれっきり黙り込んでしまった。
 太助は写真の少女を見つめ続けて、呟いた。

「エディルレイドの世界……か」



ガンガンヴァーサスD
第十二話「輝石の物語」



「はぁーーーッ」

 思いっ切り辛気くさいため息をついたのは、エディルレイド保護協会「アークエイル」の
 保護官「シスカ」である。
 先程、新聞に載ってしまった不祥事のことでこっぴどく上官に叱られるわ、直接の原因
 である、後輩はとっとと辞めてしまうわで踏んだり蹴ったりであった。

「大変でしたね、先輩」

 そう言ってデスクに突っ伏すシスカにお茶を出したのは彼女の後輩である「ローウェン」だ。

「そう思うのなら同席してもよかったんですよ? ローウェン」

 表情と口調は穏やかだが、シスカの背後には黒い物が浮かび上がっていた……。
 そう感じたローウェンは……。

「その……、スイマセン……」

 謝った。
 そうしないといけない気がしたからだ。

「でも……どうするんです? あの子の事……」
「解っていますよ。ですが、彼女が望まない以上はどうしようもありません」

 シスカはお茶を一口啜る。

「まあ、あのヘタレ野郎がさっさと帰ってくればいいだけなんですけどねッ!!」

 そう言って、湯飲みを机に叩きつけた、と同時に電話が鳴った。

「はい、シスカです。……解りました」
「先輩、何だったんです?」
「それが……、あの子を守りたいと言っている少年が来ているというんですよ」

 ローウェンと共に入り口に向かうシスカ。
 そこにいたのは……。

「お願いします! あの子を守る為に戦いたいんです!」

 太助達と別行動をとっている真弥だった。


「住所不定なんだろ? こんな所に来てどうなるんだよ」

 ぼやく翔子。
 太助達は、再開発地区にある無人の廃屋の前にやってきていた。
 「クード=ヴァン=ジルエット」がどこにいるか解らなかったために、危険を覚悟で
 まともな暮らしができない場所を探すことにしたのだ。

「こんな所でも探さないよりはましさ。急がば回れって言うだろう?」
「そうですよ翔子さん。若い内の苦労は買ってでもしなくちゃいけませんよ?」
「……いや、まあ……」

 そんなことを言える同級生二人がちょっと心配な翔子であった。

「おじゃましまーす」
「言う必要あるのか?」
「あるみたいだぜ? ほら」

 そう言って床を指差す太助。
 床には埃が積もっていたが、その上にくっきりと足跡が残っていた。
 どうやら、ここに人が立ち入ったことがあるのは間違いないようだ。

 足跡はある部屋の中へと続いていた。
 迷うことなく太助は部屋の扉を開ける。
 そこには、金髪に紅のジャケットを着た少年が横になっていた。

「誰だ? あんた達は……」
「クード=ヴァン=ジルエット。君のことか?」

 太助は懐から手紙を取り出しながら尋ねる。

「君宛の手紙だ。俺達はこれを届けに来たんだ」

 そう言ってクードに手紙を渡す太助。だが……。

「今更……、こんな物!」

 なんとクードは手紙を真っ二つに破り捨ててしまった。

「ああっ! なんてことするんですか!?」

 慌ててシャオが手紙を拾おうとしたその瞬間。
 窓を破壊して、影が飛び込んできた。

「何だ!?」

 影の正体は、奇妙なボディスーツを身に纏い、
 湾刀と手甲を組み合わせたような腕を持った女性だった。
 その胸元に、濁った色をした石が埋め込まれているのを見て、
 太助は「コレ」が何なのか、理解した。

「コイツはフィアズーフ=エクリロール……擬煌珠(フィロ)か!」
『HERO RIDE DECADE』

 クードが狙われている。
 そう直感した太助は、ディケイドに変身。
 フィロに組み付いて、窓から外に飛び出した。
 フィロは邪魔をされたことで、太助を敵だと判断したらしく、襲いかかってくる。

「なんだよあれは……」
「人造のエディルレイド……らしいぜ」
「知ってるんですか?」

 シャオと翔子に「フィロ」の事を語るクード。
 そんな間にも、決着がつこうとしていた。

『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』

 放たれた必殺の射撃が「フィロ」を完全にうち砕いた。

「あいつらに狙われたらお終いだぜ。さっさと帰れよ」

 特に礼もなく、太助達を帰そうとするクード。
 言い方は乱暴だが、太助達を気遣っているらしい。

「…………ッ!? 伏せろ!」

 突然、悪寒に襲われて、太助は叫んだ。
 次の瞬間、暗黒の虹……とでも言うべき物が四人の頭上を通り過ぎて
 さっきまで四人がいた廃屋を破壊してしまった。

「何だったんだよ? 今のは……」
「あれ? クードさんは?」

 シャオの言葉で辺りを見回すが、クードの姿はなかった。
 おそらく今のドサクサで逃げたのだろう。


 一方真弥は。

「お話はわかりました。ですが真弥さん。一つだけ質問をさせてください。
 彼女は既にプレジャーが存在しているので貴方はプレジャーになることはできません。
 それでもいいですか?」
「はい。僕はあの子の力になれればそれでかまいません」
「…………」

 真弥の顔を見つめるシスカ。
 やがて、真弥の言葉に嘘はないと判断したのか。

「わかりました。ですが簡単なテストを受けてもらいますよ」
「テスト……ですか?」

 そう言うシスカが真弥を連れていったのは……、トレーニングルームだった。

「あの〜。テストってひょっとして……」
「私達のチームは、あちこち飛び回らなくてはならないので体力は必須なんですよ」

 シスカは笑顔で言い切った。

「あらシスカ。ここにいたの?」

 そこに、露出度の高い格好をした褐色の肌の女性がやってきた。

「キーア、どうしたんですか?」

 キーアと呼ばれた女性は答えた。

「いやね。私達のチームでアルバイトさせて欲しいって奴が来たからあんたを探してたのよ」

 キーアの後ろにいた人物を見て真弥は驚いた。何故ならその人物……。

「やあ真弥さん。ようこそ、エディルレイドの世界へ」
「剣君!?」

 ハーメルの世界で出会った、石川剣その人だったからだ。


「君がここにいるのは……やっぱりお宝を狙ってかい?」
「そうさ。アークエイルにいるのが、一番の近道みたいだからな」

 あれから、様々な体力テストをこなした剣と真弥はロッカールームで会話していた。
 テスト自体は剣が圧倒的な成績を残し、本採用は剣に決まった。
 だが真弥もテストを全てこなした実績と熱意を買われて、バイトとして採用された。

 ふと、真弥は自分が持っている「救世ノススメ」のことが気になった。
 アリーシャの世界以来使っていないこれも、自分の世界にしか存在しないという点で
 お宝と言えるのではないだろうか?
 そう思った真弥は、手近なロッカーに「救世ノススメ」をしまおうとする。
 すると、ロッカーにかけた真弥の手を誰かの手が押さえた。

「君は……」

 手の主は、あの写真の少女だった。

「駄目……」
「え?」
「そこは……駄目……」

 よくわからないが、真弥が手をかけているロッカーを使って欲しくないようだ。

「あ、ああ。ごめんね」

 真弥が謝ると、少女は去っていく。
 その背に向かって、真弥は声をかけていた。

「あの……! 君の名前……教えてくれないかな?
 君のこと、ちゃんと名前で呼びたいから」
「…………レン」

 今度こそ少女……レンは去っていった。


 その日の夜、七梨家にて。

「この世界に残るって……本気かよ、弓樹さん」
「そうですよ、今まで一緒に旅をしてきたじゃないですか」
「翔子ちゃんもシャオちゃんもありがとう。でももう決めたんだ」

 太助達は、互いに今日あったことを話し合っていたのだが、真弥が
 バイトとしてではあるが、レンの側にいられるようになったこと。
 この世界に残ると決めたことを一同に告げた。

「でも、でも真弥! あの子は……!」
「璃瑠」

 苦しさと悲しさを混ぜ合わせたような声で告げようとした璃瑠を、
 真弥は静かな声で止めた。

「わかってる。レンは春儚じゃない。わかってるんだ……」

 その言葉に、璃瑠は一瞬何かを堪えるような表情をして……リビングを出ていった。

「僕はもう一度誰かに出会う為に旅を続けてきたんだ。それがレンだと思う。
 だから、この世界が僕の物語の、本当の終わりなんだ。そんな気がする」
「そのレンって子とは仲良くやれそうなんですか?」
「さあね。エディルレイドと繋がりを持つことを同契(リアクト)って言うんだけど
 プレジャーが死なない限り新しい人とリアクトすることは出来ないんだって。
 だから多分、レンにはまだプレジャーがいるんだよ」

 そう言う真弥の顔には、寂しそうな笑みが浮かんでいた。

「俺がこの世界でやること……だいたいわかった」

 会話に入らずにいた太助は、破られた封筒の中身を繋ぎ合わせながら呟いた……。


 翌日。
 廃墟の一角で、クードは横になっていた。
 再度の襲撃を警戒して明け方までずっと起きていたため、寝不足だった。
 日が昇ったのでようやく睡眠を取ろうとしたとき、昨日出会った内の二人が現れた。

「また会ったな。クード=ヴァン=ジルエット」
「昨日のことでこりてなかったのかよ……?」

 その言葉を無視して、太助はクードの横に座り込んで言う。

「単刀直入に言うけど、俺は君を守ることに決めたから。
 あ、心配しなくて良いよ? 俺、強いから」

 襲われたことなど何でもない。
 そう思わせる太助の言葉を聞き、寝不足も手伝ってイラついたクードは腕に仕込んでおいた
 ワイヤーフックをシャオに絡めて、彼女を手元に引き寄せる。

「ふざけるなよ……ッ。何もしらねえくせに……ッ!」

 が、その行動は間違いだった。

「守られるより、ぶっ飛ばされるのがお望みかい? じゃあ遠慮しないぜ!」
『HERO RIDE DECADE』

 変身すると同時に、ブッカーガンでクードの足元を撃つ。
 シャオに手を出したことでかなり頭にきているらしい。

「シャオを、放せ」

 さもないと、非道いぞ。
 言外にそう滲ませたのが解ったのか、クードはシャオを解放する。
 すると、クードは突然動きを止めた。
 それを太助が不審に思っていると、いきなりクードは背を向けて駆けだした。


 一方真弥は剣と共に、任務に臨んでいた。
 エディルレイドを売買しているグループが取引を行うとの情報をつかんで張り込んでいたのだ。
 といっても、二人はあくまでもバイトであるため、突入はシスカ達に任せて偵察だけだったが。
 だが、シスカとの通信の最中、剣がいきなり。

「もしもし。通信機が壊れたらしくそちらの声が聞こえません。もしもーし?」

 と言い出すと通信機のスイッチを切って、ディエンドライバーを取り出した。

「黙っててくれるか? 誰かが損をする訳じゃないんだからさ。変身!」
『HERO RIDE DI-END!』

 剣はディエンドに変身すると、勝手に突入してしまった。
 それでも、相手をシスカ達が待機している方向へ追い込んでいっているのは
 まだアークエイルに潜入しているつもりだからか。
 すると、その場にいた数人の女性が、腕や足を変化させて襲いかかってきた。

「へえ。フィロがまじっていたとはな」
「フィロ?」
「人造のエディルレイド。綺麗に磨かれただけのただの石ころだ」

 真弥の疑問に答えると、剣は二枚のカードを取り出す。

『HERO RIDE TRON』
『HERO RIDE HIRUDA』

 召喚したのは、三本の剣を持つ少年と鎌を持った少女。
 剣はその二人と共に、フィロと戦い始める。
 その時、真弥は物陰に人がいることに気付いた。

「そこの人! ここは危険です!」

 真弥は知らないことだが、その人物はクードだった。
 真弥の声に振り向いてクードの姿を認めた剣は、なんとクードを撃った。
 真弥とクードに命中するかと思った弾丸は、クードの後を追ってきた太助によって撃ち落とされた。

「俺の邪魔するなよな、太助」
「悪いけど剣。俺はこの人を守ると決めたんだ。どうやらお前の邪魔も出来るみたいだな」
「そうか。じゃあしょうがないな」
『ATTACK RIDE CROOSATTACK』

 カードの力でトロンが三つの剣を構え、必殺剣の構えに入る。
 受けて立とうと構える太助。
 その瞬間、クードが背後からディケイドライバーを引きはがしてしまった。

「ッ!?」

 無論、クードに太助に対する殺意があったわけではない。
 ただ「戦う力がなくなればもう関わろうとしないだろう」ぐらいにしか考えてなかった。
 実行したタイミングが最悪だったと言うだけだ。

「太助君!」

 真弥が叫んでもトロンは止まらない。
 獅子を彷彿とさせる剣が、太助に襲いかかる……!!



データファイル

クード=ヴァン=ジルエット
「輝石の物語」の英雄。
何故かフィロに狙われている。

レン
「輝石の物語」の重要な鍵。
七煌宝樹と呼ばれる最強のエディルレイドの血統。
自身のプレジャーのことを今も信じて待っている。
ちなみに「レン」というのは本名ではなく短縮した名前。

シスカ
アークエイル保護官。
銃器、ミサイル等の火器を主に使うが格闘術もかなりの腕前を持つ。
レンのプレジャーを個人的に知っているらしく「ヘタレ野郎」と扱き下ろしていた。
ちなみにシスカというのはコードネームであり、本名は不明。

ローウェン
シスカの後輩で、チームの一員。
パートナーと先輩に振り回されている苦労人。
名前はシスカと同じくコードネームである。

キーア
ローウェンのエディルレイド。
常にお腹を空かせているが、チームで一番の「大人」であることは確か。

フィロ
人間の女性に人工の核石を埋め込んで造り出された人造エディルレイドの総称。
戦闘能力は高いが、考案した者達にとっては「大量生産可能な使い捨ての道具」でしかない。
元が人間である為、個の意志は存在している。


後書き
前回までからうってかわって今回はかなり新しい作品。
「エレメンタルジェレイド」からお送りします。

ちなみに、当初太助には「蒼」の主人公アシェアの役割をさせるつもりでしたが没。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 次なる世界は「エレメンタルジェレイド」ですか……またスクエニ作品に分類すべきか否か微妙なものが(苦笑)。
 いや、確かに書いてたのはガンガンでも書いてた人ですけど。

 しかし、姐さん役が誰になるかと思ったらまさかのレン。
 春儚ちゃんとはまたずいぶんと違うタイプの子にほれ込んだものですなぁ。守備範囲の広いヤツめ(そーゆー問題ではナイ)。