これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「九つの世界に物語を紡ぐ英雄達が生まれたんだ。物語はそれぞれ独立して触れ合うことはないはずだった。
 ディケイド、君は九つの世界を旅しなくちゃいけないんだ」
「ということなんですけど……、わかりました?」
「ああ、だいたいはね」
「今こうしていることだって、歴とした思い出なんだからな!」


 遠い未来において……。
 人は自らが得た力で母なる星と自らの文明を滅ぼしかけた……。
 だが星は自らの生命力を人に分け与え共に生きようと語りかけた。
 そして文明は再生し……、その中で機械もまた進化した。
 意志を、心を、そして人と変わらぬ血肉を持つように……
 人は進化した機械を「イーデア」と呼び……、心と魂を闇に染め上げて
 人の敵となってしまったイーデアを「邪進化イーデア」と呼んだ……。
 そして……、

「オズ様! K-66地区で邪進化イーデアが発生しました!」
「わかった……。いくよ、アジャンタ」
「はい!」

 イーデアは闇に染まった同胞を討つようになっていった……。


ガンガンヴァーサスD
第十六話「有機の物語」


「しかし、これはまた凄い世界だな……」

 SF作品などでしか見たことのない「超未来都市」そのままの光景に
 太助は圧倒されていた。

「ん?」

 暫くあたりの写真を撮っていると、黒い車や武装した人間達がどこかに集まっていく。
 気になって後を追ってみると、なんと一人の女性に
 よってたかって銃を突き付けているではないか!

「ちょっと待て! 何があったか知らないけどいきなり銃は……」

 だが、太助は最後まで言いきることが出来なかった。
 何故なら、かばっていた女性が髪を振り乱し、鋭い歯をむき出しにして
 太助と兵士達に襲い掛かったからだ。

「こいつ、邪進化イーデア!?」

 そこに、新しい車が到着し、中から豪奢な服を身につけた少年と、
 独特のデザインをしたヘルメットとプロテクターを身につけた少女が出てくる。
 そして、二人は今も暴れている邪進化イーデアと戦い始めた。

「六芒聖神……。世に必要な六つの属性を司る最高のイーデアか……。
 なるほど、確かに凄い」

 二人の戦いを眺めて感心する太助。
 だが、アジャンタは予想外の反撃を受けて倒されてしまう。
 倒れたアジャンタに更なる一撃を加えんとする邪進化イーデア。
 だがその瞬間「何か」に邪進化イーデアが殴られ、そのまま爆発する。
 「何か」はすぐに消えてしまったが、その場の全員が「居た」ことを認識していた。

「ザイン……?」

 誰かがそう呟いたのをきっかけに、その場の全員がその言葉を口にし始める。

「あいつがこの世界の英雄……なのか?」


 七梨家に帰ってきた太助だが、一人ではなかった。
 なんと、先程邪進化イーデアと戦っていた女性、アジャンタと一緒である。
 不審がられるかもしれないが、右も左も解らない世界で何も知らないまま
 行動するよりはましだと考えて頼んだところ、快く引き受けてくれたというわけだ。

「まあ、こんな所かな。何か質問はあるかしら?」

 アジャンタが語ったこの世界の歴史を聞いて、太助は先程から気になっていた事を尋ねた。

「ザイン……って何者なんですか?」

 その質問にアジャンタは少し表情を硬くして答えた。

「ザインは……七人目の六芒聖神にあたるイーデア……。
 私達が万が一悪に染まってしまったときの抑止力として作られたんだけど……」
「ちょっと待った!!」

 そう言ってアジャンタの言葉を遮ると、太助は家を飛び出していく。

「どうしたんですか、太助君!?」
「聞き耳を立ててる奴がいた! 多分……」

 邪進化イーデアだ。と続ける必要はなかった。
 何故なら直接邪進化イーデアが襲い掛かってきたからだ。

「何で聞き耳を立ててたかは知らないが、ろくでもないって事は確かだろう?
 変身!!」
『HERO RIDE DECADE』

 ディケイドに変身する太助。
 こうなっては邪進化イーデアに勝ち目はなく、一方的に叩きのめされてしまう。

「太助君! 人が!」

 シャオの声に振り向くと、近くを一人の少女が通りかかっていた。
 邪進化イーデアは太助を振りきり、その少女に襲い掛かろうとする。
 少女は逃げられない!
 誰もがそう思ったが、少女は助かった。
 邪進化イーデアが「ザイン」に倒されたからだ。
 シャオが少女に駆け寄るが、太助は「ザイン」の行動が気になっていた。

「ザイン……。あの子を守った……のか?」

 また襲われるかもしれない。
 ということで、太助とシャオはその少女ーヤティマを家まで送ることにした。
 もっとも、太助には「ザインとの繋がりを知る為」という理由もあった。

「あ、ここです。私ここでお世話になっているんですよ」

 そう言ってヤティマが指差したのは、年季の入ったログハウスで
 「ガンダー食堂」と手書きの看板が掲げられている。

「なんでログハウスぅぅぅぅ!?」
「俺の趣味だよ」

 そう言って店から出てきたのは、カウボーイハットにヒゲの、
 がたいの良いワイルドなおっさんだった。

「ガンダーさん!」
「おう、ヤティマ嬢ちゃん。それと……お前ら誰だ?」
「あ、私達は……」

 シャオはガンダーに、ヤティマが邪進化イーデアに襲われたこと。
 再び襲われないように、自分達が付き添ってきたことを語った。

「そうか……、ありがとうよ。礼と言っちゃ何だが、ウチでメシを食っていかねえか?」
「どうします? 太助君」
「ここは言葉に甘えよう。断る理由もないしさ」


 店の中は特に変わったところはなかった。
 しいて言えばメニューが「ご飯」「焼き肉」「焼き魚」の三種類しかないことぐらいか。
 テーブルについて料理を待っていると、テレビのアナウンスが聞こえてきた。

『この事件の原因と思われる「ザイン」と呼ばれるイーデアについてアルカディア行政府は
 一切のコメントを発していません。一説には「Zイレイザー」と呼ばれる……』

 ザインの名前が出たとき、一瞬ヤティマもガンダーも手を止めた……
 ように太助には見えた。

「世の中には、すぐには飲み込んじゃいけねぇものが二つある」

 ガンダーは雰囲気を変えるように、笑顔で料理を出す。

「一つは情報。もう一つはガンダー食堂のうまいメシだ」

 その言葉通り、料理はとてもおいしかった。

「あの……こんなにおいしいなら、もっとメニューを増やしても良いんじゃないですか?」

 シャオの質問にガンダーは帽子を目深にかぶって答えた。

「褒めてくれるのは嬉しいが……そのつもりはねえんだ。元々趣味で
 やってるようなもんだし……、嬢ちゃんの頼みでね」
「ヤティマさんの?」
「ああ。ウチにはもう一人住人がいたんだよ。嬢ちゃんとはとても仲睦まじかったんだが……
 丁度ザインのことが話題になり始めた頃に……いなくなっちまった」
「それでヤティマさんはメニューを……」
「ああ。「いつナナシさんが帰ってきてもいいように」ってな」
「名無し?」
「記憶喪失だったんだよ。で、嬢ちゃんの「名無し」って言葉を自分の名前にしちまったんだ」


 アルカディア行政府にて。
 オズとアジャンタが会話していた。

「ザイン捕獲作戦?」
「そうだ。いかにザインが独立行動ユニットとして作られていても秩序を乱す理由にはならない。
 捕獲し、再調整を施す……」
「確かにそうだけど……。私達だってザインには助けられているし……」

 難色を示すアジャンタを、オズは念動波で吹き飛ばす。

「アジャンタ……。僕が君にしているのは命令じゃない……。もう決まったことを
 伝えているだけなんだ。……返事は?」
「わ……解ったわ……、オズ……」

 アジャンタが退室し、誰もいなくなった部屋でオズは憎々しげに呟いた……。

「ザイン……、お前は……お前だけは僕が絶対に壊すんだ……」


 翌日、太助は公園でヤティマと話していた。

「へえ、じゃあナナシ君は命の恩人なんだ」
「はい。あの時ナナシさんがいなかったら私は……」

 聞けば、数年前に邪進化イーデアに襲われたことがあり、その時にナナシに助けられたのだという。

「あの……、太助さんとシャオさんって家族……何ですよね?」
「うん。まあ、家族って言っても俺達が勝手に言ってるだけなんだけどね」
「良かったら……理由を聞いて良いですか?」

 答えようとしたその瞬間、邪進化イーデアが襲い掛かってきた!

「ヤティマちゃん。君は逃げるんだ!」
「太助さんは!?」
「大丈夫! 俺、強いから」

 そう言ってヤティマを逃がすと、太助は邪進化イーデアの前に立ちはだかる。

「今度は確実に仕留める! 変身!!」
『HERO RIDE DECADE』

 ディケイドに変身して戦う太助。
 しばらく戦っていると、なんと邪進化イーデアの身体が霧状に分解し始めた。

「何だ……? うわっ!!」

 敵はそのまま太助の周囲を漂いながら一方的に攻撃を続ける。

「変わった手品だな……。ならこれだ!!」
『HERO RIDE CHERUSI』

 チェルシーの姿を借りる太助。
 能力と感覚を研ぎ澄ませて、敵が仕掛けてくるのをじっと待つ……。
 そして、右斜め前方、霧が揺らめいた。

「そこか!!」

 重力波を放ち敵を気体から固体へと戻す。
 そしてそのまま殴り倒す!!
 敵を倒したのを確認して、ディケイドの姿に戻る。
 と、足元に銃撃が撃ち込まれる。
 振り返るとそこには兵士を引き連れて、オズとアジャンタが立っていた。

「そこまでだ。イーデアではないみたいだけど……、ディケイドかい?」
「俺がディケイドだったらどうするって言うんだ?」
「壊すよ。何でも世界を葬る悪魔らしいからね」

 あっさりと言ってのけるオズに太助はまたかと思った。

「有名税ってホント高くつくんだな」
「言ってられるのも今だけさ」
「覚悟しなさい!」

 言うなり襲い掛かってくるオズとアジャンタ。
 暫く打ち合った後、太助は後退しカードを取り出す。

「新しい力を試すには丁度良いか」
『HERO RIDE KERORO』

 装甲が緑と白に染まり、胸には星のマークが浮かび上がる。
 ケロロ軍曹の力を身に纏ったのだ。

「まずは……、こいつだ」
『ATTACK RIDE KEROROGUNSOUDE ARIMASU』

 変に長い音声が流れたと思ったら。

「我が輩は、ガマ星雲第58番惑星宇宙侵攻軍先行特殊工作部隊隊長ケロロ軍曹であります!」

 太助は敬礼して自己紹介をした。

「…………それ何?」

 冷静につっこむオズとファイティングポーズを取り直すアジャンタ。
 太助は、気まずい雰囲気を払拭しようと次のカードを取り出す。

「ならこれだ!」
『ATTACK RIDE NATUMI!!』

 装甲が赤く、襷がけしたベルトの模様が浮かぶ。
 そして……。

「夏美〜〜〜〜ッ!!!」

 太助は叫んだ。
 またしても意味不明な態度を取った太助に二人は呆れかえる。
 後ろの兵士も「夏美なんて隊員いたっけ?」「いや、うちの隊にはいないぞ……」
 などとヒソヒソと話し合っている。

「ねえ……、貴方何がしたいの?」

 アジャンタの言葉が突き刺さる。
 まさかと思って残りのカードを調べてみると、タママのカードも『ANO ONNA!!』と
 書かれている。

「あのアホ小隊〜〜ッ!! 俺に質問するなぁッ!!」
「「ふざけるなッ!!」」

 いい加減イライラしていたのか、前よりも激しく攻撃を仕掛ける二人。
 どさくさまぎれに宙を舞ったドロロのカードは今の太助の心境にピッタリの
 アタックライドだった。

『HIDOIYO KEROROKUN』


 そいて、そんな太助を高台から剣が見ていた。

「バイオコア。機械生命体イーデアの力の源であり、魂でもある結晶。
 まさに最高のお宝じゃないか」

「変身!!」
『HERO RIDE DI-END!』

 ディエンドに変身し飛び降りると同時に、オズ達を牽制する。

「剣!?」
「助けたなんて思ってくれるなよ。おれの目当てはお宝だけだ」

 言い終わると同時にアジャンタと組み合う剣。

「お前の相手は俺がしてやるぜ」

 そして、剣はアジャンタと戦い始めた。

「とは言ったけど、俺気の強い女は苦手なんだよな〜」
「あら、付き合ってくれても、罰は当たらないわよ」
「ああ、そうするさ。ただし、相手は俺じゃないけどな」
『HERO RIDE IN-PEI』

 陰兵達をアジャンタに差し向けると同時にもう一枚カードを取り出す。

「兵隊さん、後は任せたぜ」
『ATTACK RIDE INVISIBLE』

 そのまま剣は姿を消してしまう。

「あ、待ちなさい!」

 陰兵の相手をしながら叫ぶアジャンタだが、剣の返事はなかった。


 一方、太助対オズ。
 六芒星神の筆頭だけあってオズは強い。

「人間ごときが、僕達イーデアに勝てるはずはないんだッ!!」
「どうかな? とは限らないぜ」
『HERO RIDE HARMEL』

 不敵な言葉と共に、ハーメルのカードを使う太助。
 そこからさらに、もう一枚カードを取り出す。

「人間を舐めてくれるなよ……神(イーデア)!!」
『FORM RIDE HARMEL EVIL』

 魔族の姿へと変わり、オズとの戦いを繰り広げる。
 いつ果てるともなく続くと思われた神対魔の戦いだったが、いきなり人の悲鳴が響いた。
 悲鳴の方向に振り向くと、なんとヤティマが邪進化イーデアに襲われている!
 逃がした後でまた別の邪進化イーデアに襲われて、ここまで追いつめられたと言うところだろう。

「ヤティマさん!」

 ヤティマの元へと駆け付けようとする太助だったが。

「逃げるなよォ!!」

 人間であるヤティマが射線の先にいることもお構いなしで放たれた
 オズの攻撃が、太助の足を止めてしまう。
 その直後。
 オズの攻撃も、邪進化イーデアも、一緒に爆発した。
 そして、爆発の向こうに太助は見た。
 「Z」の文字が入ったマフラーを身につけた、赤い髪の少年を。

「ザインンンンンンッ!!!」

 叫び、悪鬼の如き形相でザインに挑みかかるオズ。
 だが、原に一撃を食らい、あっけなく殴り飛ばされる。
 ヤティマを守るように佇むザインを見て、太助は確信した。
 彼こそがこの世界の、そして「ヤティマの英雄」ナナシだと。


データファイル

ナナシ
「Z」の刻印を持つイーデアで、「有機の物語」の英雄。
本来は「ザイン」と言う名のイーデア独立停止ユニットなのだが、何故か
独自の意志で行動している。
何故かヤティマを守っている。

ヤティマ
ガンダー食堂で働く人間の少女。
ザインをナナシと呼び、帰りを待ち続けている。
何故か邪進化イーデアに頻繁に襲われる。

ガンダー
ガンダー食堂の経営者で、マスターというよりもカウボーイみたいな格好をしている。
見た目も性格も豪快なおっさん。

オズ
「O」の刻印を持つイーデアで、六芒星神の筆頭。
ザインへの強い執着や、他者を見下した発言など精神が危うさを感じさせる。

アジャンタ
「A」の刻印を持つイーデアで、六芒星神の一人。
実は「成長する特性」を持った特別なイーデアなのだが
「性格が苦手」とのことで剣の標的からは外れたらしい。


後書き
西川秀明先生の「ZMAN」の有機の世界です。
ギャンザの出番が無くなってしまった……。ファンの人ごめんなさい。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 ガンガンに戻ってきたとたんにまた懐かしいものが来ましたね。
 しかし“おばあちゃん”役がガンダーですか。また厨房が少しも似合わない配役だ(笑)。

 そしてケロロ達のアタックライドはやっぱり役立たずですか。
 こんなところでも違和感がないからスゴイ。とことん電王役をやらせるのに最適な連中だったんだなぁ(苦笑)。