これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「僕は…僕達はディバインウェポンを倒すよ」
「お宝はお前達に預けただけだからな! いつか必ず見せてもらうぜッ!!」
「おのれ、ディケイドォォォォッ!!」
「ついに、戻る時が来たのか……俺たちの世界に……」


 シャオは恐る恐る扉を開ける。
 するとそこには、いつもどおりの鶴ヶ丘町に風景が広がっていた。

「見てください太助君! すっかり元通りですよ!」
「見慣れた風景だけど、なんだか懐かしいな〜」
「ああ……」

 喜ぶシャオ、翔子とは対照的に太助はどこか元気がない。
 9つの世界は全て巡ったし、カードも全て力を取り戻し、こうして自分たちの世界も救われた。
 だけど、何かすっきりしない。

「どうしたの太助君?」

 声をかけられたのに気付いて振り向くと、真弥が自分を見ていた。

「何でもないです。ただ、ちょっと……」

 言いかけた太助にシャオが笑顔で話しかけてくる。

「太助君、写真撮りに行きましょうよ!」

 その笑顔を見ていると、心が温かくなってくる。
 確かに解らないことは残っているが、自分はこの笑顔を守ることができたのだ。
 それでいいじゃないか。

「そうだねシャオ。それもいいかもな」



ガンガンヴァーサスD
第二十話「反世界の物語」



 それからしばらくして、四人は鶴ヶ丘町の中を歩いていた。
 あれだけの大規模な破壊があったことなど嘘のように町は元通りだ。
 と、その時、太助は通りに人が立っているのに気付いた。
 金髪に赤いコート。だが太助が知っている「彼」とは違って小柄で、突っ張った印象の少年だ。

「よお。あんたが七梨太助かい?」
「そうだけど……君は?」
「俺か? 俺はエドワード=エルリック。こう見えても、よその世界じゃあ歴史に名を遺した
 すっげぇ人間だったりするんだぜ?」
「へ〜ぇ。じゃあ、そのすっげぇ奴が七梨に何の御用ですかね?」

 翔子の嫌味な言葉にも、エドワードは気分を害さずに続ける。

「なあに、長旅の果てにこの世界を救ってくれた英雄に心ばかりのお礼をしにきたのさ」

 そう言うとエドワードは懐から手のひらサイズの金属の板を取り出し、それを地面に置くと、
 胸の前で漁の手をたたいて、金属板に触れる。
 すると、金属板に稲妻が走り、そこから角と牙をもった獣に見えるアクセサリが作り出された。

「今はとりあえず、こんなところかな」
「あ……ありがとう」

 はっきり言ってデザインは太助の趣味とは合わなかったが、「お礼」なのでとりあえず受け取っておいた。

「……なあ、教えてくれないか? 俺はこの旅で何を得た?」
「お前の居るべき世界さ……」

 最後にそう言ってエドワードは去っていった。


 その後、「とりあえず家に帰るわ」という翔子と別れて太助たちは七梨家に帰った。
 早速写真を現像するというシャオに代わって太助が夕食を準備していると、電話がかかってきた。

「真弥さん。お願いします」
「はい、弓……七梨です。……え、シャオちゃんですか? 少々お待ちくだ……」

 その瞬間、写真を片手にひどく興奮した様子でシャオがリビングに飛び込んできた。

「太助君太助君太助君! 見てくださいこれ!!」
「シャオちゃん落ち着いて。君に電話だよ」

 興奮しながら受話器を受け取るシャオ。
 だが、しばらく電話していると、今度は嬉しさでヒートアップし始めた。
 その後、食事の席で。

「ねえシャオちゃん。さっきの電話誰からだったの?」
「キリュウさんからですよ」
「キリュウ……。ああ、シャオが中国にいたころの友達だっけ?」
「はい。それで、明日キリュウさんがルーアンさんと一緒に日本に来るんですよ!
 だから……あの、明日は……その……」

 上目づかいに太助を見つめながら、言葉を探すシャオ。
 心配いらない、と告げるように太助は答えた。

「いいよ。久々に会うんだから、俺のことは気にしなくていい。いっぱい話をしてくればいいよ」
「……ッ! ありがとうございます! 太助君!」

 深々と頭を下げるシャオ。そして、思い出したように言った。

「忘れてました! これを見てください太助君!」
「これは……今日、俺が撮った写真?」

 たしかにそれは今日、太助が撮った写真だった。
 だが、その中には一枚も失敗写真が混ざっていない。

「これって……」
「きっと、世界が太助君を認めたんですよ!」
「よかったじゃないか、太助君!」

 よかったよかったと言ってくれるシャオと真弥だったが、太助はそうは思えなかった。
 確かにうれしいのだが、それを素直に受け入れられない。
 あの時、エドワードに言われた言葉が引っ掛かる。

「(俺が居るべき世界……俺「達」じゃなくて俺……)」


 翌日。
 シャオはおめかしをして駅前広場にいた。
 道をゆく人々が皆、一瞬目を止めてしまうほど、今のシャオは綺麗だった。

「おお、シャオ殿。久しぶりだな」

 そんなシャオに、赤毛の小柄な女性が声をかける。
 声こそかけなかったが、黒髪の美人も一緒だ。

「キリュウさん! ルーアンさん! お久しぶりです!」
「ほんと久々ねぇ〜。あら? あんたしばらく見ないうちに綺麗になったわねぇ」
「ふふっ。恋をしているのだから当たり前であろう。この前の手紙にも「太助君」という言葉が
 あまりにも多かったので暇つぶしに数えてみたら……」
「かっ、数えなくていいです!!」

 女三人寄れば何とやらなその光景を、真弥は少し離れたところからサングラス越しに見ていた。

「別に何でもないように見えるけどなぁ……」

 なぜ真弥がこんな真似をしているかというと、昨日の夜太助に頼まれたからだ。
 シャオの様子を陰ながら見ていてほしい、どうにも嫌な予感がするから。と。

「……太助君も心配しすぎなんじゃないかなぁ……」

 そうは思いながらも、移動するシャオ達を追いかけていく真弥だった。


 その頃太助は、一人で町を歩いていた。
 町の風景は太助の記憶にあるものと何も変わらない。
 だが、太助はなぜか違和感を感じていた。

「(やっぱりそうだ……。わからないけど何かがおかしい……)ッ!?」

 太助の前に次元壁が現れ、その中からレザードが現れた。

「今度こそ最強の刺客を用意してきたのか?」
「いいえ。今日は貴方に祝いの言葉を贈るために来たのですよ」

 太助の挑発的な言動にも顔色を変えずにレザードは言った。

「貴方は旅を経て自らの居るべき世界を手に入れました。
 これからの貴方には幸福な人生が待っていることでしょう。おめでとうございます」

 そう言って、レザードは姿を消した。
 そのレザードの言葉で太助の中に「ある予感」が芽生えた。


 一方その頃、シャオ達は。

「そういえば、フェイさんはどうしたんですか?」

 お互いの近況を話し合っているうちに、故郷で親しくしていたもう一人の友達
 が一緒ではないことにシャオは気が付いた。

「フェイ殿はどうしても外せない用事があるとのことでな」
「そうですか……」

 友達が来られないと知って少し落ち込むシャオ。
 だがその瞬間、視界の端で何かが動いたのが見えた。

「今のって……ひょっとしてフェイさん?」

 シャオは彼女がああ見えていたずら好きだったのを思い出した。
 来れないと言いつつ、いきなり登場して自分を驚かすつもりだったのだろうか?
 シャオは正体を確かめようとそちらに歩いて行った。

 だから、気付けなかった。
 その背後でルーアンとキリュウが、先回りして影の正体である真弥を気絶させて離れた場所へ連れて行ったことに。
 そして、その一連の行動がすべて「超高速で」行われたことに。


 公園にて。
 やっと太助は探していた人物に出会えた。

「よぉ。どうだ? この世界の居心地はよ?」

 そう太助に問いかけるのは、エドワードだ。

「悪くはないけど……。あることが気になってそれどころじゃないんだ」
「あること? そりゃあなんだ?」
「あんたは言ったな。「この世界は俺が居るべき世界になった」って。
 その言い方じゃ、「俺だけが」居るべき世界って言ってるように聞こえるんだけど?」

 太助のその言葉を聞いて、エドワードは顔を手で覆うといきなり笑い出した。

「ククク……。ハーッハッハッハ! いいぜ、お前! なかなか頭が回るじゃないか!!」
「質問に答えろ!」
「……お前なら、この世界の宝を受け継ぐのにふさわしいかもしれないな……」
「宝、だと?」

 太助の言葉を聞かずに、エドワードは自分の右手の甲を剣に再構築する。

「何!?」
「お前の力。見せてもらうぜ」

 そして、エドワードの傍にキリュウとルーアンも現れ、彼女たちは何と、刀を持った灰色の髪の男
 華秦と、悪魔ヴォーカルへと姿を変える。
 シャオの友人が姿を変えたことに驚く太助だが、相手が自分を殺す気でいるのを
 悟り思考を切り替える。

「変身!」
『HERO RIDE DECADE』

 華秦とベース・リュートが先陣を切って飛び出した瞬間、彼らの足元に火花が散った。

「この世界のお宝か。それなら、俺もその後継者に立候補させてもらおうか」
「剣」

 宝と聞いてこいつが出てこないわけがない。
 邪魔されたことに腹を立てたのか、華秦とヴォーカルは剣に襲いかかった。
 だが、剣は持ち前の体捌きで敵を翻弄する。
 一方太助はエドワード相手に苦戦を強いられていた。
 近づけば格闘が。
 離れれば錬金術で作り出した拳やらトゲやらが飛んでくる。

「(おまけにサイズが小さいから、素早いし……)」

 そんなことを考えていると、急にエドワードが叫びながら蹴りかかってきた。

「だぁぁぁれが万象大乱かけられてもいないのに星神と同じくらいのプチ豆野郎かぁぁぁぁッ!!!」
「ネガティブ方向に自意識過剰だなお前ッ!!?」

 言いながらも太助はカードを取り出す。

『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』

 ディメンションキックを放つためジャンプする太助。
 だが、太助が通過しようとした瞬間カードレリーフが黒く変色し、崩れ落ちてしまう。

「なッ!?」

 驚く太助。
 その隙にエドワードは地面から特大の拳を練成して太助を吹っ飛ばす。

「うわぁぁぁっ!」

 地面に強かに打ち付けられて変身が解けてしまう太助。
 周りに散らばったカードも全て、黒く変色してしまっている。

「どうしてだ……ッ!?」


「フェイさん? どこにいるんですかぁ〜」

 その頃、シャオは何も知らないままフェイを探して続けていた。
 そして、そんなシャオを物陰から見つめる人物がいた。

「…………」

 もしこの場に彼女の姿と、彼女が見つめている人物の両方を見た人物がいたら、その人物は己の目を疑っただろう。
 何故なら、シャオを見つめる人物もまた……。



 「シャオ」だったのだから。




データファイル

キリュウ
シャオの中国での友達の一人。
赤い髪の小柄な少女で常に扇子を持ち歩いている。
自他ともに厳しい性格だが、実は暑さ寒さや激辛激甘、早起きなど
結構苦手なものが多い。……本来なら。

ルーアン
シャオの中国での友達の一人。
セクシーな大人のお姉さんだが、目立ちたがり。
大食漢で、毎回食べ過ぎておなかを壊している情けない面もある。
……そんな彼女本人……なのだろうか?

フェイ
シャオの友達の一人。
今回はどうしても外せない用事があるとのことで来日できなかった。
……が、それが真実かは不明。

エドワード=エルリック
アルフォンスによく似た人物。
太助を「この世界の宝を受け継ぐもの」の候補として力試しの為に襲いかかった。
「あの」アルフォンスと「同じ世界の人物」かどうかは不明。
やっぱり、背の低さを気にしている。


後書き
ファンの人。本当にごめんなさい。

今回は、原作のどうでもいい部分を省略した結果、かなり短くなりました。
シャオはあんな痛い部活に入るような子じゃあないですよね。
なお、お父さんではなくお兄さんに出てきてもらった理由は、お父さんが強すぎることと
お兄さんの方が格闘ができるからです。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 やっぱり裏があった『ネガの世界』=『反世界』。
 シャオの友人としてキリュウ嬢登場! でも怪人側っ! わかってはいたけど涙が止まらないぜっ!(←キリュウ好き)

 やはり“もうひとりの自分”が登場したのはシャオですか。
 けど、そうなるとシャオが見たというフェイは……?