これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「きっと、世界が太助君を認めたんですよ!」
「シャオが中国にいたころの友達だっけ?」
「お前の力、見せてもらうぜ」
「この世界は救われたんじゃなかったのか……?」
黒く変色し、力を失ったカードを見て、呟く太助。
「あいにくだけどな。この世界には救いなんていらねえんだよ」
そんな太助を見下ろし、冷淡に言い放つエドワード。
「だが確信したぜ。お前はこの世界にふさわしい人間だ。
いずれ俺たちの宝を受け継ぐことになるだろうな」
そう言い残してエドワードは去って行った。
よろよろと立ち上がる太助に剣が話しかけてくる。
「手酷くやられたみたいだな」
「お前に心配されるほどじゃないさ。
……剣、この世界をどう思う?」
その質問に剣はすぐに答えた。
「お宝があれば、そこは俺にとっていい世界。それ以上でも以下でもないな」
「だと思った」
聞くんじゃなかった、と太助は去ろうとする。
そんな太助の背中に剣は言った。
「あのちっこい奴の考えはわからないけど、この世界のことならわかるぜ。
この世界はたぶん……反英雄の世界だ」
ガンガンヴァーサスD
第二十一話「英雄を統べる者」
「うっ……。僕は……?」
小汚い裏通りで真弥は目を覚ました。
なんで自分がこんなところにいるのかを思い出す。
「そうだ……シャオちゃんの友達とかいう人が凄いスピードで……!」
真弥はすぐに悟った。
太助の予感が当たったことを。
それも最悪の形で。
「こんなところで寝てる場合じゃない……!」
そして、表通りに出たところで真弥は翔子と出会った。
「弓樹さん!」
「翔子ちゃん! なんでこんなところに?」
その質問に、翔子は少々怯えた様子で言った。
「いや……、信じられねえし今でも信じたくねえんだけど……。
怪物が人間の皮をかぶってた……」
「こっちも信じられないけど、シャオちゃんの友達が加速装置を使ってたよ……」
二人はお互いが見たものから同じ結論に達した。
即ち、「この世界はおかしい」と。
一方、シャオは。
「フェイさん? どこにいるんですか? フェイさ〜〜ん」
あの時の人影がフェイだと誤解したまま、探し続けていた。
そんなシャオに背後から人影が……。
「きゃっ!?」
「シャオリン。あんたこんなところで何してんのよ」
「ルーアンさん? もう、脅かさないで下さいよ」
人影の正体はルーアンだった。
見れば少し離れたところからキリュウも歩いてくる。
「シャオ殿。探したのだぞ。いったいどうしたのだ?」
「実は……、フェイさんが近くにいるんじゃないかって思って……」
「シャオリン。キリュウが言ったじゃない。あの子は来られなくなったって」
「でも……」
「そんなにシャオ殿がフェイ殿のことを思ってくれるなら、今日は私たちと一緒に
楽しんでくれ。そうすれば私たちがそれをフェイ殿に伝えられる」
「そうですね……、そうですよね!」
フェイが来れないことが真実だと知って落ち込むも、二人の励ましで元気を取り戻すシャオ。
だが、その二人が「シャオの知っている二人」ではないと知ってもシャオは同じ反応ができたのか……。
それは分からない。
太助は悩んでいた。
剣やエドワードの言葉から、太助はこの世界がなんなのか大体わかってきた。
だが、それをシャオに伝えるのは気が重かった。
それでも、これは伝えなくてはいけないことなのだ。
「太助君」
「シャオ……。ルーアンさんとキリュウさんは?」
「待っててくれてますよ。……太助君が電話で言ったんじゃないですか。
二人だけで話がしたいから、どうにかして会えないかって」
「そう……だったね」
「それで、話ってなんですか? ルーアンさんたちに悪いから、
なるべく早く済ませて欲しいんですけど」
「ああ、それは……」
そこで、太助は言葉を詰まらせてしまった。
――七梨太助という少年は、自分を押し殺しがちな少年らしくない少年だった。
良く言えば「頼まれるとNOと言えない人間」悪く言えば「他人の顔色を窺う人間」と言える。
それはシャオに対してもそうだった。何度かいい雰囲気になりながらも、彼女が純粋に楽しんでいる
のを見ては、たった一言を胸にしまいこんでいた。
だが、今回のことだけはシャオに伝えなくてはならない。
例え、それでシャオに嫌われてしまったとしてもだ。
太助は意を決して口を開いた。
「シャオ、よく聞いてくれ。この世界は俺たちの世界じゃない。
そっくりだけど、全く違う別の世界なんだ」
その言葉に、シャオは呆れた様子で返した。
「何言ってるんですか太助君。そんなことあるわけないですよ、ルーアンさんもキリュウさんも居るのに……」
「その二人にも何か秘密がある。シャオ、二人に気を許しちゃあだめだ」
その言葉を言い終わる瞬間に、太助は頬に熱と痛みを感じた。
ああ、シャオに叩かれたんだな、と太助は冷静に分析している自分に少し驚いた。
「どうして……、どうしてそんなこと言うんですか!? ちゃんと写真を撮れるようになったじゃないですか!
やっと世界が向き合ってくれるようになったのに、自分から世界を捨てるんですか!?
そんな太助君……嫌いです!!」
そう言って、シャオは走り去っていった。
「……嫌い、か。……結構きついな……」
撃たれた頬を抑えて呟く太助であった。
「太助君の分からず屋……!」
シャオは、太助への不満を口にしながら歩いていたが、立ち止まって太助を叩いた右手をじっと見つめる。
考えてみれば、彼にああして感情をぶつけたのは初めてのことだった。
そして、手を挙げたのも。
「……ここは私たちの世界……。平和な……太助君が居てもいい世界……」
「いいえ……違います」
必死に自分に言い聞かせるシャオに声をかけるものがいた。
それは……「シャオ」だった。
「わ……私……!?」
「驚かないで聞いてください。ここは貴方の世界じゃありません。
写真にポジとネガがあるのと同じ。貴方の世界を「光」とするなら、ここは
その裏側にある「影」の世界……反英雄の世界なんです」
「反英雄の世界……? 嘘です! ルーアンさんもキリュウさんも私と同じ思い出を持ってました!」
「その思い出も、貴方のものとは違います……。
この世界は人間が生きることが許されない世界……」
「シャオ」はシャオに語った。
この世界の人間たちは反英雄たちによってじわじわと殺されていっていること。
ルーアンとキリュウも、数年前には反英雄に殺されて、成り変わられてしまったこと。
自分はそれから日本にわたり、今まで一人で生き抜いてきたこと。
「待ってください! フェイさんはどうしたんですか!?」
「フェイさんも殺されました。あいつらの大事なものを命がけで奪い取って……」
「そんな……」
友と同じ魂を持つ人たちが、全員殺されていた。
あまりにも残酷すぎる事実にシャオは打ちのめされる。
その時。
「そうなのよねぇ。宝は奪われるわ、あんたはこの数年あたし達から逃げ延びるわ。
やられっぱなしだったわ」
その言葉とともに、シャオの首に誰かの腕が回された。
「ルーアンさん……」
いや、ルーアンに成りすました反英雄の一人だ。
「何も知らないこの者を泳がせておけば、必ず接触を図る……。
エドワード殿の言った通りだったな」
続けてキリュウ………の偽物も現れる。
「あたしたちの言いたいこと、貴方にしてほしいこと……。それを断ったら
どうなるのか……。解るわよね?」
そう言って、シャオの首に回した腕に力を込めるルーアン。
「シャオ」にはわかった。
――宝の隠し場所へ案内しろ。そして我らに返せ。さもなくば……。
「シャオ」に選択肢はなかった。
ある空地。
そこの一部を「シャオ」は掘り返していた。
彼女がフェイから託された宝を掘り返していた。
やがて、土の中から一つの箱が出てくる。
「よし、あんたはもう下がってろ」
合流したエドワードは、箱を取り出してその中から、一つの機械と一枚のカードを取り出した。
シャオにはよく見えなかったが、機械の方は黒い筐体にマゼンダのストライプが入ったタッチパネルのようなもの。
カードの方は十個のマークのようなものが描かれてあった。
機械には「ケータッチ」カードには「コンプリートカード」という名前があるのだが、シャオはそれを知らない。
「よーし。これで俺達反英雄の宝が戻ってきたわけだ。
そして、これを受け継ぐのは……太助! お前だよ」
シャオの後をつけてきていたのか、物陰からエドワードの声にこたえるように太助が現れた。
「さあ、受け取りな。最強の反英雄として、この世界に永遠に君臨するんだ」
「悪くないかもな。お前たちを全員倒させてくれるっていうなら、考えてもいいぜ」
「…………ああ、そうかよ。つまり……」
と、その時。
何かが通り過ぎたかと思うと、エドワードの手からケータッチとカードが消えた。
「何!?」
もちろん犯人はこいつ。
「これがこの世界のお宝か。確かに頂いたぜ」
「はいそうですかって渡すかよ、泥棒野郎!」
剣からケータッチを取り戻すべく、正体を現した華秦、ヴォーカルが剣に襲いかかる。
そして、エドワードは太助に問いかけた。
「こっちに来いよ太助。この世界でなら、お前は好きに生きられるぜ?
お前の望むものは何でもくれてやる……。金も! 女も! 地位も名誉も! この世の全てだってな!!」
無論、太助の答えは決まっていた。
「違うな! 俺が世界に求めるものはたった一つ。シャオが……俺の大好きな人が
笑顔でいられること。それだけだ! それを許さないというのなら俺はそれと戦う。
たとえそれが世界でも……正義でもだッ!!」
その歪みの無い力強い信念にエドワードは問いかけていた。
「お前……何者だ?」
「これからも俺は……通りすがりの超戦士だ、覚えておけ!! 変身!!」
『HERO RIDE DECADE』
太助が変身するのと同時に、カードが全て力を取り戻す。
だが、さすがに三人の反英雄が相手では不利か。
シャオがそう思っていた時、剣が近くに来てケータッチを差し出した。
「太助に渡してやりな」
「えっ?」
シャオは戸惑った。
剣が一度手にしたお宝を誰かに渡すなど信じられなかった。
しかも仲の悪い太助に。
「お宝は、価値の解る人間の手にあるべきだ。どうやらそのお宝は
太助の手にあるべきものらしい。……謝りたいんだろ?」
「……ッ!」
シャオはケータッチを受け取ると太助のもとへ向かった。
「太助君! これを!」
「シャオ!?」
『ATTACK RIDE BLAST』
いきなりこっちに駆けてきたシャオに驚きながらもディケイドブラストで華秦とヴォーカルを牽制する。
「いきなり何やってるんだ!?」
「あの……ごめんなさい!! 必ず勝って!!」
そう言って太助にケータッチを差し出すシャオ。
「…………ああ!」
太助はケータッチを受け取ると、筐体にコンプリートカードを差し込む。
どうやって使うのかはまた自然と頭に浮かんできた。
『SINYA COUD RUMINA HAMEL SIGNAL JUDE NANASI KERORO ALICIA FINAL HERO RIDE
DECADE』
特定の順番で紋章をタッチしていき、最後に「F」の文字をタッチする。
すると、ディケイドの体のマゼンダの部分が銀色に、白の部分が黒に変化した。
それだけではなく、頭部のストライプは中心にディケイドの紋章が配置されたことで、王冠のようになり
胸部にも装甲が追加され9人の英雄を表す紋章が輝いている。
最後に自らの手でディケイドライバーを右腰に移し、代わりにケータッチを装着する。
これが、10の英雄の頂点に立つ超戦士。
ディケイドコンプリートフォームなのだ!!
「それがどうしたァーッ!!」
「フッ!!」
飛び掛かってきた三人の反英雄を、ブッカーソードの一振りでまとめて薙ぎ払う。
変わったのは姿だけではない。
パワーも格段に上がっている。
『RUMINA HERO RIDE FINAL』
ケータッチの留美奈の紋章をタッチすると、太助の隣に黒いタンクトップ姿の留美奈が現れ、
同時に胸の紋章がすべて留美奈のものになる。
『FINAL ATTACK RIDE RURURURUMINA』
太助が、カードを取り出し、右腰のドライバーに差し込む。
その一連の行動を留美奈もトレースする。
どうやらこの留美奈は質量のある幻らしい。
そして、太助と留美奈は、切りかかってくる華秦に向かって同時に「超・烈風」を放つ。
最強の技を同時に放つという反則の攻撃で華秦はあえなく散った。
続けてヴォーカルにも。
『HARMEL HERO RIDE ANGEL』
背中に純白の翼をもったハーメルを召喚。
続けてファイナルアタックライドを発動する。
『FINAL ATTACK RIDE HHHHARMEL』
ジャンプからのWパンチでヴォーカルも倒された。
だが、エドワードの姿はない。
どうやら、逃げられてしまったようだ。
「私たちと一緒に行きませんか?」
戦いが終わって、シャオは「シャオ」に一緒に旅をしないかと誘うが……。
「ありがとうございます……。でも、私はこの世界で生きていきます」
「でも、この世界は……!」
貴方にとって地獄でしかない。
そう言おうとしたシャオを遮るように「シャオ」は言った。
「それでも、私が生きてきた世界なんです。この世界の明日を信じたいんです」
その強い決意にシャオも太助も何も言えなかった。
そして、二人は翔子と真弥が待つ七梨家に戻ってきた。
「それにしても、反英雄の世界なんて世界があったとはな」
意外だったとでも言いたそうな翔子に、太助は言う。
「世界は9つだけじゃなかったってことだ。俺たちの旅はまだ続いている」
太助の言葉を証明するかのように、本に新たな絵が浮かび上がる。
その絵は、一本の桜の木と花びらの代わりに手配書が漂っている。
そして、手配書に描かれているのは、ディエンドの紋章だった……。
データファイル
華秦
「守り人の物語」に属する反英雄。
この世界ではルーアンを抹殺したのち彼女に化けていた。
ヴォーカル
「楽師の物語」に属する反英雄。
この世界ではキリュウを抹殺したのち彼女に化けていた。
「シャオ」
「反英雄の物語」のシャオ。
フェイから託された宝「ケータッチ」を隠して数年間
地獄の中をたった一人で生きていた。
後書き
コンプリートフォームは流石に原作のままじゃどうかと思ったので、エンブレムが
同じようなレイアウトで配置されていることにしました。
管理人感想
ダークレザードさんからいただきました!
ついに登場、コンプリートフォーム!
剣があっさりと返したのは意外でしたが、まぁ剣らしい理由だったので納得。
しかし、エドは『ディケイド』原作と同様にここで退場かな?
個人的には再登場希望。劇場版編とかならゲストで出せるような気がするのですが……