これまでのガンガンヴァーサスDは!!
「お待たせいたしました。鏡堂天城と申します」
「奴はこの町の法を犯す「悪」以外のなんでもない……」
「そして、それを守らない人間はすぐに拘束されて……心を奪われる」
「この世界は秩序を乱す者に決して容赦しない!」
「貴様らの敵は、この世界そのものなのだ!」



「そのミクトランというのは何者なんですか?」

 改めて、雛菊と椿に尋ねる太助。

「この世界にさっきの凶暴なカラクリを持ち込んだ奴。
 ……ごめんなさい、それしかわからないわ」

 申し訳なさそうに答える椿。
 雛菊は剣を睨みつけたままだ。

「……今までどこにいたのよ」
「…………」
「一応……心配はしてたのよ。ほら! あんたって鈍くさいからさ」
「…………」

 あれこれと雛菊が話しかけても、剣は黙ったままだ。

「……なんなのよ……。何か言いなさいよ!」
「雛菊さんは」
「え?」
「雛菊さんは、この町のこと、好きですか?」
「も……もちろんよ!」
「僕もです。だから、この町があんなことになってしまったときは
 とても悲しかったし……悔しかった」


 かつて、剣はミクトランを倒すために鏡堂邸に乗り込んだ。
 だが、ミクトランの力はあまりにも強大で逆に叩きのめされてしまった。
 倒れ伏す剣を見下ろして、ミクトランは吐き捨てた。

「コソ泥風情が……。王たるこの私の命を盗めると思ったか、愚か者め!」

 今の自分では奴には勝てない。
 それを悟った剣は世界を旅しながら、自らを鍛え続けていたのだ。

「好きだから……本当に好きだから、自分の手で守りたい。
 だから帰ってきたんです」
「馬鹿! あんたみたいな鈍くさいやつが何かっこつけてんのよ!」

 そんな二人のやり取りを太助は椿と一緒に見ていたが、林の中から
 見覚えのある人物が現れたのを見て驚いた。

「シャオ!?」
「太助君大変です!! 翔子さんと真弥さんがさらわれました!」
「何だって!?」

 剣も反応する。

「まずいわね……。多分その二人はもうミクトランの操り人形になってるわ」
「そんな……!」

 雛菊の分析にシャオは顔を青くする。

「……雛菊さん、椿さん。二人が運び込まれた場所は解りますか?」
「……乗りこむつもり?」
「ええ。あの二人は俺の家族も同然ですから」

 そういうと太助は剣とともに教えられた場所へと向かった。

「お前にもああして話とかする人がいたんだな」
「太助。お前俺を何だと思ってたんだ?」

 だが、そんな二人の前に天城が現れる。

「久しぶりだね。石川……いや、久保剣」
「久保?」

 太助は、天城が剣を「久保」と呼び直したことに疑問を感じた。
 剣本人は天城を睨んだままだ。

「(ひょっとして剣は元々は石川家の跡取りじゃなかったのか?)」

 時代劇などでは、長男が死んだときは兄弟親戚が跡取りになっていたが、剣も
 そうだったのだろうか?

「負け犬は負け犬らしく逃げ続けていればよかったのに……。
 泥棒だけあって、面の皮は厚いらしい……」

 剣を蔑む天城。
 その顔には、太助たちとの対面時に一瞬だけ垣間見せた憎悪がありありと浮かんでいる。

「……俺にはやると決めたことがある。いつまでも逃げちゃいられない」
「この町を守る、か? だがもうその必要はない」

 剣の覚悟すらも天城はあざ笑う。

「町の人々を見なかったのか? 常に人に優しくすることを気にかけているから犯罪も
 起こらず、誰もが笑顔でいる。すべてはミクトラン様のおかげだ。
 あの方はこの町に平和と秩序をもたらしてくれた救世主だ」
「秩序だと? 平和だと? 恐怖で支えられたそれが正しいと思ってるのか!」
「少なくとも、かつてお前がやっていた独善的な行為よりはましだろうよ。
 どんな理由があろうとも、石川夢幻斎は法を犯す「悪」だ。
 だが……、そんな貴様でも彼女にとっては支えだ。さあ、手にした力とやらをみせてみろ!
 僕がたやすくねじ伏せてやるから!!」
「……断る」
「何?」

 だが、剣は天城の挑発に乗らなかった。

「お前は僕が憎くないのか?」
「憎いさ。けどな、お前はあいつの友達だ。俺はあいつを悲しませるようなことはしたくない。
 それに、俺が得た力はこの町を泣かせるミクトランを倒すためのものだ。
 お前とぶつかり合うためのものじゃない」

 きっぱりと言い切る剣。

「なるほど、だったら話は簡単だな」

 天城がそう言うのと同時に、シャオの悲鳴が上がった。

「シャオ!?」

 振り向いた太助が見たのは、攫われていた翔子に羽交い絞めにされるシャオの姿だった。

「天城!」
「理由がなければ作ればいい。ああ簡単なことだ」

 つまり、人質ということか。

「ふざけるなぁッ!!」

 殴りかかる太助。
 だが天城は、逆に太助を殴り倒すと、シャオと一緒に姿を消した。

「ちくしょう!」
「落ち着け太助。シャオちゃんはしばらく大丈夫だろう」

 確かにその通りだ。
 人質というのは、無事だからこそ価値がある。
 だが、それは「傷つけなくていい」という理由にはならない。

「……そうだな。ミクトランとやらをつぶせばいいんだ。それにしても……」

 ここで意外な様子で太助は剣を見た。

「よく自制したな。先祖代々の宿敵だったんだろ?」
「……それ、誰から聞いた? ……って一人しかいないか」
「椿さんからな……。正直意外だったよ。今までお前のこと、ただの泥棒だと思ってたからな」

 剣にも守りたいもの、守るものがあったのだ。

「……それで思ったんだけど、お前が言うお宝ってのは、ひょっとして宝そのものじゃなくて
 物に込められた、人の……」

 だが、剣はその言葉を途中で遮った。

「それ以上はやめろ。俺は自分の心を妄想されるのが一番嫌いなんだ」
「そうか……。わかったよ。……雛菊さん達に知らせないでいいのか?」
「いいんだよ。もう如月家も石川家も生き方を変えられない。俺はあいつの目標で……、
 頼りない仕事仲間。それでいいんだ」

 剣の顔には、「それでいい」では片づけたくないという感情が浮かんでいた。
 だが、太助はそれを指摘しようとはしなかったし、「変えられないなんてわからない」
 とも言おうとはしなかった。
 だから、こう言った。

「剣。俺はお前を信じる。何故なら、お前が一人の人間だってわかったからだ。
 今でも俺のことを情けない奴だと思っているなら俺を信じなくて構わない。
 俺がお前を信じてるということだけ信じていればいい。その気持ちは……立派なお宝だ」


 鏡堂邸の秘密の部屋にて。

「ミクトラン様。例の異世界の戦士から申し出がありました。
 剣を引き渡す代わりに、あのシャオという少女を返してほしいと」
「剣? ……ああ、夢幻斎などと名乗っていたあの虫けらか。
 くくく……面白いではないか。よかろう私自身が出向くとしよう」


 そして、町から少し離れた荒れ地で太助と剣は
 ミクトランと天城、シャオと向かい合っていた。
 抵抗できないように剣を縛り上げた上で、だ。

「お前がミクトランか」
「その通りだ、異世界の戦士よ」

 太助は初対面だったが、間違いなくこの世界の現状はミクトランが望んだものだと確信した。
 他者を完全に見下している眼がそれを語っている。

「今から剣をそっちに歩かせる。そっちもシャオをこっちに歩かせろ」
「いいだろう」

 ミクトランと天城は意外なほど素直に太助に従った。
 縛られたままの剣と、シャオがすれ違った瞬間!
 剣が拘束を解き、ディエンドライバーにカードを差し込……むことはできなかった。
 シャオが剣の邪魔をしたからである。

「くっ! やはりか!」
「そうだ。その女はすでにミクトラン様の忠実な僕だよ」
「……よかった」

 天城は耳を疑った。
 今太助は何と言った?
 よかっただと?
 シャオが洗脳されていてよかったという意味か?
 戸惑う天城に向かってドライバーをつけながら、太助は言った。

「ありがとう、お前達。これで心置きなくお前たちを、潰せる……!!」
『HERO RIDE DECADE』

「そういうことだな」
『HERO RIDE DI-END!』

 シャオを振り払い、剣も変身する。

「剣! 太助君!」

 そこに、雛菊と椿もやってきた。

「二人ともちょうどいいところに! シャオを頼みます!」

 二人にシャオを託し、太助と剣は天城、そして機械兵器の群れと戦い始める。

「下賤な者たちが生意気な……。神罰を受けるがいい!!」

 その言葉とともに、なんとミクトランは巨大な怪物へと変貌を遂げた!

「へ……変態した……だと!?」
「いやこの場合は「変身」じゃないか?」

 言い合う太助と剣に向かって、ミクトラン改めNEOミクトランは機雷や鉄槍を降らせる。

「真の繁栄は至高の存在によってのみもたらされるものなのだ!
 私はこの世界にそれをもたらしてやったのだ!」

 高らかに宣言するNEOミクトラン。だが剣はそれを否定する。

「違う! お前はこの世界……この町を地獄に作り替えただけだ!!」

 そして太助も。

「その通りだ! お前は人間の目を塞ぎ! 耳を閉じ! 心を消した!
 人は自分の意思で生き、自分の足で歩いていく!!
 それはどんな世界でも変わらない、人が生きる幸せであり、喜びだ!!」

『SINYA COUD RUMINA HARMEL SIGNAL JUDE NANASI KERORO ALISIA FINAL HERO RIDE DECADE』

 立ち上がるとともにコンプリートフォームに変身。
 続けて英雄を召喚する。

『JUDE HERO RIDE ARMS』

 シェイプシフターとハウリングスパイクを合体させたような巨大ARMを持ったジュード。

「合わせるぞ、剣ッ!」
「お前が仕切るなよッ!」

 同時に必殺技のカードを切る!

『FINAL ATTACK RIDE JUJUJUJUDE』
『FINAL ATTACK RIDE DIDIDIDIEND』

 三条の光線はNEOミクトランの放ったレーザーを押し返しNEOミクトラン自身を貫いたッ!!

「ば……馬鹿なッ!! 至高の王たるこの私がぁぁぁぁッ!!」

 大爆発を起こしてNEOミクトランは消滅。
 同時に戦場の機械兵器も全て機能を停止し、天城も倒れてしまった。

「天城君ッ!」

 倒れた天城に駆け寄ろうとする雛菊。
 だが、なぜか太助は雛菊を制する。

「太助君!?」
「………」

 そして雛菊に代わって剣が天城に近づいていく。
 天城の様子を窺うためにかがんだその瞬間!
 天城がカッと目を見開き、小太刀で剣を狙うッ!

 ギンッ!!

 剣はかろうじて、ディエンドライバーの銃身を盾にすることで小太刀を受け止めた。

「お前……ッ!?」

 ミクトランを倒してもなお自分の命を狙ってきたことに驚く剣。

「どうして!? ミクトランはもういないのに!」

 雛菊も信じられない。
 だが、太助と椿は違っていた。

「やっぱりな……。お前は自分の意思でミクトランに従って……、いや利用していた、か?」

 太助の言葉に耳を疑う剣と雛菊。

「そうだ……。この町に巣食っている邪魔なものを駆除するために、俺はミクトランを利用していたのさ……」
「俺を消すためだけにか!?」
「お前だけじゃない……。俺の思い通りにならないものは全部だッ!!
 この町はそれが多すぎるんだ。おかしいだろ? 俺の町なのに俺の思い通りにならないものがあるなんてさ。
 ……本当はミクトランに任せておきたかったが、倒されたのならしょうがない。代わりにこの町と世界は俺が支配してやる!」

 そう宣言すると天城は刀を引き抜いて剣に切りかかる。
 雛菊は止めようとするが、太助はそれを許さない。
 やがて、剣は攻撃をよけ損ねて、地面に倒れてしまう。
 天城は刀を振りかぶり……。

「やめて天城君!!」

 振り下ろそうとしたところで、雛菊が剣をかばい、思わず天城は刀を止めてしまう。

「…………ッ!!」

 刀をもう一度振り上げることなく、そのままの体制で固まる。

「あんたはミクトランにはなれないよ」

 そんな天城に太助が語りかける。

「あんたは、あんたの言う邪魔者を守る人を邪魔者と切り捨てられなかった。
 それはあんたが、人間の自由な意思を認めている証拠じゃないのか?」
「…………」

 天城は刀を納めると、どこかへ歩き出し、そのまま去って行った。

「天城君、これからどうするんだろう……」
「……生きていくだろうさ。人間は生きているならそうするしかないんだから」

 そして、太助は剣にも言った。

「これで、お前の旅は一つの決着がついたな。もうお宝を欲しがる必要はないだろ?」
「……言ってろ。俺の旅の行先を決められるのは、何時だって俺だけだ」

 その会話を傍で聞いていた雛菊は、剣の声が、少しだけ嬉しそうだと、何故かそう思った。


 そして、七梨家にて。
 あの場にいなかったという理由で、真弥を放置してしまったため、家が荒れてたらどうしよう。
 と思っていた太助だったが、そんなことはなかった。
 璃瑠によれば、いつもより優しかった、とのこと。
 どういう洗脳をしていたんだ? と太助は思った。

「……太助君は、剣さんのしていたこと、どう思いますか?」
「ん? 剣のしていたことか……」

 太助は少し考えて、いった。

「法の上では間違いだろうけど……、他にいい方法はなかったんだと思う。
 そして、何もしないことだけはできなかった……。俺はそう思う」

 方法の良し悪しは関係なしに、ね。と太助は付け加えた。
 護る、ということは美しいだけではないのだから。

 そして、再び本に新しい絵が浮かぶ。
 青い薔薇が一輪と、桃、赤、黄、緑、青の五色の蝶。
 光を闇から守り抜いた伝説の戦士達の世界……。
 太助は知らない。
 その世界が、今までで最も、自分を必要としない世界だということを……。


「聞こえる……聞こえるぞディケイド! 貴様の悲鳴がなぁ!」

 今にも高笑いを始めそうなほどハイテンションなレザード。
 その顔には、「何かをたくらんでいる」と言い切れる笑顔が浮かんでいた。

データファイル


ミクトラン
ある時、「桜花の物語」の世界に現れた存在。
強い力と引き連れた兵器で、世界を支配していた。
強烈な選民思想の持ち主で、自分以外の人間を愚物と思っている。
怪物形態、「NEOミクトラン」へと変身できる。


後書き
天城が何だか、草加みたいなかんじになってしまいましたが、これは私のアレンジです。
手段を選ばなかったことを考えると、本質はこんな人間なんじゃないのかな、と思いまして。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 ミクトラン、終わってみれば瞬殺ですか。
 曲がりなりにもボスキャラだろうに。死んでしまうとは情けない(どこのドラクエだ)。

 それにしてもレザードさん、最近ヤケにテンション高いなぁ。
 役どころである鳴滝さんが着々と侵食しつつある気がします(苦笑)。