荒れ地に、少女――月小燐が独り佇んでいた。

だが、シャオはそれに疑問を抱いていなかった。
なぜなら、シャオにとってこれは初めての経験ではなかったからだ。
少女と向かい合うように、戦士が独り佇んでいた。
マゼンダの甲冑を纏い、カメラを象ったバックルを身につけた戦士。
だが、その緑の眼は、その内なる少年の感情をシャオに伝えなかった。
いや、感情どころかシャオを、世界を『見て』いるのかどうかも分からない。
まるで、『葬世者』という『概念』その物になってしまったようだった。

「ディケイドは全ての世界を葬り去る」

 シャオの背後で預言者レザードは語る。
 その言葉を、シャオは振り向かずに否定する。

「違います! 太助君は葬世者なんかじゃありません!!
 むしろ、英雄たちの世界を守ってきたじゃないですか!!」

 その声は、シャオが内心で驚くほどの大きな声だった。
 そして自分で気が付いていた。
 自分の声を荒げることで、自分の耳をふさごうとしているのだと。


 その間にも英雄大戦は続いていた。
 英雄たちは、一致団結して……。
 いや、何かを得ようとするかのように互いに争い、ある者は異世界の英雄に。
 またある者はディケイドに倒されていく。

「ディケイドの道には、英雄たちの屍が残るだけだというのに……。
 ……貴方は、何も理解できていないのですね……。愚かな……」
「そんなこと……太助君は絶対に……!」

 そして、ついにディケイドを残し英雄たちは倒れた。
 否。
 一人だけ……、シアンの甲冑に身を包んだ戦士が立っていた。
 戦士は、一瞬のうちにディケイドに近づくと、その眉間に銃口を突きつけ、引き金を……。


「今の夢……どうして……?」

 そこで、シャオは目を覚ました。

「何で、違っていたの……?」

 手を取り合うのではなく、互いに争っていた英雄たち。
 勝利者としてではなく、戦士の一人としてそこにいたディケイド。
 この変化は、自分が彼を知ったからだろうか。
 超戦士ディエンド。
 石川剣のことを…………。


ガンガンヴァーサスD
第三十話「英雄大戦 序章」


 そして、太助達は砂丘の上を歩いていた。

「……感じる。俺達の旅は、この世界で終わる気がする」

 ふと、太助はそう呟いた。
 シャオもまた、自分に言い聞かせ続けていた。

「(太助君があんなことをするなんて、絶対にありません……)」

 そうして、幾つめかの砂丘を超えたとき、その光景が一堂の目に飛び込んできた。
 パルスとアーリィが。コートを着た大柄のロボットと緑の服装をした弓兵が戦っている。
 そして、アリーシャとシグナルもにらみ合いの末、剣と拳をぶつけ合う。
 さらに、お互いの世界の怪人たちも雪崩込み、大乱戦になる。
 その光景を見ながら真弥が呟く。

「これじゃあまるで、ヴァルキリーの世界とアトランダムの世界の戦争じゃないか……」
「……英雄大戦の世界か……」


 戦いは、アリーシャとシグナルが相手の戦士を一人づつ倒し、シグナル側が撤退したことで終わった。
 太助たちは、事情を聴くために残っていたアリーシャに接触した。

「やあ、久しぶりですねアリーシャさん」
「教えてください、何が起こってるんですか? 何故、英雄同士が戦っているんですか?」

 アリーシャは懐かしげな態度を見せることもなく、言った。

「……ヴァルキリーの世界とアトランダムの世界が融合し始めたんです。
 何故かはわかりません。解っているのは、一つの世界に二つの物語は紡げないこと。
 どちらかが滅びるしかないんです。
 私たちは、自分たちの世界を守る為にアトランダムの世界を滅ぼすしかないんです」
「その為に、古き神々の生き残りとも手を組んだというわけですか」

 そう言って、太助は不死者やエインフェリアの中に混じっている、神族を睨みつける。
 その神族、オーディンが太助を睨みつけながら言う。

「それで貴様らはどちらにつくつもりだ? 中立だと答えるのならば、この場で死んでもらう」

 グングニルを構えながら返答を強要するオーディン。
 だが、太助は臆することなく答えた。

「俺の答えは、「どちらにもつかない」だ。じゃあな」
「待て! そう言ってアトランダムの方につく気だな!」

 一人の神族兵が襲い掛かるが、太助は回し蹴りを放ち、彼を倒す。

「俺は全てを葬る者だ。少しでも生きていたいなら、俺に近づくな」

 オーディンを威嚇すると、太助はその場を去って行った。


 そして、一行は七梨家に戻ってきた。
 だが、全員の気は重かった。

「私たち、これまで色んな世界を旅して救ってきたつもりでしたけど……」
「世界の融合……。一番肝心な問題は何も解決していなかった……」

 これまでの旅に意味はあったのだろうか?
 そう思い、落ち込む一同。
 そこに、レザードが現れた。

「ディケイド……貴方と馴れ合うつもりはありませんが、今は個人の感情を通す時ではありません。
 貴方も見ての通り、もう猶予は幾らもありません。この世界の融合を加速させているのは、エクスデスです。
 頼みます、ビッグディザスターを倒し世界の危機を救っていただきたい」

 これまでとは打って変わって、太助に協力を求めてくるレザード。
 その姿勢も、話の内容も信じられないが、ディケイドをあれほど憎んでいたレザードがここまで
 言ってくる以上少なくとも嘘ではないのだろう。

「とにかく今は、英雄同士の争いを止めさせよう。僕はアリーシャさんを説得してくる!」
「わかりました。シグナルは俺が」


 シンクタンクアトランダム本部ビル内部。
 その会議室で、太助とシグナルは向かい合っていた。

「久しぶり、太助」
「そうだな、シグナル」

 どこをどうしたのか、なんとシグナルはクオータに代わってアトランダムナンバーズ統括の任についていた。
 大丈夫かよアトランダム。と太助は思ったが口には出さない。

「早速だけど、君の力を僕達に貸してくれないか」
「そのことだけど、この場で君ともう一人に聞いてほしい話がある」
「もう一人……?」

 そこに、真弥とアリーシャが入ってくる。
 シグナルは椅子を鳴らして立ち上がり……それを制するように太助は言った。

「二人とも、単刀直入に言います。今すぐに戦いを止めてください。
 そして俺達と一緒にビッグディザスターを倒すんです」
「世界の融合はビッグディザスターの仕業なんだ! 早く止めないと全ての世界が!」

 だが、真弥と太助の説得にも、二人は頷かなかった。

「悪いけどにわかには信じられない。ビッグディザスターを倒しても世界の融合が止まる保証も無いし……。
 それに、そいつにはパルスを倒されてるんだ!」
「私たちの方も貴方にアーリィを倒されています!」

 互いに仲間の仇を前にして話し合おうというつもりが全く見えない。

「二人とも落ち着いて。今は自分の世界のことはひとまず忘れて、全体のことを考えないと駄目なんです」

 落ち着か是ようとする太助に、二人は感情に任せて暴言を言い放つ。

「それは、貴方が御自分の世界を持たないから言えることでしょう!」
「自分の世界を持っていない君には、俺達の気持ちなんてわからないよ」

 この二人の言葉に、太助の中に何かが湧き上がってきた。
 それは、シャオと一緒に暮らし始める前、父の手紙が来るたびに抱いていたのと同じ感情。
 その名を「諦観」と言った。

「よく解ったよ……。世界を旅して、仲間が出来たつもりになっていたけど……。
 それは俺の勘違いだって」

 俺は一人で戦う。
 そう言って太助は出て行った。
 慌てて真弥は後を追いかけて……部屋を出ていく直前で、シグナルとアリーシャの方を振り返って言った。

「シグナルさんもアリーシャさんも……本当にそれでいいの……?」


 そして、太助が独りで戦うと決意した間にも、事態は進んでいた。
 ある地点に、『荒野の物語』の英雄達までも現れてしまったのだ。
 そして、彼らはエインフェリア達に襲われてしまう。

「ああ……アリーシャさん、シグナルさんだけじゃなく、ジュードさん達の物語まで……!
 早くビッグディザスターを何とかしないと世界が……」

 シャオが見ている前で、ディーンとクラリッサが倒され、消滅してしまう。
 シャオはジュードが悲痛な声を上げるのをただ聞いていることしかできない。

「君たちは勘違いをしている……。
 本当に倒さなきゃいけないのは、ビッグディザスターじゃない」
「え?」

 その声に驚き、振り返るシャオ。
 だが声の主の姿はなく、視界の端にプリズムパープルの輝きが焼付いただけだった。


 一方、ジュードはエインフェリアのリーダー、ルーファスに追い詰められていた。
 そして、ルーファスの矢がジュードを捕らえようとしたその時!
 ジュードを庇うように、ルーファスに銃弾が撃ち込まれるッ!!

「どうしたジュード。もう終わりか? だらしないな」
「ツルギッ!!」

 ジュードの師(暫定)石川剣である。
 剣の援護を受けたジュードは、ルーファスを倒し、自分たちの置かれた状況を聞いた。

「世界の融合とか、英雄大戦とか……。
 信じられないし信じたくもないよ……。そんなことでディーンもクラリッサ……。
 僕の親友が……ううっ……」

 いきなりすぎる理不尽に涙をこぼすジュード。
 それを見ていた剣は、ポツリと呟いた。

「親友か……。
 俺には、縁のなかった宝だったな、そういやぁ……」


 とある教会にて。

「ファファファ……感じるぞ、我が体に命が満ちてくるのが!」
「それは結構だ。だが、忘れるなよ。貴様に四宝の一つであるそのドラゴンオーブを
 貸し与えたのは……」
「無論だ。
 貴様らアース神族をビッグディザスターの一員として認めよう。
 そして、世界の一つを貴様らの自由にするがいい」

 オーディンは自らが再び支配者となるためにビッグディザスターと取引をしていたのだ。
 そして世界を支える力であるドラゴンオーブを手に入れたことで、エクスデスは全盛期の力を取り戻した。
 だがそこで、大きな音を立てて教会の扉が開け放たれた。

「これはこれは……。
 死にぞこないと裸の王様がそろって悪巧みとは……」

 招かれざる客人の正体は、太助だった。

「夢を見るなら、寝ていなくちゃ駄目だろう? 変身!」
『HERO RIDE DECADE』

 ディケイドに変身した太助は、ただ一人でアース神族兵や、ビッグディザスターの怪人たちを相手に奮戦する。
 だが、徐々に追い詰められていくかと思われたその時!
 真弥とシグナル、オラトリオが教会に雪崩込んできたッ!!

「太助、大丈夫ッ!?」
「シグナルッ!」

 シグナルは太助と背中を合わせる。

「君は僕に大切なことを教えてくれた……。
 僕達は励まし合い、助け合い、共に生きていく、仲間だッ!!」
「その言葉、覚えててくれたのか……。さぁ、行くぜシグナルッ!!」

 地を蹴って、二人は敵陣に飛び込んでいく。


 その頃アリーシャは一人の青年と相対していた。
 見覚えのない青年のはずなのに、何故か知っている気がしていた。

「君が、アリーシャだね?」
「貴方は……誰ですか?」

 アリーシャの問いに彼はこう答えた。

「僕はA-Sシグナル。本当にこの世界を救いたいかい?」


 一方、太助はオーディンとの一騎打ちにもつれ込んでいた。

「たかが人間風情が私の邪魔をするなど……世界に仇名す行為だと分からぬか!!」
「神が何だっていうんだ? 生きてる俺達の方がそんなものよりよっぽど大事だぜ!
 少なくとも、人間の世界を支配することしか考えない貴様なんかよりは!!」
「同感だな、太助」

 そこに、剣も現れる。

「剣、今度は奴のグングニルでも狙ってるのか?」
「いや?
 『親友』ってお宝の価値を、確かめてみようと思ってな」

 似合わない、と思ったが今はそれを言うべき時ではない。

『FINAL ATTACK RIDE DIDIDIDIEND』

 ディメンションシュートが、オーディンを取り巻く神族兵を一掃する。

『SINYA COUD RUMINA HARMEL SIGNAL JUDE NANASI KERORO ALICIA FINAL HERO RIDE DECADE』
『RUMINA HERO RIDE FINAL』

 留美奈を召喚し、あたりに風が吹き荒れる。

『FINAL ATTACK RIDE RURURURUMINA』

 二条の竜巻がオーディンを完膚なきまでに滅した。
 そして二人は真弥、シグナル、オラトリオと合流しエクスデスと対峙する。

「オーディンはもう滅んだ。お前もいい加減に年貢の納め時だな」

 だが、五対一でありながらもエクスデスは不敵に笑う。

「ファファファ……。貴様たちに見せてやろう。
 私が取り戻した力……『無』の力を!!」

 エクスデスの姿が変わっていく。
 甲冑の模様が派手になり、色が水色から青に。
 垂の部分が樹木のように変わり、顔のようなものが浮かぶ。

「無の力よ! 宇宙の 法則を 乱し! 世界を一つにするのだ!!」

 エクスデスを中心に膨大な魔力が吹き荒れる!
 もし、太助たちの中の誰かが、この世界を外側から見ることができたら、接近していた世界が
 さらにこの世界へと同化していく様子が見られただろう。

「ううっ、な、何だ!? 僕に何が……!?」

 その最中、シグナルとオラトリオは急に苦しみだし、光を発しながら空中へと消えてしまった。

「シグナル……!?」
「これって……シグナルさんの世界が、完全に消滅したってこと……?」

 呆然と呟く真弥。
 太助も剣も言葉が出ない。


「始まったんだな」

 どこかで誰かがそう呟いた。



データファイル

EXエクスデス
オーディンと取引することによって手に入れた四宝ドラゴンオーブの力で生命力の問題を
克服し、無の力を完全に制御できるようになった。

オーディン
「戦乙女の物語」の仇敵。
自らの一族を永遠に反映させるため、人間界に干渉して様々な事件、戦乱の火種を灯し
その結果生まれた優れた英雄をエインフェリアとして選定していた。
世界の危機にアリーシャ達と組んで、シグナル達と戦っていたが、その裏では
再び主神の座に返り咲くべくビッグディザスターと手を組もうとしていた。


後書き
とうとう最後の戦いが始まりました。
なお、EXエクスデスの詳しいビジュアルは、「ディシディアファイナルファンタジー」の
公式ページを参照してください。


管理人感想

 ダークレザードさんからいただきました!

 ついに始まる英雄大戦。
 消滅を始める世界、エクスデスとの最終決戦、そして大神のクセしてやられ役のオーディーン!(爆)
 果たして太助は世界の敵としてこのまま討たれるしかないのか!? そして次はどんな大物がかませ犬に成り果てるのか!?(マテ