―――これまでの、ガンガンヴァーサスDは……。
「……英雄大戦の世界か……」
「九つの世界に物語を紡ぐ英雄達が生まれたんだ。物語はそれぞれ独立して触れ合うことはないはずだった」
「俺は全てを葬る者だ。少しでも生きていたいなら、俺に近づくな」
「今から僕の仲間が、君の旅を終わらせる」
「来るなら来い!! 全てを葬ってやる!!」
「ディケイドーーーッ!!」
暗い雲海。
その中を飛翔する一人の戦士がいた。
真紅の甲冑と純白の翼をもった戦士。
彼女は自分たちの敵である「奴」を探していた。
「こちらサイザー。ディケイドはまだ発見できない」
その声に地上を探索していた仲間二人――金髪に尻尾を生やした身軽な服装の青年と、
赤い髪に大きめのコートの少年が返事をする。
「わかった。こっちはまかせてよ」
「そっちも気をつけろよ。ディケイドは「悪魔」なんだからな」
「ああ……。ッ!?」
次の瞬間、サイザーの背後に無数の光のカードが浮かび上がる。
必死に振り切ろうとするサイザーだが、カードは次々と浮かび上がり、どこまでも彼女を追っていく。
そして、ついに死の宣告が下された。
『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』
地上の二人は見た。
つい先ほどまで話していた仲間が、炎に包まれて地へと墜ちていくのを。
「サイザーッ!!」
叫び、落下地点に駆け付けた二人が見たもの。
それは、彼女の『存在の証』たるカードを拾い上げる『葬世者』だった。
「お前ぇぇぇッ!!」
二本のダガーを逆手に持って切りかかる青年。だが。
『ATTACK RIDE ACCELEATOR』
超高速移動を発動させた「葬世者」の前になすすべなく宙を舞う。
「くそぉッ!!」
少年も同じ超高速移動を発動して「葬世者」と同じ世界に入る。
そしてこちらに振り向いた「葬世者」にむかってARMを剣に変えて切りかかる。
『ATTACK RIDE INVISIBLE』
その一撃も姿を消した「葬世者」には届かない。
あたりを見回す少年。
宙を舞う青年を挟み込むようにカードが現る。
「はぁぁぁぁッ!!」
続けて放たれた「葬世者」のキックが
まず青年を、続けて少年を貫いた。
周辺に静寂が戻った。
もはやその場に立っているのは、変身を解いた「葬世者」ただ一人。
彼は地面に突き立ったダガーを拾い上げ……。
しばらく眺めた後捨てた。
もう片方の手に握ったカードを荒々しく握りつぶしながら……。
――世界を葬る者、ディケイド。
――全ての英雄たちの敵となり、その瞳は何を見る……
ガンガンヴァーサスD
完結編「君のいない世界」
七梨家。
この家の本当の住人はあの時から帰ってきていない。
彼――七梨太助の旅に付き合っていたシャオと翔子は
この世界からどこへも行けずに、無為に時を過ごすばかりだった。
「やべっ。またコーヒー六人分用意しちまったよ」
「翔子さん……ちゃんと洗ってくださいね」
「わかってるよ」
シャオも翔子も、今でもお茶やコーヒーを飲むとき、居なくなってしまった仲間のぶんまで用意してしまう。
今でも、ふとした時に思い浮かべてしまう。
人数分のコーヒーを入れて、テーブルに運ぶ。
いつの間にか現れていた剣が誰かのをしれっと手に取って、とられた誰かは剣に詰め寄って、自分がなだめて……。
今でもいつでも思い出せる光景だった。
「何だ。まだ未練があったのか」
唐突に現れたのは剣だった。
「帰ってこない奴のことなんか忘れちまえ。俺はとっくに忘れた」
そう言って、太助の分のコーヒーを乱暴に飲み干す。
「剣さんは、太助君がどこにいるのか知ってるんですか?」
「……お前だって知ってるだろ? あの中だ」
そう言って剣は、テーブルの上に広げられた本を指差した。
そこには、一つの世界に引き寄せられ、融合していく世界の絵が描かれていた。
「今もあいつは、英雄たちと戦い続けている」
マンションの駐車場に足を踏み入れた太助。
彼を待っていたように次元壁が現れ、陰兵が太助を包囲する。
そして、彼らの中に見知った顔があった。
かつて、太助の旅に同行していた青年。
名は、弓樹真弥。
「太助君。今度こそ逃がさない」
「逃げるつもりは無い」
「君とは戦いたくなんてない。でも世界を破壊から守る為だ……。覚悟してくれ」
「能書きはもういい!! 来いよ」
『HERO RIDE DECADE』
真弥の言葉を切り捨て、ディケイドに変身する太助。
その顔はかつての太助とはまるで違う。
目は吊り上り殺意と敵意しかうつしていない。
襲い掛かる陰兵に膝をたたき込み、地面に引き倒す。
そして倒れこんだ陰兵の腹や背を容赦なく踏み抜く。
そこにいるのは、ただ一匹の「鬼」だった。
……その戦いを見つめる真弥の背後に巨大な足が落ちた。
近くの河原まで、シャオ達は来ていた。
「考えたことはあるか? 何で太助は写真を撮れないのかって」
「七梨の奴は、世界が俺に撮られたがっていないから、なんて言ってたぜ」
「世界が……か。そうか……」
考え込んでしまった剣にシャオは声をかける。
「それがどうかしたんですか?」
「いや、ひょっとしたら逆だったんじゃないか、ってな。
壁を作っていたのは世界じゃなくてあいつのほう……。
あいつが世界から離れようとしていたから、あいつは世界を撮れなかった。
だから、カメラを通してでしか、あいつは世界と向き合えなかった」
剣の言葉は正しいのかもしれない、とシャオは思った。
子供の頃、太助は自分の境遇を呪い、世界を呪ったのかもしれない。
「でも……、それでも撮り続けたのは……。
きっと、太助君なりに世界と向き合おうとしてたからじゃないでしょうか……」
そう言って、太助の写真を入れたアルバムを胸に抱きしめるシャオ。
その時、突然地面が揺れた。
「お、おい! あれなんだ!?」
宙を指差す翔子。
その先には次元壁が浮かび上がり、その奥に角を持った巨大な人型の影が見えた。
「ゴーレム、アースガルズ……」
太助はアースガルズから必死に逃げていた。
流石に今の太助でもここまでサイズが違い過ぎると逃げるしかない。
向こうはただ歩くだけでも十分にこちらを倒せるのだ。
そうして逃げていると、前方にまた別の立体駐車場が見えてきた。
アースガルズの攻撃を回避しながら、駐車場を上る太助。
そして屋上に上がり、アースガルズと目線があったところで、太助は反撃に移った。
『ATTACK RIDE LINEAR RAIL CANNON』
対艦攻撃用のARMを実体化し、アースガルズに向かって発射する。
直撃を受けてよろめくアースガルズ。
間髪入れずに、太助は次の攻撃に移る。
『ATTACK RIDE GENOCIDEEXTREME』
「喰らえぇぇぇぇッ!!」
魔王すらも殺戮するほどのエネルギーを受けて、アースガルズは大地に倒れ込む。
屋上に着地した太助は、空から落ちてきたアースガルズのカードを掴みとった。
変身を解いて降りてきた太助の前に再び陰兵が現れる。
「こりない奴らだ……!」
変身しようとした太助だったが、それより早く一人の少女が太助を庇うように立ちはだかる。
「ここは私に任せて!」
そう言うと少女は、黒の衣装に身を包んだ戦士に変身して、陰兵を瞬く間に蹴散らしてしまう。
「大丈夫だった? 太助」
「……しつこいのはお前も同じだったな、ダークドリーム」
そう言うと太助はさっさと歩き出す。
「大丈夫ですか? 真弥さん」
シャオはハンカチで真弥の傷を拭う。
アースガルズが倒された反動で傷を負った真弥を見つけたのだ。
「ありがとう、シャオちゃん」
「あの……。太助君が今どうしているのか……知ってますか?」
質問するのは憚られた。
だが、どうしても知りたかったのだ。
彼が今、何を思い、何をしているかを。
「……太助君は……英雄たちを狩り始めたんだ」
「そんな……!」
「もう……ほとんどの英雄たちがやられてしまった……。
残っているのは僕を入れて、ほんの数人だけ……」
傷を負っているにも拘らず立ち上がろうとする真弥。
「あの人は……、もう僕達の知っている太助君なんかじゃない。悪魔だ」
「だいたいお前はどちらかと言えば英雄たちの味方じゃないか。
何で、俺の味方をしてるんだ」
レールの上を歩きながら、ダークドリームに問いかける太助。
「ん〜。大好きだから」
「は?」
「それだけじゃ駄目? それ以上の理由がなくちゃいけない?」
「……勝手にしろ」
歩いていく太助とダークドリーム。
その向こうから誰かが歩いてくる。
それは真弥とシャオだった。
「太助……!」
なおも戦おうとする真弥と、太助を庇って戦おうと身構えるダークドリーム。
シャオは真弥を、太助はダークドリームを制止すると、向き合った。
「太助君。どうして、英雄たちを葬るんですか……?」
「俺はあの旅の中、お仕着せでするべきことを決めていた。
だが今は! 全ての由を自分自身に求めているッ! 俺の未来を創るために戦っている」
「それが英雄を葬ることだっていうの?」
真弥の問いに太助は答える。
「俺は全ての葬世者だ。俺はそれを受け入れた。それだけだ」
「そんなこと僕は許さ……ッ!」
真弥は戦おうとするが、傷の痛みでうずくまってしまう。
「今だけは見逃す。行け」
「私は逃げませんッ!! 太助君を信じてますッ!!」
そう言ってシャオは、かつて太助が使っていたカメラで、太助を写す。
もう一枚撮るべく、フィルムを巻いていた時、太助はカメラを奪い放り投げる。
「カメラはもう必要ない! 世界だろうがなんだろうが、俺の前に立ちはだかるものは
全て正面からぶっ壊す!!」
そう言って太助は去って行った。
ダークドリームはその後をついていく。
それを見送ったシャオは、放り投げられたカメラを探していた。
カメラは見つけたが、シャオは打ちひしがれていた。
「私はどうしたら……。私には何もできない……してあげられない……」
このカメラを必要としている人間はもういない……。
「シャオ」
「璃瑠……さん?」
そんなシャオに声をかけるものがいた。
レザードの部下として、太助の旅をスパイしていた璃瑠だ。
「レザードの奴が言ってたでしょ? 太助を止められるのは貴方だけだって」
「私の……力?」
「ついにその時が来たのよ。貴方に力をあげるわ。悪魔にも負けない『特別な力』を……」
一方その頃。
翔子は、街中を歩いていた。
特に目的があったわけではない。
ただなんとなくだ。
「お嬢さん。お暇ですか?」
そんな翔子に声をかけたのは、露店のアクセサリー売りだ。
「お暇でしたら、ちょっと見て行ってくださいよ。冷やかしでもいいですから」
「冷やかしって……自分で言うかね」
そう言いながらもアクセサリーを眺める翔子。
その視線が、一つのシルバーアクセサリーに吸い付けられる。
「ライオンのアクセサリーかぁ……なかなか見事じゃんか……?」
ふと頭をある記憶がよぎった。
自分はこのアクセサリーを知っている。
正確には、このライオンの名前を知っている。
そうだ、それは……。
「グリーヴァ……。ッ!」
商人と目が合った。
そこにあったのは、自分の親友を悪魔と呼び、旅の邪魔をし続けてきた男の顔。
「あ……あぁぁッ!!」
その場から逃げ出そうとするが、アクセサリーは漆黒の獅子となって翔子に圧し掛かる。
そして、山野辺翔子は、この世界での役割を果たし始めた。
「私はアルティミシア。時さえも支配する魔女なり」
その横でレザードもまた。
「そして私は……大神官ハーゴン!!」
「今ここに、偉大なるビッグディザスターは『ハイパーディザスター』として復活したのです」
二人が見下ろす先には、数こそ減ったもののまだ大量の戦闘員、怪人が整列している。
先頭にいる黒いロボット、フォルテが号令をかける。
「偉大なるアルティミシアと大神官ハーゴンに、敬礼!」
全員が、ビシッと敬礼する。
「ディケイドのおかげで英雄たちは残り僅か。
後は我らが神が復活すれば、世界はハイパーディザスターのものとなる……。
アッハッハハハハ……」
どこかの廃工場。
太助はそこで、集まったヒーローカードを一枚一枚眺め、ダークドリームはそんな太助を眺めていた。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ。
何で英雄を倒すたびに、カードを眺めてるの?」
気になっていたことを尋ねるダークドリーム。
「……戦いの後にはカードしか残らない。
俺が倒していった英雄を忘れないこと。もう俺がしてやれることはそれしかないからな……」
「……そっか……。
なんか羨ましいな……。あたしには、そんなことしてくれる人いなかったもんね……」
太助はカードを置いて、ダークドリームの方を振り返る。
「……やだな、そんな顔しないでよ。太助は、あたしのことちゃんと見てくれてること知ってるよ」
「…………」
置きっぱなしのカードを、誰かが持ち上げた。
それが誰なのか、振り向かずとも太助には解っていた。
「相も変わらず泥棒か? 剣」
「顰め面は似合わないぜ? 笑顔で行こうじゃないか、昔みたいにな」
相変わらず、人を食ったような態度の剣である。
「太助のカードを返せ!」
怒って打ち掛かるダークドリーム。
剣は彼女をあしらいながら言う。
「ダークドリームか。
お前に興味はないが、お前がここにいる理由には興味があるな」
「訳のわからないことを言うなぁッ!!」
怒りと共に繰り出されたパンチを受け止める剣。
太助はその手からカードを奪い返すと、ダークドリームの手を取った。
「行くぞ」
足早に去っていく太助。
その背中に、剣は言った。
「太助! 「死人」を連れ歩いて満足か!?」
「黙れ!!」
「死んでる……? あたしが?」
呆然とするダークドリーム。
「俺の知っているダークドリームは『創造主』シャドウの攻撃から
キュアドリームをかばい、滅んでいる。太助も知ってるぜ?」
剣の言葉を聞いたダークドリームの脳裏に、幾つもの映像が浮かんでくる。
仲間と居るとき、いつも笑っていた自分と同じ顔の少女。
泣いている自分。
創造主の攻撃から、身を挺して彼女を庇う自分……。
「それがどうした!? こいつは「心」を持って生まれながらも、人を愛することも、
楽しみを分かち合うことも、何も知らないまま死んでしまった。
それはただ死ぬことよりも、ずっと孤独な死だ。だから遺志が世界を彷徨っている」
「だから、お前がそれを教えてやろうってか?」
「何よそれ……。そんなの嘘よ!!」
ショックを受けたダークドリームは走り去ってしまう。
それを追おうとする太助だったが、いきなり爆発が起こって阻まれる。
振り向いた先には、日本刀を持ったツンツン頭の英雄『浅黄留美奈』と、水色の髪を持った英雄『シグナル』が立ちはだかっていた。
儀式を行うアルティミシア。
眼前には、巨大な玉座に座った何かが居る。
『怒りが……足りない……。力が……足りない……』
その何かが声ならぬ声を発する。
「あと少し……あと少しで我らが神は目を覚ます……!」
留美奈もシグナルも今の太助の前には無力だった。
一方的に叩きのめし、手すりに叩きつけた留美奈の首を締め上げ、苦しむ顔を覗き込む。
絞殺と墜落死、どちらがいい? と尋ねるように。
『FINAL FORM RIDE SSSSIGNAL』
シグナルを無理やりファイナルフォームライドさせると、シグナルレヴァンティンを右手に握る。
「ウェアァァァーッ!!」
留美奈を切り裂くと、シグナルレヴァンティンを用済みとばかりに投げ捨てる。
シグナルはそのまま壁にぶつかって元に戻り、何とか立ち上がろうとするが……。
『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE』
それを待たずに放たれたディメンションキックを受け消滅した。
……真弥が駆けつけた時その場にいたのは、二枚のヒーローカードを見つめる太助だけだった。
「僕が最後の英雄になってしまったのか……。
…………太助、僕が君を、倒す」
真弥が取り出した黒い本が、分解していき、黒翼を形成する。
あの時璃瑠によって与えられた、『支配者』の力。
運命を操るとされる、神を超える存在。
「運命を操るだか何だか知らねえが、『支配する者』が『葬る者』に、勝てると思っているのか?」
データファイル
ダークドリーム
プリキュア5がかつて戦った邪悪なる者「シャドウ」が妖精の世界の一つ「鏡の国」の秘宝のクリスタルと
夢原のぞみのデータから作り出した邪悪戦士。
シャドウは他の四人もコピーしたが、彼女はのぞみそのものをコピーしたためか「心」に興味を持つそぶりを見せた。
この世界で太助が出会った彼女は、本来の世界で滅びた後、この世界を彷徨っていた精神だけの存在。
アルティミシア
「究極の幻想の世界」の一つの属する魔女。
その膨大な魔力は時すらも自在に操るほど。
今回は山野辺翔子がレザードによってその役割を望まれたために生まれた。
ハーゴン
破壊神シドーを崇める邪教集団の大神官。
レザードがハイパーディザスターを結成するために自らこの役割を演じていた。
その為、レザードの正体がハーゴンであるという訳ではない。
フォルテ
ドクターワイリーが宿敵ロックマンのデータをもとに作り上げた戦闘用ロボット。
高い戦闘力を持っているのだが、プライドも高く、ワイリーにとっては問題児である。
後書き
完結編まで含めるとかなりの量になるのでとりあえずここで引き。
ダークドリームは結構おいしいキャラなので起用しました。
○○○○ター○DX○でモブキャラの中に混じっててくれないものか……。
管理人感想
ダークレザードさんからいただきました!
完結編となる劇場版編。ベースはMOVIE大戦ですか。
犠牲者第1号となるスカイライダー役がサイザーというのはファンとして複雑な気もしますが(苦笑)、むしろその後のレザード=ハーゴンに吹きました。キャラ変わりすぎでしょアナタ(爆)。
…………チッ、シャオとダークドリームで太助を取り合わなかったか(←黙れシュラバスキー)。