第97管理外世界での出来事を発端に、全次元世界の危機にまで発展した大きな戦い――通称“GBH戦役”から1年が立った。


これを機に公の物となった超ロボット生命体――トランスフォーマーと呼ばれる存在達は、今ではすっかり社会の中に溶け込み、管理局の中で活動している者も少なくない。



いくつもの障害を乗り越えて、ようやく世界は平和を掴んだ―――――――はずだった。
















でも、この時の私はまだ知らなかった――いいえ、目の前の平和を噛みしめる事に精一杯で――気づこうとしなかったのかもしれない。


















この世界は――――――とても優しくて、残酷だという事を。















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
















――無限に広がる漆黒の闇。その中に浮かぶ巨大な何かの上に、俺は立っていた。

いや、立っていたという表現はおかしいのかもしれない――俺は今、目の前に居る存在と死闘を繰り広げていたのだから。



その光景には時折ノイズが走り……誰かが叫んでいるような声がしても、はっきりとは聞き取れない。





――これは、『夢』なのか、それともただの『映像』なのか、それは俺にも分からない。

なぜなら、俺の視点は当事者である二体の戦士と、第三者が眺める死闘の映像が次々と入れ替わるからだ。彼らは闘いながら移動を続け……それでもなお、相手と戦うのを止めようとはしない。



鮮明ではないが、幾度となく切り替わる視点のおかげで……二体の戦士の大まかな姿は分かった。


一体は、紫と白の装甲を持つ戦士で、ニ本の巨大な角を持った戦士。彼の視点から観る映像が、一番多い。

もう一体は、深い青色の装甲に身を包んだ戦士。この死闘が始まる前に胸部から金色の何かを投げ捨てていたが……あれは一体なんだったんだろうか?






その戦いは凄惨な物でもあったが、どこか神々しくもあった。しかし、その戦いも終わりを告げようとしている。

二体の戦士は力尽き、地面に倒れこむ。そして、青色の戦士が叫んだ言葉に、紫の戦士が笑い声をあげ、何かを語る。



――その時だった。




地表が突如変形を開始し、紫の戦士がまるで化物の口のように開いた穴へ落下する。

青色の戦士が紫の戦士の腕を掴んで助けようとするが、紫の戦士はその手を振り払い、穴へと落ちていく。俺の意識もまた……紫の戦士と共に落ちて行く。










「光ある所に闇が――忘れ――も――た永遠に――滅なのだっ!!」


















そして、俺の意識は『現実』へと舞い戻る。

『怒り』と『悲しみ』しかこの胸を満たさない――――――『現実』に。


























魔法少女リリカルなのはGalaxy Moon・外典

Another strikerS〜Prelude〜


第1話『栄光の流星と混沌の戦士』



























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





新暦66年5月。
第42無人世界北部、地下施設――





「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!ようやくだ……ようやく私の研究が完成するっ!!」


 暗い研究質の奥で、一人の科学者の笑い声が響く。
 研究施設の中には、様々なデータを観測しているモニターに、乱雑に放り投げられた資料の束、さらに培養液の詰まったポッドの中でただよう人らしき物体。


 そして、科学者の前には――両腕を天井から釣り下げられた鎖に繋がれ、ハンガーに固定されている巨人の姿。メタリックグリーンのラインが所々に走る、漆黒の装甲に包まれた巨人の胸部は展開されており、そこには青白い光の球体と、その周囲を覆う赤い歯車のような光が激しく輝いていた。


「……ふむ、人造リンカーコアとスパークの融合実験は成功のようだな。後は、こいつに擬似人格を付加して……」


 その時、科学者のつぶやきを遮るようにサイレンが鳴り響く。慌てた科学者は、近くのモニターを操作して映像を表示させた。


「侵入者だとっ!?なぜこの場所がバレたのだっ!?」


 モニターに映っていたのは、三人の女性が防衛装置として配置していた傀儡兵を破壊して施設の奥へと進む姿。科学者はその光景を驚愕の表情を浮かべながら見つめ、他のコンソールを操作し始める。





 だからこそ、科学者は気付かなかった。

 その背後で、沈黙を続けていた巨人の赤い瞳に――光が宿った事に。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「アリス先輩、前方に傀儡兵の反応40……突撃して蹴散らしてくださいっ!!」

「ありゃりゃ、レリスちゃんは相変わらず先輩使いが荒いねぇ……でもまぁ、ご期待に添えるとしましょうかっ!!レムレース、いけるわよねっ!?」

≪チャージ完了……いつでもいいよ、マスターッ!!≫

「紅蓮、疾走ぉっ!!スカーレット――ストライクッ!!」



 ワインレッドの光を放出させ、黒と銀の衣装に身を包み、水色の髪をなびかせた女性――時空管理局・嘱託魔導師、アリス・スノウレイドがその体躯に似合わないほど無骨な突撃槍型のデバイス――レムレースを携えて、傀儡兵の群れに突撃する。

 レムレースごと全身をワインレッドの光に包んだアリスは、文字通り閃光となって傀儡兵の巨体に風穴を開けていく。アリスが着地した後には、まるで巨大なドリルが通り過ぎたかのように床や壁が抉れており、その破壊力を物語っていた。


「……アリス先輩、相変わらず凄まじいですね。本当にBランクなんですか?」

「う〜ん、どうかしら?ここ最近昇格試験にまったく手を出してないし……単純なランクじゃアリスの強さは図れないわよ。」


 その光景に思わずため息をついた黒髪の女性――時空管理局本局所属執務官、レリス・ストライフの問い掛けに、アリスと同じ水色の髪を持つ女性――時空管理局所属捜査官、フィーネ・スノウレイド二等空尉は笑みを浮かべながら答えた。



「……というか、いい加減手伝って欲しいんだけどっ!!なんで二人とも雑談してるのさっ!!?


 フィーネとレリスが会話している中、新たに現れた傀儡兵を相手取っていたアリスの声が響く。声だけ聞けばピンチのようだが、実際はアリスのスピードで傀儡兵達は翻弄されている所だった。


「え〜?その程度の傀儡兵、アリスなら余裕でしょ?」

「戦ってる横で雑談されているこっちの身にもなってくれないかなっ!?」

≪マスター、フィーネちゃんだから仕方ないよ。≫

「そうそう、私だから仕方ないのよ。」

「それで納得するのもおかしいよねっ!?そして、姉貴が肯定するなあああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」

「……しかしフィーネ先輩、アリス先輩のおかげで奴等が一箇所に固まっています。一気に片付けるなら今がチャンスです。」

「分かったわよ……バルゴラ、セットアップ。」


 レリスの言葉にしぶしぶフィーネは頷くと、首から掛けていた十字架状のアクセサリーを手にとる。すると、アクセサリーは輝きを放ち大型のランチャー――バルゴラ・ランチャーフォルムへと姿を変える。


≪……やれやれ、ようやく見せ場が出来たか。というかマスター、もう少しやる気を見せてくれ。≫

「……本当なら、今日はジン君と遊園地に行く予定だったのよ?まぁ、雨が降っちゃったから延期に出来たとはいえ、家で待っているジン君の事が心配で心配で……」

≪だったら、さっさと仕事を終わらせればいいんじゃないのか?今回の目的は違法研究を行った科学者の確保だから、あまりチンタラしていると逃げられる恐れが……≫













































「レイ・ストレイ――ターレットッッ!!」



























 その言葉を遮ってバルゴラから解き放たれた白銀の光は、フィーネの持つ二つ名――『栄光の流星』を体現した閃光となって、傀儡兵を飲み込んでいく。閃光が収まると、先程のアリスとは比べ物にならないほどの光景――通路の奥にあった行き止まりの壁すらも貫通している傷跡。

そして、屍累々となって地面に転がっている傀儡兵の残骸が、どことなく物悲しさを感じさせていた。





「……ってこらああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!何いきなり砲撃魔法ぶっぱなしてんのっ!?しかも、明らかに私の事巻き込んでたよねっ!?ぶっちゃけありえないでしょっ!?」

≪MaxHeart♪≫

「バルゴラはこの状況でふざけんなっ!!ついでに言うと、時系列的に考えておかしいからねその台詞はっ!?」

≪スマンスマン。つい電波が……≫

≪……電波って何言ってんのさ……≫


 そして、いつの間にかフィーネ達の横に戻ってきたアリスがフィーネに対し抗議の声をあげる。まぁ、当然といえば当然だろう。そのままであれば、いくら非殺傷設定とはいえただでは済まない一撃だったのだから。


「え?アリスならあれくらい避けれるでしょ普通。実際避けてるから問題ないわよ。」

「……あの、アリス先輩……少し落ち着いた方が……」

「私の抗議は無視っ!?どこまで唯我独尊なのさ姉貴はっ!?」


 しかし、フィーネはどこ吹く風でアリスの抗議を受け流し、先へ進もうとする。なんとなく嫌な予感がしたレリスがアリスをなだめようとするが――










「――あ゛ぁ゛?いい加減にしないと怒るぞコラ。」

「「ひぃっ!?」」









 ――歩みを止めたフィーネは振り向くと、鋭い目付きでアリスを睨みつける。その凄みのある迫力に――アリスとレリスは怯えるしかなかった。


「――それじゃ、さっさと目標を捕縛しましょうか♪さぁって、帰ったらジン君の好物でも作ってあげようかしら……あ、アリスも泊まるんでしょ?ジン君、喜ぶわよ〜♪」



「……フィーネ先輩、フレイホーク君を引きとってからかなり過保護になりましたよね……」

「私、実の妹なのに……うぅ。」

≪……マスター、ドンマイ。≫




 鼻歌を歌いつつ先を進むフィーネを追いかけながら、そんな事を漏らす二人であった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「ば、ばかな!!あれ程の傀儡兵を一瞬でだと!?……い、いかんっ!!一刻も早く脱出しなくては……」



 モニターでフィーネの行動を見ていた科学者が慌てて逃げ出そうとすると、研究室の入り口が轟音と共に吹き飛ばされる。そして入ってくるのは……モニターに映っていたはずの、フィーネ達だった。



「――ジルバンス・ノースティルですね?あなたを、人造魔導師製造及びその他もろもろの違法研究の罪で拘束します。」

「あ、さっさと捕まった方が身のためだよ?今の姉貴はものすごく怖いから……抵抗したら何されるか分からないから、マジで。」

「ちょっとアリス、いくらなんでもその言い方はないんじゃない?――大丈夫よ、抵抗したらちょぉぉぉぉっっっっとだけ痛めつけるだけだから♪」

「「いや、その発言は十分怖いよ(ですよ)!?」」

≪……マスター、いい加減自重してくれ。というか、キャラ崩壊しすぎだぞっ!?本来のマスターはおしとやかキャラだったはずだがっ!?≫

≪あぁ、昔のフィーネちゃんは一体どこにいったの……?≫



 フィーネの言葉に、思わずアリス達は声をあげる。仮にも犯罪者を目の前にしているというのに、三人に緊張感はまったくない……というか、完全に空気がコメディ化していた。






「ふ、ふざけるなっ!?ようやく私の研究が実を結ぼうとしているのだ……こんなところで、貴様らのようなふざけた奴等に邪魔される訳には……」

「――!?ジルバンス、そこから逃げなさいっ!!」

「は?貴様は何を……」


 そのフィーネ達の態度に憤りを見せる科学者――ジルバンス・ノースティルだったが、レリスの声に加えて頭上を覆う影に気がついて上を向き、その光景に目を疑った。そこには――






























 「――――オオオオオオオォォォォォォッッッッッッッッッ!!」


 自らの腕に絡みついた鎖を力任せに引きちぎり――ジルバンスへと拳を振り下ろそうとする黒い巨人の姿があった。












「――くっ、カペルッ!!」

≪了解しました、マスター。≫


 黒い巨人の動きにいちはやく反応したレリスが腕をふるうと、その手に付けていたグローブ――レリスのデバイスであるカペルから魔力コーティングされた鋼糸が発射され、ゼリウスを縛りあげる。さらにレリスが腕を振ると、ゼリウスの身体は空中へ放り投げられると同時に――先程までジルバンスが居た場所に黒い巨人の拳が叩きつけられ、床が砕け散る。



「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっ!?!?」

「――アリスッ!!」

「分かってるよ姉貴っ!!」



 フィーネの声に反応したアリスが捕縛魔法を発動してジルバンスを受け止めると、フィーネはバルゴラを構え黒い巨人に魔力弾を浴びせつつ後退する。だが――その攻撃に若干たじろいだものの、黒い巨人にダメージらしきものは見受けられなかった。


「フィーネ先輩、ここは一旦避きましょうっ!!」

「分かったわ……ストレイ・ターレットッ!!」



 レリスの言葉にフィーネは頷くと、バルゴラで天井付近を狙いトリガーを引く。すると、先程よりは小さな白銀の閃光が、天井を破壊する。崩れ落ちてきた瓦礫が黒い巨人に降り注ぎ、粉塵が研究室内に立ち込める。




 しばらくすると、瓦礫を吹き飛ばして黒い巨人は立ち上がり、周囲を見回す。



「――ちっ、何があっても、奴を逃がす訳にはいかん―――犠牲になった奴等の為にもな。」



 フィーネ達がいないのを確認すると、黒い巨人はそう呟いた。






 もし、その呟きをジルバンスが聞いていたのならば驚いていただろう。自分の操り人形として動かすはずの存在が――――既に、自らの意志を持っていたのだから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 研究室から退避したフィーネ達は、通路の影に身を隠し、息を落ち着かせていた。 



「あれは、ただの傀儡兵じゃない……まさか、TFなの?」

≪マスター、そこの科学者に聞いた方がいいんじゃないか?≫

「それがさぁ姉貴……こいつ、気絶しちゃってるんだけど?」



 ――アリスの言う通り、ジルバンスは白目を向きつつ、口から泡を吹いて意識を失っていた。



「――仕方ないか。レリス、あなたはジルバンスを連れて離脱して。あのTFらしき巨人は、私とアリスで引き受けるから。」

「フィーネ先輩っ!?」

「あ、私も姉貴の意見に賛成だね。レリスちゃんならこいつを連れて安全に離脱できるし……」

「二人とも、ふざけないでくださいっ!!二人を残して自分だけ逃げるなんて……あいたっ!?」


 二人の言葉に憤りを見せるレリスの言葉を遮ったのは、フィーネが放ったデコピンだった。


「――そんなに私達が頼りないかしら?」

「大丈夫大丈夫っ!!私達スノウレイドシスターズが揃った時はね――無敵なんだよ?」


 笑みを浮かべつつそう断言するフィーネとアリスに、レリスはため息をつき――















「……師匠やヘイハチさんには、ぼろ負けしていた気がしますが?」

「「それはそれ、これはこれ。というか、あの人外クラスに勝てる方がおかしいから。」」


 ――ちょっとした意地悪で告げた言葉に口を揃えて答える二人を見て、いくらか気持ちが楽になったのであった。














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「―――ちっ、奴等は何処に消えた?」


 研究所内をサーチしながら、黒い巨人はそう愚痴を漏らす。研究所内は彼が自由に歩けるほど広いスペースが保たれていたが、逆に言えばフィーネ達の隠れる場所も多くなるので、フィーネ達を探すのは困難を極めていた。


「……いざとなれば、この施設を破壊するか……?そうすれば、奴等を燻り出すことも……ん?」


 黒い巨人がそんな事を考えていた時だった。視界に銀色の光が輝いたのが見え……黒い巨人の頭部に、閃光が炸裂する。


「――フッ、わざわざそちらから出てきてくれるとはな……手間が省けた。」


 頭を振りつつ閃光の放たれた方向を見た黒い巨人の瞳は……通路の奥にいる、フィーネの姿を捉えた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




≪どうやら、気づいてくれたようだ……ぜんぜん効いてないようだがな。≫

「まぁ、威力は最低限に抑えたしね。ダメージがないのは当たり前よ。」

(もっとも、さっきの事を考えるとそう簡単にダメージは与えられないみたいだし……最悪、“アレ”を使うしか……)

「……仲間に頼らず一人で戦う気か?……さっさと奴を渡してくれさえすれば、俺はお前達と敵対する気はないんだがな?」

「なっ!?」


 今後の展開をどうするか考えていたフィーネだったが、近づいてきた黒い巨人が発した言葉に驚きを見せる。


(――会話が成立する?という事は暴走していた訳じゃないって事で――もしかしたら……)

「……あなたは、TFなの?」

「さぁな。『TF』という存在については知っているが、『俺』がその存在に値するかは分からん――――なにせ、この体は奴が造り出したまがい物な上に――――自分についての記憶が綺麗さっぱりないからな。」

「―――っ!?」

≪馬鹿なっ!?TFという存在が公になったのはここ最近の話だぞっ!!≫

「そんな事、俺が知るか……さらに言えば、『俺』という存在が完成するまで多くの造られた命が犠牲になった―――――――――俺の体に人造リンカーコアというモノを搭載する、ただそれだけのためになっ!!

“……ねぇ、姉貴……なんか、変な方向に話が進んでいない?”

“私もそう思っていた所……でも、なんとなくだけど……やらなきゃいけない事は分かった気がする。”


 念話でアリスと会話しながら、フィーネは今までの情報を素早く頭の中で纏めていく。その中に、この状況を打開する何かを見つけ出す為に。


(ジルバンスが行っていた人造魔導師等の研究は全て……彼に人造リンカーコアを搭載する為の研究だった。けれど、ジルバンスの予想よりも早く彼の『自我』が芽生えてしまった――そして、彼は動けないままジルバンスの実験を目撃し続け……その目的を理解した。でも、彼が今まで行動を起こさなかったのは――)

「……あなたの体が完成するタイミング、それを待っていたのね――ジルバンスを殺す為に。」

「――その通りだ。別に今までタイミングがなかった訳じゃないが……未完成なこの体で事を成しても、その後が問題だからな。俺は犠牲になった命の分まで生きなくてはならない……だが、それは奴を殺してからだ。分かったら、そこをどいて奴を渡せ……貴様らに迷惑はかけん。」

















「――――そうはいかないわ。悪いけど――――あなたは、ここで止める。」

「……何?」





 黒い巨人の怒りと悲しみに染まった赤い瞳を見つめながら……フィーネは決意する、黒い巨人と戦う事を。



「確かに、あなたの怒りと悲しみは分かるわ……同じ輝きの瞳を持った子を私は見た事がある。」


 そしてフィーネの脳裏に浮かぶのは、自分がある事件の後保護責任者となった子供の事。彼もまた、自分の家族を奪った存在に対しての怒りと家族を失った悲しみを……その瞳に宿していたのだから。





「……だからこそ、私はあなたに手を汚して欲しくない。あなたの命も、犠牲になった命も、あんな奴の命を奪う為に存在するものじゃないっ!!
 それでもあなたが止まらないというのなら――――――私が……いえ、『私達』が止めて見せるっ!!」

「だったら―――――貴様は、俺の敵だっ!!」







 フィーネの叫びに答えるように黒い巨人は床を蹴り、その拳をフィーネに振り下ろそうとする―――――




















「はあああぁぁぁぁぁっっっっ!!」

「何っ!?」



 ――が、その眼前に通路の壁を打ち砕きながらアリスが現れる。

驚いた黒い巨人はとっさにその一撃を回避しつつ、フィーネに視線を向けると――






「ヘルブ――――ストライクッッ!!」

「がはっ!?」



 その隙を見逃さなかったフィーネによって、魔力で覆われたバルゴラのストックが、黒い巨人の胸部に叩き込まれる。



「アリス、今よっ!!」

「それじゃ、ドでかいのをぶちかましましょうかねっ!!レムレース、ブレイクモードッ!!」

≪了解っ!!≫



 アリスの声と共にレムレースの槍頭が上下に展開し、前方にレールが展開される。そして、ワインレッドの魔力が収束し始め―――巨大な、光の刃となる。




≪エネルギー充填完了っ!!マスター、いつでもいいよっ!!≫

「紅蓮、爆撃っ!!クリムゾンッッッッ!!ヴォルガァァァァァァッッッッッッ!!」


 ――咆哮と共に解き放たれた光の刃は、紅蓮の奔流となって黒い巨人を飲み込んでいく。そして、閃光が収まると――




「……グッ、グゥ……」



 全身から火花を散らし、装甲がボロボロになった黒い巨人が――通路の奥の壁に出来たクレーターの中央に叩きつけられていた。



「……アリス、お疲れ様。」

「まぁね。後は、バインドをかけてレリスちゃんに連絡――「……こんな……こんな所で……」――って、ウソォッ!?」

≪あの攻撃を受けて動けるなんてっ!?というか、どう考えてもあっちがやばいよっ!?≫


 レムレースの叫ぶ通り、黒い巨人が壁から抜けだすとその体からは軋む音が聞こえ、火花もあちこちから噴き出す。しかし――驚くべき事は、それだけではなかった。


「……俺は……俺はぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 黒い巨人の咆哮に答えるかのように、内部がむき出しになった胸部から真紅の光が溢れ出すと――光は三体の小型ロボットに姿を変え、さらに三体のロボットが合体し、赤いクリスタルのようなライフルへと変わる。



「――何なの、あの武器は?」

≪そんな悠長な事を言ってる場合じゃないぞマスター!?あの武器から、Sランク級のエネルギーを計測したっ!!≫

「ちょい待ち。つまり、どういう事っ!?」

≪あの武器は、単独でSランクオーバーの攻撃を放てる可能性があるんだよマスター!!≫


 そんな話をしている間にも、黒い巨人が構えるライフルに赤い光が集まりだし――その銃口が、フィーネ達に向けられる。


「……バルゴラ、グローリーモードを起動するわよ。」

≪マスター!?≫

「今のままじゃ、彼を止める事はできない……なら、私の全力全開で――意識を刈り取るっ!!」

≪……全く、覚悟を決めた女性は恐ろしいものだ。了承した……久しぶりに、全力全開でいくぞっ!!≫

「ありがとう。それじゃ、アリスは後ろに下がっていてね?」

「う、うん……分かった。」


 バルゴラの返事に笑みを浮かべると、フィーネはアリスへと視線を向ける。アリスは不安そうな顔をしていたが……やがて頷くと、フィーネ達から距離をとった。それを確認すると――フィーネは黒い巨人に視線を戻し、強い決意と共に叫んだ。



「グローリーシステム、起動っ!!」




 ――すると、フィーネの背中に翼状のユニットを備えたバックパック型デバイス――ディスキャリバーが装着され、翼状のユニットが勢い良く広がると共に内部のフィンが展開される。

 そして、ディスキャリバーに光が集まり、フィーネのシルエットは光の翼を備えた天使のようになる。
――周囲に存在する魔力を無尽蔵に取り込み、装着者へと還元する――その単純ゆえに強力である力は、装着者にも多大な負担を強いる物でもあった。しかし、フィーネは自身の体など気にせずに魔力を取り込んでいく……自分の全力を、黒い巨人にぶつける為に。












「くらえっ!!コズミック――ノヴァッッ!!」

「グローリースター・フルバァァァァァストッッッッ!!」






 ――そして、それぞれの銃口から放たれた赤と白銀の閃光が通路上で激突する。始めのうちは拮抗していた二つの閃光だったが、少しずつ――ほんの少しずつだが、銀色の閃光が赤い閃光に飲み込まれていく。




≪馬鹿な……こちらの出力を上回っているというのかっ!?≫

「だったら、こっちはそれの上をいくだけよっ!!バルゴラ、ディスキャリバーのリミッターを解除してっ!!」

≪何を言っているマスター!?これ以上開放したら、マスターの体は……≫

「いいからっ!!」

≪――どうなっても知らんぞっ!?リミッター、フルカットッ!!≫

「流石に、ちょっときついわね……でも、負ける訳にはいかないのよ……」


 ――バルゴラの声と共に、押されていた銀色の閃光が徐々に赤い閃光を押し返していく。だが、それと同時にフィーネの頬を、大量の脂汗が流れていく。それでもなお、フィーネは前を見据え……渾身の力を込めて叫ぶ。







「いっっっ、けぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!!!」

「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁっっっっっ!?!?」




 フィーネの気迫に答えるかのように勢いを増した銀色の閃光は赤い閃光を飲み込み、黒い巨人を飲み込んでいく。光が収まると、黒い巨人は床に崩れ落ち――フィーネは床に膝をつき、荒い息を吐いた。





「姉貴っ!!」

≪フィーネちゃん、大丈夫っ!?≫

「……あ、アリス……レムレース……ごめん、少し……眠らせて……」

「って、姉貴っ!?――ってなんだ、寝てるだけか。まったく、この姉貴は心配ばっかかけさせて――」


 駆け寄ってくるアリスの姿を見ると、フィーネは安心したのか笑みを浮かべ――その体を、アリスに預けた。始めは驚いたアリスだったが、フィーネが寝息を立てているのを確認すると、安堵のため息をついた。





『――フィーネ先輩、アリス先輩っ!!無事ですかっ!?』

「お、レリスちゃん。とりあえず、あの黒いTFは姉貴が沈黙させたよ〜♪だから、そんな怖い表情しないの。」

『そ、そうですか――』


 すると、アリスの目の前に空間モニターが開き、慌てた表情を浮かべたレリスが映し出される。そんなレリスにアリスは口元に笑みを浮かべて状況を報告した。


「……あ、でもさ?黒いTFを重要参考人として連れて行かなくちゃいけないと思うんだけど……そこら辺どうするの?」

『――あぁ、その点に関しては問題ないです。幸いな事に、専門家とも言える方々の協力を得られましたから――』

「専門家?」



 黒い巨人について尋ねたアリスだったが、そのレリスの言い回しに首を捻り――
















『――失礼する。こちらは時空間航行艦アースラ所属、クロノ・ハラオウン執務官だ。』

「……わお、確かに『専門家』ね。」


 



 通信に入り込んできた少年の顔を見て、アリスは少なからず驚きを見せたのであった。































 そして今――新たな物語が、動き出そうとしているのであった








To be Continued...























初めての方向けのオリキャラ・デバイス紹介



フィーネ・スノウレイド
時空管理局所属の魔導師。現在はフリーの捜査官で、ミッドチルダを活動の拠点としている。
性格はお茶目な部分もあるが、比較的温和である。ただし、キレると口調ががらっと変わったりする、いわゆる『裏モード』が存在する。
『栄光の流星』という二つ名を持ち、地上本部や本局を問わず有名である。

ある児童の保護責任者となっているが、最近は親馬鹿になりつつある。

イメージCV:大原さやか


バルゴラ
フィーネの使用するデバイス。基本的な形は白いランチャー(ファイ○ブラスターを想像してもらえるとわかりやすい)。
全距離に単独で対応できるというコンセプトのデバイスだが、フィーネが遠距離を得意としているのでそのスペックをフルに発揮できる機会は少ない。

ボケとツッコミの両方ができるオールラウンダーで、若干天然の要素があるフィーネのいいストッパーになる……のか?

イメージCV:福山潤


アリス・スノウレイド
時空管理局の嘱託魔導師で、フィーネの妹でもある。生粋のバトルマニアで、ランク制限をかけられるのが嫌だからという理由でランク昇格試験を受けていない。放浪癖があり。

性格はお調子者だが、フィーネには頭が上がらない。

イメージCV:坂本真綾


レムレース
アリスの持つデバイスで、突撃槍(ランス)型のデバイス。
性格は真面目なので、アリスのストッパーとなる苦労人。

イメージCV:牧野由依


レリス・ストライフ
時空管理局本局所属の執務官。フィーネやアリスとは同じ人物に師事した同門で、二人を先輩と呼ぶ。
クールビューティーを体現しているともいえる美貌だが、まだ執務官になりたてなので若干頼りない部分もある。

イメージCV:日笠陽子


カペル
レリスの使用するグローブ型のデバイス。
デバイス自体に攻撃力はないが、魔力コーティングされた鋼糸を発射する事ができ、汎用性が高い。
性格はおとなしく、必要最低限の事しかしゃべらない。

イメージCV:竹達彩奈


あとがき

……やってしまった。

コルタタさんの『とある魔導師と機動六課の日常』と、モリビトさんの『Master strikerS』という、個人的になのは系二次でお気に入りの作品がクロスするという事でテンションがフォルテッシモ状態になり、私がコルタタさんのサイトで投稿している作品のキャラがGM〜MS世界に居たらというIFで書いてみました。

しかし、『とある魔導師と守護者と機動六課の日常』がどんな話になるか分からないので(当たり前だというツッコミはやめて下さい)、とりあえず本来の主人公であるジンではなく、その師匠である『フィーネ・スノウレイド』をメインとした話にしてみました。ただ、予想以上にキャラクターがはっちゃけてしまってびっくりしていますが……


ちなみに、今回登場した黒いTFは……冒頭で分かる方もいらっしゃるかもしれませんが、『マイクロン伝説』のスカージをイメージしています。いや、あれ(というか、TF全般におけるダーク化したキャラのデザイン)はかっこいいですよね。中身は別物ですが。
次回以降で詳しい設定は乗せます。

本家とまとの方ではコルタタさんのご好意によりうちのキャラも出演させてもらっているので、『とある魔導師と守護者と機動六課の日常』でもゲスト的な感じで出演できたらいいなぁ……という超×5な希望的観測を若干期待して、あとがきを終わらせていただきます。

それでは、次回をご期待下さい。



P.S.モリビトさん、図々しくて申し訳ありませんでした。




管理人感想

 DarkMoonNightさんからいただきました!

 子煩悩なフィーネさんが可愛すぎる(苦笑)。
 親バカモードのフェイトとはまた違った趣が。その調子でジンくんを思い切り甘やかしてください(ぇ

 しかし冒頭からいきなり『マイ伝』最終話のアレが出てくるとは。
 と、いうことは、黒いTFの正体って……?

>本家とまとの方ではコルタタさんのご好意によりうちのキャラも出演させてもらっているので〜

 フフフ、お望みとあらば応えなければなりますまい(ニヤリ)。