新暦66年5月。
――アースラ内







「……ハラオウン提督、ハラオウン執務官、今回は手を貸していただいてありがとうございました。」

「いえ、私達も偶然近くを巡航していたものですから……」

「それに、いくら僕達がTFと関わった事があるとはいえ、彼女達がたまたま居合わせてなければあのTFを治療する事は難しかったでしょう。」

「そうですね……八神はやてさん、ありがとうございます。」

「そ、そんな……私達も、当然の事をしたまでです。だから、頭を上げてください。」



 アースラのブリッジでリンディ達と改めて顔を合わせたレリスは、今回の件で一番尽力してくれた少女――八神はやてに深々と頭を下げる。はやてはというと、照れくさそうに頭をかきつつ、レリスに言葉を返した。



「ともかく、我々も補給の為に一度本局に戻らないといけないので、あなた達もゆっくり休んでいてください。ジルバンスの監視はこちらでも行いますので。」

「お心遣い感謝します……それでは、申し訳ないですが少し休ませてもらいますね。」


 リンディの言葉にレリスは頷くと、そのままブリッジを後にする。その姿を見送りながら、はやては笑みを浮かべたまま言葉を紡いだ。


「……なんか、クールでかっこいい美人さんやね。部下の人達も美人さんばかりやったし……」

「確かに、彼女達は結構有名だよね。私も色々噂を聞いた事あるよ。」

「エイミィ、そうなのか?」

「うん。特に有名なのはフィーネ・スノウレイドさんかな?彼女が応援として呼ばれた部隊は従来以上の成果を挙げるから、『栄光の流星』って二つ名で呼ばれてるんだよ。その妹であるアリス・スノウレイドさんやストライフ執務官も、それぞれ『紅蓮の槍騎士』と『黒影の傀儡師』って二つ名があるし……」

「とりあえず、かなりの実力者が集まっている事は分かった。」

「……それで、はやてさん?あちらの方はどうなっているのかしら。」

「あ、今確認してみます……シャマル、そっちはどうなってるん?」


 エイミィが熱を込めて語るレリス達の話にリンディは苦笑しつつ、はやてに状況を確認する。はやては空間ウィンドウを開くと、アースラと共に巡航していたフォートレスに居るはずのシャマルへと、通信をつないだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「――あ、はやてちゃん。あのTFの治療ならたった今終わりました。でも、意識がまだ目覚めてないので……」

<そうなんか、お疲れ様。ほんなら、意識が目覚めたら教えてな。>

「はい。」




 治療をしていたシャマルは空間ウィンドウを閉じると振り返り、治療カプセルの中に入っている黒いTFを見上げる。だが、その表情には不安の色が浮かんでいた。


(でも、気になる事はたくさんあるわ。スパークと融合している人造リンカーコアに、映像で見せてもらった謎の武器。それに――)


 そして、シャマルは空間ウィンドウを再び開く。そこには、ノイズ混じりに映し出された――二体のTFが激闘を繰り広げている映像や、宇宙で繰り広げられている激戦の映像。
















(まるで、何かを私達に教えるように彼から発信されている映像。これが、彼の深層意識に眠っている記憶だとして――どうして、ユニクロンの姿が映し出されているの?)


 シャマルが見つめる映像には――かつて多くの勢力が協力して倒したはずのユニクロンと、ユニクロンの姿をした光が組み合っている様子が映し出されていた。












魔法少女リリカルなのはGalaxy Moon・外典

Another strikerS〜Prelude〜


第2話『過去との邂逅、進むべき現在(いま)』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









「……俺は……そうか、あの女に負けたのか………」


 
 闇の中に浮かびながら、黒いTFはそんな事を呟く。その言葉には自らに対する失望と――どこか、安らぎを得た感情が込められていた。そのまま、黒いTFは闇の中をただよう……だが、一向に闇の果てが見える気配はない。




「だが、この場所は何処だ?なぜここは――こんなにも空虚なんだ。」













――それは、貴様自身が空虚な存在だからだ――

「なっ!?」






 その時、闇の中に声が響くと共に強烈な紫の光が黒いTFの視界を包み込む。気がつくと、黒いTFはデストロンとサイバトロンの紋章が描かれたステンドグラスのような地面の上に立っていた。さらに、黒いTFの向かい側には――





「ここはスパークに宿り、眠りについたTF達の意志が一つに集まる特殊な空間――貴様のように己という存在を見失った存在には、果てなき闇しか広がらん。」





 まるで戦車をそのまま変形させたかのような白と紫の装甲に身を包み、右脇からは巨大な砲身を、頭部からはニ本の鍬形のような角を備えた武神のようなTFが、腕を組んで黒いTFを睨みつけていた。



 ――そして、その姿を黒いTFはよく知っていた。なぜなら、その戦士は彼が眠りについている間ずっと見続けていた記録の中で――ずっと戦っていた存在だったのだから。




「……貴様、何者だ?」

「――儂の名は、破壊大帝メガトロン。デストロンを統べる――いや、統べていた存在というべきか。」

「メガ……トロンだと……くっ!?」


 その名前に懐かしさを覚えていると突如黒いTFの脳裏にノイズが走り、走馬灯のように映像が浮かんでは消えていく。












メガトロン様は、なぜ私にマイクロンをくださらなかったのですかっ!!




私の――マイクロンだっ!!





メガトロン様……




一刻の感情だと?そう思うのはメガトロン――貴様の勝手っ!!





あなたに――認めてもらいたかった――それだけだったのかも知れません――




……メガトロン……様……






わが魂なるスパークよぉぉっっ!!総ての力を解き放てぇぇっっ!!
























――色々――あったな――
















(……なんだ、この記憶は……!?こんなもの、俺は知らない!!だが……)




 そして、最後の言葉と共に浮かぶ人間の子供達――その中でも、なぜか印象に残る少女の笑顔。



(何故だ……なぜ、俺は懐かしさを……いや違う……なぜ、この少女達を『護りたい』と強く願うっ!?)

「……貴様……俺に何をしたっ!?この記憶は……この感情は一体なんなんだっ!?」



それが痛みを引き起こし、黒いTFの心をかき乱す。黒いTFは頭を押さえると、その痛みに耐えるようにメガトロンを睨みつける。



「やはり、記憶が曖昧となっておるか……儂は貴様を見定める者だ。貴様が、新たな道を歩めるかどうかのな。」



 メガトロンはため息をつくと、その右手に青い光が集まり――光の刃を携えた、剣へと変わる。メガトロンはその切っ先を黒いTFへと向けると、口元に獰猛な笑みを浮かべた。



「さぁ……貴様の力を見せてみろっ!!」

「ちぃっ!!」



 一瞬にして接近したメガトロンが振り下ろす斬撃を横に飛ぶ事で避けた黒いTFは地面に着地すると、右手を横に振り下ろす。すると赤い光が右手に集まり、メガトロンが持つ剣と似た形状の剣が生み出される。


「何がなんだかわからんが……どうやら、貴様は何か知っているらしいなっ!!貴様の知っている事……吐いてもらうぞっ!!」

「フッ、貴様が儂に勝つ事ができれば全て教えてやろう……できればの話だがなっ!!」



 そして、黒いTFとメガトロンは互いに距離を詰め――赤と青の刃がぶつかり合った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「……ん……あれ……?」

「あ、気がついた?」

「フィーネ先輩、お体は大丈夫ですか?」

「……アリス……レリス……」


 フィーネが目を覚ますと、安心した様子を見せるアリスとレリスの顔が視界に入る。体を起こそうとするが、レリスが慌ててそれを止める。



「無茶しないでくださいっ!!アリス先輩から聞きましたよ、グローリーシステムをリミッター解除で使用したそうですね?体に負荷は残っていますから、今は安静にしてくださいっ!!」

「……ゴメン……それで、あのTFは?」

「あ〜、別の場所で治療しているよ。だから、姉貴も体を休めてね?」

「……うん……それじゃ、後で詳しく話を……スゥ、スゥ……」


 二人の言葉に笑みを浮かべると、再びフィーネは眠りにつく。そんな様子を見ながらアリスとレリスは顔を見合わせ、ため息をつきながら笑みを浮かべていた。



「まったく……一番の年長者が手間がかかるってどうなんだろうね?自分の事よりも他人に対して熱心すぎるよこの姉は……」

「でも……それがフィーネ先輩のいいところですから。」

「確かに。」



 そして、医療室には小さな笑い声が響いていた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「フハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!どうした、その程度かっ!?」

「くっ……嘗めるなあああぁぁぁぁぁっっっっ!!」



 ――赤と青の斬撃が、幾度となく二人の間でぶつかり合う。激しさを増す戦闘だったが、メガトロンにダメージは一切なく、黒いTFの方には――無数の傷跡が全身に刻まれていた。



「他愛もない――なんと他愛もない事よっ!!仮にも我が宿敵と同じ姿をしているのならば、せめて儂に一太刀でも浴びせてみよっ!!」

「ごちゃごちゃと訳の分からぬ事を――くっ!?」


 メガトロンの猛攻をなんとか凌いでいた黒いTFではあったが、メガトロンの発した言葉に気を取られた隙に剣を弾き飛ばされてしまい、さらに胸部に叩き込まれた砲撃によって地面にたたきつけられる。



「ぐっ……」

「貴様なら儂を超えると思っていたが――見込み違いだったようだな。ならばせめて……この儂の手で、貴様を葬り去ろう。」



 そう呟くと、メガトロンはゆっくりと黒いTFに向かって歩いてくる。黒いTFを見つめているその瞳には――失望の色が浮かんでいた。


(……終わる?こんな所で終わるのか?あの科学者によって体を好き勝手弄られ、散っていった命の為に復讐を果たそうとすれば女の魔導師に止められ、そして失われた記憶を取り戻そうとすればそれも阻まれ……認められるか、そんな事っ!!)

「……ふざけるな……勝手に、俺の限界を見極めないでもらおうか……」


 己への憤りを胸に、黒いTFはゆっくりと立ち上がり、近くに転がっていた赤い剣を手にとる。そして、その刃をメガトロンへと向けた。


「ほぅ、まだ立ち上がる気力が残っていたか……そこまでして、貴様の過去を知りたいか?」

「……確かに、それは気になるが……それよりも、今の俺がやりたい事はただ一つ――」



 そして、黒いTFはボロボロの体に鞭を打ち、メガトロンへと走り出す。その瞳に、揺ぎ無い決意の炎をたぎらせて。



「――メガトロン、貴様を倒す事だっ!!」

「その心意気はよしとしようっ!!だが、力なき想いなど無意味と知れっ!!」

「だったら、力で示してみせるっ!!」







 二人の咆哮と共に、再び赤と青の刃が激突する。二人の気合によって輝きを増した刃が空間にエネルギーを巻き散らし、一撃一撃がぶつかる度に閃光が解き放たれる。




「ぬぅぅっっ!?」

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!」







 だが、先程までの状況とは違い、黒いTFの猛攻がメガトロンに攻撃させる暇を与えない。それを凌ぎながら、メガトロンは内心笑みを浮かべていた。


(……儂を倒すという決意に意識を集中させた事で、己が忘却した記憶に囚われなくなったか……さらに、二つの刃を手にした事で攻撃の幅が広がっておる……そうだ、そうでなくてはなっ!!)


――そう、いつの間にか黒いTFの左手には青い翼のような剣が握られており、それを手にした事によって黒いTFの動きが変化していたのだ。それが、メガトロンに防御の一手をとらせていた。一方で、黒いTFの方にも……変化が現れる。



(……いったい、この剣はなんだ?それに、前にもこんな事があった気がするが……いや、今は集中しろっ!!メガトロンの攻撃を凌げなかったのは、記憶に気をとられていたからだ。戦闘に集中できていないような状況で勝てるほど……メガトロン『様』は甘くないっ!!)



 それは、本人ですらも気付いていない……いや、『それが当たり前だった』かのような変化は、徐々に黒いTFを侵食していき――それに呼応するかのように、黒いTFの体に青い影が重なる。だが、それに気付かぬまま二人の戦いはより激しさを増していく。





「はぁぁぁっ!!」

「ぬっ!?」

「これでぇぇぇぇぇっっっっ!!」



――そして、ついに戦いに決着が訪れる。黒いTFがメガトロンの剣をはじき飛ばすと右手に持つ剣でメガトロンの角を切り落とし、トドメと言わんばかりに左手の剣をその胸部へと突き立て――









































「――なぜだ、なぜそこで刃を止める?」



――しかし、その刃はメガトロンの胸部を貫く事はなく――そのわずか数ミリ前で止められていた。そして、空中を舞っていたメガトロンの剣が地面へと突き刺さると、黒いTFはゆっくりと剣を引く。




































【この戦いは茶番だ。最初から――『私』の記憶を揺さぶる為の戦いだったのでしょう?】
























「どうやら、思い出したようだな……我が最高の部下、『スタースクリーム』よ。」



 メガトロンの笑みと共に告げられた言葉に、黒いTFの体を青い光が包み込み……戦闘機が変形したかのような青いTFの姿が現れる。そして、その青いTF――『スタースクリーム』と呼ばれたTFは、メガトロンに対し笑みを浮かべた。



【――このような形で、また貴方と戦う事になるとは思いませんでした。】

「それは儂もだ……だが、たとえ仮初の体だとしても……貴様は本当に強くなった。」

【まだまだ、貴方には敵いません――ですが、疑問もあります。なぜ、私がこのような形で蘇ったのか――そして、『コンボイ』と同じ体を持っているのか。】

「それは、貴様自身が答えを見つけ出さねばならん事だ。サイバトロンでもなく、デストロンでもなくただのTFとしての貴様自身がな。そして、再びこの場所に戻ってきた時に貴様の答えを儂に聞かせろ。これは、デストロン破壊大帝として儂が貴様に告げる――最後の命令だ。」

「……分かりました。必ずや、メガトロン様のご期待に添える答えを見出してみせましょう。」



 メガトロンが腕を組みつつそう叫ぶと、スタースクリームの姿が徐々にその輝きを弱めていき……再び、黒いTFの姿へと戻る。だが、纏う雰囲気は以前までと一変しており、どこか落ち着きを見せていた。



「ならば、儂自らがその新たな姿に名をつけてやろう……だが、その体にちなんで『守る者コンボイ』の名を贈るにはまだまだ貴様は未熟だ……『混沌の力を宿し、守る者コンボイへと至る者』……そう、『カオスプライム』とこれからは名のるがよい。」

「……ありがたく、その名を拝命させていただきます。」


 メガトロンの言葉に黒いTF――カオスプライムが頭を下げると、暗い闇に包まれていた空間に光が溢れ出し――果てしなく広がる紺碧の空間へと変わる。そして、小さな星のように輝く光が――カオスプライムを祝福するかのように、点滅を繰り返していた。


「これは……?」

「なに、貴様の新たな旅立ちにスパークに宿った意志達が反応しているだけだ――ついでだ、あの『小娘』にも声をかけていくといい。」

「……え?」


 そう言いつつメガトロンが頭上に手を掲げると、空間に瞬いていた光達が渦を描くように動き始め――その空間に、一つの映像を映し出した。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











 その瞳に懐かしさと寂しさを浮かべて、今日もまた『彼女』は夜空を見上げていた。『彼女』がまだ少女と呼ぶに相応しい年齢だった頃に出会った『非日常』は、『彼女』にかけがえのない出会いと――そして悲しき別れを経験させた。そしてまた、新たな『戦い』が幕を閉じ……世界には平和が訪れていた。

 その平和を噛みしめるように、犠牲になった存在達を忘れない為に『彼女』は夜空を見上げている。そして――首から下げたネックレスの先に結ばれた、緑色に輝く火星の石を強く握りしめる。


 ――それはもしかしたら、『恋』と呼ばれる感情だったのかもしれない。だが、その想いを告げるべき相手は自らの信念を貫く為――そして、『彼女』達の未来を護る為に戦いの中で散っていった。気がつけば、『彼女』はその瞳に涙を浮かべていた。その涙を拭うと、『彼女』は今やるべき事を……自分なりに平和を守る為の『戦い』へと戻ろうとする。そして、夜空から視線を外して後ろにある建物の中へと戻ろうとしたその時――空一面を、無数の流れ星が覆い尽くしていく。



「……綺麗……」



 思わず足を止め、再びその星々を『彼女』は見つめる。その暖かい光に、『星』の名を冠していた『彼』を思い浮かべながら。











「……大丈夫、私は大丈夫だよ……だから、ずっと……ずっと私達を見守っていてね……」
















――あぁ、もちろんだ――




























「……え?」


 それは、何気なく呟いたはずの言葉だった。だが、その呟きに答える声が……『彼女』の耳に響く。



――たとえこの体が滅びようと、たとえこの想いが届かない程の遠い場所に居ようと――私は、君達を見守り続けよう――

「……うぅん……届いてる……あなたの想いはちゃんと……ちゃんと、届いているからっ!!だから、だから……」



 二度と聞く事はないだろうと思っていた声――だが、確かに自分の心に響く声に彼女は答える。その瞳から、嬉しさと共にこぼれ落ちる大粒の涙を拭おうともせずに。そして、彼女の想いに反応するかのように、胸元の石が星々に照らされて輝きを放つ。



――ありがとう――

「……何言ってるのよ……ありがとうって言いたいのは、こっちの方なのに……また、会えるわよね……?」

――あぁ。君が望むのならきっと――だから――




 だが、夜空を埋め尽くしていた星々がその輝きを失い――その言葉は、最後まで『彼女』の耳に入る事はなかった。しかし、その想いは――ちゃんと彼女の心に響く。




















「……届いたわ、あなたの想い……いつかまた、会える日まで……またね、スタースクリーム……」









 そう呟きながら夜空を見つめる『彼女』の瞳には――もう、涙は浮かんでいなかった。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











「――あれだけでよかったのか?」

「えぇ……『私』の想いも、『彼女』の想いも……きちんと伝わりましたから。」

「……そうか。ならば、貴様が戻るべき世界へと戻るがいい……」


 メガトロンはカオスプライムの答えに笑みを浮かべると、カオスプライムに手をかざす。すると、カオスプライムの体が光に包まれ……徐々に、その体を薄れさせていく。



「さらばだ、スタースクリーム……いや、カオスプライムよ。貴様の答えを――楽しみにしているぞ?」



メガトロンの言葉にカオスプライムは頷くと、そのまま光と共に消えていく。そして、それを見送ったままメガトロンは腕を組むと頭上を見上げ――

















「これでよかったのか?――プライマスよ。」

――うむ。ご苦労だったな、“異世界”の破壊大帝よ――






 ――突如現れた巨大な光に、そう語りかける。そして、巨大な光――プライマスの姿を象った光もまた、メガトロンに労いの言葉をかけた。



「――しかし、本当に必要だったのか?あの世界のサイバトロンやデストロン、それに関わった人間達の組織でもどうにかなると思うが……」

――確かに、その通りかもしれん……だが、ユニクロンの脅威が消えた訳ではない……保険は必要だったのだ――

「……その為に、スタースクリームをあの世界へと転生させたか……御丁寧に、ユニクロンの眷属を探しやすくする為の“力”まで与えて。」

――本来ならば、“破壊大帝”の名を冠したお前に行ってほしかったのだがな――

「……ふん、我が宿敵の『コンボイ』を倒せるならまだしも、異世界の『コンボイ』など興味はない……それに、奴と同じ姿で戦うのも御免だ。だがなプライマス――あまり儂の部下を嘗めるなよ?あ奴は儂が率いたデストロンの中で最も優秀な部下だ。なにせ、この儂と互角に戦えるだけの力と誇り高き信念を持っていたのだからな……」

――そうか。ならば、期待させてもらおう――





 ――それは、新たな戦いを感じさせる予兆だったのかも知れない。だが、メガトロンやプライマスの言葉に不安の色はなく……新たな戦いの主役へとなる者達への期待が込められていた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「……確かに、それは気になるな。シャマル、この事はリンディ提督や主はやてに報告したのか?」

「いいえ、まだよ。この記憶の真偽が分からない以上、下手に騒ぎ立てる必要はないと思って……」

「――賢明な判断ではあるが、はやてにバレたら怒られるなこれは。」

「だが、主はやてもきっと分かってくれるだろう。今は無用な混乱を引き起こす場合ではないのだからな……」



 フォートレス内で、黒いTFが眠っている治療カプセルの前でビッグコンボイ、スターセイバー、シグナム、シャマルはその記憶映像について会話していた。万が一害を及ぼすような存在ならいつでも戦えるように警戒は緩めていないが、それでも疑問は残った。


「……だが、このユニクロンの映像には妙な点がいくつもあるな。何かと戦っている事は分かるが、明らかにGBH戦役の映像ではない。」

「それに、二体のTFが戦っている映像……こんなTFは見た事がない。深い青色の戦士は彼に似てはいるが……いや、むしろ……」

「……伝説となっている初代サイバトロン総司令官……だな?姿こそ違えど、なぜか俺達TFにそう認識させている……」

「……ますます訳が分からなくなったわね。やっぱり、彼が目覚めない事には……え、バイタルが安定しているっ!?」

『何っ!?』
 

 ため息をついたシャマルは何気なくモニターを確認すると驚きの声をあげ、それと同時に治療カプセルが開き――中から黒いTFが出てくる。



「やれやれ、どうやら歓迎されていないらしいな。まぁ、気持ちは分からなくもないが……」

「……それはお互い様と言うものだ。お前には色々聞きたい事があるが……その前に、名前を聞かせてもらおうか。君を保護した魔導師にすら名乗っていないようだからな。」

「そういえばそうだったな……私の――いや、『俺』の名前はカオスプライムだ。」


 警戒しつつそう訪ねるビッグコンボイに対し、黒いTF――カオスプライムは、そう名乗った。




To be Continued...
















オリジナルキャラ紹介


カオスプライム

ジルバンスによって造られた人造TF。元々はジルバンスが傀儡兵として運用する予定だったが、スパークに宿っていた自我が人工リンカーコアとの融合で覚醒した為、従来のTF達と同じ存在へと変化した。現在の所魔法が扱えるかは不明だが、自身のスパークから発生したエネルギーと魔力を結晶化して作り出す武器『エナジーウェポン』を武器とする。

スパークに宿っていた自我の正体は、別世界でユニクロンと激闘を繰り広げたスタースクリーム(マイクロン伝説版)である。プライマスが何らかの目的を持って彼のスパークを転生させたらしいが、その詳細は不明である。

ちなみに、彼が『スタースクリーム』としてではなく新たな存在として転生させられた理由はこの世界にも『スタースクリーム(スターコンボイ)』が存在する為で、本質的には『スタースクリームの記憶を宿した新たなTF』という扱いになる。






あとがき


……という訳で第2話です。もう少し引っ張ろうかなぁと考えていた黒いTF改めカオスプライムの正体。実は、最初の構想と全然違ったりするのはご愛嬌です……いや、今回登場したゲストキャラとの関わりを考えたらこうなっちゃったんです。あと、資料として閲覧していたマイクロン伝説の感想で『スタースクリームかっこいいぜっ!!』となったからかも……?まぁ、話に広がりができたのでよかったかなぁと今では思ってたり。


 そして、ゲストキャラとして搭乗したマイ伝版メガトロンと『彼女』。年代的には『スーパーリンク』後を想定しています……はいそこ、だったらメガトロンじゃなくてガルバトロンだろとか突っ込まない。スパークになった時にメガトロンに戻ったって解釈でお願いします。


次回ではジンが出せるといいなぁ……という訳で、今回はこの辺で失礼します。



管理人感想

 DarkMoonNightさんからいただきました!

 カオスプライムの正体は『マイ伝』版のスタースクリームでしたか。
 彼は本当に偉かった。モリビトのスタースクリーム観を180度ひっくり返したすごい人です。
 『GM』シリーズ版のスタースクリームもだいぶ影響を受けてます。『ギャラクシーフォース』版のスタースクリームが成長して『マイ伝』版スタースクリームに……といった感じで。
 しかし、そんな彼を蘇らせて、プライマスは何を考えているのか……?

 そして登場が期待されているジンくん。この時期はまだ純真であろう彼が、ジュンイチ達によってどうスレていくことやら(マテ)。