まもって守護月天! 外伝〜THE LOST KINGDOM〜
第一話 闇、迫るとき −目覚める記憶− (前編)
1
いつもの朝?
「・・・・・・・・様・・・・・・・・助様・・・・・・・・太助様!」
「うわああぁぁぁぁっ!!」
太助はガバッとベッドの上に上体を起こした。
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・シャオ・・・・?」
気が付くと、心配そうな顔で覗き込むシャオがいた。
「大丈夫ですか、太助様? ずいぶんうなされてましたけど、悪い夢でも見たんですか?」
シャオが心配そうに聞く。
「うん・・・・・・シャオが・・・・・・・・いや、なんでもないよ・・・・・・・」
太助はそう言ってシャオを安心させるように軽く笑った。
「そうですか? それなら良いんですけど・・・・・・・」
それでもシャオは心配そうだ。
「大丈夫だよ、大した夢じゃないから」
「はい」
シャオはようやく安心したのか、いつもの優しい微笑を浮かべた。
「でも、何かあったらいつでも言って下さいね」
「うん。 ありがとう、シャオ」
「太助様、それじゃあ、お水を持ってきますね」
そう言ってシャオは立ち上がった。
「うん」
そしてシャオはそっと扉を閉めてキッチンへと降りていった。
ちゅん ちゅん ちゅん
太助は鳥のさえずりで目を覚ました。
(昨日のあれは本当に夢だったのかな)
太助は昨夜の夢を思い返していた。
(あれはシャオだった。 でも、その横にいたのは誰だろう? 顔だけに白い靄がかかって見えなかった。
でも、なんとなく知っている感じがしたのは何故だ? それになんでシャオが戦場にいたんだ?)
などと考えながら、制服に着替えていた。
もちろん、シャオが戦場にいるのは不思議なことではない。
かつての主と共に戦場に立った事があるはずだからだ。
(だけど、あれは・・・・・・・・・・)
やがて制服に着替えた太助は、キッチンへと降りて行った。
「おはよう、シャオ」
「あ、太助様、おはようございます」
太助がキッチンへと降りていくと、いつものように朝食の支度をしていたシャオが迎えてくれた。
「もうすぐ朝食の用意が出来ますので、ちょっと待ってて下さいね」
シャオはそう言ってキッチンの奥へと戻っていく。
「あ、シャオ、俺も手伝うよ」
太助もシャオの後を追う。
しばらくして、ぬぼ〜〜とした表情のキリュウがキッチンへと入ってきた。
しかし、二人はそんなことには気づいていない。
「なんだか微笑ましいな・・・・・・」
キッチンのテーブルに着いて、短天扇でパタパタと仰ぎながら、そう呟いた。
なぜならそう形容してもおかしくない雰囲気がそこにはあったからだ。
太助とシャオが仲良く朝食の支度を進めている。
それはまるで、新婚夫婦の朝のような、そんな雰囲気だった。
「主殿・・・・告白されてから成長為されたな」
太助とシャオを見ながら、キリュウはそんな呟きをもらした。
キリュウはどちらかというと、太助とシャオの仲を応援する立場に近い。
精霊の使命からではなく、今では太助とシャオの仲を進展させるために、厳しい試練を与えているようなものだ。
だからこそ、時には翔子と組んでさまざまな策を仕掛けたりするのだ。
しばらくして二人が朝食の皿を並べ始めたころ、眠そうな顔をしたルーアンがキッチンに入ってきた。
「おはよぉ〜〜〜」
「あ、おはようございます、ルーアンさん」
「おはよう、ルーアン。 何だ? まだ眠そうだな」
「あたりまえよぉ、あたしが朝弱いの知ってるでしょぉ〜〜」
そういったルーアンの顔が突如輝いた。
「あら! 朝ごはん並べ始めてるじゃない!」
ルーアンはガタッと席に着くと、がつがつとものすごい勢いで食べ始めた。
「ルーアンさん、朝ごはんまだ並べ終わってませんけど・・・・・・・・・」
「いいの!」
と、シャオの言葉を無視して、食べ続けるルーアン。
太助も呆れ顔でがつがつと食べ続けているルーアンを見つめている。
「ルーアン殿、顔を洗ってから食べたほうが・・・・・・」
「だから、いいの!」
キリュウが言い終わるより早く、ルーアンが遮る。
ますます食べるスピードを速めるルーアン。
そんなルーアンにキリュウは腹が立ったのか、短天扇を開いた。
そしておもむろに
「万象大乱!」
と、唱言を唱えた。
すると、見る見るうちにルーアンの目の前にあった皿が小さくなっていく。
挙句の果て、ゴマ粒大にまで小さくなってしまった。
食べていたものを小さくされ、ルーアンは当然のようにキリュウを怒鳴りつける。
「ちょっと! キリュウ! あんた何すんのよ!!」
「試練だ、ルーアン殿。 顔を洗ってから出直すがよかろう!」
「うぐっ!」
そういわれては、さすがのルーアンも手も足も出ない。
しぶしぶ、洗面所へと向かった。
「それって、時代劇とかで逃げる悪役が言う台詞なんじゃ・・・・・・・・」
太助は思わず呟いたのだった。
「キリュウさんて、凄いですね・・・・・・・・・」
シャオはシャオで、ポケポケとした表情で言う。
キリュウは一つ息を吐くと、縮小した食事を元の大きさに戻した。
「やれやれ・・・・・さて、朝ご飯食べようか!」
苦笑いを浮かべた太助は二人を促し、自分も朝ご飯を食べ始める。
少し経って、顔を洗ったルーアンが戻ってきてからはいつもどおりの騒がしい朝となったそうだ。
2
昼休みの出来事
午前中の授業終了を告げるチャイムが鳴った。
弁当を広げる者、購買部へパンを買いにいく者、それぞれの昼休みを過ごすクラスメートたち。
どうしようか、と悩む太助は自然とシャオのほうへ眼が向いてしまった。
すると、シャオも太助のほうを向き、微笑み返してきた。
自然と言葉が紡がれる。
「シャオ、屋上に行こうか・・・・・・・・」
「はい!」
嬉しそうな顔で返事をするシャオ。
彼女にとって見れば、断る理由など無い。
ぱぁぁ、と表情を輝かせたシャオは、強引という言葉に似たか、思い切り太助の腕を引っ張って教室を後にする。
呆気に取られたクラスメートたち。
それでもすぐに我に返ると、自らのやるべきことを再開した。
「シャオちゃぁぁぁぁん!!!!!!」
たかしは悔しさを前面に出した声で雄叫びを上げた。
乎一郎が横でたかしを必死になだめすかしている。
その中で、翔子が一人、にやりと笑みを浮かべてうんうんと頷いている。
「あたしが何かする必要は無かったか・・・・・・・・」
たかしの声は近所迷惑だと思ったか、突如巨大化した机がたかしの顎にヒットした。
「ふがっ!!」
奇妙な声を上げてその場にひっくり返るたかし。
それと同時に雄叫びも終了する。
「まったく・・・・・・いい加減にしてもらいたいな・・・・・・・・」
翔子が声のしたほうへ視線を移すと、迷惑そうな顔をしたキリュウが立っていた。
かなり怒りをあらわにしている。
「あ、キリュウ、それ・・・・・・」
翔子はキリュウの両手に、ぐったりとしている文鳥が乗っていた。
どうやらたかしの雄叫びにやられたことは確かのようだ。
それならばキリュウが怒っている理由も頷ける。
「たかし君、しっかりしてよ」
気絶したたかしを乎一郎が揺り起こしている。
「俺の・・・・・・・・熱き・・・・・・・」
たかしはそれだけを言うと、再び気絶してしまった。
「ちょっと、たかし君! たかし君ってばぁ!」
乎一郎が必死に起こそうとしているが、たかしが眼を覚ます様子は無い。
「まったく・・・・・野村の奴は・・・・・っと、そうだ、キリュウ」
翔子はキリュウの耳に口を寄せると、授業中に立てた計画を話していった。
キリュウの耳に届くか届かないかという小さな声だったので、聞き取れた者はいないだろう。
これから何をするかすべて理解したキリュウは
「うむ。 分かった」
と、了解の意を示す。
「おっし!」
顔を見合わせた翔子とキリュウは、計画を実行に移すために教室を後にする。
そのころ、屋上へ向かった二人は。
邪魔者排除の計画が進行している事を知らずに、のんびりと弁当を食べている。
最近、キリュウの試練やらなんやらで二人になることが無かったシャオは、心なしか嬉しそうだ。
「うん、やっぱりシャオの弁当はおいしいな」
「ありがとうございます、太助様」
シャオは嬉しそうに微笑む。
真夏の太陽が容赦なくギラギラと輝いているにもかかわらず、二人のほのぼのタイムが繰り広げられている。
いつもならば、二人きりにさせまいと邪魔者が乱入するのだが、どういう訳か今に限って現れないのだ。
いや、というよりは翔子とキリュウのワナによって邪魔者は屋上に居いる二人に気付かないまま、校内を彷徨うことになっているのだ。
太助は隣にいるシャオに声をかける。
「たまにはこういうのも良いかもな」
「そうですね」
シャオも微笑み、無意識のうちに自分の身を太助へと近づけていた。
二人の距離は限りなくゼロに近くなっていた。
もちろん二人は気付いていないが。
太助がふと気付くと、肩の上に何かが載っている感触があった。
まさかと思いつつも振り向くと、そこには予想通り、可愛らしい寝息をたてたシャオの寝顔があった。
何か楽しい夢でも見ているのか、太助に寄り添って寝ているシャオはとても幸せそうに見えた。
太助は太助で、胸のドキドキがおさまらなかった。
「しゃ、シャオ・・・・・疲れたのかな?・・・・・・」
動いて起きるといけないので、結局そのままでいる事になった。
(ルーアンや愛原たちが居なかったのは幸いだったな)
そう思いながら、太助の指は自然とシャオの髪に触れていた。
しばらくの間、太助はシャオの髪を撫でながら彼女の寝顔を見ていた。
こうしてると、シャオのぬくもりと湧き上がる暖かい空気に太助もうとうとしてきた。
幸せという名の持つ眠りの中にいる二人であったが・・・・・・・・・・・・
突如、屋上へ通じるドアがバタン!と音を立てて開いた。
「あー! 七梨先輩! シャオ先輩と何してるんですか!?」
憎しみのこもった声に、太助とシャオは現実へと引き戻されてしまった。
どうやら翔子とキリュウの張ったワナをくぐり抜けた花織に見つかってしまったようだ。
起きたというよりは起こされた感じの二人は、嫉妬のオーラをまとった彼女に表情が凍りついた。
「あ、愛原・・・・・」
「花織さん・・・・・・・」
すさまじい形相で睨んでいる花織の姿に、身がすくんで動けない二人。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
その時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
それが引き金となり、我に返った太助が口を開いた。
「あ、愛原・・・・・・授業が・・・・始まるよ」
「分かっていますっ!!!!」
ずんずんと、近寄ってくる花織。
激しい怒りを露にした花織に、二人は恐怖を抱いた。
その時何かを思いついたシャオは懐から支天輪を取り出した。
「来々、軒轅!」
シャオは支天輪から軒轅を呼び出すと、太助と共に階下にある2−1の教室へと降りていった。
一人残された花織は悔しさのあまり地団太を踏んでいた。
3
買い物にて
その後は何事も無く授業は進み、終了を告げるチャイムが鳴った。
瞬間、ルーアンはたー様ぁぁん! と甘ったるい声で太助に抱きつこうとした。
が・・・・・・・
「うぐっ!?」
突然背中を掴まれ、服で首を絞める形となってしまった。
息ができないルーアンが恨めしそうに睨んだ相手は・・・・・・・
「げっ! ジャージ!!」
そう、ルーアン曰くジャージ先生こと、体育の後藤源二郎先生だった。
「今日こそは職員会議に出てもらいますよ!」
後藤先生の一言で、サーと音を立ててルーアンの顔から血の気が引いた。
「いやぁぁ〜〜〜、助けてたー様ぁ!」
後藤先生はじたばたするルーアンを強引に引っ張って行った。
「まったく・・・・・ルーアンの奴は・・・・・・」
「そうだよな」
いつの間にか隣にいた翔子が、太助に賛同するように頷いた。
そこへ、帰り支度を終えたシャオが駆け寄ってきた。
「太助様・・・・・あの・・・・一緒にお買い物行きませんか?」
「ああ、いいよ」
教室を後にする二人。
「しゃ、シャオちゃ・・・・・・ごふっ!?」
たかしが叫んで追いかけようとするのを裏拳一発で沈め
「なんか・・・・変わったなぁ・・・・・二人とも」
翔子はそんな二人の様子を見ながらポツリと呟いた。
「うわぁぁ、た、たかし君!」
気絶したたかしを見つめる乎一郎。
「ああ。 変わったぞ、主殿は。 そしてシャオ殿もな」
それが聞こえたのか、キリュウが翔子の側へとやってきた。
「あれ? まだ帰ってなかったのか?」
「ああ。 今日は試練は休みにしたのだ。 今度の試練のためのひらめき(アイデア)を考えなければならないのでな」
「そっか。 それよりも、あの二人はやっぱり七梨が告白したのが大きかったのかな」
「恐らくそうだろう」
二人が話していると、一人の少女が姿を現した。
「七梨せんぱーい! って、あれ? 何処に行ったの?」
それは花織だった。
「太助君ならシャオちゃんと一緒に帰ったよ」
教室を掃除していた乎一郎が、花織に告げる。
その瞬間、花織の周りには再び嫉妬のオーラがめらめらと燃え上がった。
「遠藤先輩! なんで七梨先輩を引き止めないんですか!」
「そんな事言われても・・・・・・・・・」
ルーアンを想う乎一郎にとっては、太助とシャオを引き止める理由は無い。
「こうしちゃいられないわ!」
花織は、眼にも止まらぬ速さでその場を去っていった。
「花織ちゃんはいつも元気だね・・・・・・」
花織の出て行った扉を見つめながら、乎一郎がポツリと呟いた。
一方、太助とシャオは、スーパームサシにいた。
「太助様! 二人でお買い物なんて、久しぶりで楽しいですね!」
「あ、ああ」
シャオは笑みを浮かべて、本当に楽しそうにしている。
「それで、今日は何を買いに来たんだ?」
「う〜んと・・・・・・・」
シャオは口に人差し指を当てて上を見上げた。
どうやら考えていなかったようだ。
「そうだ、太助様は何が食べたいですか?」
突然シャオは太助を振り向き、そう聞いてきた。
「え? そーだなぁ・・・・・・たまには肉じゃがとか」
などと話しながら歩いていると
「七梨先輩みっけ――――――――――!!!!!!!!」
という声が後ろから響いてきた。
その声に二人が振り向くと、そこには
「・・・・・・・・・」
「あ・・・・・・・・」
花織がこちらを指差して立っていた。
《注。 人を指差すのはやめましょう》
「んもぅ! あたしが来たからにはシャオ先輩と二人きりなんて許しませんからねぇ!!」
花織は太助とシャオの間に割って入ろうとした。
「行きましょ、太助様」
その時、シャオが太助の腕を引っ張る。
「え? しゃ、シャオ?」
「シャオ先輩?」
突然の行動に太助だけでなく、花織も驚きの声を上げる。
シャオがそんな行動に出るとは思っていなかった為、太助はシャオに引っ張られるままその場を後にした。
「ああん、七梨先輩、待ってよぉ〜〜〜!!!」
花織はというと、太助を追いかけることもできず、その場に立ちつくすしかなかった。