まもって守護月天! 外伝〜THE LOST KINGDOM〜
第二話 闇、迫るとき −目覚める記憶− (後編)
4
遭遇
スーパームサシでどうにか花織と別れた太助とシャオは、楽しそうに話しながら帰路についていた。
「太助様、荷物・・・・・重くないですか?」
シャオがそっと下から覗き込むような視線で、太助に聞く。
「大丈夫、大丈夫。 俺、一応男だし」
そんなシャオにそう笑顔で答える太助。
少し前までの太助なら、シャオのこの行動に仰け反っていただろう。
「ふあー、そうですかぁ。 太助様、男の人だもんね――」
シャオは太助と二人で買い物に行ったのが何だか嬉しくて太助の手を握ってしまう。
太助の顔は真っ赤になっていたが・・・・・・・・
それでもシャオと手を握っているのが嬉しくて、強く握っている。
(太助様の手、あったかい・・・・・・・握っているだけでもどうしてこんなにも気持ちがいいのかな)
太助と握っているシャオはとても幸せそうな表情だった。
はたから見れば初々しい恋人同士に見える。
通行人は二人をそう見ていたに違いない。
だが、二人のそんな幸せも長くは続かなかった。
ボコボコッという音と共に地面が盛り上がり、そこから骸骨や
腐った死体といった不死生物が姿を現したからだ。
「うわああっ!」
その姿を見た太助が思わず悲鳴をあげる。
「下がってください! 太助様!」
シャオが素早く太助を庇うように一歩前へ出ると、支天輪を構えた。
「来々・天鶏!!」
支天輪から飛び出した火の鳥が、骸骨たちを焼き払う。
「ククク。 やはりこの程度では相手にならぬか」
その時、何処からか無気味な声が響いてきた。
「誰だ!」
「誰です!」
二人の声と同時に電柱の陰から一人の男が姿をあらわした。
「久しいな、月の騎士よ。 いや、今は守護月天と呼ぶべきか」
「あなたは何者です!」
男のただならぬ雰囲気を感じ取ったシャオは、いつでも星神を召喚出来るように支天輪を構えたまま叫ぶ。
「この私を忘れるはずはあるまい? 虞煉だよ、暗黒十騎将が一人、霊の騎将・虞煉だ。 ただ、今の名は猪三だがな」
「私はあなたなど知りません! それに私は守護月天。 月の騎士などではありません!」
「そうか、残念だ。 長き精霊としての生の中で本来の使命を忘れてしまったということか」
言葉の割には楽しそうな口調で虞煉が言う。
「まぁ、いい。 それなら思い出す前に殺すのもまた一興」
虞煉の言葉が終わらないうちに、先程と同じように地面から骸骨や腐った死体たちが姿を現した。
「昼間ゆえ下級の者達しか呼び出せぬが、今のお前にはこれ位で丁度良かろう。 主諸共あの世へ行くが良い!!」
骸骨たちは虞煉の言葉に従い、ゆっくりと二人に近付いて行く。
「来々、天陰・梗河・車騎・天鶏・雷電!!」
それを見たシャオが、攻撃用の星神を次々と呼び出していく。
「みんな、お願い!」
シャオが言うと、それを合図に星神たちが攻撃を開始した。
ドオォォォォオオン!!
車騎の砲撃に続き
ビシャァァァアァアァアァ!!
雷電の雷が落ちる。
それによって舞い上がった砂煙の中に、天鶏と天陰、そして梗河が飛び込んでいく。
砂煙がおさまった後には、砕けた骸骨たちの残骸があるのみだった。
「ふっ、まあまあ、か。 まぁ、よかろう、今日は挨拶に来ただけだ。 それに我らが真の力を発揮する時ではないしな」
虞煉はそれだけを言うとその姿を消した。
「太助様! 大丈夫ですか?」
それを見届けたシャオが慌てた口調で言う。
「ああ。 何とも無いよ。 でも、何だったんだあいつ? シャオの事知ってたみたいだけど」
「私にもわかりません。 でも・・・・・・・」
「でも?」
「どこかで会った気がしてならないんです」
「え?」
太助はどういうこと?、と続けようとして、出来なかった。
「その疑問には俺が答えよう」
という声が聞こえてきたからだ。
「誰だ!」
「誰です!」
シャオは再び支天輪を構える。
「おいおい、俺の声を忘れたのか? 太助」
そう言いながら二人の少年と二人の少女が姿を現した。
「真一!?」
「久しぶりだな、太助」
真一と呼ばれた少年は笑いながら太助の側へとやってきた。
「どなたですか? 太助様」
「ああ、シャオは初めて会うんだっけな。 橘真一、俺の従兄弟だよ」
「そうなんですか」
そう言われてシャオは安心したように支天輪を懐にしまう。
「けど、真一。 さっきのはどういう事だ?」
「ああ、それについてはお前の家に行ってからで良いか? 三人のこともあるしな」
「あ、ああ」
そして五人は、七梨家へと向かったのだった。
5
解かれし封印
家に戻ると、すでにルーアンも帰ってきていた。
「あ、お帰り、たー様、シャオリン。 あら? あんたたちは?」
「ああ、こっちは俺の従兄弟で橘真一。 で、こっちは・・・・・・・・誰だっけ?」
太助の言葉にルーアンは肩をコケさせる。
「なんなのよ、それは」
「主殿、名前も知らずに連れてきたのか?」
「いや、実はさっき会ったばっかりで俺も知らないんだ」
頬をかきつつ、太助が答える。
「そういや、自己紹介してなかったな。 丁度良いからやっとくか」
そう言って真一が一歩前へ出る。
「俺は橘真一。 太助の従兄弟だ。 んで、右から水野恵、矢島恭子、来生明だ」
一通りの自己紹介、そして全員で夕食をとった後
「で、昼間の言葉はどういうことなんだ?」
太助が切り出した。
「あれか? あれは・・・・・・・・」
真一が答えようとした時
「昼間の言葉ってどういうこと?」
ルーアンが問い掛けた。
「ああ、実は、昼間変な奴に襲われたんだ」
「変な奴?」
「シャオの力で何とかなったんだけど、確か、霊の騎将とか言ってたな」
その瞬間、ルーアンとキリュウの顔が凍りつく。
「霊の騎将ですって!?」
「それは本当なのか主殿!?」
二人は今にもつかみ掛からんばかりの勢いで叫ぶ。
「あ、ああ。 本当だよ。 なぁ、シャオ」
「ええ。 本当ですよ」
二人のあまりの剣幕に怯えつつも、答える太助とシャオ。
「二人とも落ち着くんだ! 今取り乱しても何もならないだろう!」
真一が一喝すると、我に返った二人は静かになった。
「ごめんなさい、たー様」
「すまない、主殿」
「いいって。 それで、どういうことなんだ?」
「それについては、改めて俺から説明するよ」
ソファーに落ち着いたところで、太助が言うと真一が答える。
「それは良いけど、何であんたがあの事知ってるの?」
ルーアンが怪訝そうな顔で問い掛ける。
「あ、言ってなかったっけ。 俺たち四人は偶然同じ日に転校することになった訳じゃないんだ。 俺が闇、恵が水、明が雷、恭子が重の騎士の転生者なんだよ」
「え? そうなの? じゃあ、鶴が丘に来た理由ってまさか・・・・・・・・・・・・・・」
「そう。 精霊となったルーアンさんたちを探しに来たの。 そして残り六人の騎士もね」
ルーアンの言葉に恵が答える。
「あの、どういうことですか? 精霊となった私たちを探しに来たって」
「あら? シャオちゃん覚えてないの? 自分が月の騎士だって事」
「月の騎士、ですか? さっきも虞煉さんに言われましたけど、どういう事なんですか?」
シャオの言葉に真一達は顔を見合わせる。
「どうやらシャオリンは忘れちゃってるみたいなのよ。 まぁ、あんな出来事があったから無理も無いと思うんだけどね」
「そうだな。 シャオ殿にとっては忘れたくなるのも無理はないことだな」
「あの、それってどういうことですか?」
シャオはルーアンたちの会話についていけす、再び問い掛ける。
「シャオちゃん、それなら今から真一が説明するからそれを聞いてくれたら良い」
「わかりました」
「それは今から数千年以上も前の話・・・・・・・・・・」
明がシャオに言うと、真一は静かに語り始めた。
クンルン山脈の奥深く、今ではその存在すらも忘れられてしまった王国があった。
その名は崑崙王国。
現代をも遥かに上回る超文明を築き、その科学力を持って世界を統治していたと言われる古代王国である。
その王国の住民は全員が何かしらの力を持っていた。
その力の強い者十二人に、王を含めた計十三人を十三騎士と呼んでいた。
だが、ある時、十三騎士と同等か、それ以上の力を持った者達十人が現れたのだ。
王達はその十人を十騎将と呼び、十三騎士と共に軍団として登用しようとした。
しかし、十騎将はある時、ほんの偶然から禁忌とされ封じられてきた扉を開いてしまった。
それは闇の王を封じる異次元へと通じる扉であり、決して開いてはならぬとされてきた物であった。
偶然とは言えそれを開いてしまった十騎将はその強大な力に取り込まれ、暗黒十騎将となり、世界を闇へと変えようとする邪悪な集団と化してしまった。
暗黒十騎将の暴走を止めるため、十三騎士はその持てる力のすべてを持って、暗黒十騎将と戦った。
熾烈な戦いの末、復活しかけていた闇の王及び暗黒十騎将を封じることに成功した。
だが、その戦いにより、十三騎士のほとんどがその命を落としたのだ。
それ以来、生き残った十三騎士が精霊となり、その封印を守ってきたのである。
そして現在、転生した暗黒十騎将は再び闇の王を降臨させようとしているのだ。
それを止める為には再び十三騎士が集結する必要があった。
「そして、今、精霊となったシャオちゃん、ルーアンさん、キリュウちゃん。 それから俺達四人が集まったんだ」
「なるほどね・・・・・・それでその闇の王だっけ? そいつが復活したらどうなるんだ?」
「世界が破滅する。 そう言われてる」
真一が厳しい顔で答える。
「破滅だって?」
太助は思わず叫んでいた。
「そう、世界の破滅。 私たちはそれを止める為に戦うことになるのよ」
恵が真一の代わりに答える。
その時
「やはり、そこまでの事態になっておるか」
と言う声と共に、支天輪が光を放ち、空中へと浮かび上がった。
そして支天輪から現れたのは・・・・・・・・・・
「じ、じーさん!?」
「南極寿星!?」
突然の出現に二人は驚きの声を上げる。
真一たちはこの展開を予測していたのか、さほど驚いてはいないが。
「南極寿星・・・・・・・・・どうして・・・・・・ここに・・・・・・・・」
シャオの顔は若干青ざめている。
以前の出来事が脳裏に浮かんだのだろう。
それを悟ったのだろう、南極寿星は
「シャオリン様、心配せずとも良いです。 今日はその件で参ったわけでは有りません」
そう言っていったん言葉を切った。
「この世界に何が起ころうとしているかは、その者達から聞いておろう。 儂もここまでの事態になろうとは思わなんだが」
そう言いながら南極寿星はシャオの方へと視線を移して、更に続けた。
「シャオリン様、もはや一刻の猶予も有りませぬ。 永きに渡った封印を解く事をお許しください」
「封印・・・・・・? 何の事? 南極寿星」
「それはシャオリン様の力の封印を解く事ですじゃ。 現在のシャオリン様は力の大半を封印された状態にあるのです。
ですから、その封印を解き、守護月天、いえ、月の騎士としてシャオリン様が持つ本来の力を取り戻すのです」
「私の・・・・・・本来の力・・・・・・・?」
「じーさん、どうしてシャオにそんな封印をしたんだ?」
「お主もそこにいる騎士たちから聞いたであろう。 十三騎士と暗黒十騎将の戦いについて」
南極寿星の言葉に太助は無言で頷いた。
「それなのじゃよ。 光の騎士を喪ったときの悲しみにくれたシャオリン様を見ていられなくなった。
その時、儂は記憶と共に力を封じたのじゃ。 もはや封印を解くことも無いと思っておったのじゃが・・・・・・・」
「ところが暗黒十騎将が転生し、現代に闇の王が蘇ろうとしている」
言葉を切った南極寿星の代わりに、真一が言葉を続けた。
それに頷く南極寿星。
「そうじゃ。 暗黒十騎将と闇の王に対するには十三騎士の力が必要不可欠じゃからな」
「封印を解いたら星神たちはどうなるんだ?」
「そういえば・・・・・・どうなるの? 南極寿星」
太助の言葉にはっとなったシャオも南極寿星に問いかけた。
「お二人ともその様子ではわしらは消えてしまうとでも思っておるのじゃろうな。 じゃが、そうではない。 星神本来の姿、星将に戻るのですじゃ」
「星将って何だ?」
太助が聞くと
「星将とは月の騎士に仕える星の戦士のことじゃ。 わしら星神の本来の姿でもある。
わしら星神もシャオリン様の封印と共にその力の大半を封じられておる。 その為にこのような姿をしておるのじゃ」
「そう・・・・・・・なんだ」
「それはそれとして、シャオリン様の封印を解かねばならぬな。 一度外に出てもらえますかな」
南極寿星に言われるまま、シャオたちは庭に出てきた。
南極寿星が庭に何やら幾何学文様とも、古代文字とも取れる文字で魔法陣を描いた。
「それではシャオリン様、その中央に立ってください」
南極寿星に言われるまま、シャオは魔法陣の中央に立った。
「後はどうすればいいの?」
「後は立っておくだけでよいです。 それでは始めます」
そういうと南極寿星は何やら呪文のようなものを唱え始めた。
シャオはじっと南極寿星を見つめている。
すると魔法陣から光が溢れてきた。
そしてその光が徐々に強くなり、シャオを包み込んだ。
やがて、南極寿星の呪文が終わると、それと同時にシャオを包む光もやんだ。
そこには、ルーアンと同じくらいの身長になった南極寿星、そしてそれぞれ本来の姿になった星神たちが居た。
「終わりました、シャオリン様。 もはやあなたは本来の力と記憶を取り戻したはずです」
「ええ、南極寿星。 確かに思い出しました、私の力と記憶、そして月の騎士として為すべきことを」
南極寿星の言葉に、シャオはそう答える。
「これで儂の役目も終わりですじゃ。 もはやシャオリン様をお守りする必要はなくなりましたからな」
「南極寿星・・・・・・・」
「大丈夫ですじゃ。 また何かあったときは儂を呼んでくださればいつでも、シャオリン様の前に姿を現しますので」
「南極寿星・・・・・・・・・」
南極寿星はそう言うと太助を振り返った。
「小僧、これからシャオリン様はおぬしの想像を越えた戦いの中にその身を置く事になる。 その中で、シャオリン様を支えていく自信はあるか?」
南極寿星の言葉に、太助は少し考えてから答える。
「そうだな・・・・・・・・・・あると言ったら嘘になる。 虞煉とかいう奴の力を見たばっかりだからな。 でも、俺にしか出来ないことだろ? ならやってやるよ」
「ふっ、まぁ、いいだろう。 お主のその言葉、儂は覚えておるからな。 破ったら承知せぬぞ」
「分ってるって。 男に二言は無いよ」
太助の言葉に安心したのか、珍しく笑顔になる南極寿星。
そして再びシャオのほうに向き直る。
「それでは、シャオリン様」
「ええ。 ありがとう、南極寿星」
そして南極寿星は光となり空へと消えていった。