8月5日 A.M.3:06 場所…ブレイカーベース 司令室
 
「どう、クロノス? 何かわかった?」
《申し訳ありません、あらゆる角度からの計算を試みましたが…漆黒の導力器《ゴスペル》の発する力場の解析は出来ませんでした。
─────どうやら、あの導力器には概存(我々)の世界にはない独自の技術が用いられているようです》
「そっかぁ………さすがのクロノスでもお手上げか」
 
 
 ジュンイチ達ブレイカーが一同に集う秘密基地─────通称『ブレイカーベース』を統括する
 人工知能…『クロノス』に問いかけるのは、ブレイカーの面々の中で唯一の常識人である
 ジュンイチの妹─────柾木あずさだ。
 約一日ほど間をあけて、いきなり連絡を寄越してきたジュンイチが突きつけてきた難題……要するに《ゴスペル》の解析をクロノスに依頼していたのだ。
 
 だが結果は前記の通り。─────現存の技術水準を遙かに上回るそのスペックにクロノスは勿論あずさも首をひねるだけとなっている。
 ちなみに、ジュンイチが解析を依頼してきた時にこう漏らしている。
 
 
『《ゴスペル》から発生するあの特殊な力場……アレに重要なヒントがありそうなんだ。
だからそこら辺を重点的に調べてくれ────結果は管理局伝いでオレに報告してくれな』
 
 と………。
 
 
「お兄ちゃんの身勝手さは今に始まった事じゃないけど……少しはこっちの都合も考えて欲しいわね。
お陰であたしまで寝不足よ─────」
《管理局に問い合わせて調査に必要なロスト・ロギアのデータを回して貰いますか?》
「うーん……そうした方が良いかなぁ─────」
 
 
 クロノスからの問いに、やや考えた後、あずさは首を横に振って言い直す。
 
 
「やっぱやめとこ。────確かに、導力器とミッドのデバイスには妙な共通点があるけど、
さすがにロスト・ロギアのデータをおいそれと渡すほど、リンディさん達も甘くないだろうし。
それに……」
 
 
 近くにあったイスに気怠そうに腰掛けたあずさはやや間をおいて呟く。
 
 
「お兄ちゃんから送られてきた《ゴスペル》の力場の歪みのデータ……アレはまるで─────」
 
 
 
 
 
 
 
 
「まるで……『次元の穴(ワームホール)』みたいじゃない」
 
 
 
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 か弱き存在ながらも、少女は己が大切な人の為にその持てる全ての知を捧ぐ。
 
 相対するは、街をも揺るがす大地の怒り。
 
 空の女神の微笑みを得るのは、少女のはて無き想いと英知の力か。
 
 それとも…………
 
 そして、英雄達は守るべきものの為に、その剣、その拳を振るう。
 
 立場は違えども、守るべきものとその想いは同じだから─────
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
第10話「激闘! 王国軍vs遊撃士」
 
 
 ギルドでの語らいを終えた一行は、当初の目的であった《ゴスペル》の手がかりを求めるべく、
 全員ラッセル工房を尋ねる事にした。
 エステル曰く、『なのは達に紹介したい子がいるから』という理由らしいが……一体どういう事なのだろうか。
 
 ギルドから南西に大体200mほど進んだ所に、それは佇んでいた。
 他の民家とは一風変わったデザインの家。エステルの話によると、研究所も兼ねた自宅なんだとか。
 何だか”どっかのだれかさんがいつの間にか何の違和感もなく”居てそうで、恭也とジュンイチは身震いがした。
 
 勝手しったる何とやら……といった感じで、エステルは軽く玄関のドアをノックした後に、家の中へと入っていく。
 
 
「さてと……博士とティータはいるかしら?」
「もしかしたら中央工房に行ってるのかもしれないわね」
 
 
 入ってすぐのリビング……さらには二階からも気配はしない事から不在にしているのかと思った……その時
 
 
「おじいちゃーん、2階のお片づけ終わったよ〜」
「おう、すまんな。それじゃあそっちの部品の整理をしてくれんか?」
「はぁ〜い」
 
 
 すぐ隣の扉から、微かに人の声がした。
 良く耳を澄ませばカチャカチャと金属音が響いている。
 
 
「ふふっ、二人とも研究所の方にいるみたいね」
「ええ、行ってみましょうか」
 
 
 
………………
………
 
 
「んしょ、んしょ……」
「うふふ、こんにちわ」
「あ、シェラさん!」
 
 
 シェラザードの呼びかけに、丁度小物の整理をしていた少女が気付き、彼女の元へと駆け寄る。
 歳は大体12歳くらいだろうか。あどけなさが残る顔つきながらも、その瞳は海の様に澄んでおり、ニット帽とセットになっている自身の目よりも大きなゴーグルが印象的だ。
 同時に一室の奥で、機材の整備をしていた老人も歩み寄ってくる。
 
 
「おお、カシウスの弟子か」
「お久しぶりです♪ 今日はどうしたんですか?」
「久しぶりね、二人とも。随分散らかってるみたいだけどやっぱりさっきの地震のせい?」
「あ、はい。実はそうなんです……」
 
 
 未だ片づけの途中なのだろう。あちこちに工具や機材、そして結晶回路が散らばっている。
 …高価そうな大型機材の方は、見た感じ特に目立った故障は見られないみたいだ。
 あまりの散らかり様に思わず少女は恥ずかしそうにシェラザードの問いに頷く。と……
 
 
「2人とも、お久しぶり」
 
 
 再び部屋の入り口から聞こえてきた声に、少女が反応する。
 が、反応の仕方がシェラザードの時とは微妙に違う。驚きと同時に……嬉しさと悲しさが混じった様な─────絞り出す様な声。
 
「あ……」
「えへへ……ご無沙汰しててゴメンなさい」
「おお……エステル」
「お、お姉ちゃん……─────エステルお姉ちゃんっ!!
 
 
 突然目から大粒の涙をこぼしながら、少女はエステルの懐へと飛び込み、そのまま彼女を抱きついた。
 ……何となく予想していたのか、さほど驚いてはいない様子のエステルだが、それでも少女の勢いにやや圧倒された。
 
 
「わわっ、ティータ?!」
「エステルお姉ちゃん……よかった、ホンモノのお姉ちゃんだよぉ………」
「な、何よ本物って……」
「だ、だってだって! ヨシュアお兄ちゃんがいなくなったって聞いて……エステルお姉ちゃんまで外国のどこかに行ったって聞いて……
このまま会えなくなったらどうしようってわたし……ずっと不安だったの」
「そっか……。ごめんね、挨拶もなしに遠くに行っちゃって」
 
 
 最低限手紙でも書いておけば良かったかな。などと心中で後悔するエステルだが、これはこれでアリな気がしたため、あえて口には出さないでおく。
 次第に落ち着き始めた『ティータ』と呼ばれた少女をそっと話すと、頭を優しく撫でながらエステルはもう一人の老人の方へと視線を向ける。
 
 
「確か、レマン自治州にある訓練場に行っておったそうじゃな。いつ帰国したんじゃ?」
「帰ってきたのは少し前かな。今までルーアンで仕事をしてて、ツァイスにはついさっき着いたばかりなの」
「そうじゃったか。─────おや、お前さん達は」
 
 
 老人が奥の人だかりに気付き、視線を向ける。
 無論全員揃い踏みでやってきているため、そこにいたのは当然クローゼにオリビエ、ジュンイチ、高町兄妹、ユーノである。
 互いに見知った顔であるため、クローゼとオリビエは笑顔でティータの元へと歩み寄る。
 
 
「お久しぶりです博士、ティータちゃん」
「フッ、お邪魔させて貰うよ」
「クローゼさん、オリビエさん……」
「2人とも、あたし達の調査に協力してくれてるの。ルーアン地方で色々あってね………特に、色々の代表格がコレ」
『コレとか言うな』
 
 
 エステルから親指で指されて、若干不満気味の恭也とジュンイチ。
 その後ろではなのはと美由希がいつもの苦笑いを浮かべ、ユーノは初対面であるティータ達を驚かせては拙いと必死にフェレットのフリをしている。
 
 
「紹介するわねティータ。異世界からやってきた魔法使いの女の子で、あたしの大切な友達────」
「高町なのはです。そして……この子がユーノ君♪」
「はわぁ────えとえと…ティータ・ラッセルです。どうぞよろし…く………」
「どしたの、ティータ?」
 
 
 突然驚いた表情を浮かべて黙り込んでしまったティータの様子に、エステルが尋ねるが…ティータの視線の先に目を向けて疑問が氷解した。
 何だかジュンイチの様子がおかしい……。その場で俯き、肩がワナワナと震えている─────
 一方、この期に展開されるオチが予想できたなのはと恭也はそれぞれデバイスと八景を構え………
 
 
「のぉぉぉぉぉっ! かわいすぎるぜこんちくしょぉぉぉぉぉっ!」
「ふ、ふぁっ?!?」
 
 
 ティータの第一印象(見た目)が見事カワイイもの好きのジュンイチの魂に引火した。
 ジュンイチは突如猛スピードでティータの元へと駆け寄って抱きしめ、ほお擦りし――────
 
 滅殺。
 
 
 
「いきなり年頃の女の子相手に何してるんですかジュンイチさんっ!!!」
「す、すまん……思わず本能がむき出しに
「────ルーアンで初めてあった時から思ってたけど、アンタやっぱり危険人物
 
 
 狭い室内でこれでもかと云わんばかりに”必殺技”を叩き込んだなのは達に加え、エステルも血糊のついた棒術具を手にジュンイチに向かって叫ぶ。
 初めて見るジュンイチの暴走に、クローゼは苦笑いを浮かべ、シェラザードはエステルと同じく汚物を見る様な目線でジュンイチを見つめ、
 オリビエに至っては色んな意味でジュンイチに嫉妬していた。
 
 
「はぁ、まあいいわ。一応この変態2号が柾木ジュンイチ……なのは達の故郷とは違う異世界からやってきた、”ブレイカー”っていう能力者らしいわ」
「へえぇ……能力者さんなんだ────そういう力の持ち主が居るって話は聞いた事あるけど、実際に見るのは初めて」
「ふむ……色々とややこしそうじゃし、ここで立ち話も何じゃ。居間の方に移るとしようかの」
 
 
 ジュンイチが新たなる変態の仲間扱いを受けている事にはさして誰も突っ込む様子もなく、老人……『ラッセル博士』の提案でリビングへと一行は案内された。
 ちなみに、”1号”が誰の事を指しているかは推して知るべし。
 
 
………………
………
 
 
「クーデターの黒幕共が既に活動を開始しておったか……しかも再び《ゴスペル》を持ち出してきたとはのう……」
「空間投影装置が生み出した映像を遠く離れた座標へ転送する……そ、そんな事どうやったら可能なんだろ」
「空間投影装置そのものは決して不可能ではないはずじゃ。ワシもいずれは造ってみようと思っておったからな。
じゃが、生み出された映像を遠くの座標に転送するのは……うぅむ、さっぱりカラクリが判らんわい」
「……ジュンイチは、解る?」
「機械知識に関しては乗り物のメンテぐらいで必要な最低限のものだからな。オレも完璧にさじ投げだ」
「せめてこの場に忍か鈴香でも居てくれたら話は別なんだろうがな」
 
 
 リビングでルーアンでの経緯を説明し終え、事態の深刻さに首をひねるラッセル博士とティータ。
 ジュンイチに至っては言うに及ばずであるが、彼の隣で腕組みをしながら経緯を聞いていた恭也が思わすこの場にいない二人の存在を漏らす。
 これだけではまだ情報不足だろうと判断し、エステルはさらに付け加える。
 
 
「敵の男は《新型ゴスペル》の実験をしてたって言ってたのよね。確かに、一回り大きかったし『導力停止現象』は起きなかったけど……」
「そういえば、クーデターに使われた《ゴスペル》の方はどう? 解析の方は進んでるのかしら?」
「むぅ……それがな、解析を進めれば進めるほど奇妙な事が判ってきてな……」
「奇妙な事?」
 
 
 シェラザードの問いかけにラッセル博士は複雑そうな表情を浮かべつつ、ゆっくりと語り出した。
 
 
「うむ、結論から言うとな……あの《ゴスペル》そのものに『導力停止現象』を起こす機能があるとは思えなくなってきたんじゃ」
「へ……?」
「で、でも……実際に、あの黒いオーブメントが導力停止現象を起こしたんですよね?」
「うむ、あくまで表面的には。
じゃが、先程も説明した様に内部の結晶回路を解析してもそんな事が出来るとは思えんのです。
『導力場の歪み』らしき物を発生させるのは確かなんじゃが……」
「『導力場の歪み』……」
 
 
 クローゼの疑問に再び表情を濁して答えるラッセル博士。
 まだ原因が完全に解明されていない点である為、どもりがちな説明だが……約一名、ジュンイチは
 ”導力場”と聞いてようやく聞く耳を立てた。
 
 ”力”の流れの概念は、彼等ブレイカーに置いても無関係ではない……それに、自らの立てた”仮説”が”確信”へと変わるかもしれなかったのだ。
 
 
「えと、『導力場』っていうのは導力エネルギーの周囲に形成される干渉フィールドの事を言います。
大抵は、一定の法則で力戦が描かれてるんですけど……おじいちゃんが解析した結果、
《ゴスペル》の生み出す導力場はこの法則から外れているらしくて……」
「むむ、ちょっと話が専門的になってきたかな?」
「あたしもチンプンカンプン……」
 
 
 早くも門外漢なオリビエや、体育会系なエステルは頭から煙が立ちこめている様に見える。
 そんな中で、こんな専門的な話を簡単にすらすらと話せるティータはやっぱりおじいちゃん似なんだろうなと、なのはは心の中で苦笑した。
 
 
「まああり大抵に言うと、既存の法則に当てはまらない歪んだ導力場を発生させるんじゃ。
じゃが、導力場というのはあくまでも一定の時空間における、導力エネルギーの在り方でしかない。
方向性が与えられない限り『導力停止現象』のような具体的な作用が起きるはずがない……。
正直、困り果てておったんじゃがルーアンでの事件を聞いて新たな可能性が開けたかもしれん。知らせてくれて礼を言うぞい」
「あはは─────正直どこがどう役に立ったのかいまいちピンと来ないけど」
 
 
 いまいち自分の功績を納得できてない様子のエステルだが、ラッセル博士は満面の笑みは、彼女のもたらした手がかりの重要性を勤勉に物語っていた。
 エステルの情報と自らの仮説の数々をラッセル博士はメモ帳にしたためる。
 
 
「敵が使っていた映像投影装置は王国軍が管理してるはずよ。興味があるなら連絡してみたら?」
「うむ……そうさせてもらおうかの。そういえばお前さん達はこれからどうするつもりなんじゃ?
しばらくツァイスで仕事をするつもりなのか?」
「うん、それなんだけど………」
「実は3日前にヴォルフ砦という所でも局地的な起きたらしく、今回の地震との関連性を考慮する意味でも地震について調査してくれと依頼を受けたんです」
 
 
 ラッセル博士の問いにややいいにくそうに口ごもるエステルをよそに、恭也が淡々と依頼内容を説明する。
 それを聞いたラッセル博士は、ティータと一緒に再びうなりながら考え始める。
 
 
「ほう、先程の地震についてか。確かにリベール内で地震が起きる事は滅多にない。
しかも3日前にヴォルフ砦で同様の地震が起きていたのか……」
「3日前……うーん、ツァイスの市内は揺れてなかったと思うよ。確かにちょっとヘンかも……」
「自然現象だし《結社》が関係しているかどうか判らないけど─────調べるだけ調べてみるわ」
「ふむ─────地震か。
ひょっとしたら”アレ”が使えるかもしれんな」
「…え?」
 
 
 突如ひらめき、思考にふけるラッセル博士。
 だが当然”アレ”が何のことだか全く判らないエステル達は頭の上に疑問符が浮かびまくりの状態である。
 
 
「あら、何か役に立ちそうな発明でもあるんですか?」
「うむ、数年前に作ったある装置があるんじゃが……アレにトランスミッターを付けて《カペル》に解析させられれば……
ふむふむ、イケるかもしれんの!!」
「もう博士ったら…一人で勝手に納得しないでよ」
「だ、大丈夫ッスかね……? この爺さん────」
「身内にものすごく行動パターンが似かり寄ってる人間が居るだけに何となくオチが想像つきそうだな」
 
 
 恭也がそう漏らした一方で、海鳴市の某屋敷の主人が夏休み中最大級のくしゃみをしたとかしなかったとか。
 
 
「いや、お前さん達の調査に協力してやろうと思ってな。お前さん達はヴォルフ砦に調査に向かうといい。
その間に『良い物』を用意してやろう」
「そ、それは助かるけど……『良い物』って一体何なの?」
「むふふ────それは後のお楽しみじゃ♪ それではさっそく中央工房へ行くとするか。
ティータも手伝ってくれるか?」
「あ、うん……ごめんなさい、エステルお姉ちゃん。せっかく久しぶりに会えたのに」
 
 
 明らかにばつが悪そうに謝罪するティータだが、エステル本人は全く気にも留めていなかった。
 あくまで自然な笑顔で、ティータに応える。
 
 
「あはは、いいって。とりあえずティータの顔を見れただけでも嬉しかったしね。しばらくツァイスにいるからゆっくり出来る機会はあるわよ」
「お姉ちゃん……エヘヘ、そうだよね」
「あのあの、皆さんもおかまいできなくてごめんなさい」
 
 
 席を立ち、ラッセル博士と共に玄関へと向かいながら、ティータは一同に向かって謝罪の意を述べる。
 当然、悪意があっての退席ではない為全員笑顔で彼女を見送る。
 
 
「ふふ、とんでもないです」
「機会があったらまた寄らせて貰うわ」
「その時は是非とも、ボクの事をお兄ちゃんと────」
「だ〜から、アンタはやめいっ!!」
「じゃあオレは『おにいたま』で」
「……………死にたい?」
 
 
 再び棒術具を取り出して威嚇するエステルの覇気にジュンイチは戦慄を覚え、その場に縮こまってしまった。
 
 
「あ、あはは……それじゃあまた後で♪」
「準備が出来次第、ギルドに連絡するからの!」
 
 
 笑顔で一同に向け、手を振りながら家を後にするティータとラッセル博士。
 ……この至短時間でティータは一挙に海鳴メンバーの心も鷲づかみにしてしまったらしい。
 恭也も若干ながら笑みをこぼしながら見送り、美由希やなのはに至っては言うに及ばずである。
 
 
「うーん……相変わらずな二人ねぇ」
「はあ、ティータちゃんって相変わらず可愛いわねぇ〜。思わずギュッと抱きしめたくなっちゃうわ」
「フッ……ボクもさ。
甘いミルクの匂いがする、柔らかな子猫の様な肢体─────想像しただけで、萌え尽きてしまいそうだよ
「シェラ姉はともかく……アンタは犯罪だから止めなさい」
「いや〜…でも、ティータの可愛さはある意味小動物系だぜ? オリビエもそう思うだろ?」
「フッ、確かに。珍しく気が合うじゃないかジュンイチ君♪」
「ああそうだな。……全く、うちの妹もあれだけ可愛げがあると嬉しいんだが
 
 
 ジュンイチが漏らした瞬間、府中市の某宅で爆睡中の誰かさんに強烈なくしゃみと猛烈な悪寒が走った。
 
 
「ふふ……シェラザードさん達の気持ちも、ちょっと判ります。私もティータちゃんともっと仲良しになりたいな」
「もう、クローゼまで─────心配しなくてもオリビエとジュンイチ以外だったらすぐに仲良くなれるわよ」
「ガ────────ンッ!!」
「エステル君、ヒドイッ!」
「ふふ、さてと………そろそろギルドの仕事を始めましょうか」
 
 
 シェラザードが仕切り、まずは『特別訓練への参加要請』と『看板の捜索』を平行して行う事となった。
 看板捜索の方には、自信満々に立候補したオリビエに加え、美由希とユーノ、クローゼが同行する事となった。
 そして、訓練参加についてはエステルにシェラザード、なのは・ジュンイチ・恭也のメンバーで決定し、
 ティータ達に引き続いてラッセル家を後にした。
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
 ツァイスの東口から出て、王都方面へと続いている『リッター街道』から北に折れた先にある
『レイストン要塞』……そこが、訓練参加の舞台である。
 リベール国内最大級の規模を誇る軍事施設であり、ここから王国軍主力兵器である警備艇が発進し、様々な任務に対応するのだ。
 当然、国防の要であるこの要塞の警備はハンパではなく、基地の周囲には導力センサーが張り巡らされており、水路には機雷が仕掛けてある。
 そして唯一の入り口である門は、常に歩哨兵が立ち、その眼を光らせていた。
 
 
「ここは王国軍の本拠地、レイストン要塞だ。民間人の立ち入りは遠慮させてもらってる」
「そいつはつれないなぁ……オレ達は掲示板を見てやってきてやったんだぜ?」
「特別訓練とやらに関連する仕事があるはずよ。上官から聞いてない?」
 
 
 入り口に近づくなり、良くない歓迎を受けるエステル達だが、それでも皮肉を込めたジュンイチの応えに付け加え、シェラザードが確認する。
 すると、歩哨の兵も思い出した様に頷いた。
 
 
「ああその件かい。さっき司令部から通達があったばかりだよ。兵士でもないのに訓練に出るとはご苦労な話だ」
「……兵士であろうが無かろうが、この国を守らんとする者である事には変わりはないでしょう。
すいませんが、責任者に取り次いで頂けますか?」
「ああ、構わないよ。早速隊長に────っと、思ったら……お出ましの様だな」
 
 
 連絡用の通信機に手を伸ばそうとした時、門に異変が起きた。
 地響きを立てながら2重になった重厚な扉が開き、そこから4人の兵を従えた隊長クラスの人間が2人出てきた。
 そのうちの一人に対し、エステルがまるで顔見知りに話しかける様に話しかける。
 
 
「あ……シード少佐?」
「はは、久しぶりだね。ラッセル博士の誘拐事件では君達に色々と迷惑を掛けた」
「…………クローゼさんが話してた民間人の誘拐事件って、ひょっとして────コレの事です?」
「あはは、まぁ色々とあって…ね」
 
 
 いつぞやの日曜学校の依頼の時、ラッセル博士の誘拐事件の事を聞かされていたなのはがエステルに尋ねると、
 当事者であるエステルはややはにかみながらもなのはに応える。
 シードと呼ばれた幹部クラスの男性は申し訳なさそうな表情を浮かべながら謝罪の意を述べる。
 一方、その謝罪の意図が何となく察しがついたエステルはそれをなだめた。
 
 
「いずれきちんとした形で謝ろうと思っていた所だったんだ」
「いいってば、代わりに逃がしてくれたんだし」
「そうか……そう言ってもらえると助かるよ」
「そういえば今日は掲示板を見てきたんだ。何でも特別訓練をしてるそうじゃない」
「ああ、本来はいつもの定期訓練だったんだが────実はモルガン将軍がまもなくこちらにいらっしゃる予定なのでね。
気合いを入れ直す為に急ぎ訓練内容を変更したのさ」
「なるほど、納得。あの大声で怒鳴られちゃたまらないものね」
 
 
 またも見知らぬ人物の名が出てきて、”?”な状態のなのは達だが、意外にもシェラザードが
 懇切丁寧に説明してくれた。
 
 
「……そのモルガン将軍というのは?」
「王国軍国境師団を統括する将軍さんで、お歳の割に武術大会にも参加していた猛者よ。
将軍の落とす『カミナリ』は王国軍兵士の間じゃかなり恐れられている、いわば恐怖の象徴ね」
「────成る程。根っからの厳格軍人な人なんですね」
「……君は?」
「小太刀二刀流・御神流師範代、高町恭也です。
このたび、ギルドの協力者という形で特別訓練に参加させて頂きます。どうぞ、よろしく」
「こちらこそ」
 
 
 互いの健闘を祈り、固く握手を交わす恭也とシード。
 …既に訓練を前にして戦いが始まっているらしく、恭也の周囲に張りつめた空気がよどむ。
 初対面のメンバーと軽く挨拶を交わした後、シードは困った表情を浮かべながら現状を説明し出す。
 
 
「まぁ…本来こういう仕事はカシウス准将の管轄なのだが……今は生憎とご不在でね。
私が責任者を勤めているんだ」
「へぇ、そうなんだ……ふぅん………父さんも普段はここに」
「今回はすぐにお戻りになられるはずだよ。
しばらくツァイスに滞在するなら、またそのうち会う機会もあるだろう」
「うん、そうだね」
「中佐、そろそろお時間が……」
「おっと、話し過ぎか。ベルク副長、後の説明を頼む」

 
 シードが隣にいた幹部クラスの兵士、ベルク副長に説明の権を委ねようとしたとき、
 エステルから疑問の声が挙がる。 
 
 
「あれ?………中佐、って────確か前は『シード少佐』だった気が」
「あ、ああ……実は辞令があってね、中佐に昇進したんだ」
「へぇ〜、そうなんだ。おめでと、シード中佐!」
 

 エステルの無垢な祝いの言葉に、シードは照れくさそうにはにかみながら答える。 
 
 
「その……ありがとう。
当然の職務を遂行しただけで少しばかり面映ゆいんだがね」
「何言ってやがる。軍人ってのは職務を遂行してこそナンボなんだ。
どんな経緯があろうが、アンタは評価されて昇進した。後はその階級に似合うだけの技量と肝玉を据えるだけで十分だと思うが?」
「その少年の言うとおりです。中佐にはもっと前に出て頂かないと……」
「ベルク副長、職務を忘れたのかね?」
「……これは失礼。それじゃあ早い所依頼の件を説明しましょう」
 
 
 そして、ベルク副長から聞かされた依頼の内容については...
 
 1.戦闘は2連戦の予定でインターバルの時間は一切無い事。
 2.自分達の役目はあくまで戦いを通して兵達に模範を示す事。
 
 ………である。例え訓練であっても、戦闘でインターバル無しというのはさすがにキツイ。
 ジュンイチでさえも準備に余念がない事から、今回の依頼がいかに過酷なものであるかが伺えることだろう。
 
 要塞内にはいると、既に一般兵達はバディを組んでの訓練を開始していた。
 そこら中から聞こえてくる、兵達のかけ声や咆吼に思わず耳を塞ぎたくなるが不思議と嫌な感じはしなかった。
 そんな中、ラッセル博士の誘拐事件に携わったエステルが感慨深い表情を浮かべながら周囲を見渡す。
 
 
「あ〜……何だか懐かしいわね。
前来た時は暗くてよく判らなかったけど、こうしてみるとここって大きな基地よね〜」
「ほんと……要塞ってつくだけの事はあるわね」
「みんなお喋りはそこまでだ。────どうやら、来たみたいだぞ」
 
 
 恭也が促すと、一同全員気を引き締める。
 小銃タイプの導力銃を手に、一般兵一個分隊が陣内に出てきた。
 
 
「それではこれより、模擬戦を開始する。今回は対抗部隊として遊撃士の精鋭においで願った。
兵士諸君は必死で挑む様に。武術大会優勝者を含む強豪だぞ」
「ゆ、優勝者?!」
「それは手強そうだな……」
「説明したとおり、諸君等には2連戦をお願いする予定だ。それを念頭に入れて戦闘に臨んでくれたまえ」
「ええ、わかったわ」
「ふふ、何連戦でもいいわよ♪ 気の済むまでお相手してあげるから」
「シェラさん、冗談でもそういう事言わないでくれないッスか? ホントにそうなりそうだから」
「よし、では始めよう。────両者、構え!」
 
 
 瞬間、なのはは素早くバリアジャケットを纏い…ジュンイチは再構成(リメイク)によって”紅夜叉丸”を爆天剣へと換え、
 恭也も八景を抜刀して構える。
 静寂の中、心臓の鼓動だけが骨や肉を伝い、ダイレクトに脳へと信号として認識される。
 そして……
 
 
「勝負始め!!」
 
 
 開始の合図がかかると同時に、素早く動いたのは恭也とジュンイチだ。
 二人がそれぞれ飛針と苦無で相手の銃を無効化させた後、足下を切り崩してバランスを不安定にさせる。
 その後、追い打ちと云わんばかりに二人の回し蹴りが豪快に響き、一瞬にして兵達をノびさせてしまったのだ。
 いくら一兵卒とはいえ、国防の拠点で錬成され、実力もかなりのものである王国軍兵士をものの数十秒でノしてしまったこの二人の実力に、他の兵達も呆気に取られる。
 
 
「勝負あり!!」
「……な、ちょ…………」
「あたし達、出る幕無さそうじゃない……この分だと」
「……そうですね」
「あ、あたた………」
 
 
 シードから試合終了の合図が掛かる前から既にグロッキー状態な兵士達。
 幸いにも気絶しただけで目立った外傷もない。……恐らく二人の手加減のたまものだろうが、当の本人達は全く息を切らしていない。
 ジュンイチは元より、恭也に関して云えば”剣術の師範代”という立場も納得できるなとエステルは心中で呻く。
 
 
「何をぼんやりしている。速やかに撤収する様に」
「は、はいっ!」
 
 
 シードが促し、未だ痛みに震える兵達を撤収させて次の分隊を前へと前進させる。
 
 
「────次、ベルク副長」
「はっ!」
「ど、どうやらホントに休ませて貰えないみたいね」
「まぁ何とかなるだろ。……そうでしょ、恭也さん」
「────さすがに誤魔化せんか。……いざとなれば神速もあるし、切り札は残してある。
なのはやジュンイチも、一応”力”を使い切らずに温存しておけ。俺の予想だと、おそらく……」
「訓練中だぞ、私語は慎む様に。それでは、第2戦──────勝負始め!!
 
 
 開始の咆吼が響き、再びジュンイチと恭也が構える。
 だが、同じ手口を2度もやらせてくれるほど、王国軍側も無能ではなかった。
 ベテランのベルク副長が恭也達の放った飛針や苦無を切り払い、巧みな誘導で鋼糸ですら捕らえることができない。
 
 
「やっぱ、有能な指揮官がいると動きが違うなぁ……」
「感心してる暇があるんならどうにかしなさいよっ!!」
「心配すんなエステル。────確かに、鋼糸や飛針みたいな物理的手段は通じないが……
それ以外ならまだ勝機はある」
 
 
 自信満々にエステルの叫びに対応しながら、ジュンイチはなのはに向かって叫ぶ。
 
 
「なのは、捕まえろっ!!」
「はいっ! ……捕獲・捕縛の魔法────レストリクトロック!!
 
 
 瞬間、レイジングハートの宝玉が光り……ベルク副長達の周囲に大型の環状魔法陣が出現。
 ベルク副長を含めた分隊を包み込むとそのまま小さく縮んでいき──── 一同を完全にその場に固定する!!
 
 
「な、こ……これは?!」
「副長!! み、身動きが────取れませんっ!!」
「…………………反則臭くない?」
「中ボスの分際で逃げ回るからだ。っつー訳で…最後の詰め、やっちゃいますか♪」
 
 
 エステルが呆れ顔で呻きつつも、ジュンイチは中ボス扱いとなったベルク副長達を
 シめ上げた。
 
 
「────そこまで!!」
「ふぅ……オレ達の勝ちか」
「さすがに副長さんが出てこられるとちょっときつかったですね」
「やりたい放題やらかした本人達が何言ってるかな」
 
 
 思わずエステルがなのはとジュンイチにつっこむがこの際無視だ。
 
 
「くっ……敗れたか」
「……………副長、まだいけるかね?」
「……………!? は、はい! 問題ありません」
「よろしい………ではすぐ準備してくれ」
「了解しました!」
 
 
 シードの意図を察し、兵達をつれて直ちに撤収を始めるベルク副長。
 だが、”準備”とはいったい何のことだろうか? 真意が判りかねるためか、首をかしげるエステルの側で、恭也は思わず微笑を浮かべていた。
 
 
「準備? 何だろう………」
「恭也さん──────ひょっとして……」
「ああ……中佐もまた、軍人である前に一人の武人らしい。つくづく興味深い人だ」
「ほう、恭也君は悟っていたのか」
 
 
 会話しながら、自らの愛刀を取り出して準備をし始めるシード。
 その眼は……純粋な闘志に満ちあふれ、パーティで一際異彩を放つ青年へと向けられていた。
 
 
「…………貴方の身体から放たれる闘気。微かですが、漏れていたのが感じ取れましたから」
「え、っちょ?! どういうことなの、恭也さん!!」
「………早い話が、これから3連戦目があるということだ」
「ええっ!!? だ、だって『2連戦』だって最初に言ってたじゃない」
「ああ、確かにそう言ったが……しかし君達はこう応えた。『何連戦でも構わない』とね」
「あら、よく覚えていたわね」
「シェ、シェラ姉ぇ〜〜────」
「し、仕方ないじゃない。その場の勢いってやつよ! それに………既にうちの剣豪さんもやる気満々の様子だけど?」
「あ………」
 
 
 シェラザードがエステルを促すと、その視線の先には八景を構えて戦闘態勢に入っていた恭也の姿が。
 一方のなのはは、すでに見慣れた光景なのか特に何も言わずに沈黙を通している。
 いや、むしろこの状態になった兄に何を言っても無駄だろうとすでに納得していた。
 
 
「昨今……ツァイス支部で双剣を使う兄妹が居ると聞いていたが……まさか君達の様な若者とはね」
「自分はまだ未熟者です。目先の目標も居ますし、まだまだ強くなりたいと思ってます……仕合って頂けますか?」
「無論だ。君達の剣に恥じぬ戦いを約束しよう────」
 
 
 未だベルク副長は準備中のため、戻ってきていないがそれでも二人の闘気はすでに仕合が始まっているかのごとく、ビシビシとエステル達の体に響く。
 ……何だか二人して『俺より強いヤツに会いに行く』状態に突入しているが
 周囲の人間は完全に置いてけぼりを食っている。
 
 
「……すっかり武人モードになってるし二人とも」
「つーか完全にオレ等蚊帳の外っぽくね?」
「無論君達の戦いぶりにも期待させて貰うよ。
異世界から来たAAAランク魔導師、高町なのは嬢……炎の能力者、柾木ジュンイチ殿」
「…………しっかりマークされてますね」
「はぁ────しゃーね、付き合ってやるよ。元々オレもそういうの、キライじゃねーからよ」
 
 
 やや間をおいて、しっかりとなのはやジュンイチの名前を出してくるあたり、すでにリサーチ済みだったのだろう。
 ………てことは最初からこのメンツとやることを想定してた?!
 いろんな意味で底が知れない人だなと痛感するなのは達だった────。
 
 それから2・3分後、ベルク副長が応急処置をすませて戻ってきた。
 副長もまた、”今度こそは負けない!”と言わんばかりの不屈の闘志がひしひしと感じ取れる。
 
 
「お待たせしました!」
「ご苦労────それでは始めようか。……用意はいいかね」
「構いません……受けて立ちます!」
「よし、では行くぞ!!」
 
 
 開始の合図と同時に、シードは早速アーツの発動準備に取りかかる。
 だが、ジュンイチ達もそれを大人しく見守るはずもない。すぐさま苦無を懐から取り出し、投擲の準備に取りかかる!
 すると────
 
 
「隊長の邪魔はさせんっ! 全員続けぇぇぇっ!!
『イエス・サー!!!』
「どわぁっ!! くっつくな、離れろぉっ!!」
 
 
 中距離での撃ち合いは自分たちの方が不利だと悟った副長達が、武器でガードしながら
 前衛(ジュンイチ・恭也)に詰め寄る!
 この距離では飛び道具も使えないし、相手は完全に防御に徹しているため、剣で切り崩すことも難しい。
 自分達で突破することは不可能だと判断し、ジュンイチは後方で構えていたエステル達に援護を要請する。
 
 
「すまんエステル、こいつ等叩き潰すの手伝ってくれ!」
「全く、二人して仲良く突っ込んでいくからこうなるのよっ!! ────捻糸棍っ!!
 
 
 エステルの棒術具から放たれた気弾は真っ直ぐに飛翔して、ジュンイチと組み合っている兵士の脳天をかすり、僅かな隙を作り出す!
 後はジュンイチの持ち前の身体能力と自身の家系が受け継いできた格闘術の腕の見せ所だ。
 素早く兵士の胸ぐらをつかむと、そのまま一気に一本背負いの要領で投げ飛ばし、地面に叩き付ける!
 
 
「恭也さん!」
「ああ!!」
 
 
 素早く抜刀しながら距離をとり、構えた恭也は叫びながらベルク副長に向け、突撃する!
 
 
 ──御神流・掛弾きっ!!
 
 
「うおっ!?」
 
 
 一瞬のうちに視界が暗転し、それと同時に全身を垂直に激痛が走る。
 掛弾き────それは御神流の組技の基本の一つで、相手の足を抱える際に刃を立て、垂直に引き斬りつつ転ばせるというものだ。
 通常は斬り捨てる技なのだが、技を当てる瞬間に恭也が逆刃に返して峰打ちに変えた為、”激痛を感じる”に至ったのだ。
 
 何はともあれ、これで障害を一時的に無力化した二人はすぐさまシードの元へと走る。
 だが、当のシードは不敵な笑みを浮かべてゆっくりと告げる。
 
 
「すでに……手遅れだ!
吹き荒れろ────裁きの轟風!! グランストリームッ!!!
 
 
 瞬間、訓練場の気流の流れが一気に収束
 ────巨大な竜巻となって荒れ狂い、ジュンイチ達を飲み込んだ!!
 
 
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
「くそっ! ────ブレイクアァップ!!」
 
 
 現状でアーツが発動し終えれば自分達は地面に向けて真っ逆さまである。
 あわててジュンイチは装重甲(メタル・ブレスト)を装着。メインツールである”ゴッドウィング”を展開し、自分と同様に宙を舞う恭也とシェラザードを回収。
 
 
「なのは! エステルの回収を頼む!!」
「は、はいっ!!」
〈Flier Fin───!〉
 
 
 すぐさまレイジングハートが呼応───フライヤーフィンを展開し、
 空中を前後上下左右にと回転し続けるエステルを捕まえ、風の渦から脱した。
 
 
「だ……大丈夫ですか、エステルさん?!」
「うぼぇぇ………まわりすぎできぼぢわるい」
 
 
 若干酔っているようだが、命に別状はないらしい。
 竜巻が収まるのを確認すると、ゆっくりと地上に降下し……着地する。
 その様子に、特に驚くまでもなくシードが告げる。
 
 
「驚いたな……空をも飛べるとは」
「その割には全く困惑してるようには見えませんね」
「無論だ。それに……勝負はまだ始まったばかり! ゆくぞ!!」
 
 
 今度は構えると同時に一気に跳躍───間合いを詰めての……一閃!
 
 
「受けてみよ! ───神速の剣!!」
「おぉぉぉぉぉっ!!」
 
 
 対する恭也も負けてはいられない!
 一足刀手前で踏みとどまるとシードを迎え撃つ形で剣を受け止める!!
 
 
ガキィン!!
 
 
 両手に携えた小太刀で何とかシードの降り下ろしを受け止めたものの、軍用の剣と小太刀とではリーチが違いすぎる上に
 何より、小太刀は押しに弱い。
 次第にシードの剣が恭也の顔面に迫ってくる────
 
 
「さて……どうする?
仲間は私の部下が押さえている。彼らの実力ならば撃破するのにものの4・5分と言ったところだが、
その間に私は君を無力化することは十分に可能だ」
「お気遣い、結構です。何故なら────」
 
 
 不敵な笑みを浮かべる恭也に、嫌な予感がしたシードは一端彼を弾き飛ばした後に素早く距離をとる!
 すると、間一髪のところで”今先程まで自分がいた場所”に轟炎が降りかかってきたのだ。
 放った主は……すぐに予想できた。
 
 
「アレは俺が避けると予想して撃ってくるからな。見境も手加減もない。
───部下を相手にしててもあれくらいの芸当はやってのけますよ」
「……そのようだな。以後気をつけよう」
 
 
 そして再び、二人の剣は互いに火花を散らし始める───
 
 そんな状況を、舌打ちしながらジュンイチが呻く。
 
 
「クソっ……あの恭也さんが剣で押されるなんて───自信満々に宣戦布告してくるだけのことはあるぜ!」
「ジュンイチさん、どうしたら……!」
「なのは、お前は恭也さんの援護に回れ! 副長達は俺たちで片づける!!」
「──────はいっ!!」
「たった3人で我々を止めるとでも───」
「言うつもりだぜ───
エステル! シェラさん!! チェインクラフトで一気にカタを付けるぞっ!!!
『了解っ!!』
 
 
 言ってジュンイチは空高く飛翔。上空で熱エネルギーを構築すると要領よく熱線(ブラスター)スフィアを形成し……
 副長達の陣営めがけて投げつける!!
 
 
「うわぁああっ!!」
「エステル!!」
「オッケー……とおぉぉりゃあぁぁっ!!!
 
 
 咆吼と同時、エステルは棒術具を構えて副長達に突きの連続攻撃をひとしきり浴びせた後……
 
 
「シェラ姉、バトンタッチ!!」
「オッケー!! シルフィンウィップ、いきなさいっ!!
 
 
 エステルに続いてシェラザードも咆吼、素早く振り下ろされた鞭が鎌鼬を……そして小型の竜巻となってベルク副長達を巻き込み、
 切り裂き、吹き飛ばしていく!!
 
 
 
────御神流、奥義之陸・薙旋!
 
「なんのっ!!」
 
 
 連続して繰り出される恭也の斬撃を、自らも斬撃を繰り出すことで受け流し、攻めの一手を許さないシード。
 好転しない状況に、恭也は次第に焦りを感じ始めていた。
 
 
(せめて、一瞬でも隙を作り出せれば………!)
 
 
 しかし、これまでの均衡からそれは不可能に近い事であると恭也自身感づいていた。
 と………
 
 
「お兄ちゃんっ!」
「─────なのはか!」
 
 
 思わぬ所で最強の助っ人が現れてくれた。
 副長達の相手はジュンイチ達が引き受けてくれてる事をなのはから聞かされた恭也は思考を巡らせる。
 剣士として、シードを倒したい。───それは不利な状況におかれている今も変わらぬ彼のこだわりであり誇りでもある。
 だが、なのはから魔法の援護を受けてはそれも叶わぬ事となる。ならどうするべきか──────
 
 そして………
 
 
「なのは───『フラッシュムーブ』で”神速”についてこれるか?
「うん…………いけるよ! 残った魔力を全部フィンに集中させれば、お兄ちゃんの動きにもついていける!!」
「よし────なら兄についてこい。……一瞬で、決めるぞ」
「はい!!」
 
 
 言って恭也は八景を鞘へと収め、精神を集中させる。
 ゆっくりと息を吐き……再び大きく吸う。
 次に目を見開いた瞬間――恭也の中で”スイッチ”が切り替わる。
 視界は完全なモノクロとなり、周囲の空気が水飴のように重くのしかかる。
 
 だが、その中でも恭也は一歩…また一歩と足を前へと踏み出し、シードとの距離を詰めていく!
 
 同時になのはも全魔力をフライヤーフィンへ集中。莫大な加速力を得たフィンは猛スピードで前進する恭也に並ぶ!
 
 
「くっ────姿を消す戦技(クラフト)を持っていたとはっ!!」
 
 
 同時に目の前から姿を消したなのはと恭也を必死に目で追うシード。
 だが、常人のスピードを遙かに超越した二人の動きは肉眼では捕らえる事は難しい。
 ならばと思考を切り替え……気配を察知するために精神を集中させる。
 
 
 動く気配は二つ………
 しばらくは自分の周りを徘徊するようにグルグルと回っていたが────
 そのうちの一つが自分目掛けて迫ってきた!!
 
 
「右かっ!!」
 
 
 素早く剣をかざし、振り下ろすシード。
 だが────
 
〈Protection────!〉
「なっ?!」
 
 
 命中したのは、自分の腰よりも小さな少女……が発動させた防御魔法。
 そして肝心の本命は────────
 
 
 
 ──御神流、奥義之陸・薙旋っ!!
 
 
「ぐあぁっ!!」
「───くっ!」
 
 
 加速状態から通常の知覚状態へと戻った恭也は大きく呼吸を荒げる。
 恭也が使用した”神速”は御神流の奥義の歩法。瞬間的に自らの知覚力を爆発的に高めることにより、あたかも周囲が止まっているかのように振る舞うことが出来るようになる。
 この時、色の情報を意図的に欠落させ、本来その情報処理にあたる部分を他の知覚に振り分けているため、周囲がモノクロに見えるのだ。
 また、動作そのものが高まった知覚力に着いてこられないため、自分そのものもスローモーションで動いているように感じられる。
 
 ただし、当然ながら肉体的に過大な負荷をかけるため、多用はできないのが唯一の難点であり、恭也でも一回4分、一日3回が限度である。
 
 そして、神速を解く直前に放った薙旋は完全にシードへクリーンヒット。
 その場にうずくまり、闘気はみるみるうちに衰退していく。
 どうやら、完全に戦闘不能になったみたいだ。
 
 
「な、何とか勝てたみたいね」
「……………………」
「ふにゃあ〜……さすがに、疲れた」
「見事だ……完敗だよ。
連戦の果てにこれだけやれるとはさすがだ。兵士達にとって最高の模範を示してくれたな」
 
 
 激闘の末のダメージが未だ残る体に鞭打ち、ゆっくりと立ち上がるシード。
 その表情は実に満足げで、誇らしさに満ちあふれていた。
 
 
「悪いがそれはこっちの台詞だ。
能力者でもないのに、剣技と魔法でここまで苦戦したのは正直オレも初めてだからな」
「うん、あんなにアーツで苦しめられたのは初めてかも。自分のアーツを見直してみる気になったわ」
「そう思ったのなら立ち合った甲斐があったな。
問題は”何を使うか”ではなく”どう使うか”ということにある。
アーツでも戦技(クラフト)でも同じ事が言えると思うよ」
「成る程……そいつぁ確かに箴言だ。やっぱりアンタみたいな人間は評価されてしかるべきだと思うぜ」
 
 
 ジュンイチの思わぬ賞賛の言葉にシードは思わずはにかむが、恭也やなのはは”普段人を滅多にほめない”彼が素直にその実力を認めて褒め称えている。
 戦った恭也自身も思ったが、この人は本当に強い。心からそう思えた。
 
 
「我々王国軍も、遊撃士の諸君に負けないよう研鑽を続けるつもりだ。
王国の平和の為、これからも切磋琢磨していきたいものだよ」
「………ぶっちゃけ異世界の住人なオレからすりゃ王国の平和何ぞ知ったこっちゃねぇ────
と、言いたい所だが…あんた達の”気”を感じて気が変わった。
国の平和なんてどデカイものとまではいかなくても、せめてこの国に住む人達を守れる様にはなってやる」
(全く……素直なんだか素直じゃないんだか)
 
 
 それでもやっぱり最後はジュンイチらしく、素直じゃない余計な一言を残して訓練は無事終了を迎えた。
 数多くの傷と勲章を携えて……
 
 
 
「────以上を以て訓練を終了する! 兵士諸君、ご苦労だった」
 
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
「いや〜、一時はどうなる事かと思ったけど…なかなかに楽しめたな」
「何気楽な事言ってるんだか………まぁ確かに勉強になったのは確かかな」
「ええそうね。アーツもそうだけど、パーティのフォーメーションもいろいろ試行してみるのもいいかもしれないわ」
 
 
 レイストン要塞を後にした一行は、道中で思い思いの反省のコメントを口にする。
 終始お気楽にやってたジュンイチはさておき、遊撃士であるエステルとシェラザードはライバル心むき出しでこれからの戦法の是非について議論を交わす。
 
 
「何にしても、今日はもう遅いですから……明日からまた張り切って《地震》の調査を開始しましょう♪」
「おっ、早速やる気満々じゃないなのは。……こりゃあたし達も負けてられないわね」
「ええそうね。………恭也くんの実力もよく判ったし、これからもあてにさせてもらいましょう♪」
「…………………………」
 
 
 シェラザードがそう恭也に振るが、当の本人は何だか先程から調子がおかしい。
 よく見ると脂汗を大量にかいているし、何より顔面蒼白だ。
 そして、やや申し訳なさそうに恭也が告げる。
 
 
「すみません、シェラザードさん────しばらくの間、休ませて貰ってもよろしいですか?」
「え゛?」
「お兄ちゃん……まさか?」
「──────神速で限界まで走りすぎたためか、さっきから膝がこの世の物とは思えない痛さを……。
なのでしばらく戦線離脱させていただきます」
「……………………」
「………………」
 
 



 
 張り切る以前の問題だった。
 
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
ハァイ、よい子のみんな元気かな? オリビエお兄ちゃんだぞ〜
 
……ヲイ。ちょっと待てやオリビエ…何だってなのはのポジションにお前がいやがる
 
ふふっ、つれない事を言わないでくれたまえジュンイチ君。
何故なら次回はエルモ温泉での一幕だからなのさっ♪
 
覗き退治って事は、デコイ(おとり)に必要になってくるわけだよな?
 
そこで名乗りを上げる、凛々しきユーノ君♪ いや〜まさに適役だねぇ
 
名乗り上げた訳じゃないだろうが……まぁここはユーノに任せるか
 
ん? 何を人事みたいに言ってるんだい、ジュンイチ君? 君もやるんだよ(はぁと)
 
え゛?
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第11話『ケモノノミチ』
 
さぁジュンイチ君っ! 共に禁断の聖地へと足を────って、ぎゃあぁぁぁぁっ!!
 
お前もオレに人間道を踏み外させたいのかあぁぁぁっ!!
 
 
 
−あとがき−
 
 今回執筆してて思った事。
 これだけやりたい放題やっていつか『なのブレ』原作者の
 モリビトさんの逆鱗に触れるのも時間の問題かな。
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
 StrikerS後期OPである「MASSIVE WONDERS」をYouTubeで聞きながらこの話を執筆してたtakkuです。
 ついでにファミ劇で放送していたStrikerSの後期OPで新キャラ・ヴィヴィオちゃんの『不思議な踊り(俗称)』も確認。
 
 せっかく恭也さんと美由紀ちゃんが合流したので、同じ剣豪で武道派なシード中佐との一騎打ちを描いてみました。
 多分原作でもないなのはちゃんと恭也さんの超高速戦闘(←一瞬ですが)と
 本編でようやく初登場な、SCからの新システム『チェインクラフト』を文章として書いてみましたがどうでしょうか?
 
 ………剣術アクションで燃えると言ったら剣心かスパロボのゼンガー親分くらいしか代表的なのが思いつかない(汗)
 まぁ上記二人のアクションに比べたら私の書くアクションなんてミソっカス程度にしか映らないでしょうが。←比べる相手が悪い

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 のっけからティータ相手に大暴走のジュンイチ(笑)。いろんな意味でぐっじょぶです。
 『変態2号』? もちろん容認ですとも! だってその方がジュンイチが不幸になるし(爆)。

 ただ、今までジュンイチが壊れてきた対象を見てみると――

 『ブレイカー』Legend05(子ライオン型プラネルのライム)
 『天ソラ』第6話(ハムスター着ぐるみを着たミント)
 『なのブレ』第8話(小動物モードのフェイト)
 『日誌』2007/07/22分(子狐の久遠)

 ティータちゃんを小動物と同列扱いか、ジュンイチよ(苦笑)。
 ……って、実際少し後に「小動物」呼ばわりしてるし(爆笑)。

 

 そして王国軍の戦闘訓練。
 シード中佐達にとって幸いだったのは『模範を示す事』の条件があったことでしょうか。
 だって、それがなかったらジュンイチ、絶対ロクな勝ち方しないだろうし(汗)。

 恭也さんはさすがに強いですねー。最近ウチのコンテンツじゃ戦闘シーンに恵まれてなかった彼ですが、面目躍如といったところでしょうか。
 シード中佐もさすが。あのジュンイチが手放しでほめるとは。
 でもって……やっぱり最後はヒザをやっちゃいますか、恭也さん(笑)。

 

 

 ちなみに。

 チェインクラフトの戦闘描写を見て『無双OROCHI』の“無双バースト”を思い出したのはモリビトだけでしょうか?(爆)