8月5日 A.M.9:23 場所…海鳴市 月村邸
 
「………なるほど。それで私に白羽の矢が立ったワケね」
「盥回しにするワケじゃないですけど、ここは一応忍さんの意見も聞いておいた方が賢明かと」
「あてにしてくれてありがと」
 
 
 結局ブレイカーベースでの解析は大した結果をあげられず、時空管理局にさじ投げする前に
 一度忍の方にも見てもらおうという事になり、あずさから解析データを受け取ったジーナが
 月村邸を訪れているという状況である。
 なお、この間に彼女専属のメイドにして、月村家を始めとする─────通称”夜の一族”が遺した遺失工学の結晶である自動人形…『ノエル』が客人であるジーナの分も含めて紅茶を煎れている。
 部屋の中は、紅茶のいい香りで充満しているが、それでも忍達の表情は決して晴れる事はなかった。
 
 
「…………ざっと見た感じの感想だけど─────確かにこれは《クロノス》でも手に余ると思うわ。
実際私でもこのエネルギーの流動法則とか蓄積方法とか色々考えると頭がパンクしそう」
「やっぱり……難しいですかね?」
「時空管理局からロスト・ロギアの参考資料とか貰って照らし合わせた?」
「さすがにそれは………。
管理局も、”アレ”関連の資料となるとさすがにOKサインは出しにくいみたいで」
 
 
 忍の問いに、ジーナはばつが悪そうに答える。……あずさはああ言ったものの、一応……と思い、
 リンディに相談してみた所、やはり本局の承認なしにはおいそれと渡せる様なモノではないらしい。
 だが、率直な感想としてはジーナもあずさと同じ様な考えに至っていた。
 
 
「やはり、ミッドのデバイス……正確にはロスト・ロギアとあちらで言う”アーティファクト”の関連性を調べ上げるのが一番手っ取り早いと思います。
どちらもオーパーツ的な意味合いでの存在ですし、一般デバイスと比べて遙かな高スペックであるという共通点も無視は出来ません。」
「それもあるんだけど………ジーナは気付いた?」
「え?」
 
 
 不意に尋ねられたジーナは、やや間をおいて忍に応える。
 データを受け取った時から感じていた違和感を─────
 
 
『導力停止現象』の様な大規模の現象を引き起こすには、《ゴスペル》はあまりにも小さすぎるってことですか?」
「うん、そう。
実際どんな現象なのかは私もこの目で見てないから何とも言えないけど……それでも、効果範囲内のオーブメント全部となるとさすがにちょっと不思議に思える」
 
 
 同じメカ娘同士(ジーナはむしろソフトウェア専門だが)、話が弾みだした忍とジーナだが、
 突如鳴り響くブザー音で中断を余儀なくされた。
 ブザー音の源は…ブレイカーブレス。カバーのディスプレイに表示されている送信者名は……ジュンイチ。
 やや久しぶりとなるリーダーの声を聞けるとあって、ジーナの表情もにわかに綻んでいる模様だ。
 高ぶる気持ちを抑えて通話ボタンを押すと、聞き慣れた男の声が響いてくる。
 
 
『よぉジーナ。そっちの様子はどうだ?』
「どうもこうもありませんよ……ジュンイチさんが回してきた《ゴスペル》の解析作業─────
クロノスでもお手上げ状態で、結局忍さんのご尽力をお借りする事になってるんですからね」
「────────大丈夫かな…忍さんに任せて」
 
 
 聞き取れるか取れないか、そんなギリギリのボリュームでボソリと呟く辺り、ジュンイチも忍という人間の事をある意味よく理解していると言えよう。
 聞こえてしまったが最期、自らも再び”解析”される事になるのは目に見えているからだ。
 それだけは何としても避けたい手前、ジュンイチはすぐさま話題をすり替える。
 
 
「そういえば、今日はどのようなご用件で?」
『いやぁ……それがさ、オレそっちで大事な事をやり残してたのをすっかり忘れてたんだよ。
だから、ジーナかライカあたりにブレイカーベースに帰った時にやってもらいたいなぁと思って連絡入れたんだよ』
「やり残した事………ゲイルのメンテですか? それとも、瘴魔の戦闘データの整理? プラネル達のお守り?」
『後者二つは明らかにオレが普段から避けてる項目じゃねぇか』
 
 
 それでもしっかり話題にあげてるという事は暗に『真面目に協力して下さい』と言っている様な物だ。
 軽くジーナが毒づくが、どれもハズレらしくジュンイチはしばらくうなった後、告げる。
 
 
『別にこれからの任務に支障があるってワケじゃないが……それでもすっぽかされたまんまだと色々面倒な事になるからな』
「だから何なんです、その用件って?」
 
 
 妙にはぐらかすジュンイチに苛立ちつつも、尋ねるジーナにジュンイチは申し訳なさそうに呟いた。
 
 
『今日の25時からのらき☆すたの録画予約…頼まれてくれるか?』
 
 
 有無を言わさず、ジーナは通信をカットした。
 
 
 
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 異国の地とを隔てる砦を襲った自然の猛威。
 
 でもそれは、邪なる者によって引き起こされた邪悪な意志。
 
 そして見え隠れする、新たなる《蛇の使徒》の存在。
 
 例えこの先、何が待ち受けようとも
 
 守る者の為に、今はただ……前を見て歩くだけ。
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
第11話「ケモノノミチ」
 
 
「それで、帰って来るなりベッドに突っ伏しちゃったのね」
「……………申し訳ない」
 
 
 軍との特別訓練が終了し、ツァイスのホテルに戻って来るなり颯爽とベッドイン&グロッキー状態の恭也の有様に美由希が苦笑する。
 それでも、自分の兄をここまで本気にさせたのだからシードという人物については美由希自身も会ってみたいと思ったのは秘密だ。
 
 さすがに海鳴とは違って、整体の専門医はリベールにはほぼ居ない状況なので、現在彼の膝はユーノによって治療の真っ最中である。
 
 
「どうですか、恭也さん。──────痛み、治まりましたか?」
「ああ…大分楽になった。────この分だと、しばらくの間は”神速”は使えんな」
「何言ってるの。それでなくても恭ちゃんの神速は極められてる分、身体への負担も大きいんだから……
あんまり無茶すると、なのはやエステル達が心配するよ?」
「………可能な限り、善処しよう」
 
 
 ぷいと拗ねる恭也の態度に、はぁと溜息を吐く。
 もはや慣れた反応だが、このぶっきらぼうな態度はいい加減どうにかならないものだろうかと美由希は心中で呻く。
 と、恭也が話題をすり替える様に話を振ってきた。
 
 
「そういえば、《怪盗紳士》の方はどうなってる? 順調に捜査は進んでるのか」
「そのへんは、ぬかりなく。……こっちには探索のエキスパートのユーノが居るんだから」
「あちこち盥回しにされましたけど、何とか見つけられましたよ。
────それにしても驚きですよね…中央工房の地下倉庫に隠されてたなんて」
 
 
 治療を続けつつ、ユーノが美由希に引き続いて恭也の問いに答える。
 先程美由希が漏らしたとおり、今回の看板の捜索についてはユーノが大活躍。……むしろオリビエと美由希、クローゼは殆ど何もしていない。
 事実上、彼一人の手柄によるものだった。
 
 
「さて……もういいぞ、ユーノ。痛みも治まったし《地震》の調査を続行しよう」
「ホントに、大丈夫なんですか?」
「………………多分」
 
 
 推量系な所が微妙な不安を誘った。
 
 
……………………
…………
……
 
 
 一方そのころ、エステル達は特別訓練の終了を報告する為、一度ギルドに集合していたのだが…
 その途中で恭也の話題が上がり、女性陣を中心に大盛り上がりの状態となっていた。
 
 
「それじゃ、恭也さんのヒザって……」
「子供の頃の事故で砕けてしまって…一時は歩けなくなるかも、とまで言われてたんですけど……
やっぱりそこはお兄ちゃんですね。努力を積み重ねて、今の様に走ったり…剣を振るったりできる様になってます」
「──────確か、美由希ちゃんの話だとあのヒザのせいで恭也さんの剣士としての成長は止まってたらしいな」
「あ、はいそうなんです……」
「とりあえず……さっきなのはちゃんが話してた”神速”って奥義を使わなければ、恭也君も長時間戦えるのね?」
「……それでも、全開のお姉ちゃんに比べると戦える時間は短いですけどね」
 
 
 美由希は未だ恭也の所に尽きっきりなので、唯一事情を知っているなのはが中心になって質問の嵐を一手に受けている。
 ジュンイチもたまに混ざったりするが、それでも圧倒的になのはへの問いかけが多い。
 と……そうこうしている内に、治療の終えた恭也が美由希とユーノを引き連れてギルドへと戻ってきた。
 
 
「お待たせしました」
「恭ちゃん、復っ活ぁつ!」
「まだ”神速”が使える状態じゃないですけど、軽い戦闘くらいならこなせるはずです」
 
 
 異様に美由希がハイテンションだがこの際そこは無視。
 準備が完了したのを確認したシェラザードは早速《地震》の依頼をこなすべくエステル達を促す。
 
 
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「うん、そうね」
「みんな──────ちょっと待ってくれる?」
 
 
 いざ行かんと歩み出した矢先に、いきなりキリカに呼び止められて思わずバランスを崩しそうになる一同。
 何だか嫌な予感がする……やや不満そうな表情を浮かべつつジュンイチがキリカに尋ねる。
 
 
「何なんスかキリカさん─────用事なら手短に頼みますよ」
「用事と言うほどのものでもないんだけど……ジュンイチ、あなた最近疲れてない?
『え?!』
「ジャンから聞いた話だと……あなた《怪盗紳士》とやり合った後に学校とホテルで爆睡状態だったらしいじゃない。
加えてなのはや美由希の話だと、向こうの世界でもロクに休みを取らずに前線引っ張ってたそうだし─────休める時に休んでおくのも、戦士の大切な心得よ。
……丁度、エルモ温泉からの依頼もあったみたいだし、休暇がてらあそこを拠点にして《地震》の調査を進めてみたら?」
 
 
 突如キリカの口から発せられる意外な言葉に全員ジュンイチの方に視線を向ける。
 その当の本人はというと……明らかにしてやられた様な、複雑そうな表情を浮かべつつ頭をポリポリと掻いていた。
 
 だが、ここで素直に「はいそうですね」と頷かないのがこの男の悪い所である。
 適当に理由を取り繕って、先を急ごうとした矢先────クローゼが前へと歩み寄り、俯いていたジュンイチの顔を覗き込む。
 
 
「……そういえば、顔色が優れませんね。
キリカさんの言うとおり、たまには温泉に入ってゆっくりされては如何ですか?」
「余計な気遣いは無用だぜクローゼ。
こちとら身体能力に関しては完全に一般人と比べて規格外なシロモノなんだ。ちょっとやそっと無理したって悲鳴を上げるようなモンじゃね─────」
「───────」
 
 
 あくまでしらを切ろうとするジュンイチに対し、クローゼは深く息を吸い……
 
 
「ごめんなさいっ!」
 
 
 ………………
 ………
 …
 
 
「なぁ、エステル………」
「何よ?」
「─────クローゼって、前からあんな感じなのか?」
「んまぁ、やる事が大胆というか……多少強引な面はあるかもね。
加えて勘も鋭いから、ジュンイチが無理してるって一発で判っちゃったんじゃない?」
「まぁ…黙ってた件については素直に謝るが─────
細剣(レイピア)での波状攻撃で屈服ってのはさすがに死ぬかと思ったぞ
 
 
 いくら自分がフェンシング系列との戦闘を経験してない身といえども、かわせない動きではなかったのは確かだ。
 にも関わらず、あの時はいざ判断しても身体が思うように動かなかった。……一応急所を外してくれたとはいえ、衝撃でギルドの壁に叩き付けられ
 しばらくの間意識が飛んでしまったのにはさすがにびっくりしたが。
 ………次からはクローゼの前では常に緊張しておかないと何してくるか判らないなと心中で付け加えると、ジュンイチはベッドから起きあがり、
 大きく背伸びをしながら─────
 
 
 
 
 
 
 
 
 風に乗って部屋へと進入し、にわかに立ちこめる硫黄の匂いに期待で胸を躍らせていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
 結局───
 クローゼの屈服によって無理矢理エルモ温泉へと、全員揃って連れてこられたジュンイチは、
 始めこそ露骨に嫌そうな表情を浮かべながらベッドでふてくされていたが、時が経つに連れて
 『せっかく貰った休みを愉しむのも悪くないかな……』という悪魔の囁きにあっさり折れてしまって今の状況に至っているのだ。
 
 
「確かにキリカさんやクローゼの言うとおり…最近、ちょっと眠って動いて戦って、そんでちょっと眠って────ってパターンが多かったな」
「よくそんなんで身体保つわね……なのはや美由希が心配するのも無理はないわ」
 
 
 今頃ヴォルフ砦で《地震》の聞き込み調査を行っているであろうなのは達の気苦労が身にしみて感じ取れたのか
 溜息混じりにエステルは呟く。……無理をしているという点では彼女も同類項なのだが、敢えてその辺は追求しないでおく。
 
 故郷、日本では勿論のこと…世界中を旅していた中で何度も鼻腔をくすぐった事のある温泉特有の匂い……
 加えて本日も爽やかな青空。────久しく忘れていた平和な朝にジュンイチも次第に上機嫌となって、宿の窓から顔を出す。
 
 
「しっかし────今日もいい天気だよなぁ……気持ちいいくらいの青空だぜ
 
 
ザァァァァァァァァァァァァァァ────ッ
 
 
「…………ベタな事しないでくれる、ジュンイチ?」
「オレじゃなくてこういうのは筆者(takku)に言ってくれ」
 
 
 思わず呟いてしまった一言が、筆者のイヂメっ子魂に火を付けた。
 さっきまでの晴天はどこへやら────突然の悪意に満ちた豪雨にジュンイチは勿論、同席していたエステルのテンションがた落ち。
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
「しかし……地震に引き続いて今度は豪雨────リベールは天変地異の前兆に立たされてるのか?」
「すいません恭也さん、オレが思わず余計な一言を呟いてしまった為に筆者が悪意に満ちた豪雨を……
「それで……なのはとクローゼは?」
 
 
 周囲を見渡し、恭也と共にヴォルフ砦へと向かっていた二人を含め、女性陣全員の姿が見当たらない事に気付いたエステルが恭也に尋ねる。
 
 
「突然の豪雨でびしょ濡れになってしまったからな────先に女性陣にひとっ風呂浴びてもらう事にした。
………覗くなよ、ジュンイチ」
「命と天秤かけてまで下心に殉ずるわけにはいかないんで。
──てかそれはむしろオリビエに言うべきでは?」
「あぁ……オリビエさんなら──────」
 
 
 言って恭也が指さした先には────
 既にズタボロになるまでメッタ斬りにされ、息も絶え絶えなオリビエの姿が。
 学習能力というものが欠如してるのでは無かろうかと思えるほどのワンパターンさに、ジュンイチも思わず頭を抱えた。
 
 
「ある意味判りやすい行動は称賛に値するけど……死んだら元も子もないぜ、オリビエ」
「フッ…美由希君や姫殿下の麗しく艶やかな肢体を眼(まなこ)に焼き付けるまでは……このオリビエ、死んでも死にきr”ザクッ”えぶし!!
「本当に介錯しますよ?」
「恭也さん、昼飯前に血生臭い事は勘弁して下さい。────せめて殺るんなら夜更けに
「それもそうだな」
(”処刑の是非”については止めないんだ……)
 
 
 エステルが思わず心中で呟くが、絶対に声には出さない。……出したら自分にまで飛び火してくる事は目に見えているからだ。
 と……
 
 
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なっ?!」
「い、今のクローゼの声よね!?」
「くっ………!!!」
 
 
 突如露天風呂の方から響いてきたクローゼの悲鳴。一瞬にして一同に緊張が走り、
 言うが早いがジュンイチは側に立てかけてあった”紅夜叉丸”を手に取って浴場へと走る!
 
 今にして思えば、《結社》の連中がこっちの都合を考えて動いてくるとは考えられない。
 加えてどんな手を使ってくるかも判らない……嫌な予感がジュンイチの脳裏をよぎる────
 
 
バァンッ!!
 
 
「大丈夫か!? クローゼ、なのは、美由希ちゃんっ!!」
「じ、じじじじジュンイチくんっ?!?」
「────ちぃっ!」
 
 
 ドアを蹴り開けるなり、脱衣所の中央で腰を抜かした美由希達がへたれ込んでいた。
 ざっと見た感じ、3人に目立った外傷は見られない……引き続いて脱衣所一帯を見渡すが侵入者の姿や気配は感じられない。
 ならば外か────と、素早く判断し、脱衣所の引き戸を開けて室内風呂────そして露天風呂の順で索敵を行う!
 
 
「…………………………」
 
 
 神経を研ぎ澄ませ、辺りをうかがう………が、もはや逃げられた後なのか、周囲にそれらしき怪しい気配は感じられない。
 ”紅夜叉丸”を構えたまま、ジュンイチは後を追ってやってきていた美由希に尋ねる。
 
 
「美由希ちゃん、敵はどこへ消えた?! あと────できれば数も判る範囲で教えてくれ」
「えと……熱くなってる所悪いんだけど────それほど重要な事態でも、無かっ…たり……」
「はぁ? どういう事だ? 現にクローゼがスゴい悲鳴を響かせてたじゃないか────」
 
 
 話が見えてこない……じゃあ何故あんな事に────
 美由希に尋ねようと、振り向いたジュンイチは…目の当たりにしてしまう。
 
 
「…………………………」←美由希(かろうじて下着姿)
「………………………………」←クローゼ(上に同じ)
「……………………………………」←なのは(タオル巻いただけ)
 
 
 一瞬にして露天風呂から半径20mの範囲の時が凍り付く。
 美由希とクローゼにおいては思考も完全に停止しているようだが……なのはは笑顔を浮かべつつ、胸元からレイジングハートを取り出して……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
仁義なきお仕置き中
 
 





 
 
「心配してくれるのはありがたいんですけど……もう少し状況を考えて下さい」
「助けに来てもらっておいてそゆ事言うかこの口わっ!」
「ふひゃあ〜────ひょっひょ、ひゅんひちひゃん…ひゃへへふふぁふぁいよ〜〜
(訳:ふにゃ〜────ちょっと、ジュンイチさん…止めて下さいよ〜〜)」
「……ま、まぁジュンイチ君はこういう不可抗力な展開がデフォルトだからさ、あんまり気にしない方がいいよクローゼ」
「え、ええ────そうですね」
 
 
 お仕置き終了後、夕食前に集まった皆の前で再び論争を繰り広げるジュンイチとなのは。
 その一方で、不可抗力の巻き添えを食らった美由希とクローゼは二人のやり取りを見ながら精一杯のフォローをしていた。
 ……いくら成り行きとは言え、同情するに値しない行為だと思うのだがこの際触れないでおこう。
 それに、今はそんな小さな事で論している場合ではない。クローゼの悲鳴の理由を聞き出さなければ根本的な解決にはならないし、何より
 3人の裸ジュンイチの名誉が浮かばれない。
 そういえばギルドの掲示板にも関連性のある依頼が挙がっていたのを思い出し、エステルが代表してクローゼに問いかける。
 
 
「そういえば、クローゼって何を見て悲鳴を上げたの?」
「えっと………実は、その────────
美由希さんとなのはちゃんと一緒に露天風呂に入ってる時……上の茂みから何やら突き刺さるような視線が────
「そ、それっていわゆる…!」
「”覗き”……というヤツだろうね。
何と言う事だ……! 何て羨m────もとい、不埒なマネをしてくれたんだ犯人はっ!!」
「今チラリと本音が零れたわよ?」
 
 
 思わず思った事が素直に口から漏れかけるが、これ以上の失言は本気で命が危ない。
 そう判断したオリビエはすぐさま訂正するが、シェラザードは聞き逃さなかった。
 
 
「おや、どうしたんだい…みんなガン首そろえて?」
「あ、マオ婆さん────そういえば、ここ最近露天風呂でのぞき犯が出没してるって聞いたんだけど、それって本当の事?」
「ああ、そうなんだけど………そのクチだとあんた達も被害にあったようだね」
 
 
 エステルの後方からひょこっと顔を出し、様子をうかがいに来た…ここ『紅葉亭』の店主を務めるマオ婆さんが一堂に会した面々を見渡すと
 エステルからのぞき犯撃退の依頼の件を持ち出され、何となく降りかかった事態を想像して尋ねる。
 
 
「あたしとシェラ姉は席を外してたけど、なのは達が見られたらしくて。
………覗き自体はどのくらいからあったの?」
「ここ最近の事なんだけど、女性客から何度か話があってね────気になったモンだからギルドへ連絡したわけさ」
「………………………」
 
 
 事情聴取を行うエステルの傍ら、何やら恭也の様子がおかしい。
 彼の様子の異変に気付いたシェラザードが何気なしに尋ねてみる。
 
 
「どうしたの恭也くん…さっきから黙り込んで」
「いえ………今回の犯人もつくづく不幸だなと思いまして。
────────我が妹達とその親友を不埒な目で視姦したその”業”。
……深くその身に刻み込んでやろうと画策していた所です
「そういうドロッとしたコメントをさらりと言わないの
────今この場に何人思春期の女の子が居ると思ってるのよ」
 
 
 やっぱり恭也は姉妹絡みの事となると見境が無くなるらしい。
 あっさりと血生臭く、しかも微妙にえろえろな台詞を吐くものだからシェラザードから鉄拳を貰い、あえなく撃沈。
 エステル・クローゼ・美由希は思わず頬を朱に染めるが、さすがになのはは言葉の意味がよく判ってない為か、”?”マークを連呼している。
 
 
「話を元に戻すわよ……マオ婆さん、その女性客からの話って具体的にはどういうものだったの?
……できれば犯人の姿を見ててくれるとこちらとしても助かるんだけど。」
「いやいや、そんな大したモンじゃないよ。
せいぜい気配を感じたとか物音を聞いたとかその程度のものだよ。…だけどさすがに今回のは一番ヒドいみたいだね」
「フッ、確かに。
これまでの証言だとただの勘違い程度で済まされていたが、3人が確実に”見られた”お陰でただの勘違いでは無くなってしまったからね」
「とりあえず、事件だっていうのはハッキリしたけどさ……このまま犯人がまた現れるのを待つってのも何だかじれったいわね」
「フッ……なら実際に”現れてもらう”しかないね♪」
「現れてもらうって………どこの世界に自分から捕まりに行くのぞき犯がいるのよ」
 
 
 現状を判断し、オリビエだったがあっさりとエステルにつっこまれる。
 確かに普通の犯罪者なら、余程逃げ足に自信があるか────ドMでない限り自分から捕まりに行くようなマネをしないのが鉄則だ。
 エステルに指摘されるも、オリビエは全く表情を崩すことなく続けて述べる。
 
 
「……この手の犯罪は現行犯でないと逮捕は難しいからね。
こちらで”デコイ”を用意して犯人をおびき寄せるというのが妥当な線だと思うが?
「デコイ? ────────出鯉で来い?」
「エステルさん……さすがにそれはちょっとキツイかと」
「(…………クローゼも大分ツッコミが板に付いてきたわね)────んで、そのデコイって何?」
「早い話がオトリだよ。
────悪い言い方をすれば、犯人を釣る為のエサといった所だね」
 
 
 オリビエの提案に一瞬周囲がどよめく。
 確かに……一般客が被害に遭うのを待って逮捕に臨んでは対処に遅れる可能性もあるし、論理上の問題もある。
 だが………若干約一名乗り気じゃない人物が居るのが最大の課題だ。
 現実問題、ここにいる女性陣でデコイを用意するのは難しいと思われる。
 
 
「オトリを用意するのはいいけど………誰がやるのよ?
別にあたしはやってもいいけど……なのはちゃんや美由希ちゃんは論外ね。────さっきから怖〜いお兄さんが眼光鋭くしてアンタを見てるわよ?
「フフッ……確かに高町姉妹の魅力もなかなかのものだが、今回は敢えてコアな客層狙いでいってみようと思う
(これ以上恭也君を刺激すると本当に”介錯”されかねないからねぇ…………)」
「コアって…
アンタ以上におかしいオトコが居るとでも?」
「とりあえず、万人受けする事だけは保証するよ。
────と言うわけで、頑張ってくれたまえ。”ユーノ君”
 
 
 オリビエの口から出たデコイの人選にエステル達は正直びっくりした。
 狙われているのが”人間の女性”なのに何でフェレットのユーノが選ばれるのか……いや、それもあるがそれ以上に
 オリビエによってオトリ役に抜擢されたユーノが露骨に嫌そうな表情を浮かべている。
 しかもその脇では……高町兄妹は苦笑いを浮かべ、ジュンイチはこれ以上にないくらいの笑顔(爆笑)を浮かべていた。
 
 
「ちょっ、オリビエ────何でフェレットのユーノが選ばれるワケぇ?!
ひょっとしてあたし達の色気がフェレット以下だとでも言うんじゃないでしょうね!?
「まぁこの際エステルの色気がどうとかはさておいて……もうそろそろ元に戻ってもいいんじゃねぇのユーノ?」
「どーでもいいって、どういう意味よジュンイチ!───って元に戻るってどーゆー事よ?!」
「百聞は一見にしかず、だ。……腰抜かすんじゃねぇぞ」
「????」
 
 
 ワケが分からない様子で疑問の声を上げるエステルだが……突如輝きだしたユーノの姿を目の当たりにし、思考が切り替わる。
 そして、彼を取り巻く光がだんだんと形を変え────”人の姿”となった瞬間エステルは勿論シェラザードやクローゼまでもが目を丸くする。
 
 現れたのは、なのはとそう歳も変わらない普通の男の子……しいていうならば、ヨシュアと同じく中性的な顔立ちのせいで、
 見方を変えれば女の子のようにも見えなくもない。
 
 
「な……え………えぇっ!?!」
「フェレットの姿はあくまでも極端に魔力を消耗したり、重傷を負った時の療養のための仮の姿。
こっちがユーノの本当の姿だ────────いや〜ケッサクだったぞ、お前らの驚いた顔♪」
「ほんとに悪趣味ねぇ、ジュンイチくん────人の驚く顔を愉しむなんて」
「ていうか、オリビエ……何でユーノの本当の姿の事を知ってるのよっ?!」
「ハッハッハ。
────実はルーアン地方で彼を救助した際はこの人の姿だったのだが、何処か怪我をしていたらしくてね……
しばらく『怪我の治療に専念する』とか言って今までのフェレットの姿で居たのだよ。
事情が事情な上にユーノ君自身もあまり知られたくなかったらしいし、エステル君達を驚かせた時の顔を見たくてね…黙っていたんだ♪」
 
 
 再び高笑いをあげるオリビエにネリチャギをかますと、エステルは改めてユーノの容姿を確認する。
 
 ・顔つき……髪型を変えればOK
 ・体型……なのはと同い年という事を考えれば許容範囲内
 ・言動……特に問題なし
 
 ……………確かにオトリとしてはこれ以上にない逸材だ。
 本人には失礼だと思いつつも、思わず納得できてしまうエステルだった。
 
 
「ゴメン、オリビエの言うとおり────これならイケるかも」
「ああっ! エステルさんそんなあっさりと承認しないで!!」
「ハッハッハ!!
良かったなユーノ……いや、『ユーノちゃん』♪」
「じゅ、ジュンイチさんまでからかわないで下さいよっ!!」
 
 
 ユーノの必死の抗議も空しく、調子に乗り始めたジュンイチがユーノをまくしたてる。
 が、そんな彼の様子を不思議そうな顔でオリビエは観察し、そして告げる。
 
 
「何人事みたいに遊んでるんだいジュンイチ君────
キミも、立派なデコイの一人なんだよ?
 
 
 
間。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「え゛?」
 
 
 意外すぎたのか、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
 それでも、もう一度確認する為にオリビエに尋ねる。
 
 
「………マジで?」
「フフッ、このボクが冗談を言うとでも?」
「…………もう一回マジで?」
「マジだよ」
「You must be kidding」(ご冗談でしょう?)
「I'm sorry that It's really true♪」(残念ですがそれは本当です♪)
「No!!」(なんてこった!!)
 
 
 思わず頭を抱えて絶叫するジュンイチ。
 ……ブレイカーズにいた時もそうだが、自分と仲間の一人はとかくこの手のネタで仲間内からいびられる事が多く、
 半ばトラウマと化している展開なのだ。────待て、なのは。必死になって笑いを堪えているのは何故だ?
 よく見たらなのはだけではない……美由希やエステル、シェラザードも必死に笑いたいのを押し殺している。
 
 
「ププッ………くふっ…と、取り合え……ず、髪型を変えれば────イケるんじゃない? くふふっ♪」
「フフフフ……そうね、ついでにリップも塗って…アイシャドウも………ププ────入れちゃいましょう♪」
「そこぉっ!! 人事だと思って好き勝手言わないでくれよ!!!
────っていうか止めて下さいよ恭也さんっ!!」
 
 
 今の女性陣に何を諭しても無駄だろう────そう判断したジュンイチは唯一中立の立場をとっている恭也に助け船を要請する。
 ……が、当人の口から帰ってきたのは、死刑宣告にも等しい絶望の一言だった。
 
 
「ウチの妹達の下着姿・・・」
「あ〜〜〜もう、ごめんなさぁい! オレが悪かったッス!!
だから女装で仕打ちなんて勘弁して下さいよ恭也さぁぁぁんっ!!!」
 
 
 退路を完全に断たれたジュンイチは血涙を流しつつ絶叫する。
 が、突然の豪雨も去り…徐々に健やかさを取り戻しつつある青空に空しくも響くだけで当の本人達は全く聞き入れる様子はない。
 だが、こうなってくると現実的かつ最大の問題が浮上する。それは……
 
 
「着衣時ならともかく、風呂に入るとなるとバレるだろ! いくら何でも絶対!!」
「じゃ”服着てる時”なら絶対の自信があるわけだ♪」
「シェラさん────────そーゆーのは曲解っつーんですよ!」
「心配するなジュンイチ。ジュンイチやユーノは脱いでも十分女っぽいぞ」
「全然慰めになってない────つーかそういう問題じゃねぇでしょうがぁぁぁぁっ!!!」
 
 
 シェラザードは兎も角として、恭也まで悪ノリしてくる辺り…なのはを巡っての日頃からの恨み辛みが顕著に出ているものと思われる。
 なのはや美由希も止めない所を見ると、ほぼ恭也と同意見と見ていいだろう。
 そんな一同のやり取りを、不安そうな眼差しで見守るマオ婆さんは完全に蚊帳の外っぽい。
 
 
「よし、ジュンイチ君達の”準備”が終わり次第早速取り掛かるとしよう。
シェラ君と美由希君で二人の化粧を……エステル君は場のセッティングだ」
『ラジャー!!』
(オレ達の否定権は……)
(無いみたい…………ですね)
 
 
 二人して深々と溜息を漏らすジュンイチとユーノ。
 こうなってくるとジタバタ藻掻いても仕方がない────さっさと自分の役目を果たして
 とっとと犯人にキツ〜〜〜〜イ灸を据えるのが一番だと判断した二人は脳内のスイッチを切り替える。
 
 柾木ジュンイチ、及びユーノ・スクライア。────心の去勢手術、完了。
 我らが心、既に空ナリ────────色即是空。
 
 
『はぁ………じゃあ準備するから、後でタオルと風呂道具一式持ってきてよね』
「おぉ〜〜、イイ感じじゃないジュンイチ♪」
「ホントだよね〜〜……さしずめ、”保志総一郎”から”堀江由衣”にスピリットレボリューションって感じかな♪
「美由希さん……その例えは一体?」
「……………ユーノは大して変わらないね」
 
 
 美由希の率直なコメントがグサリと心に響くが、この際そんな事に気を向けてはいられない。
 二人の心は既に一つとなっていた……即ち────
 
 
 
 
 
『オレ(ボク)にこんな辱めを被らせた輩に死の制裁を!!!』
 
 
 
 
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
『はぁ……………』
「温泉に入ってると、これがお仕事だって忘れそうになりますねぇ〜〜」
『ホントよねぇ〜〜………』
 
 
 滅多にない温泉付きの臨時休暇とは言え、仕事できているという事を忘れない辺りはさすがと言うべきか。
 しかし二人の『女の子しゃべり』のせいで、そんな雰囲気は微塵も感じられない。
 ……とりあえず、身体の大部分はタオルで隠すハメになったが、それ以外の部分────二の腕やふくらはぎといった部分は惜しげもなくさらしている。
 こんなのでホントに引っかかるのぞき犯がいるのかどうか激しく不安をあおったが、とりあえず何も喋らないまま……ただポーズだけでおびき寄せるのはさすがに無理があった。
 特にジュンイチはデフォルトのままの喋り方だと非常に柄の悪い女の子になってしまう……。そのため、自らが演じるキャラの設定に些か頭を悩ませていた。
 
 
(演じるとなれば……身近な所での”教材”を参考にするのが一番だよな………)
 
 
 ここで言う所の”教材”とは無論ブレイカーズの女性メンバーの事を指す。
 それこそ十人十色なキャラクターが終結している為、判断材料には困らない。
 早速それぞれの性格を元に自分のキャラクターと照らし合わせてみる────
 
 
 ・ジーナ&鈴香:基本的に丁寧な『です・ます』口調が苦手なので却下。
 ・ライカ:激しく”ツンデレ”というキャラクターが、自分に似合いすぎてしまうので却下。
 ・あずさ:ユーノしかいないこの場でツッコミキャラは不必要なので却下。
 
 
 ………元よりあまり期待してなかったが、消去法でファイのような元気系で落ち着く形となった。
 アニソンなどで声色を上げて歌ったりする事もたまにあったせいか、多少なりは自信がある。
 そして───────
 
 
『はぁ、今頃みんなは部屋でのんびりまったりタイム……温泉はあたしとユーノで貸し切り。ラッキー♪』
「そ、そうで……すね…………」
『食らえユーノ! そぉれっ!!』
「うわっぷ! な、何を……」
『どんどんいくわよぉ〜〜────それっ!!』
 
 
 普段のジュンイチのキャラを考えるとえらい変わりようである。
 いきなりお湯のかけ合いに興じ始めるジュンイチの姿にどうにもコメントのし様に困るユーノだが……
 敷地外で周囲を警戒中のエステル達は呑気に二人の様子を観察していた。
 
 
「うーわー………ユーノもさることながら、ジュンイチもなかなかのキャラ付け」
「な、なかなかの遣り手じゃない……女のあたし達よりもカワイイなんて」
「ジュンイチさん……何だかとっても輝いて見えます」
 
 
 クローゼのコメントは絶対に本人(ジュンイチ)なら真っ向から否定しそうである。
 オリビエが鼻息を荒げて完全に二人のやり取りに興奮している最中、非常に残念そうな表情を浮かべながら美由希は二人の様子を見ていた。
 
 
「とうさんが買った最新のデジタルビデオカメラ……持って来とけばよかった────」
「ん? 何か言った、美由希?」
「あ、いや! 何でも……何でもないよエステル!! あ、あはは……あはははははは!!!!」
「????」
 
 
 何とかその場を取り繕った美由希だが、何とかしてジュンイチとユーノの勇姿(爆)を記録に遺したいという誘惑に負けたのか…
 なのは……の手にするレイジングハートに語りかける。
 
 
「……ねぇ、レイジングハート。
二人の様子を記録する事って、できる?」
〈No problem. ────But I cannot recommend the act when I expect the back.
(問題ありません。────ですが後の事を予想すると、その行為は推奨できません)〉
「頼むよぉ、レイジングハート! お願いっ!!」
「お、お姉ちゃん………」
〈All right……Miyuki...〉
 
 
 さすがのレイジングハートも、美由希の気迫に押し負けたのか渋々録画を開始する。
 持ち主のなのはもやや複雑そうだ。
 
 
『あ、シャンプー切れちゃった……脱衣所にあるかな?』
「あ、それならわたしが取ってきますよ」
『お願いねぇ〜〜』
 
 
 開始から10分が経過しようとしていた頃────ジュンイチ達の演技もすっかり板に付いたからか、完全に二人が女子のように思えてきた。
 無論、タオル一枚隔てた先にはちゃんと”付いてる”のだが二人の演技は既に迫真を超越し、もはやうら若き乙女そのものとなっていた。
 
 
 その一方で……茂みの中で蠢く”ソレ”は二人の姿を見ながら、監視者の一人と同じように呼吸を荒げ、
 ヨダレを垂らしつつ呟いた。
 
 
『はぁ………はぁ…………
いい…………………今までで、一番いいメェ〜〜…………!!
 
 
 
 
 
 
 
『………………!!!!!!!』
「………? どうしました??」
『いや──────今、背筋に悪寒が』
 
 
 走ったのは気のせいではないだろう。
 ここまでくると後は恭也と美由希の独断場だ。────自分達の気配を殺す一方で、相手の気配とその位置…数を探る。
 
 
(数はざっと………6、といった所か。美由希────合図したら一斉に飛びかかれ。一気に仕留めるぞ)
(了解──!)
 
 
 距離にして……ざっと20mといった所か。
 神速を使わなくても二人なら一瞬にして間合いを詰められる距離。
 相手の呼吸を読みながら、徐々に距離を縮めていく────と。
 
 
(動き出した?!)
 
 
 密集していた気配が次第に後方へと下がりだした。……ひょっとして感づかれたのだろうか?
 焦った美由希は慌ててその身を乗り出し、大声で制止する。
 
 
「すぅぅぅぅ…………くぉらぁ〜〜っ! 待ちなさいのぞき犯〜〜〜〜〜っ!!!
「ぶっ──! バカ、美由希!!」
 
 
 下手に犯人を刺激しては拙い! そう恭也が言いかけた矢先───────
 
 
 
 
 
 
 茂みの中から、ヒツジの姿をした魔獣が一斉に姿を現した。
 
 
「げげっ!!?」
「のぞき犯は魔獣だったのか?!」
「あ、逃げるわよっ!!」
 
 
 我先にと逃げ出す魔獣を追うべく、後ろで控えていたエステル達も慌てて走り出す。
 そんな中……露天風呂にポツンと取り残されたジュンイチとユーノは静かに呟いた。
 
 
『行きますか………』
「そうですね………」
 
 
 笑顔の奥に、強烈な瘴気と殺気を纏いつつ、二人は浴場を後にした─────
 
 
 
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
 数分後、何とか逃走を続ける魔獣達に追いつき、周囲を取り囲むエステル達。
 恭也や美由希も包囲網の中に加わり、魔獣を威圧しながら隊形をゆっくりと形成していく……。
 
 一方の魔獣は、追いつめられている自覚がないのかそれとも余裕ありきなのか─────
 不敵な笑みを浮かべながらゆらりゆらりと陣を形成する。
 
 
「やっと観念したみたいね────」
「少しお仕置きしてやりましょう♪」
「少しだなんて生温い─────バラバラに捌いて鍋の具材にでもしてやりましょう
「………恭ちゃん、お願いだからソレをみんなの前でやらないでね」
 
 
 妹達の入浴姿を覗かれたのが余程癪に障ったようだ。
 ドスの利いた声で呟きながら恭也は八景を手にし、そんな暴走気味の兄を美由希が宥める。
 だが、魔獣達はそんな恭也の威圧に屈する様子もなく……怪しい笑みを漏らし続けてこちらを見つめている。
 
 すると、意を決した桃色の毛色をした魔獣が叫び─────周りの魔獣もそれに応える!
 
 
『いくメェ…………”ヒツジン阿修羅合体”っっ!!』
『メェェェェェッ!!』
 
 
 言って桃色の魔獣はその場にて高く飛翔……ソレに応答するかのように他の魔獣も空高く舞い上がり─────
 輝きが一つに合わさり、完成した”ソレ”は着地するなりエステル達に告げる。
 
 
『これぞ、我らヒツジン一族幻の合体奥義! 毛色を超越した結束が生む最強の技メェ〜〜!!
「合体って言うよりただ寄り合っただけじゃんそれ」
 
 
 しかも喋る魔中という事も相まってか、そのナリは非常に気色悪い
 呆れ顔でエステルが突っ込むが、当の巨大魔獣……ビッグヒツジンは一斉に盛りの付いた鳴き声を上げながら─────
 白い服(バリアジャケット)を纏ったなのはに迫る!
 
 
『食らうメェ〜〜……必殺☆ヒツジン残虐拳!!
 
 
 即興っぽいナリと巨体に似合わず、猛スピードで突っ込んでくるビッグヒツジン。
 だが、対するなのはは動じる気配を一切見せず……静かに告げる。
 
 
「ディバインシューター……」
〈Shoot────!〉
 
 
 構えたレイジングハートから形成される桃色のスフィアは、鋭い弾丸となってビッグヒツジンの後方に回ると、そのまま再加速─────
 息つく暇もなくヒツジン達の連結部分に着弾する!!
 
 
『ブギャァァッ!! ちょ、な…何するメェ!! 合体の弱点を狙うなんてロマンも欠片もない事を─────
お前それでも漢かメェ!?
「わたしはれっきとした女の子ですっ!!!」
「余所見をしている場合はないぞ………」
『─────!!』
 
 
 ──御神流、奥義之陸・薙旋っ!!
 
 
 突如放たれた斬撃の初一発は何とか避わせた。だが、続いて放たれる2発目3発目は防げなかった。
 否応なしに合体のバランスが崩れかけるが何とか保持──
 容赦ない攻撃を繰り出してくる恭也に対して不満の声を上げる。
 
 
『邪魔をするなメェ! オラ達はそこのガキンチョに漢のロマンと云う物w”ザクッ”おわちっ!!
「”漢のロマン”と”己が命”………天秤にかける勇気はあるか?」
『フンッ! 理想に殉ずれるのならば其れまた本望! 覗きもまた然りッ!!!
「ここまでくるとホントにムカついてくるわね……たかだか魔獣のクセに」
 
 
 実に良い顔で『漢のロマン』を語るビッグヒツジンの姿に頭痛すら覚えるエステル。
 恭也の放った飛針によって血がドクドクと噴き出しながらも、熱く熱弁するその姿は世の助平男たちの賞賛を得る事だろう。
 
 ………言ってるのがただ密集しただけのヒツジの固まりでなければ。
 
 
 と………こんないかにもアホらしいやり取りをしている一同の後方から接近してくる二人の人影が─────
 
 
『ふぅん……成る程。
ならあたし達にこんな格好と芝居をやらせたのも”漢のロマン”の内に入るワケね─────』
 
 
 装重甲(メタル・ブレスト)を着装し、未だに女装時のキャラが残りながらも、爆天剣を携えたジュンイチが静かに告げる。
 
 
「そのロマンとやらの所為で……ボク達は大切な物を失いました…………」
 
 
 滝のように涙を流しながら、静かにユーノは呟く。
 そして、二人一斉に咆吼。ビッグヒツジンに向かってダッシュで駆け寄り────────
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『オレ(ボク)の……男としての尊厳を返せコンチクショオぉぉぉぉぉっ!!!!』
 
 
 
 
 
 
 
 その日…………ツァイス地方南部に広がるトラット平原は、二人の修羅を中心に火の海と化した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
「しっかし、とんでもない一日だったな今日は────」
「特にジュンイチさんは色々引っかき回されましたからね……」
「でも……二人の女の子姿、かなりサマになってたわよ? ───来年の女王生誕際の時にもう一度やってもらっちゃおうかな♪」
「お願いですからそういうアブナイ契約を持ちかけてこないで下さい」
 
 
 日も暮れ、草虫が鳴き声を立てる夜……
 改めて温泉に入った後、全員揃ってのジンギスカンパーティーでメインディッシュの肉に舌鼓をうちながら
 エステルがぼやくと、ユーノが全力を持ってそれを止めにかかる。
 
 
「それにしても……なんだって魔獣が覗きなんてマネをしたんだろう?」
「それについては、色々と諸説がありますが──── 一説によると地震が大きく関係してるらしいです」
「地震に?」
 
 
 クローゼが仮説を呟くと再びエステルが疑問の声を上げる。
 クローゼも特に気にする様子もなく、再び説明を再開した。
 
 
「魔獣は環境の変化に敏感らしいので……地震の発生によって暴走する事も少なくないそうです」
「だからって……コッチ方面で暴走しなくても、ねぇ?」
「…………………………」
 
 
 呻きつつ、エステルがユーノに視線を送ると、当の本人は顔を真っ赤にして俯き、黙り込んでしまった。
 一方……なのはは目の前に出された肉の数々に嫌悪感を感じているのか、さっきから全然食が進んでいない。
 
 
「どした、なのは? 食わないのか?」
「────────このお肉の出所がなまじ判るだけに」
「この世は常に弱肉強食だ。 弱いヤツは強いヤツの血となり、肉となる……割り切らないとメシなんて食えるモンじゃねぇぞ?」
 
 
 そういうジュンイチの箸はきわめて順調に進んでいる。
 ……この男の場合は逆に割り切りすぎてしまっているのが玉に瑕なのだが。
 思っても口には出せないなのはだった。──────と、
 
 
「エステル────それにシェラザードとかいったね?
ヴォルフ砦の方から通信が来てるよ。何だか至急の報せみたいだけど?」
「あ、ありがとマオ婆さん。────ジュンイチ、あたしの分取らないでよね?」
「人がハシ付けたもんには手を付けない主義なんで」
 
 
 どうだか……と呟くと、既に飲酒によって使い物にならなくなったシェラザードに代わり、
 通信の応答を買って出るエステル。
 太陽の欠けた宴会の席はやや盛り下がる兆候を見せるが、突然クローゼがジュンイチに語りかけてきた。
 
 
「そういえば……ジュンイチさん、ゆっくり休めましたか?」
「────まぁそれなりにはな。途中珍道中や血生臭い展開もあったが、休暇としては申し分ない内容だ」
「ふふっ……良かった。
……美由希さんから聞いた話だと、ジュンイチさんは何もかもご自分で抱え込んでしまう性格のようですし────
自分は大丈夫だと思っても、周りの……あなたのそばにいる人達はそうは思えないんです。
誰かを守りたいと思うのなら…まずは心配させない事に気を遣ってみては?」
 
 
 核心をつくようなクローゼの一言。
 ジュンイチもそれを重々承知しているのだろう……沈黙を持ってクローゼの問いに答える。
 
 
「出すぎた意見だというのは自分でも承知してます。
でも────ジュンイチさんが傷つく姿は、誰も見たくはありません。なのはちゃんや美由希さん達は勿論、私やエステルさんも同じです。
ですから………頼って下さい。私達を────もっと今以上に」
「………………今更ながら思うが、お前読心術か何かを習得してたり?」
「これでも一応女王候補ですから。したたかにやり取りするだけの力量は持っているつもりです」
 
 
 完全に打ち負かされた形となったジュンイチ……だが、不思議と悪い気はしなかった。
 エステルといいクローゼといい、この世界の同い年は妙に心が強いというか────確固たる信念のような物がある。
 無論ジュンイチも”絶対”と決めた信念はある。例えば『危険な場所に他人を巻き込まない』とか
 『殺しをするのは自分だけで十分』とか色々だ……。
 だが、二人の信念は自分の頑なな其れとは違う。人の影を照らし、打ち消すような……
 光を伴った強く……そして輝やかな宝石のような物。
 
 だから”影のような”自分の信念は妙に気圧されがちになってしまう。
 同時に、心が温まるというか……安らぐ感覚もあった。
 
 そのため、ジュンイチは特に不満の声を上げることなく…再び目の前のご馳走に箸を伸ばす────
 その時だった。
 エステルが声を荒げ、受話器越しに叫ぶ。
 
 
「あ、あんですって〜〜〜?!?」
 
 
 突然の大声にどよめく一同だが、エステルは再び元の音量に戻った声で相槌を打ち、
 受話器を置くとジュンイチ達の元へと駆け戻ってきた。
 
 
「みんな、急いで支度して! セントハイム門へ向かうわよ!!」
「セントハイム門? ────この夜更けにかい?」
「ってちょっと待って?! 確かそこって王都を隔てる要塞兼検問でしょ?
加えてヴォルフ砦から連絡が来たって事はひょっとして……」
 
 
 嫌な予感がしつつも、美由希は呼吸を荒げるエステルに尋ねる。
 すると彼女の口から予測したとおりの……最悪の展開が告げられる。
 
 
 
「ついさっき、セントハイム門でも地震が発生したらしいの!」
 
 
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
突如王都を守る砦を襲う自然の猛威! しかもその規模はだんだんおっきくなってきてるみたいなんです!!
 
そしてヴォルフ砦でもその姿を目撃されていた”サングラスをかけた黒服の男”
 
間違いないですね……新たなる《執行者》です!!
 
そしてツァイスにて受け渡されるラッセル博士の発明品!
 
何とかして止めないと……大変な事に!
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第12話『ツァイス地震警報発令中』
 
リリカル・マジカル!
 
エステルの親父さんって何者サマですか?
 
 
 
−あとがき−
 
 モリビトさんに引き続き、大暴走。
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
 仕事場の先輩から『Fate/staynight』を借り受け、絶賛プレイ中のtakkuです。
 まだまだ序章の時点なので執筆と平行しつつのプレイです……にしてもOP長ッ!!
 
 今作はジュンイチ君とクローゼのフラグを意識して書いてみましたがそれ以上に……
 同じ温泉ネタという事で「とらハDVD おまけシナリオ」の『ナツノカケラ』をほぼ引用し完全なギャグテイストで執筆してみました。
 恭也さんもシスコンぶり全開。完全にはっちゃけた一話でしたw
 
 ちなみに、『空の軌跡』シリーズで共通して存在する”料理”システム。
 店で手に入る食材は元より、魔獣を倒した後に手に入る食材も駆使しないと作れない料理もあるワケなんですが……
 ヒツジン系の魔獣から手に入るのは『魔獣の尻尾』という食材だけです。
 決して肉は手に入りません。あしからず。

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 えー、爆笑してばかりでまともに読めなかった、というのが最初の感想。
 元ネタはすぐにわかりました。投稿倫理的にどーかなー? とも思いましたが、クロス対象の作品からの出典なので、無問題と判定です。
 何より、こんな笑えるのをUPしないのは自分が許さないので。

 ついにジュンイチ女装! しかもユーノも!
 元ネタが元ネタなだけにもうノリノリですな(苦笑)。

 さりげにクローゼ相手にフラグの予感。これからどうなっていくのかちょっと期待。
 さすが未来の女王様。極めてアレなジュンイチのハートもガッチリキャッチ(激違)。

 

『今日の25時からのらき☆すたの録画予約…頼まれてくれるか?』

 有無を言わさず通信を切りつつも、きっとジーナはそれでも録画しておいてくれるんでしょうね。
 そして、それをきっかけに自分もハマる、と。
 着実に柾木母子に染められつつあります、ジーナ嬢。

 そんな感想を抱く一方で一言。

 ちょっと待てジュンイチ! 『藍蘭島』はどうした!?(←東海地方では同曜日放映)