エルモ温泉での報せを受け、全速力(←文字通り装重甲(メタル・ブレスト)での全力飛行)
で急行したジュンイチを待っていたのは…
地震によってありとあらゆる物が散乱し、グチャグチャに散らかった施設と……
それの片付けに追われ、明らかにバツの悪そうな表情を浮かべている部隊長だった。
「全く……遊撃士のというのは訳が判らんな。
─────見ての通り、地震の後片づけで皆忙しくしているのだ。調査なら後にしてもらえないか」
「悪いがこっちも刻一刻を争う状況なんでね。
片付けの邪魔をしないようにやるから勘弁してくれないッスか?」
「うぅ…む……」
皮肉の一つや二つ、言われ慣れてる為かジュンイチがすぐさま隊長の愚痴に返答する。
…いつもの彼であれば即刻キレて問答無用で”処刑”していたに違いないだろうが、今そんな大人げない事をしても根本的な解決にはならない─────
何よりなのは達に『博士の発明品の件もあるし、こっちの事は任せてツァイスに戻れ』と言い切ってしまったのだ。
……今更ながら自らの愚行に嫌気が差すが、今はそんな事を言ってるときではない。
未だ返答に悩む隊長に対してずずいとジュンイチが詰め寄ると、根負けしたのか渋々つぶやいた。
「ふう…司令部からの指示がなければ断っているところだが……
私は急ぎの仕事があるので地震の発生状況についてはタルバウト副長から聞きたまえ。
そこのドアから入った部屋の奥にある倉庫で片づけをしているはずだ」
言って隊長はジュンイチの目線を自分の斜め後方……のドアを指さす。
ジュンイチもそれを確認すると挨拶程度にうなずく。
「りょーかい、タルバウト副長殿だな」
「他の者の後片づけの邪魔はできるだけしないでくれたまえ。─────それでは私は失礼する」
あくまで素っ気なく、その場を立ち去ろうとしたその時…
「あ、最後にもう一つ─────」
何かを思い出したかのようにジュンイチが再び隊長を呼び止め、告げた。
「メシを中途半端に切り上げて来た身だから、出来れば食堂への行き方も教えてくれると助かる」
相も変わらず、燃費の悪い体のようで。
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
力をつけ、その驚異を増していく大地の牙。
心と体を漆黒で染めた猛き狼は、白き隼の喉を捉える。
少女は願う───『共に戦いたい』と。
わたしも同じ想いを抱いていたから……
わたしの魔法は、前に進むために…後悔しないために、あるのだから。
魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
第12話「ツァイス地震警報発令中」
「……それにしても、随分とハデに散らかったもんだなぁ。確かツァイスで発生した地震はこれほど酷くはなかったハズだが」
受付の反対側に構えている食堂でポテトフライを購入したジュンイチは、副長のいると思われる
部屋の奥へと足を進めながら呟く。
…まぁツァイス市そのものには、すぐに崩れ落ちるような小物はほとんど無い状態なので比べる事自体お門違いな気がするのだが。
だが、ジュンイチの見立て、これはどう見ても同市を襲ったものに比べて規模が拡大している。
内心、嫌な予感がよぎりつつ捜索していると……いた。
倉庫の奥の方で雑品の整理をしている兵士が一人。おそらく彼がタルバウト副長という人だろう。
「ちょいと失礼。忙しいと思うけど協力してもらっていいか?」
「おや、あなたは…?」
「遊撃士協会……からの代理人で地震の調査をしてる。すまんがちょいといくつか聞かせて貰っていいか?」
「そうですか、ご苦労様です」
さっきの隊長とはうって変わってかなりの丁寧な対応。
これなら気兼ねなく調査もはかどるものだ…と安心したのか、幾分か気が楽になった。
「地震の発生状況をお知りになりたいんですか?」
「あぁ、出来る限り詳しく頼むぜ」
「承知しました。
───地震は今から2時間ほど前に突如発生し、積み上げた木箱が崩れるくらいの大きい揺れで30秒ほど続いていました」
「余震とかそういった兆候みたいなのは?」
「いえ、一切ありません」
副長が説明し終えるとジュンイチはこれまでの情報を頭の中で軽く整理する。
なのは達の調査によるとヴォルフ砦での地震はそれほど大した物ではなかったらしいので、正確な数値は判らないが
推測でも規模はだいたい震度2〜3程度。それが時間にして約10秒。
そしてツァイス市では立っているのがやっとの状態だったので震度4〜5と言ったところか。そして時間は約20秒前後。
最後にここ、セントハイム門での地震は…重量のある木箱や土嚢が崩れ落ちるほどの規模から推測して震度6弱…それが30秒も。
「って、ちょっと待て。
っつー事は何か? この地方の地震は回を増すごとに規模も時間も長くなってるって事か!?」
「言われてみれば確かに───これは由々しき事態ですね……とは言っても、自然現象である以上防ぐ手だてもなさそうですし。
遊撃士協会には何か対策がおありなんですか?」
「決定的───とするには幾分か不安要素があるが、一応心当たりはある」
実際ラッセル博士の発明品をこの目で確認してないので確証はないが、それでも絶望的な一言を漏らすよりはマシと判断し、
副長にやや濁った表情で告げるジュンイチ。
そして、もう一つ……忘れてはならない事項を確認すべく尋ねる。
「そういえば地震発生の前後に何か変わった事はなかったか?
不振人物が目撃されたとか、怪しい物を見かけたとか──────」
「不振人物………そういえば昨日、チェスリー君が奇妙な男を見たと言ってましたね。
───屋上で片付けをしているはずですから詳しく聞いてみるといいでしょう」
「了解。手間かけさせて済まなかったな」
「いえいえ。調査の方、ご苦労様です」
挨拶も程々にすませると、ジュンイチは残り少なくなったポテトを口の中に放り込むと
屋上へと向かうべく、再び歩を進め出す……と──────
屋上へと通じる唯一の階段…そのすぐ目の前で俯せになって倒れる青年の姿が。
その背中からは哀愁というか何というか───一言では言い表せない何かを物語る………
そんな雰囲気を漂わせていた。
「生誕祭があれば失恋し……地震がくれば死にかける……
惨めだ……もう起きあがる気力もないよ──────ああリックス、教えてくれ!
僕の存在意義って、一体何なんだい?!」
予想通り、相当破天荒な人生だったようだ。
普通の人なら慰めるなり、見なかった事にしてとっとと先を急ぐなりの手段をとるであろう。
しかし……この男(ジュンイチ)は違った。
突如不敵な笑みを浮かべ──────
「そんなに自分の人生を悲観したいんなら………」
そして、静かに告げて──────
「とっとと楽に死ねるようにトドメを刺してやるよ♪」
青年を躊躇も遠慮もなく、思いっきり踏んづけた。
しかもただ踏みつけるだけじゃない。
ご丁寧にジャンプと捻りまで加えての内蔵破壊クラスの一撃だ。
あまりの激痛とショッキングな出来事に青年は白目を剥き、口からは泡を吹き出しながら失神してしまったが──────
彼の連れと思われる青年、リックスは特にあわてる様子もなく静かに瀕死一歩手前の青年に告げる。
「アントン……今の状況に限れば君の存在意義は明白だよ」
「……そう、通行の邪魔さ」
いろいろとごもっともなご意見だった。
…………………………
……………
………
「あれ……君は?」
「あんたがチェスリーさんだな。
遊撃士協会の……って、この言い回しもめんどくなってきたな──────ビアンカと呼んでくれ」
「え、ええ……わかりました」
さすがにジュンイチの独特のテンションについて行くのは難しいのか、微妙に困惑の表情を浮かべるチェスリーを無視してジュンイチはさらに続ける。
「まぁビアンカはどうでもいいとして、さっきの地震について聞きたい事があるんだが…
あんたが目撃したって言う”怪しい人物”ってヤツの事を教えて欲しいんだ」
「ああ、昨日の話か。うーん、流石に地震とは関係ないと思うんだけど……まあいいか。
実は───ここで、黒いメガネをかけたやたらと背の高い男を見かけたんだ」
「黒いメガネ……サングラスか。バリバリに怪しさ満点じゃねぇか──────。んで、そいつは一体何をやってたんだ? こんな所で」
「いや、ここに上ってきてしばらく景色を眺めていってから下に降りていっちゃったよ。
黒いメガネなんて見た事無いから凄く気になったんだけど……向こうも話しかけてこなかったし声をかける機会を無くしちゃってさ」
エステルから借り受けたブレイザー手帳にチェスリーからの情報をメモしつつ、ジュンイチは思考する。
もしここで目撃された男が《結社》の《執行者》だとすれば、ここまであからさまに目撃情報を立てる意味があるのか?
もし今回の執行者も《ゴスペル》を使った実験を試みようとしているのなら、自分の姿を目撃されたのは完璧な落ち度である。
……闇の世界に生きる者ならば、自分の姿を見た人間は容赦なく消すのがセオリーである────なぜなら彼等は、自分達の行いが日の目に当たるのを極端に嫌うからだ。
自分が今まで目の当たりにしてきた”連中”も勿論その範疇に含まれるのだが、奴らは自分達の”商品”を開発する為に様々な角度からデータを収集してきている…だがそれはあくまでも人の目に触れることなく、秘密裏に行うという事が前提だ。
第三者から目撃されてしまえば、良くて情報漏洩………最悪の場合計画の破綻にすら繋がりかねないからだ。
それらを考慮しても、今回の目撃情報から察するに相手側の意図が全く読めない事が、ジュンイチの表情をさらに険しくさせる。
……あまり一人で深く考え込んでも状況は進まない。
そう踏んだジュンイチはさらに質問を続ける。
「なるほどね──────他にその黒眼鏡の男を見かけたって人はいるのか?」
「それがヘンなんだよな……あまりに変わったヤツだったんで夕食の時に話題に出したんだけど───他のみんなは、そんなヤツ見かけなかったとか言うんだよ。
唯一、食堂で働いているタミィって娘が見たらしいけど」
(田舎の国境付近にあるヴォルフ砦と違ってこの関所は人通りも多い。それにも関わらず目撃者はたったの二人だけ……何だかキナ臭さを感じるな)
「りょーかい。一応その娘さんにも話を聞いてみる事にするわ─────食堂で働いているタミィちゃんだな」
「調査のほう、頑張ってくれ」
……………………
…………
……
「は〜…ようやく片づいたわ───って、あれ? ジュンイチくんじゃない」
「ポテトフライ、ごっそさん。
───それはそうと今のオレは遊撃士協会のビアンカだ。今回はあんたに色々と質問したい事があってきたんだ」
「質問したいのは判ったけど……何故に女の子の名前?」
「特に深い意味はない」
ウソをつけ、絶対判ってて某RPGのネタを使ってるだろ。
……なんて筆者のぼやきが聞こえるはずもなく、これまでの経緯と目撃情報で上がったサングラス男の事を尋ねる。
「ああ、あの人ね! 昨日の休憩時間に2階の廊下ですれ違ったの。多分、屋上から戻ってきた帰りなんだと思うんだけど……」
「(チェスリーってヤツの証言と一致するな)……それで、すれ違っただけで何か話したりはしなかったのか?」
「一応挨拶はしたわよ。そしたらその人、ニヤリと笑って『よお』って一言返事をしたの……
それがまたワイルドな感じでしびれちゃったのよね〜♪」
「………なんとなーくどんなヤツなのか見当が付くな。んで、どんな格好をしてた?」
「黒いスーツだったけど胸元を開けて着こなしていたわ。あと、両方の手に黒いグローブを填めていたかも」
「サングラスに黒いスーツ、おまけにグローブ………どー考えても怪しさ大爆発な格好だな」
「怪しいっていうか、獰猛で危険な香りのする人だったわ。────うふ、アブナイ魅力っていうヤツ?」
「物好きだなぁ……ま、いいか。
すれ違って挨拶しただけで後は見かけていないのか?」
「ええ、その通りよ。──追いかけてお近づきになろうとしたんだけど……変な場所で見失っちゃってね」
「変な場所? 良かったら案内してくれないか」
そして案内されたのは二階のコの字型廊下。
中央付近にさしかかるとタミィは立ち止まってジュンイチの方に向き直って説明する。
「丁度この辺りでその人とすれ違ったのよ。で、その人はそのまま向こうの方に歩いていって……
あたしは彼に話しかけるべく廊下を引き返したワケなのよ」
「ほぉ……それで?」
ジュンイチがさらに尋ねるとタミィは元来た道を引き返し、200m程戻った所にある扉の前で再び立ち止まる。
「そしてそこの角を曲がった所でここの扉が閉まるのを見かけたの。…だからあたし、てっきり彼がここから外に出たと思ったのよね。
『話しかけるチャンス!』と、その後を追いかけたんだけど……」
言いつつ、タミィは扉を開け────城壁の上をしばらく進んだ後に、行き止まりで立ち止まりジュンイチの方に向き直る。
「いざ外に出てみると彼の姿がどこにもなくてね。────つまり、この場所で見失っちゃったワケなのよ」
「見失った……か」
「うん。まさかこの高さから飛び降りたとも思えないし…多分、こっちに来たっていうのはあたしの勘違いだったと思うわ。
結局他の場所も探したけど彼の姿は見つからなくってね………ちょっぴりブルーだったわ」
「──────オッケー、大体状況は掴めた。
サンキューな、忙しい所に」
「いいのよ、これくらい。
ジュンイ……もとい、ビアンカさんくらいの食いっぷりのいいお客さんがいつも来てくれるとあたしも毎日が愉しいんだけどなぁ……
それはそうとやっぱりあの人……お尋ね者なのかしら? 遊撃士協会に追われる凄腕で冷血の暗殺者とか?」
「うぅ〜ん、言い得て妙な気が……まぁ正体はともかく、注意すべき輩なのは間違いないな。
もし見かけたとしても近寄らない方がいいと思うぜ?」
「うーん……カッコイイけど仕方ないか。
あたしは仕込みがあるからこれで失礼しちゃうわね。それじゃ、がんばって! ビアンカさん!!」
「おうよ」
軽く手を振ってタミィを見送ったジュンイチは、目撃情報から気になる一言を頭の中で反芻する。
ほんの2〜3日前、ルーアンを出発する前日にケビンと目撃した”あの二人”と姿が重なった為だ。
「”この高さから飛び降りたとも思えない”か────
変態紳士(ブルブラン)や一緒にいた銀髪野郎と同格の人間なら、こっから飛び降りても全然無問題そうだな」
それは即ち、黒服のサングラス男が《執行者》である事を裏付ける他ならなかった。
現実になろうとしている自分の推測に思わず皮肉の一つでも言いたくなるがとりあえず今は後回し。
今頃ツァイスに戻っているであろうエステル達と合流する為にも、ここで道草を食っている場合ではない。
夜も大分更けてきた……ジュンイチは改めて装重甲(メタル・ブレスト)を装着すると、ツァイスへと向けて全速力で飛翔するのだった。
……………………
…………
……
「ティータちゅわあぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「帰って来るなりいきなりそれかあんたわ!」
ギルドに戻ってくると、エステルやなのはは勿論、中央工房に引き籠もったはずのラッセル博士にティータまでその場に居合わせていたのはジュンイチ自身驚いたが
ティータの姿を確認するなり再びメーター振り切れて大暴走。────無論姉として妹を守るべくエステルが自らの必殺技でもってこれに対応。
ジュンイチの駆け寄る勢い+エステルのSクラフト『桜花無双撃』=血の池地獄(ミニチュア)の完成────となったのはご想像に難しくないと思われる。
「グフッ……わ、我が生涯に…一片の悔い無し!」
「どんな生涯何だか」
「はわわ────ジュンイチさん……大丈夫ですか?!」
「…………………何だか…納得のいかない気持ちが湧き上がってくる」
「────どしたの、なのはちゃん? 怖い顔して」
「え…あ、いや………なんでもないです」
シェラザードの問いかけに、慌てて笑顔で誤魔化すなのは。なかなかにカオスな現状を数値で表すと……
ジュンイチのエステルへの信頼度が10下がった。
ジュンイチのティータへの信頼度が20上がった。
なのはのジュンイチへの殺意度が100上がった。
──────こんな感じ。
「ッと……小ボケはこの辺にしておいて────地震の調査を終わらせて報告に戻ってきたんだが……何者サマだ、そのマシーンは?」
「むふふ。よくぞ聞いてくれた。────コレが約束していた『良い物』じゃよ」
言ってラッセル博士はギルドの受付の卓上に置かれた機械を、ババーンと言わんばかりのジェスチャーと共に、一同に見せつける。
その一方で、奥に控えていたキリカは至って冷静に、静かにジュンイチへ告げる。
「まぁ、その説明は追々してもらうとして……セントハイム門の地震も一応調べてくれたみたいね。
──────ヴォルフ砦の調査と合わせて報告してもらいましょうか」
「ほーい────っと、まずはヴォルフの方から……」
ジュンイチはヴォルフ砦、次いでセントハイム門での地震の状況を報告すると見る見るうちに皆の表情が一変して険しいものへと変わる。
そんな中、最初に口を開いたのはラッセル博士だった。
「成る程……地震の規模が大きくなっとるか。────思ったよりも事態は深刻じゃな」
「うん。────今度また、ツァイス市内であれ以上の大地震が起こったら大変な事になっちゃう……」
「そして地震の発生した場所で目撃されたサングラスの男……確かにその男が《結社》の人間である可能性は高そうね。
──────こうなった以上、博士の実験に全面的に協力した方がいいでしょう」
キリカがまとめると一同の視線が卓上の機械に注がれる。
パラボラアンテナのような装置を付けた、用途不明の機械────ラッセル博士は改めて機械の説明を始める。
「これはわしが数年前に開発した『七耀脈測定器』でな。
地面に設置する事で『七耀脈』の流れをリアルタイムに感知・測定する事が出来るのじゃ」
「成る程……。んで、異世界出身のオレ達にも『七耀脈』って何なのか判るように説明してくれプリーズ」
「ついでにあたしも………」
便乗する辺りがエステルらしい。
なのはと美由希がそろって苦笑しながらも、義姉の為にもとティータが説明を始める。
「『七耀脈』っていうのは地下深くに存在する巨大な七耀石の鉱脈の事なの。────莫大なエネルギーで大地を少しずつ動かしているんだって」
「ふむ……オレ達の世界では”マントル”に当たる部分か」
「『地脈』『霊脈』なんて表現される事もあるそうね。────東方では『龍脈』…だったかしら?」
「あら、よく知っているわね。
東方では昔から、龍脈の集う場所に都が造られたという歴史があるわ。大地のエネルギーを国の力に取り込むという発想ね」
シェラザードとキリカが豆知識を付け加えると皆が『おぉ〜』と歓声を上げる。
似て異なる次元世界というのは歴史や文化も似かり寄るものかなどとジュンイチが心中でうめくがとりあえず後回し。
博士の説明内容では、肝心の部分が抜けている為だ。すなわち────
「なるへそ……だが、”感知・測定”って言うからには、その装置だけじゃ地震は止められそうにもないな」
「うむ、ジュンイチの言う通りじゃ。
じゃが、ゼムリア大陸の地震は七耀脈の流れが地層を歪める事で起きるものと言われておってな。────だからその流れを調べれば何かが解けるかもしれんのじゃ」
ジュンイチの問いかけも予想通りと言った所なのか、淡々と付け加えるラッセル博士。
……仮に地震の発生を《結社》が絡んでいたとしても、その発生のメカニズムや震源地の特定など、やるべき事はたくさんある。
そういった意味では、ラッセル博士の着眼は正に的確そのものであったのだ────ふとなのはやジュンイチが感心する一方で、今度はクローゼが博士に尋ねる。
「そうですか……では、次に地震が起きるまでに準備をする必要があるわけですね」
「装置が三つあるという事は、設置する場所も三カ所なのかしら?」
「うむ、地図を見てくれ」
シェラザードの問いかけにラッセル博士は頷きながら卓上に地図を広げる。
……ルーアンのギルドに掲示してあった地図とは異なり、この地図はツァイス市周辺の地域をとりまとめたものらしい。
海に面したルーアン地方とは対照的に、陸地(しかも殆どが平野)が主立った土地柄からか、あちらとは全く違った印象を受ける。
「設置して欲しい場所はツァイス地方の三箇所になる────まずはトラット平原の北外れ…ストーンサークルがある場所じゃ。
次はカルデア隧道中間地点…ツァイスから歩いて最初の橋付近────最後にレイストン要塞前じゃ。
この三箇所に装置を設置してもらいたい」
「うん……大体手順は判ったわ。ところで、測定器の設置ってただ置くだけでもいいわけ?」
エステルの問いかけに、ラッセル博士は軽く首を横に振る。
「いや、そう単純ではない。
測定用の検査針を正しい角度で地面に差し込む必要があるし、アンテナの設定も必要じゃ」
「アンテナというのは導力通信用の装置の事だね。────すると測定した情報をどこかに送るというわけかい?」
「ほう、なかなか鋭いのう。
外付けのアンテナで、測定数値を演算オーブメント《カペル》に届けて七耀脈の動きを分析させるのじゃ。
三箇所のポイントの情報をリアルタイムに分析できるのでかなり正確な事が判るはずじゃよ」
思わぬ所でのオリビエの一言に、思わず感心する素振りを見せるラッセル博士だが、先程から専門知識や用語が飛び交うこの状況では
異世界出身のなのは達は完全に蚊帳の外である。
「ふわぁ〜……何だか凄そうな実験ですね。────忍さんや鈴香さんがいたら飛び跳ねて参戦しそうですね」
「頼むからあの二人の話題は止めてくれ──────」
そう遠くない未来、実際に実現しそうなヴィジョンを想像して思わず身体に悪寒が走るジュンイチ。
彼が軽く身震いする一方で、ふと浮かんだ疑問をシェラザードは博士へと告げてみた。
「と言う事は……ラッセル博士も装置の設置について来られるのですか?」
「いや、わしは《カペル》の調整があるから手が空かなくてな。
────代わりと言っては何じゃが…ティータを連れて行ってくれ」
「えへへ……よろしくお願いします」
「そっか。ティータなら百人力よね。────シェラ姉、いいかな?」
「ふふ、もちろんよ。よろしくね、ティータちゃん」
「はい、シェラさん♪」
笑顔でティータを招き入れたシェラザードと同じく、なのは達も彼女のメンバー入りを心から喜ぶ。
「それでは、わしはこれから《カペル》の入力調整を始める。全ての測定器を設置したら中央工房の演算室に来てくれ」
「分かりました」
「おじいちゃんも頑張ってね」
測定器と一緒に持ってきたと思われる、重々しい機材を抱え込み、ラッセル博士はギルドを後にした。
そして、残されたエステル達は次の地震発生に備えて早速動き出そうと決意する。
「さてと……次の地震が起きるまでに全部設置しなくちゃね。早速出発する?」
「それもそうなんだけど……これだけの大所帯が一斉にあっちこっち行ったりすると動きにくいわ。
何人かに絞って行動した方が的確よ」
「それもそうッスね。────エステルとシェラさん、ティータちゃんは必然的にメンバーに入るわけで……
オレとなのは、美由希ちゃんでいくか? 回復を含めた魔法要員×2に後方支援一人、前衛×2でバランス的には丁度いいだろうし」
「なかなか賢明な判断ね。戦力的にもいいんじゃない?」
魔法要員でクローゼを外したのは、いざという時の前線運用となった時の攻撃力の低さが懸念されたからだ。
一方でシェラザードのムチは攻撃用の他にも相手の行動を制限させたりと使い道は多い。
加えて彼女の戦術オーブメントは、クローゼほどではないが、強力な攻撃・回復のアーツが組みやすい様になっているのだ。
ちなみに、後方支援を担当するのはティータだ。
これは、彼女の討たれ弱さと彼女の武器である導力砲の特製を考慮しての配置だと思われる。
(↑付け加えて、ティータはスロットの構造上どうしても強力な魔法の組み込みが難しい)
ちなみに、前衛二人を担当するのは……賢明な読者諸君ならすぐに思い当たると見受ける。
「フッ、ならばボク達は2階で優雅な時を過ごそう。
この天才の力が必要な時はいつでも声をかけたまえ……」
「私の力が必要になったらどうぞ声をかけて下さい」
「美由希───あまり無茶をするなよ」
「ボク達も一緒に待機してますので何かあったら声をかけて下さい。いつでも飛んでいきますから」
惜しくもメンバー入りから外れてしまった面々も、意気消沈することなく二階へと歩を進めていった。
……というか、恭也の替わりに美由希を入れたのは色んな意味で正解だと思う。
「とりあえずメンバーが決まったのはいいとして…どういう順番で設置していけばいいのかしら?」
「それは貴方達に任せるわ。────レイストン要塞には私の方から連絡をしておく。
ゲートの門番に事情を話せば設置を許可してくれるでしょう」
「それじゃ、一緒にがんばろ! ティータちゃん♪」
「う、うんっ。なのはちゃんもね!」
色々と順番を考慮した結果……設置許可の申請を出したレイストン要塞に先に設置する事となった。
こちらが無理を言って装置を設置するのだから、早めに作業を終わらせておいた方が先方の為にもなるという結論に至った為だ。
「そういえば……」
「ん?」
「ジュンイチさん、あっさりと承諾しましたよね。ティータちゃんを同行させる事。
……いつもだったら『オレが設置の為の基礎知識を教わって代わりにやるから付いてくるな』────何て言いそうだったのに」
惚けた顔で返事をするジュンイチになのはが尋ねる。
────確かにジュンイチという人間は、戦闘能力を持たない…ないしは非力な人間を自分と同行させる事をとかく嫌う。
かつてはなのは達は勿論、その親友であるアリサやすずかの参戦も渋ったほどである。
ティータもまた、そんな範疇に入る人間の一人だ。
幼い頃からラッセル博士と共に機械いじりをしていたおかげで身に付いた、オーブメントの知識や広範囲を攻撃できる導力砲を携えているとはいえ
なのはやフェイトのように防護服(バリアジャケット)を身に付けているわけでもない────見た目はごく普通の少女なのだ。
にも関わらず、あっさりと同行を許したワケ────ジュンイチはやや困った表情を浮かべながら…ティータの方を向いて呟く。
「まぁ……実際問題オレもティータちゃんを連れてくのはどうかと思ったよ────でもな。
こういった一途な娘って例えどんなに説得しても絶対ついてくるだろ? なのはみたいに」
「………判るような、判りたくないような────」
「だったら、ハナからオレ達のパーティに組み込んで、いざというときにはオレが守ってやれば問題ないわけだし。
中途半端に彼女の気持ちを無下にして、最悪のタイミングで割り込まれて怪我されるよりよっぽどマシだ」
「はうぅ……耳が痛い」
「ラッセル博士の誘拐事件じゃ、色々大変だったものね」
ジュンイチの無理矢理な論説に軽く頭痛がしたなのはだが、言い返せないのもまた事実なワケで……
的確にティータの性格を分析して対抗策を講じた彼の手腕に驚きつつも、
似たような状況で思いっきり大変な事になった昔をふと思い出しながらティータとエステルは苦笑する。
………なんてやり取りをしていると、いつの間にやらレイストン要塞の正門前まで辿り着いていた。
以前の特別訓練の時と同じく、歩哨の兵士が門の前に佇んでいる。
「ここは王国軍の本拠地、レイストン要塞だ……って、君達は確か」
「久しぶりね兵隊さん……って、久しぶりって言うほど時間はあんまり経ってないわけどね」
「今日は地震調査の為にとある装置を設置しに来たんです」
「おお、君達がそうだったのか。────司令部から話は聞いてる」
「話が早くて助かるわね。
早速設置したいんだけど、勝手にやってもいいのかしら?」
「ああ、許可は出ているから好きなように設置するといい。ただ舗装路の上には設置しないようにしてくれ。車輌が通る時に困るからな」
「りょーかい♪ んじゃ、いっちょ頼むぜティータちゃん!」
「えへへ、頑張りますっ♪」
笑顔でジュンイチの掛け声に答えると、ティータは早速もと来た道を戻って測定器を設置する場所を選定する。
その目は先程までいた年頃の少女のものではなく…プロの目そのものだった。
「うーん…舗装路以外でおける場所って言ったら……」
「……近くに照明があるけどこれだけ離れてれば大丈夫かなぁ。
────────ツァイスはあっちだから……うん、方角も問題ナシ。」
「看板の手前になっちゃうけどこの辺りがいいと思うよ。早速測定器を設置しちゃう?」
「おう、とっとと済ませて次のポイントに向かうぞ」
「はい、わかりました。ちょっと待っててくださいね」
言ってティータは測定器を地面に置き、探知針を挿入……各機器の設定を手際よくこなしていく。
エステルの話によると彼女の一家は生粋のオーブメント技術者。
両親は海外の辺境地にてオーブメントの技術指導をしており、祖父は祖父であんな感じ。……色々と納得できる家庭環境だなと、横で彼女の作業を見学していたジュンイチが心中で呻く。
現にすずかや、その姉である忍も彼女のように幼少の頃から機械いじりをしている事がその思考を裏付けている。
「将来が微妙に不安だな〜」と、ティータの未来を危惧してしまうのは彼だけではないと思われる。と……
「うん、設置完了だよ!」
「へぇ、組み立てるとこんな感じになるんだ。………ところで、このお皿みたいなのナニ?」
「パラボラアンテナ─────だろ? 見た感じ導力の波を集中させたり指向性を持たせたりする為に使うみたいだが」
「そーです。強い導力波が送れるからかなりの遠距離まで届くし……カルデア隧道みたいな場所でも届いちゃうって言ってました」
「……ジュンイチ、ヤケに詳しいわね?」
ツァイスでは専門知識は丸投げだ…と漏らしていたにもかかわらず、装置のアンテナについてはちゃっかり知っていた事に対してエステルが疑問の声を挙げる。
だが、ジュンイチは淡々とエステルの問いに答えた。
「だってオレ等の世界じゃ概存の技術だし。
深夜枠の衛星放送アニメ視聴には欠かせないワンダフルアイテムだ」
「あ、アニ……メ?」
「と、とりあえず───── 一応これで、地震の情報を送れるようになった訳ね?」
「あ、ううん、まだ起動してないから……今スイッチ、入れちゃいますね」
まともにジュンイチの言ってる事に反応してたらそれこそ時間が幾らあっても足りない。
そう判断したシェラザードはティータに尋ねると、彼女もその問いに答えるように装置のスイッチを入れた。
すると軽い電子音が響くと同時に装置の各メーターが作動し、パラボラアンテナは導力波をツァイス─────の中央工房へと向けて発信する。
「うん♪ これで起動も終わりだよ」
「お疲れ、ティータ。
ところで……ここならともかくとして他の2箇所に設置する場合、魔獣の襲撃が心配ね。結晶回路(クオーツ)の材料である七耀石は魔獣の大好物だし」
「それなら大丈夫。この装置には街道灯みたいに魔獣除けの機能がついているから─────他の場所に設置したとしても心配はないと思うよ。
……でも、起動する前に食べられちゃったらお終いだけどね」
「設置時の襲撃に関してはオレ等で対処するから……実質的な問題はほとんど無しと思っていいか」
最後の一仕事も終え、ホッと一段落した一同は設置場所の選定から設置・起動まで全部を一人でやってのけたティータの労をねぎらう。
「おお、やっているようだな」
不意に橋の向こうから声をかけられた一同は一斉にその方向に目を向ける。
すると、シードと同じ幹部クラスの軍服に身を包んだ中年男性がこちらへと歩み寄ってきていた。
……チョビ髭のイカした姿とは裏腹に、歳不相応に鍛え抜かれた逞しい身体。初めて対面するジュンイチや美由希は勿論、なのはも一目で理解できた。
恐らくこの男性はシードよりも強い─────と。
一方でエステルは、男性の姿を目の当たりにするなり思わず呆然と立ちつくす。
「へ?」
「ん? あのオッサンは……何者だ?」
「…………さん」
「え? エステルさん、何て────」
小声で聞こえるか聞こえないか。
そんな瀬戸際のボリュームでボソリと漏らすエステル────
「父さん!?」
『OTOUSAN〜〜!!?!?』
エステルの叫びに過剰反応し、思わずたじろぐなのは達。
エステルの父親が軍務に復帰していたのは聞かされていたが…まさかこんな所で出逢うとは思っても見なかったので、驚き方も妙におかしい。
そんな彼等の心境を知ってか知らずか、男性……カシウス・ブライトは実に爽やかな笑顔で答える。
「おう、カシウス父さんだぞ〜」
「この人が………エステルさんのお父さん──────」
「ノリが若干ウチの親父に通ずるものがあるなぁヲイ。ホントにこの人が元Sランク遊撃士かよ?」
素っ頓狂なカシウスの姿が、自らの父親とダブったのか…思わず呟くジュンイチだが彼の目線はあくまでも娘、エステルへと向けられていた。
「久しぶりだな、エステル。
遅くなってしまったが、強化訓練ご苦労だったな」
「も〜! ご苦労だったじゃないってば!! 何よ父さん、どうしてこんな所にいるの?」
「シードから説明があったと思うが、もう俺も軍の一員だ。
作戦本部の拠点もあるし、ここに詰めている事は多いぞ──────」
「そうだったんだ………」
「確か、作戦本部長に就任されたそうですね?」
シェラザードが問いかけると同時…カシウスは肩をややすくめると声のトーンをおとして呟いた。
「ああ、モルガン将軍に何度も何度も説得されてな……最後は根気負けという感じさ。
……おかげで毎日休むヒマもないんだ」
「ふふ、お疲れ様です」
「ま、父さんの場合自業自得かもしれないわね。
でも────父さんの軍服姿って最初は違和感があったけど……改めて見ると結構板に付いてるじゃない」
勿論エステルからしても父の軍服姿を見たのはこれが初めてではない。
幼少の頃……百日戦役が起きる前は当然カシウスはまだ現役の軍人だったわけだし、父の軍服姿もその時何度も目の当たりにしてる。
違和感を覚えてしまうのは……それだけ遊撃士として世界中を飛び回っていた姿を見慣れてしまっていたからだろう。
久しぶりに見る父親の凛々しい姿に、少ーしだけ、感動した。
「フフン、当たり前だ。これでも昔は、王国軍きっての伊達男で鳴らしたくらいだからな。
リシャールなどメじゃなかったぞ」
「もう、すぐ調子に乗る──────
えへへ……でもよかった。忙しいって聞いてたからちょっと心配だったんだけど思ったよりも元気そうじゃない?」
「ま、今の所はな。──────それよりも……ギルドからの報告書を読んだぞ。
…早速、ルーアンで現れたそうだな?」
「あ……うん。《身喰らう蛇》の手先ね」
急に話題転換─────先程とは打って変わり深刻な表情を浮かべつつ、カシウスはエステルに尋ねる。
……予想はしていたがあまりにも早い《結社》の行動の展開に、娘の安否を懸念するのも無理はない。
「報告書の通りかなり危険な組織みたいです。……軍では対策を立てないんですか?」
「うむ、早く情報部に代わる機関を立ち上げられればいいんだが……ようやく正規軍と国境師団の再編成が終わったばかりでな。
今のところ、調査に関してはギルド………そして、時空管理局を始めとする協力者達に頼らざるを得ない状況だ」
「あ………」
「─────オレ達の事も、ちゃんと軍に報告してくれてたんだな、ジャンさん」
………あまり自分達の素性が知れ渡るのも論理上どうかな〜などとも思ったが、現地世界での組織の協力が得られるのは正直有り難い。
情報収集や補給…加えてジュエルシードの件もある事からジャンやカシウスの行動は正に渡りに船だったのだ。
だが、それはカシウスに置いても同様の事らしい。
「今回の奇妙な地震についても、お前達の調査をアテにしているぞ」
「ふふ、承知しました」
「ま、父さんに頼られるなんて滅多にある事じゃないしね。…ここは親孝行をしてあげますか」
「フッ、言うようになったな。
新しい服も似合っているし少しは女っぷりも上がったようだ。ヨシュアが見たら驚くだろう」
「あ……えへへ、そうだといんだけど」
「カシウス准将!」
今度はシード中佐が橋を渡ってやってきた。
その表情はやや曇っており、なおかつ焦りの見えるものであった。
「あ、シード中佐」
「ほう……なんだ、もう挨拶は済んだ後か?」
「はい、例の特別訓練の折に……おかげで訓練の方も十分な成果を挙げる事が出来ました」
「そうか、俺の留守中に上手く運営してくれたようだな。
中佐に昇進した以上、シードには今まで以上の活躍を期待しているぞ。────でないと、俺がいつまで経っても引退できなくて困る」
「お言葉ですが、あなたに簡単に引退されては困ります。少なくともモルガン将軍が退役なさった後にして下さい」
「ふう、いつの日になる事やら……っと。
そういえば、シード。俺に何か用事があるんじゃないのか?」
「はい。──────実はモルガン将軍が予定より早く到着なさるそうです。
後半刻ほどで、発着場に到着するのではないかと」
……猛者の上に気が短い。
ふと脳裏に”閻魔大王”の姿が浮かんだジュンイチだが、口に出したが最後─────徹底的に弱みを握られそうなのでそのままのどの奥へと飲み込む。
「やれやれ……あの方もせっかちだな。
………というわけで、これから早速軍議がある。本当にすまんな、エステル」
「ううん、気にしないで。少しでも話せて嬉しかったわ」
「ああ、俺もさ」
立ち話も程々に切り上げると、カシウスは他の面々の方を見回してそれぞれに語り出した。
「シェラザード、すまんがエステルを頼んだぞ。正遊撃士になったとはいえ経験不足なのは確かだからな」
「ええ、お任せを」
まず最初はシェラザード。
このメンツの中では最年長の保護者的な立場なので当然と言えば当然である。
「ティータも随分と頑張っているようじゃないか。不肖の姉貴分で済まないがよろしく手伝ってやってくれ」
「えへへ、わかりました♪
─────それと《ゴスペル》の解析の事なんですけど……思わぬヒントが見つかったっておじいちゃんがはしゃいでました」
「そうか……それは期待できそうだな。
博士によろしく伝えてくれ」
「はいっ」
続いてティータ。
今事件における一番の功労者だけに、カシウスも一層の労いをかける。
「お嬢さんは……もしかして、恭也君の……」
「はい、妹の美由希です。
シード中佐には、いつか私にも是非手合わせをして頂きたいと思ってます。そして……その師であるカシウスさんにも」
「ハハハ、なかなか物好きな子だな。
─────彼の実力についてはシードから報告を受けている。俺も軍の仕事が片づいたら是非仕合をしてみたいものだな」
「ありがとうございます、兄もきっと喜びます」
今度は美由希。
シード伝いでカシウスの武人魂にも火がついたらしい。─────あまりに低い自分の勝率を危惧しつつも、美由希は笑顔で答える。
「そして君が─────」
「は、はいっ! 高町なのはですっ!!」
「そう緊張する事はない。
……ティータと重複するが、不肖の姉貴分(エステル)とよろしくやってくれ」
「ど、どうも─────」
「……………………………………」
4番目になのは……が指名されたわけなのだが─────
不意にカシウスはなのはの目をじーっと見つめ、黙り込んでしまう。
やや暫くして、沈黙に耐えられなくなったなのはが逆にカシウスに尋ねる。
「あ、あの……何か?」
「─────いい眼をしている。芯が強くて真っ直ぐな眼だ。
お兄さんやお姉さんの鍛錬を見て育っただけの事はあるな。魔導師としての資質の大小は俺には判からんが……強くなれるぞ。絶対に」
「は、はいっ!!」
予想外のコメントが返ってきて慌てたなのはは、再び緊張した面持ちで返事をする。
確かにカシウスは魔力資質を持っていない為、なのはの魔導師としての今後は判断しかねるが……それ以外の─────人としての将来は十分に期待できると判断したのだろう。
そして最後が────────この男である。
「そして君が─────」
「柾木ジュンイチっす。
一応この世界に派遣された管理局代表…って所ですかね」
「うむ。シードの報告通り、ひょうひょうとした態度とは裏腹にものすごい”気”を内側に秘めているようだな」
「”ただの気”……じゃないって事、気付いて言ってますよね?」
「─────職業柄、な。君のような人間には何人か顔を合わせている。
”誓い”も結構だが、”絆”も大切にしておいて損はないぞ。─────少なくとも、復讐に身を置くよりは」
「────────っ!!」
それは正に一瞬。
まばたきをすれば、確実に見逃してしまうであろう稲光のような行動。
……気がつけば、ジュンイチの”紅夜叉丸”は爆天剣へと再構成(リメイク)され、その切っ先がカシウスの喉元へと突きつけられていた。
「じゅ、ジュンイチ?!」
「カシウス准将!!」
当然カシウスの安否を気遣うエステルとシードだが、
「心配要らないからそこでじっとしてろ」と付け加えて、改めてジュンイチを凝視する。
何故そんなに余裕なのか?
答えは簡単─────彼もまた、自らの得物(棒術具)をジュンイチの左胸…心臓の真上へと突き出していたからだ。
この距離ならば既に射程ギリギリの爆天剣に対して、確実に一撃は彼の急所を直撃できるだろう。
……まぁ”力”を使われると微妙な所ではあるが、その時はその時だ。
ジュンイチもそれを判っているからこそ、迂闊に動いたりはしない。
静かに……怒りを押し殺すように唇を噛み締めながら、カシウスを睨み返す。
「気に触ったのなら詫びよう。
だが、そのよう様子だと、今更赤の他人である俺が言うまでもない台詞だったと見受けるが?」
「冗談キツイっスね。─────確信犯ですかアンタは?」
「悪いが俺は本気だ。現在進行形で真っ向から俺の首をかっ斬ろうとしてる少年と対峙してるからな」
「…………………」
「判っていても、敢えてその道を進むか─────
君の半生が一体どれほど壮絶だったのか……俺には知る術もないが────
守りたいのならば”鬼”になるな。鬼となるならば全てを捨てる覚悟で突き進め。
……俺が言えるのはそれだけだ」
そう告げるとカシウスはゆっくりと……だが、警戒は解かないように慎重に棒術具を下ろす。
それに続く形で、ジュンイチもゆっくりと爆天剣を下ろし……エステル達の元へと戻っていく。
そんな彼を見送りながら、シードは自分の上司であるカシウスの元へと駆け寄ってくる。
「カシウス准将、ご無事でしたか!?」
「心配はいらない。…言葉とは裏腹に、彼はちゃんと手加減している
─────恐らく彼が本気になれば、結界や防護服を持たない俺など一瞬にして消し炭にできるだろうからな」
言ってカシウスは、再びジュンイチの方へと視線を向ける。
見るとエステルは勿論、シェラザードからひとしきりオシオキを喰らった上での尋問が取り行われているようだ。
「……………………」
「ジュンイチくん……キミは一体─────」
「なのは、何か心当たり無い? ジュンイチがあんな態度を取る理由……」
「あるには、あるんですけど………今は話さない方がいいかもしれません」
「それって、どういう事?」
「多分なんですけど─────」
疑問が晴れないエステルに対し、なのはも必要以上に語らない。
いや、語れないのだ……。
それは──────────
『あずささんや龍牙さんの言っていた、「8年前」……それが関係してると思うんです』
to be continued...
次回予告
セントハイム門の次はレイストン要塞に地震発生?! カシウスさん達、大丈夫なんでしょうか……
あのオッサンに限って抜かりはねぇよ。……それよりもエルモ温泉で奇妙な出来事が
そして登場する第二の《執行者》と……
随分とまぁ、古風な魔導師だ事だ
何とかして止めないと……大変な事に!
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第13話『黒服の狼』
リリカル・マジカル!
さぁってと……出番だぜ! オーガ!!
−あとがき−
………………………………………………………………………………………………………………………
ゴメンナサイ、今までずっと逃避してました ○| ̄|_←だからすぐ卑屈になるなっての
どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
ツァイス編後半のイメージを全然組み立ててなかった為に今まで執筆が進まず、
尚かつ『PSP版空の軌跡SC』『A.C.E.3 THE FINAL』『恋する乙女と守護の楯』
『悪魔城ドラキュラXクロニクル』で現実逃避してたtakkuです。
PSP版SCの方はまだいいとしても、後者三作品は完全に執筆の時間を消費してくれやがいました。←自業自得
さて……上でもぶっちゃけましたが今回は殆どネタの持ち合わせはありません。
何とか進める為だけに書いたようなものです。……まるでFGBR for RPGの11話みたいです。
ネタがないと突貫工事のような薄っぺらい内容になってしまうのは改善すべき今後の課題です。
にもかかわらず治らないのは何故だ畜生!!←自業自得その2
一方でようやく登場のカシウス父さん。端的な表現をするならば『空の軌跡』界の高町士郎さん。
……つまりはそんだけ最強の存在という事です。
彼がその猛威を振るうのは『空の軌跡the 3rd』においてなのですが、生半可な策ではすぐにパーティ全滅です。マジです。
レベルが100を超えたキャラ4人相手にしても余裕で全滅させられる強さを誇ります。
↑そもそも空の軌跡シリーズに関して言えばレベルの上限が存在しないのでレベル100を越えてもそんなに強いとは感じられない
管理人感想
takkuさんからいただきました!
もはやジュンイチ、こっちでは完全にロリコンだなぁ(笑)。面白いからいいけど(マテ
まぁ、ここまでハデに暴走しておいて未だ『可愛さにあてられてるだけ』というのはある意味スゴイ気もしますが。
かと思ったらカシウスパパ相手に“修羅モード”の片鱗が。
カシウスの告げた『守りたいのならば”鬼”になるな。鬼となるならば全てを捨てる覚悟で突き進め』という言葉。果たしてジュンイチはどんな想いで受け止めたのでしょう?
>深夜枠の衛星放送アニメ視聴には欠かせないワンダフルアイテムだ
非常にジュンイチらしいコメントで(笑)。
事件が一通り片付いたら自分達側に招待してアニメ鑑賞会とか開きそうだな、この男(苦笑)。