「ここが『ストーンサークル』か……うーん、何とも謎な石柱だわ」
「あ、ここの石柱の事は本で読んだよわたし。
確か────《ゼムリア文明》っていう時代より前に造られたものらしいけど」
「ゼムリア文明……古代に栄えた導力技術文明ね」
美由希がふと浮かんだ知識を付け加えると、シェラザードがそれに反応して答える。
世界は違えど、目の当たりにする”古代の浪漫”というシチュエーションに興味津々のようだ。
さっきから目をキラキラ輝かせながら、美由希は石柱の周囲を駆け回る。
「あの『四輪の塔』や城の地下にあった『封印区画』もゼムリア文明の産物なのよね?」
「ええ、その通りよ。─────確かにその辺りとは全く関係なさそうな代物ね」
「おじいちゃんが言うにはこの場所は七耀脈の流れが強く測定される場所らしいです。
この石柱が立てられたのも何か宗教的な意味があるかもしれないって言ってました」
「なるほど、七耀脈の流れを調べるにはうってつけなワケね。
でも測定器を設置するとしたらどの辺りがいいのかしら?」
「うーん、そうだね……」
エステルの問いかけに、呻きながらティータは早速設置場所の選定を始める。
レイストン要塞前とは違い、人の手が行き届いていない芝生や雑草が生い茂る平原────
装置を安定した状態で設置するためにも、彼女の目がますます鋭く光る。
「地面もしっかりしてるし遺跡の基盤も無さそう……方位の確認も……ヨシ」
見定まったのか、右奥の石柱の一つの前で停止したティータは改めて地面を踏みしめて地盤の堅さを確認。
どうやら設置場所が決まったようだ。
「お姉ちゃん、ここで大丈夫だと思うよ。さっそく設置しちゃおうか?」
「ええ、一つまたヨロシク」
「それじゃあ設置作業を始めちゃうね。ちょっとだけ待ってて」
言ってジュンイチ達から機材と部品を受け取ったティータは、要塞前と同様に実に鮮やかな手つきで装置を設置していく。
それも2回目ともなれば、要領を得てさらにスピードも増すというものである。
気がつけば、ものの5分もたたない内に設置が完了してしまった。
「うん、これでよしっと─────」
「それじゃあ後はスイッチを入れるだけね…案外楽勝ムードじゃないこの作業」
「それはどうだろうね…とにかく、今スイッチを入れるから─────」
そう言ってティータが装置の起動スイッチを押そうとした────その時
「うぉりゃあっ!!」
ティータの後方から駆け寄ってきた、見た事もない毛色のヒツジンを、ジュンイチが爆天剣で斬り捨てた。
突然の襲撃に、ジュンイチは至って冷静だったがさすがに襲われた当人とその姉は動揺を隠せない様子だ。
気がつけば周囲から同種のヒツジンが集結し……メンバーを取り囲んでいた。
「ふえっ?!」
「なっ!?」
「か……囲まれちゃったよ!」
「どうやら装置の中の結晶回路が目当てみたいね。追い払うわよ!」
すでにやる気満々の魔獣を前にし、他のメンバーを鼓舞するシェラザード………
と────そんな彼女の後方から、なにやらドス黒いオーラが立ちこめてきた。
あまりもの瘴気にシェラザードも思わず顔をしかめるが────発生源を確認したとたんすべてが納得できた。
そのオーラの発生源。それは………
「ヒツジン、ブッ殺!!!」
あの時(第11話参照)の嫌な思い出がフラッシュバックしたジュンイチは怒りのメータMaxモードに突入。
─────しばらくの間ジュンイチの中では、『ヒツジン』の単語はNGワードとして君臨しそうである。
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
漆黒の服に身を包み、わたし達を誘わんとする飢えた狼。
でも、負けるわけにはいかない。大切な人を……街を……
わたしを囲うすべてを守りたい。
そして現れる古の侍の心を宿す、鬼神のような魔導士。
見え隠れする真意に、わたしの心は揺らぎかける。
魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
第13話「黒服の狼」
(全く……さっきはジュンイチのお陰で助かったようなものだけど────無鉄砲っていうか見境無いっていうか──────ぶっちゃけはた迷惑?)
ストーンサークルでの測定器設置&起動を無事終えたジュンイチ達は、残る設置箇所であるカルデア隧道を移動していた………。
そんな中、エステルはなのは達と談笑しながら一人物思いに耽っていた。
(それにしても………父さんの台詞に過剰に反応してたみたいだけど──── 一体どういう事なのかしら?)
思い返すのはレイストン要塞での出来事。
父・カシウスの一言で”何かが切れた”様に襲いかかってきたジュンイチ……。
思えばルーアンでの臨時講師の時もそうだったが、ジュンイチは”守る事”について自分達以上に拘っている傾向にある。
────いや、むしろ執着していると言っても過言ではないだろう。
(結局の所……仲間とはいっても、あたしはジュンイチ達の過去を全然知らないのよね。ヨシュアと一緒で)
そんな疎開感が、エステルとしては寂しくもあり……悲しかった。
────しかし彼らは異世界からの来訪者。いつか時がくれば、元の世界へと帰る宿命にある。
それに他人の過去を詮索するのも、あまり好きではないしで………結局堂々巡りを繰り返すのが関の山だった。
だが、そんな彼女の悩みも、目的地到達と同時にすぐさま停止せざるを得なくなる。
現地確認の意味もかねて、ティータに尋ねた。
「えっと……カルデア隧道の途中にある最初の橋ってここでいいのよね?」
「うん、どちらかの岸に設置しちゃえばいいと思う。えと……こっちは回復装置があるからやめておいた方がいいかな。とすると……」
言ってティータは早速設置場所の選定を開始────だが、来た方向の岸にはオーブメント仕掛けの装置が設置されており、
導力の力場により、導力波が影響を受けてしまう可能性があることから、すぐさま反対側の岸へと移動して設置場所を確認する。
「えっと、アンテナをツァイス方面に向けるとしたら……うん、大丈夫だね。
お姉ちゃん、この辺りがいいと思うよ。さっそく測定器を設置しちゃう?」
「ええ、お願いねティータ」
「……その間オレ達は周囲の警戒だな。またさっきみたいに襲ってこられちゃ堪らないからな」
「あはは……それじゃあ設置作業を始めちゃうね。ちょっとだけ待ってて」
流石に先程のように作業中に襲われたらそれこそたまらない。
一同の間に緊張が走る────────
「うん、これでよしっと」
「それじゃあ後はスイッチを入れるだけね」
「うん、ちょっと待ってて……」
手早くティータが最後の測定器を設置。魔獣が襲撃してこない内に素早く起動スイッチを押し、装置を起動させる。
「ふう、起動完了だよ」
「ふふ、ご苦労様」
「あーっ! エステルちゃん!?」
「え……?!」
不意にエステルへと投げかけられた声に反応し、その方向を向く。
すると、ツァイス方向から男女が二人こちらに近づいてきていた。
男性の方はジュンイチのように跳ね上がった赤髪をしていて、バンダナを巻き……何かの鉱石らしき石をひもで巻き付けてネックレスのようにしたものを首から下げている。
一方女性の方は、ショートヘヤーに黄色い大きなリボンを結い、蝶々結びを施している。
……何だか妙にアンバランスな組み合わせの男女な気がしないでもない。
そんな中、エステルは顔見知りらしい女性の方へと駆け寄り、ジュンイチ達もそれに続く。
「アネラスさん! それにアガットも……」
「ふえっ………!?」
知り合いなのだろう……親しげに笑顔で二人に話しかけるエステルだが……アガットと呼ばれた男性の姿を確認したとたんにティータの態度が急によそよそしくなる。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、女性────アネラスが声をかけてくる。
「お久しぶりです! シェラ先輩、エステルちゃん!」
「ふふ、久しぶりね。相変わらず元気そうじゃない」
「なんだ、随分と大所帯で行動してやがるな─────おっと、ティータも一緒じゃねえか。
久しぶりだな、チビスケ」
「あう……チビスケなんてヒドイです。でもでもお久しぶりですっ」
確かに、アガットから見ればティータの背丈は彼の半分程度。……チビスケというのも納得は出来るが……
それでも素直には納得できずに、一瞬顔を膨らませて不満の声を挙げるが、瞬く間に表情は笑顔へと変わる。
薄々だが……ティータがこんなリアクションをする理由が判ったような気がしたなのはは、苦笑いを浮かべながら彼女の元へと歩み寄ってきた。
────すると
「わ!! 誰、この可愛い子達!? カワイイ! カワイ過ぎるっ!!」
「にゃ、にゃっ?!」
「ふえっ!?」
二人の姿を捕らえたアネラスは目を輝かせて二人の元へと駆け寄り、力の限り抱きしめる。
そしてそのまま二人の頬に頬ずりしながら至福の笑顔を浮かべる。……非常にご満悦の様子だ。
「なになに、この子達!? エステルちゃんの妹さん達!?」
「えへへ、まあそんな所かな。……金髪のコがティータっていってラッセル博士のお孫さんなの。
そしてこっちのツインテールの方が…」
「えと……高町なのはです」
「はわぁ………ティータちゃんになのはちゃんかぁ……………可愛いなぁ─────
シェラ先輩! このコ達お持ち帰りしていいですか?!」
「気持ちは判るけど落ち着きなさいな。特になのはちゃんは色々とワケありなんだから」
非常にどこかで見た事のある台詞を漏らして、シェラザードに懇願するアネラスだったがあっさり却下。
非常に残念そうな表情を浮かべながらも、断腸の思いでなのは達から離れたアネラスは、改めて告げる。
「うー……残念。
わたし、アネラス! アネラス・エルフィードだよ! ヨロシクねティータちゃん、なのはちゃん!」
「は、はい……こちらこそ………」
「よろしく、おねがいします…………」
「…………ツァイス支部でのジュンイチもこんな感じだったのよ?」
「そこでオレに振るか。耳が痛い話だなオイ……」
横目でジトーっと睨まれつつ、エステルから告げられたジュンイチは概視感に苛まれながらも、エステルのつっこみを適当にあしらう。
そんな一同のやり取りを見ながら、今更ながら自分の見知らぬメンバーが増えている事に気付き、アガットが尋ねる。
「─────って、よく見りゃ見慣れない連中も一緒じゃねぇか。
……シェラザード、ひょっとしてそいつ等がギルドの報告書にあった………」
「ええ、異世界からやって来た時空管理局代表のメンバーよ。
《アーティファクト》と同等の位置づけになる『ジュエルシード』の捜索と一緒にあたし達の調査も手伝ってくれてるの」
「……そこのボウズとメガネ娘はともかくとして、こっちのチビスケ2号は全くのドシロウトじゃないのか?」
「ところがどっこい。なのはちゃんは導力魔法とは別系統だけど異世界魔法のスペシャリストよ。
専用の防護服もかなりの防御力だし、実際あたし達もルーアンで何度も助けて貰ってるわ」
「ま、マジかよ………っと、自己紹介が遅れたな。
俺はアガット。アガット・クロスナーだ────エステルやシェラザードと同じ正遊撃士をやってる」
無骨な表情を浮かべながらも、淡々と自己紹介を済ませるアガット。
無論なのはや美由希は丁寧に挨拶を済ませたが、ジュンイチだけはいつものように軽く名乗るだけで終了。
……こういう所を疎かにするから、自然と厄介事に巻き込まれるんじゃないか?
などと心の中でジュンイチに叱咤するエステルだが、当の本人は全く気にも留めていない様子で実に飄々としていた。
これ以上この男の事で思考を裂いてもいい事はないと判断し、エステルは改めてアガット達に尋ねる。
「ところで、アガット達はどうしてこんな場所にいるの? ひょっとしてあたし達を探してたとか?」
「いや、ただの偶然だ。
ちょうど空賊団と特務兵の手がかりを追っている最中でな」
「え!? 空賊と特務兵って……あいつ等の残党って事?」
特務兵……それは、かつてリベール王国にて先進的に立ち上げられた『情報部』と呼ばれる諜報活動を専門とする部署のエリート兵士達の総称である。
一般の王国軍兵士が導力小銃を主体とする遠距離戦を得意とするのに対し、特務兵達は機関拳銃やバトルアックス、カタール系の得物を主体とする白兵戦を得意とする。
そしてその情報部をまとめていたのが、王国軍お抱えにして、かつてのカシウスの部下だったアラン・リシャール元大佐。
彼は持ち前の情報網と組織力を持って王国を内と外から操り、王都の地下に封印されていたとされる《七の至宝(セプト・テリオン)》の一つ────《輝く輪(オーリオール)》を手に入れようとしたのが、後に『クーデター事件』と呼ばれた一件の大まかな経緯である。
……閑話休題。ともかく、クーデター事件が終結しても主犯のリシャールは逮捕されたが副官を始め何人かの特務兵も未だ逮捕されずに逃亡生活を続けている現在の状況。
しかもリシャールの背後には《身喰らう蛇》の影がちらついていたのだ。……上手く特務兵の残党を逮捕し、手がかりを得る事が出来れば連中の元へ確実に近づく事が出来るのだ。
それだけにエステルやシェラザードの驚きようも半端ではない。
「確かまだ王国軍にも捕まっていなかったはずね。何か手がかりを見つけたの?」
「それがギルドに何件か目撃情報が入ってきてるんですよ。……どれも信憑性は低そうなんですけど」
「念のため、胡散臭い場所を調べながら各地を回ってるってワケだ。……っと、それよりも聞いたぜ。
《身喰らう蛇》の手先がルーアン地方に現れたそうだな」
「う、うん……《怪盗紳士》とか名乗ってる仮面を被った変なヤツだったわ。
……クローゼだけに飽きたらず、最後にはなのはにまで目を付けようとしたロリコン野郎だったけど」
事実は事実なのだが、もう少しオブラートに包んだ表現は出来ないものだろうか。
「珍妙な格好や性格はともかく、相当腕の立ちそうな男だったわ。
まともにやり合ったらかなり危険だったかもしれない」
「むむ。シェラ先輩にそこまで言わせるなんて……《身喰らう蛇》───かなり危険な組織みたいですね」
「危険というよりも得体が知れないと言った方が正しいかもしれねぇな……
もし、俺達の力が必要なら遠慮なく言ってこい。ギルドを通せばすぐに連絡がつくだろう」
「うん、そうさせてもらうね。アガット達こそ、何かあったらあたし達にも連絡してよね。すぐに飛んでいくから」
エステルの提案に、バツの悪そうな表情を浮かべながらも……渋々といった感じでアガットが同調する。
………先輩としてのプライドなのだろうか───はたまた照れ隠しでそうしているのか………
多分後者だろうなと決めつけた。
「ま、あり得ねぇとは思うが万が一の時はアテにしておくぜ。
─────さて、いつまでもこんな場所で話してるのも何だな。そろそろ俺達は行くぜ」
「あ、うん。……残念だけどしょうがないよね」
「……………あ、あのね……アガットさん」
「あん、どうした?」
「えとえと…………………………………………………………ゴメンナサイ、何でもないです……」
伝えたい事が素直に口から出てこない────今更ながら自分の意気地のなさが嫌になる。
だが、そんなティータの心情に全く気付いていない朴念仁(アガット)は実にいい笑顔でティータへと語りかけた。
「なんだ、変なヤツだな。
ま、ラッセルの爺さんにヨロシク言っておいてくれ。───それと、あんまり機械いじりばかりすんなよ? 子供は子供らしくが一番だ」
「えへへ……そーですね。
でも、アガットさんだってあんまり無茶したらダメですよ? すぐに意地はって危険な事をしちゃうんだから」
「ぐっ……言うようになりやがったな」
「えへへ、とーぜんです─────わたしだって……いつまでも子供じゃないです」
ようやく一矢報いた…そんな気がしてティータの表情が綻ぶ。
だが────そんな様子を快く思ってないおバカが一人。
「……………な、何? この二人の空気は?! 何だかちょっぴりジェラシー!!」
「感じるな」
有無を言わさず、エステルにつっこまれるジュンイチ。
「ふふ、ティータちゃん相手だとアガット先輩も形無しなんですね。
それじゃあ、みんなお元気で! エステルちゃん、ティータちゃん、なのはちゃん! 今度逢ったら一緒に遊びに行こうね!!」
「うん、喜んで!」
「は、はい……」
「楽しみにしてますね♪」
結局ティータは終始アネラスのテンションに振り回されっぱなしだったようだ。
なのは達が笑顔で答えるのに対して彼女はやや引きつった笑顔でもってアネラスの挨拶に応えた。
二人が立ち去った後………久方ぶりの再会にエステルは心を躍らせる。
「は〜…こんな所でアガット達に会えるとは思ってもみなかったな。……でも、二人共相変わらずよね。
どんなノリで一緒に旅してるのか今イチ想像が出来ないけど……」
「あの通り、アネラスはさっぱりした性格をしてるからアガットみたいな気難しいのとも上手くやってるのかもしれないわね」
「………………………………………………」
「─────ティータちゃん、どうしたの?」
不意になのはが声をかけてくるもんだから、ややビックリしたがそれでも平静を装ってティータはなのはに聞き返す。
「ふぇっ……! な、なに!? なのはちゃん?!」
「いや、どうしたのかなーって……何だかボーっとしてたみたいだけど」
「そ、そんな事ないよ? ただその……ちょっとビックリしちゃって……」
「ビックリって……何に?」
「えと……その……アガットさんに………恋人さんがいたんだなぁって」
気のせいか……なのはに告げるティータは何だか寂しそうな表情を浮かべていた。
そして、アガット達が隧道の奥へと消えていった後も、二人が歩いていった方向をずっと見つめている。
薄々ティータの心情を汲んで、エステルが先に答えた。
「恋人って、アネラスさんが?
─────あはは、違うってば。アレは仕事上のパートナーよ」
「え?」
「ふふ……例の《結社》についてチームに分かれて調査しているの。────別に恋人ってワケじゃないのよ?」
「そ、そーなんですか。そっか……えへへ……」
シェラザードの追加補足にホッと胸をなで下ろすティータ。
……やはり間違いない。確信したエステルは何とも微笑ましくも、微妙に不安な表情を浮かべて呟いた。
(なるほど……そういうことか)
(オレとしてはあの二人がデキててくれた方がティータちゃんが今後フリーでずっと安泰なんだがな)
(黙れロリヲタク)
完全にジュンイチの立ち位置がロリコンで固定された瞬間だった。
…………………………
……………
………
「ラッセル博士、一番の接続…成功しました」
「そのようじゃな。さっそく情報が入ってきた。
うむうむ……今のところ安定しておるようじゃ。────そのまま2番、3番の接続を開始」
「了解しました」
所変わって────ツァイス市北部に佇む巨大な建築物『中央工房』の5階にある『演算室』でラッセル博士は
沢山のモニターとコンピュータのような導力器と格闘しつつ、その手を一切休ませることなく作業を進めていた。
博士が専用の結晶回路をスロットに差し込み、プログラムを走らせる……その際中、
測定器の設置を終えてツァイスへと戻っていたエステル達が演算室へと入ってくる。
「やってるやってる」
「何て言うか……凄いの一言に尽きる部屋ね」
「ユーノと一緒に《看板の調査》をしている時に、この部屋を使わせて貰ったんだけど……わたしもちょっとビックリです」
ぱっと見は大企業のサーバーコンピュータルームである。
あまりもの機材の規模の大きさに思わずあっけにとられるシェラザード達だったが、そんな彼らの存在に気づいた男性が、こちらの方を振り向いた。
「おお……エステル君、来たか」
「あ、マードック工房長」
「お久しぶり。生誕祭の時以来だったっけ?」
「ああ、そうなるかな────色々あったそうだが……元気そうで何よりだよ」
「あはは……ありがと、工房長さん。
────そうそう、あたしたち博士に頼まれて測定器をおいてきたんだけど……」
「ああ、そうらしいね。ちょうど各地の測定器から情報が届き始めているらしいよ」
積もる話も程々にすませ、エステルは改めてラッセル博士に測定器設置完了の報告をする。
一方の博士は…………作業に集中しているのかこちらの声が全く届いてない模様。
確かに……天才肌だ。なんつーか、いろんな意味で。
軽く頭痛を覚えたジュンイチ達だったがあえてノーコメントの方向で話を進める事にした。
「それじゃあ《カペル》の調整の方も終わったんですね?」
「ああ、博士が専用のプログラムを走らせたばかりさ」
「2番、3番の接続にも成功です」
「おお、こちらも確認した。……………よしよし、どちらも安定しておる。
これで1番から3番まで全ての測定器の情報が入ったな」
助手と思わしき男性の報告に呼応し、ラッセル博士はディスプレイを確認。
見ると先程までバッテン印でマーキングされていた2番機と3番機のモニターも数値がグラフとして表示されるようになっていた。
すべての設定が終わって落ち着いたのか、ようやくこちらの気配に気づいて博士は振り向いた。
「おお、やっと戻ってきたか。
見ての通り、お前さん達のおかげで無事に情報が届いたわい。本当にご苦労じゃったのう」
(さっきからずっとこの部屋にいたんだがなぁ、オレ達………)
「あはは、あたし達は測定器の部品を運んだくらいよ」
「それに、この一件はこちらが頼んでいる事ですから。装置の設置から起動まで全部やってくれたお孫さんをねぎらって下さい」
すでに見慣れた光景なのか、エステルやシェラザードも特につっこむ様子もなく、ラッセル博士からティータの方に視線を送る。
すると、いきなり自分に振られるとは思ってなかったのか、慌てふためいた様子のティータ。
「い、いいですよ〜。大したことはしてないし……」
「いやいや、お前もよく頑張ったのう。────トランスミッターの設定も完璧じゃ。ちゃーんと情報が入ってきておるぞ」
「えへへ、よかった。それじゃあ準備は全部終わっちゃったの? わたし、手伝う事ないかな?」
「いや、これで準備は完了じゃ。七耀脈の流れに乱れが起きたら《カペル》が自動的に解析を始めるようにプログラムしておる。
あとは、どこかの場所で地震が起きるのを待つだけじゃよ」
「そっか……一応、一段落ついたワケね。────でも、どこかで起きる地震をただ待つのも落ち着かないかも」
「確かにな。
《執行者》の潜伏先も気になるし、時間があるなら動いて少しでも情報を集めたい所だが……」
ジュンイチの言うとおりだ。
各地の目撃情報から《結社》が絡んでいる事は間違いないと判ったが、肝心の潜伏先がまだ判明していないのだ。
ただ闇雲に探すだけでは体力の無駄だし、何より、さらなる大規模地震が発生したときに手遅れになる可能性もある。
とりあえず、人口が集中しているツァイス市では一体どうするつもりなのだろうか。気になったシェラザードがマードック工房長に尋ねる。
「もしツァイスで再び地震が起きた時、何か対策は立てているんですか?」
「一応、転倒しそうな装置は固定するようにしておいたよ。ただそれでも、前回以上に大きな地震が起こったら厳しいな。……設備へのダメージは避けられないだろう」
「その意味では、ここにある《カペル》なんかも同じじゃ。
揺れで誤作動を起こしたら実験が失敗に終わる可能性が高い。みんな、女神に祈っておいてくれ」
「はぁ……ちょっと不安になってきたわ」
「あはは………こっちの世界ではいくら最新技術といっても神様の力は偉大なワケなんだ」
さらりと不安をあおる一言を漏らしてくれるラッセル博士に対して思わず肩を落としてしまうエステル。
そんな様子に意外そうな印象を受けた美由希が苦笑する。
「えへへ、技術者のヒトって意外と信心深いんですよ。わたしも難しい作業の時にはよく女神様にお祈りするし……」
「確かにそれはあるかもしれんね。
私なんて、初の導力飛行船を博士が開発していた時なんか1日に3回は教会に行ってたよ」
「なんじゃ、失礼な奴じゃのー」
「39回も実験が失敗したらそうしたくなるのも当然です」
つまり工房長は飛行船の実験が成功するまで、延々と気苦労を背負い込んでいたことになる。
……その内胃潰瘍か心筋梗塞で倒れるんじゃないかと、工房長の健康を危惧せざるを得ない一同だった。
「あはは……昔からそんな感じなんだ」
「うん、そーみたい……」
「でも、そういう事ならどこかで時間を潰しますか。一旦ギルドに戻って報告しておくのもいいわね」
「おお、そうするがいい。何か動きがあったらすぐにでもギルドに連絡……」
言いかけた直後、突如室内にアラーム音が響き渡る。
────見ると、さっきまで低い数値しか示していなかった測定器のグラフが明らかに上下を繰り返し、数値の異常化を知らせている。
その状況に、ラッセル博士はもちろん…ジュンイチ達の表情も引き締まる。
「え……」
「ひょ、ひょっとして……」
「……ギルドの戻る必要はなくなったみたいじゃのう」
「1番から3番までの全ての測定器に変化あり! 地下の七耀脈の動きが活発になっているようです!!」
「うむ、そのままモニターを続けるがいい。通信が遮断した時には報告」
「了解しました!」
助手の男性は慌ただしく上層部の機材を設定し周り、ラッセル博士も演算ユニット《カペル》を操作して、測定器から送られてくる情報から地震の解析を始める。
「3地点からの情報をリアルタイムに解析開始……現時点での最大の地震波収束地点を検索………
─────座標【12.73,378.02】ほほう……そう来たか」
「ど、どう来たの?」
「今現在、地震が起こっている場所が判った」
「レイストン要塞じゃ」
「!!!」
「なんですって!?」
……………………
…………
……
さかのぼる事、地震発生3分前……レイストン要塞。
突然予定を早めて要塞へと到着したモルガン将軍を施設内に案内した直後の事。
到着するなり、早速軍再編成の議題を抱えてカシウスとシードと共に会議に移るモルガン将軍を尻目に、兵士達はグラウンドで基礎訓練を重ねていた。
その最中だった────異変が起きたのは。
ゴゴゴゴゴゴ!!!
「な、なんだ!?」
「て、敵の爆撃?!」
「お、落ち着け!ただの地震だ!! 列を乱さずに待機!」
部隊を指揮していた隊長も、不意に訪れた自然の猛威に動揺しつつも、あくまで平静を装って部下達を宥め、待機させようと奮闘する。
そして、動揺が走ったのはここだけではない────カシウス達のいる指揮官室も同様に驚きの声が挙がる。
ただし、”地震が発生した事”に対してではなく……”地震が発生する事をカシウスが予想”していた事であった。
「准将、これは………!」
「ふむ、読みが当たったか。────念のため、発着場の作業を止めておいたのは正解だったな」
「むむ、まさかお前の言ったとおりに揺れるとは……カシウス、どんな魔法を使ったのだ?」
「なに……相手の立場で考えただけです。
─────3回の『予行演習』の後……次の標的はどこが効果的かとね」
………………
………
…‥
「工房長! レイストン要塞から連絡です!! つい今し方、中規模の地震が発生したそうです!」
「それで、被害の方はどうなったんだ?!」
「幸いケガ人は殆ど出なかったそうです。どうやら前もって地震に備えていたようですね」
「よ、よかったぁ〜〜……」
「……ま、あのオッサンに限ってそこら辺はぬかりないだろうな」
「さすがカシウス。危機管理は万全じゃったか─────さてと、こちらの解析も終了したか」
再び戻ってツァイス市、中央工房『演算室』────
レイストン要塞での地震発生の知らせを受けてから数分後、同要塞からの連絡を受付の女性が報告すると、皆一斉に胸をなで下ろす。
一方、《カペル》が弾き出した地震発生のメカニズムに目を通し、うんうんと相槌を打つ。
「ふむふむ…なになに………ほうほう……これは興味深いのう」
「な、何か判った?」
「まあそう焦るでない。
────これによると、地震の直前に七耀脈の流れに異常が生じておる。……そして、歪められた流れが要塞の地下に収束する事で局地的な地震が発生したらしい。
かなり浅い地下で発生したから他には影響しなかったようじゃな」
「それが地震の正体ね……」
「そ、それってつまり……何者かが七耀脈を操って地震を起こしているって事?!」
「なるほど……名付けるなら『地震兵器』といった所ね。
自然災害だから発生そのものを止める事は出来ないし、かと言って放置すると甚大な被害をもたらす………」
「うむ。まさしくそんな所じゃろう」
聞こえは簡単なように思えるが、それはあくまでも対象が”七耀脈”……純粋なエネルギーの脈である場合に限る。
”溶岩”や”マントル”の様な鉱石の液体を人為的な手段で流れを操作する事などできないし、出来たとしても今回のようにかなりの出力での運用は事実上不可能なのは明白だ。
しかし、今回はまさにその”不可能”を”可能”にしている……。
「で、でも、おじいちゃん。七耀脈の流れを操るなんてそんな事ホントにできるの?」
「ううむ、最新の土木技術でもそんな事は不可能なはず……」
「それに関してはわしも同感じゃ。────じゃが、認めたくはないが……それを可能にした者がいるらしい」
「上等じゃねぇか………博士、発生地点を割り出せるんなら、『地震兵器』が何処に置かれてるとか逆探知出来ねぇか!?」
「あ……!」
「それよ!」
「なるほど……そいつは盲点じゃったな!」
ジュンイチの一言で公明が見えたのか、再びプログラムを走らせ、データを解析していくラッセル博士。
ディスプレイにも、エネルギーの流れを逆算する解析表示がなされている……そんな中、データは弾き出された。
「3箇所における七耀脈の流れの歪みを解析……逆算する形で歪みの発生源を割り出すと……
出た────座標【165.88,-228.35】……」
「え……」
「ティータちゃん、何か判ったの?」
「う、うん……」
思わず驚くティータに、なのはが尋ねると彼女はおもむろにツァイス地方の地図を取り出した。
「座標は、ツァイス中心のセルジュ単位だから……
ここから東に12セルジュ、北に378セルジュの地点がレイストン要塞だとすれば……東に165セルジュ、南に228セルジュの地点は………」
「──────エルモ温泉かっ!?」
「は、はい……多分、このあたりになるハズなんですけど………」
目測での距離で弾き出した、地震の震源地………それがかつて、自分達も休暇で訪れていた
『エルモ温泉』である事に驚きを隠せない。
以前訪れたときには全くそんな兆候を見せてなどいなかったというのに……改めて敵の周到さが身にしみる。
「なっ……?!」
「完全に盲点だったわね……」
「エルモ村────まさかわたし達が休暇で訪れた場所が『震源地』だったなんて……」
「断言はできないがその可能性は高そうじゃ。どうする、お前さん達?」
「決まってるわ! すぐに調べに行かなくちゃ!!」
「ええ、急ぐ必要がありそうね」
どうやら聞くまでもなかったらしい。
ラッセル博士の問いかけにも、意気揚々と調査続行の意を伝えるエステル達に、ティータを前に出して告げた。
「そうか……ならば、このままティータを連れて行くといい。この子の知識と技術はきっと調査に役立つはずじゃ」
「あ………うん、きっと役に立つから!」
「うーん……危険かもしれないけど……でも、あたし達が守ってあげれば大丈夫かな。
ジュンイチ、そういうわけだからあんたも協力よろしく頼むわよ?」
「…………うぅむ────ぶっちゃけ装置が設置し終わった今となってはムリにティータちゃんを同行させる理由はない気がするんだが……」
「わたしも守るのを手伝います。ジュンイチさん、ティータちゃんを連れてってあげてください!」
「うぅ〜ん…………………」
しばし悩んだあと、ジュンイチはティータに向かってきっぱりと言い放った。
「──────ティータちゃん、オレ達の側から決して離れるなよ?」
「────!? あ、ありがとうございますジュンイチさん!!」
「ティータちゃん、決してムリしたら駄目よ」
「はいっ!」
「それでは私の方からエルモ村に連絡しておこう。マオさんに協力を頼めば君たちの調査もはかどるだろう」
「うん、そうしてくれると助かるわ」
「ヘイゼル君、通信の用意をしてくれたまえ」
「かしこまりました」
話がまとまったジュンイチ達の姿を見届けると、マードック工房長は先程訪れた受付の女性と共に演算室をあとにした。
残るラッセル博士は軽く工房長と挨拶を交わすと、改めてエステル達に向かって告げた。
「わしはここで《カペル》による解析を続ける。何か判ったら宿に連絡を入れよう」
「うん、お願い。あたし達も、何か判ったら中央工房に連絡させて貰うわ」
「うむ、頼んだぞ」
「さてと……それじゃあエルモに行くわよ!」
こうして一同は、焦る気持ちを抑えつつ『エルモ温泉』へと向かい歩を進めるのであった……。
……………………
…………
……
到着するなり、一同を出迎えてくれたのはマオ婆さんだった。
……ジュンイチからすればあのときの事件が鮮明にフラッシュバックしてしまう手前、あまりまじまじとマオ婆さんの姿を直視出来ないのが微妙なところだが。
「おお、よく来てくれたね」
「マオおばあちゃん!」
「やあ、ティータ、エステル………っと、ジュンイチ達も一緒かい? さっき工房長さんから宿に通信で連絡があったよ。何でもツァイスのあちこちで妙な地震が起こっているらしいね?」
「そっか……うん、それなら話は早いわ」
「実はついさっき、こっちでも奇妙な事が起こっちまってね。それこそ遊撃士協会あたりに連絡させてもらおうと思ったのさ」
「ふえっ……!?」
「もしかして、地震?!」
「あいにく地震じゃないんだが……百聞は一見にしかずだ────さ、その目で確かめとくれ」
何がなにやらワケが判らず、促されるままマオ婆さんのあとをついて行くと……
村の中央に位置する、温泉のため池がボコボコと音を立てて沸騰している光景を目の当たりにした。
「な、なんじゃこりゃ?!」
「煮えたぎっちゃってる……」
「一体、これはどうしたの?」
「どうしたもこうしたも……工房長さんの連絡があった矢先にいきなり表が騒がしくなってさ。
何だと思って見に来たらすでにこの有様だったんだよ」
「ひょ、ひょっとしてポンプ装置が壊れちゃったの? どこかが発熱しているとか……」
ティータが考え得る原因の一つを尋ねてみるが、マオ婆さんは首を横に振って否定する。
「いや、さっき見てきたがいつも通りちゃんと動いていたよ。おそらく源泉の温度が突然、高くなっちまったに違いない」
「それって珍しい事なの?」
「ここに移り住んで50年。こんな奇妙な事は初めてさ────何かこう、イヤな予感がするよ」
「なるほど……あり得ない話じゃないわね」
「どういう事、美由希?」
マオ婆さんの証言から、冷静に分析する美由希にワケが判らず逆に聞き返すエステル。
一方逆に尋ねられた美由希はやや戸惑いながらも自分の仮説を説明する。
「元々温泉って言うのは地下の熱源で地下水が温められて地上に湧き出した物の総称だから────
温泉の温度が上がるって事はそれだけ地下の温度が上がってる………つまり七耀脈の活動が活発になってるってことなの」
「そ、そんな……このまま温度が上昇したら大変な事になっちゃうかも……」
「た、大変じゃない! すぐに原因を突き止めなくちゃ!」
「ねえ、お婆ちゃん。源泉ていうのはどこにあるの? この目で確認できる物なのかしら?」
「そうくると思ってこれを用意して待ってたのさ。さ、受けとっとくれ」
そういってマオ婆さんは古びた南京錠の鍵をエステルに差し出す。
……思い当たる使用場所を思慮しつつも、エステルはマオ婆さんに尋ねる。
「これって……」
「ポンプ小屋の左手にある、裏手の木戸を開くための鍵さ。その奥に、エルモ温泉の源泉が湧いた洞窟があるんだ」
「ホント?!」
「そんな洞窟があったんだ……」
「ふふ、用意が良くて助かります」
「なんの。お願いするのはこっちの方さ。こんなに沸騰してたらすぐには客を入れられないしかけ流しだってできないからね。
地震の調査と合わせてそっちもよろしく頼んだよ」
「うん、任せて!」
そういうと、エステルに鍵を渡し終えたマオ婆さんは一端宿に戻って……『ただいま準備中』の札を宿の入り口に掲げた。
……温泉が使用不可能になったからって宿そのものまで営業停止というのはいかがなものだろうかと思いつつも、ジュンイチは明け渡された鍵を見つめて呟く。
「RPGゲームでありがちなダンジョンっぽい洞窟の奥地が『震源地』か……万全の準備をして入った方が良さそうだな」
「ええ……十中八九、《執行者(ヤツら)》がいるはずよ。気合いを入れて行きましょう」
気合い満タン、やる気十分──── 一同は蒸気の立ちこめる洞窟の入り口をくぐった。
……………………
…………
……
洞窟に入るなり、一同を出迎えたのは煮えたぎる温泉のため池の数々と、荒々しく吹き出す間欠泉────おまけに視界も薄暗い上に立ちこめる蒸気でほぼゼロと言ってもいい。
……下手をすればかなり危険な場所であるのは誰の目にも明らかだった。
「うわ……かなり沸騰しちゃってるわねぇ」
「はわわ、落ちたりしたら絶対に火傷しちゃいそう………」
「沸騰した湯の池もそうだけど……真に注意すべきは間欠泉から吹き出てくる高温の蒸気よ。
軽く100度は超えてるだろうから、下手したら致命傷になりかねないわ」
「そっか………知的なアドバイスありがと美由希。────にしてもイヤに詳しいわね?」
「わたし本読んだりするの好きだから。自慢じゃないけど、こういう知識は人並み以上にあるんだよ?」
「さすが本の虫。リベールに着いてからも開いた時間を雑貨屋で本の買い漁りに費やしてたのは伊達じゃないな!」
「ジュンイチ君……あとで覚悟しておいてね」
少なくとも鍛錬におけるお師匠様(ジュンイチ)に勝てる可能性はゼロに等しいが、それでも持てる限りの覇気でもってジュンイチを気圧する。
……当の本人は全く堪えてる気配は見受けられないが。
「まあそれはともかく……どうやら蒸気は一定間隔で噴き出しているみたいね。タイミングを見て通り抜けるしかないでしょう」
「ん、オッケー!」
そんなこんなで、《執行者》との戦いの前に、まずは大自然との格闘で神経をすり減らす羽目になったジュンイチ達であった。
余談だが────ジュンイチが”力”を行使して間欠泉が吹き出す瞬間に蒸気の熱を奪えばいい事に気がついたのは、洞窟の最深部一歩手前に差し掛かったときだったりする。
……………………
…………
……
差し掛かった源泉の最深部……どうやら大きな空洞となっているようだが、そこで目の当たりにした光景────
光り輝くエネルギーの拍動が地面を伝って四方八方に拡散していく、壮絶たる物だった。
「な、何これ……?! 地面いっぱいに広がって………」
「エネルギーの脈……これってひょっとして……」
「……クク………ずいぶん遅かったじゃねぇか」
「あ……!」
「まぁそういうものでもないでござろう? 軒並みの実力者にしてはなかなか見所のあるようでござるし……捨て置くのも惜しい者達でござる」
見渡せば、空洞の奥に二人の中年男性が佇んでいた。
一人は目撃情報にあったとおりの、黒服サングラスのやや痩せ体型の男────。
そしてもう一人は…炎のように真っ赤な色のチョンマゲヘアスタイルに古風な着物という出で立ち。
腰には……これまたお約束の刀────。
だが、雰囲気は明らかに日本のサムライとは全く別物である事は間違いなかった。
「サ、サングラスの男……! ──っと、な、ナンか変なのが一人……」
「アレは……《ゴスペル》付きの杭………?」
「よう、小娘ども。わざわざご苦労だったな────せいぜい歓迎させてもらうぜ」
「あんた……《身喰らう蛇》の人間ね!」
今更、確認するまでもないと思うが……それでも一応声を荒げてエステルは黒服の男に尋ねる。
すると、やや呆れ顔と言った感じで淡々と……男は自己紹介を行う。
「クク……
執行者No.[。《痩せ狼》ヴァルター ────そんな風に呼ばれているぜ。
……ルーアンで《怪盗》のヤロウと会ったって事は、ヴァーチとも顔合わせは済んでんだよな?」
「お初にお目にかかるでござる。拙者……デュナムと申しまする。
そしてこれは────我が愛刀…アームドデバイス『ムラクモ』でござる。以後お見知り置きを仕り申し上げ候」
「………? え、な、何?!」
やっぱりデュナムのサムライ口調はエステル達にとっては初見の物らしい。
何がなにやらワケが判らない様子だが、とりあえず流す方向でシェラザードは勝手に話を進める。
「やっぱり……ツァイスでの一連の地震も全部あなたのせいという訳ね」
「クク、当たり前の事をわざわざ確認してんじゃねぇよ。
────コイツは《結社》で開発された七耀脈に干渉するための《杭》でな。
本来、真下にある七耀脈を活性化させるだけの装置なんだが……《ゴスペル》をつける事で広範囲の七耀脈の流れを歪ませて局地的な地震を起こす事ができた。……ま、そんな実験をしてたって訳だ」
「”してた”────過去形……という事は、実験はもう終わったんですか?」
美由希が尋ねると、ヴァルターは露骨に残念そうな表情を浮かべて、彼女の問いに答える。
「まーな。本当は建物が崩れるくらいド派手なのをぶちかましたかったんだが……そこまでの力は出せなかったな」
「仮に出せたとしても、拙者がそのような事はさせんでござるよ。
無益な殺生は例え敵と云えども、あってはならん事でござるからな」
「そ、そうですよっ! 建物が崩れちゃったりしたらすんでるひとがあぶないですっ!!」
「クク、だからいいんだよ。
瓦礫に手足を潰されてブタのように泣き叫ぶヤツもいるだろうし──脳味噌とハラワタぶちまけてくたばるヤツもいるだろう。
よかったら嬢ちゃんもそんな目に遭ってみるかい?」
「ひっ……!」
「こ、こいつ……」
ブルブランも相当歪んだ価値観の持ち主だったが……この男も常識を逸脱している。
ジュンイチは同じバトルマニアという点で思わずブレードの姿を重ねるが、ヤツはあくまで”戦いが好き”であって”殺しが好き”と言うわけではない。
だが、ヴァルターは自分の欲望を満たすためなら、平気で無力な人間の命も奪ってしまいそうな……そんな印象さえ受けた。
「クク、そう怖い顔するなって。
俺はな、潤いのある人生には適度な刺激(スパイス)が必要だと思うのさ。いわゆる手に汗握るスリルとサスペンスってヤツだ。
────いつ自分が死ぬとも判らない……そんなギリギリの所に自分を置く。どうだ、ゾクゾクしてこねぇか?」
「随分と歪んだ人生観じゃねぇか……でもこれで合点がいったぜ。
手前ぇ────オレ達を誘い込みやがったな?」
「え………!?」
今までの調査状況から想像していた犯人像……それと今回の目撃情報を照らし合わせると自然と浮かんでいた今回の事件の真意。
つまりこの男は最初から自らの元にたどり着けるように、必要最小限の情報をワザと漏らし、ジュンイチ達を巧みに誘導したというのだ。
────もちろんワナという事は考えていなかったわけではなかった。だが、今回のやり口はワナとかそういう次元ではなく……もっと単純なところにあった。
「思わせぶりで必要最小限の目撃情報───要塞で地震があった直後にエルモの源泉が沸騰し始めた事───全部意図的に仕組んだ誘導情報だったというわけだ」
「そんな……」
「ま、半分正解ってとこだな。それじゃ早速、味見をさせてもらうぜ……」
「てめぇらという刺激(スパイス)をな♪」
言ってヴァルターは右手をかざし……指を鳴らして合図を出す。
すると突然地響きが空洞内に響き渡ると、ジュンイチ達を取り囲むように巨大な軟体魔獣が出現した!
体は透け通り、体内の臓器がまるまる目視出来てしまい、見た目のグロテスクさをよりいっそう引き立てる。
あまりの醜悪な見た目に思わずティータは悲鳴を漏らす。
「やああん?!」
「な、なにコイツら!?」
「この辺りに棲息してるミミズさ。七耀脈が活性化した事でここまで馬鹿でかくなりやがった。
ま、せいぜい遊んでやってくれや」
「ふ、ふざけんじゃないわよ!! この卑怯者……正々堂々と勝負しなさいよね!!」
「ほっとけ! 今はこのヘルマーズもどきの相手が先決だ!! ────みんな! 一気に勝負をつける……火傷したくなかったら下がってな!」
「はい!」
「うぇっ!? …ちょ、どういう事ジュンイチ君────」
言いつつジュンイチは腰のツールボックスから携帯のような専用ツール『ブレインストーラー』を取り出した。
〈Mode-Install.〉
取り出すと同時にブレインストーラーのシステムボイスが告げ――その瞬間、彼の周囲に“力”の渦が巻き起こった。
ブレインストーラーに収められた彼の精霊石“スカーレット・フレア”が――その中に宿るジュンイチの精霊獣『フレイム・オブ・オーガ』がその“力”を解き放ったのだ。
そして、ジュンイチの“装重甲(メタル・ブレスト)”に変化が起きた。ベルトのバックルの形状が変化。何かをはめ込むようなくぼみが形成される。
それはまるで、携帯電話がひとつ収まるくらいの────そしてジュンイチはブレインストーラーをベルトのくぼみに横からスライドさせるようにはめ込んだ。
〈Standing-by.〉
そして――告げる。
戦力の差を決定づける一言を。
「精霊獣融合(インストール)!」
〈Install of OGRE!〉
瞬間――炎が荒れ狂った。
to be continued...
次回予告
巨大ミミズ魔獣『アビスワーム』を何とか撃退したわたし達だったけど
ぐっ、こいつ……格闘戦のスキルじゃ青木ちゃんより上だぞ!?
そして猛威をふるう見た事もない形のデバイスと魔法………
危ねぇ、なのは! 逃げろっ!!
きゃあぁぁぁぁぁっ!!!
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第14話『夜を切り裂く閃光の戦斧』
リリカル・マジカル!
な、何だぁあのやたらデカイ男は?!
−リリなの連合緊急特別集会(兼あとがき)−
ジュンイチ「…………ヲイ」
takku「〜〜〜♪♪♪」←ウォークマン聞いてノリノリ
シェラザード「ちょっとちょっと。いつまでも耳にこんな物詰め込んでないで────とっとと話を進めなさい!」
takku「ああっ!! ……ちぇっ、せっかくいい所だったのに」
ジュンイチ「自業自得だっつーの。……それよかこのコーナ、今回で3度目だけど今までのパターンでいくとStrikerSからのキャラを呼ぶ事になってるんだが、誰を呼ぶつもりだ?」
takku「その辺もちゃーんと考えてますわな。それじゃ、カマーン!!」
ギンガ「どうも〜〜♪」
シェラザード「あらま」
ジュンイチ「なるほど……スバルも出てきた手前、この人も出てきてないと不平等だーな」
takku「つーわけで、今回は第1回目のゲストであるスバルの姉にして上司なギンガさんにお越し頂きました♪」
ジーナ「『お越し頂きました♪』─────じゃねぇだろヲイ。今までもそうだったけど本編と全く関係ないゲストじゃねぇか! どーすんだよ、あとがきのトーク!?」
takku「その辺も大丈夫♪ ちゃーんと考えてるんだから」
ジュンイチ「─────お前が言うと妙に信憑性に欠けるのは気のせいか?」
では、気を取り直して本題に移りたいと思います。
−以下筆者の勝手な暴走の一文が書かれてますが、気にしないでください−
ジュンイチ「さて……今日は何の祝い事だ? 『MASSIVE WONDERS』第4位や『GREAT ACTIVITY』第2位は時事ネタとしては古いぞ?」
ギンガ「ジュンイチ君、ジュンイチ君……それ以上にすごいイベントがあったじゃない。新年早々」
ジュンイチ「すごいイベントが新年早々─────って、まさかお前?!」
takku「そうさ! 行ってきましたさ、『NANA MIZUKI LIVE FORMULA 2007-2008』に!!
しかも最終日の1月3日『さいたまスーパーアリーナ』へ!!!」
ジュンイチ「ぬあぁぁにぃぃぃぃぃぃぃっ?!」
ギンガ「地元山口から会場のあるさいたままで在来線と新幹線を乗り継いで約半日……ライブに参戦した人たちの中でもかなりの遠方者に入るんじゃない?」
ジュンイチ「よくそんな金と時間があったな、社会人?!」
takku「休暇間の雑務については管理所の方と無理を言って調整し、移動資金や当日の宿泊費はボーナスでちゃんとまかなってますから」
ジュンイチ「贅沢な話だよなぁ……んで、どうだった?」
takku「もう、蝶サイコー!! 終始アクセル踏みっぱなしのフルスロットルテンションで突っ切ったからもう時間がたつのも忘れちゃって♪」
ジュンイチ「ホントに楽しそうに語ってやがるこいつ─────! ってそうじゃなくて、肝心の歌の内容は?!」
takku「『SUPER GENERATION』演奏時にスクリーンに映し出されたデフォメ版奈々姉ぇとけぇたん先生がメッチャメチャ可愛くて♪」
ジュンイチ「いやだから歌の感想を………」
takku「斜め後ろに位置していた女の子達の黄色い声援と、ヲタクさんの野太い声援のコラボレーションで微妙なテンションにもなったりしたけど」
ジュンイチ「…………ワザとだろ。ワザと話逸らしてるだろ?!」
takku「ゴメンゴメン。ま、それは置いといて……もちろんよかったですよ〜─────特に『Heart-shaped chart』では上松美香さんのアルパ(←ハープのような弦楽器です)とのコラボが素敵すぎてもう感動の嵐でした♪」
takku「さてと。若干ライブの余韻が残っていますが小説の内容・解説をば」
ギンガ「長い……わね。今回は特に」
takku「削れないネタが多かったからねぇこの話は。とりあえずアネラスさんの可愛い物好きネタで弄られるなのはちゃんと、ヴァルター&デュナム登場、”精霊獣融合”ネタは外せなかったので」
ジュンイチ「見ている方からすれば非常にごちゃごちゃしてて何がなにやら判らなくもないがな」
ギンガ「ところでシェラさん、アネラスさんの可愛い物好きってジュンイチ君と通じるところがあるんですけどそこら辺どうなんです?」
シェラザード「あのコの場合は可愛い物なら何でもオッケーなオールラウンダーだから……。”小動物系”にのみ反応するジュンイチ君よりも見境がないわね」
ジュンイチ「一緒にされる事が何かものすごくヤなんスけど?」
takku「だったら何とかしてください。”人の振り見て我が振り直せ”です」
ジュンイチ「お前が言うな、お前が」
ギンガ「まあまあ………それはそうと、クローゼがメンバーから外れた代わりに、美由希が説明役で活躍し始めましたね」
takku「これについてもある意味収まるべきところに収まったかなと。作中のジュンイチ君じゃないけど、手当たり次第に本を読みあさる美由希ちゃんならこれくらい博識でも違和感ないかなと」
ジュンイチ「そういえばこの小説で登場してる、オリジナルキャラのヴァーチやデュナムってみんな力天使の呼び名から来てるのな」
ギンガ「えっ……これって天使の名前なんですか?」
takku「厳密に言うと力天使っていう階級の天使の総称で『ヴァーチューズ』って言うんだけど、他にも『マラキム』『デュナミス』『タルシシム』っていう別名もある。
ヴァーチやデュナムのネーミングはそこを元ネタにしてるの。理由についてはネタバレな為、伏せさせてもらうけど」
ジュンイチ「お前の事だからどーせ深く考えずにテキトーに選んだんだろ、最初は?」
takku「………………………………」
シェラザード「……図星なのね」
takku「う……でも、今はホントに理由がちゃんとあるんですよ、ホントだよ?!」
ジュンイチ「はいはい、そういう事にしておこうかね。
……っと、忘れるところだったがデュナムの使ってる『ムラクモ』って……」
takku「もしかしなくても使う魔法はベルカ式♪ なのブレ本編ではまだベルカ式とかはまだ未登場だけど。
ちなみに、名前の元ネタはファイナルファンタジーXに登場する刀系最強武器『あめのむらくも』です」
ギンガ「モリビトさん、今頃構想していたネタが幾度となく狂わされててんやわんやでしょうね」
takku「…………もうこの小説が『なのブレ』のOVA的な立場として決め込んで執筆してたり(滝汗)」
モリビトさん、重ね重ねゴメンナサイorz
管理人感想
takkuさんからいただきました!
すっかり“ヒツジン騒動”がトラウマになっている上にロリコン説が確定。挙句の果てにティータちゃんを巡るライバルまで登場したジュンイチ。ご愁傷様です(笑)。
けどちっとも同情できないのはジュンイチだからか。ま、いいけど。(ヲイ
そして解説役の定着してきた美由希ちゃん、お疲れ様。
ヤムチャや天心飯のような立ち位置にならないようお気をつけください(爆笑)。
そして、個人的に一番気になるのは冒頭。ジュンイチの過去を気にするエステル。
これがきっかけになってジュンイチとのフラグが立っ……たりはしないか、さすがに(苦笑)。
>アームドデバイス“ムラクモ”
“あめのむらくも”……あちこちのゲームで和刀系最強として名高いアレですな。
しかし……若者の日本神話離れが進む昨今、こいつと“草薙剣”が実は同一だと知っている人がどれくらいいるんでしょうかね?
>ギンガ「モリビトさん、今頃構想していたネタが幾度となく狂わされててんやわんやでしょうね」
構想も何も、今の今まで使い忘れていることを忘れていたのはここだけの話(爆笑)。