8月5日 A.M.10:37 場所…海鳴市 高町家リビング
 
「そういえばさ──────」
「ん、どないしたんブイ君?」
「ブイ君って……あの、レンちゃん。いい加減その呼び方どうにかならない?」
「ええやん、全部呼んでたら長いんやもん」
 
 
 高町家に来てからと言うものの、妙なあだ名が固定されていたブイリュウ。
 ────愛着を持って呼ばれるというのは非常に喜ばしい事だが、このままだとブイリュウは”海に浮かぶペカペカ光るアレ”になってしまう。
 
 初めてこの呼称が登場した時から、切実に懇願しているのだが当の本人は一向に直す気配を見せない。
 ────ジュンイチの前例(※なのブレ第8話参照)を考慮すると、ワザと止めない気配マンマンである。……悪意がないだけに余計にタチが悪いのは言うまでもないのだが。
 と……、レンのせいで話が脱線したが、改めて話を投げかけられたジーナがブイリュウに聞き直す。
 
 
「ところでブイリュウ、あなた最初何か言いかけたようだけど何の事なんですか?」
「いやさ────ジュンイチやジーナもそうなんだけど……………装重甲(メタル・ブレスト)の装着や維持は常に精霊力を消費するわけで……」
「そうですね────」
「んで、それを維持する為にはボク達プラネルの存在が必要不可欠なわけで………」
「それが、どないしたん────」
 
 
 言いかけ、レンは気付く。
 自分の隣に座るジーナの顔からどんどん血の気が引いて言ってる事に。
 一方のブイリュウも、何だか”やってしまった”オーラを漂わせながら、二人に告げる。
 
 
「…………………ボク、置いてけぼり喰らってるんだけど」
「「…………………………………………」」
 
 
 一同、しばし沈黙………そして
 
 
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ────────っ!!!」
 
 
 ジーナ絶叫。しかも周囲の状況を全く考慮に入れてない、間違いなく”心の底から驚愕してます”みたいな叫び。
 そんなわけでジーナの叫びは、隣で座っていたレンの鼓膜をダイレクトインパクト。
 しばらくの間、脳を揺さぶられるような感覚と目眩に襲われながらも、レンはジーナに異議を唱える。
 
 
「うぅ……ジーナさん、もーちょい声のボリューム落としてください。ウチの鼓膜がやぶれる────」
「それどころじゃないですよ! 今の今までジュンイチさん何で気付いてないんですか
って何で平然と高町家に居座ってるんですかあなたわ────────!!!?
「わわっ! ジーナ、ちょっと落ち着いて!!」
 
 
 ジーナしゃん錯乱中。
 一旦その動揺の矛先がジュンイチに向いたかと思ったら今度はすぐ側にいたブイリュウに向けられる。
 ブイリュウの首元をむんずと掴んだかと思ったら、まるでマラカスでも振り鳴らすようにガクガクと揺らしまくり……気がつけば元々青かったブイリュウの身体が蒼白へと変貌していた。
 
 
「わわっ!? ちょ、と、とりあえず落ち着いて下さいジーナさん!
もしブイ君の言うとおり、センセがすぐにガス欠になるよーな状況ならとっくの昔に連絡してきてます!」
「……まあ、そうかもしれませんけど………それでも、私達に何の報せがないのはおかしいですよ」
「それは……ホラ、アレですよ。”報せがないのは良い報せ〜”………みたいな?」
 
 
 レンも自分で言っててワケが分からなくなってきた。
 だが、ジーナの言うとおり、もし本当に装重甲(メタル・ブレスト)やその他のエネルギー供給の観点でブイリュウの存在が必要ならとうの昔に連絡を寄越しているはずである。
 ただでさえ、《結社》や《執行者》という障害物が我が物顔で闊歩するリベールにおいては戦闘力を持続させる為のエネルギー供給源確保は最重要科目なのだから。
 にも関わらず、出向要請はおろか、連絡の一つも寄越してこないのは明らかにおかしい……などと2人(一匹はほぼリタイア状態)が考察していると
 
 
「そう深く考えなくても、理由は簡単なんじゃない?」
「え?」
「桃子さん?!」
 
 
 意外も意外……この手の話は専門外のはずの桃子が3人の間に割って入ってきた。
 さすがにこの展開にはジーナは勿論レンも驚いたが、桃子は構うことなく話を続ける。
 
 
「ジュンイチ君って、がさつそうに見えて結構しっかりしてるから。……自分は勿論、なのは達を危険にさらすような要素をいつまでも放っておくワケないもの。
何かしらの対策を講じるか────代わりの手段を見つけてるかしてるわよ」
「だといいんですけど……」
「つか桃子ちゃん、えらいセンセの事高く評価してんな……どゆこと?」
 
 
 確かに…レンの言うとおり桃子は魔法は勿論のこと、事戦闘に関しては完全の素人である。
 特にスポーツとも違う、”異端の力”が入り交じった戦いは、常人の考察を遙かに上回る状況(ヴィジョン)を生み出す。
 にも関わらず、ジュンイチに対する桃子の絶対の自信……それは
 
 
「ジュンイチ君、裏テクニックとか裏ワザとかの宝物庫だから。多分あっち(リベール)でもどうにかなってるんじゃない?」
「「そりゃそうですね(やね)」」
 
 
 ジーナもレンも納得の、桃子の一言────その脇で忘れ去られるジュンイチのプラネルは……
 
 
「………………………………………………」←放置プレイ
 
 
 見捨てられていた。
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 度重なる連戦は、いかなる猛者をもその力を衰退させる。
 
 それでも、守るべきものの為に────身を乗り出し、前へと進み続ける。
 
 そして立ちはだかるは、古の魂を手に迫り来る、鬼神のような怒濤の一凪。
 
 傷つき、倒れ、為す術無く崩れる私の前に……あの子が舞い戻る。
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第14話「夜を切り裂く閃光の戦斧」
 
 
「精霊獣融合(インストール)!」
 
 
〈Install of OGRE!〉
 
 
 
 瞬間――炎が荒れ狂った。
 ジュンイチの周囲で荒れ狂う炎が、突如として燃え上がったのだ。
 
 巻き起こる炎は一瞬にしてジュンイチの姿を覆い隠す――しかし、次の瞬間、強烈な衝撃と共にその炎の渦が縦一文字に両断された。
 そして、姿を現したジュンイチは――その姿を変えていた。
 いや、正確には、彼の“装重甲(メタル・ブレスト)”が変貌していた。
 
 半全身鎧(セミ・アーマー)タイプはそのままに、全体的により巨大に、より禍々しく変貌した鎧。
 白地に青色を基調としていたカラーリングは青色のアクセントが真紅に染まり、彼の灼熱の炎を如実に連想させる。
 そして何より――自分の身の丈ほどの大きさにまで巨大化、グリップを中心に前後に伸びる、湾刀と直刀のツインブレードとなった爆天剣。
 真上から振り下ろした一撃によって吹き飛ばされながらもなお周囲で燃え盛る炎の中、ジュンイチは静かに閉じていた目を開き、ヴァルター…そしてデュナムと対峙する。
 
 
「……とりあえず、これが最初で最後になるだろうけど教えとくよ。
 オレの相棒の、新たな姿の名を」
 
 
 言って、ジュンイチは二人に対し高らかに告げた。
 
真紅の鬼龍“ウィング・オブ・ゴッド”オーグリッシュ・フォーム!
 そして――」
 
 
 
 
 
「皇牙(オーガ)爆天剣・“鬼刃(きば)”!」
 
 
 
 
 告げ終わると同時に、精霊獣融合(インストール)で乱れた呼吸を整え……改めてヴァルターとデュラムを見据える。
 だが、こうしている間にもジュンイチのブレイカーブレスは刻一刻と、その残存時間のカウントが進んでいく─────
 ……本来ならば、この形態(オーグリッシュ・フォーム)は勿論、装重甲(メタル・ブレスト)の着装・維持にはプラネルやブレイカービーストといった精霊力供給源の存在が必要不可欠である。
 だが、対人戦闘に置いては相手がいかなる手練れであろうともブレイカーロボを用いるのは不適だし、元々プラネルは戦闘能力を持たないのだ。
 ただし、プラネルを介して精霊獣を召還するというのなら話は別だが……”召還する前”は非力なのには変わりはない。
 
 当初、装重甲(メタル・ブレスト)のエネルギー供給安定のために、ブイリュウだけでも招集しておこうかと思ったが、
 ルーアンでブルブランと行動を共にしていたあの銀髪の男の存在を確認した途端、ジュンイチの思考からその思案が拭い去られた。
 
 ブルブランにおいてはまだ全開を出していないため正確な値は分からないが─────それでも、それなりに手を尽くせば勝てない相手ではない。
 だが、あの銀髪の男だけは違う──────全力を出していないにも関わらず、ひしひしと伝わってくる強烈な殺気────何もかもが自分とは別次元の、そんな破格の強さを秘めている……そんな気がした。
 そして自分達は、そんな危険な集団と一戦を交えようとしている。そんな中に、精霊獣として顕現させる前の”非力な”ブイリュウをわざわざ呼び込む趣向は持ち合わせてはいない。
 
 
「ほぉ………そいつがテメェの本気スタイルか」
「見たところ強力な力を圧縮・収束させ─────尚かつ体の内側に内包しているわけでござるから、活動時間はきわめて短め……といったところでござろうか」
 
 
 凄まじい熱気を放つジュンイチのオーグリッシュ・フォームを目の当たりにしても、実に冷ややかな態度を見せるヴァルターとデュラム。
 それに付け加えてデュラムはあっさりと現・フォームのメリットとデメリットまで言い当ててしまう……どうやら戦うだけのサムライもどきというわけではないらしい。
 
 
「まぁな。……ブルブラン戦で思い知らされたから遠慮はするつもりはねぇ─────
悪いが速攻で舞台裏までご退場してもらうぞ!!
「あ、ちょ、ジュンイチ! ま、まさかこのミミズ魔獣、あたし達だけでやっつけろって言うんじゃ─────」
「よろしく頼んだ」
「頼むなぁっ!!」
 
 
 あっさりと振ってくるジュンイチに、心の底からの叫びを投げつけるエステルだが、当の本人は迫りくるアビスワームの猛攻を避わし……
 いや、ただ避わすだけではない。
 2・3匹一カ所に引きつけたかと思ったら、巨炎を纏った”鬼刃”を振りかざし─── 一閃。
 瞬間、一気にアビスワームの群れが巨大な炎に包まれ…見る見るうちに炭化していく。
 
 当の本人からすれば、”目的(ヴァルターとデュラム)の元へと向かうついで”に片づけたと云わんばかりの一瞬の出来事。
 だが、口ではああいいつつも、ちゃんと負担の軽減は頭の念頭に入れてくれていたようだ。
 ……素直に言動として表れていれば後々苦労しなくてすむのに。
 
 
《主よ、このままでは奴らに一撃入れる前にこちらの力が尽きてしまうぞ》
「わーってるっての!」
「独り言なんてしてていいのかよ?」
「─────っ!!」
 
 
 装重甲(メタル・ブレスト)に融合させた精霊獣《フレイム・オブ・オーガ》の忠告を適当に受けたジュンイチだが、すでに間合いを詰めていたヴァルターの姿を確認するなり
 早々に説教を切り止めた。
 
 
「ソニックシューッ!!!」
「当たるかよっ!!」
 
 
 投げかけられた一言に反応……いや、かけられる前に体が本能的に察知し、ジュンイチは”鬼刃”をあらぬ方向へと振り下ろし─────その慣性を利用してヴァルターの一撃を紙一重で避わす!
 だが、それだけで終わるはずもなかった。素早く着地すると同時に、ジュンイチとヴァルターは同時に飛び出し─────
 
 
 ―― 全ての力を生み出すものよ
    命燃やせし紅き炎よ
    今こそ我らの盟約の元
    我が敵を断つ刃となれ!
 
 ジュンイチの呪文に従い、彼のかまえた“鬼刃(きば)”の前方側、湾刀の刃が巻き起こった炎の渦によって覆われた。
 
 
 
「アルティメット・ブロォォォッ!!」
「竜皇(りゅうおう)、牙斬(がざん)っっっ!!!」
 
 
 二つの強大な力が狭い洞窟内で衝突し、余剰エネルギーが紫電となって周囲を駆けめぐる!
 この二人の激突に驚いたのは、なのはやエステル達はもちろんだが……何より、現在進行形で全力をたたき込んでいるジュンイチすら驚愕していた。
 
 
「な……?! 竜皇牙斬を”衝撃波だけ”で止めただと!?」
「なかなかいい一撃を持ってんじゃねぇか。それでこそ俺も味見のしがいがあるってもんだぜ」
「くっ─────!!」
 
 
 軽く舌打ちをしながらも、ジュンイチは縦軌道の”鬼刃”を折り返し、横軌道に修正して一気に振りかざす!!
 同時に、ジュンイチは拮抗状態から脱し、改めてヴァルターと間合いをとり、思考を巡らせる─────。
 
 
(考えろ……何故オレの全力の竜皇牙斬が防がれた?!
ヴァルターは魔導士でもブレイカーでもない……力場や防御魔法の類は発動してない……あのデュナムってヤツが横槍を入れた可能性もない……)
 
 
 思考の傍ら、何気なしに目をやった地面が視界にはいると、ジュンイチはある事実に気づく。
 今自分が”どういう場所にいる”ということを─────
 
 
「地震で活性化した七耀脈からあふれ出るエネルギーが上昇気流を起こして、
竜皇牙斬の威力を軽減させたのか!」
「正解だ。───さっきのテメェの攻撃が下向きだったのに対し、俺は上方向……まぁ当然といえば当然の結果だな」
「だったら─────!!」
 
 
 上昇気流の影響を受けにくくするために、地上で真っ直ぐ撃てばいい!
 そう結論づけた矢先─────
 
 
 
 前方に立ちつくしていたヴァルターの姿はそこにはなく─────
 
 
 
 自分の背後へと回り込んでいた。
 
 
「早っ─────!」
「功を焦りすぎたな。
”力”はあったが……それがテメェの敗因だ!!」
 
 
 
「連撃・インフィニティ・コンボォッ!!」
 
 
 咆哮と同時、ジュンイチの身体は洞窟の奥へと叩き付けられた。
 
 
 
 
「あぁっ!!」
「な、なんつーデタラメな強さ……あのジュンイチが押し負けてる?!」
 
 
 残ったアビスワームとの戦いに苦戦を強いられながらも、その中で目をやる度に視界に映るのは、ヴァルターの拳によって”全力モード”のジュンイチが徐々に圧倒されている姿。
 さすがに二人とも驚きを隠しきれない様子だが……一人だけ、他の面々とは違った眼差しで、二人の戦いを見つめている人物がいた。
 それは……
 
 
「ううん……押し負けてるんじゃないよ。
ジュンイチさんは、”限られてる時間””地の利”で不利な状況に持ち込まれてるだけ!」
「ティータ?」
「なのはちゃん!」
「ふぇっ!?」
 
 
 不意に訪ねられたもんだから、思わず奇声を上げてしまうなのはだったが、ティータは構わず続けた。
 
 
「ジュンイチさんの得意分野って種類を問わず、形の不安定なエネルギーを完全に制御することだよね?」
「う……うん、確かそういう風に聞いてたよ」
「だったら─────きゃっ!!」
 
 
 言いかけたところに、アビスワームが突如、無防備状態だったティータに襲いかかってきた。
 現在自分達が置かれている状況を思い出し、慌ててなのは達も思考を切り替える!
 
 
 
 ────御神流、奥義之陸・薙旋!
 
 
 なのはがディバインシューターで牽制している間、美由希とエステルが主軸となって連続攻撃を浴びせ、動きを鈍らせようとするも、巨大になった図体は伊達ではないようだ。
 巨大化と同時に増加した生命力で、なかなか黙り込んではくれない。
 
 
(せめて、目眩ましでもできればなぁ………)
 
 
 などと、目もないのにどうやって目眩ましをするのかと自分で自分にツッコミを入れる美由希だったが……
 
 
(ちょっと待って─────いくら巨大化してるっていっても”元々はミミズ”だったワケで……
確かジュンイチくんや青木さんの話だと、瘴魔獣にも同じタイプのヤツがいて、そのときの対処法も………)
 
 
 正直同じ手がこの魔獣達に通じるかどうかは判らないが……やってみる価値はありそうだ。
 意を決し、改めて小太刀を構え直すと美由希はティータに向かって告げた。
 
 
「ティータちゃん、導力砲って普通の弾薬も発射できるの?」
「えっ……例えば、どんな?」
「そうね────例えば『閃光弾』……『スタングレネード』みたいな音の出るヤツだとなお良し」
「音の出るヤツ……そっか!」
 
 
 ここまでくれば、さすがにティータでも判った。
 幸いにもティータの導力砲は彼女がサポート仕様にと市販のものを徹底的にカスタマイズし、オリジナルの弾薬まで作るというこだわりの結晶。
 すぐさま、懐のサイドバッグからスタングレネードを取り出すと、導力砲の砲身に装填─────狙いは、アビスワームの群れ中央。
 反動はそれほど大きくはないだろうが、はずせば間違いなく敵の攻撃は自分に向く。
 
 失敗は、許されない。
 
 
 意を決し、ティータは導力砲の引き金を引いた。
 
 
 ――パァンッ!
 
 
 瞬間、七耀脈の柔らかな光を打ち消し、空洞内を満たすのは強烈な閃光と耳に響く破裂音。
 スタングレネードが炸裂する瞬間、あらかじめ知らせておいたためエステルやシェラザードは目を瞑り、耳を両手でふさいだため何ともないが……
 元々ミミズであったアビスワームにとっては迷惑な事この上ない出来事となった。
 
 
「な………何がどうなっちゃってるの?」
「音だよ」
「音ぉ?」
「ミミズは地中で生活する生き物だからね。視力が退化した代わりに聴力がものすごく発達してる。
────多分七耀脈の影響で巨大化した後も、その影響が残っちゃってたんだろうね」
 
 
 何が起きたのか全くよく判らないエステルに、判りやすく説明しながら、悶え苦しむアビスワーム達に一匹ずつ合掌をしながらトドメを刺していく。
 そんな彼女の手際の良さに、シェラザードも思わず関心せずにはいられなかった。
 
 
「それにしても美由希ちゃん、よくこんな方法を思いついたわね」
「……前例がありましたから」
「前例?」
「ジュンイチくん────正確には彼の仲間ですけど、対峙してるんですよ。
この子達と同じ、ミミズを媒介にした魔物と。……その話を思い出して、ひょっとしたらって思って」
「なるほど。
……剣の腕も立って、しかも博識。────ますます姫様とタメをはれるわね」
 
 
 シェラザードの賛美に思わず表情がほころぶが、それどころではない。
 改めて気を引き締めた美由希は、ティータに改めて告げる。
 
 
「ティータちゃん。ジュンイチくんの挽回方法、思いついたんでしょ?
今なら伝えられるよ!」
「……は、はいっ!!
────ジュンイチさんっ!!
 
 
 普段は聞く事のない、腹の底からの大声……
 さすがにジュンイチも、これには驚いたが、逆にティータに感謝していた。
 ……恥ずかしい話、もう少しでヴァルターの連撃で意識を失うところだったのだから。
 
 
「ジュンイチさん!
七耀脈は活性化状態にありますけど、周囲に拡散する導力エネルギーは一定の法則で対流しています!
後は、ジュンイチさんの得意分野ですよ!!」
「────────!!」
 
 
 告げられると同時、ジュンイチの身体に力が舞い戻ってきた。
 ────あれだけヴァルターに好き放題打ち込まれ、感覚がなくなりかけてきていた四肢に再び闘志がみなぎり、
 ”鬼刃”を覆う炎にも勢いが出始めてきた。
 
 
「気合い、入れ直したみたいだな」
「まぁな」
 
 
 ぶっつけ本番の出たとこ勝負─────
 うまくいくかどうかは判らないが、このままジリ貧のまま追い込まれていくよりはマシだ。
 
 精神を集中させ、自分の周りを取り囲む”力場”を変化させる。
 それからしばらくして─────それは起こった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 周囲を駆けめぐる、七耀の光が、ジュンイチの装重甲(メタル・ブレスト)へと吸収されていくのが。
 
 
 
「「「ええっ?!」」」
 
 
 
 ジュンイチのご都合主義にはいい加減慣らされていたエステル達だったが、さすがにこの光景には驚いた。
 しかし、ジュンイチ自身は、なのはが戦術オーブメントの導力をかき集めてスターライトブレイカーを放ったときから仮説を立てるも……あまりにも常識外れの仮説な為、お蔵入りさせていたのだ。
 
 だが、デバイスのエネルギー源である『魔力』とオーブメントのそれに当たる『導力』……
 そして自分達ブレイカーの『精霊力』……。
 これら3つの存在の共通点は間違いなく存在し……それも自分達の及ばない大いなる意志の元、何者かが3つの世界の人間を導き、何かを成そうとしている。
 
 だったらあえてその意図に乗ってやるまで─────せっかく奴(やっこ)さんは自分達に力を貸してくれているのだ。それを利用しない手はない。
 そして利用しまくった挙げ句……すっかりブレイカーブレスのチャージは完了。
 それでもまだ周囲には大量の導力が満ちあふれている。─────形勢は、完全にジュンイチ有利へと傾いた。
 
 
「なのはも同じ様な事をやってのけたんだからな───
オレが出来ないわけないわな。……最も、上手くいくかどうかは五分五分だったけど」
「ぶっつけ本番でそれだけ出来れば十分でござるよ」
 
 
 言いつつ、デュナムは《ムラクモ》を鞘から抜刀し、その刀身を念入りに点検する。
 そして意を決し、構えると同時に彼の足下に、今まで見た事のない形状────頂点に円を持つ正三角形の魔法陣が展開され、
 紫を基調とした光の中で甲冑の様な防護服が装着される。
 全ての行程を終えると、デュナムは静かに……落ち着いた様子でヴァルターに物申した。
 
 
「……ヴァルター殿、お楽しみの所非常に申し訳ないが、次は拙者に代わってはいただけぬだろうか?」
「あぁん? いきなり何を言い出しやがんだテメェは。
このコゾーは俺の獲物だ────手を出すんじゃねぇ!」
「……拙者は”あの御方”の命を受け、『ジュエルシードAMP』の実験を行っている身。
そしてその実験は、そなたと同等の実力を持つ者達でなければ成し得る事は出来ぬもの─────
それは”あの御方”と《白面》殿との盟約でもありますぞ?」
「む─────」
 
 
 しまったといった顔つきで《白面》と呼ばれた者との契約内容を思い出したヴァルターは、渋々ながらも一歩退く形でデュナムに道を譲る。
 その表情……まるでとっておきのごちそうを目の前にしながらお預けを食らった猛獣のようである。
 
 
「………………チッ。
しゃあねぇ───迂闊に文句垂れて《計画》から外されちゃ堪らねぇからな。
……だがな、俺の分もちゃんと残しておけよ!」
「御意に」
「なのはちゃん……彼のデバイス”ムラクモ”について何か判る?」
「えっと………ユーノ君がいたら判ったかもしれないんですけど、あのタイプはわたしも初めてみます」
「つまり全く未知のデバイスってワケね。────とーぜんジュンイチくんや美由希ちゃんも知らないと」
 
 
 なのははユーノから”魔法を使う”という事は集中的に教わった為に、わずか半年で卓越した技量を身につける事が出来たが……
 ”魔法大系の歴史”────つまり、自分が使っている魔法が生み出された経緯は全くと言っていいほどの無知だ。
 当然、そんななのはが相手側のデバイスの知識など持ち合わせているわけもないので、この展開はある意味当然といえよう。
 
 
「さてと………ヴァルター殿には申し訳ない所だが、そなたらの力───試させてもらうぞ」
「来るぞ! こいつの覇気……ただ者じゃねぇ!!」
「うん! 判ってる───すごい殺気がビンビン伝わってくるわ……こいつも、かなりできる!」
 
 ジュンイチと美由希が促すと、全員臨戦態勢を整え、初出の一撃に備える。
 つまりは完全に防戦の体制に移っているわけで……しばしの間膠着状態に陥る。
 
「ふむ。なかなかに慎重でござるか……ならば、こっちにも考えがある。
ムラクモ、1番のカートリッジをロードするでござる!!
〈Explotion!〉
 
ジャコンッ!!
 
 
 
 叫ぶと、ムラクモの柄が伸張し、まるで散弾銃のポンプアクションのように柄内部に納められた弾丸……いや、実包(ショットシェル)というべきか。
 独特の淡い紫色の煙を排出すると同時に、空となった薬莢も排出。
 するとムラクモの刀身が青白く光り出し、大量のエネルギーが紫電となる。
 
 
「さあ! 拙者はここから一歩も動かない……どこからでもかかってくるでござる!!」
「な、何こいつ?!」
「オレ達を、誘ってやがる……のか?」
 
 ずいぶんと余裕のある真似をしてくれる……。
 そう心中でうめくジュンイチだったが、実際ただ”剣を携えているだけ”なのにスキが全くない───。
 これでは迂闊に飛び込んでも返り討ちにあうのが関の山なのを判っているからこそ、誰も前に一歩を踏み出せないでいた。
 
「……来ないのでござるか?」
「罠と判っててわざわざ飛び込む阿呆がどこにいるっての」
「でも動かなきゃ事態は好転しないわよ? …シェラ姉、あたしが前に出るから、フォローお願いっ!!」
「ああっ、ちょ、ちょっとエステルっ!!」
 
 元々こういうお堅い雰囲気の戦闘は彼女の気質に合わないらしい。
 
 膠着状態に嫌気がさしたエステルは、棒術具を構え直すと
 開いていた間合いを一気に詰めるべく地を駆ける!!
 
「成る程………ブライト殿でござるか。
可能性に満ちた若き戦士────相手にとって不足無し!!」
「動かないで受け止められるほど、あたしの一撃は軽くないわよっ!
食らえぇっ…………金剛撃っっ!!!
「一刀入魂……鋼をも砕く一撃、受けてみよっ!! ──ムラクモっ!!!」
〈Stahlschlag───!〉
 
 
 
 ジャンプし、デュナムの頭上めがけて技を仕掛けるエステルに対し、デュナム自身は先に行ったとおり、その場を全く動かない。
 ……その代わりに左足を後ろへと下げて、地にしっかりと足をつけ
 
 
「チェェェェストォォォッ!!」
「な、なによコレ………きゃあぁぁぁぁっ!!
 
 
 振り下ろした衝撃波と凄まじいエネルギーの鎌鼬に飲み込まれたエステルは、とっさに防御するも全身を滅多斬りにされた様な有様のまま洞窟奥の壁へと叩き付けられた。
 叩き付けられた衝撃で思わず喉の奥から血の味が滲む……肺には直撃を受けてはいないだろうが、毛細血管から多少の出血はあるだろう。
 一瞬呼吸困難に陥った為か、意識がもうろうとし始め────
 
 ずるずると重力に引かれ、膝をつき、エステルはそのまま倒れ込んでしまった。
 
 
「エ…………エステルさんっ!!!
「な、何だコイツの馬鹿力はっ?!」
 
 
 エステルの元へと駆け寄る暇もなく、ジュンイチはすぐさまデュナムの方へと視線を戻す事になった。
 一方、当のデュナムは再び大きく振りかぶると、今度はジュンイチ……いや、彼だけではない。
 ”彼のすぐ側にいた”美由希とティータをも含めて────
 
 
「土竜爆砕……地を奔れ──散爆撃!
〈Schuß bombenangriff───!〉
 
 
 振り下ろしたムラクモが地面と激突。凄まじい衝撃と共に、高速で飛散する岩石や魔力弾が波となって彼らに襲いかかる!
 
 
「くっ……間に合うの?!」
 
 
 だが、ただでやられる訳にはいかない!
 美由希はとっさに脳内で”スイッチ”を切り替え、『神速』を発動。瞬間、視界は完全なモノクロとなり、周囲の空気が水飴のように重くのしかかる。
 だがこの現象はいつも経験している事である────周囲の動きがスローモーションの中、美由希は抜刀するなり周囲を飛散する岩や魔力弾を次々と打ち払う!
 
 ……刃こぼれをおこさないように、刃を返し、棟で”斬る”のではなく”軌道を変えて”いるのも彼女ならではの配慮といったところだろう。
 そして美由希が疲弊し、『神速』を解除し終わると同時に、襲いかかってきていた凶器達は見事にジュンイチ達を避け、周囲の岩盤へと着弾した!
 
 
「うわぁ……危なかったぁ」
「ほぉ。不規則に襲いかかる岩石の嵐を全て打ち払うか────なかなか面白い業(わざ)をもっているようだな」
「悪いけど、これ以上好きにはやらせないよ!!」
「笑止! 拙者を止めるなら、拙者以上の太刀を振るう事でござるよ!!」
 
 
 言いつつデュナムは、ムラクモを懐の鞘に収めるとそのまま構えの体制をとる────
 一撃必殺……刹那の内に勝負が決まる『居合い』の構えだった。
 
 対する美由希も小太刀を鞘に収め…常日頃から自分が行っている刀の基本な差し方『十字差し』を形作って体制を整える。
 
 呼吸を整え、互いに目を見開くと、それが戦闘開始の合図となった。
 
 
「剣魂一擲───重波斬!!」
〈Schwer eine welle schnitt────!!〉
「御神流、裏奥義──────射抜!!」
 
 
 同時に繰り出される、二人の必殺の一撃。
 デュナムの剣は振り下ろされると同時にあらゆる物を威圧し、そして征服する”力”の一振り。
 対して美由希の剣は瞬間的な加速によって相手の急所のみを素早く、そして確実に仕留める”速”の一閃!
 互いの一撃は寸分の狂いもなく互いの切っ先…刃…鎬地と伝って……それぞれの頬を掠めて赤い一線を引く……。
 
 だが、この時美由希は大きなミスを犯したのだ。 
 
 御神流の奥義の中でも、最長の射程距離を誇る射抜だが、反面制止するためにもかなりの距離を必要とする。
 この為、神速無しでの発動時には大きな隙が生じる事となり────
 これを好機と見なしたデュナムは再びムラクモを構えて咆哮する!
 
「ムラクモ────カートリッジ2番、ロード!!」
〈Explotion!〉
 
ジャコンッ!!
 
 
 再び爆発的な力を得たデュナムの剣は、体勢を立て直そうとしかけていた美由希目がけて────
 
「チェストォォォッ!!」
 
 繰り出された!!
 
 
 
 
「────お姉ちゃん!!」
〈Protection───!!〉
 
 
 姉の危機を察知したなのはが、フラッシュムーブを併用してすかさず二人の間に割って入り、防御魔法『プロテクション』を発動。
 ややしばらくして、デュナムの放った斬撃が桜色の防壁へと到達! 凄まじいスパークをまき散らしながら、プロテクションは彼の一撃に耐えている。
 
 
「くっ、なのは! 今助けにいくぞ!!」
「させぬわっ!
ムラクモ────カートリッジフルロード! フォルムツヴァイ!!
〈Explotion! Eingroßes Schwertform────!!〉
 
 
 ジュンイチがすぐさまなのはの元に向かおうとすると、それに対抗すべくデュナムも新たな力を得るために再び咆哮する。
 今まで一発ずつだったカートリッジのロードが三連続…それも一瞬のうちに立て続けに行われ、
 驚異的な力を得たムラクモはその形状を一新させ────肉切り包丁を巨大化させたような分厚い姿へと変わり、余剰魔力はその刀身を核として長い光の柱と化した!
 
 
「勝負は、一瞬で決める────轟天、爆砕ィッ!!
〈Gigantschlag────!!〉
 
 
 デュナムが刃を振り下ろしたのと、ジュンイチがなのはの元へと到着し、”力場”を展開したのはほぼ同時。
 なのはの防御力とジュンイチの対エネルギー防御力を考えれば、通る攻撃ではない。
 
 
 ガシィンッ!!
 
 
 案の定、デュナムの一撃は二人の共同結界によって防がれ、互いの魔法の接触点では激しく火花が飛び散る!
 無論デュナム自身も本気で放った一撃…険しい表情を浮かべながら鞘を掴み、振り下ろす力を増していく。
 だが対するなのはとジュンイチも負けてはいない。二人の魔法と”力場”は互いに補い合い、デュナムの攻撃が持つ慣性や魔力を相殺し、
 一進一退の攻防を繰り広げていた。そんな時────
 
 
「……っ! 断ち切るでござる!!
〈Jawohl────!!〉
 
 
 咆哮し、さらに力を込めるデュナム。
 それに呼応するかのように、ムラクモも最後の力を振り絞り、余っていた魔力を全て峰へと回し────ブースターの様に推進力を付加。
 一気に負荷が増大し、悲鳴を上げるなのはのプロテクションとジュンイチの”力場”。
 勿論、二人も負けじと”力”を注ぎ込むが────間に合わない!!
 
 
パリィンッ!!
 
 
 乾いた音と共にまずはなのはのプロテクションが崩壊。続いて────
 
 
ズバァンッ!!
 
 
 
 
 ジュンイチの”力場”をも切り裂き、防壁突破の為に魔力を消費し、やや短くなった刀身は…………
 
 
 
 
 
 
 レイジングハートの外部フレームに触れ…………………
 
 
 
ガキィンッ!!!!
 
 
 
 そのまま、勢いに任せて、なのはの両手からレイジングハートを薙ぎ……
 同時に衝撃波でなのはも共に遙か後方へと吹き飛ばす!!
 
 
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」
「な、なのはっ!!!」
 
 
 とっさの出来事で一瞬遅れたものの、すぐに吹き飛ばされたなのはの元へと向かおうとするジュンイチ。
 守る事ができなかった……一緒に戦ってきた仲間なのに………後悔の念が彼の心を支配するもすぐさまそんな自分を叱咤して彼女の元へと向かう。
 
 だが、そんな彼の心情を知ってかデュナムはすぐさまムラクモを構え直し、ジュンイチの前に立ちはだかって来────ることはなかった。
 なぜなら、デュナムもまた………
 
 
 呼吸を荒げて大地に膝をついていたからである。
 
 
「うむぅ………まさか拙者の渾身の一撃をもってしても、仕留められなんだとは」
「仕留められたらそれはそれで困るんだがな、オイ」
「それもそうでござるな。
しかし────ヴァルター殿には申し訳がないがこれで勝負ありでござる」
 
 そう告げると、陰で引っ込んでいたヴァルターが血相を変えてデュナムの元へと駆け寄り、思いつく限りの罵声でもって彼の胸ぐらを掴みながら叫ぶ。
 
「オイ! 約束が違うじゃねぇかっ!!
俺を差し置いて味見するだけしておいてさっさとケリ付けるなんざいい度胸してるじゃねぇか」
「申し分けないでござる。
……拙者も武士の端くれ。勝手な事をしてしまい申し訳なく思っております
────ですが、仮に拙者との一戦を途中で切り上げたとしても彼等は疲弊した身である事は明白でござる。
そのような状態でヴァルター殿と戦われても満足いく結果は得られぬと思われますが」
「む……」
 
 
 デュナムの言う事にも一理ある。
 ヴァルター自身、手合わせした事がないので正確なところは判らないが、あの特殊なデバイスのお影で瞬間的な爆発力は自分に勝るとも劣らないだろう。
 加えて、デュナムは全ての一撃において”防御を捨てて”挑んでくる質だ。逆に言うと全神経を攻撃に集中させるおかげでデバイスの爆発力と相まって破格の攻撃力を得ている。
 そんな手練れと戦って無傷ですむはずもない……仮に無傷だとしても、スタミナの残量に不安が残る状態となるだろう。
 
 そんな状態で自分がもう一度”味見”しても、正確な判定は難しいと思われる。
 それに………
 
 
「お願い、レイジングハート! 返事をしてっ!! レイジングハートぉっ!!!
 
 
 デュナムの一撃を受け、衝撃で一時的に立ち上がれない状態となったなのはが、懸命に相棒の名を叫び続ける姿を見て、興が削がれたというのもある。
 
(”モノ”に頼らなきゃ何も出来ねぇ女子供の集団や俺ぁ興味ねぇし)
 
 デバイスという存在にやや否定的な意見を呟きながらヴァルターは、未だ叫び続けるなのはや気絶したエステルを介抱するティータ達を
 まるで王が下々の者達を見下すかのような眼差しで見つめていた。
 ……それからやや間をおいて────
 
 
 
 
〈No……No problem.………My master────.〉
 
 
 絞り出すような、かすれた声で…遠くからレイジングハートの声が聞こえてきた。
 ムラクモの一撃を受け、吹き飛ばされたレイジングハートは、コアは何とか事なきを得ていたが、柄やダクト部分、外部フレームに大きな亀裂が生じており
 聞こえてきた音声もノイズが混じった、かすれたような声だった。
 
 
「レイジングハート……ごめんね────ごめんね───────!」
〈Don't worry…. My master────.〉
 
 
 後悔と自責の念が、互いの心を埋め尽くす中、なのはは大粒の涙を流しながらレイジングハートの元へと歩み寄ろうとする。
 だが、未だ四肢に力が入らない状態の彼女では地を這い蹲るので精一杯であった為、速度は非常に遅かった。
 すると……
 
 
「全く、理解に苦しむな。
────こんな棒きれのどこがそんなに心配なんだ?」
 
 
 なのはよりも先に辿り着いたヴァルターが、レイジングハートを拾い上げて呟く。
 それと同時に、なのはの顔から一瞬にして血の気が引いていく。
 
「や……やめて!
レイジングハート、ケガしてるんですよ………治さなきゃ、ダメなのに!!」
「………………たかが道具じゃねぇか。何をそんなに躍起になる必要があんだ?」
「待つでござるよ、ヴァルター殿」
「……あん?」
 
 
 不意にその手を止めたのはデュナムだった。
 ヴァルターは顔をゆがませながらも、落ち着いた態度で問いかける。
 
 
「どういうつもりだ────デュナム」
「ヴァルター殿にとってその肉体と魂がそなたの全てであるのと同じように、拙者や高町嬢にとって、デバイスとは”共に戦う仲間”であり”身体(魂)の一部”でござる。
……それを否定する事はこのデュナム、たとえそなたや《結社》と仲違いとなっても許す事はできぬでござる」
「はぁ? こんなのが人間と同等扱いか!?」
「武人は自らの武具、そして戦友(とも)には特別な感情を抱くものでござるよ」
「ったく………理解に苦しむぜ」
 
 
 心底呆れたらしく、ヴァルターはその手に掴んでいるのも億劫になったのか、レイジングハートを持つ手を振り上げると……
 
 
「ヴァルター殿、何を!?」
「決まってるだろ────!
そんなに大事なモンなら………」
 
 
 心の底からの邪笑と共に、ヴァルターは告げ──────
 
 
「身を挺してでも守ってやんな!!」
 
 
 傷つき、ボロボロになったレイジングハートを大地へと叩きつけん勢いで振り下ろした!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………っ!!」
「…………ん? 何にも起きないぞ」
 
 
 聞こえて来るであろう破壊音に恐怖し、反射的に目を背けるなのはだったが…待てども待てども、恐れていた音は聞こえてこない。
 何が起こったのかさっぱり判らないまま、ジュンイチがヴァルターの方に目をやると────
 
 
 
 
「ぐっ! ────な、何なんだこいつぁ?!」
 
 
 
 うめくヴァルターの腕には、”オレンジ色の光の輪”がはめられ────その手からはすでにレイジングハートの姿は消えていた。
 
 
 
 
〈Photon lancer get set────.〉
 
 
 暗闇の通路から響くは、低いトーンの電子音声。
 それはまるで、冥界からの使者の声のように……静かに、映えある響きをもって空洞内に響き渡る。
 
 
 
「フォトンランサー、マルチショット────!」
 
 続いて聞こえてきたのは、静かに…そして凛とした雰囲気を漂わせる、”意志”のこもった一声。
 声質からして、なのはと同い年の少女だろうか……
 だが、静まりかえった洞内とは対照的に空気はビンビンと震え上がり、ヴァルターの”第6感”を刺激する。
 
 
(マジかよっ────!!)
 
 
 思わずうめくが、回避は難しい────ならば!
 
「ファイヤッ!!」
「おォらあァッ!!」
 
 
 少女とヴァルターの咆哮がハモり、通路側から5・6発の”電撃に包まれた魔法弾”がヴァルターへと迫る──────が、彼もまた、自慢の脚でもって放たれた魔法弾を全て蹴り落とす!
 
 
「あ………!」
「フォトンランサー!!」
 
 
 それを確認した途端、なのはとジュンイチに笑みがこぼれる。当然である────なぜなら魔法弾を放った主は………
 
 
〈Scythe form────Setup.〉
「はあぁぁぁぁっ!!!」
「おぉぉぉぉぉっ!!!!」
 
 
 通路の奥から飛び出してきたのは……漆黒のマントを翻した金髪の少女と────
 
 エステル達とは異なる、異国風の衣服に身を包んだ身長2m近くあろうかという中年男性だった!
 
 
ズバッ!!
 
 
「ちぃっ!!」
 
 
 目にも止まらぬ早さで飛翔し、ヴァルターの懐へと入り込んだ彼女は手持ちの大鎌を一閃────だが、間一髪の所で見切ったのか、虚しく空を切る。
 それでも、遅れて地を駆ける巨漢の男性は軽快なステップで間合いを詰めると……
 
 
ズガガガガガッ!!
 
 
 飛翔し、ゼロ距離となったと同時に男性は超スピードでヴァルターに連続で蹴りを繰り出してきた!
 それも”宙に静止した状態で”──────
 
 通常、空中で繰り出した技は反動で自らの身体を後方へと押しやってしまい、連続してのコンボは難しい。出来たとしてもいったん間合いを取り直して再び詰める……といった方法が普通だろう。
 だがこの男性はその手間を省き、”反動によって身体が後退する前”に連続して蹴りをたたき込んだのだ。
 
 卓越した拳の技────それをありありと見せつけられたジュンイチ達だったが、再び後方から響いてくる聞き慣れた声にハッと我に返った。
 
 
「よかった……間に合ったみたいですね!」
「なのは、美由希! 大丈夫か?!」
 
 
 駆けつけたのは、恭也とクローゼ……だが、クローゼはエステルがデュナムの手によって気絶したままの状態な為、駆けつけるなりすぐさま彼女の治療に当たる事となった。
 残った恭也は八景を素早く抜刀すると、なのはやジュンイチ達の前に出る。そして────
 
 
 
 
 
「なのは! 大丈夫かい?!」
「アルフだったのか、あのバインド放ったのは」
 
 
 レイジングハートをヴァルターから取り戻し、その手に握ってなのはの元へと歩み寄ってきたアルフと────
 
 
 
「なのは──────遅くなってごめん」
「フェイトちゃん………!」
 
 
 愛杖『バルディッシュ』をデバイスフォームへと戻したフェイトも恭也と共になのはの前に出る!
 
 そしてただ一人……連続攻撃を放った後も、ずっとヴァルターと睨みを利かせている男性も、構えながら数少ない気絶してない組(シェラザードとティータ)に笑顔を振りまく。
 
 
「ようシェラザード、それにティータも。
ずいぶん久しぶりだな」
「あ……じ、ジンさん?!」
「あのあのっ! ジンさんいつリベールに戻ってこられたんですか?!」
 
 
 返ってきたのは驚愕の声。
 半ば予想通りのリアクションをとってくれたシェラザードとティータの疑問に答えるべく、男性────ジンは先ほどと変わらない口調でゆっくりと告げる。
 
 
「いや……もっと早く来るつもりだったが向こうの仕事が長引いてな。
だが、何とか間に合ったようだな」
「ふふ。狙ったようなタイミング出来てくれたわね────それもなのはちゃんのお友達まで連れて」
「んまぁ、この嬢ちゃんとの経緯については後々語るとして………」
 
 
 フェイトの頭を、その巨大な掌で軽く撫でながら告げると……ジンはヴァルターの方へと視線を戻した。
 一方のヴァルターはというと、意味深な笑みを浮かべながらジッとジンの方をにらみ返している────。
 膠着状態────ではないが、動けば何かが崩れる……そんな印象さえ受ける雰囲気の中、最初に語り出したのはヴァルターの方からだった。
 
「ククク……レーヴェの報告にあったカルバードのA級遊撃士────
ジン、テメェの事だったか」
「まぁそういうことだ。まさかこんな場所であんたと再会するとはな……。
いつから《結社》なんぞに足を突っ込んでいやがるんだ?」
 
 どうやら浅からぬ因縁があるらしい。
 困惑と驚きの混じったような表情でジンが尋ねると、ヴァルターは思い出話に花を咲かせるかのように、笑みさえ浮かべながら答える。
 
「クク…あの後すぐにスカウトされちまってな。なかなか刺激的な毎日を送らせてもらっているぜ」
「バカな事を……あんた、自分が一体何をしてるのか判ってるのか?!」
 
 怒りに口調が激しくなるジン……だがその問いかけはまだ続く。
 
 
「そんなんじゃ、師父(せんせい)はいつまで経っても浮かばれ────」
「おいおい、綺麗事を抜かすなよ。
てめぇは知ってるはずだ。俺がどんな道を選んだのかをな。フザケた事を抜かすと─────殺すぞ?」
 
 ヴァルターの一言で、再び周囲の空気が冷たく尖ったモノに変化する。
 ……一瞬なのは達女性陣が萎縮する中で、ジンは臆することなく次の言葉を彼にぶつけた。
 
 彼の表情を一変させる、彼にとって許し難い現実を────
 
 
「………………………………だったら、あんたは知っているのか?」
 
 
 
 
 
「ツァイスの街にキリカがいるのを」
 
 
「なに……?」
 
 
 一瞬ピクリと眉間が反応するが、すぐに元に戻ってしまった。
 
「2年くらい前からギルドの受付をしているそうだ。────どうやらそれまでは大陸各地を回ってたらしいな」
「……チッ………まさかリベールくんだりに流れていたとはな……。
あのバカ、何を考えてやがる」
「さぁな、俺にもわからんよ。
だが、あいつは間違いなくあんたと会いたがっているはずだ────《結社》の事はともかく、一度くらい顔を見せてやったら……」
 
 
 
スパァンッ!!
 
「グッ………!!」
 
 
 言いかけた直後、ジンの身体に鈍い衝撃が走る────!
 
 ヴァルターが一瞬の隙をつき、放った回し蹴りが彼の左腕にヒット。一瞬よろめくジンだがすぐさま体制を立て直し、ヴァルターに視線を移す。
 ……無表情ながらも、殺気がヒシヒシと伝わってくる。
 
 
「ふざけた事を抜かすと、殺すと言っただろうが」
 
 
 2度目の忠告を促したヴァルターは、表情を変えることなく地を一蹴────
 《ゴスペル》の取り付けられた《杭》の元へと一気に跳躍し、装置のスイッチに手をかけながら告げる。
 
 
「まあいい……キリカの事はともかく、テメェと会えたのは幸運だった。
今回の計画……とことん楽しめそうだぜ」
 
 
 告げると、《杭》の起動スイッチをOFFにして《ゴスペル》を回収────それからやや間を置いて、周囲の七耀脈が発光を終え、周囲の騒々しさが一瞬にして消え去る。
 
「おい、ヴァルター!」
「クク、次会う時までにせいぜい功夫を練っておけ────じゃあな」
 
 
 屈託のない笑顔に戻ったヴァルターは、両手を服のポケットにつっこんでそのまま立ち去っていく。……そしてこの男も────
 
 
「さて……いろいろあり申したがなかなかに楽しませて貰い、恐縮極まりない。
次にお手合わせ出来る時を、心より楽しみにしておりますぞ」
「デュナムさん!!」
 
 
 転移魔法を発動させ、立ち去ろうとしていたデュナムになのはが叫ぶ。
 
 
「あの………レイジングハートのこと────庇ってくれてありがとう」
「礼など必要無いでござるよ。……拙者が高町嬢の立場なら、恐らく同じような態度を取っていたであろうし、その先など考えたくもないでござる」
「あの…えっと……わたし達、どうしても戦わなきゃいけなかったんですか?デュナムさん、こんなにいい人なのに」
 
 
 世辞も客観的な意志もなく、正直に自分の気持ちを伝えるなのはに、デュナムの表情も綻ぶ……が、それも一瞬のうち。
 すぐさま元のキリッとした表情に戻って、なのはに突き返した。
 
 
「────拙者は自分の筋を通しているだけにすぎぬでござる。
そして拙者やヴァーチ殿は……”守るべき信念”の元に集い、そして『ジュエルシードAMP』の実験を行っているのでござる。
その障害となるのならば………たとえそなた等と云えども、斬って捨てるのみ!
「っ────!」
「心しておくでござる────『事実は真実に非ず』……当たり前のものとして享受している事実が真実とは限らぬ事を。
そしてそれは、ミッドにも……そしてこのリベールにも云える事だという事を」
 
 
 静かに…しかし何かを訴えかけるかのように熱く告げると、デュナムは転移魔法によって洞窟内から姿を消してしまった────。
 
 そして、取り残されたジュンイチ達はしばらく呆然としていたが……ある事実を思い出したなのはがジンに尋ねる。
 
 
「そ、そうだ! そういえばどうしてフェイトちゃんとアルフさんが……えっと────ジンさんと一緒に?」
「ああ、その件か……。
実はこの二人、カルバードとリベールの国境付近まで飛ばされてたらしくてな。
……異世界からの来訪者の捜索願が出されてたのはカルバード(向こう)のギルドでも受理されていたのは知ってたからな。
ツァイスに向かう道中、たまたま出くわした俺が二人を連れてギルドに行ったんだ。────そしたら」
「ツァイス支部に着くなり、受付のキリカさんに有無を言わさず急かされて────」
「このエルモ温泉にいるなのは達の助太刀に行ってくれって頼まれたんだよ」
「そうだったんですか────」
「……オレ的には”有無を云わさず”って所に激しくツッコミを入れたいところだけどな
 
 
 どんな非常時だろうと、使える人間はとことん使い回す。それがキリカクオリティー……
 彼女を敵に回した場合、公私共々徹底的に酷使されまくって廃人になる事は明白であろう────そんな事を思わず考え、戦々恐々としたジュンイチだった。
 
 
 その後、積もる話も後回しにしてエルモへと戻ったなのは達は、もはや常連と化してしまった紅葉亭の風呂で体を温めてからツァイス支部へと戻る事にした。
 
 なお、懲りずにまた覗きに乗じようと企んでいたヒツジンの群れ(←主にジュンイチの肉体目当て(爆))は、
事前に待機していたジュンイチの『ギガフレア3連』によって空を舞ったのはここだけの話。
 
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
ユーノ君のアドバイスでデュナムさんの使っていた魔法やデバイスの正体が明らかになったけど……
 
相変わらず判らない事は山積みなワケなんだよな
 
そんな中、ついにあの人達がわたし達の元へ────って、どうして逃げようとするんですかジュンイチさん?
 
だってあの二人が手を組んだら実質無敵状態じゃんか! オレ完璧に実験台(モルモット)確定だぜ?!
 
……ご愁傷様です。
 
………つかラッセル博士×2とのコラボの時点で大問題だと思うんだオレ
 
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第15話『暴君の慌ただしき日常』
 
リリカル・マジカル!
 
何故オレばっかり……何故オレばっかり………!
 
 
 
−あとがき−
 
 自ら犯した過ちによる逆境さえもネタにする男。
 それが私です←激しくマテ
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
 正月休みで行った水樹さんのライブで購入したカレンダーを未だ捲れずにほぼ未使用状態にさせてしまってるtakkuです。
 カレンダーと写真が別々になってるなら切り取ってスキャナーで取り込めたりするんですが、いかんせん前記二つが重なってるレイアウトなので。
 きっと『モーニング娘。』や『ジャニーズ』のファンも似たような理由でカレンダーを捲るのを躊躇ってるんじゃないかと勝手に推測してみたり(謎)。
 
 というわけで前半の内容は『GM異聞』とTWとで判明した装重甲(メタル・ブレスト)の設定関連でつじつまの合わない部分が発生した為、
 そこを補完する意味を踏まえてのネタ作りをしてみました。
 
 ストームブリンガー戦に比べて、確実になのはちゃん達がメインっぽくなってエステル達の出番がおざなりになってる気がします。
 …あっさり気絶させられたエステルや、助太刀に参加できなかったシェラさんやティータちゃんなど、リベールの女性陣の立つ瀬がない………。
 
 というか、今回のメインはあくまでも
 フェイトちゃんの”タキシード仮面”っぽい、絶妙なタイミングでの助太刀イベントですけどネ────!!←さらにマテ
 
 それと次回のネタですが……多分ツァイス一帯がカオスになります。いろんな意味で(爆)

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 フェイトが来たぁぁぁぁぁっ!(←他の助っ人完全無視(笑))
 レイジングハートが破壊され、絶体絶命の中フェイト登場! なんかどっかで見たような展開ですが、燃えることには違いないのでのーぷろぶれむ。

 元から鉄壁のなのはとエネルギー攻撃限定でなのは以上の防御力を誇るジュンイチ、その後力尽きたとはいえ、二人がかりの防御を打ち貫くとは、デュナムの攻撃力は実にすさまじいですな。
 しかし、その後レイジングハートを気遣ったことでなのはとフラグ成立。今後の二人の関係が楽しみです。
 ……もっとも、その前にオーグリッシュフォームまで使っておきながら敗北したジュンイチがリベンジに燃えると思いますが。デュナムの身に不幸が降りかからないことを祈ります(苦笑)。

 ヴォルターについては……もはや不幸は避けられないでしょうね。レイジングハートを『棒きれ』だの『道具』だのと言い切った以上、ジュンイチだけでなくなのはの怒りも買ったと思いますし(合掌)。

「ジュンイチ君、裏テクニックとか裏ワザとかの宝物庫だから。多分あっち(リベール)でもどうにかなってるんじゃない?」

 否定できないなぁ。何しろジュンイチだし(笑)。