「そういえば鈴香さん」
「はい、何でしょうか?」
 
 ”解析”終了から半日ほど経ち、ようやく体調も元通りになりかけていたジュンイチがふと思い出したのか、鈴香に声をかけてきた。
 そんな彼の顔には『死相』と呼ぶに相応しい、負のオーラがにじみ出ているような気もするがこの際無視という事にする。
 
「以前オレが頼んでおいた品物、持ってきてくれた?」
「─────ああ、”アレ”ですね。
キリカさんから聞いた話だと、ジュンイチさん達の宿はホテルの一室だそうですからそこに持っていってもらいました」
「サンクス、助かったぜ」
「それと、その件でジーナさんから伝言を預かってますよ。
………『一緒に”島”と”瀬戸”の方も録画しておきましたよ』と」
「─────うむ、そうか。余は満足じゃ♪」
 
 追加で付け加えられた”伝言の内容”を把握し、非常にご満悦な様子のジュンイチ。
 いつになく口笛まで吹き鳴らしながら、意気揚々とラッセル家を後にする─────。
 
 その様子をたまたま目撃していたエステルは、ふと気になったのか、手を振って見送る鈴香に聞いてみる事にした。
 
「鈴香さん……ジュンイチ、何かいい事でもあったの?
何だかすごく嬉しそうな顔してホテルの方に向かっていったけど─────」
「ええ。
府中(むこう)でジュンイチさんが頼んでいたアニメをDVD−Rに焼いて、プレイヤーと一緒に持ってきてたんですよ」
 
 「こういう頼み事をするから身内の汚染度が高くなるのに……」と小声で付け加えるが、幸か不幸かエステルの方には全く聞こえてない様子。
 だが、当の尋ねた本人は全く別の内容で頭の上に疑問符を浮かべていた。
 それは─────
 
「………前にトラット平原で、パラボラアンテナ関連の話でも出てきてたけど………
その─────『アニメ』って何?
「エステルさんもパラパラ漫画はご存じですよね?」
「え…あ、うん。
日曜学校で配られる教科書のページの隅っこによく描いて遊んでたけど
 
 ……いますよね。
 授業そっちのけで教科書に落書きして遊んでる劣等生って。
 
 リベールにも似たような人種っているモンだなと内心ほっとしつつも、鈴香はため息混じりに呟いた。
 
「アレに声を当てて映像として見れるように加工した……一種の映像エンターテイメントみたいなものですね。
ジュンイチさんはそれの熱狂的ファンでして─────」
「なるほど。
確かに、リベールじゃそういうのやってないし、滅多に元の世界に帰れる訳じゃないからそうなるのも当然か。
かくいうあたしも、気になる人間の一人だけどね」
 
 何だかんだでなのはやフェイトとの話題でも挙がってくるし、ジュンイチに至っては言うに及ばずである。
 それだけしょっちゅう耳にしていては気になるのも当然の話─────。
 実はここだけの話、落ち着いたときにでもクローゼやティータ達と一緒にジュンイチに教えてもらおうと思っていたりもしていた。
 
「気になるなら一緒に見させてもらえばいいじゃないですか。
どうせ内容的にいかがわしいものではないんですし」
「いいの?」
「ああいうものは大人数で見た方が楽しいというものですよ。
ジュンイチさんもそれはよく判ってるはずですから────お友達を誘われて見に行かれては?」
「うん、そうさせてもらうわ♪」
 
 こうしてエステルは、ギルドに待機しているクローゼと、中央工房でエリカと共に手伝いをしているティータを誘って─────
 
 
 
 
 
 
 オタクの道へと進む階段へと向かう事となった。
 
 
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 幾多の人達の笑顔。
 
 それは、何物にも代え難い至高の宝物。
 
 人と人との触れ合いは、縁となり────
 
 やがて集まって、大きな『絆』となる。
 
 絆となった想いは、降りかかる試練をも乗り越え、
 
 再び、出会いの軌跡を描く─────
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第16話「私の記憶が確かならば」
 
 
 
「それじゃエリカさん。ティータ、ちょっと借りていきますね」
「はいは〜い。
ジュンイチ君にもよろしく伝えておいてね。『待ってるから』って─────」
「……あはは。
─────出来る限り伝えるよう努力します」
 
 一瞬エリカの目が獲物を狩る狩猟者の目つきになったのは気のせいではないだろう。
 軽く戦慄を覚えたエステルは、苦笑いを浮かべながらもエリカの頼みを承諾し、中央工房を後にする。
 いや違う。後にするというよりもむしろ早くこの場を離れたいという思いが強かった。
 
 ……内心、完全に実験台として早くもエリカのマークがかかったジュンイチに同情を禁じ得ない。
 
「うぅ……あたしあの人苦手─────。
キャラが大まか忍さんに激似だから生理的に拒否反応が出てくる」
「ごめんねお姉ちゃん。今度お母さんに少しでも自粛するように言うから
「いやいや! ティータが悪いワケじゃないのよ!?
……かといって恭也さんが悪いわけでもないしで─────
と、とにかくっ! ……これはあくまであたしのトラウマの問題だから」
 
 自らの母の暴走具合に罪悪感を感じたのか、俯きながら謝罪するティータの反応に思わずエステルも謝り返す。
 何だか微妙な光景に思わずクローゼの口から笑みがこぼれる。
  
 
「あーっ、クローゼが笑った!」
「ふふ、すみません。
─────それにしても普段は真面目なジュンイチさんが『アニメ』好きだなんて……知りませんでした」
「まあアイツが言わなかっただけだから、知らないのも当然なんだけどね。
……これでいかがわしい内容のものだったら、ダイヤモンドダストで凍り漬けにしてからエリカさんトコに突き出してやろうと思ってるところよ」
「あはは……やっぱりそういう結論に至るんですね」
「うん!」
 
 当然と云わんばかりに、胸を張って頷くエステル。
 ちなみに『ダイヤモンドダスト』とは水系アーツの中でも中級レベルの魔法。
 対象を凍結させる追加効果を持つ魔法なのだが……現時点で使える人間といえば水系の結晶回路(クォーツ)を主体とするクローゼのみ。
 
 知らない間に死刑執行人に仕立て上げられたクローゼの心境としては正直複雑であった。
 
 
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
 
「さってと────ひとまずホテルに着いたわけだけど、ジュンイチの部屋って何処だっけ?」
「確か、なのはちゃんの話だと2階の東側って言ってたよ?」
「オッケー、それじゃ早速行ってみましょうか」
 
 尋ねるエステルにティータが少し考えた後に反応して答える。
 
 エステルやシェラザードといった遊撃士勢は勿論、クローゼやオリビエも一応ホテルに厄介になっている身ではあるのだが、
 実質ギルドに待機状態で仮眠する事が多く、ホテルの利用は実質シャワーを浴びるときくらい。
 それはなのは達にも言える事で、もっぱらギルドでまとまった時間を過ごす事が多いのだ。
 
 この為、ティータがジュンイチの部屋を把握してくれていたのは渡りに船だったわけだ。
 と………
 
 
 
 ”貧乳はステータスだ! 希少価値だ!!
  なるほど、確かにそういうニーズもあるわけだし。私は貴重なわけだよ”
 
 
 
 
「……………………」←エステル(ジト目)
「……………………」←クローゼ(赤面)
「……………………?」←ティータ(よく判ってない)
 
 突如廊下の奥……発生源は無論言うまでもないだろう。
 突如大音量で響いてきた少女の声……しかも内容が結構ブッ飛んでいるときた。
 これにはさすがに3人とも首をかしげずにはいられない様で─────しばらくの間沈黙が続いた。
 
 
 
「クローゼ、どう思う?」
「どう思う…と聞かれましても」
「と、とりあえず聞いてみれば判るんじゃないかと」
 
 沈黙の末、エステルの口から出た言葉にはもはや余裕は見られないようだ。
 一方のクローゼもどうコメントしていいものやら分からない様子で……唯一事態を飲み込めてなかったティータが二人を部屋の元へと向かうよう促す。
 が………
 
 
 
 ”アンタが何か事件を起こしたら……
『いつか、絶対何かやらかすって思ってました』
  って証言してあげる”
 
 
 
 
「………………………………」←エステル(怖い笑顔)
「………………………………」←クローゼ(同上)
「ふ、二人とも……コワイよぉ」
 
 思わずティータが泣き顔でうめくが、二人の耳には一切入っちゃいない。
 おのおのの武器を構えると有無を言わさず、目の前のドアを蹴り破り
 
 
「やっぱり危険人物だったかキサマわぁぁぁっ!!!」
「ジュンイチさん、フケツですぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「めっさ誤解入ってる上に、人の娯楽タイムを台無しにするんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!」
 
 
 多分に誤解満載で突撃してきたエステル達を、これまた有無を言わさずといった形で─────
 
 
 
 襲いかかってきた戦乙女×2を速攻で焼き捨てたジュンイチだった。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「全く……
見たいなら見たいって最初に言えばいいものを────。
てか初めて見たぞ。アニメのセリフに騙されて突撃してくる輩なんて」
「「面目次第もございません………」」
 
 二人揃ってジュンイチへと謝罪するエステルとクローゼ。
 ジュンイチの絶妙な火加減によって、服が焼け崩れない程度にこんがり小麦色になっている辺り流石というべきだろうか。
 その一方で、ティータはアニメそのものではなく……それを再生しているポータブルDVDプレイヤーに興味津々の様子。
 
「わぁっ、こんな薄型にメディアの再生機能と映像表示機能が一緒になってるなんて……
動力源は何かなぁ……結晶回路単体? それとも超薄型の導力機関(オーバルエンジン)?!
「………この娘はこの娘で、ちょっと目を離したスキにこれかい」
「あのあのジュンイチさん! これ、何で動いてるんですか?」
完全に趣旨が入れ替わってるぞティータ。
……そんなに気になるなら後で鈴香さんにでも聞けばいいだろ? 今日はとりあえず、黙ってアニメ鑑賞会な」
「はぁーい……」
 
 ジュンイチの念押しに激しく項垂れながら、懐のサイドポーチへ工具一式をしまうティータ。
 ………隙あらば分解してでも調べようとしてたな。
 
 この娘も何だかんだでラッセル博士やエリカの血筋だ。行動パターンが似たり寄ってる。
 
 
 
「さてと……客人も来た事だし、ちょいと厨房を借りるかね」
「厨房……? アンタ、続き見るんじゃないの?」
「女の子が3人もダベるんだぞ? 茶菓子の一つや二つ、あった方がいいだろ?
どうせエステル達が見るんなら1話から見直す羽目になるからな。小一時間(オレが見てた所)くらいあればそれなりのものは作れる。
つーワケでエステル達は最初から見直してていいぞ。オレはその間茶菓子とお茶を用意してくる」
 
 言いつつ、ジュンイチはティータに操作方法を軽く伝えると、部屋を後にして1階へと降りていった。
 ……が、部屋に残されたエステル達は正直納得がいかない様子。
 
 あのジュンイチが……料理? 菓子作り??
 
 普段から最前線で戦って来たイメージしかない、見るからに戦士タイプなジュンイチが………手作りで?
 
 思わず、エプロン姿で少女漫画チックに料理するジュンイチの図が脳内に再生され、爆笑しそうになるも何とか我慢。
 
「ひ、ひとまずさ……見る?」
「そ、そうですね─────」
「それならさお姉ちゃん、せっかくだし別のディスクに変えてみない? わたしこれが見てみたいなぁ」
「もう…あたし達をさしおいてすでにノリノリなんだからこの子は─────」
 
 かくいうエステルもこういうのも悪くないな〜何て思っていたりしたのは内緒の話。
 操作関連を完全にティータに任せ、DVDディスクを交換し……いざ再生。
 
 そんなティータのそばには……
 
 
 
 ”藍○島”と書かれたディスクがあと数枚程ケースに収められていた。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
 エステル達と分かれてから1時間とちょこっとが経過し─────
 おぼんに人数分の紅茶と手作りクッキー(ローカロリー)をひっさげて、ジュンイチは自室へと戻ろうとして歩き出していた。
 ……さすがにホテルの支配人に”厨房かしてくれ”と言ったときはすぐさま”止めてください”と全速力で拒否られたが、そこはジュンイチ。
 巧みな話術で何とか支配人を説得し、厨房で遺憾なくその腕を振るった。
 
 ちなみに、手元のクッキーは支配人も味見済み。お墨付きも貰えた自信作である。
 
 と、階段の前にさしかかった所で見慣れた少女の後ろ姿を発見。
 慌てる事もなく、ゆっくりと歩み寄りながら声をかける。
 
「なんだ、なのはにフェイトじゃねぇか」
「あ、ジュンイチさん」
「お茶菓子……誰かお客さんが来てるんですか?」
「ああ、エステル達がな。
みんな揃ってアニメ鑑賞会と洒落込んだらしくてな、急遽つまめる物とお茶を用意したんだ」
 
 さすがにジュンイチが茶菓子をひっさげて自室へと戻る姿に違和感を感じたのだろう。
 なのはが思わず尋ねると、ジュンイチの口から意外な事実が打ち明けられる。
 
「ジュンイチさん……」
「何だ?」
「……エステルさん達を、汚さないでくださいよ」
「オレをなんだと思ってやがる」
「アニメ汚タク」
「汚タクゆーな」
 
 有無を言わさず、なのはの頭に軽くゲンコツをお見舞いすると、ジュンイチは呆れた表情を浮かべつつ再び歩き出した。
 と………なにやら部屋の様子がおかしい。何がおかしいかというと─────
 
 人の気配がしないのだ。
 
(ん─────?)
 
 この様子には、さすがになのはやフェイトも気付いた。
 違和感を感じながらも扉を開けるとそこには──────────
 
 
 
 某ボクサーのように、真っ白な灰になって固まるエステルと……
 沸騰したかのように、顔を真っ赤にして蹲るクローゼとティータの姿があった。
 
 
ゴゴゴゴゴゴ……………………
 
 
 同時に、何やらすごいプレッシャーが部屋の中心部から放たれ始めてきた。
 よく見ると、エステルもモノクロ(2色)からハイカラー(65536色)に戻ってるし。
 
 
ゴゴゴゴゴゴ!!!
 
 
「え……えーと────えすてる、さん? くろーぜさん………?」
 
 震える声で、それでも精一杯尋ねて見るも、当の二人は意も解さずに俯いたまま。
 何かまずい事でもしたかな〜何て自分の胸に手を当てて考えてみるも、思い当たる節はない。
 何が原因か……と部屋の傍らに視線をやると……
 
(あーれーか────────!!)
 
 視線に入ってきたのは”一人でこっそり”見ようと思ってた○蘭島のDVD-R。
 ……一応少年誌に掲載されていた作品ではあるが、内容的には15禁である。作者さんもかつてそっちの道で活動してたらしいし。
 どうやら突然の来訪に隠すのを忘れていたらしく、それをたまたま手に取った彼女達が鑑賞し、今に至ると。
 
 完全な自爆である。
 
 
「「ジュンイチ(さん)の……………」」
 
 そうこうしている内にも二人のオーラは完全に戦闘モード。
 二人仲良くハモりながら、戦術オーブメントに手をかけ……叫ぶ!
 
「「スケベ(バカァァァ)ェェェェェェッ!!!」」
 
 
 咆哮と同時、エステルの『ブルーインパクト』とクローゼの『ダイヤモンドダスト』……
 二つの水系アーツがジュンイチを襲った。
 
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
「うっわぁ〜、これホントにジュンイチ一人で作ったの?!」
「多分、そうだと思いますよ?」
「クローゼに匹敵するくらい美味くない、コレ?」
 
 ジュンイチの作ったクッキーを口に放り込んだエステルが思わず叫ぶと、同じくクッキーをつまんでいたフェイトが付け加える。
 しかし、エステルは口の中にクッキーを入れるたびにどんどん表情が険しくなっていった。
 
「な、何故………何故なの!
あんな普段おちゃらけてる性格なのにお菓子作りがこんなに上手いのなんて………」
「ジュンイチさん、料理の質は勿論、レパートリーも豊富ですからね。
加えて傭兵時代も長かったためか、ものすごく料理が多国籍なんですよ」
「い、意外すぎる……」
 
 未だ納得がいかない様子でクッキーを見つめるエステルだが、なのはとフェイトはクッキーを口にする度に至福の笑顔を浮かべる。
 
 所で………。
 
 
「あの───エステルさん」
「聞かないでなのは、あたしだってやりすぎたって思ってるんだから」
「だからって、露骨にジュンイチさんの話題を避けるのはどうかと………
 
 
 フェイトがつっこんだ直後、中央工房の方からジュンイチの悲鳴が聞こえてきたような気がしたが気のせいという事にしておく。
 きっとエリカやラッセル博士を相手に、再び”イロイロ”されているであろうに……。
 
「そういえば………」
「ん、どしたのティータ?」
「うん。
ギルドの掲示板にね、『料理のレシピ大募集』っていう依頼が挙がってたのを思い出して……」
「な、何だかえらく他力本願な依頼ねぇ……依頼主は?」
 
 ティータがふと口にしたギルドへの依頼。
 その内容の支離滅裂さに思わず肩をがくりと落とすエステルだが、それでも遊撃士として義務は果たすべきだろうと踏み、再びティータに返す。
 
「確か────居酒屋《フォーゲル》のベンさん。
何でも《ツァイスの郷土料理》みたいな一品を作りたいんだって」
「郷土料理って……ツァイスの街の人ってそーゆーの求めてるのかしら?」
「うーん、どうだろう……? あったら食べてみたいなーって気はするけど」
 
 導力器の技術の粋が集まる街で、郷土料理もへったくれも無いような気もするが……
 大体そういうのはマオ婆さん所の紅葉亭でやった方がウケは良さそうである。
 
 が、実際街の居酒屋からそういう依頼が来たのだから無下に断るわけにもいかないだろう。
 
 
「まー大丈夫でしょう。幸い、こっちには強い味方が大勢いるんだし」
「大勢って……ジュンイチさんやクローゼさんはともかく、後は誰なんです?」
「あのね、何人事みたいに言ってるの……。なのはの事よ」
 
 
 
 
 間………。
 
 
 
 
 
 
うぇぇぇぇぇっ!? わ、わたしですかぁっ?!」
「そ。────聞けば、魔導士になる前は喫茶店の跡取り候補としていい線行ってたって言う話だし。
お母さん直伝のシュークリームとか、作り方教わってたそうじゃない」
「あ、あれは…そのおかーさんが『手伝って』って言ってきてたからで……。
それに、完全にレシピをマスターしたワケじゃないから上手く作れる自信もないですし────」
「大丈夫だよ、なのは。いざという時は…わたしも手伝うから」
「フェイトちゃん────」
「あーあ、見せつけてくれちゃって……熱いわねぇ二人とも♪」
「「う………」」
 
 真っ赤になって俯くなのはとフェイトの様子に、表情が綻ぶエステル。
 ちなみに……
 
 
 エステルの料理の腕は、壊滅的────とは行かないが、あまり得意ではないらしい……との事。
 あ、何だか納得できるなーなんて思ったのは秘密だ。
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
 
「って────何だってただの料理レシピの募集がこんな大それた企画になっちゃうワケぇ?!!
「仕方ねぇだろ。
『どうせやるなら派手な方がいいでしょー』……ってエリカさんが言い出したんだから」
「だからって……ツァイス市全域を巻き込んでの”料理大会”に仕立て上げなくても」
 
 事の発端は今から2日ほど前………。
 依頼の内容を皆に伝えて、参加承諾を貰おうとしたときに偶然エリカがはち合わせて……
 
 
『せっかくなんだしー、大々的に料理大会みたいなイベント形式でやれば盛り上がるし、いいレシピが見つかるかもよ?』
 
 
 ……とのこと。
 それから彼女を筆頭に、あれよあれよという間に準備が着実に進められ────現在に至ったという事だ。
 ちなみに今回の一件に関してマードック工房長は二つ返事で了承。
 ……エリカのやることなすことにいちいちツッコミ入れててもどうにもならないと言うのもあるだろうが────
 女王聖誕祭やルーアンでのジェニス王立学園の学園祭を除けば、ここリベール王国で表立ったイベントが無い事から、地元発展の為にならというのも理由の一つだろう。
 
「まあやるやらないを今更議論しても仕方ないとは思うけど……ところでジュンイチ。あんたは何を作るつもりなの?」
「おいおい、参加する前にそれを言ったら面白味がねぇだろ。
とりあえず、本番の時のお楽しみって事で…期待して待っておけ。どーせ優勝はオレが頂くんだからな」
「あら、あたしやクローゼの存在も忘れてもらっちゃ困るわね。
それに────今回はなのは達や恭也さん達も参加するんだから、一人気楽に優勝を狙えると思ったら大間違いよ」
 
 自信満々に告げるエステルをよそに、ジュンイチはごく普通に
 
(……シェラさんから、エステルの料理の腕前は下の中レベルって聞いてるし。
……恭也さんや美由希ちゃんはハナから戦力外通告だし、実質マークすべきはクローゼあたりか)
 
 ────などと、本人がいないのををいい事にメチャクチャ失礼な事を心の中で決めつけていた。
 なのはとフェイトの名前が挙がってないのは、料理の腕前に関する不確定要素が多すぎるから……つまり、彼女達の場合はどっちに転んでもおかしくはないという事だ。
 もっと端的に言うならば、自分やクローゼを差し押さえて断トツトップに躍り出る、まさにダークホース的な存在とも言える。
 
 用心するに越した事はないだろうが……今はとりあえず食材の確保を優先し、大会開始までの空き時間を利用してジュンイチは雑貨屋へと向かう事にした。
 
 ここ数日の滞在で判った事だが、やはり自分達の住んでる世界と違ってリベールは自然の開発が進んでいないため、水や空気は勿論、土もとても綺麗だ。
 加えて、そこら中の街道や遺跡などに生息する魔獣から採れる食材が独特の風味を持つ事から料理としての完成度を飛躍的に高めている。
 
 これまでの戦闘で得られた食材だけでも十分に凝った料理は作れるが……ジュンイチはあえてリベールにはない”異彩”な料理というコンセプトの元、
 脳内でレシピを構築し……必要な食材を購入。あとは────
 
「エステル」
「ん、どうしたの?」
「確かお前、ルーアンで『タコ』を釣ってたよな? アレ、オレに譲ってくれないか?」
「………アンタ、まさかアレでなんか料理作る気? 意外と悪趣味ね」
 
 残る食材の一つを求め、エステルがルーアンでつり上げたと聞いたジュンイチは早速彼女の元へとやってきた………ワケなのだが
 どうもリベール人からしたら、タコを食材にするという感覚はかなり奇特な部類に入るらしい。
 ……実際ヨーロッパの一部の国では『悪魔の魚(デビルフィッシュ)』と形容されてるくらいだし、当然といえば当然か。
 
「失礼な。日本じゃメジャーな食材の一つだぞ?
全身此タンパク質の固まりみたいなモンだからな────いいダシが出る上に食感がいいから適当な大きさに切って醤油とワサビで……あぁ〜、思い出したらヨダレが♪」
「……………ジュンイチ達の国の人ってどーゆー感覚してるのよ」
 
 一応付け加えておくが、なのはもジュンイチと同じ日本人である(彼に関して言えば育ちは”純粋な日本人”とは言い難いが)。
 
 
 とまぁ多少ゴタゴタはあったものの……
 目的の食材もゲットし、ご満悦の表情で会場へと向かうジュンイチだった。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
『さぁって! いよいよ大詰めとなりました、レシピバトルロイヤルinツァイス!!
並み居る強豪を押しのけ、代表者もこの7名となりました────────!!』
「すいませーん、最初から7人しかエントリしてなかったんスけど────?」
『NGワード禁止ぃっ♪』
 
 意気揚々と司会進行を勤めるエリカに対し、禁句とも言えるツッコミを繰り出したジュンイチ。
 そのため、速攻でエリカから導力銃で狙撃を受けて顔中血だらけ。
 
 ………雉も鳴かずば打たれまい。
 
 とりあえず一人ノリノリで司会を続けるエリカを無視し、ジュンイチは血だらけのまま側にいたシェラザード達に尋ねる。
 
「そういえば、シェラさん達は参加されなかったんスね」
「あたしは最近つくづく思うのよ……料理は作るモノではなく、食べるものだと
「…………料理、ダメなんスか?」
「ダメじゃないんだけどね────面倒臭いだけなのよ
「作れないよりよっぽどタチが悪いッスね」
 
 せめて『能ある鷹は爪を隠す』とでも言っておけばいいものを……。
 思った事をズバッと言うからシェラザードからムチの洗礼を受け、更に血だらけになった────
 
 何だか料理対決を前にどんどん体力が削られていってる気がする。
 
「じゃあオリビエやジンさんも似たような理由で?」
「あの二人は元から”食べる専門”だもの」
「ティータは?」
「『ジュンイチさんやなのはちゃんみたいに際だったレシピがないから辞退します』………だってさ」
 
 彼女らしい、健気と言うか謙虚な姿勢。
 ……たとえ優勝は狙えなくてもいい線は行くと思うんだがなぁと内心残念な気持ちはあったが、本人がそう言い出したんなら無理に強要する事もないし、
 もし優勝できなかったら、それはそれでエリカがとんでもない暴挙に出そうだ。
 
「さーってと……仕込みが終わったら他のメンバーの偵察にでも行こうかね」
「エステルはすぐにボロが出そうだけど、他のコ達が素直に手の内を見せるかしら?」
「そこはそれ、どうにかなるでしょ」
 
 そう付け加えると、ジュンイチは早速仕込みに入る。
 
 まず取りかかったのはダシ取りだ。
 ……メインであるタコを主軸にし、このリベールではそこそこ手に入りやすい『魔獣の骨』と細かくすりつぶした『魔獣の羽』を鍋に放り込み、強火で一気に加熱する。
 このとき、アク取りは火力を調節しながら残さず取っていく。────意外と地味な作業だが、これを怠ると全体の味のバランスが崩れるのだ。
 
 一通りアクを取り終えたら、今度は弱火にして全ての食材からのダシが自然に染み出るのを待つ。
 同時に、主役であるタコへ様々な食材から採れたダシを再浸透させ、食感と共に旨味を増す効果も狙うのだ。
 
 ……次に取りかかるのはタネ────『とれたて卵』に『挽きたて小麦粉』、『粗挽き岩塩』を混ぜてよくかき混ぜる。
 しかしこれだけではやや寂しい……とはいっても、リベールには”タマネギ”はあっても”ネギ”がない。
 なので同様の食感を醸し出す食材で代用が利くといったら……『しゃっきり玉ネギ』しかなかった。
 細かくみじん切りにして少しでもネギの食感が出せるようにする。
 ついでに────紅ショウガの代用品として、『泥付きニンジン』を3〜5cmくらいの間隔で千切りにしたモノを『百年古酒』と『十年味噌』、
 『フレッシュハーブ』、『ロイヤルリーフ』等の調味料と共に漬け込んだ漬け物で代用。
 一定量取り出すとまな板の上でみじんぎりにし、それも一緒にタネの中に投入する────。
 
 あとは、一煮立ちさせたダシ鍋からタコを取り出すと、一口サイズに手早く捌く。
 ……そしてあらかじめ別の鍋に少量移しておいたダシ汁の中に放り込んで更に味を浸透させると共に、空気中の酸素に触れて酸化させるのを防止する。
 
 そして鍋からいい匂いを漂わせているダシ汁をお玉ですくい、先程作ったタネの中へと混ぜ込む。────すると先程までネバネバしていたタネが一気に水気を含み、流動性が増す。
 長年のカンで、適度にダシの量を調節して最適な粘性へと仕立て上げると準備は完了………後は焼くだけである。
 
 
「さってと………仕込みも終わったし、他の面々の様子でも見てきますか」
 
 身につけていた三角巾とエプロンを取り外すと、ジュンイチは早速目星を付けて……
 ご丁寧に気配を消して背後から偵察する事にした。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
「なのは、ここはどうすれば……?」
「あ、うん────とろみが増してきたら、焦げ付かないようにとろ火にしてゆっくりとかき混ぜていくの。
このとき、”切るように”混ぜると効果的だよ」
 
 導力コンロに乗せられた鍋を片手にフェイトがなのはに尋ねると、彼女はフェイトの後方から優しく手を握って親切にアドバイス。
 一通り教え終わると、あとは手際のよいフェイトらしくてきぱきと下ごしらえをすませていく。
 
「んと………………こんな、感じかな?」
「うん、そうそう! 上手いよフェイトちゃん♪」
「ありがとう。────こっちはもうすぐ出来上がるけど、なのはの方は?」
「わたしの方ももうすぐシュー生地が出来上がるよ」
 
 結局、なのは一人でやるには荷が重いという事でフェイトも交えてのシュークリーム作りに落ち着いたのだが……
 正直なのはがここまでやるとは思っても見なかった。
 
 本人は作り方をマスターしてないとは言い張っていたものの────────あの手際の良さと、漂ってくる匂いはまさに翠屋で桃子がいつも作っているシュークリームにそっくりなのだ。
 
 ただし、元の世界でいう所の『バニラビーンズ』という、カスタード専用の香料がリベールに存在しない事から、代用として何をチョイスするか気に懸かってはいたのだが……
 それについても『ドラゴンビーンズ』と呼ばれるコーヒー豆と『アゼリアの実』を使う事で問題は解決。……実際、翠屋にも”コーヒー味”のシュークリームあったし。
 
(やべ…もしかしたらクローゼと同じく優勝最有力候補じゃねぇのか?)
 
 後悔、後先経たずというやつだろう────完全になのは達への対処が後手に回ってしまった形ではあるがとりあえず気にしないでおこう。
 先程見てきた感じでは、クローゼはブランデーケーキを作る模様……お菓子対決という事で上手くお互いに牽制しあってくれると願ってジュンイチは次の人物の所へと足を運ぶ。
 
 
 
「うぅ……ここで、こう────ひっくり返し…て………とりゃあぁっ!!
 
 クルンっ!
 フライパンの上にのせられた”それ”が軽く宙を舞い、ストンと一回転して再びフライパンの上に収まる。
 ……見た感じオムレツを作っているようだが、遠目から見ても判るくらいその形はかなりいびつなものとなっている。
 本来ならばオムレツは外側をしっかり焼いて中は半熟トロトロのものが見た目的にも食感的にも理想の形ではあるのだが────彼女の……エステルのオムレツはそのどれにも該当しなかった。
 
 外側はグチャグチャ…中身もほぼ完全に固まってしまっている。しかも所々真っ黒に焦げてしまっている事から、
 焼き始めたときの火力が強すぎたのだろう…焼き焦げた所で慌てて形を整えてひっくり返そうとしたのがみえみえである。
 
(……アレでよく自信満々にオレにケンカをふっかけて来やがるよな)
 
 とりあえず、これで彼女の優勝はあり得ない事が確定し……再びジュンイチは偵察に向かわんと足を踏み出した。
 
 
 
「恭ちゃん……どーする?」
「俺に聞くな。────幸い、材料は豊富にあるんだ。自分の作れる範囲のものを作っていくしかないだろう」
「そうだね……」
 
 ……この二人に至ってはまだ仕込みにすら入ってなかったりする。
 元々剣術一筋で生きてきただけあって他の事がてんで不器用だから仕方ないといえば仕方ないのだが。←失礼
 そんな中、美由希が突如動き出し…おもむろにいくつかの食材をかごの中に詰め込む。
 
「美由希…何をするつもりだ?!」
「こうなったら────ここにある食材全部煮込んでやるっ!!
「勝ち目がないからって自棄に走るのはどうかと思うぞ」
「料理が起こすミラクルは、時として最高の味を醸し出す事だってあるんだよ!」
「料理と化学の実験を何かはき違えてないか?」
 
 
(………………あの二人は審査員の胃腸を破壊する気か)
 
 身内に似たような人種(妹)が存在するだけに、審査員達の命が本気で心配になってきたジュンイチ。
 そーいえばオリビエが『昔取った杵柄…このボクが華麗に審査を勤めよう』────なんてのたまってたが……
 
(いざという時にはオリビエ一人に全部”処理”させればいいか♪)
 
 彼の場合、『美由希が作った』という肩書きだけで喜んで口にしそうだが……その後どうなるかまでは考えないようにした。
 いや、考えるのが怖かった。
 とりあえず、未来のオリビエの冥福を祈って────────合掌。
 
 
 
「さーってと、残り時間も少ない事だし…そろそろ仕上げに取りかかりますかっ!!」
『おーっと、ここで意気揚々と────なにやら鉄板をコンロにかけました、柾木選手!
しかも………規則正しく、一定間隔に半球の凹みが作られてる奇妙な鉄板ですが、これは一体?』
 
 再び三角巾とエプロン……のおさんどんさんスタイルに身を包むと、早速導力コンロに再構成(リメイク)で作った自作の調理鉄板をセッティング。
 その普段見ない調理光景に思わず興味をそそられたのか、用意された台上から拡声器片手に実況解説するエリカ。
 
 そんな彼女は元より、興味津々と見つめるツァイス市民に向け────ジュンイチは叫ぶ。
 
「生粋の日本人にはお馴染み! 家族揃って仲良くおやつに!! いやいやお酒のお供にお一つ…それとも晩ご飯のお供に!!?
『天下の台所』、大阪生まれの有名粉モノ料理………たこ焼きだぁ!!
「えぇぇぇっ!? な、何故にリベールでたこ焼き?!」
「確かに……意外といえば、意外だけど────」
「だが、ジュンイチらしいといえばらしい料理だな」
 
 自信満々に告げられたその品目名に思わず唖然とする高町兄妹だが……確かにジュンイチがこうした形で挑んでくるとは全くの予想外だ。
 確かにクローゼのブランデーケーキや、なのは達の作ったシュークリームはどれも甲乙付けがたい、究極の一品であるが(エステルや恭也達の料理についてはノーコメントの方向で)
 それはどれも、”洋菓子”という方向ではすでにリベールでもありふれたレシピの一つ。
 
 だが、ジュンイチのたこ焼きは違う。
 まず見た目に至っては、粉モノであんな丸々としたものは見た事無いだろうし、味についてもタコの食感やそれを覆う生地のサクサク感とジューシーさは、リベールにはない異彩な雰囲気を放っている。
 
 しかも、採用する店が『居酒屋』であることも条件にぴったり当てはまることも大きなポイントの一つだろう。
 居酒屋ともなれば昼食・夕食で食べる人もそれなりにいるだろうし、酒のつまみとしても十分に成り立つ…まさに申し合わせたような品物。
 
「フッフッフ……全てを計算しつくした完璧なる布陣を前に、恐怖におののきひれ伏すがいい!」
 
 見た感じ完全な悪役なセリフを平気で吐きつつも、ジュンイチは熱く熱せられた鉄板に油を薄くのばすと、そこにあらかじめ作っておいたタネを一気に流し込む!
 
ジュワァァァッ!
 
 同時に辺りに香ばしい匂いとダシ汁の匂いが立ちこめ、審査員達やエリカの鼻腔をくすぐる。
 だが、これはまだ始まりに過ぎない──────流し込んだタネの中心部に、タコのかけらを1〜2個ずつ投入すると、素早く懐から鋭く尖った調理器具「千枚通し」をその手に握り……
 
「外はサクッと! 中はふっくらジューシーとぉぉっ!!」
 
 よく判らない奇声と共に、穴と穴とを繋いでいるタネを切ると、ジュンイチは……絶妙なポイントに千枚通しの先端を差し込むとそのまま勢いよく手首を返す……
 すると真ん丸に固まったタネがひっくり返り、返した部分が蓋となって残った半熟のタネが鉄板に流れて固まる!
 そんな調子で手早く、カチカチと軽快に金属音を打ち鳴らしながらジュンイチは全てのタネをひっくり返していく────その様子を目の当たりにし、クローゼやエステルは完全に目が点になり、
 高町兄妹に至っては心の底から感心していた。
 
「おぉ…自信満々に告げるだけあってなかなかの腕前だな」
「ぐぅ………卑怯だよジュンイチくん────あんな料理出されたら勝ち目無いよぉ」
 
 一人腕を組んで素直に感心する恭也をよそに、美由希は完全敗北を察したのか、滝のように涙を流しながら呟いた。
 
 だが、ジュンイチはそんな彼女の気持ちなど露知らずといった感じで、どんどん仕上げの段階へと移行していく。
 適度にくるくる回しながら焼き加減を確認すると同時に全体にくまなく火を通して熱々の状態に仕上げる────
 そして、頃合いだと思った瞬間、一気に4〜5個のたこ焼きを千枚通しで突き刺すとそのままササッと小皿へと移して特製のウスターソースとマヨネーズを添えて……
 
 
「完・成・だ────────────っ!!」
 
 調理間の香ばしい香りと効果音に当てられたギャラリーから歓声が上がり、それに応えるかのようにジュンイチは空高く出来上がったたこ焼きを突き上げた。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
「しっかし、とんだお祭り騒ぎだったなぁ」
「なぁに言ってるのよ。終始ノリノリで料理してたクセに────」
 
 言いつつ、エステルはジュンイチの作ったたこ焼きを一つ口の中に放り込む。
 途端に口いっぱいに広がる磯の香りとジューシーなダシ汁のアクセントが何とも言えずに、至福の表情を浮かべてしまった。
 
 
 ……結局、料理が全て出揃ったときにはジュンイチのたこ焼きもやや冷めてしまい、出来立ての味とはほど遠くなってしまったのか、結局僅差でクローゼに惨敗。
 しかし、優勝こそ逃したものの……幅広い客層にウケるという理由もあって審査員特別賞として彼のたこ焼きが仮採用されたという形に収まったのだ。
 
 ────何故仮採用に留まったかというと…あの”真ん丸に焼き上げるテクニック”が誰にでも出せる技ではないというのと、
 やはり材料が本場と微妙な違いがあるために、結果的に味のバランスに微妙なズレが生じてしまったという事である。
 
「んまぁ、こっちでまともに作れるとは思っても見なかったけど、そこそこ上手くいったみたいで良かったぜ」
「それにしても、戦いだけじゃなくてお料理も完璧にこなしてしまうなんて────すごいですね、ジュンイチさんは」
「……まぁオレの場合は”必然的にそうせざるを得なかった”幼少期だったからな。
子供らしい思い出────ってのもあんまり無いが、今じゃそんな過去に感謝してる」
 
 クローゼが柏手と共に褒め称えるとやや照れくさそうに呟きながら、ジュンイチは残ったたこ焼きを口の中に放り込む。
 一瞬はにかんだ笑顔の奥に”歪んだ何か”を見たような気がしたが、すぐにジュンイチが得意のおちゃらけ笑顔で誤魔化したため、エステルやクローゼもそれが何を意味するのか全く察する事が出来なかったが………今日一日のジュンイチの行動を見る限りでは心から楽しんでいるように見えたので構わないなと結論付けた。
 
「さてと……酒の席で非常に申し訳ないが、次に向かう街はどんな所なんだ?」
「うん────次の街は、何と『王都グランセル』!! 何と言っても女王様のお膝元の街だし、いろいろと見所は満載よ♪
ちなみに、ルーアンで会ったナイアルやドロシーが勤めてる『リベール通信』本社も、王都にあるのよ?」
「へぇ、そうなんですか。────王都についたら、挨拶代わりにナイアルさん達の所に寄ってみたいですね」
 
 なのはが笑顔で付け加えると、それに引き続く形でティータも笑顔で同意する。
 ……元々ツァイス内限定での協力関係かと思ってたが、その件に関してエリカから……
 
『今回の一件で、《結社》が民間人の生命や財産を考えて行動してるとは思えないわ。
今現時点で、リベールの何処が安全か────って尋ねられると微妙な所だけど、少なくともなのはちゃん達と一緒に行動していれば遥かに安全性は高いわ。
エステルさん達もいる事だし、ティータは一度言い出すと聞かない子だから……だからあなた達に任せます』
 
 ────────との事。
 なので、年の近いもの同士早速親交を深めている様子で、仲睦まじい様子にエステル達の表情にも笑顔がこぼれる。
 だがその一方で……
 
 
(必要な証拠とレポートは一通り揃った。あとは、お偉いさんをどう納得させるかだが……リンディさん、上手く立ち回ってくれてるかな?)
 
 ブレイカーブレスのメモリ内に保存された、これまでの事件の顛末と詳細の内容を記録したレポート……それを見つめ直して改めて思い直すジュンイチ。
 
 そしてそんな思惑から僅か半日後……
 彼は、史上最大の組織を相手に孤軍奮闘する事となる────────。
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
久しぶりねみんな! あたしよあたし! なのはの親友No.1のアリサ・バニングスよ!!
 
本当に久しぶりだよねわたし達の出番……ところで、わたし達って何処に飛ばされちゃったんだろう?
 
ふっふっふ、心配しなさんなすずか。何てったって次のお話は、わたし達がメインの回なんだから!!
 
………正確には、わたし達と”あの人”って言った方がいいかも
 
うぐっ、そりゃそうだけどさぁ────っあぁーもうっ!! 早く迎えに来てよぉジュンイチぃっ!!
 
あ、アリサちゃん……八つ当たりは、良くないよぉ………
 
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第17話『琥珀の瞳』
 
うぅ……あんな瞳で見つめられたら、こっちの気が変になっちゃう!
 
………以上、照れ屋さんなアリsむぐぅっ!!
 

(直後、マイクの集音範囲外から鈍い鈍器のような音が聞こえ、そのままずるずると何かが引きずられていった)

 
 
−あとがき−
 
 何だかいろいろごっちゃになってるなぁ。←大問題
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
 TWのレギュラーメンバーとらき☆すたのレギュラーメンバーって相似関係にあるなぁと思いつつあるtakkuです。
 ヲタクな所と料理上手で格闘技に通じてるって意味でジュンイチ君とこなちゃんはまさに相似だし、
 エステルとかがみちゃんは料理下手にツッコミ気質でツンデレなところが相似。
 クローゼなんかは巨乳具合と博識さでみゆきちゃんと相似な気がしてならないのですよ。
 
 ちなみに………N&Fの二人はゆたかちゃんとみなみちゃんのコンビで(←説明不要)
 
 ツァイス編最後という事で今までにない料理製作をメインとした風潮で執筆しましたが……やはり難しい!!
 何が難しいかって? 作った事もない料理をレシピ化してそれを調理する場面を書く事がですよ。
 
 特にたこ焼きは親戚は作った事はあるのですが我が家では作った事のない未知の料理。ですが、お好み焼きと同じ粉モノ料理という事で大まか代用は利くだろうと思い
 遥か昔のうろ覚えな記憶を頼りに何とか書き上げました。
 
 ……シュークリームも一応経験はあるのですが、シュー生地がベッコリ凹んでまともな形じゃなかった記憶があります。
 
 
 とりあえず、冒頭のアニメ云々の話についてはノーコメントの方向で(爆)

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 まぁ、確かに最初に見たアニメが『藍蘭島』ではいろいろツッコまずにはいられんか(笑)。ストーリー自体は悪くないんですがねぇ……
 せめて自分で再生を設定してから部屋を出ればよかったものを……

 いろいろな思惑が絡み合った結果、ただのレシピ募集の依頼が料理大会に。
 ジュンイチの“たこ焼き”は確かにベストチョイスでしたね――作れる人がいるのか、という問題さえなければ。
 一方で案の定大暴走の美由希。恭也も翠屋の手伝いでそれなりに心得があるはずですが、そんな彼をもってしても彼女を止めるには至らなかったようで(苦笑)。

 そして次回はアリサとすずかがついに復帰か!?
 けどラストで何やら不穏な雰囲気が……って、ジュンイチのことだから“シリアス方面の不穏”か“ギャグ方面の不穏”か正直判断に困ったり(笑)。

 

>思わず、エプロン姿で少女漫画チックに料理するジュンイチの図が脳内に再生され、爆笑しそうになるも何とか我慢。

 実際“エプロン+三角巾”で料理するんだよな、ジュンイチって……(苦笑)。

>ちなみに………N&Fの二人はゆたかちゃんとみなみちゃんのコンビで(←説明不要)

 確かに説明不要ですな(笑)。

>何が難しいかって? 作った事もない料理をレシピ化してそれを調理する場面を書く事がですよ。

 これは確かに辛いです。
 モリビトも『GM異聞』で巻きカツの製作風景を描きましたが、あれも実際自分で作れるから書けたようなものですし。
 物書きにとって、経験というのは大切なものなんだなぁと実感するひと時でした。