ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 運命の出会いと時同じくして
 
 あの人は静かに……天に召された家族に誓う。
 
 自分一人に課せられた重責……担うべき大罪………全てを精算するために。
 
 だけど、それはもうあなただけの責じゃあない。
 
 みんなで一緒に超えるべき、避けられない宿命なのだからと、心から叫ぶ。
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第17話「琥珀の瞳」
 
 
 それは……エステルとなのは達が出会う事となったルーアンでの出来事と、ほぼ同時刻。
 リベール王国の国境から120セルジュ(約13km)程離れた────
 
 エレボニア帝国領、最南部に位置する場所が、本日の話の舞台である。
 
 ………そこには何も無かった。
 いや、“無かった”というよりも“無くなってしまった”というべきであろうか。
 
 所々に点在する瓦礫や鉄屑の存在がかつてこの場所に人が居たことを知らしめてくれるが、今では人が存在している雰囲気は全く感じさせない。
 瓦礫の隙間からは所々草花がのび、新たな命の誕生を気付かせてくれるが、それもまた周囲の寂れに対する形容詞の様でしかなかった。
 
 そんな、歴史の影に埋もれ、忘れ去られたような場所に人が立ち入るわけが────
 
 
「………………………」
 
 いた。
 廃墟の外れにある丘────そこにポツンと孤独を助長するかのように設けられた石碑の前に、
 一人の少年が花束を携えて佇んでいた。
 
 純白のマフラーと相なすコントラストの黒を基調とした服装。
 漆黒の髪を靡かせるその顔の内には、冷たく煌めく琥珀色の瞳────
 
 だが、その瞳には“光”は存在しない。
 
 少年にとって“光”は、とうの昔に忘れた存在だった。“彼女”と出会って少しは変われたかもしれないが、それは表面上の繕いでしかない。
 今このときの姿こそ、彼の本当の姿であり────
 
 
 自分の中の“闇”を露呈させた、罪と業を再認識させるモノでしかなかった。
 
「………カリン姉さん、帰ってきたよ」
 
 少年は静かにそう告げると、持っていた花束を石碑の前に供え……数秒ほど黙祷を捧げる。
 そして、幾分ほどだろう…………しばらく佇んでいると、下の廃墟の方から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
 
「お、おーい! ど、どこ行っちゃったのさぁ!?
 
 自分にとってもはや腐れ縁ともいえる聞き慣れた声。
 だが、少年は眉一つ動かすことなく静かに立ち上がると、声のした廃墟方向に向き直る。
 
「よかった、ここにいたんだ」
 
 振り返った先には、自分の姿をようやく探し当てて安堵の表情を浮かべる、少年と同い年位の少女と
………
 その両隣には身内と思わしき青年と中年男性が付き添っていた。
 だが、彼等は決してただの一般人ではない。
 
 かつて、リベール国内においてエステルの故郷であるロレント…そして商業都市ボースにおいて悪事をはたいた『カプア空賊団』の主犯格である
 ジョセット・カプア、キール・カプア、ドルン・カプアの3兄妹である。
 
 その内の一人である少女、ジョセットはつい先程まで黙祷を捧げていた少年に
 
「もう、ビックリさせないでよ! 一人で勝手に行っちゃうんだもん」
「ふう……どうして来たんだ。
個人的な用事だから付き合う必要はないといったはずだよ?」
 
 あくまで淡々と、呆れるように告げる少年の言葉にジョセットはさすがにむっとしたのか、
 突っかかるようにして少年にまくし立てる。
 
「か、可愛くないヤツ! 人がせっかく心配して探しに来てあげたのにさ!!」
「それに、この状況は興味を持つなって方が無理な話さ。
────見たところ、廃墟になったのはここ10年くらいの間みたいだな」
 
 声を荒げて叫ぶジョセットとの間に割り込むように、今度は次男のキールが周囲を見回しながら少年に告げる。
 …確かに彼の言うとおり、この周囲の荒廃ぶりは古からず新しからずといった具合で、割方つい最近“こうなった”事を指し示していた。
 その考えに賛同するかのように一番の年長者であるドルンも付け加えるかのように訪ねる。
 
「俺たちは3年前まで北部の領地に住んでたんだが……南部で村が廃村になったなんて今まで聞いたことがなかったぞ。
なんていう名前の村だったんだ?」
「………………………」
 
 ドルンの問いに少年はやや表情を曇らせるものの……少し考えた後にゆっくりと呟いた。
 
 
「……『ハーメル』。────かつてそう呼ばれていた村さ」
「ハーメル──聞いたことない名前かも。キール兄は知ってる?」
「いや……俺も聞いたことがないな。──兄貴はどうだい?」
 
 さすがに若年者にとっては馴染みのない名前なのか、あっさりと年長のドルンに話を振っていった。
 一方のドルンも、聞いたことはあるのか、しばらく唸っていたものの────
 
「んー、待てよ……かなり前に、帝国政府から何かの通達があったような………だめだ、思い出せねぇ」
「なんだよ、それ〜」
 
 せっかく手がかりが手に入るかと思ったら、こんな状態である。
 思わず呆れてしまったジョセットが兄の不甲斐なさに思わず呻く中、少年は再び静かに侘びた。
 
「僕の用事はこれで終わりだ。貴方達には関係ないのに付き合わせてしまって済まなかったね」
「それはいいんだけどさ────アンタ、最初に会ったときと態度が違いすぎない? ボク達を舐めてるワケ?」
「……君にそんな事を言われる筋合いは無いな。
最初に会ったとき、ずいぶんと堂に入った演技を見せてくれたじゃないか。僕の態度もそれと同じさ」
 
 ……そう、少年とジョセット────いや、カプア3兄妹と顔を合わせるのは今回が初めてではない。
 何を隠そう、カプア空賊団の横行を調査・解決したのが少年と……一緒に行動していた仲間達であり、
 彼とカプア一家とはもはや腐れ縁的な間柄となっていたのだ。
 そして少年が思い出すのは、そんなジョセットとの数期の出会いの始まり……ジェニス王立学園の制服を着こなして変装していたジョセットがロレントを訪れた際の態度。
 
 ……なるほど、確かに同じといわれれば同じである。
 
「うっ……そ、それじゃあそれがアンタの本性ってわけかよ!?」
「そう思ってくれて構わない。────少なくとも今の僕は遊撃士とはかけ離れた存在だ」
「ふう……何だか知らんが色々と事情がありそうだな。
まぁ本性をさらけ出してくれた方が、こちらとしても信頼できる。少なくとも上辺を取り繕われるよりかはな」
「……………………………」
 
 
 キールの突然の本心に思わず呆気にとられる少年。
 だが、確かに演技が入っている状態で信頼しろといわれても至極無理な話なワケで………キールの発言もあがなち間違いではないのだ。
 そして再び、キールの考えに助長する形でドルンが続ける。
 
「それに、お前には王国軍に追われていたところを助けてもらった借りもあるしな。
そのクソナマイキな態度も、少しは大目に見てやらぁ」
「……大目に見る必要はない。
貴方達を助けたのは、あくまで利用できる駒が必要だったからね。貸しに似合う働きを期待させて貰うだけさ」
 
 だが、少年の態度はあくまで涼しげなものだった。
 冷ややかに告げるその態度にさすがのドルンも少しばかりムッと来た様子……だが、それでいて痛い所を突かれたかのような苦渋の表情を浮かべる。
 
 ……彼等としても、自分達の目的を果たすまでの間、少年の力を手放すのは非常に惜しい。故にドルン達もまた、少年を“目的を達するための駒”として認識してた。
 しかし少年にとってそれは「相手と自分を対等の立場におく」という観点では非常に好都合に他ならない。
 
 立場が対等である限り、依頼者(クライアント)と自分といった上下関係は発する事はない……言い換えれば互いに、自分の目的を達成するまでは相手を裏切れないという事なのだから。
 
 
「ぐっ、口の減らねぇガキだな。だがまあ、お前の提案は俺たちにとっても渡りに船だ。
せいぜい俺たちの方も、お前をとことん利用させて貰うぜ」
「……それでいい。
────僕と行動を共にするには、それ相応の危険がつきまとう。その危険に似合うだけの協力はさせて貰うつもりだ」
「ほ、本っ当に可愛くないヤツ! 何だってこんなヤツを……あの時一瞬でも────
「……?」
 
 あくまで涼しげな態度は変わらず、淡々と告げる少年の言葉についに半ギレ状態となったジョセットだが、同時に思い出してしまった。
 あの時……一瞬垣間見えた少年の優しさと笑顔。
 それがあまりにも新鮮で……眩しくて。思わず惹かれずにはいられないと、不覚にも思ってしまった事に対する
 怒りとも後悔ともとれる念がジョセットの思考を支配する。
 
 そんな彼女の様子がおかしいととれたのか、少年は不思議そうな顔でジョセットの顔を見つめるが────
 
「なんでもないっ!
不思議そうな顔でボクをみるなっ!!
「どうどう、ジョセット。
ま、いずれにしてもお互い目的を達成するまでは俺達が仲間ってのは確かだ。よろしく頼むぜ────ヨシュア
「……………………ああ、よろしく頼む」
「ヘッ……それじゃあ出発するかよ?」
「ああ……戻ろう」
 
 暴れ出しそうになったジョセットを何とかなだめつつ、キールとドルンは最後に付け加えると少年────
 
 
 元・執行者No.]V 《漆黒の牙》────ヨシュア・アストレイへと告げ、
 
 
 ヨシュアもまた、彼の言葉に応じ、続けた。
 
 
 
 
 
「リベールへ────見えざる影に覆われた地へ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 しばしの間、丘からのぞく大地を見渡したヨシュアは、何かを振り切るようにマフラーを翻し、村を後にしようとした────その直後。
 
 それは突然にして起こった。
 
 彼等の真上……およそ10mほどの空中に3mほどの魔法陣が出現。
 そして魔法陣の中央にどんどん光が収束していく────
 
「な、何だありゃあ!?」
「ま、まさかアレも《結社》の差し金か?!」
 
 突然の事態に慌てふためくキールとドルンだが、側にいたヨシュアはいたって冷静に、
 突如自分達の頭上に出現した魔法陣の光の固まりを見つめ……
 
「────人、なのか?」
「えっ?」
「まずい……このままだと」
 
 収束する光の固まりが、次第に人の形を形成していく姿を見て、ヨシュアは有無をいわさず他の3人に警告を発する。
 
「キールさん、ドルンさん! 人が落ちてくる────片方は僕が受け持つからもう一人の方を!!」
「な、何だってぇ?!」
「何だかよく判らねぇが、とてつもなくヤバいって事かよ!」
 
 突然の事態に思わずうめくが、ウダウダ言っている暇はない。
 愚痴りながらもしっかり足腰を固定し、落ちて来るであろう人物を受け止めるべくドルンとヨシュアが構えると────
 
「何でいきなり真上に落とされるのよぉぉぉぉぉっ!!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 
 予想通り、魔法陣上から出現した二人の人物は重力に引かれて真っ逆さま。
 次第にその落下速度が増す中で、ドルンとヨシュアはそれぞれ落ちてきた人物に狙いを定め────
 
ばすんっ!!
 
 何とかキャッチには成功するものの、落ちてきた衝撃には逆らえず二人とも体勢を崩してそのまま地面へと倒れ込む!
 そのときの衝撃で一時砂煙が二人の周囲に立ちこめ……不安になったジョセットとキールが慌てて駆け寄る。
 
「大丈夫かい、ドルン兄、ヨシュア!?」
「二人とも大丈夫か?!」
「…………………ってて。俺の方は何とか大丈夫だ」
 
 次第に晴れゆく砂煙の中から最初に顔を出したのはドルンの方だった。
 倒れ込んだときにおでこをぶつけたのだろう……苦痛に顔をゆがめながらゆっくりと立ち上がると、抱き上げた人物をジョセットとキールに差し出す。
 
「お……女の子?」
「みたい……だな」
「………って、ヨシュア。お前の方はどうなったんだ?」
 
 受け止めた後の地面激突の衝撃で気絶してしまったのだろう……腕に抱き上げた少女の容態を確認しながら呟くジョセットとドルンだが
 約一名、未だ反応がない事に気付き、キールが尋ねてくる。
 
「………んんっ…んんんんっ」
「な、何だって?」
 
 返ってきたのは妙な呻き声のみ。
 さすがに変だと思ったキールが慌ててヨシュアのいる所へと駆け寄ると────
 
 
「…………いったぁ〜〜。
一体なんだってあんな高い所から落とされなきゃいけないのよ────」
「………………………」
 
 事の有り様を目の当たりにした瞬間、キールは思わず言葉を失った。………いや、正確には“思考が停止”したと言うべきか。
 彼に続くかのようにヨシュアの元へと駆け寄ってきたジョセットは……あまりの光景に思わず赤面して視線をそらす。
 
 しかし、このままというのも戴けないという事で、何とか思考を回復させたキールが言葉を絞り出して────
 
「あー……嬢ちゃんの困惑したい気持ちは痛いほど理解できるんだが────」
「え?」
「いい加減、どいてやった方がいいぞ。ヨシュアは勿論、キミの今後のためにも
 
 ヨシュアの顔をクッション替わりにし、尚かつお尻の下に敷いてしまった少女────
 
 アリサ・バニングスへと告げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 それから数秒後。
 
 ヨシュアは有無をいわさずジョセットとアリサの両名からひっぱたかれた。
 
 
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「うぅ………もうお嫁に行けなぁい……………」
「どうどう、大丈夫だよアリサ。ああやって一応“オシオキ”はしたんだしさ」
「少しはトラブルに巻き込まれたヨシュアに同情してやれよ……」
 
 同じ男としてこんなハプニングは将来的にも御免被りたい一心で、キールが弁護するも、女性陣はまったく意を介さずといった様子。
 
 そんな彼等の様子を目の当たりにし、どう弁護したらいいものやら慌てふためくもう一人の少女────月村すずかに向けてドルンが尋ねる。
 
「まぁヨシュアとアリサのは天災だと思ってひとまず置いといて────空からいきなり降ってくるたぁどういう趣味してやがるんだ?」
「えっと………わたし達にも、いろいろありまして────」
 
 暗に「お前達は何者だ」と聞いているようなドルンの問いに、どう答えたらいいものやらしどろもどろな状態のすずか。
 ……まぁさすがに「いきなり自分達は異世界の人間です」何て公表できるはずもないわけで。
 しばらくの間悩み悩み抜いていると………
 
「ひとまず、君達の置かれた状況を大雑把でいいから説明してほしい。
君達の処遇を決めるのはそれからでも遅くはない────話してくれるね?」
「えっと………その………………」
「言っておくけど、僕は冗談や嘘をこの場でバカ正直に受け止められるような人間じゃないよ。
その場を上手く取り繕おうとは、思わない事。いいね?」
 
 困惑するすずかに、駄目出しとも言えるかの如く、その冷ややかな瞳でヨシュアは彼女を睨み付ける。
 するとますます困惑し……といった無限地獄にはまってしまい、話は膠着状態へと陥ってしまった。
 その様子に耐えかねたのか、キールがヨシュアをなだめながらすずかとアリサに告げる。
 
「落ち着けヨシュア。
────確かに、この子達が何者なのかっていう点は俺も気になる所だが、だからといって脅しかかっても意味ないだろ。
えーと……アリサにすずかだったっけ? 二人が話したくないって言うんだったら俺達はそれでも別に構わない。
ただ、その場合は一緒には行動は出来ないぞ。────信用できない人間を側に置いておけるほど俺達は余裕はない」
「…………………………」
「えっと────ヨシュアさん…ですよね? わたし………話します」
「すずか?!」
 
 ヨシュアがしばらく黙り込んだ矢先に飛び出した、すずかの突然の申し出に、驚いたのはアリサだけではない。
 まさかあっさりと説明に応じてくれるとは思ってもなかったキールやドルンも困惑の色を隠せない様子だ。
 
「アリサちゃん……わたし達は一刻も早くなのはちゃんやジュンイチさん達と合流しなきゃいけない。
でも、今わたし達が持ってる情報だけだと厳しいのは紛れもない事実だよ?」
「………まぁ、そりゃそうだけどさぁ」
「多分……心配はいらないと思うよ? キールさん達、いい人みたいだし」
「褒めてるんだろうけど…………何だか褒められてる気がしねぇなぁ」
 
 などと言いつつも、照れるキール。
 『いい人』と形容されて嬉しくないはずもないのは当然だが、すぐさま気を引き締めて向き直る。
 
 ……………………
 …………
 ……
 
 
「………………………ウソでしょ?」
「ほ、ホントなんだってば!!」
「とは言ってもなぁ……数多くある平行世界を股にかける『時空管理局』だの
《アーティファクト》と同等かそれ以上の危険性を持つ《ロスト・ロギア》だの、いきなり信じろと言う方が無理な話だ」
「やっぱり……そうですよね」
 
 アリサとすずかの説明を受けながらも、未だ半信半疑の様子で食ってかかるジョセットとキールに対し、彼女達は必死になって訴える。
 傍らで4人の様子を観察していたドルンも同様の心境らしく、困り果てた様子でヨシュアに助け船を乞う。
 だが、その当のヨシュアは……しばらく思考を巡らせた後にはっきりと告げた。
 
「………判った。君達の話についてもおおむね理解したし、信じよう。
君達の処遇については────可能な限り戦闘には参加させない事を条件に同行を許可する」
「────! あ……ありがとうございます!!」
「ちょ、ちょっとヨシュア! まさか、ホントに信じるつもりじゃないだろうね?!」
 
 あっさりと二人の説明を理解・信用した事に対し、当事者であるすずか達は思わず手放しで喜び出すも、やはりというかジョセットは納得がいかない様子らしい。
 ものすごい剣幕でヨシュアに食ってかかるが、それでも彼の表情は一切変わらない。
 
「落ち着いて、ジョセット。
……確かに“同行を許可”はしたけど“一緒に共同戦線”は許可していない。ただ単に僕達の後ろにくっついてくる状態の何が不満なんだい?」
「だからなんだよ。
ボク達、これから《結社》の連中にケンカを売りに行くようなもんなんだ。なのにあんな小さい……しかも得体の知れない女の子を同行させるなんて」
「………………………」
「悪いが、俺もジョセットと同意見だ。
ヨシュアの事だから何か考えがあっての事なんだろうが、いずれにしても今の俺達はお尋ね者だ。
遊撃士協会(ギルド)に差し出しに行こうものなら俺達も一緒くたになって牢屋へ逆戻りだぞ」
 
 さらにドルンまで加わってヨシュアを問いただしてきた。
 明らかに反対派の意見が多い中で、ヨシュアは自分の意志を崩すことなく、真っ向から反対してきた二人の方を見つめ、答えを返す。
 
「……いずれにしても、僕達は目的を達成する過程で王国軍と一戦交えなければならなくなる。
彼女達を“戦線に出さない”と称したのはここなんだ。
────いくら行動を共にしていたとはいえ、直接的に犯行に関与していなければリベールの法律では即刻逮捕は難しい。
しばらくの間は重要参考人として任意同行を求められるだろうけど……すでに彼女達の友達とやらも、リベールのギルドとはコンタクトを取ってるはずだ」
「なーる程。上手くいけばあの“ノーテンキ女”が全部何とかしてくれるって寸法だね」
「…………彼女がこの一件を受け持つ確率はそこそこ低いが、それでも賭けてみる価値はあるだろう」
「それにしたって解せねぇよな。
遊撃士協会に保護させるのはまだいいとしても、それこそこの嬢ちゃん達の戯言を信じるってぇのか?」
「…………………………」
 
 ドルンの言い分ももっともだ。
 いかに彼女達が必死で諭しようと、見た目……というか実年齢的にも子供な二人の説明は彼等からしてみれば『子供の可愛い戯れ言』でしかない。
 しかしヨシュアは、その面についてもしっかり観察して、答えを見いだしていた。
 
「僕の見立てでは、彼女達は比較的日の当たる場所で生きてきた人間だ。
当然交渉のための口八丁とかは難しそうだし、何より僕が投げかけてきた質問に1〜2秒ほどの“間を置いて”答えて見せてくれた。
────これは、『嘘を考え』たり、あらかじめ用意しておいた『受け応えのマニュアル』等の手段がない事を示している。
それに────────二人の言うとおり、『時空管理局』がそこまで大がかりな組織ならば、彼女達のような民間協力者を主体としたメンバー選出にはならないはずだ。
正規の組織ならば、当然前線を担当すべき部隊や偵察・斥候を主任務とする部隊だってあるはず……」
「成る程。その“本来出張るべき”の大部隊が寄越されず、こいつ等みたいなちみっ子……それも民間協力者を使っての少人数調査ってことから、それだけ切羽詰まってるってことが予想されるワケか」
「そう取ってくれて構わない」
 
 アリサ達の方へ一度視線を向けた後に、ヨシュアの考察に付け加える形でキールが同意する。
 だがそれでも不安材料はいくつかあるのは事実だ。
 事実、《結社》は実力さえ伴っていれば例え子供であろうがあっさりと自分達の懐へと迎え入れる。
 実際ヨシュアもそういう立場の人間であったために、人一倍それを感じているだろう……言い換えればアリサ達が《結社》の新たなメンバーと推測できても不思議はないはず。
 だがヨシュアはそれをしなかった。……それが気になって仕方ないのかキールは未だに思考を巡らせるものの─────
 
(結局、真に受けてしまう辺り、俺達ってお人好しなのかもしれないな)
 
 結局辿り着いた結論は、先程すずかにも言われた“いい人”な自分達の性分。
 彼女達の見た目はどうも自分達の知っている《結社》のイメージとはかけ離れている様に見えるのもそう結論付いた事に一役買っている。
 ……つくづく自分達は悪党になりきれてないなぁと、軽い自己嫌悪に陥ったキールであった。
 
 ……………………
 …………
 ……
 
「結局、人間ってのはすぐにその場の雰囲気に適応しちまうもんなんだな」
「どういう事なんだい?」
「いや、気にするな。……ただの独り言だから」
 
 半ば呆れた様子で思わず呟くキールに横からヨシュアが尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら適当にあしらう。
 まあヨシュアもキールが思わずうめく理由に心当たりがないわけではない。
 二人が視線を送る、その先には………
 
「……んで、その全力全開の大喧嘩の後にジュンイチがなのは達に“一生守ってやる”宣言しちゃったワケなのよ」
「うーわー、何そのデキの悪いプロポーズのような臭いセリフ!」
「言った本人は全然気付いてなかったですけどね、宣言の“もう一つの意味”に─────」
 
 ………同じ女の子同士、色恋話で花を咲かせているアリサ達に混じって談笑するジョセットがいた。
 普段はこのテの会話は引っ込みがちのすずかでさえ会話に参加している事から、いかにジョセットに馴染んだかが容易に想像できよう。
 しかし……会話の内容が徐々にドス黒くなっていってるような気がしてならないヨシュアはふと3人に尋ねてみる事にした。
 
「あの……3人とも。何をそんなに盛り上がってるの?」
同じ鈍感を身内に抱える身としてアリサと気が合ったんだよ」
「聞けばジョセットさんも似たような鈍感に頭を悩ませてるそうなので、ついつい♪」
「鈍感? しかも身内にって……そんな人いたっけ?
 
 
『……………………』
 
 仲良く笑顔で告げるジョセットとアリサのセリフに、で再び聞き返してきたヨシュアのセリフで場の空気が一瞬にして硬直する。
 
 確認しよう。ヨシュアは本当に心の底からの疑問を彼女達に投げかけてきただけだ。
 加えて言うなら彼の問いには全くの悪意は存在しない。
 まだ知り合って間もないアリサやすずかですら、ジョセットのヨシュアに対する態度の露骨っぷりで、彼女がどういう気持ちでいるのかという事が判るというのに対し、
 ヨシュアの場合全然そういう点に思慮が行っていない。
 
 やがて、硬直状態から復活したアリサが思わずため息混じりに呟く。
 
「─────ジョセットさんが苦労する理由、判った気がする」
「判る?! 判ってくれる、アリサ!!」
「ええ。同じ乙女としてこの所行……許されざるべき大罪よ!」
「はいはい。よく判らないけど僕が悪いのは確かなようだし、素直に謝っておくよ」
 
 結局の所、彼もどっかの誰かさんみたく、『自分が恋愛の当事者にされる』という思考が根本から欠落しているに違いない。
 そう結論付けたアリサ達は再び『年頃の女の子』な会話を楽しそうに始める。しかも内容は次第にエスカレートしていき、彼女達の盛り上がりようもそれに比例する形で異様な様を見せている。
 そんな彼女達の絵が微妙に居心地が悪いと思ったヨシュアは、同じく半ば空気と化していたキール達の元へと歩み寄っていった。
 
「……こういう時は、本当に『女の子って判らない』って思うな」
「全く。これから修羅場を迎えるってのに小娘共は呑気なモンだぜ」
「─────まあ、逆に萎縮して肝心なときに動いてもらえないよりは遥かにマシでしょう。
しばらくは彼女達の好きにさせます」
 
 どうやら呆れているのはヨシュアだけではないようだ。
 これから自分達が挑む相手がいかに強大なものであるかをひしひしと感じているドルン達は未だ緊張した面持ちで歩を進めているだけに
 ジョセット達の気の和み様は拍子抜けというか……ある意味必要以上に緊張感を抜いてくれる。
 
 と……最初に周囲の異変に気付いたのはヨシュアだった。
 辺りの茂みと、崖、様々な場所から異様な殺気が放たれる─────!
 
「皆、気を付けて!! この感じは……!」
「クッ…アリサ、すずか! とりあえず俺の後ろに隠れやがれ!!」
「ドルン兄、二人の事は任せたよ!!」
 
 気配察知と同時に動いたのはヨシュアだった。
 素早く腰に帯刀していた双剣(ツインエッジ)を構え、敵の襲撃に備える。
 それと同時に、非戦闘員扱いのアリサ達をドルンが後方へと下げ、ジョセット、キールと共に各々の武器を構えて戦闘準備完了。
 
 張りつめた空気が場を支配する中、姿を現したのは─────
 
 
 
 
 漆黒のアンダーウェアに甲冑のようなヘルメット、最小限度にとどめられた装甲板を身に纏った黒装束の集団だった。
 
 
「なっ……?!」
「ウソでしょ!!?」
「と、特務兵の残党だと!?」
 
 キールは言葉を失い、ジョセットは自分の目を疑い、ドルンは驚愕の事実に思わず絶叫する。
 そう、彼等の目の前に現れたのは……
 
 かつてアラン・リシャール元大佐を首謀者として、リベール王国にてクーデター事件を引き起こした情報部の主戦力。
 
 ─────特務兵である。
 
「……………………」
「…………………」
 
 驚き続けるドルン達を尻目に、特務兵達はじりじりと……その距離をどんどん縮めていく。
 それと同じくして、彼等もまた後ろへと後退して距離を一定に保つ。
 
 正直ドルン達の実力ならばこのまま正面を切り崩して突破する事は容易なはずである。─────ただ、今の彼等の側にはアリサ達がいる。
 このまま真っ正面からつっこめば間違いなく二人にまで危害が及ぶであろう。
 
 だが……
 
「っ!! 後ろからも来たよ!」
「何だって?!」
 
 アリサの喚起に思わずジョセットが振り返ると、前方と同じようにじりじりと特務兵が距離を縮めてきていた。
 その距離およそ15m……位置的に一番近いジョセットならば何とか二人の護衛くらいは出来そうであるが………
 
「ドルン兄、ヨシュアのバックアップをお願いっ! ボクはアリサ達を守るよっ!!」
「おう、あんまり無茶するんじゃねぇぞ!」
「ジョセットっ!」
「大丈夫さ、ヨシュア! アンタは前を切り崩す事だけ考えて!!」
 
 言いながらアリサ達の前へと駆け出すジョセットを引き留めようと、叫ぶヨシュア。
 確かに彼女の腕ならアリサ達を守れるかもしれないが……
 
(─────反対に言えば、ジョセット自身が危ない!)
 
 ジョセットの得物は導力銃……種類にもよるが、銃使い(ガンナー)とは本来後方支援に徹する役職だ。
 相手の動きを“点”で捉え、正確無比な射撃でもって相手の攻撃を牽制・緩和させて前衛(フロントアタッカー)の戦闘を援護する。
 そんな彼女が、他人を守るために前に出る事…その行為そのものが自殺行為に等しいのだ!
 
(間に合え─────!)
 
─────暗殺剣・絶影!
 
 思考を巡らせるより疾く、剣をかざしたヨシュアは姿勢を低く取ると─── 一気に跳躍。
 高スピードで一直線上の特務兵達をなで斬る!
 
 さしもの特務兵達も一瞬の攻撃に後れを取ったのか、その場に蹲って動けなくなるものの、じきにまた襲いかかってくる。
 それまでに周囲の敵を一掃して───
 
─────暗殺剣・朧!
 
 進路を塞ぐ特務兵を一瞬の元に居合い切り。
 急所を突くその一閃はたちまち特務兵を行動不能に追いやり、進路をヨシュアへと譲る───
 このまま敵を一掃してジョセットの元へと向かえば………
 
─────漆黒の牙!!
 
 キールとドルンが奮戦していた特務兵達も、Sクラフト『漆黒の牙』で一閃。
 一瞬の内に斬り捨てたため、ヨシュアが再び地に足をつけた瞬間にずるずると特務兵達は崩れ落ちた。
 
 距離はもう5mもない──このまま行けば十分に間に合う。
 だが─────
 
「……………………」
 
 容赦なく、特務兵の一人が持っていた機関銃を……アリサへと狙いを定める。
 いかなヨシュアのスピードとは言え、この距離では─────
 
(間に合わない?!)
 
 絶望にも似た感情がヨシュアの思考を支配する。
 だが……この状況は彼にとって初めての光景ではない……しかし、だからこそそれだけは止めたかった。
 
 
 
「力よ───」
 
 そんな中、静かに告げた“彼女”はそう告げると自身のデバイスを起動─────
 常人では全く視認できないスピードで防護服を身に纏うと……
 
 
 
 殴り倒した。
 
 
 それも“女の子の細腕”……しかも“片手”で。
 
 
「いっ!?!」
 
 その光景に驚いたのはヨシュアだけではない。
 側で彼女達を守ろうとしていたジョセットも、口をあんぐりと開けたまま思考停止状態。
 何しろその光景を生み出したのが、他でもない……
 
 先程、ヨシュアが“非戦闘員”扱いした一人、すずかだったのだから。
 
 
「わたしに……この“力”を使わせないでよ─────」
 
 その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 彼女の心に宿る感情は、後悔かはたまた自己嫌悪か───。いずれにしても
 
「わたしが普通の人間じゃないって事実を────突きつけられちゃうんだから!!!」
 
 
 彼女の参戦によって、状況は一変したのは間違いないだろう。
 
 
 
 ……結局、特務兵達は殆どヨシュアの手によって刈り尽くされた。
 
 その後、何か手掛かりになりそうな物を持ってないか、トラップの調査も兼ねた身体チェックをしている内に、一同は奇妙な事に気付いた。
 というよりも、最初に違和感を感じたのはバッタバッタと特務兵達を薙ぎ倒していったヨシュアなワケだが……攻撃したときの感触が人間のそれとは全く別なのである。
 無論ヨシュアの事だ。───無用な殺害を防ぐためにあらかじめ手加減しての事だったのだろうが、それでも思った以上に手応えが悪すぎた。
 
 そして調べてみれば……案の定。
 
 彼等は本物の特務兵でもなければ……人間でもなく………
 与えられた命令に忠実な、ただ壊すだけの機械───人形兵器(オーバーマペット)である。
 
 もちろん調査を買って出たのは機械系に詳しいすずかだ。
 ジョセットやキールも多少は心得はあったものの、人形兵器のそれとなると話は違ってくる─────
 自動人形(ノエルとファリン)という集大成が身近にいるため、彼女の助言はヨシュア達にも非常に参考になっただろう。
 
「……やっぱり、どの特務兵もみーんな歯車や結晶回路……というのを組み合わせて作られたロボットですね」
「ああ、そうみたいだ。
問題は……何故『特務兵の格好をした人形兵器がここを闊歩していたのか』なんだが───」
「その辺の手掛かりもまるでナシ。正直お手上げ状態さ」
 
 すずかの結論にヨシュアが問題定義するも、その辺についてはジョセットが既に調査済みだったらしく、振り出しに戻る一言を漏らしてくれた。
 ただ、現状で判る事は一つだけある。それは……
 
「この人形達は……間違いなく《結社》が作り出した物だろう」
「だろうね。このテのシロモノはリベールの中央工房でも作れないだろうし。……帝国の『ラインフォルト社』とかも同じだと思うよ」
「─────先を急ごう。非常発信器の類はついてないとは思うけど、この場に留まっていても危険なだけだ」
 
 もうこの場に留まる必要はないと察したのか、ヨシュアがきびすを返して進み出した。
 そんな彼に追従する形でジョセットとアリサ達が続き……キールやドルンはひとしきり証拠を隠滅した後に彼の後を追う事となった。
 
 やや競歩気味の速度で進むヨシュアだが、駆け寄ってきたジョセットの方に視線を向けるとそのまま彼女から質問を受ける事となった。
 
「そういえばさ……すずかのアレ、幻じゃない─────んだよね?」
「どうやらそうみたいだ。
だがあれは決して肉体強化系の催眠術や薬品を使用した結果じゃない」
「それじゃ………」
「ああ。彼女は“元からあの身体能力を持ち合わせて”いたんだ。
─────なかなか便利な能力だが、決定打に欠けるのが弱点みたいだし。当初の予定通り、彼女には必要時以外は非戦闘員として扱った方が良さそうだ」
 
 しばし考えた後、いつもの冷ややかな態度と共に吐き捨てたヨシュアのセリフに嫌悪感を抱いたジョセット。
 武器を使ってたらまだマシだったのだろうが、生身の身体でやってのけたという事実がその感情をよりいっそう激しくし……
 
「バカ! 何が『便利な能力』だよ!!
女の子にとって自分の身体が“普通じゃない”って事がどれだけショックか、分かんないの!?」
「────確かに、普通の人からすれば煙たがれる対象になるだろうけど……少なくとも僕達の前では特に気にするべき事じゃないと思うよ?」
「っ! もういい!! ヨシュアのバカ!! 超鈍感!!!」
 
 気がついたらヨシュアに食ってかかって、言いたい放題言った挙げ句にふて腐れてしまった。
 一方、さんざ言いたい放題言われた張本人はというと………
 
(鈍感……か。
エステルの心をああいう形で傷つけてしまった僕は、確かに鈍感なのかもしれない)
 
 彼自身も薄々ではあるが、自覚はしていたようだ。
 思い返すたびに、他にやり様はあったのでは───という考えが浮かぶものの、すぐにその考えが払拭される。
 
 自分は心が壊れたただの人形─────破壊と殺戮を呼ぶ暗殺者──────────
 
 だが彼女は違う。
 
 触れる人間全てを照らし出す、太陽のような輝きと眩しさを持つ“表”の人間。
 
 自分と彼女が同じ道を歩む事は、もう二度とないだろう。
 一度交えば、それはすなわち彼女を自分と同じ道に引き込むのと同意であるのだから。
 ヨシュアにとっては何よりの苦痛であり、一番耐え難い結末─────。
 
「……シュ………」
 
 だからこそ自分は彼女の元から離れた。
 自分の過去を清算し、罪を償うために─────何よりも、彼女(エステル)に幸せになってほしくて──────────
 
「ヨシュアっ!!」
 
 突如大声で呼ばれ、思考が現実へと引き戻される。
 俯いていた顔を上げると、何やら不満そうな表情を浮かべたジョセットが自分を見つめていた。
 
「どうしたんだい、ヨシュア? 怖い顔して……」
「……怖い顔、してた?」
「してましたよ、そりゃもう」
 
 不満から一変し、今度は沈んだ表情を浮かべるジョセットにヨシュアが尋ね返すとアリサがあっさりと告げた。
 よく見ればアリサの顔も微妙に浮かない様子。
 一体何が原因なのだろうと考えていると───────
 
「─────あのさ、『してた?』じゃないよ。第3者のアリサ達から見ても『してた』様に見えたんだから。
そりゃ……今さっきのは言い過ぎたと思うけど───それでも、一緒に行動している以上は少しは相手の気持ちも気遣ってやった方がいいんじゃない?」
「………さっきも言ったけど、僕はあくまで自分の目的を果たすための駒として君達を利用しているだけに過ぎない。勿論アリサやすずかについてもね。
それ以上の馴れ合いは、する必要もないし、義務もないと思う」
「─────っ!!」
 
 冷たく、はっきりと返されたその言葉はジョセットの心に深く突き刺さる。
 その顔は───自分の精一杯の望みが脆くも打ち砕かれた─────そんな絶望感に支配されていて……あまりの痛々しさに見ていられなくて………
 
 気がつけば、アリサはヨシュアに食ってかかっていた。
 
「……あー、もうヨシュアさんといいジュンイチといいっ! どうして男の人ってこうも仏頂面で他人を振り回すかなぁっ!!」
「あ、アリサちゃん?!」
 
 心の叫びにも似た、怒気あふれる大声に思わず隣にいたすずかが萎縮するがそんな事知ったこっちゃない。
 置いてけぼりを食らっている周囲を気にすることなく、アリサはヨシュアへと迫ってきた。
 
「全く! さっきから見てたけどヨシュアさん、他人を自分の懐に招き入れておきながらさんざん振り回して挙げ句の果てに用が終わればポイ捨て?!
人をバカにするのも大概にしてよっ!!
「……バカになんかしてないさ。
僕達の間柄は『利害が一致しただけの協同関係』なんだからね─────そう割り切らないt」
「割り切れるわけないでしょ!! あたし達は女の子なのっ! ううんそうじゃない……あたし達はみんな『心を持った人間』なのよ?!
みんながみんな、ヨシュアさんみたいに割り切れるワケじゃない!! 一緒にいれば情だって湧くし特別な想いを抱く事だってある………」
 
 叫びながらヨシュアを説き伏せようとするアリサの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 
 そう。……アリサにとってヨシュアの対応は絶対に許されざるものであり─────自分達をいつも守ってくれる、“彼”の姿を彷彿とさせるものがあったのだ。
 過去の記憶が蘇り……仲間を避けるように一人、孤独な戦いに戻ろうとしたジュンイチ。
 《結社》の野望を阻止すべく、単身挑もうとエステルの元を離れたヨシュア。
 
 立場は違えど、二人の根底にあるもの……深層心理の中で二人の思考にはある共通点がある。
 その事実に至り、それをどうにかしたい一心でアリサは叫ぶ。
 
「それとも何!?
他人が自分と同じ道を歩む事がそんなに許せないの!?
協力して、一緒に同じ時を歩む事がそんなに怖いの??!
「………………」
 
 息を荒げて絶叫するアリサに、ヨシュアは何も言い返さない────
 ただ眉を密かに動かしたかと思うと、自分の前に出てきたアリサを振り切るように歩き出して……
 
 
「『許せない』とか『怖い』とか、そういう感情を抱く事はないよ。
僕の心は─────10年前のあの日から、とうに壊れているのだから──────────」
 
 背中越しに語るヨシュアの表情が読みとれなくて。
 その真意を読みとる事が出来なくて─────そんなもどかしい想いに……
 
 
 アリサは唇を噛みしめながら再びヨシュアの後を追う。
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
いよいよやってきました王都グランセル! こんなにいい街で《結社》が悪事を企てているなんて……
 
っと、《結社》の調査もいいけど、こっちの方もどうにかしないとだな
 
こっちって……例の「迷子」さんですか?
 
通報者の話によると……かなりおませで気まぐれな女の子らしいぞ
 
一体どんな子なんでしょうね♪
 
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第18話『Mischief of the kitten』
 
リリカル・マジカル!
 
ゴスロリ萌えぇぇぇ“ごすっ”えぶしっ!!!
 

 
−あとがき−
 
 重っ!! 第8話の後半以上に重いっ!!!
 
 ─────のっけから壊れてますがお気になさらず。
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────最近、兄としての立ち位置に真剣に悩んでいるtakkuです。
 
 いやまあ深くは語りませんが……とりあえず、言える事は
 飯を作る作らない云々でいちいち嫁さんに腹を立てるような小さい人間になるなよ弟よ、と(爆)。
 
 というわけで……前回の次回予告と、今回のサブタイトルコールからモリビトさんを始め、多数の方が予想済みだったと思われますが、今回はヨシュアとアリサちゃん達の交流の話です。
 加えて、今までの話とは打って変わっての……いわばB面みたいな位置づけでしたので、今まで普通に書いていた冒頭のやりとりは書いてません。
 ………別に書くネタがなかったワケじゃないやい!←バカ
 まぁそれは置いといて……TWを書いていく中でふと思ったんですが、SC序盤のヨシュアと今現在のジュンイチ君の他人に対する基本姿勢って殆ど同じだなぁと思うようになったのですよ。
 
 『必要以上に他人と関わらない所』とか『守るときは守るけどそれ以外の時の態度は素っ気ない所』
とか『自分が恋愛の当事者になる考えが抜けてる所』とかw
 
 無論なのブレ19〜20話にかけて荒れるジュンイチ君の姿を見てるわけですし、アリサちゃんは。
 そんな彼の態度が許せなくて、ヨシュアの心の奥底に土足で上がり込むくらいの芸当は普通にやってのけられると思います。
 ……問題は土足で上がり込んでも即時退場を言い渡さんばかりのヨシュアの態度ですが、その辺の解決描写についても後々書いていくつもりです。
 
 
 ………ちなみに。
 今回の話、ギャグシーンが片手で数えられるくらいしかなかったのですっごく書き辛かったです。
 あとすずかちゃんの“夜の一族としての力”の発現シーン────勢いでやってしまったため、皆さんの反応が怖い(恐)

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 ヨシュア、アリサ達に出会うなりアレですか……
 「ご愁傷様」と言うべきか「オレと代われ!」と叫ぶべきか(マテ)。

 それはともかく、完全には信用されていないまま仲間に……と思ってたら女性陣があっという間に意気投合。
 まぁ、どっちも朴念仁に振り回されているという点では苦労を分かち合った同志ですし(笑)。

 そして戦闘。すずかは『なのブレ』シリーズでは本編も含め事実上初の直接戦闘ですな。
 “自分が普通の人間じゃない”ということを痛感させられて涙するすずかですが……よくよく考えたらジュンイチも人外な自分にコンプレックスを持ってるひとりだったりするワケで。
 『なのブレ』シリーズではまだ“正体”を現していないジュンイチですが……そのことを知ったすずかの反応が楽しみだったり。
 ……って、モリビトが書かなきゃどーしようもないんですけどね(汗)。

 そしてもう一方、アリサはアリサでヨシュアにお説教(違)。
 takkuさんも言ってる通り、19/20話でのジュンイチの暴走を目の当たりにしていた、そしてそのことに対して本気で怒ることができたアリサだからこそ、ヨシュアの今の態度が許せなかったんでしょうね。
 アリサがヨシュアに対してどんな影響を与えるか、ある意味彼女とジュンイチの今後の関係にも影響を与えそうな気がします。

 

 予告のジュンイチ、またいいカンジで壊れて……(笑)
 相変わらず、takkuさんの描くジュンイチはおもしろおかしく変態チック(爆)。勉強になるなぁ(←するな)。