アガットとアネラスがラヴェンヌ廃坑でケビンと合流したのと時同じくして……。
廃坑よりもさらに南下した先にあるメイン街道『西ボース街道』────
夜の暗闇をオーブメント仕掛けの街灯が点々と照らす中を、不気味に行進する人影があった。
瞳に光は存在せず…虚ろな表情のまま、ただ示された目的のために突き進むだけの人形────────
特務兵を模した人形兵器(オーバーマペット)である。
そんな彼らの周囲を、闇に紛れてふよふよと飛び回る物体が……
『………来たわ』
『周囲に民間人・王国軍、及び敵増援の反応はナシ────いけます!』
「よっしゃ、上出来だぜお嬢ちゃん達。……それじゃ、いくぜぇっ!!」
暗闇に乗じ、策敵及び周辺の安全確認を済ませた少女達の声に答えると、
“彼”は携えていた大型の導力砲を構え直し、身を隠していた木の枝から飛び降りて────
ドゴォォォンッ!!
敵陣中央目がけて特大の一発をお見舞いする!
だが
「キール、お次だ!」
“彼”…ドルンはあくまで囮・攪乱役に過ぎない。
広範囲攻撃に威力を発揮する導力砲で相手の足を止め────
「任せろ兄貴!」
ドドドォォンッ!!
続いて飛び出したキールがお手製の手榴弾でもって、特務兵の長所である『機動力』を完全に黙らせる!
「ジョセット!」
「オッケー!」
続いて呼び出されたジョセットは、キールと同じく手榴弾を特務兵の頭上へと放り投げ……
ダダダンッ!!
ドドドォォンッ!!
導力銃で手榴弾を撃ち抜き、空中で爆破させた!
これによって『目』を潰された連中は体勢を崩し、その場に膝を付く形となり────
「ヨシュア!」
呼ばれて飛び出t────もとい、ジョセットの呼び声に応じたヨシュアが瞬時に特務兵達の背後に回り込む。
音もなく、静かに地に足をつけて双剣を構える様は正に『漆黒の夜に降り立つ魔獣の牙』。
そしてジョセット達が瞬きをした瞬間に、
ヨシュアの姿が消え────
常人では視認できないスピードで地を駆け────
斬ッ!!!
一撃でもって斬り捨てた!!
ドガオォォォォンッ!!!
無言でヨシュアが双剣を鞘に収めると同時、特務兵(人形兵器)達は大爆発を起こし、辺りにガレキや結晶回路の破片が飛び散り、再び夜の街道に静寂が戻った。
「へへ、相変わらず見事な手並みじゃないか」
「……貴方たちこそ、なかなか見事な連携だった。それに────」
キールの言葉に反応し、微笑みと共に返すヨシュアは“彼女達”の方に視線を向け
「アリサとすずかの魔法のお陰もあったしね」
そう。
行動を起こす前にまず確認しなければならなかったのが敵増援の有無と、安全の確認であった。
いくらヨシュアといえども、守るべき対象が増えるとその分動きもそれだけ鈍るし、何より自分達は“目的を達成するために隠密行動をしている”のだ。
ぞろぞろと敵に押し寄せられてきては、その目的の達成も難しくなる。
そこで活躍するのが、アリサとすずかだ。
まずすずかの『サウザンドアイ』でもって周囲の策敵を行い、敵増援のチェックと安全確認を同時に済ませる。
その後、アリサの『ブレインウェブ』にて、すずかの策敵結果を前もってドルン達に渡しておいた通信機を通じて報告。
これによってスムーズに周囲の状況を把握したカプア一家が先陣を切り、後は承知の通りの流れとなる。
「えへへ……あたし達の魔法も結構役に立つでしょ?」
「そうだね────だが、無理は禁物だ。
どう考えても二人の魔法は戦闘向きじゃないし、君らのような指揮・通信・策敵系の能力(スキル)は今の僕達にとっても希少価値が高い。
君らのリーダーも、同じ理由で君たちが前線に出るのを嫌がってたんじゃないかい?」
「うぅっ、気にしてることを────」
自信満々に胸を張って誇り高ぶるアリサの天狗鼻を根本からへし折ってくれた。
ヨシュアに釘を刺されて微妙に凹んでいるアリサをよそに、すずかはそんな二人のやりとりを微笑ましく見守っていた。
ヨシュアと出会ってから不思議と感じていた感覚。それは……
(ヨシュアさん……ジュンイチさんと同じで素っ気ない態度してる裏でちゃんと心配してくれてるんだよね)
「どうしたのさ、すずか?」
「あ…えっと……何でもないですよ、ジョセットさん」
「なら良いけど……って、それよりもこれで10体目だよ? あとどれだけ狩ればいいのさ?」
適当にはぐらかされながらも、ジョセットは今までの重労働を振り返ってヨシュアに尋ねる。
ヨシュアはしばらく唸った後
「そうだな……そろそろ狩りつくしたと思う。王国軍も動くだろうし、この辺りが引き際だろう」
「そうですか……よかったぁ」
ヨシュアの言葉に思わず胸を撫で下ろすすずか。
元々大人しい性格の彼女からしてみれば、こういった戦いの場というのは非常に緊張するモノなのだろう。
しかし、安堵の息をつく彼女とは対照的に他のメンバーの表情は優れないままである。
「しっかし────結社っていうのは何を考えてるのか判らねぇな。どうしてあの黒坊主共の人形なんざ徘徊させてるんだよ?」
「そう、正にそれだぜ。本物の特務兵の残党達は一体何処に行っちまったんだ?」
懸念するは、特務兵を模した人形兵器を徘徊させたであろう《結社》の目的。
調査を開始して幾分か情報が集まった遊撃士協会に対して、情報網を持たない彼らには連中の動向や真意が全く見えてこない。
最悪、自分達の目的に大きく関わってくる事態だけにカプア兄妹の深刻な面持ちも納得である。
「────多分、あのメモにあった『お茶会』の可能性が高い……。人形兵器は、そこから軍の目を逸らすために使われたんだろう」
「なるほどな……どこで何をするかは知らんが、どうにもキナ臭い雰囲気だぜ」
「まあ、俺達が手を貸す義理なんざないんだが────その『お茶会』ってのは放っておいてもいいのかよ?」
「…………………………………………今頃、遊撃士達があの廃坑を捜索しているはずだ。
このまま軍とギルドに任せよう」
「そうそう、メモと設計図を残しただけでも十分だってば。こうしてギルドに代わって人形退治だってしてるんだし」
「あとはあのノーテンキ女に任せておけばいいんだし」と付け加えると、ジョセットは清々した様子で導力銃をホルスターへと納め、再びヨシュアの横に連れ添って歩き出す。
それに遅れる形でドルンとキールも続き、この後に予定されている“作戦”について綿密な打ち合わせをヨシュアとジョセットと共に開始し始めた。
その一方で……
(すずか、どう思う?)
(わたしは……『お茶会』で何が起こるのかが気になるよ。
特務兵さん達のロボットを持ち出してまで、この国の軍隊の注意を引き付けるだなんて……よほど大きな事をしでかそうとしてる気がする)
(とは言っても……肝心の場所が書かれてないんじゃ、対処のしようがないんだけどね〜)
(…………そうとも、言い切れないよ?)
(え?)
ヨシュア達の“目的”とはかけ離れた立ち位置にいるアリサとすずかは、純粋にこの国で起ころうとしている事に思考を巡らせていた。
尋ねるアリサの問いにすずかも、優れない表情のまま答えていることから、未だ確信にいたって以内というのが実情だ。
そんな中でも、一つだけはっきりしていることがある。
メモに“『お茶会』の開かれる場所”が一切記されていなかったことに途方に暮れていたアリサの言葉を中断する形で、すずかが割って入ってくる。
(大きな事をしでかそうとするのなら、必然的に場所は限定されてくる。
クーデターにしろテロにしろ、それらは大概『人が密集している大都市』に限定されるはずだよ。
事を起こせば沢山の人の注目を集めるし、何より犯人グループの隠れられる場所はいくらでもある。よく言うじゃない、『木は森の中に隠せ』────って)
(なるほどね────)
言いかけ、一瞬思考停止。
すずかの説明から推測し、結論に至ったアリサの顔から急速に血の気が引いていく。
(って、ちょっと待って?! すずかの仮説で行くと、その条件に合致するこの国の場所っていったら────)
(………うん。わたしの推理が外れてくれてれば良いんだけど……)
(『お茶会』が行われる可能性が極めて高いのは────)
(女王様のいる街────────『グランセル』だよ)
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
掴めない魔の手。
焦るわたし達をよそに、物語の歯車は音を立てて軋む。
少女は願う。まるでそれは、訴えるかのような真っ直ぐな想い。
重なる想いに戸惑いながらも、わたし達は進み続ける────
魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
第21話「怪盗紳士の真意。そして……」
「はぁ……ふぅ………」
「どうしたのなのは、ため息ついて」
「あ────フェイトちゃん……」
唯一無二の親友が声をかけたというのに、ギルドのグランセル支部3階にある待機室で項垂れたまま返事を返すなのは。
見れば完全に脱力しきっており、やる気というか覇気というか、そういった諸々のオーラがまとめて鎮火してしまったような…そんな感じ。
しかもこれが朝から今現在に至るまでずっと続いているのである。
……や、もちろん原因は分かり切っている。というかそれ以外に心当たりはないし。
「朝起きてみたら、エステルさんやティータちゃん…それにレンちゃんも、いつの間にかいなくなって……
エルナンさんの話だと、昨日の聞き込み調査の報告書をシード中佐に提出に行ったってことだけど………」
要は自分達を置き去りにしてとっとと仕事に出かけてしまった姉貴分への欲求不満(←違)ということだ。
不戦条約の調印式までもう残り日数もあまりないため、早起きして報告書を提出しに行こうと算段をしていた……のまでは良かったのだが。
「なのはもわたしも、疲れてたんだよきっと。
だからエステルさん達、気を遣ってくれたんじゃないかな?」
「うん……疲れてたんだろうね、きっと。
でもそれは────ゲームのやりすぎで夜更かししていたわたし達が言えるセリフじゃないよ」
なのはの自棄じみたツッコミに、返す言葉もないフェイト。
……一応フォローしておくと、『ゲーム』とはいってもオセロやチェスなどといったもので、切り上げようと思えばいつでも終えることは出来た。
……しかし、この二人の場合は違う。
元来の負けず嫌いに加え、普段こういった形で遊ぶ機会もあまりないことから、一度付いた勝負師魂の炎は鎮火の気配すら見せずむしろバーニングラン。
気が付けば白熱に白熱を重ね、午前4時。
いっそのことそのまま徹ゲーしてしまおうかという思いがふと脳裏を過ぎったが、シード中佐とも顔を合わせることにもなるし……ということで
手遅れながらも一応就寝。そして二人が起きたのが午前8時半すぎ────対してエステル達3人が起きたのが午前6時ちょっとすぎ位。
私的な理由で自爆した結果による2時間以上の寝坊とあらば、なのはが凹むのは支局当然といえるだろう。
「うぅ……エステルさんに申し訳が立たない………」
「なのは、元気出して。わたしが起こしてあげられれば良かったんだけど……」
「ううん、フェイトちゃんのせいじゃないよ……」
何だか互いにフォローし合う度に土壺にはまっていってるのは、恐らく気のせいではないと思われる。
とまあこんな感じで、朝起きてから凹みっぱなしな為に……
「どうでした、恭也さん?」
「……ダメだな。何か気を紛らわせるきっかけでもない限り、アレはずっとあのままだ」
「俺はまだ付き合いが浅いから何とも言えんが……あの様子だとかなりの落ち込みようだな」
クローゼが尋ねると恭也は両手の平を天上へ向け、『お手上げ』のポーズを取りながら答える。
その横で、ジンもまた、初めて見るなのはとフェイトのひどい落ち込み様を目の当たりにして正直な感想を打ち明けた。
原因が彼女達にあるといっても、あの落ち込み様はリベール組からすれば信じ難い光景なのだろう。
まあ、常に先陣切って行動してきた二人があそこまで凹む姿を見せつけられては無理もないのだが。
「なのはもそうですけど……フェイトも負けず劣らず責任感が強いですから。原因が原因だけに一層責任を感じてるんじゃないでしょうか?」
「フム、そうか……。
────恭也君、“気を紛らわせれば”少なくともあの二人は確実に立ち直るわけだね?」
「まあ……きっかけさえあれば、の話ですが」
問いかけるオリビエに恭也も自信なさげに答える。
少なくともこういった事態でのフォローをする場合、彼のそれは妹(美由希)に丸投げしていたのだ。
まあジュンイチがメンバーに加わってからは、そのフォローの殆どを彼が一手に担っていたが。
……とにかく、そういった事情もあってか恭也自身こういった時の処方についての知識がかなり乏しい。故にオリビエの問いにも確固たる自信を持って断言をすることが出来なかったのだ。
しかし、恭也の返事を受けオリビエは
「────どうだろう、彼女達にギルドの仕事を手伝ってもらうというのは?
幸か不幸か、グランセルでも細々とした依頼は結構来てるみたいだし、エステル君達が帰ってくるまでに皆でいくつか片付けておくと。
エステル君大助かり=なのは君&フェイト君立ち直る…そして街の人達も大助かり。まさに一石二鳥じゃあないか♪」
「それはいいですね。ジンさんとしてはどうでしょう?」
「魔獣退治の依頼もそれなりに来てるみたいだしな。これだけの手練れがいれば何とかなるだろう」
突然のオリビエの提案に一瞬どよめくが、この場にいた唯一の遊撃士であるジンの一声であっさりと承認。
あれよあれよという間にパーティ編成まで滞りなく済んでしまった。
……ちなみにこの間、恭也達異世界組は一切口を挟んでいない。いや、挟めなかったといった方が適当か。
なんだかオリビエの目つきが尋常じゃなかった事が非常に印象的だったが。
結局────
発案者(オリビエ)と賛同者(ジン、恭也、クローゼ)、そして当事者達(なのは、フェイト)で担当することとなった。
……………………
…………
……
支度を終え、掲示板の依頼を確認したなのは達は、グランセル東街区へとやってきていた。
ちなみにグランセルは、ギルドや飲食店・武器・オーブメント工房からなる南街区に、先日一同が宿泊したホテルのある北街区……
ナイアル達の勤める『リベール通信社』やグランセル大聖堂等が所在する西街区、そして今なのは達がいるのが、
王都の中で最大の規模を誇るスーパーマーケット『エーデル百貨店』に国立競技場『グランアリーナ』、そして各国の大使館等が所在する。
今回なのは達が訪れるのは、東街区の北側に位置する『歴史資料館』という場所で、
かつてこの世界で繁栄の絶頂にあった『古代ゼムリア文明』時代から近代に至るまでの資料や古代文明の遺物《アーティファクト》等を展示している、いわば、王国の歴史の語り人のような場所なのだ。
無論、展示されているものの殆どが、学術的に価値の高いものばかりなのは明白な為、一同はそれに絡んだ依頼だろうと推測していた。
「おや、君たちは?」
「ちょいとすいません。遊撃士協会の者で、掲示板に出された依頼を見て来たんですがね……」
「おお、待っていたよ。早速依頼の話をするが構わないかね?」
「ええ、問題ありませんぜ。それで、一体何を盗まれたんですかい?」
「それなんだが……」
言って館長と思わしき中年の男性が視線を向けた先には……壁。
いや、よく見るとわずかに“何かが掛けてあった跡”がついていた。そして横に視線を向けると、数々の額縁に納められた写真。
「君たち、この辺りを見て何か違和感を感じないかね?」
「違和感……? 見たところ飛行船の写真が展示されているコーナーのようですが」
「言われてみると……何かが物足りない様な気が」
「────判った。確かこの壁には《アルセイユ》の写真が飾ってあったと思うよ」
「ふぇっ!? ここに、アルセイユの写真が?!」
さらりと言ってのけたオリビエの言葉に驚愕するなのは。
────アルセイユとは
ツァイス中央工房が開発したリベール王室親衛隊が保有する高速巡洋艦の事で
その洗練されたフォルムと、既存の導力飛行船を遙かに凌駕する飛行性能を誇っていることで国内外を問わず、その名を轟かせている。
ツァイスにいた時、ティータを始めとする技術者一同が嬉々とした表情で写真とデータを見せてきたことから
なのは達もかなり色濃く印象に残っていたのだが……
「ボクも王都見物のとき、ここで写真を見た記憶があるからね。もしかしたらと思ったんだ」
「ということは、盗まれたのはそのアルセイユの写真ってワケか」
「うむ、お察しの通りだ。会館前には確かにあったんだが1時間ほど前にはいつの間にか無くなっていてね……代わりにこんなカードが壁に貼り付けてあったんだ」
──────待て。
何だかどっかで見たことあるぞこの展開。
具体的にはルーアンでの一幕……もっと言えば王立学園旧校舎で。
思わず息を飲んでカードを覗き込んだ瞬間、なのはと恭也は一気に虚脱して軽い頭痛を覚えた。
『麗しの姫君とその共等よ。気高き白鷹の写し絵は我が手中へと舞い降りた。
これを求めんとするならば我が挑戦に応えるがよい。
第一の鍵は老将の居に。「時の傍観者」を探れ』
「………………………」
「────ツァイスで暗躍していた怪盗男か」
「フッ、どうやらこのボクに対抗心を燃やしているようだね」
「怪盗紳士ブルブラン……《身喰らう蛇》の執行者か。話には聞いていたが、ずいぶん傾(かぶ)いた男のようだな」
「というよりもただの馬鹿です変態です畜生です」
ジンの言葉を受け、これ以上にない皮肉の言葉を陳列する恭也。
……きっと“妹(なのは)を盗んでやる発言”をどこかで耳にし、そのことが彼の逆鱗に触れていたようだ。
「ほう、犯人に心当たりがあるのかね? それは心強い、よろしく頼んだよ」
「相判りました。……それじゃ早速調べに行くとするか」
「調べるのはいいんですけど、──『老将』って誰のことなんでしょう?」
館主とのやりとりを程々に切り上げ、捜査に向かおうとするジンになのはが尋ねる。
リベールに滞在し始めて幾らか経ったものの、やはり詳しい事は現地(次元世界)の人間にしか判らない。
改めてその事を痛感しながら尋ねる彼女に、ジンは優しく微笑みながら答える。
「まあ気にするな。エステルほどじゃないが俺だって何度か王都で仕事をしてるんだ」
自信満々に告げたジンは、先導するように資料館の入り口へと歩を進め────
「ついてこい二人とも。俺の“A級”看板が伊達じゃないって事を見せてやる」
こうして、一同がジンに引き連れられてやってきた先は西街区……グランセル大聖堂のすぐ側に佇む一軒の立派な屋敷。
まさか、一般家庭の中にヒントが隠されてるとでも言うのだろうか?
当然、気になったのかなのはが再び尋ねる。
「あの────ジンさん、ここって」
「ん、この屋敷か? ここはモルガン将軍のご自宅だそうだ」
「モルガン将軍って……確かエステルさんのお父さんと一緒にいらっしゃる王国軍の?」
「成る程。これまでの“試験”は常に一定のルールの中で厳正に行われていた。そしてあの怪盗紳士という男は自分から提案したルールをねじ曲げるような者ではない」
ジンの一言で、ようやく全てが繋がったといった感じで声をあげるオリビエ。
言われてみればルーアンでの一件、ツァイスでの依頼、そして今回の事件……全て定められたルールの中で執り行われている。
それは例えば『ゴールへ至るヒント』だったり、『ヒントの捜索エリア』だったり────
何よりあのプライドの高い男のことだ。オリビエの言う通り、余程のことがない限りルールを勝手に変えたりという所業はしないだろう。
「つまりそこから察するに……このグランセル市内に限定した話で“老将”と“時の傍観者”………この二つのキーワードを組み合わせた答えが────」
「この家の中に隠されてるって事ですね」
「ああ、その可能性は高い」
「フッ、中を調べさせてもらう必要がありそうだね」
その後なのは達は、宅住の人達に相談して時計を確かめさせてもらうことにした。
最初は半信半疑だった家の人も、真剣な面持ちで説得してくるジンの姿に折れたのか、一緒に固唾をのんで見守っていた。
そして……ひとしきり調べ終わると、裏蓋に貼り付けられていたカードを剥がす。
「『第二の鍵は市中に。「地に留まった象徴」を探れ』────どうやら、睨んだ通りだったか」
「まあ……!」
「まさか家の中にそんな物が仕掛けられていたなんて!」
夫人やお就きのメイドも、自分達の預かり知らない所でこんなものを貼り付けられていたのだから、恐怖を感じるのも当然である。
まああのプライドの高い“怪盗紳士”に限って言えば、例え姿を見られたとしても自ら進んで殺生を働くなんて事はあり得ないと思うが。
ルーアンで僅かながらも、彼の人となりを垣間見ていたなのはは優しく夫人達に語りかける。
「えっと……多分この家への悪意があってやった訳じゃないはずですから安心してもらっても大丈夫だと思います。
でも、念のために夜はしっかりと戸締まりをしてください」
「は、はい!」
「ええ、気をつけますわ」
まぁあのバ怪盗に関して言えば、戸締まりなどあってないようなものだろうが……そこはあえて突っ込まない事にしよう。
なのは達の共通の見解がそれだった。
「ふむ、それでは次に行ってみるとしようか。……えっと確か次のキーワードは」
「『地に留まった象徴』────確かリベール王国の紋章に白ハヤブサの絵が描かれてましたよね?」
「ああ、確かにリベールの“象徴”たる鳥だが……調べてみる価値はありそうだ。まずはそっち関連から洗ってみる事にしようか」
「はい! この調子でどんどんいっちゃいましょう!!」
第1のキーワードを無難にクリアした事で、なのはにも若干の余裕が生まれたようだ。
ジンの問いかけにも難なく答え、意気揚々と『王都市内の白ハヤブサ』を捜すべく行動を開始する。
そんな中………一人沈黙を守っている人物が
「………………」
「妹君がご活躍される様子は、兄君としていかがなものかな?」
「──何故そこで俺に尋ねるんですか」
「いやぁ、可憐に……そして健気に成長していく様を見れるのは、兄の特権だと羨ましく思っている限りなのさ」
イジらしく、微妙に上目遣いで訊ねてくるオリビエに対して嫌悪感を抱きつつも、恭也は聞き返す。
そんな恭也の態度を知ってか知らずか、オリビエは愛用のリュートを取り出すと、軽く指を弾いて曲のイントロらしき箇所を奏でだした。
正直、かなりウザい。
「別に、俺はそんな疚しい気持ちなんか持ってないですよ」
「それじゃ、なんでなのは君達に任せっきりで君は沈黙を守り通してるんだい?」
「このような謎解きは苦手分野なので、なのは達に丸投げするしかないだけです」
「………ドンマイ」
せめて兄としての尊厳を見せるために、出来ないながらも頑張ればいいのに……などと心中で呟くオリビエだったが、
体裁を重んじる恭也ならそれはないだろうな(←酷)と、勝手に結論付けてなのは達の後を追う事にした。
無論、リュートは弾きっぱなしで。
それから一同は、あちこちを捜索した結果、待ちの入り口に噴水と共に佇んでいた白ハヤブサの銅像を発見。
……一瞬ジークに括り付けたんじゃあ? という考えが過ぎったが、今現在彼はクローゼの側についている。そして彼女の側には美由希が待機中。
いくら執行者と云えど、自分の貞操を守るために奮起するであろう戦乙女×2をまとめて相手にはしたくないだろうという結論にいたって、現在地にいる。
を囲むようにして周囲をくまなく捜索。
そして…フェイトが北側の鉄索の根本を調べると案の定カードが貼り付けられていた。
「『第三の鍵は異国の館に。「蒼き騎士の決意」を見よ』か────とりあえず正解みたいですけど『蒼き騎士』って、一体何のことでしょう?」
「王国親衛隊の隊士達の事じゃないか? 雑誌で見たが、彼らも“蒼色の制服”を纏っていたぞ」
「いや、『異国の館』と言っているのに親衛隊では筋が通らないだろう。何よりも美しくないから他の可能性を当たるべきだと思うよ?」
さらりと毒を吐くオリビエの言葉に、ガクッと項垂れる一同。
確かに同次元の“怪盗紳士”の事だから、美的センスもキーワードの一つなのかも知れないが……
「それ……何げに親衛隊の人達に失礼ですよ?」
「少なくとも、親衛隊隊長のユリア大尉はそうかもしれないが他の隊員達はいかがなものかと思うよ?」
「……………」
(まあ、似た者同士の言うことだし、ここは忠告に従った方がいいかな)
(ですね………)
自身の忠告にも耳を貸さず、さらに毒を吐くオリビエにもはや黙るしかない恭也。
ちなみに、オリビエの話に出てきた人物は、現在の王室親衛隊の隊長を務める《ユリア・シュバルツ》大尉の事。
女性ながらその剣の腕前はクローゼをも凌駕し、事実上……彼女に剣の指南をした人物でもある。
その凛とした姿に魅了された隠れ女性ファンの数は、日に日に増してきているとの噂だが……だからといって他の隊員達と比較する理由にはならないと思う。
「異国の館………異国の館…………あ」
「なんだ、どうした恭也?」
「いえ────《異国》と聞いて最初に思い浮かんだのがエレボニア、カルバード両国大使館だったものですから」
「……………」
3枚目のカードに書かれたキーワードを反芻する内に、ふと大使館の存在が頭に浮かんだ恭也は声を漏らした。
訊ねてくるジンに答え返す様子からも、自信の無さが伺える。────実際、ジンも説明を受けた直後は呆然とした様子だったが。
「さ、さすがに安直すぎましたよね」
「いや、可能性はあるぞ」
「へ?」
どうやら呆然としていたのではなく、可能性を探っていたらしい。
ニヤリと告げるジンの答えに、恭也もさすがに面を食らってしまい、かなり間抜けなリアクションを取ってしまう。
結局そのまま、ジンの押し切り問答でまずはカルバード大使館の方から調べる事となった。
……………………
…………
……
「あれ? ジンさんじゃないッスか。今日も大勢引き連れていったいどうしたんスか?」
「ああ、ちょいと遊撃士の仕事で大使館に用があってな。また大勢引き入れることになるが構わないか?」
「ええ、その点は大丈夫ッス」
大使館前にて仕事中の歩哨の兵士に声を掛け、なのは達の立ち入り許可を求めるとあっさり承諾される。
大使館への聞き込み調査の時も、彼はジンに対して親しみを感じさせる対応をしていたことから、ジンって結構兄貴分的な立ち位置として定着しているのかもしれない。
と………
「ところで兵士さん……このカードに書かれてる『蒼き騎士の決意』って、何のことだか判りますか?」
「へ? 蒼き……なんだって?」
「これです」
そういってフェイトが、ブルブランから送られたメッセージカードを差し出すと、
門番の兵士はしばらく唸った後
「………獣耳と短パンと蒼いマントがトレードマークの彼の事じゃないよね?」
「微妙に違いますソレ」
というか異世界の作品だろうに何で知ってるんだこの門番は。
勿論冗談だったらしく、申し訳なさそうに微笑しながら言い直す。
「申し訳ないッス。────んで、肝心の意味のことッスけど……多分これ『人形の騎士』の事じゃないッスかね?」
「『人形の……騎士?』」
「その名の通り、騎士を模した操り人形が人形使いの少年と共に織りなす物語が魅力の、青少年向け小説(ジュヴナイル)ってやつッス。
恐らく『蒼き騎士』っていうのは主人公の少年が作った操り人形のことッス」
「へぇ……なるほど」
「そこまで詳しいって事は、お前さんもその小説のファンか何かか?」
「ファンという程ではないッスけど、それなりに名の知れた小説ッスよ。ウチの大使館の図書室にも一応陳列されてるッスよ?」
もの詳しそうに説明する兵士にジンが尋ねると、彼ははにかみながら受け答えをする。
とりあえず、ほとんど心当たりのない状態での手探り捜査になりかねなかっただけに、光明が見えてきたのは事実だし、正直有り難かった。
「……すまないな、お陰で捜索のいいヒントになりそうだ」
「お役に立てたのなら幸いッス。ところで────」
「何だ?」
「お連れさん達は……ジンさんのご兄妹? それともお子さん?」
「ソレは何か? 俺が老けて見えるとかそういう所から来てるのか、そうなんだな?」
素で尋ねてくる兵士に対し、ジンは自慢の拳をワナワナと震わせて威嚇してきた。
ソレカラソレカラ...
大使室へと向かう途中の部屋に、ソレはずらりと勢揃いしていた。
『人形の騎士』……全22巻。大の大人でも、フルで読み通すのにはかなりの時間と労力を使うボリュームのある作品。
本のぶ厚さを目の当たりにした恭也なんて、一瞬睡魔が襲ってくるほどなのだから相当なものなのだろう。それでもなのはとフェイトは率先して1巻から順に片っ端から探っていく。
「うぅ………目がチカチカする」
「が、頑張ろ…なのは」
なのはを励ますフェイトも、やや充血気味だった。
ただでさえ寝不足な中、眠い目を擦りつつ目的の一説を探すために、文字通り血眼になって探し続ける。
程なくして……ページを捲っていくと、中間あたりでふと堅い物があるのかページが捲りづらくなり、もしやと思って調べてみると……
案の定カードが挟まれていた。内容は
「『既に扉は開かれた。「猛者たちの舞踏会」に参加せよ』か────」
「こ、こんな所に……」
「でもま、恭也が予測したとおり、この場所は治外法権が適用されて共和国の領内扱いになる……まさに『異国の館』という訳だ」
「蒼き騎士の正体も、判ったことですしね」
「しかし────えらく手の込んだマネをしてくれるな怪盗紳士は。だが、それもこれで最後みたいだ」
「『猛者たちの舞踏会』か……さて、どこの場所のことだろうね」
オリビエが微笑と共にそうつぶやく中、ジンはある程度目的の場所に当たりを付けていた。
……というか、“目的の場所”にはオリビエも十分すぎるくらい関わっているだろうに。
オリビエの薄笑いは多分そこから来てるんだろうなと結論付けつつも、一行は目的地を目指すことになった……。
その場所とは────
エレボニア、カルバード両国の大使館と共に佇む国立競技場、『グランアリーナ』である。
……………………
…………
……
「あれ、扉が開いてますよ? ……鍵もかかってないですし」
グランアリーナの入り口に到着し、ドアノブに手をかけたなのはが気付き、呟く。
もしかして……一同の予想は限りなく核心へと迫りつつあったようだ。
「──────ここの入り口は武術大会などの催しがない時には常に施錠されているはずです。だとしたら……」
「フッ、どうやらここが最終的な目的地のようだね」
「それじゃ……入りますよ…………?」
クローゼの一言が後押しとなり、決定的となった最後の舞台。
ブルブランの真意の程は判りかねるが、それでも事件を解決させるためには前に進むしかない。
意を決したなのは達は、ゆっくりと入り口のドアを開き、窓から僅かに照らされる、薄暗いアリーナの中へと進んでいった。
……………………
…………
……
「グランアリーナか、何だか懐かしいな。それほど時間が経っていないのに不思議なもんだぜ」
「フッ、こうして立っているとあの時の歓声が聞こえてくるようだね」
薄暗い通路を、施錠されていないドア沿いに進んでいった先にあったものは、四角く仕切られたフィールド。
広さはおおむねサッカーコートと同じくらいだろうか。
そして左右に広がるのはかなり大きめの観覧席。
……どうやら、一同はブルブランに導かれるように闘技場の中へと誘い込まれたようだ。
そんな中、ジンとオリビエは昔の懐かしい光景を再びかみしめるように、眉を細めて辺りを見回す。
「確かエステルさん達は武術大会を勝ち抜いて、グランセル城に招待されたんですよね?」
「ああそうだ。しかし……今回の騒動が片づいたら来年の武術大会にも出場してみたいな。リベールの遊撃士協会には揃いも揃って手練れが大勢いるからな」
クローゼの問いかけにジンは笑顔で答え……今はこの場にいないエステルやシェラザード、そしてアガット達の事を思い出す。
「フッ、それではボクはエステル君達を応援する歌を観客席で歌わせてもらおうかな。愛を込めて、力の限りね」
「………愛はいらないと思うんですけど」
「くすくす……」
恭也のツッコミなどどこ吹く風。
再びリュードをどこからともなく取り出すと、また歌いだした。
……いい加減こんなカオスにも慣れていいのだろうが、恭也はどうもこういうのは受け入れがたいらしい。
思いっきり顔をひきつらせつつ、目頭を押さえ始める。
などとやっていると、突如辺りに冷ややかな空気が流れた。
ただの冷たい空気などではなく、その中に含まれる『それ』に恭也とジンはすぐに気付いた。
二人が構えると同時に目の前に現れたのは、氷漬けになったクリオネのような外見の魔獣。
巨大な親玉魔獣の脇には同じような形をした小型タイプの魔獣がフヨフヨと浮かんでいる。
「こ、氷の魔獣?!」
「どうやら古代の闘技場と同じ趣向のつもりらしいな……」
「フッ、舞台としては悪くない。ただ────観客が不在なのがいささか物足りないがね」
「……来ます!」
驚くフェイトを余所に、ジンとオリビエは昔ながらの趣向というのを理解しているのか、終始余裕と言った表情。
だが、そんな余裕もクローゼの一声で一気にかき消される。
本体とも言える巨大な魔獣は動く気配は見られず、周囲の小さな魔獣が中心となって一同を責め立てる。
宙を飛べることをいい事に、前後左右に上下と、縦横無尽に飛び回り、攻撃を仕掛けてきた。
しかも、ただの攻撃ではない。
攻撃を間一髪で避わしたクローゼが、攻撃の掠った部分が凍結していることに気付いた。
「……凍結効果付きの魔獣というわけか。オリビエ、火属性のアーツを頼めるか?」
「フッ、任せてくれたm────
言いかけて自分めがけて襲いかかろうとする“何か”に気付いたオリビエはとっさに前転してそれを回避する。
見ると、先ほどの小さな魔獣がオリビエの頭上をフヨフヨと飛んでいた。
……かわし切れてなかったら、凍結するだけでなく、脳震盪のオマケまで付いてきてたんじゃないかと戦々恐々とする。
「あー……、ジン殿? ひょっとして、ボク」
「連中にマークされてしまったか。魔獣の割にはなかなか知恵が回ると見える」
などと言ってる間にも、小さい魔獣は執拗にオリビエを狙ってくる。そして……飛び回っていた魔獣の一体が彼めがけて襲いかかってきた!
「やらせるかっ!!」
持ち前のスピードを生かしてオリビエと魔獣との間に割って入った恭也は、両手の小太刀を十字に交差させて魔獣の突進を受け……
「はぁっ!」
突進時の勢いを利用して上方へと受け流す。
そしてすぐさま次の攻撃に備えて両の小太刀を構える。
「すまない恭也君、助かったよ」
「礼は後で結構です。それよりも早くアーツを────」
言いかけた恭也はとっさにオリビエの首根っこを掴んでそのまま後方へバックステップ。
『ぐぇ』という生々しい呻き声が聞こえるがこの際無視
……だが、時すでに遅し。
『オォォォォォォォォッ!!』
巨大な魔獣の雄叫びと共に、辺りの空気が冷たく刺すようなモノに変わり……上に視線を向けると、そこには巨大な氷。
そこから吹き降ろす形で強烈な冷気がオリビエを直撃する!
「あぁぁぁれぇぇぇぇぇ〜〜」
何とも脱力間に満ちあふれる断末魔と共に、オリビエは周囲の水分を纏って凍結。
見覚えのある導力魔法(アーツ)の姿に、クローゼは思わず身震いした。
「『ダイアモンドダスト』……水属性の凍結効果を持つアーツですね」
「なるほどな……細かいのに攻撃を任せっきりにしてたかと思ったら、デカいのはアーツの詠唱をしてたのか」
「えぇっ?! 魔獣でも魔法を使うことができるんですか!?」
冷静に状況を分析するジンとクローゼに対して、驚きの声を上げるフェイト。
そりゃそうだ。自分達魔導士が魔法を使うためにはエネルギーである魔力を始め、
魔法を構築するためのプログラム……どれかが欠けても成り立たせることは不可能なのだから。
それを持ち合わせることが不可能である“人間以外”の生物が魔法を使用することは理論上不可能なはず。
だが、導力魔法(オーバルアーツ)に関しては話は違ってくる。
なぜなら魔獣は導力器(オーブメント)の働きを担う結晶回路(クォーツ)。これの材料となる七曜石(セプチウム)に惹かれ、そしてそれを体内に取り込む習性を持つ。
なので体内で七曜石を結晶回路のそれと同等の働きをするように合成することも不可能ではないのだ。
その事をクローゼがフェイト達に教えると、さらに二人の表情は曇る。
「となると……いろんな意味で厄介ですね」
「そうだな。細かいのは打たれ弱い分速度と追加効果で相手を牽制し、デカい奴の魔法で一気に一網打尽だ」
「でも先に本体を攻撃しようにも、周りの牽族に阻まれて簡単には近寄れない……」
なのはとフェイトは唸りつつもジンとやりとりをする。 ……こっちの世界に来てからそれなりの数の魔獣とやりとりをしてきたつもりだが、これほどのタチの悪い輩は初めてだったからだ。
それでも────二人の表情には絶望の二文字は浮かんでいなかった。
「……なのは」
「うん。────ジンさん、わたし達で何とか巨大な魔獣も含めて、敵のフォーメーションを一気に崩します」
「だからジンさんはその後に間髪入れずに本体にトドメを願いします」
「出来るか?」
ジンの問いかけにも力強く頷いてみせるなのはとフェイト。
一方のジンも、二人の実力をすでに十分に知っている上での最終確認としての問いかけであったわけで────
「……よし、なら恭也も二人のサポートに回ってくれ。姫殿下は後方で回復や補助を頼む」
「了解しました」
「分かりました!」
掛け声と共に、一斉に配置につく一同。
その中、なのはとフェイトは……
「いくよ、なのは!」
「オッケー、フェイトちゃん!!」
言ってなのはは飛行魔法を展開。一気に跳躍して小型の魔獣達から距離をとる。
その一方で、フェイトはバルディッシュを変形させてサイズフォームへ。そしてそのまま敵陣めがけて突撃する。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
力の限り振りかざした一閃によって、2〜3体の魔獣が仰け反りながら大型魔獣の方へと吹き飛ばされる。
それで止まることなく、フェイトは再び加速して他の小型魔獣も同様に大型魔獣の方へと吹き飛ばしていく。
なお、それに加勢するのは御神の剣士────
「遅いっ!」
叫びつつ恭也は小太刀を返して刃と峰を逆転させ……突進時の勢いを利用して一体ずつ小型魔獣に一閃を打ち込み、衝撃で吹き飛ばす。
そして大小の魔獣が一塊になったところで……
《Restrict Lock!!》
レイジングハートが唱えると同時に、魔獣達の周囲に4本の環状魔法陣が出現し、次第にその大きさを縮めていき……彼らを一気に縛り上げる!
「フェイトちゃん!」
「いくよ、なのは!!」
叫んで、レイジングハートは音叉形状の『シューティングモード』……バルディッシュは基本な斧形態の『デバイスフォーム』へと、二人はそれぞれ変形させ────
二人の足下に四角と円が入り交じった形状が特徴のミッド式魔法陣が展開される。
同時、二人のデバイスの先端には紫電を伴いながら収束される彼女らの魔力。
それを放つトリガーを────今言い放つ!
「ディバイィィィンッ!!」
「サンダァァァァァッ!!」
「「バスタ(スマッシャ)ァァァァァァァァァッ!!!!」」
魔力球から解き放たれるように発射された力の奔流は衝撃波と地響きを伴いながら敵陣へと迫っていき、そのまま衝突する!!
「「せぇぇぇのっ!!」」
最後の掛け声と共に、さらに太さが増す二人の砲撃魔法。
巨大魔獣も抵抗しようと試みるも、さすがに魔力の流れが強すぎてこれ以上足掻くことが出来ないでいる。
そして────
ドゴォォォォンッ!!
力の拮抗に耐えられなくなったのか、砲撃魔法の着弾点か爆発が広がっていき……盛大な地響きと衝撃を伴って大爆発となる。
……だが、そんな二人のコンビネーションを以てしても、魔獣をすべて倒すことは無理だったようで。
巨大魔獣だけがなんとかその場に留まっているといった感じだ。後の小型魔獣は件並み消滅してセピスを残していた。
「さすがだな。これなら十分俺でもこのデカブツを吹き飛ばせる────」
そんな中、ジンは余裕の笑みを浮かべつつ呟き……
両の足をしっかり土地に付け、腰を落として重心を安定させると両手を右の懐へと抱え込み『力』を練り上げる。
ジンの継承する泰斗流は、自身の肉体だけでなく、『気』のエネルギーをも相手を制するための武器とする。
……どっかの戦闘民族みたいだとかいうツッコミは却下。というか今はそんなメタなやり取りをしている場合ではない。
話が脱線したが、ジンは自身の『気』を攻撃手段とする他にも、相手の自然治癒力を高めたり自己の能力を一時的に上昇させたりする、
いわゆる『気功』の技を持っているのだ。そして今行っているのも、そんな技の一つ……というか奥義。
「奥義!」
自身の両の掌で包み、纏めるように凝縮した『気』ははちきれんばかりの勢い。
それを右手で体の正面につきだし、ジンは叫ぶ。
「雷神掌ぉぉぉぉっ!!」
放たれた気功の力は先程の彼女達の砲撃魔法にも勝るとも劣らない迫力。
弾速はバスターやスマッシャーに比べるとやや遅めだが、それでもバインドで拘束状態にある魔獣にとっては何の意味もない。
その距離はどんどん迫っていき、魔獣の半透明な表皮が雷神掌の青い光で染まりきった時……
ドガゴォォォォォォンッ!!!
大爆発を引き起こして魔獣をせん滅する!!
爆発によって舞った土煙が晴れると、そこには魔獣の姿はなく、あるのは多数のセピスのみ。
と────
シュンッ!
まるで転送魔法でも使ったかのように、一瞬のうちに宝箱が出現してきた。
「わわっ……宝箱が急に!」
「まるで魔法を使ったみたいだった────」
すでにブルブランの手品を見ているなのはですらこの驚きようなので、全てはそこから察してほしい。
驚きっぱなしのフェイトの横で、ジンは微妙に複雑な表情を浮かべるしかなかった。
「はあ……予想していた以上にふざけた性格のようだな。まあいい、とっとと中身を調べてみることにしようぜ」
「そうですね」
言いつつも、クローゼが宝箱の前まで近づいていき、フタを開ける。
────箱の底にはカードが貼り付けられてあった。
『我が姫、我が好敵手、そして勇敢なる遊撃士諸君よ。
趣向をこらした我がもてなし、楽しんで貰えたかな?
主役の機嫌を損ねたくないのでそろそろ脇役は退場させてもらおう。
次なる邂逅を楽しみにしておきたまえ』
「次なる邂逅って……こんなのがあと何回続くんだろう────はぁ」
「ある意味ストーカー以上にタチが悪いな」
ここまで来ると恭也の表情も呆れよりも警戒のそれに取って代わりつつあるようだ。
……まああれだけ好き勝手やってこちらを振り回すだけ振り回したあげくのオチがこれなのだから。
だがそれ以上に気になるフレーズがいくつか。
「でも、何だか気になることも書かれていますね。“主役”とか“脇役”って一体どういう意味なんでしょうか?」
「あの男のことだ────何かしらの意味があるんだろうが、現時点でそれを詮索しても進展はない。とりあえず……」
今ここで議論していても何の解決にもならない。
そう踏んだジンは適当に話を纏めると、その場で回れ右をして
「…………コイツをいいかげん元に戻してから、写真を一刻も早く資料館に返しに行くぞ」
そういってジンが視線を向けた先には────
未だオリビエが『シェー』のポーズのまま、実に良い笑顔で凍り漬けになっていた。
……………………
…………
……
「いや、本当に助かったよ。ありがとう」
そう言ってニコニコ顔の館長さんの後方には、一同が取り戻した『アルセイユ』の写真。
何とか無事に帰ってきた事で、心の底から安堵しているようだ。
「……しかし、その怪盗とやらはどうしてアルセイユの写真なんかを盗んだりしたんだろうね?
立派ではあるが、写真である以上大した価値にはならんだろうに」
「まあ……どちらかというとわたし達への挑戦状のような物ですから………そういった意味ではごめんなさい。
資料館の皆さんを巻き込んじゃって────」
なのはの言うとおり、今回の一件はブルブランの自分達への個人的な挑戦だ。
そう言った意味ではこの資料館の職員達は理不尽なとばっちりを食らったようなものなので、さすがに申し訳ない表情で謝る。
「はは、謝る必要はないさ。君たちの仕業じゃないんだし。────とにかく、本当にご苦労だったね」
「はい、ご協力頂き本当にありがとうございました」
こうして、王都にて発生した奇妙な盗難事件は一応の終結を向かえた。
だが……事件を引き起こした張本人であるブルブランを逮捕しない限りは、いつかまた同様の事件を繰り返すことだろう。
────事件を解決したはずなのに、本当の意味で解決したことにはならない。
なのはとフェイトの心中は複雑だった……。
……………………
…………
……
「ふふ……流石は私が認めた戦士達だ。そして麗しの姫殿下に戦乙女達も相変わらず美しい…………」
エーデル百貨店の屋上にて、歴史資料館から出てくるなのは達の姿を見届けるように佇むのは、例の変態紳s────もとい、怪盗紳士・ブルブラン。
相変わらずその表情の真意は、仮面によって隠されており、全てを察することなど出来はしない。
すると…………
『相変わらず、貴方のやることには理解に苦しむわね』
ふと、ブルブランの耳元に聞いたことのある声が響く。
艶やかで、透き通るような────だがそれでいて、どこか覇気の含んだような暗いトーンの女性の声。
そしてその声は、ブルブランにとってもはや聞きなれた声で……
まるで景色から溶け出すように、誰もいない場所から“彼女”は姿を現した。
全身を限りなく黒に近い紫のローブで身を包み、右袖から姿を見せている右腕には、一本の杖。
先端には菱形形状をした朱色の宝石がはめ込まれ、その周囲を漆黒の金属板が覆っている。
そんな杖を手にした女性は、コツコツと杖を突きながらブルブランの側へと歩み寄る。
「────あれ等が例の?」
「うむ。
これがなかなかどうして……遊撃士の者達はもちろんだが、協力者の者達や異世界から突如としてやってきた者達も相当の実力者揃い」
言ってブルブランは先頭を歩くジンに、それに続くクローゼ、そしてなのはとフェイトへ視線を移す。
「どの者達も甲乙付け難いほどの……内なる美しさを秘めている」
「そう…………でも、そんなのは私には関係ないわ」
実にバッサリと言いのける女性に、さすがのブルブランも黙り込んでしまう。
しかし、女性はそんな変態紳士に構うことなく回れ右をしてその場を立ち去ろうとする。
「おや? もう帰ってしまうのか?」
「様子見に来た程度だもの……もう目的は十分果たしたわ」
そう言って女性の身体は、再び透明化────
次第に周囲の景色に同化する中、女性は呟いた。
「…………待ってなさい、フェイト。
もうすぐ────もうすぐあなたに現実を教えてあげる」
to be continued...
次回予告
グランセルの街をあちこち歩き回って、いなくなったレンちゃんを捜すわたし達
……本人は、『仕事』『仕事』なエステル達に甘えたいだけだったみたいだな
ってお兄ちゃん、レンちゃんをあんまり責めちゃ駄目だよ?
何を言う失礼な。ジュンイチじゃあるまいし
……ある意味納得できてしまうのは何でだろう?
そして帰ってきたレンから受け取った手紙で、事態は急展開を見せる
え────ヨシュアさんからの……手紙?
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第22話『求め、求められる愛』
あ……あれ? なんだか、から…だ……が………
くっ、ジュンイチ……早く、帰っ…て……こい…………
−リリなの連合緊急特別集会(兼あとがき)−
ジュンイチ「…………それでは、判決を言い渡す」
ユーノ「…………」←複雑な表情
シェラザード「…………」←目を閉じて俯く
takku「……………………」←黒焦げ&ボロボロ
全員、暗い面持ちで被告人に視線を向ける。そして……
ジュンイチ「判決、死刑〜♪」←すごい良い笑顔
全員『死っ刑〜〜♪』←上に同じ
takku「ちょ、ちょっと待って! こ、これには深い理由がっ!!」
ユーノ「……スーパーロボット大戦Z(ボソッ)」
…………う゛っ
シェラザード「ZWEIU(ツー)にフォーチュンサモナーズDelux、スパロボNEO、Like a Butler、かしましコミュニケーション、むげフロEXCEEDに軌跡シリーズ最新作の『零の軌跡』」
…………う゛う゛っ
ジュンイチ「純粋にリアルの都合上(仕事や家庭の都合)なら、まだ分かる。けど……けどなぁ!」
全員すぅっと深く息を吸い込み、そして叫ぶ。
全員『普通に個人的な理由で更新止めてんじゃねぇよテメェ(あなた)わっ!!!』
…………返す言葉もございません。
ユーノ「……まあ、こうしてまた執筆再開してくれたんですから、もう何も言いませんけど。
あ、みなさんお久しぶりです、第15話以来すっかり背景と同化してしまっていたユーノです」
takku「シュールすぎるぞユーノ!」
ジュンイチ「そうだぞユーノ! 気をしっかり持て!!」
ユーノ「前々回から出番が無くても何故か存在感たっぷりなジュンイチさんが言わないでくださいよ」
正確には第6話が終わった辺りから彼の存在感に陰りが見え始めてきたんですよね。
────人間、やっぱり慣れない事はするもんじゃありません。
シェラザード「いつまでそうやってメタな会話を続けるつもり?
────とりあえず、どうしようもないバカ筆者は放置しておいて久方ぶりの更新でずいぶんとまぁやらかしたようじゃないの」
ジュンイチ「なのはとフェイトの合体ワザっすか?」
ジュンイチの問いかけに頷くシェラザード。
だが、それだけではないのか、やや表情が曇っている。
シェラザード「問題なのは…………あのバ怪盗と多少のやりとりをしていた“あの女”の事よ」
ユーノ「複線にしてはかなりネタバレ臭が漂ってきますよね。というかカンの良い人は普通に誰なのか気付くかも」
takku「仕方ないでしょ、ここ逃したらもう相当先まで出番がないんだから“彼女”は。
何気にこれからのストーリーに密接に関わってくる重要なキャラだけに、ユーノと違って影を薄くさせるわけにはいかなかったのさ」
言うと、ユーノがものすごい勢いで崩れ落ちて号泣する。
僅かにのぞく瞳はもはや死んだ魚のそれだ。
シェラザード「あなた……普通にえげつない事するわね」
takku「まあとりあえず放置の方向で。むしろこういう扱いこそがユーノのキャラを引き立てる良いアクセントになるかと」
シェラザード「…………」←もうダメだと思っている
というわけで、今回も何気に尺を使っているのでそろそろお開きにしたいと思います。
ジュンイチ「ところでtakku。人伝で聞いたんだが、お前ついにオリジナル小説を連載しだしたらしいな。ここ(Dream Laboratory)とは別の場所の小説投稿サイトで」
シェラザード「しかも、そこのサイトで知り合った人が書いてる作品とのクロスも計画してるそうじゃない?」
takku「────ナンノコトデスカ? ワタシニハナンノコトヤラ」
ジュンイチ「そのリアクションで十分過ぎる位に分かるわいっ!!
お前この小説だけでも毎話四苦八苦しながら書いてるのに何やってんだよ?!」
それでも10年以上前から温めてきた作品ですので、なんとか形にはしたい…………のです。
いつか落ち着いたら『ブレイカー』とのクロスを書きたいなぁと思う今日この頃です。
……恐れ多い気持ちが99%位ありますがorz
管理人感想
takkuさんからいただきました!
相変わらずあのバ怪盗は好き勝手やってますねー。なまじ第三者の“巻き込み方”が悪らつでない分いろんな意味で始末が悪い。
そしてオリビエも相変わらずフリーダム。扱いも相変わらず軽いですけど(苦笑)。
ただ、予告のラストを見た限り何やら次回はピンチフラグ?
どうなることかとハラハラしながら続きを待たせていただきます。
……ついでに「クローゼ×ジュンイチはまだかっ!?」とヤキモキしながら(爆)。