8月3日 A.M.13:38 場所…リベール王国 メーヴェ海道、ルーアン入り口
 
 孤児院を発ってから幾数分、ようやく街の入り口付近にまでさしかかったエステル達は、ハッとした様子で突然立ち止まった。
 
 
「あぁ………しまったぁ。林道の魔獣退治の依頼、忘れてたわ」
「何や、そんなエステルちゃんらしゅうもないで?」
「心配無用よケビン神父。このコは前からこんな感じだから。
忘れっぽくて、手帳に依頼内容とか書いててもろくすっぽ確認すらしようとしないのよ?」
「ちょっとシェラ姉っ!!」
「あら、ホントの事でしょ?」
「うぅ……そりゃ、そうだけどさぁ」
 
 
 シェラザードの毒気にふてくされてしまうエステル。……どういう仕事なのかは知らないが、
 自分に任された任務を忘れてしまうなど、ジュンイチからすれば素人の愚行とも言える失態である。─────だが、あれだけ沢山の出来事があったのだから細かい事はあまり考えてる暇はないのかもしれない。
 それに、エステルの気質というものもあるし………とさりげなく心中で付け加える。
 
 
「────しゃーねーな。その魔獣退治の依頼、オレも手伝ってやるぜ」
「えっ、いいの?! そりゃジュンイチのような手練れが手伝ってくれるのは嬉しいけど……あんた達って確か友達と家族を捜さなきゃならないんじゃ?」
「それくらいだったらなのは一人でも出来る。先にコイツを街の方に行かせて適当にやらせるさ……大丈夫、心配いらない。コイツの強さはもうイヤと言うほどよく分かってるだろ?
それに………今はとにかく体を動かして”アレ”の事を考えないようにしたいのが正直な所だ
「─────気持ちが痛いほどよく理解できるから、あえてノーコメントにしとくわ」
 
 
 同じオカルト嫌いのエステルがジュンイチの気持ちを汲み、満面の笑顔で同意する。
 一方のシェラザードは『コイツもか……』といった表情でジュンイチを見つめていた─────短い期間でしかないが、何だかんだで似たもの同士なのだろう。
 早速別の意味で意気投合している二人の有様をみて何とも先行きが不安になる。
 
 ややあって話がまとまったのか、エステルはなのはの元へと歩み寄り、襟に止められていたバッジを外し、なのはの前にかざす。
 
 
「それじゃ、なのはちゃん。あたし達ちょっと魔獣にオシオキしに行ってくるから、街の中央にこのバッジと同じ柄の看板が掲げてある建物に行って待ってて。
─────あ、出来ればそこにいる人にこれまでの経緯を説明して貰えると助かるな」
「はぁい、分かりました」
 
 
 オシオキという不穏極まりない表現は多分ジュンイチの影響だろう。となるとあまり深くつっこむ必要もない─────というか、つっこむべきではない。
 あっさりと納得したなのはは、一端エステル達に別れを告げ……海港都市『ルーアン』の地を踏んだ。
 
 
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 淡い潮風の漂う、白き華やかな街に潜む黒き影。
 
 立ち向かうは人々の心の礎とならんとする人たち。
 
 果てしなき愛の先に待つ、究極の美を追い求める異国の人。
 
 水のように澄んでて、穏やかで……だけど、秘めたる意志は何物にも負けない強さを持つ────そんな人。
 
 紡ぐ絆は、やがて大きな力となる。
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
第3話「ラブ・イズ・エターナル」
 
 
 8月3日 A.M.13:45 場所…リベール王国 遊撃士協会ルーアン支部、受付
 
 
 街には行ってすぐ、目的の建物は見つかった。
 ひっきりなしに沢山の人が出入りし、書類に書き込んで受付の男性に話し込む。
 ジュンイチほどではないが、洞察力に関しては並の少女以上であるなのはも、ここがただの職場ではない事は理解できていた。
 ……先程エステルが漏らしていた魔獣退治に付け加え、遺跡調査や荷物運搬。果ては落とし物の探索とその依頼内容も千差万別だ。
 ただここまで安請け合いしてたら、それこそ節操ナシのような気が……などと思ったがその考えはすぐに払拭される事となる。
 
 
「えと……お嬢ちゃん、どうしたの?」
「あ、ごめんなさい─────とある人にここで待っておくようにって言われたものですから……あ、お兄さん受付の人ですよね?」
「ん、そうだよ? ジャンっていうんだ。……君は?」
「なのはです─────高町なのは。」
 
 
 受付担当の青年─────ジャンは、対応業務が一段落したのか先程からウロウロして落ち着かないなのはに話しかけてきた。
 容姿はごく普通の男性で、茶髪がかった黒髪に金色の瞳……まん丸の、自らの姉のそれよりもやや小さめのメガネをしていた。
 
 
「なのはちゃんか……ギルド(ココ)で待ち合わせって事は、遊撃士の誰かと?」
あ、はい。確か…………エステルさんとシェラザードさん。
お二人からわたしの────あ、本当はもう一人同行してる人がいるんですけど、わたし達の今までの経緯を説明しておいてくれって
「成る程ね。……とりあえずイスに座って、ゆっくりしてなよ」
「お言葉に甘えさせていただきます♪」
 
 
 どうやらエステル達は、ココでは結構顔なじみらしい。二人の名前を聞くなり笑顔がほころぶジャンの様子を見て、何となく察するなのは。
 せっかくの申し出を無下にするのもアレなので、カウンター席に座り大人しくさせて貰った。
 
 それからしばらくして、奥からお茶を持ってきたジャンに(ジュンイチ仕込みの)”真実の入り交じったウソ”になるが、これまでの経緯をジャンに説明する。
 ジャンの方は……特にあざ笑うようなそぶりは見せず、むしろ真剣になのはの説明に耳を傾ける。─────どんな相手にしても、こういう仕事ってやっぱり最初の信用が大事だよねとつくづくサービス業の苦労面を感じ取った数分間だった。
 
 
「────────オッケー。とりあえず他の支部にも捜索願を出しておくから、何かあったらすぐに知らせるよ」
「ありがとうございます、ジャンさん♪」
「なぁに礼には及ばないよ。─────どっちみち捜索するのはエステル君達だしね……ふふっ、さらにジャンジャンバリバリ働いて貰おうかぁ
「……………………………」
 
 
 不穏当極まりないぼやきを小声でなのはに聞こえないよう、つぶやくジャンだったが怪しい笑顔までは隠しきれなかった。
 その様子に『遊撃士って本当に大変なお仕事だなぁ』と間違った認識を植え付けられたなのはだった。
 
 
「ただいまぁ─────」
「お、帰ってきたな」
 
 
 入り口の方で聞き慣れた声が響いてきて、声の主達が受付の方へとやってきた。
 ─────無事に魔獣退治を終え、ボロボロとなったエステル達だ。……や、正確にはボロボロになってないのが約一名。
 そのたった一人の猛者に、なのはは笑顔で告げた。
 
 
「落ち着きました? ジュンイチさん」
「まぁな。……しかし実際あの程度の魔獣じゃ肩慣らしにもならなかったし、やや物足りない感じではあるわな」
「よくゆーわよ。雷光弾とか雷鳴斬とかは似たようなの使ってる人がいるからいいとして、何よアレ?! 普段の身体能力すら普通の人間を遙かに超越してるじゃない!!」
「っていうか、むしろあたし達が他のザコ魔獣相手にしてる間にサクッと大物を退治しちゃってたのが問題ありきね
………ホントにただの旅行者?」
「ま、まぁそこら辺は……ジュンイチさんだからという事で」
 
 
 なんとか思いつく限りのフォローをしたつもりだが、正直な所自信はない。
 だってやらかした後の事態とか被害とか成人式の時に節操もなく暴れまくる新成人よりタチが悪いもんジュンイチだから。
 なので多分エステル達の傷も、6割くらいはジュンイチの戦闘時のとばっちりによるものだろうなぁと納得し、なのはは話を続けた。
 
 
「うぅ────せめて周りにもうちょっと気を配って戦ってくれたら立派な正義の味方なのに……」
「ははっ、なかなかどうして。面白い事態になってるじゃないか」
「ジャンさん、笑い事じゃないんだからね?」
「ひとまず報告したいんだけど、いいかしら……?」
「はいはい……(おぉ、怖)」
 
 
 まるでこのやり取りを楽しんでるようにしか聞こえないジャンの一言に、こめかみに血管マークを浮き出させながら警告をするエステル達。
 ────多分これ以上余計な事を言おうものなら、翌日にはジャンは……ここルーアンの魚の餌になっている事だろう。
 
 
「と────ちょっと報告の前にみんなに逢わせたい人物がいるんだ」
「逢わせたい……人?」
──────邪魔するぜ
「あぁっ………ナイアル! それに、ドロシーも?!」
「エステルちゃーん、お久しぶり〜♪」
 
 
 突然ジャンが話題変換、彼が告げると同時に階段から下りてくる男女────
 しゃしゃくれ煙草をくわえた男性、ナイアルとピンク髪にちっちゃな丸メガネとそばかすが特徴的な女性、ドロシーは笑顔でエステル達の元へと歩み寄る。
 だが、当然といえば当然なのだが初対面で………しかも見た目民間人っぽいなのは達の姿を見て少し間の抜けた顔をする。
 
 
そちらさんとは初対面だよな。……リベール通信社の敏腕記者、ナイアル・バーンズだ」
「同じく、天才カメラマンのドロシー・ハイアットで〜っす!」
「(自分で敏腕とか天才とか言ってるよヲイ…)────柾木ジュンイチ。んでこっちが高町なのは」
「ど、どうも」
「わぁ〜、なのはちゃんカワイイですね〜〜♪ 何歳なの?」
「9歳です」
『9歳?!』
 
 
 ナイアルやドロシーは多少程度だったが…実際になのはの”力”を目の当たりにし、尚かつまだ彼女達の年齢を訊いてなかったエステルとシェラザードは心底ビビった。
 なぜなら知り合いの少女ですら12歳で、戦闘では多少ひ弱な所もあるが何とか足手まといにはならないレベルなのである。だがなのはは、その”彼女”を遙かに上回っていた。
 何というか………色々な意味で。
 
 
(9歳にしてあの凶悪な強さかぁ……このコもこのコで常人離れしてる気がする)
(大丈夫、あともう一人おんなじ様なのがいるから。……だってあだ名が少女だぜ?)
(すっごく不名誉なあだ名……)
 
 
 周囲の面々に聞こえないよう、音量を下げて会話するエステルとジュンイチ。まぁあれだけ派手に砲撃戦を繰り広げれば誰だってなのはが
 年齢一桁だなんて思いたくもなくなる。『自分もかつて似たような感想を持った事あるからなぁ』とジュンイチが付け加えると、エステルは改めてナイアル達に尋ねる。
 
 
「そういえば、ナイアル達どうしてルーアンに?」
「例の市長選挙の取材をするつもりでやってきたんだが……その課程で幽霊騒動に出くわしちまってな。一緒に調査する事になっちまった訳だ」
「あ、なるほど」
 
 
 エステル疑問氷解。
 だが、ココでもう一人頭の上に”?”マークを浮かべているなのはがエステルに尋ねる。
 
 
「────えと、幽霊調査は皆さん不安になるでしょうから調査するからいいとして……何故に市長選挙と幽霊騒動が繋がるんですか?」
「あぁそっか。なのはちゃん達はこっちの事情、説明してなかったわね
簡単に説明するけど、孤児院の放火を命じたのが前のルーアン市長で……、事件が明るみに出て、前市長は逮捕されて、ここ最近までは市長代理が王都から派遣されてたんだけど────
一週間くらい前かな? 正式にルーアン地方の市長選が行われる事になったのよ。だけどね……」
「幽霊の目撃情報が、それぞれの市長候補の事務所が差し向けたイヤガラセだっていううわさがたっちゃってね。これはマズイと言うことでギルドに依頼が挙がったわけ」
「そっか……その誤解を解いて、無事に選挙を終わらせる為にエステルさん達は頑張ってらっしゃるんですね」
 
 
 なのはがエステル達に笑顔で告げると、何だかこそばゆい感じがして、つられて彼女達も笑顔がこぼれる。
 ナイアルがギルドを訪れたのも同様の理由らしいが、どうもそれだけが用件ではないようだ。
 
 
「実は、君達が調査している間に市街で別の目撃情報があってね。市民の間にも動揺がさらに広がりつつあるんだよ────そして極めつけが、ドロシーさんが撮った写真さ。
これはかなり有力な手がかりになると思うんだけど」
「写真って………まさか────」
「ま、まままままままままままさかっ!!!!? し、しししししししし心霊しゃっしゃしゃしゃしゃしゃ写真??!!」
(あぁ────ジュンイチさんとエステルさん……せっかく元に戻ったかと思ったらまた”スイッチ”入っちゃった)
 
 
 特にジュンイチが一番重度だ。
 ジャンの一言を耳にするなり、速攻で受付室の隅っこでガクガクブルブルと震え始め、その震えようは軽く地響きを起こすほどだった。
 ……後に、この振動がルーアン市街を襲った謎の弱規模地震などとご近所の奥様方の話題を独占したかどうかは別の話である。
 もはやココまでくると精神病の類である。なのはは心の中で軽く手のシワとシワを合わせ、つぶやいた。
 
 
(ご愁傷様です……………)
 
 
 とりあえず、今現在のジュンイチに構ってても話が進まない。シェラザードは使い物にならなくなったジュンイチを一端ギルドの外に放り投げると
 写真の持ち主であるドロシーに尋ねた。
 
 
「それで、ドロシーさん。……ホントに心霊写真なの?」
「うーん、どうなんでしょう? ホテルから夜景を撮っていたら偶然に写ってたもんだからよく分からないんですけど〜
────────とりあえず見てください〜〜」
 
 
 そういってドロシーが差し出した写真には……確かに写っていた。
 この街の北西部に建っている灯台のすぐ右に、白く輝く人影が──────
 …ジュンイチほどではないが、写真に写る”ソレ”を目の当たりにして、開いた口がふさがらずに放心状態となるエステル。
 ……こんな調子で大丈夫なんだろうか? とちょっと頭痛がしたナイアルだった。
 
 
「はぁ……これは決定的かもね」
「これは────まごうことなき心霊写s」
「あはは……そう決めつけるのはまだ早いわよ。
オーバルカメラの調子が悪かったのかもしれないし──────」
 
 
 なのはの一言を遮り、最後の希望にすがるエステル。だが……
 
 
「う〜ん、故障って事はあり得ないと思うよ〜
 
 
 希望はドロシー嬢の手によって脆くも打ち砕かれました。
 
 
「中央工房で買った最新機種だしぃ、メンテナンスもバッチリだもの〜〜」
「そういうコトにしといてってばっ!!」
「────エステルちゃん、コワイ………」
 
 
 必死に”そう思いこみたい”エステルに鬼気迫る何かを感じ、怯えたじろぐドロシー。
 だが、話だけはそんな彼女を放っといてジャンとシェラザードを中心にどんどん進んでいく。
 
 
「まぁそういう訳で、かなーり具体性を帯びちゃってきてるんだけど……この件はマスコミと協力しても損はないと思う。
早速各地での聞き込み結果の報告をしてくれないか?」
「分かったわ────一応、ルーアンを含めて全部で3カ所回ったけど……」
 
「た、大変だ〜〜〜〜!!」
 
 
 シェラザードが言いかけると、大声で叫びながら一人の男性がギルドに駆け込んできた。
 男性のただならぬ様子に、表情が引き締まるエステル達。
 
 
「ど、どうしたの? そんなに慌てて?!」
「まさか、魔獣の被害!?」
「いや、違うんだ! ノーマンさんとポルトスさんの支持者達が言い争いを始めてしまって……ラングランド大橋で睨み合ってる状態なんだ!!」
「あ、あんですって〜〜!?」
「ノーマンとポルトスって言えば、どちらも市長選の候補じゃない……って、もしかして」
 
 
 騒動の原因には心当たりがありすぎた。先程懸念していた”噂”が真実のように一人歩きし、市民を動揺させたのだろう。
 急いで止めようと駆け出そうとしたとき、ナイアルはぱぁっと表情を輝かせた。
 
 
「ほぉ、こりゃ面白そうなネタだぜ────ドロシー、とっとと行くぞ!! 最前席を確保するんだっ!!」
「アイアイサー♪ エステルちゃん達、まったね〜〜〜」
 
 
 これ以上にないくらいの笑顔でナイアル達は猛ダッシュ。あっという間にギルドから立ち去ってしまった。
 
 
「な、なんて素早い────」
「大丈夫ですか? エステルさん……」
「あたしは問題ないけど…シェラ姉、どうする? 止めに行った方がいいよね?」
「そうね、喧嘩になりそうだったら間に入って仲裁しなきゃ」
「あ、じゃあわたし、野次馬の人たちの誘導をします。……こういうのは人数多い方がいいでしょうから」
「って、なのはちゃんが?! 一人で誘導できる?! ────て、いらぬ心配か」
「────────???」
 
 
 『いざとなれば砲撃で脅せばいいだろうし』などと物騒極まりない結論付けをするとエステル達は急いで市街中央に架かる『ラングランド大橋』へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 8月3日 A.M.14:01 場所…リベール王国 ルーアン市街中央 ラングランド大橋
 
 
 エステル達が駆けつけたときには、両陣営ともかなりヒートアップしている様子だった。
 あちこちから罵声が飛び交い、両岸沿いにはかなりの野次馬が集結している。────今この状況で両陣営が喧嘩に突っ走ったら多数の怪我人が、最悪の場合死者だって出る可能性がある。
 とりあえず、当初の予定通りエステル達はノーマン陣営の後方に……なのはは橋の入り口付近で待機。最悪の場合に備える。
 
 
「あちゃぁ……エキサイトしてるわねぇ。────シェラ姉、止めた方がいいかな?」
「まだ喧嘩は始まってないし、出るのは早いかもしれない。でもいざ喧嘩が始まったらすぐに仲裁できる場所に移動したい所だけど」
「この混雑具合では、それも難しいですね……それにちゃっかりナイアルさん達最前列を確保してますし」
 
 
 なのはの言うとおり、自分達が後方で困り果てながら見ている最中、ナイアルとドロシーはきちんと候補者のすぐ後ろ……つまり最前列の特等席をゲットしていた。
 だてに敏腕記者名乗ってなく、こういうときはホント素早いのは如何なものだろうか?
 
 
「もう我慢できねぇ!!」
「手前ぇらみたいな軟弱野郎共が腕っ節で勝てると思うなよ!!」
「じょ、上等だ! やってやろうじゃないか!!」
「ノーマンさんの名誉は僕たちノーマン商会員が守るっ!!」
 
 
 ポルトス陣営の男性が、一人啖呵を切ると続けて他の人も、つられてノーマン陣営もどんどんテンションがあがっていく。
 両陣の中心人物である、ノーマンとポルトスも何とか落ち着かせようと説得を試みるが、熱さが限界近くにまで達し始めていた支持者達を止めるのは彼等でももはや不可能に近かった。
 
 
(やばっ!!)
(急いで止めないと……と言いたいけど、正直これはきついわね)
(どっ、どうしましょう?!)
 
 
 止められないのか……エステル達が諦めかけた、その時。
 
 
『フッ、悲しいことだね────』
 
 
 ───────突如辺りに響く弦楽器の音色……。ギターとは違う、高みのある音色────おそらくリュートだろう。同時に遠くから語りかける男性の声。
 一体何事かと辺りを見回す市民となのは……だが、エステルとシェラザードは、静かに…溜息をついた。
 
 二人の視線の先には……リュートをひっさげてボートに乗り、河口から金髪の青年がやってきたのだった。
 青年は不敵な笑みを浮かべつつ、ゆっくりと一同に告げた。
 
 
「争いは何も生み出さない……ただ虚しい亀裂を生み出すだけさ。
そんな君達に、歌を贈ろう。心の断絶を乗り越えて、お互いに手を取り合えるような────そんな優しくも切ない歌を」
 
 
言って青年はリュートを構え……何を思ったか本当に歌い出した。
 
 
『♪陽の光 写す 虹の橋  掛け渡り 君の元へ……
求めれば 空に 溶け消えて  寂しいと 風が舞う……♪』
 
 
 この状況で歌い出すとは相当の肝っ玉の持ち主か、はたまた物好きか変態か。
 ……………多分全部だろうなと、半ば諦め半分でその状況を見守るなのは。と─────
 
 
『♪届くことのない 儚い願いなら  せめて一つ傷w』
「空気読んでくださいよオリビエさん、皆さん引いちゃってるじゃないですか」
「ぬおっ、な、何をするんだユーノ君! 今、せっかくサビに入った所だというのにっ!!」
 
 
 ラングランド大橋にいた全員が思わずずっこけた。
 
 
 「…と、とりあえず─────皆感じてくれたようだね。ただ一つの真実……それは
愛は永遠ということを。今風に言えば、『ラブ・イズ・エターナル』♪
 
 
 そう告げると青年の周囲にバラが咲き乱れ、キラキラと輝き出す画面効果がw
 青年と……何故か彼に同行していたフェレット形態のユーノによって完全に毒気を抜かれてしまったノーマン陣営とポルトス陣営の支持者達は早々にその場を立ち去っていく。
 かくいうエステル達も、かつて一度経験している目の前のやり取りに対し、頭痛に加え、目眩と腹痛までしてきた気がした。
 
 
「み、みんな逃げた」
(はぁ……またこのパターンか─────って、今さっきあのフェレット、しゃべってなかった?!)
「ユーノ君っ!!」
 
 
シェラザードがユーノの存在をオリビエに聞こうとすると、それよりも早くなのはが船上のユーノに叫びかける。
 
「あ…………なのは! 良かったぁ〜無事だったんだ!!」
「うん─────いろいろあって、エステルさん達にお世話になったの」
「え、あれ? なのはちゃん、あのフェレットの事知ってるの?」
「ほぉ……喋るフェレットか。コイツもネタに使えそうだなw」
「申し訳ないけど記者さん、この件については戒厳令を敷きます。口外した時点で、あたしの鞭の奴隷になって貰いますのでどうかご了承を♪」
「ドShock!!」
 
 
 何だかおのおの好き勝手ほざいてるお陰で話がまた停滞し始めてる。─────ドロシーに至っては自分に酔いだした青年、オリビエの写真をこれでもかというくらい撮り始めてるし。
 なので使い物にならなくなったジュンイチを強制的に現実世界へと呼び戻し、オリビエとドロシーを放っておいてギルドへと向かう事にした。
 
 
「─────おや? ちょっと、エステル君。どこに行こうというのかね?………あ、や、待ちたまえ! いや、どうか待ってください!!
「えーっと……とりあえず、ボクもなのはの所へ」
「あぁっ、ユーノ君までボクを見捨てるというのかいっ!?」
「おお、いい表情ですね〜〜♪ とってもキュートですぅ〜〜♪」
 
 
パシャリ。その瞬間、本日一番の間抜けなお馬鹿さんの写真がドロシーのフィルムに収まった。
 
 
 
 
 
 
 8月3日 A.M.14:12 場所…リベール王国 遊撃士協会ルーアン支部、受付
 
「全く、何という薄情な。久しぶりに再会した運命の相手に向かって、この仕打ちはあんまりだよ」
「そう思うんだったらフツーにしてて貰えるとありがたいんだけど─────大体オリビエってば、どーしてルーアンにいるのよ? エルモ温泉でくつろいでたんじゃなかったの?」
「フッ、実は親愛なる友から旅館に連絡が入ってね。エステル君が戻ってきた事をわざわざ知らせてくれたのだよ。これは挨拶せねばと思い、飛んできた次第というわけサ♪」
 
 
 エステルの問いに、気持ち悪いくらいの笑顔でウィンクしながら答えるオリビエ。その有様にさらに頭痛が酷くなったような気がした。
 
 
「─────その行動力、どーしてもっといい方向に使えないかなあんたわ。まぁ生誕祭以来挨拶も出来なかったわよね。
ありがとうオリビエ。また会えて本当に嬉しいわ」
「そ、そうか………」
 
 
 エステルが珍しく、笑顔で応答する様を目の当たりにし、やや拍子抜けと言った感じのオリビエ。
 ……笑顔じゃなかったらどういう応答を期待してたのだろうかこの男は。─────その答えを、オリビエは、自慢の子安ヴォイスで甘く、そして切なく強請るように告げた。
 
 
「うーん、エステル君が素直だと調子が狂うような
──────────もっと激しくつっこんでくれないと……その、欲求不満になってしまうよ(はぁと)
「顔を赤らめながら不穏な発言するのはやめぃっ!!!」
「ふにゃっ?! え、エステルさんとオリビエさんって…そういう関係なんですか?!」
「そっちも歳不相応の邪推をしないっ!!」
 
 
 完全に頭痛を通り越してもう全てがどうでもよく感じたエステルは、ジャン達の方に向き直って改めてオリビエを紹介する。
 
 
「はぁ………まぁいいわ。えっと、ジャンさん─────これが例の事件の時に手伝ってくれたオリビエ。エレボニアから来た変態演奏家なの」
「ちょっとエステル君、変態とは聞き捨てならないな。────どちらかというと、”愛の狩人”と呼んで欲しいね♪」
「オリビエさんの言動と行動では、そう思われても仕方ないと思います……」
「ユーノ君、命の恩人に対してその言い様はあんまりじゃないか?」
「─────てか何でそこの阿呆とユーノが知り合いなんだよ」
「それよりどしてこのフェレット喋ってるの? そして何故になのはちゃん達の知り合い?!」
 
 
 次々と繰り出されるツッコミの嵐に、もう何がなにやら判らない状態ではあるが…これ以上本題をそらすのも問題なので質問の応答は後回しにして話を続ける事にする。
 
 
「とりあえず……オリビエさんに関しても話を聞いて貰っても問題ないね」
「いいと思うわよ。どーせのけ者にしたって諦めるようなタマじゃないんだし」
「はっはっは、さすがはシェラ君だ。ボクの事など、何でもご存じのようだね」
「プロフィールならともかく、性格は大体ね。
このあたしの酒呑みに唯一付き合える男として─────ね♪
 
 
 瞬間オリビエの顔が見る見るうちに青ざめ、身体が小刻みに震え始めた。
 ………この人もトラウマの持ち主か。そう納得したなのはとジュンイチは、エステルと共に改めて目撃情報の報告を行った。
 
 
「ほうほう……なるほど、いやぁ随分と具体的に集まったね。とりあえずこれで当面の方針は立てられそうだ」
「あぁ……とりあえずさっきまで騒いでた市長選挙を妨害する為のイタズラって線は外れるな」
 
 
話を共に聞いていたナイアルも目撃情報からの可能性を口にする。と─────
孤児院の聞き込みに立ち会っていたなのはも、現時点までの情報から推理し、論議に参加する。
 
 
「そうですね。市長候補さんの息子さんならともかくとして、孤児院の子達を脅かしても選挙自体には何ら影響はないでしょうし」
「実際─────ポーリィちゃんの話だとその幽霊って空を飛んでたんですよね? 飛行魔法でもない限り人一人が宙を舞うなんて出来そうもないですし」
「一般人のトリックとしては、まず不可能……こう言いたいのね? なのはちゃん、ユーノくん?」
「そうですね」
「そういう事になります」
「ふふっ、なかなか天晴れな推理だよ二人とも。歳に似合わず大したものじゃないか」
「ジュンイチさんに鍛えて貰いましたから」
 
 
 自分達みたいな飛行魔法が使える人間ならあるいは─────などとも思ったが、この次元世界でミッドチルダの魔法が普及しているわけでもないし、
 実際使い手は今のところ自分とユーノだけである。すぐにその可能性は潰えた。
 愉快犯……としても”空を飛ぶ”という問題をクリアしなければこの事件を起こす事は出来ない…再び八方塞がりとなったところに、ドロシーが満面の笑みで、実に楽しそうに告げる。
 
 
「それじゃ本物の幽霊さんなんですよ〜。
多分仮面をかぶせられて幽閉された挙げ句におかしくなった大昔の貴族かなんかで〜数百年の時を経た今怨霊として蘇ったんですよ〜〜
……って、ジュンイチくん? どーしたの、ブルブル震えて……どっか痛いの??
いたいのいたいの飛んでけ─────♪
「恐ろしい話をさも楽しそうに笑顔で語るなぁ人の気も知らないでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
 
 
 取って貼って付けたようなドロシーの怪談話に、本気でビビるジュンイチは滝のように涙を流しながらドロシーの肩を掴み、ガクガクと揺さぶりながら叫んだ。
 常人を遙かに上回るジュンイチの身体能力+幽霊に対する恐怖心でリミッターOFF=ドロシー周辺のマグニチュード2ケタ直前
 オリビエだけでも頭が痛いというのにドロシーまで加わると気苦労が2乗される気がする。
 
 
「あ、でも本物の幽霊としてもこんなにあちこちには移動は出来ないと思うんです。
何か物に憑依するか、強力な霊能力者の霊力を浴びないとこの世に長く留まるってのは難しいらしいですよ?」
「……随分と詳しいわねなのはちゃん」
「知り合いにそのテの職業に就いてる人がいるもので。─────あ、ジュンイチさんのお知り合いにもいるんでしたよね?」
「……………………………まぁな」
 
 
 未だ恐怖に染まった顔でドロシーを揺さぶり続けていたジュンイチがなのはの問いに答える。
 と 、ここでオリビエが意外な推論を口にした。
 
 
「ふむ……幽霊かどうかはボクにも判断はつかないが、今までの証言で面白い事に気がついたんだが。
ボクは旅行者の常、最近王国地図をよく見るんだが─────まずはルーアン地方のエリアに注目して貰った方がいいかな」
「う、うん」
 
 
 珍しくまじめなオリビエの姿にあっけに取られつつも、エステルはギルドの壁に立てかけてあったルーアン地方の地図を拝借。テーブルの上に置く。
 一応地形の配置図を説明すると…ルーアン市を地図の中央に置き、南南東の方角に関所『エア=レッテン』、東北東の方角には王国随一のエリート学校『ジェニス王立学園』
 そして─────北西の方角にマーシア孤児院が位置している。
 こうしてみると本当にルーアン地方は海に面してる場所が多く、海産業はもとより、観光地としても発展を遂げてきたという歴史が顕著に伺える。
 かくいうなのはも、自分達の”任務”が無ければ是非とも家族や友達と一緒に遊びに来たいと思っていた。
 その間に、オリビエは地図に目撃情報の挙がった場所へとマーキングを施し、話を続ける。
 
 
「そしてルーアン地方での目撃情報が挙がったのが、ここと、ここと、ここになる」
「エア=レッテンの関所、ルーアン市……そしてマーシア孤児院ね」
「ここで3つの証言から明確に異なる点に注目すると、ある共通点が浮き彫りになる。────ここまで来ればなのは君は勿論、エステル君も判っただろう?」
「3つの証言で明確に異なる部分─────そうか! 幽霊が去った方角ね!!」
「ピンポ〜ン♪」
 
 
 閃いたエステルが答えると、笑顔でオリビエはさらに続けた。
 それに乗じてシェラザード、なのは、ユーノも加わる。
 
 
「ポーリィちゃんの話だと、幽霊が去った方角は東……」
「ルーアンの不良少年くんの話では、去った方角は北東」
「そして関所の兵士さんの話だと北!」
 
 
 オリビエが書き込んだ地図上の矢印が指す先には……『ジェニス王立学園』の文字が─────
 これには流石のエステルやシェラザードもびっくりした。
 何しろ一見選挙と関連のない場所が実は幽霊の住処(?)だったのだ。しかもそれに真っ先に気付いたオリビエの推理力も垣間見えたのだから。
 普段おちゃらけていても、やっぱり”ただの旅行者”ではない事を改めて痛感させられた。
 
 
「……コイツはすげぇな。幽霊の来た方角が絞られるとは、演奏家。たまにはいい仕事するじゃねぇかよ」
「ふふっ、お誉めに預かり光栄だよナイアル君」
「確かに今回のオリビエは冴えてるわね! こーなったら幽霊でも何でも構わないわ。絶対に正体を突き止めてやるんだから!!」
 
 
 一致団結意気揚々。方針もめでたく定まった所で、エステル達は王立学園へと向かう事になった。
 ─────そしてなのは達の処遇については、なのはの意向もありエステル達の調査の支援という形で同行させて貰う事となった。
 こっちには探索のプロが2人もいるのだ。幽霊の一体や二体、その気になれば難なく見つけられるだろう(内約一名はものすごくやる気が低いが)。
 ちなみに、オリビエも興味本位でついて行く事となった。
 
 
「……何というか、今更つっこむのもアレだけど─────やっぱりオリビエもついてくる訳ね」
「はっはっは、やだなぁエステル君。鳥が空を駆け、魚が水に遊ぶのと同じくらい当たり前の事だよ。
それに─────可憐な容姿に潜める知性と引きつけられるその澄んだ瞳の持ち主であるなのは君と
そのマスコットたるユーノ君を守るは”愛の狩人”たる、ボクの使命でもある」
「………………(T_T)ボクホントウハニンゲンナンデスガ」
「フェレット形態でこいつ等に見知られた己の不運を呪え」
 
 
 悪意があって言ったわけではないだろうが、それでもオリビエの一言はユーノの心にぐさりと突き刺さった。
 なのはの肩の上で涙を流していると、隣でジュンイチがボソリと呟いてトドメを刺す。
 ……と、エステルがジュンイチ達のやり取りに気を取られている間に、シェラザードはオリビエの元へと歩み寄り、辺りをうかがって問い詰める。
 
 
「まぁ手伝ってくれるのは正直有り難いんだけど……一つ聞かせてくれる?
あなたがまだリベールにいる事は、カシウス先生もご存じなのかしら?
「………………………………はっはっは、さすがはシェラ君だ。実に的確な質問だね─────答えはイエスだ。
カシウスさんはご存じだよ……これで納得して貰えたかな?」
「オッケー、それで十分。手伝って貰うからにはこちらとしても容赦はしないわよ? 手を抜いたりしたら、それこそ朝まで呑み付き合ってもらうから♪
「誠心誠意頑張らせていただきます」
 
 
 笑顔で告げたシェラザードだが、一方のオリビエは見る見るうちに血の気が引いていく。
 ……もはやこれはある意味精神的な奴隷である。完全に第3者となっていたナイアルは、苦笑すると、
 思い出したようにエステルの元へと駆け寄ってきた。
 
 
「エステル、ちょっといいか?」
「ん、なぁに?」
「─────ヨシュアの件は、親父さんから聞かせて貰った。例の組織ってのも気になる所だし、それっぽいニュースが入ったらすぐにギルドに連絡するからな」
「え、それって……」
「まぁその─────要するに頑張れってことだ!! それじゃな!」
 
 
 立ち去るナイアルの姿は何だかもどかしくて、でも優しく、頼もしく感じた。
 
 
 
 
 
 
8月3日 A.M.15:24 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 校門
 
 
「ほぅ…ここが王立学園か。ほころぶ前の蕾たちが汗と涙を流す青春の学舎……フフ、実にすばらしいじゃないか」
「さぞかし撮りがいのある被写体達が揃ってそうですね〜♪ これを機会に取りまくらないと!」
「……既に当初の目的を逸脱してるじゃんこの二人」
「ま、まあ調査ならボク達だけでも十分事足りますし、お二人は好きにして貰っても大丈夫かと」
「協力員の意味、まるで無くなっちゃったわね」
 
 
 学園に到着するなり、早速おのおので勝手な事を言い出して脱線しようとするオリビエとドロシーの姿に今度は肩がこり始めたエステルとシェラザード。
 一方のユーノは、調査・探索に自信がある為自分がその分カバーすればよいと判断して、二人のフォローに当たる。
 
 
「それにしても懐かしいな……依頼がきっかけで学園で過ごしたのは一週間くらいだったけど、随分前の出来事のような気がする」
「ふふ、それほど仲間達と濃い学園生活を送ったんでしょ。─────何でも学園祭の演劇に出演したらしいじゃない」
「あ、それナイアル先輩から聞きましたよ〜。エステルちゃん達が騎士役で、ヨシュア君がお姫様だったんだってね〜♪
 
 
 浸るエステル達に付け加えて告げるドロシーの最後の一言に過剰反応したのは……ここまで言えば誰のことだか判りますよね?
 鼻息を荒げ、顔を朱に染めてエステルに迫る変態
 
 
「そ、それは本当なのかい、エステル君!!?」
「え、ええそうだけど」
「おお、なんたる事だ! ヨシュア君の艶姿を見逃すとは!! これは是非とも、彼を見つけ出してもう一度着てもらわねばっ♪」
 
 
 本気で悔しがるオリビエの姿を前に、どうつっこんだらいいか対応に困るなのは達3人。
 
 
「きっとヨシュアってヤツは、クロノ並みに女装の似合う男なんだろうな」
「じゅ、ジュンイチさん───その言い方だと、クロノくんがまるで女の子みたいだって暗に言ってるような物です」
「それに……ヨシュアさんが女装の趣味があるみたいで非常に語壁があるように感じ取れるんですけど」
「ヨシュアってヤツの事はともかくとして、クロノの事は事実だろ?」
「一概に否定できない所がありますね………」
 
 
 そう最後に呟くのはユーノだ。
 同じライバルとして。そして自分と同じく中性的な顔立ちの持ち主として思わず納得出来てしまうのが正直辛い所であった。
 
 
「そういえば、テスト期間中だってテレサ先生は言ってたけど……もう終わったのかな?」
「……エステルさん………」
 
 
 それほど遠くなく、近くで少女の声が響く。それと同時に空から飛来する─────白いハヤブサがエステルの元へと飛来し、彼女の腕に止まる。
 
 
「ジーク?! ってことは今の声は」
「エステルさん……」
「あ、クローゼ─────えへへ、生誕祭以来ね」
「はい………そうですね……………」
 
 
 白と紺を基調とした、質素ながらも華やかに見える制服を着た少女、クローゼは込み上げる気持ちを抑えながらエステルの問いに答える。
 だが……それも長くは続かなかった。
 久しぶりに見る、長くすらっと伸びた髪、深紅の瞳、そして太陽のように明るく照らす声─────全てが、懐かしくおぼえて…愛おしくなって、我慢できなくなった。
 瞳から流れ落ちる涙を拭いつつ、エステルの元へと駆け寄り……強く抱きしめる。
 
 
「わわっ、ど、どうしたのよクローゼ?!」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい…………
エステルさん達が大変なときに、私……なんにも出来なくて─────自分の力不足が、イヤになります」
「もぅ、そんな事無いってば」
 
 
 未だ落ち着かないクローゼを抱き返しながら、エステルは優しく告げる。
 
 
「そんな風に思ってくれただけでも嬉しいから……きっとヨシュアも同じだと思うから。
とりあえず、また会えただけでも嬉しいわ」
「……はい、私も─────こうして再会できただけでも、”空の女神(エイドス)”に感謝したい位です!」
「女傑族(アマゾネス)コンビ………」
「へへ、ありがとクローゼ………。とりあえず─────」
 
 
 言ってエステルは懐から愛用のツッコミスリッパを取り出し……
 これ以上にないくらいの邪笑を浮かべたジュンイチに向かって叫ぶ。
 
 
「人が感傷に浸ってるときに女傑族(アマゾネス)とかほざくなぁぁっ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 
 エステルの力一杯のツッコミによってジュンイチは外壁へ叩き付けられた。
 
 
「はぁ、全く。ジュンイチのせいで雰囲気台無しじゃない」
「まぁまぁ、エステルさん。いいじゃないですか……本人も(多分)悪気があって言ったわけではないでしょうし」
「あれ以上に悪意がある発言があると思う、クローゼ?」
 
 
 血みどろになって復活の兆しが見えないジュンイチを拾ってきたエステルは、クローゼのフォローを速攻で握りつぶす。
 一方のなのは達は、どーしたらいいか再びオロオロし出す始末である。そんな彼女達を見かねてか、エステルが話題を切り替えようとクローゼを前に押し出す。
 
 
「なのはちゃん、ユーノ君、紹介するわね。あたしの大切な友達のクローゼ♪
しかしその正体は……女王様の孫娘、クローディア・フォン・アウスレーゼ!!!
『………………………………………………』
 
 
 エステルのクローゼの紹介の内容が理解できず、しばらく凍結するなのはとユーノ。
 それから数十秒後─────
 
 
『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!???』
 
 
 本日一番の絶叫が、ルーアンの空に響き渡った………。
 
to be continued...
 
次回予告
 
テスト期間も終わり、いよいよ本格調査の開始です♪
 
ほ……ホントにいやがるのか、ここに”アレ”が
 
って、怯えてる場合じゃないですよジュンイチさん! 次回はいよいよヨシュアさんの正体が明らかにっ
 
そして窓の外を飛び交うなにやら白い物体…………白い物体?
 
あぁっ、エステルさんっ! ジュンイチさんっ!!!
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第4話『去り行く決意』
 
リリカル・マジカル!
 
なのは……オレはもうダメだ………後は、頼んだ……ぞ…………(ガクッ)
 
 
 
−あとがき−
 
殆どゲーム中での会話をトレースしただけなのに、ジュンイチくん達との絡みでどんどん長くなる(滝汗)
どうもおはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────YOU TUBEにてStrikerSの新・変身シーンを鑑賞して発狂気味のtakkuです。←変態
 
ついに登場です変態(オリビエ)とお姫様(クローゼ)。個人的には一番書いてて楽しいメンツがようやく揃ったので、
ギャグとしても、アクションとしてもネタや展開には困りませんw
 
しかし展開がエステル達中心になってしまうのは如何なものか………早い所オリジナルの展開を書ける所まで行き着きたいorz

管理人感想

 takkuさんからいただきました!
 ついに出やがりましたか永遠の変態オリビエ氏(爆)。おかげで一気にギャグシーンにターボがかかりましたな。
 しかも、巷じゃ『淫獣』の呼び名の高いユーノとセットでご登場。これじゃ『変態コンビ』の称号がついてしまうのも時間の問題か(ヲイ)。

>「きっとヨシュアってヤツは、クロノ並みに女装の似合う男なんだろうな」

 フフフ……ジュンイチよ、そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ。(←女装要員にする気マンマンな作者)

>「はぁ、全く。ジュンイチのせいで雰囲気台無しじゃない」
>「まぁまぁ、エステルさん。いいじゃないですか……本人も(多分)悪気があって言ったわけではないでしょうし」
>「あれ以上に悪意がある発言があると思う、クローゼ?」

 間違いなく悪気がないからタチが悪い(苦笑)。