8月4日 P.M.08:21 場所…海鳴市 さざなみ寮
「それじゃ、ジュンイチ達全員出ちまったのか?」
『先生やなのちゃん達だけでなく、師匠や美由希ちゃんまで一緒だから結構な大所帯ですね』
「……あいつはまた面倒事に首をつっこんだのか」
『まぁ、そこら辺は”先生”ですから。本人の意志とか全く関係なしでしょうし』
「どういう星の元に生まれてるんだかアイツわ……
ま、とりあえずその件については了解した。アイツが居なくなった分のジュエルシード探索や
押さえ込みはオレ等で対処してやろう」
電話越しに寮内の電話で応答するのはジュンイチと同じマスターランクのブレイカーであり、
半ば強制的にさざなみ寮に居座る事になった青木啓二である。
毎度の事ながら何故にジュンイチは自ら厄介事を引き寄せてくるのか不思議でならないが、
引き受けてしまっている以上、自分達はそれを出来る限りフォローしてやるのが最善の策だと判断し、これ以上の非難は止めておく事にした。
その他詳細を相手側の晶から言付かると、受話器をおろし────深く溜息をついた。
(まぁ恭也君や美由希ちゃん達もいるし、そう暴走する事はないだろう────)
「啓二、電話の前でボーっと立ちつくしてどうしたのだ? 」
「ん? ……何だ美緒か」
「何だとは何よ何だとは。せっかく望が貸してくれたP○3でガンダ○無○、一緒にやろうと誘ったのに」
あっさりとした青木の反応に頬をふくらませ、あからさまに不満の声を漏らすのは
ここさざなみ寮の古くからの住人にして同寮の前々管理人である陣内啓吾の娘、陣内美緒である。
この二人、実はちょっとした事がきっかけで一時期ものすごい仲が悪かったのだが、
今では年齢がやや離れているものの親友同然のつき合いをしている。
「詳しい事情はオレも分からないので掻い摘んででしか話せんが……
簡単に言うとウチ(ブレイカーズ)のリーダーがサッカーの乱闘騒ぎのようなモノに自分から首をつっこんだ」
「──────啓二ン所のボスって、物好き?」
「少なくともそういう運命と性格の持ち主だな」
まぁ青木の上に立つ位の人間だし。と、心中で付け加えると美緒は、肩を落として苦笑する青木に同情した。
ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
血塗られた過去を決別する為、愛する人の元から去った琥珀の瞳の持ち主は
今もどこかで、悪い魔法使いと戦い続ける。
それは、今は交わる事はないけど────いつか何処かで同じ場所にたどり着く。
募る想いは、深き慈愛へと変わり……再び同じ道を歩める事を信じて前に進む。
魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
第4話「去り行く決意」
8月3日 P.M.03:51 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 校門付近
大音量の絶叫の後、再びしばらく凍結するなのはとユーノ。
無理もない────どのような世界にしろ、王族というのは自分達のような平民とは立場が違うし、
いくら王国唯一のエリート校としても、何故身分を隠してこんな所にいるのかも判らないし
何より、女王直系の孫娘がこんな所にいていいはずもない。
「エ、エステルさん……なるべくその事はご内密にしておいてくれませんか?
ごらんの通り、なのはちゃん達も困ってる事ですし」
「うーん、あたしも最初はそう思ったんだけどさ────いつかはバレる事だし、隠し事なんてフェアじゃないじゃない?」
「それはそうかもしれないけど、もうちょっと相手を選んでから言いなさいよエステル」
「あ────ジル! 久しぶり〜〜!!」
「同じく久しぶりだな、エステル。生誕祭の時以来か」
「ハンス君も久しぶり♪」
あくまでもマイペースなエステルに、クローゼ────そして彼女の後方から歩み寄ってきた同級生の男女、ジルとハンスも共につっこみを入れる。
特に驚いた様子もなく、クローゼに対する態度も普通の生徒のそれと全く変わらない事から、
ジルもハンスもクローゼがそういう立場の人間である事を知ってて普通に接している事が感じられる。
そしてややあって、なのはが一番の疑問をクローゼにぶつける。
「あ、あのあのっ! な、ど、どうして一国のお姫様がこんな所に?! って、何故にエステルさんとお友達??!」
「あーはいはい。順を追って説明するからとりあえず声のトーンを落として、落ち着いてなのはちゃん。
クローゼが王立学園に通ってるのは……まぁ言ってみれば修行みたいなモノかな? 女王様になる為の」
「お祖母様は自己の見聞を広め、人々の想いに答えられる人間になって欲しいとおっしゃられてましたので。私も、この学校生活が楽しいのでまさに渡りに船といった感じです」
「二つ目の質問については……
どっちかって言うと、クローゼがお姫様だって知ったのは後からの事で、それまでは全然普通の女の子って事で接してたんだけど、
知ってから後も同じように付き合うようにしたの。」
「……エステルさんの交友関係って凄いですね」
上級クラスの遊撃士ともなれば、国や軍からの依頼も受ける事が多くなる為、必然的にお偉いさんとの交流も生まれてくる。
だが、エステルのそれはあくまでも見習い時代である”準遊撃士”の時の物なので、かなりの異例の事態である。
しかも、エステルの場合は当初クローゼが”王族の人間である事を知らなかった”のだ。なのはやユーノが溜息を漏らすのも無理はない。
とりあえず、立ち話も何なので依頼を果たすべく、エステル達は校長室へと向かい、調査の許可を取る事にした。
8月3日 P.M.03:56 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 学園長室
「なるほど……ルーアン地方の各地に出現している『白い影』がこの学校から出現しているらしいのだね?」
「はい、そうなんです」
「出来れば、生徒達や教師の方々からの聞き込み調査を含めて、許可を願えますか?」
「いや、そういう事なら是非ともお願いしよう
──────その『白い影』の正体が何なのかは分からないが、選挙にまで影響を及ぼしているとなると放ってはおけんだろう」
「ホッ……ありがとうございます」
「ところで、現在の所でそういった目撃情報のようなものは入ってきていますか?」
エステルとシェラザードの要請に、快く承諾するコリンズ学園長。
正直ここまであっさりと許可が下りるとは思わなかったが、これでかなり動きやすくなる。
早速シェラザードが学園長に質問をしてみるが、本人は首を横に振った。
「いや─────少なくとも私の方には連絡は来てないな。……生徒会の方はどうかね?」
「こちらとしても同様ですね。────何分、試験期間中でしたので皆相談にくる余裕がなかったのかもしれません」
「なるほど、それは有り得るな」
「……どういうことなの、それ?」
学園長の意見に同意する形で、今までの現状を付け加えるジルに疑問の声を投げかけるエステルだが、
元の世界でも思いっきり学生であるジュンイチとなのはは、ジルの言わんとする事がすぐさま理解できた。
「なるほど……テストの点次第じゃ進級に響くってワケか」
「ヤケに詳しいわねジュンイチ?」
「─────説明してなかったが、なのはの通う学校も、エスカレータ式の超名門校でな。
家の財力もさることながら、通う本人にも高い学力が要求されるんだが……見たところ、この学園も似たようなモンなんだろう。
さっき校門に入ったときからピリピリした殺気のようなものをビンビン感じたからな。
それだけ試験期間中は皆必死こいてたって事だろ?」
「確かに………そんな状態じゃ幽霊とか見ても、誰かに相談────なんてのは無理でしょうね」
「………名門校に通う人間はどこでも宿命は同じな様ね」
例えとして出されたなのはは正直複雑な気持ちではあったが、言わんとしたい事は判ったので会えてつっこまないでおく事にする。
エステルもジュンイチの説明を聞いて思わず『うわぁ』などと周りに聞こえない様に溜息を吐いたかどうかはさておいて、
ジュンイチの説明から的確に推理したなのはの意見にハンスが同意する。
「なのはちゃんの言うとおりだぜ。……俺だって、試験期間中にそんな本物の幽霊かどうか判らない
目の錯覚にこだわるよりも、少しでも多くの数式を頭に叩き込みたい所だからな」
「あはは……そういうモンなんだ」
「エステルはまず無理だもんな。こーいったお堅い学校での生活は」
「大きなお世話やっちゅうねん」
「まぁまぁ、エステルさん。────それよりも、調査を始めるならすぐにでも取り掛かった方が良いかもしれませんよ?」
「そうだな。もうテストも終わって皆開放感に満ちあふれてるし、そういった噂話もそろそろ出始める頃なんじゃないか?」
「怪談めいた話が蔓延すれば、どれが真実か分からなくなる────目撃者本人から話を聞くには今が丁度良いというわけだね」
再び殺気立つエステルとジュンイチのやり取りを遮るかの様に、クローゼとハンスが絶妙のタイミングで割り込んでくれた為、なのはの気苦労がやや和らいだ。
……その一方で彼女は、ジュンイチがいつの間にやら普段のペースに戻っている事に気付く。
本人には自覚は無いのだろうが、これもエステルの人徳というか……独特の雰囲気のお陰なんだろうなと感謝する。
「さてと……オレとエステルのやる気はどこ吹く風でどんどん幽霊調査の準備がトントン拍子で進んでるみたいだが────何から手を付けたら良いやら」
「とりあえず、調査をするならどこか拠点を設けた方が良いかもね。何か情報が入るかもしれないし……生徒会室を使うといいわ」
「サンキュー、助かっちゃうわ」
「それじゃオレは早速男子寮の方を調査n」
「とか何とか言って逃げられると困るから
あなたも一緒に生徒会室に一旦集合。こういう時はまず役割分担でしょうが」
「orz」
行動が先読みされていた。
周囲から腐海の如きオーラを醸し出すと、これ以上にないくらいの邪笑を浮かべたオリビエがジュンイチの耳元で囁く。
「フフッ……オバケに震えるジュンイチ君も、産まれたばかりの仔犬の様でなかなか可愛いじゃないか♪」
「お前の顔面に粗相しまくってやるぞ、コンチクショウ」
「うーん、そのテのプレイは初めてだが、ジュンイチ君の為ならばこのオリビエ────君にこのはぢめてを捧げまs」
「ツッコミをさらにボケに発展させるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「────オリビエさんとジュンイチさん、知り合ってそんなに経ってないのにもうあんなに意気投合してますね。すっごく仲良しさんです♪」
「……その恐ろしいまでのポジティブ精神、見習うべきなのかつっこむべきなのか判断に困るなぁ」
次から次へと繰り出されるボケとツッコミの嵐────暴走具合ではオリビエは、おそらくジュンイチとタメを張れるのではないかと思われる。
そんなやり取りを純粋に”親友のコミュニケーション”としてとらえ、微笑ましく思うなのはに、微妙に引きつった顔で彼女の先行きを案じるユーノ。
……いちいち今の彼等に絡んでいたらそれこそ日が暮れてしまう為、エステル達は勝手に暴走するオリビエ達を廊下に放置し、生徒会室へと向かった。
────そして残されたジュンイチ達は、しっかり学園勤務の先生に怒られた。
「よし────ひとまず、これで役割分担は決まりね
まず、私とシェラザードさん、ジュンイチの3人で職員室で先生方への聞き込み。続いてその他職員方への聞き込み調査を行います」
「はぁ……どーしても参加しなきゃダメッスか?」
「手伝う気がなくても、ここまで来たからにはそれなりに頑張って貰うわよ。
────男だったらグダグダ言わないっ!」
「強制執行でふか(ToT)」
「あはは……ジュンイチさん、頑張れー」
ジュンイチ達が先生に怒られている間に調査の役割分担が、ジルを筆頭に決められていた。
────何故ジュンイチがシェラザード達と一緒なのかというと……言わなくても何となく察しはつくと思われる。
「ハンスとユーノ君は資料室で過去に似た様な事件がなかったかどうかのチェック」
「了解した」
「えと……よろしくお願いします」
「────喋るフェレットと一緒に資料室で調べ事なんて、俺の人生において最大の珍事だな。ま、よろしく頼むぜ相棒」
(珍事扱いですかボク……)
思わずユーノがうめくが、この際無視だ。
「エステルとクローゼ。そしてなのはちゃんの3人は生徒達への聞き込み調査」
「オッケー」
「えっと……よろしくお願いします、エステルさん────クローディア、さん? 様?」
「ふふ……クローゼで結構ですよ。だから、なのはちゃんも気を楽にして」
「そーそー♪ 何より本人がそう言ってんだから気にしなくても大丈夫よ♪」
「そういうあんたは少しは気にしなさい……」
純粋な親友同士として接するエステルだが、彼女の場合は意識してないのではなく、
元より頭の中に入ってない可能性の方が高い。
そういうわけで、シェラザードが思わずツッコミを繰り出すが、本人は全くどこ吹く風である。
そんなエステルの性格を十分に理解してる為か、ジルもあえてつっこまずに話を続ける。
「オリビエさんと、ドロシーさんは感性の赴くがままに学園内を散策。
芸術家ならではの直感で何かを発見してみてください」
「フッ、任せておきたまえ」
「頑張っちゃいますね〜〜♪」
「……”このメンツは自分の道を突っ走って成果を上げない”に一票」
「同じく」
「────各自、夕方までには調査を終わらせて戻ってくる事。
それでは……解散!!」
ジュンイチとシェラザードのツッコミも、もはや手慣れたものだ。
オリビエとドロシーを適当に冷やかしていると、ジルが打ち切りの意を唱え、それぞれ自分達の持ち場へと散っていく。
そして気がつけば、生徒会室に残ったのはエステル組だけとなった。
「はぁ……相変わらず見事な手並みね。普段はおちゃらけてるけど、伊達に生徒会長をやってないわ」
「ふふ、将来はボースのメイベル市長の様な政治家になりたいんだそうです。
10年早く生まれていたら今回の市長選挙に立候補するのにって本気で悔しがってましたから」
「そ、それは凄いですね────って、そういえばジルさんやハンスさんって、クローゼさんの事をどこまでご存じなんですか?」
エステルがジルの手並みに感心していると、なのはもそれに同意するが、それとは別に
突如浮かんだ疑問が頭をよぎり、クローゼにぶつけてみる。
クローゼは、戸惑う様子もなく……、あっさりと楽しそうになのはに答えた。
「ほとんど全部知ってますよ。
二人には入学して半年くらいで、見抜かれてしまいました。他に私が王族であるのをご存じなのは学園長くらいです」
「ふあぁ……半年ですか………あ、でもジルさん達、エステルさんみたいにクローゼさんに対してもごく自然にしてらっしゃいますね」
「はい、二人とも大切な友達です。もちろんエステルさんも……そして」
言いつつクローゼはなのはの方に視線を移し、はっきりと告げる。
「こうしてなのはちゃんに出会う事が出来たのも、エステルさんのお陰でしょうし、
せっかくですから私の方から早速友達になれたらな……とか思ってるんですけど。
────迷惑でしょうか?」
「め、迷惑だなんてとんでもないですよ! わ、わたしなら全然オッケーです!!」
「ふふ……良かった」
そう言ってクローゼは優しく微笑んだ。
エステルの太陽の様に全てを照らす笑顔とは対照的に、月の様に淑やかで、優しく落ち着いた雰囲気のクローゼの笑顔。
……この世界の女性は皆、笑顔が優しいなと心底思うなのはだった。
8月3日 P.M.04:43 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 講堂
「ふぅ……結構情報が集まったわね」
「これだけの人達に目撃されていたなんて……驚きです」
「一休みしていきませんか? まだ夕方まで少し時間がありますし……」
遊撃士の必需品『ブレイザー手帳』にメモされた目撃情報を整理しつつ、エステルとクローゼが驚きつつうめくと
今日一日あちこち歩き回って流石にへとへとななのはが休憩を提案する。
……元々彼女は運動はあまり得意な方ではないし、魔法使いになった現在でもそれはあまり変わらない。
元々遊撃士で体力は人並み以上のエステルや、それなりに武術の心得があるクローゼのグループに引き込まれた時点である程度は覚悟していたのだが……
正直ついていくのだけでもやっとである。
「まぁ、丁度良いか……講堂だから座れる所なんていくらでもあるし」
「そうですね。────すこし、お話ししてから帰りますか」
そう言ってエステル達は講堂のステージに上り、腰掛ける。
それにならってなのはもエステルの隣に腰を落とす。
……やはり王国が主体となって運営している学校だけあって設備や建物がとてつもなく大きい。
ヘタをすれば自分の通っている小学校と同じくらいの広さがあるんじゃないかと思うくらいである。
それに────やはりというか内装が綺麗にまとめられている。こんな学校なら自分も通ってみたいなぁと心底そう思うなのはだった。
一方で、エステルとクローゼはステージに上ってから、何か風景を想い噛み締める様に辺りを見回している。
「……おかしいですよね。数ヶ月前の事なのに、とても懐かしく感じます」
「うん………。あれから本当に、色々な事があって────澄ました顔でお姫様をやってたヨシュアは居なくなって……今、あたし達3人だけでこの舞台にいる。
────────何だか、不思議な気分かも」
「……エステルさん。一つ、聞いてもいいですか?」
「ヨシュアの事でしょ? ………まぁいろいろはぐらかしてばっかだったし、分かんなかったと言えば当然か」
あっさり見透かされてたじろぐなのは。そんな姿に苦笑しつつも
エステルはゆっくりと語り出した。まるで、心に刻まれた思い出を確かめるかの様に……。
「ヨシュアはね、あたしが11歳の時に……父さんが遊撃士の仕事中に保護した男の子だったんだけど、身寄りが無くて、結局ウチの養子になる事になったの」
「……ハンス君から聞きました。最初、エステルさんが初めて逢ったとき、傷だらけのヨシュアさんに跳び蹴りをお見舞いされたそうですね♪」
「ちょ、ちょっとクローゼっ!!」
真っ赤になって反論するエステルだが、時既に遅し。クローゼが初めて見せた『小悪魔』的な微笑と共に、赤裸々な過去が暴露された。
端から聞いていたなのはも思わず笑みがこぼれた。
「────全く……。まぁそれからいろいろあって、ヨシュアもあたしも遊撃士の道を目指す事になって……
シェラ姉にそりゃもう徹底的にシゴカレたけど………無事に準遊撃士の資格を取る事が出来たの。
その時のヨシュアってば、嬉しいんだか嬉しくないんだかビミョーな顔つきでね。もっとパァーっと喜びなさいって言ってやったのよ」
「ふふ……エステルさんらしいですね」
「でも、遊撃士になってからしばらくして……父さんの乗った定期船が空賊にジャックされたって通報が入って、真偽を確かめる為にヨシュアにシェラ姉と一緒に旅を始めたの」
「……そういえば、その時初めてオリビエさんと出会われたんですよね?」
「あたし達の人生に置いて最大の汚点にして最悪の出会いだったわ」
言わんとする事は判るが、ここまでボロカス言われるオリビエって一体……。
しかし言われる本人も、それに凹む様子もなく────むしろ快感なのか悪ノリしてくるから余計にタチが悪い。
出会った当初からあんなんだったことを思い、思わずエステル達の気苦労を察して涙がこぼれ落ちそうになる。
「────ま、結局父さんは空賊事件に巻き込まれる前に定期船を降りちゃってて居なかったんだけど……
ヨシュアのアイディアで、遊撃士の修行も兼ねて旅を続ける事になって────辿り着いたのがここ、ルーアン地方。
マノリア村の宿屋で初めてクローゼやクラムに出会って……院長先生に美味しいお茶をご馳走になって、クローゼ達と仲良くなって」
「でも、────前の市長さんのせいで放火事件が起きちゃったんですよね」
なのは自身も、あまり口にはしたくない話題らしく、思わず表情を曇らせるが、エステルやクローゼも同様らしい。
一応正式な保証がおりて孤児院も再建されたが、あの時、テレサや孤児院の子供達の心に刻まれた傷は今も残っていると思う。
「そして……放火事件の絡みで、クローゼからこの学園の学園祭で劇をやってくれって誘われたのよ」
「ヨシュアさんがお姫様役と聞きましたけど……ヨシュアさんって男の人ですよね? 何故に男の人がお姫様……?」
「ジルのアイディアで、男女の配役を入れ替えようっていう設定だったんですよ。
本人は『男女差別の断絶!』なんて理由をこじつけてましたが、絶対自分が楽しむ為に採用したに違いありません」
「そうね、間違いないわね」
「あ、あはは………(ジルさーん、身の危険が迫ってますよ────!!)」
やはり二人は出会うべくして出会った親友の様だ。
仲良く”ドス黒いオーラ”を放ちつつ、ジルへの”オシオキ”を堅く心に誓うエステル達を目の当たりにし、ジルへ警告の念を送るなのは。
「ちなみに、あたしとクローゼはお姫様の幼なじみな騎士役ね……当然ながら本来は男役なんだけどね〜」
「エステルさんとクローゼさんが騎士役かぁ……ものすごくカッコイイ騎士さんができあがりそうです♪」
「あはは………カッコイイかぁ────正直複雑(汗)」
「ですね」
なのはの純粋な感想に、どう反応したらいいのやら対応に困るエステルとクローゼ。
しかし魔法少女の枠から1光年以上逸脱し、『燃え』と『萌え』が同棲生活しているなのはが言えるセリフではない。
「……実は、この演劇の時にジルに唆されたときから、ヨシュアの事、意識し出して────自分の気持ちがよく分かんなくなっちゃって……
気がついたらあたし、ヨシュアの事────好きになっちゃってた」
「………………………」
なのはは何も言わない。
もちろん色々気になる事はまだあったが……エステルの想い、そして決意の全てが一言一言に詰まっている様な気がして。
一字一句聞き逃さないように、目を見開いて聞いていた。
「5年間も一緒に暮らしてたんだし、なるのが当然と言えば当然なんだけどね。
────あの頃のあたしはホント未熟で、自分の気持ちにも素直になれないバカだったけど……それでも、自分の気持ちは変わらないから────
ヨシュアは、あたしの大切な家族で、あたしが一番よく知ってる男の子。────それだけで十分だったから」
「ヨシュアさんが一緒だったから、カシウスさん宛に届いた漆黒の導力器『ゴスペル』による様々な事件……クーデター事件も解決させる事が出来たんですよね」
「うん。────でも、流石にクーデター事件はあたし達2人だけじゃ正直どうにもならなかったと思う。
カルバート共和国に帰ったジンさんや、親衛隊のユリアさん、シェラ姉にオリビエ、クローゼ……みんながあたし達に力をくれたから解決する事が出来た。
それはきっと────ヨシュアも感じてたと思う」
自らの気持ちを整理しつつ、クローゼの問いかけにエステルは答える。
そして、意を決して、『あの話』を二人にする事にした。
「クローゼ……なのはちゃん。ちょっと暗い話になるけど、聞いてくれる?」
「………はい」
「聞かせていただきます」
すぅっと息を深く吸い込み、エステルは………あの時、ヨシュアが話してくれた『昔話』を語り出した。
むかしむかし、ある所に小さな男の子が居ました。
その子はとても気弱で、甘えん坊な子でしたが、優しい人に囲まれてとても幸せな日々を送っていました。
────しかし、ある事件をきっかけに、男の子の心は壊れてしまいました。
心を失い、ただ……ハーモニカを吹くだけの人形────そんな男の子の前に、一人の魔法使いが現れ、こう言いました。
『私が……君の心を直してやろう。────但し、代償は支払って貰うよ』
魔法使いは、約束通り男の子の心を直しました────しかしその代償として……男の子は…………人殺しの道具に造り替えられてしまいました。
魔法使いに言われ、男の子は沢山の人を殺しました。────政府の要人、屈強な兵士、名も知らぬ青年、子を庇う母親、泣きじゃくる少女……
いつしか男の子は、只の人殺しから『漆黒の牙』と呼ばれる化け物になっていました。そしてある時、魔法使いはいつもの様に男の子にこう命じたのです。
『カシウス・ブライトを殺せ』
と────
『────────!!?』
これには流石になのははもちろんクローゼも驚いた。
カシウス・ブライトと言えば名前の通り、エステルの父親である。だが、只の父親ではない────────
かつてこの国で起きた戦争『百日戦役』を終結へと導いた緻密かつ大胆不敵な作戦を立て、
自らも『剣聖』と呼ばれるにふさわしい剣技をもって戦い抜いた猛者である。
戦争が終わり、遊撃士へ転属してからもその猛者ぶりは相変わらずで、正遊撃士の間ではカシウスの名はもはや伝説級と言っても良いほどだ。
そんな彼を暗殺しろ……などと命令した”魔法使い”は、幼い頃のヨシュアの実力に相当の信頼を置いていたのだろう。
だが、まだ話は終わらない──────エステルは続けて言葉を紡ぐ。
しかし、標的は強大すぎました。男の子は、まるで虎にいなされた子猫の様に、あっさりと敗れてしまいます。
標的の暗殺に失敗した男の子の前に、魔法使いの手下が現れました……標的に顔を知られてしまった男の子を始末しようとしたのです。
しかし、その手下達を追い払い……男の子を救ってくれた人がいました。
それは、男の子が暗殺に失敗した、当の標的であるカシウス・ブライトだったのです。
そして男の子は……その人の家に連れてこられて、一人の女の子と出逢いました。
───────男の子は、その家の人達と共に素敵な夢を見させて貰いました。本当なら、自分には決して見る事は許されない様な夢を……。
だけど、夢はいつかは醒めるものです──────現実に戻る時が迫っていました。
「…………これでこの話はおしまい。ありがと、最後まで聞いてくれて」
「えと──────あの、それ……全部本当の事なんですか?」
昔話が終わり、一息吐くエステルになのはが尋ねる。
もし本当の事だとしたら───────自分は……
「全部本当らしいよ。
──────ヨシュアの手が血塗られているのも。
父さんを暗殺しようとして失敗したのも。
………ヨシュアが父さんの元に差し向けられたのは、暗殺が本当の目的じゃなかった。
本当は…同情を引き、保護させる事で父さんを始めとする遊撃士協会の動向を、”魔法使い”へと流す事だったの。
────ヨシュアはあたし達の家に来てから、定期的にそれを行ってたらしいわ……暗示によって、ヨシュア本人ですら気付かない内に」
「っ!!」
「だから、ヨシュアは旅立った。
これ以上、あたし達に災いが降り懸からない様に……自分を人殺しへと変えた”悪い魔法使い”を止める為に……」
エステルは手持ちのバッグから、ハーモニカを大事そうに取り出すとそれをなのはに渡す。
金色に輝く、どこにでもあるような普通のハーモニカ。
だが───────これには、ヨシュアが……エステルやシェラザード、沢山の人達と出会い、触れあった思い出が沢山詰まっている。
そう思うと、胸に熱い物が込み上げてくる。同時に、悔しく思う。
結局の所、自分が今ここでエステルの手伝いをするといっても何が出来るだろう?
ヨシュアの居所を探し当てる? ──────エステルすら心当たりは判らないと言うのに?
”悪い魔法使い”を止める? 血塗られたヨシュアの顔を作り、彼本人ですら気付けない強力な暗示を使う強敵相手に?
未熟すぎた。……ただ、戦うだけでは前に進めない、そんなもどかしさを初めて知るなのは。
だが、エステルはそれでも前に進もうと必死になって藻掻いている。
ただ、ヨシュアに逢いたい───────その想いだけが、いま彼女を支えている……逆に言えばその思いが強くなればなるほど
エステルはどんな困難でも乗り越えようとするだろう。
この女性(ひと)は何て強いんだろう………だからこそ、改めて思う。
────────この人を、守りたい。…と
「わたし……まだエステルさん達に、話さなきゃならない事──────いっぱいあるのに……
隠し事してるのに、エステルさんは疑う事もなく、わたし達を信じてくれて………
エステルさんの本当の気持ちとか、その源とか、いっぱい話してくれて─────本当に嬉しく思います」
「なのはちゃん………」
「だから、わたしもそんなエステルさんの力になりたい!
出来る事は、限られているのかもしれないですけど……だからって、何も出来ないって…全部捨てていいワケじゃない……逃げればいいってワケじゃ、もっとない……。
わたし達の秘密とか、抱えてるものとか……今はまだ話せないけど、それでもエステルさんを思う気持ちにはウソは付けないから!」
その場に立ち上がり、拳に力を込めてエステルに向かって叫ぶなのは。
歳や住む世界が隔たっていても、お互いを信じ合う事が出来れば…名前を呼び合う事が出来れば、なのはにとっては誰もが友達であり
掛け替えのない存在となりうるのだ。
そんななのはの姿に、クローゼも触されたのか、意を決してその場に立ち上がってエステルに告げる。
「私も……私も、白状させて貰ってもよろしいですか?」
「へ? な、何を?」
「私……ヨシュアさんが好きでした。
初めて逢った時からとても惹き付けられる物を感じていたんです」
「……………………………………そっか。
あはは、やっぱりね。──────そんな気はしてたんだけど」
突然の告白に、思わず苦笑いをこぼすエステル。
そりゃそうだ。──────親友が突然恋のライバルへと変身したのだ、…普通の少女ならば自分が一番だと怒り叫んでもおかしくない。
「演劇の時のラスト……キスシーンなんか凄くどきどきしてたんです。
エステルさんには申し訳ないと思いながらも演技に熱が入っちゃって……フリじゃなくて本当にヨシュアさんの唇を奪ってしまいそうでした」
「ふわぁ……クローゼさん大胆………。普通それ、男の人がやる事じゃ──────」
「ふふっ、ユリアさんの話では私の行動にはいつもヒヤヒヤさせられるそうです。
──────でもあの時、前市長のダルモア市長がエステルさんに銃を突きつけた時……ヨシュアさん、本当に怖い目をしてた。
どれだけエステルさんの事を大切に想ってるか判りました……それで、これは見込みが無さそうだなって諦めたんです」
クローゼも話しながら思わず苦笑いを浮かべる。
得てして人は、初恋というものはなかなか諦めるというのは難しいものがある。
年頃の女の子となればなおさらである。
「う、うーん…………あたしが言うのも何だけど、諦めるのは早くない?
クローゼとあたしじゃ、全然勝負にならないと思うし」
「もう……エステルさんってそう言う事に疎いんですね。自分がどれだけ魅力的か、いまいち判ってないんですもの」
「むっ、何かバカにしてるでしょ?」
「ふふ、とんでもないです。
私も、エステルさんのそういった所が大好きですし、きっとヨシュアさんも同じだったと思うんです。
その意味では、私とヨシュアさんって…似たもの同士なのかもしれませんね」
「あ……言われてみればそんな気はするかも。
頭が良くて、礼儀正しくて、涼しげで……だから最初、マノリアで『お似合いじゃないか〜』ってヨシュアを唆したんだけど」
楽しそうにマノリアでの思い出を語るエステル。
なのはも、また笑顔で二人の思い出話に聞き入っていた。
「私は先生達と出逢うまで、孤独な日々を送っていました。
多分ヨシュアさんも、エステルさんと出会う前は同じだったのかもしれません。ですが、
私とヨシュアさんの違いを挙げるとすれば──────それは強さです」
「強さ?」
「お祖母様は私を時期国王に指名しようとなさっています。
お父様とお母様亡き今となっては、それが最善なのかもしれませんが……だけど一度女王になれば、私は『クローゼ』に戻る事は出来ません。
大きな権力と責任を背負う『クローディア・フォン・アウスレーゼ』として生きていくしかないんです。
……こうして気軽に友達と話したり、先生に甘えたり、あの子達を抱きしめてあげる事も出来ない
──────それが、怖くて」
「そうですよね……でもクローゼさん。ジュンイチさんならきっとこういうと思いますよ?」
「え?」
なのはは拳を握りしめ、ジュンイチの声色と表情を真似しつつ力一杯叫んだ。
「『逢いたくなったら連れてくりゃあいい!
女王だろうが神サマだろうが、そんなん関係あるか! 大切な人に会うのに理由なんていらねぇ
……自分の守りたい人を決めるのに基準なんてあるものか!!
オレは強欲だからな……どれか一つなんてまだるっこしいのは嫌いだから全部取る!!』……って」
『……………………………』
エステル&クローゼ、しばし沈黙。
─────ややあって、一斉に大爆笑を始めた。
「あははははっ!! なのはちゃん、ウマ過ぎ! ははははははははっ♪」
「ふふっっ、確かに……ジュンイチさんなら、そう言いそうですね」
「……でもクローゼさん。実際その通りだと思いますよ?
『クローゼ』であっても、『クローディア姫』であっても……今のクローゼさんがあるのは
テレサ院長先生や、孤児院の子供達、ジルさんやハンスさんとの触れ合いがあったからこそで─────その事実は、これから先…どんな事があっても変わらないと思います。
─────ヨシュアさんの事についても一緒です。
もっと考えれば、最善の策はいっぱいあったはずなのに……それでも、エステルさん達の前から姿を消して、みんなに迷惑を掛けている
────────人に迷惑を掛けない様に立ち去って、それで却って迷惑を掛けたら本末転倒ですし、何より、お互いに傷つくだけです。
わたし、それがどうしても納得がいかなくて─────」
「……そうですよね、ちょっと許せないですよね。
女の子の気持ちを、何だと思ってるのかしら─────?」
再び沈黙する3人。そして─────
『ふふっ……』
一斉に吹き出した。
どうやらこの短時間で、完全に『女の友情』が芽生えたらしく、なのはも混じって談笑する様になったようである。
普段は本気で笑わないクローゼですら、腹を抱えて笑っている。
─────そういえば、アリサ達とはフェイトを交えての、こういった『本音』で語り合う事は経験してない気がする。
裏を返せばそれだけ自分達に『浮いた話』が一つもないと暗に言っている様な物だが、こう言うのも悪くないかなと思ったりするなのはだった。
8月3日 P.M.05:49 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 生徒会室
「おっ、帰ってきたわね〜」
「ゴメンゴメン! ちょっと話し込んでたら遅くなっちゃった」
あれからさらに話が弾みだし、気がつけばもう夕方を回っていた事に気付いたのだろう。
息を切らしてエステル達が生徒会室へと駆け込んできた。
……これで遅れたのがエステルだけだったら、おそらくシェラザードから再び”指導”と言う名のオシオキを受けていたのは明白だったろう。
─────とりあえず、クローゼとなのはと同行してて助かった……と安堵しつつ、他のメンバーと共に成果報告を行う。
先ずはシェラザードからだ。
「先生方から話を聞いたんだけど……用務員さんが学校の敷地内で怪しい人影を目撃したそうよ。
旧校舎に通じる入り口の前で忽然と姿を消したそうだけど」
「他の教師や事務員達は作業に追われてて、これと言った情報は得られなかったな。
強いて収穫があったとすれば……この学園のランチは結構旨いって事くらいか」
「全然関係ないわね……」
ジュンイチのボケに思わずうめくエステル。
続いて、今度はエステル達の出番─────行動に向かう前に得られた目撃情報……
旧校舎に向かって不思議な人影が飛び去っていたという共通した事項を報告する。
「どの証言も、校舎の裏手─────すなわち、旧校舎がカギになっています。
偶然にしては、出来過ぎた符号な気がしますが……」
クローゼがエステルの報告に付け足すと、ドロシーが勢いよく手を挙げて立候補。
……というわけで、変態と天才カメラマンの報告タイム。
「それじゃあわたしの成果を発表しちゃいますね〜♪
生徒、教師の方々を30枚。学園内の風景を50枚撮っちゃいました〜〜!
どれも、可愛く撮れたと思うよ〜」
「ボクの方も、大した情報は得られなかったな。
フッ……リュートを演奏したら可愛い子猫ちゃんがいっぱい寄ってきたけどね♪」
「案の定か、この男は」
「まぁ大して期待はしてなかったけど」
身内の不甲斐なさに思わず頭を抱えるエステルに同意するジュンイチ。
……まぁ一応調査の邪魔はせず、比較的大人しくしていた方だったのでまだマシだが。
そしてラストは、ハンス&ユーノ組である。
「過去の資料を当たって、他に似た様な事件がないか調べてみたんだが……
この学園、校舎自体は新しいから比較的そう言った怪談話が少なくてね。─────それも大体が、旧校舎に集中してたよ」
「ボクの方でも、学園周辺地域の立地条件とか色々な面で探索してみましたけど、旧校舎以外に特に目立った所は見あたりませんでした」
全員の意見が一致した……すなわち、『旧校舎』とやらに、幽霊の住処があると言う事である。
「どう考えても、その旧校舎が怪しいわね。……一体どういった建物なのかしら?」
「裏門の奥にある築数百年の古い建物ですよ。20年前までは使われていて、この新校舎が出来てからは閉鎖されているんですが─────」
「フッ、築数百年の石造りの建物か。まさに幽霊が住み着くにはぴったりのロケーションだね」
「だから、そういう恐ろしい事をさも楽しそうに語るなっつーの!」
オリビエがジルの説明に悪ノリすると、またビビリモードになったジュンイチが思わずうめく。
と……思わず逸らした視線の先に、ジュンイチとエステルは何かをとらえた。
「エステルさん、ジュンイチさん……どうしたんですか?」
「うん………窓の外に、何か見えた様な……」
いいつつ、エステルとジュンイチは目撃した方向……北方向─────すなわち『旧校舎』のある方向の窓をのぞく。
「白っぽい影だったから、ジークかなと思ったんだけど………」
『……………………………………………白い影?』
同時にハモるエステルとジュンイチ。─────その視線の先には……
奇妙な仮面をつけた20代後半くらいの男性が、くるくると円を描く様に宙を舞っていた。
幽霊らしき男性は、窓の正面へと高度を下げて来て………何を思ったかぺこりとお辞儀をした。
そして気が済んだのか、自慢のマントをなびかせて旧校舎の方へと飛び去っていった。
しばらく時が止まる二人……。そして、なのはが沈黙を破る様に二人に問いかける。
「エステルさん……ジュンイチさん? どうなさったんですか?」
「あ、あは……あはははははは─────
う、う〜ん……………………………………………」
エステルの中で何かが切れ、それが引き金となった彼女は力無くその場に崩れ落ちた。
一方のジュンイチは………さらに重傷で、自分が幽霊と化していた。
to be continued...
次回予告
実態のない幽霊に、本当にこんな謎かけができるんでしょうか?
謎掛けもそうだが………気付いてるだろなのは?
はい……この旧校舎、何かがおかしいです。
そしてついに姿を現す、『結社』のエージェント。もう一人の女は────って
な、ど………どうして?! どうしてあの人が”ジュエルシード”を!?
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第5話『真なる美の価値は』
リリカル・マジカル!
ブレイク…アァァァァップ!!
−あとがき−
どうもおはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────『エロオ・モンデヤル』に『勇者王(スバルの方)』、StrikerSの方でも早速俗語が生み出されていてご満悦のtakkuです。
姿すら見せていないヨシュアの人物像を手っ取り早くモリビトさんや読者の方々に理解して貰って、
尚かつなのはちゃんが素早くエステル達の話に溶け込める様にする事を考えたら
やっぱりあの『過去話』しかないだろうなと思い、FCとドラマCD『去り行く決意』のラスト部分を引っこ抜いてエステル嬢に語って貰いました。
実はこの台詞、FCのEDである『星の在り処(ほしのありか)』という曲をBGMにして語られ、尚かつその後にエステル嬢の一世一代の告白が!!
と言った具合で結構な名シーンでもあります。曲の雰囲気と相まって涙腺ゆるむ事間違いなしです。
─────生憎と、私の文才では緩む段階まで持って行けてるかどうか、かなり微妙ですがorz
管理人感想
takkuさんからいただきました!
今回はヨシュアについての説明エピソードですね。
正直自分の『FC』プレイ状況は序盤で停滞しているので、新規の読者と同じ感覚で楽しませていただきました。
作中でなのはが言っていた『ジュンイチだったら言いそうなセリフ』はたぶんモリビトが書いてても言わせてたと思います。そのくらい『ジュンイチらしい』セリフでしたね。
……まぁ、その時は多分、ジュンイチ本人がゲンコツ付で言ってたと思いますが(苦笑)。
>「強いて収穫があったとすれば……この学園のランチは結構旨いって事くらいか」
まさか、全メニュー制覇したんじゃあるまいな?
何しろ翠屋を地獄に叩き込んだ前科持ち。イマイチその辺信用できん(笑)。