8月4日 P.M.11:37 場所…海鳴市 月村邸
 
「はぁ……ふぅ………」
「どうしたのよ忍? さっきから溜息ばかりついて」
 
 
 自室に篭もり、大学の課題と仏頂面でにらめっこをする、恭也の高校時代のクラスメイトにして同じ大学生…月村忍が
 目の前に溜まりに溜まった課題の山を前に溜息を漏らす。
 すると、彼女の家に遊びに来ていた忍の叔母、綺堂さくらが彼女に尋ねてくる。
 
 
「ジュンイチくんと恭也達が、課題に苦しむ私を差し置いてとっとと行っちゃったから……つまんないのなんのって」
「しょうがないでしょ。────手早く課題を終わらせずにサボってた忍が悪い」
「だって、つまんないんだもん……」
 
 
 ついには机の上に突っ伏す始末である。
 ────基本的に忍は自分の得意分野には目を輝かせ、積極的に行動するのだが、
 それ以外の事となるとどうにも作業効率ややる気が下がるらしい。……当然、大学では自分の得意科目をある程度、専攻する事は可能と思われるが
 一般素養の課題が除外されるわけではないので……夏休みに入ってからというものの、ずっとこんな感じである。
 
 
「はぁ………弄りたいぃ……………
ジュンイチくんのブレイカーロボを一度でもいいから
バラッバラに分解して改造して組み立ててみたいなぁ
「さらりと恐ろしい事を口にしないの」
 
 
 忍があまりにも物騒な事を平然と言ってのけるものだから、さくらがそれを制する。
 ……一応ブレイカーロボ形態の時には、主なコントロールはゴッドドラゴンではなくてジュンイチの方になるのだ。
 ────つまり、ゴッドブレイカーをバラバラにするという事は、ジュンイチをバラバラにするのと同意義であるわけで……
 やった瞬間、忍は殺人容疑で逮捕されん勢いになりかねない。
 叔母として、忍の大切な家族の一人として、彼女が前科者の道を歩まない様に軌道修正するのが精一杯だったりするさくらだった。
 
 
「それに、エイミィちゃんに頼まれた……ちょっとしたアイディアも固まりつつあるし」
「アイディア?」
「うん♪ ────正確に言うと、なのはちゃんとフェイトちゃんが持ってるインテリジェント・デバイス専用のね……
堕天使とか瘴魔とか、色々と厄介な連中が多くなってきてるから…ノエルやファリンに使ってる
”遺失工学”のノウハウを転用できないかなぁって」
 
 
 机に突っ伏しながら、忍は視線を持ち上げて机の片隅に置かれた、相当分厚い紙のファイルに目を向ける。
 表紙にはこう書かれていた────────────
 
 
 
 
『G&V Project』
 
 
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 気高き魂は存在するだけで煌めく光となり、真実の愛はあらゆる邪を払って人々を輝かせる。
 
 それは、みんなが持っていて────だけど、何処か手の届かない所にある。そんな高い存在。
 
 頂を目指す意志は運命すら巻き込んで……わたし達の心を揺れ動かす。
 
 越えられない壁があったとしても、諦めはしない………諦めたくない。
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第5話「真なる美の価値は」
 
 
 8月3日 P.M.08:45 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 女子寮
 
「……ス…………きて…………」
「…………ル………さい」
 
 辺りがよく見えない微睡みの中、それは確かに聞こえていた。
 深い眠りに沈む自分を、誰かが呼んでいる……
 起きろ────起きて自分の成すべき事を達するんだ。お前は何の為にここまで来たのかと。
 
 身体も、まぶたも重い。………というか怠い。まるで自分の身体じゃないみたいだ。
 ────それでも、彼女は……エステルはゆっくりとまぶたを開ける。
 
 
「────う、う………ん」
「あ、エステルさんっ! 良かった…」
「全く、心配掛けなさんな」
「シェラ姉…なのはちゃん……ごめん」
 
 
 意識を取り戻したエステルは女子寮のベッドに寝かされていた。そして彼女の周りをシェラザード達女性陣がそろって囲んでいる。
 ……自分が目を覚ますまで、ずっと付いててくれたんだなと思い、やや感謝しつつエステルは身を起こした。
 ────身体には特に異常はない。だが何で自分はこんな所で寝かされているのだろうか……?
 
 
「えっと……何であたし女子寮で…………って、あぁっ!!
────あ、あたし、窓の外に『白い影』を見て! それでっ……!!」
はいはい。分かったから落ち着きなさいな
「はぁ……やっぱり幽霊を見たのね」
 
 
 いきなり全部を思い出してしまった為、慌ててエステルはベッドから飛び降りてオロオロと慌て出す。
 …幾分かは落ち着いたが、それでもかなりのリアクションだ。
 安堵と溜息が同時に漏れた感じがするシェラザードとジルに促され、大分パニックの方も落ち着いたエステルにクローゼが尋ねた。
 
 
「エステルさん……その『白い影』はどのような姿をしていました?」
「う、うん……古めかしい衣装を着た、仮面を被った男の人で……白くボーっと光りながら空中をクルクル踊って旧校舎の方へ飛んでっちゃった」
「ふあぁ……何とも、楽しそうな幽霊さんですね」
「各地で目撃された『白い影』の証言と同じですね……間違いないみたいです」
 
 
 エステルの証言についても、他の目撃者と共通する部分が多かった為、同一の現象と判断するのが正しいだろう。
 つぶやくなのはとクローゼをよそに、エステルは何だかワナワナと震えだした。
 
 
「………談じゃないわよ」
「────え?」
「幽霊だか何だか知らないけど上等じゃない……ふざけた格好で人を脅かして、気絶までさせてくれちゃって────────
この落とし前、絶対につけてやるんだからっ!!!
「え、エステルさん……そんなヤ○ザさんじゃないんだからそんな怖い言葉を……」
「全く……幽霊、苦手なんじゃなかったの?」
 
 
 大声で叫び、完全に立ち直っ────いや、むしろ事態の元凶を殺る気満々である。
 力の限りの雄叫びを上げるエステルの姿に、思わず恐怖におのめくなのは。……彼女からすればエステルの気迫と言動はまさしく○クザのそれに近いものがあったのだろう。
 そんななのはに取って代わるようにシェラザードが尋ねるが、当のエステルは臆することなくはっきりと言い放った。
 
 
「あたしが幽霊が苦手なのは居るかどうか分からないから! こうして目の当たりにした以上、今更怖がるもんですかっ!!
二度と化けて出てこないように完膚無きまでに”オシオキ”してやるわ!!!」
「うーん、逞しいというかズレてるというか………」
「でもよかったです、エステルさんが立ち直ってくれて」
「全く……その勇ましさ────誰かさんにも見習ってほしいわ」
「へっ?」
「ジュンイチくん──────まだ”戻って”きてないみたいよ?」
 
 
 シェラザードの最後の一言により、その場の一同全員が沈黙した。
 
 
 
 
 
 
 8月3日 P.M.09:23 場所…リベール王国 ジェニス王立学園 食堂
 
 
「ほらよ、旧校舎へ続く裏門のカギ────借りてきたぜ」
「ありがと、ハンス君」
 
 
 沈黙から脱してから数分後、ハンスが当直勤務の先生からカギを借り、エステルに手渡す。
 何て事はない、どこにでもある南京錠のカギ……その気になればピッキングで誰でも入れそうなほど簡単な構造の代物である。
 とりあえず、その辺の防犯意識の念は片隅に置いといて……旧校舎への経路は確保できた。が、出発する前に一つやらなければならない事が。
 
 
「とりあえず……どーする、コレ?」
「あはは……うふふ………しろーい、しろーいにーちゃんひーらひらー*&%#$※?@」
「まぁいいんじゃない? 手ならあるし」
 
 
 精神崩壊を起こし、自分で自分を
 制御できなくなったジュンイチを指さしながら、エステルがうめくがシェラザードの回答は至ってあっさりとしたものだった。
 ゆっくりとジュンイチの元へ歩み寄って────自身の胸に、ジュンイチの顔をうずめた。
 
 
「────────っ!!?」
「シェ、シェラ姉?!」
「ホーラ、ほーら────しっかりしないと、もっと凄い事しちゃうぞ♪」
(くぅ────っ!! 何て羨ましい事を……ジュンイチ君、恨むよ〜〜っ!!)
 
 
 本気で悔しがるオリビエをよそに、シェラザードは自らの谷間にジュンイチの顔を挟んだまま、外へと連れ出していき………その数秒後
 突如として鳴り響く、百閃万撃ムチの音。
 何となーくオチは予想していたものの、1分にも満たない短時間に”天国””地獄”を同時に味わったジュンイチの身に、
 新たな心的外傷(トラウマ)が刻み込まれたのは間違いないと確信し、エステルとなのはは十字架を切った。
 
 
………………
………
 
 
「さてと……またもオレ自身の選択権なんか見事に握りつぶしてくれた荒療治のお陰で無事に現実世界に戻ってこれたワケだが……」
「いい加減諦めちゃいなさいな。────少しはエステルを見習いなさい、情けない
「まぁ…ぶっちゃけ諦めは完全には無理だが、少なくともやる気は出た」
「オッケー、ならさっさと逝っちゃいましょう♪
「シェラ君……何だかんだで、ジュンイチ君を弄くる気満々だね」
「何を今更」
 
 
 
 立場的にはもはや愛玩具扱いである。
 自身の立場の弱さを改めて痛感したジュンイチを放置し、エステル達は改めて自分達の戦術オーブメントの確認へと移る。
 向かう先は長年人が立ち入る事の無かった場所である。凶暴な魔獣が住み着いている可能性だってあるのだから、作業にも熱が入る。
 その間、する事の無くなってしまったジュンイチ達はしばし会談し────
 
 
「────わたし達は今の内にアースラの方に連絡しておきますか?」
「そうだな……肝心のジュエルシードの捜索は全く進んでねぇが、フェイト達の事も気になる。
打てる手は打っておくに越したことはないからな」
 
 
 とりあえず今までの経緯をエイミィの方へ伝えておくことで合意した。
 ……見たことも聞いたこともない次元世界で離ればなれという現実を耳にしたら、一体どんなリアクションが返ってくるのだろうか?
 ヘタをすればリーダー役(ジュンイチ)がリンディから過激なオシオキを受ける可能性を懸念しつつ、ジュンイチは自らの腕に装着された、ブレイカーブレスの通話ボタンを押す。
 
 
 
 
 
 ────だが
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ガ────ガガ……ザザ────…………ガ────ピガ────!!
 
「にゃっ?!」
「な、なんじゃこりゃあっ!?」
「な、何よこの音っ?!!」
 
 
 突如ブレイカーブレスから鳴り響く大音量のノイズに、なのはやジュンイチはもちろん、側にいたエステル達も思わず耳を塞ぐ。
 ────何故このような事態になったのかは判らないが…このままにしておく訳にはいかない。
 慌ててジュンイチがブレイカーブレスの通話スイッチを解除する。すると、途端にノイズは鳴り止んで辺りには夜の静寂と、野虫の鳴き声が鳴り響く。
 
 
ふぅ………びっくりした。
一体何なのよジュンイチ、今のバカでかい音は?!」
「すまん────ちょいとトラブっちまった」
「全く何たることだ。…ボクの繊細な鼓膜が破れる所だったじゃないか」
「凄く大きな音でしたけど、一体何だったんでしょう?」
 
 
 エステルもそうだが、クローゼも今のノイズには疑問の声を投げかける。……だが、持ち主であるジュンイチ達ですら体験したことのない事態である。
 正直、どうしてこうなったのか────こっちが聞きたいくらいだ。
 
 
「エステル、クローゼ。……この辺って、地理的に通信手段が取りにくいとかそういうのってあるのか?」
「え? な、何よやぶからぼうに────?」
「少なくとも、導力通信は普通に扱えますよ。地磁気も正常ですし、何ら通信に影響を及ぼす場所ではないと思われるんですが」
「────────そうか」
「だから、一体なんだってのよ?! 人の質問に答えなさぁーいっ!」
「むしろ聞きたいのはオレの方だ。……こんな事、今まで全くと言っていいほど無かったからな」
 
 
 この世界での通信方法がどのような物なのかは判らないが、地磁気や電磁波等の可能性でないとすると………魔力的な何かで通信を阻害されていると考えた方が自然だろう。
 無論、ミッドの通信システムが妨害されるなどといった事例などジュンイチはもちろん、なのはだって聞いたことがない。
 だが───────ユーノは、少なくとも心当たりがあるようだ。表情を濁しながら、ジュンイチに告げる。
 
 
「ひょっとしたら────通信妨害用の魔法かも」
「そんなモノがあるのか?」
「ボクも実際見たことはないんですけど、結構前から確立されてる手段です。用途は………言わずもがなでしょうが」
「だが、オレのブレイカーブレスはミッド式のデバイスでも何でもねぇし、影響を受ける筋合いはないと思うんだが?」
「受信側のデバイスの種類が違っても、通信の規格やパルスゲージが合致してしまえばある程度の妨害は出来ると思います」
 
 
 それは………この世界になのはやユーノと同じ、魔法使いが居るという事を示していた。
 そして同時に────自分達に仇なす障害…すなわち敵がいることでもある。
 ジュンイチはエスエルの方に向き直ると、ちょびっと頭を下げて謝罪する。
 
 
「エステル……すまん。この件については幽霊騒ぎが片づいてからキッチリ話す」
「ホントに?」
「でなきゃ納得できないだろ? 少なくともオレなら自分が完全に理解できるまで何度でも問いただす」
「ホントにやりそうで怖いわね」
 
 
 エステルが思わず毒づくと、ジュンイチも合わせるように苦笑する。………何だかんだ言いながら
 しっかり息が合っている二人が何だか微笑ましく思え、なのはは場の雰囲気を思わず忘れて微笑む。
 
 
 その後、クローゼも『自分の通ってる学校だから道案内できる』と立候補し、旧校舎の探索に同行することとなった。
 最初エステルやシェラザードのどちらかが反対するかな? と思ったなのはだが、むしろ快く了承したのには正直びっくりした。
 ……ジルの話によるとフェイシングの腕前は男子のそれを遙かに上回り、なおかつ回復系の導力魔法(アーツ)も豊富らしい。
 
 むしろ二人にとっては、彼女の申し出は渡りに船だったということか。
 ちなみに────────オリビエまでもが何故同行しているのかに関してはもはやわざわざつっこむ領域でもない。
 
 
 
 
 
………………
………
 
 
 
 現地に着くまでもそうだが、途中通りがかった石垣の道についても…苔が生え、雑草が伸び、あちこち風化して崩れてしまっている。
 ハンスの話だと20年ほど前に今の新校舎が出来上がり、それ以降は殆ど手入れもされずに放置されっぱなしだったらしい。
 いかにも幽霊が好んで住み着きそうな土地ではあるが、今のジュンイチの頭には全くそう言った懸念は無かった────いや、むしろ消え去ったと言うべきか。
 先程、自分達の通信を妨害したあのノイズ────魔法通信の妨害など、この世界の技術で出来る芸当ではないし、出来たとしたらそれは自分達と同じ異世界の人間………ということになる。
 そしてもう一つの懸念────それは旧校舎入り口付近にさしかかった時に、3人の元へとやってきた。
 
 
「────────っ!!!」
「なのは……気付いたか?」
「はい…結界が、旧校舎を中心に展開されています」
「だけど、展開範囲がそれほど広くないですね………。普通、このテの魔法はかなりの広範囲になるはずなんですが」
 
 
 だが、細かいことを論していても始まらない。ジュンイチは歩速を早め、なのはもそれに付いてくる。
 ────やがて辿り着いた旧校舎は、いかにもソレっぽいロケーションの古びた外観を誇っていた……。
 雰囲気はバッチリなのだが、さすがにここまでくればジュンイチに怖いモノはない。意気揚々と入り口のドアノブに手を差し出した………と
 
 
「────────なんじゃこりゃ?」
「これって……カード? 何か書いてあるみたいだけど」
「なになに...?
 
『招かれざる訪問者よ、我が仮初めの宿へようこそ。
千年の呪い、恐れぬのなら我が元へ馳せ参じるが良い。
第一の呪いは大広間に。「虚ろなる炎」を目指せ』
 
だとさ。……第一ってコトはまだこんなのが2つも3つもあんのかよ」
 
 
 ジュンイチが項垂れながらカードを読み上げたその直後────!
 
 
シュボッ!!
 
 
 
「おわたぁっ!!」
   「わわっ……!?」
       「うわぁっ!!」
 
 
 カードを直に手にしていたジュンイチ、覗き込んでいたエステル、ジュンイチの肩に乗っていたユーノがそれぞれ軽く悲鳴を上げる。
 無論、カードは綺麗さっぱり燃えてしまい、炭となってパラパラと崩れ落ちる。
 その様子に、端から見ていたシェラザード、オリビエ、ドロシーも驚きを隠せない。
 
 
「い、一体何なのコレ?!」
「ひょっとしたら…発火現象かも〜────騒霊(ポルターガイスト)現象とかで時々起こるらしいけど〜……」
「フム────随分と挑戦的な幽霊だね。ボク達に謎掛けをしてくるとは」
 
 
 さすがのジュンイチも、コレにはキレた。
 顔中に血管マークを浮かべて、意気揚々と叫ぶ。
 
 
「………上等じゃねぇか。生きてる人間様×7と
淫獣の底力を嘗めんじゃねぇぞ!!
強がりもそこまで出来れば上出来────って、どうしたのユーノくん?
「や……何でもないです」
「????」
 
 
 無意識に自分の存在意義を打ち砕いてくれたジュンイチに、最大級の恨み辛みの念を押しつけながら項垂れるユーノの姿を見て
 心配そうに覗き込むシェラザードだが、彼女に今のユーノをどうこう出来るワケでもなく、一同はさっさと旧校舎内に潜入───────『虚ろなる炎』を目指すこととなった。
 
 
「せっかくこれだけ人間が居るんだ。あっちが謎掛けでくるんならこっちは人海戦術で攻めてやる!」
「ま、妥当な作戦だけど……心当たりあるの?」
「『虚ろなる』ってことは他の炎に比べて勢いが無いか、もしくはとっくに消火しちまってる火のコトだと思うんスよ。だから、ソレっぽい形跡のある場所を探せば」
「なるほどね─────だから人海戦術なワケだ」
 
 
 実際外から見ても判るくらい旧校舎はとてつもなく大きく、広い。
 効率的に捜索する為にも、せっかくの人員の多さを利用しない手はないと踏んだのだ。
 ……まぁいざとなればサーチャー作ってあちこち飛ばして探せばいいし、と、心の中で付け加えると女性陣は部屋数の多い1階……オリビエとジュンイチ(+ユーノ)は2階を担当することとなった。
 
 
………………
………
 
 
 
「意外にすぐ見つかったな」
「『虚ろなる炎』─────火が消えちゃってる燭台だから『虚ろ』なんでしょうね」
「とりあえず手がかりは……と」
 
 
 隣でなのはが同意すると、ジュンイチは早速燭台を調査…………中には玄関に貼られていたカードと
 同じ外見の物が納められていた。
 
 
「えっと、何だって………?
『第二の呪いは教室に。「南を向く生徒を捜せ」』
─────だってさ」
 
 
シュボッ!!
 
 
 
「ととっ! また焼失かよ……火傷したらどうしてくれんだ」
「まぁとりあえず正解ってコトね」
「フム……次は教室のようだが────無人のはずの校舎で『南を向く生徒』、か」
「これも何かの比喩表現なんでしょうか?」
「まあ、コンパスを確認しながら探せば大丈夫でしょ」
 
 
 手にしていた2枚目のカードも燃え、炭となってパラパラと崩れ落ちる。
 
 捜索手段については先程と同様に、各階に男女で分かれての捜索となり─────一階、西側の教室でそれは見つかった。
 
 
「……周りの机やイスは散らかってるのにここだけちゃんと置かれてるね〜」
「向いている方角も真南……ここでいいんじゃないかしら?」
「それじゃあ、調べてみますね─────」
 
 
 第一発見者のドロシーの意見をシェラザードが確認。方角もほぼ南を向いていることから、条件に挙がった席であるのは間違いない。
 ……これ以上ジュンイチを刺激すると何をしでかすか分かったもんじゃない─────ということで、なのはが代役で机を調べ……またあのカードが出てきた。
 
 
「えと……
『第三の呪いは庭園に。「落ちたる首」を探せ』
─────ですか」
 
 
シュボッ!!
 
 
 同じ手に何度も引っかかるはずもなく、なのははカードが燃え出す前にパッと手放すと、回転しながらカードは焼失。崩れ落ちた………。
 
 
「……正解みたいだが、この校舎で庭園っていったらあそこしかねぇな」
「何? 何か見つけたの、ジュンイチ?」
「カードを探してる途中で2階の南側にテラスみたいな広場を見つけたんだ。
………幾つか痛んでるプランターもあったし、ひょっとしたら条件に合うヤツが見つかるかもしれねぇ」
「なら決まりね。とっととその場所に行ってみましょ」
 
 
 シェラザードに促され、2階のテラスへと向かう一同。
 ─────ジュンイチの言ったとおり、約一カ所だけ……崩れて植木箇所が床に転げ落ちているプランターが見受けられた。
 『庭園』と『落ちたる首』────────確かに無理をすれば”首”に見えなくもないので、早速調べてみることにした。
 
 
「ありましたよ────カードと……あと、古いカギが」
「カギ?」
 
 
 なのはから奪い取る感じでカードをすくい取ると、ジュンイチは目を細めて怒りを抑え込むように読む。
 
 
『今こそ呪いは成就せり。最後の試練を乗り越えいざ、我が元に来たれ』?」
 
 
シュボッ!!
 
 
 案の定、また燃え出すカード。今度はジュンイチもカードを手早く放り投げ、何とか事なきを得た。
 どうやらこれで謎掛けは終わりらしいが、いよいよ持ってジュンイチ達の疑惑は確信へと近づいていた。
 もはやこれは、幽霊の仕業ではない……自分達と同じ人間。それも魔力資質を持つ相手かもしれないという可能性もある。
 一層気を引き締め、一緒に同封されていたカギの合う場所へと、ジュンイチ達は急いだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 8月3日 P.M.08:45 場所…リベール王国 旧校舎地下遺跡 B1
 
 
「な、なんじゃこりゃあ?!」
「どうやら相当昔……ヘタをしたら”大崩壊”以前の遺跡かもしれないわね」
「って、みんな! ────早速来たわよ!!」
 
 
 学校施設の地下にこのような古風な遺跡があるとは知らず、思わず驚きの声を上げるジュンイチとシェラザードだったが、どうやらそれどころではなくなったらしい。
 エステルが素早く愛用の戦術棒を構え、他のメンバーに注意を促す。
 すると周囲に飛散していた埃が、ゆっくりと集まってそれを形成する。細かな繊維は幾本もの体毛に、
 腐り落ちた肉片は獲物の体液を吸収する管状の針へと姿を変えていく。
 
 ────────どうやら湿度の高い、冷暗所を好むタイプの魔獣らしく、目や耳といった感覚器官が見あたらない。
 となると、この手の輩はこちらのわずかな動きでも、その際に発生する微弱な空気の振動で詳細の位置や動向を察知するに違いない。
 そう判断したジュンイチはすぐさま”力”を練る。この種のモンスターが最も苦手とする属性。それは─────
 
 
萌えるハートでクールに戦う! それがプロフェッショナルってヤツだぜっ!!」
「一字違ってますよ」
 
 
 冷静にジュンイチのボケにツッコミを入れるなのはだが、つっこまれた本人は全く気にも留めずに”力”を放ち─────
 ”力”は空気中の酸素と可燃性物質と反応し、一気に爆炎が吹き荒れた!!
 味わったことのない強烈な炎に、思わずたじろぐ魔獣だったが本能的に身体を構成している埃を部分的に霧散させ、
 自分に影響の及ばない所で燃焼反応を起こさせ、爆発させる。
 危うく難を逃れた魔獣は、真っ先に自分に天敵の炎をお見舞いしてくれたジュンイチに狙いを定める。
 突然からだがモゴモゴと蠢いたかと思うと、魔獣は口と思わしき器官から真っ黒に染まった液体を吐き出した。
 ─────だが、それに大人しく当たってやるジュンイチではない。再び”力”を練り上げ、放たれた液体に向けて『干渉』させる。
 すると、先程まで宙を飛翔していたゲル状の液体は見る見るうちに”凍り付く”!!!
 
 
「─────あたしもいい加減ジュンイチの規格外っぷりには慣れたつもりでいたけど………
極めつけの大盤振る舞いが残ってたわね。────一体何よアレ!?」
「あれがジュンイチさんの力ですよ。……対象の熱量を増加させたり奪ったりすることで燃やしたり爆発させたり凍らせたり。
─────雷光弾とかよりもむしろあっちの方がジュンイチさんの真骨頂かもしれません」
「いやはや……『戦術オーブメント』もナシにあれだけの大立ち回りをやってのけるとは、さすがはジュンイチ君だ♪
だが─────」
 
 
 言いつつオリビエは懐から自身の戦術オーブメントを取り出し、”力”を紡ぐ。
 『火耀石』から作り出した、『火』のクォーツにエネルギーが注ぎ込まれ、周囲の物質に干渉を始める!
  
 
「女神の放つ金色の矢は、あらゆる百邪を焼き払う。……かの一擢を以て我が障害を焼き砕け!
受けるがいい─────フレアアロー!!
 
 
 オリビエの咆吼と共に、天井で化学反応を起こした可燃性物質が、超高温の矢となって魔獣の脳天に降り落ち、そのまま貫いた!
 炎属性のアーツの中で、中の下級レベルに位置するのが─────彼の放ったアーツ『フレアアロー』である。
 満面の笑みでジュンイチへと投げキッスをするオリビエ。
 
 
「この手の分野はボクも大の得意なのサッ♪ ジュンイチ君だけにいい思いはさせないよ?」
「あっそ。
─────あいにくとオレは張り合うつもりもないし、任せられる所はとことん押しつける。
オリビエが魔法が得意なのは分かったが……」
 
 
 言いかけ、気付いた。
 まだヤツは、倒れてはいなかった─────ゆっくりとその身を起こすと、オリビエの背後から近づいてきて……自慢の吸血管をその首筋に─────
 
 
〈Divine...〉
「バスターッ!!!」
「おぉうっ!!」
 
 
 ……刺そうとした所を、なのはのディバインバスターによってトドメを刺され、沈黙。
 力を失った魔獣はその身に蓄えていた七耀石の欠片────『セピス』をこぼしつつボロボロと崩れ去っていった...
 自分の危機を救ってくれた事には感謝はするが、どうにも容赦のない一撃を繰り出してくれたなのはにオリビエは引きつった笑みをこぼす。
 
 
「な、なのは君? もうちょっとボクの身の安全も考慮して撃ってくれると有り難いんだけどナ─────」
「え? 何か問題がありました??
「…………何デモナイデス」
 
 
 心の底からの純粋な笑顔でもって答えるなのはに、これ以上の言及は無意味かつ
 自分の身の安全がこれっぽっちも認められてない事
 に対して最大級の凹みようを醸し出しながら、オリビエも崩れ落ちる。
 ……だんだんなのはも自分達に影響されて容赦が無くなってきてるなぁとエステルとシェラザードが心中で呻いたりするが、
 こんな魔獣が突然出現してきた事を考えると、戦闘手段を持たない人間はこれ以上の同行は危険である。
 
 
「この調子だと先が思いやられるわね─────ドロシーさん? 申し訳ないんだけど、ここから先は危険だからここで待機してて貰えないかしら」
「え〜…わたし、ナイアル先輩にスクープ写真取ってくるようにって頼まれてるのに〜……」
全身の血を吸われてミイラになるのと、串刺しになって干からびるのと、どっちがいい?」
「…………………うぅ、断腸の思いで居残らせて貰います〜」
 
 
 ジュンイチに脅され、渋々納得した様子で入り口の前に居座る事にしたドロシー。
 ……エステルやシェラザードとしても、手間が省けたといった感じでホッとした表情である。
 
 
「賢明な判断だ。─────一人前のメディア関係者は、そう言った命とネタの天秤ってのが上手く取れてるモンだからな。無理をせず、自分の出来る所でスクープをモノにしな」
「ふむぅ……含蓄のあるお言葉で」
「ジュンイチもたまにはイイ事言うじゃない」
「普段が普段ですからね。………むしろ普段としては見下すか、貶すかのどっちかですよ」
「うっさいぞ、ソコ」
 
 
 ドロシーが感心するよそで、ユーノとエステルの反応は非常に冷ややかなモノで、ある意味彼の特異性を端的に表現していると言えよう。
 せっかく久しぶりにシリアスな雰囲気になってきたというのにこの3人は……どこでもマイペースな彼等を放置し、シェラザードはオリビエとクローゼ、なのはを引き連れ
 とっとと遺跡の奥へと向かう事にした。
 
 
「全く─────いつまでもおバカやってないで、とっとと先行くわよ」
「フフッ、いいじゃないかシェラ君。仲睦まじき事は何とやら、だよ」
「オリビエもさらりと余計な一言漏らしてんじゃねぇ」
「………いつものジュンイチさんに戻ったのはいいんですが、どうにもケンカ腰なのが玉に瑕です」
「負けず嫌いというか─────ただ単に意地っ張りなのではないでしょうか
 
 
 クローゼ、おおむね正解。
 
 
 
……………………
…………
……
 
 
 遺跡を探索開始して数十分。まるで迷路のように入り組んだ通路と、ここに巣喰う数多くの魔獣達によって手こずりながらも、何とか最下層部と思わしき場所に到達。
 ─────同時に、気付く。
 通路の奥から響く、忌まわしき力の波動が……。
 
 
(なのは………)
(うん。─────近いよ
(何モンか知らねぇが、平和的に解決させてくれると手間が省けて助かるぞ)
 
 
 その可能性は恐ろしく低いが……。
 とりあえず、この先に敵がいるのは間違いない─────とりあえず、詳細は伏せておいてエステル達にも注意を促しておく。
 
 
「エステル……近いぞ。多分この先に誰かいやがる」
「えっ? そうなの!?」
「確かにこの先から異様な雰囲気が漂ってきてるわ。─────何者かが待ち伏せしてる可能性があるわよ」
 
 
 シェラザードの一言が決め手となり、一気に緊張感が高まる。
 そして、暗くよどめく通路を抜けた先には────今までとは違う、異様なまでに広い一室に辿り着いた。
 部屋は松明で明るく照らされ、床や壁の石造りもしっかりしている。まるで”戦闘を意識した”ような構造である。
 奥には、かなり大型の機械……と、そこに佇む二人の人影。
 戦闘にはいる事を念頭に置き、エステル達は人影の元へと向かう。
 
 
「影もあるみたいだし、幽霊じゃ無さそうだけど……あなた何者?」
「フフフ────ようこそ、我が仮初めの宿へ。歓迎させて貰おうか」
「か、仮面の男?!」
「エステルさんやポーリィちゃんの目撃情報と一致しますね。あなたがルーアン各地を騒がせていた『影』の正体ですか?」
 
 
 シェラザードの問いに答え、一同の方へ向く人影は……エステルとジュンイチが目撃した
 『白い仮面を被った男』そのものだった。
 思わずあの時の恐怖がフラッシュバックするが、今はそれどころじゃない。クローゼは改めて男に尋ねる……と、男は薄笑いを浮かべて自信満々に告げる。
 
「フフ……その通りだ、クローディア姫。お目にかかれて光栄だよ」
「こ、コイツ………何でクローゼの正体を?!」
「フフ……私に盗めぬ秘密などない。改めて自己紹介をしよう────」
 
『執行者No.]。《怪盗紳士》ブルブラン────《身喰らう蛇(ウロボロス)》に連なる者なり』
 
「み、身喰らう蛇?!」
「……くっ!!」
 
 
 いきなり追い求めていた最大の敵が目の前に現れた……その現実感とプレッシャーが、思わずエステル達を後ずさりさせる。
 が、もう一人の人影……ミントブルーのロングヘヤーにやや紫がかった蒼色の瞳を持つ女性は、ブルブランの陰に隠れ、
 観察するような目つきで……ジュンイチとなのはを見つめていた。
 
 
「────ヴァーチ君、彼等は君の事も知りたがっているようだが……如何するか?」
「……そうですね────任務に支障が出ない程度で、自己紹介をしておきますか」
 
 
 そう言って、『ヴァーチ』と呼ばれた女性は静かに微笑みながら、ゆっくりと告げた。
 
 
「────初めまして皆様。私(わたくし)はヴァーチ……ブルブラン様の従人にして、”汎用量産型魔力結晶念導体”
────『ジュエルシードAMP』の実験を仰せ付かっている魔導師の一人です。
以後お見知りおきを………柾木ジュンイチ様。高町なのは様
「ふぇっ?! な、どうしてわたし達の事を!?」
「つーか何でお前がジュエルシード使って何の実験をしてやがる! アレはそこんじょそこらの魔導師が扱える代物じゃねぇんだぞ!?」
 
 
 ジュンイチとなのはに関しては後ずさりするどころか逆に前に踏み出す。無理もない────
 この世界ではジュエルシードはおろか、なのは達のような魔導師すら存在しないハズ……その常識が根本から覆されたのだ。
 しかもその自体の元凶が自分達の事を知っていたのならなおさらである。
 だが、ヴァーチはジュンイチ達の問いに答えることなく再びブルブランの陰へと隠れ、一方のブルブランは『やれやれ』といった素振りで代弁する。
 
 
「フフ……そう殺気立つ事はない。我々はここで、ささやかな実験をしていただけなのだ。諸君と争うつもりは毛頭無い」
「じ、実験……?」
 
 
 首をかしげ、ブルブランの背後に目をやると………エステルは言葉を失った。
 半年近く前、同様の代物を巡って繰り広げた事件の数々。その中心的役割を果たしていた”それ”が目に入ったのだ。
 
 
「そ、それは………」
「リシャール大佐が使っていた漆黒の導力器《ゴスペル》────」
「しかもどうやら……あれよりも一回り大きいみたいだね」
「ふむ、”彼”の報告通りこれの存在は知っているか。
この《ゴスペル》は実験用に開発された新型でね。今回の実験では非常に役に立ってくれたのだよ」
「実験……一体何の実験なの?」
「フフフ……百聞は一見に如かずだ。実際に見ていただこうか」
 
 
 そういうと、ブルブランはゴスペルの置かれた怪しげな装置に手を伸ばし……スイッチを入れる。
 すると彼のすぐ前にもう一人のブルブランの姿────いや、正確には”彼の姿をした立体映像(ホログラフ)”が現れる。
 
 
「ゆ、幽霊!?」
「いや、実際にはその装置を使用して空間に投影された映像のようだね。そんな技術が確立されているとは、寡聞にして聞いた事がなかったが」
「これは我々の技術が生み出した空間投影装置だ。
もっとも装置単体の能力では目の前にしか投影できないが……《ゴスペル》の力を加えるとこのような事も可能になる」
 
 
 言ってブルブランは装置のコンソールを操作。しばらくして、装置の傍らに置かれた漆黒の導力器《ゴスペル》が目映い光を放ち────
 
 
 ブルブランの映像が、エステル達の後方へと投射されていた。
 
 
「きゃっ……?!」
「わわっ?!!」
「な……ホ、ホログラフの任意空間表示だと?!」
「そんな……ミッドの魔導通信でも平面表示機能だけなのに────」
 
 
 ホログラフというのは機械から発射される光線によって空間に映像を表示する機能を備えた物であるのは周知の事実である。
 だが、表示の為には幾つかの制約があり────装置の近くにしか投影できないのもその一つである。
 しかし────《ゴスペル》の力を得たこの装置は違った。
 遠くの座標に映像を表示させる為には、それだけ強力な光源と表示に必要な条件────
 (例:その場所が霧がかっている等、映像を表示できる”透過性のあるスクリーン”が必要)
 これをクリアしなければならないが、この装置には《ゴスペル》以外、そのような目立ったパーツは存在しない。
 つまり、”あり得ない事”が現実に起きてしまったという事になる。
 
 
 呆気に取られているエステル達をひとしきり観察して気が済んだのか、ブルブランは装置のメインスイッチを解除。
 投射されたブルブランのホログラフは一瞬のうちに姿を消してしまった。
 
 
「────とまぁこんな感じだ。ふふ、ルーアンの市民諸君にはさぞかし楽しんでいただけただろう」
「くだらない……要するにただの悪ふざけだったワケね」
「悪ふざけとは人聞きの悪い。────選挙で浮かれる市民に贈るささやかな息抜きと娯楽。
そんな風に思ってくれたまえ」
「一般人からすりゃ十分迷惑極まりない怪奇なんだよ、この変人。
いかがわしいモンの見過ぎで脳ミソのスパークがおかしくなってんじゃねぇの?
 
 
 半分以上私怨入りまくりのジュンイチの罵声に、
 全く動じることなくブルブランは未だ自己陶酔に陥っている。
 ……とりあえず大恥掻かせた復讐に走って罵りまくっているジュンイチをさておいて、エステルは改めてブルブランに問いただす。
 
 
「か、カラクリは分かったけど……一体どうしてこんな事をしでかしたのよ?!
《身喰らう蛇》って、一体何を企んでるの!?」
「フフ……それは私の話すべき事ではない。
私がこの計画に携わる事となった唯一の理由────クローディア姫、貴女と相見えたかったからだ。」
「えっ……?」
 
 
 さすがにここで指名されるとは思っても見なかったのか、やや間の抜けた返事をするクローゼ。
 
 
「市長逮捕の時に見せた、貴女の気高き美しさ……それを我が物にする為に今回の計画に参加したのだ。
あれから数ヶ月────この時を待ち焦がれていたよ」
「え、あの……その………」
「市長逮捕って……ダルモア市長の事件よね?────って、何であんたがあの時の事を知ってるのよ?!」
「フフ、私はあの事件の時……影ながら君達を観察していたのだよ。例えば────このような形でね」
 
 
 言ってブルブランはマントを翻し────元に戻した時には全くの別人が出来上がっていた。
 ……変装術。名の知れた怪盗には必須のスキルだが問題はそこではない。
 ”変装した人間”に見覚えがあるのか、エステルとクローゼは思わず驚きの声を上げる。
 
 
「まさか、あの時いたダルモア家の……?!」
「じゃあ、マノリア村で飲みつぶれてたオジサンは本物の……!?」
 
 
 時刻はエステル達がクラム達と合流する数分前の事……
 村の宿で一人大量の酒に溺れて崩れ落ちていた中年紳士を発見していたのだ。
 その男性はしきりに『あれは私ではないんです……旦那様が逮捕など何かの間違いで………』と繰り返していた………
 つまり、自分の知らない間に事態が動き、結果主が何らかの罪で逮捕されてしまったという事である。
 普通なら執事の監督不届きという事で済まされる問題なのだが、彼の場合は”自分に変装した誰か”が事態を進め、このような結末に至ってしまった事に嘆いていたのである。
 その理不尽さと辛さ……執事でなくとも理解できる人は決して少なくないと思われる。
 
 
「怪盗とは即ち美の崇拝者。気高き物に惹かれずにはいられない。姫、貴女はその気高さで私の心を盗んでしまったのだよ。他ならぬ、怪盗である私の心をね……
おぉ! 何という甘やかなる屈辱!! 如何にして貴女はその罪を贖うおつもりなのか!?」
「あ、あの……そんな事、急に言われても困ります」
「この自分に酔った口調……誰かさんにソックリね」
「失敬な。一緒にしないでくれ給え」
 
 
 未だ、自分の世界に入ったまま還ってこないブルブランを見て、”似たような人”に問いかけるシェラザードの目は随分楽しそうだ。
 きっと同類同士仲良くやれると思ったのだろう。
 だが、一緒にされた当の本人は随分と不服そうだ。────第3者の目から見てどこに違いがあるのか全く理解できないが、オリビエは不満の声を上げる。
 
 
「《身喰らう蛇》────何か思ってたのと違うけど……
クローゼが狙いと聞いたら尚更放ってはおけないわね!!
「エステルさん……」
「要するに『美を崇拝する』ってのを建前に年下の女の子に”ホの字”ッてワケかこの変態仮面は。
ロリコンは筆者(takku)だけで十分だっての!!
 
 
 ………………次回はジュンイチが死ぬ話にしようかな。
 
 筆者がジュンイチへの殺意に芽生えた横で、自分の親友が、自分の追い求めていた”敵”に狙われていると判り、瞬時に棍を構えるエステル。
 そして貶されまくったブルブランはやや表情をゆがめてジュンイチに言い返す。
 
 
「そう言ういかがわしい言い方は止め給え、全く……美の何たるかを判らぬ輩にそのような無粋な意見を言われる筋合いはn」
「そういう芸術観念の論説は判る人間に言え。
生憎とオレはそう言うのは全く持ち合わせてないからな────事実をありのまま言わせて貰う」
 
 
 何という男だろうか。……だが、言っている事は妙に的を射ているから言い返せないのもまた事実なワケで。
 シェラザードも言い方さえアレでなければ思わず同意してしまう所だが、今はそれどころではない。
 自身の武器を構え、ブルブラン及びヴァーチに最終通告を告げる。
 
 
「協会規約に基づき、不法侵入などの容疑で拘束するわ。《ゴスペル》の件も含めて、色々と喋って貰うわよ」
「やれやれ、何という無粋な連中であろう。相手をしてやっても良いがせっかく選んだこの場所だ……
『彼』に相手をして貰おうか」
「何ですって?!」
 
 
 言ってブルブランは右手をかざし……指を鳴らして合図を出す。
 すると一帯を地響きが襲い、ジュンイチ達の右側方からなにやら機械音がこだましてくる。
 
 
「な、なんなの?!!」
「ふむ……イヤ〜な予感がするねぇ………」
 
 
 オリビエの予感は的確に……しかも最悪な形で的中する事となった。
 機械音のする方の壁が突如左右に割れ、奥に一旦引き込まれた後に左右それぞれに移動。ゲートが開き………暗闇の中から、巨大な機動兵器が姿を現す!!
 
「な、何コイツ!?」
「甲冑の人馬兵?!」
「フフ、どうやら『彼』はこの遺跡の守護者のようでね。
半ば壊れていた所を私が親切にも直してあげたのだよ。折角だから、君達が相手をしてやるといい。」
「じょ、冗談じゃないわよ!!」
 
 
 思わず叫ぶエステルとクローゼ。無理もない……
 明らかに体格差がありすぎる。────しかも相手は金属のカタマリ。
 両手に装備された大剣はあらゆる物を薙ぎ払い、腹部に装備されているのは強力なエネルギー砲だろう。
 普通の人間なら、苦戦はおろか絶体絶命のピンチである。しかも────
 
 
「ブルブラン様────サンプル03のテストを行いたいのですが、自動人形(オーバーマペット)への装着を許可願えますでしょうか?」
「ふむ、いいだろう。────システムの書き換えは私がやっておこう。
君は術式を組み上げるといい」
「はい……」
 
 
 静かに告げると、ヴァーチは懐からジュエルシード”らしき”モノを取り出すと……
 眼前に翳し、式を組み立てる────
 するとたちまち溢れんばかりの魔力が部屋中に吹き荒れ、触れるモノ全てに干渉しスパークを巻き起こす!!
 
 
『我、操者にして汝等を統御する者…………。
水は風を呼び、風は炎を踊らせる────炎は光を灯し、光に照らされ闇を呼ばん。
……闇から誘われ、水は再び大地を駆けめぐる。
天の摂理を以て我が念に答えよ………ジュエルシード!!』
 
「……来るわ!!」
 
 
 ヴァーチの式が発動し、ジュエルシードは粒子化────
 そして見る見るうちに人馬型自動人形《ストームブリンガー》へと吸収されていき………
 
 
『グオォォォォォォォォォッ!!!!』
 
 
 結果、出力が吸収前のそれよりも遥かにパワーアップ。おまけに装甲の表面には魔力の皮膜が構成され、魔導師のバリアジャケットに近い状態となった。
 こうなると、生半可な攻撃では泣きを見るだけである。────そう確信したジュンイチは、ブレイカーブレスに手を伸ばし、叫ぶ。
 
 
「エステル、滅多にない機会だからよく見とけ! オレの本当の力を見せてやる!!
ブレイク……アァァァァップ!!!!
 
 
 ジュンイチが叫び、眼前にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
 たちまち光は紅蓮の炎へと姿を変え、ジュンイチの身体を包み込むと人型の龍の姿を形作る。
 荒れ狂う炎の中では、ジュンイチの精霊力が空気中の塵を材料に再構成(リメイク)を駆使、
 ────ジュンイチが腕の炎を振り払うと、その腕には炎に映える蒼いプロテクターが装着されていた。
 
 同様に、足の炎も振り払い、プロテクターを装着した足がその姿を現す。
 そして、背中の龍の翼が自らにまとわりつく炎を吹き飛ばし、さらに羽ばたきによって身体の炎を払い、翼を持ったボディアーマーが現れる。
 最後に頭の炎が立ち消え、ヘッドギアを装着したジュンイチが叫ぶ。
 
 
「紅蓮の炎は勇気の証! 神の翼が魔を払う!
 蒼き龍神、ウィング・オブ・ゴッド!」
 
 
 これぞ、ジュンイチの真骨頂……自身の精霊力を使用して自分専用の防護アーマーを構成、着装する『装重甲(メタル・ブレスト)』である。
 ────生身の状態でも十分な強さを誇るが、ストームブリンガーのような機動兵器を相手取る時にはこちらの姿になった方が色々と都合がいいし、
 何より、彼自身の戦法に幅を持たせる事が出来る。
 
 着装したジュンイチの姿に、再び呆気に取られるエステル達。……さすがに今まで見てきたジュンイチの非常識の中で一番ショッキングな映像だったのだろう。
 だが、当事者のジュンイチはそんな彼女達の思いなどお構いなしに、軽々と……
 ストームブリンガーに告げた。
 
 
「マスターランク、炎のブレイカー…────柾木ジュンイチ!
恨むんならオレにケンカを吹っ掛けたご主人様タチを恨むんだな!!
 
 
 それが、人対巨人との開戦の合図となった………。
 
to be continued...
 
次回予告
 
ついに始まる、太古の守護者との戦い!
 
けどどうするよなのは? オレ達思いっきりハンデ背負わされてるんだぜ?
 
大丈夫ですよ。みんなで”力を合わせれば”絶対に負けませんっ!!
 
みんなで、力を………って、そうかその手があったか!!
 
ブルブランさん……ヴァーチさん……わたし達、絶対にあなた達を止めてみせますっ!!!
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第6話『集え、星の輝き』
 
リリカル・マジカル!
 
やったれなのは! 並みいる敵まとめてブッ飛ばせ!!
 
 
 
−あとがき−
 
 どうもおはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────冒頭の二人の絡みを書いてる最中に、平行して
 とらハ3(忍さんルート)を攻略中だった鬼畜リエイターのtakkuです。何てシュールなあとがきだ事ww
 
 ようっ────────やく到達ですよ、オリジナル要素の含まれたシーン。←遅すぎ
 謎の魔導師、ヴァーチも加わってさらに加速する物語! 怒濤の戦闘シーン!!
 そして相変わらずガキっぽいジュンイチ君と対照的に
 大人ななのはちゃんのワンシーンが見物の次回!!
 
 …………頑張って書きますorz

管理人感想

 takkuさんからいただきました!
 幽霊事件の黒幕も登場し、いよいよ始まるガチバトル!
 ジュンイチも調子を取り戻してきたようで、なのはと二人してエステル達の出番を奪い取る暴れっぷりでしたな。
 そしてとうとう、ジュンイチにまで『淫獣』呼ばわりされたユーノに合掌(笑)。

 

>「ジュンイチくんと恭也達が、課題に苦しむ私を差し置いてとっとと行っちゃったから……つまんないのなんのって」

 そーいやこの人も課題のおかげで置き去りくらってましたっけね。
 まぁ、おかげでジュンイチも安心してられるんですが(笑)。

>「な、なのは君? もうちょっとボクの身の安全も考慮して撃ってくれると有り難いんだけどナ─────」

 はっはっはっ、何を言うかな、この人は。
 これがジュンイチだったら明らかに意図的に直撃コースで撃たれてるぞ(爆笑)。