8月4日 P.M.1:26 場所…海鳴市 高町家玄関
 
 昼食も終え、穏やかな夏風がそよぐ午後のひととき─────
 桃子と士郎はいつものように、今頃翠屋でランチタイムの修羅場から解放されてぐったりしているだろうと思われる……そんな時間帯。
 レンは友達の家に出かけてしまっている為、現在高町家には晶一人きりである。
 
 最初は軽く体でも動かそうかと思っていたが、家主が家を空けている上に自分はあくまでも居候の身という事を考慮し、
 無難に玄関近辺の掃除をする事にした。……落ち葉の類は今の時期は一切ないが、それでも1ヶ月くらい放置すれば塵や埃が溜まるのだ。
 加えて今は夏真っ盛り。滅多な事ではみんな外で掃除とかやりたがらないし、何より、雨も殆ど最近降っていない。
 
 家の物置から竹箒とちり取り……それとゴミ袋に軍手。掃き掃除に必要な必需品を一通り出し終えると早速作業開始。
 が………案の定というか、開始してから3分も経たない内から汗が滝のように噴き出る。
 
 
「あぁ………あっちぃなぁ─────やっぱり八束神社の方に走り込みに行けば良かったかな」
 
 
 照りつける太陽の日差しに思わず悲鳴を漏らす。
 それでも、時折吹き抜ける風が気持ちいい────それに……やっぱり自分が日頃お世話になってる家が綺麗になっていくのはとても気持ちがいいわけで…
 
 
「もうちっとで終わるし…とっとと終わらせてしまうか」
 
 
 日差しの苦しみも、いつしか全く苦に感じなくなっていて……気が付けば玄関前は綺麗に片づいてしまった。
 自分の成果を誇らしげに確認すると、掃除道具を片づけ、最後の仕上げとばかりに────
 あらかじめ汲んでおいたバケツの水を柄杓ですくい……
 
 
「─────うりゃっ!」
 
 
 じりじりと太陽と共に照りつけるアスファルト道に、軽快に水をまく。
 ……普通こういうのは午前中の涼しい内にやってしまうのだろうが、……風があるとはいえ、こうも暑いと家の中に流れ込む風まで生ぬるくなってしまう。
 そう考えた晶は、後から帰ってくる家人達の為にとせっせと水をまき続けた。
 
 そしてバケツの水もそろそろ底を尽きかけ、柄杓で掬えないほどの水量になると…晶はバケツを構え─────
 
 
「どぉりゃあぁっ!!」
 
 
 力任せに、方向も見定めずに思いっきりぶっかけた!
 
 
『きゃあっ!!』
「─────あ゛」
 
 
 周囲の安全確認を怠った結果、たまたま通りかかった通行人に少量のバケツの水が直撃。
 状況を飲み込んだ晶はバケツと柄杓を放り投げ、事故のとばっちりを受けた水難の被害者に対してものすごい勢いで頭を下げ、謝罪する。
 
 
「あぁっ、ご、ごごごめんなさいっ!! 大丈夫ですか?!」
「ああ、私なら平気だから……」
 
 
 謝りつつ、晶は気付く。……この独特のアルト声の持ち主。聞き覚えのある凛々しい声。
 恐る恐る、水の被った脚部から徐々に視線を上へと持ち上げ………
 
 
「み………み、みみ美沙斗さん?!
「久しぶりだね、晶……」
 
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 
 重なる心は、新たな運命の幕開け
 
 太陽の心の持ち主は、わたし達の心の鎖を解き放ち、
 
 心を、大きく揺り動かす。その誓いは、堅くそして揺るぎないもの───
 
 『ともだちに────なりたいんだ』
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第7話「不屈の心」
 
 
 
 シールドを解除して自分達を改めて凝視するブルブラン達を前にして、なのはは一息吸い、ゆっくりと深呼吸をする。
 ……荒げた呼吸はすっかりと収まり、倦怠感も随分と収まった。
 反撃に使えるだけの魔力も、一応残してある─────。
 
 
「あの子には申し訳ないですけど、無闇に人を傷付けるのなら───と思い、壊させていただきました」
「フム……見た目とは裏腹に、芯はしっかりしているようだな。攻撃への躊躇いや迷いもない」
「言っとくが、なのはをそこらの女の子と一緒にしない事だ。……これでも結構修羅場はくぐってきてる」
 
 
 感心するブルブランにジュンイチが付け加えると、なのははやや複雑そうな表情を浮かべるも、再び真剣な表情でブルブランに告げる。
 
 
「ブルブランさん……あなたにとってはただの娯楽や息抜きなのかもしれませんが─────
あなたのその娯楽のせいで、ルーアンの人達は真剣に困ってた。最悪…怪我人だって出てたかもしれない。
……だからわたしは────わたし達はここに居るんです。」
我々を、止める為に…か?
「はい」
 
 
 迷うことなく、はっきりと告げる。
 当のブルブランはというと………なのはの言葉を噛み締めるように、腕を組み、頷く。
 
 
「成る程…………だが、少し君は勘違いをしている」
「勘…違い?」
「私が動く基準……それはそこに美があるか無いかだ。無論姫殿下が居ればこの上ないのだがな。
そして私はこの街に美を感じた…まるで美しく煌めく金剛の原石のような美しさの可能性を─────」
 
 
 つまりこの男は、誰が何と言おうと自分が欲しいと思った物は何が何でも手に入れ、自分が気に入らないと思った物は全力をもって潰しにかかる。
 美術観念云々以前の……利己欲の強い人間。
 そんなブルブランの態度に、カチンと来たのはジュンイチだ。納得がいかない様子のなのはを押しのけ、荒げた言葉遣いでブルブランに言い放つ。
 
 
「─────いいね、そういった自己中心的な態度と物言い。
……オレの最も気に入らねぇ人種の筆頭格だよアンタは。手前ぇみたいなのをオレ達の世界で何て言うか教えてやろうか?」
「…………?」
 
 
 何を言い出すのだといった感じで、怒りと疑問が入り交じった……そんな顔をブルブランが浮かべると、
 ジュンイチは─────純真な少年のような邪笑で、ハッキリと告げる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「─────ガキの我が儘」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 瞬間、ブルブランが手にした杖をかざし…姿を消す。
 が、ジュンイチは全てを見透かしたように爆天剣を背後に突き出し─────自らに突きつけられたブルブランの杖をあっさりと弾き返してすぐさま距離を取る。
 
 
「どうした? ん? さっきまでの余裕に満ちた言動はドコイッタ? この変態仮面!!
変態は変態らしく女子のパンツでもかぶってやがれ♪
貴様ッ!! 名も知れぬ小僧の身分でこれ以上私の美学とこの仮面を汚すのであれば容赦はせんぞっ!!!」
「残念でした♪ オレ様ちゃんは美学なんてモンは一切キョーミ無いんでね。正直手前ぇの美学が汚されようが壊されようが知ったこっちゃねぇんだよ」
「きっ……貴様ッ!! 美しい物を美しいと思う心も持たぬというのかっ、この下郎がッ!!」
 
 
 先程までの紳士的な口ぶりとは打って変わって、声を高らかに荒げ、鬼気迫る表情でジュンイチに迫るブルブラン。
 例え怒りに囚われていても攻撃をする際はしっかり冷静だ。…ジュンイチのカウンターにも瞬時に反応しギリギリの所で回避し、自らもまたカウンターを繰り出す。
 だがそんな中でもジュンイチの口撃は止まらない。……無邪気な子供のように悪気も何もなく、ただ垂れ流すようにブルブランを貶す言葉を吐いていく。
 
 
「いい歳して女子高生なんかにホレやがってこの変態♪ ロリコン♪♪ ロクデナシ♪♪♪」
「ぐっ──────────!!!」
「実はその仮面の下はタレ目とかゲジゲジマユゲとかMッパゲとかそういうオチなんだろ?
いやぁ〜〜、ハズカシィィィィィィィィィッ!!!
「待て! 待てと言うとるにこの小僧があぁぁぁっ!!!」
 
 
 ………もはや完全にジュンイチのペースだ。ブルブランは完全に姫殿下と好敵手(候補)を放り出して小僧(ジュンイチ)の後を追って遺跡の通路へと消えていく。
 一方残されたなのは達は、どうしたらいいものかしばらく悩んだ末……
 
 
 
 
 
「ま、まぁあれがジュンイチさんの持ち味なので、あまり気になさらない方がいいかと。
─────多分、自分を心の底から震え上がらせたっていう事に対する復讐の意味合いが強いですけど
「しっかり本性の部分が聞こえましたよ?」
 
 
 意外に地獄耳らしかった。
 
 やれやれと仕え主の不甲斐なさに呆れつつも、ヴァーチはアイオライトの銃口をなのは─────
 の横を通り過ぎ、ストームブリンガーが立っていたであろう位置の瓦礫に向ける。
 
 
「確かに砲撃魔法の才能や保有量に関してはなかなかの物ですが………詰めが甘いですよ。
─────ジュエルシードAMP、シリアル03…引き寄せ(アポート)
「ああっ!!」
 
 
 驚きの声を上げるなのはの足下から、ストームブリンガーのパワーアップに使われたジュエルシードが姿を現し……ヴァーチの握るアイオライトの元へと瞬間移動した。
 そしてヴァーチはアイオライトのトリガーガードに人差し指をかけて半回転。グリップ部分をジュエルシードの方に向け…回収した。
 
 
〈Receipt No.03〉
「ご苦労様、アイオライト。─────引き続き、アシストモード起動」
〈Roger───Assist Mode. Get ready〉
 
 
 ヴァーチはアイオライトを軽快にクイックドロウすると、銃口を前方につきだして構える。
 するとグリップ部分の宝玉が発光し────彼女の魔力をエネルギー源にシステムを起動させる。
 システムを立ち上げると引き続いて魔法プログラムを作動。
 彼女の周囲に幾つもの、ライトブルーに光る半透明タイプのディスプレイが出現。そして目の前には巨大なキーボードのような物が姿を現した。
 どうやらデータ管理用の魔法を立ち上げたらしい────所要の魔法起動が終了すると、ヴァーチは
 起動状態のアイオライトを右腰のホルスターへとしまい、キーボードとタッチパネルタイプのディスプレイを操作し始める。
 
 
「あぁ、気にしないで頂いて結構です。先程ブルブラン様も仰られてましたが、今はあなた方と事を構えるつもりはありません」
「じゃあ、何を────?」
「……詳細については機密事項です。とりあえず、私の任務と照らし合わせて頂くと何となく察しが付くかと」
 
 
 ヴァーチは無表情のまま、キーボードを叩きつつなのはに答える。
 ユーノは……少し考えて、ヴァーチに尋ねてみる。
 
 
「ひょっとして、そのジュエルシードのデータ収集ですか?
見たところボク達が知ってるヤツとはちょっと違うみたいですけど……」
「そうですね……まだまだ改良の余地ありといった所です。
────元々高出力なだけに、安定した出力を任意の時期に必要な分だけ取り出す為にはまだまだデータが不足しているのが現状ですね」
「じゃあ、あの人馬兵さんにジュエルシードを使ったのも……」
「ええそうです────現時点での問題点をクローズアップする為にあなた方を利用させて頂きました。
お陰で興味深いデータが収集できました
……少なくとも、只土に還るだけの運命だったのですから、あの古(いにしえ)の人形も、天寿を全うできたと判断してもいいでしょうね」
 
 
 にわかに微笑むヴァーチ。
 その笑顔は本当に無垢で……邪悪の欠片さえ感じさせない、子供のような笑顔。
 自分の目的を達する為に、自分達の命を────そして、永久(とこしえ)の眠りについていた彼の躯を操り、そして………
 
 
「ひどい────」
「なのはちゃん?」
「役目を終えて………静かに、眠っていられるはずだったのに────わたし達じゃなくて……止めに来たのが、他の無力な人達だったら……
誰かが傷ついて、倒れて…命を落としてたかもしれない────それなのに、あなたたちはっ!」
「兵器の役目はあくまでも”破壊と殺傷”です。それ以上でも、以下でもない……
私もまた、『役目』に生きる者────それ以外に、私の存在する意味や義務もない。ただそれだけです」
 
 
 自然に出た。
 同情とか、情けとかそういうものじゃない……なのはの本心。
 純粋な怒りと悲しみ……。
 だが、当のヴァーチはそんななのはの感情など知るよしもなく、淡々と告げる。
 キーボードを打つ指の動きが止まった。────瞬間、ディスプレイとキーボードが淡い光を放って消失し……
 役目を終えたアイオライトはホルスターから抜け出して元の宝石────スタンバイモードへと戻る。
 
 
「そろそろ、ブルブラン様とジュンイチ様も戻ってこられる頃ですね」
「ふぇっ?」
「えらく察しがいいな………何か秘訣でも?」
「ジュンイチ様の運動神経と行動パターン…そしてブルブラン様のそれを比較して計算した結果でございます」
 
 
 平然と、淡々と答えるヴァーチに思わず苦笑いを浮かべつつ、いつの間にやらブルブランと共に戻ってきていたジュンイチは呟く。
 
 
「………あの短時間で殆ど把握しやがったのか」
「というか…あれだけ短時間で殆ど本性さらけ出して、気付かない方がおかしいと思うけど?」
「────────」
「………遊撃士諸君、今この時ほど君達が哀れだと思った事はないぞ」
「見なさいジュンイチ。アンタのせいで敵にまで同情されちゃってんだからね!
「オレのせいかよ……」
 
 
 エステルが吐き捨てると、髪をわしゃわしゃとかきむしりながら彼女に対抗すべく、思考を巡ら……せようと思ったが、とりあえず後回し。
 シェラザードが改めてブルブランとヴァーチに警告の意を唱える。
 
 
「さてと……ここまでしたからには覚悟は出来てるんでしょうね?」
「やれやれ……評価が後回しになったが、随分と優雅さに欠ける戦い方だな……仕方がない、私が手本を見せてあげよう」
 
 
 言ってブルブランは右手に握る杖をかざし、宝玉部分を頭上で水平に一回転させ、唱える。
 
 
「Flamme!(炎よ!)」
「な?!」
「篝火の炎が……!?」
 
 
 部屋を照らしていた唯一の照明である篝火の炎の一つ……それが勢いよく燃えさかり──────
 
 
 
 
 
 
 
 
 ”全員の影が斜めに伸びていく──────”
 
 
「Aiguille!(針よ!)」
「……っ、マズイみんな! かわせっ!!」
「遅いっ─────!」
 
 
バババッ!!
 
 ジュンイチの判断よりも、ブルブランの方が早かった。
 彼の放った飛針が、エステル達の影を捕らえ……”縛り付けた”!
 
 
「えっ……?!」
「きゃっ……!?」
「おお……?!」
「まさか……『影縫い』!?」
 
 
 エステル達が自由の利かない身体に呻きながら、シェラザードが叫ぶと、ブルブランは笑みを零しながら余裕たっぷりに告げる。
 
 
「フフ、動けまい。
君達はダルモア市長の《宝杖》に驚いていたようだが……この程度の術、執行者(われわれ)ならば
アーティファクトに頼るまでもない」
「そ、そんな……!?」
「クッ……何て迂闊な!」
「ジュンイチさんっ!」
「分かってる!」
 
 
 なのはが告げるよりも早く、ジュンイチは”力”を練る……この手の術のお約束。
 ”影が縛られてるから”身動きが取れない──────ならば、”影の形が変わるか消えるかすれば”いい。
 ジュンイチが力を放とうとした……その時!
 
 
『我は解き放つ────彼の者を封ずる星の束縛を……グラヴィトンバインド』
 
 
 ヴァーチの呪文により魔力が大地の気の流れを乱し、重力の波が襲来。
 今まで体験した事のない、急激な重量の増加にジュンイチの顔が苦痛にゆがむ!
 
 
「がっぁああぁぁあっ!!」
「じゅ、ジュンイチさん!?」
「あなた様の”力”は私達のような『アクショントリガー』が無くとも発動できる形態のようなので、
封じさせて頂きました。
さしものあなた様でも、基準を遙かに上回る12倍の重力下では身動きは取れない様ですね」
 
 
 冷静に告げるヴァーチを睨み返すジュンイチだが、実際これはかなりキツイ。
 いかに身体能力が一般人を遙かに逸脱していようとも、悲しいかな”肉体の構成内容は”普通の人間と何ら変わりはない。
 骨がきしみ、内臓が悲鳴を上げ、練りかけていた”力”も霧散して消え去ってしまった。
 賢明に”力”を再構成しようと試みるも、少し体を動かそうとしただけであちこちから激痛がほとばしる。今やジュンイチの動きは完全に封じられたと言ってもいいだろう。
 と────
 
『ピュイッ────!!』
 
 
 遥か後方から響く鳥の声……声の主に覚えのあるクローゼとエステルは思い出す。
 小さき勇者の存在を……。
 
 
”────ジークっ!!!”
 
 廊下の奥から飛来せし一閃の白い影────リベール王国の国鳥であるシロハヤブサ────
 その血を受け継ぐジークが超低空滑降で飛来。
 凄まじいスピードでブルブランに飛びかかる!
 
 
 だが、当の怪盗は流れるように身体を捻り距離を取る────そして…
 
 
シュバッ!!
 
 
「ピュイィッ?!」
「ジーク!?」
「現れたな、小さきナイト君。君の騎士道精神には敬意を表するがしばし動かないで頂こうか」
 
 
 ブルブランの放った新たなナイフによって、ジークの影までも捕縛の対照となってしまった。
 ……空中で磔状態というのもなかなか見物な映像だが、これでこちら側は全く打つ手が無くなってしまう。
 ジュンイチも何とかバインドを解こうと賢明に藻掻いてはいるものの”フィールドそのものに干渉する”バインドは
 直接相手を束縛する系統のバインド魔法と違い、プログラムへの直接介入が難しい為、解除にも当然時間が掛かる。
 思うように身動きが取れなくなった一同を尻目に、ブルブランはクローゼの前に歩み寄る。
 
 
「クローディア姫、これで貴女は私の虜だ。───フフ、どのような気分かね?」
「……見くびらないでください。例えこの身が囚われようと心までは縛られない……
私が私である限り、決して」
「そう、その目だよ! 気高く清らかで何者にも屈しない目! その輝きが何よりも欲しい!」
「ふ、ふざけた事抜かしてんじゃないわよ!」
 
 
 影縫いで”その場から動く事”は出来ないが、体の向きを変える事は何とか出来た。
 大切な親友を守る為、エステルが険しい表情でブルブランに向かって叫ぶ。
 
 
「このキテレツ仮面っ! クローゼから離れなさいっての!」
「やれやれ、この仮面の美しさが判らないとは……君には美の何たるかが理解できていないようだな」
「フフッ……」
「む……?」
「ハハ、これは失敬。いや、キミがあまりにも初歩的な勘違いをしているようなのでね。
つい罪のない笑みがこぼれ落ちてしまったのだよ」
「ほぅ……面白い。私のどこが勘違いをしているというのかね?」
 
 
 狙って挑発しているのか、はたまた素で美学の異を唱えているのか……オリビエが微笑するとブルブランは再び表情を険しくさせる。
 ────ジュンイチの時よりは幾分かマシな方だがそれでも今この段階でかなりの覇気である。
 
 
「確かに、ボクも姫殿下の美しさを認めるには吝かではない。だがそれは、キミのちっぽけな美学で計れるものではないのさ。
顔を洗って出直してきたまえ」
「おお、何という暴言! たかが旅の演奏家ごときがどんな理由で我が美学を貶める!?
返答次第では只ではすまさんぞ!」
「フッ……ならば問おう────『美とは何ぞや?』
「何かと思えば馬鹿馬鹿しい…美とは気高さ! 遥か高みで輝く事! それ以外にどんな答えがあるというのだ?」
「フッ……笑止」
 
 
 ブルブランの美学に真っ向から対抗する気満々のオリビエ。
 自信満々に笑みを浮かべ────叫ぶ。
 
 
「真の美────それは『愛』ッ!」
「……なにッ!?」
「愛するが故に人は美を感じる! 愛無き美など空しい幻に過ぎない! 気高き者も、卑しき者も、愛があれば皆美しいのさっ!」
「くっ、小賢しい事を………
だが私に言わせれば愛こそ虚ろにして幻想! 人の感情などを経ずとも美は美として成立しうるのだ!
そう……高き峰の頂に咲く花が人の目に触れずとも美しいように!」
「むむっ………」
「あ、でも”愛でる”とか”可愛らしい”って表現があるくらいだからあがなちオリビエさんの観点も間違ってないかも────」
「な、のは……話を───さらに……混ぜっ返し、てどう────────する
 
 
 重力の枷で苦しみながらも冷静にツッコミを入れるジュンイチ──やっぱり何処か余裕である。
 自分達の存在そっちのけで美学について盛り上がる二人に、どこからどう突っ込めばいいのか判らず置いてけぼり状態のエステル達は
 互いに『どうしようか?』といった表情で相談し合う。
 
 
「……えーと」
「はぁ、一気に緊張感が……」
「こ、困りましたね……」
「ああなってはお二人とも、そう簡単には止まらないでしょう……全く。芸術家というのはどうにも理解に苦しみます」
 
 
 ヴァーチまでこの状況に嫌気がさしてきたようだ。
 
 
「……まさかこんな所で美を巡る好敵手に出合うとは。演奏家──名前を何という?」
「オリビエ・レンハイム────愛を求めて彷徨する漂泊の詩人にして狩人さ」
「フフ……その名前、覚えておこう。……時に少女よ?」
「はい?」
「年端も行かぬ身でその強き思いと深き慈愛の精神。……空の女神(エイドス)と見比べても劣らぬその御心をどこで学んだ? 名前と共に教えてくれ」
 
 
 最初はやや躊躇ったが、それでもなのはは笑顔で答える。
 
 
「わたしは、なのは。高町なのはです────
わたしの思いは…高町家のみんなや海鳴に住んでる人達、ジュンイチさん達と一緒の時を過ごしていく中で生まれた”守りたいって気持ち”。
わたしを取り巻く人達を守りたいから……です。こう言うのじゃ、理由になりませんか?」
「いや……少なくともそこの童(わっぱ)よりは幾倍も大人だぞ。可憐な名と共に輝く心の源……教えてくれた事に感謝する。
姫殿下までとはいかぬが、そなたの輝きの原石……是非とも盗んでみたくなった
「ついには年齢一ケタの娘にまでツバ付けようとするかこのバ怪盗」
 
 
 さすがに今の台詞はまずかった。
 ヴァーチからは思いっきりつま先を踏んづけられ、エステルからはバカ+怪盗=バ怪盗の汚名まで被せられたブルブランはやや涙目である。
 そんな中、なのはは顔全体を朱に染め、シェラザードに関しては『こいつもか……』といった汚物を見るような目つき。
 ジュンイチは未だ重力かで苦しんでいるものの、言いたい事はエステルとほぼ同じだろう。
 クローゼは当然の如く対処に困って苦笑するのみで────オリビエは純粋にブルブランに嫉妬してた。
 と────────
 
 
「あ〜、エステルちゃんたちみつけた〜!
えへへ……あんまり遅いからガマンできずに来ちゃった♪」
「ド、ドロシー!?」
 
 
 退屈に耐えられなかったのか、ドロシーはあの魔獣だらけの通路を通って自分達のいるこの最下層までやって来てしまっていた!
 人質に取られるのならまだいいが、顔を見られた事で最悪命を取られる危険性すら出てくる。
 必死に叫び、彼女に危険を促す。
 
 
「いけません! 早く逃げてください!」
「ふぇ……?
────あーっ! 仮面を被った白いヒト! あなたが幽霊さんですね〜!?」
「い、いや……」
 
 
 自分が危機的状況に置かれているとも知らず………いや、知らないのではなく
 分かっていないのだろう。この超天然娘のペースにどう対処したらいいものか、さしものブルブランも困惑の様子だ。
 一方のドロシーは特ダネのチャンスといわんばかりに、手持ちのオーバルカメラを構えて……”フラッシュと共に”ブルブランを撮影する!
 
 
「はい、チーズ(はぁと)」
「うぉっ?!」
「ピュ〜イ♪」
「あっ……?」
「痺れが取れた……」
「そうか……フラッシュで影が消えたのね!」
「フッ、とんでもないお嬢さんだ」
「エッヘン、任せてくださいよ〜。何がスゴイのか、自分でも判りませんけど〜〜
 
 
 いまいち状況が掴めていないドロシーだが、こういう人間だからこそブルブランやヴァーチのチェックも甘くなり、結果として”影縫い”を解除できたのだ。
 そういった意味ではやはり彼女もただ者ではないと、改めて痛感する。
 
 
「ククク………ハーッハッハッハッ!
「あっ!」
「《ゴスペル》を!」
 
 
 突如割り込んできた第3者による事態の打開……自らのシナリオにはなかった展開に身震いし、
 高らかに笑い出すブルブラン。
 そして、飛ぶように跳躍すると10m程一挙に後退。映像投影装置に据え置かれた《ゴスペル》を回収し、懐へとしまう。
 その顔は実に満足げで、ジュンイチに貶され、オリビエに美学を侵された時の鬼気迫る表情がどんなだったか思い出せなくなるほどだった。
 
 
「こんなに愉快な時間を過ごしたのは久しぶりだ。礼を言わせて貰うぞ、諸君」
「あなた……まだ何かやるつもり!?」
「フフ……今宵はこれで終わりにしよう。しかし諸君に関しては認識を改める必要がありそうだ。
さすが《漆黒の牙》と行動を共にしていただけの事はある」
 
 
 ────《漆黒の牙》
 その台詞を聞いた瞬間、エステルの背筋が凍り付いた。……あの時、最愛の人が去り際に漏らした────呪いのように重い言葉。
 
 
「《漆黒の牙》……!」
「まさか……ヨシュアさんの事ですか!?」
「フフ、彼とは旧知の仲でね。最初に君達を観察し始めたのは彼の姿を見かけたからなのだよ。
全ての記憶を取り戻したようだが……今はどこでどうしてる事やら」
「という事は………《結社》の方でもヨシュアさんの居所は分からない…と?」
「そう取ってくれて差し支えない。最も、知っていた所で《教授》が大人しく教えるとは思えんがね」
 
 
 言ってブルブランが一歩下がると、ヴァーチの手に握られたアイオライトが発光……
 二人の足下に出現した魔法陣……これは、転移魔法!
 
 
「あっ………!?」
「まさか……!?」
「ヴァーチさんっ!!」
「なのは様…ユーノ様、しばしのお別れです。
あなた方の魔法(ちから)、この世界でどこまで通じるか…そして、あなた方がどのような未来を切り開き、何を望むのか……
密かに拝見させて頂きます。どうか……再び相見えるまで、立ち止まる事の無い様、御武運を
………そうそう忘れてましたね。ジュンイチ様もそのお姿ではお辛いでしょうから、そろそろ……」
 
 
 パチンっ!
 ヴァーチが軽快に指を鳴らすと同時に、ジュンイチを覆っていた重力の枷は消失。
 星の檻から解き放たれたジュンイチは、痛みの残る身体に喝を入れ…転移しようとするヴァーチ目掛けて飛びかかる。
 
 
「野郎、ブッ殺してやる!!!
「ジュンイチ!」
 
 
 その顔は鬼か夜叉かはたまた閻魔大王か。今まで見た事もない”マジギレ”状態のジュンイチは真っ直ぐにヴァーチの目前まで迫る!
 だが、彼の一撃が当たる直前に転移魔法が完全発動。ヴァーチとブルブランを、ここではない別の空間へと誘い、姿を眩ました。
 そして、取り残された一同の耳に、ブルブランのメッセージがこだまする。
 
 
『────さらばだ、諸君。
計画は始まったばかり……せいぜい気を抜かぬがよかろう。
それとは別に、私は私なりの方法で君達に挑戦させてもらうつもりだ。
フフ、楽しみにしていたまえ』
 
「き、消えた……」
「し、信じられません……」
「うわ〜! 何だか手品みたいですねぇ」
「ハッハッハッ、なかなかやるじゃないか。これはボクの方も好敵手と認めざるを得ないね」
「そういう問題じゃないってば! キテレツな格好はともかく……あいつ、並の強さじゃないわ!」
「そうね………」
 
 
 改めて痛感した、敵の巨大さ────
 改めて味わった己の無力────
 改めて知った、途方もない旅路の予感────
 
 エステル達はもちろんの事、彼女を助けたいと思ったなのはもまた、同じ思いに駆られる。
 そして、シェラザードは…脅威の去った一室の天井を見上げ、呟く。
 
 
「《身喰らう蛇》────予想以上に手強そうだわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 8月4日 A.M.09:12 場所…リベール王国 遊撃士協会ルーアン支部、受付
 
 
 事件が終わった時には既に日付変更線をバリバリ突破し、全員ヘトヘトだった事から
 一同はコリンズ学園長の計らいで学園の寮に一泊させて貰い、翌朝改めてギルドへと戻ってきた。
 どんな些細な事でも、遊撃士は事件を解決した際には協会に詳細を報告する義務がある……
 無論王国軍との情報共有での連携の意味合いもあるが、報告によって得られたデータが、後に起こる類似事件の早期解決の糸口となる事が多いのだ。
 今日この時も、エステル達から詳細を聞くなりジャンは表情を険しくしていく。
 
 
「そうか……ご苦労だったね。
《身喰らう蛇》……カシウスさんから話を聞いた時は正直、半信半疑だったが……とりあえず、今回の調査の報酬を渡すよ。
まさかこんな形になるとは思わなかったけどね」
 
 
 そういって、ジャンは封筒に包まれた報酬をエステル達に受け渡す。
 無論只の協力者であるなのは達が貰えるものではないが、この世界での自由度を上げる意味でも、通貨を
 確保(偽造とも言う)しておきたいとジュンイチが思ったかどうかは定かではない。
 
 
「調査結果はすぐに王国軍に報告しておこう。あちらさんも相当、情報を欲しがっていたようだからね」
「ええ、頼んだわ。
あの投影装置を考えると相当な規模の組織かもしれない。しかもまた《ゴスペル》を持ち出してくるなんて……」
「どうやら結社の目的は新しい《ゴスペル》を使った実験をすることにあったようだね。
幽霊騒ぎは、趣味の入った実験結果でしかなかったようだ」
 
 
 《ゴスペル》────神々の福音の名を冠する、ブルブランが持ち帰った大型のオーブメント。
 しかもエステル達はアレを見たのは今回が初めてではない様だ……。
 彼女からすれば、あの漆黒のオーブメントの行方や使用目的も気になる所だが、もう一つ気懸かりなのが、ブルブランが言い残した台詞にあった。
 
 
「怪盗ブルブラン……あいつ、自分の事を《執行者》って呼んでたよね」
「おそらく《結社》のエージェント的な存在だろうね。それに『謎の魔導師、ヴァーチ』か……。
聞いた事のない名だし……サポート系の魔法に関してはかなりの腕前みたいだね」
「実際オレもこの身で体験したからな、実際に前線に出てないから正確な実力に関してはまだ未知数だが、まだ手加減してると思っていいだろう」
「…………………………」
 
 
 ヨシュアを追う為に、結社との戦いに身を投じると決心したが、いざ目の当たりにした実力差に途方に暮れるエステル。
 そして案ずるは《怪盗》と同じ闇に生きる”彼”の安否。
 暗く沈む表情を察してか、なのはが問いかける。
 
 
「エステルさん、あの……」
「うん、分かってる。
《漆黒の牙》……あの日、ヨシュアは自分の事をそんな風に呼んでいたから……多分、ヨシュアも《執行者》だったんだと思う」
「初めて会った時から普通じゃないと思ってたけど……まさかあの歳で、あの怪盗男と同格だったなんて……
多分あの子、自分の実力を隠してたのかもしれないわね」
「うん……そうかも。……ねぇ、ジャンさん」
「なんだい?」
 
 
 いつまでも落ち込んでいられない────エステルは再び顔を上げ、自らに喝を入れる。
 自分はあくまでも遊撃士。力無き者に襲いかかる厄災を振り払い、人々の平和と幸せを守るのが任務……。
 きりっとした表情で気を引き締め、ジャンに尋ねる。
 
 
「あの怪盗男、結社の計画が始まったばかりだって言ってた。
多分、リベールの各地で色々しでかすつもりだと思うの。他の地方支部から何か情報が入ってきてないかな?」
「うーん……目立った情報は入ってきてないね。
ただ、エステル君の言う通り、結社が各地で暗躍を始めている可能性は極めて高いと思う。
幽霊騒ぎも一段落付いたし、他の地方に移った方がいいかもね。」
「そうね……あたしもそう思ってたところよ。何処か手薄な支部はある?」
「強いて言うなら、ツァイス支部だと思う。常駐のグンドルフさんが王都方面に出かけたらしくてね。
かなり大変な状況らしい。」
 
 
 シェラザードもエステルの意見に同意し、同様にジャンに尋ねる。
 その間にジャンは手元の支部間で共有している人員現況表をパラパラとめくり、人手不足の支部を検索……そして新たな街がヒットする。
 
 
「だったら、あたし達が手伝いに行った方がよさそうね。────ても、ルーアン支部は大丈夫?」
「実は、ボース支部のスティングさんが数日後にこっちに来てくれるんだ。それまではメルツ君一人に何とかしのいでもらうとするさ。
────あと、ツァイスに着いたらラッセル博士を訪ねた方がいいね。新たな《ゴスペル》の一件は、博士の知恵を借りた方が良さそうだ。」
「うん、確かにそうかも。
ティータとも会いたいし、すぐに工房を尋ねてみるわ────っと、その前に……ジュンイチ、ちょっといい?
「ぎく……」
 
 
 ついにこの時が来てしまったか……
 出来る事ならテキトーに話をはぐらかして、遣り繰りしたい所だったが、エステルは学園でのやり取りをしっかりと覚えていた。
 
 
「学園での約束、忘れた訳じゃないからね。色々とぜーんぶ話して貰うわよ?
なのはちゃんやユーノ君の魔法の事とか、アンタのその……”ぶれいかー”って能力の事とか」
「オレとしてはそのまま忘れててくれてた方が有り難かったんだがな」
「さんざあたし達を振り回しといてそゆ事言う?」
 
 
 無意識のうちに振り回していたジュンイチはそこら辺の自覚が全くなく、『オレが一体何をした?』といった顔でエステルを睨み返す
 が、実際こうして振り回された人から苦情が来ているので否定できないわけで……
 困り果てているのはジュンイチだけではない。基本的にウソを付くのが苦手ななのはも、どうしたらいいものかと困惑の様子でジュンイチに泣きついてくる。
 
 
「ジュンイチさん……」
「言うななのは……オレだって本当はエステル達をジュエルシード争奪戦に巻き込みたくはないんだ。
だが、ヴァーチとかいうヤツのせいで、今回巻き込まれたエステル達も立派な関係者に無事昇格だ。
話すべき事は、話しておいた方がいいと思う」
 
 
 そういうと、意を決したジュンイチは学園内で浮かべた真剣な表情でエステル達の方に視線を向ける。
 
 
「言っておくが、オレ達が今から話す事は常人からすればブルブランの性格並みに奇想天外魔境な内容だ。
────それでもいいって言うんなら話してやってもいいぜ?」
「まぁ……一応心積もりはさせて貰うわ」
「拝聴させていただきます」
 
 
 こうして、ジュンイチとなのははそれぞれが今まで歩んできた軌跡……
 PT事件に始まり、堕天使とのジュエルシード争奪戦────2つの世界の橋渡し役である時空管理局の存在。
 そして、今回、リベールを訪れた本当の目的……全てを話し終えた時には正午を過ぎており、エステルはもちろん、オリビエですら真剣な表情で話を聞く。
 
 
「2つの世界に飛び散った魔力の結晶体……指定遺失物《ロストロギア》の一つ、ジュエルシード……」
「この世界(リベール)の何処かにあるそのジュエルシードの試作品を探し出すのがジュンイチくん達の役目で……」
「だけど、こっちの世界にやってきた時の影響で一緒にいた仲間達とも離ればなれ………」
「つまり、ジュンイチさん達はジュエルシードを探しつつ、お友達も一緒に探していかないといけないんですね」
「オレたちの置かれた状況、理解してくれたか?」
 
 
 アリサやすずかの時もそうだったが、こういう長時間に渡る詳細の説明は自分の得意とする所ではなく、むしろデスクワーク派のエイミィやジーナが適任であろう。
 うまく理解して貰えたかかなり不安ではあったが、精神的疲労度を考えるともう一度説明なんてする余裕はない。
 だが、エステルはふぅと溜息を吐くと、何とか整理のついた頭を抱えつつ、呟く。
 
 
「まぁね。
………確かにこんな突拍子もない話、いきなり話されても信じろって方が無理だわ。
ジュンイチやなのはちゃんが躊躇ったのも当然よね」
「しかし、現に《怪盗》と一緒に現れた女性……ヴァーチ君はそのジュエルシードを持って現れたわけだし……
何より、なのは君達の魔法形態が我々のアーツとは異なるという点でも、信憑性は十分高いと思うよ」
「つーわけで、改めて信じさせてもらうわ────3人の事」
「ありがとうございます、オリビエさん…エステルさん」
 
 
 笑顔で答えるエステルの優しさに触れ、思わず目頭が熱くなる。
 出逢ってそれほど時間も経っていないと言うのに、彼女達は今ようやく真実……しかも常識を遙かに逸する話をした自分達の事を信じてくれてる。
 仲間だと認めてくれている。
 それが嬉しくて溜まらなかったのだ────
 
 
「あ───もう泣かないの! 別に怒ってはないし…巻き込みたくなかったんでしょ? あたし達をジュエルシードを巡る戦いに。
そういったなのはちゃんの優しさとか強さとか……本物だと思うし、何より『あたしの力になる』って言ってくれたんだもの。
そんななのはちゃんを、邪険に扱えるわけないでしょ?」
「……………一応、最初に”黙ってとこう”って言い出したのオレなんだが?」
「ふぅん、そうなんだ」
「何さその態度の違い────────!!!」
 
 
 確かに『秘密にしておく』選択肢を迷うことなく選んだのはジュンイチだが……まぁ、うん。
 ここら辺の扱いの差は”ジュンイチだから”という事で。
 軽くあしらわれたジュンイチは、目から滝の様に涙を流しつつギルドの2階でワンワンと号泣しだした。
 とりあえず、まともに相手をしていると日が暮れてしまうので、エステルは改めてなのは……そしてユーノの方を向く。
 
 
「というわけで……お互いに信頼し合える仲間になった所で、二人の事呼び捨てにしちゃってもいいかな?
『ちゃん』付けとかって、どーも他人行儀な気がしてあたし的に好きじゃないのよね〜……
というわけで、ジュンイチみたいに気楽に呼び合えると嬉しいんだけど────いいかな?」
「………はいっ! よろしくお願いします、エステルさん♪」
「ボクの方こそ、よろしくお願いします」
「あはは♪ それじゃ……これからもよろしくね、なのは! ユーノ!
『はいっ!!』
 
 
 名前……それは自分が自分である事の証明。
 気軽に、呼び合う事で人は新たな縁を築く……。心から信じ合える友となる。
 なのははそれが嬉しくて……エステルはそれが当然のことのように笑い、笑い返す。
 
 
「となると……これから先もあたし達と一緒に行動した方がいいでしょうね。
ギルドのネットワークを駆使すれば、リベール中に散らばったなのはちゃん達の知り合いを見つけられるし、この先ヴァーチの様な魔法使いが現れないとも限らない。
そうなった時、アドバイスしてくれる人間がいてくれれば非常に有り難いしね」
「ふむ、では準備が出来たらさっそく飛行場に行くとしよう。────ジャン君。乗船券を7枚手配してくれたまえ。」
「へっ?」
 
 
 オリビエの意味不明な提案を持ちかけられ、素っ頓狂な返事をあげてしまうジャン。
 ジュンイチ・なのは・ユーノはシェラザードの同意もあって同行が許可されたが、オリビエが要請したのは7枚で……それでもあと2人多い。
 
 
「いきなり仕切って何図々しい事言ってんのよ…………って、7枚?」
「フッ、エステル君とシェラ君、そしてこのボクと姫殿下になのは君、ジュンイチ君、ユーノ君の分に決まっているだろう。
あ、ユーノ君はフェレットだから……定期船のチェックに引っかかるかもな。うーむ、どうしたものか────」
「ちょ、ちょっとちょっと!? 何勝手に話を進めてんのよっ!」
「薄々そんな感じはしてたけど……あんたこれから先もずっとついて来るつもり?」
「ヨシュア君を捜すのは愛の狩人たるボクの使命でもある。
新たな好敵手とも巡り会えたし同行する理由は十分だと思うけどね?」
 
 
 自信満々に告げるオリビエだが、明らかに拙すぎる。
 いくら戦う術を持っているとしても、あくまでもオリビエは民間人であり、遊撃士であるエステル達からすれば危険が迫った場合護衛の対照ともなる。
 クローゼに関しても言うに及ばずである……しかも彼女の正体は現女王の孫娘。王家直属の血族なのだ。
 もし何か非常事態になった際のことを考えると背筋が凍る思いだ。
 
 
「あ、アンタのタワケた理由はともかく……クローゼ達まで一緒に巻き込むんじゃないわよ!」
「いえ……実は私も、同じ事をお願いしようと思っていました」
「え。」
「リベールで暗躍を始めた得体の知れぬ《結社》の存在。王位継承権を持つ者として放っておくわけにはいきません。
それに何よりも……エステルさんとヨシュアさんの力になりたいんです」
「クローゼ……
────で、でも学園の授業はどうするの?」
 
 
 エステルの指摘ももっともだ。いくらクローゼが王族の人間として協力を要請しようにも、
 表向きは『普通の学生』という事でジェニス王立学園に通う女子学生なのだ。
 正当な理由がない限り、学業を疎かにする事は許されないはずである。だが……
 
 
「実は今朝、コリンズ学園長に休学届けを出してしまいました。
試験も問題ありませんし、進級に必要な単位も取っています。ジルとハンス君にも相談したら『行ってくるといい』って……」
「い、いつのまに……」
「ふふ、思い切りのいいお姫様ね」
 
 
 さらりととんでもない事を口にするクローゼにエステルはもちろんクローゼも呆れ顔である。
 間違いなく海鳴か府中の学校でこんな事すれば、極端な話、そのまま停学なんてオチになりかねない。
 いくら事情があるとはいえ、少々甘やかしすぎじゃないっすかねコリンズ学園長?
 
 
「す、すみません……押しかけるような真似をして。あの……駄目でしょうか?」
「ふふっ……駄目な訳無いじゃない。そういう事なら遠慮無く協力してもらうわ!
────シェラ姉もいいよね?」
「ええ、もちろんよ。
アーツにしてもジーク君にしても姫様がいると色々助かるしね」
「よかった……
ありがとうございます、エステルさん、シェラザードさん」
 
 
 なのはの時と同様に、笑顔でもって答えるクローゼ。
 つき合いが長い分、その絆の固さは誰の目にも明らかな美しさと輝きを持つ────未来を掴む希望の源。
 ちょっと羨ましいかな、なんてなのはが思ったかどうかはまた別の話である。
 
 
「えへへ、何といっても紅騎士と蒼騎士の仲だもんね。
一緒に協力して、行方不明のお姫様を捜すことにしましょ!」
「あ……はい、そうですね!」
「フッ、それじゃあボクは黒髪の姫に迫ろうとする隣国の皇子という設定で……
「勝手に役を増やすなぁっ!!」
 
 
 第一オリビエ学園祭でやった演劇、『白き花のマドリガル』見てないのに何でこうも上手く話に入れるんだ。
 
 
「あはは、話がまとまって何よりだね。
しかしそういう事なら、総勢四人と一匹…になるかな。皆を『協力員』という立場で扱わせてもらった方が良さそうだ。
そうすればギルドとしても経費面で便座を計れるからね」
「はい、それでお願いします」
「誠心誠意、愛を込めて協力させてもらうよ」
 
 
 その後、未だ二階でいじけているジュンイチを慰めて、親睦会を兼ねてルーアンの居酒屋へと向かった一同は飲めや食えの大騒ぎ。
 ジュンイチとエステルが中心となって徹底的に料理という料理を食べ尽くし、店の酒はシェラザードとオリビエ(どちらかというとシェラザードが中心)
の二人によって綺麗さっぱり飲み尽くされ────
 
 結果、しばらくの間ルーアンの飲食店内で、暴飲暴食ブラックリストにその名が連なったのは言うまでもない。
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
本当の事も打ち明けて、本当の仲良しさんになったわたしとエステルさん♪
 
でも、今ひとつ分からねぇ事も幾つかあるし…ここは一つエステルを尋問してみっか
 
じ、尋問って………。そ、そんな事しなくても大丈夫ですよ!
 
は? どういうこった??
 
丁度お誂えの依頼が来てるみたいですし………一緒に参加されてみては?
 
……マジすか
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第8話『出発の刻(とき)』
 
リリカル・マジカル!
 
さあてと、ちょいと試してみっか♪
 
 
 
−あとがき−
 
  疲れた! 長いッ!!脈絡がねぇ!!!
 冒頭から狂ってますがお気になさらず。『心は永遠の14歳』────
 空の軌跡風なのはMADムービーと実際の空の軌跡デモムービーをシンクロさせて鑑賞するという
 意味不明な事にハマってるtakkuです。
 成功すると微妙なエコーが掛かった状態になって何とも面白いですw
 
 ようやくルーアンでのお話が一段落し、次回の話が終わったらいよいよ新天地のツァイス編ですよ〜!
 さて、今回のお話を公開するに当たって先に謝りたい事が………。
 
 
 
 ブルブランファンの皆様ゴメンナサイorz←いきなり卑屈だなヲイ
 
 
 ジュンイチ君の独特の挑発テクニック、先行的にご披露しておきたくてブルブランがその生け贄になりましたw
 その一方で語ります、喋ります、感動してますなのはちゃん!
 本来はクローゼ姫の立ち位置を所々奪い取っての立ち回り。────今まで空の軌跡メンバーの会話ばっかだからいいよね別に?

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 のっけからジュンイチ節全開。被害者となったブルブランさん、お疲れ様でした(笑)。
 シリアスな中にもボケとツッコミの応酬が。緊張感あふれるバトル中にこんなことやってるなのは達って、意外と大物なのかもしれませんなぁ……ま、若干名『ただのヴァカ』が混じってる気もしますが(爆)。
 それはともかく、元の世界では美沙斗さんが『なのブレ』本編に先駆けて登場。ちゃんと本編でも出します。『TW』オンリーの登場にはならないのでご安心を。

 

>「見なさいジュンイチ。アンタのせいで敵にまで同情されちゃってんだからね!」
>「オレのせいかよ……」

 間違いなくジュンイチのせい(爆笑)。

ここら辺の扱いの差は”ジュンイチだから”という事で。

 うん、”ジュンイチだから”という事で(断言)。