8月4日 P.M.9:23 場所…海鳴市 さざなみ女子寮リビング
 
「それじゃ、何だかんだでもう1日以上連絡がないのか」
「そうなんスよ。……まぁぶっちゃけウチのリーダーの事だから無用な心配だとは思うんですけどね」
「とか言いつつ、話題に出してるって事は……内心心配なんでしょ?」
「────────まぁ否定はしないでおきます」
 
 
 リビングでくつろぎながら、管理局からの一報待ち状態である青木に問いかけているのは
 ここさざなみ寮の現管理人兼料理人の槙原耕介とその従姉の槙原愛だ。
 
 ガンガンに冷えたビールと共に耕介は青木と一杯コップを交わしつつ、愛もそれに付き合っている。
 ──────ジュンイチの性格を考えると、いちいちくだらない内容で連絡を入れてくる様には思えないが、仕事となれば話は別だ。
 現地到着とか経過報告の一つや二つ、入れてきてもおかしくないはずである。……それが出発から1日以上経っても無いのだ。
 いくらジュンイチの事をよく知る青木でも、不安の一つや二つ…抱きたくもなる。と………
 
 突如青木のブレイカーブレスからブザー音が鳴り響く。ディスプレイに表示された発信先は……時空管理局。
 おそらくエイミィからの一報だろう。青木は通話ボタンを押し、早速エイミィに尋ねてみる。
 
 
「エイミィちゃんか? ジュンイチから何か連絡はあったか?」
「つい今し方。───何でも、現地の方で通信妨害にあってたらしくて、通信寄越して来るなり
青木さんに回線つないでくれって頼まれたの………って、さざなみのお二人も御同席でしたか」
「既にさざなみ寮の家人達もあの霊障の件で立派な関係者だ。同席してても問題ないかと」
「そういう事なら……今から回線切り替えるんで、話し終わったらそのまま通信切っちゃってくださいね」
「了解」
 
 
 言ってエイミィは早速手元のキーボードを軽やかに叩き、コンソールを操作。するとやや暫くして青木のブレイカーブレスから聞き慣れた声が聞こえてくる。
 
 
『よ───青木…ゃん! そっ……方はう───いってるか?』
「それはこっちの台詞だ。とっとと連絡を寄越してこないからこっちは要らぬ心配をしてしまったじゃないか。
……つかやけに雑音が酷いな。今一体どこにいる?」
『あぁ───まは……』
 
 
「定期船の踊り場だ」
 
 
 そう、現在ジュンイチはルーアンから出発した定期船『セシリア号』の踊り場に出て会話をしているのだ。
 受信側で雑音が激しくなっているのは導力機関(オーバルエンジン)の音と、空を飛んでいる事で発生する風の音が原因である。
 
 
『所で……なのはちゃん達は一緒じゃないのか?』
「あぁ…一緒だぞ。───お友達と一緒にな」
『???』
 
 
 そういってジュンイチはなのはと……近くにいた二人に手招きサインを送り、呼び寄せた。
 初めて見る、相手の顔や表情が見える通信手段……そして異世界の住人の存在に戸惑いつつも、二人は改めて青木に……
 そして彼の後ろに控えている耕介と愛に向けて告げた。
 
 
「ど、どうも……エステル・ブライトです。───一応、なのはの親友兼義姉に当選させて頂きました」
「同じく、クローゼ・リンツです。…なのはちゃんの故郷の人達とこうしてご対面できた事を心から嬉しく思います」
 
 
 
 やや緊張気味にエステルが自己紹介する中、クローゼは終始余裕の笑顔を浮かべつつ、画面越しの3人に告げたのだった。
 
 
 
 
 ごく最近まで、平凡な小学3年生だったわたし『高町なのは』に訪れた小さな事件……。
 
 
 頂の業(わざ)が集う、王の国が誇る頭脳の街。
 
 街と大地は、不可思議な力によってその足を揺るがされる。
 
 それは、女神が与えたもうた儚き試練か……
 
 はたまた、闇の煉獄へとその身を墜した覇者の陰謀か。
 
 新たなる大地に戦慄が走る──────
 
 
 魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
 Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 始まります。
 
 
 
 第9話「震撼する大地」
 
 
 
「っつーわけで、こっちでまた動きがあったら伝えるから……ああ、そんじゃな」
 
 
 言ってジュンイチはブレイカーブレスの通話スイッチを切り…ふぅと溜息を吐く。
 一方、エステル達は『異世界の住人との会話』を果たしたという事実に興奮が冷めない様子だ。
 
 
「はぁ〜…ちょっとしか話せなかったけど、なかなか優しそうな人達だったわね」
「高町家の交友関係は結構広いからな。ちなみにさざなみ寮の家人全員、喫茶翠屋の……桃子さん作・特製シュークリームのファンだ
「あ、なのはから聞いたわよ? とっても美味しいんだってね、翠屋のシュークリーム!」
「うふふ………でも、なのはちゃんがああいう子に育ったのも、家族の方々やさざなみ寮の人達の人徳のお陰でしょうね」
 
 
 最後にクローゼが告げるとなのはは頬を朱に染めてうつむく。
 …ちなみに、愛はこの時初めてユーノの喋る姿を目撃し、なかなか見応えのあるリアクションをしてくれた。
 一方の耕介は既に見慣れた光景なのか、愛ほど大して驚かずにエステル達の話に耳を傾けていた。
 
 
 
「高町家の方との面会はまた後の機会にとっておくとして……次の街は─────ツァイスって街だったか?」
「ええ、そうよ。リベール王国の中でも最先端の導力器技術を持つ、言ってみればこの国の頭脳って所かしら」
「そこでなら解るのか? あの漆黒の導力器《ゴスペル》についてのことが─────」
「うん……。正直、中央工房の研究員でもその手に余る代物らしいけど、あたし達にも一応アテがあるから」
「ジャンさんが言ってた『ラッセル博士』っつー人物の事か?」
 
 
 察したジュンイチが先にその名前を出す。
 一方、エステル達はさして驚く様子もなく、話を続ける。……ジュンイチの驚異的な洞察力は既に彼女達にとって周知の事実らしい。
 
 
「《導力停止現象》か……ギルドでレポートを読ませてもらったが、かなり厄介な現象みたいだな」
「まぁね、近くにオーブメントがあると連鎖的に現象が広まっちゃうし、現象が発動してるとアーツも使えないし。
……しかも今回、新たな機能も追加されてたみたいだし」
「《導力停止現象》を起こさず、対象オーブメントの能力を強化、ないしは増幅する、か─────
気功技にも似た様なものがあるが、あれは常識の範疇を超えてやがる……」
 
 
 などと洩らすジュンイチ自身も、相手の回復力を増幅させる気功技を持ってたりするが、対象はオーブメントだし、
 何より気功技で増幅できるのは”あくまで物理的に可能な段階まで”……つまり、質量保存の法則を無視した肉体の再構成や増強は不可能なのだ。
 そこから導き出される一つの仮説。だが、公表するにはまだ時期早々だろうと判断し、心の片隅にしまい込む。
 それとは別の、もう一つの疑問点……勿論ジュエルシードの事もだが、それ以上に────
 
 
(ヴァーチってヤツの使っていたデバイス……。
ユーノの話だとストレージデバイスだって話だが、そもそも技術態系の異なるこの世界でミッド式のデバイスなんて作れるわけないし……
ってことは、やっぱり間違いないだろうな………)
 
 
 つまり、ヴァーチの背後には大がかりな技術力を持つ次元犯罪者がいる事を示している。
 加えて相手は、自分達の情報を一通り掴んでいる────一通り、と表したのはヴァーチがなのはのSLB(スターライトブレイカー)
 をあの場で初めて目撃したという点による。
 さらにはなのはに執拗なまでのこだわりを見せているという事……
 
 考えれば考えるほど、様々な仮説が頭の中を飛び交う。……と、やや暫くして自分の元へと歩み寄ってくる足音が聞こえる。
 距離は…12mそこそこ。それも2つもだ。それほど広くはない通路を早い歩調で歩いてくる。……いや、歩調が”早い”のではなく……
 ”歩幅が短くて”自然と歩調が短くなっていたのだった。
 
 
「ジュンイチさん、どうしたんですか? 顰めっ面なんかして」
「お、なのはか。いや何……あのヴァーチとかいうヤツの目的が今イチハッキリよく分からなくてな。
あれこれ考えてみたんだが、結局堂々巡りだよ」
「さすがのジュンイチさんでも、相手の意図を読み解けない事ってあるもんですね」
「当ったり前だ。人を無限書庫の広辞苑みたいな言い方しやがって……オレにだって判らない事だってあるわい」
 
 
 ユーノのうめきにジュンイチが拗ねると、今まで見せた事のない彼の子供みたいな振る舞いに、
 エステルもクローゼも、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
 と……
 
 
『本日は、定期船「セシリア号」をご利用頂き、誠にありがとうございます。
投機はまもなく、ツァイス市に到着いたします。お降りになられる方は、お忘れ物のないようお気を付け下さい。
また、着陸時には多少の揺れが生じます。着陸前には、御座席にてシートベルトを締めてお待ち下さい』
 
 
 
 機内アナウンスが流れ、定期船は着陸態勢に入る。
 徐々にスピードは落ち、窓から見えるのはルーアンとは打って変わって機械仕掛けの装いが目立つ建物がそびえる街……
 リベール王国の技術の粋が結集したツァイス市の街並みだった。
 
 
 
 
…………………………
……………
……
 
 
 アナウンスの警告の割には大して揺れず、乗り心地も比較的良好だった定期船での移動。
 傭兵時代、輸送機などでの移動が多く、旅行の絡みで旅客機にも比較的乗る機会の多かったジュンイチだが、これなら上流階級の人間でも
 差し当たり無く利用できて便利だよなと思ったりした。
 
 
「さてと……無事にツァイス市に到着した事だし、早速ギルドに向かいましょうかね。
キリカさんにも挨拶したいし」
「キリカ、さん?」
 
 
 一同の先陣を切ってギルドへと足を向けたエステルに、なのはが聞き慣れない人名について問いかける。
 だが、なのはと同時にエステルのこぼした名前に反応した人物が……
 
 
「ほう、名前からすると東方系の女性の様だね。どのようなご婦人なんだい?」
「……会った瞬間、すぐさまナンパに走るつもりだろオリビエ?」
「ハッハッハ─────ナンパだなんて人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ。
ボクはただ、お近づきのしるしに即興のリュートを奏でるために馳せ参ぜようと思っただけさ」
「世間一般ではそれをナンパというんだ」
 
 
 ジュンイチの言うナンパとオリビエの言うナンパとは天と地ほどの差があるらしい。
 あーだこーだ議論を始めた二人を無視し、シェラザードはなのはに説明し出す。
 
 
「まぁお馬鹿さん達は放っておいて……キリカさんを一言で言い表すとすれば─────『出来る人』よ。
完璧な事務処理能力に加え、武術の腕も達人クラスらしいわ。美人だけど容赦のない人だから、手出しするならそれなりの覚悟が必要ね」
「じゃあ手を出した瞬間オリビエさんはきっと魔獣の餌に………
「最悪の場合、ね。……まぁ良くて廃人かしら?」
(なのは……だんだん、シェラさん達に似てきてるなぁ─────
 
 
 思考パターンが次第に遊撃士の二人に告示してきたなのはの言動を、第3者の男として率直な感想を洩らすユーノ。
 やはり彼女達は出逢うべくして出逢った姉妹の様だった。
 と………
 
 
(ん─────?)
 
 
 最初に感知したのはジュンイチだった。
 大地の氣の流れが乱れ始め、周囲の動物達の気配が慌ただしくなってくる。
 乱れた氣はある一カ所に集約し………一気に炸裂する!!
 
 
ゴゴゴゴゴゴ……………………
 
 
 最初は震度1か2程の揺れから始まり、徐々にその揺れは激しさを増していく!!
 
 
ゴゴゴゴゴゴ!!!
 
 
「なっ、じ、地震か?」
「こ、これはそのキリカさんとやらの怒りなのか────?!?
「そ、そんなワケあるかー!!」
 
 
 突然の地震に戸惑いながらもしっかりオリビエのボケにつっこんでいる辺り、やはり手慣れている様子のエステル。
 一方のなのは達は突然の自然の猛威にただただ慌てふためくのみで、近くの手すりに掴まって何とか持ちこたえている。
 
 
 
 やや暫くして、揺れの方はその強さを弱めていき、最終的には完全に揺れは止まってしまった。
 
 
「……どうやら、落ち着いたみたいだな」
「ふあぁ────びっくりした。エステルさん、リベールって結構地震とか多い方なんですか?」
「うーん、国内では割と珍しい方だけど……」
「でも滅多に起きるものじゃないわね……何か、不吉な予感がするわ」
 
 
 シェラザードの推測に思わず肝が冷えるなのは。
 確かに、《結社》絡みとも云えなくもないが、それにしたって自然現象すら巧みに操るなどあり得ない。
 ……といいたい所だが、実際彼等はその『あり得ない』現象をルーアンで可能にしたのだ。
 事実、ジュンイチだけは未だ険しい表情のまま俯いて地面の方を見つめていた。
 
 
「どしたの、ジュンイチ? 怖ーい顔して」
「────いや、何でもない。……被害状況を確認する為にも、急いでギルドの受付へ向かうとしようぜ」
「???」
 
 
 思考の中に浮かんだ一つの疑問を押し殺し、ジュンイチはいつもの笑顔でエステルの問いをはぐらかし、
 街の南側に位置する、ツァイス支部へと向かう事にした。
 
 
…………………………
……………
………
 
 
 
「ふむ、中央工房では大きな被害はなかったと……市街の方も大した騒ぎにはなっていないのでご安心を。
────ええ、その件についてはよろしくお願いします。それでは」
 
 
 あくまでクールな立ち振る舞いで、女性は通信機越しに来訪者の応答に答え、用件が終わると同時に無駄話をすることなく受話器を下ろす。
 肩下まで伸びた黒髪に、どこか異国の雰囲気を醸し出している装いの女性……『キリカ』は受話器を下ろすと同時に察知した
 気配の大元に向かって、背中越しに語りかける。
 
 
「ふふ……妙なタイミングで到着したわね。
────よく来たわね、エステル、シェラザード。発着場ではさぞ驚いたでしょう?」
「あ、あはは……久しぶり、キリカさん」
「…………シェラさんの言うとおり、確かにタダ者じゃないなこの人」
 
 
 全てを見透かしているかの様な物言いに、相変わらずといった感じで苦笑するエステルの傍らで、
 ジュンイチが率直な感想を述べる。
 ……事、戦闘能力に関しては世辞も主観的意見も言わない主義のジュンイチですら認める気配を読む力、そして的確な言動。
 全てが『完璧』の範疇に収まる人だったからだ。
 
 
「相変わらず、見透かしてくれるわね。────まぁ細かい経緯は省いて…これからヨロシクね、キリカさん」
「こちらこそ助かるわ。そして……そちらの5人が例の協力者ね?
私はキリカ。ツァイス支部の受付を勤めている。以後お見知りおきを」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「えと……高町なのはです。よろしくお願いします」
「柾木ジュンイチっす。んで今なのはの肩に乗っかってるのがユーノ・スクライア」
 
 
 キリカから始まり、クローゼ、なのは、ジュンイチ、ユーノの順でそれぞれの自己紹介を終えていく最中、早速協力者の内最後の一人……要するにオリビエの目が光る。
 
 
「フッ……それにしても、予想以上の佳人ぶりだ。このオリビエ、貴女の為に即興の曲を奏でさせてもら……」
「ところでキリカさん。ジャンさんから既に連絡が回ってると思うッスけど………国籍不明の迷子ってご存じッス?」
「ええ、知ってるわよ。”二人”については、協会の方で保護する傍ら、こちらの仕事を手伝って貰ってるわ」
 
 
 いつもの様に始まるオリビエの口説き文句を途中で遮る様にジュンイチがはぐれた仲間達の行方についてキリカに尋ねると
 幸先が明るい答えが返ってくる。だが……約一名に関してはお先真っ暗な返答である。
 
 
「えーと、即興の曲を……」
「リュートを奏でたいのなら、上の休憩所でどうぞご自由に。但し常識の範疇内でお願いするわ」
「シクシク、わかりました(ToT)」
「それでも五月蠅かったり、迷惑だったり、ウザかったら言ってください。
オレが殺しときますから
 
 
 単なる脅しとしか見えないジュンイチの最後の一言に、オリビエの背筋は凍り付いた。
 その一方で、なのはがキリカの台詞の中に含まれていた”ある言葉”に反応し、質問する。
 
 
「”こちらの仕事を手伝って貰って”って……遊撃士のお仕事をですか?!」
「ええ。二人ともいい素質を持ってたし、本人たっての希望もあったから遠慮無くコキ使わせて貰ってるわ。
あの子達のお陰で、手配魔獣の退治依頼が一気に片づいたから色々と大助かりよ」
「…………何というか、”色んな意味で”タダ者じゃねぇなこのヒト」
「ジュンイチくんの最も苦手とするタイプなんじゃない?」
 
 
 異世界の客人を遠慮無くコキ使うなど、宇宙広しといえどもキリカくらいだろう。
 だが……身内の中で手配魔獣の退治を難なくこなし、尚かつ遊撃士向けの素質の持ち主といえば────ジュンイチ達には該当者はあの二人しか思い当たらなかった。
 
 
「キリカさん、ただ今戻りました」
「ただいまぁ〜……はぁ、さすがに疲れたよぉ」
 
 
 ゆっくりと入り口のドアが開かれ、響くは男女の声。それは、なのはにとって最も聞き慣れた声。
 そして、大切な家族でもある……
 
 
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」
「────────なのは、か?」
「……………………なのは!!!」
 
 
 なのはの姿を確認するなり、声の主である恭也と美由希はすぐさま彼女の元へと駆け寄り、熱い抱擁を交わす。
 心なしか、美由紀の目にはうっすらと涙が浮かんでいる様に見えるがそれは内緒の話である。
 
 
「なのは! なのはぁ〜〜!! 良かったぁ、無事だったんだね!!」
「うん、わたしやジュンイチさん達は平気。……でも、フェイトちゃんやアリサちゃん達はまだ……」
「そうか………だが、俺達もこうしてギルドに保護されてたんだ。他のメンバーもちゃんと保護されてるだろう」
「うん…そうだと、いいね。────ううん、『そうだよね!』」
 
 
 緩みそうになった涙腺を何とか押さえ込み、賢明に笑顔を作ろうとするなのは。
 折角兄妹が全員揃ったのに水を差すのもアレなので、3人はとりあえず2階の休憩所へと上がってもらって、ゆっくりして貰う事にした。
 その間に、シェラザードはキリカに細々とした依頼について尋ねてみる。
 
 
「早速なんだけど、溜まってる仕事について教えてもらえるかしら?」
「特にこれといって緊急の仕事はないわね。さっきも話したけど、手配魔獣に関しても恭也達が殆ど退治してくれたみたいだし。
あなた達のやりやすい様にやってくれて結構だけど…………」
「────??? どうしたの、キリカさん?」
 
 
 何だが態度が遠慮がちだ。……そしてこの態度には見覚えがある。
 幽霊事件の調査を提案してきた時の、ジャンの態度に似ているのだ。何となーく嫌な予感がしたエステルだが、キリカは少し考えた後、
 彼女達に言い放つ。
 
 
「これは通常の依頼ではなく、ギルドからの要請になるのだけど……あなた達を《結社》の調査班と見込んで調べてほしい事があるの」
「なんですって……!?」
「いきなしストレートにブチかましましたね。……って事は調査内容ってひょっとして」
 
 
 直球ストレート真剣勝負。
 オブラートに包むことなく、実にあっさりと《結社》の名前を引っ張り出すキリカ。
 あまりのストレートさにシェラザードも驚きを隠せない様子だが、ジュンイチはある程度予想していたらしい。
 さして驚く様子もなく、逆にキリカに尋ねる。
 
 
「調べてほしい事は他でもない。先程起こった『地震』についてよ
地震について調べる? それって、被害がどの程度かみんなに聞いて回るって事?」
「それもあるのだけど……実は3日ほど前ヴォルフ砦で同じように地震が発生したみたいなの。時間にすると約10秒程度。
さして被害は出なかったらしいけど……奇妙な事が一つ。ヴォルフ砦で地震が起きた際、ツァイス市は全く揺れていなかった
 
 
 キリカから発せられた状況に、全員一気に驚きの表情に変わる。
 
 普通地震というものは指向性を持つ自然現象だ。大であれ小であれ、震源地から余程の長距離でなければ若干の揺れはあるはずである。
 今回の件もご多分に漏れず、ヴォルフ砦とツァイス市の距離はせいぜい30km程度である。
 これだけ接近していれば多少は揺れていてもおかしくないはずだが………
 だが、ジュンイチはこれもある程度予想していたのか、他のメンバーとは違い、驚くことなくキリカに聞き返した。
 
 
「成る程……最悪の場合《結社》の《執行者》の仕業って事ッスね」
「え?!」
「別に驚くこたぁないだろ? ルーアンでの一件も、通常ではあり得ない現象だった……今回の地震も、それにどことなく酷似してるみたいだから
何となくと予想してたんだが……どうだろうか?」
「ひょっとしてジュンイチ君……例の”ブレイカー”とやらの能力で何かを感じ取ったのかい? さっきの地震の時に」
「”力の流れ”が乱れるのは感じたけどな……それ以上の事は大雑把にしかわからなかったよ」
 
 
 オリビエの問いかけにややはにかんだ様な表情でジュンイチは答える。
 いくら自分が”力”の感知に長けているとはいえ、相手が自然現象ともなると勝手は違ってくる。
 こうなってくるとむしろ専門は大地の属性を持つジーナあたりが適任だろう。……まぁいくら大地属性だからといって地震探知が出来るとはほとほと思ってないが。
 
 
「んまぁオリビエの読みはさておいて……あの地震を体感して違和感を感じたのは間違いないな。
────恭也さん達はどう思いますか?
「え?!」
「3人ともいつの間に……立ち聞きなんて趣味悪いわよ?」
 
 
 エステル達が振り向くと、そこには2階から下りてきた高町兄妹が既に傍聴の姿勢をとっており、
 あらかた事の経緯を把握している様だった。
 彼女達からすれば、第三者的な立場である恭也達を巻き込んでいいものやら悩み所ではあった為、シェラザードが思わず皮肉るが当の本人があっさりと否定した。
 
 
「別に驚く事ではないだろう。────それに、なのは達の件で君らには世話になったからな。
こちらとしても、出来うる限りの協力をしよう。美由希、問題はないな?」
「うん。……実際に体感して思ったけど、何だか───悪い予感がするよ。
なのはも勿論だけど、ジュンイチくんだけに任せてはおけないからね。私も手伝うよ、《地震》の調査」
「ありがとうございます、えっと………」
 
 
 あ、そういえばギルドに帰って来るなりなのはと2階へと上がっていったから自己紹介がまだだった。
 思い出した二人は改めて姿勢を正し、エステル達に告げる。
 
 
「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術、師範代兼大学1年生、19歳……高町恭也。以後よろしく頼む」
「同流派一番弟子兼高校2年生、高町美由希、17歳。改めましてよろしく!」
 
 
 恭也はやや控えめにお辞儀をし、美由希は挙手の敬礼の様なポーズをとってそれぞれ簡単に自己紹介をする。
 武道と聞いて真っ先に反応したのはエステルとクローゼだ。二人ともそれなりの心得がある為、早速質問の嵐だ。
 
 
「ほぉ、美由紀君は女性でありながら剣術の使い手か。何だか姫殿下を彷彿とさせるねぇ」
「そんな生易しいもんじゃないぞ、御神の剣は。
クローゼの剣が”守る為に相手を制する剣”なら………御神流は”守る為に相手を殺す剣”だ。
俗に言うところの御神流は、代々御神家が伝えてものでな。政治家や重要人物の影からの護衛や不穏組織の殲滅などという、
比較的日の当たる場所で働く事が多く、権力に関わって力を振るう事が多かったんだ。
判りやすくいうと”守るのに特化した殺人剣”って所だろうな」
「その位にしておけジュンイチ。御神の剣は……あまり人前にさらしていいものじゃないからな。至らない小話は程々にしてくれ」
「その割にゃ、オレ等の前でバカスカ撃ちまくってる気がするんスが?」
 
 
 ジュンイチの的確なツッコミに返す言葉もなく、黙り込む恭也。
 そんな彼の様子を目撃した美由希は、哀れな兄の姿に苦笑せざるを得なかった。
 
 
「……うちの兄は、微妙に抜けている所があるらしくて」
「あー……何となくそんな気がする」
「でも、さすがは剣術の師範代を務めてらっしゃるだけはありますね。立ち振る舞いや言動に隙がありません」
「いえ、言葉遣いについてはただ単に、性格が古くさいだけで────」
 
 
 恭也の失態に対し、美由希・エステル・クローゼの近齢トリオは三種三様のコメントを洩らす一方で、
 肝心の言われ放題なヒトは現在ジュンイチ相手に口論中。
 そんな中、なのはがふと掲示板を見ると……奇妙な依頼が幾つか見受けられた。
 
 
「『看板の捜索』……『特別訓練への参加要請』………『のぞき魔の撃退』?」
「特別訓練やのぞき魔はいいとしても……『看板の捜索』? なんなんだろう」
 
 
 なのはが掲示板の依頼を読み上げ、ユーノもそれに同意する形で呻くと、キリカがそれに反応し、答える。
 
 
「掲示板を見たみたいね。早速なんだけど捜査に協力してくれる?」
「う、うん……そのつもりだけど────看板って支部の軒先にぶら下がってる、ギルドの紋章が入った看板の事?」
「ええ、その看板が盗まれたのよ。実務上の影響はないけど……紋章はギルドの使命と義務の象徴。
それが盗まれたとあっては、こちらも黙ってはいられないわ」
「確かに一大事だけど……そんなものをかっぱらってく物好きが居るわk────っているぢゃねぇかたった一人
 
 
 キリカの説明を聞くなり、何となく犯人の目星がついたのかげんなりするジュンイチ。
 エステル達も最初は何が何やら判らなかったが、ジュンイチの表情と言動から大筋を悟り、同じくげんなり。
 
 
「ま……まさかとは思うけど」
「思い当たる節があるようね。では───これはどうかしら?」
 
 
 そういってキリカは、一同にとって見慣れた白いカードを差し出す。その瞬間、皆の疑惑が確信へと変わる。
 間違いない────────変態紳士(←違)だ。
 ちなみに、カードの内容は以下の通り。
 
 
『麗しの姫君と可憐なる戦乙女、そしてその共らよ。集いし勇士の魂は既に我が手中にあり。
解き放たんと望むならば、我が呪いに打ち勝つがいい。
第一の鍵は市中に。「齢40なる翁」の背を探れ』
 
 
「事件発覚後に送られてきたカードよ。内容から見て犯行声明と考えられるわ」
「…………………………………」
「………間違いないみたいですね」
「冗談かと思ったけど、ホントに挑戦してきたよ……」
 
 
 さすがの肝っ玉の据わったリベールの女性陣でも、(ある種)イヤガラセに近いこの挑戦状はどうコメントしていいか悩みものの様だ。
 シェラザードは本日最大級の溜息を吐き、告られた当人であるクローゼは苦笑いを浮かべ、エステルに至ってはあからさまにイヤそうな顔である。
 
 お付きで一緒に行動しているはずのヴァーチが、どんな顔をしながら仕事をしているかありありと想像できたエステル達は、心の中で静かに十字架を切った。
 
 
「ルーアンでの経緯は、ジャンから聞いているわ。
今回の事件……怪盗Bこと《怪盗紳士》ブルブランからの挑戦といった所かしら?」
「フッ、面白い。他ならぬ好敵手からの挑戦状、受けて立とうじゃないか」
「んじゃオリビエ、この件のリーダーになって余った人員使って調査な。オレ達は一切関与もしなければ手伝いもしないので夜露死苦」
 
 
 有無を言わさず言い放つジュンイチだったが、オリビエは反対する様子もなく……いや、むしろすっごいウキウキ気分でリーダー候補に名乗りを上げた。
 
 
「フッ、では美由紀君、なのは君。ボクと一緒に好敵手の謎を解き明かそう!」
「えと……私達は激しくオリビエさんと相手方との因縁に関係ない様な気がするのですが?」
「オリビエさん相手にそのツッコミは野暮だと思うよお姉ちゃん。」
「その様子だとこの人選の理由に何となく心当たりがあるみたいだな、なのは?」
 
 
 美由希の問いかけに冷静にツッコミを入れるなのは。
 それにジュンイチがさらに付け加える形で突っ込むが、彼等の予想は大筋当たっていたらしく、頬を朱に染めたオリビエがぼそっと呟く。
 
 
「フッ……愛しのなのは君にその姉君である美由紀君のさらなる魅力発展の為に────
不詳このオリビエ……手取り足取り大人の味というものをご伝授仕ろうt
 
 
スチャッ...
 
 
 言いかけたオリビエの喉笛に、銀色に煌めく一筋の線がかざされ、それが薄皮を切り裂いて彼の喉元から赤い液体が一筋垂れおちる。
 父・士郎から借り受けた小太刀『八景(やかげ)』をかざした恭也が、静かに……重い一言を以てオリビエを威圧する。
 
 
「別に誰を連れて行こうが構わないですが……うちの妹達に手を出したらいつでも介錯仕りましょう」
「ゴメンナサイ、もうしません」
(恭也さん………相変わらずの妹想い────っつーかシスコン度合いッスね)
 
 
 口が裂けても、その一言だけは外に漏らしてはならない。
 そう心に誓うジュンイチだった。
 
 
 
 
to be continued...
 
次回予告
 
《ゴスペル》の手がかりを求め、ラッセル博士の自宅にやってきたわたし達は、一人の女の子と出逢います。
 
いいなぁ……ティータ────お持ち帰りにしたいなぁ
 
撃ちますよ?
 
っとと! 《ゴスペル》は相変わらず深まるばかり
 
ラッセル博士は調査に協力してくれるって言って、研究室に篭もっちゃいましたけど……
 
とりあえず、暇なので軽く体を動かすか
 
 
 
次回、魔法少女リリカルなのはvs勇者精霊伝ブレイカー×英雄伝説 空の軌跡SCクロス小説
 
Triangle World 〜空を翔る英雄達〜 第10話『激闘! 王国軍vs遊撃士!!』
 
リリカル・マジカル!
 
この炎に燃やされたい奴から……かかってこぉい!!
 
 
 
−あとがき−
 
 ………………………………………
 一ヶ月も連載停止してゴメンナサイorzだからすぐ卑屈になるな
 どうも、おはこんばんちわ。『心は永遠の14歳』────
 25年近く生きてきて初めて体験したデートで精神ポイントを使い果たしたtakkuです。
 ……デートっていうか、アレはどちらかって言うと”オフ会”みたいな感覚だなぁ。
 (↑実際に会うまで携帯でメールでしか会話してない上に、電話で会話はおろか、お互い写メールすらやり取りしてなかった為)
 
 ツァイス編に突入………したはいいんですが、まだ到着して間もないという事でネタ的にはかなり控えめです。
 とりあえず、恭也さんのシスコンネタ絡みでオリビエに新たな禁句(タブー)を刻み込めたので私的には満足ですがw
 
 多分次回は『戦闘で燃えて』、次次回は『銭湯で萌える』ような展開を書いていこうと企てています。
 どんなネタを使うのかは、まだヒミツ♪ ということで…また次回をお楽しみ下さい(謝)

管理人感想

 takkuさんからいただきました!

 やってきました新天地! ツァイスに到着し、さらには恭也や美由希とも合流。新たな顔ぶれで新展開の幕開けです。
 すっかり対オリビエ用ツッコミ要員となってしまったジュンイチ、お疲れ様です(苦笑)。
 そして――再び暗躍する変態紳士(←すっかり定着)。お付きのヴァーチさん、こちらもお疲れ様です(笑)。

>ジュンイチの的確なツッコミに返す言葉もなく、黙り込む恭也。

 やはり恭也もジュンイチ相手じゃ口では勝てんか(笑)。
 あ、彼の名誉のために言っておきますが、剣オンリーの戦いでは恭也の方が戦闘力が上だったりします。だからこそジュンイチも(彼なりに)敬意を払ってるワケです。
 つくづく非能力者なのが悔やまれる人だよな、恭也って(汗)。

撃ちますよ?

 撃て、撃て……!(笑)