プレダコンズとのパーティーで「出番とるな」と猛抗議してきたスターとイテンを適当にあしらいつつ、

  本来の目的であった宅配もちゃんと済ませて会社に戻ってビックリ。





  ビックリした理由は……我らがマッチョ参謀チックな上長さんが僕らに持ってきた……















  管理局の地上本部のサインが入った大きめの封筒にあった。






































  さて、僕はスターやイグナイテッド、イテンと共に、ミッドのとあるラーメン屋に来ています。







  なんでも、いつぞやの「パチモンウォーズ事件」の鎮圧に一役買ったことがレジアス中将に評価されたらしく、

  その辺の褒賞と謝礼が先日、オービットの上層部に届いたらしい。封筒っていうのはソレね。

  内容は、感謝状と、金一封。これは僕個人に宛てたもの。

  それともう1つ、これは僕だけでなく、同じく現場に立ち会って周辺人民の避難誘導や護衛をしてくれたというスターにも宛てたものだそうな。

  内容は……


























  今こうしてやってきているこのラーメン屋の、1日無料券だった。




























  「……私は?」


  「いや、お前はあの時いなかっただろ…?」





  なんか、すんごい寂しげな瞳でこっちを見つめてくるイテンに、恥ずかしながら「胸キュン」とかってヤツになったりするけどそれはともかく。


  うん、少なくともその今にも泣きそうな瞳はヤメテ?


  なんかこう、ラブ的な意味で抗えない何かを感じちゃうじゃないか…っ!






























  「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






  「とある旅人の気まぐれな日常」







  第5話:勃発!ミッド大食い王者決定戦?





























  というワケで、僕もスターもイテンも、今はカウンター席に座って何を食べようかとシンキングタイム。


  あ、無料券をよくよく見てみたら「2名様以上4名様まで」って注意書きがあったから、イテンも無料ラーメンにありつけることが分かったので一緒です。


  何にしようかなー?


  塩もいいけど、とんこつも捨てがたい……むむ、バターコーンもありかな…。






  「メニューにくいついてる…」


  「真剣に選んでるな」


  《マスターにとって、食事はいかなる時でも重要局面ですからね》







  そう、重要局面。


  たくさん食べなきゃやってられない体質なんだけど、味にもこだわるからねー。


  おいしくなきゃ、食欲も出ないしね。








  下手しなくても死活問題だしねー。











  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





  「さて、お昼はどこで食べようか」


  「そうですね…」



  私の何気ない一言に、ティアナが一緒に考え込む。


  今日、私たちは外での捜査協力の依頼を受けて外出中。


  まぁ、捜査協力、とはいっても、この前にお兄ちゃんがやらかしたパチモン事件、通称「パチモンウォーズ事件」の後始末の意味合いも強いんだけど。


  私たちが押されてたってのもあるけど、結構な範囲で損壊が出たからねー。


  アレには、後で話を聞いた鷲悟お兄ちゃんも怒ってたなー。「柾木家に黒歴史を残すつもりか」って。






  例によって首謀者お兄ちゃんは知らんぷりだったし。









  「でも、昨日からお兄ちゃん、すごいやつれた顔してたけど…」










  スバルは後日なのはちゃんから聞かされるまで知らなかったんだけど、

  どうやらその時は、ロングアーチ(シグナルランサーら交通機動班は除く)の監修のもとに、

  おびただしい数の書類作成やら現場始末やらをなのはちゃんとの2人だけでやっていたらしい。

  あのクロノ提督にも引けを取らぬ書類地獄に溺れていたとか…。

  まぁ、ある意味で当然の天罰なので同情も何もしてやれないけどね。
















  それはともかく、今はごはん。腹が減っては戦はできぬってね。

  どっかいいところないかな〜。


  ……って、どうしたのスバル?そんなにおいしそうなものを見る目をして。





  「あたし…ここがいいかな…」





  そう言ってスバルが指差した先は、ミッドでちょっと有名なラーメン屋。

  そういえば、今は期間限定セールとかなんかで、俗にいうデカ盛りメニューの試験提供もしてるんだっけ。

  私も何度かこの店で食べたことあるけど、あそこは"アタリ"だね。損はないと思う。





  「スバル…まさか、あの大食いメニューに挑むつもりじゃないでしょうね…」


  「えー?ダメ?」


  「ダメ、とは言わないけど…」






  あー、スバル、ティアナの言うとおり、アレは私もやめた方がいいと思うんだけど…。






  「あず姉までー」





  スバルがなんか言ってるけど、ひとまず放っておく。





  だって……ねぇ?
































  アレ……通常サイズの10倍って書いてあるんだしさぁ…。











  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





  …………えー、オレとイテンは現在、トラルーの注文したメニューに絶句しております。






  名前は「スサノ王スサノオ」、超大量に放り込まれた10人前のソフト麺に、これでもかといわんばかりに盛られたトッピングの数々。

  オマケにスープは魚介類ベースの激辛仕様。どんぐらい辛いかっていうと、そこらの担担麺が赤ん坊に見えるくらい、とだけ言っておく。

  サイズなんて、1人前のドンブリとちゃぶ台を並べるぐらいにデカい。ていうかデカすぎだろ、どう考えても。




  期間限定で、これを制限時間1時間以内に完食するとタダになる上に賞金として金一封がお店から贈呈されるとのこと。

  いや、でもなぁ。コレ、完食できる人なんているのか?単純計算でも通常サイズの10倍、トッピングやら何やらの関係で、実質15人前ぐらいあるらしいじゃんか。

  完食ってことはスープもきれいに飲み干す必要があるワケで、どう考えても完食は無理だって…。







  「ふふふ、甘いなスター。今日の僕は、ギャル○根をも凌駕する存在だ!」






  あー、あの子も腹の中どうなってんだろーとか思うし、実際すごい量を1人で、しかも余裕でたいらげるし。


  でもさ、勇気と無謀は紙一重っていうぜ?









  「おまたせいたしました、塩バターラーメンのお客様」


  「おうっ」



  お、オレのヤツがきたみたいだ。

  店員さんが、オレの目の前にラーメンをおいてくれる。さすがにオレには「スサノ王」に挑む勇気はない。





  「わかめラーメンのお客様」


  「はーい」



  イテンはさっぱりしたわかめラーメン。煮干ダシのあっさりしょうゆスープに新鮮なわかめがたっぷり。

  同じく店員さんが彼女の目の前にラーメンをおいてくれる。これはこれでうまそうだな。





  「スサノ王をご注文のお客様」


  「はいはい」


  「お客様はこちらでどうぞ」





  ドンブリのサイズからしてデカすぎるので、「スサノ王」を注文したトラルーはすぐ近くの広いスペースへ移動。


  そこには、挑戦者を待ち構え、ウマ辛そうな香りとデカさ故の存在感を放つ「スサノ王」が堂々と置かれていた。

































































  ……アレは……「らぁめん」という名の要塞なのか…ッ!?










  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





  ……デカいよ。





  「デカすぎるわね」


  「デカすぎですよね…」




  ティアナもキャロも唖然としてる。



  理由は、スバルとエリオ、そしてたまたま一緒になったギンガさんの大食いトリオが(無謀にも)注文した「スサノ王」。

  普通なら、家族連れとかの客に提供するであろうスペースに堂々と巨大なドンブリが置かれているのだ。

  しかもこれ、1時間以内に完食しないと、1杯につき日本円でいうところの2万円もとられる。

  逆にクリアすれば金一封が出るだけあってか、「完食されるものか」という店側の自信もあるんだろうけど……いくらなんでもリスクがデカいって。






  「大丈夫だよあず姉、これくらいの方がちょうどいいんだよ」





  スバルはそう言うけど、ホントかなぁ…。


  1杯だけで、君らが3〜4人がかりで平らげて腹を満たしているあのボウルの数倍はあるんだけど。






  「それでは、これより1時間のチャレンジを開始します」







  そう言って、店員さんがあらかじめ1時間でアラームが鳴るようにセットしたタイマーを作動させた。




  大丈夫かなぁ…。








  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








  ねぇ、スターにイグナイテッド。




  「なんだ」


  《どうしましたか》





  この世には、おなかがブラックホールになってる人って実在するんだねぇ…。





  《いえ、アレはもはや別次元です。少なくとも目の前の光景を「人がやっている」と考えてはいけません》




  いやいやいやいやっ!?

  なんかもう、いろんな意味で何かを振り切っちゃってるみたいなんだけど!?






  「久しぶりに見たなー、トラルーのバイオレンスなまでの大食い劇」




  スターはスターでなんでそんなに落ち着いてるのっ!?

  いくらなんでもありえないでしょアレっ!?





  「いやー、アイツだけは例外だ。誰が何と言おうと例外だ。まさに別次元」


  《常識を超えたところに、世界の真理があるのですよ》






  ちょっ、「例外」なんて簡単に片づけていいの!?


  それとイグナイテッド、その発言はどこかのHな氷の妖精さんの「さんすうきょうしつ」みたいな感じで危ないよっ!?














  えー、なんで私がこんなにも取り乱しているのかというと…。






























  目の前で、トラルーが、自分の身の丈ほどもあろうかという巨大ラーメンを、疾風怒濤の勢いで食べまくっているからです。はい。














  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








  さて、カウント開始から既に30分が経過。で、3人のペースは……








  「アンタたちー。いい加減に自分たちの無謀っぷりを思い知ったかしらー?」








  「ま、まだまだ…!」


  「こんなの、余裕だよ…?」


  「時間いっぱいまでが勝負です…!」








  ティアナからの問いかけに、スバル、ギンガさん、エリオの順に返答がきた。







  ただし、言葉と惨状は見事に反比例している、としかいえないけどね。











  3人とも、まだ3分の2くらいは残ってる感じ。制限時間の半分でコレなんだから、完食なんて無理な気しかしないんだけどなぁ…。














  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











  「あー、トラルーには余裕だったか…」


  《これまでの業務やら害虫駆除プレダコンズ退治やらでエネルギーを浪費しまくってますからね。

   その辺の補充の意味合いも強くなってますけど》


  「人並みだとあまり補給できたことにならないからねー」





  うん、スターが妙に落ち着いてることにはもうツッコまない。


  イグナイテッドの解説にうなずきながら、私はまたトラルーの方を見る。





















































  この人にかかれば、実質15人前の大要塞「らぁめん」も40分ちょっとで陥落するんだねー、イテンちゃんビックリだよ♪






















  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









  「それでは、チャレンジ失敗ということで、3名様それぞれで代金をいただきますー」












  今日のあずさレポートにもピリオドを打つ時がきたみたいだね。






  結論。



  大食いトリオは、「スサノ王」の前に見事に玉砕しましたとさ。













  「ていうか、よくもまぁあれだけ入ったものね…」


  「エリオくん、大丈夫…?」







  ティアナが妙に感心してる。うん、アレは確かにねー。


  それとキャロ、大丈夫だよ。今、あの3人は意識だけ日帰りコースで旅立ってるだけだから、大事には至らないよ。








  さて、問題は、今現在ウマ辛スープの海に沈んでいるあの3人をどう連れて帰るか…。

  ひとまず、ロードナックル辺りに運んでもらおうかな。









































































































  「スサノ王の完食者が出たぞー!!」







































































































  ……はぁっ!?







  あ、アレを完食するなんて……いったい、どんなバケモノじみた胃袋の持ち主っ!?






















  「あらら?

   なんだ、お前らもここでラーメン食ってたのか」






  完食者の出現を知らせる店員の声のすぐ後に、違う方のフロアから出てきたのは……


  「パチモンウォーズ事件」でお世話になった丸い人の、えっと確か、スター!?


  ……おとなりのセインによく似てる女の子は?







  「イテンっていいまーす!よろしくっ」





  あぁうん、よろしく…ってそうじゃなくて!
 






  「まさか、あなたたちがスサノ王を…?」


  「いやぁ、さすがのオレたちも、アレに挑む勇気はない」


  「正直、私たちも絶句してたところだしねー」





  キャロからの問いに、スターとイテンが答えるけど…じゃあ、完食者って誰?



















  「おぉ、ここでも君らに出会うとは、なんか偶然とは思えないねぇ」



  「はい、完食者の登場です」








  ちょっと陽気な声と共に出てきたのは、同じく「パチモンウォーズ事件」でお世話になったトラルー。


  で、イテンが…って、イテン、まさか、完食者って……
















  「トラルーのことだよ」


  「しかも、40分ぐらいにはもうスープまで飲み干してやがった」


  《我がマスターにとっては、久々に単品で満たされる品だったようで、終始幸せそうな顔でしたよ》




















  うそぉぉん!?


















  そ、そんなちっさい体の、どこに…!?















  「はっはっは、君らとは体のつくりみたいなものがだいぶ違うみたいだからねぇ、常識の範疇には当てはまらないと思うよ」














  そう言うと、トラルーは店長さんから震える手で渡された金一封を手に、


  無料券と思しき紙を店員さんに渡したスターやイテンと共に満足げな表情で店を去っていった…。

















































  ……信じられない…。





















































































  「あ、ありえない…」












  そう言いながら、スバルも完全に意識を手放してうなだれた……。


  さて、これはもう任務続行不可能として、何かしら言い訳を考えながら六課に戻らないと…













  「あのーお客様、代金の方を…」




























  そうでしたぁぁぁぁ!!













  ちょっと、スバル、エリオ、ギンガさん、誰でもいいからとにかく起きてーっ!


  せめて、くたばるのは代金を払い終わってからにしてーっ!?














  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










  「いやぁ、余は満足じゃぁ」





  そりゃーな。あれだけ食ってまだ満足しないなんていったら、それこそバケモノだろ…。





  「何をどうやっても永遠に満たされることのない某グ○ードよりかはだいぶマシだと思うけど」


  「あー、確かにそんな背景事情があるんだっけね」




  うん、欲望を満たすのって果てしなく難しい感じがして気が遠くなるから、その話だけはやめてくれないか。






  ただでさえクライマックスで、結構ヘヴィな展開になってるんだからさアレ。







  「ところで、イテンはこれからどうするの?」






  そういえばそうだ、オレたちは別にオービットに戻ればいいけど、イテンはそうもいかないか。






  「そうだよねぇ、私は今NEETなんだもんねぇ」





  ソレを自分でいうと、かなり痛々しいな。


  とはいえ、そうなのも事実。宿無しどころの話じゃないんだよな。


  あー、六課の隊舎にでも身を寄せられれば、ひとまず宿無し問題は解決できるのになー。













  「スター、泊まったことでもあるの?」












  しまった。












  「言ってみてよ。僕怒らないから。ねぇ、泊まったことあるの?」









  ヤバい。結局、費用稼ぎやら身を隠すやらでオービットの業務に精を出す内に年越しまでしてしまって、


  なんだかんだで未だに機動六課に訪問すらしてないんだった。


  つまり、今のオレの話はトラルーにとって完全に地雷だったワケで…。











  「ねぇ、教えてよ。どうなの?

   泊まり心地はよかったの?ねぇ?ねぇ?」











  ものすごいプレッシャーと共に顔面超アップで迫ってくるトラルー。


  それに圧倒されてじりじりと後ずさるオレ。


  同じく圧倒され、割り込むことすらままならないイテン。


  つまり、今のオレは完全に孤立無援。






















  …………誰か助けてぇぇぇ!?





















  (第6話へ続く)
























  あとがき


  というワケで、戦闘関連からは一切離れた小休止的な話となった第5話でした。


  いや、ある意味で戦いではあったでしょう。ただし、相手が巨大すぎるラーメンである、というだけであって。




  一応、第2〜3話と同様に元ネタのあるお話ではあるのですが…本筋からは離れたお話なので、コミックス単位まで見てないと気づけないかも。


  元ネタのヒントは「ガンガンコミックス」「リアルソードマスターヤマト」の2つで。





  ちなみに、本来これが第4話になる予定だったのですが、執筆段階でトラルーのゲスト参戦が決定した為に、

  その辺のエピソードを執筆してたら容量の関係で急きょ第5話になったという、行き当たりばったりなことこの上ない背景事情もあったり(ぁ)

  主な変更点は大食いトリオのメンツ。本来はギン姉ではなくマスターコンボイに沈んでもらう予定でした(マテ)

  スバルとエリオはどっちに転んでも沈む宿命だったワケですが(マテマテ)






  最後にちょっぴり予告。

  トラルーの(読者の皆様にとっては知られざる)地雷を踏み抜いたスターの運命やいかに!?(オイ)


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

 スバル達ですら撃沈する大食いラーメンも余裕なトラルー……どんだけやねん(汗)。
 まぁ、無理やりスバル達の弁護をするなら、“メニューが激辛だった”というのも敗因のひとつかと。
 参加メンバー3名の内、少なくとも確実にお子様味覚なのが二人……それで激辛麺に挑戦するのはそれこそ無謀と言うものでしょう。