……あ〜、まさか、そこまでいくとはな。
というワケで。
「なんと、チーム・レルネはまさかの合体デバイスという荒業に出たぁ!
これには会場の誰もが驚く他ないようです!!」
実況担当であるオレも、こう叫ぶしかないんだよな。
「さ、3機のデバイスが…」
「合体、した…!?」
「こんなメカまであるなんて…」
その後ろでは、バド、ローリ、コビーの3人も驚いている。
まぁ、パワードデバイスの概念を知らない以上、無理もないんだけどな。
あぁいや、アレはそもそも基本の概念から逸脱してるか。
分割されていて、それが合体して1つのアーマーになるってだけじゃなくて、分離時に単体で戦闘できるんだからな。
「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録
「とある旅人の気まぐれな日常」
第16話:合体デバイスとジャンク屋と設計図
デバイス自体がまだまだ未知の領域なんだけど、その上にアーマーになるとか、合体するとか…。
もうね、この時点で頭が真っ白になりそうで僕は自分が怖いっ!
「オイ!合体までするなんてアリか!?」
「何を言いますか。
技術屋たるもの、自分自身で手掛けるものに自分の想いを込めるもの。
その想いに、限界や常識なんてありはしませんよ」
『…っ』
ジン君もさすがにツッコむけど、当のレルネはどこ吹く風。あっさりと自論をぶちまけて逆にこっちを黙らせる。
……でも、機械好きとして、少しわかる気がする…。
そういえば、おじいちゃんもそんな感じだったっけ…。
「ふふん、このクロスディメンジャーは、ボクの想い、ボクのオタ道スピリッツの全てをこめて作り上げた、
ボクの最強最高傑作っ!」
っと、思い出に浸ってる場合じゃなかった。
合体してクロスディメンジャーとなったアーマーを纏ったレルネが、3つの武器が合体してできた大剣を片手で振り抜く。
「あなたたちもこの世界で戦う者を志すというのなら、
全身全霊全オタ道スピリッツをかけてかかってきなさぁぁぁぁいっ!!」
うん、そのオタ道スピリッツって言葉について少しでも説明してほしい気がするんだけどねっ!?
「とにかく避けるぞ!?」
……って、ツッコんでる場合じゃなかったぁぁ!?
ついついツッコんでしまい、反応がみんなより少し遅れてしまった僕が狙われた。
大剣で思いっきり弾き飛ばされてしまう。非殺傷設定ってやつのおかげで傷はないけど、結構痛い…!
「大丈夫かクレア!?」
「今の攻撃、アイツらがバラバラだった時よりも速くなかった?」
ジン君となずなさんが駆け寄ってきた。でも大丈夫、まだいける。
それより、いまなずなさんが言ったこと、僕も今気になって…
「当然ですよ、なずなさん」
『っ!』
レルネからの声に、少し離れたところから隙を伺うゼロノスも含めて注目の視線を向ける。
《3機合体したことにより、このクロスディメンジャーのスピードは合体前の3倍、
パワーはなんと30倍になったのだ!》
「えぇっ!?」
「30倍だと!?」
あの合体デバイス、クロスディメンジャーからの言葉に、思わず耳を疑うなずなさんとゼロノス。
「……脳内設定ではね」
直後のレルネの言葉で思わず同時にガックリきた僕たちは、きっと間違ってない。
《冗談かよ…》
イリアスの言葉にも、取りあえず同意しとく。
「ふふふのふ〜♪ 冗談かどうかは、直接確かめてみてくださいな。
しかしまず1つ、堂々と言わせていただきましょうか――」
《「アキハバラの技術力は世界一ィィィッ!!」》
あぁもう、どこまでいっちゃうのかな、あの子たち!?
レルネとクロスディメンジャーがよくわからないことを同時に叫びつつ、再びこっちに向かってくる。
とにかく、こっちも対応しなきゃ。
「こうなったら、まず距離を取って戦った方がよさそうね」
「侑斗、ゼロガッシャーで牽制を」
「分かった」
「僕も援護するよ!」
なずなさんからの提案に従い、こっちは役割分担。
ゼロノスのゼロガッシャーっていう武器で射撃して牽制、ジン君となずなさんで直接攻撃。
それなら、僕は地属性の特殊技で援護してやれば…!
自分たちの役割を果たすためにも、とにかく距離を取る。
みんな一斉に散開して……って!?
《愚か者めが!言った筈だ、スピードは3倍になっているとな!
背部と両肩、3基スラスターの推進力は伊達じゃない!!》
「トラルーたまは言いました。
遠距離攻撃型や特殊攻撃型は早めに叩く、それがフォーメーション崩しの基本である、と!」
確か10メートルくらい離れてた筈なのに、もう接近してきた!?
しかも、狙いはまた僕!?棒状になったスコールピオの直撃を思いっきりもらい、また吹っ飛ばされてしまう。
衝撃と痛みに耐えながら身を起こそうとしてみれば、もうすでに目の前にはあの大剣が…!?
「隙ありです!!」
「させるかぁぁっ!!」
割って入ってきたジン君のエネルゴンセイバーの斬撃をさばく為に、大剣の狙いをジン君に変更。
何度か刀身をぶつけあって、どうやら互角ぐらいではあるみたいだけど…。
「クレア、今のうちに離れるんだ!」
「う、うん!」
《恩に着るぜ!》
ジン君に促されて、改めてレルネから距離を取る。
でも、ただ距離を取るだけじゃない。地面に"力"をぶつけ、岩石の弾丸を作り出す。
「左右から挟み撃ち、いくわよジン!」
「おう!」
「そのヌンチャクみたいなデバイスは使わせないぜ」
ちょうどジン君と自分との間にレルネが入る位置から駆け出してきたなずなさんと、一旦離れたジン君がレルネに突撃。
スコールピオが分離しようとするけど、ゼロノスからの射撃を防ぐために高速回転、盾替わりになる。
よし、これで遠隔攻撃はできない!
僕も追撃のかまえをとる中、ジン君のエネルゴンセイバーとなずなさんの槍がレルネに左右から迫る。
《この……愚か者どもめが!》
「なっ!?」
「いっ!?」
「……激流に身を任せて受け流し、すぐさま次なる一手。これぞトラルーたまからの奥義なり!」
《おぉーっと!挟み撃ちに出た筈のジンとなずなが、ユニオンカリバーだけで返り討ちにされたーっ!》
信じられない。あの挟み撃ちは、時間差で攻撃をすることで最低でも片方はクリーンヒットさせられる筈。
なのに、回避どころか、受け流して反撃までするなんて!?
スターからの実況の通り、逆にジン君たちが大剣で吹っ飛ばされていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
合体デバイスを身に纏ったとたん、4対1っていう状況で逆に侑斗たちを圧倒するレルネって子にビックリ。
今のだって、左右からの攻撃で、片方を相手すればもう片方は手薄になってしまうし、背中を見せることにもなる。
それで逆に返り討ちだなんて…。
「あの二人の攻撃を、あんな簡単に…!
トラルーさん、これはどう見ますか?」
「デネブ辺りから時間差云々の話が出たけど、今回はそもそもそれが間違い。
ユニオンカリバーの質量や、クロスディメンジャーの馬力だけじゃない。
まず第一に、僕やスカイクェイクが徹底的に叩き込んだ、全周囲からの攻撃への対応力。
これをもってすれば、あんな攻撃をさばくなんてわけないでしょうね。
つまり、今回の場合、時間差ではなく、同時にいってみるべきだったのですよ」
全周囲から、って…。
それって、前に侑斗が見てたアニメに出てた、ファ○ネルとかド○グーンとかフ○ングとかみたいなもの?
「はい、デネブ正解。
まぁたとえば、自分が浮いていれば、360度ありとあらゆる方向から何かが来てもおかしくない。
海でダイビングしている時みたいなものさ。
アレだって、上から下から、右から左から、斜めから、
とにかくいろんな方向から魚とかが寄って来たりするだろう?
ここでいう"全周囲への対応力"ってのは、その状況下で、自分に近寄る生き物の全てにタッチして回るようなものなんだ。
それも、相手からじゃない、自分からのタッチ限定で」
なんか、だいぶ前に侑斗と見てたテレビ番組で、いろんな方向にあるボタンを押して回るアトラクションがあったような。
えっと…フレン○パークとかいってたっけ。
「ずいぶんと懐かしいネタ持ち出したでおじゃるね…」
「まぁ、間違っちゃいないんだろうけどねー」
ビコナちゃんにイテンちゃん…だっけ。二人とも、俺、何か変なこと言った?
「いやいや、デネブも結構いろんなテレビ見てるんだなーって思っただけでおじゃるよ?」
「ねー」
ならいいけど…。
「ちなみに、レルネの全周囲対応力の強化には、スカイクェイクに全面協力をいただきました。
ただ、いきなり問答無用で全周囲からのモーントイェーガー一斉掃射はないんじゃないかなーと思ったけど」
『スパルタにも程がありますやん!?』
トラルーの補足に、一気に青ざめたスターとイテンちゃんから同時にツッコミが出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くっそ、完全に不意を突かれた。
こっちのエネルゴンセイバーを受け流し、その勢いで一気に反転してなずなの槍も受け流した。
それだけじゃなく、なずなの槍を受け流した時に大剣の切っ先を正面側に向けて、反撃に転じたんだ。
はたから見れば、レルネがこっちの斬撃を受けて回転したくらいにしか見えないけど、
受け流すだけじゃなくて反撃にもなるってんだから、冗談抜きにどんだけ鍛えられてきたんだよオイ!?
……あれ、確かアイツ、「トラルーたまからの奥義」とか言ってたよな……そういえばトラルーもそんな感じだったぁぁ!!
ていうか、直々に修業つけてりゃそうもなるよな!オレのバカバカ!!
《ど、どうするよクレア!接近戦じゃ向こうに分がある!》
「そうみたいだね……だったら!これでどう!?」
一方で、離れてもらっていたクレア。イリアスからの言葉には同意してるけど、既に策アリって感じだ。
でも、目の前に浮かせてるあの岩で、どうする…?
《隙だらけだぜ…!》
「ジャンク屋君!!」
まるで狙撃主みたいな構えをとり、岩にかざす右の手のひらに力をためて、炸裂させて撃ちだした。
なるほど、銃弾みたいに、遠距離から物理的に大きなダメージを狙ったワケか!
銃弾サイズの岩がオーラをまとって勢いよくレルネの方へ飛んでいく。一方のレルネも大剣を構えなおすが…遅い!
見事にレルネの脇腹部分に直撃。クロスディメンジャーの防御力は未知数だが、ダメージにはなっただろ…!
《……何ともないではないか、愚か者めが》
「あ、あの……何か当たりました?」
って、かすり傷すらナシかよっ!?
「ウソだろ!?」
「効かない!?」
侑斗もなずなもこれには唖然。驚きの声を隠せない。
だって、フツーならムチャクチャ痛いだろアレ!?
「……直撃だったのに…っ!!」
一方で、当のクレア本人が一番ショックなのも当然。
だって、あの人もあの人なりに一生懸命に修業してるのに、その成果がアレじゃあ…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「気を取り直して……ちぇりゅあーっ!!」
僕の一撃を受けても何事もなかったかのように、レルネは大剣を地面に叩きつける。
それによって発生した突風が、前にいたジン君となずなさんをまとめて遠くの廃屋の壁まで吹き飛ばす。
こらえきれなかったこともあって、二人ともまともに壁に叩きつけられた。
二人の前に、レルネが余裕の足取りで迫り、大剣の切っ先を向ける。
……僕だけバトルについていけない…。
……っ!! ま、まさか…!
別に、今ここで攻撃が通じなかったことだけじゃない。
スターセイバー攻防戦の際、せっかく決めたグランドクェイクがあまり通じてなかった。
それに、初めてジン君たちと会ったあの時だって、ハルピュイアやレヴィアタンを相手に全然歯が立たなかった。
少なくとも戦果的に考えれば、お世辞にもジン君たちと一緒に戦っていけるような実力とはいえない。
…………今の僕じゃ、これからの戦いにはついていくことすらできない…っ!
《ク、クレア…》
イリアスが不安そうな声を漏らす中、僕は知らない内に拳を握りしめていた。
今の僕のレベルが周りの平均よりも下なんだってことが、あまりにも悔しくて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
侑斗の方は全てファングになったスコールピオへの対応で忙殺されてる…。
なずなは立て直すまでにもう少しかかりそうだし、ここはオレが。
改めてエネルゴンセイバーを構えなおし――
「おぉぉぉっ!!」
《くるか、小童めが》
一気に突撃。
至近距離まで飛び込んで、エネルゴンセイバーを振るう。
右袈裟、左袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ……ダメだ、全部あの大剣で止められる。
それに、最後の左薙ぎの時に向こうも薙ぎ払ってきて、ぶつかり合った結果お互いに吹っ飛ばされる。
くそっ、なんて強さだ!
「今から我がオタ道スピリッツの、真髄を見せてさしあげますよ!
サーチ!!」
「《エボリューション!!》」
レルネとクロスディメンジャーの声に反応して現れたのは、パートナーマイクロンか?
2門のビーム砲を備えた、4輪タイプの装甲車。色は、メタリックホワイトに赤と青がメインか。
アイツ、マイクロンまで持ってるのかよ。
サーチと呼ばれたあの装甲車型マイクロンは、レルネの背中に当たるスラスター部分にエボリューション。
装甲の一部がラインに沿って展開される。パワーが上昇してることからすると、トランステクターのフルドライブモードみたいなものか…!?
「超必殺奥義!
炎の天空イナズマファイナル無双、ビッグバン円月、パァーンチ!!」
《アタックファンクション・カスケードカリバー!!》
レルネのセリフの後にわざわざクロスディメンジャーが付け加えるけど、
なんで後付されたヤツの方が正式名称っぽいんだろうな?
とか言ってる場合じゃない。
エボリューションによって高められたエネルギーが、レルネが正面に構えた大剣に流れ込んでいく。
可動部に当たると思われる部分の丸いパーツが下から順に発光、エネルギーがどんどん切っ先の方へと集まっていく。
切っ先に極限まで集められたエネルギーが、一気に爆発してまるで滝のように一直線にオレやなずなに襲い掛かってきて――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おぁーっと!レルネ&クロスディメンジャーの必殺技が炸裂!
凄まじい滝のようなエネルギー波をくらったジンたちは大丈夫なのかぁー!?」
スターさんの実況が響き渡る中、フィールドには煙が立ち込めるばかり。
これじゃよく分からない…。
「お兄ちゃん、これどうなるの…?」
「いくらなんでも、あんなのが直撃なんかしたら…!」
バドやローリも気になるのは分かる。けど、僕だって分からないんだ。
ターゲットから外れてたゼロノスとかいう人はともかく……って、あれ?
そういえば、クレアさんは…?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヌンチャクデバイスの相手しかできない内に、とんでもないことになりやがった。
向こうの必殺技が発動して、そのエネルギー波をフレイホークと雷道がくらった形だ。
爆発による煙がひどくて、詳しくは分からないが……直撃なら、まず確実にリタイアになるぞ…!
あんな攻撃、アルタイルフォームは勿論、デネブのパワーも借りられるベガフォームでも耐えられるかどうか…。
「トラルーたま〜!勝利のハグハグをしてほしいのですよ〜!」
《ぶふっ!?》
《御大将には至極のご褒美なのです、一番師匠!》
当の攻撃の主であるレルネは既に勝利ムードだ。
アイツの声に、向こうでトラルーが思いっきり吹いた。けど、気にしてやる余裕はない。
まだ、オレたちの相手が残ってる筈なんだが…。
…………そういえば、ランスロットはどうした…?
《レルネが、早くもトラルーにご褒美を要求しております!》
《ご褒美いうな。ていうかレルネ、勝利を確信するにはまだ早いんじゃないの?》
「ふぇ?」
スターの言葉にツッコみつつ、レルネに注意を促すトラルー。
そうさ、まだ相手は残ってるってことを忘れてもらっちゃ困る。
ランスロットが見当たらないが。
《おっと、先ほどのカスケードカリバーによる一撃で生じた煙が晴れていきます……おぉ!?》
『クレア!?』
煙が晴れて、見えたのは……ランスロットだ。
ただし、フレイホークや雷道よりも前にいて、2人をかばうように両手を広げてる。それに、全身にダメージの跡が見える。
……まさかアイツ、自分ひとりでエネルギー波を防ぐ盾になった…!?
「今の僕にできるのは、これくらいしか、ないから…」
《わりぃ、あたしらはリタイアだ…》
融合も解けて、前のめりに倒れこむランスロット。
無理もない、複数の相手をまとめて撃墜できるほどの攻撃を一身で受けたんだ。
防御技すらできずにくらったんじゃ、耐えられるワケがない…!
「うっ、うっ、うわぁぁぁぁん!
自らを犠牲にして仲間を守るなんて、なんと美しい志でしょう!
これぞオタ道スピリッツの極みの1つですよきっとぉぉ!」
《泣かせてくれるではないか…!》
一方で、なんかレルネが号泣し始めた。おいおい、なにも泣くか…?
「しかし、トラルーたまはこうも言いました、"勝負の世界は非情である"と!」
とか思ったらすぐ泣き止んで、フレイホークと雷道めがけて走り出した。
まずい、この位置からじゃ牽制できない!
「決めさせていただきますよぉぉ!!」
両手で握りしめた大剣を振り上げ、フレイホークたちを吹き飛ばそうと振り下ろ――
ガゴンッ
止まった。
……いやいやいやいや!なんでだよ!戦況的にいえばうれしいけどさ!
《おぉっと!?レルネが突然停止したぁ!どういうことだ!?》
「おや、何故に動かないのでしょう?」
突然の停止に、レルネ本人も含め全員が唖然。
どういうことかと注意深く見てみるが……ん?
よく見てみると、ヤツのアーマーの一部に亀裂が…。
って、あそこは確か…!
《どうやら、完全に無駄骨とはならなかったようですね。
さっきのクレアの攻撃》
《これはミラクル!効いていないと思われたクレアの攻撃が、ここにきてレルネにとって痛手となったぁ!》
「ジン、さっきの攻撃、やっぱり効いてたのよ!」
「あぁ…!」
トラルーの解説で、全員が確信に至る。勿論、雷道やフレイホークも。
そうだ、ランスロットの岩石攻撃、アレは直撃していたし、全くダメージになってないワケじゃなかった。
おそらく、必殺技を撃った時の反動が響いて、亀裂が生じたんだろうな。
とにかく、反撃するなら今しかないな!
《Full Charge》
ゼロガッシャーをボウガンモードからサーベルモードに組み替え、ベルトのバックルにあるボタンを押す。
エネルギーを充填したカードを抜き取り、ゼロガッシャーのスロットに差し込む。
カードから刀身へ、充填されたエネルギーが移動。光り輝くゼロガッシャーを大きく振りかぶって……一閃!
「いぃ〜やぁ〜!!」
レルネの悲鳴が聞こえた気がするが、気にしない。
斬りつけた瞬間にバックステップで離れ、アイツに叩きこまれたエネルギーが大爆発。
直接斬りつけたからわかる、手ごたえありだ!
《ゼロノスの必殺技、スプレンデッドエンドが見事に炸裂ぅー!
派手な大爆発!これは完全に直撃だぁー!!》
《残念っ》
《無念っ》
《またいずれっ》
爆発の後、強制分離したのだろう、デバイストリオが次々と落っこちてくる。
その輪の中心には、ずいぶんと煤けてへたり込むレルネの姿。
「バトル、オールオーバー!バトル、オールオーバー!
ウィナー、チーム・ジン!!」
ギガントボムからの宣言が、オレたちの勝利を裏付けることになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なんとか勝ったな…。
一時はホントにボロ負けするハメになるかとも思ったけどな。
パルスたちも、ご苦労さん。
《しかし、こうも短期間に合体を繰り返すことになるとは。
お嬢たちの世界に渦巻く混沌、深い気がする》
《考えすぎだって〜。今回はセ・パ交流戦みたいなモンだしさ〜》
「なんでたとえ話が野球になるのよ」
《ビームのたとえ話は妙にずれるからねー。深く考えると心労で倒れるよ》
分離するなりしてくれたリアクション、レーザーはなんかオーバーだし、ビームはどっかズレてるし、なんだかなぁ。
なずなじゃないにしろ、誰かがパルスの心配通りに心労で倒れたりしなきゃいいんだけど。
交流戦って部分は合ってるから、妙にタチが悪いっていうか。
「ったく、なんか調子狂うな、コイツら」
侑斗、それオレも思ってる。
「うわぁぁ〜ん!トラルーたま〜、ボク、負けちゃいましたぁぁ!ぅあぁぁぁ〜!!」
一方で、負けたせいか大泣きしてるレルネ。
何もそこまで泣かなくても…。感じなくてもいい筈の罪悪感を感じちゃうからやめてくれマジで。
というワケでトラルー、この子のなだめ役よろしく。
「はいはい、いい子いい子」
「あっ、いいな〜いいな〜!私もあんな風に撫でられたいな〜!」
……撫でるんだ…。なんかイテンがライバル心燃やしてるけど、大丈夫かアレ?
「まぁ、別に恋路とかとは別問題だから大丈夫だろ…。
レルネ、一応男だしな」
「精神年齢が非常に低い、っていうのは気のせいじゃなさそうでおじゃるね」
話によるとレルネの師匠の1人らしいスターがいうなら大丈夫……だと思おう。
あと、ビコナの指摘は多分マジだと思う。
……さて、と。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《なぁクレア、元気出そうぜ。
別に、今回負けたからって次も勝てないワケじゃないだろ?》
イリアスはそういってくれるけど、どうにもなぁ…。
前のイマジンとの戦いだって、エネルゴンセイバーがあるから一気に勝てた。
他の戦いの時だって、いつも他の誰かに守られてばかりな気がする。
移民船団の中でのバトルじゃ、もっとうまく戦えてたのになぁ…。
「クレア」
ジン君…。
「落ち込む必要なんて、ないと思うけどな。
今回レルネに勝てたのは、クレアとイリアスが叩き込んだ攻撃のおかげみたいなものだし」
でも、ダメージが現れるのがあと少し遅かったら、ジン君たちは撃墜されてたかもしれない。
それに、あのダメージの出方だって、きっと必殺技の反動に耐えきれなくなったから、って感じ。
もっと反動を抑える攻撃をしてたら、あんな亀裂が生じることなく試合は終わってたかもしれないんだよ。
その程度のダメージじゃ、ダメなんだ…。
「……今回は相当重傷だな…」
《ま、まぁ、真っ向からやってあの結果だったからなぁ…》
イリアスと融合した僕は、"大地の守り手"なのに…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レルネが泣き止むまでに数分。
トラルーからのナデナデで少しは機嫌が直ったか、立ち直ったレルネは自分用のコンソールに向かい始めた。
……うらやましいなぁ…。イテンちゃんはうらやましいよ。
「それでは、改めて皆様からの依頼に対応していきます。
まず、ゼロライナーのメンテですけど…」
「そっちはオレが対応する。レルネは残り2件を頼む」
「分かりました」
立ち直れば仕事人モード突入。ゼロライナーのメンテは、ギガントボムが直接対応。
時の電車のパーツって、どういうテクノロジーでできてるんだろうねぇ?
デネブが一緒についてったのは、多分その辺のこともあるのかな?
「では、残り2件……レリックケースについてと、クレアさんのSFジェットですね」
「SFジェットはこれから解析してもらうとして、ケースについては何か分かった?」
「取りあえず、基本的なシステムは全て正常。目立った機能不全とかはありませんね」
レルネとトラルーのやり取りって、スムーズだなぁ。
まぁ、ここは仕事人と依頼人って立場のせいかもしれないけれど。
とはいえ、ケースは正常なんだ。
じゃあ、中身のレリックはどうなっちゃったんだろ。
研究プラント襲撃時には既になくなってたらしいんだけど。
「そうかそうか。じゃあレルネ、ちょいと継ぎ足しで頼みがある」
「トラルーたまの頼みでしたら♪」
「そのレリックケース、トランステクターとして起動させてほしいんだ」
……え?
一応、レリックケースとトランステクターについては聞いてる。
ケースってのは待機状態で、データをスキャニングして取り込むことで機動兵器トランステクターとなる。
本来はレリックを守るための自立システムらしいんだけど、柾木一門のタイプとかは手動でスキャニング、調整したものが殆ど。
それなら、この2つもそうやって…ってことか。
でもさ、トランステクターにしたらしたで、誰が使うの?
「それは後のお楽しみさ……く〜っくっくっく」
あの、どこぞやの電波系黄色ケロン人みたいな手と笑いはやめてくれない?
妙に不気味だから。
「そういうワケで、レリックケースについては一旦おしまい。
SFジェットの解析も、早速頼みたいところなんだけど」
あ、何気ないノリで切り上げた。
まぁ、トランステクターにするには時間がかかるらしいし、あーだこーだ言ってても仕方ないか。
「そうですねぇ、手始めにシステム系統を解析した方がいいと思うので、
データチップか何かがあるならそれを経由してアクセスしたいところですけど…」
「なら、コックピットの端末に外部アクセス用の端子があるから、それをつなげばいいよ」
システム系統を解析すれば、機体の情報はあらかた手に入る。
物理的な仕組みの解析は、その情報を手に入れてから……ってことでいいのかな。
イテンちゃんにはさっぱり分からないけどさっ。
クレアが示すとおりにアクセス用と思われるコードを接続。すると、コンソール上部のウインドウに映像が出る。
……イテンちゃんにはもうお手上げです。こーゆーのは苦手だよぅ。
「解析する関係で、ブラックボックス内部のデータも見させてもらいますけど、よろしいですか?」
「えっ、うん、僕が見れるならそれはかまわないけど…」
…?
ねぇ、ブラックボックスって何?
「簡単に言えば、中に何があるのか分からない箱みたいなものさ。
外部からのスキャンやアクセスを受け付けず、そのせいで中にあるデータがどんなものか全く分からない。
紙に書いた文字を真っ黒に塗り潰したら、下に何が書いてあったか分からないだろ?
ブラックボックスっていうのは、そういう状態になってるデータやその集合体のことをいうんだ」
スターからの解説で、イテンちゃん納得。
真っ黒に塗り潰して隠しちゃってるデータってことなんだね?
「そういうこと。大抵、ブラックボックスになってるデータは重要機密とかだったりする。
つまり、ブラックボックスの中身を見るってことは、データを作った人物にとって重要なデータを見ることになる」
「人の交換日記を盗み見る感じかな?」
「……あー、うん、見られたくないものではあるよな、うん」
スターの解説に、バドが反応。
でもさ、スターが反応に困ってるよ?
確かに、交換日記は見られたくないよねぇ…。
もしトラルーと交換日記やってたりしたら…………きゃっ。
「……かえってこーい、そこの水色乙女ー」
……はわわわわっ!?
あっぶなー、スターがツッコまなかったら、妄想したまま路頭を彷徨うところだったよ…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
では、始めましょうか。トラルーたまにご褒美してもらうためにも!!
「ぶふぉぁっ!?」
「なぁ、なんでトラルーはこの手のセリフが出るたびに吹くんだよ」
「基本的に、レルネやアイツのデバイスたちへの褒美って金銭的な意味で高くつくんだよ。
そりゃあもう、ひどい時にはトラルーが金欠になるくらいの勢いでな」
「マジか…」
ジンさん、結構鋭いところつきますね。
スターたまから補足ありましたけど、楽しむ内にお高くなるから、滅多にしてもらえないんです。
トラルーたまに泣かれたくないですしねー。
それはともかく、始めますよ。
SFジェットのシステムのブラックボックスに、ハッキング開始です!
「ハッキング!?」
「まぁ、暗号化されているならそれを解読しなきゃならないが、手がかりはゼロだからな。
手っ取り早く中身を見るには、ハッキングしてシステム側から暗号化を解除するしかない」
クレアさん、心配ご無用ですよ。
スターたまの言うとおり、手がかりがあるなら暗号打ち込めば済む話ですけどね。
今回はそうもいかないので、ハッキングという荒療治でいかせていただきます。
あぁもちろん、システム自体に傷をつけたりはしませんから安心してくださいな。
せっかく中身が分かっても、SFジェットのシステムを使わないと意味がないシロモノだったりしたら元も子もないですから。
それでは……いざ尋常に、システムハッキング開始です!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ちぇりゅらりゃりゃりゃりゃ…!」
信じられないスピードのブラインドタッチを披露し、
SFジェットのシステムにアクセスしつつハッキングするレルネ。
ハッキングは、ふつうにアクセスするよりも当然ながら膨大な情報を入力する必要がある。
システムを守るファイヤーウォールとかってのは、かなり膨大なデータ量で構築された自動警備システムみたいなもの。
それを攻略するには、その更に数倍から数十倍のデータを送り込んで、向こうのシステムをマヒもしくは破壊するしかない。
となると、必然的にタイピング…打ち込むスピードは常人の数倍以上は必要になる。
先天的センスとかもあるかもしれないが、素人がおいそれとできる芸当じゃないのは確かだ。
技術屋といっても、その形態は様々だ。
機械屋、土木屋、電気屋、その他いろいろ…。
それらの中でもレルネは、データやプログラムから何かを作り上げる、システムエンジニアとしての側面が強い。
これはさすがに、ギガントボムが直々に修業させている間に分かったことなんだけどな。
確かに、設計図もなしに鳩時計を作ったって話には驚いた。
だがそれ以上に、素人にはチンプンカンプンな高精度プログラムを、アイツは意のままに改良して、デバイスにしてしまった。
その基礎から更に幾度となくチューンナップやアップグレードを繰り返した末の自信作が、あのクロスディメンジャー。
デバイスも、元をたどればプログラムだ。
そのプログラムを意のままに操るレルネなら、ハンドメイド・デバイスを作るなんて今じゃたやすいことさ。
で、自力でデバイスを作り上げられるほどの腕なら、ハッキングの1つも朝飯前。
そしてレルネは、そのハッキングにおいても天性の技能を発揮。
名だたるハッカー集団をも手玉に取るほどの、スーパーハッカーとしての一面も持った。
もちろん、ギガントボムからの教育もあってのことではあるんだけどな?
「むむむぅ〜、多重認証システムに自動暗号改変プログラムとは、なんと強固なプロテクトでしょう!」
まぁ、だからといって全てが楽勝ってワケでもない。
しかしこのSFジェット、システムにずいぶんと厳重なプロテクトをかけてあるようだが、誰が作ったんだかな。
「あ、ジェットについては僕が作ったんだけど、システムについては分からないんだ」
「OSとかまでは手が届かなかったから、クレアの家に保管されてたシステムボックスをそのまま利用してるんだよ」
クレアとイリアスから補足。
機体はクレアが、システムは他の誰かがってことか。
彼女の家にあったってことは、おそらく家系の者であるか、親戚である可能性が高いが…断言は無理だな。
《一番師匠、御大将にエールを送ってくだせぇ》
「えぇー、しょうがないな…」
……クロス・アインがトラルーに何か頼んでるみたいだが…。
「……レルネェ、ファイト一発ファイヤだぁ!」
「はいぃぃ!!頑張りますよトラルーたまぁぁぁ!!」
「……オォウ…」
……トラルーに応援してもらいたかったのか。
さすがに兄貴分として見てる(と思われる)トラルーからの声援だと、張り切るんだよなーアイツ。
張り切りすぎて、トラルーが圧倒されてるけど。
「ダミーウイルスをばらまいてシステムを混乱させ、
一気にレルネ式自問自答モードに誘導して認証システムを細切れにしてくれるわぁぁ!!」
……ん?
「侵略の花火もとい、閲覧のマスターパスだよ、かわせるかなコレをぉ!
いくぞぉ!神の世界という名の終末への引導を渡してやる!」
……なんか変だな?
「ふはははは!人呼んで神出鬼没の鬼畜ハッカー・レルネに、勝てるわきゃねぇだろぉぉ!!!」
…………なんでだろうな?
今のレルネの近くに、ガンダム界の御大将とかムーンレイスのターンX使いとかの面影が見える…。
……ちなみに補足。
今レルネが向かい合ってるコンソールには、ビークルモードのサーチが合体してる。
ソナーと同等の探知能力と超高度な分析能力を併せ持つサーチを合体させることで、処理速度とかを向上させてるんだろう。
しかし、いつの間にマイクロンを手に入れてたんだろうな。
「ふふふ……もう少しでこじ開けられそうですよ……!
そしてトラルーたまからご褒美を……!」
「今は言っちゃダメぇぇ!?それ失敗フラグぅぅ!!」
レルネがつぶやいた言葉に割と切実なツッコミを入れるトラルー。
アイツはアイツで大変だな…。
「レルネ流ハッキング最終奥義……シャイ○ング○ィンガー!!」
いろんな意味でマズイ名前なのは、取りあえずほっといた方がいいんだろうな。
フラグ跳ね返して、システムのプロテクト解除しちゃったし。
なんか出てきたな。
「これって…」
「……何かの設計図、でおじゃるか?」
「設計図…?」
思わずつぶやくイテン。
オレも、ビコナの言うとおり何かの設計図だと思う。
ずいぶんと精密な書かれ方してて、パッと見じゃ設計図というより断面図とかにしか見えないけどな。
クレア、お前が一番茫然としててどうするんだよ。
「これが……あのブラックボックスに入ってたデータ…。
でも、どうして設計図なんかがあのSFジェットの中に…?」
まぁ、クレアが茫然としたままなのも無理はないかもな。
何しろ、今表示されてるあの設計図にあるデータ、見た感じSFジェットとは関係なさそうなんだよな。
見た感じ、ロボットか何か……それと、多数の追加モジュール。
ただ、変な部分もある。ロボットと……人か?それが重なるような絵も見られる。
他にも気になる部分はいろいろあるが……。
「どう、レルネ?もう少し詳しく分析できる?」
「ブラックボックスよりも更に奥のプロテクトまではないみたいですから、
少し時間をいただければ詳しく調べられますよ。サーチもいますしね。
でも、この設計図はホントにすごいですよ」
トラルーからの問いに、余裕な表情で答えるレルネ。
けど、何がすごいんだ?
「ブラックボックス化解除と同時に出てきたデータに最終的な改訂が行われた日付があったのですが、
この設計図……かなり年季の入ったシロモノのようです。
しかしながら、その構造やまとめ具合は、現代のデバイスの設計図をも凌駕しかねないハイテクノロジーの塊ですね」
マジか。どれどれ……確かに、ずいぶんと年季の入ったことで…。
何しろ、この日付は今からざっと十年以上も前のものだ。
昨今の技術力の向上っぷりから見ても、十年以上も昔となるとおそろしいくらいの性能差が出そうなもの。
なのに、レルネいわく現代のデバイスすらも上回るハイテクっぷりらしい。
……クレア本人からの話じゃ、祖父が機械屋だったっつーだけなんだけどな?
(第17話に続く)
<次回の「とたきま」は!>
クレア「僕が作ったジェットから、全然知らない設計図が出るなんて…」
レルネ「本当にあの設計図について心当たりはないのですか?」
イリアス「まぁ、あったら苦労しないよな」
レルネ「……こうなったら、いけるところまでいってやりましょうかねぇ……?フフフ……」
トラルー「あ、レルネのオタ道スピリッツに火がついた」
第17話:葛藤と逆襲と「初めて」の名前
あとがき
VSレルネ&クロスディメンジャーの戦いに持ってかれた感じもありますが、新たな伏線が出た第16話です。
クロスディメンジャーと武器のユニオンカリバーの元ネタはダンボール戦機のパーフェクトZX3とユニオンソード。
レルネの言動にも、同系列のネタが大いに絡んでいたり。
さり気なく、実力的な面から精神的に追い詰められ始めてるクレア。
次回は彼女が頑張るお話。マイクロンパネル争奪戦も再びです。
ただし、ジャンク屋の方と同時進行で、ある場所でも一波乱あったりします。
まぁ次回のタイトルから予想できるかな…?
最後に、レルネのハッキング中の豹変ぶりですが……まぁ、御大将つながりってことで(ぁ)
管理人感想
放浪人テンクウさんからいただきました!
自らの力不足を痛感し始めたクレア嬢。
つまりパワーアップフラグですね。元々戦闘向きのスキル持ってないから、新技よりは新武装が向いてるかな……?
そしてジンとのフラグも進行と。なずなよ、これはうかうかしてられないぞ(ニヤニヤ)。
そしてデネブの持ちネタが豊富だ。やっぱり中の人の経験値の差か(きっと違う)。
一方の侑斗はガンダムをよく見てるようで。『とコ電』におけるガンダムネタは彼担当で確定か?