レルネ「毎度おなじみ、『レギュラーメンバーのドコナニ』でーす!」


 プロト《第2クールも遂にクライマックス、その前に前回のおさらいと参りましょう!》


 レルネ「主だった動きは以下の通りです」








 1:ゴッドアイズとアストラルの戦闘エリアに月影丸が乱入。

   置き土産の河童魔化魍軍団を倒す。


 2:ビコナの尋問中、トラルーがスリアに拉致される。

   一部メンバーの欲望が暴走する中、スリアはリティら突入組により御用となる。


 3:プレダコンズのユニゾンデバイス集団"ディフィカルター12"が全員ロールアウト。

   一部メンバーはアストロブラスター確保の任務を受ける。


 4:月影丸がグラティを連れて機動六課に合流。

   これにより、リティたちコアメダル組はほぼ全員機動六課に集結。












 プロト《さて、今回は水平展開という仕様のお話みたいですね》


 レルネ「"アレス"を控えての騒動となる現在と、ビコナたまと月影丸たまが主役な過去。

     そして、この『とたきま』でも遂にあのお姫様が!」


 プロト《それでは、第24話をどうぞ!》


 レルネ「あー!またそうやってちゃっかり僕のセリフをぉぉ!」





































































 「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






 「とある旅人の気まぐれな日常」






  第24話:開幕目前と戸惑いと月光の姫君




















































































 ふぁ〜あ、よく寝たなー。


 さすがにリペア中はぐっすりだよなー。


 メンテはすぐに終わるしな。















 《なぁフェンリル、俺たちって、人間なのかな?機械なのかな?》


 《は?》


 《オーディーン、帰ってきなさい》


 《今、何を見失ったのかしら》



















 戸惑うオレを尻目にオーディーンの頭をポカポカするプロトさん。そこにパンドラがもっともな一言を。


 なぁ、思ったんだけど、何を血迷った?


 まさか、さっきのオレのアクビか!?


















 「バカやってないで、コンディションチェックしておけ。

  パーツ慣らしも兼ねて、機動六課のメンバーと模擬戦するんだろうが」


 《既にあなたたちも参加メンバーに入ってますから、遅刻厳禁ですよ》



















 あ、そっか。今日って"アレス"の前日だから、模擬戦するって言ってたんだよな。


 そこで機動六課側…というか、関係チームのチーム分けについても発表されるとか。


 基本的には馴染んでるメンツ同士で組み合わせたらしいけど、いくつかは意外というか、奇想天外な組み合わせもあるらしい。


 ……なんか怖いな。




















 《特にオレらって、パンドラとは違ってパートナー決まってないし…》


 《じゃあ、六課の誰かと一緒になるのかな》


 《私がクレアと一緒になる、っていうなら、その可能性は高いでしょうね》


 《なんにせよ、メンバーは模擬戦開始前までわかりません》


 「オレとプロトも技術スタッフとして呼ばれてるからな、一緒に六課へ行くぞ」























 オレ、オーディーン、パンドラの順。オレとオーディーンは、まだパートナーがいない。それだけが心残りかな。


 まぁそれはそれだ。プロトさんとギガントボムさんに促されて、オレたちはメンテ終了報告も兼ねて機動六課へ向かうことになった。









 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










 やれやれ、オレも遂に有名人ってか?


 オレの名はスティア。服装は、半袖短パン一体型の黒いボディスーツと赤い縁取りがある半袖ジャケット、両腰のマルチボックスのみ。


 ボディスーツは、腕は肘より少し上まで、足は膝の半分くらいまでを包むタイプ。マルチボックスは腰に直接巻いているベルトのスロットに装着。


 コバルトグリーンの瞳に、丸みを帯びつつもツンツンしたワインレッドのショートヘアー。ジャケットの留め金は六角形でクリアグリーンのクリスタル。


 それはともかく、オレはアーツバトル連盟に登録済みのファイターだ。それで修業中の海岸で偶然にもアポロたちと出会ってからはさぁ大変。


 まぁ追いかけられる理由はやっぱ、機動六課関係者を助ける為にアストロブラスターを持ち出したのが原因だろうが…。


 それにしたってな……














 「数が多いんだっつーの!!」


















 恨みの感情もこもったシャウト1発、それと同時にばら撒いた散弾銃でヤツらを1ヶ所に後退させる。


 ったく、プレダコンズ…だっけ?妙な連中を差し向けてくれたもんだ。


 今回の追手が、4人ともユニゾンデバイスだってこと。それが妙だ。


















 「ダークコマンダー様の命令だ、さっさとアストロブラスターをオレ様たちによこしやがれ!」


 「それさえ叶えば、私たちがあなたに危害を加えることはないと約束するわ」


 「我らプレダコンズにとって、アストロブラスターはノドから手が出るほど欲しい一品なのだ」


 「というワケで、おとなしくアタシらの言うこと聞いてくれ、な?」

























 金髪ショートヘアーにエッジがついたヘッドギア、黒いライダースーツに炎みたいなペイントがあるジャケットを身につけたオレ様口調の男。


 丸みのある白い髪、×を描く感じで胸部〜腹部を覆うベルトらしきものとスカートが特徴的な女の子。


 直線的な黒のショートヘアー、長袖ジャンバーにヒザまで伸びた短パン、動物の毛皮を頭からかぶっていて、それ自体がコートみたいになってる男。


 後頭部から伸びる分とうなじ辺りで束ねられてなびくクリーム色のロングヘアー、腕だけ露出した黒のボディスーツと黄色と黒のベストを纏う女。





 そっちからケンカふっかけておいて、あたかも下手に出ているかのような発言。


 アイツら、4対1だからって調子乗ってないか?
























 「……ここにない、と言ったら?」




















 <アクセル>


 <ファング>



















 オレ様口調男とロングヘアー女がアビリメモリを起動。


 前者は両腕にバイクの車輪を模した武器を出し、同様のプロテクターを肘と膝に装備。


 後者は両手に鋭い爪を3枚備えたナックルを両手に1つずつ装備した。


 アビリメモリで武装を呼び出す……メモリとリンクしている連中か!






















 「俊鹿霊しゅんかれいのケリュネイア、ぶっちぎるぜ!」


 「獰獅子霊どうししれいのネメア、突き進む!」























 残り二人は動きを見せない。


 アビリメモリは何も全てが戦闘向けであるワケじゃない。おそらく、サポート系のスキルを宿すタイプだろうな。


 もしくは、何かしらの理由で封印されているか。


 ともかく、だ……。


























 「どうせ非殺傷設定ぐらいかかってるんだろ?

  だったらいっそ、殺すつもりで攻めてみやがれやぁっ!!」










 《アタックファンクション・ガトリングバレット》
















 両腰にあるマルチボックス、これはチップスロットを兼用している。


 そのスロットの内、右腰の方にスピーディアのフォースチップをイグニッション。


 同時に、瞬時に転送装着したオレ専用ナックル"バーンメルト"にパワーが宿る。






 スピード特化型なのか、まずケリュネイアとかいうヤツが突っ込んでくる。


 複数の相手と戦う時、攻撃は一点集中で叩き込むのが手っ取り早い。なので、遠慮なくケリュネイアに全弾ぶち込む。


 パワーが宿って発光するバーンメルトを握りしめ、左右のパンチの雨あられ。


 猛スピードだった故に方向転換がきかず、全弾クリーンヒット。トドメのアッパーで豪快にぶっ飛んだ。ざまぁみろ。









 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 みなさん、しばらくぶりです。フェンリルです。


 オレは今、目の前の光景にひっじょーに戸惑っています。


 オーディーンも目がテンになってるし、プロトさんもボーゼン。


 とりあえず、ギガントボムさんでもパンドラでもいいから説明してくれマジで。
















 「そうやっておどれはまたトラブルを持ち込んで〜!!」


 「にゃあああああ!?恭文、グリグリの刑は堪忍じゃあ〜!!」

















 なんで恭文が小さな女の子の頭をグリグリしてんですか。
















 「あの子、万蟲姫っていうんだけどさ、

  恭文にとっては平穏を乱す文字通りの火種でしかないからなぁ」


 《ついさっきも、今度はファンガイアに狙われただのなんだので恭文さんの元へ駆け込み、

  運悪くフェイトさんとの密着デートの出だしだったところに出くわして…》


 《デートぶち壊されてあぁなった、か…》




















 トラルーとイグナイテッドの説明で納得するオレ。


 ファンガイアってアレだよな、あのコウモリモチーフな仮面ライダーの敵だ。


 ネガショッカーに加わってるって話だし、別に聞き慣れない名前じゃない。


 あと、万蟲姫ってあの子のことだったのな。





















 「しっかし、万蟲姫もよくもまぁ懲りずに恭文に接近するよな」


 「愛」


 「いや、オレにはとてもじゃないがドMなお子ちゃまにしか見えない」






















 別な方ではスターが一言。


 そこにノーザン…だっけ。あの子がコメントするけど、オレもスターの意見に一票。


 話で聞く限りじゃ、以前もイマジン騒ぎであのグリグリの刑をかまされてるらしいからな。
























 「わー、小っちゃいね。

  強そうな外見だけど、こんなに小っちゃいとかわいく見えるね」


 「しかし、飼い犬に手をかまれるなんて言葉もある。

  せいぜい気をつけることだな」























 で、未だに唖然茫然なオレらを見やり、メープルってイマジンとピータロスってイマジンが口々に言う。


 ところでさピータロス。



















 「なんだ?」


 《今の飼い犬になんたらって言葉さ、もしかしてオレのこと言ってる?》


 「しかし貴様、犬型だろう?」


 「うーん、名前的に狼だと思うんだけど…」


 「似たようなものだ」


















 狼で通してくれ。頼むから。


 名前的にそうしてくれないとカッコ悪いから。


 オーディーンももう少し踏ん張ってくれよ。微妙にピータロスに納得しないでさ。


















 《それ以前に、言葉の用法として間違っていると思うのだけど》


 《確かに》


 「比喩表現みたいなものだったのだが」


 「ピーちゃんもまだまだやねー」


 「貴様のネーミングセンスに比べればマシだろうが」


 《《《確かに…》》》



















 パンドラからのツッコミに苦笑するピータロス。


 そこに割って入ってきた、いぶきって子への彼のツッコミに、


 オレとオーディーンとパンドラは思わずうなずいていた。


 いや、何をどうしたらワニモチーフのイマジンにピーちゃんなんて名づけるんだか…。






















 「で、要件はファンガイアだけ?だったらさっさと帰ってよ。

  こちとらおどれと違って忙しいんだから」


 「恭文、わらわをそんなぞんざいに扱うのかえ!?」


 「現在進行形で恭文のストレスの原因になってるんだ。

  ぞんざいに扱われない方が不思議だというものだ」


 「なのは殿と当たることを避ける為という理由で、

  フェイト殿とデートという名のサボリにいそしもうとしていることの何が忙しいのでござるか」


 「んなぁぁぁぁぁぁっ!?」


 「……恭文くん……少し、お話しよっか」


 「いぃやぁぁぁぁぁっ!?」


 《ミスタ月影丸、まさかまだ隠密デバガメを…》


 「いや、今回は偶然見かけただけでござる」


 「私は一切無関係でおじゃるよー!」






















 本題そっちのけでカオスだな。


 まず万蟲姫が恭文にぞんざいに扱われて、


 その恭文がデートという名目で模擬戦から逃げようとして、


 なのはさんが恭文をとっ捕まえてどっか連れてって、


 オメガからの質問に月影丸とビコナが答えて…。






 なんなんだ、この職場。



















 「ぶっちゃけ、空気だけでいえば職場として機能しているかどうかさえ実に疑問だけどね」


 《えぇー…》





















 トラルー、それだけは言っちゃいけないんだとオレは思うぞ。


 オーディーンのため息交じりな声から察してくれ。




















 「でも実際、毎日のようにこんなカオスな光景だしねー」


 「メンバーが増えるごとにどんどんカオスになってって、おもしろいジャン」


 「空気は明るい方がいいもんな!」


 「明るいとか、そういう以前の問題な気がするんだが」




















 トドメにガイア・サイバトロンが割って入ってきた。


 ラットルにチータス、ブレイクの言葉に、ライオコンボイだけが溜息。ごもっともだけどさ。






















 「さーて、準備運動の時間やな!」


 「いやキンちゃん、まだ開始の挨拶してないから」


 「ラジオ体操すんの?」


 「私もやらなければならないのか?……姫に睨まれたくない、参加しよう」


 「模擬戦ってのはまだかよオイ!?」


 「対戦相手はこの機動六課の中だ、逃げはしないから少し落ち着け」























 ……トドメって部分、撤回。まだ残ってたな、騒がしいのイマジンズが。












 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









 ……結局、出て行ってしまったな。


 少し口が多かったかな…。


 あぁ、なんでアレを示唆したことを言ってしまったんだろう。


 オーディーンたち…というより、創主レルネに迷惑をかけたりしなければいいが。


















 「どうしたのゼノン?」


 《ユーリプテルスか》
















 ……この子はこの子で、考えようによっては僕と似た境遇…。


 なんとかして、在るべき人ポラリスの元へ返してやりたいが…。

















 《いや、アストラルが1人で出かけてしまったから、

  道中で何か面倒なことに巻き込まれていないか、とね》


 「大丈夫だよ、アストラルってとっても強いんだよ?」


 《あぁ、それは僕も承知している》


















 しかし、アレを使ってのこととはいえ……痕跡を辿られるとマズイ。


 隠ぺい工作については考えてあるんだろうか、アストラルは…。























 「……ポラリス…」





















 ……?


 ユーリプテルス、今、何か…?











 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆















 装備と能力は大したモンだが、どうにもヌルいな。


 実戦経験が足りてない。アビリメモリ自体、比較的最近のテクノロジー。


 それにリンクするユニゾンデバイスなんて、ロールアウトしてからまだ1年と経っていない筈だ。


 さっきブッ飛ばしたケリュネイアにしたって、今こうして連撃の叩き合いしてるネメアだってそうだ。


 奥に控えてる二人についても、実戦経験はそんなになさそうだ。


















 「くっそ、起きろケリュネイア!

  できたてホヤホヤなアレやるぞ!」


 「つつ…アレだな、アレ。オレ様たちだけの連携攻撃」





















 しぶといな、すんなりと復帰してきやがったか。


 一旦後退したネメアとケリュネイアが合流。連携攻撃…何する気だ?






















 「こうすんだよ」


 <アクセル・マキシマムドライヴ>


 「いくぞ!」


 <ファング・ダブルドライヴ>





















 ダブルドライヴ?聞いたことないな…。


 ケリュネイアがマキシマムドライヴさせたアクセルメモリをネメアに渡して、


 端子部分を連結させてファングメモリもマキシマムドライヴ。

























 「オレ様のアクセルメモリには炎属性がある。そいつをファングにくっつけたのさ。名づけて…」


 ほむら崩し!!」

























 特性の重ねがけかよ!?


 高い瞬発力で一気に飛び込んできたネメアが、


 紅に輝くクローを思いっきり振りかざす。


 回避は間に合わない、仕方ないがガードだ。このバーンメルトの強度は伊達じゃ…



























 「その程度の強度で、この焔崩しに耐えられるかぁぁぁ!!」


 「だぁぁぁぁっ!?」
























 あ、あっぶねー!!


 一瞬でバーンメルトが嫌な感じで光り出したから放り出して離脱したら、案の定爆発したし!


 アレだってレアメタル素材で作られてるのに、一撃で爆砕しやがった!?


 マトモにくらったら即撃墜だろ!






















 「……ダブルドライヴ、動作に問題なしね」


 「だが、相性の問題はクリアできないままだ、過信は禁物だろう」






















 控え組が何か言ってるが……相性……あぁ、まだ全部のメモリがアレをできるってワケじゃないのか。


 炎と氷みたいな正反対の属性でダブルドライヴなんてやられたらどうなるやらな。


 それはともかく、バーンメルトは使えない。


 他の装備はオーバーホール中だし、"キルスティル"を使うしかないか…。


 ホントは"アレス"の本戦トーナメントまでとっておきたかったんだけどな?








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 さて、いつものよーにバカ姫がトラブル持ち込もうとしてるので、さっさと追い返そうか。


 横馬からも逃げたいし。


 うん、説教という名の砲撃地獄だけは避けたいのよマジで。










 「月影丸がモロバレした時点で、地獄の果てまでも追いかけられそうな気しかしないけどねー」


 「いや、追いかける前に射程距離の問題で撃ち落とされそうだ」


 《高町なのは様の最大射程距離は、おおよそで見ても数十キロはあるかと》


 《マジかよ……オレのホークアイドライブでも数キロが限度だっていうのに》


 《さすがは管理局の白い悪魔、とでも言っておきましょうか》














 トラルーもスターも、人の心をバラすな。


 そしてプロトとフェンリルは論点ズレてるから。問題そこじゃないから。

















 《そうだよ。問題は、万蟲姫を追いかけてきたファンガイアだろ?

  まだ野放しみたいだし…騒ぎが大きくならない内に倒すなり追い返すなりしないと》


 「そうそう、また六課隊舎周りでドンパチされたらたまったもんじゃないs」


 《そうやってなの姉から逃げようとしたって、もう遅いと思うよー?》


 《正真正銘の手遅れ、ですね》


















 ちょっとー!?


 せっかくオーディーンがナイスな天然ボケかましてるのを利用しようとしたのに、


 プリムラもジンジャーもいらない横槍入れないでよ!?


 マスターコンボイにレイジングハート取り上げられてフリーズしてるあの横馬が再起動しちゃうじゃないのさ!?

















 《エキサイトしているところを悪いのだけど……模擬戦の前に、片付けておかないといけない話題があるみたいよ?》


 「パンドラ?」


 「第一級非常事態ってヤツか?」





















 と、いきなりパンドラが持ちかけてきた。何を?新手の話題を。


 クレアさんとイリアスが口々に言う中、珍しく?シリアスなムードを醸し出しながら僕らに対してパンドラが話し始めた。





















 《今やってきたその子…確か、瘴魔軍の"蝿蜘苑ようちえん"のリーダーということでいいわよね?》


 「そうだよ、瘴魔軍のお姫様なんだよっ」


 《そこで、1つ思い出したのよ。創主レルネから教えられた、地球の昔話。

  でもこれは、イクトさんの方がいくらか詳しいんじゃないかしら。ねぇ、旧瘴魔軍の瘴魔神将の1人、イクトさん?》


 「……瘴魔と、徳川家の因縁…か?」


 《その通り。偶然かどうかはともかく、ここには世代を超えて役者が揃っているワケだし、確認だけはした方がいいんじゃないかって》

















 ……え、どゆこと?


 瘴魔軍と……徳川家?何の因縁があるっていうのさ?


 万蟲姫以上に胸を張って自慢げなメープルや疑問を隠せないイクトさんを尻目に、パンドラは腕組して僕らになおも語る。


















 《私のライブラリにある知識も、決して詳しいといえる領域ではないわ。

  ただ大昔、イクトさんや水の瘴魔神将であるザインなんかが現役でいた……つまり、ブレイカーたちと本格的に争ってた頃。

  ううん、それよりも更に昔、地球でいうところの江戸時代の頃から、瘴魔獣の一部は活動を開始してた。

  そして、暴れまわる瘴魔獣たちと対峙してきた、歴戦のツワモノたち。

  彼らはみんな、ある家紋を身に着けるもののどこかに付けていた…》


 「……間違いなく、家康殿たちのことでおじゃるね」


 「よもや、現代において生まれた者の中にも、そのことを知る者がいたとは」
















 ……とのことですが、実際のところはどうなんですか。


 特に、名前が挙がったイクトさんと、ブレイカー代表でジュンイチさん。





















 「……確かに、我ら瘴魔神将の先祖が、江戸時代にもいたとしても不思議ではないが…」


 「まぁ、イメージはしにくいよなぁ…」


 「しかし、直接家康殿から引き入れられただけに、徳川家の暗部はよく知っておる。

  その私から言わせてもらうと、江戸時代の頃から既に、人類と瘴魔の因縁が始まっているのは確実でおじゃる。

  実際に戦ったこともある、この私自らが保障するでおじゃるよ」


 「って、江戸時代の瘴魔と戦ったことあるの!?」


 「そんなヒラヒラなお姫様気取りアイドル風情が!?」


 「よぉし、そこの2人は今ここで成敗してくれるでおじゃるっ!!」


 「姫様、落ち着くでござるっ!」


 「ていうかボクは巻き添え!?」


 「リアクション的な意味で同罪でおじゃるっ!!」


 「ひぇぇぇぇっ!?」


















 イクトさんにジュンイチさんも、あまり実感は沸かないみたい。


 対してビコナは実感ありまくりみたいだけど……バカ2人メープルと万蟲姫が見事にぶち壊し。


 テンションが瞬間沸騰したビコナを月影丸が必死になだめ始める始末…。


 メープルはともかく、バカ姫については弁護する気も弁護のしようもないのでスルー。


 でもまぁ、この2人じゃないけど、個人的には信じがたいんだよね。ビコナが立派な戦闘要員だなんて。


 マッハたちを巡っての戦いで必殺技まで披露したから、嘘だとか言うつもりはないんだけど。
















 「えぇい、姫様に対する認識という意味で頭が高い!

  ここに立つお方をどなたと心得る!?徳川家の影の姫君、ビコナ様にあらせられるぞ!!」


 「はは〜っ」


 「月影丸、それってたぶん徳川違いだと思うよ?

  あとリュウタもノらなくていいから」

















 なんか伝染したのか、微妙にハイテンションになった月影丸までボケだした。


 リュウタがなぜかノッてるけど、ウラタロスさんの言うとおり徳川家違いだから。


 徳川家絡みのご老公様だから。お姫様じゃなくて。

















 「分かっていてのボケでござる。

  本当はとある世直しドラマで有名なセリフを一部流用させてもらっただけでござる。

  まぁつまり、一度言ってみたかったというヤツでござる」


 「って、わざとかよ!」





















 ……だよね。


 月影丸もビコナと一緒に徳川家の影の一員として生きてきたんだもんね。


 将軍のことぐらい知ってるよね。素で騙されたよ。


 侑人さんが思いっきりずっこけながらツッコんだ。





















 「まぁ、僕としても気になるところではある。

  何しろ、ビコナと初めて出会ったのだって10年前。江戸時代の頃の彼女については詳しくは知らないんだ」


 「月影丸から教えてもらった、知識としては浅い部分だけだ」


 「私なんて、全然知らないよー?」


 「左に同じく」


 「とゆーワケで、本人から直接語ってもらえるとありがたいんだけどなー」


 「っ……ト、トラルーからの直々のお願いとあらば、説明せざるを得ないでおじゃるねっ」

















 トラルー、スター、イテン、ノーザンも知らないみたい。


 しかしトラルーからのリクエストってところで少し赤面したりする辺り、諦めてない……というより好意に変わりなしってことなのかな。


 どこぞやのジン狙いのエロリストみたいな嫉妬をするとか、そういうワケじゃないらしいんだけど。


 そういえばイテンとのラブラブカポゥについては寧ろ応援してる側だったね。

















 「徳川家が活躍していた時代における戦いといえば、魔法も電子的な細工もない刀や槍による戦いでおじゃる。

  ところが、突然世に紛れた存在の介入によってバランスが崩壊し、将軍家もまた異能の存在を求め始めた…」


 「もしかして、瘴魔獣のこと?」


 「それで、ビコナさんたちが戦場へ出ることに?」


 「さよう。姫様や拙者は、その生まれからして人類とは異なる者。

  元より特殊な力を持つということもあって、瘴魔獣対策はもっぱら拙者らの役目となったのでござる」


 「瘴魔とは、人が発する怒りや憎しみといった、どこぞやの機械文明風にいうところのマイナス思念を己が糧とする者。

  当然、今の時代よりも騒動が絶えなかった戦国時代は、連中にとっては楽園にも等しい世ともいえる。

  人の意識を向けさせ、力が増大すれば対処しづらくなる。そこで、私や月影丸といった陰となる者たちが、こっそりと討伐していたのでおじゃるよ」
















 歴史の裏舞台で目的を遂行しようとするなんて、昔の瘴魔獣って大人しいモンだったんだね。


 どこぞやのバカ姫とはえらい違いだ。


 堂々と街中で暴れまわったりとかしないもの。

















 「恭文、それはいったいどういうことなのじゃ!?」


 「はいはい、話が進まなくなるからバカ姫は黙っててね…?」


 「ひゃ、ひゃい…」




















 とりあえず、バカ姫のほっぺをつねって黙らせる。









 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 しかし、今となっては懐かしすぎるとさえ言えるくらい遠い記憶でござるな…。


 あの頃は、姫様も戦いに明け暮れておられた。


 そういう意味では、瘴魔軍を撃退したブレイカーや、この平穏を取り戻しつつある世界に礼を言わねばならぬのでござろう…。


 ……遠い、本当に遠い記憶でござる…。




































































































 ――地球、戦国時代――




















































































 「え、私たちを、将軍家に…ですか?」


 「うむ」













 それは、ある意味で突拍子もなく、ある意味で既に分かりきっていたこと。


 徳川家初代将軍、徳川家康殿から直々に、徳川家の一員として招かれたのでござる。


 ただし、世の人間たちに実状を知られてはならぬ身の上、そのため徳川という名を得ることはせず、家臣と同等の地位での編入。


 歴史上で知られる家臣たちとは違い、世の暗部に潜み、密かに任務を遂行する密使としての役割を持つ立場に立つこと。


 それを条件に、衣食住の全てを将軍家、否、家康殿自らが責任を持って保障するという契約でござる。







 さすがに姫様も拙者も唖然として……え、姫様の口調がいつもと違う?


 まぁ、いろいろあったのでござる、いろいろと。





















 「あの化け物を、一瞬で倒しやがった…」


 「なんなんだ、あの小娘は…」


 「魔女か?」


 「なんにせよ、化け物対策ができたというのは助かる。家康様もとんでもない逸材を招きいれたものだ」


 「だな、あんな得体の知れない化け物の相手なんて、得体の知れないヤツに任せればいい」


 「おい、滅多なことは言うんじゃない」






















 それは、初めて徳川家の居城の1つに瘴魔獣が攻め入り、


 偶然そこに居合わせておられた姫様がやむなく能力を行使して瘴魔獣を撃退した日の晩。


 姫様の戦いを目撃した輩たちが、自分たちの部屋でざわついていたのでござる。


 拙者は、別に彼らの言葉を他の誰かに、無論姫様にも伝えるつもりはなかった。


 精霊や機獣の概念そのものを持たないのが普通のあの時代、そのような言葉は寧ろ当たり前の筈でござるからな。


 ただ…………



























































































 瘴魔獣の相手を姫様1人に押し付けることを意味する、5人目の輩の言葉だけは伝えるべきだった。































































 拙者が、不覚にも心の底から後悔せざるを得なくなった事件が、その3日後に起きたのでござる…。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「なに、瘴魔獣の大群が向かってきているだと?」


 「間違いないでござる」


 「そんな、瘴魔獣の群れが相手じゃ、いくら家康殿ご自慢の部下たちでも…」












 日課となっていた、早朝の偵察で得られた情報。


 家康殿がおられる江戸城へ向かって、瘴魔獣の大軍勢が押し寄せてきていた。


 早急に迎え撃たなければ、いわれなき一般人たちが真っ先に被害を受けることになると判断した拙者は、


 家康殿に報告、指示を仰いだのでござる。


 その時は傍に姫様もいたようで、この報告には非常に動揺しておられたようでござるが。









 さすがに瘴魔獣という名前こそ広まり始めたばかりとはいえ、化け物という扱いで存在は知られていた頃。


 それ故、家康殿の家臣たちも武人たちをかき集め、迎撃体制を整え始めた。


 しかしながら、肝心の武人たちは、瘴魔獣の持つ力場と怪力に恐れをなし、唯一真っ向勝負ができる姫様と拙者だけを当てにしていた。


 度重なる瘴魔の襲撃と被害で、既に戦意を失っていたのでござろう。


 そう、それ自体は仕方ないといえば仕方ないことではあった。だが、直後に向かった戦場で、おそらく初めて本気で檄を飛ばす姫様の姿を見た。








































































 「あ、あれ、あの、皆さん?」


 「なぜ、武器を構えないでござるか?」


 「ほら、さっさとやっつけちまってくださいよ、お嬢さん?」


 「えっ」


 「龍とか出せるんだしさ、あっという間だろ?」


 「あっ、あのっ」


 「そうそう、俺らがいなくてもなんとでもなるだろ?忍者もいるしさ」


 「そういう問題じゃ…」


 「まさか気づかなかったの?あんたら2人、俺らにしてみれば格好のオトリだってことにさぁ?」


 「…………渇ッ!!」


 『っ!?』






















 特に最後のオトリ発言が気に食わなかったのでござろう。


 いつもどころか、お供してきた中で初めて、姫様は心の底から怒り、腹の底から檄を飛ばした。


 機動六課にご厄介になり始めた今までで、唯一、姫様が誰かに対して本気で怒っていたのでござる。


 あまりにもふがいない、目の前の武士たちに。








 ちなみに拙者、姫様に仕えることにしたその時、自分自身に"姫様に怒りを抱かせない"と誓ってきたのにこの体たらく。


 対策などあった筈故、この渇は拙者にも響いたものでござる…。「後悔した」というのは、このことでござる。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 その時、自分の中の怒りが抑えられなかった。


 あまりにも、あまりにも嘆かわしすぎた連中の腐れっぷりに、奥底から何かが噴き出す感じがした。


 だから、何もかも振り切って、大の男ですらたじろぐほどのハウリングボイスで叫んでた。





















 「確かに、あなた方よりかは単体の実力はあるかもしれません。

  しかし!それは瘴魔獣との戦いを放棄する理由には一切なりません!

  思い出しなさい!あなた方は、いったい何のために武力を持ち、磨き続けているのですかっ!?」























 その言葉に、誰も口を開くことなく数分。


 いきり立つ私と、私の突然の叫びに唖然とする武士たち。


 沈黙が場を支配し始める。


 ちなみに後日、私のハウリングボイスが一時的に瘴魔獣たちを微妙に後退すらさせていたらしいのだけど、まぁそれはそれで。























 「情けないぞ貴様ら。

  それでも、統一された天下を、太平の世を守る家康様の元に集った武士か!」


 「忠勝殿!」





















 私の叫びを聞きつけてきたのか、本田忠勝殿がこちらに入ってきた。


 いや、本当は元から陣頭指揮の為に合流する筈だったのが、諸事情により立ち往生してしまって遅れただけでおじゃるけどね?


 忠勝殿は、こう叱咤する。

























 「貴様らが武人として生き、武人としてその刃を掲げるのは、

  家康様の御心によるものだけではない。貴様らが守りたいと願うもののためでもあるはずだ。

  それを化け物を相手にする程度で忘れるとは、愚の骨頂だと心得よ!」
























 ほとんど私の言いたかったことを言われてしまった。


 さすがに陣頭指揮を任されるほどの、家康殿が信頼を寄せる武人だけのことはあるでおじゃるよ。


 なので、もう私が出張る必要もないだろうと思い始めた矢先だった。
























 「……俺たちに、戦う意味を思い出させるタンカを切るとはな…」


 「外観からは予想できない凛々しい覇気…」


 「真正面から堂々と言葉を放つ威風堂々ぶり…」


 「……徳川家の姫、と家康様が愛でておられるのも、納得のいく話だな」


 「え、ひ、姫っ!?」





















 男たちの何人かからもれてきた言葉に、内心驚いた。


 だって、表舞台に立つことが許されない時代だというのに、お姫様でおじゃるよ!?






















 「あー、申し訳ない。それについては拙者が発端なのでござる。

  拙者がビコナ様のことを姫様と呼ぶことを家康殿が気に留めたようなので説明したところ、

  家康殿が気に入り始めてしまったのでござるよ」























 なんでも、月影丸いわく、その時の家康殿はこう言ったそうな。

















 「影の姫君か、良き響きであるな」

















 それ以降、現場にいなかった者たちも含め、徳川家のみんなして私のことをこっそりと姫と呼ぶようになるのに、大した時間はかからなかった。


 家康殿って、もしかしなくても、割とノリのいい人だったのでは…。

























































































 ちなみに、襲撃してきた瘴魔獣の大軍勢については、奮起した武士軍団の活躍もあって退散。


 こちらもそれなりに負傷者は出たものの、死者はゼロということで解決。


 以降は瘴魔獣も多少はおとなしくなって、徳川家が衰退するまでにアレ以上の襲撃記録は残されていない、と言っておく。


 まぁ、別に根絶させたとか、そういう物騒な話じゃないでおじゃるよ?一応。








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 「惜しいな、アレで髪の毛ピンクだったら荒ぶるラ○ス様だったのにな」


 「何の話でおじゃるか」















 スターのいらんボケはさておき、ビコナが戦闘要員とされる根拠ってのは分かってもらえた…かなぁ?


 要するに、今よりも別な意味でよっぽど好戦的だったらしい瘴魔獣を相手に秒殺レベルの戦いができるからってことだね。


 それと、大の男どもを相手取って説教というか渇を入れられるほどの度胸もあると。












 元から高い魔力運用能力を持っていたというのは聞いてる。


 炎と水、風と雷、みたいに、2つの異なる属性を持つ魔力を暴発させることなく混ぜ合わせ、1つの技とする。


 それは、昨今の魔力変換資質のケースを見てみても、極めて例の少ない話だ。


 大体、電気だけ、とか、炎だけ、とか、1つの属性でしか変換できないのが普通だろう。


 ジュンイチの精霊力の運用だって、根源が何かと言えば熱操作。大気中や水中の熱を変化させるから、炎だけでなく氷も操れるにすぎない。


 でもビコナに限っては、複数の魔力を混ぜ合わせることの方が普通なんだ。反面、1つの属性の魔力自体はあまり強くないとのこと。


 ただ、出力的な問題で、光と闇の組み合わせだけは成功したことがないらしいんだけど。


 練習しようにも、最初の失敗で危うく死にかけたので、月影丸から禁止されているそうだけど、僕もお勧めしません。危ないから。


















 「その光と闇の融合を現実にできるヤツが言ってもなぁ」


 「おやおや、なんのことだか」


 「とぼけたって無駄だぜ?過去の戦闘記録から割り出して、お前の精霊力の属性は把握させてもらったからな」




















 ちなみに、僕の内包エネルギーも一応精霊力のカテゴリに入るとはジュンイチの談。


 正確には僕は精神生命体というだけで、本当に精霊の仲間といえるのかについては僕自身が疑問です。


 それはともかく、僕の属性を把握できたとはこれいかに。



















 《……"無"であると言いたいのだろう?柾木ジュンイチ》


 「わっビックリした」




















 いきなり内側から声が出るのには未だに慣れないのか、リティが驚くのを尻目に言を発する者が1人。


 普段はリティの"内側"に引きこもっているレクセだ。


















 「レクセご名答。トラルー、お前は確かにこれといって決まった属性攻撃は持ってない。

  だが、相手の属性攻撃とお前の攻撃がぶつかると、極めて強い反発エネルギーが発生しているのが確認できた。

  全ての属性に対して、打ち消そうと力を放出する属性……つまり、"無"だ。

  さすがに紫のメダルが"無"を司るだけに、レクセにはバレたようだけど、分かりづらいのは確かだわな」


 「そうか、スバルのリボルバーシュートやエリオのサンダーレイジ、フリードのブラストレイとかを迎撃すると、

  一際強い衝撃波が発生したのも、その無属性の効果によるもの……そういうことですね?ジュンイチさん」


 「あぁ、それも、トラルーの場合は無属性の効果がより強いんだ。

  典型的な例はディープ・ルインドだろうな。

  無属性の根本的な定義、他を打ち消そうとする力に、ある意味で最も忠実な技だ」

















 ジュンイチの説明に白い冥王が納得。


 更に彼はディープ・ルインドを取り上げたけど……そうかい、そこまで分析したのかい。


 事実、あの技は相手のフォースチップの…というか、相手の"内側の力"を破壊、打ち消そうとする性質がある。


 尚、ファーヴニルを昇天させた件については、フォースチップの代わりにアイツの生命力の大半を消失させていたことが後ほど判明。


 フォースチップを使うことすらないなら、戦場に立つ資格はないとでも言いたいのかね、あの技は。


 いや、バグジェネラルの変調効果による突然変異とはいえ、自分の技だけどさ。



















 「で、先ほど恭文に黙らされたそこの姫は納得したのかね?」


 「…って、あれ、ココアちゃん?」


 「瘴魔の長とはいっても、こうなるとかわいいものでおじゃるねぇ」


 「な、何をするか!そんな風にわらわをぷにぷにしていいのは恭文だけじゃぁ〜」


 「するかっ!!」





















 言いながらメープルと共に振り向いてみれば、当の万蟲姫はビコナにほっぺぷにぷにされていた。


 割り込もうとしたと思われる、ホーネットを踏み台にしながら。


 ……ヤベェ、徳川の姫君マジパネェ。


 そりゃあ、ちょっと離れたところでイクトが戦慄のあまりフリーズしたりするわな。









 ……まぁ、そこについては根拠となりえるポイントを知っているので、あまり驚かないけども。


 ていうか、いつの間に"月影丸と合体"してたのさ。怖いよちょっと。








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 おっと、ちょっと気になるフレーズが出たから問い詰めさせてもらうぞ。


 合体しただと?














 「あ、聞かれちゃった☆」


 「うわっ、スゲェあからさまなごまかし方してるぞコイツ!」


 「事情聴取しないといけないね」


 「よーし、逮捕だー!」


 「俺の出番やな?俺のパワーは、泣けるでっ!!」


 「みゃあああああ〜」



















 トラルーの、本当にあからさますぎた発言を聞きつけたモモタロスたちが確保。


 はしゃぎだしたリュウタロスがオトリになったか、キンタロスにあっさりと捕まった。


 ていうか、キンタロスが相手だってこともあってか、トラルーが今ネコみたいに見えなくもない。


 本当にネコみたいに片手で持ち上げられてるんだもんなぁ…。























 「みゅ〜、聞かれた以上は説明するしかないな〜。

  実はビコナと月影丸って、まだ隠し事があるんだよ〜」


 「ちょっ、トラルー!?そこまでネタバラシする必要なんて…」


 「いや、その格好でいられたら、"どうぞネタバラシしてください"という意思表示にしか見えないって」


 《姫様、既に手遅れでござる》


 「……あ゛〜!?」























 ……よりにもよって、やってる本人が気づいてなかったってどんだけだよ。


 見た感じ、月影丸の甲冑をビコナが身にまとったってところだが…。


 月影丸自身はどこいったんだ?声の聞こえ方からすると、オレや野上にイマジンが入った時のような状態か?
















 「そーそー、大体そんな感じ。

  要するに……」




















 更なる続きを求めて、誰もが静まる中…



















 「……ほら、そこでビコナとか月影丸とかが割って入んなきゃダミディショー?」


 『ぉおいっ!?』














 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










 くっ、私としたことがぬかったでおじゃる…!












 「ぬかったっていうか…ねぇ…?」


 《ミスタ・トラルーって、あんなキラーパスキャラだったっけか…?》


 「オレに聞くな」














 イテンにオメガにマスターコンボイがなんか言ってるけど、今はそれどころじゃないでおじゃるよ。


 というワケで、とりあえずダイジェスト風味にどうぞ!

















 《今、誰に投げたんだ!?》















 フェンリル、気にしたら負けぞよ?








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 まずそもそも、月影丸は機獣の中でもイレギュラー中のイレギュラー。


 特定の条件を満たす相手と精神を同調させることができ、


 その同調によって彼と"合身"し、その力と鎧をまとうことができるのでおじゃる。


 もっとも、現状では私ぐらいしかできる人はいないけど。





















 初めて合身したのは、家康殿がご隠居なされてしばらく経ったある夜。


 指揮系統から外れたと思われるはぐれ瘴魔獣が、いくつかの城下町や村々で暴れ始めたのでおじゃる。


 その戦火に家康殿も巻き込まれ、怪我こそしなかったものの、逃亡時のアレコレでそのご老体に余計に負担をかけてしまった。


 一時は本当に死にかけて、思わず涙目になってしまっていた私に、家康殿は言った。
















 先にゆき、跡に残るも、同じ事。連れて行ぬを、別とぞ思ふ
















 死というものを彼が恐れていなかったのか、それは定かではない。


 でも、あの言葉を言ったときの家康殿の目と心は、死してなお何かを願い続けるかのような…。

















 その時から決心した。徳川家の影の一員として蓄積してきた全ての情報を静かに残そうと。


 そしてその為に、たとえ命がけになろうとも挫けまいと。

















 「そのお覚悟、確かに見届けたでござる。

  今こそ、貴女の魂に授けましょうぞ。この月影丸の最大の奥義を!」















































































 それは、私と月影丸が、本当に心を合わせ、同調させることでしかできない奥義。


 私が月影丸の力と鎧をまとい、後に誰かが"月光の姫君"と呼んだ、本気で戦う時の姿へ変える秘術。


 その術の名は"超忍法・魂身一体こんしんいったい"という。

















 霊姫れいきとカラクリひとつとなりて、天下御免の三日月装備ぃ〜!!」



















 魂身一体によって1つとなったその名は――























































 《「霊装れいそう月樺式げっかしき、推参っ!!」》

















 今で言うところの、私の最強戦闘形態であるといえる霊装・月樺式。


 胸と背、肩、腰、両腕、両足に月影丸のパーツが重なり、頭には月影丸の頭部だった部分が覆面となって装着される。


 覆面には三日月を模した角飾り。両腕と両足には三日月形の手裏剣を備え、手持ち武器として月影丸が使うのと同様の巨大な三日月刀。


 初使用時は三日月が美しく輝く月夜だったので、鎧の青い光沢が月明かりで映えて神々しかったとか。


 ……誰が言ってたっけ?徳川家の人間であったことだけは間違いないのだけど。

















 それはともかく、この形態における能力は大まかにこんな感じ。
















 まず、両腕と両足にある月影丸のパーツから三日月型の手裏剣を連続で放つ"無限手裏剣"


 磔手裏剣のように対象を限定しないので、弾幕として使うことが多いでおじゃる。

















 三日月刀の頭にある三日月を高速回転させながら分離、鎖による有線遠隔操作で敵を切り伏せる"月樺鎖手裏剣げっかくさりしゅりけん"。


 攻撃や防御のみならず、鎖を活かした拘束など、用途の広い技でおじゃるね。
















 影分身の術を応用した、複数の幻を利用して相手をかく乱しつつ攻撃を加える"みだやいばの舞"


 ルアクのブリンチシェイドのように同時に斬撃、とまではいかないものの、その分"力"の消耗は少なく、扱いやすい。

















 そして必殺技となるのは、私の魔力を充填して月影丸を打ち出す"超飛身殺法ちょうひしんさっぽう"でおじゃる。


 乱れ刃の舞と同様に月影丸が分身するのだけど、私の魔力も利用しているからか、斬撃だけは全て実体というまさに超殺法。


 更にこの技は、別に私が動けなくなるとか、そういうデメリットはないので、分散するも再度合身するも自由自在。


 分身した月影丸たちが次々と斬りかかり、愛用の扇に風属性の魔力を刃に変換して顕現させた私自身の斬撃をトドメにお見舞いするのでおじゃる。




























 その晩の後は瘴魔獣もまた大人しくなって、合身するほどのレベルでのトラブルは起きなかったでおじゃる。


 なので、今後することがあるとすれば、"アレス"の本戦くらいだと思うけど…。

















 「しかし、あの時の姫様は美しく荒ぶっておられて、誇らしかったでござるぞ」


 「おぉ、気になるなぁ〜」


















 月影丸、そんなにほめても出してやれるものなどないぞよ?


 それにトラルーも、そ、そんなに期待されても照れちゃうでおじゃるよぉ〜。













 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「キルスティル――起動!!」










 アストロブラスターを持っている…と思う今回の対戦相手が、別なものを呼び出した。


 ……システムの起動パターンからすると、どうやらあのキルスティルと呼ばれたものが基本のデバイスのようですね。


 しかし、話はリートさんから聞いていましたが、本当に彼のラスティエルとそっくりですね。


 某NT-DなGUNDAMが持つ、Xを描くような形状に展開する4枚のフィン。


 その色が水色ではなく赤だということ以外に大した形状的な差は見受けられません。


 同一、あるいは類似した技術ルーツを持ちながらも、持ち主同士が離反した…と考えるのが妥当でしょうか。


 もっとも、リートさんは特段スティアを邪険にしているワケではないようですが。












 「さっきのナックル…バーンメルトをぶっ壊された落とし前はキッチリつけさせてもらおうか!」


 <ヒート!>


 <メタル!!>


 《MEMORY-LOAD!

  SKILL STANDBY!!》







 《アタックファンクション・メルティングハンマー》











 「ご丁寧に炎熱系メモリを利用した鉄拳制裁だ!

  因果応報、炎熱系の技で受けた借りは炎熱系の技で返す!!」


 「おいネメア!もう一発、焔崩しを…って!?」


 「メモリ同士の再連結が間に合わない!?」


 「くらっとけぇぇっ!!」
















 なるほど、システム上の違いは明確なようですね。


 ラスティエルが磁場・電子制御に優れているのに対し、キルスティルはアビリメモリを統合運用することに長けている。


 我々では未だ安定稼動に至っていない、複数のアビリメモリの同時運用。


 先ほどの焔崩しでさえ、アクセルとファングの相性がよかったからかろうじてできた程度。


 しかしアレは、メモリから無駄なくパワーを引き出し、増幅し、アタックファンクションへと昇華している。


 ……そうか……アレこそが、我らディフィカルター12に与えられる筈であった、欠けてしまったピース…、いや、ピースどころではない。


 我らを統合する筈であった、メモリを司る大いなる器…。















































































































 「はい、そこまで」


 《アタックファンクション・レイズダイナミック》


 『!?』
















 そこへ、突如飛来する1つの影。


 突拍子もなく放たれたゲロビが、場にいた者全てを狙って襲い掛かってくる。


 私もゲリュオンも、ネメアもケリュネイアも、そしてスティアもその場から飛びのいて後退。


 ……これはこれは。

















 「今回もお散歩ついでに巻き込まれての乱入ですか?トラルー」


 「あの人が…」


 「ほんと、プレダコンズ絡みだと巻き込まれ率高いから嫌になるね」




















 ……お供はいないようですね。


 事前に教えてもらった情報によれば、他にも何人か旅のお供がいる筈ですが。


 単身で気晴らしにでも来ていたのでしょうか?























 「……アンタ、何しに来た?

  プレダコンズの、そいつらの狙いはオレが持ってると連中が主張するアストロブラスター。

  少なくとも、時空の旅人であるトラルーには関係なさそうに思うんだがな?」


 「プレダコンズにアストロブラスターを、いや、神器を渡すワケにはいかない。

  それだけさ」






















 どうやら、特段我々を倒そうという意思で介入してきたワケではないようですね。


 せっかくの隠密行動も、トラルーに見つかってしまってはもう意味がない…。


 となると、機動六課に嗅ぎつかれる前に離脱した方がよさそうですね。


 ……ゲリュオン!




















 <パペティアー>


 猛使霊もうしれいのゲリュオン、いくよ」





 <キー>


 獄番霊ごくばんれいのケルベロス、開放する」
























 スカートの女の子ことゲリュオンにも促し、私もフード付きコートをなびかせながらメモリを起動。


 彼女は体に不釣合いな長大さを見せつける異形の両腕を。


 私は円形の扉を模した大型シールドを左腕に、鍵を模したショートブレードを右腕にそれぞれ装着。


 いわゆる戦闘形態なのですが、今回はこれ以上事を荒立てるつもりはありません。


























 「ゲリュオン、かく乱をお願いします」


 「分かったわ」



























 彼女に託されたメモリ、パペティアーはマリオネットを可能とさせる特殊タイプ。


 直接的な戦闘能力は高い方ではありませんが、その分マリオネットによる遠隔強制操作能力の効果は極めて強い。


 たとえば、そこら辺にある岩や倒木を、サイコキネシスで操っているかのように自在に動かしてしまう。


 あくまでも躍らせているのでしょう。人形遣いパペティアーのように。


 操った倒木や岩でスティアたちの足を止め、その隙に…





















 「ネメア、ケリュネイア、今回はひとまず撤収です。さすがに相手が悪すぎますからね」


 「くそっ」


 「仕方ないね…」





















 左腕のシールドにある穴に……よく見る錠前のような形状をした穴に、


 右腕の鍵型ソードを差し込む。


 これによってシールドとなっている扉を開け放つことで、任意の場所へと続く転送ゲートを作り出すことができる。


 そう、この鍵は、転送ゲートを開くための鍵。


 しかし、それ以外にも何か開け放つことはできます。それは、またいずれ。
























 「逃げるのかい?」


 「えぇ、あなたを相手にするとなると、我々では分が悪いですからね。

  人生は引き際が肝心ともいいます。それ故、今回は潔く撤収させてもらうとしましょう」


 「縁があれば、また会いましょう?」






















 おそらく、機動六課とそこの協力者もまた、何名かは"アレス"に参加する筈。


 その時、誰が我々と当たることになるのか……楽しみにさせていただきましょう。


 アストロブラスターについては、また来るべき時に…。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 やれやれ、アイツら……というか、ケルベロスのヤツ、随分と引き際がいいじゃないか。


 味方の被害を抑える戦術というのは大事。


 特に相手が神器持ちともなれば、余計に慎重に動かなければならない筈だから。


 まぁ、あの4人で陣頭指揮ができそうなのはケルベロスぐらいだっていうのもあるんだけど。








 それにしても、あの「キー」のメモリによるウェポン……結構面倒な相手かもね。


 鍵を差し込むっていうモーション、タイムラグがあるとはいえ、逆に言えば転送ゲートを制御しやすいってことでもあるんだから。


 他者が使うことを前提とした、汎用性を高めにした設定だからこそか。





















 「逃げたか…。バーンメルトをぶっ壊された落とし前ぐらいはつけさせてほしかったんだけどな」


 「あぁ、それは悪いことしたかな」


 「いや、さっきのであの4人全員が戦闘向けなスキルや武装持ってるって分かった以上、強がりはナシだ」


























 スティアはスティアで潔いところはある。


 武装を見ただけで相手がやり手かどうかを見極められる、傭兵や武人にも通じる戦術眼を持っているから。

























 「なんだ、帰るのか?」


 「こっちとしても長居は無用だからね」


 「まぁ、そりゃ帰るよな。他の誰かに変装がバレたらマズイからなぁ」


 「ぶふっ!?」
























 ちょ、ちょっと待った!


 何コイツ!?今、変装って言ったよね!?確かに言った!


 まさか、グリームニルのことを知ってる?そんな筈ないよ!これを知ってるのはせいぜいゴッドアイズのお2人さんくらい…で……。









































































 僕は見た。













 「やった」とものすごく言いたげに昔のドッキリ番組みたいな看板を出したスティアを。












 そのスティアの、「してやったり」な感情が目いっぱいこめられたニヤケ顔を。














 そして、どっかの諜報部所属勇者ロボが使ってそうな噴射機付きワッパーをキルスティルから飛ばしてくる彼の姿を。



































































































































 だまされたぁぁぁぁぁぁっ!!?
































































 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 《グリームニルの粒子定着装置の不具合を見落としていたようだな》


 「面目ない…」


 「どんまいどんまい」












 心配になってこっそりと現場に向かってみれば案の定だった。


 スティアといったか。彼に捕獲されかけていたので、某勇者ロボのジェットワッパー的なものを破壊しつつ彼を牽制。


 更に僕のアタックファンクション"ブレイクゲイザー"で生じた爆煙に紛れてなんとかメルクリウスまで離脱した。














 もしやと思ってグリームニルのシステムチェックを試みたところ、


 変身に用いられる特殊粒子を体に定着させるシステムに不良が生じていた。


 おそらく、その不良によって生じた綻びから、スティアはアストラルの変身だと見抜いたのだろう。


 しかし、サイズにしてみれば僅か2ミリほど…。油断できないな。


 外観からか、もしくは綻びから漏れ出していたアストラルの生態エネルギーからか…。何にせよ、恐ろしいな。
















 《しかしどうする。スティアが機動六課関係者と分かった以上、

  もうグリームニルのことは彼らに知れ渡っているだろう。同じ手は使えないぞ》


 「分かっている。分かっているさ、ゼノン…」


 「なでこなでこ」


 「……今日はもう愛玩動物ポジションで落ち着いておくか…」



















 あ、勇者ネタを飛ばした挙句、ユーリプテルスに慰められて戦意が落ちた。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 《すまないな、完全な証拠を握るまでには至れなかった》


 「いや、キッカケが掴めただけでも上出来だ」









 通信で謝罪してくるスティアに、僕はそう言い返す。


 スティアは、トラルーたちとはまた別なルート……正式な管理局員の一員としてミッドにやってきた精霊。


 最初の内は技術部のテスターを勤めていたらしいが、持ち前の戦闘スキルなどから戦闘員に転向。


 本人からの志願で、肩慣らしも兼ねてミッドへ降りて、新しい情報やロストロギア関係のアレコレについて調べにきたらしい。


 前線での戦闘からスパイ任務までいろいろできるらしいので、ひとまずはエージェント的なポジションで動いてもらうことにした。


 とりあえず、アリシアから報告のあった、グリームニルとかいうデバイスで変身までできるアストラルを確保できればと思ったのだが…。












 《トラルーも何だかんだでアイツとは付き合いが長そうだな。

  "アイツはアイツなりに子供っぽいところがある"とは聞いたが、確かに子供っぽいところもあった》


 「デバイスの整備不良に気づかずにノリと勢いで武力介入してきたことか」


 《もっとも、あのデバイスは根幹的なところで完成度が高いと見た。

  整備不良があったとはいえ、変身に綻びが生じていたのは目視できて2ミリ程度。

  そんじょそこらの連中じゃ気づかない些細なレベルだった》
















 その辺りは、ある意味で戦闘機人などと通じる部分があるな。


 戦闘機人もまた、生まれながらに発達した知能を与えられている。


 いくら教育が必要だとはいえ、基本的なところは既に学習した状態で生まれ来る。


 だから、スカリエッティはナンバーズを比較的早めに完全ロールアウトできた。


 長女であるウーノから末のディードまでの間には、ほんの数年しか差はないらしい。


 もっとも、彼女らからしてみればその数年がかなり大きいものであるということは容易に想像できるがな。




 話が逸れたが、アストラルもトラルーいわくユニクロンから生まれた者。それも、暴発ではなく、意図的にだ。


 後発であることも含め、定着させた知識量はトラルーを上回っている筈だし、武装もどちらかといえば新型だろう。


 だが、ミッドに来るまでにグリームニルやビヴリンディといった後発デバイスは持っていなかったらしい。


 彼によれば、発明好きな一面もあるという。おそらく、ミッドに来てから独自に研究して開発したのだろう、とも。


 膨大な知識と優れた機械技術を併せ持つ、か…。敵に回すと厄介極まりないな。








 特に、ビヴリンディという管制デバイスの追加によって自在に制御できるようになったというチャクラムビットが問題だ。


 グリームニルの高精度偽造・変身機能も十分に厄介だが、チャクラムビットは純粋な力押しでもある。


 単純な戦闘能力でいえば、シミュレーション上はアストラル1人で地上部隊を壊滅させられるだけの力を有しているという馬鹿げた話も出ている。


 だが、アリシアとあずさがそのチャクラムビットとグリームニルの連携によって秒殺されている。


 いや、単純にチャクラムビットだけでもあの2人を蹂躙できていたかもしれない。


 そうなると、とてもではないが管理局の正規部隊だけでヤツの相手をするのは困難だろう。


 せめて管理局と正面からやりあう、などという事態にはならないことを祈る。















 《天下の時空管理局の提督だろうに、アンタは…。

  艦長の椅子に堂々と座る身分だというのに、弱気すぎるんじゃないのか?

  もっとも、そういう冷静な分析力は賞賛に値するがな、クロノ提督殿》
















 随分と言ってくれる…。


 だが、弱気になっているということを否定するつもりはない。


 いざ戦ってみたら、と思うと、どうにもな。

















 《まぁ、アイツはそこまで事を荒立てるつもりじゃなさそうだがな。

  せいぜい、管理局も含めた政治組織と仲良くケンカしてようって魂胆じゃないか?

  トラルーが教えてくれた、アイツの現状の行動目的からすれば…》


 「勝ちすぎず、負けすぎず……たとえ負けても、それで終わることだけは避ける…。

  それが、アストラルを生み出したユニクロンの策…」


 《戦いで生まれる憎しみといった負の感情が、ユニクロンの活力源になっているらしいしな》




















 そして、いよいよ開催を控えた"アレス"の景品になっているマイクロンパネル。


 アレに封印されているマイクロンは、条件が整えばユニクロンの覚醒キーとなる神器の一部ときた。


 また荒れそうだな、この世界は。





















 《火種はどうあれ、10年以上荒れないままで時間が過ぎたというためしがないだろうに》


















 言うな。とりあえずGBH戦役以降は本当にそうだから、気にしているんだぞ。








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 「けどさぁ、なんで喋り方が変わるんだ?

  話を聞く限り、とてもじゃないが口調を変えるような事情があるようには見えないんだけど」


 「フツーに喋っててもいいと思うんだな」










 暴走コンビが絶妙?な質問を投げつけてきた。


 そう、確かに喋り方まで変える必要はない筈だし、そう思われても当然だろう。


 もちろん、わざわざ変えているからにはそれなりに理由があるんだろうが。


 トラルー、確かお前が初めて会った時には今の喋り方だったんだよな?














 「そうだよー。最初は面白い喋り方するなーって思ったけど、今は寧ろ普通だね」













 というワケだが、実際のところはどうなんだ?


 トラルーからのリクエストじゃなくて残念だが、ぜひとも教えてもらいたいんだ。


 今後もオレたちと…というか、トラルーとくっついてくつもりならな。















 「……別に教えてもいいでおじゃるよ?

  でも、ホントに大したことないでおじゃるよ?しれしれでおじゃるよ?」


 「しれしれって何?」


 「しれしれといったらしれしれでおじゃるよ?」


 「だから…」


 「しれしれといったらしれしれなんだっていったらしれしれでおじゃるよ?」


 「ごめんなさい、僕が悪うございました」


 「スター、恭文が折れた」

















 とりあえず、深く追求してもむなしくなるだけだと思うぞ?


 ノーザンがご丁寧にオレに報告してくれたみたいに、心が折れる。むなしすぎて。


 それはともかく、教えてもらおうか。教えてくれるっていうならさ。




















 「月影丸が漏らしたせいで、徳川家全体で私のことを姫様と呼ぶようになったでおじゃるね。

  で、丁度その頃に紙芝居でやっていたお姫様がこんな感じの喋り方で。

  最初の内はカッコつけてやってただけのハズが、今ではすっかりデフォルトになってしまったのでおじゃるよ」



















































































































 間。














































































 「おー、みんないい感じで揃っとるなー?」


 「これから"アレス"に登録したチーム分けの発表と、

  総当り模擬戦を行う」


 「皆さん覚悟はいいですかー?♪」























 本当に大したことなかった事情によってフリーズした空気は、


 部隊長殿、ビッグコンボイ、リイン曹長の号令によって元に戻った。


 いやいや、子供じゃないんだから。


 あと曹長殿、なんでそんな妙に上機嫌なんです?









 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 《参加申請、機体登録、共に滞りなく終了しました。

  先ほどお渡ししたパンフレットの時刻に遅れませんようご注意ください》














 各種受付を担当しているバーチャルなお嬢さんからの言葉を受け、


 改めて俺は手元にいる"コイツら"を見る。


 一応俺らとしても興味はあったけど、直接参戦するのはこの3体だ。




















 《武装もフレームも調子は良好だ。

  予選からガンガン暴れてやるぜ!》
















 そう言って右腕を突き出して意思表明するのは、俺が完成させたヤツだ。


 口調通りの豪快な戦い方をする一方で、知的な一面もある、何気に頼れるヤツなんだ。
















 《"ムーン"のカード……伏兵には気をつけるんだな。

  足元すくわれてヘマすんなよ?》
















 どこからともなくタロットカードを出してそう言うのは、サリが完成させたヤツ。


 タロットカード云々については、生まれつきの性格らしい。



















 《なんだと?俺様が簡単に落ちるとか言いたいのか?》


 《火星の軍神の名を冠する大会だ、何が出るか分かったもんじゃない》


 《ま、まぁまぁ、2人とも落ち着いて。明日から大変なのは、きっとみんな同じですから》


 「そうよ。ったく、なんでコンビ組んでる割にいがみ合う毎日なのかしらね」























 俺とサリが完成させ、その後の調整や追加教育をやってたせいか、あの2人はいつも"仲良くケンカしな"状態だ。


 よりにもよって似たもの同士でもあるからなぁ…。やっさんとアルトアイゼンのコンビとかと似たノリがある。


 その分、いざ連携プレーに移ればそんじょそこらの連中じゃ相手にならなくなるんだが…。


 で、そんな2人をなだめにやってきたのは、一緒に参加登録をしたもう1体。


 コイツは、今後ろにいるイレインが手がけたらしい。ていうか、イレインも開発してたって事実は今朝初めて知った。























 「さぁーってと、登録も完了したし、とりあえずどこ見てく?」


 「メンテナンス道具はともかく、コイツらのパーツ素材は買い足さないとなー」


 「大会中、勝ち進めていくにしてもメンテナンスは確実にできるようにしないといけないものね」


















 伸びをしながら尋ねてくるサリにそう答えつつ、ウィンドウを展開。


 表示されるのは、"コイツら"の詳細な機体データ……その更に詳細な素材データだ。


 そこらのデバイスとは違う素材でパーツを作ってるから、予備パーツまでお手製で用意するハメになった。


 まぁその分、設計・開発は面白かったし、実戦テストも楽しみなんだけどな?


 反面、イレインの言うことももっともなんだ。"コイツら"の場合、他の系統のデバイス以上に損傷率高いからなー。


 ただ、さすがに総合大会をテストに利用するのはおっかない気も……って、それ言ったら絶対やっさんにひっぱたかれるな。


 ガチでジープ乗り回して猛特訓させたこともあるし。

















 「市販のパーツを改造して…っていうのは余計に面倒かしらね」


 「だな、寧ろ初めから作った方が効率的だ。幸い、根本的なところではシステム面で応用がきくからな」


 「待ってろよ、やっさん!大会当日に、思いっきりビックリさせてやるからな!」












































































 イレインの言葉に返しつつ、その素材が手に入りそうなショップを検索開始。


 その後ろで意気込むサリには悪いが、1つだけ思わせてくれ。














 多分、"コイツら"の仕掛け人というか、裏スポンサーのことを知ったら、あまり驚かない気しかしないぞ?


















 (第25話へ続く)















 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
















 ―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―














 ステンス「出番がないな」


 リティ「いや、"アレス"で堂々と暴れまわろうって意気込んでるヤツのセリフじゃないから」


 ステンス「今回は"機獣"について教えてやる」










 ステンス「機獣とは、全身が機械化した生命体のことだ。

      この世界では人型も獣型も総合して機獣と呼ぶが、世界によっては人型を"機人"とも呼ぶようだな。

      どこぞやの勇者シリーズでいうところの超AI搭載ロボットの親戚みたいなモンだろう。

      基本的には水分や錆に弱い傾向にあるが、一部のツワモノは何らかの理由でそれを克服するらしい。

      臓器なども含めて身体構造が完全に機械になっているのが機獣の最大の特徴だ。

      それを利用して、核となる部分だけ残して他のパーツを入れ替えながら生き続けているヤツもいる。

      月影丸については、鍛錬の過程で体の金属細胞を自動的に再構築できるような体になったらしいがな」









 リティ「じゃあ、修行している内に青から緑に変色したっていうのは…」


 ステンス「再構築能力の影響らしい。詳しいメカニズムなどについては不明点が多すぎて謎とされているがな」


 リティ「では、また次回!」







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 <次回の「とたきま」は!>




 トラルー「さぁ、"アレス"開催目前の、リハーサル的な総当り模擬戦の開始だ!」


 スター「久々にガチンコバトルか、腕が鳴るぜ!」


 月影丸「しかし、次回更に新キャラ登場との情報が入っているでござる」


 はやて「面白い人材が六課の協力者に加わっとるんやぁ〜♪」


 月影丸「これが、その新キャラの参考写真でござる」


 スター「……こりゃまた、随分と懐かしい顔だな」


 トラルー「いつの間にミッド入りしてたのか知らないけど……"小さな鉄人"が嵐を呼びそうだね」


 恭文「て、鉄人…!?」(ゴクリ)


 スター「転生しても相変わらず……なんだろうなぁ、きっと」


 マスターコンボイ「転生…!?」(ゴクリ)














 第25話「六課大乱闘!気分はスマ○ラ!?」






























































































 あとがき




 えー、めっちゃ長らくお待たせいたしました。第2クール最終話となる24話です。




 主な話題としては、アレス開催を控えて六課に集結するメンツの会合、アストロブラスター攻防戦のひとまずの決着、


 そしてビコナと月影丸の昔話となっております。


 特に昔話の部分で時間割かれた…。何だかんだで結構手直ししていたりします。






 さて、この昔話と現在とではビコナの口調が違っていますが、作中のネタとは違った意味でも事情が。




 そもそもビコナには「戦国コレクション」というモバゲーに登場する"[太平女君]徳川家康"という元ネタがあるのですが、


 最近放送されたアニメ(タイトルはまんま「戦国コレクション」)における彼女の喋り方とビコナの喋り方に違いが。


 (アニメ版家康の口調は昔話の方の口調です。あと、CVも異なっていますが、こちらはあえて変えない方向で)





 個人的にこの相違を放置するのはカンに触るので、昔話の部分を利用して今回の作中のような設定となりました。


 まさか、モバゲーがアニメ化するとは思っていなかったもので、完全に盲点だったポイントですね。


 (ちなみにアニメ版「戦国コレクション」は毎週木曜日深夜1:45分より、テレビ東京系で放送中です。

  オンエアの1つ前のお話と第1話はGyaO!でも視聴可能です)








 ビコナの背景事情をどうにか「とたきま」流に昇華したところで、お次はいよいよ第3クールに突入。


 次回予告などにある通り、機動六課内部での総当り模擬戦の後に"アレス"が始まる…という流れになっていきます。


 何度か前々から触れている通り、ゲスト参戦の嵐と新キャラ続出の熾烈な12話となっていく予定ですので、お楽しみに。


 もちろん、こういう大会系のイベントでは既出レギュラーの誰かが大化けするのもお約束。


 誰かがチートスキルを大解放する、とだけ言っておきましょう。あ、ジュンイチ以外で(ちょ)








 なにはともあれ、今後も「とたきま」と放浪人テンクウをよろしくお願いいたします(ペコリ)


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

 

 今回はビコナの過去話……のはずなのに、バカ姫の存在感強いなぁ(笑)。

 しかしビコナも回想シーン(江戸時代)の対瘴魔戦ではバカ姫に負けず劣らずの貫録を見せつけてくれました。
 そりゃ「姫」と呼ばれるわ……他の“姫”達と似たり寄ったりなパターンなのは気にしない方向で(ぇ

 

 そして最後にひとつ。

 ……忠勝、ロボじゃないのか……(どこのバサラだ)