レルネ「本日も参りましょう、"レギュラーメンバーのドコナニ"のコーナー!」


 プルトーネ《正式にプロトからプルトーネに改名しましたー。改めてお見知りおきを。

       前回の主だった動きと、合わせて前回以前からの継続対戦情報もおさらいしましょう》







 01:恭文たちチーム・アルトは、アレックスの策により彼とポラリスを味方に引き戻すことに成功。

   同時にデビル三銃士を迎撃、三銃士はアーツバトル連盟からの制裁を受け戦線離脱。


 02:プロトが自らの出自を自白、更に一部がAIと融合していたユニクロン・プラネットフォースの力を完全掌握。

   自ら"プルトーネ"へと改名し、デビリズムモードなども使いダークコマンダーを撃退する。


 03:チーム・番長連はチーム・オクタスに圧勝し、キーコードを確保。


 04:ジャックプライムらチーム・ジャックはキーコードを既に2つ確保。

   一方でチーム・スナイプによる連続狙撃事件に警戒する。


 05:シズクによるチーム・ハイウェイズVSチーム・ドバンの回想、継続中。


 06:チーム・ファクスVSチーム・サーペンツの対戦の内、レヴィアタンがサーズの罠にはまり身動きが取れなくなる。


 07:はやて率いるチーム・シュベルトは、プテラノドンヤミーに魔法を無効化されるもレクセが無双。勝利を収める。


 08:チーム・グランツVSチーム・ビシディアン、戦闘継続中。


 09:チーム・フリゲートアルファはチーム・セイバーズと戦闘継続中。


 10:チーム・スサノオとチーム・クアドラ、戦闘継続中。















 プルトーネ《このような感じになりますか》


 レルネ「継続中の対決も多いですけど、未だ触れられていない人も結構…」


 プルトーネ《それを解決していくのが今回以降じゃないですか。

       では数字的に区切りのいい第30話をどうぞ!》


 レルネ「改名しても決め台詞をかっさらう癖は直さないんですねぇ!?」



























































 

「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






「とある旅人の気まぐれな日常」






第30話:予選終幕 〜勝ちどきを上げるのは誰だ〜



























































 ―チーム・ハイウェイズVSチーム・ドバンの回想の続き……の続き―





















 「どぁぁぁぁ!?」











 あれれ?ジャッジマンが消えた?











 「いや、消えたんじゃなくて潰されたんすよ。えーと」


 「ダークジャッジマンのお出ましだろう。プレダコンズがこのバトルをジャックしたんだ」












 そーそー。ダークジャッジマンが……って、えー!?


 じゃあキーコードなくなっちゃうじゃん!なんてことを!












 「もっとも、連中からすればこちらの思惑なんて眼中にないがな」


 「しかし、それ故に悪質。許しがたい」















 そーだよ!バラン師匠の言うとおりだよ!どーすんのコレ!


















 「ヒャッハッハッハッハッハァ!このバトルは、プレダコンズがジャックしたぁ!

  お前らのお相手はぁ、コイツだぁ!!」














 ダークジャッジマンのセリフと共に、どこからともなくスポットライト。辺りが暗くなる。


 ……なんで?















 《――フッ、よもやドバン家や機動六課のチームと戦えるとはな。

  この美しきルシファーの相手として、不足はない》

















 スポットライトの真ん中に降り立ったのは、白を基調として黄色のラインやアクセントが目を引くカラーリングの1体のロボット。人間サイズの。


 右手に紫に光る剣、左手にフィンみたいな突起部がある独特な形状をした盾。背中には5枚の紫の羽が生えたブースターが2つ浮いてる。


 頭には2本の角があるんだけど……騎士っていうか、天使っていうか…。














 「ぬぅ、ルシファーとは神話の堕天使の名ではないか。各所の装飾も、騎士と天使を掛け合わせたものであるな?

  敵ながら天晴れな造形なり」















 神話の天使なんだ…。堕天使?


 堕天使の翼って黒じゃないっけ。まぁいっか。













 《"粛清の堕天使"ルシファー、お前たちを排除する者だ》




 「レディー、ファァァイッ!!」















 ダークジャッジマンのコールと同時に、ルシファーとかいうヤツがこっちに飛びかかって……って待ってよー!!

















 《どうした!戦場だというのに武器を出さないのか!》


 「その武器の状況を見てほしいんだけど!?」
















 今、アンカーズメイスがからめとられて使えないんだけどなぁ!?


 んもう、これだから中途乱入されるの嫌なのよぉ!!
















 「だったら伏せてろ!アームバレット!錨の方をルシファーにぶつけろ!」


 「了解なんだな!おりゃああああ!!」


 《なにっ!?》
















 錨振り回してるー!!しかも狙いが荒い!怖い!















 《だが、この天帝ネメシスシールドの脅威にはならないな!

  ヘブンズエッジの錆になるか!》















 あの盾ではじいて、アームバレットに接近。そのまま剣で切り倒す。


 って、あの、アンカーズメイスの鉄球と錨って超重密度で、片方だけで10トンあるんだけど…。


 オマケに懐に飛び込むまでにかかった時間は3秒くらい。パワーだけじゃなくてスピードもかなりのレベル。


 もしかしなくても、アンカーズメイスが通じないのかも…。
















 「だが、一人だけでオレたち全員を相手にするつもりか!?」


















 シグナルランサーがその槍でバックアタック。体勢が崩れたところに連続突きを繰り出して突き飛ばす。


 ていうか今気づいた。背中の翼ってくっついてなくて、浮いてるんだ…。


 ……って、そうじゃない。早くアンカーズメイスを回収しないと…。



















 《えぇい、美しくもないくせに調子に乗るな!》


 「そっちこそ調子のってんじゃねぇよ!」



















 すかさず体勢を立て直して、シグナルランサーに斬りかかる。


 でも、そこにガスケットがビームを浴びせて阻止。盾で防がれたけど、その防御動作の内にシグナルランサーが離脱。


 連携すごいなー。私たち門下生って、あまり連携行動はとらないからなぁ…。


















 「まだ覚えたてだが…試すには絶好の間合いか!」




 <ATTACK-FUNCTION LIGHT SPEAR.>




 「おぉ、見事な一撃っす」


 「槍系の技故に、間合いを分かりきっておる。やはりワシの見込み通り、手練れであるな」


 「私たち……出る幕、あるかな?」

















 ガスケットの射撃で少し後退したところに、シグナルランサーがいきなり"ライトスピア"を発動。


 盾のガードも間に合わず、右半身に光の槍が直撃。そのまま爆発。


 ミナトもバラン師匠も感心してるんだけど、これ、私たちの出る幕が無いよね。まぁ、アンカーズメイス拾う時間がとれたけど。


 体格差のせいもあって、直撃だし、ルシファーはもうご臨終だよね?



















 《……くく、くくくく…!やってくれるじゃないか…!

  だが、感謝するよ。僕の美しさを引き立たせてくれてねぇ…!!》


















 って、まだ健在!?しかも、爆発したらしい右半身は外装が吹き飛んで黒くなってるし、血がにじんでるみたいになってるし…。


 右側の羽も少し歪んで、両方の羽の色が赤くなってる。


 こんな状態で動けるなんて…。ていうかあの姿、まるで悪魔じゃない。美しいのかなぁ…?




















 《哀れだなぁ。この美しさが分からないなんて。

  まぁいいさ、僕の新たな美しさを、世界、いや、宇宙全てに知らしめてやるよ!!》








 <SERAPHIC MODE.>








 「ヒャーハハハハハ!"セラフィックモード"の発動だぁ!

  もうお前らに勝ち目は、なぁーしっ!」

















 セラフィックモードって…。


 もう騎士とも見えないんだけどなぁ、アレ…。


 まぁ、そこはもうおいておこうかしら。だって、人の美意識って直せないから。

















 《さぁ、この美しい僕の引き立て役として粉々になるがいい!!》




 <ATTACK-FUNCTION DEVIL SORD.>




 「って、思いっきり"デビル"って言ってるぞ!?」


 「名前について矛盾を感じるっすよ!?」


 《関係ないね。くらいなぁ!!》


















 なんでこう、名前についてツッコミどころが多いんだろう。ガスケットとミナトにダブルでツッコまれてるよ。


 とかいってる場合じゃない!なんかゲロビみたいな剣を振り下ろしてきた!!


 バックステップ、更にサイドステップ!薙ぎ払いのゲロビだなんてたまんないよ!


















 「んで、僕らだけ飛ぶんかいぃぃぃ!!」


 「飛びます飛びます!!」


 『キランッ☆』




 「あぁもう、結局こうなるのか!」




















 ガスケットとアームバレットがお星さまになっちゃった!?


 "飛び要員"って、そーゆーこと!?


 あと、シグナルランサーが頭抱えてるのって、なんでだろう…。


 それにしても、とんでもない威力。直撃したらさすがにマズイ……って、アレ?ミナトは?




















 「いい加減に、退場するっすよ!フォースチップ、イグニッション!」



 <ATTACK-FUNCTION STARDUST CRACKER.>















 シースタースパイクを分離、元のヒトデ型に戻して裏側のスロットにイグニッション。


 力をまとったそれを勢いよく投げると、色違いを含めて5機に分裂!これぞミナトの必殺技の1つ"スターダストクラッカー"ね。


 いつの間にか至近距離に接近してたからか、全弾命中!そのまま張り付いて、5機それぞれが電気ショック!


 メカだから余計に痛そう。ショートとか、そんな。


 でも、さすがに一撃の破壊力が高い技じゃないよね?ていうか、破壊力重視ならもっといい技があるのに…。
















 「でかしたぞミナト!あとは下がっておれい!」















 バラン師匠!?「我こそはバラン・ドバン」まで復活して、何する気!?



















 「我らの純粋な高みの勝負に水を差し、あまつさえ無効試合にするなど、断じて許すワケにはいかん!

  このドバン家の鉄球で粉砕してくれるわ!」




















 そういうと、バラン師匠は"ドバン・ハンマー"を出して、右手で根元付近の鎖を持つ。


 あの鉄球は、ドバン家の代々の当主たちが受け継いできたもの。もの凄く重くて、私でさえ持ち上げるのがやっと。


 とりあえず、生身でくらえば全身の骨が粉々になると思う。


 私やミナトも含め、門下生たちもアレの直撃を何度もくらっているので、アレの恐ろしさは身に染みてわかる。


 あ、門下生の服はドバン家特別製で、バリアジャケットと同じものになっているから、致命傷は免れてるんだけどね?




















 「鉄球、入魂!!」




 <ATTACK-FUNCTION DOBAN IMPACT.>

















 いきなりイグニッション!?背中のチップスロットにフォースチップが入るの見えた!


 それすなわち、バラン師匠のドバン家奥義"ドバン・インパクト"の合図!


 でも、ルシファーはかなり素早いよ!?空振りしたりなんかしたら、隙だらけだよ!?



















 「むぅぅん、っく……ぬぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」
















 とか考えてる間に、一度放り出されてからある程度の距離で止まった鉄球が、バラン師匠の動きに合わせて回転。


 バラン師匠が伸ばした鎖を持ったまま背中のブースターを点火して、上半身丸ごと回り始める。


 回転速度はどんどん上がって、しまいには竜巻が起きるほどに。

















 「だりゃああああああああ!!」
















 そこから、鉄球が投げ出されて、ルシファーめがけて飛んでいく。剛速球で。


 敢えて少し離れたところから飛距離を決めて、アイツに届くところで鎖の延伸をストップ。


 そのまま勢いが衰えることなくルシファー目がけて飛んでって……



























 《ふざけるな……この僕が、こんなことで終わってたまるものかぁぁ!!》


 <ATTACK-FUNCTION SERAPHIC WING.>













































































 「大!粉!!砕!!!」































 直撃したー!!


 ていうか、"セラフィックウィング"……だっけ。アレで翼から出た無数のビームの嵐を真っ向から吹き飛ばして、


 そのまま直撃。全然勢いが衰えないのって、バラン師匠とかの当主にしかできないのかな。


 でも、運任せ…じゃないよね!?














 「ちっちっち。シズクー、スターダストクラッカーの特性忘れてるっすよ。

  ルシファーの動きを止める為にあの技を使ったんすよ」


 「……あ」
















 そっか、忘れてた。


 スターダストクラッカーは、威力が低い代わりに、複数のシースタースパイクの連携で電磁フィールドを作って、


 密着型にすることで動きを止めてしまうっていう追加効果があるんだった。


 だからわざわざ、あの技を使ったんだねー。
















 「ふははははは、ワシに砕けぬものなどないわ!」


















 一方で、見事に必殺技を命中させたバラン師匠は満足げ。っていうことは…。


















 「同クラスのサイズの相手が粉微塵とは…。なんという威力だ…」

















 シグナルランサーが驚愕している通り、ルシファーは粉々。


 残骸集めるのも難しいんじゃない?でも、シースタースパイクは?


 動きを止める間、シースタースパイクは張り付きっぱなしじゃ。















 「問題ないっすよー。当たる直前で全部逃がしたっすから」















 その言葉と共に、赤いシースタースパイクがミナトの手元に戻ってきた。


 遠隔操作できるって、すごいなぁ。





















 「ダークジャッジマン!貴様も吹き飛べい!!」





















 あ、ダークジャッジマンがドバン・ハンマーで黒いジャッジカプセルごと潰された。





 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 「――で、無効試合になっちゃったから、シグナルランサーとはそこで離脱。

  対戦相手を探して移動してたら、ここに…ってワケなの」


 「そうだったのですか」













 シズクの長い長い回想のおかげで、今のアイツらとシグナルランサーたちの状態はよっくわかった。


 結構厄介なことになってたみたいだけど、大丈夫そうだな。















 「つーか、ガスケットとアームバレットは星になったのな」


 「あ、ツッコむとこはソコなんだ」














 ガスケットとアームバレットっつったら、まずソコをツッコむだろ。


 そーゆーホクトだって、大体同じ認識してるくせに。


 でも、アイツらにしちゃ随分と粘ったなー。もう少し早い段階で星になるかと思ってた。


 具体的には、シズクがギャラクシアン・テンペストを使ったところから。















 「説明はありがたいんだけどさー、わざわざバトル中にやらなくても…。

  チーム・セイバーズが待ちくたびれてるんだけど」


 「茶番劇はいい加減片付いたか?」


 『あ』

















 フィーリに言われて思い出した。


 そーだよ。あたしたちだって現在バトル中じゃん。


 しかも(不注意とはいえ)ホクトが先制ダメージ受けてるんだから、少し慎重にならなきゃいけねぇのに。

















 「取り敢えず、チーム・ドバンはバトルフィールドから離れてねー。

  マップ無いなら貸すからさー」


 「むぐぅ、やむを得ん」


 「まぁ、ウチらもキーコードはあと1つなんですし、手近なところをどんどん当たるべきっすよ」


 「取り敢えず移動しましょうよ。でないとお邪魔みたいですしー」
















 あ、チーム・ドバンの3人がすごすごと退散した。


 まぁ、アイツらとしてもアーツバトル連盟を敵に回す気なんてないだろうしなー。


 あたしらもキーコードは残り1つだし、戦う機会があっても本戦だろうけど。























 「……悪かったな。こっからはバトル再開だ」


 「仕切り直しといこうか」


 「さっきのお返し、絶対してやるからね!」


 「どこからでもかかってこい」


 「騎士道精神にのっとり、正々堂々受けて立つ」


 「我らヴァーミナル家の実力、その身に刻み込んでさしあげよう!」















 あたしもオットーもホクトもやる気十分。


 対するテレイル、フロスト、ナレスラも真っ向から迎え撃つ気だ。


 おもしれぇ、どっちが勝つか勝負だ!






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 「いい加減……しぶといってのよ!」


 「ぐわぁっ!?」














 ナムチ様の刃が、チーム・クアドラの一人を打ち据える。


 たたらを踏んだところを見ると、ダメージはやっぱり通ってる。


 でも、ナムチ様の刃を真っ向から受けて、たたらを踏む程度。やはり、屈強な相手であることに変わりはない。


 そりゃあ、ボクの水面斬りをくらってもほどなく復帰したりするよね普通。


 ボクやスクナ様に、ナムチ様ほどのパワーはないから。

















 「ったく、どんだけこっちの攻撃に耐えるのよコイツら。

  いい加減、斬ってるこっちの方が疲れるわよ」


 「その愚痴、せいぜい褒め言葉と受け取っておこうか」

















 結局、現時点で決定打を与えられたのは、ナムチ様の必殺技のみ。


 あとは殆どダメージになってない。


 傷はついてるし、全く効いてないっていうことでもないと思うけど…。















 「仲間を落とされた手前、ただやられるワケにもいかん。

  悪あがきぐらいはさせてもらうぞ!」


 「その役、ワシが買って出るぞ!」


 「ダーツァー選手を落とされた弔い合戦、名乗りを上げたのはフィルズラ選手じゃなくてバルツァー選手!

  その頑強な防御力を、今度こそ活かしきれるのか!?」














 両手を軽く1回ぶつけて、助走をつけてこっちに突っ込んできた。


 でも残念、その程度のスピードで追いつけるワケないでしょ!?














 「調子に乗るのはこの一撃を受けてからにしてもらおうか!」


 「なっ、こんなところで変形!?」


 「見た目通り、船ですな〜」















 ジャンプしたかと思うと、空中で船に変形。


 鋭角的な船首を持つ大型のタンカー……かな。
















 「でぇりゃあああああああ!!」


 「ナムチ様!」


 「くっ」


 「なんとバルツァー選手、空中で変形してからナムチ選手に向かって急降下!

  でも、はずれてしまったぞ!?」














 その図体で押しつぶす気?でも残念、ナムチ様はなんとか回避。


 地面に大穴開けて突っ込んじゃったけど…?













 「賭けに出たようだけど、軍配が上がったのはこっちの方だったね。

  悪いけど、先にそっちから叩かせてもらうよ!」


 「どうかな?」














 <ATTACK-FUNCTION KOUSOKUKEN ISSEN.>







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 「が……は……っ!?」












 な、ちょ、リラ!?
















 「な、なんとぉ!?地面の奥深くに埋まったかと思われたバルツァー選手、まさかの奇襲攻撃ぃ!

  地中からの"光速拳こうそくけん一閃いっせん"が、リラ選手の背に突き刺さったぁぁ!!」


 「そ、そうか!姉御めがけてダイブしたのも、

  本当はあのアタックファンクションをぶちかます為のフェイクだったんですよぉ!」


 「その通り!まんまとひっかかったな、これで戦況は五分五分に戻ったぞ」















 フウマの実況が響き渡る中、一撃を深々と叩き込まれたリラは跳ね飛ばされながらブレイクオーバー。


 力技キャラかと思ったら、随分とこしゃくな手も使ってくるのね…!
















 「北極や南極の氷とて、力任せで壊せるほど甘くはないからな。

  力の入れ方や入れる角度にも注意を向ける必要があるのだ。ある意味で職業病だがな!」


 「しかし、それもこれも極寒の海で鍛え上げた頑強なボディと神経があればこそ。

  関節を狙えばそれで勝てるとは思わないことだ」














 とはいえ、さすがにマズイかもね…。


 いくら小悪魔王ナムチ様といえど、あんな怪力2体をまとめて相手にするには分が悪いわよ…!














 「…………姉御、ここは1発、私に!」


 「あ、こら!?」


 「トモエゲキを振り回し、スクナ選手がバルツァー選手とフィルズラ選手に向かって猛ダッシュ!

  何か作戦はあるのかぁ!?」














 バカ……アンタまで落ちたら、それこそ小悪魔王最大のピンチじゃないのよ!


 フウマにはわかりそうにない作戦だろうけど…。















 「真っ直ぐ突っ込んでくるぞ!」


 「面白い、ならばアレをやってみるか。バルツァー、大氷塊用の技でいくぞ」


 「了解!」


 「クアドラの二人が左右に散った!でもそう遠くはない!

  殴り合いなんか始めたら簡単に届きそうだ!」













 巨体2つが左右に少し離れて、スクナを挟み撃ち。


 でも、あの位置からならトモエゲキの鉄球を両方の顔面に叩き込むこともできそうだけど。


 ほら、アイツってそれこそ猿みたいにすばしっこいs
















 『くらえ、デュアルプレスクラッシャー!!』


 「なんと!頑強な巨体を持つ二人が自らのボディでサンドイッチ!

  スクナ選手、完璧にホールドされた!ていうかあの二人がデカすぎて見えないぞ!」
















 よくもまぁ、やってくれるじゃない…!


 今度こそ、アンタら二人まとめてゼツセイバの錆に…















 「大丈夫ですよぉ姉御。私はまだ健在ですからねぇ〜」


 『なにぃ!?』


 「これって何のマジックだぁ!?スクナ選手、挟まれたかと思ったら二人の真下に!」


 「スクナ、アンタいつの間に…」


 「いやぁ〜、デカいヤツほど脇が甘いっていいますし〜。

  あ、単に挟まれる直前に足の下に逃げただけなんですけどね?

  そしたらこの人たちのぶつかった衝撃がすごすぎて、地面に少し埋まっちゃって」


 「衝撃だけで人を地面に埋めるパワーにツッコめばいいのか、

  地面に埋まっても気づけないような隠れ方をしたスクナ選手にツッコめばいいのか、

  もう私は全くわからないぞ!」















 地面に埋まるくらいの衝撃って……。


 くらった時のことを考えるとゾッとするわね。ていうか、スクナはスクナでビビらせるんじゃないわよ!













 「あ、姉御もちゃんと心配してくれてたんですねぇ!

  感激だなぁ〜!」


 「し、してないわよ別に!ていうか、さっさとなんとかしなさいよね!」


 「はいな!」


 「いかん、早く離れるぞ!ヤツの武器は鎖鉄球、リーチとピンポイントな破壊力はあなどれん!」


 「お、おう!」














 「トモエゲキ奥義、双塊流星撃そうかいりゅうせいげき!!」













 力を込めて振り回しながら、まずバルツァーの脳天めがけて剛速球の如き一撃、


 すぐに引き戻してフィルズラの脳天にも一撃。なんかあの軌道、∞マークみたいな感じね。


 しかも、叩きつけた時の反動を切り返しに利用しているのは見事ね。














 「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。

  ウィナー、チーム・スサノオ!」


 「チームメイト一人がやられるというハプニングはあったけど、

  スサノオが勝利を収めたぞ!これで残りのキーコードは1つだ!」














 スクナったら、大手柄じゃない。この調子で頼むわよ。


 あと1つ。














 「申し訳ありません……力になれなくて」


 「まぁ、アイツらのパワーは本物だったワケだし、次頑張るしかないわね」


 「姉御ぉ。リラは予選中はもう戦えないですよ?ブレイクオーバーしちゃったし」


 「え?…………そ、そうよね、分かってたわよ別に。本戦でって話よ」













 な、なによスクナ、そのにやけ顔。分かってるんだからね。ホントに分かってるんだからねっ!?






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「だりゃあっ!」


 「せぇいっ!」


 「たぁっ!」









 オレ、あずさ、アリシアの3人同時攻撃。


 対するは、既にチームメイト二人をやられて孤立したチーム・ボンバーズのリーダー。


 両腕のランチャー型の盾でしのいできたか。












 「はぁっ!」


 「おっと!?」


 「全砲門、斉射!!」












 ランチャー型の盾だけじゃなく、


 両肩、両足、両腰、と全身に満載されたランチャーから雨あられといわんばかりのビームやらミサイルやらをぶっ放す。


 けどまぁ、こちとらそんなもんに当たるようなヤワな鍛え方はしてないからな。














 「二人とも、こんなチョロイのに当たるなよ!」


 「言われなくても!」


 「当然!だって、お兄ちゃんとなのはちゃんのせいで鍛えられてるからね!」
















 よけてくれたのはうれしいけど……なんかメチャクチャ失礼なこと言われた気がする。















 「おのれ、全弾回避とは…。どうやら筋金入りのソルジャーのようだな!」


 「今更かよっ!」


 「アーツバトルでは、能力はあっても経験がないような連中も割と多いからな!

  見慣れないヤツにはつい偏見を持ってしまうのさ!」


 「ご丁寧な説明どうもっ!」














 まぁ、こなた達がリア・ファルたちにバカにされた挙句惨敗したっていうし、


 ダークバトルでなくてもそういう風潮はあるみたいだ。


 爆天剣を構えなおしつつ、アイツの行動には注意を払う。















 「ならばとっておきの一撃だ…。よけられるものならよけてみろっ!」


 「って、何もないじゃん」


 「煙が出ただけ…?不発?」


 「……む、こんな瀬戸際で…!ストラバレル、一生の不覚!」












 なんだ、トラブルか?ついてないねー。












 「んじゃ、さっさと撃墜させてもらうとしますか」


 「ちぃっ!」












 手早く撃墜させてもらう。キーコードを集めるのも楽じゃないね。


 まぁ、コイツを倒せば最後なんだけどよ。ストラバレルだっけ?悪いな、オレたちの勝ちみたいだ。













 「…………お前、地球とかいう星の出身だったな」


 「あ?」


 「地球人は見識が狭いと聞いたことがあるが……本当のようだな!」


 「ぐああっ!?」













 いきなり背中の方で爆発!?やっべ、体勢が…!













 「ダメ出しだ!」













 エビぞりになって吹っ飛ばされたところに腹パンチ。


 逆方向にブッ飛ばされる……いってぇ…!
















 「ジュンイチさん!」


 「お兄ちゃん!」


 「バカめ!」


 『きゃああああっ!?』
















 援護しようと動いたアリシアとあずさも爆発でやられる。


 吹っ飛ばされた先にオレも飛ばされて、そこにまた斉射してきやがった!


 これはなんとかオレの炎で弾幕張って相殺したけど……どうなってんだよ…!















 「さてな、原因はブレイクオーバーしてから考えるんだな!

  トドメを刺させてもらうぞ…!」












 やべ、相手のカラクリが分からないんじゃ、対処のしようがねぇ…。


 地味にダメージもデカいし……。それに、あの爆撃じゃ考える暇もあるかどうか!













 「どあぁぁぁ!!」


 「ジャッジマン!ダークバトルか!

  相手は……そこk」














 突然ジャッジマンが潰された。


 多分、ここもダークバトルにされたんだろうけど、問題は今ストラバレルを吹き飛ばしたビームだ。


 しかも、かなりの高密度だな…。吹っ飛ばされた先でストラバレルがブレイクオーバーしやがった。


 誰だよ…!
















 「くそっ、遅かったか…。こんなタイミングで露呈する羽目になるなんて!」


 「アストラル!?」


 「コイツか、報告してきたチェック柄のパーカーのヤツって」


 「そう、なんだけど……どういうこと?この場にくるなんて…。それも一人で」















 確かあずさたちが追跡した時は、グリームニルとかいう偽装デバイスなんかも使ってきたんだよな。


 でも基本中の基本は、チャクラムビットによるオールレンジ攻撃。


 まぁ、それはガチで叩く時になってから考えるか。今はそれどころでもなさそうだし。















 「まず最優先注意事項。

  あの尾の先端から発射されるのは荷電粒子砲だから、防御手段ないヤツはすぐに逃げることを推奨する」


 「荷電粒子砲!?そんな馬鹿な」


 「事実さ」


 《確かに、先ほどの光線はかなり高密度の荷電粒子エネルギーを持っていましたね》


 「あー、あのビームぶっ放したのはアイツか」











 驚いたあずさの言葉に異を唱えたのは蜃気楼。さすがに一瞬で解析できたか。


 オレが見やった先には、カー○ィがデ○スティ○ガーのパーツまとったみたいなヤツがいた。


 報告だと、確かユーリプテルスっつったっけ。


 恭文経由でトラルーから聞いた話だとポラリスがご執心だっていうからどんなヤツかと思えば…。













 「ナリはあんなだけど、元々生きていた時代では上司と部下だったのさ。

  もっとも、当人たちはそんな概念を超えた気持ちを持っていたようだけど。

  立場を超えた友達ってヤツかね。僕はまだよく分からないんだけどさ」













 ……?


 なんか今、アストラルの目がどことなく物悲しい感じに見えたような…。


 トラルーの同類だっていうから、人生経験は随分とありそうだけど。


 つっかかるモンでもあんのか?














 「まぁね。お前もユニクロンの眷属にでもなってみれば、少しはわかるかもよ」


 「は?」


 「長生きするだけじゃ理解できないこともあるってことさ」














 やっぱりだ。こりゃなんか一物抱えてるぞ。


 しかし、ユニクロンの眷属ねぇ。まっぴらごめんだが、生まれた時からそうだったアイツらなりの考えか。


 オレらが知ってる中で分かりそうなのって、トラルーぐらいだけど。













 「現状に話を戻すけど、今のユーリプテルスには理性が無い。

  迂闊に近づけば、それだけでどうなるか分かったモンじゃないよ。

  悪いことはいわない。さっさとここから離れることだ」


 「んなワケいくかよ。こちとら友達の友達の仲間がご執心の相手と鉢合わせしたんだぞ。

  だったら、スルーしてくワケにもいかねぇっての」


 「じゃあ、私たちも残らなきゃね。心配だもん、ジュンイチさんだけ残すとすぐ無茶するし」


 「あはは、いえてる。だから私も残るよ、お兄ちゃん」


 「勝手にしろい」













 アリシアやあずさもやる気か。正直なところ、ありがたい。


 ユーリプテルスのオーラ見る限り、ちょっとやそっとじゃ解決できそうにないし。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 まったく、とんでもないことになったよ。


 よりにもよって柾木ジュンイチのチームと鉢合わせするとは。


 ゼノンとは途中ではぐれちゃうし…。









 ユーリプテルスは現在、消去した筈のバーサークモードが発動した状態にある。


 荷電粒子砲を勝手に使ったのも、バーサークモードのせいで正気をなくしたからだ。


 あぁなると、力づくで止められない限り延々と破壊行為を繰り返す。


 ターゲットなんて初めからない。周りにいるものは全て攻撃対象であり、ただの障害物だ。


 更に厄介なことに、直接攻撃でつぶした相手から生命エネルギーを吸い取って、回復までしてしまう。


 だから、ユーリプテルスを蘇生する時に消去した筈なんだけど…。


 当然、暴走した原因は不明。


 ただ、クヴァシルを介して暴走した過程は察知できた。











 "何者かにハッキングされ、バーサークモードを強制的に発動させられた"んだ。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 さて、僕たちはそろそろ動きたいところだけど、大丈夫そう?


 特にクリティカルダメージくらったポラリス。










 「あぁ、もう大丈夫。こう見えて耐久力と回復力には自信があるんだ」


 「確かに、小細工が通じないあの防御力は非常に厄介だったぞ」


 「それに、休憩して5分でそこまでアクロバティックな動きして息切れしないなんてね」


 「伊達に王自ら最前線で戦い続けたワケでもない、ということですね」













 実際、腹パンチなんてされようものならそれだけで数分は動けなくなるってのに、


 必殺技の直撃くらっても少し休んだだけでピンピンしてるんだもの。


 回復ぶりをアピールする為にってバック宙を30回連続でやって息切れしなくなるってなぁ。












 「とにかく、私たちはもう大丈夫だ。

  恭文たちも早く行動しないと、キーコード2つは集まらないぞ?」


 「いや、おたくらの場合1個もない状態だってことはわかるよね?」


 「心配ありませんよ。少なくともユーリプテルス級の相手に鉢合わせない限りは問題ないでしょう」






















 「鎧王さまぁぁぁぁ!!ご無事でぇぇぇぇ!?」




















 いきなり突っ込んできたコイツは誰?


 しかも鎧王って確か……ポラリスの別名じゃなかったっけ?


















 「古代ベルカ時代の生き残りか?」


 「だろうね。俺も戦後の旅で結構生き残りさんに出会ったし、軍関係にいても不思議じゃないでしょ」













 マスターコンボイの問いは、リティからすれば正解らしい。













 「パスナ…!生き残っていたの!?」


 「はいっ!第6師団所属、行動隊長パスナ、健在でありますっ!」


 「……突然だけど、私が鎧王だった頃の部下のパスナだ」


 「よろしくであります!」














 パスナっていう彼は、青いショートヘアーにオレンジの目、青紫メインでオレンジのラインがある服を着てる。


 あとは上着がノースリーブであることと、下は膝まで届く長さの黒いショートズボン、グレーの靴。


 頭にはクリアオレンジが美しいヘッドギア。耳の部分にブレードアンテナ的なものがある。


 そして……肩から背中にかけてのユニットが目を引くんですけど。














 「これは自分の得意装備、"ワイルドウィーゼルユニット"であります!

  戦争当時からCPユニットとしては高額でありますが、その分優れた能力を秘めており、

  自分は射撃特化形態として愛用しているのであります!」


 「CPユニット…?」


 《あぁもう、また聞きなれない単語が出てきたぞボス》


 「オレに聞くな」


 「CPユニット、正式名称"カスタマイズ・パフォーマンス・ユニット"っていう、強化パーツのこと。

  基本的に人が装備することを前提に設計されていて、装備者の戦闘力を強化することを役目とするパーツのことよ。

  まぁ、今じゃベルカ関係でも聞かない単語だろうけど…」













 マスターコンボイとオメガがモメ始めたことを察して、ポラリスが補足してくれた。


 つまりは強化パーツってことらしい。


 確かに、僕はもちろん、ヒロさんやサリさんでも知らなさそう。


 知ってそうなのは、古代ベルカにある程度詳しいヴォルケンズぐらい。


 あとは、ポラリスやアレックスと顔なじみのトラルーたち?







 で、ワイルドウィーゼルユニットといわれたそれは、両肩にアーマーと一体化したアームがあって、


 それを介して両肩にビーム砲の集合体みたいなユニットを装備。ポッド状のものに二門、ポッド下部に二門ずつ。


 そのアームの基部に重ねるようにハッチでも開きそうな感じのユニットを発見。


 「まずは見ろ」といわんばかりに背中を見せてくれると、そこにはアームで動きそうなレドームと、首から背中にかかる基部ユニット。


 どうやら上から肩にかぶせる感じで装着して、背中の基部から出るベルトで固定するらしい。










 「ほほう、そこの茶髪の剣使いは分析力が高いようでありますな。

  では、この両肩のユニットには何かギミックがある。マルかバツか」


 「えっと……マル」


 「ふぁいなるあんさー?」


 「ファイナルアンサー」


 「正解であります。でも、さすがに敵がいないところでは使えないであります」


 《攻撃用のギミックということですか》












 まるでビックリ箱。何が出るんだか知らないけど。


 でも、アルトの予想は正解だと思う。













 「さて、自分の紹介も軽く済んだところで、鎧王様、今一度自分に直営任務を!」


 『直営!?』


 「待て待て、今は試合中だよ?直営ってつまり、同じチームに入りたいと?」


 「その通り。なんせ自分は、鎧王様を探す為にエントリーしたくらいであります!」


 「ならその時点で無理だろう。チームが違っていては…」













 僕のかけた待ったには反応してくれた。けど、聞く耳持たずって感じ。


 マスターコンボイも指摘する通り、エントリー済みで違うチームじゃ…














 《いいんじゃないかな?》


 《そ、総帥!!》















 突然、こっちにウィンドウが展開。アーツバトル連盟のやつだ。パレサ映ってるし。


 けど、賛同を示してきたお隣さんがよく分からない。


 パレサが言うには、総帥……って……えぇぇ!?














 「連盟の総帥ということは、名実ともにトップの筈だ。

  こんなフィールドの片隅に直々にお出ましになるとは、どういうことだ?」


 《なぁに、あの鎧王と飛王がこの大会にいるというから、興味を持ったのさ。

  他にもいろいろと抱え込んでる人もいるみたいだけどねぇ》


 『う゛』













 マスターコンボイの問いに、僕にも彼にもリティにもキツいことをサラリと言ってくれた総帥殿。


 見た感じ、男の子とも女の子ともとれる顔つきだけど……声からすると男の子、かな。


 白に近い黄色の髪がアホ毛付きのロングヘアーっていうのも判断に困る感じ。こう、ね、胸が平たいですし。


 その胸には八角形の赤いプレートのようなものが。中央に黒い十字マークがある。


 胸元からお腹までを水色、その下から膝のところまで届く長さで青という配色のボディスーツ…かな。ノースリーブの。


 水色と黒の靴に、右手にはぴっちりめの黄色に大きめの黒という二重構造の手袋。


 でも、一番目を引くのはやっぱり、左腕の肘から下を覆う、大きな羽みたいな形をした衣装。


 固そう…だよね。鋭利な盾って感じで使えそうだけど…。全体的に赤で、不規則にオレンジのラインが入ってる。


 右腕にもあったら、それを翼として飛んでしまいそう。














 「う、うそ、でしょ…!?」


 「消息不明だった筈では…!?」


 「貴様らが知っているということは、またしても古代ベルカ絡みか」


 「……というより、全般的な歴史的有名人、って感じかな」


 「どゆこと?」














 ポラリスとアレックスが総帥殿を見て驚愕したので、マスターコンボイの考えもある意味で当然。


 けど、そこで待ったをかけたのはリティ。


 全般的な、って、どういうことだろ。














 「ちょっと旅先で見たり聞いたりしたことがあるんだけど、

  ミッドにもベルカにも属する完全同調型の魔法を使い、全ての属性を持つ王がいるって。

  というより、今にも伝わっている魔法の大半はその王が生み出したものだって」


 「王……ってことは、やっぱり古代ベルカじゃ」


 「いえ、ボクやポラリス、マグナ、ヴィヴィオやイクスといった王の更に上にいるのです。

  古代ベルカ戦争の表舞台には出ませんでしたが、他の王の誰もが畏敬の念を抱いている存在……」


 「ベルカもミッドもなく、ただ戦争を嘆いて全てを消そうとした王。

  全ての魔力の源でもあるという性質故に呼ばれた、王としての名前は……"源王げんおう"モノ」


 《あのー、たいそうに語ってくれているところ悪いんだけど……モノは総帥じゃないわよ?

  総帥はこちら》


 《はーい》














 えぇー!!そんなアホなー!!


 思わず僕ら全員ずっこけた。そう、全員。パスナまでずっこけるって、ノリいいなこの人も。




 「はーい」なんてお気楽な声で答えてきたのは、かなり小柄な帽子姿の子。多分、男の子。リティみたいなパターンか。


 雪のように白い髪は少しだけ長めのショートヘアー、まるで全てを見透かすかのような鮮やかな水色の瞳。


 服は襟が大きくて袖が長いもので、見た感じトレーナーっぽい材質だね。袖口、襟、といった外周に黒のライン、残りはサックスブルー。


 胸元のところには瞳と同じ水色の八角形のアクセサリー。中央には黒い十字マーク。


 あとはグレーの靴と帽子。帽子の両サイドには、端部がリボン調の三角カットになった帯が1枚ずつ。外側が黒で内側がかなり明るいクリーム色。


 うわ、精霊なせいか小柄な部類にあるパレサよりも小柄だ。まるで姉弟か何かだよ。















 《改めて紹介しておこうかしらね。

  このお方こそ、我らがアーツバトル連盟の全てを束ねるイディアル総帥よ!》


 「小さいな。エリオ・モンディアルたちよりも」


 「だよね。小学校中学年くらい?」


 《くぉらそこのチビ二人!総帥に対してなんと無礼な言葉を!》


 「貴様こそオレや恭文に対して無礼千万な言い方をしているクセに!」


 《やめなさい》


 《しかし、総帥》


 《や・め・な・さ・い》


 《すいません……》












 どちらともなく咬みつき合いを始めた僕らを止めたのは、他ならぬイディアル総帥。


 総帥相手ではパレサといえど頭が上がらないらしい。













 《とはいえ、蒼凪恭文君、マスターコンボイ君、君たちも自重してほしいな。

  身長に関する発言に過剰反応されるからやりづらいと、他の選手から苦情がきまくっているからね》


 「いえいえ、何を言いますか。別に、今すぐそっちに乗り込んでそこのパレサにこの世ならざる地獄を…」


 《やれやれ、仕方ない。見せしめが必要ということだね。

  モノ君、悪いけど頼むよ》


 《了解》














 見せしめ?














 『…………』


 「……恭文、さっきからオレたちにすごい剣幕が向けられていないか?」


 「奇遇だね、僕も同じこと思ってた」


 「恭文、よりにもよってモノを敵に回したらアウトだよ。

  消されちゃうよ。チート・オブ・チートと言われているジュンイチさんですら秒殺可能なチートキャラなんだから」


 「なんで」











 ジュンイチさんまで秒殺できるって、それこそどんなチート?バグ技?












 《安心していいよ、別に君たちで直接体験してもらうワケじゃない。

  まだ大会期間中だからね》












 え、まだ、って、まさかその内本気でやる気じゃないでしょうね総帥殿!?












 「古代ベルカの王だった私からすれば、自業自得な気もするんだけどなぁ…」


 「まぁ、トラルーさんも早い段階で放置決め込んでいますし、ほっときましょうか」






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 さて、ここは本戦トーナメントが開かれる闘技場の、受付現場。


 予選も佳境を迎えて、キーコードを揃えてきたって突撃かましてくるファイターたちの整理にてんやわんやだ。


 同時に、闘技場の観客席で本戦を見ようという客も大量に来ているので、入場制限として整理券を販売している。


 ただし、ここには審判団は絡んでない。あっちは予選の戦闘監視にかかりきりだしな。


 じゃあ誰がやってるかっていうと、実は手が余ったりする警備部だ。


 アーツバトル連盟の警備部は現在、闘技場全体を囲むように警備体制を敷いていて、


 唯一の出入り口である受付ゲートにはリーダー格が常駐している。受付を兼任してな。


 しっかし、これがまたかなりの大人数でなだれ込むもんだから大変だ。












 「やぁレリィ君、調子は……聞くまでもなさそうだね」


 『総帥!!!』













 ふと声がかかったと思いきや、イディアル総帥自らお出ましとは。


 総帥としても気持ちが高ぶっておられるのだろう、だから誰も彼を止めるようなマネはしない。


 第一、側近の一人であるモノがおらずとも、たった一人で古代ベルカの覇王とタイマンでやりあって勝つのだから、


 誰も心配していないという方が正しいのかもしれないが。


 暗殺だって恐れていないし、本人いわく暗殺対策はチート級……らしい。













 「レリィ君もシアン君もヘイル君もお疲れさん。念のため聞くけど、状況は?」


 「ファイターたちのキーコード確認作業はこのレリィが。まぁこちらは大丈夫です。

  寧ろ問題は、シアンとヘイルに対応してもらっている観客たち。

  もうすぐ整理券は完売ですが、完全にそれを上回るペースで来場中です。

  いかがしますか?」


 「んー、せっかく来てくれたのに追い返すのも気が引けるけど、限界はあるしね。

  そうだなぁ……外壁内臓式のモニターで中継するということにして、

  あぶれちゃった人たちには外で見てもらうことにしよう。準備の打診はこっちでしとくから」


 「了解です」













 総帥が直々に手はずを整えてくれるというのは、このアーツバトル連盟に限ってはよくあることだったりする。


 一口に「打診しておく」といっても、複数の組織や種族を持つ連盟では口頭処理だけで円滑に進めることはできない。


 まぁ要するに、総帥自ら担当者の元へ足を運び、準備を整えるまでを直接見たり、時には平社員と同じように作業したりもするのだ。


 実際、自分も総帥が作業員に混ざって整理券の増刷作業をしていた場面を目撃している。


 決して口頭処理だけで終わらないのがうちのトップ。存在自体が現場監督を兼任しているといってもいい。


 だからわざわざ、本部からこの闘技場に来訪してくださっているワケだしな。


 高みの見物なんてツマラナイ、というのが総帥の持論なのは割と有名な話だったりする。














 「じゃあ、僕は中に戻るから。君たちも見切りつけてシャットアウトする準備しといてね」


 『了解』













 そういって総帥は奥の方へ……闘技場の中へ戻っていった。


 さて、整理券はざっと……7割売れたところか。残りの客をどうやってさばくかな。


 そして受付を通過した、つまりキーコードを揃えたチームは……既に20を超えていた。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 <<<ATTACK-FUNCTION MIDARE-UCHI.>>>











 対戦相手の3体同時攻撃。しかも、連射系。


 でも、ボクに策アリ!












 「おっと!ここでルアク選手が3人に増えたぁ!?」












 実況を兼任しているらしいユウサの声が響く中、ブレンチシェイドで増えたボクが真っ向から砲弾の雨に。


 でも、両腕に展開したカマキリソードで防いで切り落として、距離を詰めていく。


 にしても、目の前の相手って完璧にグラディエーターだよね。某LBXの。で、持ってる武器はロケットランチャー。













 「いっけぇっ!!」


 「分身したルアク選手が突撃ぃー!相手は3体同時にぶっ飛んだぁ!」


 「ダメ出しだぁ!」


 「そこへブライ選手が割り込み、ラッシュをかける!」













 3人のボクが相手の体勢を崩して、そこにトラクローを展開したブライが飛び込む。


 これでもう相手の体勢はメッチャクチャ。ランチャーだから、近距離戦は難しいよねー。


 で、これはもう詰んだことを意味してる。だって……。














 「さっさとどけ!巻き込むぞ!」


 《ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギガスキャン!!》


 <ATTACK-FUNCTION STRAIGHT BLAZE.>


 「あぁぶねっ!!」














 トドメ要員として、タジャスピナーを左腕に装備したステンスがいるから。


 タジャスピナー上面にオースキャナーを構えて、手の甲から肘の方へ向けて流すようにセタッチ。


 これで中にある7枚のセルメダルが高速回転しながら読み込まれて、"ギガスキャン"が発動。


 7枚装填できるのに6枚までしか読み込まないことはツッコんじゃダメだよ?


 セルだけでやった時の"ストレートブレイズ"は、セルメダルを模したエネルギー弾が輪を描くように出現して、それを敵に向かって撃つ技。


 まぁ、ステンスいわくギガスキャンによる技の大半は射撃系らしいんだけど。


 それと、おかまいなしで放たれたものだから、ボクもブライも慌てて飛びのいたり。















 「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。

  ウィナー、チーム・イグドラズ」














 で、結局あのグラディエーター3体はストレートブレイズに巻き込まれてご臨終。


 そこはともかく……やったぁーっ!これで3勝!














 「チーム・イグドラズ、第3のキーコードを送信する。

  これで君たちは本戦の出場資格を得た。速やかにゴール地点へ向かいたまえ」


 「……キーコード受信。確かに受け取った」


 「んじゃ、そのゴール地点にとっとと行くだけだな!」


 「でも、コレでもまだ前半戦なんだよねー。先が長いっていうか…」














 あと、せっかくキーコードを揃えても、ゴール地点に着かなきゃ意味ないし。


 ナンバーワンを決めるのも大変だねー…。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 「さぁて、なかなか面白いことになってますよぉ!

  戦国精霊同士の対決!最上義光もがみよしあきを依元とするミアキ選手と、水原親憲すいばらちかのりを依元とするヤクチ選手が激突!

  双方、雑兵2名は既に脱落。大将同士による一騎打ちでございますぅ!」










 どうもー、実況兼監視役の一人、ミソギでございまーす。


 キーコード争奪戦も既に終盤戦に突入し、第3のキーコードを手に入れるべく躍起になっている選手が多数です!












 ミアキ選手は、空色のロングヘアーと紅色の瞳、体格はちょうど女子中学生といったところでしょうか。


 服装は青いノースリーブのレオタードに水色の縁どりがなされた白い振袖と腰巻。腰巻は2枚の白い帯が左右にある感じです。


 足にはグレーの膝まで届くロングブーツ、左右の肩から腕にかかるような長さのグレーのアーマーが浮遊していますね。


 アーマーを装着しているのではなく展開しているというのがまたポイントですね〜。


 あとは胸元と頭にある青い×印状のアクセサリーも印象的です。


 体格は中学生、しかし扱う武器は綺羅流星きらりゅうせいスターマイン」という大砲型の武宝。


 結構パワー型なんでしょうか。それにしてもいい感じに露出範囲が確保されている……というか、際どい服装ですね。







 対するヤクチ選手は、モスグリーンのポニーテールに金色の瞳、こちらも体格は中学生くらいでしょうか。


 服装はまず黒のインナーとふくらはぎまで覆う長さの黒タイツ、ただしインナーは胸と背中まで。


 その上に浅緑色の半袖コート、ですかね。長さは背中から太ももにかかるくらい。腰に同じ色の帯がありますね。


 足には固い素材でできていそうなブーツ、腕には浅緑の細長い帯を巻いていますね。


 ブーツと同じ色のU字状の髪飾り、指が出るタイプの黒い手袋。


 こちらは刀身がノコギリ状になっている大剣型の武宝「疾風迅雷ミツドノツルギ」を武器としています。


 大剣の扱いに手馴れてますねー。あと、戦国精霊だと彼女みたいなヘソだしキャラって割と少ないようですねぇ。














 開戦当初、それぞれ量産型パワードデバイスの「カブト」と「ムシャ」を2体ずつ連れていたのですが、


 互いに相手の大将格に倒される形で既にお亡くなりに。いや、大砲や大剣で潰されれば……ねぇ?




 なお、どちらも鎧武者型ですが、前者は青い鎧、後者はオレンジとグレーの縦長な鎧。それぞれ基本装備はハンマーと斬馬刀。


 何故こんなのが地球にあるのか、常々疑問なんですけど……。


 問い合わせたところ、ミアキ選手もヤクチ選手も別ルートで購入していたとか。ただ、その商人というのが素性不明。


 わかっているのは、黒い服が印象的な小さな武器商人である、ということだけなんです。いやはや…。


 おそらく、テクノロジーの根本はレルネ選手だと思うのですが、そこは後で要調査ですね。











 「護衛役はもういない。弾の装填というタイムロスがある大砲で、私を倒せるか!?」











 タイマン勝負になったことで勝ちを確信しているのか、ヤクチ選手はやけに攻めの姿勢。


 ミツドノツルギを振り回し、雷撃や火炎をばらまきながらミアキ選手を翻弄。


 あぁ、言い忘れてましたけど、ヤクチ選手には風、雷、炎を操る能力があるんです。


 戦国精霊とて、使う人は魔力を使いますし、ミッドやベルカでいう変換資質みたいなものがあるんでしょうね。


 更にヤクチ選手の依元である水原親憲も、史実に置いて雷や炎にゆかりのあるお方だとか。その縁なんですかねぇ?














 「そんなの、やってみなきゃわかんないでしょ!第一、近づけてないじゃない!」













 ミアキ選手の言うとおり、勝負っていうのは最後までわかりません。一部例外を除き。


 で、まぁ、現状ミアキ選手はノーダメージなんですよね。理由は簡単、護衛抜きにしても近づかれていないから。


 いくら雷撃や火炎をばらまいたって、元々遠距離戦闘の心得があるミアキ選手からすれば割とよけやすいでしょうし。


 あとは装填できたところでスターマインの引き金を引いて、砲撃していくと。


 タイマン勝負だと遠距離型が不利に見えてしまうかもしれませんが、意外と強いんですよ?特にアーツバトルのAランク以上は。













 「いい加減、その鬱陶しい大砲を真っ二つにしてやる!」


 「そうは、いかない!」


 <ATTACK-FUNCTION BRAKE BOMB.>


 「ここで放ったのは、なんとアタックファンクション"ブレイクボム"

  ヤクチ選手ごと地面を吹き飛ばして、目くらましです!」














 ブレイクボムとは、相手ではなく地面に向けて弾を撃って爆破してしまう技。


 もちろん爆風とかが当たればダメージになりますし、よけられても巻き上がった煙で目くらましの効果があるんです。


 確か、あの技の武器系統は両手銃。大砲は普通はランチャーという分類なので使えない筈なんですけど…。


 あ、そうか。綺羅流星スターマインはどんな弾でも扱うことができるという特殊能力があるから。


 つまり綺羅流星はランチャーでもあり両手銃でもある。だからブレイクボムのような両手銃のアタックファンクションも使えるんですね。














 「おのれ小細工を…。だったら、まとめて吹き飛ばすまで!」


 <ATTACK-FUNCTION SWORD CYCLONE.>


 「対するヤクチ選手、"ソードサイクロン"による薙ぎ払い戦術で対抗!

  煙がとんどん切り払われていくー!」











 ソードサイクロンは、剣を構えて高速回転して、巻き起こった風の渦と共に敵を切り刻む技。


 巻き込まれれば連続斬撃が待っていますし、そうでなくても強風が巻き起こっているワケですから迂闊に近づけない。


 至近距離で発動されたらかなり危ないですね。














 「……っ!?いない!?」


 「残念!こっちだよっ!」


 「ミアキ選手、ブレイクボムによって生じた煙に紛れて素早く退避!

  すぐ近くの岩陰に身を潜めていたようです!」












 ソードサイクロンの回転が終わったところでミアキ選手が姿を見せる。


 どうやら元から距離を引き離すことだけが目的だったみたいですね。


 相手へのダメージは二の次で、とにかくベストな距離を作り出すのが本命。


 変にカウンターとかを狙わなかったのが功を奏したようです、ソードサイクロンを繰り出されたワケですから。















 「接近戦装備がないのに、わざわざ至近距離でやりあうと思った?」


 「おのれ……だが、こちらとて簡単には負けられない!」


 「警告、警告。バトルフィールド内にて、バトル対象者以外の者による荷電粒子エネルギーを確認」


 『っ!?』















 ジャッジマンの警告の直後、ミアキ選手とヤクチ選手の間を突っ切るように大出力のビームが通り過ぎていく。


 それだけでもビックリなんですけど、問題はその直後。

















 「ど、どうしたってのよいったい!?」


 「さっきの荷電粒子ビームといい、横槍を入れられた……と考えたが、違うみたいだ」


 「……だよ、ね。なんか、バトルしてる場合じゃないって空気になってきたし」
















 荷電粒子ビームの次は、チーム・ゴッドアイズの3人が放り出されてきたんです。


 何がどうなっているんですか?


 しかも、チーム・ゴッドアイズの3人はところどころボロボロですし。
















 「あー、わりぃ。バトルに水差したみたいだな」


 「いや、それ以前に聞きたいことがある。私とミアキの間に走った荷電粒子ビームは誰のもの?

  アンタたちじゃないだろ?」


 「もう目の前に来てるよ」


 「え、あの人…?が?」













 ジュンイチ選手の言葉でヤクチ選手やミアキ選手も見た方向には、


 青いアーマーで体を覆い、サソリを思わせるクローと尻尾を持つ一頭身なヤツが。


 って、まさかユーリプテルス選手!?













 「ジャッジマン!ミソギ!緊急事態なんだ。今すぐこのバトルを止めてもらえないか?

  ユーリプテルスは現在、暴走状態にある。暴走を止める為にも、できればバトル中だった二人にも協力してもらいたい」


 「どうやら、通常のバトルができる状況下でもなさそうですし、

  ユーリプテルス選手の状態もおかしいですし……わかりました。バトルは無効にします。

  ただし、言うからにはキッチリ止めてくださいよ?

  アストラル選手のおかげでミアキ選手とヤクチ選手は無駄足になってしまったんですから」







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 もちろん、言われなくてもそのつもりだ。


 これ以上の被害拡大は、このアストラルとしても避けたいんだよ。


 ましてや、巻き添えさんを出してしまった以上は余計にさ。












 「アストラル…といったか。要は、あのユーリプテルスとかいうサソリもどきを沈めればいいんだな?

  ブレイクオーバーさせるなり、攻撃手段をなくすなり」


 「そういうこと。暴走した原因については断定はできないけど……心当たりはある。

  ただ、その心当たりに当たる前になんとかしないと」


 「分かった、なら私も援護するから!」













 取り合えず、ヤクチとミアキの協力は得られた。


 これで状況を覆せればいいけど…。











 「にゃろう!」











 ジュンイチが反撃の炎を放つけど、ユーリプテルスには通じない。


 マグマエネルギーにも耐えられるような超重装甲だ、魔物を焼ける程度の炎じゃどうにもならない。


 いや、一応生身の部分もあるにはあるから、防御動作は必要なんだけど。たとえば足とか。












 「かなり頑丈なようだな。だが、この一撃はどう受ける!?」


 「さっきのお返し、まだ済んでないんだからねっ!!」











 防御の為に動きが止まったところへ早速ヤクチが飛ぶ。


 大剣に炎と雷をまとわせて、大上段から振り下ろす。


 背後からの奇襲だったこともあり背中に直撃させることができたが、やはりダメだ。ヒビすら入っていない。


 同様にアリシアもロンギヌスを突き出して攻撃するが、これもダメ。


 それどころか、背中にある小型ハサミに捕まってしまう。













 「二人とも、当たったらゴメン!!」


 <ATTACK-FUNCTION NAPALM BOMB.>













 そこにミアキが大砲を構え、アタックファンクション"ナパームボム"を放つ。


 4つのエネルギー弾が全てユーリプテルスに降り注ぎ、爆発を起こす。












 「だ、大丈夫!?」


 「一瞬ビックリしたけど、全然ダメージないよ。すごいね」


 「寧ろ助かった。どさくさでブレイクオーバーさせることもできただろうに、それを避けるなんて」


 「それはさすがに……ね。そんなことしたって後ろめたいだけだし」


 「別にいいじゃねぇか。巻き添え上等だろ?」


 「お兄ちゃんは黙ろうか。ただでさえいろんな人から苦情きまくってるし」














 ミアキは派手に発射しておきながらハラハラしていたが、アリシアもヤクチもナパームボムでのダメージはなし。


 エネルギー弾は全部、ユーリプテルスにだけ当たっていた。その衝撃で二人を落としたんだ。


 あれ、おかしいな。この前カオスプライムとベクターメガトロンの同時砲撃でもビクともしなかった筈なんだけど。


 ……原因がなんとなくわかった。4つの内2つが、背中のハサミの根元に当たってたんだ。


 結構な爆発だったのか、着弾点と思しき部分がこげてるし。あの超重装甲をこがすなんて、やるね。





 仲間内でさえ問題視されている発言をかましたジュンイチについては、スルー。


 あずさが呆れていても、ね。















 「……でも、ダメージ小さいね…」


 「仕方ない。ユーリプテルスの体を覆うアーマーは全て超重装甲。

  マグマエネルギーにも余裕で耐え抜き、岩盤を破壊するドリルをも無傷でへし折るほどだからな。

  寧ろ焦げ跡ができるような威力があるだけでも上出来というべきだ」


 「何気にやりづらい装備にしやがって」


 「このタイミングと形で暴走するなんて思ってなかったんだ。

  それに、多分ハッキングに近い手法で強制的に暴走させられてるんだと思う」











 ミアキは心底残念がっているように思えるけど、今言った通り上出来な方。


 それこそ、機動六課でいうならスバルの振動破砕でも持ち出さないと破壊できそうにないレベル。


 まぁ、アレは使用者にも大きな負担がかかるっていうし、多用はできないんだろうけど。


 ハッキングに近い手法って言ったけど、要は遠隔操作かな?そして、やらかしそうなヤツについては……見当がついていたりする。












 「だが、見たところあの装甲は下面にはついていないようだ。

  それこそ、ダメージ覚悟で飛び込んで、斬り上げてしまえば…!」


 「推奨したくないけどね」


 「どういうこと?」


 「ユーリプテルスは馬鹿力でもある。迂闊にあの両手のハサミで挟まれたりしてみろ。

  数分と経たない内にミンチになるぞ。それに、一体化しているブレードは一種の高周波ソードで、物理的な防御は殆ど無意味。

  おまけに荷電粒子砲の再チャージも終わる頃だろうし……当然ながら、非殺傷設定なんてものは機能してない。

  一歩間違えればそのまま南無阿弥陀仏だ」













 非殺傷設定については、追いかける内にスキャニングして確認済み。


 いや、参加当初はちゃんとリミッターも兼ねて有効にしておいたんだけど…。


 どうも暴走してから非殺傷設定が無効化されているらしい。


 だから、荷電粒子砲に巻き込まれたりしたら、それこそ一瞬で消滅する。


 そうでなくても、あのプレッシャーシザースで体を貫かれたりなんかしたら…!








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 ……なんか、騒がしいね。












 《……大出力の荷電粒子エネルギーを検知しました。

  パターンからするに、以前聖王教会から提供していただいたユーリプテルスのデータと一致します》


 「うへ、あの暴走凶戦士なアイツの?なんでまた」


 《詳しくはわかりませんが…》








 アルトの分析のおかげで、大体の事情は分かったけど、それでも引っかかるものはある。


 ユーリプテルスっていうと、確か、ポラリスがご執心の……










 「あ、あぁ…。けど、この近くに来てる?

  それはまだいいんだけど……なんでかな、胸騒ぎが止まらない」


 《ポラリス君のその胸騒ぎは正解だろうね。現在、ユーリプテルス君が暴走状態にあると報告を受けている。

  アストラル君によれば心当たりはあるそうだが、今はそれどころではないらしい。

  参加当初はかけていた筈の非殺傷設定が機能していないから、下手すると死人が出るそうだ。

  現在、チーム・ゴッドアイズの3人を軸に、巻き込まれてしまった選手も加わって対処に当たっている》


 「連盟側からは何かないんですか?確か警備部があった筈ですが」


 《残念ながら、警備部は今は動かせないんだ。このデルポイ大陸には曲者なモンスターが多くてね。

  会場警備だけでもかなりの人数を割かなくてはいけない。

  それに加えて予選フィールド全体の隔離役として外周に配置していれば、人手も足りなくなる……すまない。

  まぁ、だからこそモノ君に行かせたんだけど》








 え、じゃあアーツバトル連盟は既にユーリプテルスの暴走を知っていた?


 見せしめってまさか、そういうこと?


 まぁ、モノがジュンイチさんをも圧倒できるチートキャラなら、お手並み拝見にはいい相手かもしれないけど…。












 《でもね、あぁいう暴走って、力づくで沈めれば解決するワケでもないよね。

  古代ベルカ戦争についてはいくらか知っているから単刀直入に話すけど、ポラリス君にとっては死なれても嫌だろう?

  ほら、上下関係を超えた友達関係だったワケだし》


 「私は行く。できるって確証はないけど、何もしないのは嫌だ。

  ただでさえ、関係のない人たちにまで迷惑をかけている。それなのに当事者である私が行かないワケには…」


 《もっというと、単に友達だから助けたい。そうじゃないかい?》


 「……そうだね。そう。結局はそれだけ。申し訳ないけどね」











 元々ポラリスが"アレス"に出るのって、トラルーに協力するのが半分とユーリプテルスを連れ戻すのが半分だっけ。


 だから、目的の片方を果たす最大のチャンスなんだ。今っていう状況は。


 にしても、ポラリスの心情をアッサリ言い当てるなんて、イディアル総帥って何者なんだろう。


 まぁ、そこは今はいいか。問題はユーリプテルスだよ。












 《ブレイクオーバーさえしなければ、大会の出場もできるようにしておくから。

  実は参加チームが相打ちとかしまくったものだから、トーナメントの枠が余っちゃって困ってるんだ。

  それに、あの暴走を野放しにすれば大会運行どころじゃないし、解決してくれたらキーコードは免除しよう。

  もちろん、他の選手やお茶の間のみなさんには後で会見開いて説明するけどね》


 「あー、総帥殿、ひとついいですか?」


 「なんだい、恭文君」











 あ、僕らの話も聞いてくれるみたい。てっきり蚊帳の外にされてるかと思ったから一安心。












 「もし、僕らがその暴走の鎮圧を手伝ったら、ポラリスみたいな処置してもらえるのかなー、なんて思ったんですけど」













 まぁ、さすがにちょっと図々しいかn












 《いいよ》


 『即答!?』












 マジですか。












 《ブレイクオーバーさえしなければ、ね。

  どうせ僕も状況は見させてもらうし、それで騒動解決に役立ったと思えばそのまま免除してあげる。

  警備部が本来請け負うべきことをお願いしてしまうのだから、それくらいはしていいと思ってる》














 あぁ、総帥として通すべき筋ってヤツかな?


 警備部が担当できないってことは、最終指揮権を持つであろう総帥の不手際になるワケだしね。


 タダ働きはさせないよってことか。なら……。













 「マスターコンボイ、リティ、これは引き受ける価値あるんじゃない?」


 「まぁどうせ近場なんだ。それに柾木ジュンイチも絡んでいるなら、スルーしてしまう方が問題だろう」


 「それに、ポラリスが行く以上はトラルーの友達として無関係じゃないしね」













 じゃあ、行きますか。











 「総帥!自分も鎧王様に随伴する許可を!」


 《そのまま行って構わないよ。チーム登録もしておくから》


 「感謝感激であります!」













 パスナもポラリスとアレックスのチームに加わる形でそのまま同行決定。


 2チーム分の増援だし、状況も少しはマシになるでしょ。


 ……トラルーが目立った行動を起こさないのが少し気がかりだけど…。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 《本当にいいんですか?動き見せなくて》


 「いいの」








 ユーリプテルス暴走によるパニックは、既に知ってる。


 けど、それでゴール目前のところから寄り道するようなマネは、敢えてしない。


 寧ろさっさと本戦出場を確定させてしまいたい。なぜなら、3つ目のキーコードを手に入れたばかりだから。


 そして、理由はもう1つ。ていうかこっちの方が大きい。









 「ユーリプテルスの対処はポラリスに任せきりにしてるし、今更介入しても意味ないんだよ。

  第一、ポラリスが"アレス"に参加するのはユーリプテルスを連れ戻す為であって、

  彼女自身が頑張らなきゃ意味がないんだよ」












 暴走してるのがユーリプテルスじゃなくて違う誰かなら、さっさと鎮圧してしまえばいいのだけど、


 相手がユーリプテルスとあらば出しゃばるワケにはいかない。


 忘れちゃいけないのは、本当にユーリプテルスと向き合いたいと思っているのはポラリスだってこと。


 言い方はアレだけど、ジュンイチですらあの二人の関係を考えれば部外者に過ぎない。


 まぁ、アイツもそれだけはわかってくれるとは思うけど…。













 「完全に見捨てるつもりもないけどね。

  本当にヤバそうなら介入するつもりだよ」


 「うーん、だったらせめて近場まで行くぐらいはした方が…」


 「それだと怪しまれちゃうっすよ。

  中途半端に近づいて偏見持たれるよりは、薄情な言い方っすけど敢えてスルーしてしまうのも手段の内っす」


 《世の中、なんでもかんでも手を出せばいいというワケではないということです。

  それに今回の場合、ポラリスさん個人としてもケジメをつけなくてはいけないでしょうし、

  迂闊な介入はその邪魔になってしまうのですよ》











 納得できていないイテンだけど、マキトやイグナイテッドが補足を入れてくれた。


 要するに、ポラリスがケジメをつける邪魔をしたくないってこと。


 もっというと、ポラリスがユーリプテルスとの真っ向勝負に集中できるようにしたいんだよ。


 敢えて姿を見せずに任せきりにした方が、いい方向に事態が終わることもあるんだ。












 「う、うぅ〜ん……イテンちゃんにはどうにもよく分からないんだけど……」











 さすがにイテンには難しい話だとは思ってる。なにせ、この子はそういう経験があまりにも少ないんだ。


 バトルマニアとはいってもお遊び感覚が混ざってるから、真剣と書いてガチと読む心のやり取りについては疎いと思う。


 それこそ、体を張らなきゃつけられないケジメとかね。


 これは一度、ガ○ダムシリーズの何かを1話からぶっ通しで見せた方がいいかもしれない。


 ただしA○E、お前はダメだ。倫理教育とするにはストーリーの練り具合がよろしくないからな。


 逆に個人的にはダ○ルオーをオススメしたい。組織を超えた人間模様が結構濃厚に描かれていて、おもしろかった。


 まぁ、そもそも「対話」をテーマにしているワケだし、当然といえば当然か。にしても見ごたえがあったなぁ。












 「取り敢えず、ポラリスにとっては『手出し無用!!』って言いたいことなのかな?」


 「お、ちょっとは分かってきたねぇ」











 極端にいえば、そういうことだよ。勿論、半分間違ってるけど。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 いざ駆けつけてみれば、結構ヤバイ感じ。


 なにしろ、防御動作こそあるとはいっても、殆どダメージを受けているように見えないし。


 原因はきっとあの装甲。多分戦艦並みかそれ以上の強度は持ってると思う。









 「なんだ、お前らも巻き込まれたってか!?相変わらず運がないな!」


 「否定できないところがムチャクチャ虚しいからやめてくれます!?」











 今回ばかりはストレートにバトルできるかなーなんて思ってたけど、もうあきらめた。


 ていうか、トラルーに警告されてたしね。どうせどっかでこじれるだろーって。


 元々マイクロンパネルにも興味を持ってる大きな組織ってプレダコンズだけど、そのプレダコンズもネガショッカーだしね。


 ネガタロスの影響力を得たってなると、やっぱり事件の1つや2つくらいは簡単にねじ込んでくるよね。


 あと、どうでもいいけどジュンイチさんの物言いには相変わらずカチンとくるものがある。














 「ただなぁ、ハッキリ言ってアイツの装甲はアルトアイゼンでも歯が立たないかもしれねぇ。

  ダメージ与えるなら、足とか裏側とかを狙うのがベストだとは思う」


 「あー、もしかしなくても、散々試しまくって無傷ってオチ?」


 「全くのノーダメージってワケでもねぇよ。

  えっと、ミアキだっけか?アイツがアタックファンクション使った時に衝撃と着弾点の焦げ跡は確認できたから」















 通じないワケじゃない。けど、1発のダメージが小さすぎるってとこか。


 トリコロールな色してる割に、暴走なんて悪者系なことしてくれてるじゃないの。


 で、そこは別にいいや。問題は……。














 「ジュンイチさん、アイツを息の根止めるって意味で潰すのはなるべくナシで。

  丁度、当事者も一緒だから」


 「勝手な申し出だとは思うけど…」


 「気にすんな。そんなこといったら、オレなんて恭文たちにどんだけ勝手なことばかりしてるか数え切れないし」


 「そこは自覚あるんですね」


 《まぁ、元よりわかったうえでやるのがジュンイチさんのスタンスでしょうし、そこはもういいでしょう》


 「ご配慮、感謝する」















 当事者とはすなわちポラリスのこと。実はこれもトラルーから聞いてはいたこと。


 あの子がこの大会に出るのは、ユーリプテルスをどうにかしてネガショッカーから引き離す為。


 説得なり、力づくなり、とにかく自分サイドに引き込んでしまおうって魂胆。


 まぁ、暴走状態になったせいで、消去法的なノリで力づくという選択肢しかなくなったけど。


 僕とアルトのツッコミは軽く流して、律儀にお礼を言うポラリス。


 やっぱ、相当に負い目を感じてるみたい。こりゃあ早めにケリつけてしまわないと。















 「ただ、貴方たちなら体験済みだからわかると思うけど、1対1でどうにかなるほど甘い相手じゃない。

  決定打を与えられるほどの隙を作るには、どうしても連携する必要があるの」


 「同感だ。現に、連係攻撃しても危うくやられてしまうところだったしな。

  ただ、こうも大人数になると、問題は誰をその連携の基点にするかだ」


 「なら、私に任せてもらえないかな?あのユーリプテルスは、本来は鎧王軍の不始末であぁなったようなもの。

  そして、それを止められなかった私にも、王だった者として責任はある。

  それに……」













 ポラリスからの説明は、ある意味で確認に近いね。


 緑のグラデーションが映える服装をしてるポニーテールさんからの指摘で、まず名乗り出たのはポラリス。


 まぁ、元からそのつもりだったんだろうけど。


 いったん息をついて、続ける。














 「それに何より、彼は私の友人。倒さなければならないのなら、せめて、私の手で引導を渡したい。

  でも、もしも助けられる道が残っているなら…」


 「まだ、残っていますよ」












 リティが突然沈黙を破ってきた。


 そういえば案外聞き手に回ることも多いよね。トラルーいわく話し上手でもあり聞き上手でもあるってことらしいけど。












 「あの暴れ方は尋常じゃない。きっと、何かに捕らわれているだけです。

  だから、多少強引でも、手荒でも、手を伸ばしてみてください。そうすれば、まだ助けられるかも。

  可能性があるんなら、手が届くなら、精いっぱい伸ばしてみるべきじゃないですか?」













 過去のトラウマに触れてしまうからって詳しくは教えてもらえなかったけど、


 今のリティの言葉、多分自分自身の経験とかにも重ね合わせてる。


 ただ、善も悪も、損も得もなく、とにかく"助けたい"って気持ち1つで必死に手を伸ばす。


 全ては、自分も誰も後悔させない為に。


 手荒なことであってもって断りがあるのは、多分リティ自身が紫のメダルの影響で一時期バケモノになりかけたから。


 本人いわく、たとえバケモノになってでも誰かを助けられる力を手に入れたかったからだそうで。


 なりふり構わないっていうか、なんていうか…。





 でも、きっと今のポラリスには、それぐらいの覚悟が必要なんだと思う。















 「どこまで力になれるかはわからないけど、俺たちもその手を伸ばす手伝いぐらいはできると思うんです。

  俺たちで連携をしかけてユーリプテルスの体勢を崩して、それでできた隙を利用すれば」


 「……わかった、やってみる。それと、よろしく」














 多分、気絶するぐらいデカいダメージ与えられればおとなしくなるでしょ。


 で、止まってる間に連れ帰って、シャマルさんなりヒルメなりに解析してもらって対処法を検討してもらえばいい。


 もちろん、ブレイクオーバーさせるだけの大ダメージでポラリスやアレックスみたいに元に戻れば、それがベストだけど。














 「……とまぁ、ここまで俺が進めちゃったんだけど、文句があれば聞くよ?」


 「まったく……今更それを言うのか?」














 リティ、それはマスターコンボイの言うとおり、野暮だよ。


 もう僕らの答えは決まっているようなモンじゃん。














 「勿論、オレたちもそれに協力させてもらう。

  どのみち、ユーリプテルスを沈めないと大会どころじゃないだろうしな。加わる理由は他に特にあるまい?」


 「ほう、そこの男子、気が合いそうだな。私も同じことを考えていた。

  それに、ユーリプテルスとポラリス殿下の関係も大体わかったところだしな。

  私はヤクチ。貴君は?」


 「マスターコンボイ。こんなナリだが、一応トランスフォーマーだ」


 「なるほど……本戦で手合せ願いたいな。実に興味深い」


 「同じくだ。ところで、ポラリスのことを知っているようだが」


 「あ、言っておくけど、一応ポラリスとかアレックスとか、戦国精霊の間じゃ有名人だからね?」















 マスターコンボイと意気投合したらしいポニーテールさんや、そこに注釈を入れてきた空色のロングヘアーさんも賛成らしい。


 えっと、確かそれぞれヤクチとミアキって言ったっけ。一応、選手のデータはアルトにも入ってるしね。


 ていうかアルトさんや、手際のいいことで。聞かれるまでもなくあの二人のこと調べてたよ。













 《当然ですよ、一時的にとはいえ共闘する以上、知らなくてどうするんですか》


 「そりゃごもっともで」












 じゃあ、ちょいと寄り道だけど大事なバトル、始めようか!






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 ビシディアンの二人と壮絶なアタックファンクションの撃ち合い。


 エネルギーが圧縮された光弾と、サメのようなオーラを形作るビーム。その2つを真っ向からブレイジングレイザーが迎え撃つ形だ。


 結果は……相打ち。


 オレの目の前で相殺されて、大爆発。本来なら位置関係の把握の為に身構えていたいところだが、敢えてここではバックステップ。













 「この程度は想定内か。さすがに古代ベルカ戦争の生き残りは違うな」


 「そいつぁどうも」











 こうしてダークハウンドがドッズランサー突き出して突っ込んできたのが、


 オレの今の判断が正解であったことを物語る。けど、向こうもアレで終わるつもりはないらしい。


 今度は両肩のバインダーにあるフックが飛んできて、オレを捕まえようと……ん?
















 「そりゃあ、オレも咄嗟にサイドステップでかわしたけどさ、なんかおかしくねぇか?」


 「ご名答だな、だが機能不全とかそういうワケでもないぞ!」


 「おぎぇぇぇぇぇぇ!?」


 「おぉ!?」













 元からあのアンカーショットの狙いは、いつの間にか落っこちていたらしいダークジャッジマン。


 2本のフックでからめとられて、こっちに引き寄せられてくる。













 「どうせもうこのバトルは無効だ、いっそのこと憂さ晴らしでもしてみるか?」


 「そいつぁ名案だな、こっちに放り投げてくれるか?」


 「いいだろう!」












 すんなりとオレの提案に従って、ダークジャッジマンをこっちに放り出してくれる。


 ルディンはさっきの撃ち合いからずっとハンマーモード。で、変えるつもりはないな。













 「粉微塵になれぇぇぇぇぇぇ!!」













 地面に叩き落とす要領で大上段からルディンを振り下ろし、


 ダークジャッジマンを木端微塵にした。











 ちなみに、あの撃ち合いでは誰もブレイクオーバーには至らず、


 実は気づいていたらしいカナヤゴのおかげでGサイフォスも戦闘を中断。


 で、結局オレたちもダークハウンドたちも、ダークジャッジマンに八つ当たりしてから離脱した。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 新しく入ってきた人たちのことは把握済み。


 鎧王ポラリス、飛王アレックス、更に機動六課の蒼凪恭文にマスターコンボイに……あと、協力者状態のリティ、だっけ。


 厳密にいうとリティは局員でもなんでもなくて、別な協力者からの要請で参戦してるらしいんだけど。


 ていうかあの人の腰にあるベルト、やっぱアレ…だよね。









 「相手はあのユーリプテルス、リミッターはなしで!」


 タカトラバッタ!>









 やっぱりオー○だぁー!しかも信号機!赤いタカに黄色のトラに緑のバッタで信号機。


 ……じゃなくて、基本形態のタトバコンボだよね。




 メダルスキャンで服装が変化してる。


 頭の赤い飾りがより鋭角的になって、大きさがカチューシャサイズからバイザーサイズに。


 腕と脚にそれぞれ黄色と緑のカバー状のパーツが追加。


 そして胸の円盤状のパーツに模様がついて、タトバコンボのマークになる。あと、若干厚めになってる?


 オーラングサークル…だっけ。


 それ以外はスキャン前と同じ。戦闘用にアーマーを追加した感じかな?それでも軽めだけど。身軽さ重視なのかな。












 「装甲と装甲の間なら!」


 「いくぞ!」











 両腕の追加パーツからクローが展開。


 マスターコンボイと一緒に先陣を切って、なるべく装甲の間を狙うように攻撃。


 特に狙いやすいのか、腕や足を重点的に狙ってるみたい。


 もちろん私も、スターマインの照準を調整するのは忘れない。











 「背中の方はこちらで引き受ける!」


 「だったら、僕もお供させてもらおうかな!」











 背後の方はヤクチと恭文。またハサミに捕まらないように、すぐさばける程度に距離を開けて隙間を狙う。


 更に両サイドからアリシアやあずさも攻撃、ジュンイチにいたっては真上から炎を放ってる。











 「……アストラル、だっけ?この攻め方で大丈夫…だよね?」


 「正直、ユーリプテルス相手に明確に"大丈夫"って言える攻め方は……ない。

  ダメージを与えられる可能性が高い攻め方がアレなだけで、基本的に大ダメージくらう危険性は変わらない」


 「ですね、ユーリプテルスの最大の脅威は、荷電粒子砲でも超重装甲でもありません。

  背後の気配にさえ瞬時に反応して攻撃できる、驚異的な反射神経ですから」








 アストラルにアレックスが付け加えてきた。そっか、だからさっき、ヤクチやアリシアがすぐに捕まったんだ。


 あの体格だと、背後を振り向くだけでも大変そうだもん。反射神経が高くないとあんな動きできないか。










 「きゃあっ!?」


 「ぐぅっ!?」










 ……さすがに反射神経だけでもないと思うんだけど。


 だって、コマみたいに高速回転して、周りにいたみんなを一気に弾き飛ばしちゃったし。













 「このっ、おとなしく、しろよっ!」












 けど、いち早く立て直したリティがアッパー気味に一撃を叩き込んで、左腕を捕まえる。


 でもパワー負けしてるのか、あっさり振り回されて、咄嗟のクローの連撃と相打ちに近い形で右腕の一撃をくらってブッ飛ばされる。


 ていうかアッパー仕掛けてアッパーでブッ飛ばされるって、仕返し狙ってた?














 「いい加減にしなさいよっ!」


 「本当に止まれないんですか!?ユーリプテルス!!」












 スターマインによる援護射撃と、飛翔能力を活かしたアレックスの攪乱攻撃。これでアイツの気をリティからそらす。


 で、チラッとリティの状態を確認してみるけど、メダルチェンジしようとしてる?












 「あぁもう、早いところアイツを止めてトラのメダル探しとかないと、ステンスに怒られる!」


 「……さっきの一撃でトラ・コアが吹っ飛んだのか」


 「だからメダルチェンジを…」










 アッパーだったし、ユーリプテルスのパワーを考えると仕方ないかも…。


 壊れたりしてなけりゃいいね…。


 多分、リティが何か違う意味で焦り始めている理由は、アストラルが言った通りだと思う。












 「ひとまず、これで!」


 <タカ!パンダ!バッタ!>












 トラの部分をパンダに変えてコンボチェンジ。


 パンダなんて持ってたんだ…。リアル話だと児童誌の付録にしかなってないから、結構レアだよね。





 トラメダルからパンダメダルに変えたことで、胸部・背中・腕にかかる部分の色が黄色から白へ。


 あと袖の部分がかなり大きくなって、官服とかそんな感じの、円錐状に袖口が大きく広がる形状に。


 で、それぞれの袖口の中から3本爪のクローが飛び出した。


 しかもトラのクローが若干かぎ爪状なのに対して、パンダのクローは大きくて曲がってない。多分、威力重視なんだと思う。


 そしてオーラングサークルも、2段目のトラだった部分がパンダみたいな模様になった。もちろん、色は白。













 「はっ!でやっ!せいやっ!」












 今度はユーリプテルスの背後から一気に連続で斬撃をお見舞いする。


 威力を一点に集中するっていうか、3回の斬撃は全部背中?頭?の装甲に入ってる。


 それでも、やっぱりダメージには……アレ?なんか、心なしか亀裂が見えたような…。












 「ポラリス、後はなるべく早めに頼むね!」


 《スキャニングチャージ!》


 <ATTACK-FUNCTION PANDA GIANT STORM.>













 スキャナーを取り出して、ベルトに流すようにセタッチ。


 3枚のメダルが一瞬飛び出してまた戻るってエフェクトの後、思いっきり大ジャンプ。


 そこから……











 「やぁぁぁーっ!!」










 ボディプレス!?









 「っ、ほぉあらららららららららららら!!」











 更にクローで捕まえて、持ち上げて振り回して……











 「はぁっ、セイヤーッ!!」











 ブリーカーしたぁぁー!?










 「えいっ」










 そして後ろの方に放り出したー!?












 「みんな!追撃するなら今の内!」


 『いや、それはそうだろうけど!!』













 平然となんかすごいマネをしてくれたリティに、私たちは誰もがボーゼン。


 確かに追撃の大チャンスなんだけど……まさかあんなかわいらし……げふんげふん、小柄な体で派手なプロレス風味な技をするとは思わなかった。


 いやだって、とても力持ちには見えないし…。














 「さすがはパンダメダル限定必殺技"パンダ・ジャイアントストーム"だ…。

  エゲツなさはオー○の技の中でダントツだな!」


 「それ褒めてる!?」













 アストラルによると、ちゃんと技名があるらしい。でもリティ、アレは多分褒め言葉だとは思うよ?


 まぁ、いいや。それについては後でいいし。それより今は…!














 『フォースチップ、イグニッション!!』










 <ATTACK-FUNCTION BURNING BRAID.>


 <ATTACK-FUNCTION FULLBIT BURST.>


 <ATTACK-FUNCTION AQUARIUS LASER.>


 <ATTACK-FUNCTION POWER SLASH.>


 「エナジー、ボルテクス!!」


 《Energy Vortex》


 「アイシクルキャノン!!」


 《Icicle Cannon》









 この場に居合わせる大半のメンバーで必殺技とか砲撃技とか。


 目標点はただ1つ、さっきのリティの攻撃で入った、頭から背中にかけての装甲の大きな亀裂!


 巻き上げられるように集束した炎の渦が、いつの間にか呼び出された大量のビットの一斉射撃が、


 スターマインから放たれた激流のようなレーザーが、ミツドノツルギの横なぎによって生じた衝撃波が、


 嵐のように荒れ狂う紫の魔力の渦が、氷のように青い魔力の光が、一斉にあの亀裂に殺到して……大爆発!!












 「……どうか、せめて止まるだけでも…!!」


 <ATTACK-FUNCTION GROUND DRIVE.>













 ポラリスも、今の大爆発で装甲が完全に吹き飛んでむき出しになった頭めがけて、必殺技の準備。


 あの武器、ムチみたいに伸びるんだ。多分、剣とはいっても斬るというより叩きつけるって感じかも。


 で、武器の方にフォースチップのエネルギーが集まっていくのが、輝き具合でなんとなくわかる。













 「チーム・ゴッドアイズの3人!荷電粒子砲の根元を狙え!

  短時間で何度も荷電粒子砲を発射して、根元がオーバーヒート寸前なんだ。そこを更に熱してやれば…!」


 「荷電粒子砲自体が壊れる?」


 「えっと、少しツッコんでいい?普通、あぁいうのってチャージと並行して冷却とかするんじゃ…」












 あ、それは私も思った。スターマインもそうだけど、発射と同時に冷却はするだろうし、時間はかかったって、今の戦闘時間なら十分。


 ましてや、あんな小さいようで大がかりなものになったら…。


 あずさの疑問は、射撃手としてはある意味で当然かもしれない。










 「普通なら、ね。ただ、ユーリプテルスの荷電粒子砲は、携行性を重視した為にある弊害を抱えてることが今わかった。

  無理にコンパクトにした結果、冷却装置も余計に小型化してしまい、2時間以内に連射するようなマネをすると冷却が追いつかなくなるんだ。

  彼が暴走前から最初に荷電粒子砲を発射して、次に放たれたのが柾木ジュンイチたちの前に現れた時。それまでに30分。

  で、次の発射はヤクチやミアキを狙った時。最初の一撃から通算で40分も経ってない。

  あの荷電粒子砲は、必要な最低冷却時間が2時間。つまり、1時間もしない内に3回も発射したものだから…」


 「すでにオーバーヒート寸前だってか」


 「まぁ、2時間以内に何発も発射するような事態は想定してないし、冷却システムはあまり気にしてなかったから…」


 「弱点が増えて助かったぜ。でも、発射できないワケじゃないだろ?」


 「確かにね。冷却に2時間もかかるクセに、再チャージまでの時間は10分もあれば十分。だから、もう撃てる。

  我ながら矛盾した設計だとは思うけど、今はそれがありがたい」










 あぁそうか、それを分かってたから、アストラルは一斉攻撃にあの3人を加えなかったんだ。


 特にあのジュンイチって人は、炎を使いこなすワケで、いわば無理矢理高熱状態にすることもできる。


 強制的にオーバーヒートさせるにはうってつけってワケだね。











 「なら、私がアイツの気を引いて、暴発するか試してみる」


 「おう、気をつけろよアリシア。あずさは砲撃準備だ。

  動きが止まった瞬間に、とびっきりお熱いのをぶちかましてやる」


 「了解」


 「……随分とすんなり受け入れるんだな。僕とてユニクロンの眷属だというのに」


 「関係ねぇよ。ユーリプテルスを止めたいって思ってるのは一緒なんだろ?

  だったら、今だけでも手を組む理由には十分だ」


 「そうか……」












 多分、あと1発でも荷電粒子砲を撃てば、オーバーヒートすると思う。


 それを誘発させるために、スピード自慢らしいアリシアって人がオトリに。


 一方であずさは左腕のデバイスを変形させて、エネルギーを充填。


 ジュンイチも、改めて炎を放つ体勢に入る。





 対するユーリプテルスは、こっちの連続攻撃で既にヘロヘロ。


 なのに目の前に躍り出たアリシアに狙いをつけたのか、思わずビックリするぐらいの速度でクローを振り回す。


 でも届かないと思ったのか……来た!荷電粒子砲!














 「〜っ!!……今だよ、二人とも!」


 「おうよ!」


 「待ってました!タイラントぉ、スマッシャー!!」














 遂にその反動に耐えきれなくなった荷電粒子砲の基部が悲鳴を上げる中、


 荷電粒子の渦をよけながら合図を送るアリシアの声と同時、


 ジュンイチの炎とあずさの砲撃が命中。これでまた大爆発を起こして、尻尾先端が丸ごと吹き飛んだ。


 これで、射撃系の武器は殆ど封殺。クローを振り回すだけの力も残ってないだろうし…。













 「みんな、本当に感謝する!グランド、ドライブッ!!」













 右薙ぎ、左薙ぎ、大上段からの2本同時振り下ろしの連続攻撃が、装甲を失った部分に直撃。


 叩きつけられた反動からか大きく吹っ飛んで……飛び石のように3回くらいはねてから、動かなくなった。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 僕が手を下すまでもなく、解決したみたいだ。


 イディアル総帥からの指示は、あくまでユーリプテルスに抵抗できなくなるだけのダメージを与えること。


 極端な話、武装を破壊するだけでもいい。というより、その程度で済ませる予定だった。


 鎧王と彼には、何か事情があるみたいだったから。


 けど、出る幕がないまま終わったから、きっとこれでいいんだと思う。










 《……なんか、無駄足踏ませてしまったね》


 「気にしないで。僕としては、あまり力を使いたくないから。

  きっと、見た人たちは恐怖を覚えてしまうだろうから」


 《まぁ、それもそうだね。特に君の特性を考えると、一歩間違えば無に帰されてしまうワケだし…。

  わかった、じゃあ君はもう戻っておいで。事情は僕から伝えておくから…》


 「分かったよ、イディアル総帥」









 そうだ、僕の力は、本当は世に出なくてもいいものだ。


 万が一にでも、絶対に必要だって言われてしまうようなことになったら……それはきっと、とてつもなく悲しいことだから。







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 さて、なんだかんだであまり苦労はしたようでしてない気がするけど、


 それはもういいでしょ。


 肝心なことがまだ1つ残ってるし、それに比べれば安すぎる労力だし。








 《ハッキリ言って、少し接近戦挑んでから砲撃1発お見舞いしただけですしね》


 「そうそう」


 「それでオレたちは本戦出場権を得られるんだ、随分といいことじゃないか」


 《ボスたちからすれば物足りなそうだけどなー》


 「あの状況で物足りない程度で済んだことを喜べ、貴様は…」








 アルトと僕の何気ないやり取りにつられたマスターコンボイとオメガが漫才始めたけど、割と正論。


 本当にヤヴァイ相手。だって、あんな荷電粒子砲をオーバーヒートなしで連射できるなんて言われたら、正直逃げたいし。


 エネルギーの渦だから、ジュンイチさんなら力場で無力化できるけど、こちとらそうもいかないし。


 んで、結局被害にはあわなかったけど、両腕についてたブレードは高周波ソードの類だっていうんだから余計にゾッとする。


 暴走態のジュンイチさん相手にするワケじゃないんだから…。反応速度やパワーも含め。











 「…………ポラリス…?」


 「あ、あぁそうだ、私だ。覚えてるか?古代ベルカ戦争から、時間が経ち過ぎたけど…」


 「うん……これ」


 「……マイクロンパネル…?」












 どうやら、あの怒涛の連続攻撃でバーサークな邪気は吹っ飛んだらしい。


 ユーリプテルスがどこか甘えてるようにも見えるけど、アイツが持ってるものに僕やマスターコンボイなんかは驚いた。


 なんでパネル持ってんの。













 「いつかね、渡そうって思ってた。だからね、尻尾のところに隠してたの…」


 「……アストラル、お前…」


 「いや、その、正直な話、僕も知らなかった。スキャニングしても出てこないしさ」


 「たぶん、このパネルはまだ完全な休眠状態なんだ。だからセンサーなどにも引っかからない。

  反応が確認できるのは、あくまでも覚醒する時か、覚醒するだけのエネルギーが露出しているかのどちらかだけだから」











 持ってたユーリプテルス本人は、いわゆる「懐に忍ばせる」ってノリで隠し持っていたらしい。


 マスターコンボイの追及にアストラルが困った顔してるけど、ポラリスの言うとおりなら合点がいく。


 スターが前に教えてくれたんだけど、今普及しているセンサーは全部、


 マイクロンが覚醒する時にだけ放たれる特殊なエネルギーを感知することでパネルの位置を特定する仕組みらしい。


 覚醒、もしくは覚醒寸前の時だけ感知できるってワケで、完全に眠っているものは感知できないんだって。













 「今のうちに言っておくけど、こっちとしてはもうユーリプテルスを連れまわそうなんて思わないよ。

  勝手にバーサークした原因は、この中の誰にもない。いや、しいて言えば管理責任という意味で僕には非がある。

  お供してもらえる権利なんてないし、どうしても確かめたいこともある。

  ただし、それにユーリプテルスを立ち会わせるワケにはいかないんだ。再発の危険があるから」












 てことは、つまり、ポラリスは晴れて悲願の半分を達成?ユーリプテルスが戻ってきたから。


 でもさ、敵に塩を送るワケじゃないけど、こっちとしても確認したいことがある。










 「別に、原因究明とかそういうのはあんたに任せざるを得ないんだけどさ。

  本戦はどーすんの?キーコードがそろってないならそのまま終わっちゃうけど」


 《そこについては僕が説明しよう》


 「また出た!」


 「忙しい総帥だな」









 そう、要するにアストラル自身がまだ"アレス"でやり続けるのかってこと。


 どうせ予選敗退するようなレベルでもないだろうし…。


 しかし、リティはビックリするし、マスターコンボイはツッコむしで、なんか空気が緩んだ気がする。


 総帥っていう割には現場にしょっちゅう顔を出すね。イディアル総帥。










 《アストラル君の扱いなんだがね、君のチームメイトから既に申告が来ていたよ》


 「ゼノン……はぐれてしまったかと思ったら、本部に」


 《そういうことだ。話を戻すが、今回のトラブルの種を持ち込んだのは僕たちだ。

  だから当然、これ以上の出場資格なんてないと、連盟上層部に直談判してきたんだが…》


 《ゼノン君の潔さ、事の元凶、そして今に至るまでの二人の言動。

  それら全てを考慮してみた僕は、君たちに引き続き参戦することを提案する!》


 『はぁっ!?』











 真逆な答えが来たよちょっと。


 僕ら全員、ぶったまげた。











 《確かに持ち込んだのはアストラル君たちだ。それはもう否定できない。

  だが!こちらでも調べてみたところ、きな臭い情報がいくつも見つかった。

  そこで我が諜報部の精鋭たちに情報を辿ってもらったところ、ある答えに辿り着いた。

  その答えはアストラル君、君にとって想定内であると思うが、敢えて言おう》











 そういえば、アストラル自身「心当たりがある」って言ってたんだっけ。


 とはいえ、確証がない。だから、僕ら全員、イディアル総帥の声に耳を貸すワケですよ。











 《プレダコンズの一員、タランスによるハッキングまがいな行為と、その大元がダークコマンダーであること。

  この2つの事実を突き止めた》


 《遠隔介入の証拠映像も撮ってもらって、確認してみたが、間違いなくアレはタランスだ。

  そして、タランスが絡んでいるとなれば……》


 「なるほど、そりゃあ多分正解だ。特にタランスという大ヒントがある。

  これが全然面識ないヤツだったら違ったけど、タランスじゃなぁ」












 どうやらコレは、ダークコマンダーの意図が絡んでいたらしい。


 ジンが言うところによると、ユニクロンの意思細胞が独自に変質したもので、ユニクロンの力を利用しようとしてるって。


 もしかしてユーリプテルスの暴走も、その為の一環?


 イディアル総帥やゼノンとかいう小型ロボの言葉に、アストラルがなんか満足げにうなずいてる。


 ていうか絡んでやがったのか、あのウヒャヒャ蜘蛛。













 「元よりタランスも、ルーツを辿ればユニクロンの眷属。

  で、アイツの本領は、戦闘よりも技術面で発揮されるタイプだ。

  それこそ、メカニックからバイオテクノロジーまで、なんでもござれだ。

  レリックケースさえあればトランステクターも作れるしな」











 ハルピュイアやレヴィアタンが持ってるトランステクターって、まさかタランス製!?


 そりゃあ、ハルピュイアが言ってた話ではタランスからもらったって…。











 「だが、アイツが最も得意とするのは情報戦や待ち伏せによるトラップだ。

  柾木ジュンイチ暴走態の一件も、思い返してみれば仕組まれたって節はあるんじゃないか?」


 「確かに、あの時の主犯こそ今は亡きクロスフォーマーだが、時間稼ぎでもするかのようにタランスが現れたな」


 《で、結局ミスタ・ジュンイチの暴走を未然に阻止できなくてエラい目に遭ったしな》












 うわーうわー、思い返せば思い返すほど、アイツが陰湿なヤツに見えてくる…。


 だって、ちょうどマスターコンボイやオメガが言った通りだし。











 「まぁ、だからといってユニクロンの眷属が全部あぁだなんて思わないでほしいところだけどな。

  暴発という意味ではトラルーはカウントしづらいが、それを抜きにしても良心的なヤツも意外といるからな。

  それも、お前たちが知らぬ間に、日常生活に溶け込んでいたりするし」


 「……おいおい、まさかアストラルやトラルーみたいなのがまだいるとか言うんじゃないだろな」


 「悪いがその通りだ。もしかしたら、お前たちの誰かが既に出会っているかもしれないぞ?ふふふ」












 ジュンイチさんの嫌な予感を、アストラル本人が見事に的中させてくれた。マジか。


 つまり、ユニクロン生まれな精神生命体が、3人目以降もいるってワケだよ。


 戦闘力についてはさすがに知りかねるけどさ、トラルーやアストラルっていう前例を見る限り、弱いってことだけはないよね。














 「あぁ強いぞ?もう役目そっちのけでストリートファイトに明け暮れるヤツまでいるし…。

  って、少し口が過ぎたな。今は身内自慢なんかしてる場合じゃないんだ」


 《なかなか面白い話を聞かせてもらったよ、アストラル君。

  これは来年以降の楽しみが増えたかな?

  そこはまた後で余韻に浸らせてもらうとして、君やゼノン君、ユーリプテルス君の扱いについてだがね》












 そう、本題はあくまでもアストラルたちの扱いだ。どーすんの。











 《ユーリプテルス君の暴走は、あくまでも外野からの強制的なものであることが分かった。

  幸い死人も出ていないし、事実はともかく彼自身に他意はないことは十分に分かる。

  そしてここだけは全員に再認識してもらいたいのだが、この"アレス"は、正真正銘の覇者を決める大会だ。

  単刀直入に言うと、"ルール外の出来事の1つや2つで潰れてしまう者に栄光はない"という世界だ》












 つまりアレですか、元から予選会場にダークジャッジマンが入ることも想定しての開催ですか。


 それで、ダークバトルみたいなアクシデントに巻き込まれただけで力尽きるようなヤツが勝ち上がれるほど、甘い世界じゃないと。


 ルール無用のデスマッチでさえ全てをブッ飛ばすような猛者にしか、次元世界の覇者といえるチャンピオンにはなれないと。














 《このデルポイ大陸に、いや、大宇宙の全ての戦場における、唯一無二にして絶対のルールが1つだけある。

  それは……"弱肉強食"だ》












 ちゃんとルール作ってる割に、その根源はソレですか。ある意味で問答無用でしょ。











 「だが、ある意味で最もシンプルかつ公平なルールだ。

  特にこの大会の優勝者はすなわち次元世界の覇者。それが小細工だけで勝ち上がったような小物じゃあ、示しがつかないだろう?

  キーコードを集める過程でいかなるハプニングに見舞われようと、何事もなかったかのように生き残る。

  それができないようなヤツには、本戦に進む資格さえないってことさ」


 「また随分とシビアな…」


 「だが、覇者を決めるというのはそういうことだ。

  覇者とは、その身をもって競い合い、たった一人勝ち残った者にのみ許される称号。

  端的にいえば、武力はもちろん、メンタル面でも強い者だけがそれを持つに至ることができる。

  戦闘力は何もスペックや技量だけで決まるワケじゃないからな」












 大会の公式ルールが、怪我をすることさえ辞さないレベルである"ゼネラル"で統一されてる理由が分かった気がする。


 我が身可愛さに変な細工したりするヤツもザラじゃないし、逆にそんな小細工を真っ向から粉砕できなきゃダメなんだ。


 別に地区大会とかそんなレベルじゃなくて、文字通り次元世界全体に名をとどろかせる覇者だから、


 運や小細工だけで制覇しようなんて考えるヤツを絶対に許さない。同時に、傷つくことを恐れる心さえも。


 だからこそ、敢えて身体ダメージが及ぶ可能性がある"ゼネラル"なんだ。徹底してるなぁ。













 《そう、アストラル君の言うとおりだ!なので、僕からはこう進言する。

  まずユーリプテルス君は残念だが無理だ。事もそうだし、今の話の流れの時点で理由はわかると思う。

  ゼノン君は真っ先に報告しに来てくれた潔さを認めたい。

  そしてアストラル君に至っては、アドバイスや援護攻撃で暴走の停止に貢献した。

  よって、メンバーに欠員は出てしまうが、アストラル君とゼノン君には本戦に出てもらいたい。

  どうだい?もちろん、辞退するというならそれも仕方あるまい。好きにしたまえ》













 ……だそうだけど、どうするの?











 「まったく、甘ちゃんなのかサディストなのか実に疑問なところだ。

  ……が、せっかくチャンスをいただけるんだ。ありがたく頂戴しよう。

  本戦を進みながら、やっておきたいこともできた」


 《ならば、僕もそれに続こう。おそらく、ダークコマンダーなりタランスなりがまだ何か企んでいる筈だ。

  正直なところ、今回の件でかなり頭にきてるんだ。ディフィカルター12辺りで憂さ晴らしさせてもらうとしよう》


 《己の罪を意識しつつも、それでも前に進もうとするその精神!

  実に素晴らしい。実を言うと、君たちにはネガショッカーへのカウンター役として期待していたんだ》


 「それはいったい、どういうことです?

  機動六課はともかく、なぜアストラルやゼノンがカウンター役に?」










 ゼノン共々、出る気満々らしい。ていうか、憂さ晴らしする気なのか。身内相手に。


 関与性が薄いだけに、そのディフィカルター12とかいう連中については南無。


 で、イディアル総帥としては満足げなようだけど、カウンター役っていう点にアレックスがひっかかった。










 「おっと。イディアル総帥、さすがの貴方でもそれ以上は黙ってもらおうか?

  あまり僕の思惑がタランス辺りに漏れると、少し厄介だからな。まぁ、いずれわかるさ…」


 《その不敵な一面、実に素晴らしい!トラルー君同様、かなり見込みがあるよ。

  そして恭文君たちも、この件の功績をたたえるという形で、キーコードは免除。本戦出場を認める。

  ユーリプテルス君だけは諦めてもらわなければならないのが惜しいが、本戦でも頑張ってくれたまえ》












 アストラル本人に口止めされてしまった。けど、それはつまりネガショッカーにも知られたくないってこと。


 いよいよ何をしようとしてるのかわからなくなってきたぞ?


 ユニクロンに協力してるかと思いきや、その力を解放することは良しとしないなんて…。












 《あぁそれと、パスナ君についてもポラリス君やアレックス君と同様に本戦出場を認めるから、

  早めに戻って引き上げてやるといい。移動途中の"落とし穴のワナ"に落っこちているようだからね》


 『あ』













 そういえば、パスナがいないことに今更気づいた。


 ていうか、落とし穴とかあるんかい。

























 (第31話に続く)








 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 ―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―







 ステンス「次回からは本戦か」


  リティ「本戦からはメダルチェンジもしやすくなるからな、頼むぞ?」


 ステンス「はっ、だったらうまく扱えよ?

      今回は"武宝ぶほう"について教えてやる」





 ステンス「武宝ってのは、古来の地球に実在してたっつー武器を模した特殊装備のことだ。

      武装としての性能はいずれも優秀、オマケに財宝としても遜色ないほどの価値があるって話だ。

      本来はデバイスじゃない筈なんだが、どういうワケか一部の武宝がデバイス化している。

      今回出てきた中では、ミアキの"綺羅流星スターマイン"とヤクチの"疾風迅雷ミツドノツルギ"がデバイス化した武宝だ。

      逆にデバイス化していない武宝は、チーム・スサノオの3人が使っているヤツらだ。

      名前が『漢字4文字+カタカナ表記』で統一されているから、名前だけである程度は判別可能だ。

      あとは、本体のどこかに特徴的な水晶があって、それが核みたいになっているらしい。

      武宝を専門的に扱う職人なんかもいるって話だが、なかには武装とは呼べないものをモチーフや媒介にしているものもあるそうだ」





  リティ「じゃあ、俺らの知り合いでいうとビコナとかもそれを持ってるかもってことか」


 ステンス「アイツが愛用してる扇、覇璃扇だったか?アレも一応武宝だぞ」


  リティ「え、そうなの!?」


 ステンス「結局、予選編の間に猛威を振るうことはなかったけどなぁ」


  リティ「じゃあ、また次回!」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 <次回の「とたきま」は!>





  ノーヴェ「おい!結局あたしらのバトルは放置プレイかよ!?」


  オットー「仕方ないよ、ユーリプテルスの暴走への対処で尺とられちゃったし」


   ホクト「でも、私たちもちゃんと本戦に進んでるね」


 イディアル「その点については次回で詳しく語られよう。

       さて他にも、本戦開始ということで更なる猛者が現れる!」


 アストラル「しかも、小細工抜きで強い、正真正銘のツワモノ…。

       これはまた面白いことになりそうだ」


  オットー「おや、この赤い髪に白い服を着た彼はいったい…?」












 第31話:本戦Aブロック 〜メモリを束ねる器〜













 イディアル「彼の戦いぶり……実に素晴らしいっ!」


















































 あとがき




 遂に本戦進出メンバー(の一部)が決まった第30話です。第3クールもやっと折り返し地点です。



 実は第29話の感想レスでシグナルランサーの新技をネタバレしていたってことに後で気づきました。

 感想レスを書いているときに丁度シグナルランサーの戦闘場面の前後を書いていたので、多分それでごっちゃになったと思います。

 チーム・ハイウェイズの戦闘描写をちょっと掘り下げすぎたかも。



 突然暴走したユーリプテルスも、即席とは思えない結託ぶりを見せた恭文たちの奮闘でどうにか停止。

 以後の扱いはまた今後のお楽しみということで伏せますが、タダでは終わりません。絶対に。

 一方で、敢えて動きを見せなかったトラルー。「ケジメをつける」ということへの彼なりの考え方が伝わればと思います。



 暴走事件の首謀者たるダークコマンダーの暗躍ぶりも頭の片隅に置いといてください。後で"また"重要になります(また?)



 他にもいろいろと伏線的な要素がチラホラと出ていますが、物語はひとまず"アレス"本戦へ。

 予選で描き切れなかったチームの結果については、次回以降で明らかに。じっくりとお待ちください。


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

 ルシファー来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! でも即座に退場したぁぁぁぁぁっ!?
 個人的にルシファーはお気に入りなので再登場したりしたらちょっぴり幸s……あ、でも同じくルシファーつながりの名称を持つ“あの子”とか“あの子”とかが出てきたら「ルシファー」名義の取り合いになりそう(苦笑)。

 最後にユーリプテルスの暴走というアクシデントはあったものの、無事予選終了。
 ダークコマンダーが選手を送り込む以外にも余計な介入をかましてくれていることも判明しましたし、この分なら本選も試合やら場外乱闘やらで盛り上がりそう……そしてジュンイチがますます張り切りそう(マテ