レルネ「さぁ本日は……ちょっと特別営業ですよ〜」


 プルトーネ《物語中の描写範囲が一気に狭くなるので、主に勝ち進んだチームの道筋を振り返っておきましょう。

       今回はAブロックの代表となった、スティア殿の戦歴ですね》






 ・1回戦:シグナルランサーと互いに引かない攻防を繰り広げる。

      体格差をものともせず、至近距離での「メタルイリュージョン」で勝利。


 ・2回戦:メディア&アムリタと2対1の戦い。

      が、特に苦戦することもなく、「トリガーフルバースト」「トリガーエクスプロージョン」の併用でダブルK.O.勝ち。


 ・代表戦:ディフィカルター12のケルベロス、アウゲイアース、ディオメデスと3対1の戦い(後にホースオルフェノクと牛鬼を召喚)。

      「トリガーフルバースト」「トリガーエクスプロージョン」「メタルツイスター」と怒涛の必殺技ラッシュで各個撃破。








 プルトーネ《アビリメモリによる必殺技の大盤振る舞いですね。

       しかし、ルナメモリとトリガーメモリの使用頻度が高いようです。やはり対多数戦に向いているのでしょう》


   レルネ「そんなスティアと肩を並べる、Bブロック代表に上り詰めるのはどのチームなのか?

       第32話をどうぞ!」










































 

「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






「とある旅人の気まぐれな日常」






第32話:本戦Bブロック 〜古き鉄 VS 暗躍者〜




















































 「さぁ!本日も張り切っていってみよう!!

  本戦Bブロック1回戦、第1試合の火ぶたが切って落とされようとしています!!」


 「念のため確認してくださいね。まず1回戦は1対1のタイマン勝負です。

  ここで戦力をどう出してくるか。そこもポイントとなるでしょう」










 実況のヒビキと解説のリリエンのトーク。


 ほどなく会場もざわつき始め、第1試合を戦うファイターの登場を今か今かと待っているのが分かる。


 僕はイテンやマキトと共に、今日も終始観客席です。だって、結局BにもCにも入ってなかったし。こりゃ明日だね。


 だから余裕こいて、売店で売ってた焼きトウモロコシにかじりつくワケですよ。


 イテンは今日もポップコーン。キャラメル味だそうです。昨日はバター味だったそうな。










 「相変わらず、そのあからさまに余裕な態度がカンに障るわね…」


 「どうせ今日も試合はないんだから、くつろげる時にくつろがないと人生損するよー?」


 「うぐ……否定しにくい……!」











 未だに僕らの余裕な態度に納得いかないオレンジツインテールは、正論で黙らせる。












 「赤コーナー!ユーリプテルス暴走事件で見事に勝ち残ったチーム・アルトから、

  オーメダルで戦うリティ選手だぁー!!」









 赤いゲートから、タトバコンボを発動させた戦闘形態のリティが出てくる。


 これは気合十分って感じ。










 「青コーナー!着実にキーコードを集めていたチーム・リュウジンから、

  風と雷の使い手であるレイフォン選手だぁー!!」











 対する相手のレイフォンは、金髪のショートヘアーに赤い瞳。あ、後頭部に少し髪を伸ばして、短い三つ編みにしてるね。


 T字状の銀ペイントにそれを囲むような黄色ラインをあしらった、緑色の袖口が広いタイプの上着。


 膝まで覆う黒いショートズボンに灰色のシューズといった出で立ち。


 右腕の右側面には中央に白いラインがある緑色の樽型モジュールを、左腕の左側面には黄色のベッセル型モジュールを装備している。


 あ、ベッセルっていうのは、ダンプカーの荷台にある箱状の部分のことね。土砂とか入れるヤツ。




 樽型モジュールは制風弾倉せいふうだんそうフォンダオダン」で、圧縮した空気弾を発射したりできるらしい。


 ベッセル型モジュールは制雷衝盾せいらいしょうじゅんレイドゥーン」で、こちらは自在な放電や蓄電などができるという。













 「レイフォン!相手はコンボチェンジで臨機応変な対応が可能だ!

  油断すると足元をすくわれるぞ!」


 「分かってるって、先輩!」


 「せ、先輩?じゃあ、ヒョウエンが組んでる相方って…」


 「そういうことになるな。六課での模擬戦で先輩が世話になったそうじゃないか。

  先輩が認める以上は、俺も気を引き締めてかからねぇとな!」













 予選で目立った動きもないままあっさりと本戦進出を決めていたヒョウエン。


 彼の相方こそ、今こうして舞台に立つレイフォンだ。


 ヒョウエン同様に元々は機獣なんだけど、何故かヒューマンフォームから戻れなくなってしまったそうだ。


 レイフォンはいわゆる弟分で、彼がヒョウエンを「先輩」と呼ぶのはそこに起因するとか。


 出身は中国らしいが、中国語やなまりなんかは特に見られないね。


 これにはリティもちょっと面食らった感じ。やっぱりね、外の世界って広いのよ。













 「チーム・アルト、ヴァーサス、チーム・リュウジン。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」












 で、リティとレイフォンの対決は始まった。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 リティ殿の実力は、あの模擬戦の結果だけでは測りづらい。


 少なくとも、パワー勝負ならこちらに分があることはわかったが、油断はできない。


 そのことについてはレイフォンにも口酸っぱく忠告してあるので、大丈夫だとは思うが…。









 「まずはこれで!」


 <タカ!パンダ!カンガルー!>










 真ん中のメダルをパンダに、向かって右側のメダルをカンガルーにチェンジ。


 上半身はタカパンバだが、下半身はブーツの部分が赤いボクサーシューズに変化。


 下の服も内側の肌が露出するショートパンツから茶色のボクサーパンツに変化。


 仕上げに胸部のオーラングサークルの絵も、上からタカ、パンダ、バッタへと変化した。











 「さしずめ"タカパンガル"とでもいうのか!

  アンバランスな服装だが、パンダメダルのパワーは予選で実証済み!

  下半身に使われた場合のカンガルーメダルの力やいかに!」


 「コアメダルによる変身は、メダルのモチーフになった動物の特徴が大きく出るんです。

  ですから、カンガルーが足になった場合は……」


 「リティ選手、まるで足にスプリングが仕込まれているかのような小刻みなジャンプだ!

  これはまさにカンガルーのファイティングアクション!」











 リティ殿の胸にあるオーラングサークル、そのカンガルー部分からエネルギーが流れるのが見えた。


 流れたエネルギーは両足へ伝達され、ヒビキ殿が言ったようなジャンプを実現した。


 そのまま小刻みなジャンプで右往左往しながらレイフォンへ接近。











 「こっちだっていくぜ!フォンダオダン!」




 「レイフォン選手、風の圧縮弾で迎撃にかかる!

  しかしリティ選手、見違えたフットワークで全てを回避!まるで当たらないぃ!」




 「せいやぁっ!」


 「くそっ!」













 対するレイフォンは右腕のフォンダオダンから空気を圧縮した弾丸を発射して迎撃。


 だがリティ殿はその全てをジャンプとステップだけで回避し、レイフォンに肉薄。両腕のクローで斬りかかる。


 レイフォンも負けじと左腕のレイドゥーンで受け止める。













 「さすがに、一筋縄じゃいかないか…!」


 「当然だ!先輩に合わせる顔がなくなるしな!」


 「レイフォン選手の左腕、レイドゥーンから電撃がぁー!

  リティ選手、たまらず離れるー!」




 「いくぜ!ヴァァァァン、レイッ!!」




 「電撃をより広範囲に放射し、レイフォン選手が反撃ぃー!

  意思を持ったように襲い来る電撃が、リティ選手を直撃したぁ!!」













 少し力比べの構図ができた後、レイドゥーンから電気エネルギーを放出することでリティ殿がはじかれる。


 そのままレイフォンが指向性の電撃を放ち、畳み掛ける。


 ビームのように放たれた電撃が、リティ殿を打ち据え、吹っ飛ばす。













 「情けや余裕はないぜ!一気に終わらせる!」




 「レイフォン選手、エネルギーを溜め始めた!これは決め技かぁー!?」












 レイフォンは風属性と雷属性、その双方の力を扱うことができる。魔力とはまた違う。


 その補助装置こそがフォンダオダンとレイドゥーンであり、これらがあることでより大きな力を扱うこともできる。


 そして鍛錬の末、2つの力を1つに融合させて1つの攻撃とする術を身に着けた。










 「唸れ疾風!轟け雷光!シャン・トォウロン!!」











 風属性のエネルギーと雷属性のエネルギー、それらを腕の周りで荒れ狂わせて増幅し、


 頭上で重ね合わせて光の龍へと変える。龍の姿は融合したことで安定化したものであり、自在にコントロールできる。


 さながら、ただのエネルギーに過ぎない2つの龍が生きているかのように。


 それが、"シャン・トウロン"なのだ。











 「腕から放たれしは光り輝く龍!その双方が、リティ選手を倒さんと迫っていくぅー!」




 「リティ!まさかこのまま負ける気じゃないだろうな!?」


 「それは……無理な相談っ!!」


 《スキャニングチャージ!》


 <ATTACK-FUNCTION TSUMUZI-KAZE.>




 「リティ選手は拳と共に繰り出す衝撃波で龍をはねのける!

  しかし龍の猛威はまだ終わらないー!!」










 メダルチェンジの関係で、リティ殿のセコンドにはステンス殿もいる。


 彼の叱咤によるリティ殿の反撃で、気勢はそがれたものの、まだシャン・トウロンは終わっていない。


 "旋風つむじかぜ"は汎用なアタックファンクションの1つ、それも下級の技。消耗対策か?











 「ステンス!やっぱりアラリアのメダルって見つかってないんだよね!?」


 「見つかってたら教えてる!わざわざ聞くな!」


 「いえ、昨夜手に入れました。報告が遅れてすいません」


 「……なに?」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 間に合ったようでおじゃるねぇ。


 よかったよかった。これで恨まれずに済むでおじゃるよ〜。









 「なんで、徳川の姫がコアメダルを…」


 「徳川家に献上されていたのを思い出して、昨日慌てて回収しに行ったの。

  もちろん、元々は将軍への献上品だったのだけど、将軍亡き後は家臣団が管理していたのでおじゃる」


 「しかし、よもやアラリア殿のメダルであるとまではつい最近までわからなかったでござるがな」










 スリアからの言葉にそう返す。


 コアメダルっていう概念はなく、装飾品などのような扱いで献上されていたようでおじゃるね。


 税金代わりにってことだろうけど、またどんな因果でこんなことに。


 まぁ、今はそれが幸いでおじゃったけどねぇ?


 月影丸が心当たりを教えてくれなかったら、今頃どうなっていたか。







 試合真っ只中なリティやステンスが驚いているだろうなぁーとか思いながら、


 とある観客席で未だにテンションが正常化しないノーザンをなだめている私でしたとさ。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 「とにかく、これでいける!アラリア、久々にいくよ!」


 「承知いたしました!」









 オレンジ系統の色で統一された3枚のメダルをアラリアから受け取り、リティがメダルチェンジ。


 装填されていた3枚を全て取り出し、新たにアラリアのメダルをセットする。


 そして右手から左手へ流すようにオースキャナーをベルトにセタッチ。









 <コブラ!カメ!ワニ!ブラカ〜ワニッ!!>









 リティの全身を覆うように球状のオーラが展開され、まばゆい光と共にリティの姿が変わる。


 頭には蛇の体みたいな模様をしたターバン。アラリアのものと似ているけど、これはリボン状にはみ出した両端部が後頭部までの長さに。


 黒いインナーが両腕の肘から下、胸から太ももまでを包み、両足には茶色に近いオレンジのプロテクターと一体化したブーツ。


 両腕には亀の甲羅が半分に割れたような形状のパーツが装備され、両肩にも亀甲模様のプロテクターが追加される。


 胸のオーラングサークルは、上からコブラ、カメ、ワニをあしらった模様になり、立体的になる。


 髪と目の色がアラリアのものと同じ金と紫になって、変身終了。






 これぞ、アラリアのメダルによるコンボ形態「ブラカワニコンボ」だ。


 ちなみに、アラリアは現在リティの"中"にいたりする。ユニゾンしているのと同じようなものだと思えばいい。


 これによってメダルの力のリミッターが外れて、フルパフォーマンス状態で戦えるそうだ。


 これについてはレクセも干渉できないんだって。











 「リティ選手が姿を変えた!しかもアレはブラカワニコンボ!

  レイフォン選手のシャン・トウロンに、どう立ち向かうつもりなのかぁー!?」




 「アラリア!ブラーンギーでいく!」


 《承知しました》




 「リティ選手の笛の音色に導かれるかのように、頭のターバンからコブラが!

  2つの光の龍をにらみつけているー!」












 どこからともなく取り出した笛を吹き、その音色でターバンの中のブラーンギーを呼び起こす。


 いわば砂漠の国の蛇使いですな。


 蛇は苦手っていう割に、随分と使いこなしているじゃないか。











 《お願いします、ブラーンギー!》


 「受けて立つぜ!」




 「蛇と龍!こんな縁起物同士の対決が、こんなところで見られるとは!

  別な意味でも手に汗握る戦いだぁ!」










 日本風習では縁起物同士である蛇と龍。その勝負は……引き分け。


 ぶつかった途端に互いにはじかれた。












 「隙ありだ!!」


 《リティ様!?》


 「まだ大丈夫!」




 「両腕を合わせたらバリアが出た!これで真っ向から2つの龍を受け止めるぅ!」




 「〜〜〜〜〜〜っはぁっ!!」




 「散らしたぁ!シャン・トウロンが散らされたぁ!!」











 両腕の亀の甲羅みたいな形をしたパーツは「コウラガードナー」といって、


 ボクシングのガードみたいに構えて一体化させると、強靭なエネルギーバリアである"ゴーラシールデュオ"を展開できる。


 もちろん、そのまま使っても十分な防御力がある。亀の甲羅さまさまである。


 さすがにレイフォンのシャン・トウロン相手では踏ん張りが必要だったようだけど、それでもすごい防御力。












 「フォンダオダン!ヴァァァンレイッ!」


 「蹴り砕くよ!」


 《はい!》




 「あの蹴りはワニの顎か!?

  リティ選手が蹴りを繰り出すたびに、ワニの頭が見えるような気が!」


 「ワニでしょうね。ワニメダルですから。

  直接くらうと非常に痛そうですね〜」




 「アイツ……しびれねぇ!?」


 《あいにくさまですが、今のリティ様にあなたの持ち技は殆ど効きません。

  それが私のコンボの力なのですから!》










 動揺したものの気持ちを切り替え、空気弾と電撃で応戦するレイフォン。


 けど、流れは完全にリティに傾いた。両足のブーツ状の装備「ソウデッドサイザー」による蹴りは、斬撃すら伴う。


 というより、本当にワニの顎でかまれる感じ。エフェクトが。


 更にブラカワニコンボの最大の特徴は、高い再生力と耐性を持っていること。


 全身を循環する特殊物質「ソーマ・ヴェノム」によって、傷を受けても瞬時に修復され、毒や熱、電気などに高い耐性を持つ。


 だから、レイドゥーンによる電撃は効果がないし、空気弾もコウラガードナーではじくなりソウデッドサイザーで蹴り落とせばいい。






 ブラカワニとは、高い防御力と再生力で敵の攻撃を受け付けず、


 噛み砕くかのような蹴りを主体とした攻撃で返り討ちにするコンボなんだ。


 もっというと、ソーマ・ヴェノムに現れているように、不老不死の1つの形として生まれたコンボでもある。


 不老不死はコアメダルを生み出した錬金術師たちの願望によるものだね。











 《しかし、リティ様の体力が心配です。そろそろトドメを》


 「分かった」


 《スキャニングチャージ!》


 <ATTACK-FUNCTION BRAKAWANI DANGEROUS THREE.>












 変身の時と同じようにオースキャナーでセタッチ。メダルが一瞬飛び出し、また戻るエフェクト。


 まずコウラガードナーによる防御態勢をとって、じりじりとレイフォンに迫る。










 「なんの……つもりだっ!?」


 《その一手はおろかですね》


 「がっ!?」









 しびれをきらしたレイフォンが蹴りを叩き込むが、やはりあの防御態勢は崩せない。


 それどころかゴーラシールデュオの効果ではじかれ、右ストレートで殴り飛ばされる。









 「リティ選手が飛んだ!レイフォン選手に挟み蹴りぃ!!」










 直後に大ジャンプしたリティが、飛び蹴りの要領で急降下してレイフォンを両足で挟み込む。


 そのまま空中で体をひねって回転し、レイフォンを投げ飛ばす。


 まともに受け身もとれないまま地面に叩きつけられる。










 「ウィナー、チーム・アルト」


 「ブラカワニコンボで逆転勝利!これがコアメダルの力なのか!

  チーム・アルトの2回戦進出を決めたぁ!!」











 "ブラカワニ・デンジャラス・スリー"が決まったレイフォンはそのままブレイクオーバーし、リティの勝利が確定した。


 これはチーム・アルトにとって幸先いいね。











 「で、アンタはいつまでトウモロコシ食ってんのよ!?」


 「んー、多分夕方まで?昼飯は別途で」


 「食い過ぎよっ!どう考えても!!」











 ティアナのツッコミは、もはや常習化していた。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「さぁどんどん行くぞ1回戦第2試合!

  チーム・バンカーよりレブラータ選手、チーム・タクティスよりヤクチ選手がリングインだぁー!!」










 赤いゲートからレブラータが、青いゲートからヤクチがそれぞれ入場。


 リングインという言い方もどうかと思うけど、戦場となるフィールドは荒野。障害物などとして利用できそうな岩が多い。





 レブラータは、バイザー状のメットをかぶった黒髪の青年で、ワインレッドの長袖ジャケットに黒いズボン。


 右腕には自分の体ほどもある大きな基部に長大な槍が備えられたCPユニット「パイルバンカーユニット」を装備している。


 ジュンイチがマグナから聞いた話によると、このCPユニットは古代戦争時代に大量生産されたようで、今でも愛好家は多いのだそうな。


 愛好家たちが集ったチームがチーム・バンカーで、全員パイルバンカーユニットを装備している。


 基部の小型化がうまくいかず、取り回しに難があるっていうけど、逆にその重量に裏付けされたパワーが魅力的な装備でもある。


 しかもあの槍、実は内部を貫通する1本槍。前後にスライドするんだって。











 「チーム・バンカー、ヴァーサス、チーム・タクティス。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」










 ジャッジマンによるコールと同時、パイルとヤクチの両方が飛び出した。


 お互いに先手必勝を狙うようだ。












 「レブラータ選手のパイルバンカーユニットが唸る!

  ヤクチ選手のミツドノツルギが炎と雷をまとう!

  両者ともに一撃で終わらせるつもりかぁ!?」


 「少なくともパイルバンカーユニットは、先手必勝ないし一撃必殺型のCPユニットですからね。

  相手の出方によってはこうなるのもやむなしでしょう」













 リリエンの解説通り、パイルバンカーユニットはその武器としての性質上、殴り合うような装備じゃない。


 どちらかといえば一撃で戦闘不能にすることに重点を置いたもの。


 一撃必殺スタイルになるのはある意味で当然。そこはどうしようもない。あとの問題は、やっぱ使用者の技量だろう。


 寧ろ気になるのはヤクチの方だ。


 本当に一撃で終わらせるつもりにしては、ミツドノツルギに伝達されているパワーが弱いように見える。












 「ブチ抜いてやるぜぇぇぇ!!」


 「――安直だな」




 「ここでフェイントぉ!目の前の地面に剣を叩きつけ、爆破したぁ!」












 威勢のいいレブラータの一撃は、ヤクチのフェイントで無駄に終わった。


 ミツドノツルギの切っ先を自分とレブラータを遮るように叩きつけ、炎と雷の力を炸裂させて爆破。


 それによる爆風と土煙で煙幕が張られる形になり、パイルバンカーは虚しく虚空を突く。













 「おのれ、戦国武将にゆかりがある割にはこしゃくな戦法を!

  堂々と向かってこないか!」


 「そんなことだから安直なのだ」




 「これは痛いぃー!突然の一撃でパイルバンカーユニットが真っ二つぅ!」


 「爆風と煙に紛れて肉薄してからの本命の一撃。手堅い戦法ですね。

  しかも先に武器を狙う。確実に勝つという意味ではいい判断かもしれません」













 ヤクチの淡々とした一言と共に、パイルバンカーユニットが前後に真っ二つに割れた。


 彼女が今度こそ大きな力をこめたミツドノツルギで切り裂いたんだ。


 装備品の破壊も有効とされている"ゼネラル"だからこそできる戦法でもあるが、普通にいい手だ。


 攻撃手段をなくせば逃げるか投降するしかないからな。


 もっとも、1回戦はタイマン勝負なワケだから、いくら逃げたってどうしようもないけどな?













 「戦の世だからこそ、真正面から向かうばかりが戦いじゃないということだ。

  足軽でさえもう少し考えた動きができるぞ。そんな体たらくで予選を3勝していたとは、笑わせる」




 「ヤクチ選手、ここで挑発か!?レブラータ選手は怒り心頭だぁ!」




 「貴様……それは俺たちに対する侮辱か!?ならそれを後悔させてやろう!

  突くばかりがこのCPユニットの戦い方ではないこと、教えてくれる!」




 「おや、内部の槍を外して手持ち武器にしましたね。

  ロールアウト当時と同じ品ならあの槍はチタン合金で作られていますから、アレでも威力は十分かと」


 「まだ勝負は終わっていないぞ!そういわんばかりのファイティングポーズだ!

  レブラータ選手、起死回生の反撃なるか!?」











 自分たちの戦績を鼻で笑われたら怒るわな。


 挑発的なセリフを次々と発するヤクチに、レブラータが激昂。


 パイルバンカーユニットの奥の手、合金製の槍を手持ち武器として使うことを選んだ。




 これは本当に奥の手。何しろ、長すぎるもんだから、今みたいに真っ二つにでもされないと出そうにも出せない。


 だから本当の非常時にしか使えない、幻の一手ともいわれている行為だ。


 ……というのが、昨日の俺とゼロイクスとブイリュウによる勝利チーム予想会で出た話。


 ゼロイクスもなんだかんだでCPユニットに詳しい。












 「この程度の挑発ですぐにそんな奥の手を見せるから、貴様は安直なのだ。

  このまま同じ場にいるのも不愉快だ、終わらせよう」


 <ATTACK-FUNCTION TEMPEST BLADE.>




 「凄まじいエネルギーが嵐となり、荒れ狂う雷と突風がレブラータ選手を打ち据える!!」












 ミツドノツルギの刀身に埋め込まれている水晶部分がアナウンスと共に光ると、


 雷属性の荒れ狂うエネルギーが刀身から発生。


 凄まじいエネルギーは荒れ狂う内に嵐と化し、放電と暴風が巻き起こる。


 そのままミツドノツルギを頭上に掲げて飛翔すると、嵐はより一層激しさを増し、周囲にあった岩などを粉砕した。










 「バトル、オールオーバー、バトル、オールオーバー。

  ウィナー、チーム・タクティス」










 ヤクチが着地し、嵐がやむと、あとに残っていたのは一撃でブレイクオーバーして爆発に飲まれたレブラータだけだった。











 「オイラ、ジュンイチがちゃんと勝ち上がれるか不安になってくるんだけど…」


 「アレぐらいじゃ、アイツが止まるか怪しいけどな。それにヤクチも、トドメこそド派手だけど本気出してるとも思えない」


 「戦いぶり……だよね」












 ブイリュウのボヤキに返しつつ、そう考える。


 ヤクチの戦いぶりから見て、バトルで手ごたえを感じているように見えなかった。


 ド派手で威力の高い技を使ったのも、本当に早く終わらせてしまいたかっただけだろうな。


 ご本人が「不愉快だ」って言っちゃったくらいだしな。




 しっかし、テレビ中継で見ても迫力が違う。デルポイ大陸の中継技術ってすごいんだな。


 アーツバトル連盟も絡んでいそうだけど。














 「ゼロイクス、これが鷲悟だったら、相手は全身骨折確定だよ」


 「重力使いだからな。骨を砕くのもお茶の子さいさいだろう」


 「失礼な」






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「次はチーム・リバイバー。ポラリスたちのチームだな」


 「だね」









 お隣にジュンイチまでやってきた。お互いにまだ対戦カードが決まっていないから、こんな余裕なんだよね。


 ジュンイチが隣の席にいたのに気づいたのは、第2試合が終わって10本目〜15本目の焼きトウモロコシを買って戻ってきた時だった。






 1回戦第3試合は、チーム・キャノリーとチーム・リバイバーの戦い。


 ……なんだけど、実はこの2つのチームには、とある共通項がある。


 ぶっちゃけると、どっちのチームにもCPユニットの使い手がいるってこと。


 チーム・リバイバーはパスナのワイルドウィーゼルがある。


 対するチーム・キャノリーは、メンバー全員が「キャノリーユニット」を装備しているんだ。




 キャノリーユニットは、いわば長大なレール砲。でも、実体弾も撃てる。おまけに接続部と本体を仲介するアームもある。


 だから、発射角度を調整できるレール砲ってワケ。




 さて、どうなるかな。











 「チーム・キャノリーよりルノリー選手、チーム・リバイバーよりパスナ選手!

  両者ともに自分のCPユニットに磨きをかけ、気合もモチベーションも十分そうだぁ!」












 ヒビキの声と共に、両者がフィールドに入る。


 今回のフィールドはコンビナート。高低差もあるし、隠れやすい。おまけにどこからか漏れ出した油が水たまりみたいになってる。


 ある意味で火気厳禁とも火器上等ともとれる状況下だけど、はたしてどう戦うつもりかな。







 キャノリーユニットを背中に装備しての登場なルノリーは、ダークグリーンのポニーテールにオレンジの瞳。中学生女子くらいの体格。


 首から下が全部グレーのインナースーツで、黒を基調として緑のラインがある長袖のフードジャケットを羽織ってる。


 ふくらはぎの部分にアンカーが備えられている赤いロングブーツ。おそらく精密射撃などの時にアンカーで足を固定するんだろう。


 両腕には、車輪のような形状をしたシルバーの盾。登録データによれば、盾であると同時に予備弾丸の収納ケースでもあるとか。


 そして頭には同じシルバーのメット。まぁ、キャノリーユニットが背中にあるなら当然だよね。レール砲だし。














 「ふふふ、久しぶりでありますなぁ…。キャノリーユニットの現物を見るのは。

  古代戦争時代のように、血沸き肉躍る躍動感がっ」


 「な、なんか怖い…」














 気合十分すぎるのか、パスナは既に臨戦態勢。彼からにじみ出る気迫にルノリーが若干引いてる。




 そうそう、キャノリーユニットも古代戦争時代に量産された装備。


 確か開発時期は、ワイルドウィーゼルと同時期か少し早かったっけか。


 どちらも……ていうか、CPユニットの殆どは鎧王軍技術部で開発されていただけに、パスナからすれば感慨深いのだろう。


 さっきの試合に出てたパイルバンカーユニットも鎧王軍技術部が開発・ロールアウトしたものだ。


 ついでにいうとパイルバンカーユニットとワイルドウィーゼルユニットは同時期らしい。




 なんか話がそれてしまった。













 「いやいや、新情報ゴチだぜ」


 「なんか雑学王目指しそうなノリだなぁ…」












 ジュンイチがどんどん雑学王辺りを目指しているように見えてくるから不思議だ。












 「チーム・キャノリー、ヴァーサス、チーム・リバイバー。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」











 あ、試合が始まった。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 「ふっははははは!古代戦争時代の一品を身に着けての参戦とは!

  これは自分にとってはいい刺激剤でありますなぁ!」


 「ひえぇぇぇぇ!?」




 「パスナ選手、いきなりワイルドウィーゼルユニットの火器を乱射ぁぁ!

  ルノリー選手はたまらずダッシュで逃げるぅ!」










 あ、あんなにエキサイトしているパスナは初めて見た…。










 「いや、貴女は上司でしょう?」


 「彼はずっと最前線で戦っていたから、あまり素性を知る機会がなくて…」


 「職務にかまけていた証拠ですよ。これからは直さないと」


 「うぅ…」












 アレックスに軽く説教されてしまった。












 「こんなズルズルするところで追いかけっこなんていやぁぁぁぁ!!」


 「って、なぁぁぁぁぁ!?」




 「突然キャノリーユニットが反転して火を噴いたぁ!

  パスナ選手が急ブレーキ!かろうじてかわした!」


 「見事なマトリックスですね」


 「ツッコむとこソコ!?」




 「ぬぅぅ、まさかキャノリーユニットで背後を撃つとは!

  ……逃げ足はやっ!?」














 パスナがマトリックス回避を決めた時、ルノリーは既に逃亡済み。


 コンビナートとは即ち工場地帯。バトルフィールド用に縮小化した工場施設が広がる、ジオラマの中で戦うようなステージだ。


 なので、実は建物の1つ1つもスケールダウンしていて、倉庫ぐらいのヤツなら身を隠す大岩ぐらいの扱い。


 中央にある煙突塔も、実際には高さ数百メートルぐらいにはなるだろうね。


 でも、向こうが隠れたなら、逆に好都合かもしれない。











 「どうやら、CPユニット使いとしてはまだまだアマチュアのようでありますなぁ。

  このパスナとて、敵の障害物を利用した戦術は想定内であります!

  ウィーゼルユニット、レドーム作動!」












 パスナが装備するワイルドウィーゼルユニットは、実は索敵能力も飛躍的に向上させる装備。


 理由はもちろん、背部に装備されるアーム付きのレドームレーダー。


 円盤状のユニットに内臓されている多次元センサーによって、敵の位置から周りの立体地図、果てには地形の細かい起伏までわかる。


 おまけに電子攪乱まで可能になっていて、あのユニット1つで近〜中距離の高火力と高度の電子戦能力を同時に得ることができる。


 パスナ自身が「CPユニットの中でも高額」って言ったのも、一度に得られる能力の高さに比例して開発コストが高騰したからなんだ。


 ましてやパスナが装備しているものは、ロールアウト直後の最初期型。能力も当初予定していたフルスペック仕様。


 古代戦争時代から続けて使っているなら、装備の維持費だって結構かかっているだろうに…。












 「おっと、ここでパスナ選手も移動開始!

  ルノリー選手は……どこかに隠れているようだが、こちらからでは確認できないっ!

  もどかしいぃーっ!」


 「我々は公平にいくんですよ」


 「分かってるけども!」











 コンビナートという地形状況を利用して、


 キャノリーユニットで影から狙撃しようとしてる?












 「なかなかいい考えではありますが……自分を相手にするには、少々詰めが甘いであります」


 「っ!?かはっ!?うあっ!?」





 「爆発っ!同時にルノリー選手の位置が判明!

  オマケにキャノリーユニットを含め、連続でダメージを受けた模様!」


 「あのワイルドウィーゼルユニット、センサー性能がかなり強化されているようですね。

  そしてルノリー選手にダメージを与えたのは、エネルギーバリアさえ物理的に貫く特殊徹甲弾。

  古代戦争時代でも旧式に数えられる型ですが……いいスナイパーライフルもお持ちのようで」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 特殊徹甲弾。




 かつて古代ベルカ戦争の時代、魔力などによるエネルギーバリアの壁に対抗しうる装備の1つとして提案され、


 パスナがまとめる有能な狙撃・射撃能力を持ち合わせる鎧王軍・第6師団に初めて支給されたものである。




 弾丸の芯にタングステン合金を使っており、通常の徹甲弾よりも高い貫通力を有している。


 また弾頭自体も固い鋼材で作られている為、物理装甲はもちろん、エネルギーバリアさえも貫通可能な威力を実現。


 最初にこの特殊徹甲弾を用いて敵を倒したというパスナは、特殊徹甲弾の有用性を高く評価。


 それ以降、古代ベルカ戦争が終戦を迎えるまでの間、数々の新型装備や弾丸が出回る中でも長く使われ続けたという。


 現在でも一部のルートで流通されており、古代戦争時代に猛威を振るい続けた逸品の1つとして高い人気を持つ。




 アーツバトル連盟も特殊徹甲弾のデータは入手しており、


 ダメージカウンターによる確実な生体防護が行えるように、詳細な分析と多くの検証が重ねられたといわれている。


 そうさせるだけの威力と有用性を特殊徹甲弾が持っていることを、アーツバトル連盟も認めているのである。




 そのような事実もあってか、特殊徹甲弾を現在も攻撃手段の1つとして用いる者は、現代にも少なからず存在している。


 中でもパスナは、古代戦争時代から特殊徹甲弾を扱い続ける、いわばプロフェッショナルなのである。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 パスナはウィーゼルユニットを最初から持っていたワケじゃない。


 最初期版でさえ支給されていない頃から前線で戦果を挙げていて、優れたフットワークと鋭い精密狙撃が持ち味だった。


 それは今も変わっていないみたい。


 寧ろ、ウィーゼルユニットのセンサー強化効果によって、狙撃精度と射程距離が向上している。


 しかも、私が知っている以上に。きっと、私亡き後も技術と装備を磨き続けていたんだ。


 多分、戦場で得た誇りと厳しさを忘れない為に。










 「ルノリー選手を逆に狙撃したパスナ選手!

  特殊徹甲弾の直撃によるダメージで動きがおぼつかないルノリー選手は、もうフラフラだぁ!」











 パスナの狙撃も、最初の頃は通常の弾丸とさほど違いはなかった。


 だけど、鎧王軍技術部が新たに特殊徹甲弾を開発すると、それに誰よりも早く目をつけて試した。


 実戦テストで試してみれば威力も有用性も非常に高いレベルだったって、子供のように大はしゃぎ。


 それからというもの、通常弾に加えて特殊徹甲弾も常備するようになったとか。


 ちなみに、今使っているスナイパーライフルはウィーゼルユニット支給以前から使い続けているタイプで、


 外観はガ○スナ○パーの尻尾部分によく似ている。パスナの戦争初期からの愛用品の1つ。











 「この戦場に、多くのCPユニット使いがいることを、誇りに思うであります。

  それ故に……情け容赦はかけないであります!フォースチップ、イグニッション!!」










 ミッドチルダのフォースチップが飛来、ウィーゼルユニットの基部、


 つまり背中に位置するレドームのアームの付け根部分にあるチップスロットに飛び込む。


 それと同時、ウィーゼルユニットの全砲門にエネルギーが充填され、両肩のポッドのハッチも展開。


 このポッドはブースター内臓式のミサイルポッド。これも戦争初期からのパスナの愛用品の1つ。












 「ウィーゼルユニット、フルバースト!!」











 ウィーゼルユニットを中心に、搭載した火器の全てを使用する必殺技。


 命中精度はセンサー効果により折り紙付き。ポッドのミサイルは全部誘導弾。


 一斉射撃による瞬間最大火力は、CPユニットの中でも高い部類にある。


 当然ながら、直撃でもしようものならひとたまりもない。












 「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。

  ウィナー、チーム・リバイバー」











 そして、特殊徹甲弾の直撃による衝撃ダメージがこたえていたか、


 ルノリーはまともな回避行動もままならず全弾直撃でブレイクオーバーした。











 「鎧王軍の技術力は古代ベルカでダントツでありまぁーすっ!!」




 「パスナ選手、まるでプロレスで勝利したレスラーのパフォーマンスの如き雄叫び!

  ポラリス選手の頭がメチャクチャ真っ赤になっているぞ!?」


 「そういえば彼は鎧王軍の生き残りでしたね」












 パスナの、パスナのバカーっ!!






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 ほどよくポラリスに心酔しているパスナの雄叫びがやけに心地よかった試合が終わり、今度は第4試合。


 組み合わせは、アストラルとゼノンのチーム・メルクリウスと、ステンスたちのチーム・イグドラズだったね。


 1回戦はまだいいけど、代表決定戦まで進んだらどうするつもりだろ。スティアじゃないけど人数不足だし。


 ゼノンと一緒に連戦でいく?それとも……あぁいやいや、まずは1回戦で落ちたらそれで終わりだし。











 「トウモロコシ食いながら言ってても、説得力も何もねぇな」


 「関係ないじゃん」


 「そうなんだけどよ」


 「じゃあ黙れ☆」


 「なんでそんな威圧的!?」


 《あなたがいろんな意味でロクデナシだって言われてるんですよ。事実ですがね》


 「蜃気楼まで!?」












 蜃気楼もなかなかの毒舌家と聞いていたけど、ホントにそうね。


 ていうか、とことん愛されているのかおちょくられてるのかわからないヤツだよ。


 多分、大抵の人は両方なんだろうけど。


 ていうか蜃気楼、自分のマスターがロクデナシって自覚してるんかい。












 「まぁ取り敢えず、この1回戦で誰が出るかだよ。

  アストラルだって疲れるワケだし、なるべくゼノンに頑張ってもらいたいところだろうけど」


 「そもそもアイツって、メンテまでできるのか?」


 「自作デバイスを3機も作っておきながら、今更メンテできないなんてことはないでしょ。

  僕の場合はそもそもメンテナンス不要なんだけど」


 《破損自体殆どありませんし、万が一破損しても自己修復プログラムが働きますからね。

  当然ながら、定期的なメンテナンスプログラムもあります》


 「随分とハイテクなヤツだな」


 「ロストロギアでもないのに、それに匹敵するくらいのオーバーテクノロジーで作られたらしいよ。

  元々持っていたジャンク屋も、全部の解析まではできなかったそうな」


 「マジか」












 イグナイテッドの詳細については、実は僕も分からない部分がある。


 ジャンク屋の兄ちゃんいわく、システムの処理容量に限界がないらしいんだ。


 極端な話、100でも200でも、いくらでもモードチェンジや技のプログラムなどを取り入れることができるってこと。


 必要なものさえあれば、己が機能を無限に拡張させることもできるんだ。






 ……覚えきれないから、あまり詰め込む気もないんだけど。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「波乱の本戦エントリーとなったチーム・メルクリウスからは、人型デバイスのゼノン選手!

  対するチーム・イグドラズからは、ルアク選手が登場だぁ!」









 赤いゲートからゼノンが、青いゲートからルアクが現れる。


 両者ともに、気合は十分だ。









 「チーム・メルクリウス、ヴァーサス、チーム・イグドラズ。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー…」




 <クワガタ!カマキリ!バッタ!ガ〜ッタガタガタッキリッバッ!ガタキリバ!!>


 《"秒殺の皇帝"ゼノン、出る!!》




 「ファイッ!!」









 ゴングに合わせるようにルアクがデバイス起動、ゼノンも名乗りの決めゼリフ。


 ルアクは両腕と両足に武装が展開され、胸部のオーラングサークルに3種の昆虫のマークが描かれて立体的に。


 これが戦闘形態なワケだ。服装が殆ど変わらないのは、私服替わりにしていても支障がないからだよ。




 ジャッジマンのコールと同時に、試合開始のゴングが鳴った。


 今回のフィールドはジャングル。濁った川と雨林が広がっており、全体的に細かい起伏があるのが特徴。


 足場が少し悪いかもしれない。立ち回りの良さがポイントになるかも。












 「ルアク選手、いきなり3人に分身して先制攻撃!

  しかしゼノン選手も、冷静に全てをさばいている!」











 ゼノンは4枚の円状の刃を持つハンマー系の武器「ゼノンハルバード」による接近戦を得意としている。


 だから、ある意味で好都合な相手だったりする。もちろん、向こうのブレンチシェイドによる分身は厄介だけれども。


 しかしそうは問屋が卸さない、ブレンチシェイドも含めて分身技への対処法は検討済みなのだ。












 《分身同士による連携行動ぐらい、想定内だ。

  だが、分身した直後なら、まだ本体の位置が変わっているとは限らない!》




 「ゼノン選手の武器による突き出しがクリーンヒット!

  ルアク選手、モロに吹っ飛んだぁ!」




 《それともう1つ、分身の動きが本体より少し遅れている。

  人間の肉眼でも十分に判別可能だ。あまり過信しない方がいい》













 ましてやゼノンのAIには、レルネが元々開発していた他の機体のデータや戦闘経験値もフィードバックされている。


 つまり、自分とは逆に高機動をウリにしている機体……プルトーネやパンドラのデータもあるワケだ。


 フィードバックされたあんなこんなを総合して考えれば、分身されたところで対処は割と簡単だ。


 ……あれ?












 《今度はこちらからいくぞ!》


 「「「残念でしたー!こっちだって既に把握済みだもーん!」」」


 《なにっ!?》




 「ルアク選手、分身が消えていない!まさか直撃させたのはフェイク!?」


 「でしょうね。ブレンチシェイドによって生み出された分身は、いわば本人のコピー。

  生体反応までコピーしてしまいますから、動きのタイムラグ以外では区別できないでしょう」












 反撃からの追撃を行うべくゼノンが飛び出した瞬間、その両サイドから残り2人のルアクが飛び出してきた。


 両腕をガッチリとホールドされ、動きを止められる。




 どうやら分身する時、本体と分身のどちらかを瞬間移動させることができ、かつ分身から分身を作ることもできるらしい。


 いや、分身から分身をっていうのはわかってた。問題は分身するときの瞬間移動。


 たとえばトランプ。山札を置いて、上の1枚を分身、下の1枚を本体としよう。それで山札は動かさないとする。


 その場合、動かした1枚が上なら分身、下の1枚が本体なので、本体の位置をずらしたように見せることもできる。


 今回の場合でいうと、3枚重ねたトランプの内の2枚を左右にずらしたのだけど、その内右か左の1枚が本体だった。


 敢えて基点とする真ん中に分身を置いといて、ゼノンはそこを突いてしまったというワケだ。


 これはやられた。











 「「「ボクだってね、敗北から学んでいるワケだよ!

    ティアナやジュンイチに何度してやられたことかっ!

    ジュンイチに仕返しできた時はとってもうれしかったなーっ!」」」










 どうやら六課にいる間に考えついた一手らしい。


 そしてあの柾木ジュンイチに一杯食わせたとなると、種明かしされても有効すぎる手品というワケだ。


 何しろ、原理が分かったところで対処しにくいってことに変わりがなくなるんだから。


 どうでもいいけど、動けない相手を両腕のカマキリソードで切り刻みながら自慢話をするのはやめてほしい。なんか嫌だ。













 《悪いが……こちらとしてもすんなり負けるのはいただけない。

  それに"秒殺の皇帝"の異名がすたる……本気でいかせてもらう!》


 <ALTERNATIVE MODE.>















 ゼノンの基礎設計は、オーディーンによく似ている。おそらく、フレームの企画が一緒なんだろう。


 開発時期もちょうど同じくらい。これはプロトゼノンの開発と並行して、バリエーションの模索の1つだったと思う。


 設計図の段階で名前から「プロト」が外れていたので、きっとこれが完成系。


 わざわざ飛行機能を撤廃してまで機体の安定性を高めた理由も、既に知っている。


 それこそが、リミッターを解除した状態で戦う特殊モード"オルタナティブモード"の存在だ。


 これはAIを解析する内に分かったことなんだが、特殊モードのシステムという形で出力にリミッターがかかっている。


 おそらくフルスペック状態で長時間戦い続けると、反動や負荷で自壊してしまうからだろう。


 だから制限時間付きの特殊モードという形をとった。いざという時にはフルスペックで戦えるように。




 オルタナティブモードを発動させると、ゼノンの機体カラーはマントも含めメタリック調の水色になる。


 この手の特殊モードは60秒程度の限界時間があるが、


 理由はさっきも言った通り、フルスペック状態が長時間続けば自壊する危険性もあるからだ。


 ちなみに、ゼノンがプロトゼノンよりも軽装化されているのは、出力向上で負担がかかる部分を減らす為だと考えられる。


 もしくは、パワーをより活かしやすくする為に敢えて外したか。


 なんにせよ、オルタナティブモードを発動したゼノンの動きについてこられるヤツは、そうそういない。











 「ぎゃー!!」


 「ぐえー!!」


 「ぎえー!!」




 「水色に輝きだしたゼノン選手、

  圧倒的なパワーとスピードで逆襲!もう分身も本体も関係ないって感じだぁー!」












 単純比較で特殊モード発動中のスペックは通常時の3倍相当。


 スピードもパワーも劇的に向上し、疾風怒濤の戦いを可能とする。


 輝きだすと同時に両腕をホールドしていた2人を跳ね飛ばし、間髪入れずに目の前の1人も叩き伏せる。


 更に、先に跳ね飛ばしていた2人を叩き伏せた1人と同じところにブッ飛ばす。













 《反撃する暇はやらないっ!

  フォースチップ、イグニッション!!》


 <ATTACK-FUNCTION Ω-EXPLOSION.>













 フォースチップを背面のマント基部にあるチップスロットにイグニッション。


 あふれるエネルギーをゼノンハルバードのヘッド部分に集めて、跳躍。


 空中で大車輪のように回転しながら3人のルアクめがけて落下し、思い切りゼノンハルバードを叩きつける。


 ルアクは跳ね飛ばされ、更に叩きつけた部分を中心に十字状に噴出したマグマエネルギーで焼かれる。


 この"Ωエクスプロージョン"が炸裂した結果、分身2体は爆散消滅、本体もダメージカウンターが爆発した。


 ……ちょいとばかし、威力が凄すぎません?












 「ウィナー、チーム・メルクリウス」




 「戦闘時間は約40秒!まさに"秒殺"だぁ!」


 「特殊モードを使ったとはいえ、圧倒的ですね」











 描写がそこそこ長いので気づかない人もいるかもしれないが、実は所要時間40秒のバトルだったりする。


 相手も相手だったし、不覚を取ったのもあるし、寧ろ秒殺できたのなって感じ。


 これは基礎設計を手掛けたレルネの技術レベルに恐怖を覚える他ない。


 えーと、下手しなくても、トンデモナイ相手にハッキングしかけちゃったかも…。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 んじゃ、今度は僕たちの出番だね。








 「大丈夫か?マスターコンボイはともかく、恭文の魔力は…」


 「心配ご無用。僕が魔力なしでもそこそこ戦えることぐらい、リティもわかってるでしょ?」


 《そうですよ。マスター含め、グランドマスターに鍛えられて素手の戦いができないはずがないですから》


 「ジープで追い回されて、魔法以外の方法で倒せとかな」


 「思い出させないでよ。アレってホントに地獄なんだから」










 アレは大変だったなぁ。まさに生きるか死ぬかっていうデンジャラス訓練だもの。


 ヒロさんたちがジープを運転してたんだけど、その時は思いっきりその辺の石を投げてやりました。


 そしたらヒロさんもサリさんもメチャクチャ怖がってました。


 なんでかな。こっちの方がよっぽど怖い思いをしたっていうのに。











 「そ、それぐらいできるなら大丈夫か…。

  これ以上は俺は何も言わないことにするよ」


 《それがいいですよ。マスターの神髄はグランドマスターと同じく剣術ですからね》


 「確かに」











 まぁ、自分の回復を置いといてでも僕の心配をしてくれるリティの気持ちもわかるけどね。


 トラルーと模擬戦した時、彼に何が何でも追いつこうとしてフライヤーフィンの出力を高め過ぎて、


 本気で魔力切れ起こしたことあったし。


 しかもそれでも惨敗したし。一撃くわえることさえできないって、ジュンイチさん以来の悪夢だよ。












 「貴様の方こそ、代表決定戦でもコンボを使うことになりそうな相手しかいない。

  十分に休んでおくんだな」


 「そうしとくよ」











 そう、2回戦は僕とマスターコンボイでバトル。代表決定戦にもそのまま行くことになるね。


 だから、なるべく消耗を抑えて勝ちたいところなんだけど、相手もチーム・タクティスという手練れ。


 特に問題なのが、リーダー格になっているミナノ。一応戦歴は確認できたけど、得意技の突風攻撃が厄介。


 何より、直接対戦したこともないし、どの程度の威力かもちょっとわかりづらい。


 1回戦をヤクチに任せていたから、2回戦の相手として出てくる可能性も十分にある。













 「さぁ、Bブロックも2回戦に突入だぁ!

  張り切って第1試合、チーム・アルトの恭文選手とマスターコンボイ選手が、

  チーム・タクティスのミナノ選手とミアキ選手のコンビと激突だぁ!」












 赤いゲートから入場するワケだけど、やっぱり出てきたか。


 お互いの消耗度をなるべく均衡にした方が代表決定戦でも戦いやすくなるし、不思議じゃない。


 寧ろAブロックのスティアがバイタリティありすぎじゃないかって疑いたくなるくらいだ。


 同時に青いゲートからミナノとミアキが来て、僕らはフィールド上で向かい合う。





 ミナノは、触ればもふもふしてそうな青緑色の髪を後ろで束ねてアップにしてる。もみあげは肩に届くぐらい。やっぱりもふもふしてそう。


 オレンジに近い色の瞳からは、おおらかさも感じるけど戦いに関しては何かがすわってるって感じがする。


 黒を基調として縁にオレンジのラインがあるノースリーブの和服の上に浅緑の振袖を着て、それをオレンジラインの模様がある黒帯で巻いてる。


 振袖は敢えて肩出しで着ていて、袖の長さは肘のところまで。袖の帯が長くて、途中からグラデーションで水色になってる。


 下は黒いストッキングに水色の幅が狭めなスカート、浅緑のロングブーツ。……というファッション。













 「チーム・アルト、ヴァーサス、チーム・タクティス。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」











 お約束のジャッジマンによる試合開始のコール。


 ゴングが鳴ると同時に、僕とマスターコンボイは同時にセットアップを終える。


 向こうもそれぞれの武宝……ミナノのシップウジンとミアキのスターマインを現出する。


 粒子状の光が集まって武器としての姿を現すのか。


 ミナノは静かにシップウジンを黒い鞘から引き抜いた。なるほど、確かに刀身も黒い。それに、引き抜いただけでも風を感じる。













 「こうして面を合わせるのは初めてかしら。

  私の名はミナノ。戦国武将が一人、尼子晴久あまごはるひさを依元とする戦国精霊さ」


 「取り敢えず聞いていい?なんでミアキとヤクチを引き込もうと考えたワケ?

  そこは優勝の座を狙う者同士、ライバルだし」


 「晴久だったらやりそうなことね。でもね、私は違う。

  戦国精霊まで依元と同じように争うしかないとは思わない。

  敵対する家系の者同士でも、手を取り合うこともできるのだということを証明したいだけよ」


 《確かに、尼子家はともかく、ミアキさんの依元である最上家とヤクチさんの依元である水原家は因縁の間柄ですしね。

  その2人がこうして、貴女の元に手を取り合い1つのチームとなった。

  イディアル総帥の采配による特例とはいえ、見事に証明されたワケですか》


 「本当なら、代表決定戦のフルバトルの場で証明したかったけどね」










 いや、それでも十分でしょ。戦国時代となると、同盟組むにしてもピリピリしてること多いしさ。


 特に訂正も入ってこないことから、大体の事情はアルトが言った通りかな。


 それにしてもイディアル総帥、寧ろ混乱してる状況を楽しんでない?あと、総帥だからって世間への影響力強すぎでしょ。











 「さぁ、お喋りはこの辺にして……戦闘開始よ!」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ミナノがセリフと共にシップウジンの刃を地面に当てながら薙ぎ払い。


 これで地面が少しえぐられて、舞い上がった土煙が恭文たちの視界を奪う。


 しかも薙ぎ払いと同時に突風まで起こしていて、霧みたいになっている。









 「とにかく煙を抜けるぞ!とどまっていればいい的だ!」


 「そりゃそうだよね!」










 マスターコンボイに発破をかけられる形で、恭文も土煙の中から脱出。両サイドから飛び出して、各個撃破か。


 でも、そうは問屋が卸さないようです。ミアキのスターマインが2人を狙って立て続けに火を噴いた。


 放たれたのは……花火の玉?













 「たーまやーっ!

  スターマインから放たれた弾を切り裂こうとした恭文選手とマスターコンボイ選手が吹っ飛んだぁ!

  しかもすごく綺麗!あの弾は花火だぁ!」












 花火の玉だけど、多分あれはリモコン爆弾だ。


 スターマインから指示信号で爆発するようになってるんだアレ。だから、切り裂こうとしても無駄。目の前で爆破されるから。


 じゃあ信号を送る時間は?と思った人もいるだろう。僕も思った。











 《かなり多機能的なシステムですね。リモコン操作式でもいいし、タイマー式でもいいようで》


 「あー、今撃ったヤツはタイマー式か」


 《でしょうね。おそらく、発射してから2〜3秒程度で爆発するようにセットされていたかと》










 イグナイテッドの分析でタイマー式であったことが判明。


 じゃあ、タイマーをセットする時間は?それはミナノが突風と土煙で恭文たちの視界を奪っている間に、だ。


 どうやら初めから先制攻撃はこれでいこうと考えていたらしい。


 スターマインもすごいが、そのプランを考えついたヤツもすごい。そして多機能なスターマインを使いこなすミアキもすごい。


 戦国世界出身だからって侮りがたしだね。スターマインもデバイス化してるワケだし。












 《デンジャラスなお嬢さんですね、花火の玉を直接撃ってくるなんて》


 「そーゆー問題!?ムチャクチャ熱かったんだけど!?」


 「ほらほら、突っ立ってるとまた黒焦げになるわよ。

  ミアキ、情け容赦なんていらないからね」


 「志は依元と違っても、エゲツなさは依元譲りだね〜…」












 史実を見る限り、尼子晴久という人物は結構な野心家だったらしい。


 それと同時に自ら戦争を吹っ掛けることが多いなど、寧ろ対立を深めていく傾向にあったと僕は思う。


 ミナノの志、つまり手を取り合うことについては真逆だが、戦いに容赦をしないエゲツなさは変わらないようで。


 まぁ、人体相手に花火を撃ち込もうとか、罰ゲームでもやらないしなぁ。


 もっとも、なんだかんだ言いながら花火を撃ちまくるミアキも、人のことを言えないが。


 当たり前だけど、人に花火を向けたりするのは御法度だぞ?











 「ミアキ選手の砲撃を軸にした、相手にペースを握らせない連係プレー!

  消極的?とんでもない!これもまた立派な駆け引きだぁ!」




 《どーするよボス!?弾幕すっげぇけど!?》


 「相手が花火なら、こっちも花火で突っ込むまでだ!

  オメガ!次の一発から仕掛ける!」












 花火で突っ込む……あぁ、なるほど。マスターコンボイならできる芸当だ。












 「あら、そっちにも花火的な技でもあるのかしら」


 「あるさ……これぐらいは派手にできるぞ!」


 《Hound Shooter》













 再び自分に向けられて発射された花火爆弾に向けてハウンドシューター。


 ただし、敢えて1発だけ少し先行させ、残りは1点に集めての発射。先行した1発が爆弾に当たって爆発して…














 「うわっうわっ!?」


 「ミアキ!?しまった、誘導弾!」


 「そういうことだ!」













 難を逃れた残りが一斉にはじけ飛び、ミアキに殺到。


 弾を変える暇を与えず、一気に吹き飛ばす。そのままミナノにオメガで斬りかかる。













 「ミナノ!」


 「させるかっての!アルト!」


 《バシッと決めてください!》


 「私だって……タダじゃやられない!」





 「鉄騎一閃!!」



 《ATTACK-FUNCTION AQUARIUS LASER.》










 ミアキも最大砲撃の"アクエリアスレーザー"で迎撃するけど、鉄騎一閃には相性が悪いね。


 ビームを真っ向から切り裂いて、アルトアイゼンの斬撃がミアキにクリーンヒット。


 一気に大ダメージを叩き込まれたようだけど、さすがにしぶとい。まだ健在だ。











 「簡単に勝ち上がれると思っているワケないでしょうけどね……コレをくらわずに帰れると思うなぁっ!!」


 <ATTACK-FUNCTION STORM SWORD.>










 一気に形勢を逆転させてきた恭文たちへの焦りか、


 それとも自分の詰めの甘さに対する自己嫌悪的な怒りか。


 激昂したミナノもアタックファンクション"ストームソード"を発動。




 予選でヤクチが使っていたソードサイクロンを覚えているかな。アレの強化版がストームソード。


 自身がコマのように超高速回転し、巻き起こった竜巻が斬撃となり立ちはだかる者を襲う。


 ハッキリ言ってしまうと、至近距離で発動したストームソードを止める方法は殆どない。


 ましてやミナノのシップウジン自体も暴風を発するせいで、通常のストームソードよりもパワーがある。




 追撃しようとしていたところに繰り出されたおかげで、至近距離でくらうハメになったマスターコンボイが切り刻まれる。


 恭文はかろうじてバックステップで回避できたけど、もう少し距離が近かったら巻き込まれていただろう。


 ……マスターコンボイ、寸前のところでプロテクションを展開していたか。さすがに反応が早い。











 「大丈夫!?」


 「ダメージは抑えられたが、もう一度防ぎきる余裕はないな。

  早いところ勝負を決めるしかない」


 「奇遇ね、さっさと勝負を決めたいというのはこっちも同じ。

  一度や二度連携を崩した程度でいい気になられても困るわよ」


 「私だって、まだいける!」




 「両者、必殺技の応酬を経てもなお健在!

  これは実にレベルの高い攻防戦だぁ!」


 「まぁ、伊達に本戦に進んだワケでもないってことですよ。

  ましてやこの2チーム、暴走したユーリプテルス選手の怒涛の攻撃から生き延びてますし」




 「恭文、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」


 「……りょーかい」











 体勢を立て直し、両者が再びにらみ合う。


 リリエンの解説通り、あの4人……ていうか両チームともに、ユーリプテルスを撃退した実績で本戦進出を決めたようなもの。


 その中で、唯一ミナノだけは当事者じゃないけど、それは些細な問題だろう。




 どうやら次の一手で決めてしまおうっていうのは同じみたいだけど、


 恭文はマスターコンボイの次の一手が分かったらしい。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。あぁなるほど。











 「ミナノ、追撃は任せるよ!」


 <ATTACK-FUNCTION LASER CUTTER.>











 ミアキは本当に多くのアタックファンクションをマスターしている。


 予選だけでもブレイクボム、ナパームボム、アクエリアスレーザーを披露しているってのに、


 更に"レーザーカッター"までお披露目するとはね。


 この技は、高密度レーザーを集束状態で照射しつつ武器を振り回し、目の前をレーザーで扇状に薙ぎ払うというもの。


 通常の分類では両手銃系統の技だけど、スターマインなら問題なし。大砲であり両手銃だから。













 「任された以上……確実に当てる!」


 <ATTACK-FUNCTION GEKKA-ZIN.>













 ミナノの次なる手は"月華刃げっかじん"という、斬撃系のアタックファンクション。


 水平に円を描くような……というか実際に円状の衝撃波を放つ技で、至近距離ならまず確実に当てられる。


 しかも水平方向限定とはいえ360度全てに対して攻撃判定があるという、当てやすさが魅力的な技だ。


 アタックファンクションとしては中級の技で、それ故に技の発動に必要なエネルギーも少なめで済むのもいい。


 多分、ストームソードが上級故に消耗の多い技だから月華刃をチョイスしたんだと思う。仕留めきれなかった時のことを考えて。




 まずいえるのは、ミアキのレーザーカッターは初めからオトリ。


 前方に広い攻撃範囲を持つ技で恭文たちからジャンプかバックステップ以外の回避方法を奪い、


 動きを止めるなり空中に浮くなりしたところへミナノが一撃を当てる、と。


 恭文もマスターコンボイも純粋な空戦型じゃないから、飛行補助の魔法を使っていない限りは空中での動きに制限が出る。


 それを見越しての連係攻撃なんだろう。なかなかやるね。











 「あいにくだけど……」


 「貴様らの連携に付き合うつもりは……」


 『初めから無い!!』












 レーザーカッターをジャンプでよけるところまではミアキたちの想定内だっただろう。


 だが、あの二人を相手にいえば、追撃技が月華刃だったのがマズかった。


 月華刃の衝撃波は、決して高密度とはいいがたい。当たりやすさを重視しすぎたんだ。


 たとえそれが、シップウジンの能力で突風を付与していたものだとしても、だ。


 二人は既にそれぞれのデバイスに魔力を込め、斬撃の威力を底上げ。それで真っ向から月華刃の衝撃波に斬りかかる。


 基本的な攻撃力が高いだけでなく、斬撃の威力は折り紙付きな二人の反撃は月華刃では抑えきれず……












 『ダブル、鉄騎一閃!!』












 易々と月華刃の衝撃波を粉砕した2つの鉄騎一閃が、ミナノに直撃。


 更にそのまま切り替えし、刀身に残っている魔力でミアキにも同じく鉄騎一閃の連撃が叩き込まれた。













 「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。

  ウィナー、チーム・アルト」






 「決まったぁーっ!

  必殺技の撃ち合いを制し、チーム・アルトが代表決定戦へのキップを掴み取ったぁぁ!!」












 ダブル鉄騎一閃の直撃で、ミナノもミアキもブレイクオーバー。


 さて、次の対戦は確か……。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「連投していいの?

  少なからずダメージを受けた直後だろうに…」


 「心配は不要だ。ゼノンのメンテならとっくに済ませてある」










 私の質問に、アストラルは軽い調子で答える。


 そう、ゼノンは1回戦に続いて2回戦にも出てきた。もちろん、アストラルと共に。


 私はアレックスと一緒に出てきた。その為にパスナに1回戦を任せた。


 アストラルが1回戦をゼノンに任せることぐらいは、簡単に想定できたし、


 彼の人柄というものをもう少し知ってみたいというのもある。根っからの悪人には思えない。


 今回のバトルを通して、少しでも彼のことを知る手がかりを得られれば、上出来。












 「さぁ、試合開始のゴングは既に鳴った後だが、静かな幕開け!

  寧ろ私、このまま実況してていいか疑問になってくる!」


 「してくださいよ」












 ヒビキとリリエンのやり取りで、少し和んだ気がする。けど、それは今はいい。












 「それより鎧王殿?あの後、ちゃんと修練は積んでたかい?

  ユーリプテルスにトドメを刺したあの一撃からして、強まっているというのはわかるけど」


 「あいにくさま、手抜きで強まれるほど都合のいい体はしてないから!」













 まぁ、六課の模擬戦では本当に死ぬんじゃないかって思いたくなる地獄を何度も見たけど。


 主になのはとジュンイチのせいで。


 特にジュンイチの反則技のオンパレードは酷かった……あぁ思い出したくないっ!













 「取り敢えず、うなされるような悪夢を見れるってことだけはわかった」


 「それはどうも」












 普通に話しているように見えたら、それは間違い。


 双頭大蛇をテンペスターフォルムにして、アストラルのチャクラムビットを片っ端から弾きながら話しているから。


 アレックスとゼノンも、お互いの長所がかみ合っているのか否か、こう着状態になっているようだし、


 勝負に出るならこちらから……といきたいけど、それは危険。


 実際にくらったからわかるけど、フルビットバーストに捕まったら大ダメージは必至。


 対処しづらい至近距離での発動だけは絶対に避けたい。













 「さっきからすごく驚いているんだけど、

  よくもまぁチャクラムビットの軌道を見切れるもんだ。

  こちとらクヴァシルの超高速演算処理をフル稼働させてブーストかけてるっていうのに、

  それを上回りそうなペースなんだもの。

  六課じゃこういう特訓までやってるのかい?」


 「ビット使いが最低でも2人。そこに誘導弾の使い手まで来たら、どうあっても鍛えられる」


 「……あー、そういうことか。なんて凄まじい叩きあげ姫なnごぶぁあっ!!」













 失礼なことを言われた気がしたので、分割されている双頭大蛇の右の連結刃を右横薙ぎに叩きつけてみた。


 そしたらすごい勢いで横回転しながら近場の岩に突っ込んでいった。


 同時にチャクラムビットの動きが鈍ったのを見ると、やはり彼の意識がないと精密な制御ができないみたい。


 極端な話、デバイスだけじゃ満足に動かせないんだ。






 確かに軍を指揮していた身ではあるけど、だからって脳筋兵士みたいに言われたくない。


 ……なんか、トラルーと一緒にいた頃を思い出してしまった。アストラルからは、トラルーと似た雰囲気が感じられる。


 同じユニクロンの眷属でありながら、真っ向対立のトラルーと協力的なアストラル。


 目的というか目指すものは真逆なのに、険悪な雰囲気じゃない。それはトラルー自身が言っていたことだけど、確かにそうかも。


 ユニクロンという因果さえなければ、もう少し素直に付き合えるかもしれない。私はそう思う。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ふ、ふふふふ……っ。


 チャクラムビットの防御行動をも上回る速度での一撃とは…。


 あは、あははははははははは。












 《打ち所が悪かったんじゃないのか?

  頭のいたるところから血しぶきが上がっているのだが》


 「下手しなくても頭いきませんでしたか?」


 「頭じゃない!狙ったのは腰!」











 そう、鎧王殿の一撃は僕の左わき腹にクリティカルヒット。


 あまりの勢いに立ったまま高速回転しながら岩に激突。


 頭を打ったのは間違いなくその時。なのでポラリスは無実である。


 それと、何も気が狂って笑い出したワケでもない。









 「お礼を言うよ鎧王殿……今、ここにっ!

  僕の新たなるアタックファンクションがっ!完成したのだからぁっ!!」










 チャクラムビットの動きは間に合わずとも、クヴァシルの超高速処理演算の目は欺けない。


 ……何かおかしい表現な気もするが、とにかくだ。


 とどのつまり、さっきの彼女の"目にもとまらぬ一撃"をヒントとして、クヴァシルが新たなアタックファンクションを考案したのだ。













 「ゼノン」


 《そんな出血状態で大丈夫なのか》


 「大丈夫だ、問題ない。それより、オルタナティブモードだ。

  あの2人に、できる限りダメージを与えるんだ。骨は拾ってやる、安心して散ってこい」


 《散ること前提だとっ!?

  ……まぁ、いいだろう。そこまでいうなら乗ってやる》


 <ALTERNATIVE MODE.>












 オルタナティブモードを発動させたゼノンが飛王と鎧王めがけて躍り出るのに合わせて、


 チャクラムビットによる援護射撃と包囲で一気にダメージを積み重ねる。


 さすがの王たちといえど、特殊モードを発動した相手との戦闘経験は皆無といえる。


 ジュンイチがバーストモードを使ったところで、勝負にならないから経験値の足しにならないだろうし。


 通常時からは考えられないハイスピードとハイパワーでゼノンハルバードの乱舞を見舞い、


 そこに援護射撃も加わって、飛王殿も鎧王殿もダメージが一気に増していくのが分かる。











 <ATTACK-FUNCTION Ω-EXPLOSION.>


 <ATTACK-FUNCTION BURNING BRADE.>


 <ATTACK-FUNCTION GROUND DRIVE.>










 ゼノンの技に合わせ、飛王殿と鎧王殿もフォースチップをイグニッション。


 お互いの最大攻撃がぶつかり合い、大爆発を起こす。


 やはりというか、"アレス"本戦ともなるとこんな展開が十八番になってくるね。


 ホラ、意地と意地のぶつかり合いだから。みんなして本気出すっていう。


 ……スティアだけは、現状で本気を出していたのかよく分からないけど…。









 「オルタナティブモードに加えてのアタックファンクション!

  先の試合で一気に勝負を決めた組み合わせに、王2人は対抗できたのか!?」








 ヒビキの実況が響く中、煙が晴れていく。


 そこには、未だ健在な様子の王2人。








 「ゼノン選手、ブレイクオーバー!しかし、残した傷跡は大きいぞ!」









 さすがに古代ベルカで名をはせた武勇でもある王2人が相手だと、分が悪かったか。


 全身の装甲がヒビだらけになったゼノンはそのままブレイクオーバー。


 ゼノンハルバードに至っては、ヘッド部分がなくなっている。おそらく大爆発と共に砕け散ったんだろう。


 よく見れば、炎帝翼剣や双頭大蛇にもダメージがあることが分かる。











 「ゼノン……酷使してゴメンよ。

  その代わり、きっちりとカタをつけてやるから。

  フォースチップ、イグニッション。ビヴリンディ、リミッター解除」




 <ATTACK-FUNCTION SENSHUNZIN.>




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「これはまたド派手にやられましたな、鎧王殿?」


 「皮肉はいい…」


 「失敬。真面目な話、修理には少し時間がかかりますね。

  なにぶん、フレームまでいったん解体しての修理やメンテまではやったことがないですから。

  ですが、これはまたいい機会。双頭大蛇や炎帝翼剣の詳しいメカニズム、しっかり把握させていただきます。

  ついでに強度アップもしておきましょう」


 「助かります」








 2回戦第2試合が終わってすぐ、ポラリスさんとアレックスさんは極輝覚醒複胴艦に来た。


 理由はもちろん、さっきアストラルが使った"閃瞬刃せんしゅんじん"っていう技で、2人のデバイスが壊れてしまったから。


 どっちもバラバラになっていて、基礎部分まで修理が必要な重傷。


 ヒルメさんでも手を焼くレベルみたい。








 「疲労回復効果がある紅茶です。よろしければ…」


 「ありがとう」


 「いただきますね」










 もちろん、閃瞬刃の激しい攻撃で大ダメージを受けた2人へのケアも必要。


 私が出した紅茶で、少しは疲れが取れるといいんだけど…。











 「相変わらず、ゆーちゃんは気が利くね〜」


 「いたんですか、こなたさん」










 実はお姉ちゃんのデバイス……アイギスも、予選で結構ダメージ受けちゃって、修理しているところ。










 「いやはや、アーツバトルの常連さんたちには参ったねぇ〜。

  みんな強いのなんの。キーコード集まる前に倒されちゃった」


 「古代ベルカ戦争の生き残りや、それ以外の場所で力をつけてきた猛者たち、ツワモノのたまり場ですからね。

  このデルポイ大陸出身の方々にも相当な手練れが多いと聞きます」








 タケハヤさんが仕入れた情報にも、アレックスさんが言っていたような文面があった。


 なんでもデルポイ大陸には昔、古代ベルカのように複数の魔王がいて、それぞれの種族を統治していたとか。


 その中でも極めて強い力と、世界の民に対する深い愛情を持ち合わせた大魔王っていう人は、


 他の魔王まで含めてデルポイ大陸の全てを統治していたんだって。


 でも、一部の力に溺れた人間の反乱のせいで大魔王が行方不明になって、


 それから魔王たちでさえ抑えきれないほどの魔族の発起が相次いで、一時期は古代ベルカ戦争にも引けを取らない未曾有の戦争になったとか。









 「で、その未曾有の戦争を文字通り凍りつかせたっていう英雄がいるそうね」


 「戦争を凍りつかせたって、なんかよく分からない表現だねぇ」


 「その英雄は存在自体が天変地異とまでいわれ、彼が現れる戦場には必ず氷河期が訪れたとか」








 かがみさんが言っていた人も、デルポイ大陸で生まれ育った人。


 戦争を凍りつかせる……以前見つかった、ブリザードセイバーみたいな力かな?


 つかささんやみゆきさんも、そっちに興味がいったみたい。


 けど、あまりにも大昔の話だったから、デルポイ大陸の人でさえおとぎ話程度にしか思ってない人もいるとか。


 それでも当事者といえる人たちもデルポイ大陸にはたくさんいて、今でもその話をするとみんなして震え上がるって。


 どんな人なんだろう。









 「アーツバトル連盟はデルポイ大陸の民とも同盟関係にありますが、

  彼らをもってしても詳しいことはわからないようです」


 「でも、その話が本当なら、おそらく戦闘力は群を抜いてる。

  全開状態の聖王でもかなうかどうか」










 アレックスさんやポラリスさんも知らないってことは、多分古代ベルカとは関係ないと思う。


 そんな人が世界の敵にならないように、って思ってしまうのは、きっとジュンイチさんっていう前例があるから…かな。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「Bブロックもいよいよ大詰め、代表決定戦!

  赤コーナー、チーム・アルト!!青コーナー、チーム・メルクリウス!!」








 焼きトウモロコシも既に20本は食い尽くした。


 そんなところで代表決定戦の始まりが告げられた。


 実況をヒビキから交代した角馬王将の実況と共に、呼ばれた2つのチームのメンバーがフィールドに立つ。






 今回のフィールドは、氷山地帯。


 地面は見事な氷で、天然のスケートリンクのよう。


 迂闊に走り回ると自滅の危険さえ伴う、足取りに気を使うフィールドといえる。


 起伏はそんなにないけど、高台のようにそびえたつ氷の山がいくつか。


 山とはいってもそんなに高いものじゃなく、普通に考えれば子供がソリ遊びを楽しむ程度のものだ。


 ただし、ステージ中央付近に1つだけ、他よりも高くそびえる大きな山もある。







 チーム・アルトからは、ちゃんとダメージケアをした上で恭文たち3人が同時出場。


 対するチーム・メルクリウスからは、アストラルだけ。やはりゼノンの再メンテは間に合わなかったか。


 あの傷だとメインフレームまで痛めてそうだし、数分程度で直せるのはヒルメぐらいだろう。


 しかし、アストラルが何の策もなしに1人で躍り出るワケがない。新技の閃瞬刃以外にも策がある筈だ。










 「チーム・アルト、ヴァーサス、チーム・メルクリウス。

  バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」








 「召喚――フェアリー」









 ジャッジマンのコールと共に両手を水平にかざし、アストラルが使ったのは……召喚魔法。


 アストラルは召喚術も使いこなす。おそらく、クヴァシルで収集したデータから学んだのだろう。


 大昔に一緒にいた頃は使えなかった筈だし。





 Aブロックの代表決定戦でもケルベロスが召喚を行ったことからわかるように、


 頭数さえオーバーしなければ召喚という形で増援を呼ぶこともできる。


 もちろん、召喚は1試合中に1回こっきりで、召喚時に試合のルールに合わせて欠けている分の増員しかできないけど。


 たとえば今みたいに代表決定戦なら、3対3のフルバトルなので最大2人は増員できるワケだ。


 戦闘技術に明確な制限をもたないアーツバトルならではのルールともいえる。


 ちなみに、ルアクのブレンチシェイドについては、あくまでも分身技であるということでお咎めなしである。






 呼び出されたフェアリー。アレも自立稼働式の人型デバイスだ。しかも型が古い。


 白を基調としたカラーリングで、手や体の細部にラベンダーに近い紫、頭部のU字状のラインがピンク、目が赤。


 更に背中には3対、計6枚の真紅の羽があり、最大で数分程度なら飛行も可能。


 実はインビットと同様、古代戦争時代にひそかに量産・投入された機体だけど、そのスペックは段違い。


 しかし役目はいわば特攻機。核エンジンを超小型に圧縮したメガトン爆弾を動力部に内臓している為、基礎出力が非常に高い。


 基礎出力の副産物として、超高度な光学迷彩機能まで持っている。ただ、長時間の保持はできないらしいけど。


 耐久力が低いのと、あくまでも光学迷彩なので自分の影までは隠せないのが救いか。




 旧時代の産物さえたやすく再投入できるのも、ひとえにアストラルがクヴァシルを利用して情報と技術を集めているからだ。


 インビットもおそらくは、クヴァシルからデータを得たダークコマンダー辺りの差し金だろう。


 まぁ、プレダコンズまでその技術を得たのは、アストラルがレルネのコンピューターにハッキングしたせいだろうけど。


 報告があったルシファーについては、おそらくプレダコンズ側での完全新規品だろうね。


 レルネに確認したところ、彼のAIユニットは作った形跡がなかったから。









 召喚の魔法陣から降り立ち、アストラルの両サイドに並び立ったフェアリー2体。


 これで恭文、マスターコンボイ、リティの3人を同時に相手にするようだ。


 量産型とはいえ、フェアリーをお供にすることには、あの3人を真っ向から迎え撃つことさえ可能な説得力がある。


 ただし、光学迷彩機能の有無は関係なし。それを差し引いても、実はすごいパワーを持っている。


 とある情報によれば、インビットとフェアリーで戦闘させたところ、インビットが一撃で大破したらしい。


 それも普通に蹴り飛ばされただけで。基本装備の片手銃「ビームサブマシンガン」がいらないように思えるほどのパワーだ。









 「旧時代の産物をナメるなよ?まずは高みの見物とさせてもらうさ」




 「あぁーっと?アストラル選手、フェアリー2体を置いて自分だけ山の上へ!

  何かの作戦なのかぁっ!?」









 そうか、狙いは2回戦と同じだ。


 フェアリー2体で可能な限り恭文たちを消耗させ、疲弊したところへ閃瞬刃を叩き込むって寸法だ。


 アレックスとポラリスに対しても使った手口だけど、オトリ役がオトリ役なだけに厄介だ。


 それに、今回はフィールドがよく滑るのもマズイ。










 「何のつもりかはわからないが……なぁっ!?」


 「わったったっ!?」










 舞台は氷山フィールド、すなわち氷の大地の上。


 マスターコンボイはモロに足を滑らせるし、リティもうまく立ち回れない。


 勢い余って滑り、リティはまだトラクローでブレーキがきいたけど、マスターコンボイなんて近くの氷山に激突した。


 もちろん、動きにくさは恭文も変わらない。仮にフライヤーフィンを使ったところで、フェアリーも飛行可能。


 オマケに基礎出力の影響ですばしっこいし、打撃で叩き落とされでもしたら致命傷だ。


 片方のビームサブマシンガンの連射をしのぐ恭文だけど、そこにもう1体の飛び蹴りが炸裂。


 アルトアイゼンで防いでなかったら、これだけでも大ダメージだろう。


 六課内部の戦力で例えるなら、ハイパーウィンドフォームのマスターコンボイに殴られるくらいの威力はある。












 「リティ!こいつら使え!」


 「わ、わかった!」


 <タカ!ゴリラ!タコ!>











 ここでリティがステンスの指示でメダルチェンジ。両腕をゴリラに、足をタコにした"タカゴリタ"だね。


 頭はいつものままで、両腕に白い大型手甲「ゴリバゴーン」を備え、両足は前後に水色の掛け布がある黒タイツに青の靴。


 下半身は掛け布が4枚ずつ、前後合わせて8枚に分かれて足のように使える「タコレッグ」だ。


 胸部のオーラングサークルは、真ん中がゴリラの顔のマークの、下がタコのマークのものに変わる。




 恭文たち3人は背中合わせで密集し、その周りをぐるぐるとまわりながらサブマシンガンを撃ちまくるフェアリーの攻撃を防ぐ。


 なるほど。さっきのメダルチェンジ、タコレッグの超吸着で足取りを確実にして、ゴリバゴーンで攻撃と防御の底上げってワケか。


 なお、タコレッグは展開しなくても超吸着は使用可能。展開するのはコンボ形態、つまりシャウタの時だけなんだとか。


 亜種形態の場合、超吸着のパワーは両足にのみ集中。掛け布は飾りと化すけど……なんか、この組み合わせだと中国圏の武闘家に見える。











 「相手が下がれば攻めて、出てくれば離脱する。

  統率のとれた動きだね」


 「教科書通りでアクビが出るけどな」


 「ジュンイチさんならどうします?」


 「あんなの、炎で薙ぎ払えばすぐだな」










 まぁ、なのはと話してるジュンイチの炎ならフェアリーを一撃で破壊するには十分だろう。


 しかしフェアリーは元々、機動力を重視した設計だ。


 飛行能力があるのも、機動力を追及したが故の副産物でしかない。飛行制限時間が短いのはそのせいだ。


 さっきから氷の上をスケートのように滑って移動しているのが、飛行時間が短い証拠。


 それに、少なくとも戦時中のフェアリーのAIは、相手の動きを学習することで戦法を切り替えることができる。


 アストラルが作ったとなると、仕様はおそらく戦時中のもの。炎による攻撃も、すぐに学習されてしまうだろう。


 ましてやフェアリーは量産機。それも、実力はガジェットやドールなんかとは比べ物にならない。


 動きを学習されて、その情報を全てのAIが共有したら、ジュンイチといえど一筋縄ではいかなくなる。













 「チーム・メルクリウスのフェアリー相手に、チーム・アルトは防戦一方!

  このまま終わってしまうのかぁ!?」


 「終わるワケが……ないだろう!?」












 包囲殲滅を阻止するべく、マスターコンボイが飛び出して斬撃。


 が、あっさりとよけられてしまう。とりあえず、勢い余って転倒しなかっただけマシか。












 「さすがにこれじゃあ…納得できないって!」


 「調子にのるな!木偶人形ふぜいが!」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 マスターコンボイに続いて、リティも飛び出す。


 タコレッグいいなぁ。氷の上でも普通に走れるし。


 しかも、うまい具合にフェアリーを挟み撃ちにできる構図になった。









 「むっ!?」


 「あっ!?」










 けど、フェアリーはそれぞれ逆方向にサイドステップして散開。


 挟み撃ちから一転して、正面衝突の構図に。


 ところが、オメガの刀身とゴリバゴーンをぶつけたところから、互いのパワーを利用して方向転換。


 それぞれが左右に散ったフェアリーへと向かっていく。


 あ、滑るのを利用してスケートみたいに滑り始めた。リティも、タコレッグの吸着を利用するより早いって思ったのかな。


 ていうか、マスターコンボイもあんなにうまく滑れるなら、そろそろローラースケートにも慣れていいんじゃ…。









 《スキャニングチャージ!》


 「くらえっ!」






 <ATTACK-FUNCTION BAGOON PRESSURE.>


 「セイヤーッ!!」




 「エナジー、ボルテクス!!」


 《Energy Vortex》










 リティの"バゴーンプレッシャー"とマスターコンボイのエナジーヴォルテクスが、


 それぞれの眼前にとらえたフェアリーに炸裂。










 《それでこそボスだ!》


 《さぁ、これでまた1対3の構図に戻りましたよ?》


 「さすが、と言わせてもらおう。……だけど」


 『!?』












 オメガやアルトの言葉を受けても余裕の姿勢を崩さないアストラル。


 それだけじゃなく、なんとズタボロになったフェアリーが突然マスターコンボイとリティに飛びかかった。


 ブレイクオーバーしてなかった!?











 「あと少し威力が高ければこうはいかなかっただろうね。

  けど……もう手遅れだ。ビヴリンディ、リミッター解除!」


 「まずい!」












 まさかAI稼働の量産機があんな根性戦法とってくるなんて盲点だった。


 しかもパワーが強いのか、マスターコンボイもリティもフェアリーを振りほどけない。


 そこにアレックスとポラリスを一気に沈めたアタックファンクション。


 それがクリーンヒット?冗談じゃない。


 滑って転ぶかもしれないということさえ忘れて、アルトを構えながら2人の前に。











 「アルト!できる限りの最大防御!!」


 《Round Shield》











 ハッキリ言って、広範囲攻撃でもある閃瞬刃に局所防御型のラウンドシールドじゃ無理があるんだけど、


 完全防御が無理な以上は少しでもダメージを減らすに限る。


 レルネが教えてくれたんだけど、あぁいう範囲攻撃系のアタックファンクションは、


 射程内にとらえた目標全てに攻撃を叩き込む性質上、数が多いとそれだけ威力も分散されるとのこと。


 つまり、今僕がマスターコンボイたちの前に躍り出て防御すれば、多少なりともダメージを分散できるんだ。


 冗談じゃないよ?1回のアタックファンクションでいきなり形勢逆転されるなんて。


 もちろん僕自身も生き延びなきゃ意味がないので、敢えて強度優先でラウンドシールド。


 アルトを魔力の壁に押し付けるように構え、とにかく耐えきることに専念。











 <ATTACK-FUNCTION SENSHUNZIN.>










 来たっ!!






 10基全て展開したチャクラムビットの内、左右の手に1基ずつ手持ちで構え、


 右手と左手それぞれで振り払うような動作と共にアストラルの姿が掻き消える。


 その刹那、無数の紺色の……アストラルのパワーをまとった斬撃波が大量に僕らに襲い掛かってきた。


 あまりにも凄まじい連撃はもはや嵐。アストラルどころかチャクラムビットさえ補足できない。


 それでもラウンドシールドを張り続ける僕を尻目に、2体のフェアリーが爆発する。


 やっぱりマスターコンボイやリティにも斬撃が飛んでるんだ。


 そして一瞬アストラルの姿が見えたかと思うと、チャクラムビットを握って既に振り上げていた両腕を振り下ろす。


 同時にトドメの大爆発まで起きた。










 悠々と地面に降り立つアストラル。その直後、両手のものも含めて全てのチャクラムビットが輝きを失う。


 で、僕らは……なんか、いろいろとヤヴァイ感じ。










 《マスター、残念なお知らせです。バッキリといかれました》


 「やっぱり…」










 アルトの刀身に光る、一筋の亀裂。それが一気に広がっていく。


 中ほどから切っ先までの刀身が落ちた。


 実は、閃瞬刃のトドメの一撃と同時にラウンドシールドが縦に真っ二つに割れるのが見えた。


 だから、まさかとは思ったけど…。アルトを切り裂くって、どんだけだよ。











 《ボス!しっかりしろボス!》


 《どうやら、味方は誰もブレイクオーバーしていないようですね》


 「それが不幸中の幸いかぁ…」











 マスターコンボイとリティも、かろうじてブレイクオーバーは免れていた。


 けど、僕も含め立っているのがやっと。まさか閃瞬刃って、スタン効果までついてる!?









 「恐るべきパワー!アストラル選手の新技・閃瞬刃!

  味方を犠牲にして、アタックファンクションを決めたぁ!!」




 「ふふふ……あはははは……。

  敢えて言わせてもらおう……我が世の春が来たぁぁぁぁ!!」






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 いったん間をおいてからどっかの子安ボイスな誰かさんみたいなセリフと共にアストラルが突撃。


 チャクラムビットの遠隔攻撃と直接攻撃でやっさんたち3人をブッ飛ばす。


 ていうか、アルトアイゼンをぶった切るヤツなんているのかよ!?








 「あのアルトアイゼンが斬られたとなると、やっさんの攻撃手段がかなり絞られる。

  クレイモアとかならともかく…」


 《しかし、そうなると決定打となりうる技が殆どありません。

  アルトアイゼンが機能停止まで至らなかったのが唯一の救いでしょうが…》


 《厳しいよなー、さすがに…》










 サリや金剛、アメイジアのいうとおりだ。


 やっさんにとって、アルトアイゼンは攻撃の最大の軸だ。


 それが使えなくなったとなると、フィニッシャーはマスターコンボイかリティに頼むしかない。


 ただ、アストラルがそんな余裕をくれるか、だな。





 あーくそ、レルネが言ってた「宇宙はあまりにも広すぎる。管理局は井の中の蛙レベル」って言葉が痛い!


 まぁ、あの子も実はトラルーが言ってた言葉を借りただけらしいんだけど…。


 しかし、井の中の蛙ときたか。この試合を見てると本当にそうとしか思えないから、もう笑うしかない。


 ていうか、アストラルもユニクロン生まれだっけか。どーりでインフレじみた威力があると思った!









 《ボーイたちにとってはこっからが正念場だな。

  勝てない相手じゃない筈だし…》


 「一発逆転の鍵は……マスターコンボイか、それともリティか…」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「フェアリーの動力部、アレが旧時代のものと同じであれば、

  マスターコンボイ選手とリティ選手は余計大きなダメージを受けている筈です。

  これ以上は攻撃を受けたくないところでしょうが…」









 リリエンの解説も聞こえる中、なんとか立ち上がる俺たち。


 確かに、フェアリーの爆発の方がかなりライフを奪ってる気もするけど…。


 アルトアイゼンが切れたとなると、普通にくらっても痛いはず。










 「だったら、これでどうだ!?」


 《Energy Vortex》


 「甘いんだよぉ!

  神の世界への引導を渡してやる!!」


 <ATTACK-FUNCTION SENSHUNZIN.>











 マスターコンボイの反撃は虚しく空振り。


 100倍返しといわんばかりに再び閃瞬刃で俺たちに斬撃の雨あられ。


 更なる猛攻撃にもなんとか耐えきったけど、状況の悪さは明らか。


 アストラルがまた着地、チャクラムビットは輝きを失う。……ん?輝きを失う?













 「おんやぁ?もうおしまいか?」


 「まだまだ!!」


 「おわ危ねっ!」













 せめてもの反撃。両腕のゴリバゴーンをアストラルに向けて発射した。ロケットパンチみたいに。


 そしたら、何故か手持ちのチャクラムビットで弾いた。


 おかしい。あんなにたくさんのビットがあるのに、わざわざ手持ちの方で弾くなんて。


 弾いたすぐあとでチャクラムビットに輝きが戻る。


 ……もしかして。










 「どうする……また閃瞬刃をくらえば、今度こそもたないぞ」


 「けど、接近も退避も許さない上にアルトも切り落とす技を相手にどうやって?」


 「……恭文、マスターコンボイ」










 確証はない。けど、やっぱりおかしい。


 浮かんだ作戦が1つ。それに賭けるしかないかもしれない。


 だから、2人に耳打ちで教える。










 《……それがマジだとすれば、確かに逆転はできるな》


 「本当なんだな?」


 「俺が感じている違和感が正解なら、だけど」





 「相談か?閃瞬刃を相手に」





 《迷ってる暇はないですね》


 「うん、その作戦に賭けた!」











 オメガとマスターコンボイはまず乗り気だ。


 アストラルが勝ち誇る中、アルトアイゼンと恭文も乗ってくれた。


 どうか、これで逆転できますように!





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 『おおおおおおおおおおおお!!』









 3度目の閃瞬刃の直前、恭文たちがアストラルへ突撃。


 マスターコンボイとリティが前に出て、そのすぐ後ろに恭文がつく形だ。


 なんか企んでるね。








 「むっ、無茶だよアレ!」








 イテンが思わず叫ぶけど、ただの無茶なワケがない。









 「必要ないな!我が勝利の道に、お前たちはっ!!」


 <ATTACK-FUNCTION SENSHUNZIN.>









 今日だけで累計4回目の閃瞬刃。


 無数の斬撃が荒れ狂う中、ゴリバゴーンやオメガを盾にしてリティたちが前に進む。


 ゆっくりと、けど確実に。











 「うはははははっ!散るがいい!!」










 なんかガンダム界の御大将的な口調でセリフを放つアストラル。


 そのままシメの大爆発を起こして、近場の地面に降り立つ。


 1回目、2回目と同様、全てのチャクラムビットが輝きを失う。




 煙が晴れると、全身ズタボロになったマスターコンボイとリティが、力なく崩れ落ちる。


 そのすぐ後ろにいる恭文も、2人ほどじゃないけどボロボロになってふらつく。


 ……が、踏みとどまった。









 「なんだとっ!?」


 「閃瞬刃を、多用しすぎたんだよっ!」


 《トリプル!スキャニングチャージ!!》


 <ATTACK-FUNCTION OOO-BASH.>










 踏みとどまり、左手で握ったオースキャナーでメダジャリバーをセタッチ。


 オーズバッシュを発動させ、放たれた斬撃の光がアストラルに直撃した。


 チャクラムビットの防御が届くことなく。










 「ウィナー、チーム・アルト」









 ほぼノーダメージだった筈のアストラルを一撃でブレイクオーバーさせるとは、


 さすがオーズバッシュ。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「やったねヤスフミっ!」


 「フェイトぉ〜」








 フェイトが見舞いに来てくれた。あぁ、うれしい。


 これが横馬とかだったらお断りしたくなるかもって思ってた。









 「凄かったね、最後の大逆転!

  やっぱり、あの作戦は恭文?それともマスターコンボイ?」


 「リティだけど」


 「そ、そうなの?」









 あ、フェイトがすごく意外そうな顔をした。


 リティに後で謝りなよ?





 まぁ、まさかあの土壇場で提案してきたのがリティだとは僕も思わなかった。


 リティが気づいた、閃瞬刃の弱点。


 あの技を使うと、少しの間チャクラムビットが停止するみたいなんだ。


 消費するエネルギーが多くて、一時的にエネルギー不足の状態になるから停止する、と。


 閃瞬刃を使うたびにチャクラムビットの輝きが一定時間消えるのと、


 ゴリバゴーンを発射したときにわざわざ直接弾き飛ばしたのが気がかりだったみたい。




 あと、メダジャリバーとオースキャナーは、あの突撃の直前にリティから渡されてた。


 「自分たちが盾になるから、技が終わった直後に叩き込んで」って。


 セルメダル3枚装填済みでオースキャナーとセットだったら、そりゃあオーズバッシュしかないでしょ。


 しかし、一撃でブレイクオーバーさせることができてよかった。


 アレで耐えきられていたらそれこそ危なかったし。









 「でも、喜んでばかりもいられないよね。

  アルトアイゼンが…」


 「今、ヒルメが直してくれてる。

  ほら、前に横馬がスターライトブレイカーで超広範囲攻撃した時あったでしょ?」


 「そっか、その時にも直してもらったんだ」


 「さすがに設計データは提供してもらったみたいだけどね」









 ヒルメいわく、最悪でもファイナルバトルまでには間に合うとのこと。


 ……うん、わかってるよ。チーム・アルトの3人で誰が1番疲労が少ないっていうと、僕しかいないからだ。


 今回の勝利の功労者であるリティやマスターコンボイは、ダメージが深すぎて今日明日での復帰は難しいとのこと。


 そんなダメージを受けたのがこの代表決定戦で、ホントによかったよ。





































 (第33話へ続く)







 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―




  リティ「今回はまた派手に……」


 ステンス「散ったな。アストラルのいうとおり」


  リティ「うぐぅ…っ!」(涙)


 ステンス「今回は、そんなアストラルのメイン武器、"チャクラムビット"について補足してやる」




 ステンス「チャクラムビットは、名前の通りビット兵器の一種だ。

      中国古来の武具の1つ・チャクラムをモチーフとしたことで、攻防一体のスタイルを実現した。

      全体をエネルギーコーティングしての斬撃だけでなく、独立したビーム砲としても使用可能。

      更に装甲強度も飛躍的に高めているが、具体的な材質については謎だな。

      これの運用だけを目的に設計されたのがバリアジャケット式デバイスの1つであるビヴリンディ。

      更に情報処理速度が並はずれているクヴァシルとリンクすることで、各ビットの超高速操作もできるときた。

      ちなみに、いつもアストラルが使う分は最大10基。1基ずつはかなり薄くてな、密集してもそんなに厚くならない。

      そのくせ異様に頑丈。使い方はいろいろだな」




  リティ「でも、閃瞬刃を使うと少しの間だけど動かなくなる。

      それに気づけなかったら負けてただろうなぁ」


 ステンス「が、次に戦う時に同じ欠点を引きずってるとも限らない。警戒した方がいいかもな」


  リティ「では、また次回!」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 <次回の「とたきま」は!>




  リア・ファル「次回は駆け足だな」


    アムリタ「なんせ、本戦のCブロックとDブロックをまとめて、だもんなぁ」


    メディア「そんな次回は、私たちの傑作ともいえるディフィカルター12が暴れるわよ」


 ダークハウンド「おっと、俺たちビシディアンも忘れないでもらおうか?」


    ノーヴェ「あたしらなんてずっと放置プレイじゃねーか!」


      4人『……放置プレイ?』


    ノーヴェ「あ゛ぁ〜〜ちくしょーっ!!」






 第33話:本戦C・Dブロック 〜ディフィカルター12の爪痕〜






 ダークハウンド「ん?Dブロックにはまた見慣れないヤツがいるようだ。

         見かけはどう見ても子供だが……彼も侮れない相手になりそうだな」


  オーディーン「なんでそんな他人事になれるのさ」


 ダークハウンド「残念ながら、彼とビシディアンは違うブロックだからだ」


  オーディーン「あー…」














































 あとがき



 というワケで、本戦も前半が終わった第32話です。

 平成版ゾイドを知っていると「あぁ」とか言いたくなりそうなヤツらが結構いたかと思いますが、




 パスナ → ガンスナイパー With ワイルドウィーゼルユニット

 パイル → レブラプター With パイルバンカーユニット

 ルノリー → モルガ With キャノリーユニット




 といった具合です。各々の名前も元ネタからもじっていたりするのがまるわかりですね。

 で、次回以降もそんな方々がいたりします。平成ゾイド、のめりこんだしなぁ。まぁ、思い入れの結果です(ぇ)

 第3クールでは見送り決定となりましたが、ライガーゼロ系のヤツも出したいなぁ。

 ゼロイクス以外にも(ぁ)




 "あの"アルトアイゼンが真っ二つになるという、本家「とまと」でもありえなさそうな事件が発生。

 さて、これで伝わるのは果たしてアストラルの脅威か、それとも違う何かか…。

 しかし、これもまだファイナルバトルに比べれば生易しい!(邪笑)


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

 撃龍神が出たと思ったらブラカワニキタ――ッ!
 テレビ版ではついに出られず、『MOVIE大戦MEGA MAX』ではスーパータトバに出番を奪われ、結局再登場は『MOVIE大戦アルティメイタム』まで待たねばならなかったという不遇のコンボ。こっちで日の目が見られてよかったね。

 そしてついに恭文が出陣……って、アルトアイゼン折れたーっ!?
 普通ならわかりやす過ぎるパワーアップフラグですが……何しろ当事者はお約束ブレイカーの恭文だからなぁ。どう対処してくるか、楽しみにさせていただきます。