レルネ「前回は、Bブロックの戦いが繰り広げられましたね!」
プルトーネ《チーム的に因縁の対決もあったBブロック、その模様を振り返っておきましょう》
<1回戦>
第1試合:リティがブラカワニコンボを発動し、レイフォンを撃破。チーム・アルトの勝利。
第2試合:能力をいかんなく発揮したヤクチがパイルを圧倒。チーム・タクティスの勝利。
第3試合:パスナがワイルドウィーゼルユニットをフル活用し、ルノリーを一方的に撃破。チーム・リバイバーの勝利。
第4試合:ルアク優勢だったが、オルタナティブモードを発動したゼノンが逆襲。チーム・メルクリウスの勝利。
<2回戦>
第1試合:ミナノの連係戦術に苦戦するも、マスターコンボイが機転を利かせて逆転。チーム・アルトの勝利。
第2試合:アレックスとポラリスがゼノンは撃破するも、閃瞬刃を会得したアストラルが骨を拾う。チーム・メルクリウスの勝利。
<代表決定戦>
フェアリーをオトリにして閃瞬刃を叩き込んだアストラルがリードするも、
リティが閃瞬刃の弱点を見抜いたことでチーム・アルトが逆転勝利を決める。
プルトーネ《アルトアイゼンが大ダメージを受けるとは、閃瞬刃よ恐るべし》
レルネ「しかし!付け入る隙があることを見抜いたリティさんの功績は大きいですよ〜。
さて、本日はCブロックから始まりますね」
プルトーネ《前回の予告で不穏な空気を漂わせてくれたアビリメモリ使い3人組。
彼らの自信作であるディフィカルター12が、どれほど戦況をかき乱してくるのか、注目です》
レルネ「それでは、第33話をどうぞっ!」
「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録
「とある旅人の気まぐれな日常」
第33話:本戦C・Dブロック 〜ディフィカルター12の爪痕〜
恭文たちとアストラルの激闘に昼休みを挟んで、快晴の昼下がりにCブロックの対決が始まった。
余談だが、昼食で2kgオムライスをフツーにたいらげたら、たまたま近くの席だったティアナとかがみにげんなりされた。
失敬な。別に君らへのあてつけで2kgオムライスをチョイスしたワケじゃないってのに。
それはともかく、まず1回戦第1試合。ダークハウンド率いるビシディアンとスター&カナヤゴさんのチーム・グランツ。
「チーム・ビシディアンよりダークハウンド選手!
チーム・グランツよりカナヤゴ選手!今、それぞれがフィールドに立つ!」
「数多くの公務員をかたる愚か者どもを駆逐してきたビシディアンの首領。
そんなダークハウンド選手ですが、相手のカナヤゴ選手は古代ベルカ戦争の生き残り。これはまた大物同士がきたもので」
ヒビキの実況と共にダークハウンドとカナヤゴさんが戦闘態勢に。
リリエンじゃないけど、また大物同士が激突する大一番ができたもんだ。
カナヤゴさん、腕鈍ってなきゃいいけど。ほら、喫茶店生活が長いからさ、どうしてもね。
「チーム・ビシディアン、ヴァーサス、チーム・グランツ。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
今回のフィールドは緑豊かな大地。特に目立った障害物もなく、広く立ち回るにはうってつけだ。
機動性がウリのダークハウンドには好都合だろうけど、大きく動けるのはカナヤゴさんも同じ。
スピード重視か、パワー重視か。これは見ものだね。
「くらえっ!」
開始早々にダークハウンドが、ドッズランサーにあるドッズガンを連射してくる。
カナヤゴさんは、普段は両肩に当たる位置に備えているコンテナ状のパーツを腕に移動。大きな籠手とする。
しかし、だからってガードはしない。バックステップとサイドステップを繰り返し、狙いを絞らせない。
一頭身の見かけによらないフットワークもカナヤゴさんのウリだ。スター以上にね。
「ならばっ!」
<ATTACK-FUNCTION SHARK BLAST.>
「ダークハウンド選手、一気に勝負に出たぁ!
このアタックファンクション、カナヤゴ選手はどうしのぐ!?」
「――おぉぉぉぉっ!!」
「爆砕ぃぃーっ!!
カナヤゴ選手、予選でも見せたテクで、ダークハウンド選手の一撃を吹き飛ばしたぁ!!」
カナヤゴさんは振り上げた右腕に力を込めて、目の前の地面を爆砕。
同時に発生した凄まじい衝撃波が、ダークハウンドが放った"シャークブラスト"の光線を吹き飛ばした。
「ふんっ!」
「おっと!」
爆風に紛れて今度はカナヤゴさんが突撃。
一気に肉薄して殴りかかるも、ダークハウンドは左バインダーのアンカーショットを射出。
近場の岩に突き刺して、巻き取りの勢いを利用して距離を取る。
ところがそれだけじゃなく、その勢いを殺さずにUターンして突撃。しかも、ストライダー形態に変形して。
その光景は、まるで黒く鋭いダーツの矢でも飛んでいくかのよう。
ダメージカウンターや非殺傷設定がなかったら、当たり前のように串刺しになりそうで怖いね。
「防ぎ、かわし、またかわす!両者ともになかなか有効打を与えられない!」
ドッグファイトでもやってんのかってツッコみたくなるほど、あの2人の動きはアクロバティック。
特にカナヤゴさんだよ。よくもあんな一頭身ボディで派手に飛び回るよ。
「今度はこちらからいくぞ。フォースチップ、イグニッション!」
<ATTACK-FUNCTION GATLING BARRETT.>
再突撃に利用しようとしたのか放たれたアンカーショットのフックをわしづかみにして、
解放されたフォースチップのパワーを利用して急加速。
ダークハウンドに右、左、右、左と連続で大型籠手のパンチを浴びせ、両手を組み合わせて叩き落とすという追撃。
この一連の攻撃ラッシュが"ガトリングバレット"となっている。その猛打はまさにガトリングの如し。
しかしダークハウンドも追撃分は回避、ドッズガンによる牽制射撃。
それでもカナヤゴさんは止められない。再度ジャンプしてダークハウンドに殴りかかる。
「――!?くっ!」
<ATTACK-FUNCTION SHOOTING STAR.>
しかし、殴りかかったところで一瞬の隙が生まれた。
バックステップで距離をとりなおし、今度は槍系の突撃技"シューティングスター"で逆転。
直撃をくらい、落下したところでカナヤゴさんはブレイクオーバーした。
「ウィナー、チーム・ビシディアン」
けどカナヤゴさん、なんで手を抜いたんだろうね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なぜだ。十分に追撃できた筈だ。
なのにそれをせず、それどころかこちらが反撃に転ずるに十分な時間さえもたらした。
真意を知りたくて、試合終了後に闘技場のとある一室にチーム・グランツの2人を呼び出した。
なお、ジャックエッジとGサイフォスには2回戦に備えてもらっている。なのでここには来ていない。
「ダークハウンド。俺が今、何をしているのかぐらいはわかるだろう」
「それとこれとは話が違う」
「まぁそういきり立つな。今の俺は、あくまで喫茶店のマスター。それだけだ」
カナヤゴが、今はヤタノカガミという喫茶店のマスターであることは知っている。
というより実際に店に行ったこともある。お忍びで、だけどな。
まぁ、彼がこれからの人生をどうしたいのか、それぐらいはわかった。
「まるで引退を決めたレスラーみたいな語り口だったな」
「実際、既に傭兵としての人生に区切りをつけていたのだろうな。俺たちが理解するよりも前に」
「だな」
スターのたとえ方もどうなんだと思うが、実際そういうものなのだろう。
おそらく、傭兵…もっといえば戦士としての人生に区切りをつけたのは、古代ベルカ戦争が終わる前後だろう。
俺は古代ベルカ時代の生まれではないが、父さんがその辺りに詳しかったからいくらか聞いたことがある。
戦士としての引退を決めた後に喫茶店を始めた彼に、もう一度最前線に戻るつもりなどないのかもしれないな。
その割には、戦士としての腕は今でも十分に通用するレベルだと思うが。
「どうでもいいけど、そんなガンダムフェイスでどうやってコーヒーとか飲むんだよ」
「その手の質問は野暮だな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さぁノッていこうぜ1回戦第2試合!
チーム・ドバンとチーム・フリゲートアルファの対決だぁ!誰が出てくるのか!?」
お、次の試合はノーヴェたちか。
相手チームの誰が出てきても厄介そうだけど、なんとなくシズクが出てきそうな気がする。
いや、なんかいいとこなしな場面ばっか目立ってるし?
「相変わらず、他人が突いてほしくないところ"だけ"を突くよね」
「おい、強調するところがおかしくないか」
「いや、寧ろ絶妙な部分だと思うけどね。"お前に"限っては」
ちくしょー、ここんとこトラルーからの風当たりが妙にキツい感じがする。
さすがにおちょくりすぎたか?
「1回殺された時点で自重しないジュンイチが悪いとしか言えないわよ」
「ていうか犯罪的な脅迫されて、口封じ的な殺害に走らない人がいたらそれはそれで不思議だし」
《身内擁護すら期待できないって、どんな四面楚歌ですか》
イレインやあずさまであんな調子だし…。
蜃気楼からは突っつかれるし…。
「……お、さすがはドバン家当主。タイマン勝負だからって自ら出陣か」
《相手になったノーヴェさん、骨折とかしなければいいんですけどね》
「そこはダメージカウンターのテクノロジーを信じるしかないっしょ。
万が一ドバン・インパクトくらったら、骨折確定だろうけど」
トラルーやイグナイテッドが言うとおり、問題はそこだよな。
ノーヴェはスバルと違って、振動破砕みたいなスキルは持ってない。
ドバン家のパワーファイター相手に真っ向勝負したら、それこそ危ないんだ。パワー負けする可能性が高い。
そこで活躍するのがアイツの"最後の切り札"であるレグルス。その限界ギリギリのブーストで穴埋めできることを期待するしかねぇ。
……あんまり、そういう考え方もしたくないけど。
それこそ、トラルーのいうとおり、万が一バランの必殺技の直撃なんかしてみろ…。
《対するチーム・フリゲートアルファからは、やはりノーヴェさんですね》
「そうするしかない、っていうべきかも。
あっちのチーム、ホクトは防御力に難があるし、オットーは戦闘スタイル的な意味で不利。
攻撃力や防御力で敵わない以上、バランを圧倒できる機動力、となると」
《ノーヴェさんしかいない、と》
「取り敢えず、バランの鉄球を直接蹴るのだけはNGでしょ。ジュンイチじゃあるまいし」
なんでオレを引き合いに出す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「レディー・ファイッ!!」
ジャッジマンのコールと同時、ノーヴェがバラン師匠に向かって突撃。
ご自慢の飛び蹴りをくらわせる……けど。
「軟弱者が。こそばゆいわ」
バラン師匠のタフネスボディーには一切ダメージなし。
「だったら……ブッ壊れるまで蹴りまくるだけだぁ!」
バラン師匠に圧倒的に勝る機動力で動き回って、
反撃をくらう前に離脱したりとかしながら連続で蹴りを叩き込む。
……でも、さっきから同じところだけ蹴ってない?
「同じ場所にピンポイントで攻撃し続けることでダメージを通そうとしてるっすよ。
ほら、違うところ叩きまくるより同じところを叩きまくった方が早く壊れるし」
あぁー、なるほど。
それ、前に私もやったなぁ…。
「どぅありゃあああああああああっ!!」
「でぇぇぇぇぇっ!?」
あ、ノーヴェが私と同じ末路を辿った。
「ドバン家当主、恐るべしぃぃ!
スピードで圧倒的に勝るノーヴェ選手を、鉄球を振り回すことで無理矢理ブッ飛ばしたぁ!!」
ヒビキの実況が文字通り響き渡る中、ノーヴェが車田落ちで落下。
ドバン・ハンマーを"敢えて浮かせずに"振り回すことで、地面ごと薙ぎ払っちゃう。それでブッ飛ばされた。
で、巻き込まれたら最後……。
<ATTACK-FUNCTION DOBAN IMPACT.>
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「チーム・ライトニング、ヴァーサス、チーム・番長連。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」
《"多技の竜剣士"リュウビ!》
「ファイッ!!」
「いきますっ!!」
《尋常に勝負!!》
お、始めやがったな。
Cブロック1回戦第3試合、俺らチーム・番長連と、機動六課のライトニングのバトル。
で、それぞれの代表がリュウビとエリオってワケだ。
本来なら、俺様が派手に出ていきたかったんだが、ナイトメアとついつい張り合っちまってよ。
結局リュウビがしびれを切らして自分から出てった…と。まぁそういうこった。
ただ、殺気混じりで剣を向けるのだけはやめてくれ。冗談言うキャラじゃないお前がやるとシャレにならねぇから。
リュウビは、イレインが開発した新型。AIは俺らと同期で創主レルネ製だが、他は殆ど新規設計だ。
俺らとは設計思想がかなり違っててな、身軽さを持ちながら攻撃力と防御力のバランスを徹底的に突き詰めてる。
だから派手な能力とかはねぇけど、その分基礎が固まってるから強い。
アイツ自身の経験値と相まって、殆どの武器を使いこなすことができるオールラウンダーだ。
外観?そうだな、頭と尻尾の先端に炎のような装飾があってな、緑、黄、赤の3色がバランスよく混ざってるな。
鋭角的なヘルムのような頭部に、角を思わせる装飾がある肩アーマー、丸みを帯びた上腕と足。
前掛けのようなフロントスカートと鱗のような形状のサイドスカート。顔のパーツのおかげで、頭全体が竜の顔みたいになってんだ。
腰から伸びる尻尾は、上が緑で下が黄っていう色だ。姿勢制御とかに一役買うんだぜ。
アイツの基本装備は、両刃の片手剣「武の剣」と円形の盾「鏡の盾」。シンプルなのもいいよな。迷わなくていい。
「《たぁぁぁぁぁっ!!》」
叫びと共に互いの刃がぶつかりあい、離れてはまたぶつけ合う。
エリオのヤツ、あのリュウビの剣裁きにしっかりとついてこれるなんて、やるじゃねぇか。
ありゃあ、他にも剣使うヤツとやりあったことがあるな。しかも、結構な経験値だ。
こいつぁ手ごわい。
……あぁそうだ、一応俺ら全員、フルサイズ状態だ。でないとやりづれぇしな。
大会でドンパチやってたヤツらは、シリーズ問わず全員そうじゃねぇか?
インビットやシーサーペントも。
《……"ムーン"の逆位置。"ゆっくり待つ"…?》
お馴染み、ナイトメアのタロット占い。
ゆっくり待つだぁ?
《どっちかは知らないが、何か企んでるんだろうねぇ》
《問題は、企んでるのがどっちかってとこか》
勝ち進むって意味じゃあリュウビの方であってほしいが、エリオも実力は未知数だしな…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―同時刻、極輝覚醒複胴艦の治療スペースにて―
「あんの鉄球オヤジ、マジでいてぇっつーの!!」
「動くな、骨が折れるどころか砕けるぞぉ?」
「うぅ…」
結局、予選突破組ではナンバーズ代表となってしまったノーヴェだったが、
バラン・ドバンが鉄球で地面ごと薙ぎ払ったのを避けきれずに吹っ飛ばされてしまい、
そこにあの図体からは信じられない加速性能で突っ込んできたバランの鉄球を回避できず、
ノーヴェの体以上の大きさの鉄球でまともに叩き潰された。
ダメージカウンターでも制御しきれないほどの威力だったらしく、
カウンター破損によるブレイクオーバー……だけならまだよかった。
反動ダメージがそのまま伝わってしまい、哀れノーヴェは全身骨折の憂い目に遭ってしまったのだ。
見た目的に、戦闘機人じゃなければ死んでいそうなレベルなのだが、バラン・ドバンはそれを分かっていたのだろうか…。
それとも、ダメージカウンターの生命保護技術が恐ろしく高いということなのか。壊れても命は絶対保護、というか。
残念ながらシャマルは六課隊舎でお留守番らしいので、代わりにヒルメが治療してくれている。
どうやら古代ベルカ戦争中にメカニックだけでなく医療スタッフとしても重用されていたらしく、
人体治療の技術も心得ているそうなのだ。
それでもマリエルからの補佐は不可欠らしいが。
「ところでさ、チンク姉たちも予選に出てたんでしょ?
なんで本戦に残ってないワケ?チンク姉たちの実力なら、さすがに…」
「ところがそうでもなかった。姉たちもまだまだ未熟ということだ」
「私とセッテなど、柾木ジュンイチでもカラクリが分からなかった爆破術に成す術もなく墜とされた」
トーレとセッテがやられた相手、確かチーム・ボンバーズのストラバレルといったか。
ユーリプテルスの荷電粒子砲も同様のトリックを利用してかわし、結局本戦進出を決めてしまったというのだから恐ろしい男だ。
私たちの実力を買ってくれるセインの言葉は嬉しいが、同時に精進あるのみだと思い知る。
ん、私は誰にやられたかって?本戦に進出したチームの内の1つ、チーム・ヴァイスだ。
先に言っておくが、ヴァイスという名前は彼らの種族名であって、六課のヘリパイロットとは全く関係ない。
なんでも、ヴァイス族という魔族で、デルポイ大陸でもかなり強大な力を持っていた一族らしいが…。
後で戦果報告をしあった時、トーレとセッテ以外の脱落組は全員チーム・ヴァイスにやられていたことが分かった。
"最後の切り札"を使っていたセインやウェンディたちまで倒したというのだから、恐れ入るな。
本戦進出は見届けているので、出てくるとすればDブロックかEブロックだろう。
「ちっくしょー、"破壊する突撃者"の名折れだぁ…」
「そう思うならおとなしくしてろ。戦闘機人の治療なんて、本当は初めてなんだからな?
あまり無駄手間かけさせるな」
「はい」
ノーヴェがヒルメのプレッシャーで黙らされた。
声もそうだが、本当に女子か?男勝りを地で行き過ぎて、少し困惑するんだが…。
いや、そこはいい。なにしろあのトラルーの人脈だ。それで納得しておこう。
「それはそうと、アルトアイゼンはどうなっている?
彼がいないと恭文が困るだろうに」
「できればフレームごと交換しての本格修理をしたかったけど、もしもに備えて応急処置で済ませておいた。
あと、念のために簡易型だが強化外装の設計開発をレルネに頼んである。デバイス強化ならアイツの方が手も空いてるしな。
アルトアイゼン自体は、今は実戦でも十分に耐えられるように、シャーリーとマリエルに頼んで補強作業してもらってる。
明後日のファイナルバトル、生半可な相手は残らないからな」
なるほど、それであの二人がこの艦の作業スペースに来ていたのか。ヒルメの話で納得した。
しかし、簡易型とはいえアルトアイゼンに強化外装、か…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「サンダー、レイジ!!」
《くうっ!》
イイ感じ。エリオの一撃が、リュウビをまともにとらえた。
盾で防御されたけど、ライフは結構削れたはず。
この調子で押していけば、ちょっとやそっとの隠し玉があったって勝てる!
「エリオ選手のサンダーレイジがリュウビ選手の鏡の盾に直撃!
しかし、向こうの盾も頑丈だ!多少傷ついたものの、まだまだ現役といわんばかりの頑丈さだ!」
それにしても、誰が作ったのかは知らないけど、いい機体みたい。
動きのキレもあるし、エリオの動きにあまり翻弄されずに対処してきてる。
あのサンダーレイジだって、本当は盾での防御が間に合わないくらいのスピードで繰り出された筈なのに、
リュウビは一瞬で機転を利かせて盾での防御に持ち込んだ。
装備は剣と盾っていうオーソドックスな感じだけど、磨き上げられた技は熟練者と変わらない。
とてもじゃないけどロールアウトから1年くらいしかないだなんて思えないよ。
「え、フェイトさんは聞いてないんですか?」
「拙者たちは既にあずさ殿から聞いたでござるが…」
「もしかして、また仕事の都合とかで遅れてた?めんどくさいなー」
キャロやシャープエッジ、アイゼンアンカーから口々に言われて、私はちょっと困惑。
え、あずさが知ってるの?
「マスター・ジュンイチのところにイレインって人いるでしょ?
あの人がAI以外の全てを開発したんだそうです」
「AIはレルネ殿からの提供と言っていたでござるな。
おそらく柾木一門との技術交換をしたくて、AI提供に踏み込んだのでござろう」
アイゼンアンカーとシャープエッジが説明してくれた。
そっか、元々レルネはギガントボムの元でお世話になっている。
だから必然的にジュンイチさんの人脈にも通じるし、技術にも目をつけられるってことか。
向こうの技術に興味を持って、自分が構築したデバイスのAIと交換で…って。
その結果、リュウビが世に出てきた。こうしてエリオと刃を交えるようになった。
……とすると、あっちのチームの残り、ハカイオー絶斗とナイトメアも、そういうルーツかも。
「ていうかフェイト隊長、めんどくさいくらい事前調査足りなすぎ。
ちゃんと製作者もデータに入ってましたよ。
ハカイオーはヒロリスさん、ナイトメアはサリエルさんが開発したそうで」
「これまたAIはレルネ殿から提供されたものでござる。
こちらにいるオーディーンたちと同時期に開発されていたそうでござるが…」
レルネが管理局まで相手に技術商売しているって話は、トラルーからもあまり聞かない。
昨日の夜確認したところでも、せいぜいシーサーペントやムシャみたいな量産機をフリーで試験的に売り出している程度。
「技術屋としての好奇心が、"違う人物が違う着眼点で作ったらどうなるか"に興味を見出したから」
トラルーいわく、そういうことらしい。
自分で開発して自分の意向で実戦経験させるのがオーディーン、フェンリル、パンドラ。
自分以外の人が開発して、そのまま実戦経験させるのがハカイオー絶斗、ナイトメア、リュウビ。そういうことなのかな。
「でも、リュウビだけはフレームの設計データがなくて、イレインさんが新規で設計したそうです。
ハカイオー絶斗とナイトメアは、AIと一緒に基礎フレームの設計データも提供したらしいんですけど」
あぁ、だからリュウビだけ他の5体とは根本的な雰囲気が違うんだ。
キャロの補足でそう思いながら、私は視線をエリオとリュウビのバトルに戻した。
そんな間にも、あの子たちは刃を交え、互角の戦いを繰り広げていた。
「ストラーダ!フォルムツヴァイ!」
《3形態――!?》
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
デューゼンフォルムに変形したストラーダで突撃、今度こそリュウビを吹っ飛ばそうとする。
けど、これにもリュウビは反応してみせた。またあの盾で防御。でも、当たり所が悪かったね。
当たった部分はさっきのサンダーレイジでヒビが入った場所……そこにデューゼンフォルムの突撃を受けて、耐えきれるワケがない!
《セコンド席で勝ち誇っているフェイト執務官には悪いけど、逆に好都合だよ!》
「――っ!?しまっ―」
《ホームランするみたいに返り討ちにできるタイミング…待ってたよ!》
満足げに言うリュウビの振るったカウンターの剣が、エリオを逆に吹っ飛ばした。
え、え!?どういうこと!?まさか、エリオの突撃を利用する気だった!?
「惜しい。それだけじゃ正解とはいえないね」
「イレイン殿?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リュウビも考えたもんよね。それとも、誰かさんの影響?
自分のAIの創造主が心から酔いしれている誰かさんの。
まぁ、そこはいいか。
「エリオの突撃を利用する気だった。それはまず正解。
だけどね、もっと前から、もっと根本的な部分を狙ってたのよ、リュウビは」
「……あの盾にヒビが入った時点で、突撃した時に敢えて盾にストラーダが突き刺さるように仕組んだ、とか?」
「さすがエリオのパートナー。正解よ」
流れ的にいえば、こうなるわね。
@サンダーレイジを防いだけど、鏡の盾にヒビが入ってしまった
Aならばいっそ、このヒビにストラーダの刃が刺さったら、少しぐらいは動きを止められるかも?
Bつまり、カウンターの一撃を叩き込んで逆転するには絶好のチャンス!
Cじゃあ突き刺さるとしたら何が原因?きっと、高速状態からの突撃を盾で防いだ時だ
……てな感じで、考えたんじゃないかしら。
「その誰かさんてさー、もしかしなくてもトラルーじゃない?
話には聞いたけど、レルネってヤツの酔いしれっぷりは尋常じゃないから。
あと、バトルスタイルに通じるものがあるから。特にこう、受け流すとか相手の勢いを利用しまくるとか」
またまたアイゼンアンカー大正解。
私自身、なんかリュウビの作戦の立て方にも影響してるっていうのはちょっと意外だったって感じ。
けど、リュウビやハカイオー絶斗、ナイトメアだけじゃなく、オーディーンたちにもフィードバックされている戦闘データって、
レルネやクロス・アインたちがトラルーたちから教え込まれた戦い方を彼らなりに学習したものも入っているから、
そこからリュウビが自分なりに転用してみた結果、と考えれば不思議じゃないわね。
「リュウビ選手、起死回生のカウンター!自らの盾を犠牲に、攻勢を逆転させた!」
《肉を切らせてなんとやら。盾の有用性を評価しきれていなかったのが、君の敗因だ!
フォースチップ、イグニッション!!》
<ATTACK-FUNCTION BYAKKO SHOHAZAN.>
エリオにカウンターを叩き込んだことで必殺技を放つタイミングを得たリュウビが、
地球のフォースチップを背中のチップスロットにイグニッション。
天を突くように右手の武の剣をかかげ、集まったエネルギーがトラのオーラを形作る。
少しの溜めの後にジャンプ、そのままオーラと共に突撃して、エリオをすれ違いざまに衝撃波でブッ飛ばす。
大きなトラのオーラと共に衝撃波で斬り倒すから、"白虎衝波斬"っていうのよ。
「ウィナー、チーム・番長連」
まぁ、なのはとジュンイチに散々しごかれまくっているエリオを相手に軽傷で勝てたんだから、
リュウビの戦績は上々といったところかしらね?
鏡の盾が木端微塵になっちゃったけど。いうまでもなく、急加速したエリオの突撃を受け止めたのがトドメになったのよ。
あんなに壊れちゃったら、新しく作り直さないとダメね…。やれやれ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「めんどくさいけどキバってきなよー!」
「セコンドで見届けるからな」
「ご武運を祈るでござる」
「おう、任せとけ!」
《ボクら頑張るからねー!》
第4試合は、チーム・GLXとチーム・GH3のバトル。
こちらからは、我々の中で最も突破力に優れるロードナックルに出てもらうことで決定。
私が出てもよかったのだが、援護射撃に優れる関係上2回戦の方が良いということで自然却下。
残るアイゼンアンカーとシャープエッジについては、後々の試合まで温存することに。
「チーム・GLXは、トランスデバイスと呼ばれる意思を持ったトランステクターのチーム!
対するチーム・GH3は、アビリメモリを司るユニゾンデバイスのチーム!
さぁ、今度はどんな勝負を繰り広げるのか!」
チーム・GH3からは、ヘスペリデスという女子型ユニゾンデバイスが登場。
水色の、やや左右非対称な開けたショートヘアー、水色の瞳、青の靴と手袋。
服装はあまりにもシンプル。手首に黒のリング状のパーツがある以外は、二の腕と太ももの途中までを覆う黒いボディスーツだけだ。
額にかける形で、への字型のゴーグルらしきものがあることを見ると、材質はウェットスーツ的なものかもしれない。
「チーム・GLX、ヴァーサス、チーム・GH3。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
「そんじゃ、ボクの実戦デビューということで、派手にいこうか!」
<オーシャン>
ジャッジマンのコールの直後に駆け出したロードナックルに対し、
ヘスペリデスは余裕の表情を見せる。
実戦デビュー……確かに、ディフィカルター12の中で我々が把握できているメンバーにはいなかった。
"アレス"開始の直前まで調整でも受けていたのだろうか。
右手に取り出し、起動させた水色のメモリ。それも関係しているのかもしれない。
「活栄霊のヘスペリデス、バッシャーンといっちゃうよっ!!」
その言葉と同時に両腕を×の字にクロスしてから勢いよく開き――どこからともなく水があふれ出した。
「"マリナーズフィールド"へようこそ♪
恨みもなんもないけれど……ボロボロにしちゃうねっ♪」
ゴーグルを目にかかるようにかけなおし、フィールド全体を四角形で覆う立方体のフィールドの中で動き回る。
マリナーズフィールドと呼ばれたあのフィールドは、立方体の水"だけ"で構成されているように見える。
だが、以前創主に再調整を施されたセンサーが、すぐに正体を暴きだした。
おそらくはあのオーシャンというメモリのせいだろうが、立方体の形を維持できるように障壁が覆っている。
つまり、"障壁の中に水を満たしたフィールド"ということなのだ。
「ぬぅ、拙者であれば寧ろ得意地形でござったのに…!」
「ボクもあんまりお相手したくないし……ジェットガンナーも苦手フィールドじゃない?」
そう、残念ながらアイゼンアンカーの言うとおり。私も空戦型だからな。
推進力を得られる、という意味ではまだロードナックルよりは戦いようはあるが、
魔力ビームの減衰率を考えると、あまりあの中では戦いたくない。
《どどど、どうしよう!》
「慌てんな!まず地面に足つけるぞ!」
「残念、そうなる前に詰みだよ。
マリネルスラッシュ!!」
ロードナックルが戦うには、地面に足をつけていた方がいい。
だが、向こうも想定済みか、それを許しはしなかった。
素早く接近しての手刀の一振り。それだけでロードナックルの両足を切り落とした。
まさか彼女は、周辺の水の密度を自在に操作することで攻撃しているのでは。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
終わったな。
ゼノンの修復はメルクリウスの自動修理プログラムに任せて、僕は試合の観戦。
まぁ、有事に備えてゼノンハルバードと彼の愛用のマントぐらいは手入れしているのだけど、
機体の方はクヴァシルとのリンクで演算処理能力を高めた修理プログラムの方がよほど効率よく修理できるので任せてる。
マントもちゃんとアイロンがけまでして仕上げるのだけど、そうしないとゼノンがうるさいんだ。
どうやら彼にはマントに対してコダワリがあるようだ。
で、ヘスペリデスとロードナックルのバトルだけど、もう詰みだ。
まず、典型的な陸戦型であるロードナックルがマリナーズフィールドに閉じ込められた時点で圧倒的に不利な上に、
大した推進装置もないのに両足を切り落とされたら、それこそ殆どの反撃行動が封じられる。
あと、ディフィカルター12の面々も基本装備ってものがあるんだけど、
ヘスペリデスの場合はあの「マリナーズゴーグル」がそれ。武装じゃないっていうのは案外彼女だけだったりする。
純粋な武装じゃない、って意味じゃ、他には羽帯「エッジフェザー」を持つステュムパロスぐらいじゃないかな。あの両手の帯のことね。
マリナーズゴーグルが何をしてくれるかというと、"空間にある水素を可視化する"ってこと。
ヘスペリデスの固有能力は、大気中の水素を自在に操ること。それも、遠距離干渉までできるほどに。
極端な話、あの子の指示1つで、敵の周りの水素だけを砲丸なりトゲなりに変えて襲い掛からせることもできるんだ。
大気中の水素を利用して、空中で水のファングを作って行使するとか、そういう芸当。
オマケに変化させるのは水素、もっと見やすく言えば水だから、いくらはじけたってまた変換しなおしていくらでも転用できる。
だから、苦手とするのは炎熱系。特に炎じゃなくて熱なんかを使うヤツが天敵に近い。
熱エネルギー放出して、水素の欠片も残らないほどに蒸発させてしまえばいいのだから。
ジュンイチなんかはそれができるし、リティもラトラーターコンボになればできるんじゃないかな。
逆に水の中で暴れられると手がつけられない。水素はいくらでもあるし、密度を集中させればなんでも貫けるし、切断できる。
水圧カッターなんかと同じ原理だよ。それを水素だけで再現できるのがヘスペリデス。
では、オーシャンメモリがどんな手助けをしているのかというと、マリナーズフィールドの形成と維持。
実はあのフィールドは、形成から維持まで全てをオーシャンメモリの力に丸投げしているのだ。
極端な話、オーシャンメモリを壊せば展開できなくなる。メモリとしての働きはそれしかない。
ヘスペリデスが誰かとユニゾンしたら、話は別だけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「仕上げにいくよ!マリネルニードル!!貫いちゃえ!」
まずい。両足を切断されて、ロードナックル兄弟がいい的になってる。
しかも、至近処理で形成された水のトゲが、容赦なく兄弟のボディを蜂の巣にしていく。
水の中に入ったってだけで、あんなに一方的な攻防になってしまうなんて。
「いや、もう攻防ですらねぇよ。ロードナックルが手も足も出ないじゃんか。
ていうか足を切り落とされた時点で、9割くらいは勝敗が決まっちまったんだ。ハンディがデカすぎる」
《その一方的な結果の要因がマリナーズフィールドと呼ばれるあのフィールドにあるのは間違いないですが、
それを意図的に仕掛けることができるとなると、非常に厄介ですね。
戦う場所を"選ばない"のではなく、"選ばせない"のですから》
「つまりは強引に自分の土俵に引き込んで袋叩きにしちゃうってか。また随分と迷惑な」
ジュンイチさん、蜃気楼、恭文くんの順。
1つで戦況を傾けるなんて、厄介だね、アビリメモリも。
さすがにマスターギガトロンさんの"支配者の領域"には通じないだろうけど、それでも。
「これで、トドメ!
水霊圧砕爆!!」
開いたまま大きく振った右手が閉じられると同時、一瞬でロードナックルのボディがメチャクチャに歪められた。
カメラアイから輝きが消えて、ブレイクオーバーの光が見えた。
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・GH3」
「ヘスペリデス選手、相手をムリヤリ得意フィールドに引きずり込み、猛ラッシュ!
反撃すら許さずに一方的に撃破!水の猛威を思い知れといわんばかりの一方的なバトルだったぞ!?」
《トドメの一撃、間違いなく水圧操作ですね。
それも、極めて短時間で、しかもロードナックルの周囲限定で。一般的な水使いとはレベルが違います》
「しかも、今までに報告があったヤツらの中じゃ、アビリメモリの使い方も違うみたいだしね。
多分、技の殆どはヘスペリデスが自分の能力でやってることだと思う」
「アビリメモリに頼らずに?」
「それこそ、あんな大きなフィールドを長時間維持しているってなると、
アビリメモリのパワーは殆どフィールドの方に持ってかれてるんじゃないか?
魔法で言えば単純な術式だろうけど、大きい分消耗もデカい筈だ。アビリメモリが肩代わりしてる可能性は高いだろうな」
レイジングハートの分析から、恭文くんやジュンイチさんが仮説を立ててくれた。
その仮説が本当だとすれば、ヘスペリデスは今までにないレベルの水使いってことになる。
武器系の装備なんかいらなくなるくらいにハイレベルな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「Cブロック2回戦、第1試合いってみよう!
赤コーナー、チーム・ビシディアン!選抜メンバーは、Gサイフォス選手とジャックエッジ選手!
青コーナー、チーム・ドバン!選抜メンバーは、シズク選手とミナト選手だぁ!」
特にネガショッカーからの派手な妨害行為もないまま、2回戦へとシフト。
宇宙海賊とドバン家門下生の戦いか。なかなか面白そうなカードだね。
「兄貴、モロコシばっかりで飽きないっすねー」
「安心しろ、午前中は醤油焼き、午後からは塩焼きだ!」
マキトは見飽きたといわんばかりの視線だが、僕は気にしない。
トウモロコシの甘さと控えめな塩加減がマッチして、なかなかいい後味です。
「チーム・ビシディアン、ヴァーサス、チーム・ドバン。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
『フォースチップ、イグニッション!!』
「いぃっ!?」
「!!」
<ATTACK-FUNCTION STARDUST CRACKER.>
<ATTACK-FUNCTION GARAXIAN TEMPEST.>
門下生コンビは、開始早々にアタックファンクションを強行。
5つに分裂したピタッ○ヒ○デ……もとい、シースタースパイクがGサイフォスとジャックエッジに襲い掛かり、
姿勢を乱された2体に対して猛烈な勢いで振り回されるアンカーズメイスの鉄球や錨が降り注ぐ。
うん、降り注ぐの。鎖の中間点を持ちながら振り回しているから、さながら分裂しているかのように殺到する。
予選ではアームバレットの怪力とシグナルランサーの工夫で止められたけど、だからこそだろう。
そんな工夫を凝らす暇も与えずに一気に殲滅しようってワケだ。エグいねあの子ら。
「余談も何もあったもんじゃない!チーム・ドバンの門下生コンビが超先制攻撃!
ある意味で編集部泣かせかもしれないっ!」
「編集もへったくれもないですからね」
あー、編集部泣かせ……特番組むとかそういう時ね。
殆ど生放送の時と変わらないっていうか、切りようがないよね。一試合の尺が短くて。
……と思いきや、もうもうと立ち込める煙の奥から何かが飛び出す。
「えっ!?」
「なんすか!?」
突然のことに対応が間に合わず、飛んできた何かが直撃。
「っ……しびれて、動けない……」
「やられたっすね……スタングレネードっすよ」
そう、何かとはスタングレネード。直撃した相手を一定時間スタン、つまりマヒ状態にしてしまうのだ。
事前に手持ちアイテムとして登録しておけば、スタンダード以外のレギュレーションなら使用できる。
別に直接電気を流されたりするワケじゃないから、後遺症とかも残らないし。
「海賊相手に、派手なやり方してくれるじゃねぇか……そのお礼、しっかりさせてもらうぜ!」
<ATTACK-FUNCTION RAIN BULLET.>
全身の装甲がヒビだらけの状態で姿を見せたGサイフォスは、
フォースチップをイグニッションすると同時に跳躍。
スタン効果が続いて動けないシズクやミナトを空中で見下ろし、高速回転。そのまま左腕のドッズバスターを撃ちまくる!
雨のように弾丸が降り注ぐから"レインバレット"ってワケだ。
あっという間に殺到した光の弾丸が、シズクたちを一方的に打ち据える。
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・ビシディアン」
「開始早々にアタックファンクションのラッシュ!
それを制したのはビシディアンだぁ!」
防御すらできずに多数の直撃弾を受けては、さすがのドバン家門下生も耐えきれなかった。
レインバレットが終わると同時にブレイクオーバーの光を発しながら倒れ、ビシディアンの代表決定戦進出が決定。
ちなみに、ジャックエッジは完全にブレイクオーバーしていたそうな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―試合終了後、チーム・ドバン―
「師匠、ごめんなさぁぁい!!」
バラン師匠のところに戻るやいなや、シズクがスライディング土下座。
まぁ、スタン効果があったとはいえ防御もできなかったんだし、ふがいなかったって思ってるんすよね。
オイラもそうだけど、さすがにいきなりのスライディング土下座ってのもどうなんすかね。
「シズクよ、顔を上げい」
「はい…」
「勝負は時の運。勝ち続けるには、運もまた実力の内。
あれだけの乱舞で片方を仕留めきれなかったのも、たまたまだったかもしれぬ。
仮に向こうの方が技術的に上手だったのだとしても、ワシから見ても見事な奇襲攻撃だった。
ヤツらのダメージこそがその証拠。今後も精進あるのみ!」
「はいっ、師匠!!」
シズク、復活早いっすねー。体力的にも、精神的にも。
「ミナト、お主にも同様だ。めげずに精進するのだぞ」
「当然っす。今度はブロック代表目指してまた修行っす」
「その意気だ!わっはっは!」
真剣勝負の結果についてはとやかく言わないのがバラン師匠のいいところっす。
勝ち負けだけにこだわるのはおろかなこと、そういうことみたいっすね。
上等っすよ。リベンジに向けて、今日は……
「ファイナルバトルまで見届ける為にも、とりあえず気晴らしするっすよ」
「うむ、そうだな。出店でも見ていくか?」
「行きましょう行きましょう!代表決定戦が終わったら晩御飯ですし!」
まぁ、そんな感じでオイラたちの本戦バトルは終わったのでした、まる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「チーム・番長連、ヴァーサス、チーム・GH3。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
《"地獄の破壊神"ハカイオー絶斗、ぶっ潰してやるぜ!》
《"箱の中の魔術師"ナイトメア、振り回してやるよ!》
「戦女霊のヒッポリュテ、いかせてもらうわ!」
「九頭蛇霊のヒュドラ、シメてやるぜ!」
「ファイッ!!」
2回戦第2試合。ハカイオー絶斗とナイトメアが飛び出して、それぞれ襲い掛かる。
対するヒッポリュテは4枚の板状のパーツを備えた愛用の槍「パルチザン」を構えて対抗、
ヒュドラは拳を握りしめて真っ向勝負。
ほどなく構図はハカイオー絶斗VSヒュドラ、ナイトメアVSヒッポリュテへと変化した。
《おらよぉっ!》
「こんのぉ!」
拳に力をまとわせて、ハカイオー絶斗の振り下ろした絶・破岩刃の刃に真っ向からぶつける。
チェーンソー型の武器相手に殴るという選択肢をとれる酔狂なヤツは、ディフィカルター12では彼女ぐらいだろう。
しばしの拮抗の後に両者がはじかれ、また刃と拳をぶつける。
「オイオイ、ちょいとばかし小回り利きすぎじゃねーの?そんな図体で」
《あいにくだが、チョコマカする相手との戦い方は、俺の創造主からみっちりと叩き込まれたんでな》
ハカイオー絶斗の創造主……少なくともボディについては、登録データにあったヒロリス・クロスフォードだろう。
管理局では少し名の売れた問題児として、たまに名前を聞くことはある。
技術屋の割には、随分と戦いの腕が立つ気性の荒い女として。
あと、技量の問題だけじゃなく、動きやすいように関節部のチューニングも念入りに施されていると思う。
《ほぅら、"デス"がお前を狙ってるぜ!》
「冗談キツイわよソレ!」
一方、ナイトメアはスタッフという大柄な武器「ナイトメアズソウル」を持っている割に卓越したスピードを備え、
名乗り口上の通りにヒッポリュテを振り回している。
ヒッポリュテもパルチザンでうまくナイトメアズソウルによる一撃を受け流してはいるが、シビアなようだ。
こちらのボディの創造主は、ヒロリスの相方であるサリエル・アテンザだったか。
《思ったよりもやるねぇ。けどそれも、ここまでだ!》
「ちょっ!?」
「遂に出たぁー!箱の中の魔術師、その異名を体現するイリュージョンバトルぅー!」
ナイトメアが、いきなり3体に分身した。
ルアクのブレンチシェイドと似ているが、アレはれっきとした影分身。種も仕掛けもないイリュージョンってワケだ。
で、その影分身を実現させるだけの機動力を、ナイトメアは持ち合わせている。
「ちっくしょー、確かに斬撃には隙がねぇよ。
けどさ……足元には隙ありだぁっ!」
ヒュドラが機転を利かせ、足払いでハカイオー絶斗の体勢を乱す。
で、その隙に追撃の右ストレート。
《ナメんじゃねぇ!》
「ぐあっ!?」
《フォースチップ、イグニッション!!》
<ATTACK-FUNCTION CHO GAO-CANNON.>
「くそ、どこからともなく…!」
《悪いねぇ、そろそろ決めさせてもらう》
「そこか!うあっ!?」
《フォースチップ、イグニッション!!》
<ATTACK-FUNCTION DEAHT SCYTHE HURRICANE.>
絶・破岩刃によるカウンターが、イリュージョンによるフェイントが相手をフラつかせ、
隙を逃すまいと、それぞれアニマトロスとミッドチルダのフォースチップをイグニッション。
ハカイオー絶斗の胸部にある2連装キャノン砲から"超我王砲"がヒュドラに向かって火を噴き、
ナイトメアが渦を描くように急上昇、そこから杖を振り払うことで炸裂した"デスサイズハリケーン"がヒッポリュテを襲い、
とらえた相手を大きくブッ飛ばす。
「……た、耐えた!ヒュドラ選手とヒッポリュテ選手、アタックファンクションの直撃に耐え抜いた!
防御動作は間に合わなかった筈…!ものすごい根性だぁ!」
<ダミー>
<クイーン>
ヒュドラがダミーのメモリを、ヒッポリュテがクイーンのメモリを起動。
まずヒュドラは光に包まれ、数秒後には9つの頭を持つ大蛇のような姿になった。
これはダミーメモリの特性を応用したもの。
ダミー、つまり偽物なんだけど、実体を伴った変身効果でもある。情報さえあれば、どんなものにでも化けることができるんだ。
ヒッポリュテはパルチザンが刺々しさを増した形状になり、上半身に鎧が追加。
クイーンメモリは、ケリュネイアのアクセルメモリとかのように、武装を召喚するタイプ。
パルチザンのリミッター解除と、上半身の鎧追加を同時に行うワケだ。
「メモリを使った以上は速攻で倒す!
九頭蛇集中砲火!!」
9つの蛇の頭全てから高密度ビームが放たれ、ハカイオー絶斗のみならずナイトメアも巻き込んでいく。
ビームは1つでもバスター級の威力。それが数発も当たれば、結構ライフを奪われる筈だ。
「反撃のチャンスはもうやらない!覚悟なさい!
クイーンランス・ヘルズ!!」
パルチザンの刃に、更に4枚のプレート部分にエネルギーを集中させ、プレート部分と刃がプロペラのように高速回転。
そのままヒュドラの砲撃で動きを止められたハカイオー絶斗とナイトメアに向かって突撃し、
回転させたまま叩きつけるように切り倒した。
これがトドメになったのだろう、数秒の抵抗の後、2体はブレイクオーバーの光を放ちながら沈黙した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「Cブロック代表決定戦!
チーム・ビシディアン対チーム・GH3の戦いとなりましたぁ!!」
「元々単独戦闘でも強いビシディアンですが、
今回どのような連携行動に出るのか気になりますね〜。
対するチーム・GH3は、誰を繰り出してくるかが問題になるでしょう」
うーん、やっぱ勝ち残ったかビシディアン。
アビリメモリ対応のユニゾンデバイス集団であるチーム・GH3は、どう出てくる?
カナヤゴはもう帰っちまったけど、オレはきっちり見届けさせてもらうぜ。
「マリナーズフィールドが使えるヘスペリデスは出てくるんじゃない?
見たところ、水中戦が得意そうなメンツはいないし」
「いや、それこそないだろ」
「ジュンイチさん?」
「宇宙とはいえ海賊は海賊。寧ろ、宇宙空間での戦いにも慣れてる。
水の抵抗は計算に入れなきゃならないとはいえ、常に浮いてる状態での戦い方は心得てる筈だ」
「第一、ヘスペリデス以外のメンバーが水中戦に慣れてないと、かえって足を引っ張る結果になる。
ヘスペリデス自身は出てきても、マリナーズフィールドを使うことだけはないだろ」
「……とまぁ、大体スターが続けてくれた通りだ」
ロードナックルの完敗を受けてか、ヘスペリデスに警戒するティアナ。
けどそこはジュンイチが否定した。理由は本人とオレで語った通り。
味方の熟練度次第じゃ、逆に足元をすくわれる可能性があるんだ。だから、少なくともマリナーズフィールドは使えない。
2回戦のヒュドラやヒッポリュテはフツーに陸戦型だろうし。
残るゲリュオンも、水中戦にそんなに強いとも思えない。パペティアーメモリの何かしらの効果があっても、だ。
あと、ヘスペリデスは別にマリナーズフィールドじゃなくても攻撃手段はある。というより、援護要員としては結構優秀じゃないか?
だから出てきても不思議じゃない。
さて、今回のフィールドは月面。いかにもSFチックな月面基地があるクレーター周辺を模したものだ。
月面という環境下らしく、重力が通常の6分の1になるように設定されている。
だから、ジャンプするとしばらく浮いたままになるんだ。
この滞空時間をうまいこと計算しないと、酷い目に遭うってワケ。これはビシディアン有利か?
「チーム・ビシディアン、ヴァーサス、チーム・GH3。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
「猛使霊のゲリュオン、いくよ」
「九頭蛇霊のヒュドラ、シメてやるぜ!」
「活栄霊のヘスペリデス、バッシャーンといっちゃうよっ!!」
「ファイッ!!」
「いくぜっととと!?」
「はわわわわ!」
開始早々、突撃しようとしたヒュドラとヘスペリデスが浮き上がってもみくちゃになった。
どうやら宇宙空間を想定した戦闘訓練はしていないらしい。
「なんでいなんでい!そんなザマで俺らのキャプテンに挑もうってのか!?
片腹痛いってモンだぜ!なぁサイフォス!!」
「あぁ!こんなヤツら、キャプテンにやらせるまでもねぇ!!」
「月面空間の重力に慣れていないらしいチーム・GH3に、
ダークハウンド選手を控えさせたジャックエッジ選手とGサイフォス選手が襲い掛かるーっ!!」
それぞれにドッズバスターを連射、光弾の嵐を浴びせながら素早く接近。
姿勢制御もままならず、文字通り浮足立っているヒュドラやヘスペリデスを問答無用で蹴り飛ばす。
そこからすぐにドッズバスターを連射、追加ダメージとするのは忘れない。
「2人とも、何やっているの…」
「だってよっ、こんなっ、変にフワフワしてちゃっ」
「うわ〜、目が回る〜」
「……まったく」
<パペティアー・マキシマムドライブ>
動作を最低限におさえて、とにかくバランス制御に徹していたらしいゲリュオンが呆れ顔。
取り出したパペティアーメモリを起動、さらに左手首につけているバンドに設けられたスロットに装填。
「ゲリュオン選手、両腕が変化!
体におそろしく不釣り合いな長い腕!まるで異形の生物であるかのようだぁ!」
パペティアーの、というか、ゲリュオンのマキシマムドライブは、固有装備の展開か。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
元々、自分以外の"何かを操る力"に特化したパペティアーメモリであるが、
ユニゾンデバイスであるゲリュオンが使うことで、それは凶器を解放する引き金へと変わる。
ゲリュオンの両腕は、パペティアーメモリのマキシマムドライブによるパワーを受けることで、
異世界でとらえた機械生命体の腕を転用した武器腕「デーモンズアーム」に変化する。
アンバランスな外観にそぐわない、腕だけが放つ異常なパワーを武器とし、
パペティアーの能力である物体操作も使用可能。
更には複数の相手を同時に操ることも可能とさせる、魔性の腕である。
猛る相手をねじ伏せ、万物をも意のままに操るこの腕は、まさに悪魔の腕と呼ぶにふさわしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「私がしばらくコントロールするから、さっさと慣れてしまいなさい。
3分以内に慣れなかったらそのまま捨てるから」
『訓練時間、短ッ!?』
何やら無茶ブリされたヒュドラとヘスペリデスから悲鳴に近い声が上がるが、
ゲリュオンは構わずに指を動かし、腕を振り、回す。
すると、ヒュドラたちの動きが変わった。先ほどまでの浮足立った動きではなく、空間戦闘を心得ている者の動きに。
パペティアー、人形遣いか。なるほど。
二人の体を意のままに操り、さながら己の体であるかのように動かすことができるということか。
イメージ通りに動かせるから、それだけで強力な武器に早変わりするってワケだ。
これは少し厄介だな。
「ジャックエッジ!サイフォス!
先ほどまでとは文字通り別人の動きだ。油断するなよ!」
『了解!』
前に出て戦っているジャックエッジたちに警戒を促す。
構図的には2対2で1人ずつ後方に控えている形だが、相手の動きはゲリュオンがイメージした通りになる。
それで操られた二人の体がついていけるかについてはわからないがな。
「ヒュドラ選手とヘスペリデス選手、突然人が変わったかのような動きだ!
圧倒されていた筈の相手を、逆に圧倒している!」
「パペティアーメモリの効果によるものでしょう。
イメージすればその通りに動くのですから」
角馬王将のハウリングボイスとリリエンの解説が聞こえてくる中、
ゲリュオンの操作で見違えた動きを見せるヒュドラたちにジャックエッジたちが押されている。
少なくとも、イメージできる分には経験豊富か。
「一気に圧倒してやるぜ!
ゲリュオン!メモリを使わせろ!」
「使えばいいじゃない」
「お前に操られてるんだから、自分でメモリ起動できるワケねぇだろーが!」
「それもそうね」
<ダミー>
2回戦でも見せた、ヒュドラの怪物化。
だが悪いな、その程度の相手ならこちらも何度となく経験済みだ。
「てめぇらにこんな大火力はねぇだろ!押し切ってやる!」
「水の針もオマケでプレゼントっ!」
「やるのは私だけどねっ!」
「どうせ化けるんなら、もっといいのに化けやがれ!」
「趣味が悪いんだよ!」
<<ATTACK-FUNCTION TRIPLE ENERGY BOMB.>>
ゲリュオンの操作で、九つの頭を持つ大蛇から9本のビームが、
ヘスペリデスの周りから水の針が、それぞれ殺到。
だが、その程度で海賊がビビるとでも思ったか?それは間違いというものだ。
反撃の一手は、ジャックエッジもGサイフォスも同じ"トリプルエネルギー弾"か。
予選でジャックエッジが使った"ハイパーエネルギー弾"を同時に3発発射する技。
合計6発分のハイパーエネルギー弾がゲリュオンごとヒュドラとヘスペリデスに降り注ぎ、爆発。
「強力なアタックファンクションが、同時に炸裂ーっ!
しかし、チーム・GH3も耐えた!これはまだ勝負が分からない!」
ほう、なかなかしぶといな。
「やってくれる、海賊…。けど、ここで終わるワケないっ!!」
「って、オイ、ゲリュオン!?」
「待って!待って!」
「――っ!マズイ、二人とも下がれ!!」
俺の直感が告げる。ヤバイと。
気迫と共にゲリュオンの力が増したように見える。
同時に、ヒュドラとヘスペリデスの様子がおかしいことも見逃さなかった。
ただ制御されているだけにしては、焦り方が妙だ。
だからジャックエッジたちに叫んでいた。何かがくる。
「海賊ごときが、プレダコンズの邪魔をするなぁぁぁぁっ!!
吹き飛ばせ、マリオネットデストラクター!!」
ゲリュオンの叫びと共に、ヒュドラとヘスペリデスの力がはじけた。
まるで嵐のように荒れ狂った彼女たちの力は、無数の光弾や光刃の豪雨へと変わってこちらに降り注ぐ。
俺の右目にある、眼帯を模したスコープセンサーがほどなくそのカラクリを見抜いた。
"マリオネットデストラクター"とは、操っている相手から力を強制的に引き出し、炸裂させる技だ。
しかも、一度引き出した分の力の主導権は完全にパペティアーメモリに掌握されてしまう。
つまりゲリュオンが主導権を握り、さながら無数のビットでもあるかのように操作してしまう。
もっとも、相手が本来持つ固有能力までは引き出しきれないようだが。
「そこの2人、踏んだり蹴ったりでも悪く思うなよ!」
「ぐはっ」
「げふっ」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「味方を命の危険にさらしてまで、何をしようというんだ!!」
目視するまでもなく、ジャックエッジとGサイフォスはブレイクオーバー。
だが問題は、操られたことで強制的に放出されてしまった力が行き場を失う危険性を、拭いきれないこと。
最悪の状況を招いてしまう前に決着をつけるしかない。
両肩のバインダーにあるアンカーショットを左右同時に発射、ヒュドラとヘスペリデスにひっかけ、
ワイヤー巻取りの勢いを利用して突撃、そのまま二人めがけドッズランサーの一閃で切り込み、
ドッズガンの連射とドッズランサーの斬撃を連続でお見舞いして速やかにこの二人をブレイクオーバーさせる。
間髪入れずにゲリュオンへもドッズガンを連射、更に胸部のフラッシュアイを作動させ、目くらまし。
ひるんだ隙に巻き戻したアンカーショットを再度発射、ゲリュオンの両足に絡み付けて、
背中のスラスター全開で振り回して近場の岩に叩きつける。
更にストライダー形態に変形して突撃、起き上がったところに刺さるように突っ込みながら更に押し込む。
ドッズガンの連射も加えて、突き抜けた先で更に別な岩に突っ込んで破壊、人型に戻って眼下のクレーターに蹴り落とす。
<ATTACK-FUNCTION GREAT BOMBER.>
ドッズランサーに地球のフォースチップをイグニッション。
フォースチップのパワーで瞬間転送した大量の多弾頭爆弾をゲリュオンめがけて放り投げ、
その内のとりわけ大きいサイズの1つをドッズガンのビームで破壊。
大量に弾けた散弾とそれら同士による散弾を利用し、ばらまいた爆弾全てを起爆させる。
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・ビシディアン」
「ダークハウンド選手、おそるべき反射神経で猛反撃!
抵抗も許さずに、チーム・GH3の3人を一気にブレイクオーバーさせたぁ!!」
「ゲリュオン選手1人を相手に"グレイトボマー"を使うなんて、
随分と念入りな攻撃でしたね」
グレイトボマーは、普通なら複数の相手に爆撃を敢行する為に使うアタックファンクション。
だが逆にいえば、集中砲火させれば尋常じゃない威力を発揮するということでもある。
ゲリュオンに徹底的に攻撃を加えてブレイクオーバーさせたのは、勝利する為というよりは安全性の問題の方が大きい。
あのままパペティアーメモリの力を使われた場合、強制的に力を引き出され続けたヒュドラやヘスペリデスの命にもかかわりかねない。
ましてや彼女たちはユニゾンデバイス。エネルギーの枯渇はそのまま生命の危機に直結する。
「なんだよ……なんだよ……元はただの人間だったクセに!
どうしてあんな真似ができたんだよ!」
「スーパーパイロットを、ナメるなよ」
あんな真似、か。
3人相手に一気にブレイクオーバーさせたことか?
それとも……お前たちをブレイクオーバーさせた直後、ゲリュオンの同士討ち上等な攻撃から遠ざけながら戦えたことか?
いずれにせよ……ヒュドラの言葉への答えは今の一言で十分だな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……何者なんだ?ダークハウンドって」
「うちの常連客であり、ビシディアンの首領。それ以上でもそれ以下でもない」
「いや、そうじゃなくて…」
ジュンイチがカナヤゴにいきなり問い詰めるのは、ダークハウンドの素性。
ヒュドラの言ってたことが本当なら、かつては人間だったってことになるんだが…。
けど悪いな、ジュンイチ。カナヤゴはあまりそういう裏事情は話さないんだ。
よほど必要性がない限りは。で、今の状況下でダークハウンドの裏事情を知るべき理由は、ないよな。
「まぁ、しいて言うなら、かつて本当にスーパーパイロットとして名をはせた男、ってことだ」
「要するに機獣になった理由は知らない、と」
「ビシディアンに在籍しているワケではないからな。
彼がいつ首領になったか、なぜ海賊という道を選んだのか、それも聞いていない」
「まぁ、そんな大っぴらに話していいようなことでもないしな。
カナヤゴが知らなくても無理ないって」
「まったく、トラルーの皮肉った言葉が変に突き刺さってまいっちまう」
日本のことわざで、「井の中の蛙大海を知らず」だっけか。
さすがに星を超えた事情まで知ってるヤツが地球やミッドにそんなにいるワケないだろうし…。
寧ろ、オレやトラルーが知り過ぎてるくらいじゃないか?アストラルなんて保有情報量が多すぎて論外だし。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さぁ、残る2ブロックの組み合わせも、遂に発表です。
まだ対戦していないチームの方々は、今晩でコンディションを整えておいてくださいね〜」
Cブロックも終わって、いよいよDとEブロックの組み合わせを決める時が来た。
まぁ、決め方はお馴染みのパレサによるくじ引きなんだけど。
明日は遂に僕らも戦闘開始だ。イグナイテッドの"アレ"を使っての調子も、後で確認しとくか…。
実は、開幕直前の合同模擬戦でも見せなかった手札が、1つある。それも、リミッター解除とは別に。
「じゃあ、トントン拍子で決めていくから括目して見なさい。
Dブロックからいくわ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Dブロック1回戦
第1試合:チーム・フォレス VS チーム・マイズ
第2試合:チーム・スナイプ VS チーム・レンジャー
第3試合:チーム・タイニー VS チーム・ヴァイス
第4試合:チーム・SEKN VS チーム・シュベルト
Eブロック1回戦
第1試合:チーム・スターズ VS チーム・マスク
第2試合:チーム・スサノオ VS チーム・ツーフォー
第3試合:チーム・スクリーム VS チーム・ボンバーズ
第4試合:チーム・ストゥルム VS チーム・ゴッドアイズ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あー、悪かった。悪かったからコンステレーションガッデスは勘弁な。
スリアの事件でぶちかまされた時、冗談抜きで痛かったから」
「うん」
チーム・グランツ敗退によって、スターの大会中の出番は終了。
というワケで早速呼び出して、ノーザンとの対面タイム。
さすがのノーザンも、こうすればいい加減おさまってくれる……という希望的観測。
明日のトップバッターとして私たちが出ちゃったから、おさまってくれないといろいろ大変っていうか。
「しっかし、中身は勇者王と変わらないクセにちっぽけでおじゃるねぇ」
「余計なお世話だ。ベルカ戦争中に死にかけたかと思ったら、気がついたらこんなボディになってたんだ」
「あはは。それはそうと月影丸、変に発破かけなきゃこんな手間はなかったでおじゃるよ?」
「失礼いたしたでござる」
私の言葉にスターから思いのほかの反論が。
ていうか、死にかけたことがあったでおじゃるか。模擬戦で怪獣呼ばわりされてるというのに。
やっぱり古代ベルカ戦争って超一級戦力のオンパレードだったんでおじゃるねぇ。
これは戦力評価を一気に見直さないと…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
開けて翌日。
昨日と同じようなタイムスケジュールで、まずDブロックの試合が進んでいく。
第1試合は、ビコナたちチーム・フォレスと、スターみたいな体格の者が3人集まっているチーム・マイズの戦い。
「さぁ、張り切っていくぞ!Dブロック1回戦第1試合!
チーム・フォレスからは、2丁拳銃ならぬ2丁ライフルでノーザン選手が登場!
チーム・マイズからは、2つの戦法を自在に切り替えて戦うストラ選手が出撃だ!」
朝から絶好調なヒビキの実況と共に、呼ばれた2人がそれぞれフィールドに立つ。
今回のフィールドは草原地帯。特に大きな障害物もなく、思いっきり走り回れそうな感じ。
隠れ場所がないから、中距離〜遠距離で高い威力を発揮するノーザンには若干不利かもしれない。
ストラと呼ばれた彼は、白いカー○ィ型の本体と薄黄色の足、オレンジの瞳。
頭にライオンの鬣をイメージしたような形状のヘルム。背中には射撃装備のビームガン2基。
尻尾のようにも見えるのは、白兵戦用のブレードである「ザンブレイカー」。
両肩に当たる部分にブロック状のユニットを1基ずつ、両手には白兵戦用のナックル系装備「ザンスマッシャー」を装備。
各パーツの具体的な形状については、某BLOXの「レオ○トラ○カー」を調べてもらえばわかると思う。
彼の装備は全て、それに由来しているの。カタログを見た時から一目ぼれしたらしい。
「他にもいたでしょう?顔なじみ」
「うん……しかもご健勝そうで何よりだ……あはは……」
「鎧王ポラリスといえど知らない世間もあるか」
アレックスの言葉につい苦笑してしまう。そう、ストラ…というかチーム・マイズのメンバーも顔なじみ。
古代ベルカ戦争の生き残りってワケ。あぁ、世間は広いなぁ…。
ただ、マスターコンボイの言葉は皮肉っているのかそうじゃないのか、イマイチ判断に困る。
「チーム・フォレス、ヴァーサス、チーム・マイズ。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
ジャッジマンのコールと同時、先に飛び出したのはストラ。
両腕のザンスマッシャーをキラリと光らせ、ノーザンに迫る。
「ははっ、射撃装備しかないのにタイマン勝負に出てくるなんて!
拳銃ならいざ知らず、そんな銃身の長いライフルとh」
「うるさい」
《ディバイドモード》
しかしザンスマッシャーによる打撃は決まらず、
ガメッセを変形させバヨネットを展開したノーザンが、叩き落とすように切り捨てた。
更にそれだけでは終わらず、射程を縮めた代わりに連射性能が高くなったらしいビームライフルを撃ちまくる。
多数の直撃弾によって吹っ飛ばされたストラめがけてダッシュし、また切り捨てる。
「フォースチップ、イグニッション」
<ATTACK-FUNCTION GUILLOTINE CUTTER.>
ディバイドモードのままガメッセを水平に連結し、1つになったチップスロットにイグニッション。
すぐにまた分割し、ストラめがけてジャンプ。
紫の軌道を描きながら大回転し、2つのバヨネットを同時に振り下ろす。
「ウィナー、チーム・フォレス」
《……弱いな》
「言うなよ」
「一方的でしたけどね」
「しかも早っ」
オメガ、マスターコンボイ、アレックス、そして私。
……ノーザン、強いね。さすがはスターが見込んだ子だ。いや、彼に鍛えられれば、接近戦能力も高くなるか。
本気を出せば、バトルフィールドの4分の1を壊滅させるぐらいはできるかもしれない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「チーム・スナイプ、ヴァーサス、チーム・レンジャー。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
Dブロック1回戦第2試合。
チーム・スナイプは、予選で話題になった連続狙撃事件の犯人。まぁ、ルール違反じゃないから悪者扱いはされないけど。
メンバーは3人。公式情報によると三つ子らしく、ご丁寧に瞳と髪の色が同じ。瞳はオレンジ、髪の色はラベンダーに近い。
その分それぞれが髪型にコダワリ…というかアイデンティティのようなものを持っているらしい。似ていると区別つかないしね。
あともう1つの大きな特徴として、全員が第3世代型に分類されるCPユニットを装備してる。
第1世代がルノリーのキャノリーユニットとかで、第2世代がパスナのワイルドウィーゼルユニットなど。らしい。
ポラリスいわく、古代ベルカ戦争の初期から出ているのが第1世代、中期から出ているのが第2世代で、戦争終結後が第3世代、とのこと。
そして連続狙撃については、3人全員が鋭角的な狙撃銃「ロングレンジスナイパーライフル」を使いこなすから。
悠々とアウトレンジから狙撃して数を減らして、残りを包囲殲滅しちゃったワケだ。
ちなみに六課側では、スターセイバーたち副隊長組が食われました。どうりで一昨日の本戦直前の朝礼に並んでなかったワケだよ。
今回フィールドに躍り出たのは末っ子で妹のルレイル。髪は後ろ髪が肩まで届く程度。
来ている半袖ジャケットは基本カラーの白にオレンジのライン。黒いズボンは膝まで届く程度の長さだ。
装備しているのは、大中小、遠中近、多彩なミサイルを発射できる「オールレンジミサイルユニット」。
右腕に半円状の、左腕に長方形のミサイルポッド。背中には見るからに長距離用のミサイルを装備。
エネルギーミサイルの生成装置になってるけど、普通にマジな火薬を詰め込めば、東京ドームくらいは粉微塵にできるほどの火力らしい。
対するチーム・レンジャーからは、ブルーと名乗るヤツが登場。
外観は……うん、ビビンバードといえばわかる人にはわかる。アレの青いヤツ。レンジャーはレンジャーでもオタだ。
アキバ警備はどーした。ていうかレルネのヤツ、ちゃっかりビビンバードシリーズも作ってたんかい。
市販する予定なんて全くないクセに…。まぁ、いいや。クロスディメンジャーの元ネタを考えれば、作らないって断言もできないし。
基本装備はいかにもヒーローもので出てきそうな光線銃「ビビンバードガン」。敢えて二丁拳銃ではない。
フィールドは、砂漠地帯。砂に足を取られると命も取られそうなフィールドだ。
一面砂漠って以外は、特段目立つようなギミックなんかはないみたい。
乾燥肌の人は立ち入りたくないフィールドだろーなー。
「そぉれ、いっちゃえぇ!」
ルレイルがいきなりエネルギーミサイルの雨あられ。
その全てがブルーに殺到する。……が。
《はっ!》
ブルーは華麗なるジャンプで回避。なおも迫る分はビビンバードガンで丁寧に撃ち落としていく。
《ふっ、無駄だ。そんなデタラメな狙いのミサイルが、ヒーローに当たるワケないだろう!》
「ハァ?」
《このビビンバードブルー、貴様のミサイルの軌道は今ので見抜いたぞ!》
「ハァ?ハァ?」
いかにもヒーローがやりそうな着地を決めた後、ルレイルに言い放つブルー。
……が、ルレイルには心底呆れられている。技術云々じゃなくて、言いぐさに。
ジュンイチでさえやらないが、挑発ではないだろう。素だ。重度のコスプレオタッキーにたまに見られる症状だ。
つまり、なりきり過ぎて自分がそうなんだと思い込んじゃうワケだ。
今時だとアキバですら病人扱いされるかもしれない。
「さっさと壊れちゃえば!?ウザいから!!」
<ATTACK-FUNCTION ZENHOUI-MISSILE.>
どうやらルレイルはその手の趣味に理解がないようだ。
いや、単にビビンバードブルーが異様にウザく思えただけか。理由としては多分後者だろう。
普通なら職務質問されても文句を言えない有様だし。
「俗にいう狂信者とかそーゆー類っすかね」
「狂信者の中には問答無用で布教しようとするヤツもいるからねー。
ビビンバードはその類じゃないだろうけど、まぁ普通にウザったいわな」
「うわ、後でレルネが泣きそう。自分の情熱を否定されたみたいで」
「今更どうでもないでしょ。プルトーネに手遅れ呼ばわりされてるのは伊達じゃない」
『なにそれ、四面楚歌?』
マキトやイテンがレルネに哀れみの感情を向けているようだけど、
レルネのエキサイトぶりは僕としても目に余るものがあるので、容赦しません。
仮に泣いたところで、僕はどうとも思わない。
それはともかく、ルレイルが苛立ちもあらわに放った"全方位ミサイル"は、
追尾式のミサイルを文字通り全方位にバラ撒くというもの。彼女のCPユニットに忠実な技だね。
しかし、ビビンバードブルーはまたしてもその全てをかわし、撃ち落とし、ルレイルに一気に接近。
《華麗なる勝利。これこそヒーローだ!》
<ATTACK-FUNCTION SPREAD SHOT.>
肉薄したところでアタックファンクションのスプレッドショットを発動。
ビビンバードガンでルレイルを真正面から撃ちまくる。
さすがに至近距離ではかわせず、成す術もなく多数の直撃弾をくらうルレイル。
「こん、な……こんな、フザけた…ヤツに…ッ」
《ふっ、わかってないな。ヒーローとは、他人が妬むほどに華麗なのだ!》
心底納得いってないという気持ちがよく分かるセリフと共に、ルレイルはブレイクオーバー。
ここぞとばかりに勝ち誇るビビンバードブルーだが、敢えて言おう。
「単にウザいだけだわ、アレ」
「一刀両断っすか」
「容赦ないねー…」
マキトとイテンがなんか言っているが、派手なばかりがヒーローじゃないのだ。
戦隊ものでさえ、あそこまで鬱陶しくはない。もう少し真っ当だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「うおー!ボクもあんな風に決めポーズ!やってみたいなー!」
「単に恥ずかしいだけだろうが」
「ポーズするにしても、形に問題ありましたしね」
ビビンバードの決めポーズにライが感動すらしているようだが、
ゴ○ゴ松本とかがやりそうな、芸人っぽさすら感じられるあのポーズはどうなんだろうな。
片足立ちで、前かがみになって、両腕を翼でもイメージするかのように広げる。
おそらく鳥型の外装パーツだからなんだろうが、それにしたってなんか違和感を感じるのって自分だけか?
「心配ないわよヒルメ。
寧ろアレに肯定的なのはライだけだから」
なるほど。それは安心だ。
ライカの言葉で些細な疑問は解消。既にバトルを終えた人たちの装備品のメンテナンスに戻ることにした。
アルトアイゼン用の強化パーツも調整中だしな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《"鳴動の槍騎士"オーディーン、発進!!》
「魔剣士アーク、敬意と共にお相手しよう」
第3試合は、チーム・タイニーとチーム・ヴァイスの対決。
チーム・ヴァイスといえば、なんだかんだでナンバーズの殆どを倒しちゃった凄腕なチーム。
キーコードは殆ど彼女たちとの戦闘で勝ち取ったものだろうし、少なくともミッドやベルカ系統の戦いは心得てる。
……いや、魔族なんだし、魔力についての知識ぐらい普通にあるわよね。
使い方というかその形が違うだけで。
私たちチーム・タイニーからはオーディーンが、チーム・ヴァイスからはアークが登場。
緑色のショートヘアーに金色の瞳、額には赤い水晶みたいなのがある。あと、側頭部に特徴的な形状の角。
水平に弧を描いて、先端部は上を向いてる。あぁいう形状って、魔族の中でも珍しいとか。
長袖の上着も下のズボンも黒を基調としたもので、袖口とベルトの赤、バックルや胸元の留め具の金色、というアクセントがある。
上着の更に上にマントを羽織っている。これは表が黒で裏が赤。あとは、白い手袋に膝までカバーする白のロングブーツか。
そして基本装備は、円錐状のエネルギー刃を生み出す「ティルフィング」という魔剣。
デルポイ大陸に伝わる魔剣の1つね。ただし魔力を直接変換して刃とするので、魔力量が途方もなく多い者でないと命にかかわるとか。
「レディー・ファイッ!!」
「両者同時に駆け出した!
輝きの刃がぶつかり合い、火花を散らす!」
オーディーンのリタリエイターとアークのティルフィングが真っ向から激突。
どっちもエネルギーの刃だから、ぶつかるだけなら武器本体のダメージはゼロなんだけど、
込めているエネルギーが足りない方が競り負けるのはわかると思う。
特にティルフィングは、リタリエイターと違って刃の芯が非常に短い。だから、破られた瞬間使用者本体に直撃する危険性が高い。
もっとも、アークは聞いた話によると魔族の中でも屈指の剣術の使い手らしいから、
よほど切羽詰まらない限りはそんな凡ミスはしないでしょうけどね。
「……本当にロボットだけのチームなんですねー…」
《仕方ないだろ。"アレス"は次元世界対抗戦みたいな図式さえ出来上がるからなー。
そっちだって魔族オンリーだし》
フェンリルと話してるのは、アークと一緒に出場している魔族の女の子。名前はアルカナ。
コバルトグリーンのショートヘアーに赤い瞳、巻貝みたいにとぐろを巻いた黒い角、頭には白くて大きい帽子。
胸と背中の一部を覆う白と黒の上着、胸元に赤いリボン、肘の上ぐらいまで届く長さの白い手袋、
白を基調としたホットパンツ、白いニーソックスに黒いブーツ。腰に黒い翼、お尻に黒い小悪魔っぽい尻尾がある。
……露出範囲は首に胸元、お腹、腰、背中の殆ど、肩出し、太もも…って、随分と大胆な服ね。
エロリストで有名なレヴィアタンやスリアよりも大胆すぎるんだけど…。フェイトさんのソニックフォームにも勝る大胆さね。
アークはアルカナを直視して大丈夫なのかしら?
「全然平気そうですよ?女の子としては逆にショックなくらい」
《あー、朴念仁か》
「それとは話が別ですっ!アーク様は、寛大なお方なんですっ!」
《分かった、分かった…》
アルカナは、アークに仕える使い魔なんだそうよ。
なんでも、アークは昔、デルポイ大陸全土を統治する大魔王に君臨していたのだけど、
大昔の管理局タカ派がデルポイに乗り込んで、アークの力を狙ったとか。
しかもアークは、統治者としては致命的なまでのお人好し。そこを付け込まれて、騙し討ちにしちゃったの。管理局が。
騙し討ちで魔力の大半を失って、今の子供の姿ってワケ……らしいのよ。
ただ、剣術は衰えないし、実戦経験も豊富で、少なくともエース級の魔導師とかには後れを取らないとか。
フェンリルとアルカナと私とで考えてみたけど、「火力がやたらと低いジュンイチさん」って感じで考えればいいと思うわ。
さすがに反則技までは使わないだろうけど…。
「オーディーン選手、アーク選手、双方ともに譲らないぃー!
幾度となく刃を交わし、互いに牽制しあう!」
それにしてもアーク、かなりのものね。
オーディーンだって、タイマン勝負ならフェイトさんとだって互角に戦えるし、スキルの問題でなのはさんには勝てる。
それと互角以上にわたりあうってことは、さすが元大魔王ってとこね。
オーディーンがリタリエイターで斬りかかり、ティルフィングで止められた途端にバック宙返りからの突き出し。
それをアークは体をひねって紙一重でかわして、カウンターのティルフィングによる刺突。
刺突をジャンプでかわしたオーディーンが、ティルフィングを足場にジャンプしてリタリエイターで袈裟切り。
ティルフィングを足場にされたことによる反動にアークは逆らわず、前転受け身で距離を取って構えなおす。
映像なら数秒の出来事だけど、文面にすると随分と情報量のある攻防だってことが分かるわね…。
《これでどうだ!》
<ATTACK-FUNCTION LIGHTNING LANCE.>
背中のチップスロットに、ミッドチルダのフォースチップが飛来。
オーディーンはいくつもアタックファンクションを持ってて、使い分けの為にフォースチップも違うものになってる。
地球のならグングニル、ミッドチルダのなら今の"ライトニングランス"って感じで。
リタリエイターに集中させた青白いエネルギーを、思いっきり振りかぶって勢いよく突き出すことでビームのように飛ばす。
「まだ…いける!」
<ATTACK-FUNCTION ARC STRUSH.>
対するアークは、鍔に一つ目がある剣と翼をあしらった紋章を持つフォースチップを呼ぶ。
あの紋章は、彼らヴァイス族の紋章。他にもデルポイの魔族にはそれぞれに紋章があるらしいわ。
呼ばれたフォースチップは、ティルフィングの柄尻に差し込まれる。
新たに追加されたエネルギーが刀身に宿り、縦一文字に振り下ろすと、解放されたエネルギーが一気に水しぶきのように飛んでいく。
斬撃波を放つ必殺技、確か"アークストラッシュ"っていってたわね。
……ところで、ストラッシュって、どういう意味なのかしら?ググッてもわからなかったし、造語?しかも割とポピュラー。
「これはまた眩しい激突だぁー!
あまりにも眩しすぎて、こっちからじゃ状況が全く分からないっ!」
「さり気なく何をほざいてるんですか!?」
まぁ、ヒビキの言うことも当然なんだけど。
ライトニングランスとアークストラッシュの激突による閃光は、本当に眩しすぎるもの。だからリリエンもわかってあげて。
それより、ホントにどうなったの!?
《見えるぜ見えるぜ、オレのタカの目ならぬオオカミの目でな!》
「なんのことです?」
《神話のオオカミをモチーフにしてるからよ。私も神話の人物の名前だけど》
パンドラ、と聞いて、知ってる人ならまずとある神話に行き着く筈だもの。
でも、あなたたちの親戚さんを調べてたら、神話は神話でもソロモン関係のアレコレに行き着いたわよ?
あとは七つの大罪ね。ヴァイス以外の魔族の名前ってそれが由来らしいわよ。生々しい話。
《まだどっちもブレイクオーバーしてねぇな。
けど……オーディーンどこいった?》
「……そういえば、アーク様しかいませんね」
《ジャッジマンが勝利宣言してないから、ブレイクオーバーや場外じゃないとして……空でもないし。
どこかしら?》
オーディーンは、戦闘機のような飛行形態に変形することで音速飛行もできる。
一応通常形態でもホバリング程度の滞空ならできるけど、それもごく短時間。
長く空中にいるとなると、変形しての飛行しかできない筈。
でも、ステルス機能はない筈だから、飛んでいればわかると思うんだけど……見当たらないわ。
当然、センサーにも反応なし。どういうこと?
《フォースチップ、イグニッション!!》
どこからか響いたオーディーンの声にこたえて、今度はスピーディアのフォースチップが飛来。
それは、一気にフィールドに舞い降りて……穴に入った?まさか!
<ATTACK-FUNCTION JET STRIKER.>
フォースチップが穴に消えた刹那、アークが足元の地面ごと吹き飛んだ。
青白い輝きに包まれた、飛行形態のオーディーンに激突されて。
そのままアークはオーディーンに激突されたまま空高く打ち上げられ、更に急降下で地面に叩きつけられた。
飛行形態に変形し、青い輝きと共に敵に突撃する。これがオーディーンの専用技"JETストライカー"、彼だけの切り札。
名前に「JET」ってあるからわかると思うけど、まず飛べなきゃお話にならないのよ、あの技。
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・タイニー」
「地面からの奇襲攻撃がクリティカルヒット!
オーディーン選手が作戦勝ちぃ!」
「予選でチーム・クアドラが見せたのと、同じ手を使いましたね?
相手にそうと悟られないように、地面に潜って」
そうだったのね。オーディーンったら、よく見てたわね〜、あんなところまで。
六課と全然面識ないチームだったのに。
「あうぅぅぅ〜!アーク様ぁ〜!!おいたわしや…!!」
《なー、どーする?この人》
《取り敢えず、愛しの主様を回収してあげたらどうかしら…?》
アークのブレイクオーバーと同時、アルカナがすごい勢いで崩れ落ちていた。
ハンカチを噛むなんて、お約束な泣き方をしながら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「チーム・SEKN、ヴァーサス、チーム・蝿蜘苑。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
「俊鹿霊のケリュネイア、ぶっちぎるぜ!!」
「仮面ライダースティング――さぁ、貫くよ!!」
「ファイッ!!」
Dブロックの1回戦第4試合は、ディフィカルター12のチーム・SEKNと万蟲姫率いるチーム・蝿蜘苑。
名前については諦めてほしい。万蟲姫にその手のネーミングセンスを要求するのは、野暮だ。
戦うメンツについてはもう言うまでもない。
ケリュネイアはアビリメモリを起動し、専用装備「カッターホイール」を両腕に装備。
万蟲姫もメープルと共に変身し、仮面ライダースティングとして戦闘に臨む。
スピード系同士の対決か。
「で、どうなの?」
「オレも知らん」
「参考意見がほしけりゃ教えてやろうか?」
『スティア!?』
スティアが、いつの間にかこちらの観客席に来ていた。思わずオレも恭文も驚いてしまった。
しかも、こうも馴れ馴れしく…。
「おいおい、オレはどっちかというと管理局側、もっというとクロノ提督側なんだ。
そこまで強張ることないだろ?」
《いきなり来たらまずビビるだろ》
「んぁ?それもそうか。そーいやこうして直に話すのは初めてだったよな。
改めてよろしくな。オレのことは……今更あまり語らなくてもいいだろ?」
「まぁな」
クロノ・ハラオウンのお墨付きなら、警戒する必要はないだろう。
しかし、イグニッションパートナーのソニックボンバーといい、風来坊タイプなヤツと縁があるのか?
あと、スティアのアレコレについては、先日八神はやてから大体のことは教えられている。
「で、今の試合だが…。オレ的に言わせてもらえば、多分ケリュネイアが勝つ」
《またバッサリと言い切りますね。根拠は?》
「ガチな戦闘経験については、どっこいどっこいって感じか?
だが、バトルスタイルはまるで違う。ケリュネイアは、ナックル系やキック系の格闘技を得意としてる。
対するあのメープルは、デンガッシャーでの刺突ぐらいしか得意な攻撃方法がない。
そもそも、あのイマジン自体の戦闘力が低すぎて、電王になったってスペックを活かしきれない。
逆にケリュネイアは、元々アビリメモリの制御に特化したユニゾンデバイスだ。自分の能力の引き出し方もわかるだろうしな」
スティアが論じている間に、メープルと万蟲姫が一体化したスティングがケリュネイアに刺突を試みる。
だが、両腕に装備されたカッターホイールを使って弾かれ、カウンターの蹴りを叩き込まれる。
更に畳み掛けられ、ほどなくデンガッシャーを叩き落とされ、遠くに蹴り飛ばされてしまう。
電王になっていることで強化されている体術も、ケリュネイアには通じていないようだ。
見ていて、笑ってしまいそうなくらいにケリュネイアのカウンターが的確に決まる。なるほどな。
ヤツは自分のアビリメモリ、「アクセル」か。そいつの力で備わる加速性能を、体術の1つ1つに応用している。
たとえば腕を振り下ろす時。たとえば蹴りあげる時。たとえばステップする時。
瞬間的に一部分を加速させることで、メリハリのきいた攻撃を実現しているというワケか。
「そして、これはある意味で元も子もない見解なんだが…。
ある意味で最大の問題は、メープルも万蟲姫も実戦経験が少ないことだ。
特に、同じスピード型との戦い方が、まだ板についてない。完全に熟練度不足だ。
オマケに、その経験値の差を埋められるほどの優位性を持つ技や能力が無い」
《だから、万蟲姫とメープルには勝ち目がない、と?》
「全く、ってワケでもないが、薄いのは間違いないだろうな。
バトルスタイルが似ている場合、実戦経験や技の熟練度がモロに戦力差になっちまう。
カバーできるほどの大技もないし……言っちゃ悪いが、やる前から王手かけられてるようなモンだな」
そうこう言っている間に、またしてもスティングが蹴り飛ばされる。
大型モニターの1つに両者のライフ状況が見れるものがあるが、ケリュネイアは殆ど無傷なのにスティングは既に半分。
その状況が物語るのは、やはり戦力差か。
「だ、大丈夫?ココアちゃん」
〔まだまだ!ガンガンいくのじゃ!〕
とはいえ、向こうにもやる気がある以上は勝負はまだわからない。
運も実力の内というしな。
「バカが!とっとと終わらせてやる!」
「〜〜!!」
《Full Charge》
〔メープル!?〕
トドメをさそうと突撃したケリュネイア。
ヤツに対しスティングは、先ほど拾い上げたデンガッシャーを前かがみになりながら突き立てていた。
スティングは大して動いていない。そうする必要もないな。なにせ、相手の方から突っ込んでくる。
その突撃の勢いも利用したのか、ケリュネイアが体をくの字に曲げて硬直。
最大のチャンスを活かすべく、ライダーパスをベルトにセタッチ。フリーエネルギーがオーラソードに集まる。
そのままオーラソードだけが高速回転。
「はぁっ!!」
メープルの気合を振り絞った叫びと共に、オーラソードが撃ち出された。
ケリュネイアが吹っ飛んでいk
「っざっけんじゃねぇぇぇ!!」
激昂と共にカッターホイールでオーラソードを粉砕した。
……信じられん。オーラソードを真っ向から粉砕とは。
「そ、そうだよ。モモタロスさんなんて、あんなド派手に振り回してるのに壊れたことないもん。
そのオーラソードを破壊するって、マジ?」
「マジ、だろうなぁ。多分、カッターホイールを超高熱カッターとして使ったんだ。
アクセルメモリが司るのは、加速と炎熱。同じ刃でも、常温と超高温じゃ切れ味がまるで違う。
以前オレにブッ飛ばされたのがショックだったんだろーな。随分と修行してやがる」
電王を崇拝する恭文がショックを受ける中、スティアがカラクリを明かした。
そうだ、ケリュネイアもディフィカルター12。アビリメモリの力をダイレクトに引き出せる。
どうすれば破壊力を上げられるか、それを心得ている。もっとも、スティアの言い分だとごく最近のようだが。
「以前はあんな真似してない……っていうより、させる暇なんてやらなかったしな。
ケリュネイアからすれば、相手が良かったんだろうよ。まぁ、オレも一杯食わされたけどな」
《食わされたんですか》
「アビリメモリ同士での連携もできる。限定的らしいがな。
ケリュネイアのアクセルメモリを使った合体攻撃で、愛用装備の1つをスクラップにされたんだ」
スティアも決して無敵ではないらしい。まぁ、柾木ジュンイチでも無敵とはいいづらいからな。
本当に無敵だなんて畏れられる存在……六課関係だと、トラルーぐらいしか思いつかん。
欠点なんて上げればそこそこ出てくるのだが、そこを突くことを絶対に許さない。おかげで未だに勝てたことがない。
本当にアレがオタク文化にはまったボンクラの戦闘力か?今でも半信半疑だ。
「ナメたマネしやがって…!とっととくたばりやがれ!!」
<アクセル・マキシマムドライブ>
「アクセェルッ、グランツァーッ!!」
再度突撃してスティングを殴り飛ばし、右腕のマフラー状のアーマーにあるスロットのアクセルメモリを一旦取り出し、すぐに再装填。
これでマキシマムドライブが発動。膨大なエネルギーがケリュネイアの全身を燃え上がらせる。
まだフラつくスティングめがけてジャンプし、右回し蹴りでエネルギーを叩きつける。
ケリュネイアの着地と同時に、タイヤの跡のように残ってくすぶっていたエネルギーが炸裂、大爆発を起こした。
「ウィナー、チーム・SEKN」
変身まで解除され、メープルが吹っ飛んでいく。
万蟲姫はあまりダメージを受けていないようだが、メープルが殆どを肩代わりしていたか。
しかし……AブロックやCブロックで代表決定戦まで上り詰めただけに、
ディフィカルター12、油断できんな…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いくぞDブロック2回戦第1試合!
チーム・フォレスとチーム・レンジャーの戦いだぁ!」
「その前に、インターバルタイムですよ。
2回戦を戦うメンバーは、キッチリ準備してくださいねー」
ヒビキとリリエンのやり取りをよそに、こっちは既に準備中。
さて、2回戦は誰が出るか…。ローテーションを考えれば私と月影丸でおじゃるけど…。
「2回戦も出る。さっさと片付ける」
「ガメッセの簡易メンテはしないでござるか?」
「さっき瞬殺だもん。だから必要ない」
ノーザンがいきなり連投志願……というか勝手に決定。
1回戦の相手が相手だったせいか、心底つまらなさそうでおじゃるね…。
やれやれ、これはどっちかがフォローで出るって形になるかのぅ。
《そ、そこの黒い帽子のお嬢さん!お名前は、確か…》
「ノーザンだけど」
《貴女に一目ぼれしたぁ!》
『は?』
いきなり飛び込んできたのは、ビビンバードの黒いヤツ。
チーム・レンジャーが相手だから、挨拶ぐらいはくるかもって思ってたでおじゃるが…。
何もかもをすっ飛ばして告白ときましたか。
私と月影丸の間抜けな声が唱和してしまったではないか。
「なに?冷やかしにきたの?」
《とんでもない!俺は貴女のクールな勇士に惚れてしまったのだ!
ただそれを伝えたかった!失礼!》
告白は告白でも、愛の告白…ってワケではなさそう。
ノーザン、きっと彼に悪気はないから、殺意だけはやめてあげて。
「……私たちが戦う相手って、あんなのばっかり。
うっとうしい。叩き潰す」
「相互理解をしようという気はカケラもないでござるか…」
「私、もう泣いていいでおじゃるか?」
もう手が付けられない。この際コメディチックに泣いても許してほしい。
誰か、このヤンデレ小動物をなんとかしてください。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《ビビンバードブラック!》
《ビビンバードピンク!》
《《我ら、ミッドのオタク文化の守護者!ビビンレンジャー!!》》
試合開始コールの直前、フィールドに出た2体のビビンバードが決めポーズと共に叫ぶ。
トラルーによると、レルネが作った機体のバリエーションたちがつるんで戦隊チックなこと始めたんだと。
ビビンバードの色以外の機体的な違いは、属性を付与された攻撃に対する耐性。
炎属性に強い、とか、水属性に強い、とか。そんな感じ。
ブラックは雷に弱く炎に強い。ピンクは逆に炎に弱く雷に強い。……というデータを、昨日レルネからかっぱらってきた。
真逆の属性耐性を持つヤツらを組ませれば、互いに補い合えるってか。
どうでもいいが、ビビンレンジャーって名前はどうにかしろよ。
「…………」
「ノーーザーン、頼むから落ち着いてー」
一方で、ドス黒いオーラを発しながらガメッセを握り締めるノーザンに、
ビコナが泣きながら自制を促していた。そこまでか。
ノーザン、オレがカナヤゴと組んだのがそんなに嫌だったのか…?
「いえ、間違いなくスターさんと組めなかったのが原因です…」
「まだ引きずってるんですよ、モヤモヤ…」
「ぅあー、マジぃ?」
エリオとキャロにツッコまれた。やっぱオレの責任か?
アフターケアどうしよ。
「チーム・フォレス、ヴァーサス、チーム・レンジャー。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
それはともかく、試合開始。
ブラックとピンクが直線状に並んで、チューチュートレイン的な動きをし始める。
《受けてみよ!創主レルネ流!》
《コンビネーション攻撃!》
「なっ!?」
「……」
<ATTACK-FUNCTION CONSTELLATION GODDESS.>
《《へっ?》》
が、そのコンビネーション攻撃とやらは発動前に潰された。
思わず見入ってしまったビコナさえもスルーして、ノーザンがエボリューション&イグニッション。
アイツの最大砲撃であるコンステレーションガッデスが発動。
《ピンク!》
「ビビンバードピンク、ブレイクオーバー!!」
「って、早っ!!」
まるで女神のような形状をした超高密度ビームが、退避の遅れたビビンバードピンクをブッ飛ばした。
リリエンが驚いたのも無理ないな。だって、雰囲気とかそーゆーの一切合財無視してるから。
《貴様!人がカッコよくポーズを決めている最中に攻撃するなんて、
特撮ヒーローとしてはルール違反だ!》
「そんなルール、知らない」
「あ、あは、あはははは…」
控え席にいたビビンバードブルーから抗議の声が上がるが、さすがに擁護できるヤツはいないだろ。
ガチな意味じゃルール違反じゃないし。寧ろ隙だらけだし。
残念だったな。ノーザンは特撮ヒーローは好きだが、お約束とかご都合主義とかは真っ向否定だ。
特撮ヒーローのお約束、ポージング中の手出し厳禁というルールは通用しない!
「寧ろ、あの場でやろうとするビビンバードたちの神経を疑うんだけど…」
「そりゃそうだ」
オタクだろうがそうでなかろうが、ティアナの言葉はフツーに正論だ。
そーいえば、某激走戦隊はポージング中に攻撃されたことが1回だけあったとか、なかったとか…。
いろんな意味で型破りな戦隊だったからなー。敵味方問わず。
《くぅぅ、だが、そんな貴女にぃ!》
《ま、待て、落ち着くんだブラック!!》
《フォォォォォォリィィィィンラァァァァァァァァ》
「いただきでおじゃるっ!」
<ATTACK-FUNCTION HURAI SOURYU TOUBU.>
必殺技発動直後を狙って、ノーザンにダイブでもしようかってばかりに突撃するビビンバードブラック。
が、ビコナの風雷双龍闘舞による風と雷の龍によって叩き潰されてブレイクオーバー。
控え席からビビンバードレッドの叫びが聞こえたが、死亡フラグを察知したから、なんだろうなぁ。
「ウィナー、チーム・フォレス」
文面にしてるとわかりづらいが、戦闘時間は1分にも満たないというあっけないバトルだった。
原因は絶対、ノーザンの特撮の掟を粉砕した一撃なんだが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「思わぬスピード決着となった2回戦第1試合!
続く第2試合はどうなるのか!?今度こそ目いっぱい実況できるように頑張るぞっ!」
「目いっぱい?」
《じゃあ、いってくるぜ》
《とにかく、油断だけはするな》
《えぇ、当然よ》
実況と解説のコントじみた会話?はともかく、いよいよ2回戦のバトルだ。
俺たちチーム・タイニーからは、フェンリルとパンドラが出撃。
対するチーム・SEKNからは、エリュマントスにステュムパロスっていう組み合わせ。機動力重視か?
「チーム・タイニー、ヴァーサス、チーム・SEKN。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
《"閃光の遊撃手"パンドラ、出陣!》
《"電影の狙撃手"フェンリル、出動!》
《猪突霊のエリュマントス、ぶっ飛ぶよ!》
《怪鳥霊のステュムパロス、参ります!》
「ファイッ!!」
ジャッジマンのコールと共に、エリュマントスとステュムパロスが散開。
後方のフェンリルを挟み撃ちにする気か?
でも、簡単にはいかない。フェンリルも狙撃ポイントを見つけて、
荒野フィールドの中でひときわ高い岩の上に移動。
背中のブースターによるジャンプも使っているからできるけど、飛行能力がない人には届きそうにない距離と高さだ。
案の定、パンドラがエリュマントスじゃなくてステュムパロスに狙いを定めたし。
「飛行能力を奪って、フェンリルへの攻撃手段を減らすつもりですか?」
「させるもんか!」
もちろん、相手だって一筋縄じゃいかない。ステュムパロスはフェンリルからの狙撃を回避しながら空中という位置をキープ。
パンドラの追撃はエリュマントスが割り込むことで阻止。
今回のエリュマントスは、取り回しをよくする為に軽量化されたランチャー「サポットバズーカ」を装備。
持ち前のダッシュ力とサポットバズーカによる破壊力で、メリハリをきかせたスタイルになってる。
それだけならパンドラが負ける要素はあまりないんだけど、ステュムパロスが両手の「エッジフェザー」で援護射撃してくる。
しかも、敢えてフェンリルを放置して、パンドラから先に叩くつもりだ。
《オイオイ、敢えてセオリー無視か?上等だ!》
「あだっ!?」
けど、そんなことしてたらフェンリルにとってはいい的だ。
バズーカを構えたエリュマントスの頭にドミニオンライフルの光弾が直撃。痛そう…。
セオリーっていうのは、援護役を先に倒すってこと。六課では常套手段だった。
……ただし、キャロが徒手空拳さえ覚えなければ、の話だったけど。
いつの間にかビコナに仕込まれてた。初見殺しだったよ。
思いっきり跳ね飛ばされてた。ジュンイチが。
「なにも、なにも頭撃たなくてもいいじゃんかぁ〜!」
《泣いた!?》
《い、いや、泣かれても困るんだけどよ…》
「――ヴァ〜カ!!」
《「不意打ちぃー!?」》
よほど痛かったのか、エリュマントスが泣きだした。
さすがにフェンリルもパンドラもステュムパロスも困り顔……だったけど、いきなりサポットバズーカをぶっ放した。
フェンリル以外の2人の声が見事にハモってた。
《……こぉんのガキィィィィィ!!!!!》
まぁ、バズーカの一撃が直撃しても、フェンリルは耐えた。
ていうか、物凄い勢いでキレた。
「え、エリュマントス選手、ブレイクオーバー!
しかし、今私たちは理屈を超えたテクを見てしまった気が!!」
「ドミニオンライフルって、狙撃銃です…よね…」
リリエンが疑うのも無理ないよ。だって、普通はないでしょ?
狙撃銃で敵を一瞬で蜂の巣にする、なんて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェンリルは、怒りが頂点に達することにより、
狙撃銃である筈のドミニオンライフルをマシンガンの如く超高速連射することが可能なのである。
ただし、関係者各位がその光景を目の当たりにしたのは、今回が初めてのこと。
創主であるレルネでさえ把握していなかったことである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……エリュマントスのバカ…。
仕方ありません。予定変更、アビリメモリで一気に倒させてもらいます」
<バード・マキシマムドライブ>
「エッジフェザー、リミッター解除」
ステュムパロスのマキシマムドライブ。それはシンプル・イズ・ベスト。
基本装備のエッジフェザーにかけられているリミッターを解除することだ。……本人だけなら。
リミッター解除に伴い、エッジフェザーがより鋭さを増し、大きくなる。
更に分割。両腕が翼になったような状態。ハーピーっていう幻獣がいるだろう?ステュムパロスは腕だけハーピー、みたいな。
《は、はえぇ!?》
「当然です。僕のメモリはその名の通り鳥の力や技を宿していますから。
鳥類の特色といえば、空を突っ切るスピードと正確に獲物を捕らえる目です。
僕の場合、具体的に何の鳥っていう区別はありませんが」
「リミッターを捨てたステュムパロス選手が猛攻!
あっという間にパンドラ選手たちのライフを削っていくぅ!!」
地上スレスレの低空飛行、羽ばたきによる突風やすれ違いざまのソニックブーム、
エッジフェザーによる羽爆弾の連投による高速爆撃、急降下して蹴り飛ばす、とか…。
鳥類としての特色やハイスピードだからこそできるテクなどを使い、
飛行能力を持たないパンドラやフェンリルに一方的にダメージを加えていく。
リミッターが解除されたことで、エッジフェザーがブースターの役割まで担うようになった。
だからこそできる動きでもあるんだけど、トラルーは何もなくてもできるんだろうなぁ…。
機動性については文句なくチートだし。
「いきます。フォースチップ、イグニッション。
空中殺法、大翼の舞!!」
アニマトロスのフォースチップが、ステュムパロスの体に溶け込む。
新たに解放されたエネルギーを両腕のエッジフェザーに集中させ、一気に飛び込む。
しなやかさと鋭さを併せ持ったエッジフェザーを用いて繰り出される乱舞が、
至近距離にとらえたパンドラとフェンリルを切り刻み、打ち据える。
「ウィナー、チーム・SEKN」
乱舞が終わり、ブレイクオーバーの光と共に地面に落ちる2体を見下ろし、
ステュムパロスも静かに降り立つ。
それとジャッジマンの試合終了コールが出たのは、ほぼ同時だった。
《……ディフィカルター12、総合戦闘力は六課にも匹敵するか…》
「そこはどうだろう」
先ほど修理が終わったゼノンが感嘆の声を上げるけど、疑問を投げる。
なぜなら、ディフィカルター12の大半の戦闘力は、未だ六課の隊長陣には及ばない。
ん、前にも言ってたっけか?まぁ、いいか。
《そうだな、アストラルとてボケキャラだからな》
「えっ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「盛り上がっております、"アレス"Dブロック!
残すは代表決定戦のみとなりましたぁ!!」
ヒビキとバトンタッチした角馬王将の声に、会場は歓声を上げる。
代表の座を争うのは、ビコナたちチーム・フォレスとディフィカルター12最後の刺客、チームSEKN。
ディフィカルター12も精鋭ぞろいで、どのチームも代表決定戦まで上り詰めたことになる。
先はスティアやダークハウンドに潰されたけど、ビコナたちは迎え撃てるか?
特にSEKNのメンツは、全員がスティアか六課メンバーとの交戦経験がある。ましてやステュムパロスにはリミッター解除まであることが判明。
そういえばゲリュオンもそうだったし、これは手ごわい。
「チーム・フォレスからはメンバー全員が、
チーム・SEKNからは、先ほど蜂の巣にされてしまって回復中のエリュマントス選手を除く全員が出撃ですね。
戦力バランスはとれていると思いますが、飛行戦力を保有している分、チーム・フォレスが若干苦しいでしょうか」
「飛行戦力の差をどうカバーできるのか!それとも優位なまま終わるのか!
運命のゴングは、間もなくです!!」
リリエンも指摘した飛行戦力の差。普通に考えればこれは痛手。
それは先ほどのパンドラとフェンリルの撃墜を見ればわかると思うけど、まぁそこは月影丸辺りがカバーできるでしょ。
巨大手裏剣に乗って、とはいえ飛行手段はあるし。あ、そういえば本戦で月影丸は戦ってないっけね。
「あんな舞台に、自分たちも立てるっすかね…?」
「立たせるさ。途中で誰が相手になろうと、真っ向粉砕して突き進むのみだ」
「トラルーが本気だぁ…」
本気にならなきゃいけない理由がある。優勝賞品のマイクロンパネル。
アレがネガショッカーに、特にダークコマンダーにわたると厄介なことになるだろうから。
イテンやマキトには、あまりこーゆー僕は見せてなかった気がする。
本気で勝ちにいく必要性のある戦いが、あまりなかったから。
「チーム・フォレス、ヴァーサス、チーム・SEKN。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
ゴングの音と共に、両チームともに散開。けど、計画性の違いが見えた。
先に飛び出したのがステュムパロスたちで、ほんの数秒後にビコナたちも散開。
きっと、数秒の差は敢えて作ったんだ。自分たちが最も戦いやすい相手と当たれるように。
今回のフィールドはジャングルフィールド。うっそうと茂る木々や曇り空の影響で、雲隠れしやすい。
曇り空、つまり日の光が差し込まない場所なら、大なり小なり目視による発見を遅らせることもあるからだ。
日の光がないジャングルなんて、下手すりゃ遭難する可能性さえはらんでいる。
そこをうまく使えるかっていうことも、勝利の分かれ目かも。
「上空援護はさせぬでござる!」
「さすがにお見通しですか。では、それなりに対応するまでです」
回転する巨大手裏剣に乗り、上空からの援護を狙おうとしたステュムパロスをけん制。
短剣サイズのクナイをかまえる月影丸に、ステュムパロスも狙いを定めた。
「怪鳥霊のステュムパロス!」
「カラクリ武者、月影丸!」
「いざ参る!」
「参ります!」
「だぁぁ!?」
「砲撃!?」
「合流は、させない」
「各個勝負の各個撃破でおじゃる!」
ステュムパロスの援護が見込めなくなったからか、ケリュネイアとネメアが合流しようとするが、
そっちはガメッセの砲撃で阻止。更にディバイドモードに変形させたノーザンがケリュネイアを弾き飛ばす。
残されたネメアの前には、扇型の武宝「月華双扇ゲッコウサクヤ」を展開したビコナが立ちはだかる。
番外編で覇璃扇と呼んだアレ、実は武宝だった。しかも、誰の細工なのかデバイス化しているというオマケ付きときた。
「Dブロックの代表決定戦は、それぞれが別々に戦うという展開で幕を開けましたぁ!」
<ファング>
「獰獅子霊のネメア、突き進む!」
<アクセル>
「俊鹿霊のケリュネイア、ぶっちぎるぜ!!」
ネメアとケリュネイアも、それぞれの武装を展開。
ただし、ステュムパロスと違って、完璧に接近戦オンリーっていうのはスティアから既に聞いてる。
「ガメッセ、連射の手加減なしで」
《了解》
ディバイドモードのガメッセは、展開したバヨネットによる格闘戦はもちろん、
通常形態とは違って連射力重視の性能になった射撃も持ち味。
ガメッセの総合的な性能としては、某ケルディムのビームピストルとスナイパーライフルが組み合わさった感じ。
ディバイドモードの運用法がちょうどビームピストルに似てるかな。
「こんのっ、よくもまぁそんな馬鹿でかい扇振り回せるな!」
「ふっふー、これでも鍛えてますからっ!!」
ゲッコウサクヤの大きさはビコナの体ほどもある。当然、振り回すなら遠心力がかかって、パワーが必要。
でも忘れちゃいけない。彼女は瘴魔獣との戦いで鍛えられているのだ。
しかもゲッコウサクヤは、その頃からの愛用品。使い方も心得ているワケだ。
ネメアのグチももっともだが、そこは無意味だと断言させてもらう。
「超忍法、無限手裏剣!」
「エッジフェザー!」
月影丸とステュムパロスは、それぞれ手裏剣と羽爆弾の撃ち合い。
どっちも勢いは互角、直撃弾はくらいにくいかな。
「さぁ、双方互角!先に状況をひっくり返すのはどちらか!」
「チーム・フォレスがうまく相手を引き離しているように見えますね。
ネメア選手とケリュネイア選手の合体攻撃を警戒してのことでしょうか」
合体攻撃とは"焔崩し"のこと。まぁ、そこもスティアからもらった情報だ。
レアメタル製のナックルを潰されたワケだしなぁ。
そんな威力を発揮する技、やすやすと使わせるワケないじゃない。
「先に墜とすから」
《イグニッション&エボリューション!》
<ATTACK-FUNCTION CONSTELLATION GODDESS.>
「あ゛〜〜〜〜、豆鉄砲をチマチマ撃つかと思えば、いきなり必殺技だぁ!?
イライラすっぜぇぇ!!」
<アクセル・マキシマムドライブ>
先に仕掛けたのはノーザン。やっぱりケリュネイアかネメアをさっさと墜とす作戦だったか。
最大砲撃、コンステレーションガッデスを発動。
しかしケリュネイアも、アクセルのマキシマムドライブを発動。
回避してカウンターか……って、アレ?
「な、何事でござるかぁぁ!?」
「ケリュネイア!?まさか彼が!?」
「な、なんと!ケリュネイア選手が回避したコンステレーションガッデスが、
その延長線上にいた月影丸選手に直撃!ステュムパロス選手も被弾したようだが、こちらは健在だ!
チーム・フォレス、まさかの同士討ちだぁぁぁ!!」
激昂したケリュネイアが瞬間移動ばりのスピードで急速離脱。
ただし、離脱する直前の場所が問題だった。
まずケリュネイアがノーザンへ向けて飛びかかり、それを撃ち落とす為にコンステレーションガッデス。
その一撃をアクセルのマキシマムドライブによって"空中で"回避したのと、延長線上に月影丸がいることを失念していた為に起きた。
つまり、ノーザンの判断ミスとケリュネイアの逆ギレ、この2つの要因が重なった同士討ちだったというワケだ。
逆ギレはどう考えても突然だったから仕方ないにしても、射線上に味方がいるかぐらいは考えないと。
特にコンステレーションガッデスのような砲撃の場合は、なおさら。
「オイ、ケリュネイア!なにやってんだよ!ステュムパロスまで落ちたらどーすんだよ!」
「知るか!弱肉強食、とにかく落ちたヤツが悪いんだよ!生き残ったヤツが勝ちなんだよ!
どーせアイツとじゃダブルドライヴできねーしな!」
「はぁぁ!?おま、これチーム戦なんだぞ!?
あたしらの無茶ブリに文句も言わず手伝ってくれるアイツが、どんだけありがたいって思う!?」
「知らねーっつーの!あんなの、ただのおせっかいだろーが!」
「ここでネメア選手とケリュネイア選手が仲間割れだ!
しかし、すさまじい剣幕と攻撃の嵐により、誰も介入できない!」
「ていうか、ケンカの余波が観客席にまで及ぶのは勘弁してほしいのですが…」
「あーもう!お前、危ないから落ちてろ!ファングストライザー!!」
「テメェが落ちろよ!!アクセルグランツァー!!」
味方のことも眼中にないケリュネイアとそんな言いぐさに怒ったネメアが、試合中なのに堂々と仲間割れを開始。
縦横無尽に走り回って拳やら蹴りやら斬撃やらをしまくるせいで、観客席の一部にまでダメージが。
前側の列の席全体に避難命令が出ちゃってるし。そのまま試合続行でいいのかコレ。
ていうか、ケンカに巻き込まれてジャッジカプセルまで粉砕したんだけど。
仲間割れで必殺技まで使っちゃって、否応なしにノーザンが巻き込まれた。
ガードもままならずブッ飛ばされて、フレンドリーファイアで脱落した月影丸に続きブレイクオーバーした。
うわ、たった数十秒で3対1の構図になっちゃったよ。
マトモなヤツがステュムパロスしかいないけど。
「…………えーと……」
「ふ〜む……仕方ないでおじゃるね。なんかおかしい部分もあるけど、これも勝負の結果。
少なくともフレンドリーファイアについてはノーザンの判断ミスだろうし…」
「っ!?あなた、それは……!」
「し、白旗!ビコナ選手が白旗を上げているー!」
「基本ルールの1つなので触れませんでしたけど、白旗を出すことでギブアップ宣言ができます。
賢明な判断でしょうね。これ以上の戦闘続行は、誰の得にもなりませんから」
「う、ウィナー、チーム・SEKN……ピー」
いろんな意味で取り残されてしまったビコナがとったのは、降参という判断。
友達が脱落するのは嬉しくないが、リリエンが言うとおり賢明な判断だと僕も思う。
人生、時には諦めが肝心なのだよ。勝利を諦め、仲間の救出を優先したんだ。
ビコナ、僕はその判断を正しかったと評価するよ。
機能停止寸前のジャッジマンのコールによって、チーム・SEKNのファイナルバトル進出が決定した。
(第34話へ続く)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―
リティ「最後の最後で、なんか釈然としない結果になったな」
ステンス「ケリュネイアの言ってた『生き残ったヤツが勝ち』っていうのは一理あるがな。
今回はダークハウンドが率いるビシディアンについて教えてやる」
ステンス「ビシディアンは、戦艦バロノークを移動拠点する宇宙海賊だ。
"アレス"に出てきた連中はダークハウンドも含めて機獣ばかりだが、構成員には人間や精霊もいるらしい。
神出鬼没で、主なターゲットは犯罪に走ってる組織全般。物資の略奪や艦船の破壊などが常套手段だ。
だが、海賊は海賊でも、犯罪や違法行為を行うヤツだけをターゲットに定めて、
奪った物資を貧困国家などにばら撒いているから、義賊っていう方が正しいかもな。
おかげで世論で咎められるどころか英雄視する声さえ多くてな、それでストレートに"アレス"参戦というワケだ」
リティ「確かに、ダークハウンドも悪いヤツには見えないな」
ステンス「ついでにアイツがスーパーパイロットだったっていうのはマジらしい。
一部サイトが炎上するくらいの大反響だった。さすがに何故機獣になったか、までは不明だがな」
リティ「世界をにぎわせるほどの有名人、か。しかも、二重の意味で」
ステンス「義賊として組織に恐れられ、スーパーパイロットとして平民に慕われて、ってか?
生きているだけで忙しいヤツだ」
リティ「では、また次回!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
<次回の「とたきま」は!>
なのは「いよいよ、私たちスターズも本戦でバトルだね」
フェイト「気をつけてね、かなり手練れが多いから」
トラルー「寧ろ君らが弱すぎる気さえするんだけどね?アーツバトルに限っては」
隊長2人『なに?もう1回言って?』
トラルー「アーツバトルでいえば意外とヘッポコな隊長陣はほっといて、
次回で遂にファイナルバトル参加チームが出揃うことに!こうご期待!」
第34話:本戦Eブロック 〜疾風怒濤のフリーランス〜
スバル「あれ?どうしたのお兄ちゃん」
ジュンイチ「ほっといてくれ……」(テンション超ダウン)
マキト「ジュンイチが落ち込んでる理由も、次回で明らかに!
ちゃんと見るっすよ!」
あとがき
さて、CブロックとDブロックを一気に駆け抜けた第33話です。
第4クールからはガラリと話が変わる為、切り替えをしやすくする関係で急遽2ブロック分をまとめた形です。
その分、決戦となるファイナルバトルなどは濃密に描けると思います。
余談ですが、今回のバトルシーンの一部は「ダンボール戦機(無印)」が元ネタになっていたりします。
誰のバトルかわかるかなっ?(ぇ)
タイトル通り、ディフィカルター12の猛威を主に描いた話ですが、同時にビシディアンの強さも引き立つ結果に。
代表決定戦でのダークハウンドの「スーパーパイロットを、ナメるなよ」は、是非とも言わせたかった。個人的にイチオシのセリフです。
一方でイマイチまとまりのないディフィカルター12。
チームでまともに機能していたのは、スティアに惨敗してしまったチーム・AMDKだけだったということに。
ケルベロスの影響がないと、所詮はその程度だったようです。ケルベロスは苦労人(マテ)
次回は、いよいよトラルーたちも暴れます。特に代表決定戦は気合入れて書いていくと思います(ぇ)
予告でジュンイチが何故凹んでいるのか。ヒントは……「相手が悪かった」ということで(何)
管理人感想
放浪人テンクウさんからいただきました!
かなり試合が消化されましたねー。把握するのが大変だ(苦笑)。
個人的には万蟲姫達にはがんばってほしかったところですが……うん。相手が悪かった。
次回はトラルー達の出番のようで……身内補正下とはいえジュンイチすら血祭りに上げるトラルーが暴れるとか、スプラッタの予感しかしないんですが(笑)。
>「どうでもいいけど、そんなガンダムフェイスでどうやってコーヒーとか飲むんだよ」
ガンダムやストライクのようなスリット付きのガンダムフェイスならまだ流し込むことは可能かと……Zガンダム? 知らんっ!(マテ
少なくとも、あの口で握り飯をがっつく劉備ガンダム達『三国伝』組よりはまだ納得できる範疇かと(爆)。