レルネ「さぁ、"アレス"もいよいよ大詰めとなりました!」
プルトーネ《前回はCブロックとDブロックの決着でした。
情報量が多いですが、前回と同じ形式でざっくりとおさらいしましょう》
―Cブロック―
<1回戦>
第1試合:ダークハウンドがカナヤゴを撃破し、チーム・ビシディアンの勝利。(ただしカナヤゴの手抜き疑惑アリ)
第2試合:ノーヴェが機動力で翻弄しようとするが、バランに真っ向から叩き潰される。チーム・ドバンの勝利。
第3試合:エリオとリュウビが激突。双方互角の戦いだったが、鏡の盾を犠牲にリュウビが逆転。チーム・番長連の勝利。
第4試合:マリナーズフィールドによる地の利でヘスペリデスがロードナックルを蹂躙。チーム・GH3の勝利。
<2回戦>
第1試合:門下生コンビが必殺技で先制するが、Gサイフォスがスタングレネードとレインバレットで反撃。チーム・ビシディアンの勝利。
第2試合:ハカイオー絶斗とナイトメアが優勢に立つも、ヒュドラとヒッポリュテがアビリメモリを解放して逆転。チーム・GH3の勝利。
<代表決定戦>
開始当初はジャックエッジとGサイフォスが圧倒するが、ゲリュオンがパペティアーメモリの力を使い形勢逆転。
しかしチームメイトの命まで危険にさらす手段だった為、その手のことに抵抗感を持つダークハウンドに一蹴される。
―Dブロック―
<1回戦>
第1試合:ノーザンがストラを終始圧倒。チーム・フォレスの勝利。
第2試合:ルレイルのミサイルの軌道を見切ったビビンバードブルーが圧倒。チーム・レンジャーの勝利。
第3試合:双方互角の勝負だったが、JETストライカーによる奇襲攻撃でオーディーンがアークを下す。チーム・タイニーの勝利。
第4試合:メープルの機転で反撃するも、ケリュネイアが力任せに粉砕。チーム・SEKNの勝利。
<2回戦>
第1試合:オタクの掟?を知らないノーザンの活躍でビビンバード2体を秒殺。チーム・フォレスの勝利。
第2試合:フェンリルの激昂でエリュマントスを墜とされるも、バードメモリを使ったステュムパロスが猛反撃。チーム・SEKNの勝利。
<代表決定戦>
開始直後はビコナたちの作戦により戦力が分散、それぞれが1対1での戦いを開始。
しかしケリュネイアの突発的な行動により形勢逆転、最終的にビコナが降参という選択肢を取り、チーム・SEKNの勝利。
プルトーネ《前回、ジャッジカプセルや観客席まで巻き込んで仲間割れしたチーム・SEKN。
彼らの扱いはどうするつもりなんでしょうね。お咎めなしで済む筈がないですし》
レルネ「そして今回は、トラルーたま達がしのぎを削るEブロック。
遂にファイナルバトルへ進む最後の1チームが決定です!では、第34話をどうぞ!」
「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録
「とある旅人の気まぐれな日常」
第34話:本戦Eブロック 〜疾風怒濤のフリーランス〜
「力及ばず、申し訳ないでおじゃる」
「いや、アレは仕方ない。フレンドリーファイアが痛すぎた」
「ごめんなさい…」
「まぁ、これ以上どうこう言ってもしょうがねぇさ。また今度頑張ろうぜ」
「しかし、刹那の出来事とはいえ回避しきれなかった拙者も力不足。無念でござる」
ダメージカウンターのおかげで、肉体的なダメージはゼロで済んだノーザンと月影丸。
まぁそれで十分だよ。寧ろ代表決定戦まで勝ち残れたんだから、誇っていいと思う。バカにするヤツは泣かす。
ビコナの選択も英断というか苦渋の決断というか、とにかく賢明だったよ。
僕からの指摘もあってノーザンも反省しているみたいだし、
スターの言うとおり、ここでこれ以上言っても仕方ない。今後の訓練で技術を磨きなおせばいい。
「それはそうと、トラルーたちもいきなり大変でおじゃるね。
よりにもよって、初戦の相手がジュンイチのチームとは」
「あー、それなら心配無用。戦う気ないから」
「まさか、のっけからの降参?……なワケ、ないよなぁ」
「お、スターもわかってるじゃないか」
そう、マトモに戦う気がないだけ。
目には目を、チートにはチートをってね。幸い、僕もチートだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さぁ、"アレス"の本戦トーナメントも残すは1ブロック!
Eブロック1回戦第1試合は、チーム・スターズとチーム・マスクのバトルだぁ!」
再度バトンタッチ、ヒビキの実況と共にチーム・スターズからティアナが、チーム・マスクからオレンジの機体が入場。
オレンジの機体、マスカレードJは、やっぱりというかレルネが作っていた機体。
鋭角的な頭部と腰背部のスタビライザー、流線型でスタイリッシュかつスマートなボディ。
脚部などの構造がパンドラやプルトーネに近いが、プルトーネの運用データを基に再設計された機体らしい。
なので高機動かつ柔軟な身のこなしが可能で、スピードもスペック上は現在のパンドラと互角。
基本装備は、右手に持つビーム状の細長いブレードを備える細剣「デュエルレイピア」。
実は開発時期がオーディーンたちよりも前だったらしく、パワードクロスはできないそうだ。
その分、出力リミッターも無いから常にフルパフォーマンスの状態で運用データがとれるみたいだけどな。
《ふむ、射撃重視型か。相手にとって不足はない》
「一応、意味を確認しておこうかしら?」
《自分と全く異なるバトルスタイルの相手。
その組み合わせは、私にとって非常に有意義であるということだ。我が創主にとっても》
やっぱりレルネの情報端末と化してやがる…。
「チーム・スターズ、ヴァーサス、チーム・マスク。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
「機動六課、スターズ分隊所属!ティアナ、いくわよ!」
《"技巧の仮面闘士"マスカレードJ、手合わせ願おう》
「ファイッ!!」
試合開始と同時に、ティアナが早くもクロスファイアのかまえ。けど、そのまま撃つつもりはないよな。
あらかじめ魔力弾を作るだけ作って、あとはタイミングを考えながら使っていく。
作り置きってヤツだな。
「ちなみにスターさんならどう攻略します?」
「プロテクトウォールかライフルモードのルディンで強行突破だな。
いや、オレの手持ち技や武器じゃ、どうあがいても強行突破ぐらいしかできないって」
本当に。画面の前のみんなも、某勇者王の戦いぶりを見ればわかるだろ?
あとは、多少の被弾を覚悟でブロウクンファントムでぶん殴る、とか。
基本的に強襲型といえる武装ばっかだからなー。
なのはも、分かり切ったこと聞くなよ。そんなことより教え子の試合に集中してろよ。
《ふむ、実にキレのいい魔力弾だ。スピードもコントロールも威力も申し分ない。
設置式だけでなく追尾式も併用するとは、なかなか侮れないな》
数発をマスカレードJに発射しつつ、新しく魔力弾を生成しながら移動を繰り返す。
攻撃目標を絞らせないのと、常にカウンターや追撃用の持ち弾を残しておくこと、二重の意味があるみたいだ。
迂闊に突っ込めば控えさせてる魔力弾で集中砲火、動かなければそのまま牽制射撃を繰り返して釘付けに。
しかも、狙ってるのは急所の頭や関節部。いい判断だな。
「マスカレードJ選手、相手の技に感心しているが全て回避!
しかもジリジリと、着実に相対距離を縮めているぞ!」
「人の技を冷静に分析してる割に、フットワークが軽いんじゃない!?」
《失敬。しかし、そういうことができるのが私の本分なのでね》
パンドラやプルトーネと同系列のフレーム、つまり高機動仕様の「ストライダーフレーム」。
わざわざダメージ覚悟の強行突破なんかしなくても、一歩一歩確実に距離を縮めていけばいい。
あとは足の速さでどうとでもなる。その気になれば一瞬でゼロ距離まで踏み込めるだろうし。
……そうさせない為のティアナの行動なんだけどな?
以前、パンドラに弾幕かいくぐられてゼロ距離攻撃されたことがあるから。
《だが、これはどうさばくかな?》
「なんの!」
撃った直後で穴ができた瞬間を見計らってマスカレードJが肉薄。
デュエルレイピアの連続突きを見舞うが、ティアナも瞬時にクロスミラージュをダガーモードに。
弧状に大きく展開した刃をうまく活用して、マスカレードJの攻撃を1つずつ丁寧にさばいていく。
武器が違うけど、これもパンドラとの模擬戦経験から自力で板に着けたやり方だ。
「……とらえた!」
《!》
「クロスファイア――シュート!!」
デュエルレイピアによる突きをさばきながらマスカレードJを釘づけにして、
有効圏内までおびき出してクロスファイア。
ばら撒いておいた魔力弾を一気に使っての集中砲火だ。直撃ならブレイクオーバー必死。
《やはり、大したお嬢さんだ。あと少し君の狙いに気づくのが遅ければ直撃していただろう》
「マスカレードJ選手、多少被弾したようだが健在!」
「瞬時にデュエルレイピアで魔力弾の大半を切り落としたようです。
さばききれなかったようですが」
《実にいい動きを見せてくれたお礼に、私の最大攻撃をお見せしよう》
<ATTACK-FUNCTION STORM SWORD.>
ゆうに30発以上はあった筈の魔力弾を、殆どデュエルレイピア1本で切り落としたってか。
武器裁きも尋常じゃないぞアレ。で、使うアタックファンクションはストームソード。
ミナノも使っていた技だが、汎用型の中ではかなり強力な部類だ。その分エネルギー消費も大きいけどな。
《――!?フェイク!?》
「そう、本物は――アタックファンクション直後でガラ空きになった、アンタの真上!
くらいなさい!ファントム、ブレイザーッ!!」
「なんとティアナ選手、ここで得意のフェイクシルエットを使ってストームソードを回避!
本命の最大砲撃で勝負を決めたーっ!」
あー、実体がないとはいっても、動くオトリとするには十分だもんな。
けど、いつの間にフェイクと入れ替わってたんだ?少なくとも連続突きの時は本物だった筈だが。
「クロスファイアを撃った時だよ。
その時に爆風に紛れて後退して、自分の目の前に全く同じ動きをするようにフェイクを作ったんだ。
動きについては、きっとルアクのブレンチシェイドからヒントを得たんだろ。
自分が一度振り回されてるだけあって、応用が早いわ」
あー、ジュンイチの言うとおりなら合点がいく。
全く同じ動きだったら、真正面から見ればフェイク使っているように見えない。
同様にセンサー関係もごまかせる。
同じ動きにするのも、敢えてそうすることでフェイクだって気づきにくくする為だろうな。
パンドラにルアク、かつて戦ったヤツらのやり方をバッチリ学習して自分なりに応用してんのか。
ティアナすげぇ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「まだまだいくぞ!1回戦第2試合!
チーム・スサノオとチーム・ツーフォーのバトルだぁ!」
「いい?ここは私が出る。私の手でぶちのめしてやらなきゃ、気が済まないんだから」
「お気をつけて」
「やる気だしてる姉御、カッコいい〜」
ヒビキさんの実況のすぐあと、ナムチ様が自ら出ていくことを宣言。
相手のチーム・ツーフォー、そのリーダー格に恨みを持ってしまったから…。
ていうか、スクナ様の言葉にこもっているのは、余裕かそれとも天然か、ちょっとわからないところがある。
……そうじゃなくて、ちょっと読者の為に説明しないと…。
予選終盤、最後のキーコードを手に入れて、ゴールへ向かう途中のこと。
ボクたちの目の前に躍り出たのは、明智光秀を依元とする戦国精霊、ミホツさん。
ただ、ナムチ様とミホツさんの関係は、お世辞にもいいものとは言い難かった。
その原因は、おそらく武宝の存在。
ボクたちにとって武宝とは、頼れる装備品であると同時に、一種のステイタスでもある。
武宝を持っているってことは、それだけ有能だと見てもらえる。
上司部下の関係なら、上司に認めてもらえる、とか。
その当時、ナムチ様の傘下にいた者で武宝を持っていたのは、ゼツセイバを持つナムチ様と、
ハイスイジンを持つボク、そしてナムチ様からトモエゲキを託されたスクナ様だけだった。
ビコナ様もいたけど、武宝は持ってなかった。ゲッコウサクヤを手に入れたのは、織田軍崩壊以降だと思う。
それで、織田軍が快進撃を続けていたさなかのこと。
ミホツさんも、実力的には武宝を手に入れてもよかった筈だと、誰もが思ってた。
というより、ボクは知ってたんだ。ナムチ様が、ミホツさんの為の武宝も用意していたことを。
寧ろ、トモエゲキの準備の方が後だったと思う。だからかな、余計に不自然に思ってしまった。
武宝を託されるのがミホツさんではなくスクナ様で、しかも最前線の軍の指揮権まで一緒に託された。
最前線で戦い、戦果を挙げることを誇りにしていたミホツさんは、その後情緒不安定に。
ナムチ様との関係もギクシャクしたものになってしまった。
ボクがこっそりと本当のことを教えた方が、まだよかったのかもしれない。
少なくとも、ナムチ様に対する複雑な感情が暴走して情緒不安定になることだけは、避けられたかもしれない。
だけど、口に出せなかった。持ち主のいない武宝の存在は、最大級の極秘事項だったから。
近くで見ていた限り、織田信長と明智光秀の関係は、戦国精霊のお二人にも反映されていたんじゃないかと思う。
だから、明智光秀がやらずとも、ミホツさんが本能寺に火を放っていたかもしれない。
それだけ、あのお二人は依元と戦国精霊の精神的なところがかなり似ていたように感じる。
特にナムチ様の場合、下の者の意見は聞いているようであまり聞いてなかったものだから…。
ただ、予選で遭遇できたのは、ある意味で幸運である意味で不幸だった。
ミホツさんの目的は、どうやらナムチ様と話をすることらしい。いろいろと思うことがあった…と。
ナムチ様としても複雑だったらしく、すぐにゼツセイバを向けるようなマネはしなかった。
だけど、そんなお二人の心情をくみ取らずに割り込んだものが2つ。
1つはダークジャッジマン。けど、それは既にどうでもよかったといえる。
問題のもう1つは、たまたま近くを通りかかったチーム・ツーフォー。
彼らは全員、人間サイズのロボットたち。機体のどこかに「24」のマークがあるのと、赤系統のカラーリングが特徴。
飛び込んでくるなりダークジャッジマンをカプセルもろとも破壊。そこまではよかった。
ただ、彼らの狙いは初めからナムチ様だったようで……。
<ATTACK-FUNCTION X BLADE.>
「ミホツ!?」
「ナムチ…様…っ」
《にらみ合いだけでバトルしてたつもりかい?そんなの、経験値の足しにもならないじゃないか。
戦国精霊ナムチ!勝負してもらおうか!》
「アンタ……ふざけんじゃないわよぉぉ!!」
邪魔になると思ったのか、ミホツさんを背後から攻撃。
アタックファンクション"Xブレイド"で一方的に撃墜してしまった。
技を放った張本人であるデクーOZの言葉に、ナムチ様が激昂。
けど、キーコードが揃った状態では、無用なバトルは避ける他ない。
スクナ様がなんとかナムチ様を連れ出したおかげで、双方被害のないままそのフィールドから離れることはできた。
後で入ってきた情報だと、ミホツさんも五体満足で命に別条なし。けど、1日は安静にしなければいけない、とのこと。
だから、ナムチ様は自分が出るって言い出した。
今度こそ、デクーOZを自分の手で倒す為に。珍しく、あの方が本気で怒っている。
このバトル、あまり無茶しなければいいのだけど…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「チーム・スサノオ、ヴァーサス、チーム・ツーフォー。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
《"戦いの探究者"デクーOZ、出る!》
「開始早々、ナムチ選手とデクーOZ選手が刃のぶつけ合いだぁ!」
始まったでおじゃるか。
現在、私は救護棟のとある一室にいる。ノーザンはスターとのベッタリに戻ったし、月影丸はその近くで観戦中。
何故単身でこの部屋にいるのかというと、ちょっと只事じゃない人を見つけたから。
「なんだか……申し訳ないです。ビコナ様にまで…」
「そう思うなら、さっさと直ること。話はそれからでいい」
「はい…」
只事じゃない人、それは"復讐ノ牙"という異名を持つミホツのこと。
予選でナムチさんに遭遇できたまではいいものの、デクーOZの無粋な横槍のせいで台無しに。
で、痛手を受けて現在はこの部屋で療養中。
少しだけ紫がかった黒いロングヘアーに、淡い紅色の瞳、頭には花柄がある白いリボン。
服は袖口と裾口に紫のラインが入った、フリルなんかも混ざったロングスカート……というか、ドレス。
あとは黒いロングブーツくらい。ちなみに、側頭部の髪は肩にかかるくらいの長さで三つ編みにしていたりする。
ドレス状の服とは思えない身のこなしに加え、剣も銃も使いこなす織田軍随一のオールラウンダー。
だからこそ、最前線部隊から外されたことには懐疑的な人も結構いた。
私はというと、寧ろ優秀だからこそ傍に置いておきたかったんじゃないか、そう考えているけど。
……まぁ、ナムチさんもツンデレって言われるくらい、素直じゃないからなぁ。
どうせ、一言二言足りないだけだった、なんていうオチだろうけど。
余談だけど、ナムチさんの「一言足りない」エピソードの中には、
スクナのトモエゲキが「単に自分が使えないから託されたんじゃ」っていう疑惑もあるとか。
よりにもよってスクナ本人が言っちゃうようだと、ウソとも思えないのがなんとも…。
「アンタだけは、絶対に叩き潰させてもらうから!」
《いいねぇ、その気迫。その勢い。イイ感じに経験値を稼げそうだよ》
さて、バトルの方に話を戻すと、まずデクーOZが謎。
レルネが作ったってワケじゃないし、かといってアストラルでもなかった。
え、なんでそうわかるって?ポラリスがとっ捕まえて聞き出したらしい。
現状、私たちが知る中ではレルネかアストラルしか、作りそうな人がいないからっていうのはわかるんだけど、
なんだかんだで結構強引な人なんだねぇ、ポラリスって。
無実(?)だったことが分かった途端、慌てて謝っていたのが面白かった。なんとなく
それはそれとして、気になるのはさっきから彼が言っている「経験値」。
いったい、何の経験値だというのやら。自分自身っていうのが最もしっくりくるんだけど…。
「でも、それならわざわざ強い相手ばかり探さなくても、
自分と同程度か少し格下の相手でも充分なのでは…」
「特に、単なる戦闘経験値っていうなら。
けど、他に理由があるとすると……経験値っていうよりはデータ収集?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《どう見る?マスカレードJ》
《おそらく、よりレベルの高い戦闘を繰り返すことで、
高度かつ実戦向けなデータを集めようとしているのだろう。
集められたデータは、大なり小なりフィードバックされると思うが》
《高度かつ実戦向け……》
《オーディーン。お前たちの開発データにも、プロト…今はプルトーネか。
彼女が収集してきた実戦運用データも反映されている筈だ》
俺からの質問に、マスカレードJはそう返してきた。
マスカレードJは、元々俺たちよりも早い時期に開発され、ロールアウトも済んでいた。
じゃあ、なんで創主レルネのところにいなかったのかというと…。
「いやぁ〜、いいですねぇ大規模大会!
迷子たちも見つかりやすくて助かりますねぇまったく!」
「いや、迷子じゃないでしょ」
「じゃあ家出っ子」
「家出してるワケでもないでしょ?」
《そうだよ。相方のジ・エンプレスもそうだけど、創主レルネが勝手に放り出したんじゃん。
実戦テストを多くやるためにーとかいって》
「あれ、そうでしたっけ」
《忘れるんじゃないわよ、生みの親として!》
「ごめんなさーい!」
そう、俺が言った通り、マスカレードJやジ・エンプレスは、より多くの実戦データを集める為に放浪してた。
……というよりは、させられてた。とりあえず、今までは。
それを忘れてた創主レルネが、エンプレスに武器で思いっきり殴られた。
クレアも落ち着いてツッコんでる場合じゃ、ないんだけどなぁ。
「そうだぜクレア。結局予選落ちだし」
「いや、だからこそやることないなぁって…」
《だからこっちに来たのか》
イリアスの言うとおり、クレアたちは予選落ち。ハルピュイアとレヴィアタンは、別な席で観戦してるって。
マスカレードJはすんなり納得したけど、俺はどうかな。やることないなら、別にヒルメさんのところでもいいんだし。
「それは……オーディーンとフェンリルのパートナー、まだいないから…」
《……なるほどね。私やマスカレード、プルトーネはともかく、オーディーンたちはパートナーがいないと力を発揮しきれない。
結局は、マスターの鎧となり武器となるパワードデバイスなのだから》
けど、番長連のハカイオーもナイトメアもリュウビも、パワードクロスして戦った記録がない。
もちろん、データ関係はジュンイチに管理されているからかもしれないけど、それにしても不自然だ。
まさか、俺やフェンリルみたいに、まだ一度もパワードクロスしたことがない…?
《あり得る話ではある。元々我々は、独立行動できる汎用人型デバイスとしてのテストケースでもある。
パワードデバイスとしているが、それはあくまで強度重視の設計をしたからこそのことだ。
インテリジェントやアームドでは平均的な強度の底上げができず、ユニゾンデバイスではそもそも出力を上げられない。
単体でも戦えるほどの出力と強度、運用効率、そして底上げ策として合体もできる。
ある種の理想的な答えとして、オーディーン以降の機体がある》
「その結論を導き出すのに、プルトーネ、マスカレードJ、ジ・エンプレスのそれぞれに、運用データの収集を指示。
けど、プルトーネ以外はかなり遠出してしまったので、呼び戻してもすぐに戻れなかったんですよね」
《元はといえば、創主レルネが転送座標を間違えた挙句、転送装置を故障させたのが原因なんだけど》
「いひゃいれひゅ、いひゃいれひゅ」
そ、そうだったのか。創主レルネがエンプレスに思いっきりほっぺつねられてるけど、何もできないよ。
半分以上は創主レルネの自業自得だしなぁ。
そうそう、ジ・エンプレス。彼女の姿、俺たちの元ネタのゲームやってる人ならわかるかな。ていうか、ググれば出ると思う。
パンドラに似ているけど、後頭部のフィンが厚みのあるスタビライザーになったような頭部、
赤い襟と青い胸状のパーツが特徴のボディに、フロント、サイド、リアの3種4枚のスカートパーツを備えた腰、
膝にある突起パーツが特徴的なスラリとした足、細くもしっかりとした腕、流線型でやや大型の肩アーマー、
背中にはナイトメアのように逆Vの字の形をした、赤いマント。
そして右手に持つのは、五角形のプレート4枚をヘッド部に備える金色の大型メイス「聖槌アフロディーテ」。
カラーリングは白多めのトリコロール。後頭部や各部のラインが赤、袖や各パーツの縁などが青。目は黄色…というか金色?
手や関節部、腹部などは黒。フレーム系統は、パンドラに近い気がするけど、俺やゼノンに近い気もする…。
《まぁ、混乱するのも無理ないわね。
私はその中間点、スピードとパワーを両立させたスタイルを突き詰めた末の形になっているの。
基本装備が大型武器でありながら細身、というのが、創主レルネが考案した1つの形》
「一応、根本的な規格はオーディーンたちと同じナイトフレームです。
パンドラやナイトメアのストライダーフレームに近い姿をしながら、パワーとスピードのバランスを徹底的に追求。
当然、基本出力も高めましたけど、それでも聖槌アフロディーテを片手&高速で振り回すほどになるとは」
《どっかの誰かさんのスパルタのおかげよ……!》
「はいぃぃ……」
《"エンプレス"、女帝。さしずめ女騎士といったところか》
《よぉ、なんかまたバカやらかしたのか?創主様は》
《ば、バカって…》
ナイトメアにハカイオー絶斗にリュウビまで。あ、そっか。試合終わったから…。
ていうか、タロット占いしながら来るとか、いきなり創主レルネをバカ呼ばわりするとか、
前者2人は相変わらずだなぁ…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
姉御とデクーOZの戦いは、こう着状態。
お互い決定打を与えられないまま、刃と刃がぶつかり合う音ばかりが響く。
あぁ〜、姉御、こーゆーのに対する我慢ができないからなぁ〜。
むやみに大振りになってカウンター、とかになったら目も当てられないよぉ。
デクーOZは、耐久性を重視した円柱型のボディと脚、厚みを増した鋭角的な肩アーマー、同じく鋭角的な頭部。
頭部に光るのは、黄色い大きなモノアイ。全体的に赤いカラーリングで、武骨なデザインだけど小回りもきくし素早い。
基本装備はハンドアックス「OZトマホーク」と打撃武器としても使える盾「OZシールド」。
名前の「OZ」って「オズ」って読むんだねぇ。なんかカッチョイイですなぁ!
「これは接戦!小悪魔王相手に一歩も引かないデクーOZ選手!
"赤い乱舞"の異名は伊達じゃないっ!」
素早い動きで立ちはだかる敵を片っ端から倒していくことから、"赤い乱舞"なんて異名がついたんだって。
ますますカッチョイイですなぁ。
「あ、あの、スクナ様?そんな呑気な…」
「いやぁ〜、これでもマジメに見てるんですよ〜?
とりあえず姉御がその内に先走ったりしないかなー?とか心配してるし」
「さ、先走り……」
姉御に何が足りないって、忍耐力だと思うんですよねぇ。
まぁ、それだけ行動にメリハリ利きまくりなのが姉御のいいところなんですけど。
《ほらほら、どうしたよ?
戦国の世じゃ噂も持ちきりな小悪魔王も、所詮はこの程度かい?》
「あったまきた!さっさと叩き切ってやるから覚悟なさい!」
《おっと!》
ありゃー、案の定ですなぁ。安い挑発に乗っちゃって、デクーOZのペースじゃないですかー。
いかに妖刀のゼツセイバといえど、闇雲に振り回してるだけじゃ意味ないのにー。
デクーOZはシールドで防いだりトマホークでカウンターしたり、もう完全に姉御を振り回してる。
「フィールド、もうボロボロですね」
「姉御が無駄なくらい大暴れしてますからね〜」
もう、ゼツセイバが叩きつけられて傷跡だらけ。修復担当の人、大変そう。
《……ま、これくらい稼げれば上々か。
そろそろ、フィニッシュといかせてもらおうか!》
<ATTACK-FUNCTION X BLADE.>
「冗談じゃないわよ……って、あだっ!?」
《なにっ!?》
「隙ありぃ!!」
「なんとナムチ選手、床の傷跡につまずいてコケたぁ!
しかし、おかげでXブレイドを回避できた上にカウンターまで成功!なんて強運だぁ!」
「絶対に偶然でしょうけどね」
トドメをさすべく、背中のチップスロットに地球のフォースチップをイグニッションしたデクーOZ。
けど、ナムチ様がコケたことで、放たれたXブレイドは見事に空振り。
ナムチ様がそのままカウンターの切り払いをしたことで、今度はデクーOZが体勢を崩す晩になった。
リリエンさん、偶然っていうのはきっとみんなが思ってるけど、お茶の間にまで広がる放送席で言わなくても…。
ていうか、ジト目で斜め下を向きながら言うと、なんか哀愁漂いますな。
「ふふん、運も実力の内ってヤツよ。覚悟なさい。
奥義――業火撃滅斬!!」
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・スサノオ」
姉御が一気に飛び込んで、必殺技。
ガードごと炎の剣で叩き切られて、デクーOZはブレイクオーバー。
いやぁ〜、一時はどうなるかと思ったけど、さすが姉御〜♪
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて、第3試合。チーム・スクリームってさ、あやのとみさおのペアだったわよね」
「そうそう。名前の名義にスタースクリームの名前を勝手に使ってるだけで」
「……デバイス持ち、になったんだったわよね」
「そう聞いてます。仕様については、アイアンフィスターやストームライダーと同様、
ゴッドオン時の戦闘スタイルにならったタイプになっているようですが」
私の確認に近い質問に、こなたとみゆきさんが返してくれた。
しっかし、いつの間に自分のデバイスもらっちゃったりしてたのよ、アイツら。
オマケにグラップライナー組と同様にレルネのハンドメイドっていうじゃないの。
なんかワンステップ飛び越えてない?
「えっと、私たちもデバイスをもらった経緯は似たようなものだし、
あんまりブツブツ言うのもよくないと思うんだけど…」
「つかさの言うとおりだよー。あ、それともかがみん、もしかして嫉妬してる?」
「してないわよ!」
全く、ばかばかしい…。
「ウィナー、チーム・ボンバーズ」
『はい?』
あ、あれ?確かに戦闘開始のゴングは鳴ってたし、日下部が勢いよく突っ込んでいったのは見たけど、
まだ開始してから1分経ってないわよ!?何があったのよ!
「強い!ストラバレル選手、無双の強さ!
見えない爆発の猛威に、対峙したチームはことごとく粉砕されていくぅー!」
ヒビキの実況で理解。あー、結局爆発のカラクリが分からないままやられちゃったのね…。
そもそも、日下部が理知的な真似できるワケなかったし。
「スタースクリームが今頃泣いてるかもねー」
「それだけは言わないであげましょう?」
こなたの言ったこと、あながち間違ってもいないかも…。とりあえず頭痛ぐらいは起きてるかもね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、Eブロックも1回戦は僕らを残すのみ。
相手はもうわかり切っているが、ジュンイチだ。どうせ僕が出るってわかってただろうし。
お互いに出る相手はわかり切ってる。なら、余計な詮索は無用。
ついでに、ジュンイチ相手にならリミットベストも不要。
「Eブロック1回戦第4試合!
これで全ての1回戦が終了し、準決勝進出チームが決まる!
対決するのは、チーム・ストゥルムのトラルー選手と、チーム・ゴッドアイズのジュンイチ選手!
"黒き暴君"ことジュンイチ選手を相手に、トラルー選手はどう戦うのか!」
「おや、いつもは身に着けている筈のベストがありませんね。
これは1回戦早々から最大出力で戦闘する、ということになりそうです。
どんな戦いを見せるのか、実に興味深いです」
最後の1回戦だけあってか、トークが微妙に長い実況席の2人。
ちなみに、リミットベストを外した状態、つまり最大出力での使用技も登録済みなので、リリエンは知っていたりする。
予選では全く使わなかった技も使うってことを。けどリリエンさんや、大事なことを忘れている。
チート・オブ・チート相手にマトモに戦うと思ってる?
「チーム・ストゥルム、ヴァーサス、チーム・ゴッドアイズ。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
「のっけからいくぜ!フォースチッp」
やはりイグニッションフォームを使う気だったか。どうせモーメントフォームだろう。
それはとっくの昔に想定の範囲内。なにせ、僕とマトモにやりあうには、モーメントフォームで同じ速度域に追いつくしかないから。
だからこそ、こちらものっけから最大出力を出すワケだよ。
フォースチップを呼ぶ前に、ジュンイチがもみくちゃになりながらブッ飛んだ。
ていうか、僕がブッ飛ばした。
「悪いね、ジュンイチ。お前を相手にマトモにやりあう気はないんだわ。
おとなしく退場して場外警備でもしてな」
「――へっ!?う、ウィナー、チーム・ストゥルム!」
「なんだぁー!?いきなりジュンイチ選手がボロ雑巾のような無残な姿に成り果ててブッ飛ばされた!
トラルー選手はジュンイチ選手の背後に移動しただけなのに!」
「これはおそらく……トラルー選手の最大出力技"トランスムーブ"でしょうね。
登録データによれば、一定時間だけ光速で移動できるようになる、とあります」
そう、リリエンが解説した通り、僕はジュンイチがブッ飛ぶ前後の数秒間だけ、光速で動いた。
有り余るほどの膨大なエネルギーの大半を機動力に回して、光速移動を可能とするのがトランスムーブ。
リミットベストで封印している技の1つだけど、これだけは完全封印。チートどころかバグ技のレベルだからね。
他のトランス系統の技、たとえばトランスカウンターとかは、
リミットベストで出力を抑えられているだけで、使おうと思えば使える。
ただし、敢えて燃費を悪くさせることで、その技に頼らない心構えを構築・維持することにしてるんだ。
結局、大抵の戦闘はトランス系統の技が無くても全然問題なかったし。ジュンイチ戦を除いて。
あとは、ユニクロンを潰す時ぐらい?それだけ、トランス系統の技の本来の威力はオーバーキルなのだ。
マトモに戦わない。つまり、相手が認識すらできないほどの速度域で攻撃を行い、瞬時に沈黙させる。
さすがのジュンイチも、光速にまではついてこれまい。なにせ、先天的なスペックの関係で、機動力だけは克服しきれてないから。
モーメントフォーム以外に、これといった速度補助系の技などがないのも、その影響かも。
まぁ、こっちとしては的中率100%を自負できるほどの付け入る隙があるということで、大いにありがたいのだけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――で、泣き崩れながらここに来た、と」
「オーバーキルはオレの専売特許だと思ってたのに……」
「スケールダウンしても元が破壊神だ。オーバーキルの1つや2つ、寧ろ当然だと思うぞ。
というよりお前の方がよっぽど異常だよ」
トラルーさんの(本人曰く「禁じ手」の)トランスムーブで文字通り秒殺されてしまったジュンイチさん。
でも、そんなジュンイチさんにヒルメさんは終始冷たかった。
なんていうか、容赦ないですね…。
「いや、ゆたか?コイツに容赦とかいると思うかい?
寧ろ、普段誰かを無駄にこき下ろしている分、たまにはこき下ろされたってバチは当たらないさ」
「うへぇ」
「ま、トラルーに嫌な意味で目をつけられたのが運の尽きだったってことさ。
これに懲りたら、盗撮だの何だの、変な真似はしないことだな」
えっと、大丈夫なんですかね?今後…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「後半は秒殺と瞬殺で終わった1回戦!
けど関係ない!盛り上がっていこう2回戦第1試合!」
「チーム・スターズ、ヴァーサス、チーム・スサノオ。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
「いっけぇぇぇぇ!!」
「ひょわぁっ!」
「今の内に…」
「行かせない!」
「っ!?」
開始早々、スバルが突撃してスクナとリラのペースを乱す。
更になのはへ向かおうとしたリラまで牽制し、2対1の状態で対峙する。
そこから離れたところで、なのはが砲撃のチャージ中。
機動力に優れるスバルが注意を引いて、その隙に大技を叩き込む準備をしようってワケだ。
ジュンイチなら「教科書通り」って切り捨てるだろうが、寧ろ教科書になるってことはそれだけ実用性があるってこと。
あながちバカにできることでもないし、だからこそジュンイチも確実性の高い方法で迎え撃つ準備を整える。
寧ろ怖いのは、教科書通りな概念を全く持たない攻め方をしてくるヤツだろうな。知識も何も当てにならないから。
しいて言えばカンだ。豊富な実戦経験からくるカンを活かしてる。それで勝ち残るのが猛者ってモンだ。
ただ、現状でスバルやなのはにそれを期待するのは無理がある。
スバルは仕方ないぞ?そもそも実戦経験が少ないから。カンっていうのは、自然と磨かれるモンなんだぜ。
問題はなのはだよ。実戦経験は六課でも豊富な部類の筈なのに、攻め方がどうにも読みやすい。
ジュンイチ相手に互角の戦いができたのも、ブラスタービットの応用法を思いついたからっていうのが大きい。
それが無かったら、まず勝てないし。攻撃手段が一芸特化すぎて、不利な状況をひっくり返せる技や攻め方に乏しい。
だからこそ応用法は模索するべきなのに、何度もやった模擬戦を見る限り、お決まりな方法でしか攻撃してない。
ちなみに、そもそも実戦担当じゃない部隊長を除いた隊長陣の中で、トラルーからすればヴィータに次いで狩りやすいらしい。
なんだかなー。
「それぇい!」
「はぁっ!」
「トモエゲキの鉄球とハイスイジンの刃がスバル選手に襲い掛かる!
しかし、スバル選手は多少くらいながらも確実に勢いを削いでいる!」
「元々、強襲型とでもいうべきスペックですからね。耐久力もかなりあるかと。
力任せに見えますけど、戦略的に見ても厄介です。突破するには固い壁ですからね」
「おりゃああああっ!!」
「うひゃあ!?」
「うあっ!?」
スクナとリラのラッシュにもひるまず、
それどころかトモエゲキの鎖を鷲掴みにしてスクナをリラにぶつけるというテクも。
それだけで終わらず、ナックルスピナーを唸らせながら二人を殴り飛ばす。
けど、なるべく散らさないようにすることは忘れてない。やるな、アイツも。寧ろ隊長陣よりよっぽど強くなれるんじゃないか?
少なくとも、砲撃一辺倒すぎるなのはよりは。
「スター、さっきからなのはさんに対してキツいね」
「当たり前だ。この前ブリッツスカイ壊された憂さ晴らしができてないからな」
イテンへの答えでいったこの前っていうのは、開幕直前の模擬戦のことな?
ソナーを連れてなくて正解だったぜ。エヴォリューションしてる状態だったら間違いなく巻き込まれてたし。
「なのはさん!お願いします!」
「いつもより余分にチャージ完了!レイジングハート!」
《Divine Buster!》
「スクナ選手、ブレイクオーバー!」
まずスバルがトモエゲキを握ったままもう一度スクナを振り回し、地面に叩きつける。
そこになのはが、チャージしたことで威力を数倍に引き上げたディバインバスターを撃ち込んで、直撃。
気づいた人もいると思うが、スバルのあの動作自体が合図みたいなモンだ。
「スクナを狙い撃ちにしてくれ」っていうな。で、なのはもそれに気づいて、素早く照準を合わせたワケだ。
「あとは私が!」
「ぐうっ!?」
「ディバイィィィン、バスタァァァァッ!!」
「バトル、オールオーバー。バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・スターズ」
残されたリラも、スバルが素早い突撃と猛打のラッシュで翻弄し、
そのままゼロ距離のディバインバスターでトドメ。
スバルが戦略的な動きを少しずつ身に着けつつあることが、今回の勝因か?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「マジっすか?兄貴」
「おう、マジだ」
「スティアに対抗しようとしなくても…」
「いやいや、まだまだ余裕ですよこちとら。
なにせ、ジュンイチの瞬殺に大成功したからね」
2回戦第2試合は、イテンを控えさせて僕とマキトでいく。
消耗?そっちは心配ご無用。燃費が悪すぎるトランスムーブだけど、現実時間の10秒程度だったら問題ない。
ていうか、戦場での迅速なエネルギー補給作としてエナジーゼリーを持ち歩いているのだけど、
今回はそれを使わせてもらったのだ。バトル前だけど、寧ろそうしとかないと後々面倒だし。
「さぁ、私の出番はこれで最後!哀しいお知らせな2回戦第2試合!」
「くだらないこと言わなくていいんですよ」
「うぅ……。それはともかく、チーム・ボンバーズとチーム・ストゥルムのバトル!
チームメイトの復帰が間に合わなかったとのことで、単独バトルとなったストラバレル選手!
スティア選手以来の、単独代表決定なるか!?」
まぁ、何が1番の要因かといえば、ストラバレルが相手だから、だよ。
カラクリについては心当たりがあるけど、かといって言葉で言っても簡単にはわからない。
確証もないし、なら寧ろ自分で立証するしかないじゃないか、と。そういうことですよ。
「チーム・ボンバーズ、ヴァーサス、チーム・ストゥルム。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー・ファイッ!!」
「じゃあマキト、打ち合わせ通りに」
「心得たっす」
「トラルー選手、いきなりストラバレル選手に突撃ー!」
「お前の"見えない爆発"のカラクリの正体、確かめさせてもらうぞ!」
「なにを!」
「イグナイテッド!」
《急なUターンなんて無茶ブリだけは勘弁してくださいね!》
迎撃すべく放たれたミサイルの雨は、正面突破。
ヘッドウィングモードで、ムチのように自在に動かせるマルチフェザーを利用して防御しつつ突破。
懐に飛び込んで……瞬時に分離、ジャベリンフォルムに切り替えて、右腕と右肩のミサイルランチャーを攻撃。
突撃の勢いを利用して、力ずくで切り落とす。
「おのれっ」
「兄貴にばかり、気を取られ過ぎっすよ!」
「むぅっ!?」
別方向から回り込ませていたマキトも袈津尾丸で一閃。
これで左肩と左腕のランチャーがスクラップに。
「バカめ、思う壺……む?ぬぉっ!?」
「やっぱりか。そのミサイルランチャー、それ自体が無線遠隔操作装置だったんだ。
発射したミサイルの内、半分くらいは光学迷彩で隠した時限爆弾。
発射する時には光学迷彩で隠すから、不発に終わったと思わせることができる。
で、油断しきって影響圏内に相手が入ったところで、ランチャーに内臓されている無線装置を使って、ドカン、と。
装置の作動に予備動作がいらないから、知らないヤツにはとことん気づかれないってワケだ」
「よく分かったっすね、兄貴」
「古代ベルカ戦争中、同じタイプの武器を使うヤツが結構いたんだ。
非殺傷設定の概念さえない時代だから、くらいまくって泣くほど痛かった。
まぁ、超再生能力にモノを言わせて、力ずくで惨殺してたんだけど」
得意げになっているストラバレルだけど、頼みの綱の"見えない爆発"はなし。
遠慮なくイグナイテッドで殴り飛ばす。
カラクリは僕が言った通り。今回不発に終わったのは当然、操作装置であるランチャーを破壊したからだ。
超再生能力。そっちは、ユニクロンからの遺伝に近い。
ただし、再生対象のスケールが小さいせいか、そのスピードはもはや一瞬。
ブレードの再生能力と互角かそれ以上じゃないかな。ジュンイチよりは早いわ。うん。
「マキト!トドメだ!」
「合点承知!フォースチップ、イグニッション!」
シュートフォルムの射撃でストラバレルの両足にダメージを与えて、回避能力を奪う。トドメはマキトに任せる気満々だもの。
僕からの言葉に答えて、マキトが袈津尾丸をかまえる。
飛来した地球のフォースチップは、マキトの背中に重なり、溶け込む。
「袈津尾丸、一刀断絶斬ッ!!」
青白い輝きに包まれた袈津尾丸を振りかざし、
両手で握りしめて力を込めた袈津尾丸でストラバレルを縦一文字斬りでブッ飛ばす。
勝負ありだ。
「ウィナー、チーム・ストゥルム」
「これで、代表決定戦は、チーム・スターズとチーム・ストゥルムの対決となりましたぁ!」
「それではみなさん、こうご期待」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「一世一代の大バトル、ってか」
「貴様がそれを言うか」
柾木ジュンイチの言葉に、そっけなく返す。
なのはと柾木ジュンイチの戦いの方が、少なくとも印象的には一世一代だ。
「皮肉なものだな?
力を持ちすぎたが為に、採算度外視なオーバーキル以外の選択をしてもらえなかったとはな」
「言うんじゃねぇよ…っ」
「今回のトラルー、本気だしねー」
オレの言葉に崩れ落ちた。だが同乗の余地はない。
それと、恭文が言っている通り、今回のヤツは本気なのだ。
わざわざ「禁じ手」を1回戦でお披露目?してしまったほどだしな。
躍起になる理由もわかる。戦闘データを見てみたところ、神器のスターセイバーの性能は絶賛に値する。
まさに最強クラスの剣だろう。それが1つ戦場にあるだけで、戦況がひっくり返ってしまう。
それだけで、世界の戦闘狂どもなどがこぞって狙ってくる。ユニクロンからすれば思惑通りだが、マイクロンはそれを望まない。
だが、最も大きな要因は、神器3つがそろった状態でユニクロンと接触すれば、それ自体が覚醒キーとなること。
ユニクロンの復活はもう願い下げだ。
「だからって、優勝候補になれそうなオレを瞬殺するかね…」
《それなんだけどさ、『アイツだと反則ばっかりしそうだからダメだろ』って言ってたぞ。
いよっ、反則技の伏魔殿》
「……マジかよ…」
《さすがマスター、とことん信頼されていませんね》
なおも納得できず、といった柾木ジュンイチだったが、オメガと蜃気楼から追い打ち。
まぁ、信頼されていないだろう。寧ろ発散しきれていないストレスのはけ口にされそうなくらいだ。
疑似的とはいえ不死身生物なだけに、遠慮というものが全くない。
柾木ジュンイチに対してはいい薬だろうから、助ける気は毛頭ないが。
「さぁ、遂にファイナルバトルへと駒を進める最後のチームが決まる!
運命のゴング、間もなくです!!」
バトンタッチした角馬王将の声で、会場がヒートアップ。
そういえば、代表決定戦で六課関係チームがぶつかったのは、これが初か。
じっくり見させてもらおうか。
「赤コーナー!順調に勝ち進み、ここまで無難な戦績を残してきたチーム・スターズ!
今回も、高町なのは選手の砲撃がフィールドに激震を与えるのかぁ!」
なお、なのはについてはブラスターの使用許可は下りなかった。
柾木ジュンイチとは別な意味で被害甚大なので、というかこういうことでブラスターを使われてほしくもないので、
使用禁止とすることに対する反対意見は特に出なかったという。
「青コーナー!1回戦の瞬殺劇に続き、2回戦も圧倒的な差で突破したチーム・ストゥルム!
1回戦で瞬殺劇を見せたトラルー選手以外にも、見過ごせない猛者が並び立つ!」
普段は着用しているあのベスト。実はそれ自体が重度の出力リミッターという話は聞いていた。
だが、柾木ジュンイチを問答無用で瞬殺するとは、規格外もいいところだな…。
今回はベストをつけた状態で登場しているが、いざとなればすぐに外すだろうな。
「チーム・スターズ、ヴァーサス、チーム・ストゥルム。
バトルモード・ゼネラル1001、レディー…!」
「機動六課"スターズ1"、高町なのは!」
「同じく"スターズ3"、スバル・ナカジマ!」
「同じく"スターズ4"、ティアナ・ランスター!」
「目指す道は自由あるのみ、トラルー With イグナイテッド!」
「すり抜け切り刻む者、イテン With トレントブレードU!」
「今は亡き師の志と共に、マキト With 袈津尾丸!」
『いきますっ!!』
『戦闘、開始っ!!』
「ファイッ!!」
3対3の時間無制限1本勝負、そのゴングが鳴った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ、打ち合わせ通りに頼むぞー」
「まっかして!」
「合点ですぜ!」
『っ!?』
「おあーっと!チーム・ストゥルムのマキト選手、開始早々にダッシュ!
しかもあらぬ方向へ駆け出し、大きく距離を取ったぁ!」
「何のつもりか知らないけれど、各個撃破なら望むところよ!」
「ティア!?」
「そうは問屋が卸さないっ!」
「スバル、下がって!」
「ふっふっふ……君らの相手は、僕たちだ!」
「マキトの方へは、イテンちゃんたちが通さないもんねっ!」
トラルーからの言葉の後、マキトが突然ダッシュして全員から距離を取る。
それをいち早く察知、行動に移して追跡するティアナ。
スバルが追いかけようとするが、それをトラルーがシュートフォルムのイグナイテッドによる射撃で阻止。
マキトとティアナ、なのは&スバルとトラルー&イテン、という構図になった。
「なのはさん、これって…」
「私たちの戦力を分断する作戦だったんだ」
「その通り。集中砲火だけは願い下げなんでねぇ」
「さぁ、いっくよ!」
イグナイテッドを構えなおすトラルーに合わせて、
大会直前に改良されたというトレントブレードUを握り締めてイテンが躍り出る。
火力では圧倒的に劣るとわかっているからこその判断か。
「そういえば、アンタとはまだ真正面からやりあったことがなかったのよね。
この際だから、タイマン勝負をさせてもらうわよ!」
「おっ?」
「ティアナ選手の姿が消えた!
早くも幻術を駆使した戦法かぁ!?」
並走しながらフェイクシルエットを使い、自身も透明化させることでフェイクを残して離脱。
マキトは足を止め、気配を探り、後頭部めがけて飛び込んできたティアナの銃撃と斬撃の両方を袈津尾丸でガード。
そのままはねのけ、間髪入れず繰り出された追撃も冷静に袈津尾丸でガードし、弾いていく。
「やっぱり、結構な手練れっすね。けど、こっからはオイラのターンっす!」
「くっ!?」
今度はマキトの反撃。ティアナを弾き飛ばし、そのままダッシュで肉薄。
そこから、自身の体ほどもある長大な獲物を振り回すとは思えない素早さで連続突きを繰り出す。
随分と鍛えられているようだが、それにしても凄まじいスピードだ。
オメガは同じ大剣型デバイスだが、オレにあそこまでできるか…?
「ティアナ選手、マキト選手の思わぬスピードの前に、かわすのが精一杯ぃ!」
「随分とまぁ…!」
「一方、スバル選手となのは選手も大苦戦だぁ!」
角馬王将が気づいた。なのでオレも見てみると……。
「ほらほら、ほらほら!アウトレンジ対策はその程度か!?」
「弾速も弾幕も、なのはさんほどじゃないのに…!」
スバルはトラルーに完全に釘づけにされていた。
イグナイテッドはシュートフォルム……だが、強化パーツ付きだ。
最大射程とセンサー有効範囲を同時に強化できる、「スナイプマスターキット」を装着している。
なるほど、スバルはアウトレンジからの射撃で封殺か。
しかもトラルーが相手となると、射撃ポイントの切り替えも迅速。スバルでもついていけまい。
「そこっ!」
「残念っ♪」
「きゃあっ!?」
《なの姉!こんのっ!》
《Divine Buster!》
「なんのっ」
なのははというと、得意のバスターもロクに当てられず、逆にかまいたちと斬撃の連続攻撃にさらされていた。
イテンがカリーシュダイブを使い、ヒットアンドアウェイを繰り返しているからだ。
元々反応速度はともかく総合的な機動力に難があるなのはだけに、イテンのトリッキーかつ小回りの利くタイプは相性が悪い。
相性云々の問題なら、JS事件の終盤で卒業できたようだが、今度は根本的な戦闘センスの差で苦しめられている。
小刻みにポジションや方向を変えながら攻撃するイテンをとらえるのは、なかなか難しいようだ。
「コイツ、とんでもない……っ!?岩!?」
「おっと?コイツぁ…」
「ティアナ選手、追い詰められたぁ!」
賢明にマキトの連続突きを回避し続けていたティアナが、大岩を背に追い詰められた。
あれだけのラッシュを被弾なしでかわし続けた時点で、ティアナも随分と成長していると思うが…。
「切り捨てぇ、御免っ!」
大ダメージを叩き込むチャンスとばかりに、マキトが袈津尾丸を両手で握りしめて振り下ろす。
ヴィータ・ハラオウンの撃墜話からするに、イグニッションなしでも相当な威力がある筈だ。
ティアナが直撃を受ければ、ひとたまりもあるまい。
「……フェイクっすか」
「その通り…っ。面白くなってきたじゃない!」
「生き生きとしている人と戦うと、心躍るっすよね!」
「奇遇ね、同感よっ!」
「獲物のリーチや破壊力の違いを感じさせない、ハイレベルな攻防!
凄まじい戦いだぁ!!」
フェイクと入れ替わって難を逃れたティアナが反撃。
やはり袈津尾丸でことごとくガードされてしまうが、確実に手ごたえはあるはず。
振り回されっぱなしなスバルやなのはに比べれば、勝機は十分にある。
「ホント、トラルーやスターの人脈の人って、べらぼうに強いわよね…。
けど、この攻め方には対処できるかしらっ!?」
「そ、そのフェイクの作り方は…!」
「で、出たぁぁ!自身とフェイクを織り交ぜた、イリュージョンの如き包囲!
幻術使いの本領発揮かぁ!?」
おそらくは、ルアクのブレンチシェイドも参考にしているのだろう。
フェイク2体も加えてマキトを包囲し始めた。
敢えて全く同じ動きをフェイクにもさせることで、モーションの違いによる判別を困難にさせた。
気配察知という手も、あぁやって包囲して常に移動し続けていれば、ある程度ごまかせる。
更に、周囲には設置型の魔力弾も生成していく。攻撃のバリエーションを増やす作戦か。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さぁ……さばけるかしらっ!?」
「御託は無用……どんとこいっ!」
3人に増えたティアナの内の1人が飛びかかる。袈津尾丸ではじいて、手ごたえらしい音があったから本物。
けど、その直後に魔力弾。引き戻してガードするけど、その背後からまた一撃。
追撃の魔力弾はガード。また躍り出た1人を切り捨てるけど、これはフェイクで本命は右わき腹を狙った一撃。
このまま終われないとばかりにマキトもくらいついて、魔力弾の破壊と3度目の斬撃のガード。
全部がうまくいってるワケじゃないけど、マキトのライフは少しずつ削られてる。
「さぁ、まだまだよ!」
「……」
「いくら反射神経があっても、砲撃じゃ私はとらえきれないよっ!
だって、チャージする間に逃げちゃうから!」
《なの姉、マズイ。このままじゃ…》
「おっと、こっちも忘れないでもらおうかな。飛行させるとでも思ったか!」
《なの姉、大丈夫!?》
「う、うん。今度はあっちから…!」
結局、最初っからイテンやトラルーに振り回されっぱなしのなのは。
砲撃型は砲撃型でも、典型的な砲台タイプだからなぁ。アイツらの敵じゃない。イテンだけでも墜とせるよコレ。
ちなみに、プリムラがパワードクロスしているが、スケイルフェザーはもうない。
開始早々、イテンとトラルーの集中射撃で全部叩き落とされたから。
ちなみに、改修されたトレントブレードは、主に斬撃の威力と射撃の連射性が向上している。
…チンケな豆鉄砲じゃ生き残れないから、1発の威力も底上げされてるけどね。
そう、スケイルフェザーを1発で叩き落とせるくらいには。私が提供した鎧王軍のテクノロジーをヒルメに流用してもらったんだけど。
「スバル!一旦後退!体勢を立て直そう」
「分かりました」
「逃がさないっ!」
「でりゃあああ!!」
「わひゃあっ!?」
なのはに合流したスバルが、ナックルスピナーを唸らせた右腕で地面を粉砕。
巻き起こった土煙で視界を遮り、イテンの追撃を阻止。うまくどこかに隠れたみたいだ。
「うー!あとちょっとだったのにっ!」
「イテン、こっちに合流だ。深追いして仕留めきれるほど、ヤワな連中じゃないし」
「はぁーい」
一方、取り残されたイテンもトラルーに呼ばれて合流。見晴らしのいい丘に陣取って、警戒態勢を維持。
「……なのはさん、ライフの方は…」
「参ったね……いくら1発の威力は小さめでも、あれだけ連続で叩き込まれたらダメージがすごい。
私みたいな砲撃型にとっては、願い下げなタイプだね…!」
そう、なのはのライフは、とっくの昔に半分を切って残りは4分の1程度。
トレントブレードの斬撃などだけじゃなく、カリーシュダイブのかまいたちの嵐も至近距離で受け続けたからだ。
いくら基礎防御力が高めなバリアジャケットを得たなのはといえど、獅子奮迅の如き連撃を受け続ければ耐えきれない。
そこにトラルーからの援護射撃まで加わったものだから、ライフの減少はあの場にいる6人の中でダントツ。
イグニッション技の1発も受ければ、ひとたまりもない。
ちなみに、そう確認できるのは、試合を中継するモニターの1つが、参戦選手のライフ状態をリアルタイムで見せてくれているから。
どこかに隠れたなのはとスバルの会話については、スターがソナーを介してこっそり聞いてたんだ。
「やっぱ、鎧王軍のテクノロジーも加わると仕上がりが違うな。
ポラリスも王様として、ちょっとは鼻高々じゃないのか?」
「いや、王様っていっても元だし、ユーリプテルスの件もあるから、素直には喜べないなぁ…」
「あー、それがあったなー…。けど、心配ないんじゃないか?
ディビジョンフリートだって鎧王軍の謹製だ。その主任ともいえるヒルメもいるし、あっちは大丈夫だろ」
「……うん、そう信じることにするよ」
スターに答えた通り、あまり素直には喜べない。
とはいえ、トレントブレードの改修はもちろん、オーディーンに託したビームガーターも傑作品だ。
その有用性を証明できる、というのは、やはり嬉しい。
ユーリプテルスについては……今はアレでいいのかもしれない。
「そらそら!得意の居合切りを使わせる暇は与えないわよ!」
「ティアナ選手、幻術と誘導弾を併用して、防御さえ苦しい連続攻撃!
まるで、幻の中に引きずり込まれたかのようだぁ!」
マキトはというと、未だにティアナの包囲網とラッシュから抜け出せない。
フェイクも維持してるし、魔力弾も随時追加してる。本体をとらえて決定打を与えないと、解決できそうにないけど…。
「ティアったら、好き勝手やっちゃって…」
「でも、アレはアレで好都合だよ。分断されちゃったけど、あの調子なら倒せそうだし。
寧ろ問題はこっちだけど……」
「そうですね、特にトラルーはなんとかしないと……そうだ、なのはさん」
「?」
息をひそめ、トラルーやイテンから上手く隠れてるなのはたち。
スバルが何かひらめいたみたいだけど……。
「残念、念話になっちまった。これじゃもうソナーで声を拾うのは無理だ」
「念話ということは、おそらく作戦を練り始めたのでしょう。
まぁ、隠れて話すなら初めから念話でやれよって話ですけどね?」
「アレックス……それは言っちゃダメ」
戦略的にはそうなんだけど、未だに謎の多いイグナイテッドが、念話の声を拾えないとは限らない。
とはいえ、アレックスの発言は身も蓋もないと思う…。
「……出てこないね」
「ふーみゅ、何か作戦を練っているようだ」
「トラルーなら、居場所わかるでしょ?」
「強襲かまそうとしても、レイジングハートなりプリムラなりに気づかれるから、
わざわざこうして警戒態勢の維持に徹してるんじゃないか」
「あぁー……って、スバルだ!」
トラルーなら、生き物の魂を熱源代わりに捉えるという特殊能力で、居場所の特定はできる。
けど敢えてしないのは、本人が言った通り、主になのはのデバイスたちが事前に察知して迎撃に出てくるからだ。
設置型の魔力弾を隠してる可能性も捨てきれないし、深追いは禁物だと判断したんだろうね。
ところが、密談が終わったのかスバルが躍り出た。
「飛んで火にいる夏の虫……ってか?
…………チッ」
「どうしたの?」
「ここからじゃ狙いづらいんだ。もっといいポイントを……よし、あそこなら」
スバルは、ちょっとした崖の隙間を縫うように移動。
これでは射撃をしても、地形に弾かれる可能性が高い……ということ。
だからトラルーは、もっと狙いやすいポイントを探して、見つけた。
フィールドのド真ん中にそびえたつ、てっぺんが三日月型をした、変わった形状の山を。
イテンをその場に残して、トラルーが移動開始。
《確かに、これならほとんどのエリアを狙えますね》
「よぉーし、どこいったぁ〜…?」
「――今だ!フォースチップ、イグニッション!」
「えっ!?」
「お久しぶりのぉ、イグニッション――パニッシャー!!」
《Ignision Punisher!》
「おぉっと、ビックリ…。危なかったぁー」
「トラルー、今も……危なぁぁい!」
「へっ……おぉうわぁぁぁ!?」
別な岩陰から飛び出したなのはが、イグニッションパニッシャーでトラルーのいた山を砲撃。
けど、当たった……いや、当てたのは、トラルーではなく山の方。
てっぺんの、三日月に反り返った部分の、ちょうど真ん中のところを初めから狙っていたんだ。
なぜなら……そこを破壊すれば、残った部分が落下してトラルーを生き埋めにしてしまうからだ。
「とっ、トラルー!?」
「あぁーっと、トラルー選手!ここでブレイクオーバーかぁっ!?」
「今、実況がフラグ立てましたよ」
「リリエンのツッコミがないのがまた、なんともな」
フラグ…?あぁ、そういうことかぁ…。
アレックスの言葉に一瞬戸惑ったけど、すぐに分かった。
「やりましたね、なのはさん!」
「じゃあ、こっちもそろそろ決めようかしらね!
これでぇ……トドメっ!!」
「――見切ったぁっ!!」
「がっ!?」
包囲攻撃で翻弄していたティアナが、一気に仕掛けた。
けど、飛びかかったところに袈津尾丸の突き出しがクリーンヒット。
フェイクも魔力弾も失速して、一気に薙ぎ払われた。
「ど、どうして…」
「いやー、我ながらヤバかったっすよ?あのままグルグル回られてたら。
けどティアナさん、突破口を開いたのはあなた自身っす!」
「なっ!?」
「さっき、オイラを仕留めようと一瞬、力を溜めこんだっすよね?
オイラからすれば、本体がどれかを見抜くには、その1〜2秒の時間で十分っすよ!
それに、どんなに高度な分身だろうが、実体を持たないからには足音までは再現できないっす!」
「っ!!
ま、まさか、どの位置から足音が聞こえるかを見極める為に、敢えて攻撃を…!?」
居合切りを得意技としていて、(描写がないだけで)予選でも猛威を振るっていたマキト。
その本分は、相手と自分の位置関係を正確に把握し、惑わされない距離感と鋭く磨き抜かれた感覚を活かすこと。
「さっすがマキトだ。幻術相手にも、居合の本分をバッチリと発揮しやがった」
「しかし、足音まで聞き分けるとは…。これも鍛え抜かれた実戦経験があればこそ、ですか」
「古代ベルカでも、あそこまで卓越した剣術使いはいたかな…?」
ちなみに、最近は周りで「劣化の将」とさげすまされているシグナムは除外。
彼女の剣術に、居合の技術はあるようで無いから。
レヴァンティンを鞘に戻して引き抜くという動作は、あくまでも迅速な魔力チャージを行う為に過ぎないし。
なんていうか、カッコつけ?
「お、ポラリスも言うようになりましたねぇ」
「まぁいいんじゃねぇの?スタイルが若干違うとはいえ、剣術で粉砕できる相手だし」
「えっ、いやっ、あのっ」
「みなまで言うな、どうせシグナム相手ならお前が負ける理由はないからよ」
「スピード自慢とはいっても、ポラリス相手だと殆ど意味ないですしね。タフすぎて」
「みなまで言うな」って、それ「ランチタイムだ!」な仮面ライダーの代名詞じゃ…。
それと、アレックスは私のことを褒めているのか皮肉っているのか…。
「いえいえ、普通に褒め言葉です。それに、スピードで劣るとはいっても、身のこなしで圧倒できるじゃないですか」
「初めからそう言えばいいのにぃ……」
昔っから相変わらず、アレックスは皮肉屋だ。
悪意……は、無いと信じたい。これでも、古代ベルカ時代には王同士、仲良くやっていたからな。
「テイク2、切り捨てぇ……っごっひょぉぉお!?」
「なのはさん!いきなりバスターぶちかまします?」
「でも、今のティアナならよけられるでしょ。今みたいに。
マキトを挟み撃ちにするよ。スバル、イテンの相手はお願いね」
「はい!」
マキトのトドメの一撃は、なのはが横槍として放ったエクセリオンバスターで阻まれた。
ティアナは寸前のところで回避、マキトも直撃は避けられた。
イテンの相手をスバルに任せ、レイジングハートをA.C.Sモードに切り替えて、ティアナと共にマキトの前へ。
「さぁ勝負だよ、マキト!」
「今度はトリック抜きよ!」
「だからどうしたっすかぁ!!」
「止めたぁ!マキト選手、なのは選手とティアナ選手の多重斬撃を、袈津尾丸1本で完璧に止めたぁ!!
その小柄な体に秘められた、大柄な刀さえ手足の如く操るパワー!まだまだ健在だぁ!」
角馬王将の声の中、攻防は続く。
全身をバネのように使ってクロスミラージュとレイジングハートの刃を弾き、すかさずティアナを突き飛ばす。
いち早く立て直したなのはの斬撃を回避、すぐに追撃に加わったティアナの連撃も紙一重でかわしていく。
紙一重の動きは、余裕だからやるんじゃない。寧ろ、余裕を作る為に行うんだ。
「せぇいっ!」
「なっ!」
「まだいけます!」
「だよね!レイジングハート!」
《Blitz Shooter!》
袈津尾丸を振り下ろし、その反動を利用して棒高跳びのように大ジャンプ。
即座に反応したティアナもジャンプ、なのはもすさかさずブリッツシューターで援護射撃。
滞空したまま袈津尾丸でブリッツシューターを薙ぎ払い、その勢いのままティアナも斬撃の上から弾き飛ばす。
けど、なのはがマキトの背後を取るには十分な時間だった。しかも、チャージ済みで。
「ディバイン――バスター!!」
《Divine Buster!》
「背後の一閃!?」
とっさに身をひねったことで、ボディへの直撃は避けられた……けど、結構当たった。
右肩にクリーンヒットし、痛みからか衝撃からか、袈津尾丸を手放してしまった。
着地はなんとかできたけど、袈津尾丸が落ちた場所は右手側の数メートル先。
前後をなのはとティアナが立ち塞がり、挟み撃ちに。これは万事休すか…?
《なの姉!仕留めるなら今しかない!》
「一気に仕留める!」
「覚悟しなさい!」
「――まだ落ちぬっす!!」
『っ!?』
なのはとティアナの挟み撃ちは、失敗に終わった。
2人が踏み込んだ瞬間、マキトが右手側にアスリート顔負けな飛び込みをしたから。
左手で袈津尾丸をしっかりとつかみ取り、バックステップも使って立て直す。
そして、鋭い眼光で眼前の相手を見据えて……。
「フォースチップ、イグニッション!!」
「大技がくる!」
「させるもんですか!」
「一刀っ、断絶斬っ!!」
「なのはさん!ティア!」
「マキト選手、起死回生の一撃ぃー!!
なのは選手とティアナ選手を、同時にブレイクオーバーぁぁぁ!!」
「か、片手でやっちゃいましたよ、マキトさん……」
「やるなぁ」
「しかも、ダメージがたまっていたとはいえ、ダブルブレイクオーバーだなんて…」
左腕1本で繰り出されたとは思えないパワーを発揮した一刀断絶斬によって、
技の封殺をもくろんだと思われるなのはとティアナは共倒れ。
これにはアレックスも私も唖然。けど、スターはそんなに取り乱してない。やっぱり、付き合いが長いから…?
「さぁ、これでフィールドで立っているのは、スバル選手、イテン選手、マキト選手のみ!
チーム・ストゥルム優勢の、2対1のバトルだ!」
「残念、3対1だよっ!」
《遂に使っちゃいますか》
「正式新装備ぃ、キタァーッ!!」
「なんとぉ!ここでトラルー選手復活ぅー!」
ほぅら、フラグだった。アレックス大正解。フラグはフラグでも、生存フラグ。
積み重なったガレキを粉砕して飛び出したトラルーの雄叫びにあった「正式新装備」。
それは、イグナイテッドのヘッドウィングモードに合わせて、拡張装備としてヒルメに調整してもらったもの。
アルファベットのAのような形状で、厚さ10センチほどのナックル型モジュール「ミスティック」。
2つ1ペアで、両手に1つずつ持った形態を新たに「サヴァイブミスティック」と呼称する。
この形態の利点は、ヘッドウィングモードの利便性をそのままに攻撃力を引き上げられること。
もちろん、ミスティックの使い方次第で結果的な防御力の向上も見込める。
欠点があるとすれば、両手をふさぐから、とっさの行動に制限が出るってことかな。
なるべく補えるように、ミスティックはナックルであると同時に射撃武器の機能も持たせてあるけど、限界はあるし。
「で、雄叫びの元ネタは間違いなく宇宙ライダーだな」
「あぁ、おにぎり頭なアレですか」
「うん、私も気づいた」
総合的に見てみると、なかなかドラマティックな展開だったよね、フ○ーゼ。
「ふっふっふ、まさか、あんな小手先だけで仕留めきれるとでも思ってたのかい?」
「まぁ、兄貴だし」
「だよねー、トラルーだし」
どうやら、埋もれたフリをして状況観察をしていたらしい。
チームバトルという状況を良くも悪くも上手く利用してるなぁ…。
まぁ、ジュンイチと違って悪意はないだろうけどね。
「さぁさぁ、一気に沈めさせてもらうぞ!」
「遠慮はしないからねっ!」
「代表の座はいただきっす!」
ガレキのダメージも殆どないのか、元気満々なトラルーと共に、イテンとマキトも突撃。
孤立無援となったスバルに襲い掛かり、見る見るうちにライフを削っていく。
ミスティックによるパンチや射撃、カリーシュダイブも混ぜた斬撃の乱舞、
追い打ちをかける袈津尾丸の豪快なスイング。ていうか、片手だけでも十分すぎるパワーだ。
「チーム・ストゥルム猛攻ーっ!!」
「3対1という構図が、完全に戦力差になってますね。
手負い1名も、全然手負いとは思えないパワーを発揮してますし」
袈津尾丸のスイングが背中に直撃、スバルが大きくブッ飛ばされる。
ブレイクオーバーには至らず、相手3人を真正面に見据えられてはいるようだけど…。
「……まだ、勝負は終わってない!」
「スバル選手、チーム・ストゥルムに真正面から突撃!
どういうつもりだぁ!?」
「今度こそ仕留めきるっすよ!」
「オッケイ!」
スバルを真っ向から迎え撃つべく、マキトとイテンも突撃。すぐ後ろにトラルーも続く。
けど、初めから狙いは違っていたらしい。スバルはマキトの左袈裟切りも、イテンの水平薙ぎ払いも、トラルーの飛び込みも全て回避。
更にマッハキャリバーの片方だけを唸らせて急速Uターン。それも、至近距離で。
その右腕には、既に体ほども膨れ上がった魔力スフィアが1つ。
「ディバイィィィン、バァスタァァァァァァッ!!」
背後を取った形だからか、回避行動もままならない3人目がけて、敢えて荒れ狂うように炸裂させた。
広範囲を水色の魔力の渦が荒れ狂い、フィールドごと3人を飲み込んでいく。
これはまた、なんともまぁ…。
「うっわー、こりゃあ決まっちゃったッスかねぇ?」
「だな、あんな砲撃に巻き込まれたらと思うと、あたしらでもゾッとする」
「……ウェンディもノーヴェも、ホントにそう思う?」
「セイン、その予感は、大正解だ」
観客席に来ていたウェンディやノーヴェに異を唱えたセイン。
それを肯定したのはスター。まぁ、長すぎるくらい長い付き合いだっていうから、その根拠を聞いておこうかな。
「ちょっとリミットベストの話になるんだけどさ、アレの主目的は発揮可能出力の6割カットだ。
つまり、あのベストをつけている状態だと、本来の出力の4割の状態になるんだ。強制的に。
で、トランスムーブだけは禁じ手ってことで封印されるんだけどさ……」
「そうか!トランスカウンターは出力が抑えられるだけで、封印まではされてない!」
「模擬戦でも使ってましたしね」
「そういうことだ。仮に回避しきれなくても、トランスカウンターで防御できる。
ましてや、エネルギー効率を最大限に高めるヘッドウィングモードのイグナイテッドもある。
展開範囲はかなり拡大して、半球状にはなる筈だ」
つまり……。
「実にいい攻め手だった。おかげでイテンとマキトがダブルK.O.じゃないか」
「――っ!?」
「トラルー選手、いつの間にかスバル選手の背後にぃぃっ!!」
「トランスカウンターで防御したのでしょう。展開範囲が限られても、防ぐ余地はあったと」
「あまりトランスカウンターとかは使いたくなかったのだけど……特別だ。
恥じることはないよ?なにせ、大技を使わせただけの実力を見せつけたってことだからさ。
だから……出せる範囲での全力をもって、君を撃墜するっ!
フォースチップ、イグニッション!!」
<ATTACK-FUNCTION RAISE TEMPEST.>
マイクロンのマークのフォースチップがトラルーの体に溶け込み、パワーが膨れ上がる。
直後スバルを殴り飛ばして浮かせ、更に左右のパンチのラッシュ。
連打で体制を整える余裕を無くし、スバルを放り出すと一瞬だけ体を大きくひねり、解放する。
それに連動してマルチフェザーも高速回転し、不規則に動くことで四方八方から、まるで嵐のようにスバルを滅多打ちにする。
やがて乱打の嵐が終わると、スバルは成す術もなく車田落ちというヤツで落下し……光が放たれた。
「スバル選手、ブレイクオーバー!!
トラルー選手の逆襲で、成す術もなく玉砕したぁぁ!!」
「バトル、オールオーバー、バトル、オールオーバー。
ウィナー、チーム・ストゥルム」
トラルーのヘッドウィングモード時の必殺技"レイズテンペスト"が見事に決まった。
これで、チーム・ストゥルムのファイナルバトル進出が決まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「みなさん、ここまでの試合、いかがだったでしょうか?
激戦に次ぐ激戦を制し、5つのチームがファイナルバトルへと駒を進めました!」
Eブロックの代表決定戦終了後、晩御飯前ぐらいの時間に集会が。
理由はもちろん、遂にファイナルバトルのメンツが決まったことで、そのルール説明とかがあるからだよ。
あー、明日だけど今から緊張するなー。アルトも戦闘可能なレベルまで直ったし、もうひと踏ん張り。
お立ち台に立つのは、やっぱりパレサとリリエンだ。
「では、ファイナルバトルのルール説明をさせていただきます。
使用するフィールドは、宙に浮く足場が無数に存在する空中神殿。
全員が同時に戦う、バトルロワイヤル形式となっています。
バトルモードについては、先ほどまでと同様にゼネラルです。
なのでアイテムの使用なども、登録済みのものに限り自由としますが、
トーナメント前にもふれた荷電粒子爆弾だけは完全禁止としますのでご注意ください」
リリエンの説明と共に、大型ウィンドウの1つがある場所を映し出す。
なるほど、アレが「空中神殿」というフィールドか。足場を変えながらの戦いが要求されそう。
これまでのバトルと違い。ブロック代表同士が入り乱れての大乱闘となるワケだ。
まさしくスマ○ラ状態。そういえば、あのゲームのステージの中に、似た雰囲気のステージがあったような。
「なお、参加メンバーは各チームから代表1人を選抜してもらいます。
誰が出るかは自由。今晩の間に吟味しておいてくださいね」
頂上決戦かつサバイバル。誰か1人を厳選してこいってかい。
うちのチームはモメそうだなぁ…。主に僕とマスターコンボイが。
「ちなみに、空中神殿で落下した場合、その時点で即失格となりますので気をつけてくださいね。
まぁ上から見た足場同士の間隔が狭いのでそうそう落ちないでしょうけど」
「勿論、どこぞのオールスターな格闘ゲームみたいに、わざと相手を落下させるのもアリ。
どう攻めるか、考えておいた方がいいわよ?」
マジでス○ブラだった。ていうかそうなると、単独飛行できるビシディアンやトラルーがかなり有利じゃん。
ディフィカルター12の勝ち上がり組にも飛行戦力があるし、スティアは未知数だし。
うわ、魔法以外での自力飛行ができない僕らがメチャクチャ不利だ。リティもコンボ以外じゃ飛べないし。
「ファイナルバトルは明日の午前10時より開始します。
お茶の間のみなさんも含めて、ちゃんとこの時間は抑えた方がいいですよ〜」
「なにせ、一世一代の頂上決戦だものね」
あ、最後にさり気なく番宣みたいなことした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「無事にファイナルバトルまで進んだね」
《あぁ、ネガショッカーからも厄介なヤツが残ってしまったがな》
ユーリプテルスの一件以来、ネガショッカーの目立った動きはないが……何か企んでいる筈だ。
それも、味方の誰もファイナルバトルにいかなくてもいいような、もっと違う方向で…。
《ミスリル、お前は明日はここから出るな。何があるかわからん》
「"解放"は、いらないの?」
《あらゆる追跡をシャットアウトするには、お前の干渉はあってはならないのだ》
「ん、分かった」
そうだ、ミスリルの力を表沙汰にするワケにはいかんのだ。なんとしても。
少なくとも、管理局にわたるようなことだけは断固阻止する。
「ふっ、よもやこんなところでゲリラをしているとは思わなかったぞ。
我らが主の為、貴様らには……」
《失せろ》
<DEMONIC MODE.>
空間潜行というのは実に厄介なものだな…。
何故か嗅ぎ付けてきたミイラ取りは迷うことなく速攻で処分。
さて、ここも無理か…。
「やっぱり、端末だけ持って地球に戻ろうか?」
《その方がよさそうだ。ネガショッカーはともかく、ディセプティコンの追跡は完全に途絶える筈だ》
そうと決まれば、すぐに行動だ。後始末などしている余裕も義理もない。
デモニックモードの発動と共に浴びせたダークシューターの連射で蜂の巣になったショックフリートは、
そのまま置き去りにした。
(第35話へ続く)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―
リティ「ジュンイチさんが落ち込んだまま戻ってこない」
ステンス「ほっとけ。その方が平和だ。
今回は、"リミットベスト"について教えてやる」
ステンス「トラルーがいつも身に着けている、白を基調としたベスト。
アレは特殊な細工がされているとかで、着用者の出力を大幅に抑制するリミッター効果がある。
誰かのモノローグで言っていた通り、最大出力の6割を常に抑え続けている。
同時にトランスムーブの封印もしているが、他の技は出力が低下したままでも使える。
わざわざ6割も抑えているのは、リミッターなしで技を使うとあまりにも燃費が悪すぎるからだ。
短時間でのガス欠を防ぐ為に、威力の低下というリスクを伴ってでも出力を抑えているワケだ」
リティ「で、残りの4割も大半を機動力に割いている、と」
ステンス「ついでにトラルーが超大食いなのは、より長時間の戦闘にも耐えられるようにする為だな」
リティ「あー、いくら出力を抑えても、蓄えがなきゃ意味ないしなー。
じゃあ、また次回!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
<次回の「とたきま」は!>
角馬王将「遂にやってまいりましたぁ!
次元世界の覇者が、遂に決まる!アレス・ファイナルバトルのお時間です!!」
スティア「上等だ、久々に大暴れしてやるぜ!?」
トラルー「最後に勝つのは僕だ!何がなんでも!」
恭文「うわ、オーバーキルな2人がいきなりマジモードだ」
ダークハウンド「ふっ、これはまた手強い相手がそろったな…」
ステュムパロス「ところで皆さん、"アレ"はどうします?」
他全員『?』
―5人が見やる先には、未だに瞬殺されたことを引きずる暴君の情けない姿が1つ―
他全員『絶対放置で』
ステュムパロス「うわ、見事な四面楚歌」
第35話:ファイナルバトル 〜ただ1つの座〜
あとがき
遂にファイナルバトル進出チーム、最後の1つが決まった第34話です。
前回の次回予告でジュンイチが落ち込んだ理由……もうわかりましたね?(邪笑)
日頃の行いのせいでトラルーがすっかりアンチ・ジュンイチになっていますが、おそらくヤツの自業自得です(マテ)
まぁ、純粋な敵対関係でもないですけどね。
トラルー達となのは達が代表決定戦で激突。なのはがもはやイテンのかませ犬に成り下がる事件が(お前のせいだろ)
ジュンイチに再三指摘されまくっている、ある意味でのバトルスタイルの問題のせいですけどね。
まだライトニングの隊長たちの方が戦いようがあるという、なんだかむごいことに。
隊長置き去りで活躍しまくるスバルやティアナの方が、まだ将来有望かもしれません。特に応用力抜群なティアナ。
リミッター解除ということで片鱗を見せたトラルーの本気。
一芸特化は一芸特化でも、超高機動かつ技自体はバリエーション豊富ときているので、とことん相手を選ばない。
まぁ、いくらなんでもチートだという自負はあるので、実はその内……(ネタバレフィルター)
次回、1クールの殆どをかけて行われた"アレス"も、遂に決着の時を迎えます。
最後に優勝という栄冠を勝ち取るのはいったい誰か……予想しながらお待ちくださいませ。
管理人感想
放浪人テンクウさんからいただきました!
ジュンイチの瞬殺(された)劇はツッコまない方向で。
シリアスバトルじゃ問答無用でチート・無双・俺Tueeee!の三拍子がそろうんだから、こういうお祭りバトルの時くらい死んどけ(酷
一方でなのは達は敢闘賞。うん、よくがんばった。
相手が相手でなければ勝ち進めていたでしょうね。さすがは白い魔王とそのしもべ(マテ