―ネガショッカー大襲撃から2週間後、デルポイ大陸の某所―











 「大丈夫なのかい?単身でミッドチルダに滞在するミッションを引き受けて」


 「誰か同伴させた方がいいんじゃないか?ほら、ある意味でお尋ね者なワケだしさ」






 何を言い出すかと思えば…。まぁ、アコやマジコの心配もごもっともだよ。よく分かる。

 だから、頭ごなしに否定したりする気はないし、寧ろありがたいことなんだろう。

 とはいえ、個人的にどうしても譲れない事情というのもあるのだ。そういう意味では振り切らせてもらう。

 ミッドで"やり残していること"もあるワケだし。






 「まったく、新入りが単独ミッションをこんな短期間で受け持つなど、どうかしている」






 ルストよ、残念ながら、こちとら長期間の単身ミッションについては慣れっこなんでね。

 寧ろ連係ミッションの方がよっぽどブランクがあるし、これは後で慣熟訓練も含めて考えなきゃいけないだろうね。

 まぁそれはあくまでローレル親分の領分だ。もう少しの間は自分なりにやらせてもらう。






 「ほんじゃ、お手並み拝見ですねぃ。吉報を待ってますぜ新入りっ」






 わかっている、わかっているさクラッズ…。

 そんなこんなで、僕は生まれ変わった相棒を頭にのっけて、目の前にある転送ゲートを見据える。

 やる気を入れなおすべく、宣言をしながらゲートへ飛び込んだ。






 「ルーラ with ストラナ、ミッションを開始する!」
























































――これは、星が隠した太古の因果を紐解く物語――














































「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






「とある旅人の気まぐれな日常」






第37話「無色星:神出鬼没な情報屋」














































 ネガタロスをブッ飛ばし、フェイトも横馬もジュンイチさんも元に戻って一安心となったある日。

 いやぁー、我ながらヤバい!って思った場面もあったけど、どうにかなってよかったよねー。

 ……なぁーんて、安堵しっぱなしでもいられないのはわかってる。

 まだ落ち着けない問題も残っているのは確か。たとえば、マッハたちの行方。これはカオスプライムにもすっごく心配された。

 とはいえ、明確な手がかりは殆どないのが実情なんだよね。






 「で、スターたちは結局、何か見つけられたワケ?」


 「くっそ……そのいかにも"どーせなんもなかったんだろ"と言いたげなニュアンスと恰好がムカつく…!」






 いやいや、そんなニュアンスがどこに込められているというんだい?

 ただちょぉーっと憐れむ目で見て、足を組んで椅子に腰かけてるだけじゃないか。






 「それが癪に障るんですよ…」


 「絶対、分かった上でやってる確信犯だよな、恭文は…」






 むむ、アレックスやポラリスまで失敬な。






 「まぁ、スターたちが手がかり1つ見つけられずじまいなのも仕方ない話だ。

  トラルーは一度姿を暗ませると、とことん尻尾を出さないからなぁ…」






 うわ、ポラリスの補足のおかげで余計に進展が見えそうになくなったよ。

 今度はどんな理由で姿を消してるのか知らないけどさ…。

 考えられる可能性があるとすれば、とりあえずミッドにいるって線はなしかな。

 六課とネガショッカーの主戦場はこのミッド。で、プレダコンズもネガショッカーの傘下。

 全く手を付けてないワケじゃないだろうけど、デルポイの方は緩くなってるとは思う。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「ようこそ、ご足労ご苦労様ですクレアさん。さぁ、こちらに」


 「ありがとうございます」






 今、ボクたちは聖王教会にいる。以前アストラルから渡された、詳細不明の古ぼけた地図を分析してもらっていて、その結果発表。

 シャッハさんの案内で、会議室と思しき場所に通される。

 ちなみに、今回同席しているメンバーは、イリアス、ヴェルヌス、リュウビ、ナイトメア。

 リュウビにナイトメアとくれば大抵ハカイオー絶斗もつるんでくるって話だったんだけど、彼は先の大襲撃で深手を負ってメンテナンス中。

 そういえば、ナイトメアは興味ないとか言ってなかったっけ?






 《ふん、単なる気まぐれさ》

 《とかいって、本当は自分をかばったせいでハカイオー絶斗がメンテ行きになったから、負い目を感じてるんでしょ?》

 《ば、バカ言うなっ》






 大襲撃の時に何かあったみたい。まぁ、本人は話したくなさそうだから、これ以上は突っ込まないけど。

 なお、リュウビがいるのは、ボクと一緒に地図をもらった数少ない当事者だから。






 「しっかし、アキレス・ディードだっけ?アイツ、何考えてんだろな?

  六課も敵だーとか言っといて、あんな古ぼけた地図渡してくるなんてさぁ?」


 《……"ハングドマン"の正位置》


 《ハングドマンって確か、吊るし人、だっけ。タロット的にどんな意味が?》


 《正位置の意味は、犠牲を強いられる、試練に耐えられる、苦しい立場、献身的に尽くす、奉仕的精神。

  しかし、アイツにはどれが当てはまるんだかねぇ》






 イリアスは、アストラル経由とはいえ、あの地図がアキレス・ディードからもたらされたものだから、

 胡散臭い感じがしててしょうがないんだと思う。ボクもあの地図をどうとらえればいいのかわからない。

 それはそうと、ロールアウトさせたサリエルさんいわく、ナイトメアのタロットはよく当たる。

 なら、少なくともどれにも当てはまらない、っていうのはないんだと思う。






 「そこから考えるなら、おそらくは『苦しい立場』でしょうね」


 「カリムさん」


 「彼の発言記録も見せてもらったのだけど、引っかかる発現があったの。

  『特別な力を持つからと一般人を狙う者は、等しく敵だ!!』

  たった1体で管理局にもネガショッカーにも銃を向けるなんて、普通は考えられないこと。

  逆に滅ぼされるような危険な行為をしてでも、ということは、それだけの衝撃を受けた事情があるはず。

  それも、所属を問わず無差別に、となると、よほどの事情があるはずよ」


 《まったく、どこぞの私設武装組織でもあるまいし》


 「でも、可能性はあるですねぇ。アキレス・ディードと接点があるらしい、あの女の子」


 《ミスリル、だね》






 ナイトメアが引き合いに出した私設武装組織って、太陽炉積んだガンダムのアレ?知ってるんだ…。

 カリムさんの仮説が当たっているなら、その根本にあるのは多分、ヴェルヌスとリュウビが指摘したミスリルって子の存在だと思う。

 以前フェンリル他ネコ科メンバーを暴走させたけど、アキレス・ディードとはパートナーみたいにも思えた。

 戦闘向けの能力者じゃないからか、大襲撃の時には姿を見せなかったようだけど…。






 《……その考え方自体、危ないのかも》


 「なんでさ」


 《そもそも、能力者と一般人の定義ってなんだろうって、思ったんだ。

  端的にいえば、魔導師とかブレイカーとか、そういう人たちのことなんだろうけど、

  戦う為の性質じゃない能力を持ってる人でも、能力者って呼ぶのかな?


 「今となっては、判断は難しいでしょうね。

  戦闘向けであるか否か、その境界線も割と曖昧だもの」






 何かしら特別な能力を持っていればそう呼ばれるのか、戦闘に特化した能力を持つからそう呼ばれるのか、

 リュウビが出した疑問は、今のボクたちに解明する術がない。

 さすがのヴェルヌスも、滅多に見せない真剣な顔でうなっちゃってるくらいだし。






 「みぃ、ところでシスター・シャッハ。この紅茶、なんのブランドですかぁ?」


 「今回の紅茶はですね…」


 「ヴェルヌス、口調変えるタイミング間違ってねぇか?」






 いきなり猫キャラになられても……ねぇ?




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「いやぁ、今回はよくもまぁ集まってくれたね。我が同胞、"眷属霊けんぞくれい"の諸君」






 そういって僕が見回す先には、他に6人の同胞たち。

 みんながそれぞれ、ユニクロンによって目的をもって生み出された精神生命体たちだ。

 ユニクロンの眷属として生み出された精神生命体。そこから転じて「眷属霊」という呼び方ができた。

 ……まぁ、世間一般に広めているワケじゃないんだけど。






 「いや、オイラはわかるぜ?トラルーに用があって、それを済ませたばっかりだし。

  けど他の連中……特に地球滞在組については何故にホワイ?なんだが」






 彼は「ルマトス」。眷属霊としてはみどりの者。

 機械技術特化系で、設計・製造からメンテナンス、果ては解体まで、メカニックとしてはなんでもござれだ。

 ハッキリ言って、技術精度と熟練度、そして作業スピードについては、僕の能力を遥かに上回っている。ハンドメイドデバイスも数時間で完成させるぐらいに。



 そんな彼は純白の髪に緑の瞳、深めの緑色の布をハチマキ状に巻いている。結びは1回だけ、後頭部で交差させてる。

 緑のインナーと黒いスパッツ状のショートズボンの上に、薄手でブカブカ、半袖の上着。ブカブカ具合は、ローブみたいなモンか?

 あとはグレーの手袋とブーツぐらい。溶接作業時のみ肘や膝まで届く長さのものに変更するけど、普段は一般的?なサイズだ。






 「そーなんよねー。アタイなんて特にミッション関係とか蹴ってるのに、よくもまぁ見つけて呼んでくれたわ。

  ま、アストラルの呼び出しならじゅーよーなお知らせなんだろーけどー?」






 彼女は「イシュナ」。眷属霊としてはあかの者。

 戦闘特化系かつバトルマニア。とにかくバトル以外は眼中にないし、ぶっちゃけバトル以外で使えない上に使う気もない。

 あと、基本的に自分を物理的に打ち負かしたヤツの言うことしか聞かないから、面倒でしょうがない。



 赤いショートヘアーに同じく赤の瞳、ノースリーブでオレンジと赤の上着に黒のスパッツ。上着はインナー系の材質。

 手甲も兼用している手袋に丸みを帯びたグレーのブーツ。これらはチタン合金で作られているので、肉弾戦で使われると非常に危ない。

 動きやすさ重視なので服もとにかく簡素。ていうか、オシャレについては微塵も気がいってないだけかもしれないけど。






 「お題については、オレッチはなんとなく想像つくけどなぁ〜。

  大方、この前やった"アレス"でのドタバタに関係してるんだっぺ?」






 彼は「ダグザ」。眷属霊としてはだいだいの者。

 地球潜伏組の1人であり、何やら「惑星農耕組合」とやらの太陽系支部ってところにいて、しかも会長になってたりする。

 まぁ何してるかっていうと、ぶっちゃけた話、地球で農業しながら生活に溶け込んでいるってワケだ。



 短くまとめてある黒髪にオレンジの瞳、頭にはバンダナ状に巻いたタオル。オレンジのオーバーオールに茶色の半袖インナー。

 あとは軍手と、耐水性も強度も抜群なスゲェ長靴。見事なまでの農業装備だが、普段はクワとか持ってることが多い。もはや立派な農民。

 眷属霊だってことはちゃんとわかってるけど、かといってユニクロンから与えられた役割を果たす気はないらしい。






 「私も鳥たちの噂で聞いたけど、ネガショッカー?アレが派手に暴れたらしいじゃない?

  んで、よりにもよって私らの同胞も絡んでる」






 彼女は「アネモイ」。眷属霊としてはの者。

 地球潜伏組の1人であり、鳥たちに魅了されてバードウォッチングに目覚めた。んで、現在はバードウォッチング以外に動きは起こしていない。

 ユニクロンから与えられた役割については、実は誕生直後から放棄してたりする。まぁ、気持ちはわかるから止めなかったけど。



 金髪のポニーテール(幅広め)に金色の瞳、ベージュを基調とした半袖半裾のインナースーツ。

 その上に黄色を基調として黒のラインを外周に施している半袖ジャケット。背中のリュックにはウォッチング用アイテム多数。

 黄緑の手袋と、通気性が良さそうな素材で作られたシューズ。登山用に長靴も持ってるとか…。






 「ぼかす必要はないだろうから、単刀直入に言わせてもらえばトラルーね。

  ルマトスが言ってた用事っていうのも、その辺のことが関係していたりするの?」






 彼女は「セオリツ」。眷属霊としてはあおの者。

 地球潜伏組の1人で、こちらは魚やら貝類やら、水棲生物と共生してるっつーか、ぶっちゃけ漁業関係者になってる。

 宇宙漁業連合「海原うなばら」の副長。役割云々については、2年前に挫折の報告を受けた。気持ちはわかった。うん。



 水色の瞳に青い髪、髪は肩まで届く長さのツインテール、しかしながら本人のコダワリによって結び目を垂れ下げている。

 服は黒でノースリーブのボディスーツの上に上から見て×の字に見える形状の水色のスカート、胸元に青いリボン。

 薄くも固い青のブーツ、そして両手には肘から下にかけて少し長い水色の振袖。和風なのか洋風なのかよく分からないが、まぁいいんだろう。






 「ルマトスのことだから、おそらくメカニック関係での用事でしょうけど…図りかねる。

  デバイスを持っていることは私も確認済みだけど、あんなもの接触融合解除のショックで消滅してるでしょうに」






 彼女は「ノートラム」。眷属霊としてはむらさきの者。

 普段は夜間のみ請け負う殺し屋。一応、単体戦闘力では僕ら7人の中でもトップクラスで、それを活かしてのことらしい。

 現状でユニクロンから与えられた役目を遂行しようとしてる、ほぼ唯一の存在。なお、僕はどうかというと、中途半端なので除外しました。



 グレーの髪は2つに分けて、結わずに肩まで伸ばしてる。瞳は紫。

 ノースリーブでラベンダー色の上着、濃いめの紫のスカートの下は黒タイツ。グレーの手袋とブーツ。

 実は、昔はもっと大胆……もっと言うと腹部と腰部の肌もあらわになるくらいの露出度の服装だったんだけど、とある事件によって今の服装になってる。






 「あいにくだがノートラム、その想定はハズレだ。彼のデバイスもちゃんと残っている。

  まぁシステム面にダメージを受けたのは事実で、その再調整の為にルマトスを呼んだってワケさ」


 「言っちゃなんだが、結構いい仕事させてもらったぜ。今度は大怪我どころじゃすまないかもな?ノートラム」


 「ッ……思い出させないで。傷がうずいて……苦しいから」


 「オイラから見ても自業自得なんだけどなー」






 ノートラムが服装を変えるキッカケになった事件、それは、僕らがトラルーも交えて、実力を測る為にやった模擬戦でのこと。

 時期的には、古代ベルカ戦争終結からすぐ後。端的にいえば、トラルーが精神的"爆弾"を明確に抱え込んだ後のことだ。

 ちなみに、"アレス"終わり間際の動乱で姿を見せたリヴァイブとヒリングについては関係ない。彼らはノートラムよりも更に後に誕生したから。

 "爆弾"については僕も知っていたので、模擬戦開始前にみんなに注意しておいた。「掘り下げようとするな」ってね。

 しかし、戦いの中で挑発することの有効性を試したかったのか、ノートラムはわざとその"爆弾"を爆発させてしまった。



 悲劇、否、惨劇までの時間は一瞬。まだ今みたいに心理的に落ち着けていない状態だったのもあって、トラルーは一瞬でブチギレた。

 一瞬でノートラムに肉薄し、乱打乱打の超乱打。オマケに"防御効果一切無視"という特殊効果を持つ"トランスレイズ"で更に痛めつけた。

 ボロ雑巾どころか、砕かれてなおかろうじて破片同士がひっついているクズ鉄みたいな有様にされて、

 さすがに過ちに気づいたノートラムは心も体も涙でぬらしながら命乞いしたんだけど、あの時のトラルーは、下手すると今よりもずっと残虐無比。

 命乞いを聞くだけ聞いたら、なんの迷いもなしにトドメの一撃。マジで1回絶命させている。

 よっぽど恐ろしかったのだろう、今では末期症状のトラウマで、姿を見ただけでも泣きながら震え上がるほどの恐怖を感じてしまう。

 あと、僕ら眷属霊には共通してユニクロン譲りの超再生能力があるんだけど、それをもってしても傷跡を全部は消せなかった。

 ノートラムの今の服装が露出度控えめなのは、とにかく傷跡が目立ってしまうから。ていうか、体の傷跡が今も消えない。



 ルマトスも言ってたけど、ノートラムの自業自得ではある。「爆発させたら殺されるトラウマスイッチあるから刺激するな」って注意したのに、刺激したから。

 とはいえ、あの惨殺事件から100年以上経っている筈なんだけど、それでも未だに傷跡が残り続けてるって、何かの呪いみたいだ。






 「触れてはならない領域に土足で踏み込んだ罪を、一生刻み付ける目的があったのかしら?」


 「んだ、きっとトラルーの祟りだべな」


 「た、たたたた祟りだなんて、そそそんな大げさなっ」


 「すっごい震えてるわよ?」






 セオリツの話にダグザが同調、それにイシュナがガチガチ震えまくってるのをアネモイが察知。

 気持ちはすっごくわかる。僕だって、あの惨殺事件以降は「絶対にトラルーのトラウマはえぐらない」って誓ったし。

 結局、惨殺事件によって模擬戦は中止されたんだけど、あのイシュナまでトラルーの話には従う辺り、衝撃度は凄まじい。

 文面でその凄まじさというかグロさを伝えきれないのは、はたして幸か不幸か。

 なお、この件以降、僕らは揃ってトラルーのことを「羅刹の0番」なんて勝手に名付けて、畏敬の念を向けているワケなんだけど、

 気づいたらとっくの昔に殺戮の羅刹になってて、ビックリしたね。ていうか、条件付きとはいえ余計に悪化してる気さえする。



 あ、そうそう、みんなそれぞれで武器やら戦闘向けの能力やら持ってるんだけど、それはまた違う機会にお教えしよう。






 「さて、そんなトラルーだけど、つい先日ミッドで再び活動している姿を確認した」


 『!!』


 「その行動目的は不明。しかし、独自に行動し、ネガショッカーと幾度か戦闘しているようだ」






 機動六課の方に向かう様子もないのが妙なんだけどね。

 それに、活動しているといってもゲリラ状態。特に誰かと一緒ってワケでもなく、1人で行動してる。

 ミッドで活動するからには、現状ではゲリラ状態になるのも仕方ない話だろうけどね。






 「バカな……私も今はミッドで活動している。けど、アイツの姿なんて一度も…!」






 ノートラムが1番うろたえてる。しかし、ユニクロンの意思細胞であるダークコマンダーの目を欺きつつの活動だ。

 眷属霊という、ユニクロンと密接な関係にある僕らに簡単に見つかったらしゃーないじゃん。

 ていうか、ノートラムは見つけなくてよかった気もするけどね?ほら、トラウマ発動で惨殺の恐怖に震えることになるし。






 「んで?誰かがアイツに挑んで、ブッ飛ばせって話?ならアタイが乗ってやらんでもないぜ?」


 「やめとけ。多分、一瞬で返り討ちにされる」


 「にゃにー!?アタイだって、前よりはずっとずっと強くなってんだ!そんなボロ負けするかよ!

  第一、今のアイツはあのチート技が使えないんだろ!?」


 「それでも、やめといた方がいいと思うんだけどなー」






 実は、今のトラルーはトランスムーブ、トランスカウンター、そしてさっき言ったトランスレイズといった、トランス系の技が一切使えない。

 多分、バグジェネラルとの接触融合による作用なんだろうけど、切り札が無くなるって致命的だ。

 …………まぁ、トラルーには切り札なんていっくらでもあるんだけど?そりゃもう無理ゲーとか言いたくなるぐらいに。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「みんな、ちゃんと集まっとるね?今日は新メンバーの紹介するから、ちゃんと聞いたってなー」






 ある日の集会。今回は何やら新メンバーの紹介があるということで、普段は夜勤になっている交代部隊からも何人か来ている。

 具体的には、交代部隊の隊長であるシグナムさんと相棒のホシケ…スターセイバー、他スタッフ数人。

 でも、いきなり新入りとは穏やかじゃないね?






 「まぁ、新入りとはゆうても、1人は既にみんなも知ってる子や。

  もう1人も、この前"アレス"に出てた子たちにとっては初めて会うワケじゃないやろね。

  あぁもちろん、今回が正真正銘のお初な子もおるけどな」






 新メンバーの内2人は、どうやら名義上の問題らしい。さて、誰が来るやら…。






 《みんな、お久しぶりです。オーディーン改めエルシオンです。よろしく》


 「機体の損傷が激しすぎたので、製造していたテスト機にAIを移植して再調整を施したものです。

  基本装備は槍の『エルシオンハルバード』と盾の『エルシオンシールド』。なお、諸事情により飛行形態への変形はオミットしてます」






 あぁ、オーディーンたら修理どころかバージョンチェンジじゃないですか。

 変形機構も含めて損傷甚大だったらしいし、まぁパワーアップでなくても違う機体になるとは思ってたけどね。

 いきなりレルネが出てきたから何事かと思ったら、説明役としてはやてに呼ばれてたのね。



 エルシオンは、頭部にオレンジのトサカ、カメラアイは黄緑、ボディの大半は白を基調としている。

 肩アーマーとか腕部や脚部なんかは丸みを帯びた形状だけど、トサカや手にしている槍なんかはちゃんと鋭さを見せている。

 胴のV字状になっているパーツと肩アーマーの上半分、足の下半分、背中にあるマントは紺色。手首は黒。

 基本装備のハルバードとシールドは、オーディーンでいうところのリタリエイターとビームガーターに相当するんだろうね。






 《蒼凪恭文他、"アレス"参加者たちには世話になった。ゼノン改めトリトーンだ》


 「ネガショッカーにいましたが、どうやらやり口が気に食わなかったようで、こちらに戻ってきてくれました。

  戻ってきた際にAIメンテも兼ねてボディを改修したのがトリトーンになります。基本装備はハンマーの『シーホースアンカー』です」






 ゼノンという機体がネガショッカー側……というかアストラル側にいるって話が上がっているだけに、会場がどよめく。

 しっかし、ガラリと雰囲気変わったなぁ。六課の民間協力者として名を連ねるのに不都合がないように、ってことでいいのかな。

 まさかの「秒殺の皇帝」参入とはね。アストラル側で何があったか知らないけど、まぁ敵じゃないというのは以前のアレコレでわかったし、不審がることはないと思う。



 トリトーンは、三角帽子をかぶったような頭部、大きく張り出したフィンとスラスターのような形状が特徴的な肩アーマー、

 胴体や脚部は流線型のラインが多く、背中には逆V字型の特徴的なマントもある。胸部は艦首にも見える。艦船型に変形するとかないよね?

 水色、紺色、茶色の3色を主体として、カメラアイは黄色。手と手首付近のスクリューみたいなパーツは白。

 基本装備のシーホースアンカーは、ハンマーのヘッド部分が丸ごと錨になってる。殴るだけじゃなくぶった切るとかもできそう。






 「エルシオンとトリトーンは、紹介にもあった通り、元オーディーンに元ゼノンや。

  トリトーンの方やけど、AIから過去の通信履歴とアドレスデータは抹消しとるし、固有周波数と固有通信アドレスも変えてあるから、

  もしアストラル側からコンタクトとろうとしても、全てシャットアウトできるようにはしとるから安心してな」






 なるほど、AIメンテってそういうことか。要はアストラルが逆探知の端末として利用しようとしてもできなくしてあるってワケだ。

 まぁ、逆探知して何するってほどのこともないとは思うけど…。






 「こっからは正真正銘の新メンバーや」


 「ご紹介する2体、実はAIの基礎教育期間を前倒ししてのロールアウトなので、至らない面も多々あると思います。

  当面の教育係としてエルシオンとトリトーンをつける形になりますが、みなさんからもいろいろご指導していただけると幸いです」


 「紹介してもらう前に1つだけ聞いておきたいことがあるんだが」


 「なんや?マスターコンボイ」


 「何故、基礎教育の期間を前倒しにした?おそらくは行方不明のままなパンドラとフェンリルに代わる補充人員として、だろうが…」






 レルネの説明にマスターコンボイが食いついてきた。まぁ、フツーはそう思うよね。

 教育が完了していない段階でロールアウトするってことは、スケジュールを前倒しさせるだけの事情がある筈だ。

 パンドラとフェンリルが行方不明のままである以上、さすがにレルネも黙ってはいないとは思ったけど…。






 「補充人員という側面もあるにはあります。しかし、今回の前倒しの理由は別にあります。

  こちらとて、パンドラとフェンリルの捜索、というより奪還については意識しまくっていますから。

  しかして相手はネガショッカー。人手は多いに越したことはありませんし、開発自体はエルシオンのボディと同時期でしたからね」


 「要はパンドラたちの早期奪還と、エルシオンと共に行動することで行う慣熟訓練を兼ねているワケか」


 「そういうことになります」






 今度の新型は、エルシオンのボディと同時期に開発されていたらしい。

 まったく、次から次へと新しい人型デバイスを繰り出してくるモンだよね。

 そりゃあ六課という環境はテスト運用や稼働データ採取にはうってつけなものだとは思うけどさ。






 「では、まずはペルセウスから。

  こちらは機動性重視の機体です。基本装備は『ペルセウスソード』の二刀流、素早い動きからの斬撃ラッシュを想定しています」


 《初めまして!ボク、ペルセウスと言います!まだまだ未熟ですけど、みなさんのお役に立てるように頑張ります!》






 ペルセウスと呼ばれた機体は、青を基調としたカラーリング。カメラアイは黄緑で、頭部には西洋騎士のヘルムにありそうな細長いトサカ。

 マッシブな雰囲気もあるエルシオンとは対照的に、スタイリッシュな感じ。腕は細め。足はヒザ部分のパーツのせいもあって忍者っぽい。

 腰には裏面が赤でもう片面が白になっているマント。逆V字型だけど、トリトーンより縦に短く横に広い。

 武器のペルセウスソードって、なんか鉈みたいな感じ。斬りつけるだけじゃなく、引っかけるなんてこともできそう。






 「こちらはミネルバといいます。基本装備は『ミネルバクロー』の2つで1セット。

  ストライダーフレーム特有の素早さに加え、量産機程度なら一撃でブレイクオーバーできるほどのパワーを兼ね備えています」


 《ネガショッカーだろうがなんだろうが、みんなにとっての敵なら私がガツーン!ってブッ飛ばしてやるからね!》






 ミネルバは、女の子らしく?ピンク主体のカラーリング。カメラアイは黄緑、頭部にはリボンみたいにも見える大きな耳飾りが2つある。

 細い外観からスピード重視と思いきや、攻撃力重視型らしい。意思表明がてら彼女は100枚の瓦をかるーく割ってみせた。

 腰背部には細長い2本のスタビライザーと、黄色いブースターパーツもある。後ろから見るとリボンしてるみたい。

 武器のクローは鉤爪。だけど重厚で、打撃武器としても申し分ない威力を持っていそう。それに加え瓦100枚割りのパワー、侮りがたい。






 《……遠距離型はなし、か。ハブられたな、フェンリル…》


 「いえ、狙撃ではないにしろ射撃型の機体もあります。ただし、別口でロールアウトしているので、呼び戻しに時間が…」


 《メイン武器は?》


 「二丁拳銃です」


 《やっぱりハブられてんじゃん》


 「あるぇー?」






 オメガの指摘にレルネが弁明するけど、武装が違ってる時点でポジションは消滅してるよね。

 頭数は揃ったけど、遠距離援護役がいないっていうのは連係攻撃の観点から見てどうなんだろう。






 「以上、新メンバー4機については、当面の間フォワードの別働隊及び哨戒任務に充てることになっとる。

  指揮系統としてはロングアーチの方で総合的に管理させてもらうから、そのつもりでなー」


 「特にスターズとライトニングは、前線任務で一緒になるですから、仲良くするですよー」






 基本的にはクレアさん達と同様の民間協力者としてのポジションでいいみたい。

 その内、模擬戦か何かでお手並み拝見といきたいかな?特にペルセウスとミネルバは、未知数なところも多いし。

 エルシオンとトリトーンも、何かと手強そうだけどね。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「そうか、未だに消息は分からずか…」


 「申し訳ございません、ダークコマンダー様。かなりの兵を派遣して探させているのですが…」


 「『やはり、一筋縄で見つかる相手ではないようですね」』


 「そのようだ」






 ブラックアラクニアや"Xカイ"から報告を聞きつつ、少しばかし息をついてしまう。

 というのも、あの一件以降トラルーの行方が掴めないのだ。既に捜索隊としてアサルトジャガーを筆頭とした部隊をデルポイに派遣している。

 ミッドでの1時間は、デルポイにおける1日に等しい。今、デルポイでは3ヶ月前後は既に経過している筈なのだ。

 それだけの期間を費やしても発見できない、ということは……ミッドに移動しているのか?我々の知らぬ間に、一切の痕跡も残さずに。

 いや、それどころか、派遣していたナイトイーグルやバスタークローなどの無残な残骸が転がってすらいる。

 発見できていたとしても通信等をする暇もなく、一瞬で破壊されている、ということか?






 「しかも厄介なのが、破壊された機体は全てメモリー部分を粉微塵にされていること。

  おかげで、戦闘中に何があったのかを把握することすらできずじまいでして…」


 「未だに尻尾の先端すら掴ませてもらえない、というワケか」


 「はい…」





 数百年単位の戦場経験の賜物、か。尻尾を掴ませない為に、メモリー部分を集中的に攻撃しているようだ。

 メモリーをこちらが回収すれば、遅かれ早かれ潜伏場所を特定される可能性が高まるからな。

 逆に見つかったとしても、見た者全てを抹殺して証拠隠滅してしまえば、少し離れたところに移動するだけで特定しづらくなる。

 随分と念入りな攻撃のようだがな?






 「トラルーについてはわかった。そのまま捜索を続けろ。

  タランスからは、何か追加報告はあったか?」


 「先日鹵獲できたパンドラとフェンリルについて、改造と調整が間もなく終了するとのことです」





 実際、パンドラとフェンリルの収穫は大きかった。本来はオーディーンも鹵獲したかったが、そちらはアキレス・ディードとお取り込みしていたしな。

 不意打ちではあるが、リヴァイブとヒリングの実力も少しは知れた。ハルピュイアとレヴィアタンが抜けた穴は埋められるだろう。

 まぁ、ネガショッカー同士のよしみでネガタロスなどにも貸すことはあるが。



 ここまでくれば、更なるワンアクションを起こすには十分か。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 『スターストーン?』






 聖王教会から戻ってきたクレアさんと、"アレス"の一件でなんやかんやで親しくなったらしいダークハウンドからもたらされた情報。

 それに僕らはたまげているところだった。あ、ダークハウンドについては、集会が終わった辺りで普通に来客として訪ねてきた。親しげな海賊だなオイ。

 特にモメることもなかったことについては、何かと世話になったというビコナたちのフォローもあった。まぁいいヤツだってのはわかってるしね。






 「アストラル経由でアキレス・ディードから提供された地図は、スターストーンと関わりを持つアイテムらしいんです」


 「なんでも、デルポイに残されている財宝伝説に絡むシロモノだという話だな」






 クレアさんが見せてくれた地図は、一見すると古ぼけた地図でしかない。

 分かるのは、その地図がデルポイ大陸とその周辺を示しているのと、ダークハウンドが言う財宝伝説に関係しているブツだってことだけ。

 だって、こーゆー古ぼけた地図が唐突に出てくるってことは、絶対何かあるじゃないか。






 《してダークハウンド、その財宝伝説とはいかなるものなのです?》


 「あぁ。今のように都市が築かれていない、いわゆる"開拓時代"よりも更に前のデルポイでのことだ…」






 アルトからの質問に、ダークハウンドがすぐに対応してくれた。

 んで、話してもらえた情報をまとめると、



 1:開拓時代よりも更に前、デルポイ大陸には、今は亡き大帝国が1つ築かれていた。

 2:その大帝国は、皆が幸せに暮らし、大変栄えていたという。

 3:しかしある日、突如大帝国に"恐ろしい災い"が降りかかった。

 4:空は怒り大地は震え、『世界の終わりが来たようだ』とその時の人々は語った。

 5:一夜にして大帝国は滅び、海の底に沈んでしまったという。

 6:やがて遥かな時が流れ、全てがおとぎ話となった頃、大帝国跡地には新しい都市ができた。

 7:都市の人々は言った。『地下世界には古の大帝国の財宝が残っている』と。今もずっと、残っていると。



 跡地にできた新しい都市というのは、"アレス"の本戦が行われた闘技場も有する人工島都市「クセルクセス」のことだ。

 クセルクセスには地下世界へ通じる扉が残されていて、地下世界はかつて滅びた大帝国が遺跡と化したものらしい。

 いかにも宝探しっぽい雰囲気マンマンな情報だけど、そのお宝がスターストーンだってこと?






 《いや、スターストーンはあくまでも財宝への鍵であり道標だ》


 「カリムさんが調べてくれた情報によると、スターストーンは全部で7つあって、まずそれら全てを集める必要があるらしいんです。

  7つのスターストーンが1つに集まることで、初めて宝へと通じる扉が開かれる、と…。

  そしてこの地図は、スターストーンの現在の在り処を示すレーダーのようなものだということです」






 僕の疑問はナイトメアとクレアさんによって解決。

 つまり、地図が示したものからどんどんスターストーンを集めることで、やがて地下世界にあるお宝の在り処を示す、と。

 大帝国がほぼまるごと遺跡になったのが今のデルポイの地下世界だってことらしいし、しらみつぶしに探すのはさすがに苦労が大きすぎる。

 それと、解決しなければならない疑問はもう1つ。お宝がなんなのか、ってのもあるけど……






 「なんで、アキレス・ディードは自分で探さずに六課に地図をあげちゃったんだろう。

  お宝がなんなのかわからない、とはいえ、見つけられれば僕らのメリットの方が大きいだろうに」


 《俺たちを利用している、っていうのは間違いない。

  漁夫の利みたいな感じで横取りしようとしてるか、スターストーンを集めきった頃合いを見計らって奪うつもりか…!》


 「オーディ…じゃなくて、エルシオン、どうしたの?そんなに声に怒気を混じらせて…」


 《プレダコンズがルシファーを作ったのも、きっとアイツが絡んでるんだ…!

  創主レルネに作ってもらった恩を忘れて、ネガショッカーなんかと組むなんて、俺は絶対に許さない…!》






 僕の言葉に、思わぬ形でエルシオンが噛みついてきた。なんか、むき出しにしちゃいけないものをむき出しにしているような…。

 それに、ネガショッカーと組んでるなら、なんで怪人側にまで攻撃を加えたのかっていう説明がつかない。

 演技、にしては不自然な発言も多いし、決めつけるには時期尚早だと思う。






 《落ち着くんだエルシオン。ルシファーの存在については、寧ろ僕の方に関係がある。

  創主レルネの元からAIと一緒に盗まれていた設計図を基に僕のボディを作ったのは、まだネガショッカーと組んでいた頃のアストラルだ。

  その時に得られた設計概念やノウハウをネガショッカー流にアレンジ、バージョンアップを繰り返した末に完成したのがルシファーなのだろう。

  セラフィックモードという特殊モードを搭載しているのも、その影響だろう》






 既に怒りで肩を震わせているエルシオンに、トリトーンが言った。

 ゼノンというボディはアストラルが作ったんだっけ。AIはレルネが作ってたけど、解析してノウハウを得ることぐらい、きっとアストラルなら簡単だ。

 ひとまず、アキレス・ディードの話は終わりにしておこう。ここでこれ以上考えたところで、多分わかりそうにないし。






 「スターストーンについては、現地民といえるデルポイの者たちでさえ、知らないことが多いようだ。

  だが、知る者はその存在、ひいては財宝伝説そのものに対して、世界規模の危険性を提唱していると聞く」


 「世界規模?そんな大げさな…」


 「根拠としては、スターストーンが導く先にあるお宝について、だな。

  確固たる証拠はないが、宝は使っても使いきれない財宝であるとも、古の怪物とも、はたまた中身がない、とも…。

  だが、いずれも『そんなワケない』と否定できるワケでもない。そして、危険性を提唱する根拠はもう1つ」






 ダークハウンドの話にティアナがちょっと信じられない感じだけど、まだ続く。






 「寧ろ、根拠としてはこちらの方が有力かもしれないが、スターストーン自体に秘められている力だ」


 「ただの宝石ではないのか?」


 「先ほどの話で、スターストーンと魔法の地図が連動することは分かったか?

  だが、魔法の力を持つのは地図だけではない。いや、スターストーンの方が遥かに強大なんだ。

  それこそ、使い方次第では何が起きるか想像もつかないほどに」


 「宝石というよりは魔石ということか?」

 「そういうことになる。一説では、魔法の力で魔石を加工したものがスターストーンではないか、ともいわれている。

  なんにせよ、スターストーンがあるところには、何かしら異変があると見ていいだろう」






 話は大体わかったけど、レリックでもないし六課が手を回すようなシロモノなのかな。

 基本的に六課のお仕事は、レリックを筆頭としたロストロギアの迅速な確保や無力化であって、宝探しじゃない。

 いや、面白そうといえば面白そうだけど、確証がないんじゃ……ねぇ?






 「とはいえ、気になるのも事実だよ。本当にロストロギア級の力を持っていたら、放置なんてしてられないし」


 「不確定要素がある以上は、誰かが直接調べた方が後々の為になると思う」


 「となれば、メンバーの一部で探索チームを作って調査してもらった方が効率がえぇな。

  スター、イテン、ビコナ。君らはまず探索チーム決定やな。ほら、トラルー探しも並行できるし」


 「なるほど。デルポイで探す分にはちょうどいいでおじゃるね」


 「途方もない探し物だってことは一緒だし、寧ろ好都合かもな」


 「デルポイで行動できるならオッケー。けど、ノーザン連れてかないとまた…」


 「あぁ、せやね…。ノーザンも探索チーム、お願いしてえぇかな」


 「寧ろお願いします」






 横馬とフェイト、はやての3トップ同意によって、デルポイ側でスターストーンの調査を行うチームを作ることに。

 ビコナ、スター、イテンを筆頭に、ノーザンも加えて、他はどうしようか。






 《僕も志願しよう》


 「トリトーン。行ってくれるんか?」


 《元々僕たち人型デバイス組、ひいてはトラルーを筆頭としたグループは民間協力者の立場。

  正規メンバーである隊長やフォワードたちよりは、自由に動ける筈だ》


 「確かに、ミッドの方を手薄にするワケにはいかないし、動きやすいメンバーで固めた方がえぇやろ。

  トリトーンの他、エルシオン、ペルセウス、ミネルバも探索チームでえぇか?」


 《分かりました。初任務が宝探し…じゃなくて情報収集、それっぽい雰囲気ですね》


 《あたしは、どっちかというとバトルの方がやる気出るんだけど…》


 「デルポイ大陸は、ミッドチルダなどとは比較にならないほど、大自然が色濃く残っている。

  都市部以外では様々なモンスターが多く住んでいて、主要都市を繋ぐ正規ルート以外は寧ろ戦闘だらけだと思った方がいいだろう」


 《なるべく戦闘力も高めなきゃダメってことか…》






 はやての采配で、新型デバイス組も探索チームに。

 ていうか、情報次第ではその正規ルートじゃないところを突き進む必要もありそうだし、寧ろ妥当な人選なんだろうか。

 手並みを拝見できる機会が減りそうなのはなんか残念だけどね。






 「それと、今回俺が来たのは、そちらにマイクロンパネルの情報を提供する為なんだ」


 「神器との関連性は?色とか…」


 「残念ながら未確認だ。なにせ、現在はマスターギガトロンが隠しているからな」


 「マスターギガトロンが!?」


 「現時点で覚醒しているワケではないようだが、機械仕掛けの番人を配置し、ガードしているらしい。

  マイクロンパネルを隠しているポイントは特定済み。あとはそちらに任せる」






 なんかヤバそうなことになってきてない?マスターギガトロンが更にパワーアップなんてされたら、かなり厄介なんだけど。

 主にジュンイチさんと絡むとギャグキャラ化するとはいえ、"支配者の領域ドミニオン・テリトリー"がなくたって、

 マスターギガトロンの戦闘力は文句なしにディセプティコン最強、六課にとっても超強敵なんだから。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「この話、くれぐれも黙秘で頼むよ?だからこそ、わざわざ誰もいない時間帯を選んで来てるんだから」


 「あぁ、分かっている。……しかし懐かしいな。こんな内密なやり取りをするのは、数百年ぶりか」






 その言葉と共に出された2杯目のレモンティーを飲みながら、改めて見回してみる。

 時刻は午前0時、正真正銘の真夜中。ヤタノカガミは朝の開店が遅めである代わりに、閉店時間は夜中の1時。

 カフェであること、更に居住区から少し離れた郊外にあることから、真夜中は驚くほどに人がいない。

 まぁ、この時間帯に起きてる連中なら、別にカフェじゃなくて居酒屋辺りにでも行っているものだけど。

 んで、今この場にいるのは、僕とカナヤゴさんの2人だけなワケですよ。






 「懐かしすぎて時差ボケを起こしそうなほどにね。

  ネガタロス辺りが派手にやらかしたらしいというのに、驚くほど平穏なモンだね」


 「ネガタロス一派の攻撃は、市街地だというのにあまり建造物などへの被害がなかったからな。

  騒動の元凶さえいなくなれば、一般人が平常心を取り戻すのにそう時間はかからないさ」


 「案外タフだな、一般人…」






 ネガショッカーの脅威が去ったとしても、ディセプティコンだの瘴魔だの、問題はまだまだあるだろうにねぇ。

 まぁ、その因縁は基本的に六課に向いてしまっているのだから難儀なものだけど。

 特にディセプティコンについては根本的にはジュンイチのせいなだけに、尚更そう思うよ。






 「今しばらくはゲリラ活動か?プレダコンズが嗅ぎまわっているようだが」


 「そうするしかないっしょ。六課の負担が下手に増えないようにする為にも、迂闊に顔出せないし」


 「だからこうして、情報収集も兼ねてここに来た」


 「そういうこと。カナヤゴさんなら秘密主義の面でも信頼できるからね」






 傭兵時代から組んでいたこともあるだけに、その信頼感はゆるぎないものがある。

 六課の誰かにコッソリ、とも考えたけど、あそこには口が軽いKYが何人かいるので却下。

 特にスバルとマスターコンボイ、ジュンイチ辺りには知られたくない。

 ジュンイチに至っては、何かしらの口実で変なトラブル持ち込みそうだから絶対に嫌だ。

 何が何でもアイツにだけは知られたくない。






 「ジュンイチといえば隠し事の常連の筈だが…」


 「人の隠し事は平気でバラすどころか、どんな形で利用しやがるかわからないから。最悪、知られた瞬間に脳をブチ破って…」


 「情けも何もないな」






 いーじゃん。別に死んだところで生き返るし。






 「さて、と。そろそろ行くよ」


 「分かった。気をつけてな、ルーラ


 「うん。また来るよ」





 お代をキッチリ払って、ヤタノカガミを後にする。

 郊外のひっそりとしたところにあるおかげか、プレダコンズもここは知らないらしい。ノーマークで大変助かる。

 そんなエリアから更に離れた、人どころか生き物の気配すら全くしないエリアへ移動。ここは、複数の崖が密集している、ちょっと不思議な光景だ。



 わざわざこんなところへ来るのは、身を隠しやすいしあまり気を遣わなくて済むから。

 反応ゼロなら眠りを妨げる者もいないし、必然的に追手などもいないことになる。それに地形の影響で空からは崖下の様子が全くといっていいほどわからない。

 ステルスを持つ量産機の存在も否めないけど、それらについてはストラナが持つ特殊センサーが暴き出してくれるので問題なし。

 さぁーて、六課が動き出す前に、一眠りしておこうか。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「マスターギガトロン様」


 「どうした」


 「先日確保できた、マイクロンパネルについてですが…」






 ジェノスクリームから持ちかけられたのは、ネガタロスが騒ぎを起こす少し前に運よく確保できたマイクロンパネルについて。

 確保できてから数日は経つ筈だが、神器のマイクロンでもないのに動きが全くない。

 覚醒の為に必要な条件が、何かあるというのか?マイクロンが3体チームであることが多いなら、複数のパネルを集めてみるのもアリだろうが…。






 「他にもパネルがあり、それが関係するのかという推測もあります。

  既にブラックアウトやショックフリートが捜索を始めていますが、見つからないようで…」


 「まぁいい。その辺りはお前たちに任せる。ヘビーロブスターの方はどうなっている?」


 「問題ありません。パネルの番人として、忠実にガードについております」


 「ならいい。ひとまずお前とジェノスラッシャーもパネルを探しに行け。ガードはヘビーロブスターだけで十分だろう」


 「よろしいので?」


 「それに、万が一機動六課辺りに渡ったのだとしても、それで改めて使い方が分かるかもしれないしな」






 残念ながら、マイクロンについてある程度詳しいのは六課の方だ。プレダコンズも、ダークコマンダーがいるから油断できんが…。

 今にして思えば、ビコナをあっさり手放したのはマズかったかもしれん。

 マイクロンに対する知識は少なくても、地球についてはいろいろと知っていただろうしな。

 まぁ、こういうのを「後の祭り」などと言うのだろうがな。






 しかし、三種の神器は全て行方不明、か。これはこちらにとってもチャンスだな。

 どちらが先に全ての神器を揃えることができるか……勝負といこうじゃないか、機動六課。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「よーし、お前ら準備いいな?」






 翌日、ダークハウンドからもたらされた情報のおかげで、マイクロンパネルがある位置が割り出せた。

 スターストーンは探索組に任せるとして、マイクロンパネルはさっさと確保しとかないと。

 そんなワケで、ディセプティコンに先制攻撃を仕掛けちゃおうってワケ。

 もちろん幹部級などの応戦が予想されるから、こちらも師匠を筆頭としたフォワードチーム総出で行くことに。



 具体的なメンツは、僕、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、あずささんの人間メンツに、

 マスターコンボイ、ロードナックル、ジェットガンナー、アイゼンアンカー、シャープエッジのトランスフォーマー組。

 更にいぶきとなずな、スター、イテン、ビコナのトリオまでくっついてきた。

 トリオについては、探索チームの方にアレックス、ポラリス、パスナが志願したので交代したとか。ノーザンも抜けてきたけど、スターのお願いで留守番組に。

 で、引率…じゃなくて代表として、師匠がいくと。



 フェイトとイクトさん、横馬などについては、はやてやビッグコンボイ、シグナルランサー達と一緒にお留守番となった。






 「じゃあシャマル、頼むぜ」


 「任せて、ヴィータちゃん」






 移動についてだけど、シャマルさんの「旅の鏡」で指定座標付近まで一気に飛ぶ。

 今回の作戦は、先制攻撃でもあるけど奇襲攻撃でもある。

 だから、「旅の鏡」を利用してなるべく察知されないように移動した方がいいということになった。

 ちなみに、この作戦の立案者はビコナだったりする。






 「みんな、気をつけてね」


 『はいっ!』






 シャマルさんに見送られながら、僕たちは「旅の鏡」で形成されたトンネルをくぐり始めた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「どう?イレイン」


 「鎧王軍の技術さまさまね。実にいい仕上がりよ」






 マックスフリゲート内部にあるメンテナンスルームを借りて、新装備の開発中。

 ただし、この開発には今声をかけてきたポラリスから提供された鎧王軍の技術をふんだんに盛り込んでる。

 資材はヒルメから提供してもらったのが大半だけどね。






 「今更な話だけど、本当によかったの?てっきり、貴女が1番反対しそうだったのだけど」


 「そう、なんだけど……珍しく彼が駄々をこねるものだから…」


 「まぁ同じことにはならない筈よ?彼自身も精密検査を全てクリアしているし、完全新規だからタランスの干渉も受けないし」






 ぶっちゃけ何を開発してるのかというと、ユーリプテルス用の新しいアーマーね。

 とりあえず危なすぎるから荷電粒子砲は撤去してるけど、それ以外は大体前のヤツと一緒。

 超重装甲もバッチリ再現してるんだけど、今回は更に外部からの電波やマイクロウェーブを遮断できる特殊コーティングも追加。

 これは、以前のバーサークモード騒ぎからの教訓。新型アーマーがある限り、外部からのコントロールは受け付けない。

 荷電粒子砲の威力は目を見張るものがあるけど、それが無くても心強い味方になってくれる。






 「太陽並みのエネルギーの使い道は?」


 「ひとまず他の武装の威力を底上げするのと、新たにエネルギーシールド発生器を追加。大半はシールドの方ね」






 長時間の使用にも耐えられることは既にテスト済みだけど、かなり頑丈なものになった。

 そりゃそうよね。なにせ太陽並みのエネルギーの大半をシールドの形成に回すんだから、その強度は凄まじい。

 耐久力テストとして、ヒョウエンにあれやこれやと攻撃を叩き込んでもらったけど、プレッシャーブレイクの直撃でもヒビすら入らなかった。

 万が一また敵に回ったら……と思うとゾッとするけど、デルポイで頑張ってもらう分にはいいんじゃないかしら。






 「ユーリプテルス、私はできれば貴方に戦ってほしくはない。けど、貴方が望むなら、私は…」


 「……まぁ、そういうモンよね」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 《マスター、とらえました》


 「なに?こんなところに曲者?」


 《違いますよ。六課に動きがあったようです。更にマイクロンパネルの反応もキャッチしました。覚醒はしていませんが》


 「へぇ?珍しいこともあったもんだ」






 朝日が昇ると同時に目が覚めたので、出撃前に持ち込んでいた総菜パンで腹ごしらえ。

 腹ごしらえを終えたら、腹ごなしも兼ねたラジオ体操第一も忘れない。これで大分目が覚める。

 そんな中、ストラナが動きを察知した。覚醒していないとはいえ、マイクロンパネルもあるとは好都合だ。

 神器であろうとなかろうと、面倒が減るのはいいことさ。






 《ただし、マイクロンパネルの近くに"夢魔獣ゆめまじゅう"が1体。それも大物ですね》


 「おいおい、面倒が減るどころか増えてるじゃないか」


 《六課側から結構なメンバーが派遣されているようですよ?

  それと、いつもの仲良しトリオも一緒のようです》


 「……そっか」






 イテンたちも一緒か…。なら、デモンストレーションには丁度いいかな?

 もちろん、今の拠点情報まではバラすつもりもないけど。

 うん、挨拶の手間が省けたわ。なんたる行幸、住処を得る為に砂漠を練り歩いた甲斐が、あったというもの!

 ……デルポイでの数日間の話だけど。






 《どうします?》


 「当初の計画通りにいく。どうせなら後回しにしていたことも済ませてしまおう」


 《了解。ステルスシステム、スタート》




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 シャマルさんが作ってくれた「旅の鏡」トンネルを抜けた先には、いかにも何か隠していそうな洞窟を発見。

 随分と大きい。アイゼンアンカーでも内部で暴れられそうなほどに出入り口となる穴が大きい。

 アルト、構造スキャンできた?






 《バッチリですよ。あの洞窟、奥の方は更に大きいですね。ちょっとしたドーム施設ぐらいの大きさです。

  ミッドの郊外に、これほどの洞窟がまだ残っているとは》


 「オメガ、トラップと思しきものは見受けられるか?」


 《いや、それらしいモンは何もないぞボス》


 「原始的なトラップなら探知できない可能性も否定できねぇ。

  各自周囲を警戒しながら、洞窟を進むぞ」


 『了解』






 まぁ、マスターギガトロンが何かしていないという保証もない。

 師匠が言うとおり、警戒しながら進むに越したことh






 「スバル!ティアナ!横に飛べ!!」


 「うひゃぁっ!?」


 「なっ!?」






 いきなりスバルとティアナを狙って、極太の砲撃が飛んできた。

 2人はマスターコンボイからの警告のおかげで回避できたけど、飛びのいたところには大きなクレーターができていた。

 やってくれるね、いったい誰さ?






 「さっすがガデッサ、アイツらとは射程がダンチよねぇ♪」


 「だが、向こうも手練れだ。やはり簡単には当たらないようだ」






 鶯色と灰色を基調としたアーマーを身にまとった黄緑色の髪の女。

 黄緑と若葉色を基調としたアーマーを身にまとったラベンダー色の髪の男。

 ネガショッカー大襲撃の時に出てきた、ヒリングにリヴァイブか!






 「その洞窟に何があるか、分かっているか?」


 「分かってる、と言ったら?」


 「では、何がある?」


 「マイクロンパネルだろ?悪いが調べはついてんだよ!」


 「……半分正解だが、半分不正解だ。通ればいい


 「やっぱそうきて……って、は?」






 リヴァイブからの問いに師匠が答えていったら、なんかワケわからなくなった。

 半分不正解だから通ればいい?ここはフツー、半分不正解だから通せんぼじゃないの?






 「知らないという罪を、その身で体感してくればいいのよ」


 「ただし、お前は無条件で通行禁止だがな!」


 「いっ!?」


 「スバル!?」






 言葉と同時にリヴァイブのランチャーから放たれた弾で、スバルの両足が固められてしまう。

 アレってまさか、トリモチ!?スバルだけ通行禁止とかますますワケわからないんだけど!?

 僕らになくてスバルにはある不都合でもあるのかな。






 「スバル!大丈夫!?」


 「だ、ダメ、足が全然動かせない!」


 「くっそ、ナメたマネするじゃんか!

  恭文、マスターコンボイ、他の連中を連れて中に行け!あの二人組はあたしがブッ飛ばす!」


 「ヴィータ副隊長、私も残ります!遠距離型は私が!」






 リヴァイブとヒリングに睨みを利かせる師匠と、スバルを助ける為だろう残留を決めたティアナ。

 うわ、早くも予定が崩れまくりなんだけど。






 「しゃーない、早くパネルとって戻ってくるしかないで?せっちゃん」


 「洞窟に何があるか知らないけど、こっちがパパッと済ませてしまえばいい話じゃない?」


 「それもそーだねっ」






 いぶきやなずなに促され、やむなくスバルとティアナと師匠をこの場に残して僕らは洞窟の奥へ。

 内部にはトラップと呼べるようなものも特になく、拍子抜けするほど順調に奥まで行けた。

 洞窟の奥は更に大きく、アルトの言っていた通りちょっとしたドーム施設ばりの広さ。

 崖下の洞窟だったからかな?






 「見つけました!マイクロンパネルです!」


 「でも気をつけて!何か大きな反応が下からくる!」






 キャロが真っ先にパネルを見つけてくれたけど、あずささんの警告通り地面を突き破ってなんか大きいヤツが飛び出してきた。






 「うわ、なんだよアレ!?」


 「ザリガニ型メカ、でござるか?」


 「生体反応はある。ただのロボットというワケでもなさそうだ」


 「要するにサイボーグ化してるとか、そんなとこ?まためんどくさそうな雰囲気だね」


 「見た目にはメカにしか見えないけどね」






 突然の襲来に、先行していたロードナックルとシャープエッジが吹っ飛ばされたけど、どっちも自力で立て直したので良しとしておく。

 甲殻類みたいな楕円形の甲羅みたいな形のボディに2つの緑色の目、ビッグフットみたいな両足、

 そしてロブスターか何かのハサミを思わせる両腕。全身金色で、大きさはアイゼンアンカーよりも更に一回りデカい。

 あずささんの言う通り、メカにしか見えない。コレに生体反応があるってどんな酔狂な動物だよ。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 赤いハンマー使いが飛ばしてきた鉄球を両腕のビームバルカンで撃ち落とす。

 その時の爆発に紛れて、大型化させたハンマーを振りかぶって突っ込んできた。

 ホント、攻撃パターン単純よねぇ♪






 「あぐぅっ!?」


 「ほらほら、まだまだいくよぉっ!」


 「こんのっ!」


 「アッハハハハ!当たらない当たらない!命中精度の悪さパナいったらありゃしない!」


 「あんだよパナいって!?」


 「ハンパないってことよっ!」


 「ぐああぁぁぁっ!?」






 ハンマーを振りかぶってガラ空きになったお腹に飛び蹴り。

 体勢を立て直して苦し紛れにハンマーを振りまくるけど、そんなのがアタシらに当たるワケないじゃないサ。

 手刀にして長さを増した両手のビームサーベルで叩き切り、地面に叩き落とす。

 んもぅ、六課のエースだっていうからどんだけのモンかと思ったら、全然弱いじゃない。

 洞窟に入ってった連中も、今頃はヘビーロブスター相手にオダブツね♪






 「ヒリング、トリモチの予備は残っているか?」


 「あるわよ。ほらっ」


 「なら拘束しておけ。何か起こされてはかなわないからな」


 「はいはい」






 あー、確かに往生際の悪さはピカイチみたいねぇ。

 そりゃリヴァイブも警戒するか。というワケで、あのハンマー使いの右手からハンマーを蹴飛ばして、

 起き上がり切れていないところに両手両足にトリモチ投下。

 ついでにうるさそうな口にもトリモチくっつけて、口封じ。なんてね♪






 「中の様子でも見に…あいたっ!?」


 「誘導弾?だが、魔力弾反応はどこにも…」


 「アンタらに教えるほど、普及してるカラクリじゃないのよ!」


 「なっ!?」


 「今よスバル!」


 「ディバイィィィン、バスタァァァァァッ!!」






 オレンジヘアーのガンナーに気を取られていたら、あのハチマキナックル女が魔力チャージ!?

 余裕こいて両足しかホールドしてないのが裏目に出た!?

 ……けどねっ!






 「その程度でっ!!」


 「止められた……いや、弾かれた!?」






 左肩にあるシールドを展開して、エネルギーバリアを展開。それでハチマキ女の砲撃を完全に受け流す。

 ヒヤヒヤさせられたけど、これで逆に隙だらけ!驚いている場合じゃないサ!




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ロブスターもどきみたいな形状のメカ生命体?が、こっちへゆっくりと歩を進めてくる。

 やっぱ、鈍重っぽいね。そんな隙だらけな動きじゃ、攻撃当て放題じゃないか。






 「さっさと片付けるで!なっちゃん!」


 「言われなくても!」


 『ゴッドオン!!』





 いぶきとなずなが、それぞれのトランステクターであるジュウライオンとジュウゴリラ、

 リュウレックスとリュウゲイラーを呼び出し、一気に合体&ゴッドオン。有言実行、速攻で叩き潰す気マンマンかい。






 「獣ぅぅぅぅぅぅ帝っ!神――――!」


 「竜っ!王ぅぅぅぅぅっ!神――――!」






 いぶきのゴッドオン形態である獣帝神と、なずなのゴッドオン形態である竜王神。

 アイゼンアンカー級の大きさの敵が相手なら、寧ろこっちの方が効率がいいし攻撃力も高められる。

 真っ向勝負で一気に粉砕するにはいいだろうね。

 獣帝神が剣を、竜王神が槍を握り締め、ロブスターもどきに向かって突撃。竜王神がフェイントでサイドステップ、獣帝神がオトリ役か。






 「ちょっ!?」


 「ウソやろ!?」






 正面からの獣帝剣を右のハサミで、サイドアタックを狙った竜王槍を左のハサミでガッチリ掴んだ!

 掴んだまま力任せに2体を振り回し、振り子の玉みたいに2回ほどぶつけて、左右に投げ出した。

 スピードタイプであるなずなの竜王神はともかく、パワータイプであるいぶきの獣帝神まで軽々と振り回すなんて…。






 「攻撃力の高いゴッドリンクはどちらも封殺……」


 「なら、手数のセイバーフォームで?」


 「いや、ここはアンカーコンボイでいく。エリオ・モンディアル!アイゼンアンカー!」


 「はいっ!」


 「めんどくさいけど了解!」


 「ハイパーゴッドオン!!」





 マスターコンボイは、僕の提案を敢えて下げ、アンカーコンボイでの戦闘を選択。

 指名された二人がすぐに対応、一気にハイパーゴッドオンとゴッドリンクを済ませる。






 「残りのトランスデバイス組はオレの援護だ。

  恭文、キャロ・ル・ルシエ、お前たちは後方の警戒を頼む」


 「後方……あぁそうか、唯一の出入り口!」


 「あのメカとの戦いに集中できるように、ですね!フリード!」






 スバルが動けなくなったとはいえ、師匠とティアナがいる以上、簡単にはやられない筈。

 いざって時の為の退路確保という意味でも、後方警戒は必要。

 それと、すぐにゴッドオンを切り替えられるようにしておく、っていう意味も僕には考えられる。

 なにせ出入り口のすぐ前で戦闘しているワケだしね。






 「フルパワーではないが、牽制ぐらいなら…!」


 「拙者とロードナックルであのハサミを!」


 「よっし、任せろ!」






 ジェットガンナーが低空飛行しながら連続射撃で注意を引き、

 動きが鈍った隙にシャープエッジとロードナックルが左右から組みついて、両腕のハサミを封じる。






 《今だよ、アンカーコンボイ!》


 「一気に決めるぞ!」


 「はいっ!」


 『フォースチップ、イグニッション!!』






 ロードナックル・シロの声に応えて、いきなりのイグニッション。






 『雷光、溶断!アンカー、サンダーフレア!!』


 『――ッ!?』






 投げつけたアンカーロッドも、追撃のオメガの斬撃も、確実にヒットした。爆発だって起きた。

 なのに、手ごたえを感じてない雰囲気がすぐに分かった。

 マスターコンボイだけじゃない。エリオもそうだ。






 「効いてない!?」


 「それも、無傷……ぐわぁっ!?」


 「いってぇっ!?」


 「なんとっ!?」






 あのロブスターもどき、アンカーサンダーフレアの直撃で無傷!?

 更に落ち着きを取り戻したのか、馬鹿力を発揮してロードナックルとシャープエッジを振り回し、アンカーコンボイにぶつけ、

 3体まとめて跳ね飛ばした。






 「だ、大丈夫ですか!?」


 「えぇい、この程度で……ぐあっ!?」






 ロブスターもどきがいきなりジャンプして、立て直しきれていないアンカーコンボイを思いっきり踏みつける。

 もう一度跳ね飛ばし、落下してきたところを両腕でキャッチ。反撃しようとしたロードナックルやシャープエッジに叩きつけ、放り投げる。






 「ぐあぁぁぁぁっ!?」






 空中に投げ出され、体勢を立て直す暇もなく高密度ビームでブッ飛ばされた。

 うげ、あんのロブスターもどきのハサミはビームまで使えるんかい。ハサミ壊さないとどうしようもないけど、頑丈すぎるしどうしろと…!






 「アイゼンアンカー、しっかり!」


 「そう言うエリオが大丈夫っぽいからいいけど、面倒なロブスターもどきだね、アイツ……っ!!」


 「アンカーコンボイは無理か…エリオ・モンディアル、ゴッドアウトだ。戦い方を変える!」






 さっきのビームの一撃でトドメになったのか、アンカーコンボイのハイパーゴッドリンクが強制解除。

 オマケにアイゼンアンカーが大ダメージを受けたようで、ボディのあちこちから火花が出ている。

 ショートしている電流まで見えるし、アイゼンアンカーはもう戦闘不能。

 これはさすがに、マズイんじゃないの…!?




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「アッハハハ!さすがはヘビーロブスター、ゴッドリンクも全然おかまいなしじゃないサ!」






 ヘビーロブスター、もしかしなくてもマスターコンボイたちが戦ってるあのメカのことよね!

 貫通力に優れたアンカーコンボイの必殺技くらって無傷だなんて…。オマケにエリオはハイパーゴッドオンよ?

 高められた出力はそのまま攻撃力にも直結する。それでもかすり傷すらつけられないなんて、どんな装甲してんのよ!?






 「ヘビーロブスターの装甲は、かつて鎧王軍が開発した超重装甲だ。

  古代戦争の全ての時期において、その防御力は痛烈無比。生みの親といえる鎧王軍以外に、対応策は殆どなかったという話だ。

  当然、今のミッドチルダのテクノロジーを合わせたとしても、対抗することはできないだろう。

  ……ただし、接触破壊系スキルを除いてな」


 「接触破壊系……まさか!」


 「そこのハチマキ女は触れただけで超振動で対象物を壊しちゃうんだから、さすがに分が悪いでしょ?」






 スバルの振動破砕のことを知られてる!?アイツら、どこでそんな情報を……。

 そういえば、あの二人もネガショッカー。だとすれば、ザインから情報を得てる!?アイツなら振動破砕のことも知ってる!






 「こっちはあのガンナーを抑えればいいだけ、今回はラクそうね」


 「ヘビーロブスターがうまくやれば、な」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 今度はキャロとのハイパーゴッドオン、加えてシャープエッジとのゴッドリンクでシャープコンボイ。

 立て直した獣帝神と竜王神の合体戦士3体がかりでロブスターもどきに挑む。

 けどね、せっかくついてきたのに忘れてもらっちゃ困るよ!私たちもいこう!スター、ビコナ!






 「今度は先ほどのようにはいかないでござる!」


 「そのハサミを切り落としたる!」


 「装甲の継ぎ目から真っ二つにしてやるわ!」






 シャープエッジ、いぶき、なずなも気合十分。ロブスターもどきが掴みかかろうとするけど、3体とも前に飛んで回避。

 そんでもって、ハサミが地面に刺さって隙だらけだよ!






 『フォースチップ、イグニッション!!』


 <ATTACK-FUNCTION BLAZING RAIZER.>


 <ATTACK-FUNCTION BRADE TWISTER.>


 <ATTACK-FUNCTION GOKUEN GEKIRYU RANBU.>






 スターと私とビコナの一斉攻撃が、隙だらけな胴体に直撃!

 必殺技3連発の同時直撃なら、頑丈な装甲を持っていたってさすがに……!

 って、アレ?






 「たたみかけるぞ!」


 「技が当たったところ、ちゃんと見えてたわよ!」


 「3連直撃の2連続や!」






 あまりダメージ受けてるように感じられなかったんだけど、そこにシャープコンボイたちが飛び込んできた。

 それぞれがフォースチップをイグニッションして、必殺技発動。






 「旋禍、竜帝突き!!」


 「轟火、獣王斬り!!」


 『アイスバーグ、スラッシュ!!』






 竜王槍の竜巻とワンドモードのオメガの水竜巻、ダブルでロブスターもどきを拘束。

 そこに3体が立て続けに飛び込んで、竜王神の突きで空いた穴に獣帝神の火炎斬撃、竜巻が戻ったところでシャープコンボイの氷結斬撃。

 竜巻が凍り付いて砕け散って、爆発。これはさすがに手ごたえアリでしょ!






 「――警告する!敵反応、健在!」


 「はぁっ!?あれだけ叩き込んで!?」






 ジェットガンナーからの警告に、恭文もビックリ仰天。

 だって、必殺技のラッシュだよ?ユーリプテルスですら止められたほどの密度の攻撃だよ?これで止まらないって何!?

 イテンちゃん史上最大のアンビリーバボーかも!






 「ちょっ、アレはなんでおじゃるか!?」


 「敵反応が増えた……小型機を内臓していたと推測される」


 「しかもこのパターン、下手するとアイツ倒さない限りいくらでも出てくるぞ!」






 ビコナが見つけたのは、爆炎の中から飛び出してきたちっこいロブスターもどき。

 ジェットガンナーとスターの分析結果を考えると、ビットとかじゃないみたいだけど、厄介そうだよね!

 ルディンをライフルモードに切り替えたスターと一緒に、射撃モードにしたトレントブレードで応戦。

 当たれば落ちるけど、数が多いんじゃないかな!






 「姫!ヤツがこちらに!」


 「ホントに頑丈すぎない!?アイツ!」


 「しかも、ウチらよりかなりパワーあるで!?」


 「動きも規則的なようでデタラメ……先読みができん!」






 シャープコンボイまで困惑させられてる辺り、あのロブスターもどきはちょっと手強すぎ。

 だって、こっちの攻撃が全然効いてない時点でおかしいし!






 《まったく、君たちともあろうものが、機械人形相手にこうも手こずるとは》


 「なんだ、アイツ…。話に聞いてたルシファーってヤツに似てるけど、シルエットがところどころ違う…」


 《派生機とか、そういうところでしょうか?》


 《ルシファーであり、ルシファーではない。いうなれば、生まれ変わったといったところか》






 突然上空に出てきたのは、ルシファーに似た姿をした1体の人型デバイス。

 ルシファーでは白かったところが黒になっていて、角は鋭角的で悪魔みたいな感じに。

 そんでもって、背中のブースターは円形じゃなくて円錐みたいになってて、天使の翼から鋭利でシャープな形状の翼に。

 大きく変わった角とブースターの翼はクリアグリーン。あ、右手の剣もクリアグリーンになってる。しかも、何かの生き物の口みたい。

 本体と顔の形状は殆ど変わってない…。生まれ変わったって、つまり改造でバージョンアップしたってこと?






 《右に携えるは"ヘルズエッジ"、左に構えるは"魔王クエイサーシールド"――》



 《"魔光天使まこうてんし"シャドールシファー、この美しさを思い知れ!》






 名乗り口上と共に急降下してきたシャドールシファーが、ヘルズエッジだっけ?で恭文に襲い掛かる。

 すかさずアルトアイゼンで防いで切り結ぶけど、自力で単体飛行できるのがアドバンテージになってるね。

 低空飛行や滑空で切り込んでくるシャドールシファーに、恭文は反撃するのがやっとって感じ。






 《さぁどうした!噂に聞く古き鉄とやらは、その程度かな!》


 「あーもう!こちとらロブスターもどき相手にピンチだってのに、余計な邪魔が!」


 《そうさ、それでいい。もっと僕にその剣裁きを見せてみろ!》






 恭文はシャドールシファーが滑空しながら切り上げてきたのをサイドステップで回避、けどすぐさまシールドで殴られた。

 負けじと右袈裟切りをお見舞いするけど、真上に急速上昇されて空振り。しかも頭に乗られて蹴飛ばされ、背中に斬撃くらってブッ飛ばされる。






 「ぐぅっ、がっ!?」


 「なっちゃ…うあっ!?」


 「いぶきさん!?なずなさん!?」






 イテンちゃんもロブスターもどき・ミニの対処でスターやビコナ共々手一杯なんだけど、一方でゴッドオン組がヤバイ感じ。


 私の目で追えた限りだと、ロブスターもどきが竜王神に体当たりして、更に獣帝神に叩きつけて2体まとめてシャープコンボイがいるところに吹っ飛ばした。






 「ぐあああああっ!!」


 「うあぁぁぁぁっ!!」


 「きゃあぁぁぁっ!!」






 キャロの操作なのか地面に叩きつけられた2体をシャープコンボイが両手でそれぞれ助け起こすけど、

 そこにロブスターもどきが両腕のハサミを開いて、オマケに口みたいなところまで開いて、高密度ビーム3本の同時斉射。

 容赦ないビームが3体に直撃して、今度はキャロたちが爆発に飲まれる番だった。






 「ウソやろ…?ウチらが3体がかりなのに、こんなあっけなく…」


 「しっかりしてよ、リュウレックス!リュウゲイラー!」


 「すまぬ、姫……拙者も、不覚でござる…!」


 「シャープエッジさん!?」






 度重なるダメージに耐えきれなくなったのか、獣帝神も竜王神もトランステクターが強制分離。

 強制的にゴッドアウトさせられて投げ出されたいぶきとなずなが、それぞれで落胆してるのがすぐに分かった。

 それに、シャープエッジもマスターコンボイとの合体から脱落していて、あっちもダメージが大きいみたい。

 ジュウゴリラとジュウライオン、リュウレックスとリュウゲイラーも行動不能の深手。シャープエッジもだけど、再合体は無理っぽいね…。






 「マスターコンボイ!キャロ!いぶき!なずな!」


 《注意一秒、怪我一生という言葉があるんじゃないかい?》


 <ATTACK-FUNCTION DEVIL SWORD.>






 いよいよ大ピンチ!なところに、シャドールシファーが容赦なく追い打ち。

 気を取られた恭文に向けて、背中のチップスロットにミッドチルダのフォースチップをイグニッションして必殺技発動。

 発動阻止……したいけど、アレはもう技がキマる流れになっちゃってるぅぅ!!






 《くらいなぁ!!》


 《マスターっ!!》


 「しまっ――」






















































 「ここからは、僕とストラナのターンだ」




 <ATTACK-FUNCTION POWER SLASH.>












 シャドールシファーの攻撃は、止まった。というか、止められた。

 突然飛んできた斬撃波で、ヘルズエッジを弾かれて。

 でも、今の声は聞き覚えが…。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 とりあえず、助かったとみていいのかね。

 僕のことを名指ししたのがすっごく気になるんだけど。






 《先ほどの一撃の主はあちらのようですよ》


 「ほほう?」






アルトに促されて上を見てみると、シャドールシファーも見据える先に1人。



 水色のショートヘアーにコバルトグリーンの瞳、体格は小柄で、エリオに近い。後ろ髪は三角形にまとまってるのかな。

 服装は割と単純。黒い半袖インナーとスパッツ、その上に緑色のパーカー、両手に黒い手袋、両足に黒のブーツ。

 パーカーについては、肘ぐらいの長さの半袖になっている以外は「踊る○捜○線」の主人公が愛用しているアレによく似てる。

 デバイスなのか、頭にひし形の帽子らしきものを、両腕に切っ先が正三角形になっているアームブレードらしきものを装備している。

 多分、さっきの斬撃波もあのアームブレードから繰り出したんだろうね。

 帽子らしきものは水色に黒い縁取り、アームブレードは刀身がコバルトグリーンに黒の縁取り、根元が緑に黒の縁取りというカラーリング。






 「自己紹介は、アイツを片付けた後でさせてもらおうか――」




 「バーストドライブ!!」


 《バーストモード、スタート!》






 響いた叫びは、なんとバーストモードの発動。

 マイクロンパネルと同じマークが刻まれたフォースチップが溶け込んで、アナウンスと同時に彼の全身が赤く輝き始める。

 うっそ、なんで見ず知らずの……って、あの顔と髪型、どっかで見たような…?

 そんな僕の疑問をよそに、残像を残しつつ目で追えないぐらいの凄まじいスピードで飛び出した。






 《貴様…っ!?》


 「どいたどいた!」






 刀身と思われる部分をバーストモードとは別な意味で輝かせての一閃。

 すれ違いざまのそれだけでシャドールシファーを吹っ飛ばした。






 「目標を破壊する!」


 「な、なにっ!?」






 戦闘不能にされたアイゼンアンカーを庇いながらミニサイズのロブスターもどきをさばき続けていたエリオたち。

 そこにバーストモード発動中の緑パーカー君が飛び込んで、刀身を開いたアームブレードからビームを連射して、敵を一気に撃ち落とした。

 アームブレードが射撃も可能だってことに感心したけど、それ以上にエリオは突然の乱入というか助太刀にビックリしてる。

 緑パーカー君は目もくれずに移動してるけど。






 「こっちも片付けてやる!」


 「なんだと!?」






 緑パーカー君は休む間もなくマスターコンボイたちのところへ飛んでいき、

 追い打ちをかけようとしていたロブスターもどき・ミニの群れを、刀身を開いたままのアームブレードから今度は大出力ビームを放って全滅させた。

 外観に違いが無くても、射撃の出力は自在に調整できるのか。随分便利なヤツだなぁ。






 《マスター、今回の大物です。外しはしませんよね?》


 「寧ろ外す理由があるなら聞きたいところだけどね!」






 ロブスターもどきの懐に一気に飛び込んで、いったん着地。

 すぐに全身のバネを活かした跳躍と共に右腕の関節部に一閃。更にロブスターもどきの頭を踏み台にして移動し、左腕の関節部にも一閃。

 更に着地がてら右と左に横一閃を2回、それは両足と胴体の付け根部分に。この一連の攻撃で、ロブスターもどきは両腕と両足が切り落とされて動けなくなった。

 関節部への攻撃なら、なずなもやろうとしてた。けど懐に飛び込む前に蹴散らされたからできなかった。

 僕らもロブスターもどき・ミニとかシャドールシファーとかの相手をせざるを得なくて、関節部を狙うどころじゃなかった。

 それに第一、あんのロブスターもどきは鈍重な見かけに反して動きが素早い。多分狙ったところでかわされた可能性も結構あったと思う。



 六課が誇るストライカーを中心としたチームをもあしらう敵だというのに、

 あの緑パーカー君はたった1人で関節部への連続攻撃をしてみせた。それも、バーストモードを使うというサプライズ付きで。

 狙いが関節部だったとはいえ一撃で両腕と両足を使用不能にする攻撃力といい、いったいどうなってんのさ。






 「フォースチップ、フルバースト!」


 <ATTACK-FUNCTION TWINS DYNAMIC.>






 バーストモードの利点は、出力向上だけじゃない。イグニッション技を、ノーモーションで発動できること。

 動きと攻撃手段をまとめて封じられたロブスターもどきの正面に舞い降りて、両腕を前方に向ける。

 刀身を開いた状態のアームブレードに急速にエネルギーが充填され、解放されるとゲロビになってロブスターもどきに直撃する。






 「7回も同じ点に必殺技叩き込まれておいて、ダメ出しされたら耐えきれるワケないだろぉぉ!!」


 《出力最大、フォースチップの残留パワー完全開放!》






 ただでさえ強烈そうなゲロビが、残っているフォースチップのパワーを上乗せされたことで更に凄まじさを増す。

 しかも、さっきマスターコンボイたちが必殺技を連続で叩き込んだ一点に集中させている。

 身動きがとれず、ただただゲロビを食らい続けるだけのロブスターもどき。出力上乗せから5秒ほどで、亀裂が入る音が聞こえ始めた。

 そしてそこから3秒後、内部に侵入したゲロビのエネルギーが拡散し、ロブスターもどきは内部から爆散した。






 《――バーストモード終了。システム冷却時間、30秒程度を予定》


 「はいよ」






 先ほどのゲロビ、アナウンスでいうと"ツインズダイナミック"の最大照射でパワーを使い切ったのか、

 バーストモードが自動的に終了して、緑パーカー君の全身から赤い輝きが消えた。

 左右のアームブレードも、刀身を閉じた。多分それがデフォ、外観からしてアームブレードとしての機能が重視されてるんだと思う。






 「ところでそこの、まだやる?こちとらバーストモード終了直後でもバリバリに戦えるんだけど」


 《やめといた方がいいと思いますよ?我々だけでなく、戦える六課メンバーも全部敵に回すことになるでしょうから》


 《ぐっ……だが、パワーダウンした相手に後れを取るような僕ではない!》






 緑パーカー君とそのデバイスに口々に言われて、シャドールシファーは狙いをそっちに変更。

 ヘルズエッジを構えなおし、急加速で一気に緑パーカー君に肉薄する。






 「やれやれ……せっかくの忠告を無碍にするとは、バカなヤツだ――」




 「――死ねばいいよ」






 それは一瞬のこと。アームブレードに光が灯ったかと思うと、次の瞬間にはヘルズエッジとクエイサーシールドがみじん切りにされていた。

 突然のことに勢い余ってたたらを踏むシャドールシファーを引き戻していたらしい右のアームブレードで殴り飛ばす。






 「空気読めないクセにいきがるんじゃないよ、バカが」


 《こんな、こんなことが…!》


 「シャドールシファー!」


 「ミッションは失敗、さっさと帰れって命令出たわよ」


 《おのれ、イレギュラーめ…!》


 「……転送で逃げたか、賢明な判断だ」






 いきなり眼差しが冷徹なものになり、それに臆したかシャドールシファーが後ずさる。

 そこにリヴァイブとヒリングのコンビが来て、一緒に転送で逃げてった。

 あれ、アイツらって確かネガショッカーの筈なのに、なんでディセプティコン絡みのこの場所に?






 「大方、プレダコンズが送り込んだブツの様子でも見に来たんだろうね」


 「ブツ?まさかとは思うが、今しがた貴様が倒したあのメカのことか?」


 「その通り、さすがのご明察だね。マスターコンボイ」


 《ボスの名前知ってるとか、やっぱ一躍有名人に…》


 「知るか」






 んで、とりあえず知りたいことはまだまだあるんだけど、まずコレだよね。






 「僕やマスターコンボイのことを知ってるって、君は何者?

  バーストドライブを使ったことといい、普通の人である筈がないんだけど」


 「超重装甲を搭載したバケモノを秒殺する時点で一般人なワケないだろうに。

  身分というよりスペック的な意味で」






 いつの間にかこっちに追いついてきたスバルとティアナ、師匠も含め、みんなが緑パーカー君を注目。

 彼の持論については同意しとく。寧ろ一般人の方が強いことすらあるからね、この時代。






 「んで、質問の答えだけど……まずこのデバイスは"ストラナ"。そして僕のことは――」












 「デザルトル・アーナの情報屋――"ルーラ"と呼んでもらおうか」





















 (第38話に続く)




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 夢魔獣ファイル01:ヘビーロブスター



 二足歩行で尻尾が見当たらないが、一応ロブスター型である。

 非常に頑強な超重装甲で覆われており、両腕のハサミはビーム砲も兼ねている遠近両用兵器。

 「重いエビ」という名前や鈍重そうな外観に似合わず俊敏であり、体当たり攻撃も得意。

 小型のロブスター型メカを大量に放つこともでき、小型メカは特攻兵器として運用される。



 外観だけを見ると完全に機械であるが有機生命体を元にしたサイボーグ体であり、夢魔獣の一種である。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―




 ステンス「新シリーズ早々に出番がないじゃないか」


  リティ「だ、大丈夫だよ、きっと次回には……」


 ステンス「チッ。仕方ない、今回はリヴァイブやヒリングが使っていた"トリモチ"について教えてやる」




 ステンス「銃弾などと同じように発射装置に装填し、着弾した部分にくっつく粘着質の物質が今回使われたトリモチだ。

       元々は虫や鳥を捕まえる為のワナとして作られているが、その粘着力はネズミ取りなどにも応用されるほど強力だ。

       特に虫をくっつけた場合、粘着力が強力なあまり足や羽がもげるから、標本目的では使われない。

       乾燥すると粘着力が発生するから、保管する時は水で湿らせておく必要があるそうだ。

       実用性は抜群でな、地球でも東洋・西洋問わず様々な国で作られ、使用されている。材料もいろいろあるみたいだな」




  リティ「スバルに使われたタイプは、結構大きかったみたいだね。マッハキャリバーのパワーで振り切れなかったみたいだし」


 ステンス「余談だが、ある国でのトリモチの市販は鳥獣保護法成立後から激減しているそうだ」


  リティ「乱獲ダメ、絶対。ではまた次回!」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 <次回の「とたきま」は!>




 ルーラ「ふははははっ、いよいよ僕の時代が来た!主役は僕で決まりだ!」


  恭文「よし、君のことについてはじっくりみっちりと……」


 ルーラ「そんな暇なく、ミッドには新たな夢魔獣が出現!そして僕がおいしいところを持っていくのさ!」


  恭文「うぉいっ!?」


 ルーラ「ウソだっ!本題は遂に始まるスターストーン探索……デルポイ大陸側でもひと波乱の予感!」






 第38話「銀色星:サバイバル師弟物語」






 マジコ「くそう!次回のサブタイもアタシらと関係ない!」


  アコ「こうなったら、この予告コーナーでの地道なPR活動でチャンスを掴み取るしか!」


 ルーラ「いや、レギュラーなんだからそこまで躍起にならんでも…」














































 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 <あとがき>


 というワケで、いろいろと新展開な第37話です。



 ルーラという名前が某有名RPGの移動呪文と丸被りだってことに気づいたのは、名前を決めてから数ヶ月後のことでした(オイ)

 本来はある人物の名前のアナグラムのつもりだったんですが……あのシリーズは全くやってないもので。



 新たに参戦したペルセウスとミネルバ、火種を抱えたまま戦線復帰となったエルシオンに六課合流となったトリトーン。

 彼らには主にスターストーン探索チームの方で活躍してもらうことになるのですが、今からアキレス・ディードとの絡みが難題に。

 原作でも神出鬼没だったヤツですが、こちらでも神出鬼没な動き方になりそうです…。



 予告コーナーで活躍を狙うアコとマジコについても、早い内に本編で活躍させたいところです。



 余談ですが、今回はある程度とはいえHTMLタグもくっつけた状態での投稿としてみました。そちらについてもいかがだったでしょうか?


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

>わかっている、わかっているさクラッズ…。

 空の戦士だ! 空の戦士がいるぞ!(笑)
 ……そんなワケで始まりました新シリーズ。『とコ電』の決着後ですか……よし、どうあがいてもつながりようのない終わり方してやる(やめい

>戦う為の性質じゃない能力を持ってる人でも、能力者って呼ぶのかな?

 確かにそうですね。
 ジュンイチも炎を使っていると言ってもそのプロセス的には「熱エネルギーの制御」の応用なワケで。その気になればいくらでも日常に反映できる能力なだけに、解釈の難しい問題です。

>クセルクセス

 なんかヤバそうな地名キタ――ッ!
 ハガレン読者としてはなんか陰謀の犠牲になって死滅する未来しか見えないんですが(滝汗)。

 

 HTMLタグ、ありがとうございます。おかげで作業が楽に……なのに作品受け取ってから掲載まで間空けまくるってどーゆーことさ自分っ!(滝汗)