レルネ「新章突入となった前回、どっかで見たことがあるような新キャラが颯爽乱入です!」


 プルトーネ《情報屋ルーラ……いったい何者なんでしょう……》


   レルネ「ちょっ、なんでそんな棒読みなんですか!?」


 プルトーネ《動揺しまくりな創主レルネはほっといて、前回の大まかな動きは以下のようになっております》






 01:オーディーンがエルシオンに、ゼノンがトリトーンに改修され、新開発のペルセウスやミネルバと共に六課に合流。


 02:クレアたちが持ち帰った地図は、デルポイ大陸に伝わる財宝伝説に関係するアイテムであることが判明。

   同じく関わりを持つ「スターストーン」の存在も判明し、実態調査の為、はやてが探索チームの編成に着手。


 03:プレダコンズはトラルーの行方を捜索しているが、派遣した量産型TFのメモリーを破壊されてしまい、痕跡を辿れずじまい。

   スター、イテン、ビコナがデルポイで、ポラリスら他メンバーもミッドで手がかりを探すも、収穫なし。


 04:ディセプティコンが新たにマイクロンパネルを獲得していることがダークハウンドから明かされる。

   フォワードメンバーを中心としたチームで奇襲攻撃を仕掛けるものの、夢魔獣ヘビーロブスターに阻まれ、一転して大ピンチに陥る。


 05:04の現場に突如ルーラが現れ、バーストモード発動による猛攻でヘビーロブスターを秒殺。

   効果終了後もシャドールシファーを圧倒し、撤退させる。






 プルトーネ《他にもユーリプテルス対応の新型アーマーがイレイン殿によって作られていたりと、

        見過ごせないところがありますよ〜》


   レルネ「それでは、第38話をどうぞ!」

















































「とある魔導師と守護者と機動六課の日常」異聞録






「とある旅人の気まぐれな日常」






第38話「銀色星:サバイバル師弟物語」


















































 「情報屋……ルーラぁ?」


 「大事なことなのでもう1か」


 「いや、1回で大丈夫だ」


 「あらま」








 いぶかしげに繰り返す師匠に対し、ルーラと名乗った緑パーカー君は言う。

 確かに前回のラストで堂々と大文字で名乗ってくれたから、よほどのおバカでない限り伝わっているとは思うし。

 あのロブスターもどきを倒したばかりか、シャドールシファーたちを退散させてくれたのは感謝してるけど、

 なにせいきなりすぎたモンだから、みんな警戒してるよね。








 「なんでまたその情報屋がこんなところに来てるワケ?」


 《ここがディセプティコン絡みの場所であること……はわかりませんかね。いたのは見知らぬロブスターもどきでしたし》


 「なぁに、こんなところにマイクロンパネルが落っこちてるとかいう話を聞きつけたんで、様子見にきただけさ。

  もっとも、絶賛戦闘中だったとは思わなかったけども。あと、プレダコンズの一味がいたことも予想外ではあったかな?」


 《先ほど撤退した3名の内、1名はルシファー。つまりそれでプレダコンズ、ないしネガショッカーの手の者であることは間違いないですからね》








 まぁ情報屋といってもその売り買いする情報は自分でも集めなきゃならないしねぇ。

 その一環だとすればつじつまは合う…とは思うけど、取り扱う情報の類については特にコダワリなし?

 僕とアルトの問いに対するルーラとストラナとかいうデバイスの答えから考えられるのは、そんなところ。

 プレダコンズやネガショッカーのことも、少し調べれば名前ぐらい出てくるだろうし。








 「んで?マイクロンパネルを見つけたらどうするつもりだったんだ?

  言っちゃアレだけど、こっちは元からそれを持ち帰るつもりで来てるんだけどな」


 「機動六課、だよね。中身がアレだからロストロギア扱いしてほしくはないんだけど……ま、ミッドじゃ信頼できそうな勢力はそれしかないか。

  ただし、持って帰るからには上手くやりなよ?レリックとかみたいに爆発物になる〜みたいな心配がないとはいえ、下手するとユニクロンに狙われるし」


 《ユニクロン本体は滅んでも、意思細胞がある限り死んだことにはなりませんから》








 話しながら歩を進め、ちゃっかりマイクロンパネルを取るルーラ。けど、特に反応なし。

 すぐに覚醒しないタイプなのか…。それはともかく、こっちに戻ってくると、ごくごく自然にパネルを師匠に渡した。

 師匠が「持ち帰る」とか言って、それに特に反対する気はないってこと?

 自然だけどいきなりだったからか、師匠の目が点になってるけど、ここはスルーさせてもらう。








 「今ストラナが言ったのもそうだけど、君ら確かユニクロンに真正面からケンカ売って生き残ってたよね」


 「まぁ、二度とやろうとは思いたくない相手だったがな」


 「二度あることは三度あるかもしれないよ…?なにせ、相手が相手だ。

  憎しみがある限り、ユニクロンを倒すことはできない。実感はないだろうけど、覚えておくといい」








 ゴッドオンを解除したマスターコンボイの言葉に、ルーラはまたも聞き捨てならぬ言葉を返した。

 「憎しみがある限り倒せない」、って……どういうこっちゃ。そりゃあ記録見せてもらったりして、コアのピンポイント破壊しかできなかったのはわかったけど…。








 「一説には、ユニクロンを生み出すのはトランスフォーマーの心だともいわれている。

  ユニクロンには本来、特定の形がなく、衝動に溺れたトランスフォーマーに特別な力が宿ったものこそがユニクロンである、ともいう話。

  まぁ、あくまでも仮説の1つで、真実ではないのだけど」


 「つまり、トランスフォーマーの心に憎しみがある限り、必ずいつかはユニクロンが現れる?」


 「倒せない、と一口に言っても、死なないことなのか死んでもまた甦ってキリがないことなのか、違ってくるからね」








 うーん、またしてもユニクロン絡みで新情報。伊達に神ってワケじゃないみたいね。

 そういえば、なんでルーラはそんなに詳しいんだろう…。








 「ねぇ、情報屋さん。トラルーって人知らない?情報屋さんに似てるんだけど…」


 「……もしかしたら、僕はその人のそっくりさんかもしれないね。

  ほら、生まれた世界とかが違うと、たまに同一人物じゃないかと間違われるくらいのそっくりさんも出てくることあるし。

  アレだ、某レツタカみたいな話だ、うん」


 「特撮好きなところまでそっくりでおじゃるねぇ……」


 「似すぎてて作為性すら感じるぐらいにな」








 イテンの質問は、僕もしようと思ってたこと。ルーラってさ、トラルーにあまりにも似すぎてるんだよね。

 デバイスの形状が似ていることは、まぁたまたま似てるんだろうってすぐに納得しちゃうんだけど、外観やら声やらは…ねぇ?

 ビコナやスターも感じてるみたいだけど、おそろしく似てる。違うところといえば、戦い方がアームブレード二刀流ってところかな。

 そういえば、トラルーは確かバーストモード使えなかったよね。








 「さて、と。僕はそろそろ離脱させてもらうよ。

  しばらくはミッド周辺でうろつくから、また会うこともあるかもね」


 《それでは皆さん、ごきげんよう。ステルスシステム・スタート》








 あ、さっき誰も存在に気づけなかったのって、ストラナにステルスシステムがあって、それ使ってたからなんだ。

 今更ながらそんなことに気づいた頃には、ルーラの姿と反応は完全に消えていた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―ミッドチルダ:未開拓エリア―






 顔見せ終了〜っと。ふふふ、せいぜい出口のない袋小路迷路でモンモンとしているがいいさ…♪








 《外道ですか。特にイテンさん、事の真相知ったらどんなダイレクトアタックかましてくるかわかりませんよ?》


 「その時には発散しきれずたまりにたまったアレな欲望に二人で溺れ……何言わせるんだよ」








 ステルスシステムと飛行で速やかに現場を離脱、昨晩も睡眠場所にしている崖下エリアへ。

 でなきゃ、こんな会話できないから。特に恭文やマスターコンボイ、ビコナは察しがいいからなぁ……気をつけないと。

 少なくとも、今回顔見せした面々には「似すぎてる」という違和感を持たれたみたいだしね。








 《それでバレないようにする為の"永久暗示"じゃないですか》


 「そうなんだよねー。アレがかかっている限り、どんなに口が滑っても確信は持たれないようになってるんだけどさ」








 永久暗示。僕がデザルトル・アーナ所属になった時、ギルドの長であるローレル親分からかけられた暗示。

 名前に「永久」なんてある通り、術者本人が意図的に解除しない限り解けることがないという恐るべき持続性を持っている。

 ちなみに、術者本人が死亡した場合、暗示効果は残ったまま解除不能になるのだそうな。

 んで、僕にかけられた暗示効果は「効果対象を全くの別人だと認識させる」というもの。

 つまり、暗示効果を受ける前後で外観に一切変化がなくても、効果発動中は他の誰もが「そっくりさんな別人」として認識してしまうワケだ。

 普通に考えれば使いどころが微妙だけど、今の僕にとっては非常に好都合なんだよねー。

 更に恐るべきことに、この暗示効果は映像や写真などとして見られた場合でも有効。

 何をどうやっても、暗示効果を受けた僕は「情報屋ルーラ」としてしか認識されないのだ。かるーくチートです、ごちそうさま。




 この暗示をかけたローレル親分も何者なんだよって話だけど、どうやら他言無用の領域らしいので詳しくは聞いていない。

 ただ、失われた超文明の生き残りだって話は聞いた。永久暗示についてもその超文明の産物かも。








 《さて、ここまでくれば足を辿られることもないでしょう》


 「だよねー。だって、辿ろうにも見る目がないんだもの。

  周辺スキャンして、何もなければ報告メール送ろう。派手にぶちかましたし」


 《了解》








 あのロブスターモドキ……ヘビーロブスターか。アレを始末したこと、報告しとかないとね。

 一応、夢魔獣との戦闘も今回のミッションプランには入ってたから。

 さてと、報告済ませたらまた持ち込んだレトルトカレーで晩飯すますかな…。うぁー、クラッズスペシャルが懐かしいよー。








 《だったらレトルトカレーにしてもらえばよかったじゃないですか》


 「時間かかるし作り置き無くなってたからダメだってさー」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―ミッドチルダ:機動六課・司令室―






 「無事にマイクロンパネル確保やね。恭文もご苦労さん」


 「いや、どう考えても無事じゃないでしょ。寧ろ重症患者が出なくてよかったね、でしょ」


 「……ジュウゴリラ、ジュウライオン、リュウレックス、リュウゲイラー、更にアイゼンアンカーとシャープエッジがメンテ送り。

  マスターコンボイも念のため診断中……、結構手ひどくやられたみたいやね」


 《更に今回の戦闘で確認されたシャドールシファーに情報屋ルーラ、

  特に情報屋の方が問題かもしれませんね。ひとまず敵ではないようですが、ユニクロンについて興味深いというか恐ろしいというか、情報くれましたし》


 「ヤツを知るには、デザルトル・アーナというギルドが鍵か…。デルポイのギルドということらしいが」


 「そこはジュンイチさんが調べまわってくれたからほぼ確定情報。

  少なくともミッドや地球にあるようなギルドじゃないって」








 スバルたちには正規の報告書があるのでそっちに専念してもらって、僕は代表してはやてとビッグコンボイに報告。

 デザルトル・アーナとかいうギルドの一員らしいんだけど、デルポイ大陸のギルドのことなんてこちとら知らないしなぁ。

 ただ、話を聞いたジュンイチさんが速やかに情報を照らし合わせてくれたおかげで、はやてたちに教えた通りの結論は得られた。

 にしても、ギルドの一員っていうだけにしてはべらぼうな戦闘力だった気がする。








 「単身で行動しているということは、それなりに戦闘力が高いからそうなっている筈だ。

  この記録映像とお前たちの報告のおかげで図らずも証明されたワケだが、侮ると痛い目に遭いそうだな」


 《バーストモード使われた時点で無理ゲーと化しそうな気さえするんですが》


 「せやね……もし基本的な部分が私たちも知るバーストモードと同じなら、

  スピードだけじゃなく総合的にパワーアップしとる筈や。比率までは測りかねるけど」








 それに、今回見せられたあの攻撃力、フルバースト時のものを除けば関節部しか狙ってなかった。

 介入早々に発動させたってこともあって、元々のスペックについては未知数なんだよね。

 多分、パワーファイトが得意そうなタイプじゃないと思うけど…。








 「あ、話変わるけど、クレアさん達は?」


 「お前たちが帰還するという報告を受けたのと入れ違いで、デルポイ大陸に向かってもらったばかりだ。

  まぁ、そこから1時間は経っている……何かしら動きはあるだろう。主に宿関係で」








 あー、聞き込みしようにも長丁場になりそうだしなぁ。宿の心配はあるよね。

 通貨が日本と同じ「円」になっているのが不幸中の幸い、だね。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:「パステルップ国」北部・パステルップ都市―






 「――とりあえず、宿の心配はないですね。ちゃんと人数分手配できました」


 《俺たちはいいの?ほら、生き物じゃないし…》


 「割安とはいえ別料金できっちり取られました。意思を持っているなら利用人数としてカウントしちゃうみたいで…」








 実感できてないんだけど、デルポイ大陸に入ってきてからもう5時間、夕方。

 なのにミッドの方だと1時間経っているかいないかなんだよね…。物凄い時差で、ちょっと戻った時が心配かも。



 で、ひとまず今は「パステルップ」っていう国のお城がある都市部、その中にある宿屋の前。

 アレックスさんに宿屋の方で宿泊交渉してもらったんだけど、大丈夫みたい。

 まさかエルシオンたちの分まで別料金でカウントされるとは思ってなかったけど…。

 人型で、AIがあって、ウェイトモードがないから?








 「どうやら、そんな単純な話でもなさそうだけどね…」


 《どーゆーこと?》


 「待ち時間を利用して少し聞いてみたんだけど、デルポイ大陸では君たちのような者も立派なパートナー、

  要するにこの世界の立派な住人である、としてとらえられているみたいなんだ。

  端的にいえば、家族とかみたいなものか」


 《え、ええっと…?》


 《極端な話、人間などとほぼ対等な扱いを受けている、ということでいいのか?》


 「そういうことになる」








 ポラリスさん、アレックスさんが受付の方に消えたぐらいから見当たらなくなったと思ったら、

 別な理由で聞き込みに行ってたんだ…。

 ていうか、人型とはいえデバイスに人権持たせてるみたいな……やっぱり文化違うんだね。

 ミネルバはよく分かってないみたいだけど、トリトーンの指摘にポラリスさんが同意してたから、そういうことだと思う。








 「たとえ機械仕掛けであろうと、心を持っているなら対等に扱うべき。そういう概念があるんだろう」


 《デルポイ大陸、どんな歴史を辿ったらそんなことになるんだろ……創主レルネの経緯も相当なものだけど》


 《確かに、面白い……と言ったら悪いんでしょうけど、不思議ではありますよね》


 「見た感じ、そんなにデバイス技術が浸透しているようにも見えないけどね」








 ポラリスさんがまとめなおした。うん、これならすぐわかるよ。

 エルシオンやペルセウスが歴史問題を気にし始めたけど、今ボクたちが気にすべきはスターストーン。

 到着早々に5時間ぐらい聞き込みしてみたけど、手がかりになりそうな情報は全くなかった。

 これはちょっと、知ってそうな人を絞り込んで聞きにいかないと…。








 「何なら、オレといろいろ話してみないか?」








 そう話しかけてきたのは、一人の女の子。

 鮮やかな青のショートヘアー、アホ毛ついてるね。瞳は黄緑。体格はちょっと小柄だけど、活発そうなイメージ。

 緑系のチェック柄になっているノースリーブのジャケットと、やや暗めな赤のスカート。

 スカートの下はスパッツで、茶色のブーツに黒い手袋。



 えっと、どちら様で?








 「おや、お嬢がこちらに来られるとは珍しいですね。さては、こちらの客人目当てで?」


 「まぁそんなトコだなー。受付ちゃん、今日コイツらはここで泊まるのか?」


 「はい、先ほど部屋の手配を済ませたところですが」


 「そっかー。じゃあ詳しい話は明日だな。イキナリだけどアンタら、明日の朝10時になったら城の方に来てくれよ。

  アンタらみたいな外世界の住人が、街で聞き込みなんてしてるんだぜ?気になるに決まってるじゃんなぁ?てなワケで、じゃあな〜」








 女の子は、いきなりのことで目を丸くしてるボクたちをよそに一方的に要件を言って、そのまま帰っちゃった。

 なにがどうなってるの…。








 「……あっ、外世界の方々でしたらご存じないのも無理はありませんね。

  先ほどの方、私たち地元民はお嬢などと呼ばせていただいているのですが、このパステルップ国の王様なんですよ」


 「へぇ、そうだったんです……か……」




 《『おうさまァ!?』》




 「はい♪名前はファスム様。かつてはデルポイ大陸を闊歩するほどの冒険家でもあったそうですよ」







 とても親しく話していた受付さんからの話は、トンデモナイ話だった。

 まさか、いきなり国の王様が、あんなに砕けた話し方でこっちにアプローチかけてくるなんて…。

 普通、こういう時って召使とか代理人とかが伝言とか伝えて、それでこっちがお城に行って初めて対面するっていうものじゃないの?

 しかも話し方、すごく友達相手っぽかったし…。








 「あ、あんな王様もアリだったのか…。なんかいきなり人生で損してる気がしてきた…」


 《落ち着け。カルチャーショックで倒れるには早すぎると思うぞ、多分》


 「はっ!?」







 ポラリスさんがいきなり何かに打ちひしがれてるみたいになったけど、トリトーンにツッコまれて正気を取り戻した。

 でも、いきなりすぎてビックリしちゃったね。








 「でもさ、あのズイズイ迫ってきそうな感じ、プライマルコンボイ辺りに似てないか?」


 「そ、それはどうだろう…?」








 イリアスの言うこと、分からないってワケでもないんだけど、どうなんだろ…。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ城、王の間―






 アイツらに声をかけた次の日。

 朝10時、城が一般人の立ち入りを許し始める時間。アイツらへの時間指定をこれにしたのは、城の開門が朝10時からなんだよ。

 こっちとしては暇くさいから9時ぐらいにしてくれてもいいんだけど、需要ってヤツだよなぁ。

 まぁ門を閉じてるだけで、何かありゃ24時間いつでも誰かが相手するんだけどな。








 「マスター、例のお客人が早速到着したわよ?」


 「お、じゃあササッと通しちまえ〜。呼んだのはこっちだし」


 「了解」








 今オレを「マスター」なんて呼んだのは、付き人ポジションのラプティアスだ。

 明るめなグレーのツインテールで瞳は紫、水色に青のラインが入ってるボディスーツ。

 ボディスーツは太もも、肩から二の腕、首元、そしてアイツは胸の谷間部分と背中側の腰の肌が露出してる。

 控えめなようで大胆な露出範囲だよなーとか思うけど、まぁアイツはデバイスだから大丈夫か。



 デバイスだっていう証拠?んー、サポートモジュールと合体して戦闘形態になるってとこぐらいか?

 今はソーサーみたいな扱いのサブフライトシステムにしてるけど、あの水色の飛行機型モジュールは武装だかんな?

 戦闘になればパーツがバラけてラプティアスにくっついて、アイツを戦闘形態に変える。そうすりゃ頼もしいエアファイターさ。








 「マスター?今、女子らしからぬ淫らなこと考えなかったかしら?」


 「そんなの気のせいだよーだ」


 「なら、いいのだけど……」








 別に今、「ホントに人間の女の子だったら凌辱されること必至だよなー」とか考えてないぜ?ホントだぜ?

 ホントに薄い本ネタにうってつけなタイプだとか思ってないんだぜ?だぜ?








 「し、失礼します…」


 「おーおー、そんなかしこまらなくていいぞー」


 「そうね、下着姿を男に見られても平気、オシャレや恋愛に興味なし、エロネタを振る側

  見事なまでに女子力のカケラもへったくれもないマスターだから、敬意とかなくていいわね」


 「オイっ!?」








 なんかラプティアスにめっちゃ毒吐かれた!?オレ何かしたっけか!?








 《ず、随分と辛辣なデバイス……いや、パートナーをお持ちなんですね…》


 《しかも、相手確か王様の筈ですよねぇ…?人望大丈夫ですか?


 《『ミネルバッ!!』》








 青いロボットは同情してるっぽかったけど、ミネルバって言われたヤツにはいきなり人望ツッコまれた!?

 アレか!?あのピンクはラプティアスと同類か!?

 いや、ほぼ初対面な分、下手しなくてもラプティアスよりキツいよな!?








 「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!あの子もきっと悪気はないんです!」


 「クレア、ちょっと落ち着け…」








 マリンブルーの子、クレアか。あの子がメチャクチャ謝ってきた。残像できるくらいすごい勢いで。

 でもとなりで浮いてる三頭身の子が言ってる通り、落ち着いた方がいいんじゃないか?鷲掴みにされて振り回されてるミネルバが吹っ飛びそうだから。

 なんかミシミシいってるし。一歩間違うとヒートエンドしちまいそうだし。








 「え、えっと……いきなりおかしなことになりましたけど、改めて自己紹介を。

  僕はアレックス、こちらがポラリス。今絶賛テンパっているのがクレアさんで、その傍らにいるのが相棒のイリアス。

  ワイルドウィーゼルユニットを装備している方がパスナ。

  そしてデバイス一同は、ペルセウス、ゼノン改めトリトーン、オーディーン改めエルシオン、そして今握り潰されかけてるのがミネルバ」


 「あーいいよ、デバイスの連中はともかく、人間組は"アレス"見てたから大体知ってる。

  ついでにアレックスとポラリスが古代ベルカの王様だってこともな。だからさっき言ったんだよ、かしこまらなくていいってな。

  口調は特に気にしないが、他の連中も別に敬語とか使わなくていいからな?使いたきゃ使っていいけど」


 「そういうことでしたか」


 「どうりで、街の人たちの大半が王に対して敬語を使ったりしないし、気楽な筈だ」


 「古代ベルカでは考えられなかった話でありますなぁ」








 そうそう。王様だからって民衆ひざまづかせてなんになるんだってな。

 他の世界じゃどうかは知らないけど、少なくともデルポイじゃアレぐらい気楽な接し方でいいんだよ。

 まぁ、パステルップはちょっと気楽すぎかもしれないけどな?主にオレの言い回しのせいだけど。








 「ていうか、立ち直り早いな…。主にそこの」


 「あ、紹介してなかった。オレは……昨日の受付ちゃんから聞いたか。この付き人はラプティアスな」


 「こんなマスターだけど、よろしく」


 「むぐ……」


 「そこのラプティアスと付き合いが長ければ、慣れもするか」


 「まーなー」








 同じ女王同士、ポラリスとは仲良くできるかもなー。他の連中も面白そうだけど。








 《ファスム殿、あなたはスターストーンについてはご存じか?我々は今、それを探しているのだが…》


 「スターストーン、クセルクセスの財宝伝説のアレか?はー、なんで異世界人がそれ知ってるのかは知らないけど、厄介なモン探してるのな」


 《厄介?》


 「あぁ。一応、オレも王様じゃなくて冒険家だった頃に探したことがあってな、このパステルップにも1つはあることが分かったんだ。

  古い文献によるとダイヤモンドスターって名前らしいんだが、まだ開拓が進んでない森林地帯のどっかにあるっぽい」


 《未開拓、かつ森林地帯……道に迷ったら脱出不可能になる恐れもあるな》


 「開拓が進んでないのは、そこがゲリラ戦真っ只中な冷戦地帯だからなんだよ」


 《冷戦?デルポイ大陸の国家同士では特に戦争は起きていないと聞いたが》


 「そのケンカの相手……アンタらのお上さん、時空管理局なんだよ」


 「時空管理局と!?」








 トリトーンから冷静に質問されたから、こっちとしても冷静に返すのが筋ってもんさ。

 ゲリラ戦の相手が時空管理局と知った途端、クレアの顔が青ざめたけど。








 《時空管理局が戦っているということは、そのゲリラ部隊はきっと悪者ですね》


 「そいつはどーかなー?歴史問題引っ張り出すと、寧ろ管理局の方が悪者くさいけどなー?」


 《え…》


 《僕も、アストラルからいろいろと聞かされる内にそう思うようになった。

  管理と支配をはき違えたタカ派が、いくつかの次元世界に一方的な武力介入をしている話を何度も聞いている》


 「自分も大体似たような見解であります。

  機動六課を見る限り、イイ人もいるにはいるでありますが、無駄に血の気の多いタカ派もいるのも事実であります」








 ペルセウスは思いっきり面食らったって感じの声になった。

 アストラルと……って、あぁそーいやゼノンってアストラルと一緒に出てたんだっけな。しかも強かったし。

 パスナが同意してるのって……アイツ確か古代ベルカ戦争からずーっと生きてるんだっけ?なら知っててもおかしくないな。

 それはおいといて、その一方的な武力介入ってヤツの標的にされたんだよ、昔のデルポイ。








 「マスター、昔話はほどほどにしないと、あっという間に時間を使い果たすわよ?」


 「そーだった。ダイヤモンドスターについてだけど、アレが具体的にどんなシロモノかはオレも知らない。

  ただ、それでも手に入れるっていうなら冷戦地帯を突っ切ることになる。殺傷力抜群なワナも結構あるらしいから、気をつけろよ?

  弱肉強食の概念にのっとって、身の程知らずは死に絶えるシビアな世界になってるからな」








 ラプティアスにツッコまれて思い出し、ダイヤモンドスター関係での忠告。

 冒険家として未知のアイテムってのは心惹かれるモンだけど、命がけな危険と隣り合わせになってることもある。それだけは忘れちゃいけねぇ。

 ゲリラグループがそうとも知らないで回収してたら、ますます厄介だ。

 なんだかんだで30年以上はゲリラ活動してるバーサーカーどもだからなぁ、機嫌損ねたりしたら絶対にタダじゃ済まないな。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ領土南西部、未開拓エリア―






 《『ぎゃあああああああああああああああっ!!』》








 現在、我々は未開拓の森林の中で激走大逃亡の真っ最中。

 理由は…………そこらじゅうに仕掛けられているワナ、ワナ、ワナ!

 "アレス"でやっていたダンジョンフィールドの仕掛けをあざ笑うかのような密度のワナの応酬。



 突入直後に「丸太のワナ」を踏んだペルセウスが右から飛んできた丸太でブッ飛ばされた。

 その近くの木の根元で私が「イガイガボトボトのワナ」を踏み、脳天に大量のイガグリをくらった。

 アレックスは「召喚スイッチのワナ」を踏んで、周囲に召喚された謎のモンスターにフルボッコにされる。

 クレアなんて「回転盤のワナ」で目を回された挙句、「木の矢」「鉄の矢」「毒の矢」のワナ3連コンボ。

 エルシオンが「落とし穴のワナ」を踏み抜いて危うくマグマに落ちかけたり、

 ミネルバは「大落石のワナ」に引っかかってスクラップにされかけて、


 もうとにかく散々な目に遭っている。



 で、イリアスは三頭身かつユニゾンデバイスぐらいのサイズだからまだ踏み抜く可能性が低いからいい。

 パスナの姿が見当たらなくなったけど、どうせまた落とし穴に落ちたのだろうと勝手に判断。


 けど、トリトーンだけはなんでワナを踏み抜かないんだ…。一度も…。








 《このアイテム、通称"めぐすり草"の効果を得てワナの位置を把握しているからな》


 「何故、自分だけ…」


 《残念ながら、手持ちに1つしかなかったからだ》








 うぅ、優先順位についてはツッコまないけど、それでもキツいものがある…。








 《それより、早く安全地帯まで移動しよう。特に一番軽傷だったのはポラリスなのだから、貴女が頑張ってくれないと》


 「さり気なく酷いことを言ってないか…?」


 《あくまでも現状を客観的に分析した結果だ》


 「うぅ…」








 トラルー、今どこにいるかはわからないけど、私のいる場所はこの世の悪意が見えるようだよ…。








 「ミュミュ、ミューッ!?どうなってるんだミューッ!?」


 《「!?」》








 聞きなれない声が聞こえた時、その方向……右の方を見たら、丸太と共にミサイルの如き勢いで突撃する丸い何かが――








 《ポラリス、伏せるんだ!》


 「え、あ、あぁ!」


 《特殊技法、ジェルネット!》


 「ブミュッ!?」








 私に声をかけたと同時にトリトーンは動いていた。

 周辺の木々に次々と飛び移りながら、網の目のように白い何かを引っ張っていく。

 やがてその何かは網の役目を果たして、飛んできた丸太を真っ向から受け止めた。……何か悲鳴のようなものが聞こえた気がしたけど。

 ズズン、と音を立てて丸太が後ろの方から落ちていく中、私はやっと気づいた。

 …………丸太のワナ、踏んでた…。








 《創主レルネの新開発、粘着ジェル。原理はほぼ蜘蛛の糸と同様だ。空気に触れればすぐに硬くなる》


 「そうか、それでジェルを糸状にして張り巡らせて、防護ネット代わりにしてくれたのか…ありがとう」


 《正直、これがなかったら丸太を真っ向からシーホースアンカーで迎え撃つ以外に方法が無かっただろうな。危ないところだった》








 「粘着ジェル」といって左手の人差指で右の掌を指し示した。よく見ると掌部分に発射口のような部位がある。ジェルはそこから出したんだろう。

 しかし、レルネも実用性がありそうな機能を追加したなぁ…。

 トラルーによれば、随分とオタク的な趣味が詰まった産物が多いみたいなんだけど、錨が投擲武器とかじゃなくてハンマーになってるし、

 デザインの時に何があったんだろう。








 《今回の僕の新ボディについては、既にアストラルが設計図を作っていた状態だったからな…》


 「あぁ、だから粘着ジェルも…」


 「ミュミュ〜、どっちでもいいから早く助けてほしいミュ〜…」


 《「あ」》








 ごめん、忘れてた。そういえば君が丸太で飛んできたの、私が原因みたいなものなのに。

 というワケで、取り急ぎジェルネットから丸い何か……というか生き物を引きはがす。








 「ミュ〜、いきなりミサイルみたいにぶっ飛んだと思ったら目の前に女の子が見えるし、

  更にその前にネットが出てきてひっつくし、ネットはネバネバしてるし、散々だミュー」


 《こちらもワナの応酬で周辺警戒しているようでしていないも同義だったからな……すまない》


 「ていうか、ぶっ飛んだ原因については多分私の方にあると思うから、ごめんなさい」


 「あ、丸太のワナ踏んじゃってこうなったんだミュ?それはキミたちも災難だったミュー」








 先ほどから語尾に「ミュ」とついているこの生き物、ハッキリ言えば一頭身。

 黄色の体と耳、ピンクで丸っこい手足。お腹?の部分は白くて、耳の先端は茶色…だね。

 目の色は黒。というか、顔についてはちょうど(・ω・)みたいな感じ。








 「ところで、あなたの名前は?私はポラリス、こっちはトリトーン」


 《デルポイのモンスター……というにも異質な感じがするが》


 「ボクの名前はポミュっていうんだミュ。宇宙軟体生物なんだミュ〜。

  人はこう言うミュ、"宇宙一プリティな戦士"と!」


 《よろしく》


 「あれ!?流されたミュ!?」








 宇宙軟体生物……聞いたことないな。おそらくミッドやベルカとも違う次元世界なんだろう。

 デルポイにいることがその証拠……かどうかは疑わしいけど、そういうことだと思う。

 少なくともベルカではこんな生き物は見たことない。








 「ところで、そこで目を回してるのはキミたちの仲間かミュ?」


 「そうなんだけど、さっきワナの応酬くらってね……」


 《取り敢えず行動不能なほどのダメージは受けていない筈だが》


 《トリトーン、俺たちのことは放置?》


 《大落石にモロに巻き込まれたミネルバはメンテした方がいいかもしれないが、穴に落ちただけの君は心配無用だろう》


 《ペルセウスは?》


 《彼ならあっちの方で元気に走り回っt》


 「いーや、アレは絶対追い回されてるミュ。リーテゴに絡まれるなんてついてないミュねぇ」


 《うわ、扱い雑っ!》








 いつの間にか復帰してたエルシオンに放置プレイをツッコまれたけど、

 当のトリトーンは彼やペルセウスのことは意に介していないらしい。ていうかポミュにまで…。



 ちなみにポミュが言っていた「リーテゴ」とは、デルポイのモンスター。

 クチバシの下には何本もトゲがあって、棒状にした剣山のよう。両腕になっているのは翼。コウモリっぽいけど。

 短い脚と丸い胴体も含め、体は紫色。尻尾も上にトゲトゲがついてて痛そう。

 そんなに速くはないが、翼で飛んでペルセウスを追い回してる。ペルセウスがやや必死そうなんだけど。








 《えぇい、正義のヒーローが原生生物にむやみに手を上げるなど…!》


 《でぇーいっ!!》


 《あ!?》








 ペルセウスが逃げ回っているのは、彼なりの矜持によるものだったらしい。

 でもここ、デルポイだから。弱肉強食こそが唯一無二の掟であって、ヒーローとかそういうの全然関係ないから。

 ミネルバがクロー付き右ストレートでリーテゴを思いっきり殴り飛ばしたのは、きっと正解だと思う。








 《ミネルバさん!相手は野生のモンスター、別に罪はないじゃないですか!》


 《ペルセウスねぇ、アンタここがどこだかホントに分かってる!?弱肉強食だよ!?殺すか殺されるかだよ!?》


 「あー、言い方は少々乱暴な気もするけど、ミネルバの方が正論。自然界に理性というものはないと思った方がいい。

  野生というのは、生きることこそが唯一にして最大の目的でありたった1つの正論なんだ。

  そこに理性は関係ない。必要なのは、自分が生き抜く為に必要な判断を下せる本能。それだけがあればいい」


 《ポラリスさんまで!だって、相手からしてみればボクたちの方が不法侵入者じゃないですか!

  なのに、襲われたからといって一方的に倒したりしたら、侵略者と変わりないですよ!》








 うぅ、ペルセウスが譲歩してくれない…。主張がハッキリしているのはいいことなんだけど、それでいいのかと言われると…。

 わかる。確かにミネルバがやったことは、デルポイ側から、リーテゴから見れば侵略者ともとれることかもしれない。

 けど、こっちだって生き延びるので必死なんだ。モンスターたちに情けをかけられるほどの余裕は……。








 「ミュ〜、なんか小難しい話になってきてる気がするけど、ボクはどっちも正しい気がするミュ。

  生きるので必死なのはお互い様だミュ。だから、逃げるにしても戦うにしても、自分ができることをやるしかないと思うんだミュ」








 ポミュの割り込みで、ヒートアップしていたペルセウスとミネルバも止まってしまう。

 ……できることをやるしかない…。








 「弱肉強食こそがデルポイの掟。それは大陸開拓時代、人とモンスターの勢力争いに由来すると聞きます。

  人もモンスターも、自分が生きる為にできることをしてきた。図らずもそれがぶつかり合って、今のデルポイという世界ができた。

  多少の事件事故は起きるとはいえ、モンスターたちも今の状況には納得しているようです。

  寧ろ、この世界では人側が倣っているのかもしれません。弱肉強食とは、元々自然界の在り方を示した縮図みたいなものですから」


 「つまり、互いに生きる為に戦った末の結果。だから世界の皆が受け入れている。

  受け入れているからこそ、デルポイという世界は独自のバランスをもって安定しているんだと思う」








 復帰してきたらしいアレックスとクレアが、ポミュの言葉の補足といえる形で話してくれた。

 大抵の場合、世界の掟や秩序は人間やそれに近い立ち位置を得た種族が自然界に干渉し、大なり小なり捻じ曲げて得られたもの。

 いわばそれは、「人が作り、自然が倣う」方式。



 逆にデルポイは、自然界に対し人間や魔族が干渉、ただし一方的な干渉ではなく生存競争を仕掛けて立ち位置を得た。

 自然界の掟、弱き者は強き者に食われるという定めに従い、強さを見せることでモンスターたちから自分たちのテリトリーを勝ち取った。

 つまり、「自然が作り、人が倣う」方式。



 ちょっと変かもしれないけど、言葉にする方が難しい。まさに「考えるな、感じるのだ」っていうパターン。

 生存本能と己の気持ちだけを信じ、突き進んで勝ち取る。本来なら「原始的」などと蔑むことの方が多いし、それが正しいかもしれないけど、

 デルポイ大陸の歴史を紐解く時に限っては、こちらの方が正論なのかもしれない。

 全ては自然を根源とし、自然の掟に従うことこそが全ての生き物が守るべきポリシー。

 ミッドやベルカ、地球よりもはるかに自然的な姿を残しているのは、それが潜在意識として民に浸透しているせいなんだと思う。








 「……あー、なんかシリアスムードなところ申し訳ないんだが……ちょっと話、いいか?」








 突如かかってきた声は、若い感じの男の声。振り向いてみると、確かに男が一人いた。



 オレンジの瞳と髪。その髪の上半分は緑のニットである程度まとめられて…いや、束ねあげられて、内から外へ開いたような状態になっている。

 上は半袖、下は短パンくらいの長さのインナー。下のものは腹部からヒザ辺りまでかけて緑のラインが入っている。

 襟部分が赤で他は緑のノースリーブのベスト、腰には黄色のベルトと、そのベルトに接続されていると思われる両サイドのボックス。

 あとは黒の手袋に緑のブーツ、といったところ。ニットの左側には三角形の赤いバッジのようなものがある。



 実際、声相応に若い感じだ。体格的にはアレックスと同程度だろう。








 「こんなところでデルポイの歴史研究なんて場違いなこった」


 《なによアンタ。こっちは今取り込み中なんだけど?》


 「ここが、管理局とデルポイ側レンジャー部隊が冷戦真っ只中な物騒な場所だってのは知ってるのかって話さ」


 《知ってたら何!?》


 《ミネルバ、落ち着くんだ。とりあえずクローはしまって。……俺たちに何の用?》


 「悪いことは言わない。さっさと引き返すんだな」








 青年の言葉にミネルバが戦闘態勢をとる。……少し喧嘩っ早すぎやしないか?

 しかし、そこは先輩としてエルシオンが対処。ミネルバを引き下がらせて、青年に問う。

 帰ってきた答えは、まぁ想定の範囲内ではあるけど…。

 ……ん?レンジャー部隊?








 「んで、一応聞いておくが、なんで異世界人のお前らがこんな物騒極まりないところに来てるんだ?

  オイラはここのレンジャー部隊のリーダーだからな、返答によっては武力行使で排除させてもらうぞ」


 「そ、それは…その…」


 「スターストーンを探している。ファスム殿の話だと、このエリアにあるってことだから…」


 「あんなおとぎ話信じてるのか?飛王も鎧王も、案外お若いんだな……あぁいやいや、変な意味はないぜ?

  しっかし、スターストーンねぇ……あ、でも待てよ?」








 いきなり右手にショットガンを、左手にバズーカを持った青年の言葉にクレアが委縮してしまうが、

 私は敢えて単刀直入に言うことにした。この未開拓エリアで活動中の者なら、スターストーンについて少しは知っているのでは、その可能性に賭けてみた。

 「お若い」とか、なんか微妙に失礼なことを言われた気がするけど、それよりも今は青年が何か知っている感じなのが問題だ。








 「確か、このエリアにある遺跡の中に、星の形をした宝石があるって話があったな。

  オイラの仲間内では星宝石ほしほうせきとか言ってるけど、誰も見てみようとは思わないな」


 《どういうことだ?》


 「遺跡の中はワナだらけで、入ったら最後、誰も出てこないんだ。奥には怪物もいるしな。

  オイラはかろうじて脱出できたが、オイラ以外の突入メンバーはみんなワナと怪物の餌食になっちまったっぽい」


 《この辺りも十分にワナだらけな気がするのだが》


 「そうだミュ!いくら未開拓であまり人が入らないからって、ワナばっかり作り過ぎだミュ!」


 「この辺のワナなんざカワイイモンだ。遺跡の中のワナは、串刺しに圧死に首チョンパ、即死系ワナのオンパレードだ。

  そんでもって奥にいる怪物は、真っ赤なドラゴン。人の言葉を立派に喋るわ、騙し討ちするわ、生き物を食って回復するわ、結構なクソッタレだぜ?」








 スターストーン、直訳すると星の石。星の形をしたものだっていう話はダークハウンドから聞いたな。

 しかし、1つめの在り処が殺傷力抜群なワナがひしめく遺跡の中で、その奥には厄介そうなドラゴンがいるときた。

 いきなり難易度というか生存率云々の問題にぶつかった気もする……けど、何故だろう。

 騙し討ちについてだけは、今更感しか出てこないのだけど。

 それはともかく、人の言葉を喋るドラゴンか…。こちらの話が通じる相手ならいいのに。

 トリトーンとポミュのツッコミについては同意したいところだけど、正直、今の状況だとそれどころじゃなさそう。








 「それはそうと、ファスム様に会ってたのか。なら星宝石…スターストーンか?その在り処の手がかりが出てもおかしくないな。

  ていうか悪かったな、いきなり武器出したりして。今、うちのレンジャー部隊は管理局駆逐計画でピリピリしててな。

  つい昨日も管理局の連中がパステルップ領土に侵入しようとしてたから、オイラたちが追い返してやったばかりなんだ」


 《あの、なんでそんなに管理局を敵視するんです?駆逐だなんて…》


 「事の始まりは、多分大魔王騙し討ち事件だと思う。まだ大魔王が統治していた頃のデルポイに、管理局がやってきた。

  随分と人が良かったって話の大魔王は、ヤツらを歓迎した。けどな、管理局は大魔王の力が目当てだった。

  極めて優秀、というかデルポイ史上最強の魔法戦士であった大魔王の魔力と魔法を、世界の独裁化を加速させる原因とか考えてたらしいぜ」


 「騙し討ち、ということは、管理局側が大魔王に仕掛けた、ということでいいのか?」


 「あぁ。ある晩、管理局の連中は隠密部隊と奇襲部隊を配置して、大魔王を襲った。

  奇襲自体は成功したようで失敗だった。なにせ、攻撃の瞬間にバレて剣術と魔法で反撃されたからな。

  だが、隠密部隊の多重奇襲攻撃によって決定的なダメージを与えることはできた。まぁ、大魔王は絶命には至らず、弱体化にとどまったらしいけどな。

  あと騙し討ちとはいうが、具体的にどんな方法で騙して討ったのかは諸説あって特定できねぇな」


 《まさか、その時の民の怒りが、今も管理局に向き続けているってことですか…!?》


 「そういうことだ。『てめぇらのせいで大魔王様はーっ!!』的なノリだな。

  結局、大魔王の仲間や側近、オイラのレンジャー部隊なんかも絡んだレジスタンスができて、当時の管理局メンツは大半がシバかれたんだけどな」








 つまり、このエリアで今もデルポイの反管理局派が戦争ムードで潜伏しているのは、

 当時のデルポイの統治者であった大魔王を騙し討ち、というか闇討ちした管理局に対する怒りがおさまっていないからだ。

 さすがに引きずり過ぎじゃないか……と言いたいところだけど、寧ろそれだけ大魔王は民から強く慕われていたカリスマ君主であり、

 そのカリスマ君主を外側の勝手な都合で亡き者にしようとした部外者、つまり管理局の存在そのものが許せなくなっている。

 今のデルポイの民の総意かどうかはともかく、迂闊にその辺りを刺激するのは破滅を意味する。

 ファスム殿の話だと、確か30年以上はこの冷戦状態が続いているとのこと。つまり、ミッドでも結構な時間は経っている筈。

 それほどの時間を経てもなお鎮まることのない怒りだ、迂闊に触れれば大火傷、最悪それどころじゃ済まなくなる。

 年季入りの怒りとは、物理的な破壊力にさえ直結する。刺激しないに越したことはない。








 「……っと、話がそれちまった。スターストーン探しでここに来たんだっけな。

  まぁ、この辺のワナ仕掛けたの全部オイラだしなぁ。しゃーない、特別に協力するぜ。無駄に迷惑かけたお詫びにな」


 《唐突な気もするが……ご協力に感謝する。遺跡経験者ともあれば、心強い》








 青年が協力を申し出てくれた。いや、ありがたい。ありがたいけど、唐突すぎてもうなんといえばいいのか…。

 トリトーンの言うとおり、問題の遺跡から生き延びた生き証人がいるのはとても心強いこと。

 その協力が得られるのなら、少しは希望も持てるというもの。








 「いや、ていうか、この辺りのワナ、全部あなたが仕掛けたの!?全部!?」


 「おう。丸太だろ、矢だろ、落とし穴だろ、イガイガボトボトだろ、大落石だろ……あと、召喚スイッチもあったっけか」


 《うわああああああ!アイテム扱いでワナがどんどん出てくる!》


 「オイラにかかれば、これぐらいのワナはシール貼り付けるみたいに仕掛けられるからな。

  おかげで味方はめぐすり草が手放せなくなっちまったけどな!」


 《毎日のように草を飲むことになるのか……新手の拷問か?》


 「背に腹は代えられねぇ!」


 《味方にまで迷惑かけておいてドヤ顔で言うな》








 にわかには信じがたい話だけど、どうやらこのエリア一帯のワナは全てこの青年が仕掛けたものらしい。

 その証拠といわんばかりに開けた腰のボックスからは、見たことのあるワナが次々と出てくる。

 そんなものをシール間隔で仕掛けられるのは非常に困るのだけど…。

 クレアは青ざめるし、ペルセウスは驚きのあまり後ろに吹っ飛ぶし、トリトーンからはツッコまれてるし…。

 王様なのに非常にフランクなファスム殿といい、デルポイ大陸には何かしらの意味でぶっ飛んだ人しかいないのか?

 もっというと、良識人はいないのかッ!?




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―ミッドチルダ:機動六課内部―




 うぅーん…。








 「どうしたの、あず姉?なんか考え込んじゃって」


 「え、あぁ、ちょっと情報屋のことでね…」








 どうやらスバルに違和感を持たれたっぽいので、素直に明かすことにする。

 さっきの戦闘でいきなり現れた情報屋ルーラのこと。

 ハッキリ言って、かなり強い部類だと思う。ロブスターもどきを全滅させたあの戦いが、バーストモードを使っていたからできたのだとしても。

 というより、バーストモードを使って大暴れして、なのはちゃんクラスの砲撃と恭文並みの斬撃ができて、

 きっと凄まじいエネルギーを消費してるし制御だって大変な筈なのに、バーストモード終了直後でも全然平気そうで、シャドールシファーを一瞬で吹っ飛ばして。

 フォースチップの力をステータスアップに利用してる、という意味では、お兄ちゃんのイグニッションフォームと基本的な仕組みは同じだと思う。

 つまり、自動的に効果が切れるまで使っていたなら、お兄ちゃんですら汗だくのヘロヘロになるのに、ルーラはそれが全然なかった。

 規格外な能力だと思う。そして、それを完璧に扱いきっている彼の、戦闘技術も。








 「そうなの?結局私とティアとヴィータ副隊長はそれに立ち会わなかったから何とも言えないけど…」


 「エリオたちは、どう思う?」








 あの場に居合わせなかったスバルやティアナには考えづらい問題か。

 ティアナもエリオやキャロに話を振るくらいだし。

 ここでジェットガンナーやロードナックルに振らないのは、彼らも今はメンテ中でここ(食堂)にいないから。








 「完璧ってことはない、って思います。まぁ、トラルーさんの言葉の受け売りですけど」


 「あの情報屋さんの攻撃、威力はすごかったしとても鋭角的でしたけど、ちょっと荒っぽさがあったというか…」


 「エネルギーを集中させての局所破壊が目的な斬撃の筈なのに、エネルギーのまとまり方にムラがあったように思うんです。

  不規則にトゲが生えている、サボテンみたいな状態だと言えばイメージしやすいでしょうか」








 荒っぽさがあったというキャロに付け加える形で、エリオが続く。

 局所破壊の攻撃なのにエネルギーを収束しきれていない……となると、大なり小なりエネルギーを持てあましてる?

 と、いうことは……機動力と破壊力では私たちを上回る。けどエネルギーの操作能力は若干こちらの方が上手、ってことかな?

 仮にルーラと戦うとすれば、エネルギーのほころびが生じている部分に一撃を加えて、暴発を狙うっていうのもアリか。

 …………仮に、だよ?








 「もしも実際に戦うことがあれば、そんな弱点を突く暇もなく撃墜されかねん。

  それに、あの時はバーストモード使用中、つまり通常の数倍のエネルギー負荷を受けている状態でのことだ。

  通常状態なら逆にキッチリと収束させた一撃も可能だろうな」


 「だよねぇ、やっぱり。まるでトラルーを相手にするような気分だよ。能力的にも似てるし」


 「声も顔も髪型も、ついでにいえば体格までもそっくりだというのに、ヤツはトラルーだという確信が持てない。

  あまり現実的な考えではないかもしれんが……いつぞや柾木あずさがやっていたような、別人だと思わせる暗示がかかっている可能性もある」








 さすがマスターコンボイ。冷静な分析に加えて、違和感の正体についての考察までしてる。

 なるほど、確かにルーラに暗示がかけられているなら、トラルーと同一人物だって認識はできない。

 まぁ私の場合、暗示道具として伊達メガネも用意して多少は外観もいじってたから、スバルにも違和感すら持たれなかったんだけど。

 それに、もし暗示をかけた人がいるとして、それがどこの誰なのかもわからない。そもそも、本当にそうかもわからない。








 「別世界のそっくりさん説、ですよね。似たような話を知ってるから、どうにも…」


 「うんうん、某炎神戦隊のDVD上映会を分割してやった甲斐があったな。丁度いい話だったし」


 「具体的には、大将軍が出てた話」


 「だな」








 キャロの話にスターが食いついてきた。あー、やったねー上映会。ノーザンもしっかりと見てたっけね。

 トラルーの行方が分からなくなったのがデルポイという別世界でのことだし、そっくりさんという話の方が信じられるかなぁ。

 そうだとしても、似すぎてるけど。








 「んで、こっちはこっちで悶々としてるワケだけど、どうすりゃいいと思う?」








 そういって恭文が示したのは、なんか机に突っ伏したままドリンクをストローで飲んでるイテン。

 きっと、あの顔を絵で表現するなら、どこぞの「やわらか○○」的な状態になってると思う。

 ていうか、想定外なフラれ方して失意に飲まれた元カノじゃないんだから…。

 でも別に雰囲気は暗いワケじゃない。苛立ってるワケでもない。ちょっとヘソ曲げてるくらいかな?








 「うー、アレはどう見てもトラルーにしか見えないのになー。見えないのになー。見えないのになー。見えないのになー」


 「と、とりあえずそっとしておくのが最善の策かと思うのでおじゃるが…」








 改めてイテンの姿を見たビコナが、少し慌てた感じで提案。きっと漫画とかなら冷や汗垂らしながら苦笑しつつって顔で。

 なんか「見えないのになー」を連呼し始めてちょっと危ない感じもし始めたんだけど、大丈夫……だよね?

 取り敢えず、なんかもうしばらくはミッドにいるって言ってたから、こっちで探してみればいいんじゃないかな…。あ、あはは。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ南西部・未開拓エリア―






 「おいおい、そんな驚くことか?」


 「まぁ、"アレス"出てた連中なら驚くだろーな。ていうかコイツら、機動六課にいた連中じゃねぇか」








 正直、たまげた。いや、レンジャー部隊を仕切っている青年こと"ソルト"が人を紹介してくれたのが事の発端。

 ソルトにとって彼は「サバイバル術の師匠」ということなのだが、そんなこともしていたのか…。

 ん?彼って確か古代ベルカ戦争経験者かつ"デバイス界のワンマンズ・アーミー"だったっけか。なら寧ろ納得するべきなのか?

 どうなんだ?スティア…。








 「こっちこそ少し驚いたぜ?いや、クロノ提督からスターストーン探しで別働隊を出すって話は聞いてた。

  んで、スターストーン探すならデルポイだよなってことで、現時点で在り処がハッキリしてるダイヤモンドスターが先かって話になってな。

  それでせっかくだから弟子の顔でも見てやろうと思ってパステルップに来てみれば、こんなことになるしよ」








 人のつながりって、どこでどうなっているか分かったものじゃないなぁ…。

 ていうか、既に在り処を知っていたのかクロノ提督…。








 「ただな、ソルトだけが命からがら逃げ伸びたってことから察してほしいが、あの遺跡は殺戮ワナ地獄絵図だ。

  それに突入すれば最後、唯一の出入り口に再び辿り着かない限り補給も通信も不可能。生きるか死ぬか、至上のサバイバルってワケだ」


 「人員の損失がどれほどのものになるか予測できないから、フリー枠である自分だけで来たと?」


 「ていうか、現時点であの遺跡を踏破できたの、スティア師匠だけなんだよ」


 《ホントですか》








 スティアの話が続き、彼だけがクロノ提督のところからこちらに来た理由はクレアが付け足した通り。

 それはそうと、踏破できた唯一の存在って。ソルトの言葉には、ペルセウスだけでなく私たちも茫然とするしかない。

 なにせ、ソルトというワナ師ですら踏破できなかったのを単身で突破したというのだから、素直に恐れ入る。

 きっと1時間くらい前に私たちが酷い目に遭ったあのワナコンボも余裕で回避できるに違いない。








 「取り敢えずお前ら、コレ常備しとけ。絶対ケースとかに入れるなよ?効果が出なくなるからな」


 「って、これ、復活の草?」


 「あぁ。オレにとってもあそこでは万が一ってことがフツーに起こりそうで怖いからな。

  未経験者のお前らなんて特にヤバイ。だから万が一ってことがあっても大丈夫なように、保険として持たせとく」


 《……俺らデバイスに、効果あるのかな…?》


 「いや、こういうアイテムって大抵、有機生命体にしか効果ないんじゃないか…?」


 《デスヨネー》








 スティアから私、アレックス、クレア、ポミュ、ソルトにそれぞれ渡されたのは、"アレス"予選のダンジョンフィールドにも出た復活の草。

 ブレイクオーバーした時、つまりダメージカウンターがない時には致死量のダメージを受けた時、一度だけ全快状態で復活させてくれる凄まじい効果を持った草だ。

 ただし、スティアから注意されたように、このアイテムはケースや壺といった容器に入れておくと効果が発揮されない。

 手持ちかポケットに入れる程度でないと効果がない、というのだからクセモノだ。まぁ内ポケット辺りにでも忍ばせておけばいいでしょ…。



 ちなみに、エルシオン以下デバイス組にはナシ。なにせ、彼らは純粋なメカだから、効果があるのか非常に疑わしい。

 それに復活の草は、回復アイテムとしては希少な部類らしい。スティアは1人で5つ以上は持っていたけど。

 一応確認したエルシオンが、スティアから返ってきた至極真っ当な答えに若干落胆したっぽいけど、この際、無視するしかない。








 「スティア師匠、確かあの遺跡って照明はあったっすよねぇ…?」


 「あるにはあるが、見事に古典的な松明だけだぞ?照明は持っていくに越したことはないだろうな」


 「ご心配なく。自分が携行用照明器具を多数取り揃えているであります!

  ポピュラーな懐中電灯はもちろん、洞窟探検でお馴染みのヘッドランプ、ファンタジー系でたまに見る手持ち式のランタン……」


 「ヘッドランプと懐中電灯だけでいいな、うん」








 ソルトの確認にスティアがすかさず回答。そこにパスナがセールスマンの如くいろいろ出してきたけど、

 ランタンがハロウィンにしか使えそうにない奇怪な形だった時点でスティアに取り下げられた。

 うん、ツッコまない。どこから出したんだとか、そんなことにはもうツッコまないぞ私は。








 《ところで、その遺跡の最奥部に辿り着くまでにどれほどの時間がかかる?

  推定でかまわない、とにかく目安となる時間が分からなければこちらとしては動きづらい》


 「オレが単身で挑んだ時には、ざっと4時間で最奥部についた。謎解きで時間かかったけどな」


 《謎解き……トラップの解除などか。それらを片道で行い、4時間。戻りに早くても半分の2時間と見積もって、6時間ほどか…》








 トリトーンが気にしたのは、今回の遺跡攻略でかかるであろう時間。

 現在、時刻は午後の1時を回ったところ。仮に今すぐ突入したとしても、脱出する頃には日が沈んでしまう。

 正直な話、日が沈んだ森を歩くのは非常に危険。ましてやここはデルポイで、真昼間のさっきも原生モンスターのリーテゴに襲われたくらいだ。

 夜という視界が悪い状況下で見知らぬモンスターに襲われるのは、避けたい。

 ましてや、スティアですら踏破に6時間かかった。つまり私たちの場合はもっとかかる可能性すらある。







 「今日はやめとけ。遺跡から出ても安心できないエリアだってのはわかってるだろ?

  それに、遺跡にいるモンスターについても教えておきたいしな」


 「あー、それもそうっすねぇ」


 「予習はしておくに越したことはないでしょうし、今日のところは出直しましょうか」








 ソルトやアレックスの賛同も得られたスティアの提案により、ひとまず今日の遺跡探索は断念。

 とりあえずこのワナだらけのエリアからは脱出しないと、落ち着くのはまず無理。

 一旦パステルップ都市に戻るというのも……




















 「グォオオオオオオオオオオオオオン!!」




















 《なっなっなっなっなんです今の!?》


 《何かの鳴き声!?にしてはちょっと大きすぎない!?》


 「ペルセウスもミネルバも落ち着いて。今の声、多分地下の方からきてる」


 「あー、やっぱまだ居ついてるんだなー、"アイツ"も」








 突然の凄まじい雄叫び。それにペルセウスとミネルバがすごく驚いたけど、クレアが冷静にいさめる。

 彼女の言うとおりなら、雄叫びの主は地下、というか遺跡の奥の方にいるということになるけど…。

 スティア、「アイツ」ってなんだ?








 「簡単にいえば、遺跡の最奥部に居座ってるヌシだな。名前は"ゴンババ"っつってな?

  赤くてヤケにデカいドラゴンだ。どうやらメスみたいだが、気性はやたらと荒いくせに妙に小賢しい。

  人を騙して、釣られたヤツを頭からバックリとバリボリ食っちまうんだ。オレは引っかからなかったけど」








 そういえば、さっきソルトも「遺跡の奥に怪物がいる」って話をしてたな。それがゴンババというヤツか。

 人を騙して食べてしまうのか…。なんともエグい手段で生活してるんだな…。

 まぁ、スティアが引っかからなかったというなら、おそらくウソのレベルも万人向けじゃないだろう。

 この場にいる全員が引っかかるということはないと思うけど…。








 「アイツのウソは、我慢を知らないクソガキぐらいしか引っかかりそうにない低レベルなウソだ。

  最低限の物欲と好奇心を抑え込めれば、アイツのウソを振り切るのはそう難しくない。

  それに、偶然に近かったがオレはアイツの弱点を知ることができた」


 《おお、それは頼もしい限りです!遺跡のドラゴン退治、勝機が見えましたね!》


 「そいつはどうかな」


 《え》








 スティアいわく、さほど狡猾な嘘つきというワケではないらしい。

 それより問題なのは、ゴンババにある弱点というヤツ。ペルセウスに肩すかしをくらわせた辺り、事情があるみたいだけど。








 「アイツの弱点はな、"『カ』で始まって『ル』で終わるケロケロ鳴く生き物"なんだけどな?」


 《なぁーんだ、つまり"カエルが苦手"ってことじゃない》


 「ただし、そのカエルをどうするかって話だ。実物見せようとしても、あの遺跡の異様な乾燥っぷりのせいですぐに死んじまうんだよ。

  弱点というかトラウマというべきなのか、実物見せたとしてもすぐに焼却処分されるからあまり意味ないんだ。

  要は、"どうやってカエルという弱点を突き続けるか"ってことになる。実物を持って見せるのはNGだから、それ以外でな」


 「ミュ〜、なんか座問答みたいになってきたミュ〜」


 「まるで某お坊さんみたいなトンチ問題でありますよ」








 ミネルバの指摘通り、ゴンババの弱点とはズバリ、あのケロケロ鳴くカエルらしい。

 しかし、弱点であることはトラウマであることも否めない。トラウマの種は断つに限る。そんな感じで、実物を持っていくだけじゃダメらしい。

 ポミュやパスナもさすがに困った顔。これはまた問題発生だ…。








 「噂では、遺跡の中にある宝箱のどれかに、弱点……カエルにまつわるアイテムがあるって話だ。

  そのアイテムを使った場合に限り、ゴンババを弱体化させることができるらしいんだが、まずはそのアイテムを見つける必要があるワケだ。

  ダイヤモンドスターらしきものはゴンババが持ってるのを見たから、まずはアイテムを探す為に遺跡を調べるハメになるだろうな」


 「つまり、ソルトやスティアでも知らないワナが潜んでる可能性も…」


 「高いだろうなぁ。特にオイラは途中離脱したから、スティア師匠が知らなかったらまず知らないぞ?」


 「デスヨネー」








 ドラゴン退治する為にアイテム探しをしなくてはならないとは…。

 クレアが気にした通り、経験者2人でも知らないようなワナが潜んでる可能性が十二分にある。

 ……ところで、どうしてソルトは途中離脱したんだ?








 「へっ?」


 「他にもメンバーを連れて入ったことがあるんだろう?そのメンバーと死に別れてまで途中離脱したなら、事情がある筈だ」


 「あ、あー、アレなー……」


 「やめときな、鎧王」








 どうやら事情があるのは違いない。だが、そこでスティアに止められた。








 「スティア師匠?」


 「鎧王が気にする理由もわかる。オレだって、たまに聞いてみようかと思うこともある。だが、敢えて聞かない」


 「……それは、どうして?」


 「ソルトはな、オレと一緒にサバイバル術の訓練に明け暮れていた頃から、既にチームを率いていた。

  コイツがチームメイトを置き去りにするようなマネだけは、10年以上の付き合いの中で一度も見たことがない。

  そんなヤツが、信頼を置くチームメイトと一緒に遺跡に乗り込んで、単身で離脱してきた。

  何かあったことはすぐに分かったさ。だが、オレは敢えて聞かないことを選んだ」








 敢えて聞かない。その理由を尋ねた私に、スティアは丁重な回答をくれた。

 だが、まだ終わってない。一旦息をついて、敢えてこの場の全員に聞かせるかのように見回して、告げた。








 「死の瀬戸際での選択に、理由を求めるのは馬鹿がすることだ」








 ……つまり、せっかくの覚悟に水を差したり、問い詰めるのはよろしくない、ということか。

 それも、死の瀬戸際で咄嗟に下した判断ならば、なおさらのこと。

 私はわかる気がする。戦場でのひとつひとつの判断は、それだけでもある意味で命がけのことだからだ。

 実際、ひとつの、一瞬の判断で生死を左右されるのが戦場だ。それはどこでも、どの世界でも変わらないこと。

 戦場とは「戦」いくさの「場」だ。おそらく、これから行こうとしているあの遺跡の中でも同じ。

 デッド・オア・アライブ。生きるか死ぬか。おそらくそれだけが真実だ。








 《でもさ、その選択が行き当たりばったりなヤツだったら?理由がないとか》


 「理由なんざ、後でくっついてくるモンだ。理屈ばっか並べてるようじゃ戦場では早死にする」


 「あー、スティア師匠いわく"100の理屈より1秒の判断で動け"ってヤツっすね」


 「いや、それはオレの言葉じゃなくて、訓練時代に見てた教本にあった言葉なんだがな?」


 「そうだったっすか?」


 《サバイバル術の教本か。少し興味がある。著者か題名だけでも教えてくれないか》


 「題名は『戦場を生き抜く100の教訓』だっけな。著者は誰だったっけか」


 「著者は確かアストラルだった筈だ。知らないヤツに嗅ぎまわられたくないからって、著者名をニックネームにしてたようだがな」








 エルシオンからの疑問にもスティアが答える。ただ、それは教本とやらからの受け売りらしい。

 情報収集と管理を主目的としている(らしい)アストラルなのに、理屈より瞬間的な判断で動けというか…。

 ソルトも見ていたらしいその教本は、いつの時代か知らないがアストラルの自著らしい。

 でも著者名をニックネームにしてたなら、何故スティアは正体がアストラルだって知っているのだろう?

 …………もう聞いたら負けな気がしてきた…。








 「ちなみに出版社は、地球の方で有名な角○文庫な」


 「この場に、純粋な地球人は1人もいないんだけど……」








 スティア?クレアの言うとおり、地球出身者が誰もいないここで地球の出版社の話をされても…。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―セイバートロン星:惑星中心部―






 ――これはまた、珍しい客人が来たものだ。


 「珍しいどころか、ここに来るのは初めてだと思うのだけど」








 ここは、ごく一部の者しか知らないルートからのみ入れる、セイバートロン星の真の中心部。

 少数の者しか知らないのは、ここにあるのがユニクロンと対をなす創造神・プライマスのスパークがある場所だからだ。

 「触らぬ神に祟りなし」。無用なトラブルの種は、シャットアウトするに限るってことさ。



 え、じゃあなんで眷属霊である僕が知っているかって?それは、クヴァシルのデータベースがプライマスともリンクしてるからなんだよ。








 ――なるほど、私のメモリーバンクから位置を特定、人目がないところを見計らってここに来たということか。


 「創造と破壊は表裏一体。同じコインの表と裏。創造があるからこそ破壊があり、破壊があるからこそ創造がある。

  図らずも創造神と破壊神の中間の位置に立つことになった身分だからこそ、こうしてここに来ることができたと言っておこう」


 ――念の為に聞いておこう。その身分になった要因は何だと思う?


 「ユニクロンの物質再構築能力の暴発。それによって生まれ落ちた異端児。彼の影響が大きいだろうね」


 ――トラルーか。








 やはりプライマスも知っていたようだ。トラルーが、物質再構築能力の暴発によって誕生した存在であることを。

 彼がそれを知ることになった理由については敢えて詮索すまい。

 そんなこんなで僕がプライマスとのダイレクトコンタクトに臨んだ理由は、質問。








 「さて創造神よ。1つ聞いておきたいことがある。

  飛王アレックスに鎧王ポラリス。彼らを転生させたのは貴方で間違いないか?」


 ――うむ。確かにあの二人は、私が彷徨える魂に干渉し、現代に甦らせた。精神生命体として。


 「そう、そこ。普通の生命体を、実態を持った魂という側面を持つ精神生命体として甦らせた方法。

  プライマスはユニクロンとは違い、体内で新たな生命を生み出す力、即ち物質再構築能力は持ち合わせていない。

  創造神と言われているプライマスだが、その本質はどちらかというと"生み出す"というよりは"世に放ち、見守る"ことにある。おそらくそのせいだろう。

  なのに、どうすればそんなことができるのか。あの二人の登場からずっと気になって、調べていた。そして見つけた」


 ――その答えは。


 「あの二人には、"コア・ストーン"が使われている。違うか?」


 ――正解だ。よくぞ突き止めたものだ。








 やはりそうか…。それならば、あの二人が精神生命体として新たな命を得たのも納得だ。



 おっと、読者諸君の為に説明しておかなければなるまい。

 "コア・ストーン"とは、端的にいえば魂の器。これを核として魂を1つ宿すことで、精神生命体へと生まれ変わらせる特殊な結晶体だ。

 わかりやすく言えば、レリックを抜いたレリックケースのようなもの。いわば、トランステクターの運用法と似ているのだ。

 本来のトランステクターは、レリックという魂を核としてレリックケースが構築する鋼の器。鋼鉄の体。

 ミもフタもない言い方をすれば、トランステクターの人間バージョンみたいなものか。なお、通常の精霊などと同様に、不老不死で寿命も肉体的な変化もない。

 コア・ストーンによる転生の場合、構築される体の形状については魂側が決める場合が多い。

 まぁアレックスとポラリスの場合はプライマスが干渉しているから、おそらく外部干渉による影響もあるとは思うけど。



 精神生命体を人為的に生み出すことも可能である為、コア・ストーンによって誕生した個体については"人造精霊"なんて呼ばれることもある。

 もっとも、コア・ストーンは非常に希少なアイテムで目撃例がかなり少ないから、存在自体を知らない人も多いんだけどね。








 「そうまでして、あの二人を転生させた理由はなんだい?

  この際、貴方がコア・ストーンを2つも持っていたことについては不問にするけど、

  何故にあの二人だったのか。古代ベルカの王なら、他にも何人もいるだろうに」


 ――敢えて言うなら、保険だ。


 「保険?答えになっているようでなってないんだけど」


 ――古代ベルカの王族の一部が、記憶と特性を遺伝させる形で転生に近いことを繰り返していることは知っているな。

    それはつまり、関係ない筈の小さき命が、強大な力を未成熟な内から持ってしまうことだ。

    未成熟な内から強大な力を得てしまうことには、遅かれ早かれ暴走を引き起こす絶対的な危険性がある。



 「やがて古代ベルカ関係の生まれ変わりの誰かが暴走した時、それを抑えるだけでなく、力の使い方を教えて導く者が必要になる。

  その役目を想定しているというのか」


 ――ベルカの王の力を抑え込めるのは、同じく古代ベルカより生まれし者。中でもあの二人が適任といえる。


 「アレックスが魔法関係で、ポラリスが武力関係で、それぞれ教え導くということか。

  確かに、古代ベルカ戦争時に文化保全に徹していた王家の中でも、彼らの実力は秀でている。聖王や覇王にも引けを取らないほどに。

  更に現時点で、聖王の生まれ変わりであるヴィヴィオがいる。機動六課に向かうように仕向けたのも、それを見越してか」


 ――あるルートで入った情報によれば、既に覇王の生まれ変わりもミッドチルダにいるようだ。


 「んん、そうだったのか。覇王の生まれ変わり……となると、ポラリスの方がより適任か。ヴィヴィオはアレックスで」


 ――おそらくな。聖王はともかく、覇王は古代ベルカ随一の武闘派でもあったようだからな。








 単にトラルーの古きお友達だからってワケじゃなかったと。寧ろ本命は、やがて現れる、古代ベルカ王族の生まれ変わり達。

 ヴィヴィオだって、レリックを埋め込まれてどこぞのメガネ四女に操られたせいで暴走したし、

 どういう形であれ未成熟な器に宿された大きすぎる力を狙って、どこのバカが何をやらかすかわかったモンじゃない。

 アレックスとポラリスは、いわば明確に記憶から情報を引き出せる、古代ベルカの生き証人。

 まぁ、そういう意味では柾木ジュンイチにゾッコンな龍王マグナクローネも該当するのだけど、取り敢えずここではスルーしよう。

 古代ベルカの生き証人であり、最前線で戦い続けた猛者でもある。つまりは、万が一暴走した時に対する抑止力。

 少なくとも戦闘力のツートップは聖王と覇王だったし、それらとガチンコで対抗できる実力を持っているのは確かだ。



 つまり、こういっちゃアレだけど、そんじょそこらの王家相手なら十分に返り討ちにできるってワケ。

 AMFの応用をくらうとアレックスには厳しいが、ポラリスは元々そんなの関係なかったから、なおさら戦闘力の優位は揺らぎにくい。

 それと、鎧王家は根っからの完全武家社会だったとも言っておく。身の程知らずへのオシオキには困るまい。








 ――話を変えるが、眷属霊についてはどうだ?いつの間にか新入りもいるようだが。


 「あぁ、ヒリングにリヴァイブか。アイツらはダークコマンダーが干渉して生み出したものだろうね。

  アイツらの詳細データは現在収集中だ。使っているデバイスだって、僕が作ったワケじゃない」


 ――そうか。他の者たちについては、相変わらずのようだな。


 「地球滞在組については特にね。ダグザなんて完璧な農民になっちゃってるくらいだし、地球に魅入られるヤツの多いこと。

  7色メンツの中ではノートラムだけだな、仕事熱心なのは」









 7色メンツとは、僕も含め肩書き代わりに虹の七色のどれかを当てられているメンツのこと。

 トラルー、リヴァイブ、ヒリングの3人についてはその法則から外れているので除外。

 前回の話で一堂に会した7人のことさ。

 それはともかく、リヴァイブのガデッサにヒリングのガラッゾ。コイツらについては完全に僕の手を借りていないデバイスだ。

 まだ戦闘回数も多くないみたいだし、データ収集はまだまだこれからだ。








 ――そして、君はこれからどうするつもりだ。ユニクロンに反旗を翻したも同然のようだが。


 「まぁ取り敢えず、トラルーみたいなやり方をしてみるさ」








 とどのつまり、ユニクロンにも従わない自由気ままな一人旅ってヤツをね。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ南西部・レンジャー部隊本部―






 結局、謎のアストラル著書の話が出た後はワナだらけなエリアから一時撤退。

 ソルトが率いているレンジャー部隊の本部を借りて、スティアとソルトを講師として予習復習で一晩明かした。

 レンジャー部隊がアンチ管理局ということでかなりヒヤヒヤしたんだけど、アレックスさんとポラリスさんを見たら信用してくれた。

 勿論、隊長であるソルトやその師匠であるスティアの説得もあった。それを差し引いてもあっという間だったけどね?








 「まさかこのレンジャー部隊のメンバーの大半が鎧王軍と飛王軍の生き残りだったとは…」


 「いいじゃないですか。仲間が生きているのは嬉しいことですし、こうして顔パス同然で協力も得られましたし」


 「さすがにコレは自分も知らなかったであります。同志と再会できて感涙でありますよ」








 というのも、実はこのレンジャー部隊、主要メンバーの多くがかつて飛王軍や鎧王軍として戦っていた人たちだった。

 だから、ポラリスさんやアレックスさん、パスナの姿を見て、声を聞いた瞬間に確信したんだと思う。

 あの二人が仲間になっていて、本当によかったと思うよ…。








 「いやクレア、合言葉やってたろ?」


 「そ、そうだね、うん」


 《飛王軍はまだいいよね。"翼と炎は空を茜に!"だったからなぁ》


 《反面、鎧王軍は実に面白い合言葉だったな。いや、もはや通例挨拶とでも考えておこうか》








 イリアスが早速訂正入れてきた。うん、そう、合言葉があったの。彼らには。

 飛王軍についてはエルシオンが言ってくれた通りで、いかにもそれっぽいんだけど、問題は鎧王軍。

 トリトーンもそうみたいだけど、単なる合言葉の領域は超えてるとボクは思うんだ。








 「しっかしイカしてるな。せっかくだから、景気づけにもう一丁やってくれよ?」


 「んん?仕方ないでありますな〜。鎧王様まで見ておられる手前、2回目でも派手にやってやるであります!」


 『オォーッ!!』








 ソルト、リクエストしてくれなくていいのに…。パスナたちが乗り気になっちゃった…。

 あぁ、どこからともなく軍隊っぽいBGMが聞こえてくる…!








 我々わ〜れわれはァ!!」


 『鎧王軍、精鋭部隊!!』


 「今の我らの在り方はァ!!」


 『対管理局、徹底抗戦!!』


 「今日の君らのすることはァ!!」


 『管理局艦、絶対爆砕!!』








 うん、ここまではまだいいの。いろいろマズイ言葉も並んでるけど。それよりも問題は、この後のシメ…。








 「作戦失敗したヤツぁ!!!」


 『テメェの頭を、食いちぎれッ!!!』




 《どこの宇宙海賊ですかあなた方はッ!?》








 そう、最後のシメが、宇宙海賊バ○バンの特殊部隊のアレと同じノリだってこと…。

 ていうか、全体的に同じノリなんだけど、最後のシメまで再現しなくても…。

 これには特撮ヒーローマニアなペルセウスがすかさずツッコんだ。さっきも同じようにツッコんだ。








 「ていうか、ポラリスさん的にはどうなの?あの掛け声…」


 「一応言っておくけど、別に作戦失敗しても本当に頭食いちぎらせるワケじゃないからな?」


 《当たり前ですよ。地獄の軍団なショッカーでもそんなことしませんよ》


 「要するに、戦地の真っ只中で失敗すれば、生きて帰ってこれないものと思えっていう意味。

  頭を食いちぎれっていうのは、機密保持で自爆するのと同じノリ。本当にそうしろとは言わないけど」


 《そもそも自分の頭をどうやったら自分で食いちぎれるのよ?》


 「不可能だ。つまりは冗談。だからこそ派手に迷いなく叫べるんだ。あくまでもそれぐらいの覚悟をしろってことでね。

  ……私は反対したんだけど、パスナたちが取り下げてくれなくて…








 ボクだけでなくペルセウスやミネルバにまでツッコまれるけど、当のポラリスさんは涼しい顔で答えてしまう。

 つまり、王様公認ってことですか…。ただし、やむなくっぽいけど。








 「んじゃー、景気づけもできたところで、お前らは今まで通りに管理局の艦を撃ち落としてこい。

  オイラはスティア師匠やクレアたちと一緒に、例の遺跡に突撃してくる」


 「心強い味方が多数おりますが、本当に大丈夫でしょうか!」


 「ましてや今回は、あのゴンババとも戦うつもりなんですよね!策はあるんですか!」


 「安心しろ。無策で突撃するようなマネはオレもソルトも許さない。ちゃんと策アリだ。コイツで戻るしな」








 ソルトが今日やることを部下たちに指示。部下2名からの質問にはスティアがサラッと答えた。

 ていうかスティア?今出したその巻物は何?








 「コイツはな、"持ち帰りの巻物"っていうんだ。巻物の効果が出せる場所でなら、どこからでも入口までワープできる。

  しかも、ダンジョン内部で拾えたアイテムを全部テイクアウトできるスグレモノさ」


 「なるほど、仮にゴンババまでたどり着く前にピンチになっても安全に離脱可能。

  ダイヤモンドスターを手に入れればその場で脱出して、帰りの時間を大幅に短縮できるということですか」


 「そうだ。コイツは大量に準備できたから、遺跡行きのメンバー全員に1つずつ持たせておくぜ」








 目的の達成・失敗に関わらず、迅速な撤収ができる。しかも、ダンジョンと化しているあの遺跡で拾えたアイテムを持って帰れる。

 復活の草はギリギリしかないし、この巻物は大量に用意できたらしいので、一安心。








 「古代ベルカ組は重々承知だと思うが、とにかく生き延びることを優先しろよ?」


 「うん、それは絶対だよね」


 《無論、死にに行くつもりはない》


 「ていうか、死ぬなんて冗談じゃないミュ!」


 「上等だ」








 スティアから釘を刺されたところで、ボクたちはダイヤモンドスターがある筈の遺跡へと進路を向けた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ南西部・遺跡内部―






 遺跡のほぼ唯一の出入り口は、城門の扉のような形状。だが、開くのに苦労はしなかった。

 理由は簡単だ。








 「ふ、複雑…………ッ」


 《ナイスファイトだったよ、ポラリス!》


 「さすがは我らが鎧王様であります!」








 古代ベルカ王家きってのパワーファイターでもあるポラリスの馬鹿力でこじあけてもらった。

 おかげでオレたちはまんまと体力温存に成功したってワケさ。モンスターの駆逐とかはオレらに任せていいから、高みの見物としゃれ込めよ鎧王。

 ミネルバやパスナに健闘をたたえてもらえて、悪い気分じゃないだろ?

 ちなみに、彼女が思いっきり肩で息をしている点についてはスルーさせてもらう。








 「さぁお前ら、気合入れろよ?進路上のワナは徹底的に見つけて潰せ。

  オレやソルトが出てからだいぶ時間が経っている筈だからな、ワナが元に戻ってる可能性がある」


 《不思議のダンジョンさながらな再生システムですね》


 「ランダムマップ方式じゃないだけ、まだ優しい方ではあるんだけどな?ダンジョンとしては、だけど」








 そう、ペルセウスに答えたソルトの言うとおり、この遺跡はダンジョン化しているが、マップは固定だ。

 つまり、構造については前に見た時と同じ筈。それだけでもリベンジマッチとしてはありがたい。

 問題があるとすれば、見つけて壊したワナが直っていて、しかも位置が変わっている可能性があるってことだな。

 モンスターどものせいであるとも、ワナを作ってる職人のきまぐれのせいであるとも、諸説ある。








 《でもさ、こういう遺跡ってよく壁の一部がスイッチになってるってオチとかよくあるよn》








 言ってるそばからエルシオンが近場の柱に何気なく手をかけて、触れた部分がへこんだ。

 それと同時にトラップが作動して、エルシオンの姿が消えた。まぁ、原因はわかるけどな?スイッチ式の落とし穴だ。








 《エルシオンさぁぁぁん!?》


 「取り敢えず生きてるよなー?串刺しとかになってねーかー?」


 《ホントにこういうトラップあるなら言ってよ!?》


 「いや、まさかわかっていながらワナに引っかかるというベタなボケに走るとは思わなくてなー」


 《ボケたつもりじゃない!!》








 慌てて飛び出したペルセウスを取り押さえつつ、開かれた穴の下を見てみると、

 串刺しにせんといわんばかりに鋭くそびえる円錐状の針にしがみついたエルシオンがいた。

 どうやら立ったまま垂直落下だったおかげで、しがみつくという行為にスムーズに移行できたようだ。なら問題ないな。

 とりあえず救助については、単体飛行能力を持つ飛王サマに任せておけばいいか。








 「あ、モンスターがいるミュ!」


 「ホネノコごとき、自分だけでも充分すぎるでありますよ」


 「あー、やるならキッチリ片付けろよ?」


 「勿論であります!いきなりのぉ、ウィーゼルユニット、フルバースト!!








 ホネノコ。この遺跡にいるモンスターだ。姿は骨だけになった二足歩行のカメ。

 基本的な攻撃は、どこからともなく出してくる骨の投擲。くらえば地味に痛いが、撃ち返せば反撃になる。

 余談だが、デルポイ大陸の原生モンスターではないらしい。それについてはゴンババも同様で、外来種なんだけどな。



 まぁ、ゴンババ自体、元からデルポイにいるモンスターじゃないってことは、アイツの目撃例が出たのとほぼ同時期に確定事項になっている。

 なぜなら、ゴンババは時空の歪みによって生じた穴から出てきたヤツだからだ。

 不幸中の幸いなのは、まだここの遺跡の扉を通れるくらいには小さかった内にここに入って、それから全く出てこなくなったってことだ。

 昨日聞こえた雄叫びの大きさからして、多分もう遺跡から出られないくらいに大型化している可能性が高い。

 逃げようと思えば逃げれるとは思う。緊急脱出用の持ち帰りの巻物もあるしな。



 そんなことを考えている間に、パスナのウィーゼルユニットに搭載された火器の一斉掃射によってホネノコ軍団が消し飛んでいた。








 「ふふん。この程度、朝飯前であります」


 「気を抜くな。ウィーゼルユニットの弾薬やエネルギーだって、無限じゃない」


 「はっ!残弾数には十分に留意するであります!」


 「さて、どうする?カエルにまつわるアイテム、手分けして探すか?」








 勝ち誇るパスナに釘を刺しつつ、アイテム探しの提案をする鎧王。しっかり者だな。

 さて、手分けした方が効率はいいだろうが……。








 「分かれるにしても班は2つまでだ。必ずオレかスティアがいた方がいい」


 「めぐすり草もないっすからね」








 とりあえず、人数に偏りが出ないように分けた方がよさそうだな。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡内部:ソルトチーム―






 結果、オイラのチームにはクレア、イリアス、エルシオン、ペルセウス、ミネルバ。

 スティア師匠のチームにはアレックス、ポラリス、パスナ、トリトーン、ポミュ。

 ……という内訳に。



 で、オイラたちのチームは、分かれ道で上と下の2つのルートになっている内の上ルートを調べることに。

 上ルートは、遺跡の最奥部へと進むルート。そこまではオイラも確認できた。

 こっち側で先にすべきことは、進路上のワナの破壊と、はびこっているであろうホネノコの撃退。

 要は、謎解きを終わってスティア師匠たちが戻ってきたらすぐに進めるように、地ならししておくのがオイラたちのチームってワケだ。








 《肩慣らしには丁度いい相手ね!》


 《いきなりドラゴンと戦うなんてことにならなくてよかったですねー》








 実はほぼ初戦闘だって話のミネルバとペルセウス。経験値稼ぎと言わんばかりにホネノコどもを駆逐していく。

 あのクローも剣もいい味出してるみたいだなー。今度うちの部隊にスカウトしてみるか?

 しかし、機動六課ねぇ…。








 「六課はデルポイに攻め込んでくるような人はいないから大丈夫だよ?」


 「まぁ、穏健派は何も機動六課だけじゃないけどな。というより、総本山である本局が割れている状態らしいし」


 「んじゃあ、こっちに攻め込んでくる連中はその割れている内の片方ってワケかい」


 《そういうことになる。それこそいわゆるタカ派というヤツだよ》








 ホネノコは新入りコンビに任せて、ワナの発見を急いでいるところのクレアとイリアスに聞かれたらしい。

 追いついてきたエルシオンも加わってきた。3人の話を聞く限り、管理局も一枚岩じゃないのなー。

 上層部がそんな有様じゃあ、下請けも大変だな。
























 ――ゴトッ!
























 《なんだ?》


 「何か落ちた音かな?」




















 ゴトッ、ゴトトッ!




















 「落ちたっていうか……動いてねぇか?」


 「え、イリアスはそう思う?」
















 ゴトトッ!ゴトゴトッ!
















 《ていうか、なんか近づいてきてない?》


 《音がだんだん大きくなってませんか?》












 ゴトゴトッ!ゴトッ!












 みんなの違和感を代表して確認する。あー、あんな"デストラップ"もあったっけなー。

 オイラは迷わず回れ右をした。








 「お前らー。死にたくなかったらあの石像から絶対に逃げろよ?」


 「え?」


 「今聞こえてる音な、自分で動いて生き物を圧死させる呪いの石像が移動してる音だ。

  かいつまんでいうと、アレに追いつかれたら一瞬であの世行きな?


 《『逃げろぉぉぉぉぉっ!?』》








 物わかりが良くて頼もしいぜ。オイラの説明聞いた瞬間に回れ右して全力疾走しやがった。

 あの石像、石像のクセに妙に素早いからな。あまり近づかれると逃げ切れずにデッド(死ぬ)エンドだ。つまり、クレアたちの対応は大正解。

 こんな序盤からデストラップに追い回されるとはなー。さてどうしたモンか。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡内部:スティアチーム―






 「……上で何か、叫び声がしなかったか?」


 《エルシオンたちが想定された進行方向とは逆方向に猛スピードで移動している。何かから逃げているのか?》


 「おいおい、もうデストラップかよ!」








 下側のルートは、主に謎解きだ。あと、カエルにまつわるアイテムも下側のルートのどこかにあるって話を聞いた。

 というワケで、ひとまず宝箱の存在に注意しながら探索しているんだが、ポラリスとトリトーンが異変を察知。

 ソルトのチームが早くもデストラップに襲われていると見た。








 「ワナはワナでも、とびきり殺傷力が高いから、敢えて別に名前を定めているのですね」


 「まさに殺すデスワナトラップってワケだ。

  理屈を超えた瞬間的な判断力が求められることもある。扉に近づいた瞬間にグシャッ!とかな」








 飛王からの言葉に同意するものの、ちょっと変だな。

 いや、別に前に来たときにもデストラップの1つや2つはあった。だが、登場タイミングがあまりにも早い。

 オレの体験からいうと、たとえば10階のダンジョンがあるとすれば8階ぐらいでやっと出るぐらいだな。

 なのに、タイミング的には10階の内3階か4階ぐらいから出てくるって感じに早い。

 生き物食ってるゴンババが、中でデストラップ作って得するようには見えないんだが……。








 《では、他の何者かが侵入し、デストラップを仕掛けているということか?》


 「それも、高度な奇術師だな。この辺、というかデルポイ大陸の中で確認されているデストラップはな、殆どが奇術で動いてるんだ」


 《奇術で殺す為のワナを?……魔術でもないということは、仮にだ。

  マスターギガトロンの支配者の領域ドミニオン・テリトリーでも無力化できないと?》


 「奇術の場合、純粋な魔力によるものかも怪しい……ていうか、マジでわからないから"奇"怪な"術"なんだけどな。

  まぁそこはともかく、デストラップも元はと言えばワナだ。

  ワナである以上、簡単には気づかれないようにしなきゃならない」


 《トラップにならないものさえもトラップにしてしまう、というワケか》


 「それこそ、どこぞやのホラーゲームばりに理不尽なレベルでデストラップになりやがる。まぁ、敢えて何のゲームとは言わないがな…」


 《何故そこで名前を伏せる》


 「ここだけは完全黙秘とさせてもらう」








 メタな話すると、下手すりゃ名前出すだけでアウトになりかねないんだよあのホラーゲーム。

 いくら作者側が真トゥルーエンドを解禁してくれたとはいえ、二次創作のガイドラインを見ると、少なくとも人物のクロスは確実にアウトだったからな。

 かといって、トラップだけ出張するっていうのもホントに大丈夫かどうか……やべぇ、なんかこれだけで何かに呪われそうだ。

 タイトルはパーフェクト・シークレットにしたから、オレは殺さないで!








 「スティアらしからぬ取り乱しようだな…。正直、こっちの方が怖いんだけど」


 「よっぽど怖いのかミュ?」


 「おうよ。フリーゲームだからって侮ると寿命縮むくらい後悔するぜ…!」








 ぶっちゃけ、初見殺し!即死!死にゲー!という規格外の死亡率と巧妙さを併せ持ったゲームだ。うん。

 ハッキリ言って、アレを初見&ノーセーブクリアできたらキチガイもいいところだと思う。

 あの恐怖は、這い寄るどころかト○ンザム!ばりに一瞬で来る。一瞬で死ぬ。とにかく死ぬ。ワケわかんねぇ内に死ぬ。

 ポラリスやポミュも、今度やってみろ…。クリアできるまでに何十回死ぬかわからないからなアレ。








 「じゃあ、とりあえずそのホラーゲームに関してで問題だミュ。

  いつの間にかボクらの目の前に出てきた、明らかに場違いなヨッ○ーさん人形。アレについてはどう思うミュ?」


 「オゥ?」








 言われてみれば、確かにオレらの目の前には、この古ぼけた遺跡には場違いなくらい可愛らしい○ッシー人形がいる。

 ただし、ただの人形とするには大きすぎるな。全高はざっと4メートルか?

 ポミュの問題は、要するに件のホラーゲームにこんな感じの人形が出たのかってことだよな?

 あぁ〜、確かに出たなぁ出た出た。登場タイミングが早い方だったから、ちょいと忘れて…………








 「って、マジにデストラップじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 「よし、とりあえず逃げましょう!スティアさんと同じルートで!」








 思わずアレックスたちへの指示も忘れて全速力で近場の扉まで猛ダッシュ。

 それに他のメンツも続いて、その数秒後にヨ○シー人形改めデストラップ人形も追いかけてきた。

 ヤベェェェェ!!あと2秒でも遅かったらほぼ確実に押しつぶされてデッドエンドだったっつーの!!

 とりあえずポミュに感謝しとくっ!








 「とにかくあの部屋に入るぞ!最後に入ったヤツはドアきっちり閉めろよ!」


 「でも、逃げるにしては逆じゃないかと思うけど!?」


 「どういうワケか知らないがな、あぁいう追跡型のデストラップは、一度別なフロアに入ってしまえば振り切れるんだよ!

  まぁとどのつまり、『振り切るぜ!!』って勢いで違う部屋に入れってことだよ!!」


 「かいつまんだ説明をアリガトウ!」








 実は、逃げてるとはいっても進行方向は変わってなかったりする。

 通路になっている今のフロアから、次のフロアに通じるドアまではほんの数メートル。オレらなら走れば間に合う。

 なのでポラリスたちに対する説明はマジで最低限な部分に留めて、とにかくドアの向こうまで全力疾走。








 「ミュミュ!?ドアに鍵がかかってるミューッ!!」


 <サイクロン!マキシマムドライブ!>


 <トリガー!!マキシマムドライブ!>


 「って、無言で撃ち抜いたミューッ!?」


 「遺跡の錠前は開けるか壊す為にあるんだよ!」


 《『なんの理論ッ!?』》








 普通なら鍵を探そうってことになるんだけどさ、こちとら追いつかれたら即死なデストラップに追い回されてる真っ最中。

 それにあのデストラップ人形の大きさとスピードから考えるに、引き返そうとしたら一瞬で方向転換されて潰されるのがオチだ。

 ならどうするか?鍵穴を壊してしまえばオールオッケーだッ!!

 だがドアごとぶっ壊すと、最悪あの人形まで入れるほどの穴になりかねないからな。そこで局所破壊に向いたトリガーエアロバスターの出番さ。

 ついでにいうと弾速もかなり速いからな、こういう時にはうってつけだ。








 《間に合った!》


 「右に同じく!」


 「ミュミューッ!」


 「自分も健在であります!」


 「よっし、全員だな!ポラリス!」


 「分かってる!トリトーン、粘着ジェル!」


 《その手があったか!》








 デストラップ回避レースは、トリトーン、アレックス、ポミュ、パスナ、オレ、そしてポラリスという順でゴール。

 あとは打ち合わせ通りにドアを閉めて、更にポラリスの機転でトリトーンが動いた。

 手のひらから撃ち出された糸状のジェルが鍵穴を塞ぎ、ポラリスが退避すると同時にドア全体にびっしりとかけられていく。

 あー、オレがトリガーエアロバスターで錠前ごと普通の鍵まで撃ち抜いたからなー。








 「…………よ、よし、さすがにここからは入れない……よな…?」


 「死にゲーと言われるあのゲームでさえ、デストラップ抜けた直後にまたデストラップ、っていうのはさすがになかったからなー」


 《万が一にもそうだったら、息つく暇もなく全員死に絶えるところだ》








 ポラリスが挙動不審気味にドアの向こうを気にしてるが、さすがにそこまで心配しなくていいとは思うぜ。

 あの大きさが仇になって、こっちまでは追いかけてこれないだろうし。

 第一、こんなホラーゲーム的なデストラップってのは、一度違う部屋に行ってしまえば何故か消滅してんだよ。

 ……稀に、部屋を出ても追い回してくる怖いヤツもあるけどな…?

 ドアがない通過点から逃げる時は、注意がいるな。あとは追い回してくるヤツの大きさもだけど。








 「しかし……探すものが1つ増えてしまったでありますな」


 「パスナ?どういうこと?」


 「なるほど。追手をシャットアウトする為とはいえ、トリトーンのジェルによってドアを固く閉ざしてしまいましたから…」


 「ここ以外に別な部屋に出られる通路か方法を探さないと、仲間たちとも合流できないでありますよ」


 「あ……」


 《あのデストラップの人形が消えていれば、ジェルを除去して通ることもできるが…》


 「ハッキリ言って、オレもあのパターンは前には遭遇してない。下手するとあのドア開けた瞬間に殺されるかもしれねぇ」


 「ミュ〜、『決して振り向いてはならない』とかいうヤツかミュ〜…?」








 パスナとアレックスのおかげでちゃんと確認。特に、ドア閉めるところまで必死すぎて思考がマヒしかけてるポラリスも理解できたのは幸いだな。

 もっというと、こうやって状況整理できる時間が確保されてることの方がよっぽど幸いなんだけどな…。

 とりあえず、この部屋を調べるのは必須として、まだ奥に続くみたいだしな。なるべく上を目指す方向で見ていけば、合流できるだろ。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―マックスフリゲート:ラボ内部―






 これでよし。テストも十分に重ねた。装備後の精密チェックも3回にわたってやり直して全部異常なし。

 送り出して大丈夫でしょ。








 「さて、改めてどうかしら?新しいアーマーの着心地は」


 「だいじょーぶだよー?ていうか前よりもとっても動きやすいー!」


 「じゃあ、早速お仕事してきてもらおうかしら?」








 本当に動きやすいのだろう、手足に加えて尻尾までバタバタさせてアピールしてきた。

 ただし、彼のパワーではしゃがれるとちょっと危ない気がするので、ここではおとなしくしてもらおう。

 私が「お仕事」と言ったら、首がないからか体をかしげてこっちに注目してくれた。








 「まぁ、お仕事というには違和感があるかもね?要は人に会えばいいんだから」


 「イレインからのお仕事って、それだけぇ?」


 「うん、それだけ。あとは会った人が教えてくれるわよ。その場で何をしてほしいのかを」


 「そーなの?じゃあ、誰に会えばいいの?」








 前に触れるのを忘れていたのだけど、彼は"アレス"の予選終盤で吹き飛ばされて以来、ちょっと縮んでる。

 人間の大人と同程度から、大型犬ぐらいの大きさになってる。一頭身のボディ(本体)はそのままに。

 多分、内包するエネルギーが膨大すぎて若干肥大化していたんだと思う。太陽並みだもの、何があっても不思議じゃない。

 でもパワーは縮む前と同じだし、今回新調したアーマーはいうなれば格闘戦重視の仕様。

 元から備わってる反射神経も相まって、かなり敏捷性に優れたパワーヒッターになるんじゃないかしらね。

 テストがてら模擬戦した時、レイフォンのシャン・トウロンを真っ向から吹き飛ばすわ、ヒョウエンのプレッシャーブレイクにストレートパンチで渡り合うわ、

 それでいてアーマーも本体も無傷で済んでいるっていう、なかなかのオーバーキル仕様になってたから。



 さて、私が彼に――ユーリプテルスに依頼する仕事は、ただ1つ。

 大型犬サイズになったおかげで私を下から目線で見上げてくる彼、言動は幼子みたいだけど、意外と精神年齢は高いみたいよ?

 なので、ちょっと諭すように言ってみる。








 「あなたには、"戻るべき主"がいる筈よ?その人に会えばいいの。厳密には、その人の元に戻るっていうべきかしら」


 「ポラリス…。うん、分かった。デルポイに行ってくる」


 「今の居場所は、双頭大蛇に内臓させてもらったマーカーシステムで把握してるわ。

  バイザーについてるレーダーシステムと連動してるから、それを道標にして進めばいい。でも、合流するまでは一人きり。気をつけて」


 「はーい」








 小声でつぶやいた言葉、悪いけど聞き逃さなかった。やっぱりわかってたんだ、あの子も。

 "あの子が戻るべき主"のこと、その主が今デルポイにいること。生前?の頃から仲良かったみたいだし、これも友情パワーかしら?

 ……ちょっと、うらやましいかも。ポラリスに対しては元より、ユーリプテルスも。

 私には、ちょっと重ねられないから…。








 「マックスフリゲート、転送ポート起動。ユーリプテルスをさっき入力した座標に転送して」


 《了解しました》


 「いってきまーす」








 ラボ内部に設置させてもらった、小型の転送ポート。

 転送できる質量にはかなり制限があるけど、ユーリプテルス単体ぐらいなら問題ない。

 それに、この転送ポートにはヒルメから提供してもらったデータを流用してて、たとえばミッドからデルポイへ、みたいな次元を超えた転送もできる。

 まぁ、厳密にいえば直接転送するんじゃなくて、"アレス"でデルポイに来る時に利用した次元ゲートを中継点にして送り込むって形なんだけどね。

 だから片道になっちゃうけど、今回みたいなケースでなら気にしなくていい。帰り道のアテなら別にあるから。



 そんなこんなを思い返している内に、ユーリプテルスの姿は転送ポートの上から消えていた。








 《次元ゲートとの中継を確認。ユーリプテルスは無事に指定座標へ転送されました》


 「そう、ご苦労さま」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡内部:ソルトチーム―






 《あーもう、じれったい!あんなの一発で粉砕してやるんだから!》


 《ミネルバ!?やめるんだ!》


 《でぇーいっ!!》








 逃げるのにイラついたのか、ミネルバがいきなり方向転換。

 エルシオンの静止もきかずに石像に突撃、クロー付きの左ストレートをぶちかます。








 《って、固っ!?》


 「なにやってんだよまったく!」


 《ひょえぇぇっ!?》








 ミネルバの攻撃は、石像には効いてなかった。

 勿論、至近距離での攻撃が失敗に終われば、最悪そのまま石像に潰されてジ・エンド!

 ……だったんだけど、ソルトが腰にある左右のボックスを開くとそれに手を入れて、次の瞬間にはロープで繋がれたフックが出てきた。

 自分の逃走は忘れずにだけど、2本のフックをミネルバに投げつけた。丁度ミネルバの背中にある取っ手みたいな部分にひっかかって、そのままこっちに引っ張られてきた。

 おかげで石像の押しつぶしは空振り。あーよかった…。けどなんで?








 「この"マルチプルボックス"は、アンタらの世界で使ってる転送システムの応用だ。

  別な場所とリンクさせておけば、その場所から好きなものを取り出して使えるのさ」


 《うわ、まるで四○元ポケットですね》


 「さっきワナを大量に出したのも、同じ理屈な。ワナを溜めこんだ倉庫にアクセスして、転送で取り出したんだよ」








 どうやら、中に手を入れることでシステムにアクセスして、物を取り出す場所を決めて使うらしい。

 ペルセウスがもっともなたとえを出したけど、どっちかといえばと○よせ○ッグの方がしっくりくるような……








 「あのさクレア!そんなのんきなこと考えてられる状況かコレ!」


 「だよねっ!でも現実逃避の1つもしたいの!」


 《……?みんな、走りながら聞いてほしいんだけど、何かがこっちにすごい勢いで近づいてきてる》


 「他に何が近づいてきてるっていうの!?あの石像だけでも妙に怖いのに!」








 イリアスにツッコまれて、思わず本音を漏らしてしまった。うん、現実逃避してた。

 そんなボクはそっちのけで、エルシオンのセンサーが何かキャッチしたみたい。

 あの石像みたいなデストラップはもう来ないでほしいんだけど!








 《生体反応はある。けど、計測できたエネルギーが膨大すぎて…。温度に換算したら、太陽並みの》


 「……え?待ってもう一回言って?」


 《だから、追いかけてくるヤツが太陽並みのエネルギーで…》


 「エルシオン?ボクたちが知りうる中で、そんなエネルギー持ってる子は1人しかいないよ…?」


 《え…》








 「モグモグあなほり、ディノスグラ〜ン〜ダ〜!♪」








 エルシオンと問答してたら、その問題の追跡者が出てきた。

 ボクたちを追い回していたあの石像を、床ごと爆砕しながら。


 ていうか、今の歌はなんだろう。








 「……?あれれ?ポラリス知らない?」


 「なんだ、お前らの知り合いか?」


 「ま、まぁ、一応。とりあえず見当違いだったみたいだけど」








 まさかの「デストラップ爆砕」をしでかしながら出てきたのは、ちょっと大きさとアーマーが変わってるけどユーリプテルス。



 アーマーについては、基本構造は変わってない。尾の先端の荷電粒子砲に当たる部分がなくなってることぐらい。

 頭部のバイザーは少し装甲が増えて、バイザーというよりロボットの頭部みたいにも見える。あと、ちょっと鋭角的になった。

 テールユニットは荷電粒子砲が無くなって、そのスペースを埋めるように上下のブレードが大型化して第3のシザースに。左右のビーム砲はそのままみたい。

 両腕のプレッシャーシザースと背中の左右にあるサイドシザースは、基部に仕様変更が加えられてる雰囲気はあるけど、詳しくはわからない。

 ハサミの根元に当たる部分に可動軸が設けられていて、特にサイドシザースの基部にはハサミの刃と一直線になるように継ぎ目のようなものが見える。塞がれてるけど。

 カラーリングは相変わらずで、青を基調としたトリコロール。



 ……あぁ、そういえば新しいアーマーつけてもらってたんだっけ。作業が終わったから、ポラリスを追いかけてきたんだ。

 でもごめんね、こっちにはポラリスはいないよ。








 《この人が噂のユーリプテルスさんですか。ボクはペルセウスっていいます、よろしくお願いします》


 《あたしはミネルバ。今のは助かった、ありがとね》


 「よろしくねー。そこの白いのは?」


 《エルシオン。元々はオーディーンだった、っていえば、少しわかるかな》


 「あ、飛行機になるロボットだ」


 《うん、思いっきりはしょってくれてありがとう》








 こんなタイミングで自己紹介に移行できるって、意外と余裕だね君たち…。

 ユーリプテルスがデストラップの石像を爆砕してくれたおかげっていうのは、もう火を見るより明らかなんだけど…。

 瓦100枚を一気に割るミネルバのパワーでも壊せなかったのに、それを上回るって…。

 やっぱり、太陽並みのエネルギーを内包してるっていうのは伊達じゃないみたい。








 「オイラはソルト。お前スゲーな。デストラップを一撃で粉々にしちまうなんてよ。

  まぁそれよか、ポラリスなら下の方のフロアにいると思うぜ」


 「そーなの?わかったー。じゃあ、ポラリスのところへいってきまーす!」


 《って、思いっきり壁や床を壊してる!?》


 「あー、それでさっき、床を破壊して出てきたワケな」








 ポラリスめがけて本当に一直線みたい。もう地形とかそんなの、全部破壊しながら進んでる。

 しかも、掘り進むスピード早いなー。別な床を粉砕してから、5秒くらいでもう音が聞こえなくなったし。

 エルシオンは驚くしイリアスはなんか納得しちゃうしで、なんだかなぁ。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡内部:スティアチーム―






 さて、デストラップ人形に鉢合わせないように他の者たちと合流しなきゃならなくなるとは…。

 恥ずかしながら、私はこういう謎解きは得意じゃない。味方の配置を決める陣頭指揮とは勝手が違うし。

 アレックスとかなら得意そうだけどなぁ。けどあぁもデストラップに追い回されると、考える余裕もないか。

 ……もうこっちに来ないよな?あの人形…。








 《ポラリス、その心配は無用だ。非常に心強い用心棒が来たぞ》


 「用心棒?」








 トリトーンが「用心棒」と表現するって、どういうことだr








 「バスーンとキメるぜトバスピ〜ノ〜!♪」








 …………そういえば、トリトーンはアストラルから私と彼の背景事情を聞いていたんだっけか。

 うん。「用心棒」って表現した理由が一瞬でわかったよ。

 でもさ?壁も扉も大粉砕して突撃かましてくる用心棒っていうのも、どうなんだ?


 彼――ユーリプテルスなら仕方ないのかもしれないけど、豪快すぎだろう。








 「やっと追いついたよーポラリスー」


 「分かった、分かったからちょっと落ち着いて…………って、誰か教えてくれないか?今ユーリプテルスが通ってきたルートって…」


 《先ほど、僕たちがデストラップ人形から逃げてきたルートと同じだ》


 「あー、人形の心配ならいらないと思うぜ?」


 「?」








 大型犬程度のサイズに縮んだおかげか、突撃されてもまだ抱き留められるのが幸いだ。

 飛び込んできたユーリプテルスを抱き留めつつ現状確認。トリトーンの言う通り、ユーリプテルスが突撃かましてきたのは私たちが逃げたのと同じルート。

 更には壁と扉を豪快に粉砕してくれた。つまり、あのデストラップ人形が追いかけてくる危険性もある。

 ……と思ったら、スティアに指さされた方向を見て、私は唖然とした。








 「なんか血みどろの残骸にされてますね……」


 《人形の筈なのに血を流すとは…》


 「…………ユーリプテルスのあちこちに血痕がついてる理由、多分ソレだ……」








 アレックスやトリトーンの言葉でハッと気づき、ユーリプテルスを見てみる。

 バイザーで覆い隠していたのだろう、某星の戦士さながらな顔にはついていないが、それ以外の部分には大なり小なり鮮やかなまでの血痕がついている。

 色が鮮やかということは、付着してからさほど時間が経過していないことを示す。というか、特にバイトシザース部分は血まみれだ。

 ということは、まさかとは思うけど……








 「ユーリプテルス?1つ聞くけど、私に会うまでに大きなヨッ○ー人形を見なかった?」


 「邪魔だったから切り刻んで壊しちゃったよー?」


 「デストラップを!?」








 つまりだ、ユーリプテルスは私を追いかけて部屋に入ろうとして、デストラップ人形と鉢合わせた。

 多分襲われたとは思うけど、そのまま返り討ちにして、滅多打ち&滅多切りで処分してしまったのだろう。

 うーん、やっぱり荷電粒子砲が無くなっても殺傷力の高さは変わらない気がする…。

 どっかの騙し討ち常習犯な暴君と違って、悪意がないのが救いだけど。








 《伊達に太陽並みのエネルギーを宿して生まれたワケではないということだな。

  無邪気ゆえの言動よりも、それに伴う攻撃の殺傷力の高さにアストラルも手を焼かされていたようだ》


 「というか、寧ろユーリプテルスを世話しようなんて、よくも考えつきましたね彼は」


 《ある意味でもう一人の生みの親ともいえる存在になったからな。実際、ヒヨコの親になったニワトリの如くなつかれていた》


 「たとえはニワトリとヒヨコですか…」








 荷電粒子砲に回すエネルギーがなくなった分、身体能力にブーストがかかったのかもしれない。

 ともかく、デストラップを破壊できるというのは心強い。というか何無双と呼べばいいのだろう?








 「ねーねー、なんかあの人形ね、宝箱入ってたよ」


 「これか……へぇ、こいつぁラッキーだな」


 「どういうことです?」


 「"探し物"が手に入ったってことさ。しかし、まさか本気でコレを使う時がくるとはなぁ」








 ユーリプテルスが私たちに見せたのは、ノートパソコンぐらいの大きさの宝箱。

 うん、何故か流血して崩れ落ちたらしいあの人形からえぐりだしたのだろうから、物凄く血生臭いのはきっと当然なんだろう。

 そんなことはスルーしてスティアが開けてみると、中には♪マークが描かれた丸いアイテムが1つ入っていた。

 どうやらコレが、ゴンババの弱点にまつわるアイテムらしい。「探し物」って言ったし。

 ……しかし、入っていた宝箱が非常に血生臭いというのは、精神的にキツいものがある…。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡内部:老朽化した大広間―






 《――で、そのままこっちに合流してきたと》


 《あぁ。ユーリプテルスがあちこち粉砕してくれたおかげで、最短ルートで合流することができた》








 あのユーリプテルスとかいう一頭身サソリもどきが、いろいろやらかしてくれたらしい。

 エルシオンとトリトーンが話した通り、今オイラたちは師匠たちのチームと合流して、一緒に遺跡の3分の2まで進んだところにいる。

 正直、アイテムを手に入れた後も敵の妨害やらトラップの攻略やらで時間とられそうだったんだが、

 ユーリプテルスがこっちに合流してくるまでにまた大粉砕を繰り返したらしく、いろんなモンすっ飛ばして一気に合流となった。

 マジでどんだけデタラメじみたパワーだよ。老朽化しているとはいえ、堅牢な構造の筈の遺跡を笑いながら破壊するって。








 「"アレス"で暴走させられた時、超重装甲と荷電粒子砲に加えて、超人じみた反射神経によって名だたる猛者を翻弄したのは伊達じゃない。

  オレは当時立ち会わなかったが、優勝をもぎ取った恭文もあの場にいたっけな」


 「はぁーっ、あの蒼凪恭文もっすか」


 「もっとも、諸事情で私にケジメをつけさせる為に結構譲歩してくれたんだけどね…」


 「古代ベルカ、それも鎧王軍同士の身内問題でもありましたからね。まぁ、そこは今はいいでしょう」








 さすがにスティア師匠やポラリス、アレックスは詳しいもんだ。ていうか、鎧王の身内問題だったのかアレ。

 古代ベルカとなるとさすがにオイラにゃ分からないから、スルーしとこう。








 《で、結局なんなの?コレ》


 「コイツはバッジってヤツだな。もちろん、あんたらが知ってるような飾りのバッジじゃないが」


 《でも、音楽コンクールとかには使えそうですね》








 ミネルバやペルセウスが興味津々で覗き込んできた。何を?師匠たちが持ってきたブツを。

 オイラも詳しくはないが、デルポイ大陸ではごく一部の職人によって作られた特殊なバッジがあるんだそうだ。

 なんでも、身に着けるだけで効果があるとか、技が使えるようになるとか、結構デンジャラスなシロモノらしい。

 まぁデンジャラスとはいっても、別に一歩間違えば人殺しになるーとか、そういうワケじゃないんだけどな。








 「ペルセウス、音楽コンクールというのは悪くないたとえだな。

  コイツは"ピッキョローン"っていうバッジでな、身に着けると音が出るようになるんだよ。

  攻撃で衝撃が発生すると反応するらしくて、たとえばオレがつけてみたなら、メタルシャフトで敵をブッ叩いた時とかに音が鳴る」


 《面白いですねー。リアルで効果音が楽しめるとか、臨場感が割増しですよ!》


 「だと、いいんだがな」


 《え?》


 「ピッキョローンにはいくつか種類があるみたいなんだが、コイツが出す音はな……」












 間。












 《や、やっぱりつけるのやめますかね〜》


 「何言ってるんですか?臨場感が割増しなんでしょう?ボクにはちょ〜っとわかりかねますけど〜」


 《ちょ、アレックスさん?やめてくれます?なんか妙に怖いんですけど!?》








 あのピッキョローンが鳴らす音を知ったら回れ右したペルセウスに、アレックスが容赦なく突っかかっていった。

 アイツの笑顔が妙に怖いのは同意するぜ。まるで押し売りだな、アレ。

 まぁ、オイラは知〜らねっと。








 「さぁさぁ、遠慮なんて必要ないですから早くしてくれますかね。話進まないんで


 《イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?》




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―遺跡最深部:ゴンババの住処(暫定)手前―






 「前よし!右よし!左よし!上よし!点呼よし!突撃準備万t」


 「ごめん、ちょっとうるさい」


 「なんとっ!?」








 壁がところどころ風化して崩れかけている大広間を後にして、奥へと進む。

 大広間とここまでを繋ぐのは、明かりさえ乏しい通路。トラップも敵も何もなく、本当にただ歩くだけでよかったのが逆に不気味だった。

 不意打ちのデストラップまでなかったのを見ると、遺跡の攻略も大詰めなのだと思ってしまう。

 本当に最後であってほしいけど。



 何故かテンションが上がっていたパスナを黙らせると、少し見渡す。

 目の前には、人が通るにはあまりにも巨大な扉。トランスフォーマー、それも合体戦士級の大型クラスが通る方が似合うくらいに。








 「ペルセウスなら準備OKです。いつでもいけますよ」


 《……………………》


 「よし、やるからには短期決戦といこう」








 ピッキョローンの押し売りと化したアレックスの被害者となったペルセウスには申し訳ないが、

 ゴンババを安全に撃破する為には必要なんだと納得してもらうしかない。もちろん、総合的に見て我々が生還する為にもなるのだと。

 しかし、よほど不服なのか、無理矢理ピッキョローンを装備させられてからペルセウスが恐ろしく静かだ。

 あまり長時間身につけさせておくとよろしくなさそうなので、短期決戦を心に誓った。








 《さぁーって、チャッチャッとドラゴン退治してスターストーンとかいうの見つけちゃうよ!》


 「ミネルバ、また突っ込んで…!」


 《たぁのもーっ!!》








 もう切り込み隊長のポジションでいいんじゃないか?そう思いたくなる勢いでミネルバが突撃。

 あきれた様子のクレアをよそに、扉を豪快に叩き壊した。……壊したのか……。

 まぁ開けてしまったなら止まる理由はない。私たちも周辺を警戒しつつ扉の奥へと入っていく。








 《ゴンババ……どこだ?》


 「あれだけの巨体だ、身を隠すにゃあ不向きな感じだけどな……って、師匠がいない?」


 《い、いつの間に…!やはり、油断ならない男だ》


 「いや、のんきにいってる場合じゃないだろ。ここで師匠不在とか心細いんだけど」








 ミネルバのすぐ後ろを追う形でエルシオンが進む。

 と、ソルトの言葉で気づく。本当にいつの間にか、スティアが見当たらなくなっていた。

 なお、トリトーンのたわごとについてはスルーしておく。








 《どこだー!ゴンババー!ブッ飛ばしにきたから、姿を見せろーっ!》


 「ミネルバ!下手に挑発したらどんなことが起きるか…!」


 わらわなら、ここにおるぞぉ!!」


 《って、デカッ!!》


 「間違いねぇ!アイツがゴンババだ!」








 ミネルバの挑発がカンに障ったか、それとも単に応じただけか、とにかくゴンババがお出ましだ。

 というか、明らかにデカい。大型トランスフォーマー、単純な高さならザラックコンボイ辺りにも負けない大きさだろう。

 ヨ○シーにも似た大きな頭部には円柱のような角、ラグビーボールのような形状の胴体、3本爪の足が4本、少々体に不釣合いな小さめの翼が一対、巻紙のような3本の尻尾。

 全身が赤く、顎や腹部はクリーム色といったところか。ドラゴンと呼ぶには大なり小なりヘヴィな感じもするが、この際そこはいい。








 「先ほどから外が騒がしいと思ったら、お主らの仕業だったのじゃな?

  見慣れぬ奴らも多いが……そこのプロペラ頭」


 「プロペラ…って、オイラかよ!」


 「そうじゃ、そこのニットのプロペラ頭。お主は一度この遺跡に来て、デストラップにビビッて逃げ出したヘタレではないか。

  助っ人を連れてきて、今回は上手く通り抜けてきたようじゃが……わらわとしても好都合じゃ」








 プロペラ頭……ソルトのことをそう表現するか。いや、あのヘアスタイルは他に言いようが限られてくるけど。

 どうやらゴンババとしてもソルトのことは知っていたらしい。だが、当然ながら標的はここにいる我々全員だろう。

 ソルトを中心に我々をまんべんなく見回して、








 「どうやら機械人形も混ざっているようじゃが、まぁよい。久々に入り込んできた人間じゃ。

  こんがりと焼けたお主らの体をじっくりとしゃぶった後で、頭からバリバリと噛み砕いてやろうぞ!」








 いわゆるお食事宣言をかまして、思い切り頭を上げた。だが、頭突きなどのような動きじゃない。

 目線はこちらに向いたまま、深呼吸するかのよう。そしてゴンババはドラゴン。となれば、そこから続くことについては大体想像がつく。








 「全員、散開!」


 「ったく、スティア師匠がいなくなっちまったのは気がかりだが、しょうがねぇ!倒した後で探すか!」


 「見つけたら問い詰めてやりましょう!」








 大きく息を吸い込み、勢いをつけた上で吐き出された炎のブレス。けど、溜めの動作が大がかりなおかげで見切るのは割と簡単。

 まず私の号令で全員がその場から飛びのいて回避、すぐさま左右に回り込む。








 《たぁぁぁぁぁぁっ!》


 《くらえっ!》


 「てぇいっ!」


 「はぁっ!」








 エルシオンのハルバードによる突きが右前足のスネを、トリトーンのシーホースアンカーによる一撃が左前足の付け根部分を、

 既にユニゾン済みのクレアの大剣が左前足の足首を、通常形態の双頭大蛇による私の一閃が右前足の付け根部分を、それぞれ襲う。

 手ごたえからして、まず直撃したのは違いない。問題は効いているかどうか…!








 「ほーっほっほ、なかなかにやりおる。そうでなくては、食い応えもなくてつまらぬ!

  しかし、この程度ではわらわに致命傷を与えることはかなわぬぞ!」


 「これはどうでありますか!?ウィーゼルユニット、フルバースト!!


 「こうしてくれる!」


 「ほぁぢゃぢゃぢゃぢゃっ!?」







 防御力も相当なものらしく、私たちは前足の振り上げから振り下ろしの動作で一気に吹き飛ばされてしまった。

 だが、大振りな攻撃によってがら空きとなった顔面に、パスナが一斉射撃をお見舞いする……が、これもダメだ。

 ビームや弾が届く前に、先ほどと同様のブレスで消し飛ばされてしまった。というか、まとめてパスナも焼かれた。








 《やったなぁーっ!》


 「背中はフォローできていないようですね、いただきです!」


 「ぬるいっ!」








 バックアタックを狙ったミネルバとアレックス、新たにハンマーを装備したソルトの攻撃も届かない。

 気づいたゴンババが腕立て伏せの要領で体を跳ね上げて、攻撃直前の3人を跳ね飛ばしたからだ。

 敵を寄せ付けない戦闘力、伊達にドラゴンではないということか…!








 「――おいペルセウス!いつまでイジけてやがるんだ!?お前の出番なんだっつーの!」


 《しかし、いくらなんでもあんな音で攻撃というのはヒーローに憧れる身としては…》


 「ここでボサッとしてるヤツがヒーローを目指すだ!?笑わせんじゃねぇよ!時には恥をかなぐり捨てて戦うのもヒーローじゃねぇのかよ!?」


 《ハッ!?そ、そういえばセンシマンの幻の30.5話『恥を捨てて平和を取れ』でも、

  センシマンが恥をかくこと承知でどじょうすくいを踊りながら敵に近づいて必殺技をぶつけるというシーンが…!》


 「そうだ!時には恥を捨てろ!本当に掴まなきゃいけないものを知ってるのが勝利者だ!戦場でのヒーローだ!!

  センシマンは知らねーけどとにかくその場面でどんな気持ちだったかを思い出しながら戦ってみろ!」

 《はいっ!!》








 跳ね飛ばされた勢いで天井にぶつけられて、更に床に落下したことによる二重のダメージ。

 アレックスやミネルバがもだえている間にも身を起こしながら、ソルトがペルセウスに彼なりのヒーロー理論を説いてなんとかペルセウスを奮起させる。

 ……うん、センシマンについては私も知らない、というかここにいるメンバーで知っているのはペルセウスだけだと思う。

 クレアに至ってはワケが分からなすぎて間の抜けた顔になってるし。








 《最初の晴れ舞台ですが、恥じらいを捨ててヒーローになってみせます!》


 「おう!やったれ!」


 「なんと、そこの機械人形はセンシマンを知っておるのか?今度じっくり話してみたいのう!」


 《そうですね、お互いに命があれば語り合いましょう!》


 「残念ながら、できそうにない相談じゃったな!」








 乗り気になったペルセウスは圧巻だった。牽制目的だったのだろうブレスの回避は朝飯前。

 続けて繰り出された右前脚の踏みつけと左前脚の振り下ろしも軽やかに回避し、喉笛まで一気に肉薄する。

 そのスピーディーな動きはさしずめ標的を仕留めにかかる忍者。機動性がウリのストライダーフレームの機体、特にパンドラを彷彿とさせる。

 性能バランスを重視したナイトフレーム機とは思えない動き。これがレルネの新型技術の賜物か。

 というか、センシマンを知っているのかゴンババ…。








 「こやつ、できる…!」


 《さぁ、イヤというほど聞きなさい!あなたが最も苦手としているであろう鳴き声を!》



 ケロケロッ♪




 「!!!!」


 《まだまだ!》




 ケロケロッ♪




 「や、やめよ!」


 《いいえ、やめません!》




 ケロケロッ♪




 「やめるのだ!」


 《あなたが倒れるまで、やめません!》




 ケロケロッ♪ケロケロッ♪ケロケロッ♪ケロケロッ♪








 ゴンババが苦手な生き物。それはカエル。見せるだけでは効果半減、ならどうすれば効果を持続できるか?

 カエルの鳴き声を聞かせ続ければいいのだ。

 実物を見せなくても、鳴き声を聞かせることができれば同じ。

 なぜなら、本当に苦手なものであれば、実物を見なくてもそれと思わせる事象があれば、それに対して敏感になるからだ。



 ピッキョローンを装備することによって鳴るようになる音。それこそがカエルの鳴き声だった。

 つまり、これを装備した者が攻撃を繰り返すことで、ゴンババに対して非常に有効な攻撃になるというワケだ。

 実際、何度もカエルの鳴き声を聞かせられている内に弱っていくのが目に見えて分かった。



 ペルセウスの斬撃に合わせて鳴り響くカエルの鳴き声(を忠実に模倣した音)。

 数回繰り返した後には、衰弱して倒れ伏したゴンババの姿があった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ぬぅぅぅ、まさかわらわがカエルを苦手としていることを知っておったとは…!



 あぁ、今でも思い出す…!昔、エサにと思って馬鹿でかいカエルを一飲みにしてやったら腹を壊して以来、カエルが苦手なのじゃ…!

 その時の腹痛と下痢は、今でもトラウマじゃ…!しかもあのカエル、消化されずに排泄物と一緒に出ていきおった!

 カエルに不釣合いなあの図太さもシャクだったのう…!あぁ、あ、鳴き声を聞くだけで力が抜ける…。

 あの青い機械人形の左胸に見える、ピッキョローンのせいか…。まだこの遺跡に残っていたとは、計算外であったわ…。



 このままでは、青い機械人形に討伐されてしまう。そんなことは望まぬ。

 わらわとて、まだまだこの世で自由に生き続けていきたいのじゃ。こんなことで死してなるものか!

 かくなる上は…!




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「ま、待つのじゃ!ここは取り引きをせぬか?」


 《取り引き?魔物のあなたと何を取り引きすると?》








 ピッキョローン効果によってすっかり弱りきったゴンババの言葉に、ペルセウスが動きを止めてしまう。

 こんなところにいるドラゴンが、何を取り引きできるというのか…。

 スターストーンをくれるというのなら、まだ分からなくもないk








 「青い機械人形よ、お主センシマンが好きなのじゃろう?」


 《もちろんです。語らせたら止まらないくらい大好きです!》


 「そこでじゃ、ここでわらわを見逃してくれるというなら、センシマンのプレミアグッズをくれてやってもよい」


 《ぷ、プレミアグッズ!?》


 「そうじゃ、もうここでしか手に入らない、ちょ〜レアなマニアックグッズじゃぞ?」


 《ちょ、ちょ〜レアなんですか!?》


 「プレミアまで加わって、ちょ〜レアなのじゃぞ?」








 …………なんでセンシマングッズなんだ。こんなところにあるワケないだろう。

 ペルセウス、目を輝かせてないで疑え。現場と相手と状況を考えろ。

 仕方ない、とにかくここは追撃を…








 「どうじゃ、ここでの取り引きは非常にお得かt


 「はい、どーん!」


 「ぐほぁあああっ!?」


 《『あ』》








 結論から言おう。ゴンババの取り引きは失敗に終わった。

 何故なら、途中でユーリプテルスに問答無用で叩き潰されたからだ。

 ゴンババの左の頬にバイトシザース越しの強烈な右ブローが突き刺さって、そのままブッ飛んだ。

 バイザー越しではあるが、ユーリプテルスの顔はやっぱり、何食わぬ顔だった。うん。








 《ちょっ、ユーリプテルスさん!?今すごく大事な話をしてたんですけど!?》


 「こんな場所にセンシマン関係のグッズなんてあるワケないじゃん。バカじゃないの?」


 《バッ!?》


 「うわ、精神的に凄まじく痛そうな一言ですね」


 「無垢な声と真顔で言われたら、精神的にブッ飛ぶよなぁ…」








 ペルセウスが抗議してくるけど、ユーリプテルスがすごく冷たい一言で精神的に一蹴。

 私はアレックスと共にうなずくしかなかったけど。しかし、ユーリプテルスが「バカじゃないの?」と言い放つとは…。

 なんか、容赦のない性格になっていってるような気がする…。多分、もう少し精神的な成長が進んだら、生前の頃よりもエゲツない性格になっているかもしれない。

 生前の頃から友達でもあった私としては、少々複雑なものがある…。








 「あ、あの、ゴンババを倒すなら今がチャンスだとは思うんだけど…」


 《なら、あたしにまっかせて!》








 雰囲気的な意味で置き去りにされているクレアからの言葉で、やっと確認した。

 確かに、ユーリプテルスに叩き込まれた右ブローの一撃がよほど効いたのか、ゴンババは立ち上がれもせずに呻いている。

 下手するとこの遺跡の外に出られて、何かしら被害をもたらす可能性もある。スターストーンは抜きにしても倒す必要はある。

 では、誰がトドメを刺すか?ここでもミネルバが立候補。








 《ミネルバ、相手はあの大きさだ。1体より複数で連続攻撃した方がいいと思う。俺が1発目を当てる》


 「だったら、オイラもやらせてもらおうか。間接的にだけど仲間の仇ではあるしな」


 《じゃあ、3人で叩き込んでやっつけちゃおう!》








 けど、立候補したのは他にも。先手を買って出たエルシオン、仇討ちでもあるソルト。

 まるで攻撃順を示すかのように、エルシオンを先頭にソルトとミネルバが一列に並んでいく。

 ジェットストリームじゃないんだろうなぁ。








 《「フォースチップ、イグニッション!!!」》








 エルシオンは背中のマントの付け根カバーも兼用している逆三角形状のパーツにあるチップスロットに地球の、

 ソルトは左側のマルチプルボックスから外してハンマーのヘッド部分に取り付けたチップスロットにミッドチルダの、

 ミネルバは背中の取っ手状のパーツの内側にあるチップスロットにスピーディアの、

 それぞれのフォースチップをイグニッション。パワーが膨れ上がっていく。








 《ATTACK-FUNCTION HOLY LANCE.》




 まずはエルシオン。解放されたエネルギーが天使のような翼を1対形作り、飛翔。

 ある程度の高度に達したところで、青白い輝きに包まれているハルバードを右手で回転させながら前に出すと、十字の光が出現。

 その光の中心、十字の交点に当たる部分に思いっきりハルバードを投げつけると、それは光の矢となってゴンババの背中に突き刺さる!








 《ATTACK-FUNCTION GRAND STAMP.》




 続いてソルト。フォースチップの力が解放され、それはすぐにハンマーのヘッド部分に凝縮されていく。

 軽くスイングして大ジャンプ、フォースチップの力が電撃へと変わっていく中でハンマーを思いっきりゴンババの頭部に叩きつける!

 ハンマー自体の一撃と炸裂した電撃、二重のダメージがゴンババに追い打ちをかける。








 《ATTACK-FUNCTION HOMURA-KUZUSHI.》




 トドメにミネルバ。解放されたエネルギーは両手のミネルバクローに伝わり、クローがオレンジに近い光を放つ。

 一瞬だけ力を溜めて飛び出し、ゴンババの懐まで飛び込むと、まず右腕でストレートを叩き込む。

 叩き込まれた場所と右手のクロー先端部との間には瞬く間に炎の球が生み出され、今度は左腕のストレートを炎の球に叩きつける。

 その一撃が銃でいう撃鉄の役割を果たし、凝縮されていたらしいエネルギーがビームとなってゴンババの体を貫く!




 エルシオンの"ホーリーランス"、ソルトの"グランドスタンプ"
 そしてミネルバの"ほむら崩し"。怒涛の連続アタックファンクションを受けたゴンババは……







 「ぐっ……ぐふぅっ!ザンネンッ……ムネェ〜ン……ッ!!」








 ほむら崩しの一撃による余波からか、勢いよく仰向けに吹っ飛ばされて沈黙した。

 ……この直後にユーリプテルスが情け容赦ない追撃を叩き込んだんだけど、近づいてみたら脈拍が一切なかったので、絶命したんだと思う。

 彼とミネルバ、どっちの攻撃がトドメになったのかわからないけど…。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 どうにか退治できたね、ゴンババ。ボクはもう内心ヒヤヒヤしっぱなしだったけど。

 ところで……








 「スティアとポミュは?結局探してないままだけど」


 《ポミュなら、扉側の壁の隅で丸まっていた。どうやら怖がりらしい》


 「怖がりは怖がりでも、ボス戦限定の怖がりかよ。使いづらいヤツだな」


 「こ、怖がってなんてないミュよ?別に、ボクの力がなくたって倒せるから観戦してただk」


 《「サボるなァァ!!」》








 怖がっていたのか、サボっていたのか…。ボクに対するトリトーンの話も気になるけど、当のポミュがミネルバとポラリスに張り倒されたので後にしよう。

 でも、ソルトの「ボス戦限定の怖がり」って表現もどうなんだろう?ボス系なら誰でもダメってことじゃないとは思うんだけど…。








 「お、無事に撃退できたみたいだな。クロノ提督にいい報告ができそうだぜ」


 「師匠!いつの間に行方不明になってたんすか?確かに師匠の助力なしでも倒せたけども!」








 そしてスティアは、本当になんてことなくやってきた。駆け寄ったソルトの言うとおり、いつの間に消えて何をしてたのやら…。








 「ただな、オレとしちゃあ想定外だった、ともいえるんだ」


 《想定外?何が?》


 「ゴンババはピンチになると誘惑して騙し討ちを狙いにくるっていうのは話したよな?

  それを実際にされた時、自力でその誘惑に打ち勝てるかどうか、っていうのをちょいと試すつもりだったんだが、

  誘惑の真っ最中にユーリプテルスが強烈な一撃叩き込んで中断させちゃっただろ?」


 「確かに、問答無用で殴り飛ばしたよな。ド派手に」


 「誘惑に打ち勝つまでもなく、さっさとぶっ潰しちまったからな。だから、まぁなんだ、オレからソルトたちに対するある種の試験?

  それがパーになっちまったんだよなー。あぁもちろん、マジでやばくなったら助けるつもりだったぜ?

  もっとも、そうするまでもなくユーリプテルスが突破口をこじ開けちまったんだけどな」








 話をまとめると、スティアは別に行方不明になったんじゃなくて、意図的に隠れていたらしい。ボクらを試す意味で。

 特に弟子とも後輩ともいえるソルトに対してなんだろうけど、巻き添えくらったボクらのことも少しは考えてほしいなぁ。

 問い詰めるエルシオンがなんか疑わしげな雰囲気だし。

 まぁ、イリアスも同意したように、ユーリプテルスのあの一撃は問答無用だったよね。








 「とはいえ、ゴンババのあの誘惑に動揺してたのはペルセウスだけだったみたいだし、ソルトも上出来だったんじゃないか?

  アタックファンクションもしっかりと使いこなせるようになってるようだし、オレが離れてる間に随分とたくましくなったな!嬉しいぜオレ」


 「おぉ、師匠からべた褒めされるなんて初めてっすよ!」


 「みんなの協力もあったとはいえ、よくやったな!」


 「師匠〜!」








 本題であろうソルトに賛辞を贈る。スティアがソルトを褒めるのって珍しいんだ?

 なんかどっかのマンガとかでありそうな、弟子が師匠に向かって駆け寄っていくというシーンになっt








 「――って、まどろっこしいことしてんじゃねぇーッ!!」


 「しょーりゅーけぇーんっ!?」








 ……ったかと思いきや、ソルトの流れるかのようなアッパーがスティアの身を宙に踊らせていた。

 こんな終わり方で、いいのかな…?ていうか、結局ダイヤモンドスターはどこに…?








 「……?みなさん、ゴンババが何かを吐き出しましたよ?」


 「宝箱だな、どう見ても」


 《ドラゴンを退治して宝物ゲット、という流れでしょうか。ベタだけどありがたいパターンですね》








 アレックスさんが気づいた。仰向けに倒れたゴンババの口から、宝箱が吐き出されたことに。

 ポラリスさんやペルセウスも確認してみたけど、やっぱり宝箱みたい。

 ……えっと、素直にあけてしまっていいものか…。デストラップだったりしたらシャレにならないし。








 「コイツはありがたくいただくでマント!」


 「なっ!?このシザース、デビルブライスター!」


 「デビル三銃士か!こんなところまで追いかけてくるとは、正直なところ呆れるを通り越して賞賛モノだな?」


 「いや、別に炎帝翼剣と双頭大蛇についてはもういいでゲスよ?あんたらにくれてやるでゲス」


 「今回の目的はぁ〜、アンタたちも追いかけてるスターストーンなのよねぇ〜ん」









 えっと、ありのままに今起きたことを話すよ?

 いきなりクワガタの大あごみたいなモノが飛んできたかと思うと、それは宝箱をわしづかみ。そのまま飛んでってしまった。

 その飛んで行った先には、大あごみたいなモノの持ち主であるデビルブライスターを筆頭に、デビルポセイドンやデビルホーネットまで登場。

 アレックスさんのおかげですぐに気づけた…けどポラリスさん?そんな「敵ながら天晴れ」みたいなこと言わなくても…。

 っていうか、デビルホーネットの言うとおりなら、まさかこのタイミングを狙ってた!?








 「スターストーンにどれほどの力が秘められているか、ワシらも知った時にはビックリしたでゲス」


 「こんなのがあと6つもあるとか、集めたくなるのは当然でマント」


 「ついでにいうと、管理局なんかに持ってかれたらたまったモンじゃないのよねぇん」








 ボクたちよりも詳しく知ってるみたい…。けど、むざむざ渡すワケには!








 「いざ、御開帳でマント!!」












 爆。












 …………あれ?

 デビルブライスターが勢いよく宝箱を開けた瞬間、宝箱が爆発。三銃士はそのまま天井を突き破ってお星さまに…。








 「やはり、トラップが仕掛けられていたようですね。何故ゴンババのお腹の中だったかはともかくとして」


 《一歩間違えば、僕たちがあの爆発の餌食になっていたところだったな。これはいい誤算だった》


 「まぁ、ダイヤモンドスターが入っていたのは本当で、しかもこうして無事に手に取れたのだから、良しとしておこう」


 「終わりよければ全てよしだミュ!」








 アレックスさんとトリトーンが三銃士の飛んで行った方向を見ながらつぶやく中、ポラリスさんがダイヤモンドスターを回収。

 今度こそ大丈夫だろうけど……いいのかな?これで。

 ありがたいことの筈なんだけど、全然ありがたいって感じがしないんだ。








 《クレア、考え過ぎはよくないぜ?》


 「うーん…イリアスはちょっと気楽すぎる気もするんだけど…」


 《え》




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―デルポイ:パステルップ都市内・宿屋(クレアの部屋)―






 結局あの後、全員で「持ち帰りの巻物」を読んで遺跡から脱出。ユーリプテルスはポラリスさんにくっついてもらったので一緒。

 めでたく最初のスターストーンはボクたちの手に納まったワケだけど……この後をどうすればいいのか。

 件の魔法の地図とスターストーンは連動するって話は聞いたけど、ダークハウンドも具体的にどう使えばいいのかまではわからなかったらしいんだ。

 ひとまずソルト他レンジャー部隊の人たちとはお別れして宿屋に戻ったんだけど、どうしたものか…。








 「スティアは知らない…か?」


 「オレやクロノ提督が知っていたのは在り処だけだ。三銃士が言ってた"秘められた力"についても不明なままだしな」


 「回収するのはおそらく解析する為…でしょうね。ボクたち古代ベルカ組も知らないことですし、無限書庫にも資料があるかどうか…」








 ポラリスさんの当ても外れ、本当に困ったね…。ていうか、無限書庫にさえ情報が無かったら、それこそ手詰まりなんじゃ。








 「おじゃまするぜー?」


 《ファスム殿、どうしてここに?》


 「それは、あなた達の帰りを見たら連絡するようにってマスターが私にお願いしていたからよ。スターストーンについて、知らないこと多いだろうからってね」








 さしずめクロスワードパズルで詰まっていたかのようなお悩みムードをぶち壊すかのように、ファスムさんが登場。

 トリトーンに対するラプティアスの答えによると、彼女にボクたちの帰り時間を報告してもらって、このタイミングで入り込んできたらしい。

 で、その理由といえる「知らないこと多い」って部分はビンゴ。








 「んなことだろうと思ったぜ。大体、この世界でもおとぎ話レベルなシロモノだぜ?異世界人が知ってるワケないよな」


 《決めつけられてるのがなんかムカつく…》


 《仕方ないさ、本当に知らないんだし…》








 ミネルバが腑に落ちないとでも言いたげな雰囲気だけど、エルシオンがきっちりとなだめてくれた。

 喧嘩っ早いとか思ってたけど、考えてみたらミネルバとペルセウスってまだAI教育が完全に終了してるワケじゃなかったんだっけ。

 これからはちょっと気をつけないと。ボクたちは全員、この二人の教育係みたいなものでもあるワケだし。



 なんてことを考えている内に、ペルセウスが前に出てファスムさんに問う。








 《取り敢えず、魔法の地図とスターストーン。これがどういう感じで連動するのか、知ってますか?》


 「あぁ、知ってるぜ、オレも実際にやったことまではないんだけどな。

  マジでスターストーンをゲットしてきたってことで、教えてやらなきゃバチだろうし、教えてやるよ」








 「魔法の地図を使って、2つ目以降のスターストーンを集める方法を」
















 (第39話へ続く)




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 夢魔獣ファイル02:ゴンババ



 ある日、時空の歪みによって生じた穴からデルポイに現れた赤いドラゴン。一応メス。

 主に胴体部分がへヴィな印象を与えるが、一見不釣合いに見える背中の一対の翼によって単独飛行も可能。

 口からの火炎放射と踏みつけなどの肉弾攻撃を得意とし、高い防御力も併せ持つ他、危機に陥ると相手を誘惑して油断したところを食べようとする。

 ……が、その誘惑の内容はいわば「モノで釣る」というものでしかなく、自制心さえ育っていれば拒否するのは比較的容易。



 食欲が遠因の事件以来、カエルが大の苦手。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―ステンスの「知識はあるに越したことはない」―




 ステンス「いよいよスターストーン探索も本格化したか」


  リティ「問題は2つ目以降をどうするか、ってところで次回なんだね」


 ステンス「ひとまず今回は、クレアたちが滞在する宿屋もある"パステルップ国"について教えてやる」



 ステンス「パステルップは、デルポイ大陸全体のほぼ東半分を占める、国家単位では最大の国土を持つ国だ。

       全体的に穏やかな天候で、住み心地はクセルクセスと並んでデルポイ大陸でトップクラスともいわれている。

       宿屋もある都市部は国土の北にある。そのすぐ後ろには、モンスターさえいないような険しい山岳地帯があるだけだ。

       湖に森に海岸、と資源には特に事欠かない国だからか、物価はデルポイ5国家の中で標準的なところらしい。

       それでも、地球基準で考えると格安でいろんなことができるがな。

       口ぶりからは想像できないかもしれないが、パステルップの国王はファスム。アイツの性格のおかげか、王のことをお嬢とか言うヤツが多い」



  リティ「女王のことをお嬢とかって呼ぶのは、きっと親しみを込めた結果なんだろうね」


 ステンス「デルポイには他にも女王がいるが、呼ばれ方はさすがに違っているらしい」


  リティ「じゃあ、また次回!」




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 <次回の「とたきま」は!>




 タランス「やぁみんな〜、タランスっすよ〜。次回は、アタチがちょいと六課に一泡吹かせるっすよ」


 ラットル「え〜、ウヒャヒャ蜘蛛が〜?蜘蛛はおとなしく糸で巣を作ってエサ待ちでもしてりゃいいんじゃないの〜?」


 タランス「アタチをその辺の蜘蛛と一緒にしないでほしいっすね。なにせ次回は、アタチが手掛けた傑作のお披露目なんすから!」


 チータス「空飛ぶチータス、ただいま参上〜!よからぬ蜘蛛はここで退治しちゃうに限るジャn」


 ???????《失せなさい、猫如きが》(威圧感たっぷりな眼差し)


 チータス「ぁぃ、サーセン」


 ラットル「って、よわっ!ていうか誰!?」






 第39話「翠色星:人は夜中の太陽で夢を見るか」






 ?????????《って、サブタイと全然関係なさそうなやりとりだったよな?今の》



  アコ「次回こそはー!次回こそは出るよー!」


 マジコ「ていうか出してくれ偉い人ー!」



 ?????????《……見なかったことにすっか》











































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 <あとがき>


 結局、前回からかなり間が空いた第38話です。む、マズイな。このままだと年末年始に予定している番外編にアコたちがうまく出せない(ぇ)



 今回のメインは、クレア一向+αによる第1のスターストーン「ダイヤモンドスター」のゲットまでの話。

 ただ、合間にいろいろ詰めてたら長くなった…。HTMLタグも入れてるので、ファイル容量が未だかつてない領域になっていると思われます(第36話をも超えている…むむむ)。

 サバイバル師弟ことスティアとソルトの掛け合いがあまり多くなかった気もしますが、人となりぐらいは伝わればいいなー。



 次回は早くも第2のスターストーン捜索となるのですが、それ以外にもう1つ問題が浮上する話になる予定です。

 できるだけ容量少なめにまとめられればいいのですが……うぅーむ。

 タランスが超久々に勇士を見せる…やもしれません(なんだその疑問形)



 もう1つの問題については、実は前年度の番外編に収録したあるエピソードが伏線になっていたりします。鍵はネガタロスで(ぇ)


管理人感想

 放浪人テンクウさんからいただきました!

 とりあえず……まず第一に思ったことを一言。
 「お前ら、ちったぁ警戒しろ」と(笑)。
 ワナにひっかかりまくるクレア達の姿に笑いが止まりませんでした。『ダンジョンフィールドの仕掛けをあざ笑うかのような』と言うけれど、むしろアレを経験していながらどうしてそこまで引っかかるんだと。
 まぁ、どっかのライナーズにも回収物の安全に注意を割くあまり往路で見つけたワナに復路で全部ひっかかった(萌え的な意味での)完璧超人さんがいましたけど(爆)。

 しかし、情報屋ルーラ……いったい何者なんだ……(棒読み)

>良識人はいないのか!?

 「いない」がデフォの六課&トラルーコミュニティに属してる身で何を今さら(爆)。