クラナガン市街の道路を走るビークルモードのマスターコンボイ。車内ではスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、
アスカ、部隊長のなのは。そして…
「オイコラ!もうちっとゆっくり走りやがれ!傷に響くじゃねぇか!!」
「……………」
「無視かよ!って、痛ぇ!……膝、膝にぃ…!」
スバルに憑依し、変身した赤い怪人が同乗していた。その姿はあちこち包帯だらけという痛々しいものである。
ナンバーズ撃退後、スバル達は目の前で姿を現した怪人は話を切り出そうとしたその時、駆けつけた他のフォワード陣と
トランスデバイス達による総攻撃を喰らったのだった。なのはが止めとばかりにディバインバスターの発射態勢に
入った直後、目の前でウインドウが展開。本部よりはやてからの通信だった。
先の戦闘で救助した少女、そして今フリードの火から逃げ回っている赤い怪人を六課本部まで¨保護する¨。
という内容である。
第2話
「蠢く機械兵〜僕に釣られてみる?答えは聞いてない!〜」
揺れるビークルモードのマスターコンボイの車内。怪人のその異様な姿を見て、誰一人、声をかけられない・・・・
「ねぇモモタロスさん!どうしてこんな姿なの?この角って本物?私の体に入れたのはなんで?あの工場には
何でいたの?ねぇねぇ…」
「うるせぇぇぇぇっ!!なンなんだよお前、さっきから質問ばっかしやがって!ちょっとはあのキャンディとかいうガキ
見てぇに大人しくしろォ!!」
(わ、わたしのことかな…?)
訳が無かった。
目の前にいる未知の存在に目をキラキラと輝かせて質問責めをするスバルに赤い怪人――モモタロスは耳を塞ぎながら
後方で座るキャロに指を向ける。今呼ばれたのは自分なのかとキョトンとするキャロの腕の中には今でもフリードは
ウ〜っと唸り、モモタロスを睨んでいる。
「デン、ライナーですか?」
「うん。まだ報告でしか知らないんだけど、108部隊の人たちがパトロール中に発見して、デンライナーとその乗組員を
保護。そこから一番近い六課の隊舎で預かることになったみたい」
「あいつもその関係者ってことですか…」
後部座席で騒ぐスバルとモモタロスを横目で見ながら、聞きなれない単語を口にするエリオになのはがうんと頷く。
転送された簡潔な報告と画像をティアナは目を通した。
「ひ、酷いよモモタロスさん!」
が、スバルの大声に中断されてしまう。悲鳴に近いその声に何事かと一同の視線がスバルとモモタロスに集まる。
「どうしてそんなこと言うの?」
「ああ、解らなねぇなら何度だって言ってやる!この世にプリンを越えるデザートなんざ存在しねぇ!!」
「そんなことないもん!3段アイスは3つの味を楽しめるんだよ!天国なんだよ!?」
「ハン!プリンに生クリーム乗っけた日なんざ地獄でもお祭り騒ぎだぜ!」
「そ、それでもアイスが一番だよ!そうでしょマスターコンボイさん!!」
「そこで俺に振るのか!?」
突然の振りに沈黙を続けていたが、思わず声を上げるマスターコンボイ。とてつもなくどーでもいい不毛な争いにティアナは
額を押さえた。あいつは全く…
「流石スバルだね。もうあんなにモモタロスさんと打ち解けるなんて」
「まだ正体も分かっていない相手ですけどね…相変わらず誰にでも無防備なんだから」
「でもさぁ」
二人のやり取りを微笑ましく見るなのはにため息まじりで返すティアナ。アスカもウインドウのデータを操作しつつ、
背後の甘味論争を流し目で見ながら小声で話す。
「見た目ほど悪い人でもなさそうだよ?あのモモタロスって人。もし見た目通りの悪の怪人だったら、行動に
余りにもメリットが無さ過ぎるし」
「メリット…ですか?」
「そうそう。もし、彼が他人の体を乗っ取って悪さしようとするなら、今にも踏みつぶされそうなスバルに憑りつく
なんて危険なことしないし、スバルが目を覚ました後、すぐ離れるなんてことしなかったでしょ?」
「そりゃ…そうですけど」
その状況を話でしか聞いていないアスカだが、彼女の推論は確かに筋が通っている。あの時、スバルに憑依したモモタロス
はクワットロに告げていた。お前の行動は気に食わない と。彼女の行動に嫌悪を抱いていた。
「私も、悪い人ではないと思うな」
「なのはさん……」
「確かにああやって刺々しい事を口にするかもしれないけど、本当は優しい人じゃないかなって」
運転席に座るなのはは微笑みを浮かべて言う。ティアナはもう一度データに目を通した。デンライナーとその乗組員の保護
『乗組員』……まさか、他にも彼と同じような人物いないだろうとティアナは表示されたウィンドウを閉じる。
しかし、ティアナの予感は当たらずとも遠からずであった。
機動六課 隊舎前
全員の下車を確認したマスターコンボイはロボットモードへトランスフォーム。そして頭上から魔方陣が降下、その魔方陣
が地面に降りた時、ヒューマンフォームの姿へとなっていた。
「…どういう仕組みだそれ?」
「体が砂だけで構成されている貴様の方が不思議で仕様がないがな」
モモタロスの疑問にさらりと質問で返したマスターコンボイは入り口前で見知らぬ人物を見つける。
周りをキョロキョロと見渡している…自分よりいくらか背の高い少年だった。こんな所で迷子などありえまい、と
進むマスターコンボイより先に、モモタロスが動いた。
「りょ、良太郎〜〜〜〜!!!」
「モモタロス!」
良太郎と呼ばれた少年まで駆け寄ったモモタロスは彼の両肩を掴み、彼のあちらこちらを見渡した。
「無事だったか!?おい、怪我は…!?」
「僕は大丈夫!僕もハナさんもみんなも無事だから。モモタロスこそ大丈夫?」
「ああ、それに¨コイツ¨もちゃんと見つけたぜ」
変身に使用した黒いケース――パスを一度翳すとモモタロスはそれを良太郎に手渡す。その様子を見て、スバルはティアナに
念話で声をかける。
(あの子がモモタロスさんの仲間…なのかな?)
(かもね。それにしても、あれを手渡すってことは本来ならあの子が…?まさか、ね)
「ハァ!?お礼!?」
「そうだよ。ここまで連れてきてもらったんでしょ?ちゃんとお礼は言わなきゃ」
モモタロスは良太郎の発言に思わず声を裏返した。彼となのはたちを交互に見たモモタロスは怪訝な顔をして良太郎に
の耳元でボソボソと呟く。
「けどよぉ、あいつらいきなり俺にビーム撃ってきたんだぜビーム!それにまた俺のこと鬼なんて呼びやがって…」
「最初は誤解があったかもしれないけど、一緒に来れたってことは、もう解けているんでしょ?」
「そ、そりゃぁ、まぁ…」
「お礼は?」
「だ、だかr
「お・れ・い・は?」
良太郎は笑っている。しかし、彼の笑顔には何故か影が差すほどの迫力が離れいるなのはたちにも窺えた…
全身が赤いはずのモモタロスの顔は何故か蒼白となり、全身から油汗がダラダラと流れている。そして、いきなり背筋を
ピンと伸ばしたモモタロスはフォワード陣の前まで歩み寄り
「ミナサン!コノタビハ、マコト二アリガトウゴザイマシタ」
下げた頭の角度は30度。両足の踵もそろい、指も腿にピタリと付けて、完璧な姿勢での謝礼である。
この瞬間、スバルたちは良太郎の素情よりも、モモタロスとの力関係を真っ先に理解した。
「機動六課の方々ですよね?僕は野上良太郎です。仲間を助けてもらってありがとうございました」
「い、いえ!こちらも助けてもらったので……って、マスターコンボイさん、どうしたの?」
「何も言うな何も聞くな…」
ペコリと頭を下げる良太郎に慌てて返すなのはの背後に隠れるマスターコンボイ。先ほどの良太郎の笑顔に翠屋で働く
天敵と同じモノを感じ、その身は周りに察しが付かない程度に震えていた…
「そんじゃカメ達もこの建物ン中にいんのか?」
「うん、みんなもモモタロスの事を心配して……」
隊舎の自動ドアを先行して通過したモモタロスと良太郎の動きがピタリと止まる。何事だろうと顔を見合わせたスバルたち
達は固まった二人の間を抜け、その前方を見ると…
「フフ…かわいいよ、フェイトちゃん」
「い、イクトさん……」
壁を背にするフェイトに詰め寄るイクトの姿だった。
しかし、イクトの風貌は普段と違う。眼鏡をかけ、その瞳の色は青く染まっている。
「や、止めて下さい…!こんなの、いつものイクトさんじゃない…」
「いつもの僕じゃない…そうかも知れないね。でも、僕がおかしくなったのは君のせいなんだよ?」
「そ、そんなこと…!」
イクトの言葉に背けていた顔を思わず向けてしまったフェイト。そしてその小さく整った顎をイクトに摘まれ、無理やり
彼と目を合わせる形となった。
「だって…こんなにも君のことで頭がいっぱいになってしまう…君のことばかり、考えてしまうんだ…」
「そ、そんな…」
「だから、仕返ししてもいいよね?僕を、君の中でいっぱいに満たしても…」
「あ、あうぅ…」
イクトの囁きに耳まで真っ赤になるフェイト。その光景を目にしたフォワード陣も頬を染めてマジマジと(興味深々で)
成り行きを見守っていた。
「……アレも貴様らの仲間か?」
「う…うん」
「あんのスケベガメ……」
スバル達の中でただ一人、ジト目でピンク空間を眺めていたマスターコンボイはモモタロスがスバルに憑依した時と同様に
イクトの中に誰かがいることに感づく。横目で見ると良太郎もモモタロスは彼の行動に項垂れるしかなかった。
「目を閉じて…次に目を開いた時には、もう仕返しは終わっているから…」
言われるがまま、震えながらも目をギュッと閉じたフェイトに、イクトはゆっくりと顔を近づける。そして二人の唇が
重なるまであと数センチ――その時、彼は感じた。自身に迫る鬼のような殺気を!
「…何やってんのよあんたわぁぁぁぁッ!!!」
「おっと」
「ぐはあっ!?!」
イクトから青いオーラのようなものが飛び出た直後、彼の横っ腹に何者かの拳が捻じりこまれた。悲鳴と共に吹っ飛び、
フロアを二転三転と転がったイクトはピクピクと痙攣を起こした後、「な、何が…」と口にして、その意識は闇へと
落ちた。
茫然とする一同の視線は自然とイクトを吹き飛ばした人物…小柄な少女に集まる。少女もしまったと言わんばかりに
口を抑えるが、すぐ天井をキッと睨むと、先ほどイクトから抜け出した青いオーラを指差さす。
「あんたっ!お世話になってる人たちに何てことするのよ!」
「僕なりのお礼のつもりだったんだけどねぇ」
「だったらあの惨状はどういうことよ!?」
怒鳴る少女は今度はフロアから続く廊下を指差す。何人もの女性隊員が数メートル置きにその場で膝をつき、顔を赤らめて
イクトの名を呼び、虚ろな目で明後日の方向を見つめていた。その中には
「私にはジュンイチさんが私にはジュンイチさんが私にはジュンイチさんが私にはジュンイチさんが…」
「恭也、知佳、愛する私の家族よ。お前たちを裏切った私を許してくれ、いや、むしろ蔑んだ目で見てくれて一向に…」
頭を抱えてブツブツと唱えるギンガと涙を流しながら手紙を書き殴るシグナムの姿があった。
「ウラタロス…」
「いやぁ、ここで働いている女の子たちみんな可愛くて、ついつい釣り過ぎちゃったかな?」
良太郎に返答した青いオーラは降下するとやがて実体化。体の所々に亀の甲羅を連想させる青い怪人へと姿を現した。
「全く何していやがんだ亀公!」
「あれぇ?先輩生きてたの…?」
「なんだとてめぇ!?…グフぅ!」
「ガぁ!?」
挑発に乗り、ウラタロスに掴みかかるモモタロスであったが、両者は体をくの字に曲げてゆっくりと床に沈んでゆく。
二人を下した張本人の少女は、突き出した両拳を収めると、なのは達に振り返る。
「皆さん、ウチの馬鹿たちがご迷惑をお掛けしました。私はハナって言います」
「は、ハナ さんですか。初めまして…」
二コリと笑って挨拶をするハナにティアナは思わず敬語で返してしまう。あのナンバーズを一蹴したモモタロス、そして
恐らく同格の力を持つであろうウラタロスをパンチ一発で黙らせた彼女の実力は計り知れない、と分析をしていると
「奥の部屋で他のみんなの紹介しますね」
と、床に転がるモモタロスとウラタロスの首根っこを掴み、ズルズルと引きずりながら廊下の奥へと進み、良太郎も
ため息をついてそれに続いた。
うん、絶対敵わないと認識を改めたティアナ達はハナたちを追った。
そして最大の被害者であるイクトは床に眠ったまま放置され、フェイトは胸の前で拳を握ったまま、目を瞑り続けていた…
機動六課 レクルーム
そこでは……
「ほう、やるじゃねぇか」
「ハッハッハ!待ったは無しやで大将」
ゲンヤと大柄の怪人がテーブルの上で将棋を打ち、
「これ、リュウちゃ〜ん!」
「アハハ〜上手、上手!今度は僕が描いてあげるね〜」
「うん!」
ヴィヴィオと紫色の怪人がお互いに絵を描き合っていた。
「あっちで将棋を打っているのがキンタロス、ヴィヴィオちゃんと絵を描いているのがリュウタロスです」
「おう、ハナに良太郎、戻ったか?」
「アレ〜?カメちゃんとモモタロスが寝てるよ?」
ハナの声に気がついた二人が立ち上がり、なのは達に近づいてくる。はたして今度はどのような性格の持ち主なのかと
身構えていると
「はぁい、コーヒーどうぞ!」
「あ、はい、どう…も?」
横から差し出されたカップを手に取るスバルだったが、そのコーヒーはカラフルに彩られ、スバルたちの知るコーヒー
とはかけ離れた香りが漂っていた。
「め、珍しいトッピングですね…」
「だが中々いけるぞ?」
「マスターコンボイさん!?」
手渡されたコーヒーを見て苦笑いをするキャロの横で満足そうに味わうマスターコンボイの姿にスバルは思わず声を上げる。
その様子を見てガッツポーズを取ったのは先ほどコーヒーを差し出した人物。両腕に多くの腕時計を嵌めている奇抜な
衣装に身を包む女性はまた新しくコーヒーを作り始めた。
「お、みんなそろったようなや」
「はやてちゃん!あの通信の内容なんだけど…」
シャリオと共にレクルームに現れたはやて。なのはは駆け寄ると、目を覚まさないモモタロスとウラタロスを
指先でツンツン突いているリュウタロス、それを豪快に笑うキンタロスの様子を窺いながら尋ねた。
「ああ、これから説明しようと思ってたところや。みんな、ちゅうもぉく!」
パンパンと手を叩いたはやてはオホンと咳払いをした後、手のひらを良太郎達に向けた。
「彼らがデンライナーっちゅう機体に乗っとったことはもう知っとるな?」
「それで僕たちが保護という形になっているまでは…」
「そやな。それというのも、良太郎君たちがデンライナーに乗ってこの世界に迷い込んだ…いうなれば¨時空漂流者¨
として保護したってわけや」
エリオに答えに頷いたはやては説明を続けた。時空漂流者――原因は様々だが、本来当事者が暮らしている世界とは
別の世界に紛れ込んでしまった者を指し、それを保護、元いた世界へ送り返すことが管理局の任務の一つとされている。
「でも、どうやって彼らはこの世界に迷い込んだんですが?それに、モモタロス…さんが彼らとはぐれたのは…」
「そぉれぇは…私が説明いたしましょう…」
ティアナに続いて聞こえた声は自動ドアの向こうから響いた。一同が振り返るとドアはゆっくりと開き(その際、何故か
スモークが発生、ライトアップがされた)その奥から一人のスーツ姿の男性が現れた。
「皆さん、お初にお目にかかります。私がデンライナーのオーナーです」
クルリとスティックを回転させて一同の前に立つオーナーは語った。
「我々の済む世界で過去に大異変…時間に大きな歪みが発生しました。その原因を突き止め、なんとか歪みを喰いとめる
ことに成功したのです。しかし協力者たちをそれぞれの時間に送り返してすぐのことです、デンライナーは歪みに巻き
込まれました」
「え…?その、『歪み』っていうのは解決したんじゃ…」
「たぁしぃかにぃ…その原因となった者たちはモモタロス君たちによって倒されました。しかぁし、後遺症といいましょうか。
まだ歪みが残っていたのでしょうねぇ。その歪みにデンライナーは巻き込まれ、本来は来るはずのない、来てはならない
この世界へと飛び出してしまったのでしょう…そしてモモタロス君は…」
スバルの質問に答えたオーナーの説明にどこか重圧感を身に感じながら、一同はオーナーの説明に耳を傾けた。
次元の歪みへと突っ込んだデンライナーの車内は激しい震動に巻き込まれていた。線路の固定化も
定まらず、上へ、下へ、または真横へ急加速、減速の繰り返しに食堂車のテーブル、椅子が宙を
舞い、壁や床、天井に叩きつけられた。無論、それは人も同様だった。
「くっそぉ!おデブを送った直後にこれかよ!?」
「文句言ってないで先輩も早くテーブル縛って!その中身のない頭をぶつけてさらに減らす気?」
「何だとこの野郎っ!」
舌打ちするモモタロスの背後ではヘルメットを被り、これ以上家具を飛ばさぬようと車内の手すりに
ロープで固定化を図るウラタロス達の姿があった。その状況でも口撃が変わらないウラタロスに
飛びかかろうとするモモタロスであったが、キンタロスに制止される。
「そんなんええから早よ仕事に戻りぃ!このままやとデンライナーの中でお陀仏やで!」
「……チィ!わかってんよそんくらい!!」
「モモタロス!早く早く!」
「うるせぇ!テメぇもしっかり結んどけ!!」
手招きするリュウタロスに怒鳴ったモモタロスはカウンター内を覗きこむ。そこでは身を屈めて
身を守る良太郎たちの姿があった。
「お前ら!しっかり掴まってろ!」
「う、うん!ハナさん、大丈夫!?」
「私は平気!ナオミさんは…」
「も〜、こんなに揺れちゃったら食糧庫がメチャクチャですよぉ!」
「…大丈夫そうね」
ボウルを頭に被り、プンプンという擬音が聞こえてきそうに頬を膨らませるナオミを見て安心半分、呆れ半分
のハナの耳にオーナーの声が響く。
「どぉやら、歪みから抜けそうですねぇ」
同じくカウンター内で身を丸めながらも、旗を倒さぬようチャーハンをレンゲで突くオーナーが口を開いた直後
これまでにない震動がデンライナーを襲った。
「!? ありゃぁ…?」
今まで虹色だった景色が空色になり、デンライナーの速度は安定する。息をつき、改めて窓を覗くモモタロス。
「なんだここは?過去なのか未来なのか?
「…どうやら面倒な事になったようですねぇ」
立ち上がったオーナーの口調が厳しいものに変わる。チャーハンも食べかけのままカウンターに置き、
睨むように窓に映る景色を見ると
「皆さん、今一度どこかに掴まって下さい」
「え?いったい何が・・・」
オーナーの言葉に良太郎が反応した直後、食堂車に再び震動が走る。それは次々と何かがデンライナーへと
「もう、今度は何さ!?」
「あれ見ぃ!」
テーブルに掴まり身の安全を図るウラタロスにキンタロスがデンライナーを襲った正体を指さす。落石だ。
それはデンライナーが通過するすぐそで高山より止まることなく降下する落石だった。高山はその頂点が
雲を突き抜け、視認することができない。落石は次々とデンライナーへと衝突し、ついにはデンライナーの
外壁へ大穴を開ける。
「う、わぁ!?」
「ッ!良太郎!」
衝撃にフラついた良太郎が食堂車へと開いた穴へと転げ落ちる所を寸前でモモタロスに腕を掴まれ救われる。
だが、
「ぱ、パスが!」
「何!?」
モモタロスはギョッとする。良太郎の胸元から落ちた黒いケース――デンライナーのパスが落下、床を滑り
大穴の外へと落ちてしまった。
「ちっくしょう!クマ、良太郎を頼むぞ!!」
「モモタロス、何を…!?」
「良太郎…パスは俺に任せろ!!」
良太郎をキンタロスへと押し付け、モモタロスは開いた大穴へ躊躇なく飛びこみ、落下したパスをめがけて
大声とともにダイブを決行。
「うおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「モモタロス―――…!」
良太郎が急いで近くの窓から顔を出すも、モモタロスの姿は既に見えなくなっていた…
「そしてボロボロになったデンライナーは管理局の皆さんに保護、モモタロス君はなんとかパスを回収し、
たまたま居合わせた機動六課の方々のお仕事に乱入した いう訳です」
「パラシュートなしでのダイブって…そんな無茶な」
オーナーの説明に未だ半信半疑のティアナ。しかし、自分たちを救ったモモタロスの突然の登場とは結びついているため、
納得するしかない。
「はいはーい。そのお話に『時間の歪み』とか『過去』ってあるんだけど、もしかしてデンライナーって時間を越える乗り物
なんですかー?なぁんちゃって…」
「そのとぉり」
「え…あれ?」
冗談でしたと言おうとしたアスカはオーナーの肯定に拍子抜けする。
「デンライナーとは過去、現在、未来を走ることのできる『時の列車』なのです…」
「そんなことができるんですか?でも、どうやって…」
「出来るから、出来るとしか言えませんねぇ」
「あの…近い、顔がすごい近いです…」
ゆらりと急接近したオーナーの迫力にたじろいたなのはは冷や汗をかく。すでにナオミ特製コーヒー3杯目となった
マスターコンボイはカップを皿に戻すとオーナーに尋ねた。
「貴様らの事情はわかった。それで?その後はどうするつもりだ?」
「…我々はここの世界ではいうなれば異邦人。デンライナーの修理が終わり次第、即刻この世界から立ち去るつもりです」
「そう急がんでも、元の世界への時空座標だって時間をかければ私たちが調べられるし…」
「心配には及びません。すでに駅長…時のターミナルへとアクセスはすんであります。後はデンライナーが直れば
すぐにでも、我々は戻ることができます」
「け、けど、そのデンライナーもボロボロですし、修理も人出がいるのでは…」
「ご心配は無用です。デンライナーの秩序を守るのは私の役目。そして…」
はやてとシャリオの申し出を断ったオーナーは、勢いを付けて上着を脱ぎ捨てる。
「デンライナーを再び走らせるのも、私の役目です」
その下には法被姿、額に捻じり鉢巻きと職人姿となったオーナーはスティックの変わりに金づちをクルクルと
回し、一同に向けてウインクすると自動ドアの向こうへと姿を消した。
「かっこいい…」
「シャーリー!?」
頬を赤く染めるシャリオに思わず声を上げるはやて。オーナーが去った後、エリオとキャロは不安そうに顔を見合わせる。
それに気がついたスバルが二人に声をかける。
「どうしたの二人とも?」
「いえ、その…オーナーさんは、どうして断ったのかなって」
「私たち,頼りないんでしょうか…?」
「そうじゃないんだよ」
こちらの申し出を断り、全てを自分でなんとか解決しようとするオーナー。その姿は逆に自分たちを信用していないと
とってしまったキャロとエリオに良太郎は答えた。
「オーナーは責任を感じているんだ。時間の歪みを最後まで正せなかったこと、そして違う世界に迷い込んで、
ここの皆さんに迷惑をかけるかもしれないって」
「迷惑だなんてそんな…」
「皆さんのその気持ちはオーナーも分かっていると思うんです。デンライナーを保護してくれたことも、僕たちを快く
受け入れてくれた事も感謝している。でも、それでもあの人には自分のルールがあるんです。オーナーは厳しい人
ですけど、それ以上に自分に厳しい。だから、せめてデンライナーの修理や元の世界へ戻ることは皆さんを頼らず、
自分の手でやりたいと考えているんです」
笑顔で続ける良太郎。その年相応ではない、しかし聞く者を理屈なく納得させる彼の言葉は、彼女たちの耳に自然と入って
いった。
「責任感のある人、なんだね」
「そやね、只ならぬ雰囲気やから変な人やと思うとたけど…」
「それはわかります」
「それはわかるわね」
「それはわかりますよ〜♪」
「そりゃぁわかるなぁ」
「それはわかるよね♪」
「・・・・・・・・・・」
オーナーの人物像を改めようとしたなのはとはやてだったか、デンライナー組(モモタロス、ウラタロス除く)の
総合意見によりどう評価していいかわからなくなってしまった。
「オチがついた所で話を進めていいかしら?」
今までのやり取りを見ていたライカが手に持ったファイルで肩をポンポンと叩きながらはやての隣に歩み寄る。
「はい、どうやら間違いなさそうよ」
「そっか…ありがとなライカちゃん」
ファイルを受け取ったはやての顔はどこか暗い。だがすぐに表情を戻すと全員の目に届くようウインドウを展開する。
「みんな見て。あの工場跡で救難信号を発信した人が分かった。残念ながら亡くなっていたけどな…」
はやての言葉に続くようシャリオが端末を操作、ウインドウには男性の顔写真が掲示された。
「名前はタケル・サキョウ、かつて地上部隊に所属していた兵器開発者だった人や」
「タケル…サキョウ?今、タケル・サキョウって言ったか!?」
将棋の駒を片づけるゲンヤの手が止まる。はやてに駆け寄り、ファイルを受け取ると資料に目を走らせる。目を大きく
見開くとなんてこったと小さく呟き、力なくファイルを再びはやてに差し出した。額を押さえる父親にスバルは恐る恐る
声をかける。
「お、お父さん…その人、知ってるの?」
「ああ…10年前に行方知らずになった大馬鹿野郎だ。確か娘が一人いたはず…」
「た、大変です!はやて部隊長!!」
ゲンヤの返答を打ち消すほどの大声でレクルームに現れたルキノの姿にはやては眉をひそめた。
「何事や?」
「スバル達が保護した女の子に事情聴取するって、本部の捜査官たちが…まだ目を覚ましていないって言っても聞いて
くれません!」
「…なるほどな、もう動いとるってことか」
「…どうゆうことだ?」
ルキノの報告を聞き、納得するかのように頷くはやてにマスターコンボイは尋ねた。はやてはシャリオに視線を送り、
それに頷いたシャリオはタケル・サキョウの資料に続き、様々な角度からの画像が表示される。
それは巨大なコンテナだった。大型トランスフォーマーが何体も収容できそうなそのコンテナには操作盤の他、
幾層も鎖が巻きつかれていた。
「これはあの廃工場の奥でサキョウ氏の遺体と一緒に発見されたもんや。回収しようとも下手に動かそうとしたら仕掛け
られた爆薬が反応するような素敵使用。開けるにもパスワードが必要で間違えた場合、これも爆薬に連動するように
なっとる。それに打ち込めるのは一回のみ。スキャンしても中身は確認できへんかった」
「それほど厳重に封印されているものって、一体なんだ?」
「行方を晦ましていた兵器開発者が今の今まで秘密裏にしていたもの…確かに本部の人間が喰いつきそうね。いろんな意味で」
はやての報告にヴィータとライカが意見を交わす。その画像の中に、コンテナが収容されていた倉庫の外部を写したものに
なのはが気がつく。
「これって、マスターコンボイさんが怪しいって言ってた倉庫だよね?」
「ああ…ナンバーズに邪魔されて確認まではできなかったが…それとあの保護した娘と関係があるのか…」
「女の子の名前はカオル・サキョウ…あの子、被害者のタケル・サキョウの娘さんやって」
「ですから、まだ話が出来る状態ではないんです!」
「いいからそこをどけ!!」
「いいえ!ここから先は医師として通すわけにはいきません!」
「貴様…私に逆らうのか!?」
医務室の前ではシャマルと、数人の部下を引き連れた細身の男性が激しく言い争いをしていた。
「なんの騒ぎでしょうか?カイム捜査官」
「…ここの部隊長か。ならば話が早い、保護した娘を引き渡してもらおうか?以後、この件は我々が担当する!」
「些か急なお話ですね。ご説明をお願いしたいのですが」
「貴様らが知るようなことではない。さぁ、この女に命令したまえ!」
騒ぎを聞きつけたはやてに高圧的に要求をする男――カイムは苛立ちを隠すこともなく、扉の前に立ちふさがる
シャマルを指さした。それを通路の奥で様子をうかがうなのは達。
「…捜査官の割には随分とお高くとまった奴だな」
「カイム・キース捜査官。以前は地上部隊で三等陸佐の地位にいた人物だよ」
「それが捜査官へ転属とはな」
「なんだ、いたのか貴様ら」
いつの間にか復活したフェイトとイクトはマスターコンボイの冷たい反応に撃沈。なのはとスバルにフォローされ、なん
とか持ち直した二人(その間、マスターコンボイはティアナにぶっ叩かれた)は解説を続ける。
「まだ陸佐のときはレジアス・ゲイスと並ぶ武道派だったんだけど、二人は対立することが多かったんだ」
「なんでですか?考えることが一緒なら、仲良くなるんじゃ…」
「思想は同じでもその先の理想が異なる…ということだろう。レジアスは言う事は強引だが結果的には平和を望んで
いる。しかしカイムは出世欲の塊のような男でな。自分がのし上がる為にどのような手段も問わない危険な人物だ」
その強引なやり方は捜査官となった今でも変わっていないらしいなと、エリオへの説明を終えたイクトは視線を
はやてとカイムへ戻す。今でもカオル・サキョウを引き渡せと大声が廊下に響いている。
「だからあーやって無理にでもコンテナに関して話を聞き出す気?それにしても、ちょっとカリカリしすぎじゃないかな〜」
「確かにねぇ〜あれじゃあせっかくの大物も釣る前に逃げだしちゃうよ」
「あ、グリフィス…くん?」
隣に現れたグリフィスに声をかけようとしたアスカの動きが止まる。目の前にいる人物は確かにグリフィスだ。しかし、
いつもは左右に分けてある髪も七・三に分け、眼鏡の形も若干変わっている。そして目の色が…
「では、行ってきます」
「ちょ、ちょっと!?」
指の爪を擦り合わせながらはやてとカイムの元へ歩いて行くグリフィスを慌てて止めようとするが、アスカの声が届くこと
はなかった。
「何だ貴様は…」
「お初にお目にかかります、捜査官殿。この部隊で補佐官を務めている者です」
「その補佐官が私に何の用だ?」
「いえいえ、用という程ではありません。ただ、今この部屋の奥にいる女の子をどうするのかという当たり前の質問を…」
目を吊り上げるカイムに対し、眼鏡を位置を直したグリフィスは二ヤリと笑って尋ねる。
「あの娘には色々と聞きたいことがある。そのために我々の本部に連れ帰り、尋問を行うつもりだ」
「尋問…ですか。それはここの取調室でも十分と思われますが、聞かれてはまずい話でも?」
「貴様らには関係のない話だ!先ほど部隊長に話した通り、この件は正式に我々が引き継いでいる。なんなら、書類にも
目を通すかね?」
グリフィスはちらりとはやてを横目で見る。視線に気がついたはやてはコクリと頷く。
「なるほど…彼女への取り調べの件はあなた方へ委ねられた、と」
「何度もそう言っているだろう…遺失物係なんぞ、その辺の落し物でも探して…」
「レリック」
グリフィスの一言に、嫌味を発しようとしたカイムの口がピタリと止まる。カイムの様子を見て、グリフィスは続けた。
「この言葉を聞いてわからない捜査官殿ではありませんよね?」
「……………」
「そう、彼女はこちら側の事件にも関わっています。現にそれを目当てにナンバーズも機動六課に攻撃をしかけて
きましたのでね。そうなると落し物探しが仕事である僕たちにも調べる権利が発生しています。ですので、最初に現場へ
駆けつけました僕たちが先に話を窺えるわけでして…」
「お前、そのような屁理屈を!!」
「待て」
皮肉を交えたグリフィスの言葉に背後で控えていた部下の一人が掴みかかろうと飛び出るが、カイムに制される。
「…よかろう。最初にそちらに権利を与えてやる。ただし、判ったことは全て我々に報告しろ!」
「了解致しました。ああ、あと最後に質問なのですが…」
最後に怒鳴ったカイムに頭を深く下げたグリフィスは、その場を去ろうとする前に呼びかける。何だと言わんばかりに顔を
歪ませて振り返るカイムへ笑みを絶やさないまま近づくと、グリフィスは小さな声で尋ねた。
「貴方たちは発見されたコンテナへは勿論ですが、僕にはあの少女へも大変興味を抱いているように見えたのです。
彼女を連れて帰りたくなるほど…ね?」
「……あくまで重要参考人としてだ。それに、タケル・サキョウについての資料ならば本部の方が充実している」
もういいだろうといって廊下を歩いて行くカイムにグリフィスは片手を上げて口を開く。
「そうそう、保護した少女はだいぶ弱った様子…今晩はこの隊舎で休んでもらうことになるでしょうね」
それがカイムの耳に届いたかはわからない。カイムとその部下は医務室から遠く離れていった。フンっと鼻を鳴らした
グリフィスに成り行きを見守っていた一同が駆け寄る。
「グリフィス君…やないね君は」
「ご明答です部隊長。あの姿では話を聞くことすらできませんので体の持ち主には協力してもらったよ」
「でも、すごいですね!いつの間にレリック絡みの事件だなんてわかったんですか?僕たち、ナンバーズが襲って
来ただけで他はなんにも…」
「ああ、あれ?嘘に決まっているじゃない?」
はやてへワザとらしく両腕を広げて答えたUグリフィスにエリオが興奮気味に尋ねるが、続いてきた言葉に
エリオだけでなくフォワード陣全員が『え?』とポカンと口を開く。その反応をクスリと笑うUグリフィスは人差し指を
立てて自分の『嘘』を補足する。
「いやぁ、彼の体に入る前にそんな単語が耳に入ってね。それを適当に織り交ぜて話してみたら案外通用しちゃったから」
「そんな、嘘の報告をしたっての!?」
「嘘を付いているのは向こうも一緒みたいだったからね。お相子だよ」
「嘘…?捜査官が、ですか?」
「言葉の裏には針千本。あの捜査官が適当な理由つけて女の子を連れて行こうってことは見え見えだったから」
「なぜそう言い切れる?別に確証があるわけでないだろう」
「詐欺師の感、って奴かな?¨撒き餌¨はしておいたらかそれに喰いつくかどうか…」
それがどのような人間であろうと、上官への嘘の報告とした。ティアナにはそれが納得がいかず思わず声を上げるが、
Uグリフィスの分析にキャロが首を傾げる。マスターコンボイの疑問にもはっきりとした答えないまま、Uグリフィスは
医務室の扉へ手を伸ばし―――
「ちょいまち、その扉をくぐって何をするつもりや?」
「嫌だなぁ。挨拶をするだけだよ。決してその子をアレコレしようだなんて…」
「その前に、あれから逃げたほうがいいと違う?」
笑顔でUグリフィスの首根っこを掴んだはやては、飄々とするUグリフィスに廊下の奥を指差す。
そこには仁王立ちするハナがドス黒いオーラを纏い、肩で切りそろえた髪がユラユラと揺れているようにも見える。
「この馬鹿ウラぁ!!また廊下に女の子たちが転がっているなんてどうゆうことよ!!」
「ハハ、草食系の彼にもそれなりの魅力があるってことだね。無論、大半は僕の実力だけど!」
「そんな事聞いているんじゃなぁい!」
新たな犠牲者を出したウラタロスへ制裁を加えるべく、ハナと彼の盛大なる追いかけっこが開始された。二人の姿が消えた
直後、今まで見かけなかったアリシアが廊下へ現れる。
「みんな―!!ビックニュースビックニュース!!なんとなんと!あのコンテナがあった工場へレリックのいくつかが
秘密裏に移送されてたのが確認できたんだよ!」
なのは達はアリシアの報告に別の意味で驚く。先ほどウラタロスから出た『嘘』が『現実』のものとなったのだから。
「だからあんな所にナンバーズが出て…みんなどうしたの?なんかリアクションうすぅーい…」
「そ、そんなことないですよ。それってどうやって判ったのかなぁって」
「うん。ナンバーズの出現が気になって、工場付近を衛星使って調べてみたら今から2週間くらい前!大型トラック
が例の工場に出入りしてるのが確認できたの!で、そのトラックにステルス機能搭載してたみたいなんだけど、私特製の
スキャンシステムで綺麗さっぱり!見つけることができたってわけよ」
不満そうに頬を膨らませるアリシアへ慌ててスバルが質問をすると、胸を張って答えた。
「ねぇ、そのことって他の人には…?」
「ん?裏付けが終わる前にグリフィス君に報告したよ。でも、なんかいつもと雰囲気が違ったような…眼つきもヤラしかったし」
なのはの質問に顎を指で押さえるアリシア。それを聞いた一同はUグリフィスが逃げて行った方向を一斉に振り向く。
「どこまでが、嘘だったのかな」
「……………アスカ・アサギ」
「なに?」
呟くなのはの横で黙りこんでいたマスターコンボイはアスカに声をかけた。
「調べてもらいたい事がある」
「気分はどう?」
「はい…大丈夫です」
ベッドで上半身を起こして答える少女――カオル・サキョウはシャマルに目を合わせることなく、ポツリと答えた。
「お、もう起きたんやね」
入室したはやては笑顔でカオルに呼びかけるが反応はない。後ろを向くとゲンヤも入室してきた。
「…嬢ちゃん。起きたとこ悪いが、いくつか聞かせてくれ」
ゲンヤの問いにカオルは答えない。構わずゲンヤは近くの椅子に腰を下ろし、俯いているカオルに視線を合わせ、ゆっくり
と尋ねた。
「お前さんはカオル・サキョウ。それに間違えはねぇな?」
「…………」
言葉はない。しかし、小さく頷いた。
「…残念だが、親父さんは亡くなった」
「っ……」
「辛いところだろうが教えてくれ。親父さんが残したモノなんだが…」
「知りません」
ゲンヤが胸ポケットから手帳を取り出そうと手を伸ばす前に、カオルが答えた。
「父の研究なんて、知りません!あんな人殺しの道具を作るために私たち家族を捨てた人なんて、私は…!」
俯いたまま、カオルは大声を上げた。毛布を力強く握りしめ、父親に対する感情を吐露したカオルを見てゲンヤはガシガシと
頭をかくと、立ちあがり、後で立っていたはやてにも部屋を出るよう促す。気付いたはやても席を立ち、シャマルに頼むわと
告げると、ベットから離れた。そしてゲンヤも席を外そうとドアを潜る前にもう一度、同じ姿勢のカオルを見た。
「…また明日、その気になったら話を聞かせてくれ。それと――」
一度言葉を区切ったゲンヤはカオルに向けて伝えた。
「これだけは言わせてくれ。サキョウの野郎は確かに兵器を作っていた。しかし、それはあいつが¨目指すもの¨のあくまで
過程の為だ。そして、アイツは何より平和と家族を愛する男だ。それだけは…覚えておいてくれ」
ゲンヤの言葉にカオルは思わず顔を上げるが、すでにゲンヤは医務室から姿を消していた。
「何が…愛しているよ…なら、なんで何も言わずに…居なくなったのよ……!」
かすれる様な声で、カオルは手で自分の顔を覆った。
「ゲンヤさん、彼女の父親とは?」
「おう、入隊したての頃からの仲でな。救助用のツール開発の部門にいたんだが、いきなり兵器開発部門に異動してな。
だが、それもアイツが目指すものの為に兵器開発で腕を磨けると思ってしたんだろうよ」
「その、サキョウさんが目指すものっていうのは・・・?」
廊下で歩きながら、はやてはゲンヤに尋ねる。
「先に言った通り、サキョウは救助用モジュールの開発を行っていた。それでアイツが考えていたのはどのような状況にも
現場で対応、調整、換装のできるアンドロイド部隊だ。人間でも立ち入れないような場所でも救助活動のできる汎用に長けた
部隊を組織するプロジェクトだ」
「すごい…画期的やないですか!」
「だが、入りたての若造の意見に耳を貸すお上がいなくてな。予算どころか企画書すら通らなかった。そこでサキョウは
考えた。兵器部門で技術のノウハウを学ぶだけでなく、目のつく兵器を開発することで自分の意見を聞き入れやすく
しようとな。しかもその兵器ってのはあくまで殺すことでなく制することを目的とするものばかり・・・ったく、
あざとい奴だったぜ」
「そんなサキョウさんがを姿をくらましてまでしようとした事って…」
「…あくまでこれは俺の感だ。それをきっかけとなる出来事は…GBH戦役による大災害だろうな」
全ての消滅へと導こうとしたグランドブラックホール。辛くも消滅さすることはできたが、被害は甚大なものであり、
その戦いに参加したはやても痛いほど味わったものだ。その爪痕は未だ多くの人の心に残っている。
「つまり、それによって自分の考えた計画を早まって姿を消した、ちゅーことですか?」
「…こうと決めたら絶対動かない奴だった。ただ、あれだけ家族を大事にした奴が家族になにも言わずに姿を消したって
のは解せねぇ…それにあんな怪しげなモンを作ったことだって何か理由があるはずだ」
足を止めたゲンヤはため息をついて天井を見つめる。
「だから俺は、死んだ今でもサキョウを誤解したままのあの嬢ちゃんを放ってはおけねぇ。今回の件には、首突っ込ませて
もらうぜ」
「ええ、頼りにさせてもらいますよ」
「泣ける…泣けるやないか!!」
二人の会話に突如介入してきた野太い声。二人が思わすその先の通路を見ると、懐紙で目元を拭っているキンタロスが立って
いた。
「…どうしたキンの字?」
「親父さん!あんたのあの子と父親を思う気持ちはよーわかった!!だから、俺にも手伝いをさせてもらうで!」
懐紙をばらまいたキンタロスは、二人の歩いていた方向とは逆、医務室へとズンズンと進んでいった。わけの分からない
ゲンヤとはやては顔を見合わせ、とりあえずキンタロスがばら撒いた懐紙の回収を始めた。
「あ〜〜公安部の資料もダメか〜」
アナライズルームで端末を操作していたアスカはデスクにうつぶした。顎にテーブルを乗せ、画面に映るマスターコンボイに
依頼された人物の資料を流し目で見る。
「どこも書いてあることは一緒…か。捜査官になったきっかけの事件なんてこれっぽっちも載ってないよ〜」
両手をバタつかせながらアスカは愚痴を吐く。彼女が閲覧しているのはカイム・キース捜査官に関するデータであった。
カイムが帰った直後、アスカはマスターコンボイに何故、陸佐から捜査官へと異動したのかを頼まれ、最初は任せてと
胸を叩いたのだがまったくそれらしい出来事が浮いてこない。
「はぁ…分かったのは異動があったのが10年前ってことか…10年前…10年前!」
ハッと何かが思い浮かんだアスカは展開している画面を全て消去。かわりに新たな画面を展開する。そこへ10桁以上もの
パスワードを打ち込み、実行。また同じ画面が現れ、今度は先ほどとは違うパスワードを入力していく。それを10回繰り返す
頃には額にうっすらと汗が浮かんでいた。
「頼むから寝てるかお出かけしててよ…ビンゴ!」
目的のページまでたどり着くことに成功したアスカは声を上げる。そのページは
<秘伝・オレのお仕置き黙示録>
と表題され、四隅には骸骨が描かれていた。
(バレないうちにちゃっちゃと見ちゃいますか。えっと…カイム・キース……異動っと……出た出たって……)
条件を入力すると人物の顔写真とデータが表示。ようやく目的にたどり着いたアスカだったが――
「なにこれ」
なんの感情も籠らない声でポツリとつぶやいた。それは、今画面に映っている人物へと抱く¨怒り¨であると、
彼女はまだ知らない。
一方、レクルーム
「できたよ〜これ、ヴィヴィオちゃん!」
「リュウちゃん上手〜〜」
完成した絵を自分の前で披露するリュウタロスにヴィヴィオは手を叩いて絶賛する。その様子をなのはとハナは離れた
テーブルから見守っていた。
「ヴィヴィオ、リュウタロス君と仲良くしるね」
「ほんと、最初はワンワン泣いて大変だったんだけど、踊ったりシャボン玉飛ばしたり、最後にクレヨン取りだしたら
ピタリと泣きやんで…」
初対面の様子を面白おかしく語るハナに頷くなのは。いつの間に気軽に呼び合う仲となった二人なのだが、それは
他から見たら異様な光景であった。管理局の白い悪魔と軽々しく話せる子供が現れたと事情を知らない職員の間では
もっぱらの噂となりつつあった。さらにハナの方が年上ということも知られることもなかった。
「――そして貴様も体が縮んだ、ということか」
「はい。なんとか正すことに成功したんだけど、戻る兆しがないんです…」
別のテーブルでは良太郎とマスターコンボイが雑談をしている。そしてマスターコンボイの手元にはもう何度目になったか
わからないナオミ特製のコーヒー、そのレシピをメモした手帳が置いてあった。
「それにしても、傍から見たらおかしな光景だな。怪人と少女が仲良くお絵描きだ」
「アハハ。リュウタロスにとってはもしかして初めての同年代の友達かもしれないですし。それに、仲がいいのはそれだけじゃ
ないかもしれません」
良太郎の言うことに首を傾げるマスターコンボイは手にしたコーヒーカップを口にしながら、視線を話題にでた二人へと
向ける。
「ねぇねぇ。ヴィヴィオちゃんのママって、あの頭からしっぽ生えてる人でいいんだよね?」
「うん!でも、なのはママは本当のママじゃないの…でも、ヴィヴィオにとっても優しくしてくれるの!フェイトママも、
マスターコンボイも、他のみんなも。だから、ヴィヴィオはみんなが大好き!」
「そうなんだ〜。僕もお姉ちゃんが大好きだよ。良太郎のお姉ちゃんで、僕のお姉ちゃんじゃないんだどね!」
「お姉ちゃん、優しいの?」
「優しいし、とっても面白いんだよ〜お姉ちゃんの料理食べると良太郎がすぐ寝ちゃったりするんだよ!」
「お姉ちゃんすごいね〜!」
その会話の周波数を拾ったマスターコンボイはなるほど、と頷く。リュウタロスのなのはに対する呼称は笑うのを必死に
堪えながらも、真顔を見繕う。
「なるほど。境遇に近いものがある、ということか」
「もちろん、リュウタロスたちにそんな自覚はないでしょうけどね」
「互いに本当の肉親を持たない者・・・か」
「でも、リュウタロスにもヴィヴィオちゃんには一緒に今を過ごす人がいます。一人じゃないんです」
「一人ではない…か」
「ええ、¨みんなも¨ですよ」
その¨みんなも¨が誰までを含んでいるのか。二コリと笑う良太郎にマスターコンボイはプイっと顔を背け
「…やはり貴様は同類だな」
「?」
ポツリと呟くマスターコンボイにキョトンとする良太郎の横で毛布がモゾモゾと動く。
「うぐぅ…痛ってぇ……」
「モモタロス!やっと目が覚めたんだね」
「ああ…あんのハナクソ女!本気で殴りやがっ…オイ」
殴られた腹を摩りながら立ちあがるモモタロスは違和感を覚える。ただ事ではない様子に良太郎は立ちあがるとモモタロス
に尋ねた。
「どうしたのモモタロス?」
「良太郎…たしかここって異世界ってとこなんだよなぁ」
「う…うん」
「なら…」
「なんでイマジンの臭いがするんだ」
モモタロスが言った直後、レクルームのスピーカーから異音が流れた。異常事態を告げる警報ではない。高音と低音の
ブザー音が二重に鳴り響く。
「オイオイ、なんの騒ぎだこりゃ…」
「ヴィヴィオちゃん!どうしたのヴィヴィオちゃん!!」
「痛い…頭が痛いよぉ…」
両手で頭を押さえ頭痛を訴えるヴィヴィオを介抱するリュウタロスは懸命に呼び掛ける。その様子を見たモモタロスは
背後にいる良太郎に尋ねようと振り返るが――
「あの嬢ちゃんはなにが…良太郎!?」
「な、何…?頭が急に…」
「くっ……何なんだこれは…!」
「お前等まで…?おい!しっかりしろ!」
良太郎、そしてマスターコンボイも額を押さえテーブルにうつ伏せていた。二人を揺さぶるモモタロスだが、様態は
変わらない。モモタロスはまさかとハナとなのはの方へ目を向ける。
「い…たい」
「しっかり、なのはちゃん!」
同じく痛む頭を押さえるなのはは、ハナに支えられなんとか立っていられる状態であった。
「おい…お前は痛くねぇのか?」
「確かに痛いけど、そんなの根性よ!それより、一体どうしたっていうの?みんな頭が痛みだすなんて」
ジト目で尋ねるモモタロスにハナはさらりと答え、今の状況を口にすると、なのはへ通信が入った。頭痛を堪えながらも
応答のスイッチをオンにする。
『な、なのはさん。無事ですか!?』
「シャーリー?なにが起きているの?」
展開されたウインドウはノイズが走りシャリオの顔は確認できない。しかし、その声はなのは達と同じく頭痛に苦しみ
ながらも必死に我慢して送られるようだった。
『お、おそらく隊舎全体に流れるこの音が原因です!この音は人間の脳へ直接ダメージを与える震動波が含まれて、
その為に頭痛が起きて…』
「そんな音がどうして…もしかして、外部のネットワークから?」
『それはありえません。アリシアさんやアスカさんが構築したプログラムがありますし、現在も侵入を許した報告もなく…』
「だとすれば…ここの放送施設から直接流しているというのか…」
テーブルを支えになんとか立ち上がったマスターコンボイは舌打ち交じりで現状を整理する。良太郎もモモタロスの肩を借りて
席から立つ。
「じゃ、じゃあその場所に向かえばこの音は止まるんですね」
『は、はい!今一番近い人に連絡を…え、な、なn――…』
「しゃ、シャーリー?シャーリー!」
良太郎へ返答したシャリオの通信は突然ノイズと共に途切れる。なのはは無線で何度も呼びかけるも返事はない。
「…シャーリー」
「何が起きている…」
不安に駆られるなのはの隣でマスターコンボイは止むことのないスピーカーを睨みつける。そして、その視線は良太郎を
支えるモモタロスへと向けられる。
「…なぜ貴様は平気で動ける。あそこにいる紫のも」
「あぁ?俺が知るわけねぇだろ!」
「た、多分なんですけど…この音は人間に対して効果があって、モモタロスたちイマジンには効果がないんじゃ…」
(なるほどな…と、すれば俺もヒューマンフォームを解除すれば…)
自分と同じく、トランスフォーマーである他の連中もなんとか活動はできるだろうと考えた直後――
「ねぇ!ヴィヴィオちゃんが苦しんでるよ!どうすればいいの!?ねぇ!」
「ママ…痛いよぉ…」
「ヴィヴィオ…でも、この音が聞こえてこない場所なんて…」
ヴィヴィオを抱きかかえてなのは達に駆けよるリュウタロスはなのは達へ声を上げる。落ち着かせようとする良太郎のポケット
から着信音が響く。赤い携帯電話を取り出し、通話ボタンを押すと元気の良い声が耳に届く。
『あ、良太郎ちゃんですか〜?そろそろ、夕ご飯のお時間なんですけど〜』
「ナオミさん!?あ、頭は痛くないんですか?」
『あたま〜?さぁ、ずっとキッチンでお料理してましたんで…?』
「…音が…聞こえていない?!」
「そうか!デンライナーには音が届かないのね!」
ハナの言葉になのは達はハッとする。現在、オーナーの手で修理中のデンライナーは当然、六課隊舎のスピーカーに連動
していない。となれば、唯一安全と言える場所は――
「リュウタロス、ヴィヴィオちゃんを連れてデンライナーに向かって!途中で苦しんでいる人も居たら、その人たちも
案内して!」
「…良太郎は!」
「僕たちはこの音をなんとかするよ。モモタロス!」
「おう!」
頭痛を我慢しながらもリュウタロスに指示した良太郎はモモタロスの名を呼ぶ。答えたモモタロスは球体となり、良太郎の
体へと入り込む。すると、良太郎の髪は逆立ち、髪の一部と目が真っ赤に染まる。
「…なるほどな。俺が入りゃこの音は効果なしってことか」
「なんとかする目途がたったか。ならば行くぞ!」
マスターコンボイの号令でヴィヴィオを背負ったリュウタロスはデンライナー停まっているドッグへ。ハナに支えられた
なのは、マスターコンボイ、そしてモモタロスが憑依した良太郎は放送施設へと走った。
隊舎エントランス
「…え、エリオ!!」
「な、なのはさん!良太郎さんたちも」
待合スペースで横たわるティアナ、キャロを守るように周囲を見渡していたエリオを発見したなのは達。安堵の息をつく
エリオ達はバリアジャケットを装着しており、よく見ればあちこちに細かな傷を負っている。
「どうしたのその傷は!?それに二人は…」
「それが…」
下を向くエリオが答えようとしたその時、大きな音とともに正面の扉が破壊された。
「!もう来た」
「…オイオイ、なんだありゃ!?」
破壊されたドアの向こうから現れた存在にエリオはフラつきながらもストラーダを構え、M良太郎は
その姿を見て、背筋に冷たいものが走った。
それは確かに人の形をしていた。
歩く度に腕や足を構成している歯車やから金属が擦りあう音が響いた。
歩く度にあちこちからボルトやナットがポトポトと落ち、油がヒタヒタと零れ落ちた。
歩く度に腕へ溶接してある重火器の標準レーザーが不安定に揺れていた。
それは無理矢理人の形へ留めた、機械部品の塊の大軍だった。
「あ、あれは何…?」
「わかりません!みんなで自主練していたら変な音鳴り出して、そしてあいつらが…」
「な、なのはさん…」
「ティア!」
説明するエリオに続き、横になるティアナが起き上がろうとするが、音と体へのダメージの影響で力が入らない。なのは
とハナはティアナの抱き起こすと、汗だくの顔をハンカチで拭う。
「や、奴等は突然訓練場にやってきて、攻撃を仕掛けてきました…私たちはこの音で自由に動けず、ジェットガンナーたち
が時間稼ぎをしている間に私達は隊舎へ…そして原因がこの音だとわかったら、スバルは一人で放送室へ…くぅ!」
「ちっ…あの馬鹿が!!」
マスターコンボイは放送室へ続く階段を顔を向けるが、なのは達の周りを塊の大軍は囲っていく。
そのうち何体かはガチャガチャと足音を立てながら、階段を駆け上がっていった。
「ま、まさか!スバルを狙って…」
「なんだか分からねぇが、とにかくこいつらをぶっ飛ばせばいいことだろうが!!」
声を上げたなのはの横で、M良太郎はベルトを装着、パスを構え――
「行くぜ!へんし――
「はい失礼!」
ってどぅわあぁぁ!!」
バックルへパスを翳す前に真横からウラタロスが良太郎の体へ憑依。その為モモタロスは良太郎の体から追い出され、顔面を
床へ強打。顔を押さえながら自分を弾きだした張本人ごと良太郎を指差す。
「なんの真似だカメ公!それに今までどこで何してやがった!!」
「ま、僕にも色々と用事があったってこと。それにこんな連中、良太郎と一緒に変身しなくても先輩一人で十分じゃない?
ほら、先輩強いんだし!」
「な、なんだよ…珍しくホントのこと言いやがって…」
眼鏡をかけ、髪型が七三分けとなった青い目の良太郎は腕を組みながらモモタロスへ賛美の言葉を送る。それにいい気に
なったモモタロスは鼻をこすり照れていると……
「と、いうわけで僕はあのスバルって子を追いかけるから後は宜しくね!」
U良太郎は思い切りジャンプ。敵の頭を足場にし、階段に着地するとなのは達の方へ振り返る。ニヤッと笑い、階段を
駆け上がって行った。体良く敵の大軍を押し付けて…
U良太郎の姿が完全に消える頃、モモタロスの肩はワナワナと震え、何処からか取りだした大剣を機械兵の方へ向けると
「あんの嘘吐きカメえぇぇぇ!!後でたっぷりと煮込んでやらあぁぁぁ!!!」
罵声と共に、機械の兵隊へと斬りかかった。
なのは達は揃って額を押さてため息をつく。こればっかりは、この怪音波が原因とは思いたくない と。
「どう、ヴィヴィオちゃん!頭はまだ痛い?」
「う、うん…もう平気…」
「よかったぁ」
デンライナーの食堂車――普段、自分たちの憩いの場としているこの場所へリュウタロスはヴィヴィオを非難させた。
今は頭痛も治まり、ソファに腰掛けるヴィヴィオはゆっくりと辺りを見渡す。
「みんなも頭痛くてここに来たの?」
「う〜ん、わかんない」
「も〜、定員オーバーですぅ〜〜!」
ヴィヴィオとリュウタロスの疑問を余所に、薬と水をトレイに乗せたナオミは悲鳴を上げながら、食堂車内のあちこちで
寝ている六課の隊員たちへの看病をおこなっていた。
「ねぇねぇ、どうしてみんなしてここに来たの?」
「え、えっと」
リュウタロスは床に腰を下ろし、額に濡れタオルを当てているグリフィスの隣にしゃがんで尋ねる。
「あの、僕の体に入り込んだ、ウラ…タロスさんでしたっけ?その人が教えてくれたんです。ここなら安全だと…」
「カメちゃんが…?」
思わず自分のよく知る人物の名前を口にするリュウタロスの指を、さらに小さい指が弱弱しく握った。
「?ヴィヴィオちゃん…?」
「リュウちゃん…お願い…」
「ママ達を助けて」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……もー、しつこい!」
「す、スバル…私の事はいいから、早く放送室に…」
「そ、そんなことできませんよ!」
スバルは放送室へ向かう途中、デバイスルームの前で機械の兵隊に襲われるシャリオを救出、彼女を抱えながら自分たちを
追う兵隊から逃げ続けていた。
(この音…みんなといた時はまだ我慢できたけど、動き続けたらさすがに…キツイ…)
汗を拭いながらスバルは心の中で弱音を吐く。牽制として振り向きつつリボルバーシュートを打ち込み、また全力で走り続け
るのを繰り返しているが、相手は勢いも数も衰えることはない。完全なジリ貧だ。おまけにスバルは人一人を抱えながらの
孤軍奮闘。その疲労から脳へとダメージを与えるこの音がより効果を及ぼしてしまった。
(ま、まだ…!シャーリーさんを安全な場所に避難させてから放送室に…私が、やらなきゃ…)
「スバル!そっちはダメ!!」
「えっ!?」
シャリオの呼びかけに声を上げたスバルは、目の前の壁を見て驚愕する。行き止まりだった。背後には機械の兵隊の足音が
着実に迫っている。
「そ…んな…」
体から力が抜ける。自分なら、なんとか出来ると突っ走った結果がこれだった。マスターコンボイさんに、なんて言われる
かなぁ…と考えた途端、
「君たち、女の子の釣り方を勉強した方がいいね。ま、そんな格好じゃまず無理だね」
そんな聞き覚えのある声が耳に響いた。ゆっくり振り返ると、一人の少年が機械の兵隊へ立ちふさがっていた。その少年の
腰には、自分がモモタロスに憑依した時と同じベルトが巻かれている。ということは…
「――変身!」
―――Rod From―――
あの時とは異なる音声が響くと少年は黒と銀のボディースーツに包まれる。その際、マスターコンボイと同じくらいだった
身長は急成長、スバルより頭二つ分は越える高さへとなる。
そして青色の追加装甲が胸、肩、背部へと装着。最後に顔面のレールにウミガメの形をしたレリーフが走る。レリーフが
眼前で停まると展開、青い仮面と甲羅を思わせる二つの複眼が出現する。
追加装甲は一度強く発光。兵隊たちを挑発するように指差す。
「お前達、僕に釣られてみる?」
イクトは痛む頭を押さえながら目の前の敵をまた1体、手から放たれた炎で葬った。彼の背後にはフェイト、そしてファイル
を両手で握りしめているアスカがいる。三人も音の影響で全力で戦えず、逃げの一手のみでいまにいたった。
「全く、調べ物がまとまった途端に敵襲なんてタイミング悪すぎぃ!」
「言っても仕方がないよ!はやくなのは達に合流しないと…」
アスカを宥めるフェイトだが顔色が悪い。非戦闘員をあの女ったらしの言う通りデンライナーへの誘導を
行った時、周りを不安にさせまいと気丈にみんなへと声をかけていた。その無理がたたり、他の隊員よりも脳への負担が
大きく表れていた。
(相変わらず、自分よりも他人が優先か…少しは自分に気を使って欲しいものだが)
苦笑しながらも腕に力を込める。炎を敵へぶつけようと一度手を引いた瞬間だった。
「!? 何っ!」
「イクトさん!!」
下を見ると、いつの間にかイクトの両足には機械の兵がしがみ付いていた。それに気を取られて上半身のバランスを崩した
直後、今度は腰、両腕を次々と掴まれ、完全に身動きを封じられる。
(ちぃ!!いくらこの音で集中力が乱されたとはいえ、こんな機械如きに遅れを…!)
舌打ちするイクトを余所に、近づいてくる機械兵士はその手――重火器の標準レーザーをイクトの額へと定める。そして
銃口に熱がこもり――
銃声と共に機械兵の頭が吹き飛んだ。
「え…」
何が起きたか分からないフェイトが口からそんな声をもらすと、続いてイクトにしがみ付いていた機械兵の体が次々と
打ち貫かれた。
「た、助かった…か?」
自由になり、思わず膝を付いたイクトはフェイトとアスカに支えられ、機械兵の群れのさらに向こうを見た。
「お前達?ヴィヴィオちゃんを怖がらせたやつって?」
幼くも冷たい声に反応した兵隊が次々と振り返る。歪な頭部からピピピと電子音が鳴ると、今まで標的としていたイクト
たちを放置し、自分達の同士を打ち取った者へと一斉に足をむけた。
「じゃあ、お前達倒すけどいいよね?」
「―――答えは聞かないけど」
自分用の巨大な銃――リユウボルバーの銃口を機械兵へと向けたリュウタロスは躊躇することなく、引き金を引いた。
ガシャンと先ほどまで頭を構成していた部品を踏みつぶすと、モモタロスは剣を肩に担ぎ、周りを見渡す。
「ようやく片付いたかぁ?」
「す、すごい…!」
「随分乱雑な戦いだったがな…」
関心するエリオとは反対に、マスターコンボイはモモタロスの戦いを呆れ反面で眺めていた。モモタロスの足元には六課
隊舎に攻め込んだ機械兵たちのなれの果てが転がっており、その部品の一つをマスターコンボイは拾い上げる。
「なんなんだったのこいつら?」
「わからん…だが、どこにでもあるような部品でこんな奴等が量産できるなど、そうそうできるわけではない」
まずはこの音が止まってくれなければ話にならん とマスターコンボイが部品を投げ捨てると、エリオの通信機に
呼び出し音が響く。
「どうしたの、アイゼンアンカー?」
『あ、エリオ?ごめ〜ん、また何体か打ち漏らしてそっちいっちゃった』
「あん?まだ暴れたりねぇ!じゃんじゃんこっちに遅れ!!」
「ちょっとモモ!」
気の抜けたアイゼンアンカーの通信が聞こえたモモタロスの追加オーダーにハナは声を上げる。
『う〜ん、なら任すけどいいの?だってそいつら――』
またも入り口に足音が響く。しかし、その音は重々しく、一歩足が地に着く度に震動がなのは達の元まで届いた。その
現れた影に全員が汗をかきながら見上げると、アイゼンアンカーからの通信の続きが聞こえた。
『そいつら大型トランスフォーマーサイズだから気をつけてね〜♪』
ブツリと通信が切れた。
「それを先に言え〜〜〜!!!」
モモタロスの絶叫に反応するかのように大型の機械兵はその大きな拳をモモタロスに振り下ろす。
「うぎゃぁ〜〜」
悲鳴を上げて回避したモモタロスは床を這いずり回りながら先ほどまで自分が立っていた床を見る。機械兵の拳が突き刺さり
抜けた箇所は大穴が出来ている。ゾクリとしたモモタロスの耳にハナの罵声が聞こえた。
「こらぁ、あんな大見栄張ったんだからなんとかしなさい!!」
「が、頑張ってくださ〜〜い…」
「あーっ!!ずりぃぞてめぇら!!」
安全地帯から顔だけ見せるハナとなのはを指差し怒鳴るモモタロスだが、敵は待ってはくれない。見れば次々と同じタイプの
機械兵が現れ、入り口は完全に封鎖されて外に逃げ出すこともできない。
「く、ここは俺も…」
「待ちなさいよ…ロボットモードに戻っても、今までの頭痛が影響してまともに戦えないでしょ!」
なのは達とは別の場所で隠れていたマスターコンボイは自分に鞭打ち立ち上がろうとするが、隣で弱っているティアナに
制止される。ティアナの言う通り、プリベンターは姿を変わる前後の状態が強く影響する。人間からトランスフォーマーへ
戻ったからといって不調が回復するわけではない。
「だから、今は…!」
「…スバル・ナカジマを待つしかないのか」
ティアナの提案を歯ぎしりをして飲むしかないマスターコンボイ。そんな彼へモモタロスの大声で呼ぶ。
「おいコラ、マスコン!!」
「その略し方は止めろ!ホント止めろ!!」
不調であろうがツッコミは健在のマスターコンボイに向けて、モモタロスは全力で走っていく。
「そんなとこで隠れてるくらいなら、てめぇを¨貸し¨やがれぇ!!」
「き、貴様なにを…!?」
自分を目指して駆けてくるモモタロスの言い分が理解できないマスターコンボイの反論より早く、モモタロスは
マスターコンボイに体当たり――
する寸前に半透明となり、マスターコンボイの中へと入り込んだ。
『えっ!?』
全員が驚く中でマスターコンボイはガクンと項垂れる。そしてゆっくりと顔を上げると――
「…へっ」
髪が逆立ち、髪の一部と両目が真っ赤に染まっていた。
「こうなりゃヤケクソだぁ!!」
立ち上がったマスターコンボイは敵へと駆けると、右腕を大きく振り払う。すると頭上に魔方陣が出現し、マスターコンボイを
光の粒子へと変え、粒子は四散 大きく広がって行く。やがて粒子は形作り、そこにはロボットモードのマスターコンボイの
姿が現れる。しかし、ボディカラーは灰色ではない。全身が赤と銀に染めあがり、カメラが強く発光。敵を前に立ち止まると
自分を指差し――
「俺―――」
そして両腕を大きく広げ、高らかに声を上げた。
「―――参上!!!」
次回予告
「まさか、キンちゃんまで攫われちゃうなんてね」
「あの子の痛みは、こんなもんじゃあらへん!」
「俺は、ただ願いを叶えるだけだ…」
「そんなこと、許されないよ!」
「俺たち、参上!」
第3話
「砕かれた思い〜俺たちの怒りに、お前は泣いた!〜」
後書き
いやぁ、だいぶ前回と間が空いてしまいましたね…それとムダに長くなってしまった。考えなしにタイトルつけるもんじゃ
ないですね……
さて、第2話となるわけなのですが、電王の時間軸としましては、超・電王の鬼が島〜でおデブちゃんをデンライナーから
降ろした直後、迷子になったって設定です。ですので良太郎くんは縮んだままなのです。
そしてモリビト様……イクトをあんなにエロくさせてごめんなさい!!(土下座)
最初はヴァイスにしようと(そういや出してないや…)考えたんですが、ギャップのある人物がいいと考えた途端、浮かんだ
のがイクトだったんです。あの純情戦士にちょいと(どころではない)女性で遊んで頂いた結果、この様です…
そして個人的に電王の各フォームでロッドが好きというわけでウラは出番が多くなったしまったのも起因してるんですがね。
そして、次回は影が薄かったキンちゃんが活躍する予定。そして予告に出ているあのフォームも現れるかも…
次もがんばります!!
管理人感想
YOYOさんからいただきました!
まったくもう、どいつもこいつもバカすぎて困ります(褒め言葉)。
しかし、いつまでもバカをやっていることも許されず、突然の隊舎襲撃。
定番の流れだと、鍵を握るのは保護した少女、カオル・サキョウでしょうが……アスカのつかんだ情報にその答えがあるかも。
相手が女の子ですし、ここはまたウラタロスの出番かな?
そして、マスターコンボイにとりついたモモタロス!
燃える展開ですが……あえて言いましょう。
ちくしょうっ! 先を越されたぁっ!