プロローグ
「予兆」

 


 

 

 いつの世も、人の心は光に満ちていた。
 いつの世も、人の心は闇を抱えていた。
 いつの世も、心の闇はそれを糧とする闇の存在を生み出していた。
 いつの世も、心の光は闇の存在を討ち払う力となっていた。

 光があれば闇もある。光と闇は表裏一体。
 はるかな時の流れの中で、光と闇は常にせめぎ合い、数々の戦いを起こし、結果常に等しく保たれてきた。
 常に均衡を保ってきた光と闇――その均衡が大きく崩れた時、果たしてどうなるのか……
 答えは誰にもわからない。だが……ひとつだけ確かなことがある。
 どちらが増大しても、おそらくそれはかつてないほどに大きな光と闇の争いを生むだろう。

 人という存在は、好意でも人が殺せるような、光と闇を内包した存在なのだから――

 

 日本が世界に誇る大都市、東京――
 繁栄を謳歌する裏側で犯罪が横行し、人々の憎しみが交錯するこの街で、それは静かに始まっていた。

「………………」
 夜の東京のビル街を、それははるかな上空から見下ろしていた。
 闇の中でその正確な姿を知ることはできないが、人よりもはるかに巨大で人型の“何か”であることはかろうじてわかる。
 と、“何か”の右手が動き、その掌の中に赤く輝く光球を生み出した。
 そして、“何か”は光球を夜空へと、光球は上空で弾け、そのエネルギーを波動として周囲へと拡散させていく。
 それを見ながら、“何か”は言った。

「これで……すべて終わりにしてみせる」

 それから、時は流れ、世界は新世紀を迎えた。
 今は……2002年。


 

(初版:2001/12/14)
(第3版:2005/01/08)