Legend01
「覚醒」

 


 

 

「……ふぅっ」
 東京駅のホームで、少女は荷物を下ろして息をついた。
「ここが東京……
 この街に“彼”がいるんですね……」
 少女がつぶやき――彼女のカバンの中から声がした。
「ねぇねぇ、これからどうするの?」
「そうですねぇ……
 まずは通うことになる学校を見に行きましょう。運がよければ“彼”を見つけられるかも……」
 そう答えると、少女は懐から地図を取り出し、
「えっと……今いるのが東京駅で……
 ………………あれ?」
 どうやら、目的地が見つけられないらしい。少女は地図を見たまま眉をひそめる。
「もう、しょうがないなぁ。
 貸してみて」
「………………はい」
 声の主に言われ、少女はカバンの中に地図を入れ――数秒後、声が尋ねた。
「……ねぇ」
「何ですか?」
「これ……どこで買った?」
「本屋ですよ。
 確か……『宮古書店』って名前の」
「……『宮古/書店』じゃなくて『宮/古書店』だと思うな、オイラは」
「え………………?」
「これ……大正時代の地図の写本」

 最初の目的地は本屋に決定した。

 数日後――
「オォォォォォッ!」
 咆哮と共に振り下ろされた棍を、柾木ジュンイチは左に半歩動くだけでかわしてみせた。
 続けて、相手は次々に連続突きを繰り出すが、ジュンイチはそのすべてをかわして相手の懐へとすべり込むと、漆黒の道着の帯に差してある朱塗りの木刀に逆手で手をかけ――
 ガゴォッ!
 そのまま引き抜く勢いで、木刀の柄尻で相手のアゴを思い切り打ち上げ、さらに素早く順手に持ち替えるとのけぞった相手の顔面を打ち据える。
 仕上げとばかりに腹に蹴りを入れて蹴飛ばすと、ジュンイチは改めて相手に向けて構えた。
 顔立ちは高校1年生――16歳という年齢の割にやや童顔めいたところがあるが整っており、ハンサムでも不細工でもない、といった感じか。茶色がかった髪はあまり手入れされていない無造作ヘアー。そういうクセっ毛なのか、重力に逆らって無意味に逆立っている。
 格闘をしている身としては小柄な部類に入る、身長162cmで中肉中背のその身体を漆黒の武道着で包み、額にはバンダナをまるでハチマキのように着けている。服に合わせたのか、その色はやはり黒い。
 二人が闘っているのは、グラウンドの外れにある8角形のリングの上だ。その周囲には数多くの生徒達がギャラリーとして集まり、二人に声援を送っている。リングの傍らには実況席まである。
 そんな中、相手の棒術使いは再び立ち上がり、ジュンイチに向けて棍を構える。
 が――対するジュンイチは余裕そのものだ。スキのない構えで相手を威圧しているかのように見えるが、実際にはスキがない構えをただ維持しているだけで、その脳裏では今日の授業のことを考えていたりする。
(まいったなぁ……一限目の国語、当てられるから予習したいんだけど……)
 できれば速攻で、それに授業中寝たくないから消耗も控えて終わらせたい。そこで、ローコスト、且つ大ダメージで瞬殺する手をいくつか考えてみる。
 ……作戦決定。2手で詰める。
 そう決めると後は実行あるのみ。ジュンイチはまるで野球のピッチャーのように大きく振りかぶり――
「飛んでけぇっ!」
 木刀を投げつけた。
「え………………?」
 まさか、いきなり武器を手放すとは思っていなかったのか、棒術使いはとっさに棍で木刀を弾く。
 その瞬間、彼の棍と弾かれたジュンイチの木刀によって、彼の視界からジュンイチの姿が消え――ジュンイチにはその一瞬で十分だった。
 ――ダンッ!
 爆発音にも似た轟音と共にマットを蹴り、ジュンイチは一瞬にして相手の懐に飛び込んでいた。
 そして――
「雷、光、弾!」
 咆哮と共に拳を振るうと同時、ジュンイチの手から練り上げられていた“気”が雷撃を伴った衝撃波として解放され、棒術使いをリングの外へと吹き飛ばす!
「はい、ゲームセット♪」
 言いながら、ジュンイチは真上に弾かれ、落下してきた木刀をキャッチするとクルリと背を向け――同時、棒術使いがグラウンドへと落下、一瞬の沈黙の後、歓声が巻き起こった。

 “Dリーグ”――ジュンイチの通う、私立龍雷学園で年間を通じて行われている、異種格闘技リーグの名称である。
 武道、武術、格闘技を強く推奨しているこの学校においては格闘技系の部活同士による交流試合が頻繁に行われており、その対戦成績をランキングする動きが生まれたのをきっかけに、帰宅部をも巻き込んで正式にリーグ化されたのが始まりである。
 多様な対戦カードに合わせてルールも多彩に用意されており、『試合』としての比較的穏便なものから一歩間違えば死者すら出かねない『死合』的なものまで参加者自身の協議によって自由に選択することが可能となっている。
 発足当初はその危険性を危惧する声も出たものの、その危険性こそが結果として参加者に「力を振るう」ということの意義を自問させ、“力”に対する責任感を養っているのもまた事実であり、今では校外からも挑戦者が来ることもある、人気のイベントと化していた。

 ともあれ、棒術使いを破ったジュンイチは運営委員会のインタビューもそこそこにリングから飛び降り――
「――――――?」
 突然、何か得体の知れない気配を感じ取った。
 観客達の視線ではない。もっと遠くから感じる。
 殺気でも、誰かが“気”を練っているワケでもない。まったく異質な、未知の感覚である。
 その正体が気にかかり、出所を探り――しかし、慣れない感覚に戸惑っている間に気配は消えた。
「……何だ……?」

「へぇ、ちゃんと知覚できるんじゃないですか……」
 グラウンドの反対側――学生用駐輪場の2階からその様子を双眼鏡で眺め、少女はひとりつぶやいた。
 先日東京駅にその姿を見せた、あの少女である。
「やっぱり、少しだけ覚醒しているみたいですね……
 まぁ、その方が都合がいいですけど」
 言って、少女は校舎に向かうべくきびすを返し、つぶやいた。
「もう、時間の余裕もないかもしれませんからね……」

「………………ん?」
 教室に入ると同時、ジュンイチは教室の様子がいつもと違うことに気づいて眉をひそめた。
 みんな妙に浮き足立っている。特に男子が。
「何だ……?」
 ワケもわからずつぶやくと、ジュンイチは自分の席につくととなりの席でエアガンの手入れをしている級友に尋ねた。
「なぁ、橋本。
 何かあったのか?」
 ジュンイチのその問いに、橋本崇徳は不思議そうな視線を返してきた。
「なんだ、聞いてないのか?」
「聞いてない。
 今朝試合だったんでな、終わるなりすぐにこっち来たから」
「あ、なるほど」
 ジュンイチの言葉に納得し、橋本は続けた。
「転校生だよ、てんこーせー。
 このクラスに来るんだってさ」
「はぁ?
 転校生って……この時期にか? もう夏休み前なんだぞ」
「だから話題になってるんだよ」
 眉をひそめるジュンイチに橋本が答えると、
「そう! その通りなのだよ、ジュンイチ!」
 新たな声が彼らの会話に乱入してきた。
 その声の主を見て、ジュンイチはピンときた。
「……情報源はお前か、相川」
 その言葉に、相川信也は自信タップリに胸を張り、
「当然だ! 女の子の転校生が来ると、しかもそれが美少女だと聞いて、このオレが調査しないとでも思ったか!
 すでに誕生日に血液型、3サイズまで調査済みだ!」
「威張るな!」
「ちなみに情報料は500円な」
「売るな! いらんから!」
「何?
 ……お前がホモだという話は聞かないが」
「どーしてそうなるっ!?」
「美少女がやってくるという話があれば、すぐにでもその情報を仕入れてオカズにするのが漢というものだろうが!」
「お前と一緒にするな!」
 相川の言葉にジュンイチが言い返すと、となりで橋本が声をかけた。
いい店知ってるけど紹介しようか?」
「お前もそこでボケるな!
 ってーか何で知ってる!?」
 そう叫んで、ジュンイチは息を切らせて席につく。
 別に開き直ったワケではない。立て続けに入れまくったツッコミで少々息が切れたのだ。
「あぁ……他にいないのか、ツッコミ属性のヤツ……」
「苦労してるな、ジュンイチも」
「誰のせいだ、誰の!」
 橋本の言葉にジュンイチが言い返したその時、教室に担任の鷹清水がやってきた。
 彼に気づき、クラスの面々が席につくのを待って、鷹清水は口を開いた。
「あー、もう知っているヤツが多々いるようだが、今日、このクラスに転校生がひとり入る。
 なにぶん急な話でこんなタイミングになってしまったが、彼女が夏休みに入るまでにこのクラスに溶け込めるようにみんなも協力してやってくれ。
 ……って、今のお前らに言ってもムダか」
 転校生の入室を今か今かと待ちわびて、自分の話などまるで聞いていないクラスの面々を前に、鷹清水はため息をついてうめく。
 が――諌めようとしてもおそらくムダな抵抗だろう。彼はそう判断して話を進めることにした。
「……入ってもいいぞ」
 その言葉に、教室のドアが音を立てて開き――教室内のどよめきが最高潮に達した。

 ハッキリ言おう。
 カワイイ。
 栗色の髪を肩で切りそろえ、背はジュンイチと比べて10cmばかり低い。歳相応のあどけなさが残るその表情には、深く澄みきった双眸とおだやかな顔立ちのせいか、どこか神秘的な色合いが宿っているようにも見える。男子はもちろんのこと、女子にとっても彼女に好意以外の感情を抱く者は少ないだろう。
 そして、少女はチョークを一本手に取ると、黒板にスラスラと筆記体で名前を書き、その上に慣れた手つきでカタカナのルビを振った。
ジーナ・ハイングラムです。
 イギリス人と日本人とのハーフで、先日来日したばかりです。
 一応、この通り日本語も一通り話せるので、早くみなさんとお友達になりたいです」
「……だそうだ。
 うちの学校は武道推奨校ということもあってクセが強い。みんなで協力して、早く慣れさせてあげるように」
 転校生に完全に注意を持っていかれ、誰も聞いていないことはわかっていたが、鷹清水はそう締めくくってホームルームを切り上げた。

 そして、その日の昼休み――
「……うるさい」
 弁当を食べ終え、木刀の手入れをしていた手を止め、ジュンイチはそうつぶやいた。
 原因は彼の目の前――教室の一角にけっこうな規模の人だかりができている。
 何の人だかりかは言うまでもない。転校生であるジーナと話そうという、クラスの面々によるものである。
 ただでさえ美少女と言ってもいい外見に加え、人当たりのいい性格であることが自己紹介や午前中の授業での立ち振る舞い、そして休み時間のクラスメートとの会話で判明している。男子だけでなく、彼女のその人柄に惹かれた女子までもが加わり、ジーナの周りは上へ下への大騒ぎになっている。
 今はまだクラスの面々だけで住んでいるが――逆に言えば「クラスの面々だけでもこの騒ぎ」だということだ。このことが他のクラスにまで広まれば、収拾のつかない事態になることは容易に想像できた。
「……さすがに黙らせるか」
 できれば今のうちに収拾しておきたい――そう考え、ジュンイチが席を立つと、それに気づいたのか、ジーナもそれに呼応するように立ち上がった。
「すみません、今はこのくらいで」
 そう言って人だかりから抜け出すと、ジーナは一直線にジュンイチへと向かってきた。
「ねぇ」
「ん?」
 向かおうとしていたところに逆に声をかけられ、ジュンイチは思わず当惑して聞き返す。
「柾木くん、これからどこかに行くんですか?」
「んにゃ。そういうワケじゃない。むしろヒマだ」
 用件の方もお前が自分で片付けたからな、と胸中で付け加える。
 一方、ジーナはそんなジュンイチの言葉に表情をほころばせ、
「じゃあ、ちょうどいいですね。
 これから校内を案内してもらえませんか?」
「今から、か……?」
「えぇ。
 午前中の休み時間はみんなと話してばかりで、まだ校内のことはよくわからないので……」
「だろうな」
「気づいてたんですか?」
「昼飯がコンビニ弁当だったろ。
 どこに引っ越したか知らんが、こんな急な転校じゃまだ荷解きもロクに終わってないはずだ。だから家から弁当を作って持ってくるってことはたぶんムリ。となれば昼飯の選択肢はそれ以外に絞られる。コンビニ弁当か学食か購買の惣菜ってところだろう。
 それに、ウチは入学手続きの時に入学パンフ熟読させられるから当然知ってるだろうが、うちの校内のメシは学食も購買も良心的な価格なことで有名でね、場所を知ってるんならコンビニよりもそっちに行こうとするのが自然だ。
 けど、お前はコンビニ弁当を食べていた。つまり学食も購買も知らないってことになる。
 まぁ、ホントはもっと細かいところでの可能性もいくつか考慮した上での推理だが、概説すればそんな感じだ。訂正はあるか?」
「……ないです」
 スラスラと解説するジュンイチに、ジーナは呆気にとられながらうなずく。
 それを見てうなずくと、ジュンイチは黒板の上にかけられた時計へと視線を向けた。
 昼休みは残り30分。案内できるのは自分達のいるB棟ぐらいだろうか。
「……まぁ、案内自体は別にかまわないけど……」
 そう言うと、ジュンイチはため息をつき、
「あっちで立候補したがってる連中はどうする?」
「え、えーっと……
 かわいそうですけど、今回は遠慮してもらう、ということで……」
 ジーナの席の周りで「自分が自分が」と言いたげなオーラをまき散らしている、相川を始めとした級友達を見て、ジーナはジュンイチの問いにやや苦笑まじりにそう答えた。

「ここが屋上なんですか?
 けっこうすごしやすそうなところですね」
 気持ちよく風の吹き抜けていく屋上に出て、ジーナはうれしそうにつぶやいた。
「最初に来たがるのが屋上、ねぇ……
 まずは購買とか学食とかに行くのがスジだと思うが……」
 そんなジーナの後ろで、ジュンイチがため息をついてつぶやくと、
「そうでもないですよ。
 私は必要があってここへ案内してもらったんですから」
「必要……?」
 ジーナの答えにジュンイチは眉をひそめてつぶやき――そんな彼にジーナは告げた。
「えぇ。
 ここなら思う存分“闘えますから”
「――――――!?」
 告げると同時、異質な“力”を開放したジーナを前に、ジュンイチはとっさに間合いを取った。
 その“力”には覚えがある。すなわち――
「なるほど……今朝の異様な“力”はお前だったのか」
「『異様』だなんて失礼ですね、女の子に向かって」
 ジュンイチの言葉に口を尖らせ、ジーナは左手に着けた腕時計のようなツールを眼前にかまえ、
「ともかく、貴方に恨みはありませんが……
 ちょっと、痛い思いをしてもらいます!」

「ブレイク、アァップ!」
 ジーナが叫び、頭上にかまえたツールが光を放つ。
 その光は物質化、植物の蔓となり、ジーナの身体を包み込むと獅子の顔を持った獣人の姿を形作る。
 そして、ジーナが腕の蔓を振り払うと、その腕には鮮やかなエメラルドグリーンのプロテクターが装着されている。
 同様に、足の蔓も振り払い、プロテクターを装着した足がその姿を現す。
 身体を包む蔓を振り払うと、彼女の身体にピッタリとフィットしたスリムなデザインのボディアーマーが現れる。
 最後に額の蔓を振り払い、ヘッドギアを装着したジーナがその場に着地した。

「な…………っ!?」
 突然何もない空間に鎧を形成し、装着したジーナを前に、ジュンイチは事態が呑み込めずにうめくしかない。
 が――ジーナは背中へと手を回し、そこに留められていたトンファーをかまえる。
「……いきます!」
 トンファーをかまえてジーナが告げると、次の瞬間その姿が視界から消えて――
「――ぅわぁっ!?」
 とっさにジュンイチは身を沈め、その頭上をジーナのトンファーがかすめる。
「クソッ、いきなり何しやがる!」
 うめいて、ジュンイチは転がるように間合いを取ると懐から苦無を取り出し、投げつける。
 が――苦無はジーナに当たることなく、直前で何か見えない壁のようなものに当たって弾かれた。
「何だ――――!?」
 疑問が脳裏をよぎるが、考えているヒマはない。ジュンイチは追撃してきたジーナのトンファーをかわすと腰の木刀を抜き放ち――振り下ろしたジュンイチの一撃は、やはりジーナの目の前で何かに受け止められていた。
(障壁――いや、この弾力は『力場』か!?
 いや、それよりも――)
 ジュンイチがうめいた、その時――
 ――ドガァッ!
「ぐぁっ……!?」
 隠し切れなかった戸惑いが一瞬のスキを生んだ。ジーナのトンファーを腹部にくらい、吹っ飛ばされたジュンイチは屋上のフェンスに思い切り叩きつけらた。
「ってぇ……!」
 まともに一撃を受けた腹をさすってジュンイチがうめくと、
「私の勝ち、ですね」
 言って、ジーナは鎧やトンファーを霧散させるとジュンイチへと手を差し伸べた。
「……何なんだよ、お前……」
 そんな彼女の手を払い、ジュンイチは自分で立ち上がり、
「パワーやスピードはデタラメなクセして、動きはまるでトーシロ同然だ。身体能力に技術がまるでついて来れてない」
 そう――ジュンイチが戸惑ったのは(条件次第、という前提だが)気功でも作り出せる力場ではなく、むしろそっちだった。能力に比べてあまりにも不釣合いなジーナの技術のつたなさに疑念がわき、つい意識が向いてしまったのだ。
 対して、ジーナはそんなジュンイチに向けて肩をすくめ、
「仕方ないですよ。
 私、戦い自体は『同然』どころかまったくの素人なんですから」
「はぁ?」
「まぁ、それは順を追って説明しますから」
 ジュンイチにそう告げると、ジーナは気を取り直して彼に告げた。
「第一、それを言うなら貴方の方がよほどデタラメですよ。
 着装して身体能力の強化された私に生身のまま、しかも初見で追いつけるなんて、常人の反射神経のレベルを完全に超越してますよ」
「なら“Dリーグ”参加者はみんな人外魔境だな。オレより速いヤツなんてゴロゴロしてるぜ」
 ジーナに答え――ため息をついてジュンイチは改めて尋ねた。
「……で? オレを試しやがった理由は?」
「え………………?」
「とぼけんな。攻撃に殺気がぜんぜんなかったぞ。
 ってことは、オレを倒すとか殺すとか――戦うことが目当てだったとは考えにくい。
 となれば考えられるのは他の可能性だ。その中でもっともありそうなのは――戦力評価だ」
「さすがですね……いきなり攻撃されて、見た目大慌てだったのに、ちゃんと見るところは見ていたんですね」
「慌てはしたがビビりはしてなかったんでな。
 恐怖のない戸惑いはどこかで冷めてる部分があるもんだ」
 そう答えると、ジュンイチは頬をポリポリとかきながら、
「けど、手段はマズかったな。うちの風紀委員は“Dリーグ”のやりたい放題を認める代償としてそれ以外の私闘は容赦なく取り締まる。もしこれが人目についてたら、お前転校初日で風紀委員の取調室行きだぞ」
「取調室があるんですか……? 仮にも学校でしょ?」
「あるんだよ、なぜか。そのとなりの部屋なんか留置所だし。
 他にもあってもなくても困らんような変な施設はそこら中にあるぞ、この学校」
 『取調室』なんて普通の高校ではまず聞かない単語に困惑するジーナに答えると、ジュンイチはもう一度さっきの問いを繰り返した。
「で……聞かせてもらおうか。オレを試した理由ってヤツを」
「あ、はい……
 単刀直入に言えば、貴方の力を貸してもらいたいんです」
「オレの力を……?」
「はい。
 貴方には、まだ秘められた“力”が眠っています。その力を私達に貸してもらいたいんです」
「秘められた力……さっきお前が見せたような能力のことか……?」
 ジーナの言葉につぶやき――ジュンイチはもっと重要なことに気づいた。
「――私“達”!?
 お前の他にも、まだ誰かいるのか?」
「えぇ。
 とは言っても、今はみんな別行動中で、今私といるのは――」
「オイラだけだけどね♪」
 そうジーナに付け加える声は、二人の頭上から聞こえてきた。
 声の主を探してジュンイチは頭上を見上げ――そこにいた存在に気づいて目を丸くした。
 そこにいたのは、小さい翼をパタパタさせて滞空している、青色の爬虫類の子供――要するに、『青色の子ドラゴン』としか形容できない生き物だった。
 他にその周囲には何もいない。つまり、今の一言はその子ドラゴンから発せられたものだということになる。
「お、お前、一体……?」
「オイラ? オイラはブイリュウ
 ようやく見つけたよ! キミがオイラのマスターなんだね!」
 ジュンイチの問いにそう答えると、ブイリュウは宙返りの要領で降下すると、ジュンイチの腕の中に飛び込んだ。
「マスター……?
 誰が?」
「キミが」
「誰の?」
「オイラの」
 そこで会話が止まる。
「……まぁ、ちょっと説明が端的過ぎましたね」
 そんな二人に声をかけ、ジーナがブイリュウに代わって説明を始めた。
「改めて紹介しますね。
 その子はブイリュウ。あなたを見出したブレイカービースト『ゴッドドラゴン』の分身――プラネルです」
「ブレイカー、ビースト……?」
「そうです。
 ブレイカービーストは、はるかな昔にこの世界に存在していた、人間と精霊が共存する超古代文明が遺したこの世界の守護神――
 超古代文明が滅び、精霊達がこの世界から姿を消した後にも、それぞれの時代を生きる、彼らの“力”と魂を受け継ぐ者達と共に、この世界を守り続けてきたんです」
「ち、ちょっと待った!」
 説明するジーナの言葉を、ジュンイチはあわててさえぎった。
「そのブレイカービーストが、オレを見出したってのか?
 じゃあ……」
「そうです。
 あなたは、ゴッドドラゴンによって見出された、炎の精霊の“力”と魂を受け継ぐ者――『炎』のブレイカーなんです。
 同様に私は“大地”のブレイカーです。プラネルは別行動中ですけどね」
「……いきなり突拍子もない話が出てきたな……」
 突然落ち着く間もないままに専門用語を羅列され、ジュンイチは心底困って頬をかきながらつぶやき――ふとイヤな予感を覚えてジーナに尋ねた。
「なぁ……とりあえずその話が真実だと仮定して、だ。
 そいつらが、オレやお前を必要としているってことは……」
「……はい。
 今、この世界では闇の勢力がその力を拡大しつつあります。
 その闇の名は――『瘴魔』

 一方、その頃街では人知れず異変が始まっていた。
 人気のない路地裏に、黒い煙の塊のようなものが生まれ始めていたのだ。
 そして、それはゆっくりとうごめき、何かの形を作り始めた。
 と、同時に煙の中に取り込まれたものがあった。
 近くに巣を張っていたクモである。

「瘴魔……?
 何だよそいつは」
「瘴魔とは人の心の闇――怒りや憎しみ、恐怖のような『負の思念』を糧に生まれた暗黒の存在――闇の種族ダーク・トライヴの一派です」
 頭上に多量の疑問符を浮かべて尋ねるジュンイチに、ジーナが説明する。
「ジュンイチさんも、新聞やニュースで知っているでしょう?
 近頃、原因不明の怪現象が多発してるって……」
「あぁ。子供が神隠しにあったり、牛の血が抜かれていたり、夜中に唸り声が聞こえたり、動物園の猛獣がどう見ても素手でやられたとしか思えない殺され方してたり……って、まさか!?」
「そうです。あれはすべて瘴魔の仕業です。
 私達ブレイカーの使命は、瘴魔のような闇の種族ダーク・トライヴを討ち滅ぼし、人類を守ることなんです」
 ジーナの言わんとしていることに気づき、声を上げたジュンイチにジーナが答える。
「……とは言っても、私もまだなりたてで……
 一応、私を見出してくれた仲間の人達だけで今まで戦ってきてたそうなんですけど、最近、急に瘴魔の出現回数や強さが増してきたらしくて、自分達だけじゃどうにもならなくなってきて……」
「……で、オレやお前が新たに見出された、か……」
 ジーナの話に、ジュンイチはつぶやいて腕組みし、しばし考え込む。
「お願いです。私達に力を貸してください。
 ジュンイチさんは、ブレイカーの中でも他のブレイカーのリーダーとなるべき重要な存在だそうです。これからどんどん激しくなっていく瘴魔との戦いには、ジュンイチさんの力が必要なんです」
 しかし――ジュンイチは静かに、そしてハッキリとジーナに言い放った。
「……お断りだ」

「なんでですか!? どうして手伝ってくれないんですか!?」
 放課後、さっさと帰ろうとするジュンイチにジーナがしつこく食い下がってきた。
 そんなジーナの言葉をロコツに耳をふさいでやりすごし、ジュンイチは歩調を緩めることなく駐輪場へと向かう。
「ジュンイチさん、武術もやってるじゃないですか! 戦う力だってあります! ブレイカーとして覚醒すれば、きっと私たちの誰よりも強くなれます!
 なのに、どうして!」
 その言葉に、ジュンイチはようやく立ち止まり――その後ろを歩いていたジーナは反応しきれず、ジュンイチの背中にぶつかった。
「……ジュンイチさん……?」
 突然反応を見せたジュンイチに、ジーナが戸惑いながら声を上げ――そんなジーナにジュンイチは告げた。
「力があるからって……守れるワケじゃない」
「え……?」
「力があっても、守れないものなんてこの世にはゴマンとあるんだ。
 それどころか、人を超えた力は時として救いようのない惨劇の引き金になったりもする。そいつが望んでいなくても、な」
 言って、ジュンイチはジーナに背を向け、
「オレに、守るための戦いなんかできねぇよ。
 オレの“力”がもたらすのは小は相手のケガから大は死と破壊まで――何かを破壊することだけだ。
 つまり、オレはお前らのリーダー失格ってワケだ。悪いが他をあたりな」
 あっさりとそう言って、ジュンイチはジーナを置いて歩き出すが、
「……他なんて、いないんです……」
 そんなジュンイチに、ジーナはうつむいたまま告げた。
「ブレイカーは純粋に魂の転生の問題です。
 ジュンイチさんが生きている限り、ジュンイチさんの代わりなんて、ありえなくて……だから私達には、ジュンイチさんしかいないんです」
「……それでも、だ。
 仮に、ヤツらと戦うのがオレのやるべきことだとしても……お前らのリーダーになるワケにはいかない。
 オレには、お前らと一緒に戦う資格はない」
 そう言って、ジュンイチは駐輪場に入ると自分のバイクにまたがり――ヘルメットをかぶると小声でつぶやいた。
「……オレと一緒にいれば……お前らを巻き込むことになる……」

「……説得、失敗だね……」
「えぇ……」
 バイクで走り去っていったジュンイチを見送り、物影に隠れていたブイリュウの言葉にジーナがうなずく。
「けど……私達はジュンイチさんにどうしてもリーダーになってもらわないと……」
 ジーナがつぶやいた、その時――
 ――ゾクッ!
 いきなり、彼女の背筋を強烈な悪寒が駆け抜けた。
「――ジーナ!」
「えぇ!」
 同様にそれを感じ取ったブイリュウに答え、ジーナはうめいた。
「まさか、こんな昼間から瘴魔が現れるなんて……!」

 ドガオォンッ!
 その怪物が投げつけた車がビルに激突し、爆発を起こす。
 巻き起こる炎の中、怪物はゆっくりと歩を進める。
 真っ黒な身体に8本の足、周囲を見回す複数の瞳――
 その怪物は、さながら巨大なクモのような姿をしていた。
 そして、怪物は次なる破壊の対象を求め、街を進み始める。
 警察も果敢に応戦しているのだが、まったく想定外の未知の事態の上、ちょっとした家ほどの大きさの怪物が相手ではまったく歯が立たない。
 炎に包まれる街の中、人々は恐怖にかられ、逃げ惑うしかなかった。

「このイヤな“気”……こいつが瘴魔ってヤツか……」
 ジーナの感じた瘴魔の気配は、ジュンイチもまた感じ取っていた。バイクを停めて気配のする市街地の方を見てつぶやく。
「……ま、オレには関係ない話か」
 しかし、『関わらない』と決めた以上は関わるつもりは毛頭ない。ジュンイチは再びバイクを走らせる。
 が――
「――――――!?」
 ある事実に気づき、ジュンイチはあわててバイクを急停車させた。
 瘴魔の気配が移動している。その先には――
「――くそっ、中等部の方角じゃねぇか!」

 暴れ回る瘴魔の被害はますます広がり、その進路上は瘴魔から逃げのびようとする人々がひしめいている。
 そんな中、人々の流れに逆らって走る少女の姿があった。
 濃い栗色の髪を見る者に対して快活そうなイメージを与えるポニーテールにまとめ上げ、その身体は龍雷学園中等部の制服に包まれている。
 と、そんな彼女の行動に気づき、少女の友人が声を上げる。
「ちょっと、あずさ! 何やってんの、危ないよ!」
「サッキーは先行って!
 あたしはあの子を!」
 友人にそう答えると、少女は――柾木あずさは人波をかき分け、道端に崩れ落ちたガレキへと向かう。
 その下では、わずかにできた空間の中で子犬が弱々しく鳴き声を上げている。彼女はその子犬を助けるつもりなのだ。
 何度も人ごみに流されかけ、それでもあずさはなんとかガレキへとたどり着き、その下から子犬を助け出す。
「さぁ、もう大丈夫だよ」
「ワンッ!」
 あずさの言葉に、子犬が彼女の腕の中で泣き声を上げ――
 ドガァッ!
 頭上のビルに怪物の投げつけたパトカーが直撃し、ガレキやパトカーの残骸があずさに向けて降り注ぐ!
「――――――っ!」
 あずさが声にならない絶叫を上げ――
 ――ブォオォンッ!
 ガレキを踏み台にして、1台のバイクが人波の反対側、ビルの隙間から飛び出してくる!
 その上にまたがっているのはあずさのよく知る、そしてもっとも信頼できる人物だった。すなわち――
「――お兄ちゃん!」
 声を上げるあずさの前で、ジュンイチは手にした木刀に“気”を収束させ、
「雷、鳴、斬!」
 ドゴォッ!
 宙を飛ぶバイクの上でジュンイチが木刀を振るい、そこから放たれた“気”の波動がガレキを直撃、粉々に粉砕する。
 そして、ジュンイチの一撃の反動で勢いの殺されたバイクは空中でバランスを立て直し、あずさの目の前に着地した。
「大丈夫か? あずさ」
「う、うん……」
 尋ねるジュンイチにあずさがうなずくと、
 ――ズンッ!
 そんな彼らの前に、瘴魔が立ちふさがった。
「……くそっ、逃がしてくれるつもりはねぇか……!」
 うめいて、ジュンイチはバイクから降りるとあずさに向けて目配せし――その意図を汲み取ったあずさは彼のバイクに犬を抱えたまままたがった。
 それを確認し、ジュンイチはバイクに告げる。
『ゲイル』、あずさを乗せて全速離脱!」
 その言葉に、ハンドルの中央の液晶ディスプレイに『OK!』と表示されたかと思うと、バイクはあずさを乗せたままひとりでに発進、その場から走り去る。
 が、瘴魔はそんなあずさ達へと口から糸を吐き放ち――
 ――ズバァッ!
 ジュンイチが無言ではなった雷鳴斬がその糸を断ち切っていた。
「……誰が『追ってもいい』っつったよ?」
 こちらへと向き直る瘴魔に告げ、ジュンイチは木刀をかまえ、地を蹴った。

 一方、ジーナとブイリュウもまた、現場に急行するために街を駆けていた。
 が――いかんせん移動手段が走るしかない。そのため、未だ現場にたどり着けずにいた。
「急いで、ジーナ!」
「わ、わかってますけど……」
 ブイリュウの言葉に、ジーナが息を切らせて答え――
 ――ドガァッ!
 目の前のビルを突き破り、瘴魔がその姿を現した。
 そして、瘴魔の突撃をかわしたジュンイチが瘴魔を追って飛び出し、着地すると同時に苦無を投げつけるが瘴魔の目の前で弾かれる。
 ジーナと戦った時と同じ現象である。
「ジュンイチさん!?」
「ジーナか!?」
 声を上げるジーナに気づくと、ジュンイチは前転の要領で瘴魔の前足をかわすとそのままジーナの元へと転がり、
「どうなってやがる!?
 お前の時と同じで、こっちの攻撃、全部当たる前に弾かれちまうぞ!」
「あの瘴魔の力場です」
「力場、って……マジかよ!? アイツ何も持ってないぞ!」
 ジーナの言葉に、ジュンイチは思わず声を上げた。
 だが彼の驚きももっともだ。様々な超常現象じみた効果を発揮する気功でさえ、相手の攻撃を防御できるほどの力場を展開するのは生身では出力が足りず、何かしらの増幅媒体に頼るか肉体そのものを強化して防御力を高める方式をとるのが一般的だ。何の媒介も使わず、生身で力場を展開するなど、非常識にもほどがある。
「……ま、今の状況がすでに非常識か」
 自嘲気味にそうつぶやくと、ジュンイチは木刀をかまえて思考をめぐらせる。
(見たところ、あの力場は常時・全方位展開型――常時低出力で展開してるそれを、こっちの攻撃に対する防衛本能が防御可能レベルにまで自動強化させてるってトコか……
 でもって、展開形態は『領域』じゃなくて『面』っぽいけど……)
 つまり、力場の『面』の内側に飛び込めば直接攻撃は可能だということだ。だが、こちらの攻撃を認識されたとたんに強化される力場を、どうやってかいくぐるか――
「……よし!」
 どうやら何かを思いついたらしい。ジュンイチは木刀をかまえ直し、瘴魔に向けて地を蹴る!
 対して、瘴魔は迎撃すべく糸を吐き放つが、ジュンイチはそれを上方へ跳躍してかわす。が――空中に逃れたジュンイチの右足に、続けて放たれた瘴魔の糸が絡みつく!
「ジュンイチさん!」
 ジーナが声を上げるが、バランスを崩して大地に叩きつけられたジュンイチはそのまま成すすべなく瘴魔に引き寄せられていく。
 そして、瘴魔はついにジュンイチを捕まえると彼をかみ殺すべくその口を開き――
 ――ズバァッ!
「ギシャァァァァァッ!」
 突然の斬撃音と共に、悲鳴を上げたのは瘴魔の方だった。
 ジュンイチが、手にした苦無で瘴魔の牙を根元の肉もろとも斬り飛ばしたのだ。
「へっ、思った通り!」
 言って、ジュンイチは右足の糸を苦無で切り離して脱出し、
「勝利を確信すれば、力場は展開されないってか!」
 零距離での雷光弾が瘴魔の腹に炸裂。体表が破れて体液が飛び散る。
 が――
「ギュシャァァァァァッ!」
 ドガァッ!
「が……ぁ……っ!」
 瘴魔が怒り任せに振るった前足の直撃を受け、ジュンイチがビルの壁に叩きつけられる!
「くっ、くそっ……!」
 うめいて、ジュンイチが立ち上がろうとするが、ダメージが大きくて動くことができない。
(左肋骨が3本……右肋骨が2本持ってかれたか……!
 後は――右腕がロクに上がらない。鎖骨か肩甲骨か、あるいは両方やられたか……
 ……『修復』できないケガじゃないけど、戦えるまでにはあと4、5分ってトコか……
 ……待ってくれるワケ、ないよな……)
 胸中でつぶやくジュンイチに向けて、瘴魔が前足を振り上げ――
 ――ズバァッ!

(え――――――?)
 目の前の光景に、ジュンイチは一瞬思考が停止した。
 瘴魔の一撃は、ジュンイチをとらえなかった。
 代わりに――ジーナがジュンイチをかばい、背中にその一撃を受けたのだ。
 斬り裂かれた背中から鮮血が飛び散り――ジュンイチの脳裏にその光景がよみがえった。

 

 ――崩壊した建物――

 ――折り重なった、おびただしい数の死体――

 ――かつて人の形をしていた、バラバラに引き千切られた肉の塊――

 ――そして……自分の手にベットリと付着した――

 血。

 

 ――ズバァッ!
「ギシャァァァァァッ!」
 一閃の元に両前足を斬り飛ばされ、瘴魔は絶叫と共に後ずさった。
 そして――ジュンイチはそんな瘴魔の前に立ちはだかった。
 一瞬にして傷の癒えた身体で、木刀が分解、再構築された太刀を手にして――
 それを見て、ジーナはつぶやいた。
「覚醒、した……!?」

「いい度胸してやがるな、テメェ」
 言いながら、ジュンイチは一歩踏み出し――
 ――ドガァッ!
 “力”を帯びた蹴りが瘴魔の力場を易々と粉砕、瘴魔の顔面に打ち込まれる。
 その“力”は“気”によるものではない。ジーナのものと同じ、今まで操ったことのない異質の“力”だった。
「オレの一番ヤな記憶再現しやがって……おかげで気分は最悪だぜ」
 大きく蹴飛ばされ、大地に叩きつけられる瘴魔にそう告げると、ジュンイチは右手を構え――そこに“力”が収束。瞬く間にその温度を上げていくと燃焼を開始。しかも自身から放射されるその熱エネルギーすらも取り込み、さらに温度を上げていく。
 もはや『炎』と呼べるレベルを通り越し、電撃すら走り始めたその炎を維持したまま、ジュンイチは大きく振りかぶり、
「消し炭になって――死に詫びやがれぇぇぇぇぇっ!」
 咆哮と共に、放たれた炎が大地をえぐりながら瘴魔へと襲いかかり、
 ――ドガオォォォォォンッ!
 大爆発を起こし、瘴魔は粉々になって焼滅した。

「……す、すごい……」
 瞬く間に瘴魔を圧倒したジュンイチの戦いぶりに、ジーナは遠のく意識の中でつぶやいた。
「覚醒したばかりなのに、あの力……
 彼なら……きっと……私達を……助けて……」
 最後まで言葉をつむぐことができず、ジーナはその意識を手放した。


Next "Brave Elements BREAKER"――

「……オレ、人類の救世主になったつもりも、なるつもりもないんだけどなぁ……」

「オレ……戦士になりきれなかった……
 オレの気持ちがハンパだったから……勝てなかった……」

「お前には、守りたい大事なもんがあったんじゃなかったか?」

「カン違いすんな。別にブレイカーだからヤツらと戦うワケじゃねぇよ」

「オレの力が欲しいなら……オレを見出したっつーなら……!」

「いけぇっ! ゴッドドラゴン!」

Legend02「決意」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2001/12/14)
(第4版:2005/04/03)