Legend02
「決意」
「………………」
ジュンイチは、自宅の屋根の上に寝そべり、雲ひとつない青空を眺めていた。
不意に左手を掲げ、その手首にリストバンドに代わって着けられた、ジーナの持っていたものと同じ腕時計型ツールに視線を向ける。
先日の戦いの後、ブイリュウから渡されたものだ。
通信機のようなものらしく、ある程度の扱い方は一応ジーナに教わってある。
しかし――正直、ジュンイチは気乗りしていなかった。
瘴魔と戦うのはまだいい。こっちから打って出るつもりはないが、襲ってくるなら迎え撃つ。それだけだ。
だが、それを『世界、人類を守る』ことにつなげているジーナの考えには、素直に賛同しかねるところがあった。
自分のことを――自らの歩んできた道を、よく知っているが故に――
「……オレ、人類の救世主になったつもりも、なるつもりもないんだけどなぁ……」
つぶやき、ジュンイチは気だるそうに身を起こし、
「オレに、そんな資格があるとも思えないしな……」
「あ、お兄ちゃん」
気を取り直し、一階のリビングに姿を現したジュンイチに気づき、あずさは振り向いて声を上げた。
その足元では、昨日助けた子犬が足のケガを手当てをしてもらい、あずさに擦り寄ってきている。
「……そいつ、もう大丈夫みたいだな」
「うん」
笑顔で答えるあずさに、ジュンイチは安堵のため息をつき――胸中で付け加えた。
(それに、お前の方もな……)
昨日あんなことがあってさすがにショックなのではないかと思い、あれからなんとなく顔を合わせられずにいたのだが、どうやら大丈夫のようだ。
「……むしろ、整理がついてないのはオレの方、か……」
「お兄ちゃん……?」
「こっちの話だ」
つぶやきを聞きつけたあずさにあっさり答え、ジュンイチはあずさに背を向ける。
「どこ行くの?」
「気晴らし」
あずさにそう答え、ジュンイチはリビングを出ていった。
「……うん、もう大丈夫だよ」
宿泊しているホテルの部屋でジーナの背中の傷を診て、ブイリュウは彼女にそう告げた。
「本当にすごいですね、この薬……
背骨にまで達していたんでしょう? そんな傷がたった一晩で跡も残さないで……」
「まぁ、精霊力を付加してあるからね。市販の薬なんかメじゃないよ」
感心するジーナにそう答えると、ブイリュウは話題の傷薬を救急箱にしまう。
「けど……問題はこれからだよ。
ジュンイチ、まだ戦ってくれるコトを渋ってるみたいだし……」
「ですよねぇ……」
ブイリュウの言葉にうなずき、ジーナはしばし考え込み――ポツリと付け加えた。
「けど……なんだか、悩んでるっていうのとは違うみたいなんですよねぇ……」
別に来ようと思っていたワケではなかったが、ジュンイチの足は自然と学校へと向かっていた。
昨日の騒ぎのおかげで学校は臨時休校になっている。いつもは“Dリーグ”のこともあり、むしろ学校に行きたがるジュンイチだったが、今は逆に休みなことがありがたかった。
と――
「なぁにたそがれてんだよ? ハッキリ言って似合わないぞ」
「……?」
いきなりかけられた声にジュンイチが振り向くと、そこには彼のよく知る人物がいた。
「……青木ちゃん……?」
彼の名は青木啓二。龍雷学園のOBで、現在は気ままな独り暮らし。
ジュンイチとはとあるカードゲームを通じて知り合い、趣味も近いこともあって何かといいコンビとなっていた。
ちなみに、ジュンイチは彼のことを「ちゃん」付けで呼ぶ。「『さん』付けより語呂がいい気がするから」というのが理由らしい。
それはともかく――
「よっ、青木ちゃん。
相変わらずヒマそうだね」
「イヤミかそれは。
れっきとしたオフだ」
手を挙げてサラッとキツいあいさつをかますジュンイチに、青木は思わず拳を握り締めてうめく。
「……ま、それはともかくとして、だ」
しかし、そこは大人。青木はとりあえず息をついて気分を落ち着け、
「にしても、冗談抜きにしても変だぞ、パッと見た感じ。
何かあったのか?」
青木の言葉に、ジュンイチはちょっと言葉につまる。
そりゃそうだ。普通精霊の転生だの瘴魔だの、話しても信じてもらえるかどうかはあやしいものだ。
が、ジュンイチはあっさりと決断した。
口止めされているワケではないこともあったが、それ以上に信頼するに足る理由が青木にはあった。
「……ま、今さら秘密がひとつ増えたころで違いはない、か……
実はな……」
「……ふーん、いろいろあったんだな、昨日……」
「いろいろあったんだよ、昨日」
話を聞いて納得する青木の言葉に、ジュンイチが答える。
二人は近くの公園に立ち寄り、そこでジュンイチは青木に昨日の戦いのことを話したのだ。
「で、お前はそのブレイカーとかいうヤツになって、人類を守れとか言われたワケだ」
「そう。そこだよ、問題は」
青木の言葉に、ブランコに腰かけているジュンイチはそう言ってため息をつく。
「そりゃ、確かに強いし実戦経験もあるし、覚醒だってした。
けど……それでもオレはオレだ。それ以上にも、それ以下にもなる気はねぇよ。
……それに……」
つぶやき、視線を伏せるジュンイチの言葉に、青木は困ったように頬をかき、
「……ま、確かにいきなり『世界を守れ』とか言われたら、普通の反応だと思うぜ。
それに、ただでさえお前は“厄介なモノ”を背負い込んじまってるワケだし。
けど……」
そこで一旦苦笑して、青木は言った。
「けど、お前は、戦ってもいいとオレは思う。
だってさ……」
言って、青木はジュンイチを見下ろし、
「お前には、守りたい大事なもんがあったんじゃなかったか?」
「守りたい……もの……?」
「そう。
守りたいもの――もう二度と、“あんな思い”をしないために、守らなくちゃいけないものが、お前にはあったはずだ」
青木の言葉にしばし考え込み――ジュンイチは動きを止めた。
「……ジュンイチ……?」
青木が尋ねるが、ジュンイチは答えない。じっと精神を集中し――
「――間違いない! 瘴魔だ!」
「何だって!?」
驚く青木に答えもせず、ジュンイチは弾かれたようにその場から駆け出した。
バギィッ!
その一撃を受け、犠牲となった男はゆうに5メートルは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
一撃の主は、少し大柄な人間ほどの体格の瘴魔だった。
そして、瘴魔は周りで恐怖にかられて逃げ惑う人々へと向き直り――
「――待ちやがれ!」
言って、ジュンイチが駆けつけてきた。
それに続いて、少し遅れて青木もやってくる。
「あいつが、瘴魔か?」
「あぁ。この感じは間違いない。
昨日のクモと比べると、ずいぶんと小柄だけど……」
ジュンイチが青木に答えると、異形――瘴魔はジュンイチ達へと向き直り、ジュンイチに脅威を感じたのか、緊張した様子でかまえてみせる。
「……あちらさん、やる気らしいぜ」
「へっ、おもしれぇ!
オレとやり合う気だっつーなら……その時点でテメェは敵だ!」
青木に言って、ジュンイチは腰の竹刀袋から木刀を抜き放ち、
「爆天剣!」
ジュンイチの叫びに呼応し、木刀は光の粒子となって霧散・再び収束して昨日瘴魔を切り裂いた剣――『爆天剣』へとその姿を変える。
「昨日のクモ同様、あの世行きにしてやっぜ!」
そう叫ぶ間に相手の間合いへと素早く侵入し、ジュンイチは爆天剣を振り下ろし――
――ガギィッ!
その一撃は瘴魔によってたやすくかわされ、大地に叩きつけられていた。
「――なんだと!?」
驚くジュンイチの胸倉をつかみ、瘴魔はそのまま力任せに投げ飛ばす。
「くそっ!」
舌打ちしながら、ジュンイチはなんとか空中で身をひねって着地するが、
バギィッ!
「ぐあぁっ!」
瞬時に間合いを詰めてきた瘴魔の腕がジュンイチを殴り飛ばし、さらに爆天剣もその腕から弾かれる。
そして、地面に転がった爆天剣は元通りの木刀へとその姿を戻す。
「こ、このぉっ!」
うめいて、ジュンイチは立ち上がり――気づいた。
瘴魔の放つ気配に覚えがある。この“力”は――
「その力場……!
――まさかてめぇ、昨日のクモか!?」
ジュンイチが叫ぶと、瘴魔は再びジュンイチへと突っ込んでくる。
「くそっ、やったろーじゃねぇか!」
言って、ジュンイチも瘴魔に向けてかまえ――瘴魔が拳を繰り出すと同時、身を沈めてそれをかわし、
「柾木流、撃法!
天衝破!」
ダンッ!
ジュンイチの当て身が、瘴魔を真っ向から弾き返す。
さらに、ジュンイチはバランスを崩した瘴魔へと突っ込み、
「連撃、巻竜牙!」
左足で制動をかけると同時、右のジャブを敵の右目(?)に打ち込んで視界を狭めると一瞬だけ引いたその右手でそのままヒジ打ちへとつなぎ、さらに後ろ足を軸足にすることで間合いを離しつつ身を翻し、姿勢の崩れた瘴魔の横っ面にカカト落としで追撃をかける。
瘴魔の身体が大地に叩きつけられ――
「地衝震!」
ドゴォッ!
練り上げた“気”を大地に叩きつけ、その衝撃は遠当てとなって瘴魔の身体を跳ね飛ばし、
「雷光弾!」
仕上げに放った雷光弾が、瘴魔を吹っ飛ばす。
ブレイカーとして目覚めたせいか、その威力は爆天剣がなくても昨日の比ではないほど増している。
しかし――
「……ウソだろ……!?」
何事もなかったかのように瘴魔が立ち上がるのを見て、ジュンイチが驚愕の声を上げる。
「……くっそぉ!」
咆哮し、ジュンイチはさらに殴りかかるが、やはり瘴魔には通じず、逆に腹にボディブローをもらい、さらに地面に叩きつけられる。
さらに、瘴魔はジュンイチを持ち上げ、いいようにいたぶった後、壁へと叩きつける。
そして、止めを刺すべく、右手に爪を生み出し――
「やめろぉっ!」
咆哮と同時、青木は瘴魔が反応するよりも速くその懐に飛び込んでいた。
そして、驚愕した瘴魔が力場を展開することも許さず――
「くらえ――『轟虎の牙』ァッ!」
ドゴォッ!
青木が、手の中に練り上げた“気”を瘴魔の腹部に叩き込み、大きく吹っ飛ばす!
さすがにこれは効いたか、立ち上がった瘴魔はフラフラとよろめく。
先日、ジュンイチが瘴魔に易々とダメージを与えたように、力場の内側で放たれた今の青木の攻撃も瘴魔に大きなダメージを与えることに成功していたのだ。どうやら、瘴魔の防御力は力場に大きく依存しているようだ。
「ジュンイチ、大丈夫か!?」
あわてて青木がジュンイチに駆け寄ると、ジュンイチは気絶していたものの、まだ息はある。
「……よかった……」
つぶやき――ふと気づいた青木が振り向くと、そこに瘴魔の姿はなかった。
「青木さん!」
声を上げ、病院の廊下のイスに座っていた青木のもとへあずさが走ってきた。
ジュンイチが病院に運び込まれた後、青木が自宅に連絡を入れたのだ。
「お兄ちゃんは!?」
「意識は戻ったし、ケガ自体も大したことないよ。
今、処置室で傷の手当てをしてもらってる」
青木があずさに答えると、
「あれ? あずさ……」
処置室から出てきたジュンイチが、あずさに気づいて声を上げる。
「お兄ちゃん、大丈夫なの!?」
「え? あぁ。なんとかな……
心配、かけちまったみたいだな。ゴメン」
駆け寄るあずさにジュンイチが言い――青木へと向き直って言った。
「青木ちゃん、オレはもう大丈夫だから、あずさを家に送ってってくれよ」
「え? お前はどうするんだよ?」
「頭打ってっからな。念のため、もう一回検査することになってんだ。
帰り、遅くなりそうだからコンビニに寄ってってやってくれよ」
「あ、あぁ……」
ジュンイチの答えにうなずき、青木があずさを連れていき――ジュンイチはクルリと振り向き、角の向こうへと声をかけた。
「……で、あいつはどーなったかわかんないか?」
「一旦姿をくらましているみたいです。
たぶん、どこかでまた負のエネルギーを溜め込んでいると思います」
そう答え、廊下の角から現れたのはブイリュウを抱えたジーナである。
「けど、どういうことなんだよ?
なんで、昨日ブッ倒したはずのクモが、あんな人型になって復活したんだ?」
ジュンイチの問いに、ジーナは少し視線を落とし、
「たぶん……昨日の戦いで、“封魔の印”がちゃんと発動しなかったんだと思います」
「……“封魔の印”……?」
「はい。
昨日、クモ型瘴魔に炎を叩きつけて、あいつ、粉々に爆発しちゃいましたよね? あの時、本当なら瘴魔の力を完全に消滅させるために、その“力”を浄化する力が発現して、その証として紋章のようなものが視覚化されるんですけど……」
「それが“封魔の印”か……」
説明するジーナの言葉に、ジュンイチはしばし考え、
「……じゃあ、こういうことか?
その“封魔の印”が発動しなかったせいで、きちんとあいつの負の思念エネルギーを浄化しきれずに、残ったあいつの残留思念が、さらに強力に負の思念を取り込んで、あの姿になった……」
「たぶん、そうです……
おそらくあの姿は、昨日のような下級瘴魔の上を行く形態……“瘴魔獣”になった姿だと思います。
だとしたら……プラネルのいない私や、完全に目覚めきっていないジュンイチさんの、勝てる相手じゃないです」
「……そっか……」
ジーナの答えに、ジュンイチはつぶやいて考え込み、
「……悪い、ちょっとその辺ブラついて、頭ン中整理してくる」
言って、ジュンイチはジーナに背を向けた。
「……大丈夫かな……」
ブイリュウが言うと、
「……ブイリュウ、ちょっとジュンイチさんをお願い」
言って、ジーナがブイリュウを下ろす。
「私は、もう一度あの瘴魔獣を探してくるから。
たとえひとりひとりじゃ勝てなくても、私とジュンイチさんで力を合わせれば……」
「……うん。ムリしないでね」
「はい」
「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……?」
「大丈夫だろ」
助手席でつぶやくあずさの言葉に、青木はあっさりと答える。
「お前だって知ってるだろ。
“アイツの身体”のことはさ」
「それは……そうだけど……」
つぶやき、あずさは視線を落とす。
「もし、これがきっかけで、また……」
その言葉に、青木は――答えることができなかった。
「……はぁ……」
病院の屋上で、ジュンイチは街を眺めながら、ひとりため息をついていた。
思い出すのは先ほどの戦いのこと。
「……あの時……昨日ほどの力が出なかった……
無我夢中じゃなかったから……冷静だったせいで、戦いに迷いを持っちまったから……だよな、やっぱ……」
ジュンイチがつぶやくと、
「……ん?」
ふと、屋上の反対側で自分と同じように反対側の街を眺めている女の子に気づいた。
他の患者かと思ったが、どうも元気っぽいし紙袋を持っている。どうやら誰かの見舞いのようだ。
ただ、なんとなくその後ろ姿が寂しそうに見え、気になったジュンイチは女の子に声をかけていた。
「元気ないな。どうしたんだ?」
「え?」
いきなり声をかけられ、女の子はジュンイチを見て――彼の頬の絆創膏に気づいた。
「お兄ちゃん、どうしたの? おケガしたの?」
「あ、いや……昨日の怪獣騒ぎで、ちょっとな……」
ジュンイチが言うと、女の子は笑って、
「そっか。じゃあ、ハルナのパパと同じだ」
「……え?」
「じゃあ……ハルナちゃんのパパも、昨日の怪獣騒ぎでケガしちゃったのか?」
「うん。足の骨が折れちゃって入院してるから、今日はそのお見舞いなの」
話を聞いて聞き返すジュンイチに、女の子――ハルナが答える。
「そっか……大変だな」
ジュンイチが言うが、ハルナは笑って、
「けど、パパが言ってた。
『あの怪物をやっつけてくれたお兄ちゃんがいたから、生きてるんだ』って」
「え……?」
ハルナの言葉に、ジュンイチは一瞬ドキリとした。
その『怪物をやっつけたお兄ちゃん』というのが自分のことだとわかったからである。
「誰かはわかんないけど、ハルナ、お礼が言いたいな。
だって、ハルナのパパ助けてくれたもん!」
「……あぁ。そうだな」
ハルナに答え、ジュンイチは彼女の頭をなでてやり、
「きっと言えるさ。ありがとうって」
「うん!」
「じゃあねぇ!」
「おぅ。またな」
病院の中に戻っていくハルナに答え、ジュンイチは彼女に軽く手を振ってやる。
と、そこへ、
「あ、いたいた」
言って、ブイリュウがパタパタと飛んできた。
「探したよ。病院の中、いくら探してもいないんだもん」
ジュンイチに言い――ブイリュウはふと気づいてジュンイチに尋ねた。
「……ジュンイチ……何かあった?」
「ん?」
「なんか……吹っ切れたみたいな顔してる……」
「……かもな……」
ブイリュウの言葉に、ジュンイチは苦笑して、
「さっきの戦いじゃ、オレ……戦士になりきれなかった……
オレの気持ちがハンパだったから……勝てなかった……
けど……」
と、その時――
ピーッ、ピーッ!
いきなり、ジュンイチは腕のブレスレットがコール音を立てた。
「おぅ、ジュンイチだ」
ジュンイチが応答すると、
〈ジュンイチさん! 街に、また瘴魔獣が!〉
「ジーナ!?」
〈私の能力じゃ、防戦するので精一杯です!
早く――キャアァァァァァッ!〉
「ジーナ! おい、ジーナ!」
ジュンイチがブレスレットに向けて叫ぶが、ジーナの返事はない。
「……くそっ!
ブイリュウ、このブレスで、ジーナの位置は調べられるのか!?」
「うん! 早く行こう!」
「きゃあっ!」
瘴魔獣に投げ飛ばされ、ジーナが壁に叩きつけられる。
そして、ジーナの前に立ちはだかるその瘴魔獣は、先ほどジュンイチと戦った時よりもさらに禍々しい進化を遂げ、背中には素体となったクモを思わせる8本の腕が生えている。
「くっ……! まだです!」
言って、ジーナがかまえると、彼女の手にした扇子が光の粒子となって霧散・再び収束して別の形の扇子となる。
これこそが彼女の精霊器・陸天扇である。
そして、ジーナは陸天扇を広げ、
「たぁっ!」
振り下ろした陸天扇から放たれた“力”を受け、地中から飛び出した石柱が瘴魔獣へと倒れていく。
しかし、瘴魔獣はその石柱を力任せに殴り壊し、続けてその口から吐き放った糸が、ジーナを縛り上げる!
「し、しまった……!」
ジーナが言うと、瘴魔獣は糸を切って自分の手に巻きつけ、
「フンッ、どこのどいつか知らんが、オレのジャマをするからだ」
「しゃべった……!?
もうそこまで成長したっていうんですか!?」
いきなり人の言葉で話し始めた瘴魔獣に、ジーナが驚きの声を上げる。
だが、瘴魔獣はそんな彼女にかまわず、糸を握る手に力を込め、
「さぁ、これで終わりだ!」
言って、ジーナを力任せに振り回し、壁へと投げつける!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
絶叫するジーナが壁へと迫り――
――ブオォンッ!
いきなり飛び込んできたバイクに乗った、フルフェイスのヘルメットをかぶったライダーが、ジーナを受け止める。
「大丈夫か!? ジーナ!」
「……え? あなたは……?」
声をかけるライダーの言葉にジーナが疑問の声を上げると、
「ジーナ、大丈夫!?」
ライダーの後ろにしがみついていたブイリュウがジーナに声をかける。
「ブイリュウ……?
じゃあ……あなたは……」
ジーナの問いに、ライダーはため息をつき、
「ったく、声で気づけっつーの。
オレだよ、オレ!」
言って、ライダーは――ジュンイチはかぶっていたヘルメットを外す。
「ジュンイチさん!」
「ったく、ムチャしやがって……」
声を上げるジーナにうめくと、ジュンイチは彼女を下ろし、
「……今からこんなんじゃ、先が思いやられるな」
「え?
それじゃあ、ジュンイチさん……」
「あぁ。とりあえず引き受けてやるよ。
ただし!」
ジーナの言葉に、ジュンイチは人さし指を突きつけて言い放つ。
「オレは別にブレイカーだからヤツらと戦うワケじゃない――オレの目的のために戦うだけだ。利害の一致ぐらいに思っとけ。
それにお前らとつるむつもりもない。代わりのリーダーが見つかるまでの仮リーダーしか、やるつもりはないからな」
「はい。それでもいいです!
私、うれしいんです。ジュンイチさんが決心してくれて!」
ジュンイチの言葉に、ジーナは満面の笑みを浮かべて答える。
「そ……そりゃ、よかった……」
そんなジーナの心からの笑顔に、ジュンイチが思わず調子を狂わせながら答えると、
「フン、性懲りもなくまた現れたのか」
「どうも、オレの目的果たすにはお前ら、ちょっとジャマっぽいんでね」
瘴魔獣の言葉に答えると、ジュンイチはバイク――ゲイルから降り、
「それにてめぇ、昨日あずさに手ェ出そうとしやがったろ。今だって、オレの知り合いに手ェ出した。
ムカつくんだよ、そーゆーの」
言葉を紡ぐと共に、自分の中で“力”がふくれ上がっていくのがハッキリとわかる。
「オレの身内に手ェ出すヤツらは――誰であろうと叩きつぶす!」
そう宣言し、ジュンイチが瘴魔に対してかまえると、ブイリュウがジュンイチに言う。
「ジュンイチ! “変身するんだ”!
今のジュンイチなら、完全な覚醒ができるはずだよ!」
「おぅ!」
ブイリュウに答え、ジュンイチは腕のブレスレット――ブレイカーブレスをかざした。
「ブレイク、アァップ!」
ジュンイチが叫び、眼前にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
その光は紅蓮の炎となり、ジュンイチの身体を包み込むと人型の龍の姿を形作る。
――ブァッ!
ジュンイチが腕の炎を振り払うと、その腕には炎に映える蒼いプロテクターが装着されている。
同様に、足の炎も振り払い、プロテクターを装着した足がその姿を現す。
そして、背中の龍の翼が自らにまとわりつく炎を吹き飛ばし、さらに羽ばたきによって身体の炎を払い、翼を持ったボディアーマーが現れる。
最後に頭の炎が立ち消え、ヘッドギアを装着したジュンイチが叫ぶ。
「着装――完了!」
「なっ、変身しやがっただと!?
貴様、一体何者だ!?」
瘴魔獣が驚きの声を上げると、ジュンイチは瘴魔獣へと向き直り、
「簡単な話さ。
てめぇを倒す存在だ」
言って、ジュンイチはかまえ、
「紅蓮の炎は勇気の証! 神の翼が魔を払う!
蒼き龍神、ウィング・オブ・ゴッド!」
名乗りを上げると共に見栄を切り、抜き放った木刀が爆天剣へと変化する。
「くっ……貴様、ブレイカーか……!
ならば、となりのお仲間もろとも、この場でまとめて片づけてやる!」
言って、瘴魔獣が糸を吐き放ち――ジュンイチはジーナとブイリュウをつかむと背中の翼を広げ、大空へと飛び立つ!
「ジーナ! ブイリュウを頼む!」
「はい!」
ジュンイチに答え、ジーナはブイリュウを抱えてビルの屋上に下ろしてもらい、
「さぁて、さんざん好き勝手やってくれた借りは、倍にして返してやっぜ!」
言って、ジュンイチは猛スピードで瘴魔獣へと滑空していく!
「ちぃっ! やらせるか!」
瘴魔獣が言い、迎撃すべく糸を立て続けに吐くが、ジュンイチはそれらをすべてかわし、
「反応が遅い!」
素早く間合いを詰め、爆天剣で瘴魔獣に斬りつける!
「ぐあぁっ!
くそっ、やってくれたな!」
言って、瘴魔獣は着地したジュンイチに向けて再び糸を放つが、
「ゴッドウィング!」
ジュンイチのその叫びに呼応し、大きく開いた背中の翼がまるで粘土のようにその形を変える!
そして、一瞬の後には翼は一対のツインショルダーキャノンへと変化し、そこから放たれた精霊の力――精霊力を帯びた火炎が、糸をまとめて焼き払う!
「なっ、なんだと!?」
「残念だったな。
オレの鎧――“装重甲”のメインツール『ゴッドウィング』は、ただ飛ぶだけの翼じゃねぇ――オレのイメージした通りに形を変えてくれる、武器でもあるんだ!
そして――」
言って、ジュンイチは爆天剣をかまえ、
「爆天剣、変幻!」
ジュンイチが叫んで爆天剣を振るうと、その刀身もゴッドウィングと同様に変化。ムチとなって瘴魔獣に巻きつく!
「この爆天剣も、ご覧の通りさ!
これでもくらえ!」
言って、ジュンイチが肩のキャノンをかまえ、瘴魔獣に向けて、特大の精霊力弾を撃ち込む!
「ば、バカな……! 覚醒したてのくせに、このパワーは一体……!?」
「へっ、てめぇなんぞとは、気合が違うんだよ! 気合が!」
瘴魔獣に言い返し、ジュンイチは爆天剣を元に戻し、
「爆天剣、変幻!」
再び変化させ、今度は刀身が開き、柄の部分にトリガーが現れてビームガンとなる。
そして、ジュンイチはそれを瘴魔獣に向けてかまえ、
「名づけて――マトリクス・ライフル!」
放たれたビームの雨が、瘴魔獣を直撃する!
「よぅし! とどめだ!」
「ウィング、ディバイダー!」
ジュンイチが叫び、ゴッドウィングがキャノン形態に変形、さらに両バレル内側の装甲が展開され、一対の反応エネルギー砲となる。
そして、ジュンイチは銃口を瘴魔獣に向け、
「ウィングディバイダー、チャージ!」
ジュンイチの叫びと同時、ウィングディバイダーの放熱デバイスがすべて開放、精霊力を攻撃エネルギーに変換、さらに高出力に収束していく。
そして、ジュンイチは両キャノンの下部にセットされたトリガーを握り、
「ゼロブラック――Fire!」
叫ぶと同時にトリガーを引き、
ズドゴォッ!
放たれた閃光が、瘴魔獣を直撃する!
そして、瘴魔獣の身体に“封魔の印”が浮かび、
ズドゴォォォォォンッ!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
大爆発を起こし、瘴魔獣は断末魔と共に四散した。
「やりましたね、ジュンイチさん!」
「へへ、ざっとこんなもんだぜ!」
言って、ブイリュウと共に駆け寄ってくるジーナに、ジュンイチは親指を立てて答える。
が――
〈――まだだ……!〉
『――!?』
いきなり聞こえた瘴魔獣の声に、ジュンイチ達は思わず身構える。
〈――まだだ……!
この街の負の念さえあれば……まだ、蘇ることが……!〉
「あのヤロー、また復活するつもりなのか……!?」
「けど、完全な“封魔の印”を受けても自我を保っていられるなんて……!」
瘴魔獣の言葉にジュンイチとジーナが言うと、
〈もう……自我などいらない……!
ただの野獣となってでも、お前らだケは始末シてヤル! ソシテ、スベテヲ破壊シ尽クシテヤル!〉
その言葉と同時――すさまじい負の思念のエネルギーが、虚空の一点に収束していく!
「あそこか!
くそっ、復活なんてさせてたまるか!」
言って、ジュンイチが爆天剣から炎の波動を放つが、
――ズヴァアッ!
負の思念のパワーに力負けし、波動が吹き散らされる!
そして、
「グワオォォォォォッ!」
咆哮し、瘴魔獣が巨大な姿となって蘇る!
「ま、マジかよ!?
スーパー戦隊シリーズじゃあるまいし、あんなのアリか!?」
ジュンイチが言うと、瘴魔獣が彼らに向き直り、
「グワオォォォォォッ!」
ズガァッ!
『ぅわぁっ!』
瘴魔獣の振り下ろした拳を、ジュンイチ達はあわてて散開してかわす。
「くそっ、調子ン乗ってんじゃねぇぞ!」
言って、ジュンイチは瘴魔獣の顔面めがけて飛び、
「これでも、くらいやがれ!」
その顔面に、炎の波動を叩き込む!
「どうだ! 風穴開けてやったぜ!」
ジュンイチがガッツポーズを決めて言い――煙が晴れた後、瘴魔獣の顔はといえば、頬にちょこっと傷ができただけ。
「……できたね、ちょこっとだけ……」
呆然とジュンイチがつぶやき――瘴魔獣がジュンイチに向けて糸を吐き放つ!
「ぅわぁっ! あぶねぇ!」
あわてて、ジュンイチはゴッドウィングから炎を放ち、自分に襲いかかる糸を焼き払うが、
――ズガァッ!
「ぅわぁっ!」
瘴魔獣の振り下ろした拳の直撃を受け、ジュンイチが吹っ飛ばされる!
「くっ、くそぉっ!」
とっさにジュンイチは空中で体勢を立て直すが、そこへ瘴魔獣の放った第2撃が迫り――
ドオォンッ!
いきなりの爆発を受け、瘴魔獣はたまらず後ずさる。
「なんだ!?」
ジュンイチが声を上げると、飛来した戦闘機の編隊が瘴魔獣に向けて攻撃を開始する。
「ありゃ、自衛隊のF-15V……!?
昨日の今日で、警戒してやがったのか……!?」
ジュンイチがつぶやく間にも、自衛隊機は次々に瘴魔獣に攻撃をかけるが、瘴魔獣は何もせずとも力場でその攻撃を防いでおり、衝撃で少しフラつく、くらいのダメージしか受けてはいないようだ。とはいえ、瘴魔獣の方も糸を放っても当てられず、お互いに決め手を欠いていた。
が――均衡は意外な形で崩された。
――ドォンッ!
突然飛来したミサイルが、瘴魔獣の背後からその力場を叩いたのだ。
「――何だ!?」
ジュンイチが声を上げると、それは周囲を飛び回る自衛隊機にもかまわずに戦場に飛び込んできた。
米軍仕様のF-15Vである。
「在日米軍!?
なんつー機動してやがる! あれじゃ自衛隊とお互いジャマじゃねぇか!」
ジュンイチの言う通り、それまで瘴魔獣と五分の状況だった自衛隊は米軍の突然の介入によって完全にフォーメーションを乱されていた。米軍機もろとも、瘴魔獣の放つ糸に絡み取られ、次々に撃墜されていく。
「くそぉっ! やめやがれ!」
言って、ジュンイチは再び瘴魔獣へと突っ込むが、瘴魔獣は自衛隊や米軍と戦いながらも、当面の脅威だったジュンイチへの警戒を怠ってはいなかった。
逆に、瘴魔獣の振り下ろした拳がジュンイチを再び地面に叩き落す!
人々がすでに逃げ去り、無人となった街中を、一台の車が疾走している。
その行く先はなんと、瘴魔獣と自衛隊・米軍連合とジュンイチが戦っている現場である。
普通に考えれば、狂気の沙汰としか思えないだろう。しかし、その車はかまわず現場へと向かう。
なぜか? 答えは簡単だ。
そここそが、その車に乗る男の職場だったからだ。
と、そこへ備え付けの無線がコール音を立てた。
「はい」
〈博士ですか?
UC02は現在、自衛隊、及び米軍と交戦状態にあります。
なるべくムチャはしないでください〉
「心配してくれてありがとう。気をつけるとしよう」
言って、男は通信を切り、再び運転に集中した。
もう、何度目になるだろう。
ジュンイチがまたしても瘴魔獣に迎撃され、ビルの壁に叩きつけられる。
「ジュンイチさん!」
声を上げ、ジーナがあわてて大地に落下したジュンイチに駆け寄り、
「ジュンイチさん、一旦引きましょう!
今の私達じゃ、あいつに対抗することは……!」
「そうだよ! 勝ち目ないって!」
ジーナとブイリュウが起き上がったジュンイチに言うが、ジュンイチはそこから動こうとしない。
「ジュンイチさん!」
ジーナがさらに言うと、
「……何が、精霊の“力”だよ……!」
うつむいて、ジュンイチが静かにつぶやく。
「せっかくあいつを倒しても、巨大化されたとたんにまた役立たずじゃねぇか……!
こんな役に立たない“力”なんていらねぇよ……!」
つぶやき――ジュンイチは拳を強く握り締める。
その脳裏に、また“あの時”の光景がよぎった。
「あんなことを二度と起こさせないために……そのために戦う、そう決めたんだ……!
“アイツら”を叩きつぶすまで……負けられないんだ……!」
そんなジュンイチへと、瘴魔獣はゆっくりと向き直る。
「オレの力が欲しいなら……オレを見出したっつーなら……!」
そして、瘴魔獣が糸を吐くべく身をそらし――
「……とっとと起きて力貸せ、ゴッドドラゴン!」
ジュンイチの叫びが響き渡った、次の瞬間――突然、ブイリュウがその身体から光を放つ!
『――――――!?』
ジュンイチ達が、そして瘴魔獣もそれを見て驚き――世界が真紅の輝きに包まれた。
突然ジュンイチの背後の地中から火球が飛び出し、瘴魔獣を直撃したのだ。
しかも、その炎はただの炎ではない。ジュンイチの操る炎と同じ、精霊力を帯びている。
さすがにこれは不意討ちだったこともあり、瘴魔獣にかなりのダメージを与えたようだ。瘴魔獣はバランスをまともに崩し、背後のビルへと倒れ込む。
「なっ、なんだ……!?」
ジュンイチが火球が背後に作り出した穴を見てつぶやくと、
ゴゴゴゴゴ……!
突如、大地が鳴動した。
そして、
ドゴォッ!
轟音と共に、地中から巨大な“何か”が出現する!
「あっ、アレは……」
ジーナが呆然とつぶやくと、
「グァオォォォォォンッ!」
咆哮と共に、土煙の中からそれは出現した。
全身にブルーのカラーリングで統一された、1体のドラゴン型の巨大ロボである。
「ようやくお目覚めか、このネボスケ」
それを――大地を踏みしめて立ち上がったゴッドドラゴンの姿を見上げてジュンイチがつぶやくと、
「グガァァァァァッ!」
咆哮し、崩れたビルのガレキの中から瘴魔獣が立ち上がる!
そして瘴魔獣は、次なる目標にゴッドドラゴンを選び、一直線に突っ込んでくる!
「ヤバい! よけろ、ゴッドドラゴン!」
ジュンイチが叫ぶと、その言葉を受けてゴッドドラゴンは上空へ飛んで突撃をかわす。
と――ジュンイチの脳裏に声が響いた。
いや、声というのは正確ではない。声ではないが、明確な意思のような、イメージのようなものがジュンイチの脳裏に流れ込んできたのだ。
そして、ジュンイチはそのイメージの主が誰か、考えるまでもなく悟っていた。
「来いって言ってるのか? ゴッドドラゴン……
……上等だ! 付き合ってやるぜ!」
言って、ジュンイチは背中の翼で飛び立ち、ゴッドドラゴンへと飛ぶ。
それに対し、ゴッドドラゴンも頭部のハッチを開き、そこに現れたコックピットにジュンイチを招き入れる。
そして、ジュンイチはコックピットシートに座り、両サイドのクリスタルに手をかける。
と、そこからジュンイチのイメージを読み取り、コックピットの各システムが起動し、
「グァオォォォォォンッ!」
頭部のハッチを閉じ、ゴッドドラゴンが力強く咆哮する。
「いけぇっ! ゴッドドラゴン!」
ジュンイチが咆哮し、
――ドンッ!
ゴッドドラゴンが弾丸のように加速し、瘴魔獣へと突っ込む。
それに対して、瘴魔獣も迎え撃つべく重心を落とすが――
「それが……どうしたぁっ!」
ゴッドドラゴンは瘴魔獣の体重などまるで意に介さず、圧倒的パワーで押し返す!
そして、ゴッドドラゴンが瘴魔獣を空高く投げ飛ばし、
「くらえぇっ!」
後を追って急上昇。繰り出した拳が落下してきた瘴魔獣の顔面に叩き込まれる。
「まだまだぁっ!」
続いて、反対の腕で裏拳を打ち込み、瘴魔獣は頭から地面に突っ込む。
ゴッドドラゴンの攻撃は、力場を易々と貫き瘴魔獣にダメージを与えている。覚醒したジュンイチの瘴魔獣への攻撃が有功だったように、ゴッドドラゴンの攻撃もまた、瘴魔獣の力場を自身の精霊力で中和しているのだ。
「とどめだ! ゴッドドラゴン!」
ジュンイチが叫び、ゴッドドラゴンはヨロヨロと立ち上がる瘴魔獣の前へと着地し、
「ドラゴン、ブラスト!」
ジュンイチの咆哮と同時――ゴッドドラゴンの吐き放った火球が、瘴魔獣を直撃する!
そして、瘴魔獣の胸に“封魔の印”が生まれ、
ドガオォォォォォンッ!
大爆発を起こし、瘴魔獣は今度こそ完全に消滅した。
「……ありがとな、ゴッドドラゴン♪」
自分の肩の上に降りて礼を言ってくるジュンイチに、ゴッドドラゴンは静かにうなずいてみせる。
と、
「ジュンイチさん!」
言って、ジーナがゴッドドラゴンの足元に駆け寄ってくる。
「やりましたね、ジュンイチさん」
「オレがやったワケじゃねぇよ。
ゴッドドラゴンがいてくれたから、勝てたんだ」
自分のところまで登ってきて言うジーナにジュンイチが答えると、
「そうでもないよ」
言って、ブイリュウが二人のところへ飛んでくる。
「ジュンイチの強い意志があったからこそ、オイラを通じてその意志を感じたゴッドドラゴンは目覚めることができたんだ。
だから、これはまぎれもなく、ジュンイチの力の勝利だよ」
「そーゆーもんか?」
「そーゆーもんなの」
聞き返すジュンイチの言葉に、ブイリュウは彼の口調をまねて、少しおどけて答えてみせる。
「ま、それはともかく、これからよろしくな、ジーナ」
気を取り直してジュンイチが言うと、ジーナはなぜか突然バツが悪そうにうつむく。
「あのー、そのことなんですけど……」
「……?」
――キキッ。
音を立て、戦いが終わりゴッドドラゴンが佇むのを眺められる位置に一台の車が停車した。
さっき、戦場に向けて疾走していたあの車である。
「あれが、UC02を倒した、三体目のUCか……」
つぶやき、運転席の男は窓を開け、ゴッドドラゴンを見た。
「……あんなロボットを、いったい誰が作っていたんだ……!?」
男がつぶやき――ゴッドドラゴンの肩の上に立つ少年の姿に気づいた。
「少年……?」
つぶやき、男は目をこらしてその少年を見つめ――顔色を変えた。
(……間違いない……
しかし……なぜ、ジュンイチがあそこにいる……?)
「………………」
ジュンイチは、目の前の光景に思わず頭を抱えたくなっていた。
いや、すでに気疲れから来る頭痛がジュンイチの頭をガンガンと痛めつけていたりするし、胃も見えないボディブローを確実にガスガスともらっているのは間違いない。
自宅で座る夕食のテーブル。それはいい。
自分の向かいの席で中央の皿に盛り付けられたコンビニ弁当の唐揚げを自分の皿に移すあずさ。これもいつものことだ。
問題は――二人の間であずさと同じように夕食を楽しむジーナとブイリュウの存在である。
「……あのさぁ、ジーナ……」
「はい?」
「……未だ状況を納得できずにいるおバカなオレのために、もう1回こういう状況になった理由を説明してもらいたいんだが……」
何事もなかったかのように聞き返すジーナに、ジュンイチはますます頭痛がひどくなるのをハッキリと自覚しながら言う。
とたん、ジーナはまたさっきのバツの悪そうな顔に戻り、
「だから……今まで駅前のホテルで寝泊りしてたんですけど、さすがに予算も底が見えそうだったので、ここに置いてもらえたら、って……」
つまり、「路銀がなくなったからここに居候させてくれ」というワケである。
年頃な男女である以上、ジュンイチも理性的な面から一度は反対したものの、純粋に潤んだ瞳でジーナに懇願され、成すすべなく防衛線は陥落したのだった。
「ったく、なんでこーなるんだよぉ……
うぅ、若いうちから胃が痛いなんて……」
ジーナの言葉にジュンイチが涙ながらにつぶやくと、ブイリュウがそんなジュンイチに言った。
「ま、いいじゃん。どうせオイラはここに居座るつもりだったし」
そのブイリュウのストレートな一言は、ジュンイチの胃に見事なKO決定打を叩き込んだのだった。
Next "Brave Elements BREAKER"――
「お、親父!?」
「やはり家にいたか……」
「そうか……ではやはり、お前がUC03か」
「オレ達にしかできないんなら、オレ達がやるしかないだろ」
「……“あんなこと”を、二度と起こさないために、か……」
「まさか……また出たってのか!?」
「もしかしたら……私達の思っている以上に、瘴魔を生み出す負の思念が増大しているのかもしれません……」
「くっそぉ……! チョコマカチョコマカ、うっとぉしいんだよ!」
Legend03「家族」
そして、伝説は紡がれる――
(初版:2001/12/21)
(第4版:2005/04/03)