Legend03
「家族」

 


 

 

 東京・府中市。
 その一角に、ジュンイチとあずさが暮らし、先日ジーナとブイリュウが転がり込んだ自宅があった。

 ――ムクッ。
 窓から朝日の光が差し込み、スズメの鳴き声が聞こえる中、ジュンイチは自室のベッドの上で身を起こした。
 その顔はいつもの明るさやら元気やらはまったく感じられない。どう控えめに見ても完璧に寝ボケている。
 寝ぼけ眼で窓の外を見て、本日の天気が晴れであることを確認すると今度は室内へと視線を戻す。
 いつも通りの自分の部屋である。
 壁中アニメのポスターが埋め尽くし、スペースが足りずに天井から数枚垂れ下がっていたりもする。
 本棚の中はまともかと思えばそうでもなく、アニメのムックやらアニメ雑誌やら、DVDなどがズラリと並んでいる。
 そして棚の上は子供向けのロボットの超合金のおもちゃやロボットアニメのプラモデルで埋め尽くされており、その中には街で見かけて半ば衝動的に入手した小動物のぬいぐるみも混じっている。
 常人には理解しがたいセンスだが――それでもいつも通りの自分の部屋だ。
 ブイリュウの姿はない。部屋のすみに作った専用のベッドにはいないから、どこかに出かけているのかもしれない。
「ふわぁ〜ぁ……」
 2階の洗面所で洗顔を済ませ、それでもあくびまじりにジュンイチが1階のリビングに降りてくると、すでにあずさがテレビのニュースに見入っていた。
「よっ、あずさ。おはよう」
「『おはよう』じゃないよ。日曜だからって寝すぎだよ」
「悪い悪い。すぐメシ作るからさ」
 文句を言うあずさにジュンイチが言うが、その後のあずさの反応はジュンイチの予想に反したものだった。
「いい。もう食べたから」
「え……?」
 あずさの答えに、ジュンイチは思わず眉をひそめた。
「まさか……お前、自分で何か作ったのか?」
「ンなワケないでしょ。
 お兄ちゃん、あたしの料理の腕知ってるでしょ?」
 そう。いつも家事に追われているジュンイチと違い、彼に任せっぱなしになっているあずさの家事能力はハッキリ言って低い。特に料理の腕は壊滅的と言い切っても差し支えはないだろう。
 現に、以前ジュンイチが家事をあずさに任せて泊りがけで遊びに行った時、帰ってきたジュンイチが見たのは腐海の森と化した我が家の台所だった、ということがあったぐらいである。
 それゆえ、ジュンイチは常々あずさには台所に立たないよう言い聞かせていた。
「じゃあ……誰が朝メシ作ったってんだよ?」
 ジュンイチが尋ねると、
「あ、私です」
 言って、台所から顔を出してきたのはジーナである。
「ジーナが……?」
「ごめんなさい、勝手に台所に立っちゃって……
 けどジュンイチさん、押しても叩いてもあずさちゃんがくすぐっても、ちっとも起きてくれなかったので……」
「あ、あぁ、すまねぇな。
 なんかもう、生まれて初めて『体力消耗した』って感じでさ。
 あれから数日経つってのに、未だに疲れが残ってるときたもんだ」
 ジーナの言葉に、ジュンイチはため息まじりに答える。
「じゃあ、オレも朝メシにすっかな」
「あ、すぐ用意しますね。
 ちゃんとジュンイチさんの分も作ってありますから♪」
 ジュンイチの言葉にそう答えると、ジーナはパタパタと台所に消えていった。
「……なんか、新婚の会話だったな、今……」
 今の会話の内容を思い返してジュンイチがつぶやくと、あずさは思わずため息をつき、
「もう、お兄ちゃんってば気楽すぎ。この前さんざんだったっていうのに、もう立ち直っちゃって。
 あのバケモノ達は強くなってるしお兄ちゃんはなんか変身しちゃうし、その上巨大化に巨大ロボットだよ。
 ねぇ、大丈夫なの? あんなことになっちゃって」
「ま、いいんじゃねぇの?
 あれ以上人が死ぬこともなくなったし、オレ達だってこうして生きてんだからさ」
 あくまで結果オーライなジュンイチの言動に、あずさはもうため息をつき続けるくらいしかリアクションを思いつけないでいた。

「じゃあ、ジュンイチさん達って、ご両親と同居してないんですか?」
「あぁ。母さんは世界中でボランティアに回ってるし、親父は冒険家兼科学者。
 どっちもめったに家には戻ってこないんだ。
 親父は……半月くらい前に戻ってきたから、もうしばらくは戻ってこないと思うぜ」
 食後にジーナが煎れてくれた紅茶を飲みながら、ジュンイチはジーナの問いに説明する。
「かく言うオレも、ガキの頃からあっちこっち行ってたしな」
「へぇ……すごいんですね……」
 ジュンイチの言葉にジーナが納得すると、あずさがジュンイチに尋ねる。
「ねぇ、お兄ちゃん。
 あのバケモノはもういないんだし、もうあんなことしなくてもいいんでしょ?」
「んー、そうなればいいんだけど、難しいだろうな。
 ジーナの話じゃ、瘴魔の出現は、このところずいぶんと頻発してるみたいだし」
 ジュンイチがあずさに言うと、となりでジーナがうなずき、
「えぇ。それも、その能力もどんどんと強くなってきています。
 たぶん、これからも瘴魔は次々に現れてくると思います……」
「そんなぁ……」
 あずさが言うと、ジーナは彼女の悲しげな表情を見てあわてて言いつくろう。
「だ、大丈夫ですよ。
 たとえ出たとしても、ジュンイチさん、戦い方わかってきましたから、この間みたいな危険な戦いにはなりませんよ」
「そうなら、いいんだけど……」
 ジーナの言葉に、あずさはしぶしぶうなずいて言った。

 その頃、街中を一目で米軍の払い下げとわかる、ボロボロのジープが走っていた。
 そしてそのシートに座っているのは、先日の戦いで現場に現れたあの男である。
 だがあの時乗っていたのはもっとしっかりした四駆だった。おそらく仕事とプライベートでは車を使い分けているのだろう。
 やがてジープは住宅街へとさしかかり、一軒の家の前で停車した。
「……さて、私の思い違いであってくれればいいんだが……」
 意味深げにそう言うと、男はジープから降り、その家の門をくぐった。
 そしてその門には――『柾木』と書かれた表札がかかっていた。

「ところで、ブレイカーってのはオレとお前、それとお前の仲間の他にもいるのか?」
「えぇ。精霊の転生は世界中にいるらしいので」
 ジュンイチの問いに、ジーナは新聞に大きく取り上げられた先日の戦いの事後処理の記事から顔を上げて答える。
「もちろん、私達のようにブレイカービーストに見出された人は少ないでしょうけど……少なくとも、私達の仲間はあと3人」
「3人……?」
 あずさが聞き返すと、
「ただいまぁー」
 玄関から声がして――
 ――ぴしっ。
 ジュンイチとあずさはその姿勢のまま凍りついた。
 別に声に心当たりがないワケではない。むしろそこらの知り合いよりも知った声だ。しかし――
 ――あまりにもこのタイミングでの登場が意外な人物の声だった。
「……まさか!?」
 ジュンイチがあわてて立ち上がると、
「おい、ジュンイチ、いるか?」
 言って、リビングにさっきのジープの男が入ってきた。
「お、親父!?」
「やはり家にいたか……」
 声を上げるジュンイチに、男――ジュンイチとあずさの父、柾木龍牙はため息まじりにつぶやく。
「なんだよ、こないだ帰ってきたばかりじゃんか」
「日本であんなことがあったんだ。一軍事科学者として、現場に居合わせたいと思うのは悪いことか?
 それに、今回のことで自衛隊からも召喚を受けたんだ」
 さっきジュンイチの語った通り、龍牙は冒険家と科学者をかけ持ちしている。そしてその研究分野は――軍事技術に関してなのだ。
 といっても別に兵器開発に携わっているワケではない。冒険家としての性も活かし、対象の兵器が使われた現場を調査、その欠点を見つけ、解決策を模索することで、誤爆による犠牲者をなくそうとしているのである。
 おそらく、今回の早すぎる帰国も、自衛隊に呼ばれたからというより、瘴魔獣やそれとの戦いによる自衛隊の兵器の有効性、そして――ブレイカービーストの調査が目的なのだろう。
 案の定、次に龍牙が発したのは、ジュンイチがもっとも恐れていた質問だった。
「そして……そのことでお前に聞きたいことがある」
(やっぱり……あの戦い、見てたのかよ……)
 思わずジュンイチが胸中でつぶやき――そこで龍牙は息をつき、
「だが、その前に……」
「……?」
 怪訝な顔で視線を送るジュンイチに、龍牙はジーナを指さし、
「そこで展開についていけないでいる、彼女の紹介をしてもらいたいんだが……」
「え? あぁ……
 この娘はジーナ・ハイングラム。オレのクラスの転校生なんだけど、ちょっとワケがあってオレんちに居候することになったんだ」
 ジュンイチが龍牙に言うと、
「……ハイングラム……?」
 龍牙はその名を聞いて眉をひそめた。
「…………? 親父?」
 ジュンイチが声をかけると、龍牙は言った。
「……いや、なんでもない。
 ちょっと知ってる苗字だったんでな」
 その言葉に、ジュンイチは首を傾げ――ジーナは龍牙の考えが読めたのか、思わず苦笑をもらしていた。

 その頃――
「はぁ……はぁ……っ!」
 息を切らせて、男は路地裏へと逃げ込んだ。
 その顔に平常心は見られない。完全に恐怖で怯えきっている。
「こ、ここまで来れば……!」
 恐る恐る外の様子を見て、男がつぶやき――
 ――スタッ。
 背後に“そいつ”が着地し――男がそれに気づいて絶叫した。

「私のカン違いなら忘れてくれ。
 お前は昨日……」
「あぁ。ゴッ……いや、青い龍のロボットに乗って、あのバケモノどもと戦ったよ」
 龍牙の問いに、ジュンイチは素直に答える。
 どうせ隠していてもいずれはバレる。なら、ヘタに取り繕うよりは素直に話した方がマシだというのが、ジュンイチの判断だった。
「そうか……ではやはり、お前がUC03か」
「UC……?」
Unknownアンノウン Categoryカテゴリー……ちょっと意訳になるが『未確認的存在』ってとこかな」
 龍牙に聞き返すあずさに、ジュンイチが説明する。
「にしても、オレ達までヤツらと十把一絡げにされてんのかよ……
 正直、あんまいい気はしないな……」
 うめくジュンイチに、龍牙は次の質問を投げかけた。
「なぜ、そんなことになった?」
「いや、なりゆきって言うか……」
 龍牙の問いに、ジュンイチはうめいてチラリとジーナの方を見る。
 彼の言わんとしていることに気づき、ジーナは息をついて龍牙へと口を開いた。
「それは、私が説明します。
 あずささんにも詳しい説明をしていませんし、ジュンイチさんにも、これを機会にまだ話していないことを説明したいので」
 ジーナの言葉にうなずき、龍牙は記録を取るべく録音可能のMDウォークマンを取り出した。
 録音スイッチを入れ、うなずいてみせる龍牙にうなずき返し、ジーナは説明を始めた。
「ジュンイチさんは、炎の精霊が転生を繰り返し、現代に蘇った存在……私達の隠語で言う、『ブレイカー』なんです」
「ブレイカー……?」
「えぇ。そして私は、大地の精霊の転生した、大地のブレイカーです。
 そして戦っていた怪物達は瘴魔といい、人々の負の思念が吹き溜まって、形を得たものなんです。
 私達ブレイカーズの使命は、瘴魔に限らず、様々な闇の存在――闇の種族ダーク・トライヴと戦い、影から人類を守護することなんです」
 ジーナが言うと、龍牙は腕組みして少し考え、
「今の話から察すれば、そのブレイカーと呼ばれる存在はキミ達だけではあるまい。
 他のブレイカー達はどこでどうしているんだ?」
「えっと……今のところ私が知っているのはあと3人。
 瘴魔がどんどん強くなっているので、自分達のブレイカービースト――昨日ジュンイチさんが乗ったロボットのことを言うんですが――それを探して日本各地に散っています。
 ホントは私も、自分のブレイカービーストを探しに行かないといけないんですけど……」
「……あ、もしかして、オレを探すのを優先しちまったのか?」
 話を聞いて思わず尋ねるジュンイチに、ジーナはコクリとうなずく。
「そっか……悪いことしちまったな……」
 腕組みしてジュンイチがつぶやくと、龍牙がジュンイチに尋ねた。
「お前に戦う力があるのはわかった。
 だが……なぜそんな軽率なことをした?
 人を超えた力がどんな“結果”を及ぼすか、お前も知っているはずだ」
 龍牙の“結果”という言葉に、ジュンイチの肩がピクリと震える。
 どうやら、その単語の意味するものは、ジュンイチにとってかなり重大なもののようだ。
 だが、ジュンイチはしばしの沈黙の後に龍牙に言った。
「……ジーナに言われたからとか、ブレイカーだからとかじゃない……瘴魔を放っておけない、瘴魔を許しちゃおけないって、オレ自身がそう思ったから戦うんだ。
 オレ達にしかできないんなら、オレ達がやるしかないだろ」
「……“あんなこと”を、二度と起こさないために、か……」
 ジュンイチの言葉に、ジュンイチはコクリとうなずいてみせる。
「……そうか……」
 龍牙がつぶやき、二人はそれっきり黙り込んでしまった。

 そして、街では――
「ひぃっ……ひぃっ……!」
 ひとりの浮浪者が路地裏を必死に走り回っている。
 その表情は、さっき何かから逃げていた男と同じように、恐怖に染まっていた。
 そして、その浮浪者は行く手に積んであった段ボール箱の影に隠れ、後ろの様子を探った。
 ――そこに、動く物の気配はない。
 何も追いかけてこないことを知ってか、浮浪者は安心しかけるが、
 ドガァッ!
 突如、何かが舞い降り、浮浪者の背に蹴りを入れる。
 さらに、そいつは浮浪者を何発も殴ったり蹴ったりしていたが、やがてそれに満足したのか、浮浪者をつかんで大きく飛び上がる。
 そして、浮浪者が持っていた荷物が地面に落ち、
「……ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
 浮浪者が地面に激突し――その周囲が赤く染まった。
 その様子を見て、ビルの上に着地した謎の存在は満足げにうなずくとその場を立ち去っていった。

「……で、3人して逃げてきたってのか?」
「だってぇ……」
 あきれてつぶやく青木に、煎れてもらった麦茶を飲みながらあずさが言う。
 あずさとジーナ、そして散歩から戻ったブイリュウの3人(二人と1匹?)は、ジュンイチと龍牙の放つ重苦しい空気に耐えかね、たまらず青木のアパートへと逃げてきたのである。
「そんなこと言うんなら、青木さんもあの空気の中に入ってみてよ。
 まったく、“あの話題”になるといっつもアレなんだもん。ヤんなっちゃうよ」
「残念。すでに味わったことがあるからゴメンだよ」
 青木があずさに答えると、ブイリュウとジーナは顔を見合わせ、
「あのぉ……」
「“あの話題”って、何?」
 その問いに、青木とあずさは思わず眉をひそめて黙り込んで見せた。
 知らないから、というワケではなさそうだ。明らかに、別の理由から答えをためらっている。
「……青木さん?」
 ジーナが声をかけ――
 ――ゾクッ!
 その背筋を悪寒が駆け抜けた。
「……まさか、また!?
 そんな……こんなに立て続けに出るなんて!?」
 言って、ジーナはあわてて窓を開け、ベランダに出ると精神を集中させる。
「――間違いない!
 ブイリュウ、行きましょう!」
「えぇっ!? だって、昨日の今日でしょ!?」
 ジーナに言われ、ブイリュウは驚いて声を上げる。
 そんな二人の会話に、青木とあずさは顔を見合わせ――気づいた青木がジーナに声をかけた。
「まさか……また出たってのか!?」
「たぶん。そうです。
 ブイリュウの言う通り昨日の今日。それに瘴魔獣が巨大化するほどの負のエネルギーが消費されたワケですから、しばらくは出ないと思ってたんですが……」
 青木に答え、ジーナは少し考えて、
「けど、もしかしたら……」
「……もしかしたら?」
 あずさがジーナに聞き返すと、ジーナは言った。
「もしかしたら……私達の思っている以上に、瘴魔を生み出す負の思念が増大しているのかもしれません……」

 ともかく、ジーナ達はあずさをひとまず自宅に帰らせ、青木の車に乗せてもらって現場へと向かった。
「ジュンイチさん、聞こえますか!?」
 青木の車の助手席で、ジーナがブレイカーブレスに向けて叫ぶと、
〈しっかり聞こえてるよ!〉
 ジュンイチの声がそれに答える。
 エンジン音が聞こえる。どうやらゲイルに乗って、ヘルメットに仕込んだインカムで話しているらしい。
〈瘴魔が出たって言うんだろ!?
 オレも今向かってる! 板橋区で合流だ!〉
「板橋?
 前の2体はこの府中に出たってのに、いきなり飛んだな……」
 ジュンイチの言葉に青木が答えると、ジーナが首をかしげ、
「けどジュンイチさん、私も感じたんですけど、だいたいの位置しかわかりませんでしたよ。
 なのに、どうしてそんなに断言できるんですか?」
〈警察無線を盗聴した!〉
「……犯罪ですよ、それって……」
「まぁ、あいつのゲイルはいろいろと特別だからな」
 ジュンイチの言葉にうめくジーナにそう答えると、青木がジーナのブレスに向かって言う。
「で? 板橋だって言った根拠は?」
〈警察無線から目撃情報を統合すると、ヤツは荒川区から始まって、目撃された場所が北区を経て板橋区の方に移動してる。
 少なくともオレの今の位置からなら、板橋区内で追いつけるはずだ。
 足止めしとくから、お前らは周りの人達の避難を手伝ってからこっち来てくれ!〉
「わかりました。じゃあ、私達も向かいます」
 青木に答えるジュンイチに、ジーナが地図を取り出して言う。ちなみに、それが東京にきた直後、道がわからず本屋に駆け込んで買った地図なのはご愛嬌というヤツである。
「けど、連日出現してくることなんて今までにありませんでした。
 それに、昨日の瘴魔獣のことを考えると、今回もまた瘴魔獣クラスの敵かもしれません。十分に注意してください!」

「はいはい。わかったよ。
 んじゃ、加速すっから通信切るからな」
 ジーナに答え、ジュンイチは通信を切ると、ゲイルを加速させる。
「よっしゃ、んじゃ、いっちょいくか!」
 言って、ジュンイチは右手のブレイカーブレスを眼前にかまえ、
「ブレイク、アァップ!」
 ジュンイチが叫び、ブレイカーブレスが光を放つ。
 その光は紅蓮の炎となり、ジュンイチの身体とゲイルを包み込む。
 ――ブァッ!
 そして、その中から飛び出したジュンイチは装重甲メタル・ブレストを装着し――ゲイルも、分離したゴッドウィングが変化・装着され、青いリアウィングを持つ別のバイクへと変化していた。
「あらら……ゲイルも変化してやがる……
 名づけるなら、ゴッドゲイル……いやいや、それじゃ芸がない……ゴッドセクターってトコか……」
 つぶやき、ジュンイチはグリップを握り直し、
「んじゃ――いこうか、ゴッドセクター!」

 一方、問題の瘴魔獣は、駆けつけた警官隊と交戦していた。
 ――いや、交戦などという次元の問題ではない。瘴魔獣による一方的な殺戮だった。
 拳銃はまったく効かず、逆に瘴魔獣に捕まり、次々に殺されていく。
 しかも、その方法もまた残虐なものだった。
 一撃で殺せる腕力があるにも関わらず、ジワジワといたぶった後、持ち前のジャンプ力で空高く跳び、そこから自らが落下する勢いも加えて地面に叩きつけて殺しているのだ。
 その残虐性による恐怖から、警官達ももはや戦意を喪失し始めていた。
「へっ、どうしたどうした! もっと骨のあるヤツはいないのか!」
 言って、瘴魔獣がそんな警官達へと迫り――
「やめろぉっ!」
「――!?」
 そこへ、突っ込んで来たジュンイチのゴッドセクターが間に割って入る。
 そして、ジュンイチがゴッドセクターから降りると、ゴッドウィングも分離してジュンイチの背中に戻り、ゴッドセクターは元のゲイルに戻った。
「……てめぇ……好き勝手やってたみたいじゃねぇか!」
 周囲に累々と横たわる、変わり果てた警官達の死体を見て言い、ジュンイチは怒気を含んだ視線を瘴魔獣に向ける。
 しかし、瘴魔獣はそんなジュンイチを見てニヤニヤと笑って、
「ったく、ようやくブレイカーのお出ましか。
 あれだけたくさん殺してやったんだ。もうちょっと早く来ると思ってたんだがなぁ」
「……ンだと……?」
 瘴魔獣のその言葉に、ジュンイチの表情が険しさを増した。
「するってぇと何か……?
 てめぇは……オレを誘い出すために……それだけのために、これだけ人を殺しまくったってのかよ!?」
「そうだと言ったら?」
 あっさりと瘴魔獣がジュンイチに答え――その一言で、ジュンイチの戦意は最高潮にまで高まった。
「ンなもん、決まってる……
 ここで確実に、ブッ倒してやるぜ!」
 言って、ジュンイチが突っ込み、拳を繰り出すが、
「おっと」
 瘴魔獣は怒りで大振りとなったその拳をあっさりとかわし、
「ほらほら、こっちだこっちだ!」
 言って、そのままビルの間の路地へと駆け込んでいく。
「逃がすかよ!」
 後を追って、ジュンイチも路地へと駆け込んでいき――やがて、ビルの間にできたちょっとした広場に出た。
「……ここは……?」
 ジュンイチがつぶやくと、
「そう……ここがお前の死に場所だよ!」
 声と共に――瘴魔獣がジュンイチの背後に着地する!
「――!?」
 ジュンイチがとっさに裏拳を放つが、
「あらよっと!」
 瘴魔獣は大きくジャンプしてそれをかわす。
「へっ、わざわざ大ジャンプでかわしやがって!
 それじゃ、狙ってくれって言ってるみたいなもんだぜ!」

「ウィング、ディバイダー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドウィングがキャノン形態に変形、さらに両バレル内側の装甲が展開され、一対の反応エネルギー砲となる。
 そして、ジュンイチは銃口を瘴魔獣に向け、
「ウィングディバイダー、チャージ!」
 ジュンイチの叫びと同時、ウィングディバイダーの放熱デバイスがすべて開放、精霊力を攻撃エネルギーに変換、さらに高出力に収束していく。
 そして、ジュンイチは両キャノンの下部にセットされたトリガーを握り、
「ゼロブラック――Fire!」
 叫ぶと同時にトリガーを引き、
 ズドゴォッ!
 放たれた閃光が、瘴魔獣を直撃――するかと思われた瞬間、瘴魔獣の姿がその射線上から消える!
「何っ!?」
 ジュンイチが驚きの声を上げ――
 バギィッ!
「ぐあぁっ!」
 背後から跳び蹴りを受け、ジュンイチは地面に叩きつけられた。
「なっ、なんだと……!?」
 驚きながらもジュンイチが立ち上がると、瘴魔獣は再び大ジャンプ。ビルの上へと跳び上がる。
「くそっ! 逃がすか!」
 叫んで、ジュンイチはかまえ――気づいた。
 自分が、着装こそしているがまったくの素手であることに。
「しまった……! 木刀はゲイルに差しっぱなしだ……!」
 あわててジュンイチは周囲を見回すが、爆天剣の素材に使えそうな棒はない。
「これじゃ爆天剣が使えねぇ……!」
 ジュンイチがつぶやくと、瘴魔獣は笑って、
「へっ、お前が棒切れを剣に変えて戦うことはわかってんだ。
 わざわざ、そんなもんがある場所に誘い込むかよ」
「ンだと……?
 じゃあ、さっきのハラワタ煮えくり返るセリフも……!」
「そういうこった。
 お前は、まんまとオレの挑発に乗っちまったってことさ!」
 ジュンイチに答え――瘴魔獣はビルから飛び降り、再びジュンイチへと襲いかかる!
「調子に乗るなよ!」
 瘴魔獣の急降下キックをかわし、ジュンイチはゴッドウィングを広げて上空へと飛び立ち、
「上をとったぜ! これで大ジャンプはできねぇだろ!」
 ジュンイチが言うが、
「果たして――そうかな!?」
 言って、瘴魔獣がジャンプし、ジュンイチへと突っ込む。
「バカが! 撃墜してやっぜ!」
 言って、ジュンイチはゴッドウィングを変化させ、翼を刃とした巨大なブーメランへと変える。
「ウィング、ブーメラン!」
 言って、ジュンイチがウィングブーメランをかまえ――
 ――グラッ。
「へ……?」
 ジュンイチの身体がバランスを崩し――落下する!
「ぅわたたたたぁっ!」
 あわててジュンイチはウィングブーメランをゴッドウィングへと戻して体勢を立て直し、
「そこだ!」
「――くっ!」
 瘴魔獣の蹴りをとっさにジュンイチはガードするが、勢いに負けて地面へと落とされる。
「くっそぉ……! チョコマカチョコマカ、うっとぉしいんだよ!」
 言って、ジュンイチはなんとか着地し、
「あっぶねぇあぶねぇ……
 ゴッドウィングを武器に変えちまったら、空飛べなくなっちまうのか……
 そうなると、ますます木刀を置いてきちまったのは痛いな……!」
 瘴魔獣を見据えてジュンイチが悔しそうにうめき――すぐにその表情を引き締めた。
「……けど、それなら別の技で攻めてやるだけだ!」

「ゴッド、ウィィング!」
 ジュンイチが叫び、背中のゴッドウィングが展開され、そこへ精霊力が収束していく。
 すると、内部でエネルギーの高まったゴッドウィングが光を放ち、根元から炎に包まれる。
「燃え上がれ、龍の翼よ!」
 言って、ジュンイチが瘴魔獣へと突っ込み、
龍翼の轟炎ウィング・ギガフレア!」
 ドゴォッ!
 ジュンイチが翼から放った炎が龍の形となり、瘴魔獣へと突っ込み――
 ――ダンッ!
 瘴魔獣がビルの壁を蹴り、再び三角跳びの連発でウィング・ギガフレアをかわすと、そのままジュンイチの背後に回り込む!
「何――!?」
 ジュンイチが驚きの声を上げ、そして――!


Next "Brave Elements BREAKER"――

「ビルの屋上とそう変わらない高さから叩き落されたんだ。普通のヤツなら全身打撲であの世行きだぜ」

「瘴魔が、組織化され始めてるってことですか?」

「みんな……信じてるってことだよ。ジュンイチを……」

「待たせたな、ジーナ!」

「『人と交わりし龍神、蒼き戦士となりて敵を討ち果たせ』!」

「龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」

Legend04「龍神」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2002/01/26)
(第3版:2005/04/03)