「ゴッド、ウィィング!」
 ジュンイチが叫び、背中のゴッドウィングが展開され、そこへ精霊力が収束していく。
 すると、内部でエネルギーの高まったゴッドウィングが光を放ち、根元から炎に包まれる。
「燃え上がれ、龍の翼よ!」
 言って、ジュンイチが瘴魔獣へと突っ込み、
龍翼の轟炎ウィング・ギガフレア!」
 ドゴォッ!
 ジュンイチが翼から放った炎が龍の形となり、瘴魔獣へと突っ込み――
 ――ダンッ!
 瘴魔獣がビルの壁を蹴り、再び三角跳びの連発でウィング・ギガフレアをかわすと、そのままジュンイチの背後に回り込む!
「何――!?」
 ジュンイチが驚きの声を上げ、そして――!

 

 


 

Legend04
「龍神」

 


 

 

「ジュンイチのヤツ、どこで戦ってんだ……?」
 人々の避難を終え、青木はジーナと手分けしてジュンイチを探していた。
 と――
「……ん?」
 青木は、みんな避難して誰もいないはずの街角に佇むひとりの少年に気づいた。
「おい、こんなトコにいたら危ないぜ。
 早く避難するんだ」
 青木が言うが、少年は答えない。
 その視線がふと気になり、青木が少年の見ている先を見て――
「――あれは!?」
 そこには、瘴魔獣に背後に回りこまれたジュンイチの姿があった。
「ジュンイチ!」
 あわてて青木は走り出し――少年はそれを冷たい眼差しで見送った。

(三角跳びで――回り込まれた!?
 そうか、さっきのゼロブラックも、これで……!)
 瘴魔獣に背後に回り込まれた一瞬で、ジュンイチの脳裏をそれだけの思考が駆け巡った。
 が、ジュンイチの防御よりも速く、瘴魔は次の行動に移っていた。
 力いっぱい両腕を振り上げ――
 ――バギィッ!
「ぐぁあっ!」
 渾身の力で、ジュンイチを叩き落す!
「――ぐっ!」
 それでも、とっさにジュンイチは身体を丸め、
 ドガオォォォォンッ!
 そのまま地面に突っ込み、巨大なクレーターを形作る。
「くっ、くそぉ……!」
 うめいて、ジュンイチはなんとか身を起こすが、ダメージが大きく、立ち上がるどころか意識を保っていることすら難しい状態である。
「……フンッ」
 そんなジュンイチを鼻で笑い、瘴魔獣はビルの上へと着地し、そのまま逃走していった。
「ま……待ちや……が、れ……!」
 言って、後を追おうとして――ジュンイチはそこで力尽き、意識は闇へと沈んでいった――

「――!」
 突然それを感じ取り、あずさは顔を上げた。
「……お兄ちゃん……?」
 あずさがつぶやくと、
 プルルルル……プルルルル……
 突然、リビングの電話のベルが鳴った。
「はい、柾木です」
 あずさが電話に出ると、
〈ジーナです〉
「ジーナさん?
 ……もしかして、お兄ちゃんに何か……?」
 あずさが尋ねると、ジーナは言いにくそうに答えた。
〈瘴魔獣にやられて……今、病院にいます……〉

「ジーナくん!」
 あずさと共に病院にやってきた龍牙が、待合室で二人を待っていたジーナに声をかけてきた。
「お兄ちゃんの具合は?」
「あまり、よくないみたいです。
 青木さんが発見した時は、変身も解けて意識もなかったって……」
 ジーナがあずさに答えると、
「お、二人とも来てたのか」
 言って、青木がブイリュウと共にやってきた。
「青木くん、ジュンイチは?」
「今、手当てを受けて眠ってる」
 尋ねる龍牙に答え、青木はため息をつき、
「とはいえ、けっこうダメージデカいぜ。
 ビルの屋上とそう変わらない高さから叩き落されたんだ。普通のヤツなら全身打撲であの世行きだぜ」
「ジュンイチさんの場合、ブレイカーになって強化された身体と装重甲メタル・ブレストの力場、そして自分自身が受け身を取ったおかげで命は助かったんですけど、それにしたって、しばらくは動くだけで激痛が走るぐらいのダメージを受けているはずです」
「そんな……」
 青木とジーナの言葉にあずさがつぶやくと、
「それで……命に別状はないんだな?」
「はい」
 龍牙の問いに青木がうなずくと、龍牙は安堵のため息をつき、
「なら大丈夫だな。
 では、私は少し自衛隊と連絡をとってくる。
 ジュンイチがこうなってしまった以上、警察や自衛隊でヤツをなんとかするしかない」
「じゃあ、私も自分なりに瘴魔獣を追ってみます。
 私のパートナープラネルがいないから着装はそう長い時間できませんが……青木さんから聞いた瘴魔獣の戦法なら、なんとかなると思います」
 ジーナが龍牙に言うと、青木が声をかけてきた。
「なら、オレも行くよ。
 歩きよりも車の方が、少しは手際よく探せるだろ」
「はい、お願いします」
 すると、今度はブイリュウがジーナに言う。
「ちょっと待って、ジーナ。
 ブレスに、オイラの精霊力をわけてあげるよ。
 オイラはキミのパートナープラネルじゃないから効率は悪いけど、それでも一回ぐらいは着装しての全開戦闘ができるはずだよ」
 ブイリュウが言い、ジーナのブレイカーブレスに“力”を送り込んでいると、龍牙が青木に声をかけた。
「青木くん」
「ん?」
 振り向いた青木に、龍牙は何かを投げ渡した。
 見ると、それは一本の鍵である。
 そして、それは青木も知っているものだった。
「これ……?」
「使え。丸腰では足手まといにしかならないぞ」
「……おぅ!
 んじゃ行こうぜ、ジーナ! まずはジュンイチの家だ!」
「は、はい!」
 青木に答え、ジーナは彼と二人でその場を後にする。
「じゃあ、あずさ、後は頼むぞ」
「う、うん……」
 あずさが答えたのを確認し、龍牙も行ってしまった。
 しかし、あずさの表情は暗い。
「……どうしたの?」
 不思議に思ったブイリュウが尋ねると、あずさはうつむいてつぶやいた。
「……わかんないよ……
 どうして、みんなケガしてるお兄ちゃんを放って行けるの……?
 みんな、お兄ちゃんが心配じゃないの……?」
「……あずさちゃん……」

 そして、ジーナと青木はまず、ジュンイチの家へと戻った。
「それで、その鍵って一体……?」
「まぁ、それは説明するより見てもらった方がいいだろうな」
 ジーナに言って、青木はジュンイチの家へと入っていく。
 そして、地下への階段を降りていくと、そこにあった扉に鍵を差し込み、鍵を開けるとドアを開き――
「――ぅわ……」
 そこに大量に陳列されていたものを見て、ジーナは思わず声を上げていた。
 ハンドガンにショットガン、サブマシンガン、マグナム、バズーカにロケットランチャー、ガトリングガン……とにかく、大量の銃器が並んでいた。
 それだけではない。弾薬も奥の壁に山のように積まれている。
「……こ、これって……?」
「龍牙さんのコレクション。
 どっからともなく少しずつ集めてきて、いつの間にやらこのザマだ」
「……日本って法治国家じゃなかったんですか……?」
「……聞くな」
 ジーナに答えて、青木は銃器の中から手頃なものを見繕ってチェックしていく。
 しかしそれはただ適当に選んでいるワケではない。どの武器も、威力と携行性を両立できているものを確実に選んでいる。それに、銃器をチェックする手つきも手馴れたものである。
「……こんなのそろえてた龍牙さんも龍牙さんですけど、そんなに慣れた手つきで扱える青木さんも青木さんだと思うんですけど……」
「まーな。オレは一応、元自衛官だからな」
 言って、青木は武器の選出を終え、弾丸を山の中から物色していく。
 と、その作業をふと中断し、青木はジーナに尋ねた。
「なぁ……ひとつ聞いてもいいか?」
「はい?」
「さっき、一度だけ気がついたジュンイチから聞いたんだ。
 今回の瘴魔獣、あいつの能力をあらかじめ把握していたって……」
「え……?」
「普通に考えたら、前の戦いを見ていたってことになると思うんだけど……
 けど、そういうことだと、近くにいたお前らも感知できてるはずだよな?
 つまり……」
 青木の言いたいことに気づき、ジーナはつぶやいた。
「……その情報を、与えた者がいる……」
 ジーナの言葉にうなずき、青木は続ける。
「さっきの戦いの時、街でジュンイチを探してた時に変なヤツと会ったんだ。
 なんか、ずっとジュンイチの戦い見てたんだけど、今にして考えると……」
「ヤツが瘴魔……そう言いたいんですか?
 確かに、今までも人に化けた瘴魔は何度か現れましたけど、それが他の瘴魔獣に力を貸したってことは一度も……」
 ジーナの言葉に、青木は答えない。
 そんな青木の態度にジーナ首をかしげ――次の瞬間、彼の言いたいことに気づいた。
 もし、ジーナの考えが青木と同じで、それが現実だったとしたら――
 そんな得体の知れない予感に突き動かされるかのように、ジーナは青木に確認した。
「もしかして……瘴魔が、組織化され始めてるってことですか?」

「………………」
 あずさは、何もすることがなく、ジュンイチの眠る病室の前のイスに腰掛けていた。
 と――
「はい」
 目の前に、紙コップに入ったオレンジジュースが差し出された。
 ブイリュウである。
「ねぇ、元気出そうよ。
 あずさちゃんがそんなんじゃ、ジュンイチ、せっかく気がついても気が滅入っちゃうよ」
 言って、ブイリュウがとなりに座るが、あずさは答えない。
 そんなあずさに、ブイリュウは困ったように考え込んでいたが、
「……あのさぁ、あずさちゃん……
 みんな、ジュンイチのことを心配してないワケじゃないと思うよ」
「え……?」
「みんな……信じてるってことだよ。ジュンイチを……
 ジュンイチなら、絶対大丈夫だって」
 自分の言葉に思わず顔を上げるあずさに答え、ブイリュウは笑って、
「みんな、ジュンイチが起きた時安心してもらえるように、自分にできることを一生懸命がんばってるんだよ、きっと。
 だから……」
 言って、ブイリュウはイスから降りて、
「あずさちゃんも、元気出そう!」
「……自分に、できること……
 ……うん! あたしもがんばる!」
 ブイリュウの言葉に、あずさはようやく笑顔を取り戻して言い――すぐにその笑顔が困り顔へと変わった。
「……どうしたの?」
 不思議に思ったブイリュウが尋ねると、あずさは困り果てた表情のまま答えた。
「うん……がんばるって決めたけど……
 ……何がんばろう?」
 その問いに、ブイリュウは――答えることができず、辺りを気まずい沈黙が包み込んだ。

 その頃、武器の調達を終えた青木とジーナは、青木の車で街を走り回っていた。
「どうだ? ヤツらの気配、感じないか?」
「いえ……今のところは……
 たぶん、ヤツも私達が探しているのは気づいているはずです。
 だとしたら、瘴魔力の放出を絶って隠れているのかも……」
 青木の問いにジーナが答えると、
 ピーッ! ピーッ!
 ダッシュボードの上に置かれた携帯無線機がコール音を立てた。
 これも、龍牙の地下倉庫から持ち出したものである。
「はい、こちら青木。
 龍牙さんでしょ?」
 青木が応答すると、
〈その通りだ。
 やはり無線は持ち出していたか〉
 通信してきたのは龍牙だった。
「で? 何かあったんスか?」
 青木が尋ねると、龍牙は沈痛な口調で答えた。
〈うむ。完璧にヤツらに裏をかかれた。
 ヤツめ、キミ達に感知できる波動のようなものを絶ったまま、凶行を続けているようだ〉
「えぇっ!? じゃあ……」
〈そうだ。事件は未だ続いている〉
 声を上げるジーナに龍牙が答えると、青木が尋ねる。
「で、最後に事件があったのはどこっスか!?」
〈ジュンイチとヤツが戦った板橋区から、豊島区、中野区へと南下している。
 おそらく、狙いは人の集まる……〉
「……渋谷か……!」
 龍牙の言葉に、予想進路に気づいた青木がうめく。
「わかった。すぐに先回りする!
 龍牙さんは警察に連絡して、渋谷の人達の避難誘導を!」
〈わかった!〉
 青木に答え、龍牙は通信を切った。
「っしゃ、ジーナ、飛ばすからしっかりつかまってな!」
「は、はい!」

「はぁ……」
 ジュンイチの眠る病室の前で、あずさは思わずため息をついた。
「せっかく、あたしもがんばろうって決めたのに、できることが言いつけ通りお兄ちゃんが出てかないように見張るだけなんて……悲しすぎ」
「いや、そんなこと言われても……」
 あずさの言葉に、さっきから彼女のグチの矛先となっているブイリュウが苦笑混じりにつぶやくと、
〈臨時ニュースを申し上げます〉
 いきなり、向こうの待合室のテレビがニュースに切り替わった。
〈ただいま入りました情報によりますと、先日より多発している墜落事故は、新たなUCの仕業と判明しました。
 UCは現在、中野区で警官隊と交戦状態にあり――〉
「……とうとう、本格的に動き出したみたいだね、今回の瘴魔も……」
「うん……」
 ブイリュウのつぶやきにうなずき――あずさは気づいた。
「――まさか!?」
 あわててあずさは病室に駆け込み――
「……やられた……!」
 そこには空のベッドだけがあり、傍らの開け放たれた窓からの風でカーテンがはためいていた。

 ドガァッ!
 警官のひとりが瘴魔獣に投げ飛ばされ、別の警官に激突する。
「フンッ、ブレイカーのヤツを片づけたと思ったら、残ったのはこんなザコばっかりか。
 こんなことなら、殺さず生かしておくべきだったな」
 ため息まじりに瘴魔獣がつぶやき、次なる獲物へと向き直り――
 ドゴォンッ!
 これまでとは比べ物にならない爆発と衝撃が、瘴魔獣へと叩きつけられた。
「くっ……! なんだ……!?」
 言って、瘴魔獣が振り向くと、そこには旧式の携行式ロケットランチャーをかまえて発射の衝撃に耐え切った青木の姿があった。
「へぇ、旧式の割にはなかなかの命中率だな。気に入ったぜ」
「気に入らないでくださいよ、そんなの……」
 上機嫌で言う青木に言って、彼の背後からジーナが顔を出す。
「てめぇら、なにもんだ!?」
 瘴魔獣の言葉に、青木は笑って、
「それは見てのお楽しみ♪
 さぁ、ジーナ、やっちまえ!」
「はい!」

「ブレイク、アァップ!」
 ジーナが叫び、頭上にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
 その光は物質化、植物の蔓となり、ジーナの身体を包み込むと獅子の顔を持った獣人の姿を形作る。
 ――バッ!
 ジーナが腕の蔓を振り払うと、その腕には鮮やかなエメラルドグリーンのプロテクターが装着されている。
 同様に、足の蔓も振り払い、プロテクターを装着した足がその姿を現す。
 そして、身体を包む蔓を振り払うと、彼女の身体にピッタリとフィットしたスリムなデザインのボディアーマーが現れる。
 最後に額の蔓を振り払い、ヘッドギアを装着したジーナがかまえて叫ぶ。
「大地の恵みは無償の愛情! 想う心が邪悪を砕く!
 森緑の獅子王、ランド・エンジェル!」

「き、貴様らもブレイカーだったのかよ!?」
「そうです! これ以上、あなたの好きにはさせません!」
 驚きの声を上げる瘴魔獣をビシッ! と指さし、ジーナが宣言する。
 と――そんな彼女に青木が尋ねた。
「で……あの名乗りの意味は?」
「あ、ジュンイチさんのマネしてみたんですけど……ダメですか?」
「いや、似合ってるからリアクションに困るんだよね……」
 聞き返すジーナに青木がうめくと、
「へっ! だからって、てめぇらだけで何ができる!
 見たところ、てめぇは飛べそうにねぇだろ!」
 言って、瘴魔獣が大ジャンプし――
「残念でした♪
 確かに、私の装重甲メタル・ブレストに飛行能力はないですけど――」
 ジーナはそう言って重心を落とし、
「ジャンプ力じゃ、負けませんよ!」
 次の瞬間、同じようにジャンプしたジーナはものすごい勢いで飛び上がり――あっという間に上昇中の瘴魔獣を追い抜く!
「何!?」
 驚く瘴魔獣へと、ジーナは空中で向き直り、
「グランドトンファー!」
 ジーナが叫び、背中に装備されたトンファー型ツール、グランドトンファーの固定が外れ、ジーナがそれをかまえ、
「えぇいっ!」
 バギィッ!
「ぐぁっ!」
 ジーナが瘴魔獣を叩き落し、瘴魔獣はなんとか空中で体勢を立て直して着地する。
 しかし、相手の反撃をおとなしく待つほど、ジーナも考えなしではなかった。
 そのまま着地すると同時に瘴魔獣へと突っ込み、次々にグランドトンファーを繰り出して瘴魔獣に反撃のスキを与えない。
 素人丸出しの連撃にも関わらず、反撃を許さない突進力がジーナの装重甲メタル・ブレスト「ランド・エンジェル」にはあった。対する瘴魔獣も、なんとかこの連続攻撃から脱出したいところなのだが、その性能の前には回避に徹しざるをえない状況である。
「くそっ、調子に乗るなよ!」
 言って、瘴魔獣がなんとか大ジャンプで上空に逃れるが、
 ――ドゴォンッ!
「ぐあぁっ!」
 いきなりのロケット弾の直撃を受け、瘴魔獣がバランスを崩す。
「へっ、オレを忘れてたのは失敗だな!」
 そう瘴魔獣に言うと、青木は弾切れになったロケットランチャーを投げ捨て、新たに取り出したアサルトライフルを二丁、両脇に抱えて瘴魔獣を撃ちまくる。
 決してダメージになるワケではないが、空中で姿勢を保つには青木のこの攻撃はキツすぎた。瘴魔獣は完全にバランスを失い、頭から地面へと落下していく。
「っしゃぁ! ジーナ、決めろ!」
「はい!」
 青木に答え――ジーナがグランドトンファーをかまえる!

「グランドトンファー、チャージ!」
 ジーナが叫ぶと、グランドトンファーが大地から“力”を吸収、その“力”が集められた本体が光を放ち、輝く光の刀身が先端に生み出される。
 そして、ジーナはそのまま落下してくる瘴魔獣へと突っ込み、
偉大なる怒りグランド・アングリー!」
 ズガァッ!
 ジーナが渾身の力で放った両腕の連撃が、瘴魔獣に叩き込まれる!
 そして、ジーナの連撃でできた傷に“封魔の印”が現れ――
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣の身体は爆発を起こし、消滅した。

「やった!」
 着地するジーナを見て、青木が勝利を確信して叫ぶが、
「――いえ、まだです!」
 ジーナが叫び、目の前のビルの屋上を見上げる。
 青木がその視線の先を追って見上げ――
「――あいつは!?」
 そこにいる、仮面を着けた何者かの姿を見つけて声を上げる。
 背丈、体格からして高校生ぐらいの少年だろうか。素顔は仮面に隠れて見えないが、彼の“気”に青木は覚えがあった。
「ジーナ、あいつだ! さっき話したヘンなヤツ!」
「あの人が……!」
 青木の言葉にジーナがつぶやくと、仮面の少年は瘴魔獣の残骸に向けて手をかざす。
 と――その残骸めがけて、周囲の負の思念エネルギーが収束していき、
「グオォォォォォッ!」
 瘴魔獣は、闘争本能のみで行動する巨大瘴魔獣として復活を遂げた。
「げっ、また巨大化しやがった!?」
「でも……ジュンイチさんがいない今、私達がやるしか!」
 青木に言ってジーナがかまえるが、
 ――シュオォォォォ……
 音を立てて、ジーナの装重甲メタル・ブレストが光となって消滅する!
「お、おい! どうしたんだよ!?」
「ひょっとして……ブイリュウからもらった“力”、使い切っちゃったんじゃ……!」
 ジーナが青木に答え――
「グオォォォォォッ!」
 瘴魔獣がそんな二人に向けて足を振り上げ――!

 ……ザッ……!
 足元の砂利を踏みしめ、ジュンイチは漆黒の闇の中を懐中電灯を片手に進んでいた。
 ジュンイチの通う龍雷学園・高等部の裏には、ちょっとした大きさの私有の山がある。
 そして、その学校側の中腹辺りに、トレーラーが二車線で通れるほどの大きさの洞窟があった。
 ジュンイチが歩いているのは、まさにその洞窟の中である。
 いくら入口が大きいと言っても、元々、私有ということもあってこの山に来る人間は限られていた。さらに、この洞窟の入口が登山道よりかなり離れ、木々に隠れていることもあって、この洞窟のことを知っている人間は、ジュンイチを含めてほんの数人しかいないだろう。
 と――ジュンイチは突如として足を止めた。
 そこは、今まで続いていた通路が急に広がっており、かなりの大きさの地底空洞が広がっていた。
 そして――ジュンイチは言った。
「待たせたな。
 やっぱ、瘴魔獣が巨大化しやがった。いよいよお前の出番だぜ♪」

 ズガァッ!
 瘴魔獣の振り回した拳が近くのビルに直撃し、粉々に粉砕されたビルの残骸がガレキとなって降り注ぐ。
「くっそぉ! あいつ、調子に乗りやがって!」
「えーっと……巨大瘴魔獣は闘争本能だけで行動する存在ですから、別に調子に乗ってるワケじゃないと思いますけど……」
「ンな問題でもないだろーが!」
 別のビルの陰に隠れて青木とジーナが言うと、
「グオォォォォォッ!」
 二人を見つけ、瘴魔獣が大きく咆哮する。
「うわわわわぁっ! 来たぁっ!」
 青木があわてて声を上げ――
 ドゴオォンッ!
 いきなり横手からミサイルの直撃を受け、瘴魔獣はバランスを崩して近くのビルへと倒れ込む。
「なんだ!?」
 青木が空を見上げて声を上げると、
「あ、あれ!」
 ジーナが、上空に飛来したF-15V編隊編隊を見上げて声を上げる。
「自衛隊……?」
 つぶやき――青木は先頭を翔ぶF-15Vの翼に描かれた狼のマークに気がついた。
「……あのマークは……?
 もしかして……“アイツ”か!?」

「……くそっ、今回のヤツもダメージなしか……!」
 ビルの中から立ち上がる瘴魔獣の姿を確認し、先頭のF-15Vのパイロット、神威和馬は舌打ちしてつぶやいた。
「ヤツにフォーメーションなんて小細工は通用しない!
 各機散開し、個々の判断で攻撃! ヒット・アンド・アウェイを忘れるな!」
《了解!》
 和馬の言葉に、他のパイロット達が一様に答えると、
〈了解! じゃねーよ!〉
 いきなり、何者かの通信が割り込んできた。
〈和馬! ヤツはお前らやオレ達のかなう相手じゃない!
 こないだのドラゴン型のロボットが来るまでムチャはすんな!〉
 自分の名を知るその男の声は、和馬にも覚えがあった。
「お前……青木か!?」

〈隊を辞めてどうしているかと思えば、なんでこんなところにいる!?〉
「ンなコトぁどーでもいいから! とっとと後退しろっつーの!」
 ジーナのブレイカーブレスから聞こえる和馬の声に、青木が力いっぱい言い返す。
「ヤツにF-15の装備が効かないことぐらい、こないだの戦いでわかってるだろ!」
〈我々は自衛隊だぞ! この国を守る義務がある!
 すでに辞めたヤツが、中途半端に関わるな!〉
「ンだとぉ!
 おい、もういっぺん言ってみやがれ――」
 ――ブツッ。
「あ! コラ! 勝手に通信切ってんじゃねぇっつーの!」
 すでに回線を切られ、沈黙したブレイカーブレスに向けて青木が怒鳴り散らすが、
「……もう通じませんよ」
「うっせぇ!」
 ジーナに言い返し、青木は瘴魔獣への攻撃を開始した和馬のF-15Vを見上げる。
 しかし、戦況は明らかに自衛隊に不利に動いていた。
 瘴魔獣にF-15Vの攻撃はまるで通じず、逆に瘴魔獣のジャンプ力の前に逃げ切ることはできず、次々に叩き落されていく。
 幸い、今まで撃墜された機のパイロット達は無事脱出できているし、戦場となっている一帯の避難は警察によって完了している。人的な損害は出ていないが――
「くっ……! このままでは……!」
 着実に数を減らしていく僚機の様子に、和馬が歯噛みしてうめき――その背後に瘴魔獣がジャンプしてくる!
「――!」
 背後を取られたことに和馬が戦慄を覚え――
 ズガァッ!
 かろうじて直撃はかわしたものの、振り下ろされた瘴魔獣の一撃は、和馬のF-15Vの片翼を粉砕していた。
 完全にバランスを失い、錐もみしつつ墜落していく和馬のF-15Vへと、瘴魔獣は再び跳躍し――
 ドガァッ!
 いきなり横から放たれた体当たりが、瘴魔獣をブッ飛ばす!
「――何だ!?」
 回転するF-15Vのコックピットで和馬が声を上げ――
 ――ガコッ!
 音を立て、和馬の機体の回転が急に止まった。
「………………?」
 和馬が疑問に思って頭上を見上げ――そこには、巨大な龍の頭部が見えた。
 ゴッドドラゴンである。

「ジュンイチさん!」
「待たせたな、ジーナ!」
 ジーナに答え、ジュンイチは和馬のF-15Vを離れたところに下ろし、改めて瘴魔獣へと向き直る。
「待ってたぜ、てめぇとリターンマッチできるのをな……!
 こないだの借り……万倍にして返してやるぜ!」
 ジュンイチが言い――次の瞬間、ゴッドドラゴンが瘴魔獣へと突進し、
 ドガァッ!
 その体当たりを受け、瘴魔獣が吹っ飛ばされる。
「まだまだぁっ!」
 言って、ジュンイチが突っ込むが、瘴魔獣は素早く体勢を立て直し、二度目の突進をかわすと、
 ドガァッ!
 突撃が空振ったゴッドドラゴンを大地に叩きつける!
「くっ、このヤロー!」
 叫んで、ジュンイチがドラゴンブラストを撃つが――瘴魔獣には当たらない!

「あぁっ! ゴッドドラゴンが!」
「あのヤロー、飛べねぇクセしてなんてスピードだよ!」
 ゴッドドラゴンと瘴魔獣との戦いを見て、ジーナと青木が言うと、
「みんな!」
「ジュンイチは来てる!?」
 言って、あずさとブイリュウがやってきた。
「だ、ダメですよ! こんなところまで来ちゃ!」
「ってゆーかあずさ! お前龍牙さんにジュンイチ見てるように言われただろ!」
 やってきたあずさとブイリュウにジーナと青木が言うと、
「――なに?」
 いきなりあずさが、“何か”に気づいて顔を上げた。
「……あずさちゃん……?」
 ジーナが声をかけるが、あずさは答えない。
 しばし、そのままあずさは“何か”に向けて集中し――
「――うん!」
 突然うなずくと、そのままゴッドドラゴンへと走り出す!
「あ、あずさちゃん!」
「おい、危ねぇって!」
 ジーナと青木があわてて声を上げるが、あずさはその足を止めることはなかった。

「くっ、くそぉ……!」
 大地に叩きつけられたゴッドドラゴンのコックピットでジュンイチがうめき――
「お兄ちゃん!」
「――!?」
 いきなりの声にジュンイチが見ると、ゴッドドラゴンの目の前にあずさが駆け寄ってくる。
「ば、バカ! なにやってんだ! 巻き込まれるぞ!」
 ジュンイチが言うが、あずさはかまわず続けた。
「いいから聞いて! たぶんコレ、ゴッドドラゴンのことだから!」
 そして、あずさはその言葉を叫んだ。
「『人と交わりし龍神、蒼き戦士となりて敵を討ち果たせ』!」
「……人と交わり……戦士に、なる……?」
 あずさのその言葉にジュンイチがつぶやくと、
 ――ブォオン……ッ!
 音を立て、ゴッドドラゴンのカメラアイが輝きを増した。

「えぇっ!?」
 あずさの言葉に驚きの声を上げたのは、彼女の行動にあわててジーナや青木と共に連れ戻しに向かっていたブイリュウだった。
「どうしたの? ブイリュウ」
「今あずさちゃんが言ったのって、ゴッドドラゴンの力を覚醒させる、一種のキーワードなんだ!
 オイラは教えてないし、どうして何も知らなかったあずさちゃんが……?」
 ジーナに答え――
「――え?」
 ブイリュウの脳裏に突然“声”が響いた。
「……ゴッドドラゴン……?」
 そう。それはブイリュウの本体でもある、ゴッドドラゴンからのメッセージだった。
「……今なら……できるっていうの……?
 うん、わかった!」
 その“声”に答え、ブイリュウはジュンイチに言った。
「ジュンイチ! ゴッドドラゴンと合身するんだ!」
「合身!?」
「うん!」
 聞き返すジュンイチに、ブイリュウがうなずく。
「ブレイカーブレスに向けて叫ぶんだ。キーワードは、『エヴォリューション・ブレイク!』
「お、おぅ!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 ゴッド、ブレイカー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドドラゴンが翔ぶ。
 まず、両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形で分離。アームはスネの中ほどを視点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。
 続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状のパーツが展開されて肩アーマーとなる。
 両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。
 頭部が分離すると胸に合体し直し胸アーマーになり、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。
 分離した尾が腰の後ろにラックされ、ロボットの頭部が飛び出すと人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
 最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からクリスタルがせり出してくる。
「ゴッド、ユナイト!」
 ジュンイチが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイと額のクリスタル――Bブレインが輝く。
「龍神合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」

 ――ズンッ!
 合身を完了し、ゴッドブレイカーが着地する。
「龍の力をその身に借りて、神の名の元悪を討つ!
 龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」

 あふれ出すエネルギーで周囲がスパークする中、ジュンイチが口上を述べる。
「さぁて、好き勝手やってくれたが、もうこれ以上はやらせねぇぞ!」
 瘴魔獣に向けてジュンイチが言うと、瘴魔獣は身を屈め――次の瞬間、ジュンイチゴッドブレイカーへと猛ダッシュする!
 が――
 ズガァッ!
 ジュンイチはその突撃を受け止め、少しも押し戻されることなく踏ん張っていた。
「おいおい、どうしたよ?
 パワーだったら……今のオレの方がよっぽどあるぜ!」
 言って――ジュンイチはそのまま瘴魔獣を力任せに投げ飛ばす!
 だが、瘴魔獣もすぐに立ち上がり、ジュンイチへと向き直り、目の前に“力”を収束させていく。
「――ジュンイチ! 気をつけて!」
「わかってる!」
 ジュンイチがブイリュウに答え――
 ――ズビュァアッ!
 瘴魔獣が集めた“力”を光線として発射する!
 光線は一直線にジュンイチゴッドブレイカーへと突っ込むが、
「ゴッド、プロテクト!」
 ジュンイチが叫ぶと同時、ゴッドブレイカーの両肩からエネルギー場が展開、ジュンイチが突き出した左手を中心に収束し、バリアフィールド『ゴッドプロテクト』を形成する。
 そして、敵の放って閃光がゴッドプロテクトに命中し――
「そらよ……返してやっぜ!」
 全エネルギーを受け止めるかのようにその表面に留まっていたかと思うと、一斉に放った当人――瘴魔獣へと跳ね返っていく!
 『ゴッドプロテクト』は、空間湾曲により相手の光線エネルギーを収束、反射させる特性を持った空間湾曲バリアなのである。
 ドゴォンッ!
「グオォォォォォッ!」
 自らの放った閃光の直撃を受け瘴魔獣が倒れると、
「まだまだぁっ!」
 ジュンイチが右半身を大きく引いてかまえ――右手に力場が収束、右前腕部全体から高エネルギーの光があふれ出し、それが右前腕部を螺旋状に覆っていき、ドリルのように回転を始める。
「お次はこいつだ!
 クラッシャー、ナックル!」
 ドゴォッ!
 ジュンイチが叫び――右腕をロケットパンチの要領で打ち出し、瘴魔獣に叩き込む!
 再び直撃を受け、瘴魔獣が真後ろにひっくり返るのを見て、ジュンイチは戻ってきた右腕をドッキングさせ、
「ゴッドセイバー!」
 その叫びに、腰のツールボックスから刀身のない剣の柄が射出され、ジュンイチがそれをつかむ。
 と――その柄に光が収束していき、それが炎となり、刀身を形作る。
 そしてジュンイチが剣を振るって炎を振り払うと、そこには完全に両刃の刀身が生まれていた。
 そこへ、瘴魔獣が再び閃光を放つが、
「甘いっつってんだろーが!」
 ズバァッ!
 ジュンイチがゴッドセイバーを振るい、瘴魔獣の光線を斬り裂く!
「さぁ……とどめだ!」

「爆天剣!」
 ジュンイチの叫びに呼応し、ゴッドセイバーは光の粒子となって霧散・再び収束して爆天剣へとその姿を変える。
「ブラスト、ホールド!」
 ジュンイチの言葉に、胸の龍が炎を吐き出し、その炎が爆天剣に宿り、余ったエネルギーが瘴魔獣を押さえつける。
 ――ドゥッ!
「いっけぇっ!」
 背中のバーニアをふかし、ジュンイチが一直線に瘴魔獣へと突っ込み、
「紅蓮――両断!
 カラミティ、プロミネンス!」

 ズガァッ!
 ジュンイチが、瘴魔獣の身体を一刀両断する!
 左右に断ち切られ、瘴魔獣の身体が外側へとバランスを崩すと、その切り口に“封魔の印”が現れ――
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣の身体はゴッドブレイカーを巻き込んで大爆発を起こし、消滅した。
「ジュンイチさん!」
 爆発の中に消えたジュンイチゴッドブレイカーの姿を探し、ジーナが声を上げるが、
 ――ズンッ!
 重厚な足音と共に、ジュンイチゴッドブレイカーは爆炎の中でゆっくりと立ち上がる。
「……ふぅっ、なんとか勝ったか……」
 息をついてつぶやき――ジュンイチはふと思いついた。
「……そうだ。ここはひとつ、昔見たアニメみたいに勝ちポーズといくか♪」
 そう言うと、ジュンイチはポーズを決め、勝ち鬨の声を上げた。
「爆裂、究極! ゴォッドォッ! ブレイカァァァァァッ!」

 ――ズンッ!
 戦いが終わり、合身を解除するとゴッドブレイカーはゴッドドラゴンへと戻り、ジーナとブイリュウの前に着地した。
 ――プシュゥ……
「ん、ん〜っ……」
 ゴッドドラゴンが頭部のコックピットハッチを開き、ジュンイチが外に出て大きく伸びをすると、
「ジュンイチさぁん!」
 言って、ジーナがジュンイチのところまで登ってきた。
「すごいじゃないですか! ゴッドドラゴンにあんな形態があるなんて、ぜんぜん知りませんでしたよ!」
「ンなのオレだって同じだよ。
 ブイリュウもゴッドドラゴンも、今まで何も言ってくれなかったんだからさ」
 ジュンイチがジーナに答えると、
「以前のジュンイチとゴッドドラゴンじゃムリだったからだよ」
 ブイリュウがジュンイチに答える。
「ブレイカービーストとブレイカーの合身は、ブレイカーとブレイカービースト、両方の精神にかなりの負担をかけるんだよ。
 けれど、ジュンイチは2度の戦闘を経て完全覚醒を果たしたものの、ゴッドドラゴンはまだ初陣を終えたばっかり。完全に力が復活していなかったんだよ」
「あー、つまり……なんかの弾みで力が完全に復活したおかげで、ゴッドドラゴンが合身可能になった……ってことか?」
 聞き返すジュンイチに、ブイリュウは思わずジーナと顔を見合わせる。
「……? どうした?」
 ジュンイチが尋ねると、ジーナが答えた。
「実は……そのゴッドドラゴンの完全復活の原因なんですけど……」

「あのあずさの言葉が!?」
「はい……」
 聞き返すジュンイチに、ジーナがため息まじりにうなずく。
「どういうことだ……?
 なんであずさに、ゴッドドラゴンの覚醒キーワードが?」
「その辺は私にもわかりません。
 ただ……ブレイカーであるジュンイチさんの妹として生まれたことが、あずささんの魂に何らかの影響を与えている可能性は、否定できません」
「なるほど……
 その辺の謎もそうだけど……今回の瘴魔獣を巨大化させたヘンなヤツも気になるし……」
 ジーナの言葉に考え込み――ジュンイチは決断した。
「……よっしゃ。なら、さっそく行こうか」
「え……? どこにですか?」
 聞き返すジーナに、ジュンイチはため息をつき、
「どこって、お前のブレイカービーストの眠ってる場所とか、他のブレイカー達のところに決まってんだろ。
 向こうが徒党を組んできたっつーなら、こっちもチームで戦った方がいいだろうし、みんながそろえば、そこらへんの謎もちっとは手がかり出てくるかもしれないしな。
 いつまでもつるむつもりはねぇが――『仮』だろうとリーダーの務めは果たさせてもらうさ」

 それから、旅支度などで数日を費やし、夏休みを、そして出発の日を迎えた。
「自衛隊の方は、私がうまく上官達を言いくるめておく。
 私も立場上、表立っての協力はできないが、キミ達なりにこちらの行動を利用するといいだろう」
「わかった。いろいろサンキュな」
 龍牙に答え、ジュンイチはゲイルにまたがりヘルメットをかぶる。
 そして、ジュンイチは振り向き、
「んじゃ行こうか、みんな♪」
『おーっ!』
「へいへい」
 ジュンイチの言葉に、あずさとジーナ、ブイリュウ、そして――彼らを車に乗せた青木がそれぞれのテンションで答える。
「お父さん、ヤマトの世話お願いね」
「わかってる。
 帰ってきてからお前に怒られたくないからな」
 青木の車の中から告げるあずさに、龍牙はかつてあずさが助けた子犬――ヤマトを抱き上げてそう答える。
「で? 最初はどこから行くんだっけ?」
 ともかく、車のエンジンをかけながら尋ねる青木に、ジーナは地図を広げ、
「距離のムダを省こうと思ったら北海道ですけど……戦力的に私のブレイカービーストを優先してほしいですから……」
 言って、ジーナは地図のあるページを開き、ある一点を指さした。
「愛知県――名古屋です」


Next "Brave Elements BREAKER"――

「んーっ、ようやく着いたぁ……」

「……すぐに戻ってくるよ。あいつ」

「家電に宿った“付喪神つくもがみ”を媒介にしてやがったんだ」

「けど、それには私のプラネルがいないと……」

「ボク、ライム! ジーナのパートナープラネルだよ!」

『ライガーショット、グランド、フィニッシュ!』

Legend05「獅子」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2002/02/06)
(第3版:2005/04/10)