Legend05
「獅子」

 


 

 

「んーっ、ようやく着いたぁ……」
 ヘルメットを脱ぎ、ゲイルから降りたジュンイチは大きく背伸びしてつぶやいた。
「お疲れさん、青木ちゃん♪」
「へいへい、ホントにお疲れさんでしたよ」
 ねぎらうジュンイチに、車の運転席の青木は文字通り疲労感を漂わせながら答える。
「悪いがオレはひとまず寝るぞ。
 こちとら騒がしいの二人も乗せて夜通し運転してたんだ」
「わかった。
 じゃあ、オレ達はジーナのプラネルと合流すっから」
 青木に答え、ジュンイチは車から降りて待っていたジーナとあずさ、ブイリュウのところへと戻る。
「けど、ホントに良かったのか? ゴッドドラゴン東京に置いてきたりして。
 連中が組織化されてきてることがわかったんだ。たぶん、唯一のジャマ者であるオレ達をまず狙ってくるはずだぜ」
「あ、それなら大丈夫だよ」
 尋ねるジュンイチに、その足元でブイリュウが言う。
「オイラ達プラネルは、それぞれのブレイカービーストとアストラル・リンクでつながってるんだ。
 だから、オイラ達がいれば、どれだけ離れていても、マスターをここに呼べるよ」
「そっか……なら、いいんだけど……」
 ジュンイチがブイリュウの話に納得すると、あずさがジーナに尋ねた。
「ところでジーナさん、ジーナさんのパートナープラネルとは、もう連絡とれてるんですか?」
「えぇ。大丈夫です。
 もう待ち合わせ場所も決めてありますし」
「待ち合わせ場所?」
「はい♪」
 聞き返すジュンイチに、ジーナは笑顔でうなずき――

「――なるほど、な……」
 思わず納得し、ジュンイチは石段の上にブイリュウと並んで座っていた。
 彼らは今、待ち合わせ場所――東海地方最大の電気街・大須にある、大須観音でジーナのパートナープラネルを待っていた。
 あずさとジーナは、売店で買ってきたエサを周りに集まってきている鳩達にあげている。
「ジーナのヤツ、考えたもんだな」
 ジュンイチのつぶやきに、ブイリュウはうんうんとうなずき、
「うん。ここならみんな電気街の方に行っちゃって人がいないから、オイラ達が見られる心配ないもんね」

作者注:そうです。いないんです。夏休み中だろうと平日はホントに人はいません。

 ともかく、ジュンイチはブイリュウの言葉にうなずき、
「あぁ、それに――」
 と、ジュンイチはジーナへと視線を向け、
「この場所なら、用がすめば自分はさっさと電気街にくり出せるしな」
 ――ピタッ。
 ワザと聞こえるくらいの音量で言ったジュンイチの言葉に、ジーナはロコツに動きを止めて見せた。
 そのまま、ぎぎぎぃっ、とでも音が聞こえてきそうな感じでこちらへと振り向き、
「な、なんの話でしょうか……?」
「その反応だけでも状況証拠としては十分だぞ」
 これまたロコツに『なんでわかったんですか?』的な顔でごまかそうとするジーナに、ジュンイチは答えてため息をつく。
「悪いがンなヒマはねぇぞ。ただでさえ青木ちゃん待たせてんだから」
「えぇぇぇぇぇっ!? いいじゃないですか、ちょっとくらい!」
「ほぉ……『ちょっと』なんだ……」
 抗議の声を上げたジーナに、ジュンイチはこめかみを引きつらせ、
「旅支度でカーナビ買いに秋葉原に行った時、パソコンのジャンクショップを片っ端から丸一日近くねり歩いたのが『ちょっと』なんだ……」
「う゛っ……」
「あまつさえ、山のように買ったパーツ、全部オレが持たされたんだよなぁ……」
「う゛う゛っ……」
 ジュンイチに言われる度に、小さくショゲていくジーナ。
「あれがなきゃ、3日は早く出発できたんだよなぁ……
 なにしろ、空箱の片付け全部オレがやらされたんだから」

「ふぇえ〜ん……」
 とうとう涙声になったジーナを見て、ジュンイチは「ちょっと言い過ぎたかな?」と反省し、思わずため息をついて言った。
「……わかったわかった。こっちはオレ達でなんとかすっから、今から行ってこい。
 さすがに秋葉原よりは小さい電気街だから、この時間は大して混んでないはずだ。半日かからずに回れるだろ」
「ホントですか!?」
 とたん、ジーナの表情が一変、満面の笑みで顔を上げた。
 あまりの変わりように、今度は逆にジュンイチの方が尻込みしてしまう。
「わかりました! じゃあこっちはお願いします!
 それじゃあ、さっそく行ってきますね!」
 言って、ジーナはものすごいスピードで大須のアーケードの中へと消えていった。
「……よかったの? お兄ちゃん」
「言うな。泣き顔にはどうも逆らえん……」
 あずさの問いに、ジュンイチはため息まじりにつぶやき――付け加えた。
「それに……すぐに戻ってくるよ。あいつ」
『…………?』
 ジュンイチの言葉にあずさとブイリュウが顔を見合わせ、30分――
 ジーナは、すっかりショゲ返って戻ってきた。
「どうしたの? ジーナさん」
「いいパーツ……ありませんでした……」
 あずさの問いに、ジーナは元気のないまま答える。
「ジュンイチ――もしかして、このオチ予測してた?」
「まーな」
 足元で尋ねるブイリュウに、ジュンイチが答える。
「秋葉原でさんざ良品買い漁った後だ。それ以上の品なんて、規模で劣る大須でそうそう見つかるワケねぇからな」
「あ、そっか……」
 ジュンイチの言葉にブイリュウが納得すると、
「じゃあどうして教えてくれなかったんですかぁっ!」
 ジーナが半泣き状態で抗議の声を上げる。
 しかし、ジュンイチはそんなジーナにサラリと告げた。
「しつけだ。
 一度失敗すれば、それが教訓になって二度とやるまいて」
「……は、はぁ……」
 ジュンイチの言葉に、ジーナがどこか引っかかるものがあるもののとりあえずうなずき――
『――――――!?』
 ジュンイチとジーナはその気配を感じ取った。
「この感じは……まさか瘴魔!?」
「たぶんそうです!
 行ってみましょう!」

 ドゴォンッ!
 強烈な電波を受け、店頭に並べられた家電が次々に爆発する。
 逃げ惑う人々や炎の中、その瘴魔獣は姿を現した。
 家電を媒介にしているようだが、その身体を構成している家電はどれも古いものばかりである。
 と――
「待ちやがれ!」
 ジュンイチが言い、ジーナやブイリュウと共にやってきた。
 あずさは、安全のため青木の元へと帰らせてある。
「ん? 何だ? てめぇら」
「ンなの決まってんだろ! お前をブッ倒す者だよ!
 ブイリュウとジーナは逃げ送れた人達を頼む!」
 瘴魔獣に言い返し、ジュンイチはジーナとブイリュウに指示を出す。
「ってなワケで、時間ももったいないからとっとといくぜ!」

「ブレイク、アァップ!」
 ジュンイチが叫び、眼前にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
 その光は紅蓮の炎となり、ジュンイチの身体を包み込むと人型の龍の姿を形作る。
 ――ブァッ!
 ジュンイチが腕の炎を振り払うと、その腕には炎に映える蒼いプロテクターが装着されている。
 同様に、足の炎も振り払い、プロテクターを装着した足がその姿を現す。
 そして、背中の龍の翼が自らにまとわりつく炎を吹き飛ばし、さらに羽ばたきによって身体の炎を払い、翼を持ったボディアーマーが現れる。
 最後に頭の炎が立ち消え、ヘッドギアを装着したジュンイチが叫ぶ。
「紅蓮の炎は勇気の証! 神の翼が魔を払う!
 蒼き龍神、ウィング・オブ・ゴッド!」

「爆天剣!」
 ジュンイチが叫び、取り出した木刀が爆天剣へと変わり、
 ガキィッ!
 瘴魔獣の手にしたドライヤー型トンファーと激突する。
「てめぇ、ブレイカーかよ!
 ムザムザやられてたまるか!」
 言って、瘴魔獣はジュンイチを押し返し、
「くらえ! エアコンファイヤー!」
「ぅわわわわぁっ!」
 いきなり右肩のエアコンから放たれた炎を、ジュンイチはあわててかわす。
「くら待てぇっ! なんでエアコンが火ぃ噴くんだよ!」
「気にするな! こいつは暖房機能が壊れた廃品だ!」
「なるほど!」
 納得するなジュンイチ。
「そんなワケで、お次はこれだ!
 傷入りCDカッター!」
「ぅわっと!」
 言って、瘴魔獣の投げつけたCD状のカッターを、ジュンイチは必死に身をひねってかわしていく。
「くっそぉっ! 調子ン乗ってんじゃねぇ!」
 ジュンイチが言い、爆天剣をかまえ、
「傷入りCDは――修理屋さんに持ってけっての!」
 バキィンッ!
 迫り来るCDカッターをまとめて薙ぎ払う。
「さぁ、お次は何だ!?」
 ジュンイチが言うと、瘴魔獣はスッと頭上を指さす。
「…………?」
 つられて、ジュンイチも頭上を見上げ――そこには投げ上げられた大量の使い古し電球。
 今までの流れからして、あれはおそらく――
「――どえぇぇぇぇぇっ!?」
 それに気づいたジュンイチが絶叫し、電球が降り注ぎ、
 ドドドドドォンッ!
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 電球は次々に爆発を起こし、ジュンイチはその爆発の中に消えた。
「へっ、オレ様のジャマをするからだよ」
 言って、瘴魔獣はその場から立ち去っていった。

「あー、くそっ! 腹立つ!」
 騒ぎも収まり、大須観音へと戻ってきたジュンイチが腹立たしげに毒づく。
 その場には、あずさに起こされちょっと不機嫌そうな青木もいる。
「けど、変ですね……
 物を媒介にした瘴魔獣が、そんなに強いはずないんですけど……」
 ジーナが言うと、となりであずさが首をかしげ、
「ってことは、今までの物を媒介にした瘴魔獣はみんな弱かったの?」
「えぇ。
 元々瘴魔は負の思念が実体化したものですから、肉体が意志によって支配されている生き物を媒介にした方が、より力を発揮できるみたいなんです」
 ジーナがあずさに答えると、
「……待てよ……?
 ひょっとして……」
 その会話から、何かに気づいたジュンイチがポツリとつぶやき、
「なぁ、ジーナ。それが本当なら、そこで問題になってくるのは媒介の意志の有無ってことだよな?
 だったら、ある程度意識体みたいなもんが宿っていれば、たとえ物を媒介にしていたとしても、強い力を発揮できることにならないか?」
「え……?
 ……そういえば、確かにそうですね……」
 ジーナの答えを聞き、ジュンイチは「やっぱり……」といった顔で再び考え込む。
「……ジュンイチ?」
 青木が声をかけると、ジュンイチは言った。
「だとしたら……あいつが媒介にしているのは家電じゃない。
 家電に宿った付喪神つくもがみを媒介にしてやがったんだ」
『付喪神……?』

【ジュンイチくんの雑学講座:「付喪神って何じゃらホイ?」】
 付喪神とは、何代にも渡って永く使われていた道具などに、持ち主の愛着などの思念が徐々に刷り込まれていき、やがて意志を持ったものの事である。お化けを扱った絵本などに登場する唐傘お化けや提灯お化けがこれにあたる。
 別で「九十九神」と書かれることもあり、昔の人々は99年から百年ほどの使用で付喪神になると考えていたらしい。
 また親が食事を残す子供に言う常套句「もったいないお化けが出る」というのも、この付喪神の考えがあったからこそであると思われる。

「……ってなワケだ。
 もちろん、愛着が強ければそれだけ早く付喪神になれることになるし、現代の家電とかにもそれが当てはまらないとも限らない。
 たぶん、あの瘴魔獣はそういう付喪神を媒介にして生まれたんだ。身体を作っていた家電が古いものばかりだったのも、きっとそのせいだよ」
『ふーん……』
 ジュンイチの説明に、ジーナ、あずさ、ブイリュウはそろって納得する。
「けど、今の家電製品がそんなに長持ちするものなの?」
「おいおいブイリュウ、甘く見てもらっちゃ困るな。
 うちの家の電子レンジとジャーは共に25年物だけど、まだまだ新品並に現役だぜ」(作者実体験済)
 ジュンイチがブイリュウに答えると、あずさがジュンイチに言った。
「それはいいけど……どうやってヤツに対処するの?
 話脱線してたけど、むしろ問題はそっちでしょ?」
「う゛っ……痛いトコついてきやがったな……
 CDカッターがあるから正面からはムリだし、左側にはエアコンファイヤー。右に回ってもたぶん電球爆弾で対処されちまう。
 後は後ろからしかないんだけど……近づけない状況で回り込もうとしても、すぐにバレちまうよなぁ……」
 言って、ジュンイチが考え込むと、ブイリュウが言った。
「ねぇ、着装したジーナのスピードなら、なんとかならないかな?」
「そっか。ランド・エンジェルのダッシュスピードと小回りなら、ヤツの攻撃をかいくぐることも可能だよな?」
 ブイリュウの言葉に青木が納得するが、
「けど、それには私のプラネルがいないと……」
「あ、そっか……
 オレも戦う以上、ブイリュウはオレの方に“力”を回さなきゃいけないし……」
 ジーナの言葉に、ジュンイチが考え込む。
「そういえばまだなの? ジーナさんのパートナープラネルって」
「あ、そういえば……
 もう約束の時間はとっくに過ぎてるんですが……」
 あずさの言葉にジーナが周囲を見回して言うと、
「ふわぁ〜あ〜……」
 いきなり、彼らの頭上――屋根の上からあくびが聞こえてきた。
『……まさか!?』
 あわてて、ジュンイチ達は境内へと飛び出して屋根を見上げ――そこには一頭の子ライオンが寝ぼけ眼をこすっていた。
 と――それを見たジーナが声を上げる。
「ら、ライム!」
「えぇっ!?
 じゃあ、あの子がジーナさんの?」
 ジーナの言葉にあずさが声を上げると、子ライオンはジーナに気づき、
「あぁっ! ジーナ!
 やったぁ! やっと会えたぁっ!」
 言って、そのままジーナの胸の中へと飛び込んでくる。
「……ってコトはこいつ、オレ達が来る前からあそこにいて……」
「待ってるうちに、寝ちゃってたみたいだね……」
 青木とブイリュウが言うと、子ライオンはジュンイチに気づき、
「あやや? ジーナ、この精霊力持ってるお兄ちゃん誰?」
「あぁ、彼が炎のブレイカー、柾木ジュンイチさんよ」
 ジーナが答えると、子ライオンはジーナの腕の中から飛び降り、
「そうなんだ、よろしく!
 ボク、ライム! ジーナのパートナープラネルだよ!」
「お、おぅ……」
 子ライオン――ライムの自己紹介に、青木は半ばあきれながら応える。
「――おいブイリュウ。
 ずいぶんとお子様じゃないか? こいつ」
「そりゃそうだよ。
 ライムは、オイラ達の中じゃ一番後に生み出されたプラネル。兄妹に例えるなら末っ子だから……」
 かがんで耳打ちしてくる青木にブイリュウが答えると、ライムはそんな二人に首をかしげ、
「どぉしたの? お兄ちゃん達」
「あ? いや、何でもねぇよ」
 青木が答えると、ジーナはさっきからジュンイチが黙り込んでいるのに気づいた。
「どうかしましたか? ジュンイチさん」
 不思議に思ってジーナが尋ねると――その原因に気づいたあずさが声を上げた。
「じ、ジーナさん!
 ライムちゃん連れて逃げて!」
「え――――――?」
 あずさの言葉に疑問の声を上げるジーナだったが――すでに手遅れだった。
「のぉぉぉぉぉっ! かわいすぎるぜこんちくしょぉぉぉぉぉっ!」
 次の瞬間、見事にブッ壊れたジュンイチによってライムはしっかりと捕獲されていた。そのままガッチリと抱きしめられてほお擦りされる。
「ふみゃぁぁぁぁぁっ!?
 じ、ジーナ、助けてぇぇぇぇぇっ!」
「え、えーっと……」
 普段のそれとは文字通り豹変したジュンイチと突然のことに悲鳴を上げるライムを前に、ジーナは説明を求める視線をあずさに向け――あずさはため息をついて説明した。
「あのね、お兄ちゃんって実はすっごくカワイイもの好きなところがあるの。
 特に小動物の類が大好きで……」
「ストライクゾーンのド真ん中だったんですね、ライムが……」
 あずさの説明に、ジーナは思わずため息をついてうめく。
「けど、オイラの時は何ともなかったよね?」
「たぶん、いろいろ驚いてたせいでテンパってたんじゃないかな?」
 尋ねるブイリュウにあずさが答えると、今度はジーナが彼女に尋ねた。
「それで……この壊れたジュンイチさんを元に戻す方法は?」
「こうするの」
 そう答えると、あずさは右手を握り――スパークが走った。

「まったく……カワイイ動物見るとすぐソレなんだから」
「面目ない」
 あきれて告げるあずさに、彼女の雷光弾をまともにくらい、少しばかりすすけているジュンイチはさすがに申し訳なさそうに答える。
 そして、ジーナはライムをまるでジュンイチから遠ざけるかのように抱き上げ、
「とにかく、これで私も着装できます。
 あとはあの瘴魔を見つけ出せば……」
「そうだな。
 なんとか、次の被害が出るまでに見つけないと……」
 ジーナの言葉に青木が言って考え込むと、あずさが手を挙げ、
「あー、ちょっといいかな?」
「あん? どうした? あずさ」
「さっきのお兄ちゃんの話だと、その瘴魔獣って、電気屋さん襲ってたんでしょ?
 前に戦ったヤツはただ暴れ回るだけだったのに……
 だからそれがあいつを探すヒントにならないかな?」
「……そういえば……」
 あずさの言葉にジュンイチがつぶやき――
「……なるほど……そういうことか……」
 何か気づいたらしく、笑みを浮かべてそうつぶやいた。

「へへっ、次はここだ……」
 言って、瘴魔獣はさっき暴れていた現場から少し離れた電気街に姿を現した。
 その姿を見て、人々は悲鳴を上げ逃げまどうが、瘴魔獣はかまわず、目の前の電気屋へと狙いを定め――
「そうは――」
「――――!?」
「いきません!」
 ズガァッ!
 叫びと共に飛び出してきた、着装したジーナの一撃を、瘴魔獣は身をよじって紙一重でかわす。
「ジュンイチさんの読み通り、やっぱり電気屋を狙ってきましたね!」
「あぁ。
 こいつが古い家電でできてるってこと、それから電気屋を襲ってたってことから、ひょっとしたらって思ったんだ」
 ジーナの言葉に答え、やはり着装したジュンイチがとなりに着地する。
 ブイリュウ、ライム、あずさは青木の指示で周りの人達の避難にあたっている。
「こいつ、古い家電の集合体だからさ、新品に嫉妬して電気屋を襲ってるんじゃないか、って思ったんだ。
 そして、そして、そいつぁ見事に大当たりってワケだ♪」
 言って、ジュンイチは瘴魔獣へと指を突きつけ、
「さぁ! さっきの借り、思う存分返させてもらうぜ!」
「へっ、ほざくな!」
 ジュンイチの言葉に言い返し、瘴魔獣は電球爆弾を取り出し、ジュンイチ達に向けて投げつける!
「ジュンイチさん!」
「わかってる!
 オレ相手に、一度見せた技は通じないぜ!」
 ジーナに答え、ジュンイチはゴッドウィングを広げ、
「フェザー、ファンネル!」
 その叫びに、ゴッドウィングから放たれた光が多数の鳥の羽毛を形作り――次の瞬間にはファンネルへと変わり、
 ズォビュアァッ!
 一斉射撃で電球爆弾を蹴散らしていく。
「ジーナ!」
「はい!」
 爆煙で互いの存在が見えなくなり、ジュンイチの指示にジーナがうなずいた。

「くそっ、あいつら、どこ行きやがった!?」
 ジュンイチ達の姿を見失い、瘴魔獣がうめき――
「ウィング、ブーメラン!」
 ジュンイチの叫びと同時、煙の中から巨大なブーメランが飛び出してくる!
「ちぃっ!」
 瘴魔獣がとっさにそれをかわすが、切り裂かれた煙の向こうでジュンイチが戻ってきたウィングブーメランをキャッチし、
「ウィングキャノン!」
 瞬時にゴッドウィングをウィングキャノンに変え、瘴魔獣に向けて二条の閃光を放つ!
「くそっ!」
 瘴魔獣がそのビームもかわし――気づいた。
「おい! もうひとりはどこに行きやがった!」
 “たったひとりで”佇むジュンイチに瘴魔獣が叫び――
「――ここですよ!」
 背後に現れたジーナがそれに答え、
 ズガァッ!
 グランドトンファーの連打が瘴魔獣の右肩のエアコンを破壊し、CDカッターと電球爆弾を瘴魔獣の手から叩き落す!
「ジュンイチさん! 今です!」
「おぅ!」

「ウィング、ディバイダー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドウィングがキャノン形態に変形、さらに両バレル内側の装甲が展開され、一対の反応エネルギー砲となる。
 そして、ジュンイチは銃口を瘴魔獣に向け、
「ウィングディバイダー、チャージ!」
 ジュンイチの叫びと同時、ウィングディバイダーの放熱デバイスがすべて開放、精霊力を攻撃エネルギーに変換、さらに高出力に収束していく。
 そして、ジュンイチは両キャノンの下部にセットされたトリガーを握り、
「ゼロブラック――Fire!」
 叫ぶと同時にトリガーを引き、
 ズドゴォッ!
 放たれた閃光が、瘴魔獣を直撃する!
 そして、瘴魔獣の身体に“封魔の印”が浮かび、
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣は大爆発し、消滅した。

 その様子を、アーケードの上から眺めている仮面の少年の姿があった。
 以前、東京で瘴魔獣を巨大化させたあの謎の少年である。
「……ちっ、少し“力”を上げてやっただけで調子に乗るからだ……
 やはりオレが手を下さねば……」
 言って、少年は手をかざし――

「――いた! やっぱりアイツも来てやがった!」
 アーケードの上の少年の姿を見つけ、青木が声を上げる。
 と、少年が手をかざし――その手のひらから“力”が放たれるのを、青木はハッキリと知覚していた。
「――――――!?
 なんだ、今のは……!?」
 未知の感覚に戸惑い、青木がうめくと、
「あ、青木さん!」
 あずさが声を上げ、瘴魔獣が巨大化して復活する!
「今の感覚のコトは後だ!
 とにかく、今はヤツを!」
 言って、青木は少年の姿を追っていった。
「あぁっ! 青木さん!」
 ブイリュウが声を上げると、
「何やってんだ、ブイリュウ!」
 ジュンイチがブイリュウに檄を飛ばす。
「ゴッドドラゴンを呼ぶ! ゲートを頼む!
 ジーナはライムと、お前のブレイカービーストを起こしてこい!」
「は、はい!」
 ジュンイチに言われ、ジーナはライムのもとへと走る。
「よっしゃ、いくぜ、ブイリュウ!」
「うん! いっくぞぉっ!」
 その言葉と共に、ブイリュウの身体から“力”があふれ出し、
「オープン、ザ、ゲート!」
 ブイリュウが上空へとその“力”を解き放ち、“力”は上空の空間に穴を開け、
「グァオォォォォォンッ!」
 その中から、ゴッドドラゴンが飛び出してくる。
「ジュンイチ!」
「任せろ!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 ゴッド、ブレイカー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドドラゴンが翔ぶ。
 まず、両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形で分離。アームはスネの中ほどを視点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。
 続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状のパーツが展開されて肩アーマーとなる。
 両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。
 頭部が分離すると胸に合体し直し胸アーマーになり、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。
 分離した尾が腰の後ろにラックされ、ロボットの頭部が飛び出すと人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
 最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「ゴッド、ユナイト!」
 ジュンイチが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイと額のBブレインが輝く。
「龍神合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」

 ――ズンッ!
 合身を完了し、ゴッドブレイカーが着地し、
「龍の力をその身に借りて、神の名の元悪を討つ!
 龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」
 あふれ出すエネルギーで周囲がスパークする中、ジュンイチが口上を述べる。
「さぁ! とっととおっ始めようか!」

「ここに……?」
「うん!」
 ジーナの問いに、ライムが力強くうなずく。
 彼女は、ライムに導かれるまま、大須観音の本殿の前にやってきていた。
「ボクのマスターは、ここに眠ってるの。
 そして昔の人達は、その精霊力を感じたんだろうね。その“力”を活かそうとして、ここに大須観音を作ったんだよ」
「大須が発展したのは、ブレイカービーストのおかげだったんですね……」
 つぶやき――ジーナはブレイカーブレスを見つめた。
「……ジュンイチさん……今行きます!
 さぁ、目覚めて! 私のブレイカービースト!
 汝の名は――!」

「グァアァァァァァッ!」
 咆哮し、瘴魔獣がエアコンファイヤーの火炎を放つが、
「ゴッド、プロテクト!」
 ジュンイチもそれをゴッドプロテクトで反射させ、後から放たれた炎にぶつけて相殺する。
 その様子を、少年はアーケードの上から見つめていたが、
「おい! てめぇ!」
 いきなりの声に振り向くと、そこにはアーケードを登ってきた青木の姿があった。
「お前、何もんだよ!
 どうして、瘴魔獣を巨大化させられるんだ!?」
「……別に。
 オレはヤツに“力”を与えているワケじゃない。ヤツが“力”を集める手助けをしているだけだ」
 青木の問いに、少年は気にする様子もなく淡々と答える。
「だいたい貴様こそ何様のつもりだ?
 ブレイカーでもないのに――」
 言いかけ――少年は言葉を切った。
 そのまま、青木を観察するかのようにまぢまぢと見つめる。
「……なるほど、そういうことか」
「お、おい、何ひとりで勝手に納得してんだよ!」
 言って、青木が少年へと近づき――
 ――ドォッ!
 少年から放たれた漆黒の波動が、青木を押し戻す!
「くっ……!」
 青木が波動に耐えて踏みとどまり――すでに、少年の姿は消えていた。
「……くそっ。
 何なんだよ、あいつ……!」

 ――ズンッ!
 瘴魔獣の電球爆弾をかわし、ジュンイチは身をひるがえして着地する。
「くそっ、相変わらず近寄れねぇ!
 こうなりゃ火力で圧倒するしかないか……!?」
 瘴魔獣を見据えてジュンイチがつぶやくと、瘴魔獣は再びかまえ――
 ドガァッ!
 横からの体当たりを受け、瘴魔獣はもんどりうってひっくり返る。
 そして、ジュンイチゴッドブレイカーのとなりに着地したのは、1体のライオン型のロボットだった。
「こいつぁ……?」
 ジュンイチがつぶやくと、
「ジュンイチさん、お待たせしました!」
 ライオン型ロボのコックピットで言うのはジーナである。
「ジーナ!?
 じゃあ、そのロボットが……」
「えぇ。私のブレイカービースト――ランドライガーです!」
 ジュンイチに答え、ジーナはランドライガーがそうしているように瘴魔獣を見据える。
「よっしゃ、一気に叩くぜ!」
「はい!」
 ジーナがジュンイチに答え、二人は一直線に瘴魔獣へと突っ込む!
「グオォォォォォッ!」
 咆哮し、瘴魔獣がCDカッターを放つが、
「クラッシャー、ナックル!」
 ジュンイチの放ったクラッシャーナックルがCDカッターを蹴散らし、
「えぇいっ!」
 ドガァッ!
 ジーナランドライガーの体当たりが、瘴魔獣をブッ飛ばす!
「やったぁ!」
 瘴魔獣から離れ、ジーナが声を上げるが、
「いや……まだだ!」
 ジュンイチが言うと、瘴魔獣がゆっくりと立ち上がる。
「やっぱ、軽量級のランドライガーじゃ大したダメージにゃならねぇか……
 かと言って、ゴッドブレイカーの機動性じゃ、間合いに入ることすらできないし……」
 ジュンイチがうめき――脳裏に“その情報”が閃くようによぎった。
 この感覚の正体は――
「今のは……!?
 ゴッドドラゴン、お前か……?」
 そう。それは、ユナイトしているジュンイチの精神に直接送られた、ゴッドドラゴンからのメッセージだった。
「――そうだな……それがホントなら、可能性はある!」
 ジュンイチが言うと、
「ジュンイチさん!
 今、ランドライガーが!」
 彼女もランドライガーから同じようなメッセージを受け取ったのだろう、ジーナがジュンイチに言う。
「お前にもわかったんなら都合がいい。説明の手間が省けた。
 よっしゃ、いくぜ!」
「はい!」

「ゴッドブレイカー!」
「ランドライガー!」
『爆裂武装!』
 ジュンイチとジーナが叫び、ゴッドブレイカーを追ってランドライガーがバーニアで飛び立つ。
 そして、ランドライガーの脚部が畳まれ、大きく開いた口腔内にビーム砲の銃口がその姿を現す。
 そのまま、ランドライガーの変形したビーム砲はバーニアで加速し、ゴッドブレイカーに追いつくとその右肩に合体する。
『ゴッドブレイカー、ライガーショットモード!』

「さぁ、反撃開始だぜ!」
 ジュンイチが言って身を沈め――
 ――ドンッ!
 轟音と共に大地を蹴り、今までとは比較にならないスピードで瘴魔獣へとダッシュする!
 あわてて、瘴魔獣は電球爆弾をかまえ――
「おせぇ!」
 ジュンイチは信じられない反応速度で方向転換。一瞬にして瘴魔獣の背後へと回り込み、
「こん、のぉっ!」
 ドガァッ!
 そのままの勢いで放たれた回し蹴りが、瘴魔獣を弾き飛ばす。
「……なるほど、大した加速だぜ」
「というより……なんだか、足回りのパワーと強度がアップしてるみたいですね」
 ジュンイチとジーナが言い、ゴッドブレイカーは再び瘴魔獣へとかまえる。
 二人の言う通り、今の超加速は今までのようなバーニアによるものではなく、ジュンイチが大地を蹴って行なった動き、つまりフットワークによってもたらされたものだった。
 おそらく、このライガーショットモードは下半身周りの力場を強化することで、地上における機動性を飛躍的にアップさせる形態なのだろう。
「とにかく、これであいつの弾幕も怖くないぜ!」
 言って、ジュンイチは再び瘴魔獣へと突っ込み――瘴魔獣が突然右腕をまっすぐにかまえる。
 と、その右腕が巨大な砲身へと変わり――
「――!?」
 ジュンイチは直感的に危機を感じ取り、あわててバックダッシュに切り替え――次の瞬間、“何か”が高速でジュンイチの脇の下を駆け抜けていき、
 ドガガガガァッ!
 轟音と共に背後のビルを次々に貫いていった。
「な、何なんですか、今の……!?」
 ジーナが声を上げると、ジュンイチがそれに答えた。
リニアレールガンだ……
 あの野郎、最後の最後でとんでもない隠し種を繰り出してきやがった……!」

【ジュンイチくんの雑学講座・SF兵器編:「高速兵器・リニアレールガン」】
 リニアレールガンとは、その名の通り「磁力」によって弾丸を発射する長射程レールガンである。
 長いバレルの中全体に発生させた電磁力による反発作用を利用し、特殊合金製の弾丸を極超音速にまで加速し、相手めがけて発射する。要するにリニアモーターカーと同じ原理だと思ってもらえばいい。
 その弾速は秒速5km。500mの距離があっても0.1秒で着弾する計算となり、そのスピードからくる破壊力は、たとえ炸薬弾でなかったとしても、先ほどビルを貫いたように壮絶なものとなる。
 余談だが、SF作品の乱立する昨今において、別の原理で弾丸を加速するレールガンが多数現れたため、それらとの区別のため、名称にリニアモーターカーにちなみ「リニア」がつけられるようになっているが、本来「レールガン」という呼称はこの磁力式レールガンを指す名称である。

「……けど、切り札を使うんなら、最初の一撃で確実に仕留めるべきだったぜ!」
 言って、ジュンイチは再び瘴魔獣に向けて、“正面から”ダッシュをかける!
「ち、ちょっと、ジュンイチさん!
 リニアレールガンが――」
「心配ねぇ!」
 ジーナに言い返すジュンイチだが、瘴魔獣は再び彼らに狙いを定め、リニアレールガンをセットする!
 そして、瘴魔獣が発射に備え重心を落とし――ジュンイチの狙いはそこにあった。
「今だ!」
 ジュンイチが叫び――
 ――ギュオォンッ!
 ゴッドブレイカーの姿が消え、リニアレールガンの弾丸は、ゴッドブレイカーのいた空間を貫き、あさっての方向へと消えていった。
 そして――ジュンイチゴッドブレイカーは瘴魔獣の横手に、足で強引にブレーキをかけながら滑り込む!
「え――?」
 ジーナが疑問の声を上げるよりも早く、
「それ以上は、やらせねぇ!」
 ジュンイチの繰り出した、ゴッドセイバーによる斬撃が瘴魔獣の右腕――リニアレールガンの銃身を叩き斬り、続けて放った蹴りが瘴魔獣を吹っ飛ばす。
「う……うそぉ……」
 リニアレールガンの超高速弾をかわしたことが信じられず、ジーナが呆然とつぶやくと、そんな彼女にジュンイチが言う。
「おどかして悪かったな。
 リニアレールガンの長いバレルが、あいつにとって仇になった。おかげで弾道は丸わかりだ」
 そう。兵器の種類に関わらず、ロングバレルの武器と言うのは、基本的にその長い銃身の延長線が弾道となるため、その道に長けた人間ならば容易に弾道を予測できるのである。
 あとは発射のタイミングだが、これもジュンイチは発射の衝撃に耐えるべく瘴魔獣が身を沈める瞬間から判断し、回避不可能と言われるリニアレールガンの弾丸を回避できたのである。
 そして、ジュンイチはそのスキに再度間合いを詰め、
「ウィングアックス!」
 ズガガァッ!
 ゴッドウィングの変化したアックスが、瘴魔獣の両腕を叩き落す!
「よし、とどめだ!」
「はい!」

「さぁ、いくぜ!」
 ジュンイチが叫んでランドライガー改めライガーショットをかまえ、コックピットのジーナの前にはターゲットスコープとトリガーがエネルギー形成される。
 そして、ジーナはトリガーに手をかけ、
「ターゲット、ロック!
 ファイナルショット、スタンバイ!」
「おぅ!」
 ジーナの合わせた照準に従い、ジュンイチが狙いをつけ、ライガーショットにエネルギーがチャージされていく。
 そして、チャージが完了した瞬間、
『ライガーショット、グランド、フィニッシュ!』
 二人が叫ぶと同時、ジーナがトリガーを引き、
 ズドゴォッ!
 ライガーショットから放たれたビームが、瘴魔獣を貫く!
 そして、ゴッドブレイカーがかまえを解き、瘴魔獣の身体に“封魔の印”が刻まれ、
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣は大爆発し、消滅した。
 そして、ジュンイチとジーナが勝ち鬨の声を上げる。
『爆裂、究極! ゴォッドォッ! ブレイカァァァァァッ!』

「ふぅ、食った食った。
 やっぱ名古屋コーチンは焼き鳥に限るね♪」
 上機嫌で言い、ジュンイチは串で貫かれた焼き鳥を笑顔で頬張る。
「しっかし、全部のブレイカービーストがロボになるワケじゃねぇんだな」
「そうですね。
 私も、てっきりランドライガーもブレイカーロボになると思ってたんですが……」
 となりでたこ焼を食べる青木にジーナが答え、屋台のおじさんに大判焼のお金を払い、
「はい、ライム」
「うん! ありがと!」
 あずさに抱き上げられているライムが、元気に礼を言って大判焼を受け取る。
「けどジュンイチさん。
 さっきの戦いでをリニアレールガンかわした時、ゴッドブレイカー、瞬間移動したみたいに感じたんですけど……何だったんですか?」
「あぁ、アレか?
 ありゃな……」
 ジュンイチの説明をかいつまんで話すとこうである。
 相手がリニアレールガンを撃とうとしたあの一瞬、ジュンイチは踏み込んだ瞬間にバーニアと力場による反発ダッシュを同時発動、瞬間的な超加速と共に機体の位置をずらしてリニアレールガンの弾道から離れたのだ。
「……とまぁ、そういうワケだ。ぶっつけ本番だったけど、うまくいったもんだ。
 ま、あえて名づけるなら、『ライガー・シューティング』ってトコかな」
「はぁ……」
「それより、次はどこに行くんだ?」
「えーっと、北海道の十勝です」
 ジュンイチの問いにジーナが答えると、青木はロコツにイヤそうな顔をしてみせる。
「なんだよ、また長旅か。
 ガソリン代、大丈夫かなぁ……?」
「大丈夫ですよ。
 ガソリン代なら私が出してあげますから」
「お前がか?
 金がなくてジュンイチの家に居座ってんだろ? 金、大丈夫なのか?」
 青木が怪訝な顔で尋ねるが、ジーナは笑って、
「心配しなくてもいいですってば。
 実家からの仕送りもこの前振り込まれましたから、そのくらいのお金ならなんとかなります」
「……なら、いいけど……」
 ジーナに答え――
「……をい……」
 そんなジーナに、ジュンイチが声をかけた。
「だったら何か? 仕送りがなんとかなれば、お前オレんちに居座る必要ないんじゃねぇか!
 東京戻ったらアパート探してとっとと出てけ!」
「えー? また引っ越ししろって言うんですか!?
 荷物運ぶの大変なんですよ!」
「だからって健全な野郎の家に居座るな! 身の安全保障せんぞ!」
「ひとり暮らしの方がその意味の危険は大きいですよ! そういう時に助けてくれる人いないんですから!」
「オレはボディガードじゃねぇんだぞ!」
「助けてくれてもいいじゃないですか!」
 などと言い争いに突入する二人を無視して、青木はふとアーケードの天井を見上げてつぶやいた。
「けど……なんであの時、あのガキの“力”の流れがわかったんだ……?」

 しかし、その問いに答える者はおらず、彼のつぶやきは名古屋の青空へと消えていった。


Next "Brave Elements BREAKER"――

「北海道だぁっ!」
「ウニだ、カニだ、ラーメンだぁっ!」
「食べ歩きで来てるんじゃないんだぞお前ら」

「初めまして!
 あたしファイ・エアルソウル! 10歳です!」

「……オレは、あいつを連れていくのに反対だ」

「ファイちゃんは、ジュンイチさんが思っているより、ずっとしっかりしているんですから」

「くそっ、飛行能力じゃ完璧に負けてる……!」

「あたしは風のブレイカー、ファイ・エアルソウルだから!」

Legend06「飛翔」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2002/03/08)
(第3版:2005/04/17)