Legend06
「飛翔」
「北海道だぁっ!」
「ウニだ、カニだ、ラーメンだぁっ!」
「食べ歩きで来てるんじゃないんだぞお前ら」
フェリーから降り、大はしゃぎで言うジュンイチとブイリュウに、青木はサラリとツッコんでみせる。
「だってだって、せっかく北海道まで来たんだぜ。
やっぱりおいしいもの食べたいじゃんか、そうだろ?」
「まぁ、気持ちはわからんでもないが……」
ジュンイチの問いに、青木はあきれてうめく。
「ところでジーナ、次のブレイカーはどこにいるんだ?」
「そういえば……
迎えに来てくれるって、夕べ旅館から電話をかけた時に言ってたんですけど……」
気を取り直して尋ねる青木の問いに、ジーナが首をかしげて言うと、
「あー! ジーナお姉ちゃぁん!」
フェリーから降りる車の群れの向こうから元気な声が響いた。
「やっぱりそうだ!
よかったぁ、やっと見つかった……」
言って、ゆっくりと進む車を避けてやってきたのは、見たところ10歳前後といった感じの金髪の女の子。
「……まさか、この子が?」
ジュンイチがつぶやくと、女の子はジュンイチに気づき、
「……精霊力がある……
ひょっとして……お兄ちゃんが『炎』のブレイカーなの?」
「あぁ。
柾木ジュンイチだ。よろしくな」
ジュンイチが名乗るのを聞き、女の子は満面の笑顔を返し、
「やっぱりそうなんだ♪ 初めまして!
あたしファイ・エアルソウル! 10歳です!」
「こんな小さな子が?」
「あのなぁ、元自衛官のオレに言わせりゃ、10代で戦ってるジュンイチ達もじゅーぶん若すぎだと思うんだがな」
女の子――ファイの言葉に思わず声を上げるあずさに、青木が言う。
「ブレイカーの素養は遺伝的なものだからね。年齢は関係ないんだよ。
それに、小さい子供なら発想が……つまり“力”のイメージが自由だから、よりスマートに“力”を引き出せるんだ」
「へぇ……そうなんだ……」
説明するブイリュウにライムが納得すると、
「あ、ライム! 久しぶり!」
「わーい! ファイ、また遊ぼうね♪」
青木の車に駆け寄ってきたファイの言葉に、ライムは車から飛び出してファイの胸に飛び込む。
「ま、とにかく、すんなり見つかって何よりだな」
ジュンイチが言うと、
「ファイさぁん! 待ってくださいよぉ!」
声と共に、一体の鷲型の生き物がパタパタと飛んできた。
おそらく、こいつがファイのプラネルなのだろう。
「あ、ごめん、ソニック。
みんな、紹介するね。あたしのパートナープラネルの……」
「ソニックといいます。よろしくお願いしますね」
ファイに紹介され、ソニックは深々と頭を下げて名乗る。
「へぇ、ファイと違って礼儀正しいんだな。
どっちが保護者かわかったもんじゃねぇ」
「お兄ちゃん、どういう意味?」
ジュンイチのつぶやきにファイがちょっとムッとして言うと、
「おい、何バカやってんだ。
今夜の宿を探さないと、そろそろ時間的にマズいぞ」
地図を片手に青木が二人をたしなめるように言うが、
「あ、それなら大丈夫だよ」
ライムを抱っこしたまま、ファイが答える。
「あたしんちに泊まればいいよ。
パパとママに紹介してあげる!」
そして、車とバイクをカッ飛ばすこと1時間――
ジュンイチ達は十勝平野のド真中にある、1件の農場を訪れていた。
「ここがファイんちか?」
「うん!
お父さんもお母さんも大の日本好きでね、ここで農場をやるためにこの国に帰化したって言ってた」
ヘルメットを脱いで尋ねるジュンイチに答え、ファイは青木の車から降り、
「ただいまぁ!」
家に向かって声を上げた、次の瞬間――
――バンッ!
玄関のドアが根元から壊されそうな勢いで開け放たれ、
ドドドドドッ!
これまた猛烈な勢いで飛び出してきた“何か”がファイに飛びつく。
“何か”という言い回しをしたのは、飛び出してきた存在が、自らの巻き起こす土煙で見えなかったからだ。
「な、何なんだ……?」
ジュンイチがつぶやくと、土煙が収まっていき――
「おかえり、ファイぃ♪」
「帰ってきてくれたのね、マイ・スィート・エンジェル!」
「た、ただいま、パパ、ママ……!」
現れたのは、両親のあまりにも熱烈すぎる抱擁を受けて早くもちょっと酸欠気味に陥っているファイの姿だった。
「ご、ご両親だったんだ……」
「なんつーテンションだよ……」
あずさとジュンイチがあきれるとなりで、ジーナも思わず苦笑を浮かべる。
そうしている間にも、ご両親の愛の抱擁は続く。
「さぁ、愛しのファイよ! このパパの胸で遠慮なく安らぎを感じてくれぇっ!」
「パパってばズルい! ママだってファイちゃんに安らぎをプレゼントしたいのにぃ!」
「は、はぅ……ぁ……」
両親に超ハイテンションと共に抱擁され、ファイは安らぎを感じるどころかだんだんと危険領域に近づきつつあるようだった。
その証拠に――
「……なんか、ファイの顔が土気色になってきてるんだが……」
「そろそろ止めた方がよくない?」
青木とブイリュウが言い、二人はファイとそのご両親に向けて駆け出していった。
「さぁさぁ、どんどん召し上がってください!
本場十勝のミルクで作った乳製品料理です!」
言って、ファイの父はジュンイチ達を豪華な料理の並べられたテーブルへと案内する。
「おぉっ! すっげぇ!」
「よぉし、食べるぞぉっ!」
言って、ジュンイチとブイリュウが急いでテーブルにつくのを見ながら、ジーナ達もそれぞれの席へと向かう。
「しかし……また豪勢なもんだ」
「いいんですか? こんなハデにおもてなししてもらって。
ただでさえ泊めてもらうっていうのに……」
青木とジーナが言うが、ファイの父は笑って、
「なに、かわいいファイの友達です。私達にとっては、それこそが最高のおもてなしをするに値する理由なんです」
「そうね。ファイちゃんのお友達は、私達にとってもお友達だものね」
――ピクッ。
ファイの両親の言葉を聞き、ジュンイチは思わず食事にがっつく手を一瞬止めていた。
一見過保護にも見える態度だが、それだけ両親がファイに寄せる愛情は深い。それがわかったからである。
そして、ジュンイチにとってそれは――
「が、しかし!」
そんなジュンイチの思考をスパッと無視し、ファイの父はジュンイチの手をとり、
「聞けば、ファイはブレイカーとして悪いヤツらと戦わなければならないとのこと!
なにとぞ、なにとぞ我が家のスィートエンジェルをお守りください!」
「は、はぁ……」
そして、その後もファイについて熱弁を振るう両親に、ジュンイチは最後まで付き合わされるハメになったのであった。
「ふぅっ、いいお湯だったね」
「えぇ、本当に」
嵐のような食事も終わり、ジーナとあずさは入浴をすませ、浴衣姿で廊下を歩いていた。
ファイも一緒に入ったのだが、残念ながら寝室は別となり、自室に戻っているはずである。
と――
「ジーナ」
いきなりかけられた声に振り向くと、そこにはジュンイチが深刻な面持ちで立っていた。
最初、ファイの両親に付き合わされた気疲れかとも思ったが、ジーナはすぐにその考えを頭から追い払った。
確かに気疲れもあるようだが、それ以上に彼が深刻なことを考えているのがその眼差しから読み取れたからである。
「……話がある。ちょっといいか?」
「は、はい……」
「えぇっ!?」
ジュンイチの意見を聞き、ジーナが思わず声を上げる。
そんなジーナに、ジュンイチはハッキリと告げた。
「今言った通りだ。
……オレは、あいつを連れていくのに反対だ」
「そんな、どうして……」
ジーナが尋ねるが、ジュンイチは答えない。
「どうしてなんですか!?」
ジーナがさらに詰め寄って言うと、ジュンイチはようやく答えた。
「あいつに……オレやあずさと同じ思いをさせたくない」
「え……?」
「前にも話しただろ。オレ達は昔から両親が家を空けてたって。
だから……親のいない寂しさってもんは、よくわかってる……
それが、どれだけ辛いものかってこともな……
ファイは……まぁ、多少方向性に問題はあるけど……とにかく両親にすごく愛されてる。ブレイカーだからって、それを引き裂く権利はオレ達にはないはずだ。
あんな思いをするのは……オレ達だけでたくさんなんだよ……」
「ジュンイチさん……」
ジーナのつぶやきに、ジュンイチは振り向いて告げた。
「あいつが……ファイ自身がやる気になってる以上、説得してもムダだろう。
明日の早朝、あいつが起きる前にここを発つ。それでいいな?」
「け、けど……」
ジュンイチの言葉にジーナが反論しようとすると、
『――――!?』
瘴魔の気配を感じ取り、二人は気配のする方向へと振り向いた。
「ジュンイチさん!」
「あぁ!
最悪だ。よりによって……市街に出やがった!」
ドゴォンッ!
突き刺さった羽が大爆発を起こし、また1件のビルが崩壊する。
燃え上がる炎の中、瘴魔獣はその身を大地へと舞い降ろした。
漆黒の翼に鋭い眼光、そして頑強そうなくちばし――
どうやら、カラスを媒介にした瘴魔獣のようである。
そして、瘴魔獣は自らの翼から羽を数本抜き、別のビルへと振りかぶり――
「させるかぁっ!」
ドガァッ!
ジュンイチが叫び、ゴッドセクターで瘴魔獣を跳ね飛ばす。
そして、ジュンイチはゴッドセクターから降り、瘴魔獣へと向き直る。
「ったく、てめぇもなんでこんなタイミングで出てくれるかなぁ!」
ジュンイチが言うと、瘴魔獣は無言でジュンイチに向けて羽をかまえ――
「私も、いるんですよ!」
「――っ!」
追いついてきたジーナの攻撃を、瘴魔獣はとっさに上空へと飛び上がってかわす。
「なるほど、飛行タイプの瘴魔ってワケか……
あまり時間かけちまうと、ファイが来ちまうな……!」
言って、ジュンイチがかまえるが、ジーナはそんなジュンイチに尋ねた。
「ジュンイチさん……そんなにファイちゃんを戦わせたくないんですか?」
「あ?
ンなの、さっき説明しただろうが」
「けど……ファイちゃん本人の意見、聞いたワケじゃないんでしょ?」
「そ、そりゃそうだが……」
ジーナの意見に答えに詰まるジュンイチだったが、ジーナは笑って告げた。
「心配ないですよ。
ファイちゃんは、ジュンイチさんが思っているより、ずっとしっかりしているんですから」
「お兄ちゃん達、大丈夫かな……」
「二人がかりなんだ。なんとかなるだろ」
心配そうにつぶやくあずさに、青木が答える。
二人は、万一ファイが事態に気づいた時の足止め役としてエアルソウル家の玄関先に待機していた。
「それよりも、オレ達が注意しなきゃいけないのはファイだ。
オレの目から見ても、アイツぁそう簡単に自分を曲げるようなタイプじゃない。事態を知ったらきっと動く」
そして、青木は玄関のドアノブに手をかけ、
「こんなふうにな」
言いながら、青木は勢いよくドアを開け――
『……は……ははははは……』
そこには、こっそり二人の様子をうかがっていたファイとソニックがいた。
「やっぱり……
お前らも戦いに行くつもりだったのか?」
「う、うん……」
青木の問いに、ファイはバツが悪そうにうつむいて答える。
「これが遊びじゃないってのは、もうわかってるはずだな?」
「うん……」
「今度家を出たら、しばらく帰って来れないってこともわかるな?」
「うん……」
自分の問いに逐一答えていくファイの言葉を、青木は真剣な面持ちで聞いている。
「なら、これが最後だ。
……ヘタすりゃ死ぬんだぞ」
「わかってる……
……けど、あたし、この世界を守りたい!
パパやママを守りたいから!」
その答えに、青木はしばしファイの真剣な目を見つめ――笑みを浮かべて言った。
「……上等だ。
なら、見せてみろ、お前の覚悟ってヤツを」
「フェザー、ファンネル!」
ジュンイチが叫び、ゴッドウィングから放たれた光がファンネルへと姿を変え、瘴魔獣の放った羽手裏剣を迎撃、周囲が爆煙で覆われる。
「ちっ、ヤツぁ……どこだ!?」
とっさに周囲の気配を探るジュンイチだったが、
「遅い!」
ジーナの背後に、瘴魔獣が現れ、
ドガァッ!
「きゃあっ!」
翼による一撃がジーナを吹っ飛ばす!
「ジーナ!
くそっ、前回のオレ達と同じ手ってワケか……!」
ジュンイチがうめくと、
「まだまだ!」
瘴魔獣は地面を羽手裏剣で爆撃し、爆煙をさらに強くする。
「ちぃっ、やってくれるぜ!」
言って、ジュンイチは上空へと飛び上がるが、
「フッ、そこだ!」
瘴魔獣はジュンイチを上回るスピードで背後に回り込み、
バギィッ!
「ぅわぁっ!」
ジュンイチを地面に叩き落す!
「こん、のぉっ!」
それでも、ジュンイチはなんとか体勢を立て直して着地し、上空から放たれた羽手裏剣による追撃をかわす。
「くそっ、飛行能力じゃ完璧に負けてる……!」
言って、ジュンイチはさらに放たれる羽手裏剣をかわしていく。
「ジーナ! グランドトンファー投げつけるなり何なりして、あいつ叩き落せないか!?」
「ムリですよ!
ランド・エンジェルの武装じゃ、あんなスピードで飛び回ってる相手を狙うなんて……!」
ジュンイチの問いにジーナが答え――
「けど――あたしはできるよ!」
声と共に――ジュンイチの頭上を一陣の風が駆け抜け、
ドゴォッ!
「ぐわぁっ!」
放たれた圧縮空気の塊が、瘴魔獣を直撃する!
「――――――!?」
ジュンイチが振り向くと、そこにいたのは青木とあずさ、そして――
「大丈夫!? お兄ちゃん達!」
そう言いながら、二つのリング型精霊器「風天環」をかまえ、ソニックを後ろに控えさせたファイである。
今の一撃は、彼女が放ったものだったのだ。
「ふ、ファイ!?」
「あたしも戦うよ、ジュンイチお兄ちゃん!」
思わず声を上げるジュンイチに、ファイが答える。
「お兄ちゃんが心配してくれるの、すごくうれしいよ。
けど……だからって、戦うのをやめるなんてできない!
だって……あたしは風のブレイカー、ファイ・エアルソウルだから!」
「ファイ……」
決意の込められたファイの言葉に、ジュンイチはしばし彼女を見つめていたが、
「……ったく、ジーナの言った通りだったな」
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ」
聞き返すファイに、ジュンイチは苦笑してそう答え、
「よっしゃ。そこまで言うなら、一緒に戦おうぜ!」
「うん!」
開き直ったジュンイチの言葉に、ファイは笑顔でうなずいてみせる。
そして、ジュンイチとファイ、そして合流したジーナが瘴魔獣へと向き直り、
「ジーナ、オレと二人であいつの動きをなんとか封じるぜ。
フィニッシュは、この中で一番スピードに優れたファイに任せる」
「はい!」
「うん!」
ジュンイチの言葉に、ジーナとファイが答えてうなずき、
「よぉっし! それじゃあ、いくよ!」
言って、ファイがブレイカーブレスをかまえた。
「ブレイク、アァップ!」
ファイが叫び、頭上にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
その光は風を巻き起こし、ファイの身体を包み込むと大きな鷹の姿を形作る。
――ブワッ!
ファイが腕にまとわりついた風を振り払うと、その腕には鮮やかなスカイブルーのプロテクターが装着されている。
同様に、足の風も振り払い、プロテクターに加えて足首に風天環をアンクレットとして装着した足がその姿を現す。
そして、身体を包む風を振り払うと、彼女の身体にピッタリとフィットしたスリムなデザインに、鳥のそれを思わせる翼を持ったボディアーマーが現れる。
最後に額の風を振り払い、ヘッドギアを装着したファイが叫ぶ。
「清き心はみんなのために! 優しき疾風が悪を討つ!
旋風の荒鷹、ソニック・ラビット!」
「フンッ、今さらひとり増えたところで!」
叫んで、瘴魔獣がジュンイチ達に向けて羽手裏剣を放つが、
「フェザーファンネル!」
ジュンイチが叫び、生み出されたフェザーファンネルが彼らの周囲に集まり、
「フェザー、シールド!」
ジュンイチの叫びに反応し、互いにビームフィールドを放ってバリアとなり、羽手裏剣を防ぐ。
さらに、別のフェザーファンネルが瘴魔獣を追い、次々にビームを放つ!
「くっ、やってくれる……!」
瘴魔獣が必死にフェザーファンネルのビームをかわしながら言い――
「フェザーファンネルに、意識を捕らわれすぎですよ!」
バギィッ!
ジャンプして上方に回りこんでいたジーナが、グランドトンファーで瘴魔獣を叩き落す!
「動きを止めることだけに専念すれば、お前なんてメじゃねぇんだよ!
よっしゃ! 決めろ、ファイ!」
「うん!」
「ハウリングダガー、チャージ!」
ファイが叫ぶと、両足のアーマーから短剣型ツール・ハウリングダガーが射出、ファイがそれをキャッチすると彼女の周囲に風が巻き起こり、そこから風の“力”がハウリング
ダガーに収束していく。
そして、ファイは落下してくる瘴魔獣に向けて地を蹴り――
――ブワァッ!
周囲に巻き起こった竜巻が、彼女の跳躍を一気に加速させる!
そのまま、ファイは空中で身をひるがえし、
「咆哮の旋風!」
ズガァッ!
高速で回転しながら放った連続斬りが、瘴魔獣に叩き込まれる!
そして、ファイが一足先に着地し、吹っ飛ぶ瘴魔獣につけられた無数の傷に“封魔の印”が現れ――
ドガオォォォォォンッ!
瘴魔獣の身体は爆発を起こし、消滅した。
「さぁて、そろそろ出てくる頃かな……」
つぶやいて、青木が周囲を見回し――
「――いた!」
いつものように、仮面の少年がビルの上にいるのを見つけた。
そして、少年が“力”を解き放ち――瘴魔獣が巨大瘴魔獣となって復活する!
「あいつ! 今日こそ逃がさねぇ!」
言って、青木が少年のいるビルへと向かい、
「よっしゃ、オレ達もいくぜ!」
「はい!」
ジュンイチの言葉に、ジーナが答えた。
「エヴォリューション、ブレイク!
ゴッド、ブレイカー!」
ジュンイチが叫び、ゴッドドラゴンが翔ぶ。
まず、両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形で分離。アームはスネの中ほどを視点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。
続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状のパーツが展開されて肩アーマーとなる。
両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。
頭部が分離すると胸に合体し直し胸アーマーになり、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。
分離した尾が腰の後ろにラックされ、ロボットの頭部が飛び出すと人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「ゴッド、ユナイト!」
ジュンイチが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
システムが起動し、カメラアイと額のBブレインが輝く。
「龍神合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」
――ズンッ!
合身を完了し、ゴッドブレイカーが着地する。
「龍の力をその身に借りて、神の名の元悪を討つ!
龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」
あふれ出すエネルギーで周囲がスパークする中、ジュンイチが口上を述べる。
そして、
「オープン、ザ、ゲート!」
ライムが上空へと“力”を解き放ち、“力”は上空の空間に穴を開け、
「グァオォォォォォンッ!」
その中からランドライガーが出現、ジーナが乗り込む。
その様子を、例の少年は静かに見つめていた。
「さて……見たところ2体とも空中戦は得意分野ではないようだが……どう戦うか見ものだな」
言って――少年はため息をつき、
「ところで……その物騒なもの、しまってくれないか?」
背後で自分に向けて拳銃を突きつけている青木に言う。
「今日こそ答えてもらうぜ。
お前は何者だ? なんで瘴魔に力を貸す?」
「……オレは瘴魔だ、そう答えれば納得するのか?」
青木の言葉に少年が答え――
「――――――!?」
直感的に危機を感じ取り、青木がとっさに横に跳び、
――ボッ!
背後から飛来した、野球ボールほどの大きさの火球をかわす。
「何だ!?」
青木が声を上げると、
「よくやったぞ、メギド」
少年が言い――まだ子供のドラゴンが彼の元へと飛んできた。
「ドラゴン……?
まさか、プラネル!?」
青木が声を上げると、メギドと呼ばれたドラゴンは少年に言う。
「ねぇ、もうあいつ巨大化させたんだし、用事すんだんでしょ?
だったらもう帰ろうよ」
「わかっている」
メギドに答え、少年は青木に向けて言った。
「オレが何者か、そんなことは今にわかる。
そう……“お前がお前である限り”な」
「……何?
おい、どういうことだよ!?」
少年の言葉に青木が声を上げるが、そのまま少年は自らが生み出した闇に溶け込むように消えていった。
「……くそっ、なんだってんだよ……!?」
青木が毒づくと、
「――青木お兄ちゃん!」
そこへファイとソニックがやってきた。
「ファイ!?
何でここに?」
「ジュンイチお兄ちゃんが青木お兄ちゃんのガードについてくれって言うから……」
「そうか……そういうことなら、もう少し早く来て欲しかったんだがな」
ファイの言葉に、青木は少年の立っていた辺りを見てつぶやき、
「とにかく、オレはもう大丈夫だ。
それに今お前のフォローが必要なのは、オレよりもむしろジュンイチ達だ。
お前も早くブレイカービーストを」
「うん!
ソニック!」
「はい!」
青木に答えたファイの言葉にソニックがうなずき、
「オープン、ザ、ゲート!」
ソニックが上空へと“力”を解き放ち、“力”は上空の空間に穴を開け、
「来て! スカイホーク!」
「ピュアァァァァァッ!」
ファイの叫びに応え、その中からスカイブルーに染め抜かれた鷹型のブレイカービースト――スカイホークが飛び出してくる。
「いくよ! スカイホーク!」
「ピュアァァァァァッ!」
ファイの言葉に応え、彼女を乗せたスカイホークが天高く舞い上がる!
「グワオォォォォォッ!」
咆哮し、瘴魔獣の放つ羽手裏剣を、ジュンイチとジーナはゴッドブレイカー・ライガーショットモードとなってかわしていく。
「くそっ、これでどうだ!」
叫んで、ジュンイチがライガーショットのビームを撃つが、瘴魔獣はその攻撃を空中で軽々とかわしてしまう。
「あっちは空中、こっちは地上……圧倒的に不利だぜ!」
「けど、上から爆撃されている以上、空中に逃げるのも危険ですよ!」
ジュンイチの言葉にジーナが答え、さらに放たれた羽手裏剣をかわし――
「いっけぇっ!
スカイ、サイクロン!」
ドゴォンッ!
ファイの声と共に飛来した竜巻が、羽手裏剣を巻き込み、爆発させる!
「何だ!?」
ジュンイチが声を上げると、
「お待たせ!」
言って、ファイのスカイホークがやってきた。
「ファイ!
青木ちゃんは!?」
「大丈夫だったよ!
それより、さっさとあいつをやっつけちゃおう!」
「あぁ!
ジーナ!」
「はい!
ドライブ、アウト!」
ファイの答えを聞き、ジュンイチの言葉にジーナがランドライガーを分離させる!
「ゴッドブレイカー!」
「スカイホーク!」
『爆裂武装!』
ジュンイチとファイが叫び、ゴッドブレイカーを追ってスカイホークが加速していく。
そして、翼が根元からボディ下方――背中側から胸部側へとスライド、頭部が180度回転して後方に倒れ、バックパックユニットとなる。
そのままバーニアで加速し、ゴッドブレイカーに追いつくとその背中に合体、しっかりと固定される。
「アーマード・ドライブ!」
ファイが叫ぶと彼女の身体は光球に包まれ、ジュンイチがユナイトしているため無人となっているゴッドブレイカーのコックピットへと転送される。
『ゴッドブレイカー、スカイウィングモード!』
「グオォォォォォッ!」
合体したゴッドブレイカーに向け、瘴魔獣が羽手裏剣を放つが、
「バキューム、スライサー!」
ファイがスカイウィングから真空波を放ち、その全てを迎撃する。
「今だよ!」
「おぅ!」
ファイに答え、ジュンイチが瘴魔獣へと突っ込む!
とっさに防御を固める瘴魔獣だったが、
「甘いぜ!
お前なんか、羽手裏剣がなきゃ――」
言いながら、ジュンイチは素早く瘴魔獣の背後に回りこみ、
「ただのザコ敵なんだよ!」
そのまま、力いっぱい地上に向けて叩き落す!
「さぁて、フィニッシュといくか!」
「一気にいくぜ!」
「うん!」
ジュンイチの言葉にファイが答え、ゴッドブレイカーがスカイウィングを広げ、コックピットのファイの前にはターゲットスコープとトリガーがエネルギー形成される。
そして、ファイはトリガーに手をかけ、
「ターゲット、ロック!
ファイナルショット、スタンバイ!」
「おぅ!」
ファイの合わせた照準に従い、ジュンイチが狙いをつけ、スカイウィングの周囲に風が巻き起こり、それが激しさを増していく。
『スカイウィング、グランド、フィニッシュ!』
二人が叫ぶと同時、ファイがトリガーを引き――スカイウィングから放たれた2本の竜巻が、瘴魔獣を巻き込む!
そして、その中で瘴魔獣の身体に“封魔の印”が次々に刻まれ――完全に竜巻に身体をねじ切られ、瘴魔獣は大爆発を起こし、消滅した。
そして、ジュンイチとファイが勝ち鬨の声を上げる。
『爆裂、究極! ゴォッドォッ! ブレイカァァァァァッ!』
「………………」
ジュンイチは、目の前の難敵を前にどうしたものか思案に暮れていた。
ゆっくりと目をそらし、向こうで待機しているジーナ達に視線で助けを求める。
ジーナ達もおそらくその視線に気づいているだろう。しかし、彼女達も気づいてないフリをしてなんとかやりすごそうと必死である。
救援をあきらめ、ジュンイチはゆっくりと視線を戻し、
「あのー、いい加減放してあげちゃもらえないでしょうか……」
「いえいえ。我が家の天使の旅立ちの時なのです! もうしばらくこうしていたいです!」
ジュンイチの言葉に、ファイの父はそう言ってますますファイを抱きしめる腕の力を強め、
「そうよ! これからしばしの別れになるんですもの! このぬくもりをしっかり覚えておかないと!」
ファイの母も、同じようにファイにひしっとしがみつく。
その両親の熱い抱擁の中、ファイは――
――落ちていた。
こうして、ファイ・エアルソウルは旅立ちの瞬間の記憶がないまま仲間となったのだった。
「じ、ジュンイチさん!」
「ん?」
「……あずさちゃんが……いないんですけど……」
「じゃあ……あなたが、水のブレイカーなんですか?」
「ブレイカーのことを知ってるの?
あなた、一体……?」
「なんだか……怖いんです。
お兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなっちゃうみたいで……」
「大丈夫ですよ。
だって……あずさちゃん自慢のお兄さんなんですから」
「大海の大鷲、ウォーター・シンフォニー!」
Legend07「射手」
そして、伝説は紡がれる――
(初版:2002/06/09)
(第3版:2005/04/24)