Legend07
「射手」
「うわー♪ キレー♪」
車の外に広がる海を見て、ファイが喜びの声を上げる。
「おいおい、北海道にだって海はあるだろう?」
「もう、青木お兄ちゃんはわかってないなぁ。同じ海でも場所によって見え方なんて全然違うよぉ。
あたし、瀬戸内の海って初めてだもん!」
車を運転しながら笑って言う青木に、ファイは少しムッとして答える。
ファイとソニックを仲間に迎えた一行は、本州に入ると一気に南下、中国地方は広島にやってきていた。
「……ここに?」
「はい」
広島に入ってからさらにフェリーに乗って海を渡り、辿り着いた豪華な社を前に、ジーナがジュンイチに答える。
彼らがやってきたのは、広島の名所のひとつ、厳島神社である。
「こんなところに4人目のブレイカーが?」
「えぇ。
彼女の家系は代々厳島神社に仕える巫女の家柄なんだそうです。
だから、この時間は巫女の仕事でここにいるはずなんです」
青木に答え、ジーナは社務所に行き――
「……え? いない?」
「はい。彼女は今日は休みですから……」
聞き返すジーナに、出迎えた巫女さんがそう答える。
「……誰がここにいるって?」
「……ゴメンナサイ」
ジュンイチにため息まじりで言われ、ジーナはシュンとして謝った。
「しょうがねぇな。
今日のところは宿を取って、明日改めて来ようぜ」
先頭に立って市街を歩きながら、ジュンイチが一同にそう提案する。
「そうだな。
今日も1日運転しっぱなしだったし、オレはさっさと休みたい」
「あたしも賛成!」
青木とファイが同意し、
「そうですね。
あずさちゃん、私達も――」
言って、ジーナが最後尾を歩くあずさへと振り向き――その顔から血の気が引いた。
「じ、ジュンイチさん!」
「ん?」
あわてて声を上げたジーナに、ジュンイチが振り向き――彼女は青ざめた顔で言った。
「……あずさちゃんが……いないんですけど……」
「………………
……んなにぃぃぃぃぃっ!?」
「まいったなぁ、完全にはぐれちゃったよぉ……」
ひとり街を歩きながら、あずさがつぶやく。
「しょうがない、交番で電話を借りて……」
言いかけ――
――ィィィィィンッ……
「………………?」
何か波動のようなものを感じ、あずさは足を止めた。
「……何だろ……この感じ……
あたしじゃない……誰かを呼んでるみたい……」
こうなると、興味をそそられるのはさすがジュンイチの妹だけあるということか。
「……よし! 確かめよーっと!」
言って、あずさはその波動の発生元を追って駆け出した。
「いたか!?」
「ううん」
「こっちにもいませんでした」
集合場所に戻ってきたジュンイチの問いに、先に戻ってきていたライムとソニックが答える。
「ファイ、ジーナ、そっちはどうだ?」
〈ダメ。見つからないよ〉
〈こっちもです。
一応、一通り聞き込みもしてみたんですけど……〉
ブレイカーブレスに向けてジュンイチが言うと、ファイとジーナが中空に映像ウィンドウを開いて言う。
「ったく、あずさのヤツ、どこ行ったんだよ……!?」
イライラしながらジュンイチがつぶやき――そこへ青木が声をかけた。
「ところでジュンイチ」
「何だよ?」
「ブイリュウ……戻ってこないな」
その言葉に、一同の顔からまたもや血の気が引き、
「……二次災害を起こすなバカタレがぁぁぁぁぁっ!」
ジュンイチが頭を抱えて絶叫した。
――ィィィィィンッ……
「……あら?」
その波動を感じ取り、少女は足を止めた。
膝元まで伸びる長い黒髪を腰の辺りでまとめ、巫女装束に身を包んだ清楚な雰囲気を持つ美しい少女――
しかし、その居場所は、彼女のそんな雰囲気とはあまりにも似合わない場所だった。
ジャンク街なのだ。それもよほどのメカ好きしか寄らないようなパーツ屋のド真ん中。
しかしそんなことは気にも留めず、少女は感じ取ったその波動に意識を向ける。
「……何者かを誘っているようですね……
これは……調べてみる必要がありそうですね」
そう言うと、少女は店を出た。
見つけたばかりの、レアな旧式モーターユニット(状態良好)をきちんと購入して――
「ねぇ……なんでそんな面倒なコトするんだよぉ……」
傍らに立ち、自分の“力”を波動として放つ少年に、ちびドラゴン――メギドが尋ねる。
少年とはもちろん、今まで何度もジュンイチ達の前に現れていた、あの仮面の少年である。
「ここで生まれた瘴魔獣を探したいんなら、もっとバーッて波動送っちゃえばいいのに」
「それでは他のブレイカーに気づかれる。
それに狙いは瘴魔獣ではない。
オレが用があるのはヤツ――あの青木とかいう男だ」
少年がメギドに答えると、
「えーっと、この辺なんだけど……」
言って、あずさがそこへやってきた。
「……ほぅ、意外なヤツがかかったな」
「え……?
――あぁぁぁぁぁっ! あなたは!」
少年の言葉に、あずさが彼に気づいて声を上げ――その足元にいる、ブイリュウによく似たドラゴン――メギドの姿を見つけた。
「ぷ、プラネル!?
じゃあ、あなたもブレイカーなの!?」
「ブレイカーか、か……
正解とも言えるし、違うとも言えるな……」
あずさの問いに、少年は気を取り直して言う。
「どういうこと!?」
「ブレイカーといっても、すべてが善人ではないということだ」
「じゃあ……あなたはやっぱり……」
あずさがつぶやくと、少年は“力”で宙に浮かび上がり、
「オレは“影”を司るブレイカー、シャドープリンス。そしてこっちのドラゴンはプラネルのメギドだ。
本当は青木のヤツに用があったんだが、貴様が来てしまってはやりづらい。出直させてもらう」
「あ、待って!
青木さんに用って……どういうことなの!?」
あずさがとっさに声を上げるが、少年――シャドープリンスはメギドと共に姿を消した。
「……行っちゃった……」
あずさがつぶやくと、
「どうやら、魔の気配は去ったようですね」
「え――?」
いきなり後ろからかけられた声にあずさが振り向くと、そこにはさっきジャンク街にいた巫女装束の少女が立っていた。
「大丈夫ですか?
どうやらケガはないようですけど……」
自分に向かって駆け寄ってくる少女を見て、あずさは彼女の服装に気づいた。
「巫女装束……?」
「え? あ、はい。
あ、自己紹介がまだでしたね。私は水隠鈴香。厳島神社で巫女をしてまして……」
「厳島神社で!?」
(巫女さん……厳島神社……今のシャドープリンスさんの気配を感じてた……もしかして!?)
少女――鈴香のその答えに、あずさの脳裏である仮説が浮上した。
「じゃあ……あなたが、“水”のブレイカーなんですか?」
「ブレイカーのことを知ってるの?
あなた、一体……?」
――スタッ。
あずさの元から転移したシャドープリンスは、少し離れた辺りの路地裏に出現していた。
「で……どうするの?」
「フッ、このまま引き下がるのもおもしろくない。
少し……作戦の順番を入れ替えてやるのさ」
メギドに答え――シャドープリンスは空に向けて“力”を放った。
「そう……あなたのお兄さんが……」
「はい……『炎』のブレイカーとして、あなたを探しに来ているんです」
話を聞いて納得する鈴香に、あずさがうなずく。
二人は今、少女の案内で近くにあった喫茶店に入り話をしていた。
ここなら、他の人達の会話が適度な騒音になって、周囲の人達に自分達の会話がそうそう聞かれる心配はないだろう。二人にとってはちょうどいい密談場所だった。
「けど、どうしてひとりであんなところに?」
「あ、それが、お兄ちゃん達とはぐれちゃって……
それで探してたら、あのシャドープリンスっていうブレイカーが送ってた波動に気づいて……」
そこまで言って――あずさは表情を曇らせた。
「……どうしたの?」
鈴香の問いに、あずさは言った。
「なんだか……怖いんです。
ブレイカーにも、悪い人がいた……
ひょっとしたら、お兄ちゃんも……
だから……お兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなっちゃうみたいで……」
「……いないなぁ……」
「あぁ……」
青木のつぶやきに、ジュンイチがうなずく。
「ったく、二次災害のおかげで探す手間も倍だぜ……」
ジュンイチがため息まじりにつぶやき――
――ゾクッ!
「――――――!?」
瘴魔の気配を感じ、ジュンイチが顔を上げた。
「瘴魔か!?」
「あぁ!
くそっ、あずさもまだ見つかってないってのに……!」
青木に答え、ジュンイチは悔しそうに歯噛みする。
「とにかく、あずさはオレが探すから、お前はブイリュウを!
ブイリュウがいなきゃ、お前は戦えないんだからな!」
「あぁ!」
青木に言って、ジュンイチはあわてて駆け出した。
「瘴魔ですか?」
「えぇ……行かないと……」
いきなり顔を上げたのを見て尋ねるあずさに、鈴香は窓の外を見て言う。
「あずさちゃんも一緒に。
きっとそこに、お兄さんも来ますよ」
「う、うん……」
鈴香の言葉に、あずさは力なくうなずく。
そんな彼女に、鈴香は笑って言った。
「……大丈夫ですよ、きっと」
「え……?」
「確かに、ブレイカーの力そのものに善悪はない。その力を悪いことに使おうとする人だって、いないとは言えません。
けど……あずさちゃんのお兄さんは、あずさちゃんを今まで立派に面倒見てくれてきたんでしょう?」
「…………うん」
「だから大丈夫ですよ。
だって……あずさちゃん自慢のお兄さんなんですから」
「……そう、なのかな……?」
「そうですよ」
あずさの問いに、鈴香が優しく答え――ようやくあずさの顔に笑顔が戻った。
「……そうだね。
あたし、信じてみる!」
『ブレイク、アァップ!』
「森緑の獅子王、ランド・エンジェル!」
「旋風の荒鷹、ソニック・ラビット!」
着装してそう名乗りを上げると、一足先に駆けつけたジーナとファイが町で暴れ回る瘴魔獣の前へと立ちはだかる。
相手は真紅の身体をウロコで覆った、トカゲ種の瘴魔獣である。
「てめぇら、ブレイカーか!?
“あいつ”が言ってた通り、やっぱり現れやがったか!」
「……あいつ……?」
(もしかして……今まで瘴魔獣を巨大化させていた、あの少年……?
彼はやはり、私達にターゲットを絞ってきてる……?)
瘴魔獣の言葉に、ジーナは思わず一瞬黙考する。
が、敵を前にしての熟考はスキを生む。とにかく今は敵の撃退に専念するため、ジーナはすぐさま思考を戦闘状態に切り替えた。
「とにかく、いきますよ、ファイさん!」
「うん!」
言って、ジーナとファイが突っ込むが、
「くらえぇっ!」
ゴッ!
瘴魔獣が叫び、二人に向けて口から火炎弾を放つ!
「きゃあっ!」
「うわわわわっ!」
ジーナとファイがあわててそれをかわすと、彼女達の間を駆け抜けた火炎弾は背後に停めてあった車を直撃。車を完璧に『焼滅』させた上、その場に大きなクレーターを作り出す。
「な、なんて威力なんですか……!?
ジュンイチさんの炎と互角――ヘタをすればそれ以上かも……!」
ジーナが戦慄してうめくと、瘴魔獣が再び火炎弾の発射態勢に入る!
「くっ……!
陸天扇!」
とっさにジーナも懐から取り出した扇子を自らの精霊器・陸天扇に変え、
「大地よ、我らを守る壁となれ!」
その言葉と同時、アスファルトを砕いて目の前の地面が盛り上がり、分厚い壁となってジーナとファイを守る。
大地に干渉し、イメージ通りの形に変える、大地のブレイカーとしてのジーナの能力のひとつである。
しかし、
「へっ、そんな壁で!」
言うなり、瘴魔獣が再び火炎弾を放ち、
ドガオォンッ!
『きゃあっ!』
火炎弾の直撃を受けた防壁は、火炎弾そのものは防いだものの爆発の衝撃で四散。ジーナ達に破片が降り注ぐ!
「ブイリュウ!
おい、ブイリュウ!」
ブイリュウを探し、ジュンイチは街を駆け回る。
「くそっ、どこにいるんだよ、あいつぁ……!
あずさも見つからないし、瘴魔だって……!」
歯噛みしてジュンイチがうめくと、
「――ん?」
突如、それを感じ取って戦場の方へと振り向いた。
「この感じ……オレ達と同じ……?」
ジュンイチがつぶやくと、
「あー! 見つけた!」
いきなり、彼の背後から声がして、
「うわーん! やっと会えたよぉ!」
言って、人ごみの中から飛び出したブイリュウがジュンイチの後頭部にしがみつく。
「助かったぁ!
集合場所わかんなくなっちゃうし瘴魔の気配はするし、心配してたんだから!」
「心配してただぁ!? そいつぁオレのセリフだ!」
そう言い返すなり、ジュンイチはブイリュウを引きはがし、
「それよりブイリュウ、お前も感じてるだろ?
オレ達と同じような、けどジーナでもファイでもない“力”の気配……」
「うん……ジーナ達が戦ってる現場に向かってるね……
ひょっとして、鈴香さんかも!?」
「鈴香さん……? それが4人目のブレイカーの名前か……
とにかく行ってみよう!」
「ファイさん……大丈夫ですか……!?」
「う、うん……
なんとか、まだ戦えるよ……!」
全身に受けた破片の痛みに顔をしかめながら互いに声を掛け合い、ジーナとファイがヨロヨロと立ち上がる。
「へっ、まだ動けるのかい。
けど……次で終わりだぜ!」
そんな二人に向けて、瘴魔獣がとどめを刺すべく火炎弾の発射態勢に入り――
――ブシャァァァァァッ!
「ぅわぁっ!」
いきなり、地下から水柱が立ち上り、瘴魔獣へと大量の水が降り注ぐ。
とたん、
「ぐっ……くそっ……!」
瘴魔獣はいきなり苦しみ始め、その場にガックリとヒザをつく。
「ど……どうしたの……?」
ファイが呆然とつぶやくと、
「あの瘴魔獣の属性は“火”ですからね。“水”の属性の攻撃にはやっぱり弱いんですよ。
水道管を破裂させて、噴出した水に精霊力を込めて降らせました。これであの瘴魔獣はこの一帯では力が半減します」
言って、教鞭型の精霊器を片手に二人の前に現れたのは――
「久しぶりですね、ジーナさん、ファイさん」
『鈴香さん(お姉ちゃん)!』
声を上げるジーナとファイに、現れた鈴香は笑顔でうなずき、
「あ、あの……
はぐれちゃって、ごめんなさい……」
その後ろから、あずさが申し訳なさそうに顔を出す。
「二人とも、手ひどくやられてしまったみたいですね。
すぐ手当てしますから」
そう言うと、鈴香はすぐそばのビルの屋上に向けて叫んだ。
「ガルダー! カッコつけて出るタイミングうかがってないで、早く出てきてください! 着装しますよ!」
「は、はーい!」
その鈴香の叫びに答え、ビルの屋上から顔を出してきたのは、人の身体に鷲の翼と頭――鳥の化身、ガルーダの姿を彷彿とさせるプラネル、ガルダーだった。
ともかく、ガルダーは急いで鈴香のとなりに舞い降り、
「精霊力は十分ですね。
鈴香さん、着装可能です!」
「はい!」
ガルダーに答え、鈴香は左手に着けられたブレイカーブレスをかまえた。
「ブレイク、アァップ!」
鈴香が叫び、頭上にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
と、その光はみるみるうちに水へと変わり、鈴香の身体を包み込むと大きな鷲の姿を形作る。
――バシャァッ!
鈴香が腕にまとわりついた水を振り払うと、その腕には着物の袖によく似たデザインの白いプロテクターが装着されている。
同様に、足の水も振り払い、緋色で末広がりなデザインのプロテクターを装着した足がその姿を現す。
そして、身体を包む水を振り払うと、彼女のアームプロテクター同様着物をモチーフにしたボディアーマーが現れ、背中には鮮やかなマリンブルーの翼が生み出される。
最後に額の水を振り払い、ヘッドギアを装着した鈴香が叫ぶ。
「命を育む慈愛の海原! 優しき怒りが悪を断つ!
大海の大鷲、ウォーター・シンフォニー!」
「二人とも、今手当てしますよ!」
言って、鈴香はジーナとファイに向けて背中の翼を広げ、
「マリン、ヒーリング!」
彼女の言葉に、翼から水が霧状に放たれ、ジーナとファイの身体を包み込む。
すると、その霧を受けた場所から、傷がどんどん治っていく。
水は命の源――その言葉が示す通り、他者に活力を与え傷の回復を促す、それこそが彼女の能力なのだ。
「大丈夫ですか?」
「うん! もうすっかり平気だよ!」
尋ねる鈴香にファイが答えると、
「てめぇ……よくもやってくれたな!」
精霊力の込められた雨にかなりの消耗を許したものの、未だ闘志を失わない瘴魔獣が鈴香に向けてかまえる。
が、
「鈴香お姉ちゃん、ここはあたしに任せて!」
そんな両者の間に割って入ったのはファイである。
「さっきのお返し、してやんなきゃ!」
「へっ、さっき二人がかりでオレにやられたヤツが!」
元気に言うファイに言い返し、瘴魔獣が口腔内に火炎弾を生み出し――
「技の入りさえ読めちゃえば、炎なんてあたしの敵じゃないもん!
えぇいっ!」
言って、ファイが瘴魔獣に向けて右手を振るい――
「――――――っ!?」
瘴魔獣の表情が一変。今まで以上の苦悶の表情を浮かべる。
しかも、口の中に生み出したはずの火炎弾も消えてしまっている。
「知ってるよ! 酸素がなくちゃ、燃料もなしに炎は燃えることは出来ないんだよ!
さっきはいきなりでどうしようもなかったけど、今は違うんだから!」
そう。ファイは瘴魔獣の周りの空気中から酸素を奪うことで、瘴魔獣の生み出した炎を打ち消したのだ。
風を起こすだけでなく、空気そのものを操ることが出来る、ファイのブレイカーとしての能力である。
しかも、媒介が生命体である以上、瘴魔獣自身が生きるためにも酸素は必要であるため、そちらからもダメージを与えることができている。
大地属性のジーナにとっては不利な相手だったが、鈴香とファイには通じなかった。水と酸素不足のダブルパンチを受け、瘴魔獣はもう立っているのもやっと、といった状態である。
「さぁ、あたしがこのまま動き止めちゃってるから、鈴香お姉ちゃんで決めちゃって!」
「わかりました!」
「ウォーターボウガン!」
鈴香が叫ぶと、背中の翼が水を生み出し、それが弓の部分が巨大なボウガンの形に固まると彼女の専用ツール、ウォーターボウガンへと変わる。
「ウォーターボウガン、チャージ!」
鈴香の叫びに、ウォーターボウガンの形成時に生み出され、周囲に漂っていた余分な水が鈴香の左手に収束。精霊力で固められて一本の矢となる。
そして、鈴香はその矢を弦が引き絞られたウォーターボウガンにセットし、
「海神の審判!」
ズバシュゥッ!
放たれた矢は一直線に瘴魔獣へと突っ込み、真空で動きを止められているその身体に深々と突き刺さる!
そして、その矢を中心に瘴魔獣の身体に“封魔の印”が現れ――
ドガオォォォォォンッ!
瘴魔獣の身体は爆発を起こし、消滅した。
「……やはり、“水”のブレイカーが相手では“火”の瘴魔獣は不利だったか……」
ビルの上から戦いを見つめ、シャドープリンスがつぶやく。
「どうするの?」
メギドの問いに、シャドープリンスはしばし考え、
「……こちらの準備が整うまでにはまだ時間がかかる。
『炎』のブレイカーもまだ現れていないし、ここはヤツにもう少しがんばってもらおう」
そう言って、シャドープリンスはいつものように瘴魔獣の残留思念に“力”を送り、
「――グワオォォォォッ!」
瘴魔獣が巨大化して復活する!
「うわわわわっ! またこのパターンなの!?」
「そんな! こっちはジュンイチさんもまだ戻ってきてないのに!」
巨大化した瘴魔獣を前に、ファイとジーナがあわてて声を上げるが、
「二人とも落ち着いて!
私達もブレイカービーストで対抗するんです!」
そんな二人に、鈴香が落ち着いて言う。
「よぅし! ソニック!」
「ライム!」
ファイとジーナの言葉に、あずさ、ガルダーと共に少し離れて戦いを見守っていたライムとソニックがうなずき、
『オープン、ザ、ゲート!』
二人の叫びに、上空に二つのブレイカービースト召喚ゲートが生まれる。
そして、その中からそれぞれランドライガーとスカイホークが出現。それぞれのマスターを乗せると瘴魔獣と対峙する。
「ガルダー、私達も!」
「わかってますって!
オープン、ザ、ゲート!」
鈴香に答え、ガルダーもまた同様にゲートを開き、
「来て! マリンガルーダ!」
鈴香の叫びに応え、ゲートの中から大鷲型のブレイカービースト、マリンガルーダが出現する!
「行きますよ!」
言って、鈴香はマリンガルーダに乗り込むと瘴魔獣へと向き直り、
「まずは私の水で!
マリントルネード!」
翼から放った水竜巻で瘴魔獣を攻撃するが、
「グワオォォォォォッ!」
瘴魔獣には決定的なダメージを与えられず、逆に中途半端な攻撃で怒らせてしまう。
ムリもない。ゴッドブレイカーと比べて小型な部類の彼女達の機体と、ゴッドブレイカー並のサイズの瘴魔獣。同じサイズで戦っていたさっきまでとは、こちらの攻撃の有効性も違ってきているのだ。
「だったら!」
鈴香が決意と共に叫び、マリンガルーダは動きを止めて滞空すると目の前に大量の水を生み出す。
「水鷲……圧砕!」
鈴香の言葉を受け、生み出された水はマリンガルーダの頭ほどの大きさまで圧縮され、
「マリン、プレッシャー!」
完成した超圧縮水弾が、瘴魔獣へと放たれる!
しかし、瘴魔獣もその攻撃が自分にとってどれほど危険か悟ったようだ。大きくジャンプしてその一撃をかわすと、
「グワァァァァァッ!」
そのまま上空から、マリンプレッシャーの反動で動けずにいる鈴香のマリンガルーダへと襲いかかる!
『鈴香さん(お姉ちゃん)!』
ジーナとファイが声を上げ――
「クラッシャー――!」
『――――――!?』
「ナックル!」
ドゴォッ!
突如飛来した青い物体が、瘴魔獣の横ッ面を直撃。大きく跳ね飛ばして大通りの真ん中に墜落させる。
そして、
――ズンッ!
青い物体――自らの放ったクラッシャーナックルを回収し、ジュンイチのユナイトしたゴッドブレイカーがその目の前に着地した。
「ジュンイチさん!」
「ブイリュウ、見つかったんだ!」
「あぁ! 苦労させちまったみたいだな、すまん!」
声を上げるジーナとファイに答え、ジュンイチは鈴香のマリンガルーダへと向き直り、
「あんたが水のブレイカー、水隠鈴香さんだな?
オレが――」
「知ってます。あずさちゃんから聞きましたから」
「あずさに?」
鈴香の言葉にジュンイチが聞き返して周囲を見回すと、ビルの陰にプラネル達の避難しているあずさの姿を見つけた。
「そっか……無事だったか……」
ホッとしてジュンイチがつぶやくと、
「グルルルル……」
現れた新たな敵を前に、瘴魔獣が警戒をあらわにして立ち上がる。
「ったく、やっぱ同じ火炎属性のオレの技じゃ、ノーダメージとはいかなくても効果は薄いか……
鈴香さん、マリンガルーダとオレとの爆裂武装、できるか!?」
「ぶっつけ本番はあまり好きじゃないんですけど……こちらに決定打がない以上、ワガママ言ってられませんね……」
ジュンイチの言葉に、鈴香は微笑を浮かべて答え、
「わかりました、やりましょう!」
「よっしゃ!」
鈴香の声に答え、ジュンイチが翼を広げて飛び立つ!
「ゴッドブレイカー!」
「マリンガルーダ!」
『爆裂武装!』
ジュンイチと鈴香が叫び、ゴッドブレイカーを追ってマリンガルーダが加速していく。
そして、翼が根元から分離し、ゴッドブレイカーの左腕に合体、前腕部の甲側にボディが合体、しっかりと固定される。
「アーマード・ドライブ!」
鈴香が叫ぶと彼女の身体は光球に包まれ、ジュンイチがユナイトしているため無人となっているゴッドブレイカーのコックピットへと転送される。
『ゴッドブレイカー、マリンアーチェリーモード!』
「一気にとどめだ!」
「はい!」
ジュンイチの言葉に鈴香が答え、ゴッドブレイカーがマリンアーチェリーをかまえ、コックピットの鈴香の前にはターゲットスコープとトリガーがエネルギー形成される。
すると、マリンアーチェリーが周囲に水を生み出し、それがゴッドブレイカーの右手に収束。精霊力で固められて一本の矢となる。
そして、ジュンイチはその矢をマリンアーチェリーに添えて弦を引き絞り、
「ターゲット、ロック!
ファイナルショット、スタンバイ!」
「おぅ!」
鈴香の合わせた照準に従い、ジュンイチが狙いをつけ、かまえた矢に二人の精霊力が込められていく。
『マリンアーチェリー、グランド、フィニッシュ!』
二人が叫ぶと同時、鈴香がトリガーを引き、
ズバシュゥッ!
放たれた矢が、狙いたがわず瘴魔獣を貫く!
そして、その傷を中心に瘴魔獣の身体に“封魔の印”が現れ――
ドガオォォォォォンッ!
瘴魔獣は大爆発を起こし、消滅した。
そして、ジュンイチと鈴香が勝ち鬨の声を上げる。
『爆裂、究極! ゴォッドォッ! ブレイ――!』
しかし、次の瞬間、
ドガァッ!
「ぅわぁっ!」
突然何かの体当たりを受け、ジュンイチが跳ね飛ばされる!
「ジュンイチさん!」
「何!? 今の!」
ジーナとファイが声を上げ――大地に倒れたジュンイチの前に、そいつは降り立った。
白銀のボディにコウモリのそれを思わせる翼。ゴッドドラゴンと同じガッシリした体格で、各部には青色のクリスタルが埋め込まれている。
「グワオォォォォォッ!」
天を仰ぎ、ジュンイチを跳ね飛ばしたそのドラゴン型のロボットは力強く咆哮する。
そしてその肩には――シャドープリンスとメギドの姿があった。
「貴様らには初めて名乗ることになるな。
オレの名はシャドープリンス。瘴魔のブレイカーだ」
「さ、3体も巨大瘴魔獣を相手にすることになるなんて……」
「あたし達だけじゃ、どうしようもないよ!」
「あきらめない……!
私達は……こんなところで止まれない!」
「『3つの心……重なりし時……数多の顔を持つ戦士……目覚めの時……』!」
「これが私の……ううん、私達のブレイカーロボ!」
Legend08「合体」
そして、伝説は紡がれる――
(初版:2002/07/28)
(第3版:2005/05/01)