Legend09
「覚悟」

 


 

 

 ――キキッ。
 ゲイルを停め、ジュンイチはその上から降り立つとヘルメットを脱いだ。
 その目の前には、夏の日差しを浴びて輝く沖縄の海が広がっている。
「沖縄か……4年ぶりだな」
「来たことがあるの?」
「まぁな」
 駆け寄ってきて尋ねるブイリュウに答え、ジュンイチは改めてブイリュウに尋ねた。
「で? 最後のひとりの居場所はここから遠いのか?」
「うーん、車ならそんなにかからないよ。
 けどね……」
「……ん? どうした?」
 突然浮かない顔で黙り込むブイリュウに、ジュンイチは怪訝な顔で聞き返す。
 そんなジュンイチに、ブイリュウは答えた。
「その人、ジュンイチとはちょっとウマが合わないかも……」
「どういうことだ?」
「……会えばわかるよ」
「………………?」
 なぜか疲れた顔で答えるブイリュウに、ジュンイチは思わず首をかしげるが、とりあえずその場はそれで納得することにした。気を取り直してゲイルの後ろに縛り付けた買い物袋から缶ジュースを取り出し、
「はい、差し入れだよ」
 先程から愛車の修理に没頭している青木とそれを手伝っている鈴香にそのジュースを渡し、続いてジーナ達にも配っていく。
「直りそうか?」
「磨耗したパーツの交換だけですからね、すぐ終わりますよ」
 尋ねるジュンイチに鈴香が答えるが、
「けど、その前に……」
「そうだね」
 つぶやくジーナにファイが答え、二人はジュースを一気に飲み干してゴミ袋に放り込む。
 そして、ジュンイチも同様にジュースを飲み干し、言った。
「一仕事、片付けなきゃならんらしいな」
「瘴魔なの?」
「あぁ。出やがった」
 尋ねるあずさに答え、ジュンイチはバイクにまたがり、
「ほら、いくぜ、ブイリュウ!」
「う、うん!」
 答えるブイリュウを後ろに乗せ、ジュンイチはバイクを一気に加速させた。

 現場はすぐにわかった。派手に暴れ回っているらしく、爆発が幾度となく巻き起こっている。
 そのため、ジュンイチはいち早くその場に駆けつけることができたのだが――
「ちょっと待て!
 いきなり巨大化してご登場かよ!」
 そう。到着したジュンイチが見たのは、すでに巨大化状態で暴れ回る四つ足の瘴魔獣だった。
 かつて東京で戦ったミールのような、能力の不足で力をまとめられず巨大になった、というワケではない。感じる力の強さは明らかに瘴魔獣クラスだ。
 身体が古時計で構成されているところを見ると、ダスティオンのような付喪神系の瘴魔獣のようだが――今はそんなことを推測している場合ではない。
「くそっ、とにかくブッ倒すか!
 ブイリュウ! ゴッドドラゴンを!」
「うん!」
 ジュンイチの言葉にブイリュウがうなずいた、ちょうどその時、
 ――ギュオォンッ!
 轟音を立て、上空を何か巨大な影が駆け抜けていく。
「何だ!?」

 飛来したのは、一言で言うなら『鋼鉄の鳳凰』だった。
 その全身を真紅を基調としたカラーリングで統一し、金色に輝く羽をまとった翼を広げ、背中の推進用ブースターで大空を舞っている。
 そして、そのコックピットにはひとりの少女が座っていた。
 腰の下まで届く真紅の長髪をツインテールにまとめ、GパンにTシャツ、加えてGジャンというラフな服装にまとめている。
「くっ、ハデに暴れてくれてるわね!」
 眼下で暴れ回る瘴魔獣を見下ろして少女がうめくと、
「周辺地域の避難は終わってるみたいだね……
 もうとっくに壊滅してるし、ちょうどいいからここを戦闘エリアにしちゃおう!」
「言われなくてもそのつもりよ、鳳龍フォウロン
 後ろの席から声をかけてくる鳳凰型のプラネル・鳳龍フォウロンに答え、少女は叫んだ。
「いくわよ――カイザーフェニックス!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 カイザー、ブレイカー!」
 少女が叫び、カイザーフェニックスは急激に加速し、大空へと舞い上がる。
 そして、その両足の爪がスネの方へとたたまれると拳が飛び出し、大腿部のアーマーが起き上がり、人型の両腕へと変形する。
 続いて鳳凰の頭部が分離すると背中のメインバーニアが肩側へと起き上がり、そのままボディ前方へと展開。根元から180度回転した上でスライド式に伸びて大腿部が現れ、つま先が起き上がって人型の両足が完成する。
 背中のウィングの向きが根元から180度回転、バックパックとなると鳳凰の頭部が胸部に合体。その周囲の羽型の胸部装甲が広げられる。
 最後に人型の頭部が飛び出し、アンテナホーンが展開。額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「カイザー、ユナイト!」
 少女が叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し口元をフェイスガードが覆い、左手に尾部がシールドとなって合体。カメラアイと額のBブレインが輝く。
「凰神合身! カイザー、ブレイカー!」

「グルルルル……」
 合身を完了し、上空で佇むカイザーブレイカーに対し、瘴魔獣はゆっくりと向き直り、低くうなり声を上げる。
「いくわよ!」
 そんな瘴魔獣に対して、少女は叫ぶと同時に急降下、その手にライフルを生み出し、
「カイザーショット!」
 瘴魔獣に対して銃撃を仕掛け、そのまま素早く方向転換し、離脱する。
 そのまま、一撃離脱の戦法を繰り返すカイザーブレイカーに対し、瘴魔獣は攻撃の決め手をつかめず防戦に徹するしかない。
 そして、少女はそのまま大地に着地し、両足に内蔵されたミサイルランチャーを展開、瘴魔獣に向けて斉射をしかける。
 ミサイルは全弾直撃し、爆炎が瘴魔獣の視界を覆い――
「カイザー、ウィイング!」
 ズガァッ!
 カイザーブレイカーが背中のウィングを分離、シールドに合体させて射出し、瘴魔獣に叩きつける。
 そして、少女はカイザーウィングを回収すると再びその翼を広げ――今度はその周囲に多数の空間の歪みが作り出される。
 やがてそれらの歪みは空間にレンズを形成し、
「メーザー、スコール!」
 少女の叫びと同時、すべてのレンズに注がれたエネルギーが閃光となって瘴魔獣に降り注ぐ!
「さぁ……とどめよ!」

「カイザー、ウィィング!」
 少女が叫び、カイザーブレイカーから分離したウィングが、左腕のシールドと合体、カイザーウィングが完成する。
 そして、少女はカイザーウィングとカイザーショットを合体させ、
「カイザーランチャー、セットアップ!
 ターゲット、ロックオン!」
 叫ぶと同時、瘴魔獣に向けて照準を合わせ、全身の武装が展開、一斉攻撃態勢に入る。
「全ミサイル、レーザー、カイザーランチャー、着弾タイミング同期!
 凰雅束弾! カイザー、スパルタン!」
 少女が叫び、同時にトリガーを引き、
 ズダダダダッ!
 放たれた全武装が、瘴魔獣を直撃する!
 そして、少女がカイザーランチャーを下ろし、瘴魔獣の全身に“封魔の印”が現れ――
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣は粉々に爆散し、消滅した。

「ふぅっ……」
 戦闘の終了を確認し、少女はカイザーブレイカーとのユナイトを解除し、コックピットにその姿を現した。
 と――ふとセンサーが付近に動体反応を発見し、傍らのサブモニターへとその正体を映し出した。
 ジュンイチとブイリュウである。
「あれは……ブイリュウ?
 何で沖縄にいるのよ?」

 カイザーブレイカーはカイザーフェニックスへと変形して飛び去り――少女と鳳龍フォウロンは大地に降り立った。
 そんな彼女に、ブイリュウが駆け寄ってくる。
「ライカ!」
「久しぶりね、ブイリュウ」
 笑顔で名を呼ぶブイリュウに、ライカと呼ばれた少女は同じく笑顔で応え、ブイリュウは彼女と追いついてきたジュンイチ、双方に互いを紹介した。
「ジュンイチ、この人がジュンイチの補佐役になる『コマンダー・ランク』、『光』のブレイカーのライカ・グラン・光凰院
 で、ライカ。こっちが『マスター・ランク』の『炎』のブレイカー、柾木ジュンイチだよ」
「コマンダー? マスター?」
 ブイリュウの口から出た、今までの説明では聞いたことのなかった単語に、ジュンイチは思わず聞き返す。
 と――その問いにはライカが答えた。
「ブレイカーにはその立場に応じてランクが決まっているのよ。
 通常の『ノーマル・ランク』、チームのリーダーである『マスター・ランク』、そしてマスター・ランクのブレイカーを補佐する『コマンダー・ランク』――
 まったく、あたし達のリーダーになる立場なんだから、そのくらいブレイカービーストと対話して学んでおきなさいよね」
「悪かったな。勉強不足プラス対話不足で」
 肩をすくめて答えるジュンイチだったが、ライカはそんなジュンイチの態度が気に入らなかったらしい。眉をひそめて咎めてくる。
「あのねぇ、あんたホントにやる気あるの?
 人の上に立つリーダーが、そんないい加減でいいと思ってるワケ?」
「あいにく、ブレイカーとして戦うことは承諾したが、あんたらのリーダーまで引き受けるとは言ってない。お前にはもちろん、ジーナ達にもな。
 そんなにパーティーまとめたいんなら、お前がリーダーやれよな。オレが加わるまではリーダーやってたんだろ?」
「なっ……!?
 あ、あのねぇ! あんたは仮にもマスター・ランクよ! みんなを束ねるリーダーとして、選ばれた存在なのよ!
 なのに、それを放棄するっての!?」
「オレは後ろで仕切ってるより前で暴れてる方が性にあってるんでね」
 ムキになるライカと面倒くさそうに答えるジュンイチ、両者を見て――ブイリュウはつぶやいた。
「やっぱりこうなった……」

 ともあれ、ジュンイチ達は合流してきたジーナ達と共に、ライカが滞在していた旅館に宿をとったのだが――
「人選しくじったわね」
 開口一番、ライカの口からジーナ達に告げられた一言がそれだった。
「まったく、マスター・ランクが見つかったから引き抜きに行ってきてほしいとは言ったけど、こんなのだとは思わなかったわ」
「悪かったな、『こんなの』で」
 不満丸出しのライカの言葉に、ジュンイチはテーブルをはさんだ反対側で同じく不機嫌な顔をして答える。さんざん好き放題言われて、さすがに頭にきているようだ。
 そんな両者の険悪な雰囲気を察し、ジーナが二人をなだめにかかった。
「そ、そんなことないですよ。
 ジュンイチさんにだって、ちゃんといい所はありますから」
 そのジーナの言葉に、二人は顔を見合わせ――不本意ながら同じ疑問に至ったようだ。同時にジーナに尋ねた。
『たとえば?』

「……えーっと……」
「なんで5分も考えてひとつも浮かばねぇんだよ!」
 ずっと考え込んだままのジーナに、ジュンイチは思わずテーブルを叩いて声を上げる。
「とにかく、あたしはこんなヤツをリーダーに迎えるのは反対よ。
 そいつをリーダーとして迎えたいんなら勝手にしなさい。その代わりその時はチームから抜けさせてもらうわよ」
 そんな彼らに言って、ライカは立ち上がると部屋を出ていこうとする。
「どこに行くんですか?」
「散歩」
 尋ねる鈴香にあっさりと答え、ライカは部屋を出ていった。
「……やっぱり、衝突しちゃいましたね……」
「ライカお姉ちゃんマジメだから……」
 ため息をつくジーナにファイが言うと、突然ジュンイチも立ち上がる。
「ジュンイチお兄ちゃん?」
「オレも散歩だ」
 ファイにそう答え、ジュンイチも部屋を出ていった。

「まったく! 何なのよ、アイツは!」
 街を歩きながら、ライカは不快感もあらわにして毒づいた。
「リーダーとしてやっていくつもりなんてカケラもないじゃない!
 なんであんなヤツがマスター・ランクに選ばれたりするのよ!」
 マスター・ランクはブレイカーを統率する立場にある。そのマスター・ランクに選ばれたのだから、さぞや聡明な人間なのだろうと、正直期待していた。
 だが現実はどうだ。実力の程はまだ見ていないからどうともいえないとしても、あの態度はとてもリーダーのものとは思えない。皆をまとめる責任感というものがまったく感じられないのだ。
 そんな、期待を裏切られた想いが彼女の怒りに拍車をかけていた。
 と――そんな時だった。ふと、彼女は自分に注意を向ける気配の存在に気づいた。
 ナンパしようとかそういった好奇の類のものではない。まるで獲物を狙う捕食者のような、油断のできない鋭さがあった。自分に対してそんな気配を抱く者と言えば――
「まったく……何でこう次から次に問題が起きてくれるかなぁ……」
 うめいて、ライカは路地へと入り、人気のない一角へと向かった。

「んなにぃぃぃぃぃっ!?」
 食料の買出しから戻り、事情を聞かされた青木は思わず声を上げた。
「それで、ジュンイチを黙って行かせたのか!?」
「は、はい……
 何か、マズかったですか?」
「マズいどころの騒ぎじゃないよ!」
 戸惑いながらも答えるジーナに言うのはあずさである。
「お兄ちゃんの性格考えたら、そんなに言われっぱなしで黙ってるなんてことありえないよ!
 絶対決着つけに行ったって!」
 その言葉に――その場の一同の顔から血の気が引いた。

 ライカがたどり着いたのは、計画見直しのために放置された地下商店街の建設現場である。
 ここならば工事もストップしているから、多少ハデに暴れても問題はないだろう。
「さて……こんなトコにまで来てあげたんだから、そろそろ出てきてくれてもいいんじゃない?」
 そうライカは気配の主に告げ――それはライカの前に現れた。
「貴様が、コマンダー・ランクのブレイカー、ライカ・グラン・光凰院か」
 そう告げ、一本の棍を携えたシャドープリンスが路地の暗がりの中から姿を現したのだ。
「人間……? それにあたしの名前やブレイカーのことまで……?
 そうか、あんたがジーナ達の言ってたシャドープリンスね?」
「ジーナ……? 確か“大地”のブレイカーの名だな」
「ジーナの名前まで……
 あたし達のことはリサーチ済みってことね」
「情報を制する者は戦いを制す、ということだ」
 ライカに答え、シャドープリンスは告げた。
「さて、互いの自己紹介もすんだところで――始めようか!」
 そう告げた瞬間――シャドープリンスからとてつもない殺気が放たれる!
「くっ……!」
 とっさにブレイカーブレスを構えようとするライカだったが、シャドープリンスはそれよりも速く彼女に迫り――
 ――ガギィッ!
 シャドープリンスが繰り出した棍は、割って入ったジュンイチの木刀によって受け止められていた。
「大丈夫か?」
「あ、あんた、どうしてここに!?」
 尋ねるジュンイチに、ライカは彼の意外な乱入に戸惑いながら聞き返す。
 その問いに、ジュンイチはシャドープリンスを押し返してから答えた。
「簡単だよ。ヤツの気配に気づいたから追ってきたんだ」
「なるほど……気づいたのは光凰院だけかと思っていたが……」
 ジュンイチの言葉に、シャドープリンスはつぶやいて棍を構え直す。
「まぁいい。
 それならばそれで都合がいい」
「そいつぁこっちのセリフだ!
 見たところ瘴魔獣もいないみたいだしな。直接てめぇをブッ倒してやらぁっ!」
 シャドープリンスに言い返し、木刀の切っ先を突きつけるジュンイチだったが――シャドープリンスは告げた。
「貴様ら、ここにオレを誘い出したつもりだろうが……それも計算ずくだったとは思わんのか?」
「――――――っ!
 ヤバい!」
 その言葉に、シャドープリンスの狙いに気づいたジュンイチが声を上げるが――
 ドガァッ!
 一瞬遅かった。音を立てて足元の地面が崩落する!

「見つかった!?」
「いいえ、ダメです!」
 駆け寄ってきたファイの問いに、ジーナは息を切らせて答える。
「なんか、最近人探しばっかりやってるね、あたし達……」
「えぇ、本当に……」
 ため息まじりでつぶやくファイにジーナが答え――
『――――――!?』
 同時に同じ方向へと振り向いた。
 瘴魔の気配を感じ取ったのだ。
「まったく、こんな時に!」
「行こう、ジーナお姉ちゃん!」
「はい!」

「はぁぁぁぁぁっ!」
 豪快な気合と共に、瘴魔獣の投げつけた手斧がビルのガス管を薙ぎ払い、爆発を巻き起こす。
 牛――いや、バッファローを媒介とした人型で両手には手斧。まるで神話に登場するミノタウロスを髣髴とさせる風貌である。
 その様子を、シャドープリンスはいつものようにビルの屋上から見下ろしていた。
「さて……二人の指揮官クラスが不在でどうなるかな……」
 そうつぶやき、シャドープリンスが見下ろす先では、ちょうど着装を遂げたジーナ達が到着したところだった。

「……ん……」
 暗がりの中、ライカは意識を取り戻して目を開けた。
「ここは……?」
 うめいて周りを見回すが、周囲は暗くてよくわからない。
 と――
「気がついたか?」
 脇から突然声がかけられた。
 見ると、暗がりに慣れてきた目が少しずつジュンイチの姿を捉えていく。
「ジュンイチ……?」
「くそっ、二人してシャドープリンスにしてやられたよ」
 疑問の声を上げるライカに答え、ジュンイチは頭上を指さした。
 見上げると、崩落し、落下してきたはずのそこは完全にガレキで塞がれてしまっている。
 周囲を見回しても、唯一の扉は吹き飛ばされているがその向こう側はガレキの山。この地下の一室に閉じ込められた形である。
「あの野郎、ご丁寧にこんな地下牢獄用意してやがった。
 お前がここに誘導するの、読まれてたみたいだぜ」
「なるほど……この辺りは元々建設中の地下商店街だったから……
 けど、それならこの扉を破れば!」
 言って、ライカはかざした右手に“力”を収束、光球を生み出す。が――
「あー、試したけどムリだ」
「え……?」
 ジュンイチの言葉に、ライカは疑問の声を上げながら光球を扉に向けて放ち――
 ――バシッ!
 扉に届くことなく、途中でその形が崩れ、弾け飛んだ。
「な、何よ、アレ!」
「特殊なジャミング結界が張られてるみたいなんだ。
 おかげで、精霊力を使った攻撃はみんな弾かれちまう。爆天剣で斬りかかってもみたけど、扉に当たる直前で木刀に戻っちまった。装重甲メタル・ブレストも同様だ。
 幸い気功は封じられてなかったんで、雷光弾で扉をブチ破ってみたんだが……」
 言って、ジュンイチは扉の向こうのガレキの山へと視線を向けた。
「ご覧の通り、扉の向こうもガレキで完全にブロックされてる。
 一応隙間があるらしくて空気は入ってくるんだが……それも大した量じゃない。出ようとしてあがけば、酸素の収支は間違いなく赤字決定だろうな」
 うめいて、ジュンイチは改めて天井の穴の跡を見上げた。
「やれやれ……どうやって外に出たもんだかな……
 ライカもいるんじゃ『切り替わる』ワケにもいかないし……」

「くそっ、どこに行きやがった……!」
 うめいて、青木はジュンイチとライカを探して走り回っていた。
 そしてたどり着いたのは――
「おっかしいなぁ……
 アイツの感性からすれば、ケリつけるとすれば絶対こーゆー場所だと思うんだが……」
 川の土手だった。
「ケンカの場所としちゃ定番スポットなんだが……
 ……そうか! もっと下流か! 浜辺ってのもアリだもんな!」
 こうして、ますます市街から遠ざかっていく青木であった。

「これで――どう!?」
 叫んで、ライカの放った光弾が地下室の壁へと突っ込み――
 ――バシッ!
 その壁に張られた結界によってエネルギーの安定を奪われ、音を立てて四散する。
「くっ……! なら!」
 言って、ライカは再び光弾を生み出し――
「やめとけやめとけ」
 ジュンイチがそんな彼女を止めた。
「見たところ内側の結界はスキがない。精霊力を使った攻撃じゃ、壁に当てることすらできないだろうな。
 かと言って、物理的な打撃で扉の向こうのガレキを吹き飛ばそうにも、衝撃で天井のガレキまで重量に負けて崩壊する危険がある。
 今のオレ達に、脱出する手段はない」
「じゃあ、どうしろってのよ!
 まさかここでおとなしくしてろっての!?」
 ジュンイチの言葉にライカが反論するが、ジュンイチはため息をついて答えた。
「そうは言ってないだろ。
 けど、物理的にあがいてもどうしようもないのだって事実だ。
 それに、さっきも言ったがムリに動けばすぐに酸素の供給が追いつかなくなる。
 無駄な消耗は極力抑えて、脱出の手段を探るのが懸命だ」
 そう言って、ジュンイチは壁に寄りかかるように腰を下ろす。
 そんな彼をいまいましげに見つめ――それでも彼の言う事が正論だと判断し、ライカは憮然とした表情のまま自分も腰を下ろした。

「くらえぇっ!」
 ドガァッ!
 バッファロー瘴魔獣の繰り出した手斧をジーナがかわし、瘴魔獣の一撃はアスファルトの地面を粉々に砕く。
「グランドトンファー!」
 そのまま、ジーナはグランドトンファーをかまえ、瘴魔獣へと殴りかかるが、
 ――ガギィッ!
 ジーナの一撃は、瘴魔獣の持つもう一本の手斧によって受け止められる。
「何なの? アイツ! ムチャクチャ強いよ!」
「ただの瘴魔獣じゃ……ありませんね……!
 武器を持った瘴魔獣、というのも初めての相手ですし……」
 ファイの叫びに鈴香がつぶやくと、
「その通りだ」
 言って、彼らの前にシャドープリンスが姿を現した。
「シャドープリンス!」
 ジーナが声を上げるが、シャドープリンスはかまわず続ける。
「このミノダラスは、オレがわざわざ手頃な素材を見繕ってやったんだ。今までの瘴魔獣とは、少しばかり勝手が違う。
 貴様らも、オレの期待に少しは応えてもらいたいもんだな」
「期待……!?」
 聞き返す鈴香に、シャドープリンスは超然的な笑みを浮かべて答えた。
「そう。期待だ。
 こいつに打ち勝つくらいの実力がなければ……オレと戦っても勝負にならんぞ」

「……隙間、ないわねぇ……」
「ないな」
「出られないわね」
「出られないな」
 できるだけ消耗を避け、慎重に周囲の探索を続けるライカのつぶやきに、ジュンイチは座ったまま動きもせず、平然とそう答える。
 だが、その落ち着いた態度が逆にライカの怒りを買った。こめかみを引きつらせてライカは立ち上がり、ジュンイチに向けて告げる。
「……ずいぶんと落ち着いてるわね」
「慣れてるから」
 尋ねるライカに、ジュンイチはまたもや平然と答える。
「こーゆー時はうかつに動かないのが吉。
 出られないのは最初からわかりきってるんだ。後は消耗を抑えた上でじっくり状況観察して、脱出の足がかりを探す方がいい」
「そりゃ、そうかもしれないけど……」
 ジュンイチの言葉に、ライカはつぶやいてため息をつく。
「ったく、なんでこんな状況に慣れてるかなぁ……」
「特殊な身の上なんでな」
 ライカのつぶやきに、ジュンイチはやはりあっさりとそう答える。
「特殊な身の上……?
 何よ、こんなトラブル日常だとでも言うワケ?」
 そんなライカの問い――ジュンイチは口を開いた。
「特殊といえば特殊だな。この国の常識からすれば、だけど」
「………………?」
 首をかしげるライカに、ジュンイチは尋ねた。

 

「お前は人を……殺したことがあるか?」

 

「お兄ちゃぁん! ライカさぁん!」
 声を上げ、あずさはジュンイチとライカを探して町を必死に走り回っていた。
 しかし――当然のことながら未だジュンイチ達を見つけることはできていない。
 さらにジーナ達の苦戦にも気づいており、それがあずさの焦りを余計に強めていた。
「瘴魔のことに気づいてないワケないし……どこにいるの……?」
 つぶやき――あずさは再び走り出した。

「そ、そんなのあるワケないでしょ!?」
 ジュンイチの問いに対して、ライカは驚きながらも否定する。
 しかし彼女の答えは当然だ。この法治国家日本でそんなことをすればあっと言う間に刑務所行きだ。懸命な人間ならそんな経験をするはずがない。
 しかし、ジュンイチにとってはそんな彼女の反応は予想通りのものだった。あわてる彼女とは対照的に落ち着いた口調で続ける。
「それが……オレとお前らとの違いだよ」
「それが、って、一体何が……」
 聞き返しかけ――ライカはふと思い当たった。
「……あんたは、あるのね?」
 その問いに、ジュンイチは小さく――しかしハッキリとうなずいた。
「どうして……」
「簡単な話さ。
 殺らなきゃ殺られる、そんな場所にいたんだよ」
 ライカの問いに答え――ジュンイチは息をつき、
「……すまん。要点だけ言って済まそうとしてはしょりすぎたな。順を追って話すよ。
 まず、オレんちが伝えてる『柾木流総合格闘術』は、厳密に言うと『武道』でも『武術』でもない。
 強いて言うなら――『格闘術』の名を借りた『戦闘術』だ。
 つまり、闘いにおいて『倒す』ことや『制する』ことを目的とした武術・武道と違って、相手を『殺す』ことが最重要事項なんだ。この時代においてもな。
 そんな殺してナンボの技だ。学ぶからにはそれがどれだけ危険なものか、自覚していなければそれこそ大変なことになる。
 けど、その『実例』なんてこの国じゃそうそう用意できるワケがない。当たり前のことだがな。
 その問題をクリアするにはどうすればいいか? 答えは簡単だ。
 ……『死』を実感できる場所へ行けばいい」
「『死』を実感できる場所……?」
「一番簡単なのは紛争地域、次が治安の最悪な国――アジア近辺だとフィリピンとかかな。
 特に中東の紛争地域、アフガンとかイラクとかは狙い目だな。何しろ今現在戦場のド真ん中、日常が『殺って殺られて』だ。こっちから仕掛けない限りイヤでも正当防衛が成り立つ」
 聞き返すライカに、ジュンイチは苦笑して答える。
「ともかくオレはそこにいた。一時は傭兵として組合ギルドにも登録してた。そして……殺したことがある。それも何度も。
 ま、もっとも殺した理由は『依頼遂行のための戦闘で』とか『身を守るため』とか『事故の原因を作っちまった』とか、その都度いろいろだったがな。
 とにかく――そんな身の上のおかげで、人の『死』なんて何度となく見てきた。だからわかるんだよ。戦いの抱える矛盾が。
 相手が人じゃない、正義のため、『精神性を養う』とか言う武道の『道』、そんなことよりももっと根本的なもの――戦うことでもたらされる『死と破壊』ってヤツがな。
 どんなにスバラシイ大義名分があろうが、戦うってことは、自分が死ぬか相手を殺すか、巻き込まれた誰かが死んじまうか……とにかく『死』ってものと正面から関わらなくちゃならないってことだ。戦うからには、その覚悟を決めなくちゃならない。
 お前は――いや、お前だけじゃないな。ジーナや、鈴香さんやファイも、ブレイカーとして戦うことを決めた時点で『自分が死ぬ覚悟』はしただろう。
 けど、戦うことの――『殺す』ことの覚悟はできてねぇだろ」
「そんなの――」
「いーや、できてないね。
 いや、それ以前の問題だな。自分達が人の『死』に関わるってこと自体、イメージ“できた”ことはないはずだ」
 反論しかけたライカだったが、ジュンイチは間髪入れずに否定した。
「……『できた』? 『した』じゃなくて?」
「あぁ。
 人の『死』なんて、実際目にしたことのないヤツにとっちゃひどく抽象的なものだ。非経験者がそう簡単にイメージできるもんじゃない。それに自分が関わる光景ともなればなおさらだ。
 仮に誰かの『死』に立ち会ったことがあるとしても――たいていの場合それは身内が寿命やら病気やらでくたばった場合だ。そこに自分の責任はない。
 『自分に責任がある死』ってヤツは、この国にいる限りほとんど経験できないと言い切っていいだろうな。例外を挙げるとしたら、『事故を起こす』、『事故に関わる』、『犯罪者として人を殺す』、『医者が患者を救えなかった』ぐらいか。
 だが――お前はそのどれにも当てはまらないはずだ。
 ここで世の武闘家に言わせると『殺しちまうことぐらい覚悟してる』って主張しやがるんだが、それだって経験が伴っての覚悟だとは思えない――そもそも経験してたら今頃格闘技界から追放されてる。『死の責任』を経験してるってことは殺したことがあるってことだからな」
「………………」
 自分の言葉にライカが言葉を失うのを見て、ジュンイチは続けた。
「話を戻そう。仮に、覚悟ができたとする。
 もし覚悟ができたなら――戦いの覚悟決めて、戦士になってりゃ、気ィ抜いてたってある程度は神経は研ぎ澄まされる。
 ま、当然だな。なんたって『命』がかかってくるんだ、イヤでも必死になって、自然と神経研ぎ澄ませてる状態がデフォルトになるってもんだ。でなきゃその時は自分が死ぬ。
 つまり――民宿を出た時点で気づけたはずだぜ。シャドープリンスのことにな」
「民宿からずっとつけられてたっての?」
「あぁ。
 お前が気づいたのは、あいつがわざわざ気配を開放してようやく、だったんだよ」
 ジュンイチに断言され、ライカは思わず言葉を失う。
 気配をもらされるまでまったく気づけなかった自分と簡単に見抜いていたジュンイチ、彼我の実力差をありありと見せつけられた気分だった。
 だが――ジュンイチは笑って言った。
「けど……オレはそれでかまわないと思う」
「え――――――?」
「覚悟決められなくてもいいんだって言ってんだよ」
 意外な言葉に目がテンになるライカに、ジュンイチは『してやったり』とでも言いたげに笑って言う。
「お前らは人を殺した経験はない。ンな経験する必要もない。したがって――殺す覚悟なんて決められるワケがない。
 決められない覚悟なんて、決めなくていいんだよ。その方が迷わなくてすむ。
 そもそも法治国家の日本で『殺す覚悟』なんか決めてちゃいけないんだし」
「そ、そんなワケにはいかないわよ!
 あたし達が戦わなくちゃ、もっとたくさんの人が瘴魔のせいで不幸にされるのよ!
 それを止められる力があるのに、それをしないなんて卑怯じゃない!」
 思わず語調を強めて言い返すライカだったが、
「あのなぁ……」
 ジュンイチはそんな彼女の態度にため息をついて続けた。
「なんでお前はそう一直線に考えちまうんだよ。『戦うな』なんて言ってないだろ。
 オレはただ『戦う覚悟はしなくていい』って言ってるだけだよ。
 そもそも話のキッカケは『オレの特殊な身の上』だろうが。思いっきり脱線してんじゃねぇか……」
「元の話なんてもうどうでもいいわよ!
 覚悟決めなくて戦えるワケないでしょ。さっきから話が矛盾してるじゃない!」
 ライカの言葉に、ジュンイチはまたしてもため息をつき、言った。
「矛盾があって当たり前。こーゆー心理的な問題なんてそんなもんさ。
 とにかく、お前らがしなくちゃいけない覚悟は『戦う覚悟』じゃない。『守る覚悟』さ」
「『守る覚悟』……?」
 ジュンイチの告げた二つの“覚悟”に、ライカは思わず眉をひそめ、怪訝な顔で聞き返す。
 しかし、ジュンイチはそんな彼女にまったくかまうことなく続けた。
「そ。
 守ると決めたものは意地でも守る、そういう覚悟だ。
 もちろん、それで自分が死んじまっても誰かが泣くワケで、それを避けるためには自分の命も守らなくちゃならない。
 つまり――相手を倒すことよりも、何があっても自分と守る対象の両方を守り抜くことを第一とする。それがオレの言う『守る覚悟』――言ってみれば『戦うな、守れ』ってトコかな。
 『人に向けて力を使うな』って言えばさらにわかりやすいか? ま、要するに力を“戦うため”に使わず、“守るため”にだけ使えってコトさ。
 お前らまで『戦う覚悟』を決めて手を血で汚すことはない。決められるヤツが勝手に決めて戦ってくれるさ」
「……その『決められるヤツ』って――さりげに自分のこと言ってない?」
「あ、わかる?」
「……あたし達に決められない覚悟決めてるクセして、なんでそんなカルイかなぁ……」
 笑って聞き返すジュンイチに、ライカはため息をつき――
(――あれ? そういえば……)
 ふとライカは気づいた。
 うかつにも興奮してすっかり忘れてしまっていたが、自分達は今までさんざんしゃべっている。空気がほとんど入れ替わらない状況にもかかわらず。
 それでも――まだ酸素がある。とっくに窒息していてもおかしくないはずなのに。
(どういうこと……?
 あれだけしゃべったっていうのに、まだ空気がきれいなままだなんて……
 まるで、何かが空気を浄化してるとしか……)
 そこまで思考を巡らせ――ライカは気づいた。
 そのまま、座ったままのジュンイチへと歩み寄り、
「……ジュンイチ」
 声をかけ、ライカは右手を差し出し、告げた。
「ブレス、見せて」
「何だよ、ンなこと問題になる話題じゃないだろうが……」
「いいから見せなさい!」
 なぜかブレイカーブレスを見せたがらないジュンイチに言い、ライカは強引に彼の左手を取り――
「……やっぱり……」
 ジュンイチのブレイカーブレスからは精霊力がわずかずつ発散されていた。これが自分の周囲の二酸化酸素を変換し、呼吸に必要な酸素に変えていたのだ。自分の周囲にしか精霊力を放てないのを、ジュンイチは逆に利用していたのである。
「あんた、ここの空気を保つために……
 バカじゃないの!? 自分で『消耗するから“力”を使うな』って言っといて」
 ライカがため息まじりにつぶやき――ジュンイチは苦笑まじりに答えた。
「だからオレがやった」
「え――?」
「お前は、温存できたろ?」
 言って、再び座り込むジュンイチを、ライカは不思議そうに見つめていた。
 最初会った時はいい加減なヤツだと思った。リーダーだという自覚に乏しく、統率もしないでひとりで突っ込んで――だから自分は、こんなヤツにリーダーなんて任せられないと拒絶までした。
 けど――さっきはシャドープリンスの攻撃から自分を守り、戦場観において自分を論破し、さらには自分の代わりに“力”まで消耗している。
 そんなジュンイチという人間が正直理解できず、ライカは困惑するしかなかった。
 と――彼もそんな彼女の戸惑いに気づいたようだ。精霊力の消耗で切れ始めた息を整えながら告げた。
「お前の言う通り、オレは統率するようなタイプのリーダーには向いちゃいないよ」
 怪訝な顔をするライカに対して、ジュンイチは続ける。
「いい加減で、マイペースで、カルくて、人を引っ張ることなんてできやしない。
 だから、引っ張れない分最前線でがんばるんだ。『戦う覚悟』を決められる者として――『守る覚悟』を決める、お前らが少しでも楽になるようにな。
 そういうリーダーシップも、あるんだぜ」
「……それでこんなことになってたら世話ないじゃない」
「かもな」
 クスリと笑って言うライカに答え、ジュンイチは天井を見上げ――
「……ん?」
 気づいた。
「……どうしたの? ジュンイチ」
 尋ねるライカに、ジュンイチは言った。
「………………あったぜ。脱出口」
「へ?」
 思わず間の抜けた声を上げるライカだったが、ジュンイチはかまわず立ち上がり、天井を見上げたままつぶやく。
「まったく……我ながら、なんでもっと早く気づけなかったかなぁ……
 入ってきた入口があるんなら、そこから出て行けばいいだけじゃんか」
「い、入口って……あたし達の落ちてきた穴はシャドープリンスがガレキでふさいじゃってるのよ?」
「けど――逆を言えばガレキを乗せただけってことだろ?
 向こう側が地中な三方の壁や、ブッ飛ばそうもんなら上のガレキが降ってくる通路のガレキの山より、よっぽど楽に突破できるってもんだぜ」
 ライカが尋ねるが、ジュンイチは余裕でそう答える。
「つまり、上のガレキを吹っ飛ばすことができれば、そこから堂々と出て行けるワケだ」
「け、けど、精霊力を一切封じられてる状態で、どうやって――」
 言いかけて――ライカは気づいた。
「まさか、気功術で……?」
「そういうこと。
 さっきも言ったが、気功に関しちゃこの結界はまったく作用してないからな」
 あっさり答えるジュンイチだったが――ライカはその手段の問題点に気づいていた。
「だ、だからって、アンタがやるのは大問題でしょ!
 忘れたの!? さっきまで酸素維持してだいぶ消耗してるじゃない!」
 しかし、そのライカの言葉にも、ジュンイチはあっさり答えた。
「さっきも言ったろうが。
 『その分お前が温存できるだろ』ってな――この後の戦闘のためにも、お前を消耗させるワケにはいかないよ。
 それに――オレにはこいつがある」
 言って、ジュンイチは腰に差した木刀を抜き放った。
「その木刀がどうかしたの?」
「ま、見てろって」
 ライカに答えると、ジュンイチは喜々としてつぶやいた。
「うーん、掛け声どーしよっかなー?
 やっぱ、某死神マンガ風にいくか、マイブーム真っ只中だし♪」
 何の話をしているのかと怪訝な顔をするライカの前で、ジュンイチは木刀に告げた。
「目覚めの時間だぜ。
 とっとと起きろ――“紅夜叉丸”
 その瞬間――
 ――ドゴォッ!
  突然、木刀からすさまじい霊力があふれ出し、ジュンイチの周囲で渦を巻く!
 あまりの出力に、シャドープリンスの結界をもってしてもその力を抑えられないでいる。
「な、何よソレ!?」
「霊木刀“紅夜叉丸”。
 手入れの際に落とした神木の枝から削りだしたものでな、ご覧のとおりバカデカい霊力を持ってやがる。
 この力で、オレの気功を増幅してブッ放せば、消耗していようが――」
 そして、ジュンイチは木刀をかまえ――技を放った。
「柾木流、気功技――
 ――雷鳴斬!」

「きゃあっ!」
 ミノダラスの攻撃でアスファルトの防壁を破壊され、吹っ飛ばされたジーナだったが、
「危ない!」
「ジーナお姉ちゃん!」
 鈴香とファイがなんとかそれを受け止める。
「そろそろ限界のようだな……
 シャドープリンス! もう仕留めてもかまわんだろ!」
 手斧を構えて言うミノダラスの言葉に、シャドープリンスはしばし考え、
「そうだな……
 この程度の実力では、オレの相手など務まるまい。いい加減終わらせてやれ」
「おうっ!」
 シャドープリンスの言葉に嬉々として答え、ミノダラスは手斧をかまえて一歩を踏み出す。
「くっ、このままじゃ……!」
「まだ、あのシャドープリンスも控えてるのに……!」
 ジーナとファイがうめくが、かまわずミノダラスが突っ込み――
「させないっ!」
 ドゴォッ!
 横から飛来した閃光がミノダラスを包み込み、吹き飛ばす!
「な、何だ!?」
 閃光によって全身が焼け焦げながらも、なんとか無事なミノダラスが叫ぶと、
「ここからは、あたしが相手よ!」
 叫んで、ライカがジーナ達を守るようにミノダラスの前へと立ちはだかる。
「き、貴様……!」
「ほう……あそこから脱出できたのか」
 うめくミノダラスとは対照的にシャドープリンスが感心して言うと、
「さっきはよくもやってくれたわね!
 借りはまとめて返してやるわよ!」
 そんなシャドープリンスに指を突きつけ、ライカが力強く宣言する。
「ジーナ! 鳳龍フォウロンは!?」
「連れてきてますよ!」
 ライカの問いにジーナが答え、
「遅いよ、ライカ!」
 ビルの影から鳳龍フォウロンが飛び出し、ライカのとなりに降り立つ。
「詳しい話は後!
 とにかく今は、アイツらを倒すわよ!」

「ブレイク、アァップ!」
 ライカが叫び、頭上にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
 と、その光は流れるようにライカの身体を包み込むと大きな鳳凰の姿を形作る。
 そして、ライカが腕にまとわりついた光を振り払うと、その腕には分厚い甲を持つ真紅のプロテクターが装着されている。
 同様に、足の光も振り払い、脚部両脇に盛り上がった形をしたプロテクターを装着した足がその姿を現す。
 そして、身体を包む光を両手で振り払うと、他の女性ブレイカーとは違い重装甲のボディアーマーが現れ、背中には大型のテールスタビライザーを形成、その両脇に鮮やかな真紅の翼が生み出される。
 さらに、左手に光が収束、ライカがその光をつかむとそれは形を作り出し、大型のライフル“カイザーブロウニング”へとその姿を変える。
 最後に額の光を右手で振り払い、ヘッドギアを装着したライカが叫ぶ。
「世界を照らす真紅の輝き! 邪悪を貫く希望の雷光!
 光速の凰神、フラッシュ・コマンダー!」

「いくわよ!」
 ライカが叫ぶと、背中の翼とテールスタビライザー内のバーニアが点火し、
 ――ドゴォッ!
 重装甲なその外見とは裏腹に、爆発的な加速でミノダラスへと突っ込む!
「ちぃっ!」
 突然の敵のダッシュに、ミノダラスはあわてて手斧を振るい――
「遅いっての!」
 ライカが叫んだその瞬間――その姿がミノダラスの視界からかき消える!
「何っ!?」
 ミノダラスが驚きの声を上げ――
 バギィッ!
 背後に回り込み、大地に突き立てたカイザーブロウニングを支点に身をひるがえしたライカが、ミノダラスの横っ面をヒザ蹴りで背後から蹴り抜く!
「え? え??
 い、今、ライカお姉ちゃん何したの?」
 ライカの動きが追えず、目をパチクリさせながらファイがつぶやくと、
「あいつ……ムチャクチャな機動しやがるなぁ……」
 突然、背後から声がした。
 その声に驚き、ジーナ、鈴香、ファイ――その場にいた3人が振り向くと、
「……よっ」
 そこには、あずさと青木に支えられたジュンイチがいた。
「ジュンイチさん!?
 だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ。しこたま疲れてる以外はな。今も気ィ抜くと意識飛びそう……
 それより、今のライカの動きだけど……」
 ジーナに答え、ジュンイチは説明を始めた。
「結論から言えば、ライカはただ回り込んだだけさ。あの瘴魔獣の後ろにね」
「けど、その前にライカさんは猛スピードで突っ込んでいたんですよ。
 あそこから、勢いを殺して回り込むなんて……」
「簡単な話さ」
 口をはさむ鈴香に、ジュンイチは笑って答えた。
「可能なんだよ、ライカにはそれが」

「くっ……!」
 蹴られた勢いで盛大に大地に叩きつけられ、ミノダラスが蹴られた頭を押さえながら立ち上がると、
「その程度なのかしら?」
 そんなミノダラスの前に着地し、ライカが言う。
「その様子じゃ、どうやら自慢なのはパワーだけみたいね。
 けど、それじゃああたしは一生とらえられないわよ」
「う、うるさい!」
 ライカに言い返し、ミノダラスは再び手斧を振るうが、ライカにはかすりもしない。
 やがて、ライカはバックステップで大きく間合いをとり、先ほどと同様に一気に加速、ミノダラスへと突っ込む!
「これならどうだ!」
 それに対し、ミノダラスは両手の手斧を水平に、両側から内側に向けて振るった。どれだけ速くとも、地上の移動ならばこの攻撃はかわせないだろう。
 そう。“地上の”移動なら。
 ――ドンッ!
 音を立て、ライカの姿が消え――
 バギィッ!
 ライカの蹴りが、上方からミノダラスの脳天に叩き込まれる!

「あ! また!」
「今度は、上に跳んだみたいだけど……普通あんな加速で、あんな急に曲がれないよ!」
 ライカの戦いぶりを見て、鈴香とファイが声を上げるが、
「言ったろ? ライカにはそれが可能なんだって……」
 一連の機動の『からくり』を見抜いているジュンイチは別に驚く様子はない。疲れから何度も落ちそうになる意識をなんとかつなぎとめつつも二人に答える。
「け、けど、一体どうやって……?」
 ジーナがジュンイチに尋ねると、
「……あ、なるほど」
 青木は気づいたようだ。ポンと手を叩いて納得する。
「ジュンイチ……秘密はライカの装重甲メタル・ブレストだな?」
「正解」
 確認する青木の問いに、ジュンイチはあっさりと言う。
「ライカの装重甲メタル・ブレストを見れば一目瞭然だぜ。
 あの装重甲メタル・ブレスト……全身バーニアとアポジモータの塊だ。それが急加速と急制動を可能にしてるんだ。
 結果、敵の目前で瞬時に制動、向きを変えて瞬時に加速して回り込む、そんなムチャクチャな機動が可能になってるのさ。慣性は力場が相殺してくれるしな」
 そう説明すると、ジュンイチは息をつき、
「とにかく……ライカがあの調子なら、安心だな……
 じゃ、後は……頼む……な……」
 そう言うなり――ジュンイチの頭が落ちた。
「じ、ジュンイチさん!?」
「心配するな。気絶しただけだ」
 あわてるジーナに、青木がジュンイチを診てそう答える。
「しっかし、いくら疲れてるとはいえ、コイツが戦闘中に意識飛ばすなんてなぁ……」
 そうつぶやき、青木は素早い動きでミノダラスを翻弄し続けているライカへと視線を向けた。
「ってことは……あいつひとりでここは十分ってことか……」

「カイザーショット!」
 叫びながら、ライカはカイザーブレイカーと同じデザインのカイザーショットを右手にかまえ、
 ――ダンダンダンッ!
 着地と同時、左手のカイザーブロウニングと共に正確な射撃でミノダラスを狙撃する。
「くっ!
 おのれぇっ!」
 叫んで、ミノダラスが手斧を投げつけ――
「そいつを待ってたのよ!
 カイザーソード!」
 ザンッ!
 ライカが叫ぶと同時、カイザーブロウニングの銃身がビームサーベルのような光の刃に包み込まれ、飛来する手斧を両断。ミノダラスの武器破壊に成功する!
「さぁ――とどめよ!」

「オールウェポン――フルオープン!」
 ライカが叫ぶと同時、両肩、両足、両腕に両腰――彼女の装重甲メタル・ブレストに装備されたすべての武装が展開し、
「カイザー、ヴァニッシャー!」
 さらにカイザーショットとカイザーブロウニングを合体させ、必殺ツール『カイザーヴァニッシャー』が完成する。
「ターゲット、ロック!」
 バイザーから照準デバイスが右目にセットされ、すべての武装がミノダラスへと照準を定める。
「凰雅束弾! カイザー、スパルタン!」
 叫んで、ライカがカイザーヴァニッシャーのトリガーを引き、
 ズドドドドッ!
 全身から放たれた精霊力の閃光やエネルギー弾が、一斉にミノダラスに降り注ぐ!
 そして、ライカがカイザーショットを下ろし、全身の武装を収納して離脱し――瘴魔獣の身体に無数の“封魔の印”が現れ、
 ドガオォォォォォンッ!
 瘴魔獣の身体は爆発を起こし、消滅した。

「さぁて……次はあんたよ!」
 ミノダラスを撃破し、ライカはビルの上に立つシャドープリンスへとカイザーブロウニングを向けるが、
「……フッ」
 シャドープリンスは動じることなく、むしろ余裕の笑みまで浮かべた。
「何がおかしいのよ!」
 ライカが言うと、
 ――ギュオッ!
 音を立てて、負の思念エネルギーが空間の一点に集中していき、
「ブオォォォォォッ!」
 巨大化し、復活したミノダラスが咆哮する!
「そういうことだ。
 オレと戦うにはまだハードルがあるってワケだ。まぁ、せいぜいがんばることだ」
 言って、シャドープリンスが姿を消し、
「ブフォオォォォォォッ!」
 勢いよく息を吐き出すかのような咆哮と共に、ミノダラスが周囲のビルを破壊し始める!
「くっ……!
 ジーナ、鈴香、ファイ! いくわよ!」
 言って、ライカは鳳龍フォウロンに向けて叫んだ。
鳳龍フォウロン! カイザーフェニックスを!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 カイザー、ブレイカー!」
 少女が叫び、カイザーフェニックスは急激に加速し、大空へと舞い上がる。
 そして、その両足の爪がスネの方へとたたまれると拳が飛び出し、大腿部のアーマーが起き上がり、人型の両腕へと変形する。
 続いて鳳凰の頭部が分離すると背中のメインバーニアが肩側へと起き上がり、そのままボディ前方へと展開。根元から180度回転した上でスライド式に伸びて大腿部が現れ、つま先が起き上がって人型の両足が完成する。
 背中のウィングの向きが根元から180度回転、バックパックとなると鳳凰の頭部が胸部に合体。その周囲の羽型の胸部装甲が広げられる。
 最後に人型の頭部が飛び出し、アンテナホーンが展開。額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「カイザー、ユナイト!」
 少女が叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し口元をフェイスガードが覆い、左手に尾部がシールドとなって合体。カメラアイと額のBブレインが輝く。
「凰神合身! カイザー、ブレイカー!」

「エヴォリューション、ブレイク!」
 ジーナが叫び、ランドライガーが大ジャンプ、背中のバーニアで加速し、その勢いで上空高く跳び上がり、スカイホークとマリンガルーダがその後を追う。
「ランド、ブレイカー!」
 ジーナの叫びを受け、ランドライガーの四肢が折りたたまれ、獅子の頭部が胸部に倒れ、人型ロボットのボディへと変形する。
 続けて、スカイホーク、マリンガルーダも変形を開始。翼が基部から分離し、頭部が胸部へと移動するとボディが腹側、背中側の二つに分離、腹側がスライド式に伸びると下部から拳が飛び出して両腕に、背中側も上部から大腿部が飛び出して両足に変形する。
 そして、ランドライガーの変形したボディに変形の完了した四肢が合体、さらにマリンガルーダ、スカイホークの翼が二つに折りたたまれて両腕に合体、シールドとなる。
 最後に、ボディの内部から頭部が飛び出し、人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
「ランド、ユナイト!」
 ジーナが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイと額のクリスタル――Bブレインが輝く。
 すべての合身プロセスを完了し、ジーナが名乗りを上げる。
「地神合身! ランド、ブレイカー!」

 ――ズンッ!
 合身を完了し、2体のブレイカーロボがミノダラスの前に着地する。
「さぁ! かかってきなさい!
 今度こそ完全に消滅させてあげるわ!」
 ライカが言うと、それに応えるかのようにミノダラスが手斧をかまえ、突っ込んでくる!
「き、来ます!」
「上等ぉ――っ!」
 ジーナに答え、ライカはカイザーソードをかまえ、
 ――ガギィッ!
 両者の斬撃がぶつかり合い、さらに幾度にも渡って斬り結ぶ!
 だが――
「ブオォォォォォッ!」
 ガギッ!
 音を立てて、ライカの手からカイザーソードが弾き飛ばされ、さらに腹に蹴りを受けて吹っ飛ばされる!
「ライカさん!」
「いたた……なんてパワーしてるのよ……!
 数回斬り結ぶだけで手がビリビリにしびれちゃってるわよ……!」
 声を上げるジーナにライカが答えると、
「ブフォオォォォォォッ!」
 そこへ、ミノダラスが斬りかかる!
「危ない!」
 とっさにジーナが両者の間に割って入り、
 ――ズガァッ!
 ランドカリバーでミノダラスの一撃を受け止めた――のだが、その威力はすさまじく、一撃でランドカリバーが粉砕される!
 とっさに下がったおかげで手斧の直撃は避けられたが、もし直撃していたらジーナランドブレイカーはシャレにならないダメージを負っていたであろう事は容易に想像できた。
「このままじゃ……!」

「くそっ、せっかく一度は倒したってのに、頭数が減った分余計に手に負えなくなってるじゃないか!」
 大苦戦のジーナ達を見守ることしかできず、青木がうめく。
「せめて、ジュンイチが起きてくれれば……!」
 つぶやき、ブイリュウは背後で倒れているジュンイチへと視線を向けようと顔を動かし――
「――あれ?」
 ふと、視界にある建物を見つけた。
 しばしその建物に見入っていたが――
「――そうだ!
 あずさちゃん、こっち!」
 突然何かを思い立ち、あずさを連れてその建物へと駆けていった。
 その建物を見て――ライムが首をかしげた。
「……レストラン……?」

「こんなところで、一体何するの?」
 突然ブイリュウにレストランの厨房へと連れてこられて、あずさが疑問の声を上げると、
「あずさちゃん」
 そんな彼女の肩をつかみ、ブイリュウは真顔で告げた。
「ジュース作って」
「………………へ?」

「えぇっ!?」
 青木から無線で通信を受け、ジーナが声を上げた。
〈あぁ! あずさとブイリュウがすぐそばのレストランにいる!
 何のつもりかは知らないが、なんとか守ってやってくれ!〉
「そ、そんなこと言ったって!」
 青木に言って、ライカがミノダラスの手斧をかわすが、
 ドガァッ!
 そのせいで姿勢が崩れた。ミノダラスの蹴りを受けて吹っ飛ばされる!

「ライカ!」
 吹っ飛ばされたライカカイザーブレイカーを見て、鳳龍フォウロンは思わず声を上げる。
「くそっ、ブイリュウ、あずさ……何やってんだ……!」
 二人の消えたレストランを見て青木がうめくと、
「お待たせ!」
 言って、ブイリュウがあずさを連れてレストランから飛び出してきた。
 さっきと違うのは、手に何やら液体の入ったジョッキを持っていることだ。
「ブイリュウ、何? それ」
 ソニックの問いに、ブイリュウはキッパリと答えた。
「あずさちゃんのジュース!」
 その答えに――彼の意図に気づいて青ざめたのは青木である。
「お、おい!
 ちょっと待てブイリュウ!」
 あわてて止めようとするが、ブイリュウの方が速かった。
「ジュンイチ! 寝たままでいいからコレ飲んで!」
 言って、ブイリュウはジョッキに入った液体を意識を失ったままのジュンイチの口の中に注ぎ込み――
「ぐはぁっ!」
 突然、ジュンイチの身体がビクンと跳ねて悶絶し始めた。
「げほっ! げほげほっ!
 な、何だよ今の!? 口の中に爆弾でも投げ込まれた気分だぜ……」
「よし! ジュンイチ復活!」
「何か納得いかないよぉ……」
 拳を握ってガッツポーズをとるブイリュウの横でつぶやくあずさだったが――
「――あずさ」
 そんな彼女の肩をポンと叩き、青木は言った。
「よかったな、お前の料理が初めて役に立ったぞ」
「よくないよ!」

 ドガァッ!
 ミノダラスの振り下ろした手斧をかわし、ジーナランドブレイカーライカカイザーブレイカーのとなりに着地する。
 先ほどから二人は完全に防戦一方。反撃の糸口がまったくつかめないでいた。
「ライカさん! こうなったらカイザースパルタンで!」
「ダメよ! 今撃ったって、この距離じゃかわされちゃう!
 かと言って、これ以上近づけば手斧投げつけられるし……!」
 鈴香の提案にライカが答えると、
「く、来るよ!」
 ファイが叫び、ミノダラスがこっちに突っ込んできて手斧を投げつけ――
 ――ガギィッ!
 手斧とミノダラスの手とをつなぐ鎖が断ち切られ、手斧はあさっての方向へと飛んでいった。
 そして、
「待たせたな、みんな!」
 言って着地したのは――ジュンイチのユナイトしたゴッドブレイカーである。
「ジュンイチさん!」
「ジュンイチ!」
 ジーナとライカが声を上げるのに対して、ジュンイチはサムズアップして応え――
「ブホォォォォォッ!」
 そんなジュンイチに、ミノダラスが残ったもう一本の手斧をかまえて突っ込んでくる!
「ジュンイチ! 逃げて!」
 ライカが叫ぶが――
「その必要――なし!」
 言って、ジュンイチは腰を落として迎撃の体勢を取る!
「む、ムチャです!
 ランドカリバーだって折られちゃったんです! 生半可な対応じゃ防ぎきれませんよ!」
 ジーナが思わず声を上げ――
 ――ガギィッ!
 ジュンイチは右腕一本でミノダラスの手斧を止めていた。
 攻撃範囲のさらに内側に踏み込み、手斧の柄を止めることで。
「へっ、誰がてめぇみたいな怪力相手に真っ向からガードするかよ!」
 言って、ジュンイチは右腕でガードしたまま左半身を引き――
 ――ズンッ!
 ミノダラスの脇腹に、渾身の左ボディを叩き込む。
 人間でいえば肝臓のある位置に痛烈な一撃を受け、ミノダラスの巨体が大きくゆらぎ――ジュンイチはすでに追撃に移っていた。
 ドゴォッ!
 轟音と共に、ジュンイチが全身のバネを活かして身体ごと突き上げた右のショートアッパーが、ミノダラスの首を引っこ抜くかのように打ち上げる!
 そして、ジュンイチは素早く姿勢を立て直し、叫んだ。
「ライカ――今だ!」

「ゴッドブレイカー!」
「カイザーフェニックス!」
『爆裂武装!』
 ジュンイチとライカが叫び、飛び立ったゴッドブレイカーを追ってカイザーブレイカーがユナイトを解いてカイザーフェニックスに変形、バーニアで飛び立つ。
 そして、カイザーフェニックスの脚部が畳まれ、首の付け根を境に上下に分離。ボディは一気に加速し、ゴッドブレイカーの背中に合体してバックパックとなる。
 続けて首部はまっすぐに正され、ゴッドブレイカーの右腕に合体する。
「アーマード・ドライブ!」
 ライカが叫ぶと彼女の身体は光球に包まれ、ジュンイチがユナイトしているため無人となっているゴッドブレイカーのコックピットへと転送される。
『ゴッドブレイカー、カイザーストライカーモード!』

「いくぜ!」
「OK!」
 ジュンイチの言葉にライカが答え、カイザーフェニックスを武装したゴッドブレイカーがミノダラスへと突っ込む!
 だが、ミノダラスもジュンイチとライカの合体の間に立ち直っていた。ジュンイチ達に向けて手斧を振り下ろし――
「――甘い!」
 ライカの操作でゴッドブレイカーはすべるように右へターン。ミノダラスの攻撃は大地に打ち込まれ、
 ドガァッ!
 ジュンイチの繰り出した、右腕のカイザーストライカーの一撃が、ミノダラスを弾き飛ばす。
 そして、ジュンイチゴッドブレイカーは上空へと飛び立ち、
「カイザーノヴァ!」
 ライカが叫び、カイザーストライカーから放たれた4発の光弾がミノダラスを直撃する!
「よぅし、とどめだ!」

「さぁ、決めるぜ、ライカ!」
 ジュンイチが叫んで右半身を引き、カイザーストライカーに左手をそえる形でかまえ、コックピットのライカの前にはターゲットスコープとトリガーがエネルギー形成される。
 そして、ライカはトリガーに手をかけ、
「ターゲット、ロック!
 ファイナルショット、スタンバイ!」
「おぅ!」
 ライカの合わせた照準に従い、ジュンイチが狙いをつけ――カイザーストライカーが螺旋状に放たれたエネルギーに包まれ、輝きを放つ。
 そして、チャージが完了した瞬間、
『カイザーストライカー、グランド、フィニッシュ!』
 二人が叫ぶと同時、ライカがトリガーを引き、
 ドゴォッ!
 背中の4枚のウィングを広げ、ゴッドブレイカーは急加速と共にミノダラスへと突っ込み、
 ――ズガガァッ!
 エネルギーに包まれ、光のドリルとなったカイザーストライカーを繰り出し、ミノダラスのボディを抉り抜く!
 そして、ミノダラスの横を駆け抜けたゴッドブレイカーがかまえを解き、ミノダラスの身体に“封魔の印”が刻まれ、
 ドガオォォォォォンッ!
 ミノダラスは大爆発を起こし、消滅した。
 そして、ジュンイチとライカが勝ち鬨の声を上げた。
『爆裂、究極! ゴォッドォッ! ブレイカァァァァァッ!』

「や、やられちゃったよ!」
 ブレイカービーストの上で戦いの顛末を見つめ、メギドがとなりのシャドープリンスに言うが、
「……そうこなくては、面白くない」
 なぜか、シャドープリンスの口元には笑みが浮かんでいた。
「帰るぞ、メギド」
「う、うん……」
 あっさりと言ってマントをひるがえすシャドープリンスにメギドが答え、二人はブレイカービーストに乗り込むと飛び去っていった。

「やれやれ、一時はどうなることかと思ったけど、なんとか一件落着だな」
「ホントですね」
 沖縄料理の店でゴーヤチャンプルーをつつきながら、上機嫌で言うジュンイチにジーナが同意する。
 青木はというと、ジュンイチ達が休養のために数日沖縄に滞在することが決まったことをいいことに、日が沈むなり近くの峠を攻めに出かけてしまった。
「これで仲間のブレイカーも全員そろったワケだし、大手を振って東京に戻れるぜ」
 ジュンイチが言うと、
「ジュンイチ」
 突然、ライカがジュンイチに声をかけてきた。
「……何だよ?」
 ジュンイチが聞き返すと、ライカは少し何かを迷っていたが、
「――あー、昼間はゴメン」
 いきなり謝って、ジュンイチに向けて右手を差し出した。
「あんたのこと知らないまま、いろいろキツイこと言っちゃって……」
 そう続けるライカだったが――ジュンイチは笑って、
「気にすんなよ。お前の言ってたことだって正論だったんだ」
 言って、ジュンイチもライカに握手を返す。
 そして、食事を再会しようとするジュンイチだったが――
「あー、それとね」
 何やら言いにくそうにライカは続けた。
「あたし達――これからは東京を拠点に動くのよね?」
「え? あぁ……」
「ってことは……あたし達は転校、ってことになるのよね」
「そういうことになるな。
 龍雷学園だ。さっきも話したろ?」
 ジュンイチが答えるたび、ライカの顔をなぜか冷や汗が流れていく。
「………………?」
 ジュンイチが首をかしげていると、ライカは顔を真っ赤にして告げた。
「……編入試験……辛いかも……」
「………………は?」
 その言葉に、ジュンイチの目がしばしテンになり――やがて彼女の言いたいことに思い至り、
「……ぶはははははっ!」
 爆笑した。
「お、お前、さんざん偉そうなコト言っといて、勉強ダメなのかよ! アハハハハっ!
 龍雷学園、レベルハッキリ言って低いぞ! それで辛いのかよ!」
「う、うるさいわね!
 5教科ができなくても戦いはできるわよ!」
 真っ向から大爆笑するジュンイチに対して、ライカはますます顔を赤くして反論する。
「わ、わかった……ぷくくく……
 編入試験まで……くっ……オレが教えてやっから……
 ……ぶははははっ! もーダメ! こらえきれんっ! あははははっ!」
「あーもうっ! 笑うなぁーっ!」

 その後、ライカのカイザースパルタンで店が全壊したことを付け加えておく。


Next "Brave Elements BREAKER"――

「ようこそ、諸君。
 ブレイカーベースへ」

「在日だけじゃない、本国の米軍の高官達にも多額の裏金の流れが確認された」

「オレ達は、まんまとおびき出されたワケだ」
「そういうことだ。
 お前達と、一度真っ向からぶつかっておきたくてな」

「貴様らの弱点は大体把握させてもらった」

「こっちは全力でやってるってのに、押され気味かよ……!」

Legend10「敗北」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2004/02/08)
(第2版:2005/05/15)